特許異議申立
2021-700030
防眩フィルム
- 審判番号
- 2021-700030
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-533962
- 登録番号
- 6721794
- 請求日
- 2021年01月14日
- 審決日
- 2023年06月26日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ダイセル
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【異議申立人】前田 しのぶ
- 審判長/審判官
- 審判長 松波 由美子
- 審判官 杉山 輝和
- 審判官 清水 康司
- 分類
- P1651.121-YAA(G02B) / P1651.536-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6721794号発明「防眩フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6721794号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6721794号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続等の経緯
特許第6721794号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019-533962号)は、2018年(平成30年)6月25日(先の出願に基づく優先権主張 2017年(平成29年)8月4日)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月22日にその特許権の設定の登録がされ、令和2年7月15日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議申立ての経緯は、以下のとおりである。
令和3年 1月14日 :特許異議申立人前田 しのぶによる請求項1~4に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 4月 7日付け:取消理由通知書
令和3年 6月 9日 :意見書(特許権者)
令和3年 8月31日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年11月15日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の請求を、以下、「本件訂正請求」という。)
令和3年11月15日 :意見書(特許権者)
令和3年12月24日 :意見書(特許異議申立人)
令和4年 3月14日付け:特許異議の決定(以下「一次決定」という。結論の概要:訂正後の請求項1~4について訂正することを認める。請求項1~4に係る特許を取り消す。)
令和4年 4月27日 :一次決定に対する訴えの提起(令和4年(行ケ)第10029号)
令和5年 3月27日 :判決言渡(その後、この判決は確定した。以下、この判決を「確定判決」という。主文の概要:一次決定を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。)
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6721794号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値であり」と記載されているのを、「内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。
(2) 一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1を引用しているものであるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~4〕に対して請求されたものである。
3 訂正の適否
(1) 訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「防眩層」を、「内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値であ」るものから、「内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であ」るものに限定する訂正である。
そうすると、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
(2) 本件特許明細書の【0024】には、防眩フィルムの防眩層について、「また、内部ヘイズ値も上記範囲内において適宜設定可能であるが、0.5%以上8.0%以下の範囲の値であることが一層望ましい。」と記載されている。
そうすると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
(3) 請求項2~4についてみても、同じである。
4 まとめ
本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6721794号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件特許発明
本件訂正請求により訂正された本件特許の請求項1~請求項4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明4」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~請求項4に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり、且つ、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である防眩層を備える、防眩フィルム。
【請求項2】
前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有する、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、
前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が、0以上0.07以下の範囲の値である、請求項1又は2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.07以上0.20以下の範囲の値である、請求項3に記載の防眩フィルム。」
第4 取消しの理由の概要
本件特許の請求項1~請求項4に係る特許に対して、当合議体が令和3年8月31日付けで特許権者に通知した取消しの理由の要旨は、次のとおりである。
●理由1(進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(引用例等一覧)
引用例1:特開2009-244465号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2015-172837号公報(甲第2号証)
引用例3:特開2015-196347号公報(甲第3号証)
引用例4:特開2014-85371号公報(甲第4号証)
引用例5:特開2006-113561号公報(甲第5号証)
(当合議体注:引用例1は主引用例であり、引用例2~5は副引用例又は周知技術を例示する文献である。)
●理由2(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
●理由3(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
●理由4(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
なお、当業者の技術常識を裏付ける文献として、次の引用例6を用いる。
引用例6:「JIS ディスプレイのぎらつき度合の求め方 JIS C 1006:2019」、一般財団法人 日本規格協会、令和元年12月20日(甲第6号証)
第5 当合議体の判断
1 理由1(進歩性)について
(1) 引用例1の記載
令和3年8月31日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用された引用例1(特開2009-244465号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【0001】
本発明は、防眩性ハードコートフィルム、それを用いた液晶パネルおよび液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、液晶分子の電気光学特性を利用して、文字や画像を表示する装置であり、携帯電話やノートパソコン、液晶テレビ等に広く普及している。LCDには、通常、液晶セルの両側に偏光板が配置された液晶パネルが用いられている。液晶パネル表面には、一般に、偏光板への傷付き防止のため、ハードコート処理が行われている。前記ハードコート処理には、前記液晶パネル表面に蛍光灯や太陽光などが入射することにより起こる映り込みを防止するための防眩(アンチグレア)処理が施されたハードコートフィルムが多く用いられる。前記防眩処理には、エンボス加工、表面形状の転写、相分離法などの様々な方法があるが、無機、有機粒子などを添加することでフィルム表面に凹凸形状を作成する方法が一般的である。従来の防眩処理では、外光による見映え低下を防ぐことはできるが、パネルバックライトからの透過光を散乱してしまうことによる正面方向のコントラスト低下という課題があった。そのため、防眩処理としてはヘイズ値が50%以下程度のあまり散乱性の強くない防眩性フィルムを使用したパネルがほとんどである。しかし、パネルの高精細化、高視野角化が要求されるなか、高ヘイズなアンチグレアフィルムを使用したパネルが必要となってきている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、高ヘイズのフィルムは光の拡散性が高く、液晶パネルに実装すると、斜めに抜けるはずの光を正面方向に拡散してしまうなどしてしまうため、正面の黒輝度が高くなってしまい、正面コントラスト比の低下を引き起こすことがあった。
・・・略・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、正面コントラスト比を大幅に低下させることなく、斜めコントラスト比を改善して、視野角を拡大することができ、また、ギラツキ現象を低減させ、高精細のパネルにも対応することができる防眩性ハードコートフィルム、それを用いた液晶パネルおよび液晶表示装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の防眩性ハードコートフィルムは、
透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に防眩性ハードコート層を有する防眩性ハードコートフィルムであって、前記防眩性ハードコート層は、微粒子および硬化性ハードコート樹脂を含む防眩性ハードコート層形成材料から形成されており、前記防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値が60%以上であり、斜め60°方向の黒輝度の光抜けが、全方位平均で1cd以下である液晶パネルに用いることを特徴とする。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは、斜め方向の黒輝度の光抜けが少ない液晶パネルに用いることで、正面コントラスト比を大幅に低下させることなく、斜めコントラスト比を改善して視野角を拡大させることができる。さらに、ギラツキ現象を低減させることもできるので、高精細のパネルにも対応することができる。したがって、本発明の防眩性ハードコートフィルム若しくは液晶パネルを用いた液晶表示装置は、表示特性が優れたものになる。」
イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の防眩性ハードコートフィルムにおいて、前記微粒子は、前記硬化性ハードコート樹脂100重量部に対し、3~40重量部の範囲で含有されていることが好ましく、より好ましくは8~35重量部の範囲であり、さらに好ましくは10~30重量部の範囲である。
【0010】
本発明の防眩性ハードコートフィルムにおいて、前記微粒子が、少なくとも、表面凹凸を形成する微粒子と内部ヘイズを調整する微粒子とを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の防眩性ハードコートフィルムにおいて、前記硬化性ハードコート樹脂は、熱硬化性樹脂および電離放射線硬化性樹脂の少なくとも一方の樹脂であることが好ましい。
・・・略・・・
【0015】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは、透明プラスチックフィルム基材の片面若しくは両面に、防眩性ハードコート層を有するものである。
【0016】
前記透明プラスチックフィルム基材は、特に制限されないが、可視光の光線透過率に優れるもの(好ましくは光線透過率90%以上)が好ましい。前記透明プラスチックフィルム基材の形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー等があげられる。
・・・略・・・
【0017】
本発明において、前記透明プラスチックフィルム基材の厚みは、特に制限されないが、例えば、強度、取り扱い性などの作業性および薄層性などの点を考慮すると、10~500μmの範囲が好ましく、より好ましくは20~300μmの範囲であり、最適には、30~200μmの範囲である。
【0018】
前記防眩性ハードコート層は、前記微粒子および前記硬化性ハードコート樹脂を含む防眩性ハードコート層形成材料から形成される。前述のように、前記硬化性ハードコート樹脂は、例えば、熱硬化性樹脂、紫外線や光で硬化する電離放射線硬化性樹脂があげられる。前記硬化性ハードコート樹脂として、市販の熱硬化型樹脂や紫外線硬化型樹脂等を用いることも可能であるが、前記硬化性ハードコート樹脂は、例えば、下記の(A)成分、(B)成分および(C)成分を含むものが好ましい。
【0019】
(A)成分:ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートの少なくとも一方
(B)成分:ポリオールアクリレートおよびポリオールメタクリレートの少なくとも一方
(C)成分:下記(C1)および下記(C2)の少なくとも一方から形成されるポリマー若しくはコポリマー又は前記ポリマーとコポリマーの混合ポリマー
(C1):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルアクリレート
(C2):水酸基およびアクリロイル基の少なくとも一方の基を有するアルキル基を有するアルキルメタクリレート
【0020】
前記(A)成分である前記ウレタンアクリレートおよびウレタンメタクリレートとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリオール、ジイソシアネートを構成成分として含有するものが用いられる。
・・・略・・・
【0024】
前記(A)成分の配合割合は、特に制限されない。前記(A)成分の使用により、形成される防眩性ハードコート層の柔軟性および透明プラスチックフィルム基材に対する密着性を向上させることができる。これらの点および防眩性ハードコート層の硬度の観点等から、前記(A)成分の配合割合は、前記防眩性ハードコート層形成材料中の樹脂成分全体に対し、例えば、15~55重量%の範囲であり、好ましくは、25~45重量%の範囲である。前記樹脂成分全体とは、(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計量、若しくは、その他の樹脂成分を用いる場合は、前記三成分の合計量と前記樹脂成分の合計量とを合わせた量を意味し、以下、同様である。
【0025】
前記(B)成分としては、例えば、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,6-ヘキサンジオールアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールメタクリレート等があげられ、これらは単独でもよいし二種類以上を併用してもよい。
・・・略・・・
【0026】
前記(B)成分の配合割合は、特に制限されない。例えば、前記(B)成分の配合割合は、前記(A)成分に対し70~180重量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは100~150重量%の範囲である。前記(B)成分の配合割合が前記(B)成分に対し180重量%以下であると、形成される防眩性ハードコート層の硬化収縮を有効に防止でき、その結果、防眩性ハードコートフィルムのカールを防止でき、屈曲性の低下を防止できる。また、前記(B)成分の配合割合が前記(A)成分の70重量%以上であれば、形成される防眩性ハードコート層の硬度をより向上させることができ、耐擦傷性を向上させることが可能となる。
