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特許異議申立

2021-700011

害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾール

審判番号
2021-700011
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-513945
登録番号
6718568
請求日
2021年01月06日
審決日
2022年01月04日
公報発行日
2022年05月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】大日本除蟲菊株式会社
  • 【権利者代理人】沖中 仁
  • 【異議申立人】勝間 いずみ
  • 【異議申立人】川▲崎▼ 義孝
審判長/審判官
  • 審判長 住田 秀弘
  • 審判官 有家 秀郎
  • 審判官 森次 顕
分類
P1651.832-YAA(A01M) / P1651.851-YAA(A01M) / P1651.113-YAA(A01M) / P1651.121-YAA(A01M) / P1651.537-YAA(A01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
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特許第6718568号発明「害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6718568号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、9について訂正することを認める。 特許第6718568号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6718568号に係る出願は、2019年(令和元年)12月5日(国内優先権主張 平成30年12月14日)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月16日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月8日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、令和3年1月6日に、特許異議申立人 勝間 いずみ(以下、「申立人A」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書A」という。)が提出され、本件特許の請求項1ないし9に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。また、同年同月8日に、特許異議申立人 川さき 義孝(当審注;「さき」の字は「山」と「立」と「可」とを組み合わせた字;以下、「申立人B」という。)より、特許異議申立書(以下、「申立書B」という。)が提出され、本件特許の請求項1ないし9に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。 その後の経緯は、次のとおりである。 令和3年3月25日付け; 取消理由通知 (令和3年3月31日発送。なお、指定期間は、職権により、発送の日から90日に延長された。) 令和3年6月28日受付; 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和3年7月30日付け; 訂正拒絶理由通知 (令和3年8月5日発送。なお、指定期間は、職権により、発送の日から60日に延長された。) 令和3年9月29日受付; 特許権者による手続補正書及び意見書の提出 令和3年11月1日受付; 申立人Bによる意見書の提出 令和3年11月5日受付; 申立人Aによる意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和3年6月28日に受付けられた訂正請求書による訂正は、訂正事項1ないし9からなるところ、同年9月29日受付の手続補正書による補正は、前記訂正事項1ないし9のうち、訂正事項3ないし9を削除するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものには該当しない。 したがって、上記手続補正書による訂正請求書の補正を、認める。 上記手続補正書により補正された訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1及び2からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 請求項1について、前段の「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、」を「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~8についても同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 請求項9について、前段の「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールであって、」を「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールであって、」に訂正する。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項2ないし8は、訂正前の請求項1を引用し、これら請求項1ないし8は一群の請求項を構成するところ、上記訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1ないし8を訂正の単位として請求されたものである。 訂正前の請求項9は、訂正前の請求項1~8と直接的又は間接的な引用関係になく、訂正前の請求項9について行う、訂正事項2による訂正は、一群の請求項ではない請求項9について、請求項ごとに請求されたものである。 したがって、上記訂正事項1及び2に係る本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項〔1-8〕、及び請求項9を、それぞれ訂正の単位として、請求されたものである。 2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断 (1)訂正事項1について ア 訂正事項1は、請求項1に記載された「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」を、訂正前における「1.0~5.0mL」から、「1.0mL」に訂正して、「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 「1.0~5.0mL」との記載を、「1.0mL」に訂正することは、訂正後の数値である「1.0」mLが訂正前の数値範囲の下限として記載されていたことから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。 ウ 訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項9に記載された「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」を、訂正前における「1.0~5.0mL」から、「1.0mL」に訂正するものであるから、上記訂正事項1について上記(1)アないしウにおいて示したと同様に、上記訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)独立特許要件について 特許異議申立ては、全ての請求項1ないし9についてされているので、訂正事項1及び2により特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正要件として、訂正後の請求項1ないし9に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は、課されない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕、9について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明、本件明細書の記載、及び本件訂正発明の概要 1 本件訂正発明 本件訂正により訂正された請求項1ないし9に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」等といい、まとめて「本件訂正発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、 前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、 前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、 前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、 前記噴射処理において屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射し、噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上を前記屋内空間の床面全体に拡散させて付着させる害虫、ダニ防除方法。 【請求項2】 前記害虫、ダニ防除用エアゾールは、前記エアゾール原液の充填量をa、前記噴射剤の充填量をb、前記エアゾール原液の比重をS、前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力をFとしたとき、以下の式(1): δ = [a/(a+b)] × S2 × F ・・・ (1) で定義するδが1.0~30の範囲にあるように構成されている請求項1に記載の害虫、ダニ防除方法。 【請求項3】 前記害虫、ダニ防除用エアゾールは、以下の式(2): 0.1 ≦ [a/(a+b)] ≦ 0.5 ・・・ (2) を満たすように構成されている請求項2に記載の害虫、ダニ防除方法。 【請求項4】 前記害虫、ダニ防除用エアゾールは、以下の式(3): 3.0 ≦ δ ≦ 15 ・・・ (3) を満たすように構成されている請求項2又は3に記載の害虫、ダニ防除方法。 【請求項5】 前記難揮散性化合物は、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、及びジノテフランからなる群から選択される少なくとも1種の匍匐害虫防除用化合物である請求項1~4の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除方法。 【請求項6】 前記難揮散性化合物は、アミドフルメト、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ベンジル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、及びp-メンタン-3,8-ジオールからなる群から選択される少なくとも1種のダニ防除用化合物である請求項1~4の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除方法。 【請求項7】 前記有機溶剤は、炭素数が2~3の低級アルコールである請求項1~6の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除方法。 【請求項8】 前記屋内空間の床面の面積は、7.5~26.6m2である請求項1~7の何れか一項に記載の害虫、ダニ防除方法。 【請求項9】 防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールであって、 前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、 前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、 前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、 前記定量噴射バルブを介した一回の噴射処理により屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射した場合、噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上が、前記屋内空間の床面全体に拡散して付着する害虫、ダニ防除用エアゾール。」 2 本件明細書の記載 本件特許の願書に添付した明細書は、本件訂正により訂正されておらず、当該明細書(以下、「本件明細書」という。)には、おおむね以下の記載がある。 (1)技術分野 「【0001】 本発明は、防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールに関するものである。」 (2)背景技術 「【0002】 床面や壁を徘徊するゴキブリ等の匍匐害虫や屋内塵性ダニ類を対象とし、匍匐害虫やダニ類が生息する場所や通り道に施用するタイプの殺虫剤としては、(1)燻煙剤、(2)全量噴射型エアゾール、(3)塗布型エアゾール、及び(4)ベイト剤が代表的で、それぞれ剤型上の特長を有している。 【0003】 (1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールは、薬剤を一気に室内の隅々まで放散し、所定時間室内を密閉して薬剤濃度を高め、その間、人が入室できないことから、医薬品の範疇に該当する。これらの製剤は、一度施用すれば2~4週間、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する駆除効果が持続する反面、使用前の手順に手間がかかること、薬剤の安全性に格別留意する必要があること等から、手軽に頻繁に採用される剤型とは言い難い。 【0004】 一方、局所的に面処理する(3)塗布型エアゾールや、点処理の(4)ベイト剤は、人体に対する作用が緩和な医薬部外品に該当し、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールに較べると使い易いが、空間処理でないため薬剤と害虫やダニ類との接触効率が劣り、必ずしも効率的な駆除方法を提供できるものでもない。 【0005】 このように、従来、空間処理でありながら医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤の開発は困難と考えられてきた。 ・・・(中略)・・・ 【0007】 本発明者らは、先に、空間処理剤であって、医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤を開発するにあたり、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールのような2~4週間に一度の頻度で使用される製剤ではなく、1回定量噴霧処理すれば実用条件下で数日間防除効果が持続する、即ち基本的に1~2日に1回使用する製剤であって、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤を目指して鋭意検討を行った。その結果、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類のみならず、噴霧当日は飛翔害虫にも有効で、極めて有用な「害虫、ダニ防除方法」(特許文献2参照)を発明した。なお、この発明は、飛翔害虫に対する実用的な駆除効果をも実現するべく、エアゾールの噴射特性として、噴射後の噴霧粒子が、浮遊性粒子と、壁面等への付着並びに床面への沈降に関わる付着性粒子とに形成されるとともに、好ましくは、全体の噴霧粒子のうちの30~80%が噴射処理1時間後までに壁面等に付着するか、もしくは床面に沈降するように設計した。また、特許文献2の発明当時、定量噴射バルブの噴射容量としては0.2~0.4mLが一般的で、当該製剤は1回の処理において数プッシュ(噴射ボタンの押下)することが基本とされた。 【0008】 一方、特許文献3には、定量噴射バルブを用いる匍匐害虫駆除用エアゾール製品及び匍匐害虫駆除方法が開示されている。このエアゾール製品は、エアゾール容器に収容される噴射剤の配合比率を高めるとともに、有効成分を溶解する溶剤の蒸気圧を低めにし、エアゾール容器から噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度を遅くすることで、当該粒子が屋内の隙間の奥まで飛散するようにしたことを特徴とする。即ち、特許文献3の方法は、定量噴射処理であるとしても(3)塗布型エアゾールによる局所処理に該当し、空間処理に当たらない。従って、一部の隙間において局所的に高い駆除効果が得られたとしても、屋内全体にわたって匍匐害虫を効率的に駆除できるわけではない。」 (3)発明が解決しようとする課題 「【0010】 かかる状況を鑑み、本発明者らは、特許文献2に基づく空間定量噴射処理が最も効率的な害虫、ダニ防除方法であるとの認識に則り、それの利便性を改善するとともに、特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する更なる効能アップを目指して検討を行った。まず、近年開発されている噴射容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを採用し、必要な有効成分量をワンプッシュで噴射可能とした。そのうえで、空間処理において、匍匐害虫のなかでも特にゴキブリ等に対する防除効果をアップさせるには、噴射後の噴霧粒子を、処理空間に浮遊する浮遊性粒子と、処理空間内の露出部に付着する付着性粒子として形成するだけでは足りず、付着性粒子を特許文献2の噴射特性と比較してより一層優占的となし、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めることが肝要との結論に達した。そして、本発明者らは、エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力が、沈降に関わる付着性粒子の挙動を決定する重要なファクターであることを知見し、試行錯誤を重ね試験を繰返し行った結果、前記エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力につき最適な範囲を特定することによって本発明を完成するに至ったのである。 【0011】 本発明の目的は、容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュするだけで匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させ得る害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを提供することにある。」 (4)課題を解決するための手段 「【0012】 本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。 〔1〕防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、 前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、 前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、 前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、 前記噴射処理において屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射し、噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上を前記屋内空間の床面全体に拡散させて付着させる害虫、ダニ防除方法。 ・・・(中略)・・・ 〔9〕防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールであって、 前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、 前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、 前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、 前記定量噴射バルブを介した一回の噴射処理により屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射した場合、噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上が、前記屋内空間の床面全体に拡散して付着する害虫、ダニ防除用エアゾール。」 (5)発明の効果 「【0013】 本発明の害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールによれば、難揮散性化合物を含む特定の害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュして噴射処理するだけで、その処理区域において特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させることができる。