特許異議申立
2021-700014
防眩フィルム
- 審判番号
- 2021-700014
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-533963
- 登録番号
- 6719677
- 請求日
- 2021年01月07日
- 審決日
- 2024年02月09日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ダイセル
- 【権利者代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 【異議申立人】前田 しのぶ
- 審判長/審判官
- 審判長 神谷 健一
- 審判官 宮澤 浩
- 審判官 関根 洋之
- 分類
- P1651.113-YAA(G02B) / P1651.121-YAA(G02B) / P1651.536-YAA(G02B) / P1651.537-YAA(G02B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6719677号発明「防眩フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6719677号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。
特許第6719677号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。
特許第6719677号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6719677号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019-533963号)は、2018年(平成30年)6月25日(先の出願に基づく優先権主張 2017年(平成29年)8月4日)を国際出願日とする出願であって、令和2年6月18日にその特許権の設定の登録がされ、令和2年7月8日に特許掲載公報が発行された。本件特許について、その発行の日から6月以内である令和3年1月7日に、特許異議申立人 前田 しのぶ(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和3年 4月 7日付け:取消理由通知書
令和3年 6月 9日付け:訂正請求書
令和3年 6月 9日付け:意見書(特許権者)
令和3年 8月24日付け:意見書(特許異議申立人)
令和3年12月 6日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和4年 2月10日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。
令和4年 2月10日付け:意見書(特許権者)
令和4年 4月 5日付け:意見書(特許異議申立人)
令和4年 9月 6日付け:審尋
令和4年10月 7日付け:回答書(特許権者)
なお、令和3年6月9日付けの訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6719677号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求める、というものである。
2 訂正の内容
本件訂正請求により特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ヘイズ値が0.5%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層」と記載されているのを、「マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、且つ、ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層」に訂正する。また、特許請求の範囲の請求項1に記載の「防眩フィルム。」を、「前記微粒子の平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であり、前記防眩層の厚みが6μm以上20μm以下の範囲の値である、防眩フィルム。」に訂正する。
請求項1の記載を引用して記載される請求項3及び請求項4についても同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、」との記載を削除する。
請求項3の記載を引用して記載される請求項4についても同様に訂正する。
(4)訂正請求について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1を引用しているものであるから、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~4〕に対して請求されたものである。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載の「防眩フィルム」について、[A]「防眩層」を、「マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含」むものに限定するとともに、[B]「ヘイズ値が0.5%以上20%以下の範囲の値に設定された」ものから、「ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された」ものに限定し、[C]微粒子を「平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値」であるものに限定し、[D]防眩層を「厚みが6μm以上20μm以下の範囲の値」であるものに限定する訂正である。
そうすると、当該訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項3及び請求項4についてみても同じである。
イ 新たな技術的事項の導入、拡張ないし変更の有無
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3には、「前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み」と記載され、本件特許の願書に添付した明細書の【0081】には、「第2実施形態に係る防眩フィルムの防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む。」と記載されている。また、同【0154】には、「実施例1~5の防眩フィルム1は、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が80%以上94%以下の範囲の値に設定され、防眩層3のヘイズ値が7%以上17.1%以下の範囲に設定されている。」と記載され、同明細書の【0153】【表1】には、実施例3の「ヘイズ(%)」が「7(%)」であることが記載されている。さらに、本件特許の願書に添付した明細書の【0058】には、「微粒子の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。この平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、0.5μm以上2.0μm以下の範囲の値であることがより望ましい。」と記載されており、【0060】には、「防眩層3の厚み寸法は、適宜設定可能であるが、例えば、0.3μm以上20μm以下の範囲の値であることが望ましく、1μm以上15μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、1μm以上10μm以下の範囲の値であることがより望ましい。」と記載されており、【0139】には、実施例3として、「厚さ約6μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層をUV硬化処理した。これにより防眩層3を形成し、実施例3の防眩フィルムを得た。」と記載されている。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。
請求項3及び請求項4についてみても、同じである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正である。
そうすると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
イ 新たな技術的事項の導入、拡張ないし変更の有無
上記アのとおりであるから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、訂正事項1による訂正によって、請求項3の「前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み」との記載が、訂正後の請求項1の記載と重複することとなったため、請求項3の重複する記載を削除して、請求項3の記載を整理するための訂正である。
そうすると、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
請求項4についてみても、同じである。
イ 新たな技術的事項の導入、拡張ないし変更の有無
上記アのとおりであるから、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。また、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項4についてみても、同じである。
4 まとめ
本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6719677号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められることとなったことから、本件特許の請求項1、請求項3及び請求項4に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明3」及び「本件特許発明4」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の訂正後の特許請求の範囲の請求項1、請求項3及び請求項4に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。
「【請求項1】
マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、且つ、ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層を備え、
光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、且つ、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値であり、
前記微粒子の平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であり、前記防眩層の厚みが6μm以上20μm以下の範囲の値である、防眩フィルム。」
「【請求項3】
前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が、0以上0.20以下の範囲の値である、請求項1に記載の防眩フィルム。」
「【請求項4】
前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.02以上0.15以下の範囲の値である、請求項3に記載の防眩フィルム。」
第4 取消しの理由の概要
本件特許の請求項1~請求項4に係る特許に対して、特許異議申立人が主張する申立ての理由、当合議体が令和3年4月7日付け、及び、令和3年12月6日付けで、特許権者に通知した取消しの理由の要旨は、次のとおりである。
●理由1(新規性)
本件特許の請求項1~3に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
●理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~4に係る発明は、先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
●理由3(実施可能要件)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
●理由4(サポート要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
●理由5(明確性要件)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(引用例一覧)
引用例1:特開2014-38362号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2015-196347号公報(甲第2号証)
引用例3:特開2014-85371号公報(甲第3号証)
引用例4:特開2006-113561号公報(甲第4号証)
引用例5:特開2004-306328号公報(甲第5号証)
引用例6:「JIS ディスプレイのぎらつき度合の求め方 JIS
C1006:2019」、一般財団法人日本規格協会、
令和元年12月20日(甲第6号証)
引用例7:特開2013-47821号公報(甲第7号証)
引用例8:特開2006-106290号公報
第5 当合議体の判断
1 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載事項がある(合議体注:下線は合議体が付与したものであり、判断等に活用した箇所を示す。)。
(1)技術分野
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイの表面への外光の映り込みを防止する防眩フィルムに関する。」
(2)発明が解決しようとする課題
「【0005】
防眩フィルムをディスプレイの表面に装着すると、ディスプレイの表面への外光の映り込みが防止される反面、ディスプレイからの光が防眩フィルムによる影響を受けてディスプレイの画像のボケや色調の変化等が生じ、防眩フィルムを介したディスプレイの表示性能が低下する場合がある。
【0006】
また、高精細画素を有するディスプレイ等の表面に防眩フィルムを装着すると、防眩フィルムを透過するディスプレイからの光が防眩層の表面の凹凸により屈折したり、防眩層の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりすることで、ディスプレイのギラツキが発生し、画像が見づらくなることがある。
【0007】
ディスプレイのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。また、ディスプレイのギラツキは定量的に評価しにくい面があり、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを客観的指標に従って開発することが困難な場合がある。
【0008】
そこで本発明は、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制可能であると共に、ディスプレイの表示性能が低下するのを防止可能な防眩フィルムを提供することを目的としている。」
(3)課題を解決するための手段
「【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る防眩フィルムは、ヘイズ値が0.5%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層を備え、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、且つ、ディスプレイの表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が0以上12以下の範囲の値である。
【0010】
ここで、ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値は、ディスプレイ上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる。このため上記構成では、当該標準偏差を0以上12以下の範囲の値に設定されるように防眩フィルムを構成することで、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して防眩フィルムを設計できる。従って、例えばディスプレイのギラツキを試験者が目視で主観的に評価した場合等に比べて、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを安定して得ることができる。
【0011】
また、透過像鮮明度を60%以上96%以下の範囲の値に設定して防眩フィルムを構成することにより、ディスプレイからの光が防眩フィルムによる影響を受けるのを抑制できる。よって、防眩フィルムをディスプレイに装着することでディスプレイの表示性能が低下するのを防止できる。
【0012】
また、前記標準偏差の値を所定値に設定しながら防眩層のヘイズ値を0.5%以上20%以下の範囲の値に設定することにより、防眩層の表面に適度な凹凸を形成できる。これにより、防眩フィルムを装着したディスプレイのギラツキが発生するのを抑制すると共に、良好な防眩性を得ることができる。
【0013】
前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有してもよい。このような共連続相構造により、防眩層の表面にヘイズ値を抑制しながら適度な凹凸を形成でき、ディスプレイのギラツキを抑制し易くすると共に防眩性を得易くすることができる。
【0014】
前記防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、前記微粒子と前記マトリクス樹脂との屈折率差が、0以上0.20以下の範囲の値であってもよい。
【0015】
上記構成によれば、防眩層において、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、微粒子により防眩層の内部ヘイズ値が上昇するのを抑制できると共に、防眩フィルムの透過像鮮明度の低下を抑制できる。
【0016】
前記防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、前記防眩層に含まれる前記複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1が、0.02以上0.15以下の範囲の値であってもよい。これにより、マトリクス樹脂に複数の微粒子が分散された構造の防眩層を有する上記防眩フィルムを良好に製造できる。」
(4)発明の効果
「【0017】
本発明によれば、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制可能であると共に、ディスプレイの表示性能が低下するのを防止可能な防眩フィルムを提供できる。」
(5)第1実施形態
「【0020】
図1は、第1実施形態に係る防眩フィルム1の構成を示す断面図である。防眩フィルム1は、表示装置16(図3参照)のディスプレイ16aの表面に装着される。防眩フィルム1は、基材フィルム2、防眩層3、及び粘着層4を備える。」
合議体注:図1は次のものである。
[図:0001410168000001.jpg]
「【0021】
基材フィルム2は、ディスプレイ16aと防眩層3との間に配置され、防眩層3を支持する。粘着層4は、ディスプレイ16aと基材フィルム2との間に配置され、防眩フィルム1をディスプレイ16aの表面に固定する。粘着層4は、例えば光学糊であり、防眩フィルム1の光学特性に影響を及ぼしにくい材質で構成されている。
【0022】
防眩層3は、基材フィルム2の少なくとも一方の面に形成されている。防眩層3は、防眩フィルム1に防眩性を付与し、外光を散乱反射させてディスプレイ16aの表面への外光の映り込みを防止する。防眩層3は、ディスプレイ16aの表面を保護するハードコート(HC)層としても機能する。防眩層3は、一例として、相分離可能な複数の樹脂成分を含む。
【0023】
防眩フィルム1は、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度(写像性)が60%以上96%以下の範囲の値に設定され、且つ、ディスプレイ16aの表面に装着した状態におけるディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値に設定されている。
【0024】
透過像鮮明度は、防眩フィルム1を透過した光のボケや歪みを定量化する尺度であり、JIS K7105に準拠する測定方法により測定可能である。また防眩層3は、ヘイズ値が0.5%以上20%以下の範囲の値に設定されている。本実施形態のヘイズ値は、JIS K7136に準拠する方法により測定した値である。
【0025】
防眩フィルム1の光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度(写像性)の値は、上記範囲内において適宜設定可能であるが、70%以上96%以下の範囲の値であることが一層望ましく、80%以上96%以下の範囲の値であることがより望ましい。また、防眩フィルム1の前記標準偏差の値は、上記範囲内において適宜設定可能であるが、0以上10以下の範囲の値であることが一層望ましく、0以上9未満の範囲の値であることがより望ましい。
【0026】
また、防眩層3のヘイズ値は、上記範囲内において適宜設定可能であるが、1%以上20%以下の範囲の値であることが望ましく、2%以上20%以下の範囲の値であることが一層望ましく、4%以上20%以下の範囲の値であることがより望ましい。
【0027】
このように本実施形態では、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値が、ディスプレイ16a上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイ16aのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となることに基づき、当該標準偏差が0以上12以下の範囲の値に設定されるように防眩フィルム1を構成することで、ディスプレイ16aのギラツキを定量的に評価して防眩フィルム1を設計できる。
【0028】
従って、例えばディスプレイ16aのギラツキを試験者が目視で主観的に評価した場合等に比べて、ディスプレイ16aのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルム1を安定して得ることができる。
【0029】
また、防眩フィルム1の前記標準偏差の値を所定値に設定しながら防眩層3のヘイズ値を0.5%以上20%以下の範囲の値に設定することにより、防眩層3の表面に適度な凹凸を形成できる。これにより、防眩フィルム1を装着したディスプレイ16aのギラツキが発生するのを抑制すると共に、良好な防眩性を得ることができる。
【0030】
また、防眩フィルム1の透過像鮮明度を60%以上96%以下の範囲の値に設定することにより、ディスプレイ16aからの光が防眩フィルム1による影響を受けるのを抑制できる。よって、防眩フィルム1をディスプレイ16aに装着することでディスプレイ16aの表示性能が低下するのを防止できる。
【0031】
また、本実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分を含み、この複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有している。このような共連続相構造により、防眩層3の表面にヘイズ値を抑制しながら適度な凹凸を形成でき、ディスプレイ16aのギラツキを抑制し易くすると共に防眩性を得易くすることができる。以下、基材フィルム2及び防眩層3の具体例について説明する。
【0032】
基材フィルム2の材質としては、ガラス、セラミックス、及び樹脂を例示できる。前記樹脂としては、防眩層3の材質と同様の樹脂を使用できる。好ましい基材フィルム2の材質としては、透明性ポリマー、例えば、セルロース誘導体(セルローストリアセテート(TAC)、セルロースジアセテート等のセルロースアセテート等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアリレート系樹脂等)、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)等)、ポリエーテルケトン系樹脂(ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等)、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、環状ポリオレフィン系樹脂(JSR(株)製フィルム「アートン(ARTON)」(登録商標)、日本ゼオン(株)製フィルム「ゼオネックス(ZEONEX)」(登録商標)等)、ハロゲン含有樹脂(ポリ塩化ビニリデン等)、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン等)、酢酸ビニル又はビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール等)を例示できる。