【0027】
前記(C)成分において、(C1)および(C2)のアルキル基は、特に制限されず、例えば、炭素数1~10のアルキル基であって、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。前記(C)成分としては、例えば、下記一般式(1)の繰り返し単位を含むポリマー、コポリマー若しくは前記ポリマーおよび前記コポリマーの混合物があげられる。
【0028】
【化1】
・・・略・・・
【0030】
前記(C)成分としては、例えば、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレート、2,3-ジアクリロイルオキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルアクリレート、2-アクリロイルオキシ-3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3-ジアクリロイルオキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、2-アクリロイルオキシ-3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-アクリロイルオキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2-アクリロイルオキシメタクリレートからなる群から選択される少なくとも一つのモノマーから形成されたポリマー、コポリマー若しくは前記ポリマーおよび前記コポリマーの混合物があげられる。
【0031】
前記(C)成分の配合割合は、特に制限されない。例えば、前記(C)成分の配合割合は、前記(A)成分に対し、25~110重量%の範囲が好ましく、より好ましくは45~85重量%の範囲である。前記(C)成分の配合割合が110重量%以下であれば、防眩性ハードコート層形成材料の塗工性が優れるようになり、前記(C)成分の配合割合が25重量%以上であれば、形成される防眩性ハードコート層の硬化収縮を防止でき、その結果、防眩性ハードコートフィルムにおいて、カール発生を防止可能となる。
【0032】
前記防眩性ハードコート層を形成するための微粒子は、形成される防眩性ハードコート層表面を凹凸形状にして防眩性を付与し、また、前記防眩性ハードコート層のヘイズ値を制御することを主な機能とする。前記防眩性ハードコート層のヘイズ値は、前記微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂との屈折率差を制御することで、設計することができる。前記微粒子としては、例えば、無機微粒子と有機微粒子とがある。前記無機微粒子は、特に制限されず、例えば、酸化ケイ素微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子、炭酸カルシウム微粒子、硫酸バリウム微粒子、タルク微粒子、カオリン微粒子、硫酸カルシウム微粒子等があげられる。また、有機微粒子は、特に制限されず、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末(PMMA微粒子)、シリコーン樹脂粉末、ポリスチレン樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、アクリルスチレン樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、ポリオレフィン樹脂粉末、ポリエステル樹脂粉末、ポリアミド樹脂粉末、ポリイミド樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂粉末等があげられる。これらの無機微粒子および有機微粒子は、一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
・・・略・・・
【0034】
前記微粒子としては、少なくとも1種類以上を含むが、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子と主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子とを含むことが好ましい。前記第1の微粒子と前記第2の微粒子とを組み合わせることにより、防眩性ハードコートフィルムのヘイズ値を60%以上とするための、前記主に表面凹凸を形成する微粒子の添加量を減らすことができる。その結果、形成される防眩性ハードコート層の硬度低下を防ぐことができる。
【0035】
前記主に表面凹凸を形成する第1の微粒子としては、前述の微粒子を用いることができる。前記第1の微粒子の重量平均粒径は、前記防眩性ハードコート層の厚みの20~80%の範囲であることが好ましい。前記第1の微粒子の重量平均粒径が、前記範囲より大きくなると、画像鮮明性が低下し、また前記範囲より小さいと、十分な防眩性が得られず、ギラツキも大きくなるという問題がある。前記第1の微粒子の重量平均粒径は、より好ましくは、前記防眩性ハードコート層の厚みの30~75%の範囲である。
・・・略・・・
【0036】
前記第1の微粒子の配合割合は、前記硬化性ハードコート樹脂100重量部に対し、3~40重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、8~35重量部の範囲であり、さらに好ましくは、10~30重量部の範囲である。
【0037】
前記第1の微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂との屈折率差は、0~0.05の範囲であることが好ましい。
【0038】
前記主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子としては、前述の微粒子を用いることができる。前記ヘイズ調整用の微粒子の重量平均粒径は、前記防眩性ハードコート層の厚みの10~70%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、前記防眩性ハードコート層の厚みの20~60%の範囲である。
【0039】
前記第2の微粒子の配合割合は、前記硬化性ハードコート樹脂100重量部に対し、0.1~20重量部の範囲が好ましく、より好ましくは、1~15重量部の範囲である。
【0040】
前記第2の微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂との屈折率差は、0.05~0.2の範囲であることが好ましい。
【0041】
前記防眩性ハードコート層の厚みは、3~30μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは15~30μmの範囲である。前記厚みが前記所定の範囲であれば、前記防眩性ハードコート層の硬度も十分なものとなる(例えば、鉛筆硬度で4H以上)。また、前記厚みが前記所定の範囲より大きいときは、カールが大きく塗工時のライン走行性が低下するという問題があり、さらに防眩性の低下の問題もある。また、前記厚みが前記所定の範囲より小さい場合は、ギラツキが防止できず、鮮明性が低下するという問題がある。
【0042】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは、ヘイズ値が60%以上である。前記ヘイズ値とは、JIS K7136(2000年版)に準じたヘイズ値(曇度)である。前記ヘイズ値は、60~90%の範囲がより好ましく、さらに好ましくは65~85%の範囲である。ヘイズ値を高くするためには、前記少なくとも1種類以上の微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂との屈折率差が0.005以上になるように、前記微粒子と前記硬化性ハードコート樹脂とを選択することが好ましい。前記樹脂との屈折率差が0.005未満の微粒子のみでヘイズ値を60%以上にするためには、一般に、添加量を40部以上にする必要があり、前記微粒子添加量が多くなり過ぎると、硬度の低下や耐擦傷性低下などが生じやすくなり、好ましくない。
【0043】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは、例えば、前記微粒子、前記硬化性ハードコート樹脂および溶剤を含む防眩性ハードコート層形成材料を準備し、前記防眩性ハードコート層形成材料を前記透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に塗工して塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させて前記防眩性ハードコート層を形成することにより、製造できる。
【0044】
前記溶媒は、特に制限されず、種々の溶媒を使用可能であり、例えば、ジブチルエーテル、・・・略・・・メチルエチルケトン、・・・略・・・酢酸メチル、酢酸エチル、・・・略・・・等があげられる。これらは、一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0045】
前記防眩性ハードコート層形成材料には、各種レベリング剤を添加することができる。
・・・略・・・
【0047】
前記防眩性ハードコート層の形成材料には、必要に応じて、性能を損なわない範囲で、顔料、充填剤、分散剤、可塑剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、防汚剤、酸化防止剤、チクソトロピー化剤等が添加されてもよい。
・・・略・・・
【0048】
前記防眩性ハードコート層形成材料には、従来公知の光重合開始剤を用いることができる。
・・・略・・・
【0050】
前記防眩性ハードコート層形成材料を塗工して前記透明プラスチックフィルム基材の上に塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させる。前記硬化に先立ち、前記塗膜を乾燥させることが好ましい。
・・・略・・・
【0051】
前記防眩性ハードコート層形成材料の塗膜の硬化手段は、特に制限されないが、熱硬化または電離放射線硬化が好ましく、より好ましくは電離放射線硬化である。電離放射線硬化の手段には各種活性エネルギーを用いることができるが、紫外線が好ましい。・・・略・・・また、5000mJ/cm2以下であれば、形成される防眩性ハードコート層の着色を防止することができる。
【0052】
以上のようにして、前記透明プラスチックフィルム基材の少なくとも一方の面に、前記防眩性ハードコート層を形成することにより、本発明の防眩性ハードコートフィルムを製造することができる。なお、本発明の防眩性ハードコートフィルムは、前述の方法以外の製造方法で製造してもよい。本発明の防眩性ハードコートフィルムの硬度は、鉛筆硬度において、例えば、4H以上の硬度を有する。
【0053】
本発明の防眩性ハードコートフィルムの一例を図1の断面模式図に示す。図示のように、この例の防眩性ハードコートフィルム4は、透明プラスチックフィルム基材1の片方の面に、防眩性ハードコート層2が形成されている。前記防眩性ハードコート層2は、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子3A、および、主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子3Bを含んでいる。この例においては、主に前記第1の微粒子3Aによって、防眩性ハードコート層2の表面が凹凸形状となっているが、前記第1の微粒子3Aが内部ヘイズの調整に寄与してもよいし、前記第2の微粒子3Bが表面凹凸の形成に寄与してもよい。
・・・略・・・
【0066】
本発明の防眩性ハードコートフィルムは、通常、前記透明プラスチックフィルム基材側を、粘着剤や接着剤を介して、LCDに用いられている光学部材に貼り合せることができる。
・・・略・・・・
【0076】
本発明の防眩性ハードコートフィルムおよびこれを用いた偏光板等の各種光学部材は、斜め60°方向の黒輝度の光抜けが、全方位平均で1cd以下である前記液晶パネルに用いられる。以下、前記斜め60°方向の黒輝度の光抜けの全方位平均を「平均黒輝度」という。前記平均黒輝度は、例えば、後述の実施例に記載の方法で測定できる。全方位とは、図3に示す方位角の0°~360°の範囲をいう。高ヘイズ値のハードコートフィルムを使用すると、液晶パネルの黒表示時に、斜め方向に抜けるはずの光を正面方向に拡散してしまうため、パネル正面における黒輝度が高くなり、正面コントラスト比の低下が起こりやすい。平均黒輝度が1cd以下であるパネルと、ヘイズ値が60%以上の防眩性ハードコートフィルムとを組み合わせることにより、正面における黒輝度の増加は少なくなり、良好な正面コントラスト比が得られる。前記平均黒輝度が1cd以下であるパネルとしては、例えば、駆動方式が、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーティカルアライメント(VA)モードであるもの等があげられる。
・・・略・・・
【0081】
本発明の液晶表示装置は、本発明の防眩性ハードコートフィルムを用いる以外は、従来の液晶表示装置と同様の構成である。例えば、液晶セル、偏光板等の光学部材、および必要に応じ照明システム(バックライト等)等の各構成部品を適宜に組み立てて駆動回路を組み込むこと等により製造できる。
【0082】
本発明の液晶表示装置は、任意の適切な用途に使用される。その用途は、例えば、パソコンモニター、ノートパソコン、コピー機等のOA機器、携帯電話、時計、デジタルカメラ、携帯情報端末(PDA)、携帯ゲーム機等の携帯機器、ビデオカメラ、テレビ、電子レンジ等の家庭用電気機器、バックモニター、カーナビゲーションシステム用モニター、カーオーディオ等の車載用機器、商業店舗用インフォメーション用モニター等の展示機器、監視用モニター等の警備機器、介護用モニター、医療用モニター等の介護・医療機器等である。」
ウ 「【実施例】
【0083】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、以下の実施例および比較例により制限されない。なお、下記実施例および比較例における各種特性は、下記の方法により評価若しくは測定した。
【0084】
(ヘイズ値)
ヘイズの測定方法は、JIS K7136(2000年版)のヘイズ(曇度)に準じ、ヘイズメーターHR300(村上色彩技術研究所社製)を用いて測定した。
・・・略・・・
【0087】
(微粒子の重量平均粒径)
前記微粒子の重量平均粒径は、コールターカウント法により、細孔電気抵抗法を利用した粒度分布測定装置(商品名:コールターマルチサイザー、ベックマン・コールター社製)を用い、微粒子が細孔を通過する際の微粒子の体積に相当する電解液の電気抵抗を測定することにより、微粒子の数と体積を測定し、重量平均粒径を算出した。
・・・略・・・
【0092】
(平均黒輝度の測定)
ELDIM社製、製品名「EZContrast160D」を用いて、極角60°における黒輝度を、方位角0~360°において1°刻みで測定し、その平均値を算出して平均黒輝度を求めた。・・・略・・・前記平均黒輝度は、低い方がより黒が引き締まることになるので良好と判断される。
【0093】
(コントラストの測定)
各実施例に記載の液晶セル、以下の測定装置を用いて、23℃の暗室でバックライトを点灯させてから、所定の時間が経過した後、測定を行った。液晶表示装置に、白画像および黒画像を表示させ、ELDIM社製 製品名「EZContrast160D」により、表示画面のXYZ表示系のY値を測定した。正面コントラストは、表示画面の法線方向(極角90°方向)におけるY値を測定した。そして、白画像におけるY値(YW1)と、黒画像におけるY値(YB1)とから、正面方向のコントラスト比「YW1/YB1」を算出した。
斜めコントラストは、表示画面の方位角45°方向、極角60°方向におけるY値を測定した。そして、白画像におけるY値(YW2)と、黒画像におけるY値(YB2)とから、斜め方向のコントラスト比「YW2/YB2」を算出した。なお、方位角45°とは、・・・略・・・、パネルの長辺を0°としたときに反時計周りに45°回転させた方位を表し、極角60°とは表示画面の正面方向を0°としたときに、角度60°に傾斜した方向を表す。
【0094】
(防眩性)
(1)防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に三菱レイヨン製黒色アクリル板(2.0mmt)を粘着剤にて貼り合わせ裏面の反射をなくす。
(2)一般的にディスプレイを用いるオフィス環境下(約1000Lx)にて上記で作製したフィルムサンプルの防眩性を目視にて確認した。
判定基準
AA:像の写り込みがほとんどない。
A :像の写り込みはあるが、視認性への影響は小さい。
B :像の写り込みはあるが、実用上問題はない。
C :像の写り込みがある。
【0095】
(鮮明性)
