特許異議申立
2021-701050
植物の育成方法
- 審判番号
- 2021-701050
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-247792
- 登録番号
- 6873422
- 請求日
- 2021年11月08日
- 審決日
- 2022年06月09日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本ワイドクロス株式会社
- 【権利者代理人】永田 元昭
- 【権利者代理人】永田 良昭
- 【権利者代理人】大田 英司
- 【権利者代理人】西村 弘
- 【権利者代理人】北村 吉章
- 【権利者】神奈川県
- 【権利者代理人】永田 元昭
- 【権利者代理人】永田 良昭
- 【権利者代理人】大田 英司
- 【権利者代理人】西村 弘
- 【権利者代理人】北村 吉章
- 【異議申立人】青山 裕樹
- 審判長/審判官
- 審判長 森次 顕
- 審判官 有家 秀郎
- 審判官 西田 秀彦
- 分類
- P1651.851-YAA(A01M) / P1651.853-YAA(A01M) / P1651.55 -YAA(A01M) / P1651.113-YAA(A01M) / P1651.121-YAA(A01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6873422号発明「植物の育成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6873422号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。
特許第6873422号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6873422号に係る特許出願は、平成28年12月21日に出願され、令和3年4月23日にその特許権の設定登録がされ、同年5月19日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、同年11月8日に、特許異議申立人 青山 裕樹(以下、「申立人」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)が提出され、請求項1ないし5に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は、次のとおりである。
令和4年1月27日付け: 取消理由通知書
同年 3月31日: 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 5月19日: 申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否
1 訂正請求の趣旨と訂正の内容
令和4年3月31日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許第6873422号の特許請求の範囲及び明細書を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び明細書のとおり、訂正後の請求項1ないし5について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「育成対象である植物を、
基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、
前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物に照射して、前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させて前記植物を育成し、
前記ネットの目合が、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満である
植物の育成方法。」
と記載されているのを、
「育成対象である植物の苗を、
基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、
前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射して育苗し、前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させ、
育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成し、
前記ネットの目合が、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満であり、
害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する
植物の育成方法。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし5も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項5に、「前記ネットで前記育成対象の植物を囲繞した」と記載されているのを、「前記ネットで前記育成対象の植物の苗を囲繞した」に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0007】に「この発明は、育成対象である植物を、基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物に照射して、前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させて前記植物を育成し、前記ネットの目合が、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満である植物の育成方法であることを特徴とする。」と記載されているのを、「この発明は、育成対象である植物の苗を、基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射して育苗し、前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させ、育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成し、前記ネットの目合が、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満であり、害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する植物の育成方法であることを特徴とする。」