・・・略・・・
【0035】
[防眩層の構造]
第1実施形態の防眩層3は、複数の樹脂成分の相分離構造を有する。防眩層3は、一例として、複数の樹脂成分の相分離構造により、複数の長細状(紐状又は線状)凸部が表面に形成されている。長細状凸部は分岐しており、密な状態で共連続相構造を形成している。
【0036】
防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このような防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバランスに優れたものとなっている。防眩層3の表面は、長細状凸部が略網目状に形成されることにより、網目状構造、言い換えると、連続し又は一部欠落した不規則な複数のループ構造を有する。
【0037】
防眩層3の表面は、上記した構造が形成されることで、レンズ状(海島状)の凸部が形成されるのが防止されている。よって、防眩層3を透過するディスプレイ16aからの光が防眩層3の表面の凹凸により屈折したり、防眩層3の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイ16aの画素が拡大されて見えたりするのが防止され、ディスプレイ16aのギラツキが抑制される。これにより、高精細画素を有するディスプレイ16aに防眩フィルム1を装着しても、防眩性を確保しながらディスプレイ16aのギラツキを高度に抑制でき、文字・画像のボケや色調の変化も抑制できる。
【0038】
なお複数の長細状凸部は、互いに独立していてもよいし、繋がっていてもよい。防眩層3の相分離構造は、後述するように、防眩層3の原料となる溶液を用いて、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成される。
・・・略・・・
【0054】
防眩層3の製造工程では、防眩層3の原料となる溶液に含まれるポリマーと硬化性樹脂前駆体のうち、少なくとも2つの成分を、加工温度付近で互いに相分離させる組み合わせとして使用する。
・・・略・・・
【0056】
防眩層3は、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子(フィラー)を含んでいてもよい。微粒子は、有機系微粒子及び無機系微粒子のいずれでも良く、複数の微粒子は、複数種類の微粒子を含んでいてもよい。
【0057】
有機系微粒子としては、架橋アクリル粒子や架橋スチレン粒子を例示できる。また無機系微粒子としては、シリカ粒子及びアルミナ粒子を例示できる。また、防眩層3中に含まれる微粒子とマトリクス樹脂との屈折率差は、一例として、0以上0.20以下の範囲の値に設定できる。この屈折率差は、0以上0.15以下の範囲の値であることが一層望ましく、0以上0.07以下の範囲の値であることがより望ましい。
【0058】
微粒子の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。この平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、0.5μm以上2.0μm以下の範囲の値であることがより望ましい。
【0059】
なお、ここで言う平均粒径は、コールターカウンター法における50%体積平均粒径である(以下に言及する平均粒径も同様とする。)。微粒子は、中実でもよいし、中空でもよい。微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られにくくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあるため留意する。
【0060】
防眩層3の厚み寸法は、適宜設定可能であるが、例えば、0.3μm以上20μm以下の範囲の値であることが望ましく、1μm以上15μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、1μm以上10μm以下の範囲の値であることがより望ましい。通常は、2μm以上10μm以下の範囲の値(特に3μm以上7μm以下の範囲の値)に設定できる。
・・・略・・・
【0062】
防眩層3には、光学特性を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、有機又は無機粒子、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤等)、界面活性剤、水溶性高分子、充填剤、架橋剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、滑剤、ワックス、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤等が含まれていてもよい。
【0063】
第1実施形態における防眩フィルム1の製造方法は、一例として、防眩層3の原料となる溶液(以下、単に溶液とも称する。)を調製する調製工程と、調製工程で調製した溶液を所定の支持体(本実施形態では基材フィルム2)の表面に塗布し、溶液中の溶媒を蒸発させると共に、液相からのスピノーダル分解により相分離構造を形成する形成工程と、形成工程後に硬化性樹脂前駆体を硬化する硬化工程とを有する。
【0064】
[調製工程]
調製工程では、溶媒と、防眩層3を構成するための樹脂組成物とを含む溶液を調製する。溶媒は、前述した防眩層3に含まれるポリマー及び硬化性樹脂前駆体の種類及び溶解性に応じて選択できる。溶媒は、少なくとも固形分(複数種類のポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できるものであればよい。
・・・略・・・
【0066】
樹脂組成物としては、前記熱可塑性樹脂、光硬化性化合物、光重合開始剤、前記熱可塑性樹脂、及び光硬化性化合物を含む組成物が望ましい。或いは樹脂組成物としては、前記互いに非相溶な複数種類のポリマー、光硬化性化合物、及び光重合開始剤を含む組成物が望ましい。
【0067】
溶液中の溶質(ポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)の濃度は、複数の樹脂成分の相分離が生じる範囲、及び、溶液の流延性やコーティング性等を損なわない範囲において調整できる。
【0068】
ここで、防眩層3のヘイズ値及び内部ヘイズ値、防眩フィルム1の透過像鮮明度、表面に防眩フィルム1を装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値(ギラツキ値)は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、或いは、調製工程、形成工程、及び硬化工程の施工条件等によって変化しうる。従って、各条件を変化させて防眩層を形成し、得られた防眩層の物性を予め測定・把握しておくことで、目的の物性を有する防眩フィルムを得ることができる。
【0069】
[形成工程]
形成工程では、調製工程で調製した溶液を、支持体(ここでは一例として基材フィルム2)の表面に流延又は塗布する。
・・・略・・・
【0070】
支持体の表面に流延又は塗布した溶液から、溶媒を乾燥により蒸発させて除去する。この蒸発過程における溶液の濃縮に伴って、複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離を生じさせ、相間距離(ピッチ又は網目径)が比較的規則的な相分離構造を形成する。長細状凸部の共連続相構造は、溶媒蒸発後の樹脂成分の溶融流動性がある程度高くなるような乾燥条件や処方を設定することにより形成できる。
【0071】
溶媒の蒸発は、防眩層3の表面に長細状凸部を形成し易い点から、加熱乾燥により行うのが好ましい。乾燥温度が低過ぎたり、乾燥時間が短か過ぎると、樹脂成分に対する熱量の付与が不十分となり、樹脂成分の溶融流動性が低下して、長細状凸部の形成が困難となるおそれがあるため留意する。
【0072】
一方、乾燥温度が高過ぎたり、乾燥時間が長過ぎると、一旦形成された長細状凸部が流動して高さが低下する場合があるものの、長細状凸部の構造は維持される。そのため、長細状凸部の高さを変えて防眩層3の防眩性や滑り性を調整する手段として、乾燥温度及び乾燥時間を利用できる。また形成工程では、溶媒の蒸発温度を高くしたり、樹脂成分に粘性の低い成分を用いたりすることにより、相分離構造が繋がった共連続相構造を形成できる。
【0073】
複数の樹脂成分の液相からのスピノーダル分解による相分離の進行に伴って、共連続相構造が形成されて粗大化すると、連続相が非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状等の独立相の海島構造)が形成される。ここで、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。溶媒除去後、表面に微細な凹凸を有する層が形成される。
【0074】
このように、相分離により層表面に微細な凹凸を形成することで、防眩層3中に微粒子を分散させなくても防眩層3のヘイズ値を調整できる。また、防眩層3中に微粒子を分散させなくて済むことから、外部ヘイズ値に比べて内部ヘイズ値を抑制しながら防眩層3のヘイズ値を調整し易くすることができる。なお、調製工程において溶液にある程度の量の微粒子を添加することで、微粒子を含む防眩層3を形成することもできる。
【0075】
[硬化工程]
硬化工程では、溶液中の硬化性樹脂前駆体を硬化させることで、形成工程で形成された相分離構造を固定化し、防眩層3を形成する。硬化性樹脂前駆体の硬化は、硬化性樹脂前駆体の種類に応じて、加熱又は活性エネルギー線の照射、或いはこれらの方法の組み合わせにより行う。照射する活性エネルギー線は、光硬化成分等の種類に応じて選択する。
・・・略・・・
【0078】
以上の各工程を経ることにより、第1実施形態の防眩フィルム1が製造される。
・・・略・・・
【0079】
ここで、ディスプレイ16aのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。しかしながら、これ以外にも、防眩層の凹凸の傾斜の高さによる凹凸の急峻化の度合と凹凸の数とを調整することにより、ヘイズ値を所定範囲内に抑制しつつ、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができる。」
(6)第2実施形態
「【0080】
第1実施形態において前述したスピノーダル分解によって、このような凹凸を防眩層に形成できるが、その他の方法によっても、このような凹凸を防眩層に形成できる。例えば第2実施形態のように、防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻の度合と数密度が調整された凹凸の分布構造を防眩層に形成できる。そこで以下では、その他の実施形態の防眩層について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0081】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る防眩フィルムの防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む。微粒子は、真球状に形成されているが、これに限定されず、実質的な球状や楕円体状に形成されていてもよい。また微粒子は、中実に形成されているが、中空に形成されていてもよい。微粒子が中空に形成されている場合、微粒子の中空部には、空気或いはその他の気体が充填されていてもよい。防眩層には、各微粒子が一次粒子として分散していてもよいし、複数の微粒子が凝集して形成された複数の二次粒子が分散していてもよい。
【0082】
マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差は、0以上0.20以下の範囲の値に設定できる。この屈折率差は、0以上0.15以下の範囲の値であることが更に望ましく、0以上0.07以下の範囲の値であることがより望ましい。
【0083】
微粒子は、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定されている。微粒子の平均粒径は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であることが一層望ましく、0.5μm以上2.0μm以下の範囲の値であることがより好ましい。
【0084】
また、微粒子の粒径のバラツキは小さい方が望ましく、例えば、防眩層に含まれる微粒子の粒径分布において、防眩層に含まれる微粒子の50重量%以上の平均粒径が1.0μm以内のバラツキに収められていることが望ましい。
【0085】
このように、粒径が比較的均一に揃えられ且つ平均粒径が上記範囲に設定された微粒子により、防眩層の表面に均一且つ適度な凹凸が形成される。これにより、防眩性を確保しつつディスプレイ16aのギラツキを抑制できる。
【0086】
防眩層におけるマトリクス樹脂の重量と複数の微粒子の総重量との比は、適宜設定することが可能である。本実施形態では、防眩層の前記マトリクス樹脂の重量G1と、防眩層に含まれる複数の微粒子の総重量G2との比G2/G1は、0.02以上0.15以下の範囲の値に設定されている。
・・・略・・・
【0096】
第2実施形態における防眩フィルムの製造方法は、一例として、防眩層3の原料となる溶液を調製する調製工程と、調製工程で調製した溶液を所定の支持体(本実施形態では基材フィルム2)の表面に塗布する塗布工程と、塗布した溶液中の樹脂を硬化する硬化工程とを有する。
【0097】
[調製工程]
調製工程では、溶媒と、防眩層を構成するための樹脂組成物と、微粒子とを含む溶液を調製する。
・・・略・・・
【0098】
[塗布・硬化工程]
塗布工程では、調製工程で調製した溶液を、第1実施形態と同様の方法により、支持体(ここでは一例として基材フィルム2)の表面に流延又は塗布する。支持体の表面に流延又は塗布した溶液から、溶媒を乾燥により蒸発させて除去する。
・・・略・・・
【0099】
マトリクス樹脂が光硬化性樹脂である場合、塗布工程後に、一例として紫外線又は電子線による硬化工程を行う。
・・・略・・・
【0101】
溶液に含まれていたマトリクス樹脂が硬化することにより、マトリクス樹脂中の微粒子の位置が固定される。これにより、マトリクス樹脂中に複数の微粒子が分散され、表面に微粒子による凹凸が形成された構造の防眩層が形成される。
【0102】
第2実施形態の防眩フィルムによれば、防眩層において、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、微粒子により防眩層の内部ヘイズ値が上昇するのを抑制できると共に、防眩フィルムの透過像鮮明度の低下を抑制できる。
【0103】
また比G2/G1が、0.02以上0.15以下の範囲の値に設定されているので、マトリクス樹脂に複数の微粒子が分散された構造の防眩層を有する防眩フィルムを良好に製造できる。」
(7)第3実施形態
「【0104】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る防眩フィルムの防眩層33は、基材フィルム側とは反対側の表面に凹凸形状が賦形された構造を有する。防眩層33は、樹脂層で構成されている。この樹脂層は、一例として、第2実施形態のマトリクス樹脂と同様の材質により構成されている。
【0105】
具体的に、第3実施形態に係る防眩フィルムは、基材フィルム上に硬化性樹脂を含むコート層を形成し、このコート層の表面を凹凸形状に賦形した後、コート層を硬化することにより製造される。図2は、第3実施形態に係る防眩フィルムの製造方法を示す図である。図2の例では、硬化性樹脂として紫外線硬化樹脂を用いている。
【0106】
図2に示すように、この製造方法では、基材フィルム20aが、図示しない巻出ロールから巻き出され、所定方向に搬送される。基材フィルム20aの搬送方向下流端部は、一対のロール21,22のニップ点N1に挿通される。」
合議体注:図2は次のものである。
[図:0001410168000002.jpg]
「【0107】
ロール22の周面には、ロール22に隣接して軸支されたロール23の周面から紫外線硬化樹脂前駆体が付着させられる。基材フィルム20aがニップ点N1を通過する際、この紫外線硬化樹脂前駆体が、基材フィルム20aの一方の面に塗布される。
【0108】
基材フィルム20aに塗布された紫外線硬化樹脂前駆体の層(以下、コート層と称する。)は、ロール21,24のニップ点において、基材フィルム20aと共に押圧される。ロール24は、周面に微細な凹凸が形成されたロール状金型(エンボスロール)であり、ロール21,24のニップ点N2を通過する際にコート層の表面に凹凸形状を転写する。
【0109】
ロール24により表面に凹凸形状が転写されたコート層は、ロール21,24の下方に設けられた紫外線ランプ26から照射される紫外線により硬化される。これにより、防眩層33が形成される。このようにして製造された防眩フィルム33は、ロール24に隣接して軸支されたロール25によりロール24からリリースされ、所定方向へ搬送される。
【0110】
ここで、ロール24の表面の凹凸部は、ブラスト法により、所定の粒径のブラスト粒子を衝打させて形成されており、ブラスト粒径を調整することで、防眩フィルム33のコート層に形成される凹凸形状を調整できる。
・・・略・・・
【0114】
なお、第3実施形態において使用する金型は、ロール状金型以外でもよく、例えば、板状金型(エンボス板)でもよい。・・・略・・・」
(8)ギラツキ検査
「【0117】
・・・略・・・以下、上記した各実施形態の防眩フィルムを検査・評価するためのギラツキ検査機とギラツキ評価方法とについて順に説明する。
【0118】
(ギラツキ検査機)
図3は、ギラツキ検査機10の概略図である。ギラツキ検査機10は、表面に防眩フィルム1等のフィルムを装着した表示装置16におけるディスプレイ16aのギラツキを評価する装置であって、筐体11、撮像装置12、保持部13、撮像装置用架台14、表示装置用架台15、及び画像処理装置17を備える。市販されているギラツキ検査機10としては、コマツNTC(株)製「フィルムギラツキ検査機」が挙げられる。」
合議体注:図3は、次のものである。
[図:0001410168000003.jpg]
「【0119】
筐体11は、撮像装置12によりディスプレイ16aを撮像するための暗室を有する。筐体11内には、撮像装置12、保持部13、撮像装置用架台14、及び表示装置用架台15と、評価対象の表示装置16とが収容される。
【0120】
撮像装置12は、一例としてレンズ18と撮像素子とを有するエリアカメラであり、ディスプレイ16aに表示される画像を撮像する。撮像装置12は画像処理装置17に接続され、レンズ18とディスプレイ16aとが対向するように保持部13に保持される。撮像装置12により撮像された画像データは、画像処理装置17に送信される。
【0121】
保持部13は、上下方向に延び、下端において撮像装置用架台14に固定されながら、撮像装置12を保持する。保持部13は、撮像装置12を表示装置16に対して鉛直方向に相対移動させることで、ディスプレイ16aとレンズ18との間の相対距離を変更可能に撮像装置12を保持する。
【0122】
表示装置16は、フィルムを装着したディスプレイ16aを撮像装置12と対向させた状態で、表示装置用架台15の上面に載置される。表示装置用架台15は、フィルムを装着したディスプレイ16aの表面が撮像装置12と対向し、且つ水平面となるように支持すると共に、表示装置16を撮像装置12に対して鉛直方向に相対移動させる。
【0123】
ギラツキ検査機10では、撮像装置12とディスプレイ16aとの間の相対距離を調整することによって、撮像装置12の撮像素子の単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される、ディスプレイ16aに表示された画像の画素サイズが調整される。
画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データのデータ処理を行う。具体的に画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データから、ディスプレイ16aの輝度の標準偏差を求める。
【0124】
本実施形態の画像処理装置17は、撮像装置12によって撮像された画像データが入力される入力部と、入力された画像データを画像処理する画像処理部と、画像処理部によって処理された結果を表示装置又は印字装置等に出力する出力部等を備える。
【0125】
ディスプレイ16aに表示された画像を撮像装置12で撮像するときの撮像素子の単位画素(例えば1画素)当たりに撮像される画像の画素サイズの調整方法としては、撮像装置12とディスプレイ16aとの間の相対距離を変更させる方法の他、撮像装置12が備えるレンズ18がズームレンズである場合には、撮像装置12の焦点距離を変える方法でもよい。
【0126】
(ギラツキ評価方法)
次に、ギラツキ検査機10を用いたディスプレイ16aのギラツキ評価方法について説明する。このギラツキ評価方法では、評価の便宜上、表面にフィルムを装着したディスプレイ16aを予め一色(一例として緑色)に均一発光させて表示させる。
【0127】
次に、撮像装置12の撮像素子の単位画素当たりに撮像されるフィルムを装着したディスプレイ16aの画素サイズを調整する調節ステップを行う。調整ステップでは、撮像装置12の撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12が撮像する画像において、画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に、撮像装置12と、フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整する。
【0128】
なお、撮像装置12と表示装置16との間の相対距離は、表示装置16の使用態様(例えば、ユーザの目とディスプレイ16aの表面との間の相対距離)を考慮して設定されることが望ましい。
調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキを評価する測定エリアを設定する設定ステップを行う。設定ステップでは、測定エリアは、例えばディスプレイ16aのサイズ等に応じて適切に設定する。
【0129】
調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアを撮像装置12により撮像する撮像ステップを行う。このとき一例として、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整する。撮像ステップで撮像された画像データは、画像処理装置17へと入力される。
【0130】
撮像ステップ後、画像処理装置17は、画像データを用いて、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアにおける輝度のばらつきを求める演算ステップを行う。この演算ステップにおいて、輝度のばらつきは、輝度分布の標準偏差として数値化される。
【0131】
ここで、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキは、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝度のばらつきが大きいほど大きくなる。これにより、輝度分布の標準偏差の値が小さいほど、ディスプレイ16aのギラツキは小さいと定量的に評価できる。また調整ステップにおいて、フィルムを装着したディスプレイ16aの輝線がディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に調整されているので、輝線による輝度ムラを抑え、ディスプレイ16aの正確なギラツキの評価を行うことができる。以上の各ステップを経ることにより、表面にフィルムを装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差を求め、その値によりディスプレイ16aのギラツキを評価できる。」
(9)実施例及び比較例
「【0132】
(実施例及び比較例)
