特許異議申立
2024-701113
薬剤揮散装置、及び、薬剤揮散方法
- 審判番号
- 2024-701113
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-182584
- 登録番号
- 7485583
- 請求日
- 2024年11月15日
- 審決日
- 2026年02月05日
- 公報発行日
- 2026年05月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アース製薬株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】川▲崎▼ 安代
- 審判長/審判官
- 審判長 殿川 雅也
- 審判官 西田 秀彦
- 審判官 門 良成
- 分類
- P1652.113-YAA(A01M) / P1652.121-YAA(A01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第126条、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7485583号発明「薬剤揮散装置、及び、薬剤揮散方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7485583号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7485583号の請求項1、4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7485583号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和2年10月30日に出願され、令和6年5月8日にその特許権の設定登録がされ、同月16日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1、4に係る特許に対し、令和6年11月15日に特許異議申立人 川崎 安代(「崎」は「たつさき」である。以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後、その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は次のとおりである。
令和7年 4月11日付け:取消理由通知書
同年 6月16日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 7月16日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
同年 8月 6日 :意見書の提出(申立人)
同月29日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年11月 4日 :意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年12月 5日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
令和8年 1月 7日 :意見書の提出(申立人)
なお、令和7年6月16日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和7年11月4日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の趣旨は、特許第7485583号の特許請求の範囲を、本件訂正請求の訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置であって、
前記容器は、
少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記開口部に沿うように延びる凸条部と、
該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側に窪み前記凸条部に隣接する凹部と、を有する、
薬剤揮散装置。」
と記載されているのを、
「常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる複数の開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置であって、
前記容器は、
網目状に形成された複数の凸条部と、複数の凹部とを有し、
前記複数の凸条部の各々は、
少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記複数の開口部の何れかに沿うように延び、
前記複数の凹部の各々は、
該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側且つ前記周縁部分よりも内側に窪み、前記複数の凸条部が形成する網目の中に配置され且つ前記複数の凸条部の何れかに隣接するように配置され、
前記容器の上下方向において、前記凹部と前記開口部とが隣り合い、且つ、前記凹部と前記開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置される、
薬剤揮散装置。」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する訂正後の請求項4も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、
「請求項1に記載の薬剤揮散装置において、」
と記載されているのを、
「常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置であって、
前記容器は、
少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記開口部に沿うように延びる凸条部と、
該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側に窪み前記凸条部に隣接する凹部と、を有し、」
に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、
「請求項1又は請求項2に記載の薬剤揮散装置において、」
と記載されているのを、
「常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置であって、
前記容器は、
少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記開口部に沿うように延びる凸条部と、
該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側に窪み前記凸条部に隣接する凹部と、を有し、」
に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に、
「請求項1又は請求項2に記載の薬剤揮散装置において、
前記容器は、
前記薬剤揮散体を内部に収容する内側容器と、
前記内側容器を内部に収容する外側容器と、を有するように構成される、二重構造を有し、
前記内側容器、及び、前記外側容器は、
前記内側容器が前記外側容器の内部に収容されている閉状態と、前記内側容器の一部が前記外側容器の外部へと突出している開状態と、の間を相対移動可能なように構成され、
前記閉状態では、前記内側容器及び前記外側容器によって、前記開口部が塞がれて、
前記開状態では、前記内側容器及び前記外側容器によって、前記開口部が画成される、
薬剤揮散装置。」とあるうち、
間接的に請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、
「常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置であって、
前記容器は、
少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記開口部に沿うように延びる凸条部と、
該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側に窪み前記凸条部に隣接する凹部と、を有し、
前記凸条部の表面の粗さと前記凹部の表面の粗さとが異なり、
前記容器は、
前記薬剤揮散体を内部に収容する内側容器と、
前記内側容器を内部に収容する外側容器と、を有するように構成される、二重構造を有し、
前記内側容器、及び、前記外側容器は、