利便的かつ効果的な害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを提供するので、極めて実用的である。」 (6)発明を実施するための形態 「【0014】 本発明では、防除成分として、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物が使用される。かかる防除成分は、本発明の害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュする噴射処理後、主に付着性粒子として床面に沈降し、その屋内空間において特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対して優れた防除効果を示す。なお、本発明では、ノックダウン効果や致死効果に基づく駆除効果に加え、忌避効果を合わせて防除効果と呼ぶ。駆除効果が低くても十分な忌避効果があれば、実用上、防除が達せられる場面も多い。 【0015】 即ち、本発明は、特許文献2に基づく空間定量噴射処理が最も効率的な害虫、ダニ防除方法であるとの認識に則り、それの利便性を改善するとともに、特に匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する更なる効能アップを目指したものである。まず、近年開発されている容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを採用し、必要な有効成分量をワンプッシュで噴射可能とした。そのうえで、空間処理において、匍匐害虫のなかでも特にゴキブリ等に対する防除効果をアップさせるには、噴射後の噴霧粒子から形成される浮遊性粒子と付着性粒子のうち付着性粒子の優占度を高め、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面へ沈降する比率を高めることが肝要との方向性に基づき達成されたのである。なお、本発明の付着性粒子は、沈降に至る過程において隙間や物陰にも進入するため、防除成分としてピレスロイド系化合物を用いた場合には、ゴキブリ等が隙間や物陰から飛び出すフラッシング効果も十分期待し得るものである。 【0016】 本発明で用いる難揮散性の防除成分としては、主にゴキブリに代表される匍匐害虫を防除するための匍匐害虫防除用化合物、及び/又は主に屋内塵性ダニ類を防除するためのダニ防除用化合物を用いることができる。匍匐害虫防除用化合物としては、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、及びイミプロトリン等のピレスロイド系化合物、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、及びフェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド、及びクロチアニジン等のネオニコチノイド系化合物、その他にフィプロニル、インドキサカルブ等があげられる。これらの中では、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、トラロメトリン、エトフェンプロックス、及びジノテフランが好ましい。なお、ピレスロイド系化合物の酸成分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物も本発明に包含されることはもちろんである。 ・・・(中略)・・・ 【0020】 本発明では、上記難揮散性の防除成分を溶解するために有機溶剤を配合し、エアゾール原液を構成する。かかる有機溶剤としては、炭素数が2~3の低級アルコール、ノルマルパラフィンやイソパラフィンのような炭化水素系溶剤、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)やラウリン酸ヘキシルのようなエステル系溶剤、炭素数3~10のグリコールエーテル系溶剤、ケトン系溶剤等があげられるが、エタノールやイソプロパノール(IPA)に代表される炭素数が2~3の低級アルコールが好ましい。 【0021】 本発明の害虫、ダニ防除方法は、難揮散性の防除成分を含む害虫、ダニ防除用エアゾールを用い、一回当たりの噴射容量を1.0~5.0mLとして屋内空間に噴射処理を行うことにより、その処理区域において匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させるものである。屋内空間のサイズは、4.5~8畳の部屋に相当する容積18.8~33.3m3(面積7.5~13.3m2、高さ2.2~3.0m)であることが好ましい。 【0022】 噴射後の噴霧粒子は、処理空間に浮遊する浮遊性粒子、もしくは処理空間内の露出部に付着する付着性粒子として形成されるが、本発明者らは、付着性粒子を一層優占的となし、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めるための検討を行った。その結果、本発明者らは、エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力が、沈降に関わる付着性粒子の挙動を決定する重要なファクターであることを知見し、それらの最適な範囲を特定するに至った。即ち、エアゾール原液の比重が0.85~1.15、好ましくは0.89~1.10であり、噴射処理の噴射力が噴射距離5cmにおいて10~50gf、好ましくは15~35gfであれば、噴射から1時間後までに防除成分の60%以上が屋内空間の床面全体にわたり沈降・付着し、匍匐害虫、及びダニに対する優れた防除効果を奏し得ることを確認できたのである。なお、防除成分が「床面全体にわたり沈降・付着すること」について、防除成分が実際に床面全体にわたって沈降・付着しているかをその都度確認する必要はなく、エアゾールが処理空間内において本発明の趣旨に沿った態様で噴射されていれば、噴射された防除成分の床面に対する沈降・付着状態に多少の分布や偏りがあったとしても、防除成分が床面全体にわたり沈降・付着しているものと見做すことができ、このように見做しても実用上差支えはない。エアゾール原液の比重が0.85未満であると、噴霧粒子の床面への付着量が不足する傾向があり、エアゾール原液の比重が1.15を超えると、逆に噴霧粒子の沈降が速やか過ぎて床面全体への拡散性が不十分となる。また、噴射処理の噴射力が10gf未満であると、噴射力が不足して床面全体への拡散性が不十分となる傾向があり、噴射力が50gfを越えても良好な拡散性が得られない。なお、エアゾールの噴射力は、エアゾール原液の処方、エアゾールの内圧、噴口の形状等を変更することで、適宜調整することができる。 【0023】 更に、害虫、ダニ防除用エアゾールは、エアゾール原液の充填量をa、噴射剤の充填量をb、エアゾール原液の比重をS、害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力をFとしたとき、以下の式(1): δ = [a/(a+b)] × S2 × F ・・・ (1) で定義するδが1.0~30の範囲にあることが好ましく、3.0~15の範囲にあることがより好ましい。 【0024】 δが1.0~30の範囲にあれば、噴霧粒子が沈降したときに十分な量の防除成分が床面全体へ均一に拡散することで、好ましい防除効果が得られる。防除成分が床面全体へ均一に拡散するのは、害虫、ダニ防除用エアゾールから噴射される噴霧粒子の初速が適切なものとなり、噴射後、速やかに噴霧粒子が屋内空間の隅々まで行きわたるためと考えられる。δが1.0未満であると、防除成分の床面への付着量が不足する場合がある。一方、δが30を越えると、床面全体への拡散性が不十分となる場合がある。そのため、δが1.0~30の範囲を外れると満足のいく防除効果を奏し得ない虞がある。 【0025】 害虫、ダニ防除用エアゾールは、害虫、ダニ防除用エアゾールの全容量(a+b)に対するエアゾール原液の充填量aの容量比率[a/(a+b)]が、以下の式(2): 0.1 ≦ [a/(a+b)] ≦ 0.5 ・・・ (2) を満たすことが好ましい。容量比率が上記の範囲にあれば、十分な量の防除成分が床面全体へ均一に拡散する。容量比率が0.1より小さく噴射剤が多すぎると、防除成分の床面への付着量が不足する。一方、容量比率が0.5を超えると、噴霧粒子の沈降が速やか過ぎて床面全体への拡散性が不十分となる。 【0026】 本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールは少量噴射であるため、敢えて火気に対する危険性に留意する必要はないが、できる限り火気に対する危険性を低減させる観点から水性化処方を採用することもできる。この場合、エアゾール原液に含まれる水の量は20~70v/v%程度が適当であり、噴霧粒子の噴射パターンに影響を与えない範囲で、可溶化助剤として若干量の非イオン系界面活性剤を添加してもよい。非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミドなどがあげられ、なかでも、エーテル類が適している。 【0027】 エアゾール原液には、上記成分に加え、カビ類、菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤、あるいは、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤等を適宜配合することもできる。防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等を例示できる。また、芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分などがあげられるが、これらに限定されない。 【0028】 本発明で用いられる噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテルやハイドロフルオロカーボン等の液化ガス、及び窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガスがあげられ、そのうちの一種または二種以上を適宜採用することができる。噴射剤は噴霧粒子の床面や壁への付着率を考慮して、適宜決定すれば良いが、通常LPGを主体としたものが使いやすい。なお、噴射剤は、ゲージ圧(20℃)を0.1~0.7MPaに調整して使用することが好ましい。 【0029】 上記害虫、ダニ防除用エアゾールは、一回当たりの噴射容量が1.0~5.0mLである定量噴射バルブを備え、屋内で一定量噴射処理に供される。従来、定量噴射バルブの噴射容量は0.2~0.4mLであったが、本発明で用いる定量噴射バルブにおいては容量の増量に伴い、必要な有効成分量がワンプッシュで噴射可能となった。その他、噴口、ノズル、容器等の形状については、その用途、使用目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、上から押して噴射するボタンと斜め上方向きのノズルを備えた卓上タイプとしたり、小型容器の携帯用として設計することができる。 【0030】 本発明の害虫、ダニ防除方法では、こうして得られた害虫、ダニ防除用エアゾールを用い、一回当たりの噴射容量を1.0~5.0mL、好ましくは1.0~3.0mLとして、屋内空間で空中に向けて噴射処理を行うことにより、気中への防除成分の放出量が0.1~50mg/m3、好ましくは0.5~50mg/m3となるように設定されている。4.5~8畳の部屋に相当する容積が18.8~33.3m3(面積7.5~13.3m2、高さ2.2~3.0m)の屋内空間で噴射処理を行う場合、通常、エアゾール原液を1回噴射することにより、気中への防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるが、より容積の大きな屋内空間においては、その屋内空間の容積にあわせて気中の防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるようにエアゾール原液を複数回噴射することで、屋内空間の大きさに関わらず同様の防除効果を得ることができる。例えば、9~16畳の部屋に相当する容積が37.6~66.6m3(面積15~26.6m2、高さ2.2~3.0m)の屋内空間で噴射処理を行う場合、エアゾール原液を2回噴射することにより、気中への防除成分の放出量は0.1~50mg/m3となる。当該害虫、ダニ防除用エアゾールの使用頻度としては、基本的に1~2日に一度、防除成分の放出量が上記の範囲となるように施用すれば、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対して数日間防除効果を維持できる。また、常温揮散性の防除成分を併用することによって、飛翔害虫に対する防除効果を付与することも可能である。 【0031】 本発明の害虫、ダニ防除方法は、特に、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、アリ類、トコジラミ、ネッタイトコジラミ等のトコジラミ類、コクヌストモドキ、コクゾウムシ、シバンムシ、ダンゴムシ、ワラジムシなどの匍匐害虫、及びケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ツメダニ等の屋内塵性ダニ類の防除に有効である。しかしながら、これらの匍匐害虫、ダニ類に限定されず、室内で飛翔して人に被害や不快感を与える害虫、例えば、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ユスリカ類、イエバエ、チョウバエ、ブユ類、アブ類、ハチ類、ヨコバイ類などの各種害虫の防除にも十分適用されるものである。」 (7)実施例 「【0033】 〔実施例1〕 フェノトリン53w/v%とメトフルトリン0.7w/v%とをエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。エアゾール原液の容量比率[a/(a+b)]が0.4となるように、このエアゾール原液(a)12mLと、噴射剤として液化石油ガス(b)18mLとを、噴射容量が1.0mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器(耐圧容器)に加圧充填して、実施例1の害虫、ダニ防除用エアゾールを得た。このエアゾール原液の比重は0.93であり、本エアゾールの噴射距離5cmにおける噴射力は26gfであった。また、δは9.0であった。 【0034】 ほぼ密閉した容積25m3の部屋(6畳の部屋に相当 面積10m2)の中央で、害虫、ダニ防除用エアゾールをやや斜め上方に向けてワンショットすることにより噴射処理を行った。床面への防除成分の付着率(%)は、後述するガスクロマトグラフィーによる分析結果とエアゾールからの防除成分の放出量とから算出した。その結果、この噴射処理により噴射された全体の噴霧粒子のうちの72%(すなわち、防除成分の放出量の72%)が噴射処理から1時間後までに床面全体にわたり沈降・付着したことが確認された。そして、噴射処理から数日間、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫に対して優れた防除効果を発揮するとともに、屋内塵性ダニ類を寄せ付けなかった。また、ほぼ密閉した容積50m3の部屋(12畳の部屋に相当 面積20m2)の中央で、害虫、ダニ防除用エアゾールをやや斜め上方に向けて2回噴射することにより噴射処理を行ったところ、容積25m3の部屋の場合と同様に、匍匐害虫に対する防除効果を示すことも確認できた。 【0035】 〔実施例2~24、比較例1~4〕 実施例1に準じて表1に示す各種害虫、ダニ防除用エアゾールを調製した。なお、実施例2~21、23~24、比較例1、3~4の害虫、ダニ防除用エアゾールには、噴射容量が1.0mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器を用い、実施例22の害虫、ダニ防除用エアゾールには、噴射容量が2.2mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器を用い、比較例2の害虫、ダニ防除用エアゾールには、噴射容量が0.4mLである定量噴霧バルブ付きエアゾール容器を用いた。 【0036】 【表1】 [図:0001384047000001.jpg] 【0037】 実施例1~24、比較例1~4の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて、下記に示す試験を行った。屋内塵性ダニ類に対しては、まず駆除効果を調べ、駆除効果が乏しい場合、忌避効果を評価した。試験結果を纏めて表2に示す。 【0038】 (1)匍匐害虫に対する駆除効果 20×20cmのガラス板合計12枚(チャバネゴキブリ用、ワモンゴキブリ用、及びクロヤマアリ用各4枚)を閉めきった容積25m3の部屋(面積10m2)の4隅に設置し、各ガラス板の上に直径約20cmのプラスチックリングを置き、各リング内に所定の供試昆虫(チャバネゴキブリ:♀成虫5匹、ワモンゴキブリ:幼虫5匹、クロヤマアリ:5匹)を放って自由に徘徊させた。供試エアゾールを部屋の中央でやや斜め上方に向けてワンショット(噴射容量:実施例1~21、23~24、比較例1、3~4 1.0mL、実施例22 2.2mL、比較例2 0.4mL)噴射した。24時間放置して薬剤に暴露させた後、ガラス板を供試昆虫を含むリングごと別部屋に移し、餌を与え、更に24時間後に供試昆虫の致死率を求めた。 【0039】 (2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果 直径9cm、高さ6cmの腰高シャーレ8個(コナヒョウヒダニ用、及びケナガコナダニ用各4個)を閉めきった容積25m3の部屋(面積10m2)の4隅に設置し、腰高シャーレ内に所定の供試ダニ各約200匹ずつ入れて供試した。供試エアゾールを部屋の中央でやや斜め上方に向けてワンショット噴射した。24時間放置して薬剤に暴露させた後、供試ダニの致死率を求めた。 【0040】 (3)屋内塵性ダニ類に対する忌避効果 上記「(2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果」試験において、供試ダニの替わりに直径約4cmの綿布を部屋の4隅に設置し、供試エアゾールをワンショット噴射した。噴射から24時間後にこの綿布を取り出して直径4cmのシャーレにはめ込み、シャーレの中央部に誘引用培地50mgを置いた。これとは別に、直径9cmのシャーレに供試コナヒョウヒダニ、又はケナガコナダニを培地とともに約10000匹放ち、この直径9cmのシャーレの中央部に、先に用意した直径4cmのシャーレを置いた。同様に、供試エアゾールによる処理を行わなかった綿布を用いて無処理区を用意した。24時間後に綿布上に侵入したダニ数を計数し、次式に従ってダニ忌避率を算出した。 ダニ忌避率(%) = [(無処理区の侵入ダニ数-処理区の侵入ダニ数) / 無処理区の侵入ダニ数] × 100 【0041】 (4)防除成分の床面付着率 閉めきった容積25m3の部屋(面積10m2)の床面の6~8ヵ所に20×20cmのガラス板を部屋全体に均等に設置し、供試エアゾールを部屋の中央でやや斜め上方に向けてワンショット噴射した。噴射処理から1時間後に全てのガラス板を取り出し、付着した防除成分をアセトンで洗い出してガスクロマトグラフィーにより分析した。得られた分析値を基に、噴射処理から1時間後までに床面に沈降・付着した防除成分の、理論上の防除成分噴射全体量に対する比率(床面付着率)を求めた。また、ガラス板に付着した防除成分について、各ガラス板間のバラツキを解析し、噴霧粒子の拡散均一性を評価した。結果を、拡散均一性の良好なものから順に、A、B、C、Dの4段階で示した。 【0042】 【表2】 [図:0001384047000002.jpg] 【0043】 試験の結果、実施例1~24の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いた本発明の害虫、ダニ防除方法によれば、噴霧粒子が床面全体に略均一に拡散し、噴射から1時間後までに防除成分の60%以上が床面に沈降・付着することが確認された。また、難揮散性の防除成分として、匍匐害虫防除用化合物を配合した実施例1~16、20~24の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いた場合には、匍匐害虫、及び屋内塵性ダニ類の何れに対しても、優れた防除効果を奏することが確認された。難揮散性の防除成分として、ダニ防除用化合物を配合した実施例17~19の害虫、ダニ防除用エアゾールを用いた場合には、屋内塵性ダニ類に対して優れた防除効果を奏することが確認された。 【0044】 これに対し、比較例1~4では、匍匐害虫、屋内塵性ダニ類の何れに対しても十分な防除効果が得られなかった。比較例1では、防除成分として、エムペントリンのような常温揮散性ピレスロイド化合物のみを配合したエアゾールを用いたために、床面付着率が小さくなり、その結果、防除効果が低くなったと考えられる。比較例2では、噴射容量が0.4mLの定量噴射バルブを使用したために、ワンプッシュでは噴射される防除成分が必要量に達せず、その結果、防除効果が低くなったと考えられる。