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1及び2は、相分離構造を基本構造として防眩層3を形成するものである。実施例3及び4は、マトリクス樹脂中に複数の低屈折率ビーズ(アクリルビーズ)を分散して防眩層3を形成するものである。比較例1は、マトリクス樹脂中に複数の高屈折率ビーズ(ポリスチレン粒子)を分散してヘイズ値を上昇させた防眩層を形成するものである。実施例5及び比較例2~5は、基材フィルム上に塗布した透明樹脂の表面に、型押しにより凹凸を形成して防眩層を形成するものである。なお、以下の実施例及び比較例の説明において記載する屈折率は、架橋により硬化するものについては架橋後(硬化後)の屈折率を示す。
【0133】
[原料]
実施例及び比較例で用いる各原料には、次のものを用いた。
重合性基を有するアクリル系重合体A:ダイセル・オルネクス(株)製「サイクロマーP」、屈折率1.51
セルロースアセテートプロピオネート:イーストマン社製「CAP-482-20、」、アセチル化度=2.5%、プロピオニル度=46%、ポリスチレン換算の数平均分子量75000、屈折率1.49
シリコーンアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「EB1360」、屈折率1.52
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート:ダイセル・オルネクス(株)製「DPHA」、屈折率1.52
アクリル系ハードコート配合物A:日本化工塗料(株)製「FA-3155クリア」、アクリル微粒子(屈折率1.50)とマトリクス樹脂(屈折率1.46)を含有する
アクリル系ハードコート配合物B:日本化工塗料(株)製「FA-3155M」、屈折率1.46
光開始剤A:BASFジャパン(株)製「イルガキュア184」
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム:三菱樹脂(株)製「ダイアホイル」
セルローストリアセテート(TAC)フィルム:富士フイルム(株)製「フジタックTG60UL」
【0134】
[実施例1]
【0135】
重合性基を有するアクリル系重合体A5.7重量部、セルロースアセテートプロピオネート1.2重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート4重量部、シリコーンアクリレート2.77重量部、光開始剤A0.5重量部を、メチルエチルケトン25重量部と1-ブタノール12.2重量部との混合溶媒に溶解し、溶液を調製した。
【0136】
この溶液を、ワイヤーバー(#24)を用いて、PETフィルム(基材フィルム2)上に流延した後、80℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約7μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層をUV硬化処理した。これにより防眩層3を形成し、実施例1の防眩フィルムを得た。
【0137】
[実施例2]
重合性基を有するアクリル系重合体A4.1重量部、セルロースアセテートプロピオネート1.2重量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート4重量部、シリコーンアクリレート2.77重量部、光開始剤A0.5重量部を、メチルエチルケトン25重量部と1-ブタノール12.2重量部との混合溶媒に溶解し、溶液を調製した。
【0138】
この溶液を、ワイヤーバー(#22)を用いて、PETフィルム(基材フィルム2)上に流延した後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約6μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層をUV硬化処理した。これにより防眩層3を形成し、実施例2の防眩フィルムを得た。
【0139】
[実施例3]
アクリル系ハードコート配合物A63重量部、アクリル系ハードコート配合物B37重量部とを混合し、溶液を調製した。この溶液を、ワイヤーバー(#10)を用いて、TACフィルム(基材フィルム2)上に流延した後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約6μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層をUV硬化処理した。これにより防眩層3を形成し、実施例3の防眩フィルムを得た。
【0140】
[実施例4]
アクリル系ハードコート配合物A32重量部、アクリル系ハードコート配合物B68重量部とを混合し、溶液を調製した。この溶液を、ワイヤーバー(#10)を用いて、TACフィルム(基材フィルム2)上に流延した後、100℃のオーブン内で1分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約6μmのコート層を形成した。そして高圧水銀ランプにより紫外線をコート層に約5秒間照射してコート層をUV硬化処理した。これにより防眩層3を形成し、実施例4の防眩フィルムを得た。
【0141】
[比較例1]
基材フィルムとして、トリアセチルセルロース(富士フィルム(株)製、厚さ80μm)を用意した。透明樹脂としてペンタエリスリトールトリアクリレート(PE-3A;共栄社化学(株)製,屈折率1.53)を用い、これに透光性粒子として、シリカ粒子(SS50F;東ソー・シリカ工業(株)製,屈折率1.47、平均粒径1.1μm)及びポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径3.5μm)を、透明樹脂100重量部に対して、各々26重量部及び6.6重量部含有させた。これに光重合開始剤としてイルガキュア184(BASF社製)を5.3重量部及び溶剤としてトルエン(沸点110℃)を138重量部配合して得られた樹脂組成物を、基材フィルムに塗工し、0.2m/sの流速で90℃の乾燥空気を流通させ、1分間乾燥させた。
【0142】
その後、紫外線を照射して(窒素雰囲気下にて200mJ/cm2)透明樹脂を硬化させることで防眩層を形成し、比較例1の防眩フィルムを得た。塗膜厚は5μmとした。
・・・略・・・
【0148】
次に、実施例1~5及び比較例1~5の各防眩フィルムについて、以下の項目を測定して評価した。ヘイズ及び全光線透過率、透過像鮮明度、60度グロスの測定に際しては、粘着層は省略した。
【0149】
[ヘイズ及び全光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。ヘイズは、防眩層の凹凸構造を有する表面が受光器側となるように配置して測定した。
【0150】
[透過像鮮明度]
写像測定器(スガ試験機(株)製、ICM-1T)を用いて、JIS K7105に準拠し、防眩フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるように防眩フィルムを設置して測定した。光学櫛幅は、0.5mmとした。
【0151】
[60度グロス]
グロスメーター((株)掘場製作所製、IG-320)を用いて、JlS K7105に準拠し、角度60°で測定した。
【0152】
[ディスプレイの輝度分布の標準偏差(ギラツキ値)]
表示装置16としてスマートフォン(三星電子(株)製「Galaxy S4」)を用い、そのディスプレイ16aの表面に、各サンプルの防眩フィルムを粘着層(光学糊)により貼り付けた。コマツNTC(株)製フィルムギラツキ検査機置10を用い、各サンプルの防眩フィルムを介して、ディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差(ギラツキσ:ギラツキ値)を測定した。この測定に際しては、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように、撮像装置12の露光時間又はディスプレイ16aの全画素の輝度の少なくともいずれかを調整した。
各測定結果を表1に示す。
【0153】
【表1】
[図:0001410168000004.jpg]
【0154】
表1に示すように、実施例1~5の防眩フィルム1は、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が80%以上94%以下の範囲の値に設定され、防眩層3のヘイズ値が7%以上17.1%以下の範囲に設定されている。また、実施例1~5及び比較例1~5の防眩フィルムは、いずれもディスプレイ16aのギラツキ値(ギラツキσ)が5.2以上8.7以下の範囲の値に抑制されている。
【0155】
表1に示すように、実施例1~5の防眩層3のヘイズ値は、比較例1~5のヘイズ値よりも抑制されている。実施例1~5は、ヘイズ値を抑制してディスプレイ16aのギラツキ値を抑制しながら、良好な防眩性を発揮できると共に、優れた透過像鮮明度を有し、画像・文字のボケや色調の変化等の画像劣化が少ないことが分かった。
【0156】
この理由として、実施例1及び2では、防眩層3が基本的に相分離構造により形成されたことにより、防眩層3の表面形状が、防眩層3の表面自由エネルギーを低減する(言い換えると、防眩層3の表面積を低減する)ように形成され、防眩層3の表面の凹凸の傾斜が抑制されたことが考えられる。このため実施例1及び2では、ヘイズ値を過度に上昇させることなく、良好な防眩性を有しながらディスプレイ16aのギラツキを抑制可能な防眩層3が形成されたものと考えられる。
【0157】
また実施例1及び2では、防眩層3において相分離構造を形成するように組み合わせられた樹脂同士の屈折率差が抑制されていることから、優れた透過像鮮明度を有する防眩層3が形成されたものと考えられる。
【0158】
また、実施例3及び4の防眩層は、マトリクス樹脂中にアクリルビーズが分散された構造を有するが、マトリクス樹脂とアクリルビーズとの屈折率差が抑制されると共に、アクリルビーズにより防眩層3の表面に適度な凹凸が形成されたことが考えられる。
・・・略・・・
【0160】
比較例1は、高屈折率粒子(ポリスチレン粒子)を用いて表面に凹凸が形成することにより、ディスプレイのギラツキの抑制を図った防眩層を有しているが、高屈折率粒子を用いたことにより、内部ヘイズ値が押し上げられてヘイズ値が高くなったものと考えられる。
・・・略・・・
【0164】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成又は方法を変更、追加、又は削除できる。例えば、第1実施形態又は第3実施形態の防眩層中に、第2実施形態の微粒子を分散させてもよい。」
2 引用例1(甲第1号証)を主引用例とする理由1及び2
(1)引用例1
ア 引用文献1の記載事項
特許異議申立人が甲第1号証として引用し、令和3年4月7日付け、及び、令和3年12月6日付けで、特許権者に通知した取消しの理由で引用した引用例1(特開2014-38362号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載事項がある(合議体注:下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。以下同じ。)。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
透明フィルム上に、微粒子および樹脂を含有する防眩ハードコート層を設けてなる防眩ハードコートフィルムであって、前記微粒子は平均粒径1.0~4.8μmであり、該防眩ハードコートフィルムの表面の評価領域内の高さの平均値をゼロ(零)としたときの、評価領域内の高さ最大値と評価領域内の高さ最小値との差で表わす最大断面高さが1.32~3.0μmであり、かつ該防眩ハードコートフィルム表面の凹凸の平均傾斜角が1度以下であり、JIS K 7105-1981に基づく透過鮮明度測定装置を用いて4つの光学櫛(巾2mm、1mm、0.5mm、0.125mm)を通して測定される透過鮮明度の合計値が280%以上であり、各光学櫛を通して測定される透過鮮明度の値が各々70%以上であり、前記防眩ハードコート層の塗膜厚さが前記微粒子の平均粒径の0.5~1.5倍であることを特徴とする防眩ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記微粒子は平均粒径が3.0~4.8μmであることを特徴とする請求項1に記載の防眩ハードコートフィルム。」
(イ)発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイに代表される各種ディスプレイの表面に用いられる視認性の低下を防止するために好適な防眩ハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコン、液晶モニタなどのディスプレイは、表示面で外景の映り込みを防止するため、通常有機または無機の微粒子とバインダー樹脂または硬化性樹脂の混合物を基材に塗布し、表面に凹凸を形成することにより、防眩性を発現させている。防眩性を高めるには前記凹凸形状を大きくする、あるいは凹凸の頻度を増やす必要がある。しかし、凹凸が大きく、あるいは頻度が増えると、防眩層のヘイズ値(霞度)が上昇し防眩性が得られるものの外光の映り込みにより画面が白ボケることや、ヘイズ値の上昇に伴い像鮮明度が低下し、表示画像の視認性を悪化させるという問題があった。さらに、従来の防眩ハードコートフィルムの一般的な評価である表面のヘイズ値を低くすると、外光の映り込みにより画面が白ボケる程度は抑制できるものの、フィルム表面に、いわゆるシンチレーション(ギラツキ、面ぎら)と呼ばれるキラキラ光る輝きが強くなり、これを解消する手法としては防眩層内部のヘイズ値を高くする方法が用いられていたが、微粒子と樹脂の屈折率差に起因した内部ヘイズにより、透過率の低下が生じ、表示装置の表示輝度を低下させ、同時に内部ヘイズにより塗膜が白っぽくなるため、コントラストの低下が著しかった。
【0003】
例えば、特開平11-326608号公報(特許文献1)には、平均粒子径が0.5~5.0μmであり、透過性樹脂との屈折率の差が0.02~0.20である透光性微粒子を配合した防眩性フィルムが開示されている。防眩層を構成する透光性樹脂と、これに含まれる透光性微粒子の屈折率の差を0.02~0.20とすることによって、拡散・防眩性を低下させることなく、像鮮明度を向上させ、また、この場合、ヘイズ値を高くしてギラツキを低減させても、像鮮明度を高く維持することができるとしている。しかしながら、具体的に得られるフィルムのヘイズは10%以上と高く防眩性を有する一方、塗膜が白っぽくなり、透過率とコントラストの低下が著しい。
【0004】
また、特開2008-286878号公報(特許文献2)には、防眩性フィルムにおいては、バインダーの硬化物と透光性微粒子との屈折率差が0~0.05という小さい範囲に抑えられるため、防眩性ハードコート層の内部における光の透過性を向上させることができ、防眩性ハードコート層の表面におけるJIS B 0601-1994に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01~0.30μm及び凹凸の平均間隔(Sm)が10~300μmという小さい範囲に抑えられているため、防眩性ハードコート層の表面(外面)における光の拡散を発揮しつつ、光の透過性を維持することができ、該防眩性フィルムは、ぎらつきの抑制と、透過鮮明性の向上とをバランス良く発揮することができるとしている。しかしながら、算術平均粗さ(Ra)が0.01~0.30μm及び凹凸の平均間隔(Sm)が10~300μmという範囲は小さくなく、現在市場で製品化されている防眩フィルムのほとんどがこの範囲に該当する。また、具体的に得られるフィルムは算術平均粗さ(Ra)が0.1μm以上で、2mmの幅を有する光学櫛を通して測定される像鮮明度の値が70%未満で、かつ60度反射で測定される像鮮明度の値が60%以下では、防眩性を有する一方、高精細パネルでのギラツキ防止は不十分で、塗膜の白っぽさは考慮されておらず、透過率とコントラストの低下が著しいという問題が残る。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術においては防眩性を考慮するあまり、ギラツキ防止の観点からヘイズ値を高くすること、また像鮮明度を十分に高くできないことから、透過率の低さと塗膜の白っぽさが解消できておらず画像を表示すると画面が白っぽくなり、特に、黒表示で画像品位が低下する問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、このような従来の防眩フィルムに比べ、必要以上の防眩性を付与することなく、透過率が高く、ヘイズ値が低く透明性に優れ、像鮮映性が高く、画像のギラツキを抑制し、塗膜の白っぽさ(白ぼけ)を低減しコントラスト低下を抑え、ディスプレイの視認性を向上させた表面保護用の防眩ハードコートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意検討した結果、透明フィルム上に、微粒子および樹脂を含有する防眩ハードコート層を設けてなる防眩ハードコートフィルムであって、該防眩ハードコートフィルムの表面の評価領域内の高さの平均値をゼロ(零)としたときの、評価領域内の高さ最大値と評価領域内の高さ最小値との差で表わす最大断面高さが1.0~3.0μmであり、かつ該防眩ハードコートフィルム表面の凹凸の平均傾斜角が1度以下であることにより前記課題を解決できることを見出した。本発明によれば、ヘイズ値が低く、透過率の高い、透明性に優れる防眩ハードコートフィルムが得られるので、画像のギラツキを抑制し、ディスプレイの視認性を向上させることができる。また、本発明の防眩ハードコートフィルムにおいて、JIS K 7105-1981に基づく透過鮮明度測定装置を用いて4つの光学櫛(巾2mm、1mm、0.5mm、0.125mm)を通して測定される透過鮮明度の合計値が280%以上であり、各光学櫛を通して測定される透過鮮明度の値が各々70%以上とすることにより、像鮮明度が高く、塗膜の白っぽさ(白ぼけ)を低減しコントラスト低下を抑え、ディスプレイの視認性を向上させることができる。
【0009】
また、本発明の防眩ハードコートフィルムにおいては、前記微粒子は平均粒径1.0~4.8μmであり、且つ前記防眩ハードコート層の塗膜厚さが前記微粒子の平均粒径の0.5~1.5倍であることが好ましい。また、前記微粒子の平均粒径は3.0~4.8μmであることがより好ましい。
・・・略・・・
【0011】
また、前記防眩ハードコートフィルムのヘイズ値が0.1~5.0%で、60度鏡面光沢度が70%以上95%以下で、かつ20度鏡面光沢度が30%以上90%以下で、さらに視感透過率(透過Y値)が92.00以上とすることにより、本発明の効果をよりいっそう発現することができる。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の防眩フィルムに比べ、必要以上の防眩性を付与することなく、透過率が高く、ヘイズ値が低く透明性に優れ、像鮮映性が高く、画像のギラツキを抑制し、塗膜の白っぽさ(白ぼけ)を低減しコントラスト低下を抑え、ディスプレイの視認性を向上させた表面保護用の防眩ハードコートフィルムを提供することができる。すなわち、本発明の防眩ハードコートフィルムによれば、塗膜の白っぽさを低減しコントラストを低下させずに、実用上問題ないレベルの防眩性と高い透過率、高い像鮮明度、画像のギラツキを抑制し、ディスプレイの視認性を向上させることができる。」
(ウ)発明を実施するための形態
「【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の防眩ハードコートフィルムは、透明フィルム上に、微粒子および樹脂を含有する防眩ハードコート層を設けてなる防眩ハードコートフィルムであって、該防眩ハードコートフィルムの表面の評価領域内の高さの平均値をゼロ(零)としたときの、評価領域内の高さ最大値と評価領域内の高さ最小値との差で表わす最大断面高さが1.0~3.0μmであり、かつ該防眩ハードコートフィルム表面の凹凸の平均傾斜角が1度以下であることを特徴としている。
・・・略・・・
【0018】
また、上記の「平均傾斜角」とは、測定対象であるフィルム表面の断面曲線(測定曲線)を一定間隔ΔXで横方向に区切り、各区間内における断面曲線の終始点を結ぶ線分の傾き(傾斜角:傾斜角は、tan-1(ΔYi/ΔXで求められる。)の絶対値を求め、その値を平均したもの(θa)をいう(図1参照)。すなわち、平均傾斜角(θa)は、下記式で定義される値である。
【0019】
【数1】
[図:0001410168000005.jpg]
」
合議体注:図1は次のものである。
[図:0001410168000006.jpg]
「【0020】
かかる本発明の防眩ハードコートフィルムによれば、ヘイズ値が低く、透過率の高い、透明性に優れる理由は、本発明者の検討によると次のように推測される。
【0021】
防眩ハードコートフィルムのヘイズ値は、防眩ハードコート層表面の凹凸に起因し光が屈折、散乱することで発生する表面ヘイズと、防眩ハードコート層中に微粒子が存在することに起因し光が屈折、散乱することで発生する内部ヘイズがあり、防眩ハードコートフィルムの表面の評価領域内の高さの平均値をゼロ(零)としたときの、評価領域内の高さ最大値と評価領域内の高さ最小値との差で表わす最大断面高さが1.0~3.0μmであり、かつ該防眩ハードコートフィルム表面の凹凸の平均傾斜角が1度以下である場合、特定領域のうねり、或いはなだらかな(緩やかな)表面凹凸、等の表面性が得られ、表面の凹凸に起因する光の屈折、散乱を抑制できるため、表面ヘイズが発現し難くなり、光の屈折、散乱による光のロスが抑えられるので透過率の低下を抑制できるとともに、防眩ハードコート層表面での散乱光により防眩ハードコートフィルムが白っぽく濁る現象が抑えられることから透明性に優れるものと考えられる。
【0022】
なお、防眩ハードコートフィルムの表面の上記最大断面高さが3.0μmを超える場合、表面の凹凸に起因する光の屈折、散乱が強まるため表面ヘイズが発現し易くなり、光の屈折、散乱による光のロスにより透過率の低下が懸念されるとともに、防眩ハードコート層表面での散乱光による防眩性は得られ易くなるが、防眩ハードコートフィルムが白っぽく濁る現象を抑えられ難くなることから透明性や透過鮮明度が低下しやすい。
【0023】
また、上記最大断面高さの下限値については特に制約はないが、最大断面高さが1.0μm未満の場合、フィルム表面の凹凸が小さくなりすぎるため、防眩ハードコート層表面での散乱光による防眩性が得られ難くなる。
また、上記平均傾斜角が1度よりも大きい(1度超)場合、表面の凹凸に起因する光の屈折、散乱が強まるため表面ヘイズが発現し易くなり、光の屈折、散乱による光のロスにより透過率の低下が懸念されるとともに、防眩ハードコート層表面での散乱光による防眩性は得られ易くなるが、防眩ハードコートフィルムが白っぽく濁る現象を抑えられ難くなることから透明性や透過鮮明度が低下しやすいという問題がある。
【0024】
従って、本発明においては、防眩ハードコートフィルムの表面の上記最大断面高さは、1.0μm以上3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは上記最大断面高さが1.2μm以上2.5μm以下である。
また、防眩ハードコートフィルムの表面の上記平均傾斜角は1度以下であることが好ましく、より好ましくは上記平均傾斜角が0.9度であり、更に好ましくは上記平均傾斜角が0.7度以下である。上記平均傾斜角の下限値については特に制約はないが、防眩性の観点から、0.1度以上であることが好ましい。
なお、本発明において、「評価領域」とは測定領域のことである。
【0025】
また、本発明の防眩ハードコートフィルムにおいては、JIS K 7105-1981に基づく透過鮮明度測定装置を用いて4つの光学櫛(巾2mm、1mm、0.5mm、0.125mm)を通して測定される透過鮮明度の合計値が280%以上であり、各光学櫛を通して測定される透過鮮明度の値が各々70%以上とすることにより、像鮮明度が高く、塗膜の白っぽさ(白ぼけ)を低減しコントラスト低下を抑え、ディスプレイの視認性を向上させることができる。
・・・略・・・
【0027】
本発明に用いる樹脂は、被膜を形成する樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、特に防眩ハードコート層表面にハード性(鉛筆硬度、耐擦傷性)を付与し、また防眩ハードコート層形成時に多量の熱を必要としないという点で、電離放射線硬化型樹脂が好ましい。
・・・略・・・
【0028】
電離放射線硬化型樹脂は、電子線または紫外線等を照射することによって硬化する透明な樹脂であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、及びエポキシアクリレート系樹脂等の中から適宜選択することができる。
・・・略・・・
