特許異議申立
2024-701136
コートフィルム
- 審判番号
- 2024-701136
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-074492
- 登録番号
- 7490016
- 請求日
- 2024年11月21日
- 審決日
- 2025年09月05日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】リンテック株式会社
- 【権利者代理人】早川 裕司
- 【権利者代理人】村雨 圭介
- 【権利者代理人】飯田 理啓
- 【異議申立人】藤江 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 天野 宏樹
- 審判官 柴田 昌弘
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7490016号発明「コートフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7490016号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-5〕について訂正することを認める。
特許第7490016号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7490016号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、
平成29年11月6日を出願日とする特願2017-213669号の一部を令和4年4月28日に新たな特許出願としたものであって、
令和6年5月16日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、
同年同月24日に特許掲載公報が発行され、
その後、その特許に対し、
同年11月21日に特許異議申立人 藤江 桂子から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~5)がされ、
令和7年3月31日付けで取消理由が通知され、
同年6月3日に特許権者 リンテック株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされると共に意見書が提出され、
同年同月11日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、
同年7月8日に特許異議申立人から、意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和7年6月3日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。
・訂正事項
特許請求の範囲の請求項2に、「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、
前記コート層が、前記基材フィルムに対して近位に位置する第1のコート層と、前記基材フィルムに対して遠位に位置し、前記第1のコート層よりも屈折率の低い第2のコート層とからなり、
前記第1のコート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、
前記第1のコート層が、硬化性成分および平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である微粒子を含有するコーティング組成物を硬化させてなり、
前記コーティング組成物中における前記微粒子の含有量が、前記硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上、22質量部以下である
ことを特徴とするコートフィルム。」と記載されているのを、
「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、
前記コート層が、前記基材フィルムに対して近位に位置する第1のコート層と、前記基材フィルムに対して遠位に位置し、前記第1のコート層よりも屈折率の低い第2のコート層とからなり、
前記第1のコート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、
前記第1のコート層が、硬化性成分および平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である微粒子を含有するコーティング組成物を硬化させてなり、
前記コーティング組成物中における前記微粒子の含有量が、前記硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上、22質量部以下であり、
前記第2のコート層が、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよびアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンのいずれも含有しない
ことを特徴とするコートフィルム。」
との記載に訂正する。請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
・訂正事項について
訂正事項による請求項2についての訂正は、「第2のコート層」を「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよびアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンのいずれも含有しない」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~5の訂正についても同様である。
3 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和7年7月8日に提出された意見書の第2~8ページにおいて、訂正前の明細書には「第2のコート層」に含有させる成分の選択肢として、「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン」及び「アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン」を含むような選択肢は何ら開示されていないこと、並びに、技術常識によると上記シロキサンは「表面調整剤」に対応するものと理解するのが相当であり、本件訂正は「表面調整剤」の選択肢を訂正前の明細書に記載も示唆もされていない範囲に狭めるものであることから、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができず、訂正要件違反である旨を主張している。