前記内側容器が前記外側容器の内部に収容されている閉状態と、前記内側容器の一部が前記外側容器の外部へと突出している開状態と、の間を相対移動可能なように構成され、
前記閉状態では、前記内側容器及び前記外側容器によって、前記開口部が塞がれて、
前記開状態では、前記内側容器及び前記外側容器によって、前記開口部が画成される、
薬剤揮散装置。」と記載し、新たに請求項5とする。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1から請求項3の何れか一項に記載の薬剤揮散装置を用いて、」
と記載されているのを、
「請求項1に記載の薬剤揮散装置を用いて、」
に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に、
「薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」とあるうち、
間接的に請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、
「薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項2に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」と記載し、新たに請求項6とする。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項4に、
「薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」とあるうち、
間接的に請求項1を引用する請求項3を引用するものについて、
「薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項3に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」と記載し、新たに請求項7とする。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項4に、
「薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」とあるうち、
間接的に請求項1及び2を引用する請求項3を引用するものについて、
「薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項5に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」と記載し、新たに請求項8とする。
3 本件訂正の適否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1の「開口部」の数について「複数の」と限定し、「凸条部」について、その数を「複数の」と限定し、その形状を「網目状に形成された」と限定し、「凹部」の数について「複数の」と限定するものであって、「凹部」と「開口部」の関係について「前記容器の上下方向において、前記凹部と前記開口部とが隣り合い、且つ、前記凹部と前記開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置される、」と限定するものである。
また、訂正前の請求項1の「少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記開口部に沿うように延びる」「凸条部」を、「複数の凸条部の各々」と限定し、この「複数の凸条部の各々」の形状を「少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記複数の開口部の何れかに沿うように延び、」と限定するものである。
さらに、訂正前の請求項1の「該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側に窪み前記凸条部に隣接する」「凹部」を、「複数の凹部の各々」と限定し、この「複数の凹部の各々」の形状を「該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側且つ前記周縁部分よりも内側に窪み、前記複数の凸条部が形成する網目の中に配置され且つ前記複数の凸条部の何れかに隣接するように配置され、」と限定するものである。
そうすると、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1は、前記アに記載したとおり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、明細書の段落【0024】、【図1】の記載に基づくものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
請求項1は、本件特許異議の申立てがされている請求項であるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであるので、訂正後の請求項2に係る訂正事項2に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったところ、そのうちの請求項1を引用する記載のものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、かつ、択一的に引用されていた訂正前の請求項2の引用を除く訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったところ、そのうちの請求項1を引用する記載のものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であり、かつ、択一的に引用されていた訂正前の請求項2の引用を除く訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったところ、そのうちの請求項1を引用する記載のものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であり、かつ、択一的に引用されていた訂正前の請求項2の引用を除く訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
(ア)訂正前の請求項3は、本件特許異議の申立ての対象とされていないところ、訂正後の請求項3に係る訂正事項3は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的としているから、特許法120条の5第9項の規定により読み替えて準用する同法126条7項の規定により、訂正後の請求項3に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、以下に訂正後の請求項3に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを検討する。
(イ)訂正後の請求項3に係る発明は、
「前記容器は、
前記薬剤揮散体を内部に収容する内側容器と、
前記内側容器を内部に収容する外側容器と、を有するように構成される、二重構造を有」することを含む、薬剤揮散装置である。
(ウ)ここで、以下の第5の1で示すように、甲1~甲4には、「前記容器は、 前記薬剤揮散体を内部に収容する内側容器と、 前記内側容器を内部に収容する外側容器と、を有するように構成される、二重構造を有」すること(スペースは改行を示す。以下同じ。)が記載されておらず、他の参考資料にも記載されていない。
また、これが本願出願時点の技術常識であると解すべき事情も見当たらない。
そうすると、訂正後の請求項3に係る発明は、令和7年8月29日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)により特許を受けることができないものではなく、他に訂正後の請求項3に係る発明が特許を受けることができない理由もない。