比較例3や比較例4のように、エアゾール原液の比重が本発明に規定する0.85~1.15の範囲から外れたものでは、噴霧粒子の拡散均一性が低かったことが、防除効果の低下の原因であると考えられる。」 3 本件訂正発明の概要 上記1及び2より、本件訂正発明は、定量噴射バルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて、空間定量噴射処理を行う、害虫、ダニ防除方法及び害虫、ダニ防除用エアゾールに関し、概略、「特許文献2」として本件明細書中で言及する従来技術に対して、利便性を改善するとともに、壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めた噴射特性を得ることを目的として、定量噴射バルブの容量、エアゾール原液の比重及びエアゾールの噴射力について、好適な範囲を特定したものと、理解される。 第4 異議申立理由、及び取消理由の概要 1 申立人Aによる異議申立理由 申立人Aによる異議申立理由の概要は、次のとおりである。 (1)明確性要件違反 本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)サポート要件違反 本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立書Aに添付した甲第1号証を主たる引用例とした新規性欠如 本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された、申立書Aに添付した甲第1号証(特開2018-12676号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立書Aに添付した甲第1号証を主たる引用例とした進歩性欠如 本件特許の請求項1ないし6、8及び9に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された、申立書Aに添付した甲第1号証(特開2018-12676号公報)に記載された発明、及び申立書Aに添付した甲第2号証ないし甲第7号証に記載された発明術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立人Bによる異議申立理由 申立人Bによる異議申立理由の概要は、次のとおりである。 ・申立書Bに添付した甲第1号証を主たる引用例とした進歩性欠如 本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された、申立書Bに添付した甲第1号証(特開2011-63576号公報)に記載された発明、及び申立書Bに添付した甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 令和3年3月25日付けの取消理由 本件訂正請求による訂正前の請求項1ないし6及び8ないし9に係る特許に対して、当審が令和3年3月25日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1)申立書Aに添付された甲第1号証を主たる引用例とした新規性欠如 本件特許の請求項1、5、8及び9に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された、申立書Aに添付された甲第1号証(特開2018-12676号公報)に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立書Aに添付された甲第1号証を主たる引用例とした進歩性欠如 本件特許の請求項1ないし6及び8ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された、申立書Aに添付された甲第1号証(特開2018-12676号公報)に記載された発明に基いて、若しくは申立書Aに添付された甲第1号証に記載された発明、及び申立書Aに添付された甲第2号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 証拠 1 証拠一覧 本件における証拠は、整理すると以下のとおりである。 なお、以下では、申立書Aに添付して提出された甲第1号証等を「A-甲1」等といい、申立書Bに添付して提出された甲第1号証等を「B-甲1」等という。 ・A-甲1(取消理由通知で引用): 特開2018-12676号公報(平成30年1月25日公開) ・A-甲2(取消理由通知で引用): 特許第5517122号公報(平成26年6月11日発行) ・A-甲3: 特開2017-206455号公報(平成29年11月24日公開) ・A-甲4(取消理由通知で物性値について参照): 「職場のあんぜんサイト:化学物質:GHSモデル SDS情報」、「シフェノトリン」、厚生労働省ウェブサイト、インターネットURL https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/39515-40-7.html(2008年11月10日作成(2020年12月26日印刷) ・A-甲5: 「化学物質データベース Webkis―Plus」、「(S)-a-シアノ-3-フェノキシベンジル-(1R,3S)-2,2-ジメチル-3-(1,2,2,2-テトラブロモエチル)シクロプロパンカルボキシラート」、国立研究開発法人国立環境研究所ウェブサイト、インターネットURL https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/NT200051(2020年12月26日印刷) ・A-甲6(取消理由通知で物性値について参照): 「Chemical Book」、「製品カタログ」、「ミリスチン酸イソプロピル」、Chemical Book社ウェブサイト、インターネットURL https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB9482638.htm(2020年12月26日印刷) ・A-甲7(取消理由通知で物性値について参照): 「職場のあんぜんサイト:化学物質:LPG」、「安全データシート LPG」、厚生労働省ウェブサイト、インターネットURL https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/68476-85-7.html(2009年3月30日作成(2020年12月26日印刷)) ・B-甲1: 特開2011-63576号公報(平成23年3月31日公開) ・B-甲2: 特開2002-20202号公報(平成14年1月23日公開) ・B-甲3: 特開2006-325489号公報(平成18年12月7日公開) ・B-甲4: 特開2008-156235号公報(平成20年7月10日公開) 2 証拠に記載された事項 (1)A-甲1 ア A-甲1の記載 A-甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。以下、同様。)。 (ア)「【発明の効果】 【0021】 第1、6の発明によれば、エアゾールの噴射剤の比率を高めるとともに、殺虫有効成分を溶解する溶剤の蒸気圧を低めにして噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度を遅くしたので、粒子を広範囲に飛ばすことができ、大がかりな装置を設けなくても殺虫有効成分による効力を広範囲で発揮できる。また、エアゾール容器を定量噴射型としたことで、殺虫有効成分の量は規定量以上噴射されることはない。従って、室内のどこに対しても安全に使用することができて汎用性が高く、しかも、大がかりな装置を不要にして駆除処理を容易にすることができる。」 (イ)「【0028】 図1は、本発明の実施形態に係る匍匐害虫駆除用エアゾール製品1の斜視図である。匍匐害虫駆除用エアゾール製品1は、エアゾール容器10と、押し下げ式の操作ボタン(噴射ボタン)20と、エアゾール容器10に取り付けられる筒状ベース30と、筒状ベース30に取り付けられる筒状カバー40とを備えている。そして、操作ボタン20及び筒状カバー40を回動操作することによって、操作ボタン20を押し下げ可能な押下可能状態と、該操作ボタン20の押し下げが不可能な非押下可能状態とに切り替えられるように構成されている。 【0029】 尚、この実施形態の説明では、使用者が手で持って使用するときに使用者から見て左側及び右側をそれぞれ単に「左」及び「右」といい、使用者から見て手前側となる側を単に「後」といい、使用者から見て奥側となる側を単に「前」というものとする。 【0030】 エアゾール容器10の周壁部は透光性を有しており、外部から内容物の残量を把握できるようになっている。エアゾール容器10の上部には、定量噴射バルブ機構(図示せず)が設けられている。このバルブ機構は、上下方向に移動するとともにエアゾール容器10に収容されている内容物を吐出するための吐出管(図示せず)と、吐出管を上方に付勢するバネ等からなる付勢部材(図示せず)と、弁体(図示せず)とを有している。吐出管は上下方向に延びる姿勢とされており、上昇端位置にあるときには弁体によって吐出管の下端部(上流端部)が閉じられてエアゾール容器10の内部と吐出管とが連通しないようになる一方、吐出管が上昇端位置から下方へ押動操作されると吐出管の下端部が開かれてエアゾール容器10の内部と吐出管とが連通して内容物が吐出管の上端部から吐出されるように、上記バルブ機構が構成されている。また、吐出管を1回押動操作すると、吐出管の下端部が瞬間的に開かれた後、閉状態になり、内容物が少量(所定量)だけ噴射される。つまり、このエアゾール容器10は定量噴射型である。尚、定量噴射型のエアゾール容器10としては、例えば特開2014-28631号公報に記載されている容器を使用することができる。 【0031】 操作ボタン20は、例えば樹脂材を射出成型して得ることができ、全体が一体成形されている。操作ボタン20は、エアゾール容器10の吐出管の上側に嵌合し、該吐出管を押動操作するためのものであり、ボタン本体21と、ノズル部23とを有している。ノズル部23は、ボタン本体21の前部から突出している。 【0032】 ノズル部23は、吐出管の中心線と交差する方向である前側へ突出しており、前側へ行くほど上に位置するように傾斜している。ノズル部23の基端側がエアゾール容器10の吐出管13と連通している。ノズル部23の傾斜角度は、例えば吐出管の中心線と直交する平面とのなす角度が5度以上45度以下の範囲で設定することができる。ノズル部23を傾斜させることで、内容物を斜め上方へ向けて効果的に吐出することが可能になる。 【0033】 筒状ベース30は、上下方向に延び、エアゾール容器10の上下方向中間部の外径と略同じ外径を有する円筒状に形成されている。筒状ベース30の下端部は全体が開放され、エアゾール容器10の上部が該筒状ベース30の下端部から挿入されて固定される。 【0034】 筒状カバー40は、操作ボタン20の周囲を囲むように形成され、筒状ベース30に取り付けられる。すなわち、筒状カバー40の下側が筒状ベース30の上側に嵌合する。この状態で、操作ボタン20のボタン本体21の外周面が筒状カバー40によって覆われる。また、操作ボタン20のノズル部23は、筒状カバー40の前部に設けられた切り欠き部41から前方へ突出している。 【0035】 エアゾール容器10に収容される内容物は、匍匐害虫を駆除する殺虫有効成分と、殺虫有効成分が溶解する溶剤と、殺虫有効成分及び溶剤を噴射するための噴射剤である。内容物は、殺虫有効成分、溶剤及び噴射剤以外の薬剤等を含んでいてもよい。例えば、匍匐害虫の忌避剤、香料、殺菌剤、除菌剤等を内容物に混合することができる。匍匐害虫の忌避剤の種類は特に限定されないが、匍匐害虫を忌避する効果を有するものであればよい。 【0036】 殺虫有効成分は、匍匐害虫に対して殺虫効果を発揮する成分であり、殺虫剤として使用されている各種薬剤を使用することができる。この実施形態では、合成ピレスロイドを用いることができ、具体的には、シフェノトリンとシフルトリンとトラロメトリンの少なくとも1つを用いることができ、これらを混合して用いてもよい。シフェノトリンとシフルトリンとトラロメトリンの少なくとも1つを用いることにより、例えばイミプロトリン、フタルスリン、レスメトリンを用いる場合に比べて殺虫有効成分の噴射量が少なくても十分な効力が得られる。 【0037】 溶剤は、上記殺虫有効成分が溶解するものであり、かつ、蒸気圧がエタノールよりも低いものが好ましい。溶剤の蒸気圧は、25℃において7.0kPa以下が好ましく、より好ましいのは25℃における蒸気圧が4.5kPa以下、更に好ましいのは1.9kPa以下である。また、25℃における蒸気圧が0.7kPa以下の溶剤が最も好ましい。このような溶剤としては、例えばミリスチン酸イソプロピルと飽和炭化水素系溶剤の少なくとも一方を用いることができ、これらを混合して用いてもよい。 【0038】 上記溶剤としては、例えば、プロパノール(25℃における蒸気圧4.41kPa)、水(同3.2630kPa)、オクタン(同1.8874kPa)、ノナン(同6.177×102Pa)、ドデカン(同1.80×10Pa)、トリデカン(同7.5Pa)、ミリスチン酸イソプロピル(1.247×10-2Pa)等を挙げることができるが、これらに限られるものではなく、上記蒸気圧範囲に含まれる各種溶剤を用いることができる。溶剤は1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。 【0039】 溶剤の25℃における蒸気圧が7.0kPaを超えた場合には、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が速くなって各粒子の質量が早期に減少してしまい、粒子の飛距離が短くなるとともに、空気中に漂っている時間が短くなってしまう。このことは効力の低下を意味する。一方、溶剤の25℃における蒸気圧が7.0kPa以下の場合には、蒸気圧が十分に低いので、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が遅くなり、このことで当該粒子が遠くまで飛んでいくとともに、空気中に漂っている時間が長くなる。特に、25℃における蒸気圧が1.9kPa以下になると、粒子の飛距離が顕著に長くなるとともに、空気中に漂っている時間も顕著に長くなるので好ましい。 【0040】 噴射剤は、液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)等を用いることができ、これらを混合して用いてもよい。」 (ウ)「【0043】 操作ボタン20の1回の操作による殺虫有効成分の噴射量(以下、Ai量ともいう。)は3mg以上20mg以下に設定されている。Ai量は、殺虫有効成分の含有量及び操作ボタン20の1回の操作による上記液体の噴射量を変更することによって上記範囲にすることができる。Ai量が3mgよりも少ないと、空間に噴射される殺虫有効成分が少なすぎて殺虫有効成分による効果が低減してしまう。一方、Ai量が20mgよりも多いと、空間に噴射される殺虫有効成分が多くなり、特に狭い空間の場合に安全性の面で好ましくない場合が想定される。 【0044】 また、操作ボタン20の1回の操作による上記液体(殺虫有効成分及び溶剤)の噴射量は、0.1ml以上0.4ml以下に設定されている。操作ボタン20の1回の操作による上記液体の噴射量は、上記バルブ機構の構造変更等によって上記範囲にすることができる。操作ボタン20の1回の操作による上記液体の噴射量が0.1mlよりも少ないと、空間に噴射される殺虫有効成分が少なすぎて殺虫有効成分による効果が低減してしまう。一方、操作ボタン20の1回の操作による上記液体の噴射量が0.4mlよりも多いと、空間に噴射される殺虫有効成分が多くなり、特に狭い空間の場合に安全性の面で好ましくない場合が想定される。 【0045】 次に、上記のように構成された匍匐害虫駆除用エアゾール製品1を使用する場合について説明する。匍匐害虫駆除用エアゾール製品1は、室内に全体的に噴射するようにしてもよいが、匍匐害虫が潜んでいそうな室内の隙間に対して噴射するのが好ましい。すなわち、例えば室内の壁と家具との間の狭い隙間や、壁と電化製品との間の狭い隙間に、匍匐害虫駆除用エアゾール製品1のノズル部23を向けてから、操作ボタン20を操作する。操作ボタン20の操作は1回だけにするのが好ましいが、室内が広い場合には複数回操作してもよい。 【0046】 これにより、エアゾール容器10に収容されている噴射剤の圧力によってノズル部23から殺虫有効成分及び溶剤が噴射剤と共に噴射される。このとき、上述のように重量比率が設定されていて、噴射剤がリッチな処方となっているので、殺虫有効成分及び溶剤を含む上記液体がエアゾール容器10から噴射されるときに、小さな粒子になりやすいとともに、粒子の勢いが強くなり、しかも、噴射された粒子が広範囲に飛んでいき、空気中に漂いやすくなる。さらに、溶剤の蒸気圧が低いので、噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が遅くなり、このことで当該粒子が遠くまで飛んでいくとともに、空気中に漂っている時間が長くなる。従って、殺虫有効成分を含んだ粒子が家具や電化製品の側面に沿って奥の方まで飛んだ後、それらの背面側へ周り込んで背面に沿って飛んで空気中に漂い、その後、自重によって下部付近まで落ちていく。このように、狭い隙間であっても粒子が広範囲に飛んでいくので、大がかりな装置を設けることなく殺虫有効成分による効力が広範囲で発揮される。」 (エ)「【0049】 次に、匍匐害虫駆除用エアゾール製品1の効力試験結果について説明する。効力試験は、図2に示すようなピートチャンバー100内で行った。ピートチャンバー100は一辺が180cmの立方体形状であり、容積は5.82m3である。ピートチャンバー100内には、複数のダンボール箱101によって3つの家具102、102、102を再現している。各家具102の寸法は、奥行き52cm、高さ160cm、幅52cmである。また、隣合う家具102、102の隙間は5cmに設定している。図2の左に配置されている家具102の側面とピートチャンバー100の壁との隙間は5cmに設定し、家具102の背面とピートチャンバー100の壁との隙間も5cmに設定している。尚、図2では家具を想定しているが、これに限らず、電化製品(例えば冷蔵庫や洗濯機等)であってもよい。 【0050】 匍匐害虫駆除用エアゾール製品1のノズル部23は、図2の左に配置されている家具102の側面とピートチャンバー100の壁との隙間に向ける。ノズル部23の床面からの高さは100cmに設定している。 【0051】 ノズル部23先端から隙間の奥へ向かって50cm離れたところに第1メッシュ袋104を配置し、この第1メッシュ袋104はピートチャンバー100の壁に貼り付ける。同様に、ノズル部23先端から隙間の奥へ向かって100cm離れたところ(家具102の背面側となる)に第2メッシュ袋105を配置し、ノズル部23先端から隙間の奥へ向かって150cm離れたところに第3メッシュ袋106を配置し、ノズル部23先端から隙間の奥へ向かって200cm離れたところに第4メッシュ袋107を配置し、ノズル部23先端から隙間の奥へ向かって250cm離れたところに第5メッシュ袋108を配置する。第1~第5メッシュ袋104~108の高さはノズル部23先端から離れるに従って低くし、第5メッシュ袋108はピートチャンバー100の床面近傍に配置される。 【0052】 第1~第5メッシュ袋104~108には、それぞれ、供試虫としてクロゴキブリの雌成虫を10匹入れておく。第1~第5メッシュ袋104~108は、空気が容易に流通できるようになっている。 【0053】 その後、操作ボタン23を操作する。操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の上記液体の噴射量は、0.2mlに設定されている。 【0054】 噴射後、5分間放置し、5分経過したら第1~第5メッシュ袋104~108を回収して供試虫を取り出す。取り出した供試虫は清潔な容器に移して砂糖水を与えた。容器に移してから48時間経過後の致死率を算出した。 【0055】 【表1】 [図:0001384047000003.jpg] 【0056】 本発明の実施例1~10と比較例1~10は、それぞれ表1に示すように、Ai量、溶剤の種類、噴射剤の種類、液ガス比を設定している。溶剤の「IPM」はミリスチン酸イソプロピルであり、「ネオチオ」は飽和炭化水素系溶剤としてのネオチオゾール(中央化成株式会社製)である。「液ガス比」とは、上記液体:噴射剤の重量比率である。48時間後致死率(%)は、(死に至った供試虫/全供試虫)×100で求めた。「50cm」、「100cm」、「150cm」、「200cm」、「250cm」は、ノズル部23先端からの距離であり、第1~第5メッシュ袋104~108が配置されている場所を示している。つまり、「50cm」における致死率とは第1メッシュ袋104に入っていた供試虫の致死率であり、「100cm」における致死率とは第2メッシュ袋105に入っていた供試虫の致死率であり、「150cm」における致死率とは第3メッシュ袋106に入っていた供試虫の致死率であり、「200cm」における致死率とは第4メッシュ袋107に入っていた供試虫の致死率であり、「250cm」における致死率とは第5メッシュ袋108に入っていた供試虫の致死率である。尚、「-」は致死率を得てないところである。 【0057】 実施例1~10では、上記液体:噴射剤の重量比率が8:92~30:70の範囲内にあり、溶剤の25℃における蒸気圧がエタノールよりも低い7.0kPa以下であるため、ノズル部23先端から250cmも離れたところであっても致死率が80%以上得られている。」 (オ)「【0064】 以上のように、溶剤の蒸気を低くし、液体:噴射剤の重量比率を8:92~30:70の範囲内となるように設定したので、隙間の奥に潜む匍匐害虫に対して十分な駆除効果を得ることができる。上記効力試験はクロゴキブリのみで行っているが、実施例1~10から明らかなように、隙間の手前だけでなく奥にいるクロゴキブリにも殺虫有効成分が付着しているので、クロゴキブリ以外の匍匐害虫、例えばワモンゴキブリ、チャバネゴキブリ、ムカデ等に対しても十分な駆除効果を得ることができる。 【0065】 上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。 【産業上の利用可能性】 【0066】 以上説明したように、本発明に係る匍匐害虫駆除用エアゾール製品及び匍匐害虫駆除方法によれば、例えば室内のゴキブリ等の匍匐害虫を駆除する場合に使用することができる。」 イ 記載された発明 上記ア(エ)【表1】における「実施例2」に示される、殺虫有効成分の種類とAi量、溶剤の種類、噴射剤の種類、及び液ガス比の設定に着目して整理すると、A-甲1には、上記アより、次の発明(以下、「A-甲1発明」という。)が記載されている。 「匍匐害虫を駆除する殺虫有効成分と、殺虫有効成分が溶解する溶剤と、噴射剤とを、内容物として収容するエアゾール容器10、押し下げ式の操作ボタン(噴射ボタン)20のボタン本体21、定量噴射バルブ機構、ノズル部23とを有する、匍匐害虫駆除用エアゾール製品1を用いて、内容物を噴射する、匍匐害虫駆除方法であって、 匍匐害虫駆除用エアゾール製品1は、室内に全体的に噴射するようにしてもよく、 匍匐害虫が潜んでいそうな室内の隙間に対して噴射する場合、例えば、容積が5.82m3であるピートチャンバー100内に、奥行き52cm、高さ160cm、幅52cmである3つの家具102、102、102を再現し、隣合う家具102、102の隙間は5cmに設定し、左に配置されている家具102の側面とピートチャンバー100の壁との隙間は5cmに設定し、家具102の背面とピートチャンバー100の壁との隙間も5cmに設定した場合、ノズル部23を左に配置されている家具102の側面とピートチャンバー100の壁との隙間に向けて噴射してよく、 操作ボタン20の操作は1回だけにするのが好ましいが、室内が広い場合には複数回操作してもよく、 操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の液体(殺虫有効成分及び溶剤)の噴射量は、0.2mlに設定されており、 殺虫有効成分は、シフェノトリンであり、操作ボタン20の1回の操作による殺虫有効成分の噴射量であるAi量は10mgであり、 殺虫有効成分が溶解する溶剤は、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)であり、 噴射剤は、液化石油ガス(LPG)であり、 液体(殺虫有効成分及び溶剤):噴射剤の重量比率である液ガス比は、16:84であり、 ノズル部23から殺虫有効成分及び溶剤が噴射剤と共に噴射されるとき、噴射剤がリッチな処方となっているので、殺虫有効成分及び溶剤を含む上記液体が、小さな粒子になりやすいとともに、粒子の勢いが強くなり、噴射された粒子が広範囲に飛んでいき、また噴射された粒子を形成している溶剤の蒸発速度が遅く、殺虫有効成分を含んだ粒子が飛んだ後、空気中に漂い、その後、自重によって落ちていく、 匍匐害虫駆除方法。」 (2)A-甲2 A-甲2には、次の事項が記載されている。 ア 「【0012】 本発明では、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する効率的な防除方法の提供を重視して、(a)常温揮散性害虫防除成分と共に、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物から選ばれた1種又は2種以上の害虫防除成分及び/又はダニ防除成分を併用する。 ゴキブリに代表される匍匐害虫駆除用の害虫防除成分としては、フェノトリン、シフェノトリン、ぺルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、トラロメトリン、イミプロトリン、エトフェンプロックス等のピレスロイド系化合物、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、フェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン等のネオニコチノイド系化合物、その他にフィプロニル、インドキサカルブ等があげられるが、これらの中では、フェノトリン、シフェノトリン、シフルトリン、ジノテフランが好ましい。 一方、屋内塵性ダニ類駆除用のダニ防除成分としては、アミドフルメト、セバシン酸ジブチル、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート等があるが、アミドフルメト、セバシン酸ジブチル、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニルが好適である。」 イ 「【0015】 本発明の害虫、ダニ防除方法は、常温揮散性ピレスロイド化合物を含む害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内で一定量、好ましくは一回当たり空中に向けて0.2~0.9mLで噴霧し、その処理区域において匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させる一方、噴霧当日は飛翔害虫に対してその処理空間を、例えば5~15時間程度にわたり防除可能な雰囲気とする。 このために、本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールは、エアゾール原液/噴射剤比率が20~50/50~80(容量比)であることを必須とする。 エアゾール原液/噴射剤比率が20/80より小さく噴射剤が多すぎると、噴霧粒子が必要以上に微細となり床や壁への付着量が不足する。一方、50/50を超えると、逆に噴霧粒子が速やかに沈降し害虫防除成分の気中濃度が不十分となる。 また、害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力については、床や壁に付着する噴霧粒子が十分量となるように、噴射距離20cmにおける噴射力を3.0~8.0g・fに設計するのが好ましい。」 (3)A-甲3 A-甲3には、匍匐害虫について、段落【0019】に、「本発明が対象とする害虫は、ノミ・シラミ・ダニ・アリ・ゴキブリ・蜘蛛などの匍匐害虫の卵、蚊・ハエ・蛾などの飛翔害虫の卵であり、イガなどの衣料害虫の卵を対象とするものではない。」と記載されている。 (4)A-甲4 A-甲4には、シフェノトリンについて、「9.物理的及び化学的性質」として、「比重(密度)」が「1.083(25℃)」であることが記載されている。 (5)A-甲5 A-甲5には、「別名トラロメトリン」と記載される化学物質の「物性情報」として、「比重」が「1.7」であることが記載されている。 (6)A-甲6 A-甲6には、ミリスチン酸イソプロピルの「物理的性質」として、「比重(密度)」が「0.85g/mL at 25℃」であることが記載されている。 (7)A-甲7 A-甲7には、LPGについて、「9.物理的及び化学的性質」として、「比重(密度)」が「0.6(水=1)」であることが記載されている。 (8)B-甲1 ア B-甲1の記載 B-甲1には、次の記載がある。 (ア)技術分野 「【0001】 本発明は、害虫、ダニ防除方法に関するものである。」 (イ)背景技術 「【0002】 壁や床面を徘徊するゴキブリ等の匍匐害虫や屋内塵性ダニ類を対象とし、害虫やダニ類が生息する場所や通り道に施用するタイプの殺虫剤としては、(1)燻煙剤、(2)全量噴射型エアゾール、(3)塗布型エアゾール、及び(4)ベイト剤が代表的で、それぞれ剤型上の特長を有している。 【0003】 (1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールは、薬剤を一気に室内の隅々まで放散し、所定時間室内を密閉して薬剤濃度を高め、その間、人が入室できないことから、医薬品の範疇に該当する。これらの製剤は、一度施用すれば2~4週間、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する駆除効果が持続する反面、使用前の手順に手間がかかること、薬剤の安全性に格別留意する必要があること等から、手軽に頻繁に採用される剤型とは言えない。 一方、局所的に面処理する(3)塗布型エアゾールや、点処理の(4)ベイト剤は、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールのような空間処理でないため、薬剤と害虫やダニ類の接触効率が(1)や(2)に較べて劣るものの、人体に対する作用が緩和な医薬部外品に該当し、使い易いメリットが評価されている。 【0004】 このように、従来、空間処理でありながら医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤の開発は困難と考えられ、未だ実用化されたものはない。 ところで、特許文献1(特開2009-143868)は、殺虫成分および溶剤を含む殺虫液を室内空間、収納空間等の空間内に蒸散させて匍匐害虫を駆除する方法であって、前記溶剤として特定の構造を有する化合物を用い、前記空間に粒子径の小さい殺虫液微粒子が浮遊し続けるべく、ピエゾ式噴霧器により前記殺虫液を少量ずつ時間をかけて蒸散させる匍匐害虫駆除方法を開示する。この特許文献1の方法は、液体電気蚊取りのように、微量の薬剤を継続して長時間にわたり空間に放散し、ゴキブリを駆除することを提案したものであるが、蚊に較べて数十倍薬剤に強いゴキブリを対象とする以上、強力な殺虫成分を使用せざるを得ず、人体に対する安全性の懸念が避けられない。 【0005】 本発明者らは、かかる状況を鑑み、空間処理剤であって、医薬部外品に該当する匍匐害虫や屋内塵性ダニ類用防除剤を開発するにあたり、(1)燻煙剤や(2)全量噴射型エアゾールのような2~4週間に一度の頻度で使用される製剤ではなく、1回処理すれば実用条件下で数日間駆除効果が持続する、即ち基本的に1~2日に1回使用する製剤であって、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤を目指すことを基本とした。そのうえで鋭意種々検討を行い、特定の処方のエアゾールを採用することによって、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類のみならず、噴霧当日は飛翔害虫にも有効な本発明を完成するに至ったものである。」 (ウ)発明が解決しようとする課題 「【0007】 本発明の目的は、特定の処方のエアゾールを屋内で一定量空間噴霧処理し、その処理区域において匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する駆除効果を数日間持続させる一方、噴霧当日はその処理空間を飛翔害虫に対して防除可能な雰囲気とする害虫、ダニ防除方法を提供することにある。」 (エ)課題を解決するための手段 「【0008】 本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。 (1)害虫、ダニ防除成分として、(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである常温揮散性ピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物から選ばれた1種又は2種以上、並びに溶剤として(c)炭素数が2~3の低級アルコールを含むエアゾール原液と(d)噴射剤とからなり、(a)/(b)の配合比率が0.008/1~0.2/1で、且つ、エアゾール原液/噴射剤比率が20~50/50~80(容量比)であり、しかも定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて、屋内で一定量空間噴霧処理する害虫、ダニ防除方法。 (2)前記常温揮散性ピレスロイド化合物が、メトフルトリン、プロフルトリン及びトランスフルトリンから選ばれた1種又は2種以上である(1)記載の害虫、ダニ防除方法。 (3)前記難揮散性化合物が、フェノトリン、シフェノトリン、シフルトリン、ジノテフラン、アミドフルメト、セバシン酸ジブチル、安息香酸ベンジル及びサリチル酸フェニルから選ばれた1種又は2種以上である(1)又は(2)記載の害虫、ダニ防除方法。 (4)前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴霧粒子の粒子径分布において、10~50μmの噴霧粒子が全体の60%以上を占め、かつ全体の噴霧粒子のうちの30~80%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着するようになした(1)ないし(3)のいずれかに記載の害虫、ダニ防除方法。 (5)前記定量噴霧用エアゾールバルブの一回当たりの噴霧容量が、0.2~0.9mLである(1)ないし(4)のいずれかに記載の害虫、ダニ防除方法。」 (オ)発明の効果 「【0009】 本発明の害虫、ダニ防除方法によれば、常温揮散性ピレスロイド化合物と難揮散性化合物を含む特定の害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内で一定量空間噴霧処理することによって、その処理区域において匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させる一方、噴霧当日は飛翔害虫に対してその処理空間を防除可能な雰囲気とすることができるので極めて実用的である。」 (カ)発明を実施するための形態 「【0010】 本発明では、2つのタイプの害虫、ダニ防除成分を組み合わせて用いるが、一方のタイプは、(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上である。このような化合物は、常温揮散性を有する害虫防除成分で、空間噴霧処理後、噴霧粒子のある程度が気中に浮遊残存し、噴霧当日は飛翔害虫に対し防除効果を発揮する作用に加え、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物と共に床や壁に付着して、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を相乗的に高め得ることが認められた。即ち、かかる予期し得ない協働作用によって、(b)難揮散性化合物の使用量が低減される結果、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤で、かつ、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させることが可能となったのである。 なお、本発明では、ノックダウン効果や致死効果に基づく駆除効果に加え、忌避効果を合わせて防除効果と呼ぶ。駆除効果が低くても十分な忌避効果があれば、実用上、防除が達せられる場面も多い。 【0011】 (a)常温揮散性害虫防除成分としては、例えば、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、エムペントリン、テラレスリン、フラメトリン等があげられるが、蒸気圧や安定性、基礎殺虫効力等を考慮すると、メトフルトリン、プロフルトリン及びトランスフルトリンが好ましい。なお、ピレスロイド化合物の酸成分やアルコール部分において、不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらの各々や任意の混合物も本発明に包含されることはもちろんである。 30℃における蒸気圧が10-2mmHgを超える害虫防除成分を用いると揮散性が高すぎ、一方、2×10-4mmHg未満の場合は、害虫防除成分の噴霧粒子を長時間気中に残留させることができず飛翔害虫に対する防除効果は一過性に留まるので不適当である。 【0012】 本発明では、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する効率的な防除方法の提供を重視して、(a)常温揮散性害虫防除成分と共に、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物から選ばれた1種又は2種以上の害虫防除成分及び/又はダニ防除成分を併用する。 ゴキブリに代表される匍匐害虫駆除用の害虫防除成分としては、フェノトリン、シフェノトリン、ぺルメトリン、シペルメトリン、シフルトリン、ビフェントリン、トラロメトリン、イミプロトリン、エトフェンプロックス等のピレスロイド系化合物、シラフルオフェン等のケイ素系化合物、ジクロルボス、フェニトロチオン等の有機リン系化合物、プロポクスル等のカーバメート系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド、クロチアニジン等のネオニコチノイド系化合物、その他にフィプロニル、インドキサカルブ等があげられるが、これらの中では、フェノトリン、シフェノトリン、シフルトリン、ジノテフランが好ましい。 一方、屋内塵性ダニ類駆除用のダニ防除成分としては、アミドフルメト、セバシン酸ジブチル、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニル、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート等があるが、アミドフルメト、セバシン酸ジブチル、安息香酸ベンジル、サリチル酸フェニルが好適である。 【0013】 本発明の害虫、ダニ防除方法は、害虫、ダニ防除成分が高濃度の害虫、ダニ防除用エアゾールを少量一定量空間噴霧するので、エアゾール原液中の害虫、ダニ防除成分含有量も、1.0~70w/v%程度と高濃度となる。 そのうえで、本発明は、害虫、ダニ防除成分として、(a)常温揮散性害虫防除成分と(b)難揮散性害虫防除成分及び/又はダニ防除成分を、(a)/(b)=0.008/1~0.2/1、好ましくは、0.01/1~0.2/1の比率で配合したことに特徴を有する。 即ち、(a)常温揮散性害虫防除成分と(b)難揮散性化合物を、特定の比率で組み合せて配合することによって、人が居る状況下でも使用可能な安全性の高い製剤となし、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する駆除効果を数日間持続させることが可能となったものである。 (a)/(b)の配合比率が0.008/1より小さいと、(a)常温揮散性害虫防除成分の配合効果が得られないし、一方、(a)常温揮散性害虫防除成分の配合を相対的に高め、0.2/1より大きくすると、エアゾール内容液の液性安定化の点から、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する駆除効果を謳うために必要な量の(b)難揮散性化合物を配合することが難しくなり、本発明の目的に合致しない。 【0014】 本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールの調製用の溶剤としては、(a)常温揮散性害虫防除成分の蒸気圧を考慮して炭素数が2~3の低級アルコールに特定され、エタノールやイソプロパノール(IPA)が一般的である。かかる低級アルコールは、速乾性で噴霧後速やかに揮発するので噴霧粒子を微細にし、(a)常温揮散性害虫防除成分が空間で浮遊残留しやすくする。 なお、エアゾール原液中の害虫、ダニ防除成分含有量が1.0w/v%未満であると所望の効果が得られないし、一方、70w/v%を超えるとエアゾール内容液の液性安定化の点で困難を伴う。 【0015】 本発明の害虫、ダニ防除方法は、常温揮散性ピレスロイド化合物を含む害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内で一定量、好ましくは一回当たり空中に向けて0.2~0.9mLで噴霧し、その処理区域において匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させる一方、噴霧当日は飛翔害虫に対してその処理空間を、例えば5~15時間程度にわたり防除可能な雰囲気とする。 このために、本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールは、エアゾール原液/噴射剤比率が20~50/50~80(容量比)であることを必須とする。 エアゾール原液/噴射剤比率が20/80より小さく噴射剤が多すぎると、噴霧粒子が必要以上に微細となり床や壁への付着量が不足する。一方、50/50を超えると、逆に噴霧粒子が速やかに沈降し害虫防除成分の気中濃度が不十分となる。 また、害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力については、床や壁に付着する噴霧粒子が十分量となるように、噴射距離20cmにおける噴射力を3.0~8.0g・fに設計するのが好ましい。 【0016】 本発明では、発明の趣旨に支障を来たさない限りにおいて、炭素数が2~3の低級アルコールの溶剤に加え、例えば、n-パラフィン、イソパラフィンなどの炭化水素系溶剤、炭素数3~10のグリコールエーテル類、ケトン系溶剤、エステル系溶剤等を適宜添加可能である。 