(1)ノート型PC(ソニー社製、商品名VAIO VGN-SZ71B/B(13.3inch、WXGA、1280×800))のパネル表面に、凹凸のない平滑な表面を有する偏光板を実装した。防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に粘着剤を積層し、前記偏光板の表面に貼付し、実装した。
(2)前記ノート型PCに一般的な画像を写しだして、暗所にて画像の鮮明性を目視にて確認した。判断基準は以下のとおりである。
A :画像がぼやけるが視認性への影響は小さい(画像が鮮明である)。
B :ぼやけはあるが、実用上問題なし(実用上、鮮明性に問題がない)。
C :ぼやけて著しく視認性が低下する(不鮮明で、実用上問題がある)。
【0096】
(ギラツキ(精細度))
(1)透明フィルム基材の防眩性ハードコート層が形成されていない面に185μmの偏光板を貼り合せたものをガラス基板に接着する。
(2)ライトテーブル上に固定されたマスクパターン上に作製したフィルムサンプルのギラツキ度合いを目視にて評価した。マスクパターンは精細度が106ppi、144ppi、212ppiのものを準備し、順次判定した。下記判定基準でAになったマスクパターンの精細度を記録した。
判定基準
A :ギラツキがほとんどない。
B :ギラツキはあるが、実用上問題はない。
C :ギラツキがある。
【0097】
(実施例1)
透明プラスチックフィルム基材として、トリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム(株)製、商品名「TD80UL」、厚さ80μm、屈折率:1.48)を準備した。また、防眩性ハードコート層形成材料として、GRANDIC PC-1070(大日本インキ化学工業(株)製 ハードコート樹脂、固形分:65重量%、屈折率:1.53)の樹脂固形分100重量部あたり、レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「GRANDIC PC-4100」、固形分10重量%)の固形分が0.5重量部、IRGACURE 184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製光重合開始剤)を0.5重量部、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子としてアクリル樹脂微粒子(積水化成品工業(株)製、MBX-8SSTN、サイズ:8μm、屈折率:1.49)30重量部、主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子としてシリコーン微粒子(東芝シリコーン(株)製、「トスパール145」、サイズ:4.5μm、屈折率:1.43)2重量部を加えたものを、酢酸エチルにより、固形分濃度が50重量%となるように希釈し、超音波洗浄器を用いて5分間攪拌をおこなったものを準備した。
【0098】
前記透明プラスチックフィルム基材の片面に、前記防眩性ハードコート層形成材料を、バーコーターを用いて塗布して塗膜を形成した。この際、防眩性ハードコート層の厚みが25μmとなるように、前記塗膜の厚みを調整した。ついで、100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させた。その後、高圧水銀灯にて積算光量300mJ/cm2の紫外線を照射し、前記塗膜を硬化処理して厚み25μmの防眩性ハードコート層を形成し、目的とする防眩性ハードコートフィルムを得た。
【0099】
上記で得られた防眩性ハードコートフィルムを、インプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶パネルに装着した。液晶パネルとしては、IPSモードの液晶セルを含む液晶表示装置(LG電子ジャパン(株)製ワイド23型液晶テレビ、商品名「FLATRON CRL-23WA」)から液晶パネルを取り出し、前記液晶セルの上下に配置されていた偏光板を取り除いて、そのガラス面(表裏)を洗浄したものに、以下のように光学素子を設けたものを使用した。図4に、ここで用いた液晶パネルの構成を表す分解模式図を示す。前記液晶セル40の視認側の表面に、第2の光学素子42として下記参考例1の位相差フィルムFを、アクリル系粘着剤(厚み23μm)を介して、前記液晶セル40の初期配向方向と前記位相差フィルムFの遅相軸が互いに平行となるように積層した。前記位相差フィルムFは、屈折率がnx>ny>nzの関係を有する光学補償層である。次いで、前記位相差フィルムFの表面に、第1の光学素子41として下記参考例1の位相差フィルムAを、アクリル系粘着剤(厚み1μm)を介して、前記液晶セル40の初期配向方向と前記位相差フィルムAの遅相軸が互いに直交するように積層した。なお、第1の光学素子41はnx=nyの場合、面内に遅相軸は検出されないが、本例ではnx≒nyであるので、遅相軸が検出される(Re=0.3nm)。次いで、前記位相差フィルムAの表面に、第1の偏光子として下記で作製した偏光子P1を、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する水溶性接着剤(厚み1μm)を介して、前記液晶セル40の初期配向方向と前記偏光子P1の吸収軸とが互いに直交するように積層した。このとき、前記位相差フィルムFの遅相軸と前記偏光子P1の吸収軸とは、互いに直交である(90°±0.5°)。さらに、前記偏光子P1の前記位相差フィルムAが積層されない表面には、下記参考例1の位相差フィルムAを積層した。
【0100】
続いて、前記液晶セルのバックライト側の表面に、第3の光学素子43として下記参考例1の光学フィルムBを、アクリル系粘着剤(厚み23μm)を介して、前記液晶セル40の初期配向方向と前記光学フィルムBの遅相軸が互いに直交するように配置した。なお、第3の光学素子43は、実質的に光学的に等方性を有するが、本実施例ではnx≒nyであるので、遅相軸が検出される(Re=0.1nm)。次いで、前記光学フィルムBの前記液晶セル40と反対側の面に、第2の偏光子として下記で作製した偏光子P2を、前記接着剤(厚み1μm)を介して、前記液晶セル40の初期配向方向と偏光子P2の吸収軸が互いに平行となるように配置し、液晶パネルを作製した。なお、前記偏光子P2の前記光学フィルムBが積層されない表面には、第4の光学素子44として下記参考例1の位相差フィルムAを、前記接着剤(厚み1μm)を介して、積層した。前記防眩性ハードコートフィルム45は、得られた液晶パネルの視認側に、前記防眩性ハードコート層が最外層となるように、前記接着剤(厚み1μm)を介して、配置した。
【0101】
[参考例1]
[位相差フィルムF]
厚み130μmのノルボルネン系モノマーの開環重合体を水素添加した樹脂を含む高分子フィルム(JSR(株)製、商品名「アートンFLZU130D0」)の両側に、収縮性フィルム(東レ(株)製、商品名「トレファンBO2873」)を、アクリル系粘着剤層(厚み:15μm)を介して貼り合わせた。その後、ロール延伸機で、フィルムを長手方向に保持して、146℃の空気循環式恒温オーブン内で、1.26倍に延伸し、厚み147μmの位相差フィルムFを得た。この位相差フィルムFの光学特性は、Re[590]=199.0nm、Rth[590]=82.0nm、Nz=0.41、Re[480]/Re[590]=1.0、光弾性係数の絶対値=5.10×10-12であった。また、前記アクリル系粘着剤は、ベースポリマーとして、溶液重合により合成されたイソノニルアクリレート(重量平均分子量=550,000)を用い、前記ポリマー100重量部に対して、ポリイソシアネート化合物の架橋剤(日本ポリウレタン(株)製、商品名「コロネートL」)3重量部、触媒(東京ファインケミカル(株)製、商品名「OL-1」)10重量部を混合したものを用いた。
【0102】
[位相差フィルムA]
厚み40μmのトリアセチルセルロースを主成分とする高分子フィルム(富士フイルム(株)製、商品名「UZ-TAC」(厚み:40μm、透過率:91%、平均屈折率:1.48))をそのまま用い、位相差フィルムAとした。前記位相差フィルムAの特性は、Re[590]=0.3nm、Rth[590]=40.1nm、C[590]=17.8×10-12m2/Nであった。
【0103】
[光学フィルムB]
イソブテンとN-メチルマレイミドからなる共重合体(N-メチルマレイミドの含有量:50モル%、ガラス転移温度:157℃)65重量部、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)(アクリロニトリルの含有量:27モル%)35重量部、および2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール(紫外線吸収剤)1重量部を押出機にてペレットにしたものを、100℃で5時間乾燥後、40nmφ単軸押出機と400mm幅のTダイを用いて270℃で押出し、シート状の溶融樹脂を冷却ドラムで冷却して幅約600mm、厚み40μmの高分子フィルム(平均屈折率=1.51)を作製した。この高分子フィルムを光学フィルムBとした。得られた光学フィルムBの特性は、透過率91%、Re[590]=0.1nm、Rth[590]=1.0nm、C[590]=4.8×10-12m2/Nであった。
【0104】
[偏光子の作製]
ポリビニルアルコールを主成分とする高分子フィルム(クラレ(株)製、商品名「9P75R」(厚み:75μm、平均重合度:2,400、けん化度:99.9モル%))を30℃±3℃に保持したヨウ素とヨウ化カリウム配合の染色浴にて、ロール延伸機を用いて、染色しながら2.5倍に一軸延伸した。次いで、60±3℃に保持したホウ酸とヨウ化カリウム配合の水溶液中で、架橋反応を行いながら、ポリビニルアルコールフィルムの元長の6倍となるように一軸延伸した。得られたフィルムを50℃±1℃の空気循環式恒温オーブン内で30分間乾燥させて、水分率26%,厚み28μm、偏光度99.9%、単体透過率43.5%の偏光子P1およびP2を得た。
【0105】
(実施例2)
前記第2の微粒子の添加部数を樹脂原料の固形分100重量部に対し5重量部に変更したこと以外は実施例1と同様な方法にて、目的とする防眩性ハードコートフィルムを得た。
・・・略・・・
【0106】
(比較例1)
前記第1の微粒子、前記第2の微粒子ともに添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして防眩性ハードコートフィルムを得た。得られた防眩性ハードコートフィルムを実施例1と同様に前記IPSモードの液晶パネルに装着した。
【0107】
(比較例2)
前記第1の微粒子の添加部数を樹脂原料の固形分100重量部に対し25重量部、前記第2の微粒子を添加しなかったこと以外は実施例1と同様な方法にて、目的とする防眩性ハードコートフィルムを得た。得られた防眩性ハードコートフィルムを実施例1と同様に前記IPSモードの液晶パネルに装着した。
・・・略・・・
【0111】
(実施例3)
実施例1で得られた防眩性ハードコートフィルムを、バーティカル・アラインメント(VA)モードの液晶パネルに装着した。液晶パネルとしては、VAモードの液晶セルを含む液晶表示装置(シャープ(株)製、サイズ37インチ、品番LC-37GX1W)から液晶パネルを取り出し、前記液晶セルの上下に配置されていた偏光板を取り除いて、そのガラス面(表裏)を洗浄したものに、表1に示すように、第1および第3の光学素子として次の参考例2の光学補償層Gを、第4の光学素子として前記位相差フィルムAを、前記比較例3と同様に貼り合わせたものを用いた。
・・・略・・・
【0113】
(実施例4)
実施例2で得られた防眩性ハードコートフィルムを、実施例3と同様に前記VAモードの液晶パネルに装着した。
・・・略・・・
【0121】
このようにして得られた実施例1~4および比較例1~12の各防眩性ハードコートフィルムを装着した液晶パネルについて、各種特性を測定若しくは評価した。各液晶パネルの構成を下記表1に、測定若しくは評価の結果を、下記表2に示す。なお、下記表2において、正面コントラスト比および斜めコントラスト比は、それぞれの液晶パネルと光学補償層の種類ごとに、ヘイズ値0%のハードコートフィルムを使用した場合のコントラスト値を100としたコントラスト比で表示した。
【0122】
【表1】
[図:0001401582000001.jpg]
【0123】
【表2】
[図:0001401582000002.jpg]
【0124】
前記表2に示すように、実施例においては、正面コントラスト比の低下は5%以内に抑えつつ、斜めコントラスト比は10%以上向上し、正面コントラスト比を大幅に低下させることなく、斜めコントラスト比が改善され視野角が拡大していることがわかる。また、実施例では、防眩性および画像の鮮明性に優れ、かつギラツキも効果的に防止された。これに対し、比較例においては、斜めコントラスト比を十分に向上させることができない、あるいは、斜めコントラスト比を実施例と同程度向上させようとすると、正面コントラスト比が大きく低下するという結果となった。また、比較例では、防眩性向上、画像の鮮明性向上およびギラツキ防止のすべての効果を備えるものは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の防眩性ハードコートフィルムによると、正面コントラスト比を大幅に低下させることなく、斜めコントラスト比を改善して液晶表示装置の視野角を拡大することができる。したがって、本発明の防眩性ハードコートフィルムは、例えば、偏光板等の光学部材、液晶パネルおよびLCDに好適に使用でき、その用途は制限されず、広い分野に適用可能である。」
エ 「【図1】
[図:0001401582000003.jpg]
」
(2) 引用発明
ア 引用例1には、「実施例1」の「防眩性ハードコートフィルム」として、【0097】~【0098】に記載の製造工程により形成された「防眩性ハードコートフィルム」が記載されている。
また、引用例1の【0122】【表1】及び【0123】【表2】には、当該「防眩性ハードコートフィルム」の「ヘイズ値(%)」、「防眩性」、「鮮明性」及び「精細度(ギラツキ)」が記載されているところ、これらは、それぞれ【0084】、【0094】、【0095】及び【0096】の定義によるものである。
イ また、引用例1の【0099】~【0100】によれば、「実施例1」「で得られた防眩性ハードコートフィルム」は、「インプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶パネルに装着」されるものである。
さらに、【0122】【表1】及び【0123】【表2】によれば、【0092】の「平均黒輝度の測定」の定義による、「実施例1」「で得られた防眩性ハードコートフィルム」が「装着」される「インプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶パネル」の「平均黒輝度(cd)」は「0.19」である。
ウ また、【0124】によれば、「実施例1」「では、防眩性および画像の鮮明性に優れ、かつギラツキも効果的に防止され」ている。
エ 以上総合すると、引用例1には、「実施例1」の「防眩性ハードコートフィルム」の発明(以下「引用発明」という。)として、次の発明が記載されているものと認められる。
「 透明プラスチックフィルム基材として、トリアセチルセルロースフィルム(厚さ80μm)を準備し、
防眩性ハードコート層形成材料として、GRANDIC PC-1070(大日本インキ化学工業(株)製 ハードコート樹脂、固形分:65重量%、屈折率:1.53)の樹脂固形分100重量部あたり、レベリング剤(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「GRANDIC PC-4100」、固形分10重量%)の固形分が0.5重量部、IRGACURE 184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製光重合開始剤)を0.5重量部、主に表面凹凸を形成する第1の微粒子としてアクリル樹脂微粒子(積水化成品工業(株)製、MBX-8SSTN、サイズ:8μm、屈折率:1.49)30重量部、主に内部ヘイズを調整する第2の微粒子としてシリコーン微粒子(東芝シリコーン(株)製、「トスパール145」、サイズ:4.5μm、屈折率:1.43)2重量部を加えたものを、酢酸エチルにより、固形分濃度が50重量%となるように希釈し、超音波洗浄器を用いて5分間攪拌をおこなったものを準備し、
前記透明プラスチックフィルム基材の片面に、前記防眩性ハードコート層形成材料を、バーコーターを用いて塗布して塗膜を形成し、この際、防眩性ハードコート層の厚みが25μmとなるように、前記塗膜の厚みを調整し、
ついで、100℃で1分間加熱することにより前記塗膜を乾燥させ、その後、紫外線を照射し、前記塗膜を硬化処理して厚み25μmの防眩性ハードコート層を形成して、得られた防眩性ハードコートフィルムであって、
下記の定義による、ヘイズ値(%)が60%、防眩性がAA、鮮明性がB、精細度(ギラツキ)が、106ppiでA、144ppiでA、212ppiでBであり、
下記の定義による平均黒輝度(cd)が0.19cdのインプレーンスイッチング(IPS)モードの液晶パネルに装着される、
防眩性および画像の鮮明性に優れ、かつギラツキも効果的に防止されている防眩性ハードコートフィルム。