してみると、訂正後の請求項3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったところ、そのうちの間接的に請求項1を引用する請求項2を引用するものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであり、かつ、択一的に引用されていた訂正前の請求項1のみの引用を除く訂正であるから、同法同条同項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項4は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったところ、そのうちの間接的に請求項1を引用する請求項2を引用するものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であり、かつ、択一的に引用されていた訂正前の請求項1のみの引用を除く訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、訂正前の請求項3が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であったところ、そのうちの間接的に請求項1を引用する請求項2を引用するものを、請求項間の引用関係を解消して、独立請求項へ改めるための訂正であり、かつ、択一的に引用されていた訂正前の請求項1のみの引用を除く訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
(ア)訂正前の請求項3は、本件特許異議の申立ての対象とされていないところ、訂正前の請求項3に基づく訂正後の請求項5に係る訂正事項4は、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的としているから、特許法120条の5第9項の規定により読み替えて準用する同法126条7項の規定により、訂正後の請求項3に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものでなければならない。
そこで、以下に訂正後の請求項5に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かを検討する。
(イ)訂正後の請求項5に係る発明は、
「前記容器は、
前記薬剤揮散体を内部に収容する内側容器と、
前記内側容器を内部に収容する外側容器と、を有するように構成される、二重構造を有」することを含む、薬剤揮散装置である。
(ウ)ここで、以下の第5の1で示すように、甲1~甲4には、「前記容器は、 前記薬剤揮散体を内部に収容する内側容器と、 前記内側容器を内部に収容する外側容器と、を有するように構成される、二重構造を有」することが記載されておらず、他の参考資料にも記載されていない。
また、これが本願出願時点の技術常識であると解すべき事情も見当たらない。
そうすると、訂正後の請求項5に係る発明は、令和7年8月29日付け取消理由通知(決定の予告)の取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)により特許を受けることができないものではなく、他に訂正後の請求項3に係る発明が特許を受けることができない理由もない。
してみると、訂正後の請求項5に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、択一的に引用されていた訂正前の請求項2、3の引用を削除するための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項5は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、択一的に引用されていた訂正前の請求項2、3の引用を削除するための訂正であるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、訂正事項5は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、択一的に引用されていた訂正前の請求項2、3の引用を削除するための訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
請求項4は、本件特許異議の申立てがされている請求項であるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1を引用する請求項2のみを引用するための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項6は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1を引用する請求項2のみを引用するための訂正であるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1を引用する請求項2のみを引用するための訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
訂正後の請求項6に係る訂正事項6は、本件特許異議の申立てがされている訂正前の請求項4に基づくものであるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
(6)訂正事項7
ア 訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1を引用する請求項3のみを引用するための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項7は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1を引用する請求項3のみを引用するための訂正であるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1を引用する請求項3のみを引用するための訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
訂正後の請求項7に係る訂正事項7は、本件特許異議の申立てがされている訂正前の請求項4に基づくものであるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
(7)訂正事項8
ア 訂正の目的
訂正事項8は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1、2を引用する請求項3のみを引用するための訂正であるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項8は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1、2を引用する請求項3のみを引用するための訂正であるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項8は、訂正前の請求項4が訂正前の請求項1~3のいずれか一項を引用する記載であったところ、間接的に請求項1、2を引用する請求項3のみを引用するための訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
訂正後の請求項8に係る訂正事項8は、本件特許異議の申立てがされている訂正前の請求項4に基づくものであるから、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項に規定する要件(いわゆる独立特許要件)は課されない。
(8)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~8は特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 訂正の適否のまとめ
本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5~7項の規定に適合するものであるから、本件訂正を認める。
第3 本件特許発明
前記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件異議申立対象請求項である請求項1、4に対応する訂正後の本件特許の請求項1、4、6~8に係る発明(以下「本件特許発明1」、「本件特許発明4」、「本件特許発明6」~「本件特許発明8」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、4、6~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
常温揮散性の薬剤を保持した薬剤揮散体と、前記薬剤揮散体を内部に収容し且つ前記薬剤揮散体を外部に露出させる複数の開口部を有する容器と、を備えた薬剤揮散装置であって、
前記容器は、
網目状に形成された複数の凸条部と、複数の凹部とを有し、
前記複数の凸条部の各々は、
少なくとも一端が該容器の周縁部分と連続し且つ前記複数の開口部の何れかに沿うように延び、