【0017】 本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールは少量噴霧で十分なので、敢えて火気に対する危険性に留意する必要はないが、できる限り低減させる観点から水性化処方を採用することもできる。この場合、水の量は20~70v/v%程度が適当であり、噴霧粒子の噴霧パターンに影響を与えない範囲で、可溶化助剤として若干量の非イオン系界面活性剤を添加してもよい。 非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル類などのエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類などの脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンスチレン化フェノール、脂肪酸のポリアルカロールアミドなどがあげられ、なかでも、エーテル類が適している。 【0018】 本発明では、前記各成分に加え、カビ類、菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤、あるいは、芳香剤、消臭剤、安定化剤、帯電防止剤、消泡剤、賦形剤等を適宜配合してももちろん構わない。防カビ剤、抗菌剤や殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等を例示できる。 また、芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分などがあげられるがこれらに限定されない。 【0019】 本発明で用いられる噴射剤としては、液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル、及び窒素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素、圧縮空気等の圧縮ガスがあげられ、そのうちの一種または二種以上を適宜採用することができるが、通常LPGを主体としたものが使いやすい。 本発明では、噴霧粒子の気中残存率と床面や壁への付着率を考慮して、エアゾール原液/噴射剤比率を20~50/50~80(容量比)とする。そのうえで、噴霧粒子の粒子径分布において、10~50μmの噴霧粒子が全体の60%以上を占め、かつ全体の噴霧粒子のうちの30~80%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着するように設計するのが好ましい。 【0020】 上記害虫、ダニ防除用エアゾールは、屋内で一定量噴霧処理するための定量噴霧用エアゾールバルブを備え、その他噴口、ノズル、容器等の形状については、その用途、使用目的等に応じて適宜選択すればよい。 例えば、上から押して噴霧するボタンと斜め上方向きのノズルを備えた卓上タイプとしたり、小型容器の携帯用として設計することができる。 【0021】 本発明は、こうして得られた害虫、ダニ防除用エアゾールを、屋内で一定量、好ましくは一回当たり空中に向けて0.2~0.9mLで噴霧させるが、気中に噴霧される害虫、ダニ防除成分量は、0.5~50mg/m3程度が適当である。 本害虫、ダニ防除用エアゾールの使用頻度としては、基本的に1~2日に1回施用すれば、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対して数日間防除効果を確保できるものであるが、飛翔害虫に対してはその防除効果がほぼ噴霧当日に限られることを考慮し、使用者が適宜決定すればよい。 【0022】 本発明の害虫、ダニ防除方法が有効な害虫としては、室内で飛翔して人に被害や不快感を与える害虫、例えば、アカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ユスリカ類、イエバエ、チョウバエ、ブユ類、アブ類、ハチ類、ヨコバイ類などの各種飛翔害虫のほか、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、アリ類、コクヌストモドキ、コクゾウムシ、シバンムシ、ダンゴムシ、ワラジムシなどの匍匐害虫、及びケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ツメダニ等の屋内塵性ダニ類があげられるが、これらの害虫、ダニ類に限定されないことはもちろんである。 【0023】 つぎに具体的実施例ならびに試験例に基づいて、本発明の害虫、ダニ防除方法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。」 (キ)実施例1 「【0024】 メトフルトリン1.1w/v%とフェノトリン44.4w/v%をエタノールに溶解してエアゾール原液を調製した。このエアゾール原液9mLと液化石油ガス21mL[エアゾール原液/噴射剤比率:30/70(容量比)]を定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填して、本発明で用いる害虫、ダニ防除用エアゾールを得た。 このエアゾール原液におけるメトフルトリン/フェノトリンの配合比率は0.025/1であり、また、このエアゾールの噴射距離20cmにおける噴射力は6.4g・fで、10~50μmの噴霧粒子が全体の80%を占めた。 【0025】 ほぼ密閉した6畳の部屋中央で、前記エアゾールを1ショット当り0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧した。このエアゾールは、全体の噴霧粒子のうちの65%が噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着し、数日間、ゴキブリ類、アリ類やシバンムシ等の匍匐害虫に対して優れた防除効果を発揮するとともに、屋内塵性ダニ類を寄せ付けなかった。また、噴霧当日は7時間以上にわたり蚊等の飛翔害虫を防除することができ、非常に実用性の高いものであった。なお、このエアゾールは、一度に1.6mL(0.4mL×4)使用するとして、約20回分有効であった。」 (ク)実施例2 「【0026】 実施例1に準じて表1に示す各種害虫、ダニ防除用エアゾールを調製し、噴射距離20cmにおける噴射力を6.1g・fとして下記に示す試験を行った。屋内塵性ダニ類に対しては、まず駆除効果を調べ、駆除効果が乏しい場合、忌避効果を評価した。試験結果を纏めて表2に示す。 (1)匍匐害虫に対する駆除効果 20×20cmのガラス板合計12枚(チャバネゴキブリ用、ワモンゴキブリ用、及びクロヤマアリ用各4枚)を閉めきった25m3の部屋の4隅に設置し、各ガラス板の上に直径約20cmのプラスチックリングを置き、各リング内に所定の供試昆虫(チャバネゴキブリ:♀成虫5匹、ワモンゴキブリ:幼虫5匹、クロヤマアリ:5匹)を放って自由に徘徊させた。部屋の中央で、供試エアゾールを0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧した。 24時間放置して薬剤に暴露させた後、ガラス板と供試昆虫を含むリングごと別部屋に移し、餌を与え、更に24時間後に致死率を観察した。 (2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果 直径9cm、高さ6cmの腰高シャーレ8個(コナヒョウヒダニ用、及びケナガコナダニ用各4個)を閉めきった25m3の部屋の4隅に設置し、腰高シャーレ内に所定の供試ダニ各約200匹ずつ入れて供試した。部屋の中央で、供試エアゾールを0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧した。 24時間放置して薬剤に暴露させた後、致死率を観察した。 (3)屋内塵性ダニ類に対する忌避効果 上記「(2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果」試験において、供試ダニの替わりに直径約4cmの綿布を置き、供試エアゾール噴霧24時間後にこの綿布を取り出した。これを直径4cmのシャーレにはめ込み、その中央部に誘引用培地50mgを置いた。別に、直径9cmのシャーレに供試コナヒョウヒダニ、又はケナガコナダニを培地とともに約10000匹放ち、この中央部に先に用意した直径4cmのシャーレを置いた。同様に、処理しない綿布を用いて無処理区とした。24時間後に綿布上に侵入したダニ数を計数し、次式に従って忌避率を算出した。 忌避率(%)=[無処理区の侵入ダニ数-処理区の侵入ダニ数]/無処理区 の侵入ダニ数×100 (4)飛翔害虫に対する駆除効果 閉めきった25m3の部屋の中央で、供試エアゾールを0.4mLずつ、やや斜め上方4隅に向けて4ショット噴霧した。直ちに、アカイエカ雌成虫50匹を放ち2時間暴露させた後、全ての供試蚊を回収した。その間、時間経過に伴い落下仰転したアカイエカ雌成虫を数え、KT50値を求めた。同じ部屋で引き続き、噴霧7時間後についても同様な操作を行った。 (5)噴霧粒子の床面及び壁面付着量 25m3の部屋の床面及び壁面の数ケ所に20×20cmのガラス板を置き、噴霧処理1時間後に全てのガラス板を取り出し、付着した害虫防除成分をアセトンで洗い出してガスクロマトグラフィーにより分析した。得られた分析値を基に、噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着した害虫防除成分の、理論上の噴霧全体量に対する比率を求めた。 【0027】 【表1】 [図:0001384047000004.jpg] 【0028】 【表2】 [図:0001384047000005.jpg] 【0029】 試験の結果、害虫、ダニ防除成分として、(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである常温揮散性ピレスロイド化合物、好ましくは、メトフルトリン、プロフルトリン及びトランスフルトリンから選ばれた1種又は2種以上、(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分から選ばれた1種又は2種以上、並びに溶剤として(c)炭素数が2~3の低級アルコールを含むエアゾール原液と(d)噴射剤とからなり、(a)/(b)の配合比率が0.008/1~0.2/1で、且つ、エアゾール原液/噴射剤比率が20~50/50~80(容量比)であり、しかも定量噴霧用エアゾールバルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを用い、屋内で一定量空間噴霧処理することによって、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させる一方、飛翔害虫に対しては優れた害虫防除効果を7時間以上にわたり保持した。 これに対し、比較例1のように、害虫、ダニ防除成分として、(a)常温揮散性ピレスロイド化合物のみを用いると、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果が得られず、逆に、(b)難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分単独の場合(比較例2、比較例3)、飛翔害虫に対する防除効果が低いうえに、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果も本発明エアゾールに劣った。即ち、(a)常温揮散性ピレスロイド化合物と(b)難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分を組み合わせることによる相乗効果が認められた。 この相乗効果は、比較例4や比較例5で示されるように、(a)/(b)の配合比率が0.008/1~0.2/1の範囲から外れた場合や、(a)常温揮散性ピレスロイド化合物の替わりにd,d-T80-プラレトリンを用いた場合(比較例6)、観察されなかった。 また、噴射剤の比率が所定より高い比較例7は、害虫、ダニ防除成分の噴霧粒子が気中に長く残存するため、飛翔害虫に対して高い防除効果を示したものの、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果は低かった。一方、エアゾール原液の比率が所定より高い比較例8は、噴霧粒子が速やかに床面や壁面に沈降するため、匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対しては相応の防除効果を奏するものの、飛翔害虫に対する害虫防除効果は速やかに低下した。この傾向は、溶剤として2~3の低級アルコールではなくケロシンを用いた比較9においても認められた。 このように、その処理区域において匍匐害虫及び/又は屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させる一方、噴霧当日は飛翔害虫に対してその処理空間を防除可能な雰囲気とすることができるのは、本発明の害虫、ダニ防除方法のみであることが明らかとなった。」 イ 記載された発明 B-甲1において、「表1」に示す各種害虫、ダニ防除用エアゾールを調整して、「表2」に示す試験を行った、「実施例2」に示される「本発明」の「害虫、ダニ防除方法」(段落【0029】)に着目する。 段落【0026】の記載より、「実施例2」においては、「表1」に示す各種害虫、ダニ防除用エアゾールを、「実施例1」に準じて調整しているから、段落【0024】における記載のように、「エアゾール原液」と「噴射剤」とを「定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填」して、「害虫、ダニ防除用エアゾール」を得ていると、理解される。 段落【0024】ないし【0029】における「実施例1」及び「実施例2」に関する記載を通じて、噴霧は「0.4mLずつ」行われているから、「実施例1」及び「実施例2」で用いられる「定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器」は、段落【0025】に記載されるように、「1ショット当り0.4mLずつ」「噴霧」するものと、理解される。 「表1」における「害虫、ダニ防除用エアゾール」の成分、及び段落【0029】の記載から、「実施例2」における「本発明」の「1」ないし「7」では、「(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである常温揮散性ピレスロイド化合物」である「メトフルトリン」、「トランスフルトリン」、「プロフルトリン」、又は「メトフルトリン及びテラレスリン」と、「(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分から選ばれた」ものとして、「フェノトリン」、「シフェノトリン」、「ジノテフラン」、「安息香酸ベンジル」、又は「セバシン酸ジブチル」と、「溶剤(c)として低級アルコール」である「エタノール」又は「IPA」を含む「エアゾール原液」と、「(d)噴射剤」である「LPG」又は「LPG」及び「DME」とを、「定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填」していると、理解される。 その際、(a)/(b)の配合比率は、「表1」における「(a)/(b)」の数値から、「本発明」の「1」ないし「7」においては、「0.008/1」~「0.12/1」であると、理解される。 段落【0026】の記載から、「実施例2」においては、「噴射距離20cmにおける噴射力を6.1g・fとして」いると、理解される。 段落【0026】における「実施例2」での各試験についての説明において、「(1)匍匐害虫に対する駆除効果」、「(2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果」、「(4)飛翔害虫に対する駆除効果」のいずれにおいても、「25m3の部屋」で「0.4mLずつ」「4ショット噴霧」したと記載され、「(3)屋内塵性ダニ類に対する忌避効果」についても「上記「(2)屋内塵性ダニ類に対する駆除効果」試験において、供試ダニの替わりに直径約4cmの綿布を置き、供試エアゾール噴霧24時間後にこの綿布を取り出した。」と記載されていることから、「実施例2」においては、同様に「25m3の部屋」で行われたことが記載される「(5)噴霧粒子の床面及び壁面付着量」の試験も含めて、いずれの試験も「25m3の部屋」で「0.4mLずつ」「4ショット噴霧」したものと理解される。また、「実施例2」の各試験において、気中に噴霧される単位体積当たりの害虫、ダニ防除成分量は、直接明記されていないが、段落【0021】の記載も踏まえると、「実施例2」における「本発明」の「1」ないし「7」においては、「気中に噴霧される害虫、ダニ防除成分量は、0.5~50mg/m3程度」の範囲内と理解される。 段落【0026】における「(5)噴霧粒子の床面及び壁面付着量」についての記載、及び、「表2」中の「床面及び壁面付着量(%)」の数値から、「実施例2」の「本発明」においては、「噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着した害虫防除成分の、理論上の噴霧全体量に対する比率」が、「55」%から「72」%となると、理解される。 以上を整理すると、B-甲1には、各種の試験を行った「実施例2」中の「本発明」に着目して、次の発明(以下、「B-甲1発明」という。)が記載されている。 「(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである常温揮散性ピレスロイド化合物である、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、又はメトフルトリン及びテラレスリンと、 (b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分から選ばれた、フェノトリン、シフェノトリン、ジノテフラン、安息香酸ベンジル、又はセバシン酸ジブチルと、 (c)溶剤として低級アルコールであるエタノール又はIPAと、 を含むエアゾール原液と、 (d)噴射剤であるLPG又はLPG及びDMEとを、 (a)/(b)の配合比率を0.008/1~0.12/1として、 1ショット当り0.4mLずつ噴霧する定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填した、害虫、ダニ防除用エアゾールを、 噴射距離20cmにおける噴射力を6.1g・fとして、 25m3の部屋に4ショット噴霧して、気中に噴霧される害虫、ダニ防除成分量は、0.5~50mg/m3程度とし、 噴霧処理1時間後までに床面に沈降するか、もしくは壁面に付着した害虫防除成分の、理論上の噴霧全体量に対する比率が、55%から72%となる、 害虫、ダニ防除方法。」 (9)B-甲2 B-甲2には、次の記載がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、家屋内で発生する害虫、臭い、細菌、カビ等による被害を除去、消臭、除菌、防黴する室内処理剤として、有効成分、溶剤を含む原液と噴射剤からなる内容物を容器より短時間で全量噴射する全量噴射型エアゾールの噴霧処理方法に関するものである。」 イ 「【0011】 【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を以下に説明する。エアゾール包装容器に充填するエアゾール内容物は、有効成分、溶剤及び噴射剤からなり、有効成分として、殺虫剤、忌避剤、殺ダニ剤等の害虫防除成分、消臭剤、芳香性消臭剤、中和・マスキング芳香剤等の消臭成分、防菌剤、防黴剤等の防菌・防黴成分から選ばれた、少なくとも2種以上の異種成分の組み合わせからなっている。 【0012】例えば、害虫防除成分と、消臭成分、防菌成分、防黴成分等から選ばれた1種以上の組み合わせ、または消臭成分、防菌成分、防黴成分等から選ばれた2種以上の組み合わせが挙げられる。 【0013】なお、各有効成分と他の組み合わせ成分としては、密閉空間、例えば、一般家庭の部屋、食堂、病室、自動車の車内等のように衛生管理を必然視した限定された空間の処理目的に合わせ、しかも処理が全量噴射であることから、安全性に充分留意して選択することが重要である。 【0014】次に上記各成分の薬剤のいくつかを例示する。 【0015】害虫防除成分の殺虫剤としては、安全性が高いことからピレスロイド系化合物を用いることが好ましい。その代表的なものとして、アレスリン、dl・d-T80-アレスリン、dl・d-T-アレスリン、d・d-T-アレスリン、d・d-T80-プラレトリン、レスメトリン、dl・d-T80-レスメトリン、エンペントリン、テラレスリン、トランスフルトリン、フタルスリン、dl・d-T80-フタルスリン、フラメトリン、ペルメトリン、フェノトリン、イミプロスリン、フェンバレレート、シペルメトリン、シフェノトリン、エトフェンプロックス、テフルスリン、フェンプロパトリン、フェンフルスリン等が例示できる。 ・・・(中略)・・・ 【0025】エアゾール包装容器に充填する原液中の溶剤としては、有効成分の溶解性が高く、毒性の低いものが好ましい。例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル類、炭化水素系溶剤、さらに水等が挙げられる。」 ウ 「【0042】[実施例22~27、比較例15,16]これらはチャバネゴキブリに対する致死効果と共に、噴霧された有効成分の落下率と、消臭、除菌効果を調べたもので、この各実施例及び比較例を表4に示す。 