【0031】
本発明に用いる微粒子を形成する材料としては、特に限定はなく、例えば、シ/リカ(屈折率1.420~1.460)、塩化ビニル樹脂(屈折率1.530)、アクリル樹脂(屈折率1.490)、(メタ)アクリル樹脂(屈折率1.520~1.530)ポリスチレン樹脂(屈折率1.590)、メラミン樹脂(屈折率1.650)、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂(屈折率1.490~1.590)等が挙げることができ、微粒子は単独で用いてもよいし、或いは2種以上を併用することも可能である。また、前記微粒子の屈折率も制限はないが、本発明の効果をより一層得るには、前記微粒子は防眩ハードコート層に用いられる樹脂の屈折率に対し、屈折率の差が0.001~0.200である微粒子を用いることが好ましく、とくに屈折率の差が0.001~0.100である微粒子を用いることがより好ましい。
【0032】
また、本発明において、防眩ハードコート層の塗膜厚さは、防眩ハードコート層を構成する微粒子の平均粒径の0.5~1.5倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍である。また、好ましい微粒子の平均粒径は1.0~4.8μmであり、高い鉛筆硬度を付与するためには微粒子の平均粒径は3.0~4.8μmであることがより好ましい。
【0033】
塗膜厚さが防眩ハードコート層を構成する微粒子の平均粒径の0.5倍未満であると、微粒子が塗膜中に固定されなくなり、塗膜表面のハード性が著しく悪くなる。
一方塗膜厚さが防眩ハードコート層を構成する微粒子の平均粒径の1.5倍を超えると防眩性が全く得られなくなる。なお、前記微粒子の平均粒径は、例えばレーザー回折散乱法で測定することができる。
また、微粒子の平均粒径が4.8μmよりも大きい場合は、防眩ハードコート層の塗膜厚さを前記微粒子の平均粒径の0.5~1.5倍と設定した場合に必要以上の防眩性が付与され塗膜表面での外光の散乱が大きくなり、光の散乱により表面が白っぽくなり、ディスプレイの視認性を著しく低下させる。一方、微粒子の平均粒径が1.0μmより小さい場合は塗膜厚さを薄くしなければならないため、ハード性に欠ける。
【0034】
本発明において微粒子は防眩ハードコート層中に前記樹脂100重量部に対して0.05~3重量部配合することが好ましく、より好ましくは0.075~1重量部配合することであり、更に好ましくは0.1~0.5重量部配合することである。
微粒子の配合量が、前記樹脂100重量部に対して0.05重量部未満の場合は、防眩ハードコート層の塗膜厚さを微粒子の平均粒径の0.5~1.5倍と設定した場合に防眩性が全く得られない。また、微粒子の配合量が、前記樹脂100重量部に対して3重量部を超えるとヘイズ値が高くなり透過率、コントラストが低下する。
【0035】
従って以上のとおり、本発明の防眩ハードコートフィルムは、透明フィルム上に、微粒子および樹脂を含有する防眩ハードコート層を設けてなる防眩ハードコートフィルムであって、該防眩ハードコートフィルムの表面の評価領域内の高さの平均値をゼロ(零)としたときの、評価領域内の高さ最大値と評価領域内の高さ最小値との差で表わす最大断面高さが1.0~3.0μmであり、かつ該防眩ハードコートフィルム表面の凹凸の平均傾斜角が1度以下であり、JIS K 7105-1981に基づく透過鮮明度測定装置を用いて4つの光学櫛(巾2mm、1mm、0.5mm、0.125mm)を通して測定される透過鮮明度の合計値が280%以上であり、各光学櫛を通して測定される透過鮮明度の値が各々70%以上であることを特徴とし、この場合、前記微粒子は平均粒径1.0~4.8μmであり、且つ前記防眩ハードコート層の塗膜厚さが前記微粒子の平均粒径の0.5~1.5倍であり、前記微粒子の配合量が前記樹脂100重量部に対して0.05~3重量部であることが好ましい。また、該防眩ハードコートフィルムのヘイズ値は0.1~5.0%であることが好ましく、より好ましくはヘイズ値が0.1~3.5%であり、更に好ましくはヘイズ値が0.1~2.0%である。
【0036】
上記防眩ハードコート層は、前記樹脂と微粒子等を溶剤に溶解、分散した塗料を透明フィルム上に塗工乾燥して形成することができる。溶媒としては、前記樹脂の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、微粒子、触媒、硬化剤、その他添加剤)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。
・・・略・・・
【0038】
また、本発明の防眩ハードコートフィルムにおいては、60度鏡面光沢度が70%以上95%以下であり、かつ20度鏡面光沢度が30%以上90%以下であることが好ましく、さらに視感透過率(透過Y値)が92.00以上であることが好ましい。」
(エ) 実施例
「【0043】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
なお、微粒子の平均粒径は、レーザー回折粒度測定器SALD2200(島津製作所製)で測定した。塗膜厚さは、キーエンス(株)製の走査型電子顕微鏡にて断面を観察し、計測した。また、特に断らない限り、以下に記載する「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0044】
[実施例1]
<塗料調製>
トルエン70.0gにアクリル─スチレン共重合粒子(積水化成品工業(株)社製、平均粒径2.0μm、屈折率:1.525)0.09gを添加し十分攪拌した。この液にアクリル系紫外線硬化樹脂(日本合成化学工業(株)社製、屈折率:1.52)27.45gとイルガキュア184(光重合開始剤、(株)チバスペシャリティーケミカル社製)1.50g、BYK325(レベリング剤、ビックケミー(株)社製)0.96gを添加し十分攪拌し塗料を調製した。
<防眩フィルム作製>
Fuji TAC(トリアセチルセルロースフィルム、富士フィルム(株)社製)に上記塗料をマイヤーバー#4(RDS社製)で塗工し、80℃で1分間乾燥後、350mJ/cm2の紫外線(光源:Fusion Japan社製UVランプ)を照射し硬化した。得られた塗膜の厚さは1.6μmであった。
・・・略・・・
【0058】
以上のようにして作製された実施例及び比較例の各防眩ハードコートフィルムを次の項目について評価し、その結果を纏めて後記表1及び表2に示した。
【0059】
(1)最大断面高さ
(株)菱化システム製の三次元表面粗計「VertScan2.0」を用いて測定した。測定により得られた領域断面曲線パラメータの評価領域内の高さの平均値(Ave)がゼロのときの、評価領域内の高さ最大値(P)と評価領域内の高さ最小値(V)との差から最大断面高さ(Pt)を求めた。測定条件の設定は以下のとおりである。
<光学条件>
Camera:SONY HR-50 1/3型
Objective:10×(10倍)
Tube:1×Body
Relay:No Relay
Filter:530white
※光量調節:Lampの値が50~95の範囲内に入るよう自動で実施。
<測定条件>
Mode:Wave
Size:640×480
Range(μm):Start(5)、Stop(-10)
【0060】
(2)平均傾斜角
(株)菱化システム製の三次元表面粗計「VertScan2.0」を用いて、フィルム表面の凹凸部の平均傾斜角を測定した。
(3)ヘイズ値
村上色彩技術研究所製ヘイズメーター「HM150」を用いて測定した。
【0061】
(4)視感透過率(透過Y値)
村上色彩技術研究所製「積分球高速分光透過測定システムDOT-3」を用い、JIS Z8722に順ずる方法にて測定を実施した。
ここで視感透過率とは、Y=K∫S(λ)y(λ)T(λ)dλから求められる。なお、S(λ):波長400~700nmの分光分布、y(λ):等色関数、T(λ):分光立体角透過率、Y:視感透過率である。
【0062】
(5)透過鮮明度
スガ試験機(株)製写像性測定器「ICM-1DP」を使用し測定を実施した。測定は2mm、1mm、0.5mm、0.125mmの巾をもつ光学櫛を用いて行い、各巾における測定値とその総和を算出した。
(6)光沢度(20度、60度)
村上色彩技術研究所製グロスメーター(GM-3D)を使用し、塗工反対面に黒色のビニールテープ(日東ビニールテープ、PROSELFNo.21(幅広))を貼り20度または、60度光沢度を測定した。
【0063】
(7)鉛筆硬度
新東科学(株)製HEIDON14を使用し、JIS K 5400に準拠して実施した。
(8)ギラツキ
全面緑色表示させた解像度150ppiの液晶表示体(LCD)の上に各防眩フィルムを重ね、画面のキラキラ光る輝きの発生度合いを目視で評価した。なお、LCD表面には予めギラツキの発生しないクリアタイプのハードコートフィルムを設置した。ギラツキがないもの及びギラツキがわずかであるものを「○」、ギラツキが大きく視認性が悪化するものを「×」とした。
【0064】
(9)白ボケ、白っぽさ
外光の写り込みによる白ボケは、塗工反対面に黒色のビニールテープ(日東ビニールテープ、PROSELFNo.21(幅広))を貼りマクベス濃度計で黒濃度として測定した。2.15以上を「○」、2.10以上2.15未満を「△」、2.10未満を「×」とした。また、透過光による塗膜の白っぽさは、塗工面を観測者側にして防眩ハードコートフィルムを介して、白色蛍光灯を見たときの、内部ヘイズによりフィルム中で光が拡散し塗膜が白っぽくなる状態を目視で評価した。白っぽさがないもの及びわずかなものを「○」、白っぽさが若干強いものを「△」、塗膜が白っぽくなるものを「×」とした。
【0065】
(10)防眩性
防眩性は幅1mm間隔で直線を10本引いたものを防眩ハードコートフィルムの塗工面に写り込ませ、塗工面を観測者側にして防眩ハードコートフィルムを介して線幅を見たときの、光の散乱により線幅がぼやけて見え難くなる状態を目視で評価した。線幅を認識できないものを「○」、線幅を認識できるものを「×」とした。
【0066】
【表1】
[図:0001410168000007.jpg]
(合議体注:便宜のため、【表1】を90°回転している。)
【0067】
【表2】
[図:0001410168000008.jpg]
【0068】
以上の表1及び表2の結果から明らかなように、防眩ハードコートフィルムの表面の評価領域内の最大断面高さが1.0~3.0μm以下で、かつ平均傾斜角が1度以下である実施例1~9ではいずれも、本発明の良好な像鮮明度、良好な視感透過率、光沢度、表面強度(鉛筆硬度)を有し、なお且つギラツキ、白ボケ、白っぽさを抑制した防眩ハードコートフィルムが得られた。
また、実施例1~9はいずれも、防眩ハードコート層に用いる微粒子の平均粒径、その配合量、防眩ハードコート層の塗膜厚さ及び防眩ハードコートフィルムのヘイズ値がそれぞれ本発明の所望の範囲内であり、良好な像鮮明度、視感透過率、光沢度、表面強度(鉛筆硬度)を有し、なお且つギラツキ、白ボケ、白っぽさを抑制した防眩ハードコートフィルムが得られた。
【0069】
これに対して、微粒子を含有しているが、防眩ハードコートフィルムの表面の評価領域内の最大断面高さが1.0~3.0μmの範囲外である比較例1、2ではいずれも、良好な視感透過率、像鮮明度、光沢度を有し、ギラツキ、白ボケ、白っぽさを抑制した防眩ハードコートフィルムが得られなかった。塗膜厚さの薄い比較例1ではヘイズが高くなり、それに伴い像鮮明度、光沢度の低下、ギラツキ、白ボケ、白っぽさが顕著に悪化した。
また、微粒子の添加部数の多い比較例3では、塗膜から微粒子が突出することにより高い防眩性が発現し、像鮮明度の低下と、ギラツキ、白ボケ、白っぽさが強くなった。さらに、塗膜厚さの厚い比較例2および微粒子が無添加である比較例4は光沢度が高く防眩性が得られなかった。また、平均粒径が本発明の所望の範囲よりも大きな微粒子を用いた比較例5では、最大断面高さと平均傾斜角はいずれも本発明の範囲内であったが、透過鮮明度の値が低く本発明の良好な像鮮明度が得られなかった。」
イ 引用発明1
(ア) 引用例1でいう「本発明」は、「液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイに代表される各種ディスプレイの表面に用いられる視認性の低下を防止するために好適な防眩ハードコートフィルム」(【0001】)に関するものであるところ、【0044】には、引用例1でいう「本発明」の「実施例1」が記載されている。
また、【0058】に、「作製された実施例」「の各防眩ハードコートフィルムを」「評価し、その結果を纏めて後記表1及び表2に示した」と記載されているところ、「表1」(【0066】)及び「表2」(【0067】)に「結果」が示された各「評価」項目の定義が、【0059】~【0065】に記載されている。
(イ) 上記ア(ア)~(エ)及び上記(ア)より、引用例1には、「実施例1」にて「作製」された「防眩ハードコートフィルム」の発明(以下「引用発明1」という。)として、以下の発明が記載されているものと認められる。
「 トルエン70.0gにアクリル-スチレン共重合粒子(平均粒径2.0μm、屈折率:1.525)0.09gを添加し十分攪拌し、この液にアクリル系紫外線硬化樹脂(屈折率:1.52)27.45gとイルガキュア184(光重合開始剤)1.50g、BYK325(レベリング剤)0.96gを添加し十分攪拌し塗料を調製し、
Fuji TAC(トリアセチルセルロースフィルム)に上記塗料をマイヤーバー#4(RDS社製)で塗工し、80℃で1分間乾燥後、350mJ/cm2の紫外線(光源:Fusion Japan社製UVランプ)を照射し硬化して作製された、
防眩ハードコートフィルムであって、
得られた塗膜の厚さが1.6μmであり、
下記の定義による最大断面高さ(μm)は1.62μm、平均傾斜角(度)は0.4度、ヘイズ(%)は0.5%、視感透過率(透過Y値)は92.15、光沢度(20度、60度)(%)は、70%(20度)、88%(60度)、鉛筆硬度は2H、ギラツキ、白ボケ、白っぽさ、防眩性の評価はいずれも○、透過鮮明度(%)は71%(光学櫛巾0.125mm)、83%(同0.5mm)、84%(同1.0mm)、95%(同2.0mm)、合計333%である、
防眩ハードコートフィルム。
(最大断面高さ)
(株)菱化システム製の三次元表面粗計「VertScan2.0」を用いて測定した。測定により得られた領域断面曲線パラメータの評価領域内の高さの平均値(Ave)がゼロのときの、評価領域内の高さ最大値(P)と評価領域内の高さ最小値(V)との差から最大断面高さ(Pt)を求めた。測定条件の設定は以下のとおりである。
<光学条件>
Camera:SONY HR-50 1/3型
Objective:10×(10倍)
Tube:1×Body
Relay:No Relay
Filter:530white
※光量調節:Lampの値が50~95の範囲内に入るよう自動で実施。
<測定条件>
Mode:Wave
Size:640×480
Range(μm):Start(5)、Stop(-10)
(平均傾斜角)
(株)菱化システム製の三次元表面粗計「VertScan2.0」を用いて、フィルム表面の凹凸部の平均傾斜角を測定した。
(ヘイズ値)
村上色彩技術研究所製ヘイズメーター「HM150」を用いて測定した。
(視感透過率(透過Y値))
村上色彩技術研究所製「積分球高速分光透過測定システムDOT-3」を用い、JIS Z8722に順ずる方法にて測定を実施した。
ここで視感透過率とは、Y=K∫S(λ)y(λ)T(λ)dλから求められる。なお、S(λ):波長400~700nmの分光分布、y(λ):等色関数、T(λ):分光立体角透過率、Y:視感透過率である。
(透過鮮明度)
スガ試験機(株)製写像性測定器「ICM-1DP」を使用し測定を実施した。測定は2mm、1mm、0.5mm、0.125mmの巾をもつ光学櫛を用いて行い、各巾における測定値とその総和を算出した。
(光沢度(20度、60度))
村上色彩技術研究所製グロスメーター(GM-3D)を使用し、塗工反対面に黒色のビニールテープ(日東ビニールテープ、PROSELFNo.21(幅広))を貼り20度または、60度光沢度を測定した。
(鉛筆硬度)
新東科学(株)製HEIDON14を使用し、JIS K 5400に準拠して実施した。
(ギラツキ)
全面緑色表示させた解像度150ppiの液晶表示体(LCD)の上に各防眩フィルムを重ね、画面のキラキラ光る輝きの発生度合いを目視で評価した。なお、LCD表面には予めギラツキの発生しないクリアタイプのハードコートフィルムを設置した。ギラツキがないもの及びギラツキがわずかであるものを「○」、ギラツキが大きく視認性が悪化するものを「×」とした。
(白ボケ、白っぽさ)
外光の写り込みによる白ボケは、塗工反対面に黒色のビニールテープ(日東ビニールテープ、PROSELFNo.21(幅広))を貼りマクベス濃度計で黒濃度として測定した。2.15以上を「○」、2.10以上2.15未満を「△」、2.10未満を「×」とした。また、透過光による塗膜の白っぽさは、塗工面を観測者側にして防眩ハードコートフィルムを介して、白色蛍光灯を見たときの、内部ヘイズによりフィルム中で光が拡散し塗膜が白っぽくなる状態を目視で評価した。白っぽさがないもの及びわずかなものを「○」、白っぽさが若干強いものを「△」、塗膜が白っぽくなるものを「×」とした。
(防眩性)
防眩性は幅1mm間隔で直線を10本引いたものを防眩ハードコートフィルムの塗工面に写り込ませ、塗工面を観測者側にして防眩ハードコートフィルムを介して線幅を見たときの、光の散乱により線幅がぼやけて見え難くなる状態を目視で評価した。線幅を認識できないものを「○」、線幅を認識できるものを「×」とした。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1を対比すると、以下のとおりである。
(ア) 上記(1)イ(イ)の引用発明1の「防眩ハードコートフィルム」の形成工程からみて、引用発明1は、「トルエン70.0g」、「平均粒径2.0μm」、「屈折率」「1.525」の「アクリル─スチレン共重合粒子」「0.09g」、「屈折率」「1.52」の「アクリル系紫外線硬化樹脂」「27.45g」、「光重合開始剤」「1.50g」及び「レベリング剤」「0.96g」を添加し十分攪拌し塗料を調製し」、「Fuji TAC(トリアセチルセルロースフィルム)」上に「塗料を」「塗工し」、「乾燥後」、「紫外線」「を照射し硬化して」、「厚さ」「1.6μm」の「塗膜」を形成したものであると理解できる。
(イ) 上記(ア)から、引用発明1の「Fuji TAC(トリアセチルセルロースフィルム)」上に「形成」された「厚さ」「1.6μm」の「塗膜」は、(「光重合開始剤」「1.50g」と「レベリング剤」「0.96g」を含む)「屈折率」「1.52」の「アクリル系紫外線硬化樹脂」「27.45g」の硬化物と、硬化物に分散された複数の「平均粒径2.0μm」、「屈折率」「1.525」の「アクリル─スチレン共重合粒子」「0.09g」とを含むと理解できる。
ここで、引用発明1の「Fuji TAC(トリアセチルセルロースフィルム)」は、ヘイズが実質0%の透明なフィルムであることは、技術常識から明らかである。
そうすると、引用発明1の「防眩ハードコートフィルム」が示す、「ヘイズ」「透過像鮮明度」、「ギラツキ」、「白ボケ、白っぽさ」及び「防眩性」などの各光学的特性は、引用発明1の「厚さ」「1.6μm」の「塗膜」により主に生じると理解できる。
(ウ) 上記(イ)より、引用発明1の、(「光重合開始剤」と「レベリング剤」を含む)「アクリル系紫外線硬化樹脂」の硬化物、及び、「平均粒径2.0μm」の「アクリル─スチレン共重合粒子」は、それぞれ本件特許発明1の「マトリクス樹脂」及び「微粒子」に相当する。そして、引用発明1の「平均粒径2.0μm」の「アクリル─スチレン共重合粒子」は、本件特許発明1の「前記微粒子の平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値」であるとする要件を満たしている。
また、上記(イ)より、引用発明1の「厚み1.6μm」の「塗膜」は、本件特許発明1の「防眩層」に相当する。さらに、引用発明1の「塗膜」と、本件特許発明1の「防眩層」は、「マトリクス樹脂と」、「マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含」む点において共通する。
(エ) 引用発明1の「防眩ハードコートフィルム」が示す、「光学櫛巾」「0.5mm」の「透過鮮明度」は、「83%」である。
また、引用発明1の、「光学櫛巾」「0.5mm」の「透過鮮明度」は、「スガ試験機(株)製写像性測定器「ICM-1DP」を使用し」、「0.5mm」「の巾をもつ光学櫛を用いて」「測定を実施した」ものである。
ここで、本件特許明細書の【0150】によれば、本件特許発明1における「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」は、「写像測定器(スガ試験機(株)製、ICM-1T)用いて、JIS K7105に準拠し、防眩フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるように防眩フィルムを設置して測定し」、「光学櫛幅」を「0.5mmとした」ものである。
そうすると、引用発明1の「光学櫛巾」「0.5mm」の「透過鮮明度」は、本件特許発明1の「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」に対応する。
してみると、引用発明1は、本件特許発明1の「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり」との要件を具備する。
(オ) 引用発明1の「防眩ハードコートフィルム」は、その文言が意味するとおり、「防眩」性を有する「フィルム」である。
そうすると、引用発明1の「防眩ハードコートフィルム」は、本件特許発明1の「防眩フィルム」に相当する。
してみると、引用発明1は、本件特許発明1と、「マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含」む「防眩層を備え」、「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であ」る点において共通する。
イ 一致点及び相違点
(ア) 一致点
本件特許発明1と引用発明1は、次の構成で一致する。
「 マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む防眩層を備え、
光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、
前記微粒子の平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値である、防眩フィルム。」
(イ) 相違点
本件特許発明1と引用発明1は、以下の点で相違する。
(相違点1-1-1)
「防眩層」の「ヘイズ値」が、本件特許発明1は、「7%以上20%以下の範囲の値に設定された」ものであるのに対して、引用発明1は、「0.5%」である点。
(相違点1-1-2)
本件特許発明1は、「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値である」のに対して、引用発明1は、そのようなものであるかどうか不明な点。
(相違点1-1-3)
「防眩層」の「厚み」が、本件特許発明1は、「6μm以上20μm以下の範囲の値」であるのに対し、引用発明1は、「1.6μm」である点。
ウ 判断
事案に鑑みて、相違点1-1-3について検討する。
相違点1-1-3は、実質的な相違点であるから、本件特許発明1は引用発明1と同一の発明であるとはいえない。
また、引用例1の【0032】には、「本発明において、防眩ハードコート層の塗膜厚さは、防眩ハードコート層を構成する微粒子の平均粒径の0.5~1.5倍であることが好ましく、より好ましくは0.8~1.2倍である。また、好ましい微粒子の平均粒径は1.0~4.8μmであり、高い鉛筆硬度を付与するためには微粒子の平均粒径は3.0~4.8μmであることがより好ましい。」と記載されており、さらに【0033】には、「一方塗膜厚さが防眩ハードコート層を構成する微粒子の平均粒径の1.5倍を超えると防眩性が全く得られなくなる。」と記載されている。
引用発明1は、その製造方法からみて、「厚さが1.6μm」の塗膜に「平均粒径2.0μm」のアクリル-スチレン共重合粒子を含むところ、塗膜の厚さを、アクリル-スチレン共重合粒子の平均粒径の1.5倍を超える、6μm以上とする動機付けがあるとはいえない。また、仮に塗膜の厚さを6μmとした場合には、防眩性を得るために、微粒子の平均粒径を4μmとすることを要し、本件特許発明1の「微粒子の平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値」であるとする要件を満たさないことになる。