前記複数の凹部の各々は、
該容器の表面が厚さ方向に該容器の内側且つ前記周縁部分よりも内側に窪み、前記複数の凸条部が形成する網目の中に配置され且つ前記複数の凸条部の何れかに隣接するように配置され、
前記容器の上下方向において、前記凹部と前記開口部とが隣り合い、且つ、前記凹部と前記開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置される、
薬剤揮散装置。」
「【請求項4】
薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項1に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」
「【請求項6】
薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項2に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」
「【請求項7】
薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項3に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」
「【請求項8】
薬剤揮散装置を用いた薬剤揮散方法であって、
請求項5に記載の薬剤揮散装置を用いて、常温揮散性の薬剤を揮散させる工程を含む、
薬剤揮散方法。」
第4 証拠方法、特許異議申立理由の概要、及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要
1 証拠方法
(1)申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。
甲第1号証:意匠登録第1444845号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:虫よけバリアブラック, 2014 フマキラー総合カタログ, 2014年発行, 表紙、p.2,11-12(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2012-36219号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:意匠登録第1565583号公報(以下「甲4」という。)
(2)申立人が令和7年8月6日に提出した意見書とともに提出した証拠は、以下のとおりである。
参考資料1:意匠登録第1304405号公報(以下「資料1」という。)
参考資料2:意匠登録第1574841号公報(以下「資料2」という。)
参考資料3:意匠登録第1445579号公報(以下「資料3」という。)
参考資料4:意匠登録第1666659号公報(以下「資料4」という。)
参考資料5:意匠登録第1416980号公報(以下「資料5」という。)
参考資料6:意匠登録第1528019号公報(以下「資料6」という。)
参考資料7:意匠登録第1472808号公報(以下「資料7」という。)
参考資料8:意匠登録第1528082号公報(以下「資料8」という。)
参考資料9:意匠登録第1666660号公報(以下「資料9」という。)
2 異議申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)申立理由1-1(甲1を主引例とする新規性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲1に記載された発明と同一であるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由1-2(甲2を主引例とする新規性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲2に記載された発明と同一であるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由1-3(甲3を主引例とする新規性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲3に記載された発明と同一であるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(4)申立理由1-4(甲4主引例とする新規性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲4に記載された発明と同一であるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(5)申立理由2-1(甲1を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲1に記載された発明、及び周知技術等から、当業者が容易に発明することができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)申立理由2-2(甲2を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲2に記載された発明、及び周知技術等から、当業者が容易に発明することができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(7)申立理由2-3(甲3を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲3に記載された発明、及び周知技術等から、当業者が容易に発明することができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
(8)申立理由2-4(甲4を主引例とする進歩性)
本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲4に記載された発明、及び周知技術等から、当業者が容易に発明することができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
令和7年8月29日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要は、以下のとおりである。
取消理由1(進歩性)本件特許の請求項1、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、又は甲第3号証に記載された発明、並びに、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
第5 異議申立理由について
1 引用文献について
(1)甲1について
ア 記載事項
本願の出願日前に発行された甲1には、次の事項が記載されている(下線は当審において付した。以下同じ。)。
「【意匠に係る物品の説明】本物品は、屋内外で、蚊・ブヨ等の害虫を防除する揮散タイプの薬剤を含浸させたネット状の薬剤含浸体を本物品内部に装着して使用する害虫防除剤用容器である。使用状態参考図1及び使用状態参考図2は上記薬剤を含浸させたネット状の薬剤含浸体を本物品内部に装着した状態である。本物品は、使用状態参考図1のように本物品の平面図の略中央に表される孔にフック状の部品を差し込み取り付け、又は使用状態参考図2のように本物品の背面図の上部に位置する引っ掛け部に紐を取り付けることにより、吊り下げることができる。本物品の正面上部に五角形状に表れた部分は、薬剤の交換時期を表示するためのインジケータ用薬剤を収納した部分であり、シート状部材で覆われている。」
「【意匠の説明】各図の表面に表された濃淡や明度の相違は、いずれも立体表面の形状を特定するためのものである。」
「【正面斜視図】
[図:0001435170000001.jpg]
」
「【背面斜視図】
[図:0001435170000002.jpg]
」
「【正面図】
[図:0001435170000003.jpg]
」
「【背面図】
[図:0001435170000004.jpg]
」
「【右側面図】
[図:0001435170000005.jpg]
」
「【左側面図】
[図:0001435170000006.jpg]
」
「【正面図中央縦断面図】
[図:0001435170000007.jpg]
」
「【使用状態参考図1】
[図:0001435170000008.jpg]
」
「【使用状態参考図2】
[図:0001435170000009.jpg]
」
イ 認定事項