に訂正する(当審注;訂正請求書第3頁の「ウ 訂正事項3」において、訂正後の段落【0007】の「育苗し」の後に「、」が2つ記載されているのは、訂正明細書の段落【0007】の記載より、「、」が1つの誤記と認める。また、訂正請求書第3頁の「ウ 訂正事項3」において、訂正後の段落【0007】中の下線の位置が、訂正明細書における段落【0007】中の下線の位置と若干ずれている点も、訂正明細書の段落【0007】の記載をふまえて、誤記と認める。)。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0013】に「例えば、太陽光が前記植物を覆う前記ネットに乱反射されることにより、乱反射された赤色の波長の光が植物にあたることとなる。これにより、前記植物の生体内のジャスモン酸経路が活性化され、害虫の忌避物質が前記植物の生体内で生成され、前記植物に害虫がよりつくことを防止できる。」と記載されているのを、「例えば、太陽光が前記植物を覆う前記ネットに乱反射されることにより、乱反射された赤色の波長の光が植物の苗にあたることとなる。これにより、前記植物の苗の生体内のジャスモン酸経路が活性化され、害虫の忌避物質が前記植物の生体内で生成される。このため、育苗された後に、前記ネットの無い状態で定植した前記植物に害虫がよりつくことを防止できる。」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0026】に「またこの発明の態様として、前記ネットで前記育成対象である植物を囲繞してもよい。」と記載されているのを、「またこの発明の態様として、前記ネットで前記育成対象である植物の苗を囲繞してもよい。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無、訂正の単位、及び独立特許要件について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において、育成対象の植物について、「基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光」を「照射」して「生体内のジャスモン酸経路を活性化させ」るのは、植物の「苗」を「育苗」する段階であることを限定するとともに、「育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成」すること、及び、「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する」ことを、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アで説示したとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る「植物の育成方法」の発明について、限定を行うものであり、発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の有無について
願書に添付された明細書の段落【0013】には、「太陽光が前記植物を覆う前記ネットに乱反射されることにより、乱反射された赤色の波長の光が植物にあたることとなる。これにより、前記植物の生体内のジャスモン酸経路が活性化され、害虫の忌避物質が前記植物の生体内で生成され、前記植物に害虫がよりつくことを防止できる。」と記載され、段落【0030】には、「図1は、太陽光の当たる野外において植物21(苗状態にあるものなど)を植えた畝22などにネット10をトンネル被覆した状態を示す。このように、ネット10を介して太陽光を植物21に当てる植物21の育成方法について以下説明する。」と記載されているから、訂正事項1のうち、太陽光のうち赤色の光を照射して植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させる対象を、植物の「苗」を「育苗」する段階と限定した点は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内である。
願書に添付された明細書の段落【0040】ないし【0055】には、「それぞれ異なる育苗条件で育てられた7株の植物21」を「定植」して「太陽光の下で13日間育成」したうえで、「定植した日から13日後の害虫(アザミウマ)の頭数の計数結果」(段落【0046】及び【0047】)と、「赤色の光を透過及び反射するネット10」(段落【0040】)との関係について、「温室内での育苗時にネット10で被覆した植物21を定植した第2区では、育苗時にネット10で被覆しなかった第1区と比べて明らかにアザミウマの頭数が減少していた。」(段落【0051】)ことが記載されているから、訂正事項1のうち、「育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成」すること、及び、「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する」ことを限定した点は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内である。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項5に係る発明において、「前記ネット」で「囲繞」する「前記育成対象」の「植物」を、「植物の苗」と限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記アで説示したとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項5に係る発明について、「前記ネット」で「囲繞」する「前記育成対象」の「植物」を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象又は目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
ウ 新規事項の有無について
訂正事項1について上記(1)ウで説示したと同様の理由により、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項3及び4について
ア 訂正の目的について
訂正事項3及び4は、明細書の段落【0007】及び【0013】の記載を、訂正事項1により訂正された訂正後の請求項1の記載と整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無について