(ヘイズ値)
ヘイズの測定方法は、JIS K7136(2000年版)のヘイズ(曇度)に準じ、ヘイズメーターHR300(村上色彩技術研究所社製)を用いて測定した。
(防眩性)
(1)防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に三菱レイヨン製黒色アクリル板(2.0mmt)を粘着剤にて貼り合わせ裏面の反射をなくす。
(2)一般的にディスプレイを用いるオフィス環境下(約1000Lx)にて上記で作製したフィルムサンプルの防眩性を目視にて確認した。
判定基準
AA:像の写り込みがほとんどない。
A :像の写り込みはあるが、視認性への影響は小さい。
B :像の写り込みはあるが、実用上問題はない。
C :像の写り込みがある。
(鮮明性)
(1)ノート型PC(ソニー社製、商品名VAIO VGN-SZ71B/B(13.3inch、WXGA、1280×800))のパネル表面に、凹凸のない平滑な表面を有する偏光板を実装した。防眩性ハードコートフィルムの防眩性ハードコート層が形成されていない面に粘着剤を積層し、前記偏光板の表面に貼付し、実装した。
(2)前記ノート型PCに一般的な画像を写しだして、暗所にて画像の鮮明性を目視にて確認した。判断基準は以下のとおりである。
A :画像がぼやけるが視認性への影響は小さい(画像が鮮明である)。
B :ぼやけはあるが、実用上問題なし(実用上、鮮明性に問題がない)。
C :ぼやけて著しく視認性が低下する(不鮮明で、実用上問題がある)。
(精細度(ギラツキ))
(1)透明フィルム基材の防眩性ハードコート層が形成されていない面に185μmの偏光板を貼り合せたものをガラス基板に接着する。
(2)ライトテーブル上に固定されたマスクパターン上に作製したフィルムサンプルのギラツキ度合いを目視にて評価した。マスクパターンは精細度が106ppi、144ppi、212ppiのものを準備し、順次判定した。下記判定基準でAになったマスクパターンの精細度を記録した。
判定基準
A :ギラツキがほとんどない。
B :ギラツキはあるが、実用上問題はない。
C :ギラツキがある。
(平均黒輝度の測定)
ELDIM社製、製品名「EZContrast160D」を用いて、極角60°における黒輝度を、方位角0~360°において1°刻みで測定し、その平均値を算出して平均黒輝度を求めた。」
(当合議体注:【0123】【表2】の「精細度(ギラツキ)」及び【0096】の「ギラツキ(精細度)」との記載を、「精細度(ギラツキ)」に統一して記載した。)
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明を対比すると、以下のとおりである。
(ア) 引用発明の形成工程からみて、引用発明の「防眩性ハードコートフィルム」は、「トリアセチルセルロースフィルム(厚さ80μm)」である「透明プラスチックフィルム基材の片面に」、「防眩性ハードコート層形成材料を」「塗布して塗膜を形成し」、「乾燥させ」、「紫外線を照射し、前記塗膜を硬化処理して」「形成」された「防眩性ハードコート層」を備えるものである。
ここで、引用発明の「防眩性ハードコート層」は、その文言が意味するとおり、「防眩性」の「層」である。また、引用発明は、「防眩性を目視にて確認した」際、「防眩性がAA」で「像の写り込みがほとんどない」ものであるところ、引用発明の「トリアセチルセルロースフィルム(厚さ80μm)」である「透明プラスチックフィルム基材」は、「防眩性ハードコート層」を「形成」するための「透明」な「基材」である。そうすると、引用発明の「透明プラスチックフィルム基材」自体は、防眩性を有するもの(層)ではない。
してみると、引用発明の「防眩性ハードコート層」は、本件特許発明1の「防眩層」に相当する。
さらに、引用発明の「防眩性ハードコートフィルム」は、その文言が意味するとおり、「防眩性」の「フィルム」である。
そうすると、引用発明の「防眩性ハードコートフィルム」は、本件特許発明1の、「防眩層を備える」とされる、「防眩フィルム」に相当する。
(イ) 引用発明は、「JIS K7136(2000年版)のヘイズ(曇度)に準じ、ヘイズメーターHR300(村上色彩技術研究所社製)を用いて測定した」「ヘイズ値(%)が60%」「である」。
ここで、本件特許発明1の「ヘイズ値」は、本件特許の明細書の【0025】によれば、「ヘイズ値は、JIS K7136に準拠する方法により測定した値である」。
してみると、引用発明の「ヘイズ値(%)」と、本件特許発明1の「ヘイズ値」は、同じ規格によるものであるから、同一視できる。
(ウ) 上記(ア)で述べたとおり、引用発明の「透明プラスチックフィルム基材」は、「防眩性ハードコート層」を「形成」するための「透明」な「基材」である。そうすると、引用発明の「透明プラスチックフィルム基材」のヘイズは、実質的に0%といえる(当合議体注:「前記第1の微粒子、前記第2の微粒子ともに添加しなかったこと以外は実施例1と同様にし」た比較例1(【0106】)の「ヘイズ値(%)」が0%(【0122】【表1】)であることからも理解できる。)。
してみると、引用発明は、ヘイズ値(%)が60%である「防眩性ハードコート層」を備えるということができる。
以上総合すると、引用発明の「防眩性ハードコートフィルム」と、本件特許発明1の「防眩フィルム」とは、「ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値である」、「防眩層を備える」点で共通する。
イ 一致点及び相違点
(ア) 一致点
本件特許発明1と引用発明は、次の構成で一致する。
「 ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値である防眩層を備える、防眩フィルム。」
(イ) 相違点
本件特許発明1と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1-1)
「防眩層」が、本件特許発明1は、「内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であ」るのに対して、引用発明は、「内部ヘイズ値」が分からない点。
(相違点1-2)
「防眩層」が、本件特許発明1は、「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」のに対して、引用発明は、そのようなものであるかどうか不明な点。
ウ 判断
(ア) 一次決定について
一次決定は、相違点1-1について、引用発明は、ヘイズ値(%)が60%、精細度(ギラツキ)が、106ppiでA、144ppiでA、212ppiでBであり、防眩性および画像の鮮明性に優れ、かつギラツキも効果的に防止されているものであるところ、引用例2の【0035】あるいは特開2015-172835号公報(以下「周知文献A1」という。)の【0029】の記載に接した当業者は、内部ヘイズは、5~30%であることが好ましく、内部ヘイズを5%以上とすることで、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止しやすくでき、30%以下とすることで、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できることを理解し、「ヘイズ値(%)が60%」の引用発明において、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止し、かつ、超高精細の表示素子の解像度(鮮明性に対応)の低下を防止できるとのことから、内部ヘイズを5%とすることは、当業者が容易になし得たことである旨判断した。
(イ) 確定判決の判示事項
確定判決は、本件特許発明の技術的意義について、ディスプレイの表面に装着する防眩フィルムにつき、ギラツキを抑えて防眩性を得るために内部ヘイズを高めると、ディスプレイからの低波長の光が散乱される等により色の再現性が低下することから、内部ヘイズ値を抑制しつつ外部ヘイズ値により全体のヘイズ値を維持し、良好な防眩性を得つつ色の再現性を確保することにある旨認定した。
その上で、確定判決は、進歩性に関し、以下のとおり判断した。
すなわち、引用例2において、表面ヘイズの値は、ギラツキと技術的に一体不可分である凹凸の形状を規定するものであるから、表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆するものと解することはできず、引用例2の【0035】の記載を根拠として、引用例2が、表面ヘイズ値と切り離して内部ヘイズ値を5%程度に調整することによりバラツキを調整することを示唆しているということはできないところ、引用発明の(全体の)ヘイズ値は60%であり、また、引用例1には、防眩性ハードコートフィルムは、(全体の)ヘイズ値が60%以上であるとされているから、引用発明に引用例2を組み合わせても、内部ヘイズ値を20%よりも小さい値とすることを当業者が容易に想到することはできない。
なお、周知文献A1も表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆するものではない。
したがって、引用例を組み合わせても、内部ヘイズ値を20%よりも小さい値とすることを当業者が容易に想到することはできず、内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲であるという、本件特許発明1の構成を当業者が容易に想到することもできないと判断した。そして、本件特許発明1は引用例又は周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする一次決定の判断は誤りであると判断した。
(ウ) 当審の判断
行政事件訴訟法33条1項の規定により、前記確定判決は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって,当審を拘束する。そこで、当審は以下のとおり判断する。
引用例2には、以下の記載がある。
「本発明は、このような状況下になされたものであり、凹凸構造を有する場合においても、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子の映像光のギラツキを防止でき、かつ解像度の低下を防止できるタッチパネル、表示装置及び光学シートを提供することを目的とする。」(【0007】)、
「本発明者らは、解像度の低下を招く可能性のある内部ヘイズに頼ることなくギラツキを防止することについて鋭意研究した結果、表面凹凸の割合を示す後述する式(I)及び、概ね傾斜角5度以上の領域を示す表面ヘイズを特定の範囲とすることにより、ギラツキを防止するとともに、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0008】)、
「該光学シートは、強度比が1に近く、さらに大き過ぎずかつ小さ過ぎない範囲の表面ヘイズを有することから、凹凸形状の中に、傾斜角度の小さい凹凸(傾斜角5度未満の凹凸)と、傾斜角度の大きい凹凸(傾斜角5度以上の凹凸)とが混在している。このように、凹凸内に様々な傾斜角が存在することにより、ギラツキをより防止しやすくできる(正確には、本発明でも多少のギラツキは生じていると考えられる。」(【0025】)、
「以上のように、本発明では、表面ヘイズが22~40%であり、かつ、強度比が1.0以上4.0以下の光学シートを用いることにより、防眩性等の諸特性を付与しつつ、超高精細の表示素子のギラツキ及び解像度の低下を防止できる。
表面ヘイズが22%未満又は強度比が4.0を超える場合はギラツキを防止できない。また、表面ヘイズが40%を超える場合は解像度が低下してしまう。」(【0026】)、
「そして、強度比を規定するとともに、表面ヘイズを規定することにより、凹凸の程度(表面拡散要素)をより具体的に表すことができる。」(【0029】)、
「 光学シートは、ヘイズ(JIS K7136:2000)が25~60%であることが好ましく、30~60%であることがより好ましく、30~50%であることがさらに好ましい。ヘイズを25%以上とすることにより、防眩性を付与するとともに、電極の形状や傷を見えづらくすることができる。また、ヘイズを60%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止するとともに、コントラストの低下を防止しやすくできる。
また、内部ヘイズは、5~30%であることが好ましく、5~25%であることがより好ましく、10~18%であることがさらに好ましい。内部ヘイズを5%以上とすることにより、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止しやすくでき、30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できる。」(【0035】)。
上記【0007】、【0008】、【0025】、【0026】、【0029】によれば、引用例2において、表面ヘイズを特定の範囲とすることは、課題とするギラツキを防止するために必須の構成であって、表面ヘイズの値は、ギラツキと技術的に一体不可分である凹凸の形状を規定するものであるから、表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆するものと解することはないといえる。
したがって、引用例2の【0035】に「内部ヘイズは、5~30%であることが好ましく、5~25%であることがより好ましく、10~18%であることがさらに好ましい。内部ヘイズを5%以上とすることにより、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止しやすくでき、30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できる。」との記載を根拠として、引用例2が、表面ヘイズ値と切り離して内部ヘイズ値を5%程度に調整することによりバラツキを調整することを示唆しているということはできない。
そして、引用例2に、光学シートの表面ヘイズが22ないし40%であり、(全体の)ヘイズが25ないし60%であることが好ましいことが記載されている一方で、引用発明の(全体の)ヘイズ値は60%であり、また、引用例1には、防眩性ハードコートフィルムは、(全体の)ヘイズ値が60%以上であるとされているから、引用発明に引用例2を組み合わせても、内部ヘイズ値を20%よりも小さい値とすることを当業者が容易に想到することはできない。
また、周知文献A1も、「内部ヘイズは、5~30%であることが好ましく」と記載されているものの、他方で、「表面ヘイズは20~50%であることが好ましく」とも記載されているから(周知文献A1の段落【0029】)、表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆するものとはいえない。
したがって、当審は、引用発明及び引用文献2又は周知文献A1に記載された技術事項に基づき、相違点1-1に係る構成を、容易に想到し得たものではないと判断する。また、その他に、本件特許発明1の相違点1-1に係る構成を当業者が容易に想到することができたことを認めるに足りる証拠はないと判断する。
(エ) 以上のとおりであるから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明、引用例2~引用例5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件特許発明2~4について
確定判決は、本件特許発明1は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、そして、本件特許発明2ないし4は、いずれも、本件特許発明1を引用し、これを更に限定するものであるから、本件特許発明2ないし4も、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨判示した。
前記確定判決は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって,当審を拘束する(行政事件訴訟法33条1項)から、当審は、本件特許発明2ないし4は、引用発明、引用例2ないし5に記載された技術ないし周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断する。
2 理由2(実施可能要件)、理由3(サポート要件)及び理由4(明確性要件)について
(1) 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載がある。なお、下線は、当合議体が付したものである。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値であり、且つ、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である防眩層を備える、防眩フィルム。
【請求項2】
前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有する、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、