(ア)前記ア【正面図】、及び【正面図中央縦断面図】から、本物品の正面から見て、対向する外周部分に架け渡されるV形状部材と、他のV形状部材との間には間隙を有することが看取できる。
(イ)前記ア【意匠に係る物品の説明】の「使用状態参考図1及び使用状態参考図2は上記薬剤を含浸させたネット状の薬剤含浸体を本物品内部に装着した状態である。」との記載をふまえると、前記ア【使用状態参考図1】、及び【使用状態参考図2】において、メッシュ状に記載されている部分は、ネット状の薬剤含浸体と認められる。
そして、前記ア【正面図】、及び【背面図】を総合すると、前記(ア)の間隙からは、薬剤含浸体が見える状態にあることが看取できる。
(ウ)前記(ア)をふまえ、前記ア【正面斜視図】、【背面斜視図】、【右側面図】、【左側面図】、及び【正面図中央縦断面図】を総合すると、V形状部材は、細長い形状であって、本物品の正面に垂直な方向に突出する形状であることが看取できる。
(エ)前記ア【正面斜視図】、【正面図】、及び【使用状態参考図1】から、本物品の正面最上方に位置するV形状部材に連なって、孔を有する部材が設けられていることが看取できる。
また、当該孔を有する部材は、前記ア【正面斜視図】、【正面図】、【正面図中央縦断面図】、及び【使用状態参考図1】から、本物品の正面に垂直な方向におけるV形状部材の最外面、及び外周部分よりも、背面側に位置することが看取できる。
ウ 甲1発明
前記ア、イで示した事項からみて、甲1には下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「屋内外で、害虫を防除する揮散タイプの薬剤を含浸させたネット状の薬剤含浸体を内部に装着して使用する害虫防除剤用容器であって(ア【意匠に係る物品の説明】)、
害虫防除剤用容器の正面から見て、対向する外周部分に架け渡されるV形状部材と、他のV形状部材との間には間隙を有し(イ(ア))、
間隙からは、薬剤含浸体が見える状態にあり(イ(イ))、
V形状部材は、細長い形状であって、害虫防除剤用容器の正面に垂直な方向に突出する形状であり(イ(ウ))、
害虫防除剤用容器の正面最上方に位置するV形状部材に連なって、孔を有する部材が設けられており(イ(エ))、
孔を有する部材は、害虫防除剤用容器の正面に垂直な方向におけるV形状部材の最外面、及び外周部分よりも、背面側に位置する(イ(エ))、
害虫防除剤用容器。」
(2)甲2について
ア 記載事項
本願の出願日前に発行された甲2には、次の事項が記載されている。
(ア)「フマキラー総合カタログ」(表紙)
(イ)「CONTENTS
・・・
商品紹介
・・・
虫よけバリアブラック・・・・・・・・・・・・・・・・・11
Kawaii Select虫よけバリア/
虫よけバリア アミ戸にピタッ・・・・・・・・・・13
・・・
」(2頁)
(ウ)「驚きの効きめが
超・長日化。
NEW 虫よけバリア ブラック」(12頁上欄)
(エ)「吊下げ型虫よけの不満点とは?
ベランダや軒下に吊下げるだけで、長期間イヤな虫を寄せつけない。その手軽さで、吊下げ型虫よけ市場は、今や一大カテゴリーとなりました。今後も堅調な成長が見込めるものの、使用者からは不満の声も・・・。フマキラーで行った調査によると、吊下げ型虫よけの不満点として「効きめが弱い」ことが挙げられました。」(12頁左下欄)
(オ)「太陽のエネルギーで効きめ1.5倍※。
「虫よけバリア ブラック」は、太陽光を吸収する黒色メッシュネットを採用。ネットの温度が上昇(最大約7℃)することにより、有効成分の蒸散量が増加。曇り空や日陰など、直射日光が当たらない場合でも、太陽が出ている間は散乱した光を吸収し、虫よけ効果がアップします。さらに、大型容器で薬剤を効率的に蒸散。S字型の形状が風を受けて回転し、効きめがさらに広がります。」(12頁中下欄)
(カ)「
[図:0001435170000010.jpg]
」(11頁)
イ 認定事項
(ア)前記ア(ア)に示すように、甲2はカタログであって、前記ア(イ)に示すように「商品紹介」として「虫よけバリアブラック」が記載されていることから、この「虫よけバリアブラック」の記載箇所である11頁には、「虫よけバリアブラック」が掲載されていると認められる。
(イ)前記ア(イ)には、「商品紹介」として、「虫よけバリアブラック」の次に紹介される「Kawaii Select虫よけバリア/虫よけバリア アミ戸にピタッ」が13頁に掲載されていることが記載されていることと、前記(ウ)の「NEW 虫よけバリア ブラック」(12頁)との記載をふまえると、甲2の12頁も「虫よけバリアブラック」が掲載されていると認められる。
(ウ)前記ア(ア)、(イ)をふまえると、前記ア(ウ)~(オ)は、前記ア(カ)についての説明であるといえる。
(エ)前記ア(ウ)~(オ)の記載をふまえると、前記ア(カ)から、黒色メッシュネットと白色部材を有する吊下げ型虫よけが看取できる(以下「認定事項(エ)」という。)。
(オ)前記ア(カ)から、白色部材は、複数の棒状部材、及び棒状部材間に位置する棒状部材より窪んだ部材を有し、複数の棒状部材の間であって該窪んだ部分以外の領域の一部に黒色メッシュネットが見えるように、黒色メッシュネットと重なっていることが看取できる(以下「認定事項(オ)という。」。
ウ 甲2発明
前記ア、イで示した事項からみて、甲2には下記の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「黒色メッシュネットと白色部材を有する吊下げ型虫よけであって(認定事項(エ))、
白色部材は、複数の棒状部材、及び棒状部材間に位置する棒状部材より窪んだ部材を有し、複数の棒状部材の間であって該窪んだ部分以外の領域の一部に黒色メッシュネットが見えるように、黒色メッシュネットと重なっている(認定事項(オ))、
吊下げ型虫よけ。」
(3)甲3について
ア 記載事項
本願の出願日前に発行された甲3には、次の事項が記載されている。
「【0015】
薬剤として揮散性の害虫防除剤を用いることができ、例えば、エンペンスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、そしてフェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリオス、ジクロルボス等の有機リン系化合物、等を用いることもできる。
この中でも、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリンがよく、これらを組み合わせたもの、特にメトフルトリン、プロフルトリンを併用するのがよい。」
「【0018】
そして、前述したような揮散性薬剤が含浸される薬剤保持体としては、効率よく自然揮散させる上で、薄型で前述の化合物の自然揮散が妨げられない構造のものを使用する。このような薬剤保持体は、その容積が小さくても揮散性に優れるので、ピレスロイド系化合物等が効率よく自然揮散し、その結果、優れた害虫防除効果および揮散効果を発揮する。」
「【0020】
このように、揮散性薬剤が含浸された薬剤保持体は、本発明の装置に取付けられて、軒下、ベランダ、倉庫、室外、室内等に設置して、揮散性薬剤を自然揮散させる。これにより、揮散性薬剤が効率よく薬剤保持体から自然揮散し、そして容器に設けられた揮散口を介して容器外部の雰囲気中に揮散して、高い害虫防除効果および揮散効果を発揮する。」
「【0030】
図1に示すように、薬剤揮散装置10は、表容器11と、裏容器12と、ネット状の薬剤保持体13と、保持部材(図2参照)14と、を備えて構成される。
【0031】
表容器11は、成形がし易い、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロ・ニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等の樹脂材料を用いて、前面板15と、この前面板15の周縁部から略直角に立設された周板16と、からなり、前面板15には、V字状をなす7個の前方揮散口17が上下方向に略並列に設けられている。
【0032】
そして、表容器11には、この7個の前方揮散口17のうちの、最上部に位置する前方揮散口17の右方端部と、最下部に位置する前方揮散口17の左方端部と、の2箇所に、略コ字形状にそれぞれ形成される、後述する第1の揮散性薬剤供給部18aの表部を構成するための第1の表供給部19aと、第2の揮散性薬剤供給部18bの表部を構成するための第2の表供給部19bと、がそれぞれ設けられている。
即ち、これら表供給部19a、19bは、その略コ字形状の端部で前方揮散口17の縁部をそれぞれ上下方向で架け渡すように表容器11の内方に屈曲した状態で形成されており、またその底板部それぞれには、皿形状部20a、20bが形成されている。