訂正事項3及び4は、訂正事項1について上記(1)イに述べたのと同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項3及び4による訂正は、訂正事項1について上記(1)ウに述べたのと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、明細書の段落【0026】の記載を、訂正事項2により訂正された訂正後の請求項5の記載と整合させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無について
訂正事項5は、訂正事項2について上記(2)イに述べたのと同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項5による訂正は、訂正事項2について上記(2)ウに述べたのと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)独立特許要件について
本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし5について、特許異議の申立てがされているので、訂正事項1及び2により、特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正の適否の要件として、訂正後の請求項1ないし5に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(5)訂正の単位について
本件訂正請求書における請求の趣旨によると、本件訂正では、訂正前の請求項1ないし5に対応する、訂正後の請求項1ないし5について、訂正をすることが求められているところ、訂正前の請求項2ないし5は、訂正前の請求項1を引用し、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1ないし5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項と認めることができる。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は全て認めることができるから、本件訂正について、上記結論のとおり決定する。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は全て認められたので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、各々を「本件訂正発明1」等といい、請求項1ないし5に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、令和4年3月31日提出の訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
育成対象である植物の苗を、
基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、
前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射して育苗し、前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させ、
育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成し、
前記ネットの目合が、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満であり、
害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する
植物の育成方法。
【請求項2】
前記ネットは、
糸状に形成されるとともに、照射された太陽光が赤色の波長の光として前記植物に照射される前記基材で構成された経糸と、
糸状に形成されるとともに、照射された太陽光が赤色の波長の光として前記植物に照射される前記基材で構成された緯糸とを織成して形成された
請求項1に記載の植物の育成方法。
【請求項3】
前記赤色の波長の光は、波長580~680nmの波長領域をピークとする請求項1又は請求項2に記載の植物の育成方法。
【請求項4】
前記赤色の波長の光は、波長610~650nmの波長領域をピークとする請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の植物の育成方法。
【請求項5】
前記ネットで前記育成対象の植物の苗を囲繞した
請求項1乃至請求項4のうちのいずれかに記載の植物の育成方法。」
第4 証拠一覧、特許異議申立理由の概要、及び取消理由の概要
1 証拠一覧
申立人により提出された証拠(以下、甲第1号証等を「甲1」等と略す。)は、次のとおりである。
(1)申立書に添付して提出された証拠
甲1: 特開2012-95617号公報
(平成24年5月24日公開)
甲2: 特開平7-289097号公報
(平成7年11月7日公開)
甲3: 登録実用新案第3097738号公報
(平成16年2月5日発行)
甲4: 申立人印刷、下記インターネットURLの印刷物、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%AF%E8%A6%96%E5%85%89%E7%B7%9A
(フリー百科事典 ウィキペディアの「可視光線」の内容、ホームページ表示の最終更新日は、2021年8月9日)
(2)令和4年5月19日提出の意見書に添付して提出された証拠
甲5: 中野昭雄、「非結球アブラナ科葉菜類における物理的資材を主体とした害虫防除と化学防除の問題点」、植物防疫、第61巻第1号、第31頁~第36頁(2007年)
甲6: 大越一雄、「サツマイモウイルスフリー苗の実用化に関する研究」抜粋、千葉県農業総合研究センター特別報告、第89頁(2002年3月)
甲7: 阿部弘文、「赤いネットでアザミウマ防除! 防虫サンサンネットから新たなネットが登場! 通風性をそのままに、アザミウマなどの微細害虫の侵入を赤色で防ぐ「e-レッド」」、2012 タキイ最前線 夏号、第47~第48頁
2 特許異議申立理由の概要
特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
(1)特許異議申立理由1 新規事項の追加