しかしながら、本件訂正は、訂正前の請求項2の「第2のコート層」について、含有される成分の選択肢を訂正前の記載より狭めるものであり、また、本件訂正は「表面調整剤」の選択肢を拡張するものでもないから、本件訂正は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の全ての記載を統合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、上記主張は採用できない。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものである。
なお、訂正前の請求項2~5は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項による請求項2~5についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものである。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1~5に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、令和7年6月3日に提出された訂正特許請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、
前記コート層が、単層であり、
前記コート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、
前記コート層が、平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である微粒子と、平均粒径が5nm以上、100nm以下であり且つ屈折率が1.6以上、3.0以下であるナノ粒子とを含有するコーティング組成物を硬化させてなり、
前記コートフィルムのトータルヘーズ値が、3%以上、60%以下であることを特徴とするコートフィルム。
【請求項2】
基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、
前記コート層が、前記基材フィルムに対して近位に位置する第1のコート層と、前記基材フィルムに対して遠位に位置し、前記第1のコート層よりも屈折率の低い第2のコート層とからなり、
前記第1のコート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、
前記第1のコート層が、硬化性成分および平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である微粒子を含有するコーティング組成物を硬化させてなり、
前記コーティング組成物中における前記微粒子の含有量が、前記硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上、22質量部以下であり、
前記第2のコート層が、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよびアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンのいずれも含有しない
ことを特徴とするコートフィルム。
【請求項3】
前記微粒子が、有機微粒子であることを特徴とする請求項1または2に記載のコートフィルム。
【請求項4】
前記コートフィルムのトータルヘーズ値が、3%以上、60%以下であることを特徴とする請求項2または3に記載のコートフィルム。
【請求項5】
前記コート層が、前記コートフィルムの片側の最外層を構成することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のコートフィルム。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和6年11月21日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性)
本件特許発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 証拠方法
・甲第1号証:特開2016-122140号公報
・参考資料1:特開2019-85473号公報
・参考資料2:国際公開第2015/056738号
参考資料1及び2は、令和7年7月8日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。
証拠の表記は、特許異議申立書、上記意見書の記載におおむね従った。
以下、甲第1号証については、「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
本件特許発明に対して、当審が令和7年3月31日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、取消理由1及び2は、申立理由1及び2のうち請求項2~5に係る部分と同旨である。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性)
本件特許発明2~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲1に基づく進歩性)
本件特許発明2~5は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項2~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由及び申立理由についての当審の判断
当審は、以下のとおり、取消理由1及び2並びに申立理由1及び2の理由では、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
なお、取消理由1及び2は申立理由1及び2に包含されるから、以下においては、申立理由1及び2についての判断としてまとめて示す。
・申立理由1及び2(甲1に基づく新規性・進歩性)について
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「防眩性反射防止フィルム及びそれを用いた画像表示装置」について、おおむね次の事項が記載されている。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の、従来の防眩性反射防止フィルムは、付着した指紋が拭き取りにくく、フリック時の指がすべりにくく引っかかり感があり、さらに、シンチレーション(ぎらつき)の抑制効果が小さいため、高精細なタッチパネルディスプレイの観察側に適用すると、指紋の汚れが累積し、タッチパネルの操作性が悪く、かつ、ぎらつきが発生することで優れた映像を鑑賞すること難しいなどの課題があった。
【0007】
このような課題は近年になってマルチタッチ機能を有する静電容量式タッチパネルを搭載したカーナビや携帯電話が普及したため、顕在化したものである。表面フィルムに対する要求性能のトレンドが変化し、反射防止機能の要求だけでなく、指のすべり性やタッチパネル表面への指紋の付着を抑えるという従来は無かった新たなニーズが高まっているのである。しかし、従来の防眩性反射防止フィルムは、反射防止の機能に特化しており、指紋付着に関する対策がなんら施されていないため、指のすべり性や指紋の付着を抑えるニーズに応えることができていない。