特許異議申立人は、令和4年4月5日付けの意見書において、引用例1の【0031】の記載を引用し、「防眩ハードコート層が2種類以上の微粒子を含む場合には、少なくとも1種の微粒子が段落【0033】の関係を満たせば防眩性を付与できる。このため、別の微粒子は、防眩ハードコート層の塗膜厚さとの関係が、『塗膜厚さが防眩ハードコート層を構成する微粒子の平均粒径の1.5倍を超える』ものであっても、引用例1の課題を損なうことはない。…引用例1は、防眩ハードコート層が2種類以上の微粒子を含む構成において、段落【0033】の関係を満たさない微粒子を少量用いる構成までは排除しておらず、当該構成を採用する動機があるといえる。」(第2~3頁)と主張している。しかし、【0031】の記載は、当該一文の文頭に、「本発明に用いる微粒子を形成する材料としては、」と記載されていることから、粒径ではなく「材料」について記載されたものであることは明らかである。そして、【0033】の記載には、微粒子の平均粒径の1.5倍を超えると防眩性が全く得られなくなると記載されているのであるから、微粒子に、あえて、塗膜厚さが平均粒径の1.5倍を超えることになる、小さな粒子を混在させて用いる動機付けがあると理解することができない。そうすると、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。
したがって、当業者であったとしても、引用発明1の塗膜厚さを、上記相違点1-1-3に係る本件特許発明1の構成とすることが容易になし得たということはできない。
そうすると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、容易に発明できたものとはいえない。
(3)本件特許発明3及び本件特許発明4について
本件特許発明3又は本件特許発明4と、引用発明1とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点1-1-3において相違する。
したがって、本件特許発明3及び本件特許発明4も、本件特許発明1と同じ理由により、引用発明1と同一の発明であるとはいえず、当業者であっても、容易に発明できたものともいえない。
3 引用例3を主引用例とする理由1(新規性)及び2(進歩性)
(1)引用例3
ア 引用例3の記載事項
特許異議申立人が甲第3号証として引用し、令和3年4月7日付け、及び、令和3年12月6日付けで、特許権者に通知した取消しの理由で引用した引用例3(特開2014-85371号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載事項がある。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
複数の樹脂成分の相分離に伴って形成された長細状凸部を表面に有する防眩層を含む防眩フィルムであって、前記長細状凸部が、分岐構造を有し、かつ合計長さが100μm以上であるとともに、前記防眩層の表面に前記長細状凸部が1mm2当たり1以上存在する防眩フィルム。
・・・略・・・
【請求項4】
0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度70~100%、ヘイズ10~40%、全光線透過率70~100%を有する請求項1~3のいずれかに記載の防眩フィルム。
・・・略・・・
【請求項7】
200ppiの解像度を有する表示装置に配設したとき、防眩層が表示面から0.05mm以上離れてもギラツキを抑制できる請求項1~6のいずれかに記載の防眩フィルム。
【請求項8】
表示装置が有機ELパネルである請求項7記載の防眩フィルム。」
(イ)発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は、各種表示装置の表示面でのギラツキや外部光源の映りこみを防止するのに適した防眩フィルム及びその製造方法に関する。
・・・略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、ヘイズと鮮明性とのバランスに優れ、高精細表示装置(例えば、200ppi以上の解像度を有する液晶表示装置や、有機EL表示装置など)に配設しても、防眩性を向上でき、ギラツキを高度に抑制でき、かつ文字ボケも抑制できる防眩フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、有機ELパネルなどの高精細表示装置の表示面に対して離れて配設しても、防眩性と耐ギラツキ性とを両立でき、耐擦傷性も向上できる防眩フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、まず、非相溶な樹脂成分のスピノーダル分解を利用した従来の防眩フィルムが高精細表示装置において、防眩性と耐ギラツキ性とを両立できないメカニズムについて検討した。従来の相分離による凹凸構造は、図1に示すように、主として液滴状の構造が比較的周期的に配列された構造であった。相分離はコート液に均一に溶解されたことによって熱力学的に安定な状態にある樹脂の混合物が、溶剤の蒸発に伴って熱力学的に不安定な状態となり、スピノーダル分解を引き起こすことによって生じる現象である。系全体が同時に熱力学的に不安定な状態となり、塗膜面内で均質な相分離が進行するため、比較的周期的で且つ均一なサイズの表面凹凸形状が形成されるのが特徴である。しかし、200ppi以上の解像度に対応する画素サイズに対してギラツキを抑制できる程度に表面凹凸形状のサイズを小さくすると、防眩性が低下し、外光が表示面に映りこんで画質が損なわれてしまう。一方、防眩性を向上させるために凸形状の傾斜角を大きくすると、ヘイズが上昇し、文字ボケが発生する。
【0015】
一般的に、ギラツキは、凹凸構造のサイズがオーダー的に画素サイズに近い場合にレンズ効果によって発生すると考えられている。推測であるが、凹凸形状が画素を跨いで存在する場合、各画素の透過光が凹凸形状によって異なる方向に屈折され、本来、RGBの混色として評価者の眼に届くべき色や明るさが、凹凸構造のピッチや傾斜に応じてランダムに変動して感じられる現象をギラツキとして認知しているものと考えられる。凹凸構造が画素より充分に小さい場合画素を跨ぐ凹凸は存在するものの、割合が少なく且つ屈折も小さいため、ギラツキは感じにくい。一方、凹凸構造が画素より充分に大きい場合は、凹凸形状の傾斜が大きいと、透過光が大きく屈折してレンズ効果を生じるが、傾斜が小さくなるほど透過光の屈折も少なくギラツキは感じにくくなる。極端なケースを考えると判りやすいが、傾斜角が限りなくゼロに近づけば、それはほぼ平面となってギラツキが解消されることが予測できる。
【0016】
そこで、本発明者らは、従来の防眩フィルムでは、液滴相構造を有するため、ギラツキが発生し易いことを突き止め、共連続相構造(共連続構造又は共連続状相分離構造)に着目した。すなわち、共連続相構造を含む相分離構造において、画素サイズによって調整は必要であるが、共連続相構造を形成する凸部の幅を画素より充分小さい幅に調整することによって、幅方向はギラツキを生じる因子から免かれることとなる。一方、凸部の長さ(持続長)方向においては、傾斜は端部以外には原理的に存在しないため、やはりギラツキは生じにくい。特に、共連続相構造に限られず、液滴相構造でも、島状ドメインの長さが大きい場合は端部の占める割合が小さくなるため、なおさらギラツキは生じにくくなる。また、幅方向のサイズは小さいものの、共連続相構造や長さの大きい島状ドメイン部は膜面方向に大きく広がっているため、防眩性を確保しやすい。さらに、共連続相構造は、傾斜部が本質的に少ない構造であるため、光を散乱させる因子が少なく、幅方向と同程度のサイズを有する液滴状の表面凹凸構造に比べると、ヘイズが低いために文字ボケを起こしにくい。
【0017】
本発明者らは、このような知見に基づいて、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、防眩層の表面に、複数の樹脂成分の相分離に伴って、分岐構造を有し、かつ合計長さが100μm以上の長細状凸部を密に形成することにより、ヘイズと鮮明性とのバランスに優れ、高精細表示装置(例えば、200ppi以上の解像度を有する液晶表示装置や、有機EL表示装置など)に配設しても、防眩性を向上でき、ギラツキを高度に抑制でき、かつ文字ボケも抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の防眩フィルムは、複数の樹脂成分の相分離に伴って形成された長細状凸部を表面に有する防眩層を含む防眩フィルムであって、前記長細状凸部が、分岐構造を有し、かつ合計長さが100μm以上であるとともに、前記防眩層の表面に前記長細状凸部が1mm2当たり1以上存在する。前記長細状凸部は、共連続相構造を形成し、共連続相構造の網目の平均径が1~70μmであってもよい。前記防眩層の表面において、分岐構造を有する長細状凸部と他の凸部との長さ比が、前者/後者=100/0~50/50程度であってもよい。本発明の防眩フィルムは、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度70~100%、ヘイズ10~40%、全光線透過率70~100%を有していてもよい。前記複数の樹脂成分は、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂・・・略・・・から選択された複数のポリマーと、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、及び少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体から選択された少なくとも一つの硬化性樹脂前駆体とを含み、かつ前記ポリマーのうち少なくとも2つの成分が、液相からのスピノーダル分解により相分離しているとともに、前記硬化性樹脂前駆体が硬化していてもよい。前記硬化性樹脂前駆体は、JIS Z8803で準拠した粘度(25℃)が3000mPa・s以下である硬化性樹脂前駆体を含んでいてもよい。本発明の防眩フィルムは、200ppiの解像度を有する表示装置に配設したとき、防眩層が表示面から0.05mm以上離れてもギラツキを抑制できる防眩フィルムであってもよい。前記表示装置は有機ELパネルであってもよい。
・・・略・・・
【0019】
本発明には、複数の樹脂成分を含む溶液を塗布し、溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により相分離構造を形成する乾燥工程を含む前記防眩フィルムの製造方法も含まれる。前記乾燥工程において、80℃を超える温度で加熱してもよい。
・・・略・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明では、防眩層の表面に、複数の樹脂成分の相分離に伴って、分岐構造を有し、かつ合計長さが100μm以上の長細状凸部が密に形成されているため、ヘイズと鮮明性とのバランスに優れ、高精細表示装置(例えば、200ppi以上の解像度を有する液晶表示装置や、有機EL表示装置など)に配設しても、防眩性を向上でき、ギラツキを高度に抑制でき、かつ文字ボケも抑制できる。さらに、有機ELパネルなどの高精細表示装置の表示面に対して離れて配設しても、防眩性と耐ギラツキ性とを両立でき、耐擦傷性も向上できる。そのため、有機ELパネルなどの高精細表示装置の保護フィルムとして利用しても、前記特性を両立できる。」
(ウ)発明を実施するための形態
「【0023】
[防眩層]
本発明の防眩フィルムは防眩層を含み、この防眩層は、複数の樹脂成分の相分離に伴って形成された長細状(又は長尺状)凸部を表面に有しており、長細状凸部で形成された表面凹凸構造により防眩性を発現できる。特に、本発明では、この長細状凸部が、分岐構造を有し、かつ100μm以上の合計長さを有するとともに、防眩層の表面で密な状態で共連続相構造を形成しているため、ヘイズと鮮明性とのバランスに優れ、高精細表示装置に配設しても、防眩性を損なうことなく、ギラツキを高度に抑制でき、かつ文字ボケも抑制できる。
【0024】
(長細状凸部)
長細状凸部は、後述する方法で複数の樹脂成分の相分離に伴って形成され、防眩層の表面において、長細状(紐状又は線状)凸部が略網目状に形成されている。そのため、防眩層の表面は、二次元ネットワーク的に網目状構造(あたかも、マスクメロンの皮の網目状模様)、すなわち、不規則な複数のループ状(例えば、連続したループ状、又は一部が欠落したループ状)を形成しているように観察できる。
・・・略・・・
【0029】
長細状凸部で形成された共連続相構造は、通常、同程度の径を有する網目が不規則な形状で配列している。共連続相構造の各網目の平均径(共連続相構造の各網目が楕円形状や長方形状などの異方形状の場合、長径と短径との平均値)は、例えば、1~70μm(例えば、1~40μm)、好ましくは2~50μm(例えば、3~30μm)、さらに好ましくは5~20μm(特に10~20μm)程度であってもよい。網目の径が大きすぎると、ギラツキや文字ボケが発生し易く、小さすぎると、防眩性が低下し易い。
【0030】
各長細状凸部の形状(防眩層表面の二次元形状)は、通常、部分的又は全体的に曲線部を有する紐状であり、長細状凸部の平均幅は0.1~30μmであり、表示装置の画素に応じて、前記範囲から選択して、ギラツキを抑制可能な小さな幅に調整すればよく、例えば、0.1~20μm、好ましくは0.1~15μm、さらに好ましくは0.1~10μm(特に0.1~5μm)程度である。幅が大きすぎると、ギラツキや文字ボケが発生し易く、小さすぎると、防眩性が低下する。
・・・略・・・
【0031】
長細状凸部の平均高さは、例えば、0.05~10μm、好ましくは0.07~5μm、さらに好ましくは0.09~3μm(特に0.1~2μm)程度である。長細状凸部の傾斜角は、例えば、10°以下であり、好ましくは0.5~5°、さらに好ましくは1~3°程度である。凸部の高さが高く、傾斜が大きくなると、ギラツキや文字ボケが発生し易い。
【0032】
防眩層の表面における全凸部の面積割合は、全表面に対して、例えば、10~100%、好ましくは30~100%、さらに好ましくは50~100%(特に70~100%)程度である。長細状凸部間の面積が小さすぎると、防眩性が低下し易く、大きすぎると、ギラツキや文字ボケが発生し易い。
・・・略・・・
【0034】
(樹脂成分)
防眩層は相分離可能な複数の樹脂成分を含んでおり、この防眩層の相分離構造は、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成されている。樹脂成分としては、相分離可能な樹脂成分を含んでいればよいが、前述の長細状凸部を形成でき、かつ耐擦傷性も向上できる点から、ポリマー成分及び硬化性樹脂前駆体を含むのが好ましい。
【0035】
(ポリマー成分)
ポリマー成分としては、通常、熱可塑性樹脂が使用される。
・・・略・・・
【0061】
(硬化性樹脂前駆体)
硬化性樹脂前駆体としては、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能な種々の硬化性化合物が使用できる。
・・・略・・・
【0066】
硬化性樹脂前駆体の粘度(JIS Z8803で準拠した25℃の粘度)は100~10000mPa・s(特に500~8000mPa・s)程度の範囲から選択できる。特に、硬化性樹脂前駆体は、前記長細状凸部を形成し易い点から、少なくとも3000mPa・s以下の粘度を有する低粘硬化性樹脂前駆体を含むのが好ましい。低粘硬化性樹脂前駆体の粘度(JIS Z8803で準拠した25℃の粘度)は、例えば、100~3000mPa・s、好ましくは300~2800mPa・s、さらに好ましくは500~2500mPa・s(特に1000~2300mPa・s)程度である。低粘硬化性樹脂前駆体の粘度が高すぎると、前記長細状凸部を形成するのが困難となる。低粘度硬化性樹脂前駆体を含むことにより前記長細状凸部が生成し易いメカニズムは、明らかではないが、低粘度硬化性樹脂前駆体が乾燥工程における塗布液の溶融流動性、特に、相分離する前記熱可塑性樹脂の自由度を向上させることにより、スピノーダル分解を促進し、液滴相構造から共連続相構造にまで進行するためであると推定できる。
【0067】
低粘硬化性樹脂前駆体の割合は、樹脂成分全体に対して、1~50重量%程度の範囲から選択でき、例えば、3~40重量%、好ましくは5~35重量%、さらに好ましくは10~30重量%(特に15~25重量%)程度である。低粘硬化性樹脂前駆体の割合が多すぎると、スピノーダル分解の相分離に伴う初期凹凸形成が抑制され、溶融によって凸部が繋がる機会が減少するため、長細状凸部の形成が困難となり、少なすぎると、塗布液の溶融流動性が低下することにより、長細状凸部の形成が困難となる。
・・・略・・・
【0075】
さらに、通常、ポリマーと、樹脂前駆体の硬化により生成した硬化又は架橋樹脂とは互いに屈折率が異なる。また、複数のポリマー(第1の樹脂と第2の樹脂)の屈折率も互いに異なる。ポリマーと硬化又は架橋樹脂との屈折率の差、複数のポリマー(第1の樹脂と第2の樹脂)との屈折率の差は、例えば、0.001~0.2、好ましくは0.05~0.15程度であってもよい。
・・・略・・・
【0077】
[防眩フィルム]
本発明の防眩フィルムは、少なくとも防眩層で構成されており、防眩層の厚みは、例えば、防眩層単独で形成されていてもよいが、通常、さらに透明フィルムを含み、この透明フィルムの一方の面に防眩層が形成されていてもよい。
【0078】
防眩層には、防眩層の光学特性を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、有機又は無機粒子、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤、水溶性高分子、充填剤、架橋剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、滑剤、ワックス、防腐剤、粘度調整剤、増粘剤、レベリング剤、消泡剤などが含まれていてもよい。
【0079】
防眩層の厚みは、例えば、0.3~20μm程度、好ましくは1~15μm(例えば、1~10μm)程度であってもよく、通常、2~10μm(特に3~7μm)程度である。なお、防眩層単独で防眩フィルムを構成する場合、防眩層の厚みは、例えば、1~100μm、好ましくは3~50μm程度の範囲から選択してもよい。
・・・略・・・
【0095】
(防眩フィルムの特性)
本発明の防眩フィルムは、防眩層の表面に相分離構造に対応した微細な凹凸構造が大量に形成されている。そのため、表面反射による外景の映り込みを抑制でき、防眩性を高めることができる。また、防眩性の評価は、目視による蛍光灯の映りこみによる評価、及びJlS K7105に従ってグロスメーターを用いて評価できる。本発明の防眩フィルム(防眩層)は、60°グロスが30以上であってもよく、例えば、30~80、好ましくは40~70、さらに好ましくは50~60(特に52~55)程度であってもよい。グロスが小さすぎると、ギラツキや文字ボケが発生し易い。
【0096】
さらに、ギラツキ及び文字ボケの評価は、解像度200ppi程度の高精細液晶表示装置を用いて評価でき、より簡単には300ppi程度の高精細スマートフォンを用いて目視にて評価できる。本発明の防眩フィルムは、200ppiの解像度を有する表示装置に配設したとき、防眩層が表示面から0.05mm以上(特に0.1~0.4mm程度)離れてもギラツキを抑制できる。
【0097】
さらに、本発明の防眩フィルムにおいて、防眩性の確保と、ギラツキの低減及び文字ボケ回避という特性を最適なレベルで実現する光学特性としては、透過像鮮明度、ヘイズ及び全光線透過率が特定の範囲に調整されているのが好ましい。
【0098】
防眩フィルムの透過像鮮明度は、0.5mm幅の光学櫛を使用した場合、70~100%程度の範囲から選択できるが、好ましくは75~100%(例えば、75~95%)、さらに好ましくは80~100%(特に80~90%)程度である。透過像鮮明度が小さすぎると、透過光のボケが多くなり、高精細表示装置に用いると、画素の輪郭がボケるため、文字ボケが発生し易い。
【0099】
透過像鮮明度とは、フィルムを透過した光のボケや歪みを定量化する尺度である。透過像鮮明度は、フィルムからの透過光を移動する光学櫛を通して測定し、光学櫛の明暗部の光量により値を算出する。すなわち、フィルムが透過光をぼやかす場合、光学櫛上に結像されるスリットの像は太くなるため、透過部での光量は100%以下となり、一方、不透過部では光が漏れるため0%以上となる。透過像鮮明度の値Cは光学櫛の透明部の透過光最大値Mと不透明部の透過光最小値mから次式により定義される。
【0100】
C(%)=[(M-m)/(M+m)]×100
すなわち、Cの値が100%に近づく程、防眩フィルムによる像のボケが小さい[参考文献;須賀、三田村,塗装技術,1985年7月号]。
【0101】
前記透過像鮮明度測定の測定装置としては、スガ試験機(株)製写像性測定器ICM-1DPが使用できる。光学櫛としては、0.125~2mm幅の光学櫛を用いることができる。
【0102】
本発明の防眩フィルムのヘイズは、例えば、10~40%、好ましくは12~35%、さらに好ましくは15~30%(特に20~30%)程度である。ヘイズを高すぎると、ギラツキ及び文字ボケが発生し易く、ヘイズが小さすぎると、防眩性が低下する。
【0103】
本発明の防眩性フィルムの全光線透過率は、例えば、70~100%、好ましくは80~100%、さらに好ましくは85~100%(例えば、85~95%)、特に90~100%(例えば、90~99%)程度である。
・・・略・・・
【0106】
(防眩フィルムの製造方法)
本発明の防眩フィルムは、複数の樹脂成分を含む溶液を支持体(特に透明フィルム)の上に塗布し、溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により相分離構造を形成する乾燥工程を含む製造方法により得られる。硬化性樹脂前駆体を含む場合は、本発明の防眩フィルムは、さらに前記硬化性樹脂前駆体を硬化する硬化工程を経て得られる。
【0107】
詳しくは、乾燥工程では、複数の樹脂成分(特にポリマー及び硬化性樹脂前駆体)と溶媒とで構成された樹脂組成物(特に均一溶液などの液状組成物又は混合液)を用い、この樹脂組成物の液相(又は均一溶液やその塗布層)から、溶媒を乾燥などにより蒸発又は除去する過程で、濃度の濃縮に伴って、スピノーダル分解による相分離が生じ、相間距離(ピッチ又は網目径)が比較的規則的な相分離構造を形成できる。共連続相構造は、溶媒が蒸発したあとの樹脂組成物の溶融流動性が高くなるような乾燥条件や処方を設定することにより、作製することができる。
【0108】
より具体的には、前記湿式スピノーダル分解は、通常、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む混合液又は樹脂組成物(均一溶液)を支持体にコーティングし、塗布層から溶媒を蒸発させることにより行うことができる。前記支持体として剥離性支持体を用いる場合には、防眩層を支持体から剥離することにより防眩層単独で構成された防眩フィルムを得ることができ、支持体として非剥離性支持体(好ましくは透明支持体)を用いることにより、支持体と防眩層とで構成された積層構造の防眩フィルムを得ることができる。さらに、溶媒の蒸発温度を高くしたり、樹脂の一部に粘性の低い成分を用いたりすることにより、相分離構造が繋がった共連続相構造を作製できる。凹凸構造が共連続構造となる理由は、推測ではあるが、溶媒が蒸発した後も樹脂成分の流動性が失われることがなく、熱によって凹凸構造が溶融してそれらが繋がるためと考えられる。
【0109】
本発明では、スピノーダル分解において、相分離の進行に伴って共連続相構造を形成し、さらに相分離が進行して粗大化すると、連続相が自らの表面張力により非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状などの独立相の海島構造)となる。従って、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(前記共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。本発明では、防眩層の相分離構造は、乾燥の初期過程においては海島構造(液滴相構造、又は一方の相が独立または孤立した相構造)、共連続相構造(又は網目構造)であってもよく、共連続相構造と液滴相構造とが混在した中間的構造であってもよい。これらの相分離構造により溶媒乾燥後には防眩層の表面に微細な凹凸を形成できる。さらに乾燥過程において、溶媒乾燥後であっても樹脂組成物が流動性を確保できる程度に乾燥の温度が高く、且つまたは樹脂成分として低粘度成分を含有させることにより、表面の微細な凹凸が溶融して繋がり、元々共連続であった構造であってもさらに連続性を増した凹凸構造へと変異させることができる。
【0110】