前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が、0以上0.07以下の範囲の値である、請求項1又は2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.07以上0.20以下の範囲の値である、請求項3に記載の防眩フィルム。」
イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
防眩フィルムは、例えば、粗面化により表面に凹凸が形成された防眩層を有するフィルムであり、ディスプレイの表面に装着され、外光を散乱させてディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する。
【0003】
ところで、高精細画素を有するディスプレイ等の表面に防眩フィルムを装着すると、防眩フィルムを透過するディスプレイからの光が防眩層の表面の凹凸により屈折したり、防眩層の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりすることで、ディスプレイのギラツキが発生し、画像が見づらくなることがある。
【0004】
そこで、例えば特許文献1に開示されるように、防眩層中に粒径が比較的小さい微粒子を分散させることで表面に微細な凹凸を形成し、ディスプレイのギラツキの抑制を図ったものが知られている。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、単に防眩層中に微粒子を分散させた場合、防眩フィルムが例えば黄色味等の色味を帯びるように着色し、防眩フィルムを介したディスプレイの色再現性が低下するおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る防眩フィルムは、ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値であり、ディスプレイの表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である防眩層を備える。
【0009】
上記構成を有する防眩フィルムの防眩層では、内部ヘイズ値を0.5%以上15.0%以下の範囲の値に抑制しながら、ヘイズ値が、外部ヘイズ値により60%以上95%以下の範囲の値に維持される。
【0010】
このように防眩層を構成することで、防眩層の内部ヘイズ値を高めなくても、防眩層の表面を適切に粗面化して外部ヘイズ値を調節し、良好な防眩性を得ることができる。よって例えば、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中の微粒子によって広角に散乱するのを抑制できる。従って、防眩フィルム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルムが着色する(例えば、青色光等の低波長光が散乱されて防眩フィルムが黄色味を帯びるように着色する)のを防止できる。
【0011】
また、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値は、ディスプレイ上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる。このため上記構成では、前記標準偏差の値を0以上10以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルムの着色を防止しながら、ディスプレイのギラツキをより良好に抑制できる。
【0012】
L*a*b*表色系におけるb*値が0以上10以下の範囲の値であってもよい。このように、防眩フィルムのL*a*b*表色系におけるb*値を設定することで、防眩フィルムが色味を帯びるのを良好に防止できる。
【0013】
前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有してもよい。これにより防眩層の内部ヘイズ値を抑制しながら、防眩層の表面に共連続相構造により凹凸を形成することで防眩層のヘイズ値を適切に設定し、ディスプレイのギラツキを抑制し易くできる。
【0014】
前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が、0以上0.2以下の範囲の値であってもよい。
【0015】
このように、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、良好な防眩性を確保しながらディスプレイのギラツキを抑制できると共に、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差によって防眩フィルムに入射した光が広角に散乱するのを良好に抑制でき、防眩フィルムの着色を防止できる。
【0016】
前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.07以上0.20以下の範囲の値であってもよい。これにより、マトリクス樹脂に複数の微粒子が分散された構造の防眩層を有する上記防眩フィルムを良好に製造できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供できる。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施形態について、図を参照して説明する。
(第1実施形態)
【0020】
図1は、第1実施形態に係る防眩フィルム1の構成を示す断面図である。防眩フィルム1は、表示装置16(図3参照)のディスプレイ16aの表面に装着される。防眩フィルム1は、基材フィルム2、防眩層3、及び粘着層4を備える。
・・・略・・・
【0022】
防眩層3は、基材フィルム2の少なくとも一方の面に形成されている。防眩層3は、防眩フィルム1に防眩性を付与し、外光を散乱反射させてディスプレイ16aの表面への外光の映り込みを防止する。
・・・略・・・
【0023】
防眩層3は、ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値に設定され、且つ、内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値に設定されている。
【0024】
ヘイズ値は、上記範囲内において適宜設定可能であるが、70%以上85%以下の範囲の値であることが一層望ましい。また、内部ヘイズ値も上記範囲内において適宜設定可能であるが、0.5%以上8.0%以下の範囲の値であることが一層望ましい。
【0025】
本実施形態のヘイズ値は、JIS K7136に準拠する方法により測定した値である。外部ヘイズ値は、ヘイズ値から内部ヘイズ値を差し引いた値に相当する。
・・・略・・・
【0026】
このように防眩フィルム1の防眩層3では、内部ヘイズ値を0.5%以上15.0%以下の範囲の値に抑制しながら、ヘイズ値が、外部ヘイズ値により60%以上95%以下の範囲の値に維持される。このように防眩層3を構成することで、防眩層3の内部ヘイズ値を高めなくても、防眩層の表面を適切に粗面化して外部ヘイズ値を調節し、良好な防眩性が得られる。よって例えば、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中の微粒子によって広角に散乱するのを抑制できる。従って、防眩フィルム1内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルム1が着色する(例えば、青色光等の低波長光が散乱されて防眩フィルムが黄色味を帯びるように着色する)のを防止できる。
【0027】
また防眩フィルム1は、L*a*b*表色系におけるb*値が0以上10以下の範囲の値に設定されている。このように、防眩フィルム1のL*a*b*表色系におけるb*値を設定することで、防眩フィルム1が色味を帯びるのを良好に防止できる。
【0028】
また防眩層3は、詳細を後述するように、複数の樹脂成分を含み、この複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有する。これにより、防眩層3の内部ヘイズ値を抑制しながら、防眩層3の表面に共連続相構造により凹凸を形成することで防眩層3のヘイズ値を適切に設定し、ディスプレイ16aのギラツキを抑制し易くできる。
【0029】
また防眩フィルム1は、ディスプレイ16aの表面に装着した状態におけるディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(以下、ギラツキ値とも称する。)が、0以上10以下の範囲の値に設定されている。
【0030】
ここで、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値は、ディスプレイ16a上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイ16aのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる。従って、前記標準偏差の値を0以上10以下の範囲の値に設定することで、防眩フィルム1の着色を防止しながら、ディスプレイ16aのギラツキをより良好に抑制できる。以下、基材フィルム2及び防眩層3の具体例について説明する。
・・・略・・・
【0034】
[防眩層の構造]
第1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3は、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な状態で共連続相構造を形成している。
・・・略・・・
【0078】
ここで、ディスプレイ16aのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。しかしながら、防眩層の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができる。
【0079】
第1実施形態において前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できるが、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例えば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻且つ数密度の高い凹凸の分布構造を防眩層に形成できる。そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との差異を中心に説明する。」
エ 「【0080】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る防眩フィルムの防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む。・・・略・・・防眩層には、各微粒子が一次粒子として分散していてもよいし、複数の微粒子が凝集して形成された複数の二次粒子が分散していてもよい。
【0081】
マトリクス樹脂と、微粒子との屈折率差は、0以上0.2以下の範囲の値に設定されている。この屈折率差は、0以上0.15以下の範囲の値であることが更に望ましく、0以上0.07以下の範囲の値であることがより望ましい。
【0082】
微粒子は、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定されている。微粒子の平均粒径は、0.5μm以上4.0μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、1.0μm以上3.0μm以下の範囲の値であることがより好ましい。
【0083】
また、微粒子の粒径のバラツキは小さい方が望ましく、例えば、防眩層に含まれる微粒子の粒径分布において、防眩層に含まれる微粒子の50重量%以上の平均粒径が1.0μm以内のバラツキに収められていることが望ましい。
【0084】
このように、粒径が比較的均一に揃えられ且つ平均粒径が上記範囲に設定された微粒子により、防眩層の表面に均一且つ適度な凹凸が形成される。これにより、防眩性を確保しつつディスプレイ16aのギラツキを抑制できる。また、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差が上記範囲に設定されることにより、防眩フィルム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルムが着色するのを防止できる。
【0085】
防眩層におけるマトリクス樹脂の重量と複数の微粒子の総重量との比は、適宜設定することが可能である。本実施形態では、前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1は、0.07以上0.20以下の範囲の値に設定されている。比G2/G1は、0.1以上0.20以下の範囲の値であることが望ましく、0.12以上0.2以下の範囲の値であることがより望ましい。
【0086】
マトリクス樹脂中に分散される微粒子は、無機系及び有機系のいずれのものでもよいが、良好な透明性を有するものが好ましい。
・・・略・・・
【0087】
マトリクス樹脂としては、活性エネルギー線により硬化する光硬化性樹脂、塗工時に添加した溶剤の乾燥により硬化する溶剤乾燥型樹脂、及び、熱硬化性樹脂の少なくともいずれかを例示できる。
・・・略・・・
【0096】
[調製工程]
調製工程では、溶媒と、防眩層を構成するための樹脂組成物と、微粒子とを含む溶液を調製する。
・・・略・・・
【0097】
[塗布・硬化工程]
塗布工程では、調製工程で調製した溶液を、第1実施形態と同様の方法により、支持体(ここでは一例として基材フィルム2)の表面に流延又は塗布する。支持体の表面に流延又は塗布した溶液から、溶媒を乾燥により蒸発させて除去する。
【0098】
マトリクス樹脂が光硬化性樹脂である場合、塗布工程後に、一例として紫外線又は電子線による硬化工程を行う。
・・・略・・・
【0100】
溶液に含まれていたマトリクス樹脂が硬化することにより、マトリクス樹脂中の微粒子の位置が固定される。これにより、マトリクス樹脂中に複数の微粒子が分散され、表面に微粒子による凹凸が形成された構造の防眩層が形成される。
【0101】
第2実施形態の防眩フィルムによれば、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、良好な防眩性を確保しながらディスプレイ16aのギラツキを抑制できると共に、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差によって防眩フィルムに入射した光が広角に散乱するのを良好に抑制でき、防眩フィルムの着色を防止できる。
【0102】
また比G2/G1が、0.07以上0.15以下の範囲の値に設定されているので、マトリクス樹脂に複数の微粒子が分散された構造の防眩層を有する防眩フィルムを良好に製造できる。」
オ 「【0103】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る防眩フィルムの防眩層33は、基材フィルム側とは反対側の表面に凹凸形状が賦形された構造を有する。防眩層33は、樹脂層で構成されている。この樹脂層は、一例として、第2実施形態のマトリクス樹脂と同様の材質により構成されている。
【0104】
具体的に、第3実施形態に係る防眩フィルムは、基材フィルム上に硬化性樹脂を含むコート層を形成し、このコート層の表面を凹凸形状に賦形した後、コート層を硬化することにより製造される。図2は、第3実施形態に係る防眩フィルムの製造方法を示す図である。図2の例では、硬化性樹脂として紫外線硬化樹脂を用いている。
・・・略・・・
【0107】
基材フィルム20aに塗布された紫外線硬化樹脂前駆体の層(以下、コート層と称する。)は、ロール21,24のニップ点において、基材フィルム20aと共に押圧される。ロール24は、周面に微細な凹凸が形成されたロール状金型(エンボスロール)であり、ロール21,24のニップ点N2を通過する際にコート層の表面に凹凸形状を転写する。
【0108】
ロール24により表面に凹凸形状が転写されたコート層は、ロール21,24の下方に設けられた紫外線ランプ26から照射される紫外線により硬化される。
・・・略・・・
【0109】
ここで、ロール24の表面の凹凸部は、ブラスト法により、所定の粒径のブラスト粒子を衝打させて形成されており、ブラスト粒径を調整することで、防眩フィルムのコート層に形成される凹凸形状を調整できる。
・・・略・・・
【0111】
このように、第3実施形態に係る防眩フィルムの作製方法は、基材フィルムに硬化性樹脂前駆体を塗布するステップ(a)と、ブラスト粒子を衝打させて表面に凹凸形状を有するロール状金型を作製するステップ(b)と、このロール状金型を用いて、基材フィルムに塗布した硬化性樹脂前駆体の表面に凹凸形状を転写するステップ(c)と、凹凸形状を転写した硬化性樹脂前駆体を硬化させて、表面に凹凸形状を有する防眩層を形成するステップ(d)とを有する。
【0112】