【0008】
そこで、本発明の目的とするところは、ディスプレイのぎらつきが少なく、フリック時の指のすべり易さが良好であり、かつ、防汚性に優れ、指紋の拭取りが容易な防眩性反射防止フィルムを提供することにある。」
・「【0045】
〔(b)成分〕
(b)アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンは、低屈折率層表面に付着した指紋の拭取り性を向上するためのものである。」
・「【実施例】
【0089】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。
【0090】
〔透明基材フィルム〕
各実施例及び比較例において、透明基材フィルムとしては、以下のものを使用した。
トリアセチルセルロース(TAC)
富士フイルム(株)製「TD80UL」80μm、屈折率1.48
ポリエチレンテレフタレート(PET)
東レ(株)製「U403」100μm、屈折率1.65
シクロオレフィンポリマー(COP)
日本ゼオン株式会社製「ゼオノアフィルム」80μm、屈折率1.53
【0091】
〔防眩層用樹脂組成物〕
防眩層用樹脂組成物として、次の原料を使用し、各原料を下記表1~6に記載した組成にて混合し、防眩層用樹脂組成物AG-1~AG-39を調製した。なお、各原料の体積割合は、防眩層用樹脂組成物全体積における当該原料の体積の割合を示す。
【0092】
<小径微粒子>
酸化チタン微粒子(分散液)
CIKナノテック(株)製「RTTMEK25WT%-F02」、粒子径0.015μm
ジルコニア(分散液)
シーアイ化成(株)製「ZRMEK25%-F47」、粒子径0.015μm
アンチモン酸亜鉛微粒子(AZO)(分散液)
日産化学工業(株)製「セルナックスCX-603M-F2」、粒子径径0.05μm
ITO微粒子(分散液)
大日本塗料(株)製「コンダクティブEI-3NMHR3、35%」、粒子径径0.05μm
シリカ超微粒子(分散液)
日産化学(株)製「IPA-ST、30%」、粒子径0.03μm
シリカ超微粒子
CIKナノテック(株)製「SIMIBK15WT%-H58」、粒子径0.1μm
アンチモン‐酸化スズ微粒子(ATO)
日産化学工業(株)製 商品名:ATO、粒子径0.05μm
酸化亜鉛
エア・ブラウン株式会社(株)製「TECNAPOW-ZNO」、粒子径0.02μm
【0093】
<大径微粒子>
アクリル(PMMA)、粒子径0.8μm 綜研化学(株)製「MX-80H3wT」
アクリル(PMMA)、粒子径3μm 綜研化学(株)製「MX-300」
アクリル(PMMA)、粒子径5μm 綜研化学(株)製「MX-500」
アクリル(PMMA)、粒子径8μm 積水化成品工業(株)製「SSX-108」
ポリスチレン(PS)、粒子径3.5μm 「綜研化学(株)製、SX-350H」
架橋アクリル-スチレン共重合樹脂(MS)、粒子径0.8μm
積水化成品(株)製「SSX1008QXE」
架橋アクリル-スチレン共重合樹脂(MS)、粒子径5μm
積水化成品(株)製「SSX1055QXE」粒子径の揃った単分散な微粒子
シリカ、粒子径0.8μm コアフロント(株)製「sicastar 43-00-802」
【0094】
<バインダー樹脂>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、日本化薬(株)製「KAYARAD DPHA」
ウレタンアクリレート、日本合成化学工業(株)製「紫光UV7600B」分子量1400、60℃における粘度が2500~4500Pa・s
ペンタエリスリトールトリアクリレート(PE3A)、日本化薬(株)製「PET30」
【0095】
<光重合開始剤>
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「IRGACURE184(I-184)」」
・「【0098】
【表3】
[図:0001430008000001.jpg]
」
・「【0102】
〔低屈折率層用樹脂組成物〕
低屈折率層用樹脂組成物として、次の原料を使用し、各原料を下記表7~10に記載した組成にて混合し、低屈折率層用樹脂組成物LL1-1~1-18,LL2-1~LL2-12を調製した。尚、各材料の配合量は、固形分の質量%を記載している。低屈折率層用樹脂組成物の各原料としては、以下の通りである。
【0103】
〈(a)成分〉
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖を含有する(メタ)アクリレート ダイキン工業(株)製「オプツールDAC-HP」
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖を含有する(メタ)アクリレート DIC(株)製「メガファックRS-75」
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖を含有し、(メタ)アクリレートを含有しないオリゴマー DIC(株)製「メガファックF-558」
【0104】
<(b)成分>
アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン ビックケミー・ジャパン(株)製「BYK-UV 3500」
アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン ビックケミー・ジャパン(株)製「BYK-UV 3530」
アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン ビックケミー・ジャパン(株)製「BYK-UV 3570」
アクリル基を有さないポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン ビックケミー・ジャパン(株)製「BYK331」
【0105】
<(c)成分>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
日本化薬(株)製「KAYARAD DPHA」
OD2H2A
【化13】
[図:0001430008000002.jpg]
【0106】
<(d)中空シリカ微粒子>
日揮触媒化成(株)製「アクリル修飾中空シリカ微粒子 スルーリアNAU」
日揮触媒化成(株)製「アクリル修飾中空シリカ微粒 スルーリアV8208」
【0107】
<(e)光重合開始剤>
チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製「IRGACURE907(I-907)」
【0108】
【表7】
[図:0001430008000003.jpg]
」
・「【0113】
(実施例1-1)