【0033】
裏容器12は、表容器11と同様に、成形がし易い、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリロ・ニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂等の樹脂材料を用いて、後面板21と、この表面板21の周縁部から略直角に立設された周板22と、からなり、後面板21には、7個のV字状をなす後方揮散口23が上下方向に略並列に設けられている。
【0034】
そして、裏容器12には、この7個の後方揮散口23のうちの、最上部に位置する後方揮散口23の右方端部と、最下部に位置する後方揮散口23の左方端部と、の2箇所に、略コ字形状にそれぞれ形成される、第1の揮散性薬剤供給部18aの裏部を構成するための第2の裏供給部24aと、第2の揮散性薬剤供給部18bの裏部を構成するための第2の裏供給部24bと、がそれぞれ設けられている。
即ち、これら裏供給部24a、24bは、その略コ字形状の端部で後方揮散口23の縁部をそれぞれ上下方向で架け渡すように裏容器12の内方に屈曲した状態で形成されており、またその底板部それぞれには、平板部25a、25bが形成されている。
【0035】
薬剤保持体13は、前述した通りの多数の連続的な空隙を有するようなネットとされ、例えば、細い線形状の複数の樹脂材を交差させたネット状部材として板形状に一体成形されている。
なお、薬剤保持体13として、ネット状部材に代えて、浸透性のある紙材や不織布を用いて板形状に形成したものも適用できる。
【0036】
図2に示すように、表容器11及び裏容器12は、その合体時に、表容器11及び裏容器12それぞれに設けられた複数の支持片(不図示)により薬剤保持体13を挟持して収納保持し、そして、それぞれの周板16,22が接着剤等の接合手段により結合されることにより箱形状に構成される。・・・」
「【図1】
[図:0001435170000011.jpg]
」
「【図2】
[図:0001435170000012.jpg]
」
イ 認定事項
(ア)前記ア【0031】の「表容器11は、・・・前面板15と、この前面板15の周縁部から略直角に立設された周板16と、からなり、前面板15には、V字状をなす7個の前方揮散口17が上下方向に略並列に設けられている。」との記載をふまえると、前記ア【図1】、及び【図2】から、表容器11は、対向する周板16に架け渡され、前方揮散口17を画定する、細長い形状のV形状部材を有することが看取できる(以下「認定事項(ア)」という。)。
(イ)前記ア【0020】の「揮散性薬剤が効率よく薬剤保持体から自然揮散し、そして容器に設けられた揮散口を介して容器外部の雰囲気中に揮散して、高い害虫防除効果および揮散効果を発揮する。」との記載、前記ア【0031】の「表容器11は、・・・前面板15と、この前面板15の周縁部から略直角に立設された周板16と、からなり、前面板15には、V字状をなす7個の前方揮散口17が上下方向に略並列に設けられている。」との記載、及び前記ア【図2】から、揮散性薬剤は、表容器11に設けられた前方揮散口17を介して表容器11外部の雰囲気中に揮散すると認められる(以下「認定事項(イ)」という。)。
ウ 甲3発明
前記ア、イで示した事項からみて、甲3には下記の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「表容器11と、裏容器12と、ネット状の薬剤保持体13と、を備えて構成される薬剤揮散装置10であって(【0030】)、
表容器11及び裏容器12は、薬剤保持体13を挟持して収納保持し、(【0036】)
薬剤保持体13に含浸させる薬剤として、エンペンスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等の揮散性の害虫防除剤を用い(【0015】、【0018】)、
揮散性薬剤は、表容器11に設けられた前方揮散口17を介して表容器11外部の雰囲気中に揮散し(認定事項(イ))、
表容器11は、前面板15と、この前面板15の周縁部から略直角に立設された周板16と、からなり、前面板15には、V字状をなす7個の前方揮散口17が上下方向に略並列に設けられており(【0031】)、
表容器11は、対向する周板16に架け渡され、前方揮散口17を画定する細長い形状のV形状部材を有し(認定事項(ア))、
表容器11には、最上部に位置する前方揮散口17の右方端部に、略コ字形状に形成される、第1の表供給部19aが設けられており(【0032】)、
第1の表供給部19aは、その略コ字形状の端部で前方揮散口17の縁部をそれぞれ上下方向で架け渡すように表容器11の内方に屈曲した状態で形成されており、またその底板部には、皿形状部20aが形成されている(【0032】)、
薬剤揮散装置10。」
(4)甲4について
ア 記載事項
本願の出願日前に発行された甲4には、次の事項が記載されている。
「【意匠に係る物品の説明】本物品は、前面と後面とにそれぞれ複数の開口部を形成した容器を備え、この容器の内部に揮発性薬剤を含浸させたプリーツ状含浸シートを収容し、含浸シートに含浸させた薬剤を容器の各開口部より外部に放散するものである。また、本物品は、上部に設けられた吊り下げ部に例えば棒材等を通して吊り下げて使用することもできる。」
「【意匠の説明】各図に表された濃淡は、いずれも立体形状を特定するためのものである。」
「【正面図】
[図:0001435170000013.jpg]
」
「【平面図】
[図:0001435170000014.jpg]
」
イ 認定事項
(ア)前記ア【意匠に係る物品の説明】の「本物品は、前面と後面とにそれぞれ複数の開口部を形成した容器を備え、この容器の内部に揮発性薬剤を含浸させたプリーツ状含浸シートを収容し、含浸シートに含浸させた薬剤を容器の各開口部より外部に放散するものである。」との記載をふまえると、前記ア【正面図】から、開口部を画定する部材が複数個連続することにより、容器の正面から見て上下方向に対向する外周部分に架け渡されることが看取できる。
(イ)前記ア【正面図】、及び【平面図】から、前記(ア)の開口部を画定する部材は、容器の正面に垂直な方向に突出する細長い形状であること、及び該部材に連なって、容器の正面に垂直な方向における開口部を画定する部材の最外面よりも、背面側に位置する部材が容器に設けられることが看取できる。
ウ 甲4発明
前記ア、イで示した事項からみて、甲4には下記の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「前面と後面とにそれぞれ複数の開口部を形成した容器を備え、この容器の内部に揮発性薬剤を含浸させたプリーツ状含浸シートを収容し、含浸シートに含浸させた薬剤を容器の各開口部より外部に放散する、吊り下げて使用する物品であって(ア【意匠に係る物品の説明】)、
開口部を画定する部材が複数個連続することにより、容器の正面から見て上下方向に対向する外周部分に架け渡され(イ(ア))、
開口部を画定する部材は、容器の正面に垂直な方向に突出する細長い形状であり、該部材に連なって、容器の正面に垂直な方向における開口部を画定する部材の最外面よりも、背面側に位置する部材が容器に設けられた(イ(イ))、
物品。」
2 本件特許発明1について
(1)甲1発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、両者は少なくとも次の相違点1において相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「前記容器の上下方向において、前記凹部と前記開口部とが隣り合い、且つ、前記凹部と前記開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置される」のに対し、甲1発明は、そのような構成ではない点。
イ 判断
(ア)申立理由1-1(甲1を主引例とする新規性)について
前記相違点1は実質的な相違点であるので、本件特許発明1は甲1発明ではない。
(イ)申立理由2-1(甲1を主引例とする進歩性)について
前記相違点1に係る本件特許発明1の構成は、甲2~甲4、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲1発明において、前記相違点1に係る本件特許発明1の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲1発明において、前記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