【0043】 【表4】 [図:0001384047000006.jpg] 【0044】[有効成分落下試験方法]広さ8畳の無風恒温(25℃)の試験室において、部屋の中央と四隅の計5個所に濾紙(直径24cm)を設定し、各供試剤を全量(70ml)噴射した。噴射30分後に濾紙を回収し、ソニック抽出し、ガスクロマトで害虫防除成分を定量分析する。得られた定量値及び5枚の濾紙面積の合計と、試験室の床面積の比較により害虫防除成分の推定落下量(床面全体)が得られる。噴射前に1缶中に含有していた有効成分薬剤量を100%として推定落下率を求める。 ・・・(中略)・・・ 【0048】これは、有効成分を有する内容物の噴射量及び噴霧粒子の平均粒子径を適切な範囲にすることで、有効成分の拡散及び均一分布がなされ、かつ、適度な時間に有効成分が落下することが可能になると考えられる。ゴキブリ駆除の場合、有効成分が落下しないと十分な駆除効果を得ることができない。 ・・・(中略)・・・ 【0050】ダニ駆除の場合も、有効成分が落下しないと十分な駆除効果を示すことができず、これについても、内容物の噴射量及び噴霧粒子の平均粒子径を適切にすると拡散性の確保と適度な時間での有効成分の落下が可能であると考える。 ・・・(中略)・・・ 【0053】(4)表4には害虫防除成分、消臭成分、防菌成分からなる全量噴射型エアゾールの噴霧処理方法について、有効成分粒子の落下状態を調べると共に、消臭効果、除菌効果、害虫防除(ゴキブリ)効果も合わせて確認した。 【0054】その結果、内容物の噴射量が1m3当たり0.05ml以上で、噴霧粒子の平均粒子径が9~30μmの範囲のもの[実施例22~27]では、害虫防除成分の落下率が70%以上であった。しかも、この範囲[実施例22~27]では、範囲外[比較例15,16]に比べいずれも良好な消臭効果、除菌効果及び害虫防除効果を示した。」 (10)B-甲3 B-甲3には、次の記載がある。 ア 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで、エアゾール製品の効果は、常に使用者の満足できるものとは限らず、生活環境の変化、さらには法律上の規制等によって変化している。その為に、従来よりも優れたエアゾール製品の開発が強く要望されている。 【0005】 しかしながら、従来の害虫防除用のエアゾール製品を使用して、内容物をゴキブリ等の害虫に噴射したとしても、害虫は素早く移動してしまうため、多くの使用者は、害虫をノックダウンするまで内容物を無駄に噴射し続けることとなる。このことは、従来のエアゾール製品では、噴射ボタンを押す時間により内容物の噴射量が左右されるためと考えられる。このように、従来のエアゾール製品を使用すると、大量の内容物を無駄に使用することになる。 【0006】 本発明は、このような不都合を解消するためになされたものであり、その目的は、内容物の無駄を減らすことができると共に、害虫防除効率を向上することができる害虫防除方法を提供することにある。」 イ 「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明の上記目的は、下記構成によって達成される。 (1) 予め設定された定量を勢いよく噴霧できる機能を有するエアゾール製品の内容物の噴霧状態下で、害虫を防除することを特徴とする害虫防除方法。 (2) エアゾール製品は、1回の噴霧操作で定量の前記内容物を勢いよく噴霧することを特徴とする(1)に記載の害虫防除方法。 (3) 内容物は、殺虫剤を含むことを特徴とする(1)又は(2)に記載の害虫防除方法。」 ウ 「【発明の効果】 【0008】 本発明の害虫防除方法によれば、予め設定された定量を勢いよく噴霧できる機能を有する内容物(以下、エアゾール薬剤という。)の噴霧状態下で、害虫を防除するため、エアゾール薬剤の無駄を減らすことができると共に、害虫防除効率を向上することができる。 【0009】 また、本発明の害虫防除方法によれば、予め設定された定量のエアゾール薬剤を勢いよく噴霧できるため、害虫にエアゾール薬剤を噴霧する際に手ぶれなどで狙いを外したり、害虫が狙いをつけた位置から逃げ始めたりした場合でも、害虫を追ったり、害虫の周囲を狙ったりしながらエアゾール薬剤を連続噴霧する必要がなく、適量のエアゾール薬剤で害虫を素早く防除することができる。これにより、エアゾール薬剤の無駄を減らすことができると共に、害虫防除効率を向上することができる。」 エ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0010】 以下、本発明に係る害虫防除方法の一実施形態を詳細に説明する。 【0011】 本発明に係る害虫防除方法に使用するエアゾール製品は、予め設定された定量を勢いよく噴霧できる機能を有するエアゾール剤容器に、主に原液と噴射剤とからなるエアゾール薬剤を充填したものである。なお、本発明において「勢いよく」とは、噴射力を目安とするものである。 【0012】 エアゾール剤容器は、予め設定された一定量のエアゾール薬剤を所望の空域に勢いよく噴霧するための定量噴霧機能(バルブ、操作ボタン等)を有している。この定量噴霧機能としては、本実施形態では、バルブ内に定量室を設け、ステムを押し下げると定量室と内容液とが遮断され、さらにステムを押し下げると定量室とステム孔とが開通する定量バルブを採用する。また、定量噴霧機能には、アチュエータ内に定量室を設けたアクチュエータ付きバルブ等を採用してもよい。なお、定量噴霧機能は、一回の操作で定量のエアゾール薬剤を勢いよく噴霧できる機能であれば、その方式は特に限定されない。また、定量噴霧機能の操作は、従来の上から押し込むタイプの操作ボタンでもよいが、操作性の観点から、トリガータイプの方が好ましい。 【0013】 定量を勢いよく噴霧する時の一回の噴霧量、即ち、定量バルブの定量室の容積は、1.0~15.0mlが好ましく、3.0~10.0mlがより好ましい。また、噴霧距離100cmにおける平均粒子径(D50)は、用途が空間用・塗布用により違いがあるが、50~100μmが好ましい。なお、上記数値範囲は、本発明を達成できるものであれば任意であり、特に限定されない。 【0014】 また、定量を勢いよく噴霧する時の噴霧速度は、3.0ml/s以上が好ましい。なお、上記数値範囲は、本発明を達成できるものであれば任意であり、特に限定されない。 【0015】 さらに、定量を勢いよく噴霧する時の噴射力は、噴霧距離5cmにおいて、0.25~1.40Nが好ましく、0.50~1.30Nがより好ましい。このため、定量バルブのステム孔は口径0.3~3.5mm×2が好ましく、1.2~3.5mm×2がより好ましい。また、定量バルブのハウジングのアンダータップ径は、1.5~6.5mmが好ましく、2.2~6.5mmがより好ましい。さらに、定量バルブの噴口径は、1.0~5.0mmが好ましく、1.5~3.5mmがより好ましい。なお、上記バルブの数値範囲は、本発明を達成できるものであれば任意であり、特に限定されない。また、本実施形態では、定量バルブの機構により噴霧速度及び噴射力を上記数値範囲に調節するが、これに限定されず、エアゾール剤容器の内圧により調節してもよい。」 (11)B-甲4 B-甲4には、次の記載がある。 ア 「【背景技術】 【0002】 一般に、エアゾル殺虫剤は、内容成分を微粒子として空気中に噴霧し、エアゾル状態をつくるものであり、内容成分として殺虫成分を含有している。 【0003】 このようなエアゾル殺虫剤は、弁付きの容器内に殺虫有効成分およびその溶剤と噴射剤とを保持しており、弁開放時の噴霧による飛距離が長い場合でも3~4m、通常は2~3mである。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかし、上記した従来のエアゾル殺虫剤では、噴霧による飛距離が長い場合でも3~4mであり、5mを超えるような高い飛距離性能のエアゾル殺虫剤にすることは困難であった。 【0007】 なぜなら、噴射剤であるガスまたは液化ガス剤によるガス圧を高くしたり、噴霧孔の径を調整しても5mを超える遠くまで飛散できるような物理的エネルギーを持った液体粒子を形成することは困難であり、飛散する間には空気との接触で蒸発したり、空気抵抗を受けて粒子が分割されたりして粒子径が小さくなり、噴霧粒子の飛散距離は制限されるからである。 【0008】 また、粒子径が小さくなると大型昆虫に対する殺虫効果もそれだけ低下してしまう。 特に、近年、生息環境の変化により人との接触機会が増えて被害が多発しているハチ類、特にスズメバチに対する駆除をエアゾル殺虫剤で行なうには、このようなハチの攻撃行動について、ヒトが巣の周囲5m以内に近づくと起こるという知見から、噴霧有効距離が5m以上であることが安全のために必要であるにも拘らず、そのようなハチの行動に対処できるエアゾル殺虫剤が存在しなかった。 【0009】 また、エアゾル殺虫剤は噴霧できる距離が5m以上であっても殺虫成分を含んだ粒子径がある程度の大きさを保って駆除対象生物に付着しなければ、いわゆるノックダウンと称される即効性が発揮され難く、そのような条件は、ハチ類に対する駆除作業の安全性にも関わる。 【0010】 そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、噴霧粒子の飛散距離が5mを超えるエアゾル殺虫剤であり、しかも充分な量の殺虫有効成分を大型のハチなどの駆除対象に付着させることのできる殺虫即効性に優れたエアゾル殺虫剤とすることである。」 ウ 「【課題を解決するための手段】 【0011】 上記の課題を解決するために、この発明においては、殺虫有効成分およびその溶剤と噴射剤とを含有する液体を弁付き容器に封入してなり、前記噴射剤の圧力によって液体を弁からエアゾル状態に放出可能なエアゾル殺虫剤において、前記液体が、粘度(20℃)0.002~0.004Pasであり、比重(20℃)0.76~0.80であるように調整された液体であることを特徴とするエアゾル殺虫剤としたのである。 ・・・(中略)・・・ 【0020】 この発明のエアゾルは、主に溶剤と殺虫有効成分と噴射剤とを含有する液体を具備し、さらにこれらを加圧充填できる容器と、ここから所定量を所望の空域にスプレーするための周知の手段(バルブ、操作ボタンなど)とを具備している。 【0021】 そして、溶剤と殺虫有効成分と噴射剤とを含有する液体は、(a)粘度(20℃)が0.002~0.004Pasであり、かつ(b)比重(20℃)0.76~0.80であり、好ましくは(c)引火点が70℃以上であるように調整される。 【0022】 上記の(a)粘度の数値範囲を限定する理由は、昆虫類、特にハチ類の行動が活発な温度帯域として平均的な20℃における粘度として、0.002~0.004Pasという所定範囲未満の低粘度では、噴霧された液体粒子が空気抵抗を受けた際に、粒子が分割されやすくなり、微細な粒子では空気抵抗により失速して到達距離が5m未満のものが多くなって好ましくないからである。また、前記所定範囲を超える高粘度では、噴射剤の圧力によって噴射された際に、必要以上に大粒径の粒子になって所定の噴射エネルギーを受けても初速が小さくなり、飛行中には重力の影響を大きく受けて、飛距離が1~2m程度の短い距離で落下する、いわゆる「ボタ落ち」という現象が起こりやすくなって好ましくない。 【0023】 また、前記の(b)比重(20℃)を0.76~0.80の所定範囲に限定する理由は、前記所定範囲未満の低比重では、噴霧された所要粒径(好ましくは飛距離20cmにおける平均粒子径が21~29μm)の液体粒子に適量の運動エネルギーを保持できず、失速しやすくなって到達距離が5m未満のものが多くなって好ましくない。また、前記所定範囲を超える大比重では、噴霧された所要粒径の液体粒子の重量が過大になり初速度が小さくなって、飛距離が1~2m程度の短い距離で落下する、いわゆる「ボタ落ち」という現象が起こりやすくなって好ましくない。」 第6 当審の判断 1 取消理由に採用した特許異議申立理由について 取消理由に採用した特許異議申立理由は、本件特許の請求項1ないし6及び8ないし9に係る発明について、A-甲1を主たる引用文献とした新規性及び/又は進歩性の欠如である(上記第4の1(3)、(4)及び上記第4の3(1)、(2))。 以下、A-甲1を主たる引用文献とした新規性及び進歩性について、判断する。 (1)本件訂正発明1について ア A-甲1発明との対比 本件訂正発明1とA-甲1発明とを対比する。 (ア)A-甲1発明における「匍匐害虫を駆除する殺虫有効成分」である「シフェノトリン」は、匍匐害虫を駆除する効果を有するとともに、ダニに対する忌避効果を有することが技術常識から明らかであること、及び、本件明細書における「防除成分」の具体例とされる薬剤であること(上記第3の2(6)及び(7)に摘記した段落【0016】及び【表1】中の「実施例12」)をふまえると、本件訂正発明1における「害虫、ダニ」に対する「防除成分」に相当する。 A-甲1発明における「殺虫有効成分が溶解する溶剤」である「ミリスチン酸イソプロピル(IPM)」は、本件訂正発明1における「有機溶剤」に相当する。 A-甲1発明において、「殺虫有効成分及び溶剤」である「液体」は、本件訂正発明1における「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液」に相当する。 A-甲1発明における、「噴射剤」である「液化石油ガス(LPG)」は、本件訂正発明1における「噴射剤」に相当する。 A-甲1発明において、「匍匐害虫駆除用エアゾール製品1」が有する「エアゾール容器10、押し下げ式の操作ボタン(噴射ボタン)20のボタン本体21、定量噴射バルブ機構、ノズル部23」は、本件訂正発明1における「定量噴射バルブを備えたエアゾール容器」に相当する。 A-甲1発明において、「エアゾール容器10」に「匍匐害虫を駆除する殺虫有効成分と、殺虫有効成分が溶解する溶剤と、噴射剤とを、内容物として収容」した「匍匐害虫駆除用エアゾール製品1」は、本件訂正発明1において、「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤」を「定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾール」に相当する。 A-甲1発明において、「匍匐害虫駆除用エアゾール製品1を用いて、内容物を噴射する、匍匐害虫駆除方法」は、本件訂正発明1において、「害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法」に相当する。 (イ)A-甲1発明において、「定量噴射バルブ機構」の一回当たりの噴射容量は直接明示されていないが、「操作ボタン20の1回の操作」で噴射される「噴射剤以外の液体(殺虫有効成分及び溶剤)」(当審注;以下、「液体」と略す。)と「噴射剤」との合計容量は、下記aないしiより、計算すると約1.7mlとなる。 a 「操作ボタン20の1回の操作」による「液体」の「噴射量」は、「0.2ml」である。 b 「殺虫有効成分」である「シフェノトリン」の「操作ボタン20の1回の操作による殺虫有効成分の噴射量であるAi量」は、「10mg」である。 c 「シフェノトリン」の比重は、上記第4の2(4)に摘記したA-甲4の記載に示されるとおり「1.083」であるから、「液体」の噴射量「0.2ml」のうち「シフェノトリン」の体積相当量は、「10mg」をg換算して「1.083」で除算した値(ml)、すなわち(10/1000)×(1/1.083)となり、計算すると約0.00923mlとなる。 d 「0.2ml」の「液体」のうち、「溶剤」である「ミリスチン酸イソプロピル(IPM)」の体積相当量は、「液体」の噴射量「0.2ml」から、シフェノトリンの体積相当量である上記cの値を減算した値となり、計算すると約0.191mlとなる。 e 「ミリスチン酸イソプロピル(IPM)」の比重は、上記第4の2(6)に摘記した文献6に示されるとおり「0.85」であるから、「0.2ml」の「液体」中で、「溶剤」である「ミリスチン酸イソプロピル(IPM)」が有する重量は、上記dの体積相当量に0.85を乗算した値となり、計算すると約0.162gとなる。 f 「0.2ml」の「液体」の重量は、「シフェノトリン」の「Ai量」である「10mg」と、上記eの「ミリスチン酸イソプロピル(IPM)」が有する重量とを、加算した値となり、計算すると約0.172gとなる。 g 「0.2ml」の「液体」とともに、「操作ボタン20の1回の操作」で噴射される「噴射剤」の重量は、上記fの「2ml」の「液体」の重量と、「液体(殺虫有効成分及び溶剤):噴射剤の重量比率である液ガス比」である「16:84」とから、上記fの値を84/16倍した値となり、計算すると約0.903gとなる。 h 「噴射剤」である「液化石油ガス(LPG)」の比重は、上記第4の2(7)に摘記した文献7に示されるとおり「0.6」であるから、「操作ボタン20の1回の操作」で噴射される「噴射剤」の体積相当量は、上記gの重量を(1/0.6)倍した値となり、計算すると約1.51mlとなる。 i 「操作ボタン20の1回の操作」で噴射される「液体」と「噴射剤」との合計容量は、「液体」の容量「0.2ml」と、上記hの「噴射剤」の体積相当量との合算となり、計算すると約1.7mlとなる。 A-甲1発明においては、「操作ボタン20の1回の操作」で噴射される「液体」と「噴射剤」との合計容量が、計算すると約1.7mlとなるため、A-甲1発明は、本件訂正発明1において「定量噴射バルブ」の「1回当たりの噴射容量」が「1.0mL」である構成に相当する構成を有さない。 (ウ)A-甲1発明において、「匍匐害虫を駆除する殺虫有効成分」が「シフェノトリン」であることは、本件明細書において、「シフェノトリン」が「30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物」である「防除成分」の「実施例12」として用いられていることをふまえると、本件訂正発明1において、「前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物」である構成に相当する。 (エ)A-甲1発明において、「噴射剤以外の液体(殺虫有効成分及び溶剤)」の比重は直接明示されていないが、上記(イ)fで示したとおり、「0.2ml」の「液体」の重量が「0.172g」となることから、0.172/0.2で、約0.86となる。 A-甲1発明において、「液体(殺虫有効成分及び溶剤)」の比重が約0.86となることは、本件訂正発明1において、「前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15」である構成に相当する。 (オ)A-甲1発明において、「操作ボタン20の1回の操作による殺虫有効成分の噴射量であるAi量」である「10mg」が、「容積が5.82m3であるピートチャンバー100内」に拡散すると仮定した場合の、単位体積当たりの殺虫有効成分の噴霧量は、「10mg」/「5.82m3」で、約1.72mgとなる。またA-甲1発明において、同「10mg」の殺虫有効成分が、壁と家具とで形成される隙間のみに拡散すると仮定した場合、壁と3つの家具との隙間は、左に配置されている家具と側面の壁の間及び家具と家具との間の5cm×160cm×52cm×3、及び3つの家具と背面の壁との隙間の5cm×160cm×(52cm×3+5cm×2)となり、壁と家具との隙間の体積はm単位で約0.258m3(0.05×1.6×(0.52×6+0.05×2))となるから、単位体積当たりの殺虫有効成分の噴射量は、「10mg」/「0.258m3」で約38.8mgとなる。 A-甲1発明において、噴射を「室内に全体的に」行うことは、本件訂正発明1において、「前記噴射処理において屋内空間の気中に」「エアゾール原液を噴射」することに相当する。 またA-甲1発明において、噴射を「室内に全体的に」行う場合について、殺虫有効成分の単位体積当たりの噴射量は明示されていないが、家具の隙間に噴射した殺虫有効成分が部屋全体すなわちピートチャンバー全体に拡散した場合と、家具の隙間に噴射した殺虫有効成分が家具の隙間のみに拡散した場合のいずれについても、単位体積当たりの殺虫有効成分の噴射量は、本件訂正発明1における「0.1~50mg/m3」の範囲内となることから、A-甲1発明において「室内に全体的に」噴射する場合の殺虫有効成分の噴射量も、単位体積当たりでは、本件訂正発明1における「0.1~50mg/m3」の範囲内であることは明らかである。 (カ)以上を整理すると、A-甲1発明と本件訂正発明1とは、 「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、 前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、 前記エアゾール原液の比重は、0.85~1.15であり、 前記噴射処理において屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射する、 害虫、ダニ防除方法。」 で一致し、次の点で相違する。 <相違点> ・相違点1 「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」、及び「噴射力」に関し、 本件訂正発明1では、「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」が「1.0mL」と特定されるとともに、「噴射力」が「噴射距離5cmにおいて10~50gf」と特定されているのに対し、 A-甲1発明では、「定量噴射バルブ機構」の「操作ボタン20の1回の操作」による「噴射量」が1.0mLではなく、噴射距離5cmにおける噴射力が不明である点。 ・相違点2 噴射後の防除成分に関し、 本件訂正発明1では、「噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上を前記屋内空間の床面全体に拡散させて付着させる」と特定されているのに対し、 A-甲1発明では、噴射から1時間後までの床面への拡散および付着状況が特定されていない点。 イ 相違点についての判断 (ア)相違点1について a 相違点1に係る本件訂正発明1の構成について 上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成に関し、上記第3の2(6)に摘記した本件明細書の段落【0022】には、「噴射後の噴霧粒子は、処理空間に浮遊する浮遊性粒子、もしくは処理空間内の露出部に付着する付着性粒子として形成されるが、本発明者らは、付着性粒子を一層優占的となし、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めるための検討を行った。その結果、本発明者らは、エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力が、沈降に関わる付着性粒子の挙動を決定する重要なファクターであることを知見し、それらの最適な範囲を特定するに至った。即ち、エアゾール原液の比重が0.85~1.15、好ましくは0.89~1.10であり、噴射処理の噴射力が噴射距離5cmにおいて10~50gf、好ましくは15~35gfであれば、噴射から1時間後までに防除成分の60%以上が屋内空間の床面全体にわたり沈降・付着し、匍匐害虫、及びダニに対する優れた防除効果を奏し得ることを確認できたのである。・・・(中略)・・・エアゾール原液の比重が0.85未満であると、噴霧粒子の床面への付着量が不足する傾向があり、エアゾール原液の比重が1.15を超えると、逆に噴霧粒子の沈降が速やか過ぎて床面全体への拡散性が不十分となる。また、噴射処理の噴射力が10gf未満であると、噴射力が不足して床面全体への拡散性が不十分となる傾向があり、噴射力が50gfを越えても良好な拡散性が得られない。なお、エアゾールの噴射力は、エアゾール原液の処方、エアゾールの内圧、噴口の形状等を変更することで、適宜調整することができる。」と記載されており、上記相違点1に係る本件訂正発明1の「噴射力」は、床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めるのに適した比重としたエアゾール原液について、良好な拡散性を得るために選択された数値範囲であると理解される。 また、上記第3の2(7)に摘記した本件明細書の段落【0033】ないし【0035】には、表1において「エアゾール原液(a)(の調整)」、「噴射剤(b)」、「(エアゾール原液の)容量比率((a)/(a+b))」、「(エアゾール原液の)比重」等のパラメータが同じである「実施例2」と「比較例2」とについて、「噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブ付きエアゾール容器」を用いた「実施例2」においては、「噴射距離5cmにおける噴射力」は「26gf」(表1中の噴射力(gf/5cm)の値が「26」)であるのに対し、「噴射容量が0.4mLである定量噴射バルブ付きエアゾール容器」を用いた「比較例2」においては、表1中の「噴射力(gf/5cm)」の値が「6.4」であることが示されている。このことから、相違点1に係る本件訂正発明1の構成である「定量噴射バルブ」の「噴射容量」と「噴射力」とは、相互に関連するパラメータとして、両者の値が特定されているものと理解される。 b A-甲1発明における蓋然性、及び動機付け これに対し、A-甲1における「実施例2」に着目して認定したA-甲1発明においては、「噴射された粒子が広範囲に飛んで」いくよう「噴射剤がリッチな処方」としているものの、噴射距離5cmにおける噴射力の値は不明であるとともに、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」については、計算すると上記ア(イ)のとおり約1.7mlとなり、本件訂正発明1における「1.0mL」とは異なる。 ここで、A-甲1において、「液ガス比」を除く「処方」が「実施例2」と同じである「実施例1」及び「実施例3」について、上記ア(イ)及び(エ)と同様の計算を行うと、「実施例1」及び「実施例3」における「定量噴射バルブ」の「噴射容量」は、それぞれ約3.5mL及び約0.87mLとなり、「エアゾール原液比重」は「実施例2」を基礎としたA-甲1発明と同様となる。このことから、A-甲1発明において、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」を約1.7mLに固定する必要があるものではないと、理解される。 しかしながら、A-甲1発明において、「噴射された粒子が広範囲に飛んで」いくよう「噴射剤がリッチな処方」とするからといって、「噴射剤がリッチな処方」とした実施例1ないし3の全てで、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」が約0.87mL、約1.7mL、及び約3.5mLと変わるにもかかわらず、「噴射距離5cmにおける噴射力」を「10~50gf」の範囲内に調整している蓋然性が高いということはできない。また、A-甲1発明において、実施例1ないし3における「液ガス比」の範囲内で、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」の計算値が「1.0mL」となる「液ガス比」を選択した際に、既に「噴射剤がリッチな処方」という条件を満たしているところ、さらに「噴射距離5cmにおける噴射力」を「10~50gf」の範囲内に調整する動機付けがあるということはできない。 そして、A-甲1中のその余の実施例を参照しても、A-甲1発明において、エアゾール原液の比重を本件訂正発明1に相当する範囲に維持したまま、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」を「1.0mL」とし、かつ「噴射距離5cmにおける噴射力」を「10~50gf」の範囲内に調整して、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至ることが、記載あるいは示唆されていたということはできない。 c A-甲2ないしA-甲7について A-甲2には、上記第5の2(2)に摘記した事項が記載されているが、A-甲2は、本件明細書において「空間定量噴射処理」の「背景技術」とされる「特許文献2」の特許公報であり、同「特許文献2」である後記B-甲1と同様に、A-甲1発明において、エアゾール原液の比重を本件訂正発明1に相当する範囲に維持したまま、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」を「1.0mL」とし、かつ「噴射距離5cmにおける噴射力」を「10~50gf」の範囲内に調整することを、示唆するものではない。 A-甲3ないしA-甲7には、上記第5の2(3)ないし(7)に摘記した事項が記載されているが、「匍匐害虫」が「ダニ」を含むことを示すか、あるいは、A-甲1中で殺虫有効成分、溶剤または噴射剤として用いられる物質についての比重を物性値として示すにとどまり、いずれもA-甲1発明において、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることを記載あるいは示唆するものではない。 d B-甲1ないしB-甲4について B-甲1には、上記第5の2(8)アに摘記した事項、及び同イに認定したB-甲1発明が記載されているが、上記相違点1に係る本件訂正発明1における「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」及び「噴射力」の組合せを示すものではない。 B-甲2ないしB-甲4には、それぞれ上記第5の2(9)ないし(11)に摘記した事項が記載されており、害虫防除成分の落下率に関する記載、定量を勢いよく噴霧するときの定量バルブの容量及び噴射力に関する記載、あるいはエアゾル殺虫剤の比重に関する記載も含まれるが、B-甲2は「内容物を容器より短時間で全量噴射する全量噴射型エアゾールの噴霧処理方法」に関するものであり、B-甲3は「害虫にエアゾール薬剤を噴霧する際に手ぶれなどで狙いを外したり、害虫が狙いをつけた位置から逃げ始めたり」することをふまえて、「エアゾール薬剤を勢いよく噴霧」するものであり、B-甲4はハチ等に対して安全な距離から噴霧を行うことを目的とし、エアゾルの噴霧有効距離を5m以上とするものであるから、いずれもA-甲1発明において、上記相違点1に係る本件訂正発明1における「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」及び「噴射力」の組合せを採用することを記載あるいは示唆するものではない。 e 相違点1についての小括 したがって、A-甲1発明において、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、A-甲2ないしA-甲7、及びB-甲1ないしB-甲4に記載される事項を考慮しても、当業者にとって容易に想到することができたものではない。 (イ)本件訂正発明1についての小括 上記相違点1に係る構成が想到容易でないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、A-甲1発明を主たる引用発明として、A-甲2ないしA-甲7、及びB-甲1ないしB-甲4に記載される事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ 申立人の主張について 上記相違点1について、申立人Aは、令和3年11月5日受付の意見書において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成のうち、「噴射力」が「噴射距離5cmにおいて10~50gf」である点は、取消理由通知において、実質的な相違点でないとされた点であるから、実質的な相違点は、「定量噴射バルブ」の「1回当たりの噴射容量」が、本件訂正によって訂正された「1.0mL」である点である旨を主張している(同意見書中、「第3」の「1」参照)。そして申立人Aは、A-甲1には、段落【0044】に、操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の液体の噴射量を0.1ml以上0.4ml以下にすることも記載されているところ、操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の液体の噴射量が0.2mlであるA-甲1発明(文献1発明)において約1.7mlと計算される噴射容量は、噴射剤以外の液体の噴射量を0.1ml以上0.4ml以下とした場合には、約0.85~約3.4mlとなるから、本件訂正により訂正された噴射容量「1.0ml」との点はA-甲1発明において取ることができる範囲内であり、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成は設計事項である旨を主張している(同意見書中、「第3」の「2」)。 申立人Aの上記主張は、A-甲1発明において、「操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の液体の噴射量」の「0.2mL」を「0.1mL以上0.4mL以下」とすれば、噴射容量の「約1.7mL」は「約0.85~約3.4mL」となるとする点で、上記ア(イ)のとおり、「操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の液体の噴射量」である「0.2mL」のほかに、「操作ボタン20の1回の操作による殺虫有効成分の噴射量」として各実施例において指定される「Ai量」も用いて計算されるべき、定量噴射バルブの噴射容量について、「Ai量」を考慮せず「操作ボタン20の1回の操作による噴射剤以外の液体の噴射量」のみに比例した換算を行っていると思われ、厳密さを欠く。ただし、上記イ(ア)bに示したとおり、A-甲1の実施例1及び実施例3について上記ア(イ)と同様の計算を行うと、定量噴射バルブの噴射容量はそれぞれ約3.5mL及び約0.87mLとなるから、A-甲1発明において、定量噴射バルブの噴射容量を1.0mLとすることのみを個別に見れば、申立人Aが主張するように、A-甲1の実施例1ないし3が示す噴射容量の範囲内における選択ということができる。 しかしながら、本件訂正発明1が採用する「エアゾール原液の比重」、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」、及び「噴射力」は、上記イ(ア)aに示したとおり、従来技術に対して床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めるとともに良好な拡散性も得るという課題を解決するために、相互に関連するパラメータとして選択されたものである。そして、上記イ(ア)bに示したとおり、A-甲1発明において、エアゾール原液の比重を本件訂正発明1に相当する範囲に維持したまま、「定量噴射バルブ」の「噴射容量」を「1.0mL」とし、かつ「噴射距離5cmにおける噴射力」を「10~50gf」の範囲内に調整することが、A-甲1中に記載あるいは示唆されていたということはできない。 したがって、上記申立人Aの主張について検討しても、A-甲1発明を主たる引用発明とした本件訂正発明1の容易想到性については、上記イのとおり判断されるべきものである。 (2)本件訂正発明2ないし6及び8について 本件訂正発明2ないし6及び8は、本件訂正発明1の構成を全て有し、さらに限定したものである。 上記(1)のとおり、A-甲1発明において、本件訂正発明1の構成に至ることは、本件異議申立におけるその他の証拠について検討しても、当業者が容易に想到できたものではないから、本件訂正発明2ないし6及び8も、A-甲1発明において、A-甲2ないし甲7及びB-甲1ないし甲4に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到できたものではない。 (3)本件訂正発明9について 本件訂正発明9は、方法の発明である本件訂正発明1を、物の発明として特定したものであり、実質的な内容に変更はない。 A-甲1発明は、「匍匐害虫駆除用エアゾール製品1」を用いる方法の発明であるから、実質的に同内容の物の発明としても把握し得る。 本件訂正発明9とA-甲1発明から把握し得る物の発明とを対比すると、両者は、本件訂正発明1とA-甲1発明との上記相違点1及び2と同様の点で相違する。 そして、本件訂正発明1とA-甲1発明との上記相違点1について判断したと同様の理由で、本件訂正発明9は、A-甲1発明において、たとえA-甲2ないし甲7及びB-甲1ないし甲4に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたのではない。 (4)小括 よって、本件訂正発明1ないし6及び8ないし9は、A-甲1を主たる引用文献とした、取消理由通知に採用した特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。 2 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について (1)明確性要件について 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち、明確性要件(上記第4の1(1))について、判断する。 ア 申立人Aの具体的主張 申立人Aは、本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、いずれも「害虫、ダニ防止用エアゾールの噴射力は、噴射距離5cmにおいて10~50gfであり」との構成を有するところ、この「噴射力」については、特許請求の範囲にも明細書にも測定方法が全く記載されていないし、「噴射距離5cm」の「噴射力」の測定方法が本件特許の優先日又は出願日当時の技術常識に基づき定められるものでもないから、ある具体的な方法や物がその技術的範囲に入るか否かを当業者が理解できるようになっておらず、すなわち、第三者の利益が不当に害されるほどに特許発明の技術的範囲が不明確となっていることが明らかであり、請求項1ないし9に係る発明についての本件特許は、いずれも明確性要件違反である旨を主張している(申立書A第9頁第13行-第10頁第1行)。 イ 判断基準 特許法第36条第6項第2号の趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合に、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 ウ 判断 本件訂正発明1ないし9における「噴射力」は、請求項1及び9において、「一回当たりの噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブを備えたエアゾール容器」を用いることが記載されたうえで、「噴射距離5cmにおいて10~50gfであり、」と特定されているから、エアゾール容器の、「一回当たりの噴射容量が1mL」程度である「定量噴射バルブ」から噴射される噴射力を、「5cm」という直近の距離において、「gf」という単位の力として計測した値であることが、特許請求の範囲の記載から明確である。 また、本件訂正発明1ないし9について、特許請求の範囲におけるその記載も含めて、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに記載が不明確となっている点はない。 したがって、上記申立人Aの具体的主張について検討しても、本件訂正発明1ないし9は明確であり、これらの発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 (2)サポート要件について 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち、サポート要件(上記第4の1(2))について、判断する。 ア 申立人Aの具体的主張 申立人Aは、概略次の内容を主張している(申立書A第10頁下から3行-第14頁第14行)。 (ア)本件明細書の段落【0011】に、「本発明の目的は、容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを備えた害虫、ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュするだけで匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させ得る害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを提供することにある。」と記載されている。また、「屋内空間でワンプッシュするだけで匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させ得る」とは、本件明細書のその余の記載から、屋内空間でワンプッシュすることにより、噴霧粒子が均一に拡散し、屋内空間の床面全体にわたり沈降・付着することによって、防除効果を奏することを意味すると解される。したがって、本件発明の課題は、容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを備えた害虫・ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュするだけで、噴霧粒子が均一に拡散し、屋内空間の床面全体にわたり沈降・付着し、それによって、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させ得る害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを提供することである。 (イ)本件明細書には、噴霧粒子の均一拡散性の評価基準が明確に示されておらず、段落【0022】の記載からすると、本発明の趣旨に沿った態様として、エアゾール原液の比重が0.85~1.15、噴射処理の噴射力が噴射距離5cmにおいて10~50gfであれば、床面全体にわたり沈降・付着するとみなすことができるということが、実施例または技術常識により裏付けられるべきところ、技術的に見ても、防除成分が床面全体にわたり沈降・付着するように噴霧粒子が均一に拡散するかは、エアゾール原液の比重及び噴射力のみに依存するのではないから、本発明の趣旨に沿った態様であれば、床面全体にわたり沈降・付着するとみなすことができるとは言えないことが明らかである。 (ウ)そうすると、本件発明が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき、当業者が「容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを備えた害虫・ダニ防除用エアゾールを屋内空間でワンプッシュするだけで、噴霧粒子が均一に拡散し、屋内空間の床面全体にわたり沈降・付着し、それによって、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する防除効果を数日間持続させ得る害虫、ダニ防除方法、及び害虫、ダニ防除用エアゾールを提供する」との課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは言えないことが明らかであるから、本件発明1~9に係る特許は、サポート要件違反である。 