令和3年2月5日付手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1、及び明細書の段落【0007】及び【0019】において、「ネットの目合いが、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満である」旨の記載を導入した補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてしたものではない。
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)特許異議申立理由2 甲1を主たる引用例とした新規性欠如
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲1に記載された発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)特許異議申立理由3 甲1を主たる引用例とした進歩性欠如
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 取消理由通知の概要
令和4年1月27日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は、甲1を主たる引用例とした進歩性欠如であり、上記2(3)の特許異議申立理由3と同様である。
第5 主たる証拠について
1 甲1の記載
新規性欠如及び進歩性欠如に係る特許異議申立理由及び取消理由における、主たる証拠である甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。
「【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
図1は、防虫ネット11と、その使用状態を示す。防虫ネット11は、害虫の侵入を防止すべく経糸12と緯糸13を織成してなるものであって、全体が赤色である。
【0017】
より具体的には、経糸12と緯糸13に赤色のモノフィラメントが用いられている。赤色のモノフィラメントは、透明のポリエチレンに赤い着色剤(顔料、染料)を練り込んで得たものである。このようなモノフィラメントであると、容易に退色しないのでよい。このような赤いモノフィラメントを経糸12及び緯糸13として平織をして、前記防虫ネット11は構成される。
【0018】
平織するときの目合(w1×w2)は、一定以上の大きさの害虫の侵入を防ぐ大きさであるとともに、通気性や通水性を確保する大きさに設定される。3mm~5mm程度の大きさであってもよいが、1mm×1mm程度の小さい目合のものであれば、十分な通気性を確保しつつも、より多くの種類の害虫の侵入を防止できるのでよい。好ましくは、目合を0.8mm×0.8mm~1mm×1mmに設定するのがよい。例えば0.5mm×0.5mmなど、目合を0.8mm×0.8mmより小さくすると、アザミウマのような微小な害虫にも防除効果を有するものの、通気性や通水性を確保しにくくなるからである。また、極端に細い糸を用いずとも、50%以上の空隙率を得ることが可能となるからである。
【0019】
このように構成された防虫ネット11は、経糸12と緯糸13で囲まれる部分に隙間14を有するものの、その隙間14(目合)が小さいので、隙間14部分も含めて全体として赤色に見える。赤色といっても、経糸12も緯糸13も、前記のように透明のポリエチレンに赤い着色剤を混合して製造されているので、不透明ではなく、光透過性を有する赤色である。
【0020】
このため、防虫ネット11は植物の成長に不可欠な日光を遮ることはなく、光を透過させる。また、目合は空気も水も容易に通過させる。
【0021】
この防虫ネット11は、図1に示したように、植物21(苗状態にあるものなど)を植えた畝22などにトンネル被覆して使用される。植物21がハウス内に植えられたものであれば、図示しないハウスに張設される。
【0022】
このようにして植物に被覆された防虫ネット11は、目合よりも大きな害虫が外から侵入するのを物理的に阻止する。また、そもそも、経糸12と緯糸13が赤色であるので、紫外線と青と緑しか認識しない虫にとって、赤は見えず、視覚を通しての植物に対する指向を妨げることができるので、目合の大きさによる物理的な侵入防止のほかに、害虫が寄ってくることも抑制できて、二重の作用で害虫の侵入防止を図れる。このため、目合より大きい害虫の防除効果は高い。
【0023】
一方、目合よりも小さい害虫が侵入しようとすれば、物理的な防止は図れないものの、前記のように経糸と緯糸が赤色であるので防虫ネットとその内部の植物が害虫に認識されることを防ぐ。このため、害虫が寄り付くことを抑制できて、害虫の侵入防止を図れる。
【0024】
目合よりも大きな害虫に対しては勿論のこと、目合よりも小さい害虫に対しても侵入防止を図れるので、植物が害虫に食われたり、虫を媒介とする植物ウイルスに感染したりすることを抑制し、植物の生長を確保することができる。特に、植物が育苗初期に害虫による被害を受けると、それ以降の生育が大幅に遅れることになるので、この時期に害虫による被害を防ぐことが非常に大事であるが、播種から育苗段階での有効農薬はない。この点、前記の防虫ネットによれば、害虫を防除できるので、植物の生育に多大な効果が得られる。
【0025】
しかも、前記のように通気性と通水性を確保できる目合を有するので、植物の生育に悪影響がでることを防いで十分な生長を図れる。
【実施例】
【0026】
前記防虫ネット11として、180dtxの赤いポリエチレン製モノフィラメントを経糸12及び緯糸13として用いて平織し、目合を0.8mm×0.8mmとする赤色の防虫ネット11(図1参照)を得た。
・・・(中略)・・・
【0028】
このような防虫ネット11をキャベツの苗に被覆して、ネギアザミウマに対しての防除効果を調べたところ、表1に示したような結果が得られた。
・・・(中略)・・・
【0030】
表1に示したように、キャベツ苗につくネギアザミウマの寄生頭数を調べたところ、赤色の防虫ネットの方が少ないという結果が得られた。
・・・(中略)・・・
【0032】
・・・(中略)・・・
この結果、キャベツ苗の生育にほとんど差異はなく、赤色の防虫ネットとすることでキャベツの生育が妨げられていないことが分かる。」
2 甲1に記載された発明
上記1より、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「透明のポリエチレンに赤い着色剤(顔料、染料)を練り込んで得た赤いモノフィラメントを、経糸12及び緯糸13として平織をして構成され、平織するときの目合(w1×w2)は、一定以上の大きさの害虫の侵入を防ぐ大きさであるとともに、通気性や通水性を確保する大きさに設定された、光透過性を有する赤色の防虫ネット11を、