ステップ(b)において使用するブラスト粒子の平均粒径は、適宜設定可能であるが、一例として、10μm以上50μm以下の範囲の値に設定できる。ブラスト粒子の平均粒径は、20μm以上45μm以下の範囲の値が一層望ましく、30μm以上40μm以下の範囲の値がより望ましい。これにより、表面に凹凸形状が賦形された防眩層33が得られる。
【0113】
なお、第3実施形態において使用する金型は、ロール状金型以外でもよく、例えば、板状金型(エンボス板)でもよい。また、基材フィルムの一方の面にコート層(樹脂層)を形成した後、このコート層の表面を金型により賦形し、コート層を硬化することで、防眩層33を形成してもよい。
・・・略・・・
【0114】
金型の材質は、一例として、金属、プラスチック、及び木を例示できる。金型のコート層との接触面には、金型の耐久性(耐摩耗性)を向上させるために被膜を設けてもよい。ブラスト粒子の材質は、一例として、金属、シリカ、アルミナ、及びガラスを例示できる。ブラスト粒子は、例えば、気体又は液体の圧力により金型の表面に衝打させることができる。
・・・略・・・
【0115】
第3実施形態の防眩フィルムでは、防眩層33中に微粒子を分散させなくてもよいので、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中のマトリクス樹脂と微粒子との屈折率差によって広角に散乱することで防眩フィルムが着色するのを良好に防止できる。」
カ 「【0117】
・・・略・・・以下、上記した各実施形態の防眩フィルムを検査・評価するためのギラツキ検査機とギラツキ評価方法とについて順に説明する。
【0118】
(ギラツキ検査機)
図3は、ギラツキ検査機10の概略図である。ギラツキ検査機10は、表面に防眩フィルム1等のフィルムを装着した表示装置16におけるディスプレイ16aのギラツキを評価する装置であって、筐体11、撮像装置12、保持部13、撮像装置用架台14、表示装置用架台15、及び画像処理装置17を備える。市販されているギラツキ検査機10としては、コマツNTC(株)製「フィルムギラツキ検査機」が挙げられる。
【0119】
筐体11は、撮像装置12によりディスプレイ16aを撮像するための暗室を有する。筐体11内には、撮像装置12、保持部13、撮像装置用架台14、及び表示装置用架台15と、評価対象の表示装置16とが収容される。
【0120】
撮像装置12は、一例としてレンズ18と撮像素子とを有するエリアカメラであり、ディスプレイ16aに表示される画像を撮像する。撮像装置12は画像処理装置17に接続され、レンズ18とディスプレイ16aとが対向するように保持部13に保持される。撮像装置12により撮像された画像データは、画像処理装置17に送信される。
【0121】
保持部13は、上下方向に延び、下端において撮像装置用架台14に固定されながら、撮像装置12を保持する。保持部13は、撮像装置12を表示装置16に対して鉛直方向に相対移動させることで、ディスプレイ16aとレンズ18との間の相対距離を変更可能に撮像装置12を保持する。
【0122】
表示装置16は、フィルムを装着したディスプレイ16aを撮像装置12と対向させた状態で、表示装置用架台15の上面に載置される。表示装置用架台15は、フィルムを装着したディスプレイ16aの表面が撮像装置12と対向し、且つ水平面となるように支持すると共に、表示装置16を撮像装置12に対して鉛直方向に相対移動させる。
【0123】
ギラツキ検査機10では、撮像装置12とディスプレイ16aとの間の相対距離を調整することによって、撮像装置12の撮像素子の単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される、ディスプレイ16aに表示された画像の画素サイズが調整される。
【0124】
画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データのデータ処理を行う。具体的に画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データから、ディスプレイ16aの輝度の標準偏差を求める。
【0125】
本実施形態の画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データが入力される入力部と、入力された画像データを画像処理する画像処理部と、画像処理部によって処理された結果を表示装置又は印字装置等に出力する出力部等を備える。
【0126】
ディスプレイ16aに表示された画像を撮像装置12で撮像するときの撮像素子の単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される画像の画素サイズの調整方法としては、撮像装置12とディスプレイ16aとの間の相対距離を変更させる方法の他、撮像装置12が備えるレンズ18がズームレンズである場合には、撮像装置12の焦点距離を変える方法でもよい。
【0127】
(ギラツキ評価方法)
次に、ギラツキ検査機10を用いたディスプレイ16aのギラツキ評価方法について説明する。このギラツキ評価方法では、評価の便宜上、表面にフィルムを装着したディスプレイ16aを予め一色(一例として緑色)に均一発光させて表示させる。
【0128】
次に、撮像装置12の撮像素子の単位画素当たりに撮像されるフィルムを装着したディスプレイ16aの画素サイズを調整する調節ステップを行う。調整ステップでは、撮像装置12の撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12が撮像する画像において、画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に、撮像装置12と、フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整する。
【0129】
なお、撮像装置12と表示装置16との間の相対距離は、表示装置16の使用態様(例えば、ユーザの目とディスプレイ16aの表面との間の相対距離)を考慮して設定されることが望ましい。
【0130】
調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキを評価する測定エリアを設定する設定ステップを行う。設定ステップでは、測定エリアは、例えばディスプレイ16aのサイズ等に応じて適切に設定する。
【0131】
調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアを撮像装置12により撮像する撮像ステップを行う。このとき一例として、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整する。撮像ステップで撮像された画像データは、画像処理装置17へと入力される。
【0132】
撮像ステップ後、画像処理装置17は、画像データを用いて、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアにおける輝度のばらつきを求める演算ステップを行う。この演算ステップにおいて、輝度のばらつきは、輝度分布の標準偏差として数値化される。
【0133】
ここで、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキは、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝度のばらつきが大きいほど大きくなる。これにより、輝度分布の標準偏差の値が小さいほど、ディスプレイ16aのギラツキは小さいと定量的に評価できる。また調整ステップにおいて、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝線がディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に調整されているので、輝線による輝度ムラを抑え、ディスプレイ16aの正確なギラツキの評価を行うことができる。以上の各ステップを経ることにより、表面にフィルムを装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差を求め、その値によりディスプレイ16aのギラツキを評価できる。」
キ 「【0134】
(実施例及び比較例)
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1~6は、相分離構造を基本構造として防眩層3を形成するものである。
【0135】
比較例1は、一般に使用される高屈折率ビーズ(ポリスチレンビーズ)によりヘイズ値を上昇させた防眩層を形成するものである。比較例2は、高屈折率のナノ粒子(ジルコニア微粒子)によりヘイズ値を上昇させた防眩層を形成するものである。比較例3は、相分離構造を基本構造とし、低屈折率のナノ粒子(中空シリカゲル粒子)によりヘイズ値を上昇させた防眩層を形成するものである。なお、以下の実施例及び比較例の説明において記載する屈折率は、架橋により硬化するものについては架橋後(硬化後)の屈折率を示す。
【0136】
[実施例1]
・・・略・・・
【0148】
[比較例1]
ウレタンアクリレート((株)トクシキ製、AU-230、屈折率1.52)39重量部、シリコン系ハードコート材((株)トクシキ製、AS-201S)15.7重量部、PMMAビーズ(積水化学工業(株)製、SSX-115、屈折率1.50)0.3重量部、架橋スチレンビーズ(綜研化学(株)製、SX-130H、屈折率1.59)6.1重量部をメチルエチルケトン38重量部に溶解し、溶液を調製した。
【0149】
この溶液を、ワイヤーバー(#14)を用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(基材フィルム)上に流延した後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約6μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層を紫外線硬化処理した。これにより防眩層を形成し、比較例1の防眩フィルムを得た。
【0150】
[比較例2]
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、DPHA、屈折率1.52)50重量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、PETRA、屈折率1.52)50重量部、ジルコニア微粒子(屈折率約2.0)分散液(東洋インキ(株)製、リオデュラスTYZ)100重量部、光開始剤(BASFジャパン(株)製、イルガキュア184)2重量部、光開始剤(BASFジャパン(株)製、イルガキュア907)1重量部を、メチルエチルケトン116重量部、1-ブタノール19重量部、1-メトキシ-2-プロパノール58重量部の混合溶媒に溶解し、溶液を調製した。
【0151】
この溶液を、ワイヤーバー(#14)を用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(基材フィルム)上に流延した後、80℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約6μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層を紫外線硬化処理した。これにより防眩層を形成し、比較例2の防眩フィルムを得た。
【0152】
[比較例3]
メタクリル酸メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート共重合体(ダイセル・オルネクス(株)製、サイクロマーP、屈折率1.51)12.5重量部、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピオニル度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン社製、CAP-482-20、屈折率1.49)4重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、DPHA)125重量部、シリコーンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、EB1360、屈折率1.52)1重量部、中空シリカゲル(日揮触媒化成(株)製、スルーリア、屈折率1.25)75重量部、光開始剤(BASFジャパン(株)製、イルガキュア184)1重量部、光開始剤(BASFジャパン(株)製、イルガキュア907)1重量部を、メチルエチルケトン56重量部、1-ブタノール11重量部、1-メトキシ-2-プロパノール10重量部の混合溶媒に溶解し、溶液を調製した。
【0153】
この溶液を、ワイヤーバー(#20)を用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(基材フィルム)上に流延した後、80℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約9μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層を紫外線硬化処理した。これにより防眩層を形成し、比較例3の防眩フィルムを得た。
【0154】
次に、実施例1~6及び比較例1~3の各防眩フィルムについて、以下の項目を測定して評価した。ヘイズ及び全光線透過率、60度グロス、表面構造、透過色相(a*,b*)の測定に際しては、粘着層は省略した。
【0155】
[ヘイズ及び全光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。ヘイズは、防眩層の凹凸構造を有する表面が受光器側となるように配置して測定した。内部ヘイズは、防眩層の凹凸構造を有する表面に透明粘着層を介して平滑な透明フィルムを貼り合わせて測定した。
・・・略・・・
【0157】
[表面構造]
接触式表面粗さ計(東京精密(株)製、サーフコム570A)を用いて、JIS B0601に準拠して、走査範囲3mm、走査回数2回の条件で、中心線平均表面粗さ(Ra)及び平均山谷間隔(Sm)を測定した。
【0158】
[透過色相(a*,b*)]
分光光度計((株)日立ハイテクサイエンス製、U-3010)を用いて、JIS Z8781に準拠して測定した。
【0159】
[ディスプレイの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)]
表示装置16としてスマートフォン(三星電子(株)製「Galaxy S4」)を用い、そのディスプレイ16aの表面に、各サンプルの防眩フィルムを粘着層(光学糊)により貼り付けた。コマツNTC(株)製フィルムギラツキ検査機10を用い、各サンプルの防眩フィルムを介して、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(ギラツキσ:ギラツキ値)を測定した。この測定に際しては、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整した。
各測定結果を表1に示す。
【0160】
【表1】
[図:0001401582000004.jpg]
【0161】
表1に示すように、実施例1~6の防眩層3は、ヘイズ値が67.8%以上91.49%以下の範囲の値に設定されていると共に、内部ヘイズ値が、比較例1~3の内部ヘイズ値よりも小さい3.3%以上13.0%以下の範囲の値に設定されている。また、実施例1~6の防眩層3の60度グロス(%)の値は、比較例1~3の防眩層の60度グロス(%)の値よりも十分に抑制されている。また、実施例1~6及び比較例1~3の防眩フィルムは、いずれもディスプレイ16aのギラツキ値(ギラツキσ)が0以上10以下の範囲の値に抑制されている。
【0162】
表1に示すように、実施例1~6は、比較例1~3と同等にディスプレイ16aのギラツキ値を抑制しながら、比較例1~3に比べて、良好な防眩性を発揮できると共に、b*値を抑制して防眩フィルムの着色を効果的に防止できることが分かった。
【0163】
この理由として、実施例1~6では、防眩層3の表面の凹凸構造が基本的に相分離構造により形成されていると共に、防眩層3において相分離構造を形成するように組み合わせられた樹脂同士の屈折率差が抑制(ここでは各屈折率値が等しく設定)されていることから、防眩層3が、比較的高いヘイズ値を有しているにもかかわらず、その内部において、透過光が広角に散乱するのが防止されたことが考えられる。
【0164】
また、実施例1~5の防眩層3は微粒子(ナノシリカ粒子)を含んでいるが、相分離構造を形成する樹脂と微粒子との屈折率値がほぼ等しい(0.07以下である)ことから、透過光の広角への散乱が防止され、防眩フィルム1の着色が防止されたものと考えられる。
【0165】
また、実施例1~6が示した特性の傾向と、本願発明者らが行った別の検討により、ヘイズ値が60%以上67.8%未満、又は、91.49%より大きく95%以下の範囲の値に設定され、内部ヘイズ値が0.5%以上3.3%未満、又は、13.0%より大きく15.0%以下の範囲の値に設定され、ギラツキ値が0以上4.34未満、又は、9.01以上10以下の範囲の値に設定されている場合においても、実施例1~6と同様の効果が奏されると考えられる。
【0166】