富士フイルム製TACフィルム「TD80UL、80μm」の一面に、防眩用樹脂組成物(AG-1)をバーコーターにて硬化後の膜厚(粒子の存在しない部分の膜厚)が0.2μmとなるように塗布し、120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより防眩層を形成した。
【0114】
次に、この防眩層上に、低屈折率層用樹脂組成物(LL1-1)及び溶媒(メチルイソブチルケトン)を1:5の割合で混合した低屈折率層用塗液をバーコーターにて硬化後の膜厚が0.1μmとなるように塗布し、窒素雰囲気下、120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより防眩性反射防止フィルムを作製した。
【0115】
(実施例1-2~1-19、1-21~46、比較例1-1~1-25)
表11~18に示される材料を使用して実施例1-1と同様に防眩性反射防止フィルムを作成した。」
・「【0132】
【表12】
[図:0001430008000004.jpg]
」
・「【0137】
【表17】
[図:0001430008000005.jpg]
【0138】
【表18】
[図:0001430008000006.jpg]
【0139】
実施例の結果より、防眩層に含まれる大径微粒子の粒子径Pdiaが0.1μm≦Pdia≦5μmであり、且つ、防眩層の膜厚tと粒子径Pdiaの比t/Pdiaが0.05≦t/Pdia≦1.7であり、小径微粒子の粒子径Mdiaが0.01μm≦Mdia≦0.1μmであり、小径微粒子の比重Mdenと大径微粒子の比重Pdenの比Mden/Pdenが6.0≧Mden/Pden≧2.7であり、防眩層の全体積に占める大径微粒子の体積割合が0.5%以上40%以下であり、防眩層の全体積に占める小径微粒子の体積割合が15%以上65%以下のとき、防眩性反射防止フィルムに適度な凹凸が形成され、防眩性に優れ、ぎらつきが少なく、フリック時の指滑り易さが良好となる。また、最表層の低屈折率層が、(a)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖を含有する(メタ)アクリレート5.0~15.0質量%、(b)アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン2.0~8.0質量%、(c)(a)及び(b)と共重合可能な紫外線硬化型樹脂9.0~70.0質量%、(d)中空シリカ微粒子22.0~83.0質量%、(e)光重合開始剤1.0~10.0質量%からなり、(b)の質量%が、(a)の質量%より少ない低屈折率層用樹脂組成物(但し、(a)(b)(c)(d)(e)の合計は、100質量%である。)の硬化物であるとき、指紋拭取り性に優れる。
・・・
【0141】
また、比較1-13~1-25では、低屈折率層の組成において次の理由により指紋拭取り性が劣る。比較例1-13,1-14では(a)成分が少ない。比較例1-15では(a)成分が多い。比較例1-16,1-17では(b)成分がない又は少ない。比較例1-18,1-19では(b)成分が多い。比較例1-20~1-22では(a)成分と(b)成分の質量が等しい又は(b)成分の質量の方が多い。比較例1-23は、重合開始剤を含まない。比較例1-24,1-25では(a)成分と(b)成分が反応しない。」
(2)甲1に記載された発明
上記(1)に記載された内容のうち、特に実施例1-16を中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「富士フイルム製TACフィルム「TD80UL、80μm」の一面に、防眩層用樹脂組成物(AG-16)をバーコーターにて硬化後の膜厚(粒子の存在しない部分の膜厚)が3.0μmとなるように塗布し、120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより防眩層を形成し、次に、この防眩層上に、低屈折率層用樹脂組成物(LL1-1)及び溶媒(メチルイソブチルケトン)を1:5の割合で混合した低屈折率層用塗液をバーコーターにて硬化後の膜厚が0.1μmとなるように塗布し、窒素雰囲気下、120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより作製された防眩性反射防止フィルムであり、
前記防眩層の膜厚は3.0μm、屈折率は1.66であり、前記防眩層用樹脂組成物として用いたAG-16は、小径微粒子(ZrO2、粒子屈折率2.4、粒子径0.015μm)、大径微粒子(PMMA、粒子径3.0μm、比重1.2、体積割合7%)、バインダー樹脂(DPHA、比重1.189、体積割合60%)及び光重合開始剤(I-184、比重1.17)からなり、
前記低屈折率層の屈折率は1.36であり、
前記防眩性反射防止フィルムの全ヘイズが9%、指紋拭取り性が「○」である、
防眩性反射防止フィルム。」
2 対比・判断
(1) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「富士フイルム製TACフィルム「TD80UL、80μm」」、「の一面に」、「防眩層」及び「防眩性反射防止フィルム」は、それぞれ本件特許発明1の「基材フィルム」、「の一方の面側に設けられた」、「コート層」及び「コートフィルム」に相当し、かつ、「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、」という要件のうち「とからなる」を除く部分を満たしている。
また、甲1発明の「防眩層」は、「富士フイルム製TACフィルム「TD80UL、80μm」の一面に防眩層用樹脂組成物(AG-16)をバーコーターにて硬化後の膜厚(粒子の存在しない部分の膜厚)が3.0μmとなるように塗布し、120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより」形成されたものであり、それ自体は膜厚3.0μmの単層からなるものと認められるから、本件特許発明1の「前記コート層が、単層であり、」という要件及び「前記コート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、」という要件を満たしている。
さらに、甲1発明における「防眩層用樹脂組成物(AG-16)」の成分である「大径微粒子(PMMA、粒子径3.0μm、比重1.2、体積割合7%)」及び「小径微粒子(ZrO2、粒子屈折率2.4、粒子径0.015μm)」、並びに「防眩層用樹脂組成物(AG-16)」は、それぞれ本件特許発明1の「微粒子」及び「ナノ粒子」、並びに「コーティング組成物」に相当し、かつ、甲1発明の「防眩層」は「防眩層用樹脂組成物(AG-16)をバーコーターにて・・・塗布し、・・・紫外線を照射して硬化させることにより」形成されたものであるから、本件特許発明1の「前記コート層が」、「コーティング組成物を硬化させてなり、」という要件を満たす。そして、前記甲1発明の「大径微粒子(PMMA、粒子径3.0μm、比重1.2、体積割合7%)」は、本件特許発明1の「微粒子」における、「平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である」という要件を満たし、また、甲1発明の「小径微粒子(ZrO2、粒子屈折率2.4、粒子径0.015μm)」は、本件特許発明1の「ナノ粒子」における、「平均粒径が5nm以上、100nm以下であり且つ屈折率が1.6以上、3.0以下である」という要件を満たしている。