植物の苗を被覆して使用し、
防虫ネット11は、目合よりも大きな害虫が外から侵入するのを物理的に阻止するとともに、赤色であるので、紫外線と青と緑しか認識しない虫にとって、視覚を通しての植物に対する指向を妨げることができるものであり、
目合を0.8mm×0.8mmとした赤色の防虫ネット11を、キャベツの苗に被覆すると、ネギアザミウマに対しての防除効果が得られる、
キャベツの苗の生育方法。」
第6 当審の判断
1 取消理由通知に採用した特許異議申立理由3(上記第4の2(3)及び3)について
取消理由通知に採用した特許異議申立理由3は、本件訂正前の本件特許の請求項1ないし5に係る発明について、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、としたものである。
そして、上記第2に判断したとおり、上記取消理由通知より後になされた、請求項1ないし5について訂正を行う本件訂正は、認められたので、以下では、本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づいて上記第3に認定した、本件訂正発明1ないし5について、上記取消理由通知に採用した特許異議申立理由3により取り消されるべきものであるか否かを、判断する。
(1)本件訂正発明1と甲1発明との対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「キャベツの苗」は、本件訂正発明1における「育成対象である植物の苗」に相当する。
甲1発明における、「透明のポリエチレンに赤い着色剤(顔料、染料)を練り込んで得た赤いモノフィラメントを、経糸12及び緯糸13として平織をして構成され、平織するときの目合(w1×w2)は、一定以上の大きさの害虫の侵入を防ぐ大きさであるとともに、通気性や通水性を確保する大きさに設定された、光透過性を有する赤色の防虫ネット11」は、本件訂正発明1における、「基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネット」に相当する。
甲1発明において、「防虫ネット11を、キャベツの苗に被覆する」ことは、本件訂正発明1において、「植物の苗」を「ネットで覆う」ことに相当する。
甲1発明において、「光透過性を有する赤色の防虫ネット11」で「キャベツの苗」を「被覆」して「生育」させる構成は、本件訂正発明1において、「前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射して育苗」する構成に、相当する。
甲1発明における、「赤色の防虫ネット11を、キャベツの苗に被覆すると、ネギアザミウマに対しての防除効果が得られる、キャベツの苗の生育方法」と、本件訂正発明1における、「前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射して育苗し、前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させ、育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成し、」「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する植物の育成方法」とは、「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する
植物の苗の育成方法」という点で、共通する。
以上を整理すると、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。
「育成対象である植物の苗を、
基材を織成して防虫可能な網目状に形成されたネットで覆うとともに、
前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射して育苗し、
害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する
植物の苗の育成方法。」
そして、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件訂正発明1は、「育苗」の段階と「定植して育成」する段階とを有する「植物の育成方法」であり、「前記ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を植物の苗照射して育苗」することで「前記植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化」させることにより、「育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成」する段階を含めて、「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止」する「植物の育成方法」であることが特定されているのに対し、
甲1発明においては、「キャベツの苗」を「生育」する際に、「植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させ」ること、「育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成」すること、及び、「前記ネットの無い状態で定植して育成」する段階を含み「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する植物の育成方法」であることは、特定されていない点。
<相違点2>
「ネットの目合」に関し、
本件訂正発明1においては、「0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満」であると特定されているのに対し、
甲1発明においては、「0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満」とは特定されていない点。
(2)判断
上記相違点1について判断する。
相違点1に係る本件訂正発明1の各構成は、「育苗」の段階で「ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射」して「植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させ」ることにより、育苗後においては「育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成」することとしながら、「定植」の段階を含む「植物の育成方法」として「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する」という、相互に密接に関連するものであるから、方法の発明における一連の構成と把握されるべきものである。