湿式スピノーダル分解において、溶媒は、前記ポリマー及び硬化性樹脂前駆体の種類及び溶解性に応じて選択でき、少なくとも固形分(複数のポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できる溶媒であればよい。
・・・略・・・
【0111】
前記樹脂組成物(混合液)としては、好ましい態様として、前記熱可塑性樹脂と、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、前記熱可塑性樹脂及び光硬化性化合物を可溶な溶媒とを含む組成物が使用でき、他の好ましい態様として、前記互いに非相溶な複数のポリマーと、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、溶媒とを含む組成物が使用できる。
・・・略・・・
【0114】
前記混合液を流延又は塗布した後、溶媒を蒸発させることにより、スピノーダル分解による相分離を誘起することができる。溶媒の蒸発は、防眩層の表面に長細状凸部を形成し易い点から、加熱して乾燥するのが好ましい。乾燥温度は、例えば、30~200℃、(例えば、40~150℃)程度の範囲から選択できるが、共連続相構造を形成し易い点から、80℃を超える温度、例えば、82~120℃、好ましくは85~110℃、さらに好ましくは88~105℃(特に90~100℃)程度の温度で乾燥させることにより行うことができる。乾燥時間は、例えば、1~60分、好ましくは1.2~50分、さらに好ましくは1.5~30分(特に1.8~10分)程度である。乾燥温度や時間が小さすぎると、樹脂成分に対する熱量の付与が不十分となり、樹脂成分の溶融流動性が低下して、長細状凸部の形成が困難となる。一方、乾燥温度や時間が大きすぎると、一旦形成された長細状凸部がさらなる流動によって高さを低下させるが、構造は維持される。そのため、高さを変えて防眩性や滑り性を調整する手段として乾燥温度及び乾燥時間を利用できる。
【0115】
本発明では、このような比較的高い温度で適度な時間乾燥することにより、樹脂成分を溶融流動させるための充分な熱量を付与できる。そのため、溶媒の蒸発を伴うスピノーダル分解により、前記長細状凸部及び共連続相構造を容易に形成でき、かつ相分離構造のドメイン間の平均距離に規則性又は周期性を付与できる。
【0116】
硬化工程では、スピノーダル分解により形成された相分離構造は、前駆体を硬化させることにより直ちに固定化できる。前駆体の硬化は、硬化性樹脂前駆体の種類に応じて、加熱、光照射など、あるいはこれらの方法の組み合わせにより行うことができる。加熱温度は、前記相分離構造を有する限り、適当な範囲、例えば、50~150℃程度から選択でき、前記相分離工程と同様の温度範囲から選択してもよい。
・・・略・・・
【0120】
[表示装置]
本発明の防眩フィルムは、ハードコート性を有し、防眩性が高い。また、透過光を等方的に透過して散乱させながら、特定の角度範囲での光散乱強度を向上できる。さらに、透過像の鮮明性に優れており、表示面での文字ボケが少ない。そのため、本発明の防眩フィルムは、種々の表示装置、例えば、液晶表示(LCD)装置、有機EL表示(OLED)装置、プラズマディスプレイ、タッチパネル付き表示装置などの表示装置に使用できる。特に、本発明の防眩フィルムは、200ppi以上(特に300ppi以上)の高精細表示装置においてもギラツキや文字ボケによって画質を損なうことがない部材として用いることが可能である。そのため、本発明の防眩フィルムは、これらの表示装置のうち、高精細表示装置として利用されることの多い装置、例えば、液晶表示装置(タッチパネル付き表示装置でもある液晶表示装置を含む)、有機EL表示装置(タッチパネル付き表示装置でもある有機EL装置を含む)に対して好ましく利用できる。
・・・略・・・
【0123】
本発明の防眩フィルムは、有機EL表示装置に特に効果的である。
・・・略・・・
【0125】
本発明の防眩フィルムが有機ELに有用な理由としては、有機ELは画素の発光強度が高い上に、画素自体が発光し、液晶のようなカラーフィルターを通過することがないため、光に指向性がなく、ギラツキ易いためであると推定できる。そのため、従来の防眩フィルムでは、ギラツキを抑制すると、防眩性が低下する。
・・・略・・・
【0127】
さらに、本発明の防眩フィルムは、防眩層が表示面から離れていても、ギラツキを抑制できるため、表示装置の傷つきを防止するためのアフターマーケット向け保護又はプロテクトフィルム(特に有機EL表示装置の保護フィルム)としても好ましく利用できる。特に、本発明の防眩フィルムは、防眩層が表示面から間隔をおいて配設されていてもギラツキを抑制できるため、表示面からの距離(表示面と防眩層との距離)が0.05mm以上(特に0.1~0.4程度)離れて使用される保護フィルムに特に有用である。」
(エ)実施例
「【0128】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例で得られた防眩フィルムを以下の項目で評価した。
【0129】
[長細状凸部のサイズ及び面積]
反射型レーザー顕微鏡写真に基づいて、1mm2当たりの長細状凸部の存在の有無を観察するとともに、共連相構造の網目の平均径について、任意の10箇所の平均値を求めた。さらに、1mm2の領域において、分岐構造を有する長細状凸部と他の凸部との長さ比を測定した。
【0130】
凸部の面積は、非接触表面・層断面形状計測システム[(株)菱化システム製「VertScan」]を用いて測定した。このシステムでは、表面形状を光干渉を用いて三次元的に計測でき、画像処理的に凸部の面積を求めることができる。
【0131】
[粘度]
B型粘度計(東京計器株製「BL型」)を用いて、JIS Z8803で準拠し、25℃の粘度を測定した。
【0132】
[ヘイズ及び全光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、商品名「NDH-5000W」)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
【0133】
[透過像(写像)鮮明度]
光学フィルムの写像鮮明度を、写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、JIS K7105に基づき、フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるようにフィルムを設置して測定を行った。写像測定器の光学櫛のうち、0.5mm幅の光学櫛における写像鮮明度を測定した。
【0134】
[60°グロス]
JIS K7105に準拠して、グロスメーター(堀場製作所(株)製「IG-320」)を用いて評価した。
【0135】
[鉛筆硬度]
JIS K5400に準拠し、荷重750gで鉛筆硬度を測定した。
【0136】
[防眩性]
防眩性の判定は、ルーバーの無いむきだしの蛍光灯を防眩フィルムに写し、その正反射光の眩しさを目視にて以下の基準に従って評価した。
【0137】
◎:眩しさを感じない
○:眩しさを僅かに感じる
×:眩しさが感じられる。
【0138】
[ギラツキ]
表示面におけるギラツキの判定は、315ppiの解像度の有機ELディスプレイを有するスマートフォン(サムソン電子(株)製「ギャラクシーNEXUS」)上に、得られた防眩フィルムを配設し、目視にて以下の基準に従って評価した。
【0139】
◎:ギラツキが感じられない
○:ギラツキが僅かに感じられる
×:ギラツキが感じられる。
【0140】
[文字ボケ]
表示面における文字ボケの判定は、315ppiの解像度の有機ELディスプレイを有するスマートフォン(サムソン電子(株)製「ギャラクシーNEXUS」)上に、得られた防眩フィルムを配設し、目視にて以下の基準に従って評価した。
【0141】
◎:文字ボケが感じられない
○:文字ボケが僅かに感じられる
×:文字ボケが感じられる。
【0142】
実施例1
側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂[(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させた化合物;(株)ダイセル製「サイクロマーP(ACA)320M」、固形分49.6重量%]5.65重量部、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%,プロピオニル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン社製「CAP-482-20」)1.2重量部、多官能アクリル系UV硬化性化合物(ダイセル・サイテック(株)製「DPHA」、粘度5250mPa・s)4重量部、アクリル系UV硬化性化合物(ダイセル・サイテック(株)製「PETIA」、粘度1100mPa・s)2.77重量部、光開始剤(BASF社製「イルガキュア907」)0.53重量部をメチルエチルケトン(MEK)25重量部と1-ブタノール12.15重量部の混合溶剤に溶解した。この溶液を、ワイヤーバー#24を用いて厚み100μmのPETフィルム(東洋紡績(株)製「A4300」)上に流延した後、95℃のオーブン内で2分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約7μmのコート層を形成させた。そして、コート層に、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス社製)からの紫外線を約10秒間照射し、UV硬化処理した。
【0143】
反射型レーザー顕微鏡により観察したところ、コート層の表面には、図2に示すように、表面全体が共連続状相分離構造を形成していた。すなわち、1mm2当たり1つの連続する網目状の長細状凸部が形成されており、全凸部のうち、分岐構造を有する長細状凸部の割合は略100%であった。この表面構造において、共連続相構造における網目の平均径は約5μmであり、全表面の過半の領域(95%以上)で凸部が形成されていた。」
合議体注:図2は次のものである。
[図:0001410168000009.jpg]
「【0144】
また、高精細有機ELスマートフォン上に得られたシートを貼り付けたところ、表示のギラツキは感じられなかった。また、室内の蛍光灯の映りこみがなく、防眩性にも優れており、文字ボケも感じられなかった。
・・・略・・・
【0153】
実施例及び比較例で得られた防眩フィルムの評価結果を表1に示す。
【0154】
【表1】
[図:0001410168000010.jpg]
【0155】
表1の結果から明らかなように、実施例の防眩フィルムは、防眩性に優れ、ギラツキ及び文字ボケも抑制できるのに対して、比較例の防眩フィルムは、ギラツキ又は文字ボケが発生した。」
(オ)産業上の利用可能性
「【0156】
本発明の防眩フィルムは、種々の表示装置、例えば、液晶表示(LCD)装置、陰極管表示装置、有機又は無機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、表面電界ディスプレイ(SED)、リアプロジェクションテレビディスプレイ、プラズマディスプレイ、タッチパネル付き表示装置などの表示装置に利用される防眩フィルムとして利用できる。
・・・略・・・
【0158】
特に、防眩層が硬化性樹脂前駆体を含むフィルムは、耐擦傷性にも優れる上に、極めて精細度の高い表示装置(例えば300ppi以上)において、表示面との間隔が離れていても、前記光学特性を保持できるため、液晶表示装置や有機EL表示装置のアフターマーケット向け保護フィルム(プロテクトフィルム)として特に有用である。」
イ 引用発明3
(ア) 引用例3でいう「本発明」は、「各種表示装置の表示面でのギラツキや外部光源の映りこみを防止するのに適した防眩フィルム」(【0001】)であるところ、【0142】~【0144】には、引用例3でいう「本発明」の「実施例1」が記載されている。
また、【0153】に、「実施例及び比較例で得られた防眩フィルムの評価結果を表1に示す」とされているところ、「表1」(【0154】)に記載された各「評価」項目の定義(【0128】)は、【0129】~【0141】に記載のとおりである。
(イ) 上記ア(ア)~(エ)及び上記(ア)より、引用例3には、「実施例1」「で得られた」「防眩フィルム」の発明(以下「引用発明3」という。)として、以下の発明が記載されているものと認められる。
「 側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂[(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させた化合物、固形分49.6重量%]5.65重量部、セルロースアセテートプロピオネート1.2重量部、多官能アクリル系UV硬化性化合物(粘度5250mPa・s)4重量部、アクリル系UV硬化性化合物(粘度1100mPa・s)2.77重量部、光開始剤0.53重量部をメチルエチルケトン25重量部と1-ブタノール12.15重量部の混合溶剤に溶解し、
この溶液を、ワイヤーバー#24を用いて厚み100μmのPETフィルム上に流延した後、95℃のオーブン内で2分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約7μmのコート層を形成させ、コート層に、紫外線を約10秒間照射し、UV硬化処理して得られた、
防眩フィルムであって、
反射型レーザー顕微鏡により観察したところ、コート層の表面は、表面全体が共連続状相分離構造を形成し、すなわち、1mm2当たり1つの連続する網目状の長細状凸部が形成されており、全凸部のうち、分岐構造を有する長細状凸部の割合は略100%であり、
この表面構造において、共連続相構造における網目の平均径は約5μmであり、全表面の過半の領域(95%以上)で凸部が形成され、
全光線透過率(%)は91%、ヘイズ(%)は18%、透過像鮮明度(%)は75%であり、60°グロスは51%、鉛筆硬度は2H、防眩性は◎、ギラツキは○、文字ボケは◎であり、
上記の長細状凸部のサイズ及び面積、粘度、全光線透過率、ヘイズ、透過像鮮明度、60°グロス、鉛筆硬度、防眩性、ギラツキ、文字ボケの評価は以下によるものである、防眩フィルム。
[長細状凸部のサイズ及び面積]
反射型レーザー顕微鏡写真に基づいて、1mm2当たりの長細状凸部の存在の有無を観察するとともに、共連相構造の網目の平均径について、任意の10箇所の平均値を求めた。さらに、1mm2の領域において、分岐構造を有する長細状凸部と他の凸部との長さ比を測定した。
凸部の面積は、非接触表面・層断面形状計測システム[(株)菱化システム製「VertScan」]を用いて測定した。このシステムでは、表面形状を光干渉を用いて三次元的に計測でき、画像処理的に凸部の面積を求めることができる。
[粘度]
B型粘度計(東京計器株製「BL型」)を用いて、JIS Z8803で準拠し、25℃の粘度を測定した。[
[ヘイズ及び全光線透過率]
ヘイズメーター(日本電色(株)製、商品名「NDH-5000W」)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した。
[透過像(写像)鮮明度]
光学フィルムの写像鮮明度を、写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、JIS K7105に基づき、フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるようにフィルムを設置して測定を行った。写像測定器の光学櫛のうち、0.5mm幅の光学櫛における写像鮮明度を測定した。
[60°グロス]
JIS K7105に準拠して、グロスメーター(堀場製作所(株)製「IG-320」)を用いて評価した。
[鉛筆硬度]
JIS K5400に準拠し、荷重750gで鉛筆硬度を測定した。
[防眩性]
防眩性の判定は、ルーバーの無いむきだしの蛍光灯を防眩フィルムに写し、その正反射光の眩しさを目視にて以下の基準に従って評価した。
◎:眩しさを感じない
○:眩しさを僅かに感じる
×:眩しさが感じられる。
[ギラツキ]
表示面におけるギラツキの判定は、315ppiの解像度の有機ELディスプレイを有するスマートフォン(サムソン電子(株)製「ギャラクシーNEXUS」)上に、得られた防眩フィルムを配設し、目視にて以下の基準に従って評価した。
◎:ギラツキが感じられない
○:ギラツキが僅かに感じられる
×:ギラツキが感じられる。
[文字ボケ]
表示面における文字ボケの判定は、315ppiの解像度の有機ELディスプレイを有するスマートフォン(サムソン電子(株)製「ギャラクシーNEXUS」)上に、得られた防眩フィルムを配設し、目視にて以下の基準に従って評価した。
◎:文字ボケが感じられない
○:文字ボケが僅かに感じられる
×:文字ボケが感じられる。」
(2)引用例8の記載事項
令和3年12月6日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用した引用例8(特開2006-106290号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載事項がある。
ア 技術分野
「【0001】
本発明は、各種ディスプレイ(液晶ディスプレイなど)に用いられる防眩性フィルムに関する。」
イ 発明が解決しようとする課題
「【0010】
従って、本発明の目的は、高精細表示装置であっても、外光の映り込みを高度に防止でき、かつ呆けのないシャープな画像を表示できる防眩性フィルムを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、防眩性を有するとともに、白っぽさや白浮き(白滲み)が低減されたコントラストの高い画像を表示できる防眩層及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、大型ディスプレイであっても、黒表示の映像における白浮きを抑制でき、黒色が引き締まったコントラスト感の強い画像を表示できる防眩層及びその製造方法を提供することにある。」
ウ 課題を解決するための手段
「【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とを均一に溶解した溶液から溶媒を蒸発させてシートを製造する方法において、適当な条件で液相相分離させ、その後前記前駆体を硬化させると、特定の透過散乱強度を示す防眩層が形成できること、この防眩層(防眩性ハードコート層)と低屈折率の樹脂層(低屈折率層)とを積層すると、高精細表示装置であっても、外光の映り込みを高度に防止でき、かつ呆けのないシャープな画像を表示できることを見出し、本発明を完成した。」
エ 防眩フィルム及び光学部材
「【0088】
[防眩性フィルム及び光学部材]
前記低反射防眩層は、防眩性が高いだけでなく光散乱性も高い。特に、透過光を等方的に透過して散乱させながら、特定の角度範囲での散乱強度を大きくできる。さらに、透過像の鮮明性も高い。また、低屈折率層の表面では、外光反射を効率よく防止できる。そのため、本発明の防眩性フィルムは、光学部材等の用途に適しており、前記支持体を、種々の光学部材を形成するための透明ポリマーフィルムで構成することもできる。透明ポリマーフィルムと組み合わせて得られた防眩性フィルムは、そのまま光学部材として用いてもよく、光学要素(例えば、偏光板、位相差板、導光板などの光路内に配設される種々の光学要素)と組み合わせて光学部材を形成してもよい。すなわち、光学要素の少なくとも一方の光路面に前記防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。例えば、前記位相差板の少なくとも一方の面に防眩性フィルムを積層してもよく、導光板の出射面に防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。
・・・略・・・
【0090】
本発明の防眩性フィルムにおいて、防眩層の表面には、前記相分離構造に対応した微細な凹凸構造が大量に形成されている。そのため、表面反射による外景の映り込みを抑制しつつ、ギラツキも抑制でき、防眩性を高めることができる。さらにこのような防眩層の上に低屈折率層をオーバーコートするので、微細な凹凸(例えば、高低差が約1μm以下の凹凸)を覆い、その結果、表面の低屈折率化による反射率低下と相まって表示の白浮きを低減することが出来る。なお、表示の白浮きは、例えば、透明の粘着剤を介して防眩性フィルムを黒色板に貼り合わせ、目視にて評価できる。
【0091】
本発明の防眩性フィルムは、所望の視認特性を達成するため(特に、画像のシャープ性を向上させるため)、散乱光プロファイルにおける出射角0°の光強度(I0)に対する出射角30°の散乱光強度(I30)の比(I30/I0)が、0.00001~0.001%の範囲に調整されている。前記光散乱強度比I30/I0は、好ましくは0.00003~0.0009%、さらに好ましくは0.00005~0.0008%(特に0.00007~0.0005%)程度である。
・・・略・・・
【0094】
画像のシャープ性には、ヘイズ値の調整も重要である。ヘイズのうち、フィルムの内部におけるヘイズ(フィルムの内部で散乱を引き起こす内部ヘイズ)は、例えば、1%以下(0~1%)、好ましくは0~0.8%(例えば、0.01~0.8%)、さらに好ましくは0~0.5%(例えば、0.1~0.5%)程度である。内部へイズは画像のシャープ性を損なう(画像がボケる)ため、高すぎると好ましくない。内部ヘイズを制御する方法としては、粒径が0.5~2μm程度の粒子を分散させてもよいが、フィルム表面に凹凸形状を形成することにより、内部ヘイズを調整する方法が好ましい。」
(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明3を対比すると、以下のとおりである。
(ア) 上記(1)イ(イ)の引用発明3の「防眩フィルム」の形成工程からみて、引用発明3の「防眩フィルム」は、「側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂」(「固形分49.6重量%」)「5.65重量部」、「セルロースアセテートプロピオネート」「1.2重量部」、「多官能アクリル系UV硬化性化合物」「4重量部」、「アクリル系UV硬化性化合物」「2.77重量部」及び「光開始剤0.53重量部」「をメチルエチルケトン25重量部と1-ブタノール12.15重量部の混合溶剤に溶解し」、「厚み100μmのPETフィルム上に流延した後」、「溶媒を蒸発させて厚さ約7μmのコート層を形成させ」、「紫外線を」「照射し、UV硬化処理して得られた」ものであると理解できる。
(イ) 上記(ア)から、引用発明3の「厚み100μmのPETフィルム上」に「形成」された「厚さ約7μmのコート層」の「硬化」物層は、「光開始剤」を含む、「側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂」、「セルロースアセテートプロピオネート」、「多官能アクリル系UV硬化性化合物」及び「アクリル系UV硬化性化合物」の「硬化」物からなると理解できる。
ここで、引用発明3の「厚み100μmのPETフィルム」は、ヘイズが実質0%の透明なフィルムであることは、技術常識から明らかである。そうすると、引用発明3の「防眩フィルム」が示す、「ヘイズ」、「透過像鮮明度」、「60°グロス」、「防眩性」、「ギラツキ」、「文字ボケ」などの各光学特性は、「厚さ約7μmのコート層」の「硬化」物層により主に生じていると理解できる。
(ウ) 上記(イ)より、引用発明3の、「硬化」物層に含まれる「側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂」及び「セルロースアセテートプロピオネート」は、本件特許発明1の「マトリクス樹脂」に相当する。
また、上記(イ)より、引用発明3の「厚さ約7μmのコート層」の「硬化」物層は、本件特許発明1の「防眩層」に相当する。そして、引用発明3の「厚さ約7μmのコート層」の「硬化」物層は、本件特許発明1の「前記防眩層の厚みが6μm以上20μm以下の範囲の値」であるとする要件を満たしている。さらに、引用発明3の「厚さ約7μmのコート層」の「硬化」物層と、本件特許発明1の「防眩層」は、「マトリクス樹脂」「を含」む点において共通する。
(エ) 上記(1)イ(イ)より、引用発明3の「防眩フィルム」の「透過像鮮明度(%)は75%であ」る。また、引用発明3の「透過像鮮明度(%)」は、「光学フィルムの写像鮮明度を、写像測定器(スガ試験機(株)製、商品名「ICM-1T」)を用いて、JIS K7105に基づき、フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるようにフィルムを設置して測定を行った。写像測定器の光学櫛のうち、0.5mm幅の光学櫛における写像鮮明度を測定した」ものである。