また、前記相違点1の構成とすることで、「降雨による水が開口部へ流入することを抑制できる」(【0060】)との格別顕著な作用効果を奏するものである。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲2発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比すると、両者は少なくとも次の相違点2において相違する。
<相違点2>
本件特許発明1は、「前記容器の上下方向において、前記凹部と前記開口部とが隣り合い、且つ、前記凹部と前記開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置される」のに対し、甲2発明は、そのような構成ではない点。
イ 判断
(ア)申立理由1-2(甲2を主引例とする新規性)について
前記相違点2は実質的な相違点であるので、本件特許発明1は甲2発明ではない。
(イ)申立理由2-2(甲2を主引例とする進歩性)について
前記相違点2に係る本件特許発明1の構成は、甲1、甲3、甲4、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲2発明において、前記相違点2に係る本件特許発明1の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲2発明において、前記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲3発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比すると、両者は少なくとも次の相違点3において相違する。
<相違点3>
本件特許発明1は、「前記容器の上下方向において、前記凹部と前記開口部とが隣り合い、且つ、前記凹部と前記開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置される」のに対し、甲3発明は、そのような構成ではない点。
イ 判断
(ア)申立理由1-3(甲3を主引例とする新規性)について
前記相違点3は実質的な相違点であるので、本件特許発明1は甲3発明ではない。
(イ)申立理由2-3(甲3を主引例とする進歩性)について
前記相違点3に係る本件特許発明1の構成は、甲1、甲2、甲4、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲3発明において、前記相違点3に係る本件特許発明1の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲3発明において、前記相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲3に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲4発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明を対比すると、両者は少なくとも次の相違点4において相違する。
<相違点4>
本件特許発明1は、「前記容器の上下方向において、前記凹部と前記開口部とが隣り合い、且つ、前記凹部と前記開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置される」のに対し、甲4発明は、そのような構成ではない点。
イ 判断
(ア)申立理由1-4(甲4を主引例とする新規性)について
前記相違点4は実質的な相違点であるので、本件特許発明1は甲4発明ではない。
(イ)申立理由2-4(甲4を主引例とする進歩性)について
前記相違点4に係る本件特許発明1の構成は、甲1~甲3、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲4発明において、前記相違点4に係る本件特許発明1の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲4発明において、前記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明1は、甲4に記載された発明ではない。
また、本件特許発明1は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 本件特許発明4について
(1)甲1発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明4は、実質的には、本件特許発明1とカテゴリーが相違するのみであるから、本件特許発明4と、甲1発明(害虫防除剤用容器)を「害虫防除剤用容器の使用方法」の発明に書き換えた発明(以下「甲1-2発明」という。)を対比すると、両者は少なくとも前記相違点1において相違する。
イ 判断
(ア)申立理由1-1(甲1を主引例とする新規性)について
前記相違点1は実質的な相違点であるので、本件特許発明4は甲1-2発明ではない。
(イ)申立理由2-1(甲1を主引例とする進歩性)について
前記相違点1に係る本件特許発明4の構成は、甲2~甲4、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲1-2発明において、前記相違点1に係る本件特許発明4の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲1-2発明において、前記相違点1に係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明4は、甲1に記載された発明ではない。
また、本件特許発明4は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)甲2発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明4は、実質的には、本件特許発明1とカテゴリーが相違するのみであるから、本件特許発明4と、甲2発明(吊下げ型虫よけ)を「吊下げ型虫よけの使用方法」の発明に書き換えた発明(以下「甲2-2発明」という。)を対比すると、両者は少なくとも前記相違点2において相違する。
イ 判断
(ア)申立理由1-2(甲2を主引例とする新規性)について
前記相違点2は実質的な相違点であるので、本件特許発明4は甲2-2発明ではない。
(イ)申立理由2-2(甲2を主引例とする進歩性)について
前記相違点2に係る本件特許発明4の構成は、甲1、甲3、甲4、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲2-2発明において、前記相違点2に係る本件特許発明4の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲2-2発明において、前記相違点2に係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明4は、甲2に記載された発明ではない。
また、本件特許発明4は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)甲3発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明4は、実質的には、本件特許発明1とカテゴリーが相違するのみであるから、本件特許発明4と、甲3発明(薬剤揮散装置10)を「薬剤揮散装置10の使用方法」の発明に書き換えた発明(以下「甲3-2発明」という。)を対比すると、両者は少なくとも前記相違点3において相違する。
イ 判断
(ア)申立理由1-3(甲3を主引例とする新規性)について
前記相違点3は実質的な相違点であるので、本件特許発明4は甲3-2発明ではない。
(イ)申立理由2-3(甲3を主引例とする進歩性)について
前記相違点3に係る本件特許発明4の構成は、甲1、甲2、甲4、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲3-2発明において、前記相違点3に係る本件特許発明4の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲3-2発明において、前記相違点3に係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明4は、甲3に記載された発明ではない。