そうすると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とを含むコートフィルムであって、
前記コート層が、単層であり、
前記コート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、
前記コート層が、平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である微粒子と、平均粒径が5nm以上、100nm以下であり且つ屈折率が1.6以上、3.0以下であるナノ粒子とを含有するコーティング組成物を硬化させてなる、
コートフィルム。」
<相違点1>
本件特許発明1のコートフィルムは、基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層「とからなる」ことが特定されているのに対して、甲1発明では防眩層上に低屈折率層を有する点。
<相違点2>
本件特許発明1には、「前記コートフィルムのトータルヘーズ値が、3%以上、60%以下である」ことが特定されているのに対して、甲1発明ではそのようには特定されていない点。
上記相違点1について検討する。
甲1発明は「富士フイルム製TACフィルム」、「防眩層」、「低屈折率層」の三層からなる「防眩性反射防止フィルム」の発明であるところ、本件特許発明1は「基材フィルム」と「コート層」の二層からなる「コートフィルム」であるから、相違点1は実質的な相違点である。
そして、甲1発明の「低屈折率層」は「防眩層等の他の層とともに反射防止作用を奏する」(【0038】)ものであるから、甲1発明において「低屈折率層」を形成しないようにする動機はないし、甲1には低屈折率層を持たないコートフィルムの具体例は記載されていない。また、甲1発明における「低屈折率層」は、パーフルオロアルキル鎖を含有する(メタ)アクリレートを含む所定の樹脂組成物を硬化させてなるものであることにより、指紋の付着性を弱め、付着した指紋の拭き取り性を向上させる効果を発揮するものであるところ(【0041】、【0045】、【0103】~【0104】)、仮に「低屈折率層」を形成しないようにした際には、本件特許発明1が「付着した指脂が拭き取り易い」という効果(【0015】)を発揮することは、当業者が予測できないことである。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、他の相違点について判断するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
<特許異議申立人の主張について>
相違点1に関し、特許異議申立人は特許異議申立書の第25ページにおいて、以下のとおり主張している。
ア「【請求項5】には、「前記コート層が、前記コートフィルムの片側の最外層を構成することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のコートフィルム。」と記載されている。
そうしてみると、本件発明1は、コート層よりも外層側に、低屈折率層が存在する態様を含むものと理解される。
したがって、一応の相違点は、相違点ではない。」
イ「あるいは、次のとおり考えることもできる。
すなわち、甲1発明の「防眩性反射防止フィルム」は、その製造工程からみて、低屈折率層を形成する前の「防眩性フィルム」が、物として存在する。
したがって、一応の相違点は、相違点ではない。」
上記主張について検討する。
・主張アについて
本件特許発明1には「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、前記コート層が、単層であ」ることが特定されており、すなわち、「基材フィルム」及び「単層」の「コート層」の二層からなるフィルムの発明が特定されていることは明確であり、二層と解することで請求項5において「前記コート層が、前記コートフィルムの片側の最外層を構成する」と特定されていることと何ら矛盾は生じない。したがって、特許異議申立人の上記主張アは採用できない。
・主張イについて
甲1において、仮に、「低屈折率層」を有さない(防眩層のみを有する)製造途中の二層フィルムを甲1発明として認定したとしても、甲1の【0020】、【0038】等に記載されているとおり、甲1においては防眩層と低屈折率層との屈折率の差を利用して反射光の低減などの効果を得ているから、製造途中の二層フィルムは甲1の【0008】に記載された「ディスプレイのぎらつきが少なく、フリック時の指のすべり易さが良好であり、かつ、防汚性に優れ、指紋の拭取りが容易な防眩性反射防止フィルムを提供する」という課題を解決することができないものであり、その全ヘイズ値を「3%以上、60%以下」という特定の範囲とすることは甲1に記載されているとはいえず、かつ、当業者が上記範囲に調整することの動機があるともいえない。よって、特許異議申立人の上記主張イは採用することができない。
以上のことから、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用できない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「富士フイルム製TACフィルム「TD80UL、80μm」」、「の一面に」、「防眩層」と「低屈折率層」とを合わせたもの、「防眩層」、「低屈折率層」及び「防眩性反射防止フィルム」は、それぞれ本件特許発明2の「基材フィルム」、「の一方の面側に設けられた」、「コート層」、「第1のコート層」、「第2のコート層」及び「コートフィルム」に相当する。
また、甲1発明の「低屈折率層」は「防眩層上に、低屈折率層用樹脂組成物(LL1-1)及び溶媒(メチルイソブチルケトン)を1:5の割合で混合した低屈折率層用塗液をバーコーターにて硬化後の膜厚が0.1μmとなるように塗布し、窒素雰囲気下、120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより作製され」たものであり、その屈折率(1.36)は防眩層の屈折率(1.66)より低いから、本件特許発明2の「前記基材フィルムに対して遠位に位置し、前記第1のコート層よりも屈折率の低い第2のコート層」に相当する。