イ 判断基準 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 ウ 判断 (ア)本件明細書における課題 本件明細書には、申立人Aが言及する段落【0011】の記載に先立ち、段落【0010】において「特許文献2に基づく空間定量噴射処理」について、利便性を改善するとともに、特に匍匐害虫や屋内塵性に対する効率アップを目指して検討を行ったことが記載されている。そして、「背景技術」としての「特許文献2」については、段落【0007】に、概要の説明が記載されている。 これら段落【0007】、【0010】及び【0011】の記載をふまえると、本件明細書における課題は、次のとおりと認められる。 a 従来技術では、定量噴射バルブを用いて行うエアゾール製品の空間定量噴射処理において、定量噴射バルブの噴射容量としては0.2~0.4mLが一般的で、1回の処理において数プッシュすることが基本とされていた。利便性を改善するため、近年開発されている噴射容量が1.0~5.0mLの定量噴射バルブを採用し、必要な有効成分量をワンプッシュで噴射可能とする。 b 従来技術では、匍匐害虫や屋内塵性ダニ類のみならず、噴霧当日は飛翔害虫に対する実用的な駆除効果も実現するべく、エアゾールの噴射特性として、噴射後の噴霧粒子が、浮遊整流子と、壁面等への付着並びに床面への沈降に関わる付着性粒子とに形成され、好ましくは、全体の噴霧粒子のうちの30~80%が噴射処理1時間後までに壁面等に付着するか、もしくは床面に沈降するように設計した。匍匐害虫や屋内塵性ダニ類に対する更なる効能アップを目指して検討すると、匍匐害虫の中でも特にゴキブリ等に対する防除効果をアップさせるには、噴射後の噴射粒子を、処理空間に浮遊する浮遊性粒子と、処理空間内の露出部に付着する付着性粒子として形成するだけでは足りないため、付着性粒子を従来技術の噴射特性より優先的となし、更に、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めることが肝要であるから、沈降に関わる付着性粒子の挙動を決定する重要なファクターであるエアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力につき、最適な範囲を特定する。 (イ)本件訂正発明1ないし9における課題の解決 a 定量噴射バルブの容量 本件訂正発明1ないし9において、「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」は「1.0mL」と特定されており、本件明細書において、従来技術で一般的であったと説明される「0.2~0.4mL」に比較して、大きい値とされている。 また、本件明細書において従来技術とされる「特許文献2」は、A-甲2の特許公報であり、その公開公報はB-甲1であるところ、上記第5の2(7)に摘記したとおり、B-甲1における定量噴射バルブの噴射容量は、実施例として「0.4mL」(段落【0024】)、好適な範囲の例示としても「0.2~0.9mL」(段落【0008】)であるから、本件訂正発明1ないし9における定量噴射バルブの噴射容量は、従来技術とされるA-甲2及びB-甲1中のいずれの記載と比較しても、大きい値とされている。 そして、本件訂正発明1ないし9は、「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」を「1.0mL」とする構成により、従来の「0.4mL」等の定量噴射バルブを用いた場合には数プッシュを要した噴射量をワンプッシュで噴射することができるから、当業者であれば、本件明細書における上記(ア)aの課題を解決できると理解することができるものである。 b エアゾール原液の比重、エアゾールの噴射力、及び床面への沈降 本件訂正発明1ないし9は、「エアゾール原液の比重」を「0.85~1.15」と特定し、「前記前記害虫、ダニ防除用エアゾールの噴射力」を「噴射距離5cmにおいて10~50gf」と特定し、「屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射」した場合に、「噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上」が「前記屋内空間の床面全体」に拡散して「付着」することを特定する構成を有している。 そして、本件明細書において上記(ア)bの課題に関する従来技術とされる、B-甲1中には、噴霧粒子の床面への沈降及び壁面への付着について、床面に沈降する粒子の比率を高めること、及びエアゾール原液の比重を特定の範囲とすることは、いずれも記載されていない。また、B-甲1中には、エアゾールの噴射力について、「床や壁に付着する噴霧粒子が十分量となるように、噴射距離20cmにおける噴射力を3.0~8.0g・fに設計するのが好ましい。」(段落【0015】)との記載はあるが、壁への付着と床への沈降とを特段区別することなく20cmの噴射距離における好適な噴射力を示したものであるから、上記(ア)bの課題の観点からすれば、本件明細書における従来技術の範囲を超えるものではない。 これに対して、本件訂正発明1ないし9は、本件明細書の段落【0022】の記載を参照すれば、エアゾール原液の比重を特定の範囲とする構成により、噴霧粒子の床面への沈降比率が低くなることを防止できると理解することができ、エアゾールの噴射距離5cmにおける噴射力を特定の範囲とする構成により、床面への沈降に適した比重のエアゾール原液について、良好な拡散性を得られると理解することができ、「防除成分の60%以上」が「付着」する対象を「床面」と特定する構成により、床面及び壁面への付着を区別しない従来技術に比較して、付着性粒子のなかでも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高めることができると理解することができる。 したがって、本件訂正発明1ないし9は、当業者であれば、本件明細書における上記(ア)bの課題を解決できると理解することができるものである。 (ウ)小括 よって、上記申立人Aの具体的主張について検討しても、本件訂正発明1ないし9は、本件明細書において発明が解決しようとする課題を解決することができると、当業者であれば理解することができるものであり、これらの発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものではない。 (3)B-甲1を主たる引用文献とした進歩性について 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち、B-甲1を主たる引用文献とした進歩性(上記第4の1(1))について、判断する。 ア 本件訂正発明1について (ア)B-甲1発明との対比 本件訂正発明1とB-甲1発明とを対比する。 B-甲1発明における、「(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分から選ばれた、フェノトリン、シフェノトリン、ジノテフラン、安息香酸ベンジル、又はセバシン酸ジブチル」は、本件訂正発明1における、「30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物」である「防除成分」に相当する。 B-甲1発明において、「(c)溶剤」として用いられる「低級アルコールであるエタノール又はIPA」は、本件訂正発明1における、「有機溶剤」に相当する。 B-甲1発明における、「エアゾール原液」は、本件訂正発明1における、「エアゾール原液」に相当する。 B-甲1発明における、「(d)噴射剤であるLPG又はLPG及びDME」は、本件訂正発明1における、「噴射剤」に相当する。 B-甲1発明における、「定量噴霧用エアゾールバルブ」は、本件訂正発明1における、「定量噴射バルブ」に相当する。 B-甲1発明において、「エアゾール原液」と「(d)噴射剤」とを「エアゾール容器に加圧充填」した「害虫、ダニ防除用エアゾール」は、本件訂正発明1において、「エアゾール原液、並びに噴射剤」を「エアゾール容器に充填」してなる「害虫、ダニ防除用エアゾール」に相当する。 B-甲1発明において、「害虫、ダニ防除用エアゾール」を「噴霧」する「害虫、ダニ防除方法」は、本件訂正発明1において、「害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴霧処理」する「害虫、ダニ防除方法」に相当する。 B-甲1発明において、「害虫、ダニ防除成分」として含まれる「(a)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgである常温揮散性ピレスロイド化合物」と「(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分」の「配合比率」は「0.008/1~0.12/1」であるから、「気中に噴霧される害虫、ダニ防除成分量」である「0.5~50mg/m3」の大部分は、「(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分」の量であり、「気中に噴霧」される「(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分」の量は、本件訂正発明1に特定される「0.1~50mg/m3」の範囲内になることが明らかである。B-甲1発明において、「気中に噴霧」される「(b)30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性の匍匐害虫防除成分もしくはダニ防除成分」の量が、「0.1~50mg/m3」の範囲内になることが明らかである構成は、本件訂正発明1において、「前記噴射処理において屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射」する構成に相当する。 以上を整理すると、本件訂正発明1とB-甲1発明とは、 「防除成分及び有機溶剤を含有するエアゾール原液、並びに噴射剤を、定量噴射バルブを備えたエアゾール容器に充填してなる害虫、ダニ防除用エアゾールを用いて噴射処理する害虫、ダニ防除方法であって、 前記防除成分は、30℃における蒸気圧が1×10-4mmHg未満である難揮散性化合物であり、 前記噴射処理において屋内空間の気中に、前記防除成分の放出量が0.1~50mg/m3となるように前記エアゾール原液を噴射する、 害虫、ダニ防除方法。」 の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> ・相違点3 「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」、「エアゾール原液の比重」、及び「噴射力」に関し、 本件訂正発明1では、「定量噴射バルブ」の「一回当たりの噴射容量」が「1.0mL」と特定され、「エアゾール原液の比重」が「0.85~1.15」と特定されるとともに、「噴射力」が「噴射距離5cmにおいて10~50gf」と特定されているのに対し、 B-甲1発明では、「定量噴霧用エアゾールバルブ」は「1ショット当り0.4mLずつ噴霧する」ものであり、「エアゾール原液の比重」は特定されておらず、「噴射距離20cmにおける噴射力を6.1g・f」としている点。 ・相違点4 噴射後の防除成分の「付着」に関し、 本件訂正発明1では、「噴射から1時間後までに前記防除成分の60%以上を前記屋内空間の床面全体に拡散させて付着させる」と特定されているのに対し、 B-甲1発明では、「噴霧処理1時間後までに沈降するか、もしくは壁面に付着した害虫防除成分の、理論上の噴霧全体量に対する比率が、55%から72%となる」点。 (イ)相違点についての判断 a 相違点3及び4に係る本件訂正発明1の構成について 本件明細書において従来技術とされる「特許文献2」は、A-甲2の特許公報であり、その公開公報はB-甲1である。 本件訂正発明1は、B-甲1発明に対して、上記(2)ウ(ア)に示した「a」及び「b」の課題を解決するために、定量噴射バルブの容量を高めるとともに、付着性粒子の中でも壁面等への付着よりも床面への沈降に関わる付着性粒子の比率を高める噴射特性とするのに適した、エアゾール原液の比重とエアゾールの噴射力の範囲を選択したものと、理解される。 また、上記第3の2(7)に摘記した本件明細書の段落【0033】ないし【0035】には、「噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブ付きエアゾール容器」を用いた「実施例2」においては「噴射距離5cmにおける噴射力」は「26gf」(表1中の噴射力(gf/5cm)の値が「26」)であるのに対し、「噴射容量が0.4mLである定量噴射バルブ付きエアゾール容器」を用いた他は、「エアゾール原液(a)(の調整)」、「噴射剤(b)」、「(エアゾール原液の)容量比率((a)/(a+b))」、「(エアゾール原液の)比重」等のパラメータが同じである「比較例2」においては、表1中の「噴射力(gf/5cm)」の値が「6.4」であることが示されていることから、定量噴射バルブの容量も、噴射力と関連し、ひいては噴射特性に関連するパラメータであると、理解される。 そうすると、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、B-甲1発明に対して、床面への付着粒子の比率を高めるために選択した噴射特性に関するパラメータを組み合わせたものであり、上記相違点4に係る本件訂正発明1の構成は、B-甲1発明に比較して、防除成分の床面への沈降を壁面への付着と区別して特定したものであると、理解される。 b 相違点3について 上記相違点3について、判断する。 B-甲1中には、定量噴射バルブの噴射容量について、実施例における「0.4mL」のほかに、好適な範囲の例示として「0.2~0.9mL」の記載もあるが、上記相違点3に係る本件訂正発明1に係る「1.0mL」とする記載はない。また、B-甲1中には、実施例に比較して床面への付着粒子の比率を高めるべきことは記載されておらず、定量噴射バルブの噴射容量を「1.0mL」としたうえで、エアゾール原液の比重について床面への沈降に好適な数値範囲を選択し、かつ噴射力の値として「噴射距離5cm」で「10~50gf」とすることは、記載も示唆もされていない。 そのため、B-甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成を採用する動機付けがあったということはできない。 B-甲2には、上記第5の2(9)に摘記した事項が記載されているが、「内容物を容器より短時間で全量噴射する全量噴射型エアゾールの噴霧処理方法」に関するものであるから、定量噴霧用エアゾールバルブを用いて噴射を行うB-甲1発明とは、異なる噴霧の態様を前提としたものであり、B-甲1発明における噴射特性について、上記相違点3に係る本件訂正発明1のパラメータの組み合わせを採用することを示唆するものではない。 B-甲3には、上記第5の2(10)に摘記した事項が記載されているが、「害虫にエアゾール薬剤を噴霧する際に手ぶれなどで狙いを外したり、害虫が狙いをつけた位置から逃げ始めたり」することをふまえて、「エアゾール薬剤を勢いよく噴霧」するものであるから、「部屋」の「気中に噴霧される害虫、ダニ防除成分量」を「0.5~50mg/m3程度」とするB-甲1発明とは、異なる噴霧の態様を前提としたものであり、B-甲1発明における噴射特性について、上記相違点3に係る本件訂正発明1のパラメータの組み合わせを採用することを示唆するものではない。 B-甲4には、上記第5の2(11)に摘記した事項が記載されているが、ハチ等に対して安全な距離から噴霧を行うことを目的とし、エアゾルの噴霧有効距離を5m以上とするものであるから、「定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填した、害虫、ダニ防除用エアゾール」を用いて「部屋」の「気中に噴霧される害虫、ダニ防除成分量」を「0.5~50mg/m3程度」とするB-甲1発明とは、異なる噴霧の態様を前提としたものであり、B-甲1発明における噴射特性について、上記相違点3に係る本件訂正発明1のパラメータの組み合わせを採用することを示唆するものではない。 A-甲1ないしA-甲7には、それぞれ上記第5の2(1)ないし(7)に摘記した事項が記載されているが、いずれも上記相違点3に係る本件訂正発明1のパラメータの組合せを示すものではなく、B-甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明1のパラメータの組み合わせを採用することを示唆するものではない。 したがって、B-甲1発明において、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成を採用することは、本件異議申立における全ての証拠を考慮しても、当業者にとって容易に想到することができたものではない。 c 申立人の主張について 上記相違点3に関し、申立人Bは、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成のうち、エアゾール原液の比重については、B-甲1における表1中の本発明1及び6の成分量で計算すると、それぞれ0.90及び0.97になるから、B-甲1発明との相違点とはならない旨を主張している(申立書B第12頁第17行-第22行、及び第17頁第11行-第24行)。また申立人Bは、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成のうち、定量噴射バルブの噴射容量、及び噴射力については、いずれも、B-甲1において適宜採用し得た設計事項である旨を主張している(申立書B第17頁第25行-第19頁第20行、及び令和3年11月1日受付の意見書における「3 意見の内容」の「(1)噴射容量が1.0mLである定量噴射バルブについて」)。 しかしながら、先に指摘したとおり、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成は、本件明細書中において従来技術とされる「特許文献2」と同内容のB-甲1に対して、上記(2)ウ(ア)に示した課題を解決するために、本件訂正発明1が採用した、相互に関連するパラメータの組み合わせである。 そして、B-甲1中に、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成を採用する動機付けがあったということができないことも、先に述べたとおりであるから、上記申立人Bの主張について検討しても、B-甲1発明において上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成をとることが、当業者にとって想到容易であったということはできない。 (ウ)本件訂正発明1についての小括 上記相違点3に係る構成が想到容易でないから、上記相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、B-甲1発明を主たる引用発明として、本件におけるその余の証拠を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ 本件訂正発明2ないし8について 本件訂正発明2ないし8は、本件訂正発明1の構成を全て有し、さらに限定したものである。 上記アのとおり、B-甲1発明において、本件訂正発明1の構成に至ることは、本件におけるその他の証拠について検討しても、当業者が容易に想到できたものではないから、本件訂正発明2ないし8も、B-甲1発明において、B-甲2ないしB-甲4並びにA-甲1ないし甲7に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に想到できたものではない。 ウ 本件訂正発明9について 本件訂正発明9は、方法の発明である本件訂正発明1を、物の発明として特定したものであり、実質的な内容に変更はない。 B-甲1発明は、「害虫、ダニ防除方法」において、「1ショット当り0.4mLずつ噴霧する定量噴霧用エアゾールバルブ付きエアゾール容器に加圧充填した、害虫、ダニ防除用エアゾール」であって、「噴射距離20cmにおける噴射力を6.1g・fと」したものを用いているから、実質的に同内容の物の発明としても把握し得る。 本件訂正発明9とB-甲1発明から把握し得る物の発明とを対比すると、両者は、本件訂正発明1とB-甲1発明との上記相違点3及び4と同様の点で相違する。 そして、本件訂正発明1とB-甲1発明との上記相違点3について判断したと同様の理由で、本件訂正発明9は、B-甲1発明において、たとえB-甲2ないしB-甲4及びA-甲1ないしA-甲7に記載された事項を考慮しても、当業者が容易に発明をすることができたのではない。 エ 小括 よって、本件訂正発明1ないし9は、B-甲1を主たる引用文献とした特許異議申立理由によって、取り消されるべきものではない。 第7 むすび 以上のとおり、本件訂正発明1ないし9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件訂正発明1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700011

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