比較例1~3は、実施例1~6に比べて、内部ヘイズ値が比較的大きいと共にb*値も大きいことが分かった。比較例1では、防眩層中において、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂に対して比較的多く添加されたビーズとの屈折率差によって、透過光のうち、散乱が起こり易い低波長光(青色光)の広角への散乱が多く生じ、防眩フィルムが黄色味を帯びるように着色したものと考えられる。
【0167】
比較例2では、防眩層に比較的高い屈折率を有する微粒子(ナノ粒子)を添加することにより内部ヘイズ値が上昇され、比較例3では、相分離構造を有する防眩層に比べて低い屈折率を有する微粒子(ナノ粒子)を添加することにより内部ヘイズ値が上昇されている。
【0168】
しかしながら比較例2,3では、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差が比較的大きく、比較例1と同様に低透過光の広角への散乱が多く生じ、防眩フィルムが黄色味を帯びるように着色したものと考えられる。
【0169】
また、実施例1~5及び比較例3の結果から、相分離構造を基本構造として防眩層を形成する場合でも、防眩層中のマトリクス樹脂と微粒子との屈折率差が比較的大きいことによって透過光の広角への散乱が生じると、防眩フィルムが着色するおそれがあることが分かった。
【0170】
よって、防眩層中に微粒子を添加する場合、防眩フィルムの着色を防止するためには、相分離構造を形成する樹脂又はマトリクス樹脂と、微粒子との屈折率差を抑制することが望ましいと言える。
【0171】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成又は方法を変更、追加、又は削除できる。例えば、第1実施形態又は第3実施形態の防眩層中に、第2実施形態の微粒子を分散させてもよい。」
ク 「【図1】
[図:0001401582000005.jpg]
【図2】
[図:0001401582000006.jpg]
【図3】
[図:0001401582000007.jpg]
(当合議体注:図3は、90°向きを回転した。)
」
(2) 実施可能要件について
ア 一次決定について
一次決定は、本件明細書等の発明の詳細な説明は、本件各発明の、ヘイズ値、内部ヘイズ値及びディスプレイの輝度分布の標準偏差を満たす、第2実施形態の防眩層、及び第3実施形態の防眩層を、いかなる手段で実現するのか、当業者が技術常識を参酌して理解できる程度に記載されていないから、発明の詳細な説明の記載は、本件各発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない旨判断した。
イ 確定判決の判示事項
確定判決は、上記1(3)ウ(イ)に示したとおり本件各発明の技術的意義を認定した上で、実施可能要件について、当業者であれば、少なくとも第1実施形態により、本件各発明に係る防眩層を過度の試行錯誤なく製造できるものと認められるとし、明細書の記載から、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められると判断した。そして、本件各発明が、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできないという一次決定の判断は誤りであると判断した。
ウ 当審の判断
前記確定判決は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって,当審を拘束する。そこで、当審は以下のとおり判断する。
本件明細書の発明な詳細な説明において、第1実施形態の防眩層には、長細状凸部ループ構造以外の凹凸構造のものが含まれており、そのようなものも含め、当業者であれば、少なくとも第1実施形態により、光学三特性(ヘイズ値、内部ヘイズ値及び輝度分布の標準偏差)を満たす本件特許発明に係る防眩層を、過度の試行錯誤なく製造できるものと認められる。したがって、本件明細書等には、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
第2実施形態または第3実施形態について、本件明細書の【0079】には、第1実施形態のような凹凸を他の方法で形成できるとした上で、その一例として第2実施形態の方法で形成することが示されているし、本件特許発明に含まれる防眩フィルムであって、第1実施形態以外の方法により作成できない防眩フィルムの存在やその態様を裏付ける証拠はない。そうすると、第1実施形態により作成できる防眩フィルムを、第2実施形態や第3実施形態によっても作成できるものと認められ、仮に、第1実施形態により作成できる防眩フィルムの中に、第2実施形態や第3実施形態により作成できないものがあったとしても、それにより、第1実施形態により本件特許発明が実施可能であることが否定されるものではない。
したがって、当審は、本件明細書等には、当業者がその記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明に係る物を製造し、使用することができる程度の記載があるものと認められると判断する。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1~4に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
(3) サポート要件について
ア 一次決定について
一次決定は、本件特許の請求項1に記載された「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」という、作用により発明を特定している事項に関して技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許の請求項1の記載はサポート要件に適合するものとはいえない旨判断した。
イ 確定判決の判示事項
確定判決は、上記1(3)ウ(イ)に示したとおり本件特許発明の技術的意義を認定した上で、サポート要件について、明細書の記載により、当業者は、本件各発明がその課題を解決することができると理解できること、第1実施形態により本件各発明に係る防眩フィルムを製造できることから、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものと認められると判断した。そして、本件各発明は発明の詳細な説明に記載されたものであるということはできないという異議決定の判断は誤りであると判断した。
ウ 当審の判断
行政事件訴訟法33条1項の規定により、前記イの判断理由は当審を拘束する。そこで、当審は以下のとおり判断する。
本件明細書等の記載によれば、当業者は、以下の事項を理解することができると認められる。
すなわち、本件特許発明の解決しようとする課題は、「着色しにくく、良好な防眩性を有すると共に、ディスプレイのギラツキを抑制可能な防眩フィルムを提供すること」(【0007】)である。
そして、本件特許発明においては、防眩層の内部ヘイズ値を高めなくても、防眩層の表面を適切に粗面化して外部ヘイズ値を調節し、良好な防眩性を得ることができ(【0010】)、ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であれば良好な防眩性が得られる(【0007】ないし【0009】)。また、内部ヘイズを高くしないことにより、防眩フィルム内に入射した光が、防眩層中の微粒子によって広角に散乱するのを抑制できるので、防眩フィルム内に入射した所定波長の光が広角に散乱されて防眩フィルムが着色するのを防止できるものであり(【0010】)、内部ヘイズ値が0.5%以上15.0%以下の範囲の値のときに、防眩フィルムが着色するのを防止できる(【0007】ないし【0009】)。また、ギラツキを抑制する方法としては、防眩層の表面の凹凸を縮小するだけでなく、防眩層の凹凸の傾斜を高くして凹凸を急峻化すると共に凹凸の数を増やすことで、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができるから(【0078】)、ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である凹凸構造の防眩フィルムは、ギラツキを抑制することができる(【0011】)。
そのため、光学三特性を有する本件特許発明は上記課題を解決することができる。
そして、第1実施形態により光学三特性を有する防眩フィルムを製造できることは、前記(2)ウのとおりである。
以上によれば、本件特許については、特許請求の範囲の記載と本件明細書等の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるものと認められ、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものと認められる。
したがって、当審は、本件特許については、特許請求の範囲の記載と本件明細書等の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるものと認められると判断する。
してみると、本件特許の請求項1~4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
(4) 明確性要件について
ア 一次決定について
一次決定は、本件特許発明1の「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である防眩層を備える」という発明特定事項に関し、画像データを得る際の、有機ELディスプレイと画像データを得る手段(撮像装置)との撮像距離、及び、画像データを得る手段(撮像装置)のレンズのFナンバーが、どのように一意的に設定されるものであるのか、理解することができないため、本件特許発明1の「ディスプレイの輝度分布の標準偏差が」「0以上10以下の値」となる「防眩層」(「防眩フィルム」)は、有機ELディスプレイと画像データ取得手段(撮像装置)との撮像距離、及び、画像データ取得手段(撮像装置)のレンズのFナンバーに応じて変化することとなり、あるいは、同じ「防眩層」(「防眩フィルム」)であっても、撮像条件によっては、本件特許発明1の範囲に入ったり、入らなかったりするから、本件特許発明1は、明確であるということはできない旨判断した。
イ 確定判決の判示事項
確定判決は、上記1(3)ウ(イ)に示したとおり本件特許発明の技術的意義を認定した上で、明確性要件について、以下のとおり判示した。
ディスプレイの輝度分布の標準偏差を得る際に、測定条件の設定の仕方が適切でない場合に、同じ防眩層を有するフィルムを用いて測定したディスプレイの輝度分布の標準偏差が変動することがあり得るとすれば、同じ防眩層を有するフィルムを測定しても、測定結果である標準偏差が0以上10以下の範囲に入ったり入らなかったりすることがあり得ることとなる。しかし、当業者であれば、測定結果に変動が生じないように測定条件を設定しようとすると解され、本件各発明の輝度分布の標準偏差を得るに当たり、測定結果に変動が生じないように測定条件を設定することが不可能であることを示す証拠はない。また、当業者が、およそディスプレイのユーザが感じるギラツキとの乖離が著しくなるような条件で本件各発明の輝度分布を測定するものと解することはできない。
本件各発明における輝度分布の測定に当たり設定可能な条件には、同じ防眩フィルムに関する測定結果が変動せず一定になるように設定すること、ディスプレイのユーザが感じるギラツキとの乖離が著しくならないように、ユーザがギラツキを感じることが少ないときに輝度分布の標準偏差が小さくなるように設定すること等の制限があるということができ、当業者であればこれらの制限のもとで合理的な範囲で条件を設定して測定するものと推認されるとし、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載(本件特許発明1)は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできず、特許を受けようとする発明は明確であり、請求項2ないし4の記載(本件特許発明2ないし4)も明確であると判断した。そして、本件各発明は明確であるということはできないという異議決定の判断は誤りであると判断した。
ウ 当審の判断
行政事件訴訟法33条1項の規定により、前記確定判決は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたって,当審を拘束する。
したがって、当審は、本件特許許の請求項1~4に係る発明は、明確であると判断する。
第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 引用例2(甲第2号証)を主引用例とする進歩性欠如について
特許異議申立人は、特許異議申立書(申立理由1の2)において、本件特許発明1~4は、甲第2、1、3~5号証に記載された発明及び周知の事項から当業者が容易に想到し得るものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない旨主張するので、以下に検討する。
(1) 引用例2(甲第2号証)の記載事項
引用例2には、以下の記載事項がある。
ア 「【請求項6】
一方の面に凹凸形状を有する光学シートであって、前記光学シートは、表面ヘイズが22~40%であり、かつ、前記光学シートの凹凸形状を有する面とは反対側の面方向から前記光学シートに垂直に可視光線を照射し、透過した光について、凹凸形状を有する面側から一定角度範囲の強度を測定し、正透過方向に対して+2度での強度と+1度での強度とを結ぶ直線を正透過角度に外挿した強度と、正透過方向に対して-2度での強度と-1度での強度とを結ぶ直線を正透過角度に外挿した強度との平均値を「正透過方向の仮想強度」とした際に、下記式(I)の関係を満たす、画素密度300ppi以上の表示素子の前面に用いられる光学シート。
1.0≦正透過方向の強度/正透過方向の仮想強度≦4.0 (I)」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2は、内部ヘイズを付与することによりギラツキを改善するものである。しかし、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子はギラツキが強くなる傾向にあり、内部ヘイズのみによりギラツキを抑えようとすると、内部ヘイズをさらに大きくせざるを得ない。また、内部ヘイズが大きいと解像度が悪化する傾向にあるが、超高精細の表示素子ではよりその傾向が大きい。したがって、特許文献1及び2では、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子において、ギラツキ及び解像度の低下を同時に防止することができなかった。・・・
【0007】
本発明は、このような状況下になされたものであり、凹凸構造を有する場合においても、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子の映像光のギラツキを防止でき、かつ解像度の低下を防止できるタッチパネル、表示装置及び光学シートを提供することを目的とする。・・・
【課題を解決するための手段】
【0008】
・・・
本発明者らは鋭意研究した結果、ギラツキは画素密度と凹凸形状との関連により、輝度等の局所的なムラが生じることにより発生すること、及び内部ヘイズは拡散によりギラツキを見えづらくする役割を有するとの知見を得た。そして、本発明者らは、解像度の低下を招く可能性のある内部ヘイズに頼ることなくギラツキを防止することについて鋭意研究した結果、表面凹凸の割合を示す後述する式(I)及び、概ね傾斜角5度以上の領域を示す表面ヘイズを特定の範囲とすることにより、ギラツキを防止するとともに、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]のタッチパネル、表示装置及び光学シート、並びに光学シートの選別方法及び光学シートの製造方法を提供する。
・・・
【0010】
[6]一方の面に凹凸形状を有する光学シートであって、前記光学シートは、表面ヘイズが22~40%であり、かつ、前記光学シートの凹凸形状を有する面とは反対側の面方向から前記光学シートに垂直に可視光線を照射し、透過した光について、凹凸形状を有する面側から一定角度範囲の強度を測定し、正透過方向に対して+2度での強度と+1度での強度とを結ぶ直線を正透過角度に外挿した強度と、正透過方向に対して-2度での強度と-1度での強度とを結ぶ直線を正透過角度に外挿した強度との平均値を「正透過方向の仮想強度」とした際に、下記式(I)の関係を満たす、画素密度300ppi以上の表示素子の前面に用いられる光学シート。
1.0≦正透過方向の強度/正透過方向の仮想強度≦4.0 (I)」
ウ 「【0025】
本発明のタッチパネルで用いる光学シートは、強度比が1に近く略平滑な面が少なく全面が凹凸形状であることから、光学シートの表面に凹凸箇所と略平滑な箇所との境界が少なくなり、ギラツキを防止しやすくできると考えられる。さらに、該光学シートは、強度比が1に近く、さらに大き過ぎずかつ小さ過ぎない範囲の表面ヘイズを有することから、凹凸形状の中に、傾斜角度の小さい凹凸(傾斜角5度未満の凹凸)と、傾斜角度の大きい凹凸(傾斜角5度以上の凹凸)とが混在している。このように、凹凸内に様々な傾斜角が存在することにより、ギラツキをより防止しやすくできる(正確には、本発明でも多少のギラツキは生じていると考えられる。しかし、本発明では、光学シートの表面に凹凸箇所と略平滑な箇所との境界を少なくすることや、様々な傾斜角を存在させることにより、ギラツキを平均化して目立たなくしていると考えられる。)。