さらに、甲1発明の「防眩層」は、「富士フイルム製TACフィルム「TD80UL、80μm」の一面に防眩層用樹脂組成物(AG-16)をバーコーターにて硬化後の膜厚(粒子の存在しない部分の膜厚)が3.0μmとなるように塗布し、120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより」形成されたものであるから、本件特許発明2の「基材フィルムに対して近位に位置する第1のコート層」であって、「前記第1のコート層が」「コーティング組成物を硬化させてなり」に相当し、その膜厚(3.0μm)は本件特許発明2の「前記第1のコート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、」を満たしている。また、甲1発明における「防眩層用樹脂組成物(AG-16)」の成分である「大径微粒子(PMMA、粒子径3.0μm、比重1.2、体積割合7%)」並びに「バインダー樹脂(DPHA、比重1.189、体積割合60%)」及び「光重合開始剤(I-184、比重1.17)」は、それぞれ本件特許発明2の「微粒子」及び「硬化性成分」に相当し、かつ、前記甲1発明の「大径微粒子(PMMA、粒子径3.0μm、比重1.2、体積割合7%)」は、本件特許発明2の「微粒子」における、「平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である」という要件を満たしている。
加えて、甲1発明の「防眩層用樹脂組成物(AG-16)」における「大径微粒子(PMMA、粒子径3.0μm、比重1.2、体積割合7%)」、「バインダー樹脂(DPHA、比重1.189、体積割合60%)」という記載からみて、甲1発明の「大径微粒子」の「バインダー樹脂」に対する含有量は、両者の比重及び体積割合からみて、約12質量部と計算されるから、甲1発明の「防眩性反射防止フィルム」は、本件特許発明2の「前記コーティング組成物中における前記微粒子の含有量が、前記硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上、22質量部以下である」という要件を満たす。
そうすると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、
前記コート層が、前記基材フィルムに対して近位に位置する第1のコート層と、前記基材フィルムに対して遠位に位置し、前記第1のコート層よりも屈折率の低い第2のコート層とからなり、
前記第1のコート層の厚さが、1μm以上、3.5μm以下であり、
前記第1のコート層が、硬化性成分および平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である微粒子を含有するコーティング組成物を硬化させてなり、
前記コーティング組成物中における前記微粒子の含有量が、前記硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上、22質量部以下である、
コートフィルム。」
<相違点3>
本件特許発明2は、「前記第2のコート層が、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよびアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンのいずれも含有しない」ことを特定するのに対し、甲1発明ではそのようには特定されていない点。
上記相違点3について検討する。
甲1の請求項1及び【0102】~【0111】及び表12には、甲1発明の「低屈折率層」の(b)成分として「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン ビックケミー・ジャパン(株)製「BYK-UV 3500」」を4.0質量%含むことが記載されている。
そうすると、相違点3は実質的な相違点である。
また、甲1発明は「ディスプレイのぎらつきが少なく、フリック時の指のすべり易さが良好であり、かつ、防汚性に優れ、指紋の拭取りが容易な防眩性反射防止フィルムを提供すること」(甲1の【0008】)を課題としたものであり、甲1の【0045】には「(b)アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンは、低屈折率層表面に付着した指紋の拭取り性を向上するためのものである。」と記載されているから、当業者は、(b)成分は発明の課題を解決するために必須の成分であると理解することができ、したがって、甲1発明から「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン」を除くことには阻害要因があるといえる。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
よって、本件特許発明2は甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
<特許異議申立人の主張について>
特許異議申立人は、相違点3について、令和7年7月8日に提出された意見書において、以下のとおり主張している。
・「そうしてみると、例えば、参考資料2の[0045]及び[0046]の記載に接した当業者ならば、参考資料2の「0045]及び[0046]に列挙された「公知のポリシロキサン系あるいはフッ素系の防汚剤」を、甲1発明の「BYK-UV 3500」の均等物として理解し、甲1発明の「BYK-UV 3500」を、これら種々の化合物に置き換えて、その性能を確認すると考えられる。」(意見書第11ページ)
・「ところで、「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン」及び「アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン」は、甲1の請求項1に記載された構成であり、外形上、甲1においては必須の構成と理解される。しかしながら、甲1の【0045】には、「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンは、低屈折率層表面に付着した指紋の拭取り性を向上するためのものである」と、その技術的意義が明記されている。また、当業者ならば、「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン」に類似する防汚材料をいくらでも想起し得る状況にある。
そうしてみると、請求項1に記載された「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン」及び「アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン」の構成は、甲1の発明者ないし出願人が特許を取得したい対象であるとしても、必須のものとはいえず、むしろ、甲1との特許の抵触を懸念する当業者や、甲1発明の改良を試みる当業者ならば、積極的に代替材料を探索するものといえる。」(意見書第11ページ)