また、本件特許発明4は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)甲4発明を主引例とした場合
ア 対比
本件特許発明4は、実質的には、本件特許発明1とカテゴリーが相違するのみであるから、本件特許発明4と、甲4発明(物品)を「物品の使用方法」の発明に書き換えた発明(以下「甲4-2発明」という。)を対比すると、両者は少なくとも前記相違点4において相違する。
イ 判断
(ア)申立理由1-4(甲4を主引例とする新規性)について
前記相違点4は実質的な相違点であるので、本件特許発明4は甲4-2発明ではない。
(イ)申立理由2-4(甲4を主引例とする進歩性)について
前記相違点4に係る本件特許発明4の構成は、甲1~甲3、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
さらに、甲4-2発明において、前記相違点4に係る本件特許発明4の構成とする動機付けを見いだすこともできない。
そうすると、甲4-2発明において、前記相違点4に係る本件特許発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
ウ 小括
本件特許発明4は、甲4に記載された発明ではない。
また、本件特許発明4は、甲1~甲4、資料1~資料9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 申立人の意見について
(1)申立人は、令和8年1月7日に意見書を提出し、おおむね以下のことを主張している。
ア 「網目状に形成された複数の凸条部と、複数の凹部とを有する点は、たとえば甲第2号証に記載されている事項である。すなわち、甲第2号証には虫よけバリアブラックの写真が掲載されており、この虫よけバリアブラックの容器は、横方向に延びる複数の凸条部と中央のインジケータ部分とにより網目状をなしており、また、複数の円形の凹部を有している。
また、甲第2号証の写真からは、複数の円形の凹部の各々が容器の周縁部分よりも内側に窪んでいることが看取される。各凹部は、複数の凸条部が形成する網目の中に配置されるとともに、上方の凸条部および下方の凸条部に隣接するように配置されている。
甲第2号証の虫よけバリアブラックにも薬剤揮散体を外部に露出させるための複数の開口部が上下方向に並んで形成されており、容器の上下方向において、凹部と開口部とが隣り合っている。さらに、容器の上下方向において、凹部と開口部とが互い違いに繰り返し並ぶように配置されている。
つまり、今回の訂正で追加された(1)網目状に形成された複数の凸条部と、複数の凹部とを有する点、(2)複数の凹部の各々は、容器の周縁部分よりも内側に窪み、前記複数の凸条部が形成する網目の中に配置され且つ前記複数の凸条部の何れかに隣接するように配置される点、(3)容器の上下方向において、凹部と開口部とが隣り合い、且つ、凹部と開口部とが互いに繰り返し並ぶように配置される点、の事項は、甲第2号証に記載されている事項であり、何ら新しい事項ではない。また、上記(1)~(3)の事項は、他の甲号証や令和7年8月6日付けの意見書で提出した参考資料等に基づいて容易に想到し得る事項である。よって、上記(1)~(3)の事項を追加した訂正を行ったとしても、本願請求項1の発明は、依然として新規性、進歩性がない発明である。」(以下「主張ア」という。)
イ 「また、特許権者は、「開口部へと到達する雨滴の量を低減する」という作用効果について主張しているが、「開口部へと到達する雨滴の量を低減する」というような事項は、出願当初の明細書および図面に何ら記載されていないので、サポート要件違反および実施可能要件違反に当たるものである。」(以下「主張イ」という。)
(2)申立人の主張に対する当審の判断
ア 主張アについて
前記1(2)ウで示したとおり、甲2発明は、
「黒色メッシュネットと白色部材を有する吊下げ型虫よけであって、
白色部材は、複数の棒状部材、及び棒状部材間に位置する棒状部材より窪んだ部材を有し、複数の棒状部材の間であって該窪んだ部分以外の領域の一部に黒色メッシュネットが見えるように、黒色メッシュネットと重なっている、
吊下げ型虫よけ。」
であって、「吊り下げ型虫よけ」はその背面がどのようになっているか不明なので「容器」であることが定かでなく、また、「棒状部材」が凸条の形状として突出した部材であるか定かでないことから、少なくとも申立人が主張するような「容器」及び「凸条部」に相当する構成を有するものではない。
そして、本件特許発明1及び本件特許発明4が、甲2に記載された発明ではなく、さらに、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものでないことは、前記2(2)、3(2)で示したとおりであるから、主張アは採用できない。
イ 主張イについて
本件明細書の【0060】の
「(作用・効果)
本実施形態に係る薬剤揮散装置(1,101,201)によれば、容器(3,103,203)は、薬剤揮散体2を外部に露出させる厚さ方向に貫通した開口部(A1~A22)と、少なくとも一端が容器(3,103,203)の周縁部分(21,121,221)と連続し且つ開口部(A1~A22)に沿うように延びる凸条部(23,123,223)と、容器(3,103,203)の表面が厚さ方向沿って容器(3,103,203)の内側に窪み且つ凸条部(23,123,223)に隣接する凹部(22,122,222)と、を有する。降雨等によって凸条部(23,123,223)に付着した水は、表面張力の働き等により、凸条部(23,123,223)から凹部(22,122,222)に流れ込むよりも凸条部(23,123,223)の上に留まり易い傾向がある。更に、凸条部(23,123,223)の上に留まった水は、開口部(A1~A22)に沿って延びる凸条部(23,123,223)を伝って流れ、容器(3,103,203)の周縁部分(21,121,221)に向けて案内される。一方、凹部(22,122,222)に付着した水は、凹部(22,122,222)の窪み内に溜まることで開口部(A1~A22)に向けて容易には流れ難く、且つ、凹部(22,122,222)の窪みから溢れ出たとしても凹部(22,122,222)に隣接する凸条部(23,123,223)を伝って上記同様に周縁部分(21,121,221)に案内される。このように、凸条部(23,123,223)による排水と凹部(22,122,222)による貯留との相乗効果により、開口部(A1~A22)への水の流入を抑制できる。この結果、本構成の薬剤揮散装置(1,101,201)は、従来の薬剤揮散装置に比べ、防水性に優れている。」
との記載から、薬剤揮散装置の容器が、薬剤揮散体2を外部に露出させる厚さ方向に貫通した開口部と、少なくとも一端が容器の周縁部分と連続し且つ開口部に沿うように延びる凸条部と、容器の表面が厚さ方向沿って容器の内側に窪み且つ凸条部に隣接する凹部と、を有することによって、降雨による水が開口部へ流入することを抑制できると認められる。
そうすると、前記主張イは採用できない。
5 本件特許発明6~8について
本件特許発明6は、異議申立の対象でない訂正後の本件特許の請求項2に係る発明を引用するものであり、本件特許発明7は、異議申立の対象でない訂正後の本件特許の請求項3に係る発明を引用するものであり、本件特許発明8は、異議申立の対象でない訂正後の本件特許の請求項5に係る発明を引用するものであるが、念のため異議申立理由について検討する。
(1)本件特許発明6、本件特許発明8
本件特許発明6及び本件特許発明8の「前記凸条部の表面の粗さと前記凹部の表面の粗さとが異なる」構成は、甲1~甲4、資料1~資料9のいずれにも記載も示唆もされていないし、同構成が公知の技術、周知慣用技術、又は技術常識であることを示す他の証拠を発見することもできない。
そうすると、本件特許発明6及び本件特許発明8は、特許異議申立書の申立ての理由によって取り消すことができない。
(2)本件特許発明7、本件特許発明8
本件特許発明7及び本件特許発明8は、訂正後の請求項3の発明特定事項を含むので、前記第2の3(3)エに示した理由により、特許異議申立書の申立ての理由によって取り消すことができない。
第6 取消理由について
以上のとおりであるから、本件特許発明1、4に係る特許は、前記第4の2に示した異議申立理由、及び前記第4の3に示した取消理由によって取り消すことができない。
第7 むすび
以上のとおり、本件特許発明1、4に係る特許は、特許異議申立理由、及び先の取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-701113