・・・
【0026】
以上のように、本発明では、表面ヘイズが22~40%であり、かつ、強度比が1.0以上4.0以下の光学シートを用いることにより、防眩性等の諸特性を付与しつつ、超高精細の表示素子のギラツキ及び解像度の低下を防止できる。
表面ヘイズが22%未満又は強度比が4.0を超える場合はギラツキを防止できない。また、表面ヘイズが40%を超える場合は解像度が低下してしまう。
また、強度比が4.0を超える場合は、拡散要素を有する箇所の割合が減り、屋外の明るい環境にも耐え得るような高度な防眩性を付与しにくくなるとともに、光学シートの表面に急激な角度変化を生じる箇所が多くなり、ギラツキが生じやすくなる。
・・・(中略)・・・
【0029】
次に、強度比が意味するものを説明する。
光学シートには、拡散要素を有する箇所(表面が凹凸の箇所、内部に拡散粒子を有する箇所)と、拡散要素を有さない箇所(表面が略平滑で内部に拡散粒子も有さない箇所)とが存在している。このため、拡散透過光は、拡散要素に衝突しないで“素抜ける”光と、拡散要素に衝突する光との合成となる。つまり、上述のように測定される強度分布は、“素抜ける”光と、拡散要素に衝突する光との合成になる。したがって、図3~9に示す本来の正透過方向の強度も、“素抜ける”光と、拡散要素に衝突する光とを合成した強度になる。
一方、ギラツキは、拡散要素のうちの表面拡散要素により透過光に歪みが生じることが原因であると考えられるため、まずは、合成した正透過方向の強度のうちの拡散要素に衝突する光の拡散特性を知る必要がある。そして、正透過方向の仮想強度は、拡散要素に衝突する光の正透過と近似することができる。
したがって、[正透過方向の強度/正透過方向の仮想強度]の比は、拡散要素に衝突する光の割合に近似される。つまり、強度比が1に近ければ、光学シートを透過する光が拡散要素に衝突する割合が高いと言え、強度比が1より大きくなるにつれ、光学シートを透過する光が拡散要素に衝突する割合が少ない(言い換えると、「素抜ける光の割合が多い」)と言える。
そして、上述したように、強度比を規定するとともに、表面ヘイズを規定することにより、凹凸の程度(表面拡散要素)をより具体的に表すことができる。」
エ 「【0035】
光学シートは、全光線透過率(JIS K7361-1:1997)が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
光学シートは、ヘイズ(JIS K7136:2000)が25~60%であることが好ましく、30~60%であることがより好ましく、30~50%であることがさらに好ましい。ヘイズを25%以上とすることにより、防眩性を付与するとともに、電極の形状や傷を見えづらくすることができる。また、ヘイズを60%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止するとともに、コントラストの低下を防止しやすくできる。
また、内部ヘイズは、5~30%であることが好ましく、5~25%であることがより好ましく、10~18%であることがさらに好ましい。内部ヘイズを5%以上とすることにより、表面凹凸との相乗作用によりギラツキを防止しやすくでき、30%以下とすることにより、超高精細の表示素子の解像度の低下を防止できる。
また、表面ヘイズ(Hs)と内部ヘイズ(Hi)との比(Hs/Hi)は、上述した表面ヘイズと内部ヘイズの効果のバランスの観点から、1.0~5.0であることが好ましく、2.0~5.0であることがより好ましく、2.5~4.5であることがさらに好ましい。」
オ 「【0044】
・・・(中略)・・・
また、光学シートは、凹凸層の単層であってもよいし、透明基材上に凹凸層を有する複層であってもよい。取り扱い性及び製造の容易性からは、透明基材上に凹凸層を有する構成が好適である。」
カ 「【0093】
2.光学シートの作製
[実施例1]
透明基材(厚み80μmトリアセチルセルロース樹脂フィルム(TAC)、富士フイルム社製、TD80UL)上に、下記処方の防眩層塗布液1を塗布し、70℃、風速5m/sで30秒間乾燥した後、紫外線を窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下)下にて積算光量が100mJ/cm2になるように照射して、防眩層(凹凸層)を形成し、光学シートを得た。防眩層の膜厚は7.5μmであった。なお、光学シートの凹凸層とは反対側のRaは0.02μmであった。
【0094】
<防眩層塗布液1>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 10部
(日本化薬社製、KAYARAD-PET-30)
・ウレタンアクリレート
(日本合成化学社製、UV1700B) 45部
・光重合開始剤 3部
(BASF社製、イルガキュア184)
・シリコーン系レベリング剤 0.2部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、TSF4460)
・透光性粒子 12部
(積水化成品社製、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径6μm、屈折率1.535)
・無機超微粒子 160部
(日産化学社製、表面に反応性官能基が導入されたシリカ、溶剤MIBK、固形分30%)
(平均一次粒子径12nm)
・溶剤1(MIBK)110部
【0095】
[実施例2]
実施例1の透光性粒子を10部、無機超微粒子を170部に変更した以外は、実施例1と同様にして、光学シートを得た。
【0096】
[実施例3]
実施例1の透光性粒子を15部、無機超微粒子を150部に変更した以外は、実施例1と同様にして、光学シートを得た。
・・・(中略)・・・
【0101】
【表1】
【0102】
表1の結果から明らかなように、実施例1~3の光学シートは、防眩性等の諸特性を付与できるとともに、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子のギラツキを防止することができ、さらにはコントラストにも優れるものであった。また、実施例1~3の光学シートは、画素密度350ppiの表示素子のギラツキ防止性については、比較例1~4の光学シートよりも極めて良好な効果を示しているが、画素密度200ppiの表示素子のギラツキ防止性能については、比較例1~4の光学シートとの効果の差が少なくなっている。このことから、実施例1~3の光学シートは、画素密度300ppi以上の超高精細の表示素子に対して極めて有用であることが分かる。なお、上述の防眩性の評価は、照度が800~1200Lxの環境下で行ったが、実施例1~3の光学シートは、照度10000Lx以上の屋外環境においても防眩性が良好なものであった。」
(2) 引用例2(甲第2号証)に記載された発明
上記(1)(特に、【0093】~【0096】、表1)によれば、引用例2には、請求項6に係る発明の実施例としての実施例1~3に係る発明として、次の発明が記載されている。
<実施例1に係る発明>
「 透明基材(厚み80μmトリアセチルセルロース樹脂フィルム(TAC))上に、下記処方の防眩層塗布液1を塗布し、乾燥した後、紫外線を窒素雰囲気下にて照射して、防眩層(凹凸層)を形成し、得られた光学シートであって、
防眩層の膜厚は7.5μmであり、光学シートの凹凸層とは反対側のRaは0.02μmであり、
表面ヘイズ、全ヘイズ、及び内部ヘイズが、それぞれ、30.9、42.9、及び12であり、
防眩性が良好なものである、光学シート。
<防眩層塗布液1>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 10部
(日本化薬社製、KAYARAD-PET-30)
・ウレタンアクリレート
(日本合成化学社製、UV1700B) 45部
・光重合開始剤 3部
(BASF社製、イルガキュア184)
・シリコーン系レベリング剤 0.2部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、TSF4460)
・透光性粒子 12部
(積水化成品社製、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径6μm、屈折率1.535)
・無機超微粒子 160部
(日産化学社製、表面に反応性官能基が導入されたシリカ、溶剤MIBK、固形分30%)
(平均一次粒子径12nm)
・溶剤1(MIBK)110部」
<実施例2に係る発明>
「実施例1において、透光性粒子を10部、無機超微粒子を170部に変更した以外は、実施例1と同様にして得た、光学シートであって、
表面ヘイズ、全ヘイズ、及び内部ヘイズが、それぞれ、38.8、48.3、及び9.5である、光学シート。」
<実施例3に係る発明>
「実施例1の透光性粒子を15部、無機超微粒子を150部に変更した以外は、実施例1と同様にして得た、光学シートであって、
表面ヘイズ、全ヘイズ、及び内部ヘイズが、それぞれ、28.2、39.4、及び11.2である、光学シート。」
(以下、引用例2の実施例1~3に係る発明を、それぞれ、「甲2発明1」~「甲2発明3」といい、これらを総称して、「甲2発明」という。)
(3) 本件特許発明1について
ア 対比
甲2発明の「防眩層(凹凸層)」は、本件特許発明1の「防眩層」に相当する。
甲2発明の「光学シート」は、透明基材としての樹脂フィルム上に防眩層を備えたものであり、防眩性が良好なものであるから、本件特許発明1の「防眩フィルム」に相当する。
以上によると、本件特許発明1と引用発明は、次の点で一致し、次の相違点で相違する。
<一致点>
「防眩層を備える、防眩フィルム。」
<相違点2-1>
本件特許発明1は、「ヘイズ値が60%以上95%以下の範囲の値であり、内部ヘイズ値が0.5%以上8.0%以下の範囲の値であり」との条件を満たすものであるのに対して、甲2発明1~3は、ヘイズ値(全ヘイズ)がそれぞれ42.9%、48.3%、39.4%であり、内部ヘイズが12%、9.5%、11.2%であって、前記条件を満たしていない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は、防眩層が、「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上10以下の値である」のに対して、甲2発明の「防眩層」は、この条件を満たすものか否か不明である点。
イ 判断
事案に鑑みて、相違点2-1について検討する。
表面ヘイズ値は、ヘイズ値(全体ヘイズ値)から内部ヘイズ値を差し引いたものであるから、相違点2-1に係る本件特許発明1の条件を満たすには、表面ヘイズが52%以上である必要がある。
これに対して、甲2発明として認定した実施例1~3においては、表面ヘイズは、それぞれ、30.9,38.8,28.2であるところ、甲2の請求項6等の記載によれば、「表面へイズが22~40%であ」るとされているから、甲2発明の表面ヘイズを40%までの範囲で調整することは、甲2において想定されている事項といえる。
しかしながら、上記(1)のイ及びウに摘記した甲2の記載事項によれば、甲2(引用例2)において、表面ヘイズを「22~40%」の範囲とすることは、課題とするギラツキを防止するために必須の構成である。また、上記第5の1(3)ウ「(イ)確定判決の判示事項」において示したとおり、甲2において、表面ヘイズの値は、ギラツキと技術的に一体不可分である凹凸の形状を規定するものであるから、表面ヘイズ値と切り離してギラツキを調整することを示唆するものと解することはできないものである。
してみると、甲2において、表面ヘイズを22~40%の範囲を超える52%以上のものとする動機付けがあるとは認められず、むしろ、そのような範囲に設計変更することには阻害要因があるといえる。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲2の【0035】に、「ヘイズが25~60%であることが好ましく」と記載されていることから、甲2発明のヘイズを60%とすることは、当業者が適宜なし得る旨を、また、また、甲2の【0035】に「内部へイズは、5~30%である」ため、本件特許発明1の内部ヘイズ値の範囲と重複しており、相違点とは言えない旨を、主張している。
しかしながら、上記イで述べたとおり、ヘイズ、内部ヘイズ、表面ヘイズは所定の関係を有するものであって、全てを独立に設定できるものではないところ、甲2発明の表面ヘイズの数値範囲は、甲2に記載された課題解決手段としての技術事項において必須の構成であるから、ヘイズ及び内部ヘイズに関する甲2の上記の記載は、表面ヘイズの数値範囲に関する条件を満たすことが前提条件のものである。
そして、相違点2-1に係る本件特許発明1の条件を満たすには、表面ヘイズが52%以上である必要があることは上記イのとおりであるから、甲2の【0035】の記載を踏まえても、甲2発明において相違点2-1に係る本件特許発明1の条件を満たすものとすることが容易に想到し得ることとは認められない。
エ 小括
以上のとおり、甲2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明の構成を満たすものとすることが、容易になし得たこととはいえない。
してみると、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件特許発明2~4について
本件特許発明2~4は、いずれも本件特許発明1を直接又は間接に引用してさらに限定したものである。
そうすると、上記(3)と同様の理由により、本件特許発明2~4は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) 小結
以上のとおり、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由(甲2を主引用例とする進歩性)によっては、本件特許発明1~4を取り消すことはできない。
2 サポート要件について
特許異議申立人は、特許異議申立書(申立理由3)において、本件特許発明1~4で特定する事項により、着色を抑制(黄色みを抑制)し得ることを理解できる記載はないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1~4の構成を満たすことによって、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとは言えないから、本件明細書の請求項1~4に関する記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない旨主張するので、以下に検討する。
(1) 上記第5の2(3)に示したとおり、本件明細書等の記載によれば、光学三特性を有する本件特許発明は上記課題を解決することができることを、当業者は理解することができると認められるから、本件特許については、特許請求の範囲の記載と本件明細書等の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるものと認められ、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものと認められる。
(2) また、本件特許発明の技術的課題における、着色を抑制して色の再現性を確保する点についてみても、実施例と比較例の対比から、内部ヘイズの大きい比較例1~3では、b*が大きく、黄色味があるのに対して、本件特許発明の構成を備えた実施例1~6では、(良好な防眩性を発揮できると共に)b*値を抑制して防眩フィルムの着色を効果的に防止できることが示されている。
そして、【0163】、【0164】には、着色を効果的に防止できる理由として考えられる事項が示されているものの、本件特許発明はそのような想定される作用機序によって限定されるものではなく、実施例によって内部ヘイズを小さくすることで着色を防止できたことが示されており、本件特許発明は内部ヘイズを小さくすることを発明特定事項として含むものであるから、解決しようとする課題に対応した解決手段は、請求項に反映されているといえる。
(3) 小括
以上のとおりであるから、特許の請求の範囲は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件特許発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものではない。
よって、特許異議申立人の主張する特許異議申立理由(サポート要件違反)によっては、本件特許発明1~4を取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は適法なものである。
そして、訂正後の本件特許発明1~4は、一次決定における取消理由及び特許異議申立人が主張する特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700030