・「なお、参考資料2の[0045]において列挙された材料には、甲1でいう比較例の化合物も含まれている。ただし、参考資料2の[0046]には、「防汚剤として用いられるフッ素系化合物は、低屈折率層との結合形成あるいは相溶性に寄与する置換基を有していることが好ましい。」、「好ましい置換基の例としてはアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリール基、シンナモイル基、エポキシ基、オキセタニル基、水酸基、ポリオキシアルキレン基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられる。」との記載もある。この記載に接した当業者ならば、「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン」や「アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン」の均等物として、そのアクリル基をメタクリロイル基、ビニル基に換えたものを想起することができる。
そうしてみると、訂正後発明2は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。また、訂正後発明3~5については、取消理由通知書に記載の理由により、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(意見書第11ページ)
しかしながら、甲1の請求項1に記載されるとおり、甲1の低屈折率層の(b)成分は「アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン」と具体的に特定されており、これを他の成分で置き換えられることは、甲1に記載も示唆もされていない。実際、甲1の表17、18及び【0141】の比較例1-13~1-25の記載を参照すると、低屈折率層の組成において、(a)及び(b)成分の含有量が所定の範囲外である場合や(b)成分が(a)成分よりも多く含まれている場合、(a)及び(b)成分が重合していない場合などには優れた指紋拭き取り性の効果が得られないことが示されているから、(b)成分と(a)成分とは課題を解決するために密接な関係にあるものと解される。さらに、アクリル基をメタクリロイル基、ビニル基等に変えた化合物を用いた場合、一般には、反応速度や反応生成物の構造も変化するから、必ずしも甲1発明と均等な物が得られるとはいえない。そうすると、甲1発明において(b)成分のみを他の成分に置き換える動機付けはないし、仮に置き換えた際には、甲1発明と同様の効果を得られるとはいえない。
したがって、上記主張は採用できない。
(3)本件特許発明3~5について
本件特許発明3~5は、請求項1又は2の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は2の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又2と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 申立理由1及び2についてのまとめ
したがって、本件特許発明1~5は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。よって、申立理由1及び2によって本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第7 特許異議申立人のその他の主張について
令和7年7月8日に提出された意見書における特許異議申立人のその他の主張について、以下検討する。
1 サポート要件について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、以下検討する。
(2)本件特許発明の課題について
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0007】等の記載からみて、本件特許発明2~5が解決しようとする課題は「付着した指脂の拭き取り易いコートフィルムを提供すること」(以下、「本件特許発明の課題」という。)と認められる。
(3)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0019】~【0023】には、本件特許発明の課題を解決するための手段として「本実施形態に係るコートフィルム1,2では、コート層10,20における基材フィルム30とは反対側の面のオレイン酸滑落角が、32°以下であり、28°以下であることが好ましく、特に25°以下であることが好ましい。当該オレイン酸滑落角が32°以下であることで、上記面に指が触れ、指脂が付着した場合であっても、当該面に指脂がなじみにくいものとなり、当該面から指脂を拭き取り易いものとなる。一方、上記オレイン酸滑落角が32°を超えると、付着した指脂が急激に拭き取り難くなる。このように付着した指脂が拭き取り難いと、コートフィルムを使用したディスプレイの外観が悪くなるとともに、表示画像が見難くなってしまう。」ことが記載されている。
そして、オレイン酸滑落角を上述した範囲とし本件特許発明の課題を解決する第1の実施形態として、同【0026】には「前述したオレイン酸滑落角を達成し易いという観点からは、コート層10が、硬化性成分と、微粒子(後述するナノ粒子および屈折率調整用微粒子を除く。)と、所望により所定のナノ粒子とを含有するコーティング組成物C1を硬化させることにより形成することが好ましい。」(下線部は当審が付与したものである。以下、同様。)ことが記載され、同【0038】~【0045】には微粒子について記載され、「微粒子の平均粒径は、0.5μm以上であることが好ましく、・・・3μm以下であることが好ましい。微粒子の平均粒径が上述した範囲であることで、コートフィルム1が前述したオレイン酸滑落角を達成し易いものとなる。」ことや、「コーティング組成物C1中における上記微粒子の含有量は硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、・・・微粒子の含有量が1質量部以上であることにより、コートフィルム1が前述したオレイン酸滑落角を達成し易いものとなる。」ことが記載され、同【0046】~【0050】にはナノ粒子について記載され、同【0055】及び【0056】にはコート層の物性等が記載され、「コート層10の厚さは、1μm以上であることが好ましく・・・コート層10の厚さが1μm以上であることで、コート層10は所望の硬度を有し易くなるとともに、前述したオレイン酸滑落角を達成し易くなり、コートフィルム1が良好な指脂拭き取り性を発揮し易いものとなる。」と記載されている。
また、オレイン酸滑落角を上述した範囲とし本件特許発明の課題を解決する第2の実施形態として、同【0057】~【0061】には「第2の実施形態におけるコートフィルム2は、第1のコート層21および第2のコート層22を備えることで、前述したオレイン酸滑落角を達成し、指脂拭き取り性に優れたものとなる。・・・前述したオレイン酸滑落角を達成し易いという観点からは、第1のコート層21は、第1の実施形態におけるコートフィルム1のコート層10と同様に、前述したコーティング組成物C1を硬化させることにより形成することが好ましい。」ことが記載されている。