甲1発明は、「防虫ネット11は、目合よりも大きな害虫が外から侵入するのを物理的に阻止するとともに、赤色であるので、紫外線と青と緑しか認識しない虫にとって、視覚を通しての植物に対する指向を妨げることができる」ことにより、「ネギアザミウマに対しての防除効果」を得るものであり、その余の甲1中の記載を検討しても、苗を育苗する段階で植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させること、及び、植物を定植して育成する段階においてネットの無い状態としながらアザミウマがよりつくことを防止することは、記載も示唆もされていない。
甲2及び甲3には、防虫メッシュシートの目合いに関する記載があり、甲4には、可視光線の波長に関する一般的な説明が記載されているが、いずれも甲1発明において、育苗の段階でジャスモン酸経路を活性化させることにより、育苗後に植物を定植した段階においてはネットの無い状態としながらアザミウマがよりつくことを防止することを、示唆するものではない。
申立人が意見書とともに提出した甲5及び甲6には、植物の育苗の際に防虫ネットを用いることに関する記載があるが、育苗において防虫に注意するという一般論を示すにとどまり、甲1発明において上記相違点1に係る本件訂正発明1の一連の構成を採用することを示唆するものではない。
申立人が意見書とともに提出した甲7には、「キャベツ育苗期間における赤ネットを用いたネギアザミウマ防除効果」が記載されているが、育苗中に植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させること、及び、育苗期間に赤ネットを用いることにより育苗後においてはネット無しの状態としてもネギアザミウマ防除効果を得ることについては、何ら記載されていないから、甲1発明において上記相違点1に係る本件訂正発明1の一連の構成を採用することを示唆するものではない。
したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成をとることは、甲2ないし甲7に記載される事項を考慮したとしても、当業者にとって容易に想到できたとはいえない。
(3)本件訂正発明1の進歩性について
上記(2)のとおり、甲1発明において、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成をとることは、当業者にとって容易に想到できた事項ではないから、その余の相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明、及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件訂正発明2ないし5の進歩性について
本件訂正発明2ないし5は、本件訂正発明1の構成を全て有し、付加的な構成を追加したものである。
上記(3)のとおり、本件訂正発明1は、甲1発明、及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件訂正発明2ないし5における付加的構成について判断するまでもなく、本件訂正発明2ないし5も、甲1発明、及び甲2ないし甲7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし5に係る特許は、取消理由通知に採用した特許異議申立理由3によって取り消されるべきものではない。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由1(上記第4の2(1))について
(1)申立人が申し立てる特許異議申立理由1は、上記第4の2(1)に示したとおり、令和3年2月5日付手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1、及び明細書の段落【0007】及び【0019】において、「ネットの目合いが、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満である」旨の記載を導入した補正は、本件出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてしたものではない、というものである。
(2)当該特許異議申立理由1について、判断する。
上記特許異議申立理由1は、ネットの目合いの数値範囲に関するものである。
(3)ネットの目合いに関し、本願の願書に最初に添付した明細書には、段落【0033】及び【0034】に、次の記載がある。
「【0033】
また、図2に示すように、網目状であるネット10は、経糸11と緯糸12で囲まれる部分に隙間13を有する。この隙間13の大きさは、すなわちネット10の目合はw1×w2=0.8mm×0.8mmであり、一定以上の大きさの害虫の侵入を防ぐ大きさであるとともに、通気性や通水性を確保可能な大きさに設定される。
【0034】
なお、この隙間13の大きさ(目合の大きさ)は3mm~5mm程度の大きさであってもよいが、1mm×1mm程度の小さい目合のものであれば、十分な通気性を確保しつつも、より多くの種類の害虫の侵入を防止できるのでよい。また好ましくは、目合を0.6mm~1.0mm×0.6~1.0mmに設定するのがよい。例えば0.2mm×0.2mmなど、目合を0.6mm×0.6mmより小さくすると、アザミウマのような微小な害虫にも防除効果を有するものの、通気性や通水性を確保しにくくなる。また、極端に細い糸を用いずとも、50%以上の空隙率を得ることが可能となるからである。」
(4)上記(3)の記載から、願書に最初に添付した明細書において、「0.6mm~1.0mm×0.6~1.0mm」というネットの目合いの範囲は、「十分な通気性を確保しつつも、より多くの種類の害虫の侵入を防止できる」という好適な範囲であり、「0.8mm×0.8mm」というネットの目合いの値は、「一定以上の大きさの害虫の侵入を防ぐ大きさであるとともに、通気性や通水性を確保可能な大きさ」の例示であることが理解される。
そうすると、令和3年2月5日付手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1、及び明細書の段落【0007】及び【0019】における、「ネットの目合いが、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満である」旨の記載は、願書に最初に添付した明細書に記載される「0.6mm~1.0mm×0.6~1.0mm」という好適な範囲のうち、例示された「0.8mm×0.8mm」の値を区切りとして、当該例示された値より小さい側の範囲を特定したものと、理解される。