また、本件特許明細書の【0150】によれば、本件特許発明1の「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」は、「写像測定器(スガ試験機(株)製、ICM-1T)を用いて、JIS K7105に準拠し、防眩フィルムの製膜方向と光学櫛の櫛歯の方向とが平行になるように防眩フィルムを設置して測定した」ものであり、「光学櫛幅」「0.5mmとした」ものである。
そうすると、引用発明3の「透過像鮮明度」は、本件特許発明1の「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度」に対応する。
してみると、引用発明3は、本件特許発明1の「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり」との要件を具備する。
(オ) 上記(1)イ(イ)より、引用発明3の「防眩フィルム」の「ヘイズ(%)は18%」である。
ここで、上記(イ)で述べたとおり、「厚み100μmのPETフィルム」は、ヘイズが実質0%の透明なフィルムであるから、引用発明3の「厚さ約7μmのコート層」の「硬化」物層の「ヘイズ(%)は18%」であるということができる。
また、引用発明3の「ヘイズ(%)」は、「ヘイズメーター(日本電色(株)製、商品名「NDH-5000W」)を用いて、JIS K7136に準拠して測定した」ものである。
また、本件特許明細書の【0149】によれば、本件特許発明1の「ヘイズ値」は、「ヘイズメーター(日本電色(株)製、NDH-5000W)を用いて、JIS K7136に準拠して測定し」、「ヘイズ」を「防眩層の凹凸構造を有する表面が受光器側となるように配置して測定した」ものである。
そうすると、引用発明3の「ヘイズ(%)」は、本件特許発明1の「ヘイズ値」に対応するものである。
してみると、引用発明3の「厚さ約7μmのコート層」の「硬化」物層と、本件特許発明1の「防眩層」は、「ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層を備え」る点において共通する。
(カ) 上記(イ)~(オ)より、引用発明3の「防眩フィルム」は、本件特許発明1の「防眩フィルム」に相当する。
してみると、引用発明3は、本件特許発明1と、「マトリクス樹脂」「を含み、且つ、ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層を備え」、「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であ」る点で共通する。
イ 一致点及び相違点
(ア) 一致点
本件特許発明1と引用発明3は、次の構成で一致する。
「マトリクス樹脂を含み、且つ、ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層を備え、
光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、
前記防眩層の厚みが6μm以上20μm以下の範囲の値である、防眩フィルム。」
(イ) 相違点
本件特許発明1と引用発明3は、以下の点で相違する。
(相違点3-1-1)
「防眩層」が、本件特許発明1は、「マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み」、「前記微粒子の平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値であ」るのに対して、引用発明3は、そのようなものでない点。
(相違点3-1-2)
本件特許発明1は、「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値である」のに対して、引用発明3は、そのようなものであるかどうか不明な点。
ウ 判断
事案に鑑みて、相違点3-1-1について検討する。
引用例3の【0078】には、「防眩層には、防眩層の光学特性を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、有機又は無機粒子、・・・略・・・などが含まれていてもよい。」との記載がある。
してみると、引用発明3において、「硬化」物層(「防眩層」)を、複数の有機粒子又は無機粒子を含ませた構成とすることは、引用例3が示唆する範囲のことである。ただし、含ませることのできる有機粒子又は無機粒子は、粒径の範囲が特定されたものではなく、「防眩層の光学特性を損なわない範囲」に限られる。
一方、引用例8の記載事項エには、「内部ヘイズを制御する方法としては、粒径が0.5~2μm程度の粒子を分散させてもよい」(【0094】)ことが記載されている。この記載に基づけば、防眩層に粒径が0.5μm~2μmの粒子を含ませると、防眩層の内部ヘイズに影響を与えることになるといえる。また、2μmよりも大きな粒径の粒子を含ませた場合、防眩層の表面形状に影響を与え、長細状凸部の形状を変化させてしまい、防眩層の光学特性を損なうことは明らかである。
特許異議申立人は、令和4年4月5日付けの意見書において、「引用例3発明のコート層の厚みは7μmであるため、コート層の厚みよりも小さい平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の粒子を含有させても、多量に含有させない限り光学特性が損なわれるとはいえない。」(第3頁)と主張している。しかし、引用例3の【0030】の「各長細状凸部の形状(防眩層表面の二次元形状)は、通常、部分的又は全体的に曲線部を有する紐状であり、長細状凸部の平均幅は0.1~30μmであり、表示装置の画素に応じて、前記範囲から選択して、ギラツキを抑制可能な小さな幅に調整すればよく、例えば、0.1~20μm、好ましくは0.1~15μm、さらに好ましくは0.1~10μm(特に0.1~5μm)程度である。幅が大きすぎると、ギラツキや文字ボケが発生し易く、小さすぎると、防眩性が低下する。」との記載や、図2からみて、引用発明3における長細状凸部の幅は、相違点3-1-1に係る微粒子の平均粒径(0.5μm以上3.0μm以下)の範囲より小さい範囲を含むものである。また、当該長細状凸部は、スピノーダル分解によって形成されるところ、「系全体が同時に熱力学的に不安定な状態となり、塗膜面内で均質な相分離が進行するため、比較的周期的で且つ均一なサイズの表面凹凸形状が形成される」(【0014】)ことを要する。また、【0066】には、「低粘硬化性樹脂前駆体の粘度が高すぎると、前記長細状凸部を形成するのが困難となる。低粘度硬化性樹脂前駆体を含むことにより前記長細状凸部が生成し易いメカニズムは、明らかではないが、低粘度硬化性樹脂前駆体が乾燥工程における塗布液の溶融流動性、特に、相分離する前記熱可塑性樹脂の自由度を向上させることにより、スピノーダル分解を促進し、液滴相構造から共連続相構造にまで進行するためであると推定できる。」と記載されており、スピノーダル分解を促進するためには、塗布液の溶融流動性、相分離する熱可塑性樹脂の自由度を向上させる必要があることが示唆されている。このように塗布液の溶融流動性により、塗膜面内で均質な相分離を進行させ、0.1~30μmの範囲から表示装置の画素に応じて選択される平均幅を有する長細状凸部を形成する引用発明3において、平均粒径0.5μm以上3.0μm以下の範囲の微粒子を加えた場合に、その光学特性が影響を受けることは明らかである。そうすると、【0078】の記載を理解した当業者が、たとえ少量であったとしても、平均粒径0.5μm以上3.0μm以下の範囲の微粒子を、引用発明3に含有させようとする動機付けが存在するとは考えられない。以上より、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
そうすると、引用発明3において、「平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値」の微粒子を含ませて、本件特許発明1の相違点3-1-1に係る構成とすることは、当業者であっても容易に想到し得たということができない。
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、容易に発明できたものとはいえない。
(4)本件特許発明3及び本件特許発明4について
本件特許発明3又は本件特許発明4と、引用発明3とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点3-1-1において相違する。
したがって、本件特許発明3及び本件特許発明4も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、容易に発明できたものとはいえない。
4 引用例5(甲第5号証)を主引用例とする理由1及び2
(1)引用例5
ア 引用例5の記載事項
特許異議申立人が甲第5号証として引用し、令和3年4月7日付けで特許権者に通知した取消しの理由で引用した引用例5(特開2004-306328号公報)は、先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには、以下の記載事項がある。
(ア)発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種表示装置の表示面でのギラツキや外部光源の映りこみを有効に防止し、かつ白味が少なくコントラストに優れる防眩性フィルム(防眩性反射防止フィルム)及びその製造方法、並びにそれを用いた光学部材に関する。」
(イ)発明が解決しようとする課題
「【0002】
【従来の技術】
液晶表示装置などの表示面での外景の映り込みを防止するため、通常、微粒子とバインダー樹脂又は硬化性樹脂との混合物を機材に塗布し、表面に凹凸を形成することにより正反射を防ぎ防眩性を発現させている。しかし、画素サイズの細かい高精細表示装置においては、従来の表面凹凸サイズでは表示のギラツキや文字ボケなどの画像品位低下をもたらす。すなわち、高精細表示装置の場合、従来の表面凹凸サイズは、高精細表示の画素サイズとオーダー的に近く、表面凹凸によるレンズ効果でギラツキが発生する。また、コート層内部および表面構造において微粒子の重心位置を制御できないため、透過散乱光の分布は直進透過光を中心にガウス分布をしている。そのため、従来の微粒子サイズでは、直進透過光付近の散乱が増加し、画素の輪郭が曖昧となって文字ボケが発生する。
【0003】
そのため、添加する微粒子のサイズを細かくしたり、粒径分布がシャープな微粒子などを用いて、表面の凹凸形状を制御することが試みられている。しかし、この方法では、ギラツキや文字ボケを防止するためには、微粒子の重心位置を制御する必要がある。また、表面の凹凸形状が小さくなるため、充分な防眩性との両立が困難になるとともに、コスト面からも不利である。
・・・略・・・
【0007】
しかし、これらのフィルムでも粒子サイズにより透過散乱光の強度分布をコントロールするため、表示面でのギラツキや文字ボケを有効に防止することができない。また、特殊な微粒子を用いるため、コスト的に不利である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、高い防眩性を有し、高精細表示装置であっても、表示面での外景の映り込みやギラツキを防止するとともに、表示面での外光の反射を効率よく防止できる防眩性フィルム(防眩性反射防止フィルム)及びその製造方法、並びに、前記防眩性フィルムを備えた光学部材(又は偏光板)及び表示装置(液晶表示装置、プラズマディスプレイ、タッチパネル付き表示装置)を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、高精細表示装置であっても、表示面での文字ボケを防止し、表示の白味が少なく、コントラストの高い防眩性フィルム及びその製造方法、並びに、前記防眩性フィルムを備えた光学部材及び表示装置を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、高い耐擦傷性を有するとともに、透過散乱光の強度分布を制御するのに有用な防眩性フィルム及びその製造方法、並びに、前記防眩性フィルムを備えた光学部材及び表示装置を安価に提供することにある。」
(ウ)課題を解決するための手段
「【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を違成するため鋭意検討した結果、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とを均一に溶解した溶液から溶媒を蒸発させてシートを製造する方法において、適当な条件でスピノーダル分解させ、その後前記前駆体を硬化させると、規則性を有する相分離構造及びその相構造に対応した表面凹凸構造が形成できること、このような規則性を有する相分離構造を有する防眩層(防眩性ハードコート層)と、低屈折率の樹脂層(低屈折率層)とを積層させて高精細表示装置に装着すると、表示面のギラツキと文字ボケを有効に除去できるとともに、最表層に低屈折率層を配設すると、表面での外光反射が抑制されて表示の白浮きを防止でき、結果として、高いコントラストの画像が表示できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の防眩性フィルムは、防眩層とこの防眩層の少なくとも一方の面に形成された低屈折率の樹脂層(低屈折率層)とで構成されており、前記防眩層は、表面に凹凸構造を有している。さらに、前記防眩性フィルムは、入射光を等方的に透過して散乱し、かつ散乱光強度の極大値を示す散乱角が0.1~10°(好ましくは1~10°)であるとともに、全光線透過率が70~100%(好ましくは80~100%)である。すなわち、防眩層を透過して散乱した透過散乱光は、直進透過光から分離した散乱ピークを有する。前記防眩性フィルムは、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した透過像鮮明度が70~100%程度であり、ヘーズが10~60%(好ましくは20~50%)程度であってもよい。
【0013】
前記防眩層は、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体とで構成された層であって、前記ポリマー及び前駆体のうち少なくとも2つの成分(例えば、複数のポリマー同士、ポリマーと硬化性樹脂前駆体、複数の硬化性樹脂前駆体同士など)が、液相からのスピノーダル分解により相分離しているとともに、前記前駆体が硬化している。前記ポリマーは、スピノーダル分解により相分離可能な複数のポリマー(例えば、セルロース誘導体と、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、脂環式オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂などと組み合わせなど)で構成されるとともに、硬化性樹脂前駆体が、複数のポリマーのうち、少なくとも一種のポリマーと相溶性を有していてもよい。複数のポリマーのうち、少なくとも1つのポリマーが、硬化性樹脂前駆体の硬化反応に関与する官能基(例えば、(メタ)アクリロイル基などの重合性基)を有していてもよい。前記硬化性樹脂前駆体は、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、少なくとも2つの重合性不飽和結合を有する多官能性単量体などで構成されていてもよい。尚、熱可塑性樹脂と硬化性樹脂前駆体とは、通常、互いに非相溶である。さらに、防眩層には、硬化性樹脂前駆体の硬化により、ハードコート性(又は耐擦傷性)を付与してもよく、規則的又は周期的な相分離構造を固定化してもよい。前記防眩層は、例えば、活性エネルギー線(紫外線、電子線など)、熱などにより硬化されてもよい。また、前記防眩層は、通常、ポリマーと硬化樹脂とを前者/後者=5/95~60/40(重量比)程度の割合で含んでいてもよい。」
(エ)防眩性フィルム
「【0019】
【発明の実施の形態】
[防眩性フィルム(防眩性反射防止フィルム)]
防眩性フィルムは、少なくとも防眩層及び低屈折率の樹脂層(低屈折率層)で構成されており、前記防眩層の相分離構造は、液相からのスピノーダル分解(湿式スピノーダル分解)により形成されている。すなわち、ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とで構成された本発明の樹脂組成物を用い、この樹脂組成物の液相(又は均一溶液やその塗布層)から、溶媒を乾燥などにより蒸発又は除去する過程で、濃度の濃縮に伴って、スピノーダル分解による相分離が生じ、相間距離が比較的規則的な相分離構造を形成できる。より具体的には、前記湿式スピノーダル分解は、通常、少なくとも1つのポリマーと少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む混合液又は樹脂組成物(均一溶液)を支持体にコーティングし、塗布層から溶媒を蒸発させることにより行うことができる。前記支持体として剥離性支持体を用いる場合には、低屈折率層を防眩層に積層した後、支持体を防眩層から剥離したり、支持体から防眩層を剥離した後、低屈折率層を前記防眩層に積層したりすることにより防眩層及び低屈折率層で構成された積層構造の防眩性フィルムを得ることができる。また、支持体として非剥離性支持体(好ましくは透明支持体)を用いることにより、支持体と防眩層と低屈折率層とで構成された積層構造の防眩性フィルムを得ることができる。
【0020】
(ポリマー成分)
ポリマー成分としては、通常、熱可塑性樹脂が使用される。
・・・略・・・
【0050】
(硬化性樹脂前駆体)
硬化性樹脂前駆体としては、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基を有する化合物であり、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋して樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能な種々の硬化性化合物が使用できる。
・・・略・・・
【0061】
本発明において、少なくとも1つのポリマー及び少なくとも1つの硬化性樹脂前駆体のうち、少なくとも2つの成分が、加工温度付近で互いに相分離する組み合わせで使用するのが好ましい。
・・・略・・・
【0062】
なお、熱可塑性樹脂と硬化性樹脂前駆体(又は硬化樹脂)とは、通常、互いに非相溶である。
・・・略・・・
【0069】
スピノーダル分解において、相分離の進行に伴って共連続相構造を形成し、さらに相分離が進行すると、連続相が自らの表面張力により非連続化し、液滴相構造(球状、真球状、円盤状や楕円体状などの独立相の海島構造)となる。従って、相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(上記共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。本発明において、防眩層の相分離構造は、海島構造(液滴相構造、又は一方の相が独立または孤立した相構造)、共連続相構造(又は網目構造)であってもよく、共連続相構造と液滴相構造とが混在した中間的構造であってもよい。これらの相分離構造により溶媒乾燥後には防眩層の表面に微細な凹凸を形成できる。
・・・略・・・
【0073】
防眩性フィルムにおいて、防眩層の厚みは、例えば、0.3~20μm程度、好ましくは1~15μm(例えば、1~10μm)程度であってもよく、通常、2~10μm(特に3~7μm)程度である。なお、支持体と積層して用いない場合には、防眩層の厚みは、例えば、1~100μm、好ましくは3~50μm程度の範囲から選択してもよい。」
(オ)光学部材
「【0085】
(光学部材)
前記防眩層は、防眩性が高いだけでなく光散乱性も高い。特に、透過光を等方的に透過して散乱させながら、特定の角度範囲での散乱強度を大きくできる。さらに、透過像の鮮明性も高い。また、低屈折率層の表面では、外光反射を効率よく防止できる。そのため、本発明の防眩性フィルムは、光学部材等の用途に適しており、前記支持体を、種々の光学部材を形成するための透明ポリマーフィルムで構成することもできる。透明ポリマーフィルムと組み合わせて得られた防眩性フィルムは、そのまま光学部材として用いてもよく、光学要素(例えば、偏光板、位相差板、導光板などの光路内に配設される種々の光学要素)と組み合わせて光学部材を形成してもよい。すなわち、光学要素の少なくとも一方の光路面に前記防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。例えば、前記位相差板の少なくとも一方の面に防眩性フィルムを積層してもよく、導光板の出射面に防眩性フィルムを配設又は積層してもよい。
・・・略・・・
【0087】
本発明の防眩性フィルムにおいて、防眩層の表面には、前記相分離構造に対応した微細な凹凸構造が大量に形成されている。そのため、表面反射による外景の映り込みを抑制しつつ、ギラツキも抑制でき、防眩性を高めることができる。さらにこのような防眩層の上に低屈折率層をオーバーコートするので、微細な凹凸(例えば、高低差が約1μm以下の凹凸)を覆い、その結果、表面の低屈折率化による反射率低下と相まって表示の白浮きを低減することが出来る。なお、表示の白浮きは、例えば、透明の粘着剤を介して防眩性フィルムを黒色板に貼り合わせ、目視にて評価できる。
【0088】
さらに、前記のように、相分離構造において、ドメインの平均相間距離は実質的に規則性又は周期性を有している。そのため、防眩性フィルムに入射して透過する光は、相間平均距離(又は表面凹凸構造の周期性)に対応したブラッグ反射により、直進透過光とは離れた特定角度に散乱光極大を示す。すなわち、本発明の防眩性フィルムは、入射光を等方的に透過して散乱又は拡散するものの、散乱光(透過散乱光)は、散乱中心からシフトした散乱角[例えば、0.1~10°、好ましくは1~10°(例えば、3~9°)、さらに好ましくは1~8°(例えば、4~8°)、特に、1.5~8°(例えば、1.5~5°)、通常、2~5°程度]で光強度の極大値を示す。従って、直進透過光のプロファイルに対して表面凹凸による散乱光の悪影響が極めて小さく、従来の微粒子分散型の防眩シートでは解決できなかったギラツキの問題を回避できる。
【0089】
前記散乱光強度の極大値は、散乱光強度の角度分布プロファイルにおいてピーク状に分離していてもよく、ショルダー状ピークであったり、平坦状ピークである場合も極大値を有するとみなすことができる。
・・・略・・・
【0091】
本発明の防眩性フィルムの全光線透過率は、例えば、70~100%、好ましくは80~100%、さらに好ましくは85~100%(例えば、85~95%)、特に90~100%(例えば、92~99%)程度である。
【0092】
本発明の防眩性フィルムのヘーズは、10~60%、好ましくは20~50%、さらに好ましくは25~50%(例えば、30~50%)、特に25~45%(例えば、35~45%)程度である。
【0093】
また、防眩性の評価は、目視による蛍光灯の映りこみによる評価、及びJlSK7105に従ってグロスメーターを用いて評価できる。さらに、ギラツキ及び文字ボケの評価は、解像度200ppi程度の高精細液晶表示装置を用いて目視評価できる。また、より簡便に、高精細CRTディスプレイ装置や150ppi程度の液晶用カラーフィルターとバックライトとを組み合わせた簡易評価装置を用いて目視にて防眩性を評価してもよい。
【0094】
ヘーズ及び全光線透過率は、JIS K7105に準拠して、日本電色工業(株)製、NDH-300Aヘーズメーターを用いて測定できる。
【0095】
本発明の防眩性フィルムの透過像鮮明度は、0.5mm幅の光学櫛を使用した場合、70~l00%、好ましくは80~100%程度である。透過像鮮明度が前記範囲にあると、透過光のボケが少ないため、高精細表示装置であっても画素の輪郭がボケるのを防止でき、その結果文字ボケを防止できる。
【0096】
透過像鮮明度とは、フィルムを透過した光のボケや歪みを定量化する尺度である。透過像鮮明度は、フィルムからの透過光を移動する光学櫛を通して測定し、光学櫛の明暗部の光量により値を算出する。すなわち、フィルムが透過光をぼやかす場合、光学櫛上に結像されるスリットの像は太くなるため、透過部での光量は100%以下となり、一方、不透過部では光が漏れるため0%以上となる。透過像鮮明度の値Cは光学櫛の透明部の透過光最大値Mと不透明部の透過光最小値mから次式により定義される。
【0097】
C(%)=[(M-m)/(M+m)]×100
すなわち、Cの値が100%に近づく程、防眩性フィルムによる像のボケが小さい[参考文献;須賀、三田村,塗装技術,1985年7月号]。
【0098】
前記透過像鮮明度測定の測定装置としては、スガ試験機(株)製写像性測定器ICM-1DPが使用できる。光学櫛としては、0.125~2mm幅の光学櫛を用いることができる。
【0099】
なお、本発明では、前記透過像鮮明度及びヘーズの双方が、共に前記範囲にあるのが特に好ましい。
【0100】