さらに、同【0096】~【0138】には実施例及び比較例が記載されており、コーティング組成物中における微粒子の含有量を硬化性成分100質量部に対して22質量部以下とした実施例では、指脂拭き取り性に優れたコートフィルムを得る事ができる一方で、コーティング組成物中における微粒子の含有量を硬化性成分100質量部に対して25質量部以上とした比較例では、指脂拭き取り性の評価が「△:ヘーズ値差(ポイント)が、3.9以上、5.1未満であった。」又は「×:ヘーズ値差(ポイント)が、5.1以上であった。」となることが認識できる。
そうすると、発明の詳細な説明の記載の第2の実施形態に基づいて、当業者は「基材フィルムと、前記基材フィルムの一方の面側に設けられたコート層とからなるコートフィルムであって、前記コート層が、前記基材フィルムに対して近位に位置する第1のコート層と、前記基材フィルムに対して遠位に位置する第2のコート層とからなり、前記第1のコート層の厚さが、1μm以上であり、前記第1のコート層が、硬化性成分および平均粒径が0.5μm以上、3μm以下である微粒子を含有するコーティング組成物を硬化させてなり、前記コーティング組成物中における前記微粒子の含有量が、前記硬化性成分100質量部に対して、1質量部以上、22質量部以下であるコートフィルム」であれば、本件特許発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明2~5は、当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる「コートフィルム」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明2~5は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明2~5に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、意見書第8~9ページにて、以下のとおり主張している。
・「訂正後発明は、「第2のコート層が、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよびアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンのいずれも含有しない」という構成を具備するものであり、この構成は、訂正事項1によって付加された構成である。すなわち、訂正後発明は、訂正事項1によって、本件発明の課題を解決するための手段を、敢えて具備しないことを明示的に確認したものと理解される。また、訂正後発明は、本件特許の明細書の【0098】に記載の「FS-7025」を含むとは特定されていないものである。
そうしてみると、訂正後発明の範囲に、発明の課題を解決することができないものが含まれるものとなったことは明らかである。」
しかしながら、上記(3)に記載したように、発明の詳細な説明から、当業者は、第1のコート層の厚さ、微粒子の含有量並びに第1及び第2のコート層の屈折率を調整することにより、所望のオレイン酸滑落角を達成しやすくなり、発明の課題を解決できると認識することができ、本件訂正により付加された「第2のコート層が、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよびアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンのいずれも含有しない」という構成は発明の課題を解決する手段を具備しないことを意味するものではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(5)サポート要件についてのまとめ
以上のことから、本件特許発明2~5は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、サポート要件違反を理由として本件特許発明2~5についての特許を取り消すことはできない。
2 分割要件及び参考資料1に基づく新規性・進歩性について
特許異議申立人は、意見書第10ページにて、以下のとおり主張している。
・「サポート要件違反の項で述べたとおり、訂正後発明の範囲には、発明の課題を解決することができないものが含まれるものとなったところ、このような発明は、原出願に開示された発明の範囲を超えるものである。
そうしてみると、本件特許は、分割要件を満たさないものであって、その出願日は、現実の出願日である2022年4月28日である。これに対して、本件特許の原出願の公開公報である参考資料1は、本件特許の出願前である2019年6月6日に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された文献である。そして、訂正後発明の範囲には、参考資料1に記載された発明も含まれる。
そうしてみると、訂正後発明は参考資料1に記載された発明であり、仮にそうでないとしても、参考資料1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
請求項2~5に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものであるから、同法113条1項2号の規定により取り消されるべきものである。」
しかしながら、上記1にて説示したとおり、本件特許発明2~5はサポート要件に違反するものではないから、特許異議申立人の主張には根拠がなく、また、上記第2における検討を踏まえると本件訂正は、原出願の明細書等に開示された範囲を超える新たな技術的事項を本件特許明細書に導入するものではない。
したがって、サポート要件違反による分割要件違反に基づいて本件特許の出願日の遡及が認められないことを前提とする新規性欠如及び進歩性欠如の主張は採用できない。
また、原出願に対する分割出願のその他の要件に関して精査しても特段の瑕疵は認められないから、本件特許に係る特許出願は原出願に対する分割出願の要件を満たすものである。
以上のことから、本件特許に係る出願に分割要件違反はなく、その出願日は原出願の出願日である平成29年11月6日と認められるから、参考資料1は本件特許に係る出願の出願後に公開された文献であり、新規性欠如及び進歩性欠如の根拠とはならないものである。
よって、特許異議申立人の主張する上記理由により本件特許発明2~5についての特許を取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した申立理由及び特許異議申立人が意見書で主張した理由並びに証拠によっては、本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701136