そして、願書に最初に添付した明細書において、例示された「0.8mm×0.8mm」という目合いについて、好適な範囲として記載された「0.6mm~1.0mm×0.6~1.0mm」中の他の値とは異なる特異な性質を有する値であることや、「0.8mm×0.8mm」であるか否かによって技術的意義が大きく変わるような事情は、示されていない。
(5)以上のことからすれば、令和3年2月5付手続補正書による補正において、ネットの目合いの数値範囲について、「0.6mm~1.0mm×0.6~1.0mm」という好適な範囲のうち、例示された「0.8mm×0.8mm」を区切りとして、当該例示された「0.8mm×0.8mm」という数値より小さい範囲を特定したことは、願書に最初に添付した明細書に記載された全ての事項を総合すれば導出できたものということができる。
したがって、令和3年2月5付手続補正書による補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入したものではないから、特許請求の範囲の請求項1及び発明の詳細な説明に「ネットの目合いが、0.6mm以上0.8mm未満×0.6mm以上0.8mm未満である」旨の記載を有する、本件訂正発明1ないし5に係る特許は、申立人が申し立てる点で、特許法第17条の2第3項の規定に違反する補正がされたものではない。
(6)よって、本件訂正発明1ないし5に係る特許は、申立人が申し立てる特許異議申立理由1によって取り消されるべきものではない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由2(上記第4の2(2))について
(1)申立人が申し立てる特許異議申立理由2は、上記第4の2(2)に示したとおり、甲1を主たる引用例とした新規性の欠如である。
(2)上記第2に判断したとおり、請求項1ないし5について訂正を行う本件訂正は認められたので、本件訂正発明1ないし5について、甲1を主たる引用例とした新規性の欠如により取り消されるべきか否かを判断する。
甲1には、上記第5の2に認定した甲1発明が記載されており、本件訂正発明1と甲1発明とは、上記1(1)に示した相違点1及び相違点2を有するところ、上記1(2)において容易想到性について判断した相違点1は、方法の発明に係る実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は甲1発明と同一ではない。
(3)本件訂正発明2ないし5は、本件訂正発明1の構成を全て有し、さらに構成を付加したものであるところ、本件訂正発明1と甲1発明とは同一でないから、本件訂正発明2ないし5も、甲1発明と同一ではない。
(4)よって、本件訂正発明1ないし5に係る特許は、申立人が申し立てる特許異議申立理由2によって取り消されるべきものではない。
4 申立人の意見書における主張について
(1)進歩性について
申立人は、令和4年5月19日付けで甲5ないし甲7を提出するとともに、同日付けの意見書において、害虫の被害を受け易い育苗期間中は防虫ネットを被覆するが、定植後は防虫ネットを使用しないで育成することは周知技術であるから、本件訂正発明1ないし5に係る特許は、進歩性欠如の特許異議申立理由3により取り消されるべき旨を主張している(同意見書第1頁下から3行-第5頁第13行)。
しかしながら、上記1(2)に示したとおり、本件訂正発明1と甲1発明とが有する、相違点1に係る本件訂正発明1の各構成は、「育苗」の段階で「ネットを介した太陽光のうちの赤色の波長の光を前記植物の苗に照射」して「植物の生体内のジャスモン酸経路を活性化させ」ることにより、育苗後においては「育苗された前記植物の苗を、前記ネットの無い状態で定植して育成」することとしながら、「定植」の段階を含む「植物の育成方法」として「害虫であるアザミウマがよりつくことを防止する」という、方法の発明において相互に密接に関連する一連の構成であるところ、甲5ないし甲7の記載は、害虫の被害を受け易い育苗期間中において防虫ネットにより防虫を行うべきことを一般的に示すにとどまるから、甲1発明において、たとえ甲5ないし甲7の記載を考慮したとしても、上記相違点1に係る本件訂正発明1における、方法の発明としての一連の構成に至ることが、当業者にとって容易に想到できたものではない。
したがって、当該申立人の主張について検討しても、上記1の判断を変更すべき事情は見いだせない。
(2)新規事項について
申立人は、令和4年5月19日付けの意見書において、審査基準第IV部第2章には、請求項に記載された数値範囲の上限、下限等の境界値を変更して新たな数値範囲とする補正について、
「・・・以下の(i)及び(ii)の両方を満たす場合には、新たな技術的事項を導入するものではないので許される。
(i)新たな数値範囲の境界値が当初明細書等に記載されていること。
(ii)新たな数値範囲が当初明細書等に記載された数値範囲に含まれていること。」
と記載されているところ、令和3年2月5日付け手続補正書によって補正された請求項1の数値範囲は、上限を「0.8mm未満」として0.8mmを除いている点で、審査基準における上記(i)を満足しないから、本件訂正発明1ないし5に係る特許は、新規事項追加の特許異議申立理由1により取り消されるべき旨を主張している(同意見書第5頁第15行-第6頁第12行)。
しかしながら、上記2に示したとおり、願書に最初に添付した明細書には、「0.6mm~1.0mm×0.6~1.0mm」という好適な範囲、及び当該好適な範囲中の例示としての「0.8mm×0.8mm」という値が記載されていたから、審査基準における「(i)」及び「(ii)」の要件自体は満たされている。また、上記2に示したとおり、上限の境界値とする「0.8mm」について、数値範囲を「未満」と特定したことによって、願書に最初に添付した明細書に記載された全ての事項を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入したこととなるような事情もない。
したがって、当該申立人の主張について検討しても、上記2の判断を変更すべき事情は見いだせない。
第6 むすび
以上のとおり、本件訂正は全て認められるとともに、本件訂正発明1ないし5に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-701050