湿式スピノーダル分解において、溶媒は、前記ポリマー及び硬化性樹脂前駆体の種類及び溶解性に応じて選択でき、少なくとも固形分(複数のポリマー及び硬化性樹脂前駆体、反応開始剤、その他添加剤)を均一に溶解できる溶媒であればよい。
・・・略・・・
【0101】
本発明の防眩性フィルムは、前記ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む液相(又は液状組成物)から、前記溶媒の蒸発に伴うスピノーダル分解により、相分離構造を形成し、前記硬化性樹脂前駆体を硬化させて防眩層を形成し、この防眩層上に、低屈折率層を形成することによりを製造できる。
【0102】
前記相分離構造は、通常、前記ポリマーと硬化性樹脂前駆体と溶媒とを含む混合液(特に均一溶液などの液状組成物)を剥離性又は非剥離性の支持体に塗布又は流延し、塗膜から溶媒を蒸発させることにより、形成できる。得られた相分離構造は、規則的又は周期的な平均相間距離を有している。
【0103】
防眩層は、相分離構造を形成後、少なくとも前記硬化性樹脂前駆体を熱や活性光線などを利用して硬化させることにより形成できる。好ましい態様では、前記混合液として、前記熱可塑性樹脂と、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、前記熱可塑性樹脂および光硬化性化合物を可溶な溶媒とを含む組成物が使用でき、スピノーダル分解により形成された相分離構造の光硬化成分を光照射により硬化することにより防眩層が形成される。また、他の好ましい態様では、前記混合液として、前記互いに非相溶な複数のポリマーと、光硬化性化合物と、光重合開始剤と、溶媒とを含む組成物が使用でき、スピノーダル分解により形成された相分離構造の光硬化成分を光照射により硬化することにより防眩層が形成される。
・・・略・・・
【0107】
前記混合液を流延又は塗布した後、溶媒を蒸発させることにより、スピノーダル分解による相分離を誘起することができる。溶媒蒸発の温度(相分離温度)は、特に制限されないが、溶媒の沸点と蒸発させる温度との差を、例えば、120℃以内、好ましくは100℃以内(例えば、70℃以内)、さらに好ましくは60℃以内(例えば、50℃以内)の範囲で選択するのが好ましい。また、溶媒の沸点よりも低い温度(例えば、溶媒の沸点よりも1~120℃、好ましくは5~50℃、特に10~50℃程度低い温度)で溶媒を蒸発させてもよい。溶媒の蒸発は、通常、乾燥、例えば、溶媒の沸点に応じて、30~200℃、(例えば、30~100℃)、好ましくは40~120℃、さらに好ましくは40~80℃程度の温度で乾燥させることによリ行うことができる。
【0108】
このような溶媒の蒸発を伴うスピノーダル分解により、相分離構造のドメイン間の平均距離に規則性又は周期性を付与できる。そして、スピノーダル分解により形成された相分離構造は、前駆体を硬化させることにより直ちに固定化できる。前駆体の硬化は、硬化性樹脂前駆体の種類に応じて、加熱、光照射など、あるいはこれらの方法の組合せにより行うことができる。加熱温度は、前記相分離構造を有する限り、適当な範囲、例えば、50~150℃程度から選択でき、前記層分離温度と同様の温度範囲から選択してもよい。
【0109】
光照射は、光硬化成分などの種類に応じて選択でき、通常、紫外線、電子線などが利用できる。汎用的な露光源は、通常、紫外線照射装置である。なお、光照射は、必要であれば、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0110】
低屈折率層の形成方法は、特に制限されず、前記防眩層上に、少なくとも前記樹脂系材料で構成された層を形成できればよいが、通常、前記防眩層上に、低屈折率成分を含む塗工液を塗布又は流延し、熱又は活性光線などにより塗膜を硬化させることにより低屈折率層を形成できる。
【0111】
前記塗工液は、低屈折率成分(フッ素含有化合物など)の他に、通常、有機溶媒[例えば、低屈折率樹脂の種類に応じて、前記防眩層の項で例示の溶媒と同様の有機溶媒]の他、反応性稀釈剤(多官能(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系モノマーなど)などを含んでいてもよい。このような溶媒は、塗膜に伴って、蒸発除去してもよく、溶媒が反応性稀釈剤である場合には、フッ素含有樹脂前駆体の硬化に伴って、重合により、硬化させてもよい。前記塗工液は、さらに、硬化剤[有機過酸化物などの熱重合開始剤;光重合開始剤(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンなどのケトン系重合開始剤など)など]を含んでいてもよい。また、前記塗工液は、架橋剤などを含んでいてもよい。
【0112】
低屈折率層用塗工液中の固形分(低屈折率成分、硬化反応可能な化合物、その他添加剤)の濃度は、コーティング性などを損なわない範囲で選択でき、例えば、0.1~50重量%、好ましくは0.5~10重量%、さらに好ましくは1~5重量%程度である。」
(カ)実施例
「【0118】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0119】
実施例1
側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂[(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させた化合物;ダイセル化学工素(株)製、サイクロマーP(ACA)320M、固形分48.6重量%]5.1重量部、セルロースアセテートプロピオネート(アセチル化度=2.5%、プロピル化度=46%、ポリスチレン換算数平均分子量75000;イーストマン社製、CAP-482-20)1.2重量部、多官能アクリル系UV硬化モノマー(ダイセル・ユ-シービー(株)製、DPHA)6.3重量部、光開始剤(チバスペシャルティーケミカルズ社製、イルガキュア184)0.6重量部をMEK/1-ブタノール=8/2混合溶媒37.4重量部に溶解した。この溶液を、ワイヤーバー#24を用いてトリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、防爆オーブン内で3分間放置し、溶媒を蒸発させて厚さ約7μmのコート層を形成させた。そして、コート層に、メタルハライドランプ(アイグラフィックス社製)からの紫外線を約30秒間照射することによりUV硬化処理し、表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層を形成した。オーバーコート層として、2液熱硬化型含フッ素化合物塗工液(JSR製TT1006)をワイヤーバー#10を用いて塗布し、乾燥後、120℃で10分間熱硬化させた。
・・・略・・・
【0126】
実施例1~4の防眩性反射防止フィルムを透過型光学顕微鏡により観察したところ、コート層は液滴状相分離構造を有していた。
・・・略・・・
【0128】
実施例1~4及び比較例1~3で得られた防眩性反射防止フィルムの透過像鮮明性、全光線透過率、ヘーズ、60゜グロス、500g荷重鉛筆硬度、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、表示の白浮きの判定結果を表1にまとめて示す。なお、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、表示の白浮きは以下の方法で評価した。
【0129】
(ギラツキの評価)
表示面におけるギラツキの判定は、150ppiの解像度を有する液晶用力ラーフィルタ上に、得られた防眩性反射防止フィルムを配設し、後方よりバックライとを照射し目視にて以下の基準に従って評価した。
【0130】
◎:ギラツキが感じられない
○:ギラツキが僅かに感じられる
×:ギラツキが感じられる。
【0131】
(文字ボケの評価)
表示面における文字ボケの判定は、150ppiの解像度を有する液晶用カラーフィルタ上に、得られた防眩性反射防止フィルムを配設し、後方よりバックライとを照射し目視にて以下の基準に従って評価した。
【0132】
◎:文字ボケが感じられない
○:文字ボケが僅かに感じられる
×:文字ボケが感じられる。
【0133】
(防眩性の評価)
防眩性の判定は、ルーバーの無いむきだしの蛍光灯を防眩性反射防止フィルムに写し、その正反射光の眩しさを目視にて以下の基準に従って評価した。
【0134】
◎:眩しさを感じない
○:眩しさを僅かに感じる
×:眩しさが感じられる。
【0135】
(白浮きの評価)
表示の白浮きの判定は、防眩性反射防止フィルムをカーボンブラックをセルロース系バインダー樹脂に分散させPETフィルム上に塗布し作成した黒色板に透明粘着剤を用いて貼り付けたサンプルを目視にて以下の基準に従って評価した。
【0136】
◎:白味を感じない
○:白味を僅かに感じる
×:白味が感じられる。
【0137】
【表1】
[図:0001410168000011.jpg]
(合議体注:便宜のため、【表1】を90°回転している。)
【0138】
本発明の防眩性反射防止フィルムは高い防眩性を有しつつ、高精細表示装置の表示面におけるギラツキと文字ボケと表示の白浮きを有効に防止していることが明らかである。」
イ 引用発明5
(ア)引用例5でいう「本発明」は、「防眩性フィルム」(【0001】)に関するものであるところ、【0119】には、引用例5でいう「本発明」の「実施例1」が記載されている。
また、【0128】に「実施例1~4及び比較例1~3で得られた防眩性反射防止フィルムの透過像鮮明性、全光線透過率、ヘーズ、60゜グロス、500g荷重鉛筆硬度、ギラツキ、文字ボケ、防眩性、表示の白浮きの判定結果を表1にまとめて示す。」と記載されているところ、「表1」(【0137】)に示された各判定結果の定義が、【0129】~【0136】に記載されている。
(イ)上記ア(ア)~(カ)及び上記(ア)より、引用例5には、「実施例1」の「防眩性反射防止フィルム」の発明(以下「引用発明5」という。)として、以下の発明が記載されているものと認められる。
「 側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂5.1重量部、セルロースアセテートプロピオネート1.2重量部、多官能アクリル系UV硬化モノマー6.3重量部、光開始剤0.6重量部をMEK/1-ブタノール=8/2混合溶媒37.4重量部に溶解し、この溶液を、トリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、防爆オーブン内で3分間放置し、溶媒を蒸発させて形成した厚さ約7μmのコート層に、メタルハライドランプからの紫外線を約30秒間照射することによりUV硬化処理し、表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層を形成し、オーバーコート層として、2液熱硬化型含フッ素化合物塗工液を塗布し、乾燥後、120℃で10分間熱硬化させて得た防眩性反射防止フィルムであって、
防眩性反射防止フィルムの透過像鮮明性が94.3%、全光線透過率が94.3%、ヘーズが16.5%、60゜グロスが76、500g荷重鉛筆硬度が2H、以下の方法で評価したギラツキが◎、文字ボケが◎、防眩性が○、表示の白浮きが◎である、防眩性反射防止フィルム。
(ギラツキの評価)
表示面におけるギラツキの判定は、150ppiの解像度を有する液晶用力ラーフィルタ上に、得られた防眩性反射防止フィルムを配設し、後方よりバックライとを照射し目視にて以下の基準に従って評価した。
◎:ギラツキが感じられない
○:ギラツキが僅かに感じられる
×:ギラツキが感じられる。
(文字ボケの評価)
表示面における文字ボケの判定は、150ppiの解像度を有する液晶用カラーフィルタ上に、得られた防眩性反射防止フィルムを配設し、後方よりバックライとを照射し目視にて以下の基準に従って評価した。
◎:文字ボケが感じられない
○:文字ボケが僅かに感じられる
×:文字ボケが感じられる。
(防眩性の評価)
防眩性の判定は、ルーバーの無いむきだしの蛍光灯を防眩性反射防止フィルムに写し、その正反射光の眩しさを目視にて以下の基準に従って評価した。
◎:眩しさを感じない
○:眩しさを僅かに感じる
×:眩しさが感じられる。
(白浮きの評価)
表示の白浮きの判定は、防眩性反射防止フィルムをカーボンブラックをセルロース系バインダー樹脂に分散させPETフィルム上に塗布し作成した黒色板に透明粘着剤を用いて貼り付けたサンプルを目視にて以下の基準に従って評価した。
◎:白味を感じない
○:白味を僅かに感じる
×:白味が感じられる。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明5を対比すると、以下のとおりである。
(ア) 上記(1)イ(イ)の引用発明5の「防眩性反射防止フィルム」の形成工程からみて、引用発明5の「防眩性反射防止フィルム」は、「側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂5.1重量部」、「セルロースアセテートプロピオネート1.2重量部」、「多官能アクリル系UV硬化モノマー6.3重量部」、「光開始剤0.6重量部」を「MEK/1-ブタノール=8/2混合溶媒37.4重量部」に溶解し、この溶液を、トリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、溶媒を蒸発させて形成した「厚さ約7μm」のコート層をUV硬化処理し、「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」を形成したものであると理解できる。
(イ) 上記(ア)から、引用発明5の「トリアセチルセルロースフィルム」上に形成された「厚さ約7μm」の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」は、「側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂」及び「セルロースアセテートプロピオネート」を含むと理解できる。
ここで、引用発明5の「トリアセチルセルロースフィルム」は、ヘイズが実質0%の透明なフィルムであることは、技術常識から明らかである。
そうすると、引用発明5の「防眩性反射防止フィルム」が示す「透過像鮮明性」、「ヘーズ」、「60°グロス」、「ギラツキ」、「文字ボケ」及び「防眩性」は、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」により主に生じると理解できる。
(ウ) 引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」は、防眩性を有する層である。したがって、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」は、本件特許発明1の「防眩層」に相当する。また、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」に含まれる「側鎖に重合性不飽和基を有するアクリル樹脂」及び「セルロースアセテートプロピオネート」は、本件特許発明1の「マトリックス樹脂」に相当する。そして、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」は、本件特許発明1の「マトリックス樹脂」「を含み、」とする要件を満たしている。
(エ) 引用発明5の「防眩性反射防止フィルム」が示す、「透過像鮮明性」は「94.3%」、「ヘーズ」は「16.5%」である。
引用例5の記載事項(オ)における「本発明の防眩性フィルムの透過像鮮明度は、0.5mm幅の光学櫛を使用した場合、70~l00%、好ましくは80~100%程度である。」(【0095】)との記載から、引用発明の「透過像鮮明度」は、「0.5mm幅の光学櫛」を使用して得られたものと理解できる。したがって、引用発明5の「防眩性反射防止フィルム」は、本件特許発明1の「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、」とする要件を満たしている。
また、前記(イ)において検討したとおり、引用発明5の「防眩性反射防止フィルム」が示す「ヘーズ」は、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」により主に生じるから、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」は、本件特許発明1の「ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された」とする要件を満たしている。
(オ) 前記(イ)において検討したとおり、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」は「厚さ約7μm」である。したがって、引用発明5の「表面凹凸構造を有する防眩ハードコート層」は、本件特許発明1の「前記防眩層の厚みが6μm以上20μm以下の範囲の値である」とする要件を満たしている。
イ 一致点及び相違点
(ア)一致点
本件特許発明1と引用発明5は、次の構成で一致する。
「 マトリクス樹脂を含み、且つ、ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層を備え、
光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、
前記防眩層の厚みが6μm以上20μm以下の範囲の値である、防眩フィルム。」
(イ)相違点
本件特許発明1と引用発明5は、以下の点で相違する。
(相違点5-1-1)
本件特許発明1は、防眩層が「マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子」を含み、「前記微粒子の平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値」であるのに対し、引用発明5は、複数の微粒子を含まない点。
(相違点5-1-2)
本件特許発明1は、「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値」であるのに対し、引用発明5は、そのようなものであるかどうか不明な点。
ウ 判断
事案に鑑みて、相違点5-1-1について検討する。
引用例5の記載事項(イ)には、従来の技術として、「液晶表示装置などの表示面での外景の映り込みを防止するため、通常、微粒子とバインダー樹脂又は硬化性樹脂との混合物を機材に塗布し、表面に凹凸を形成することにより正反射を防ぎ防眩性を発現させている」こと、「従来の微粒子サイズでは、直進透過光付近の散乱が増加し、画素の輪郭が曖昧となって文字ボケが発生する」(【0002】)こと、「添加する微粒子のサイズを細かくしたり、粒径分布がシャープな微粒子などを用いて、表面の凹凸形状を制御する・・・方法では、ギラツキや文字ボケを防止するためには、微粒子の重心位置を制御する必要がある。また、表面の凹凸形状が小さくなるため、充分な防眩性との両立が困難になるとともに、コスト面からも不利である」(【0003】)と記載されている。また、引用例5の記載事項(オ)の【0088】には、「従って、直進透過光のプロファイルに対して表面凹凸による散乱光の悪影響が極めて小さく、従来の微粒子分散型の防眩シートでは解決できなかったギラツキの問題を回避できる。」と記載されている。
これらの記載に基づけば、引用発明5は、微粒子を使用していなくても高い防眩性等を有する防眩性フィルムを提供することを課題としていると理解できる。
そうすると、引用発明5において、微粒子を使用する動機付けが存在したということはできない。したがって、当業者であったとしても、引用発明5の「防眩ハードコート層」に、平均粒径が0.5μm以上3.0μm以下の範囲の値の微粒子を分散させ、本件特許発明1の上記相違点5-1-1に係る構成とすることが容易になし得たということはできない。
以上より、その他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、容易に発明できたものとはいえない。
5 理由3(実施可能要件)
(1)本件特許発明
本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、前記第3に記載のとおりのものであり、いずれも、「マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含み、且つ、ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層」を備えることを必須の要件としている。
また、本件特許の明細書には、前記1に示す記載があり、前記1(5)に記載された、複数の樹脂成分の相分離構造を有する第1実施形態、前記1(6)に記載された、防眩層の表面の凹凸を形成するために、複数の微粒子を使用する第2実施形態、前記1(7)に記載された、基材フィルム側とは反対側の表面に凹凸形状が賦形された構造を有する第3実施形態の、3つの実施形態が記載されていることが理解できる。
そして、【0056】及び【0164】(あるいは、【0062】)の記載によれば、第2実施形態と同様、第1及び第3実施形態は、いずれも、防眩層が、マトリックス樹脂中に分散された複数の微粒子を含んでいてもよいものと理解できる。
そうすると、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、第1~第3の実施形態のいずれかにおいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施することができる程度の記載があれば、実施可能要件を満たしているといえる。
(2)発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段
本件特許に係る発明が解決しようとする課題について、本件特許の明細書の記載事項(2)には、「高精細画素を有するディスプレイ等の表面に防眩フィルムを装着すると、防眩フィルムを透過するディスプレイからの光が防眩層の表面の凹凸により屈折したり、防眩層の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイの画素が拡大されて見えたりすることで、ディスプレイのギラツキが発生し、画像が見づらくなることがある。」(【0006】)、「ディスプレイのギラツキは定量的に評価しにくい面があり、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを客観的指標に従って開発することが困難な場合がある。」(【0007】)、「本発明は、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制可能であると共に、ディスプレイの表示性能が低下するのを防止可能な防眩フィルムを提供することを目的としている。」(【0008】)と記載されている。
これらの記載から、防眩フィルムをディスプレイ等の表面に装着すると発生する「ギラツキ」が、防眩層の表面の凹凸による屈折やレンズ効果により発生することが知られていたが、ギラツキは定量的に評価しにくい面があり、客観的指標に従って開発することが困難であったことを、解決しようとする課題と捉えていると理解できる。
また、課題を解決するための手段について、本件特許の明細書の記載事項(3)には、「本発明の一態様に係る防眩フィルムは、ヘイズ値が0.5%以上20%以下の範囲の値に設定された防眩層を備え、光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、且つ、ディスプレイの表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が0以上12以下の範囲の値である。」(【0009】)、「ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値は、ディスプレイ上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる。」、「例えばディスプレイのギラツキを試験者が目視で主観的に評価した場合等に比べて、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを安定して得ることができる。」(【0010】)、「前記防眩層は、複数の樹脂成分を含み、前記複数の樹脂成分の相分離により形成された共連続相構造を有してもよい。このような共連続相構造により、防眩層の表面にヘイズ値を抑制しながら適度な凹凸を形成でき、ディスプレイのギラツキを抑制し易くすると共に防眩性を得易くすることができる。」(【0013】)、「防眩層において、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、微粒子により防眩層の内部ヘイズ値が上昇するのを抑制できると共に、防眩フィルムの透過像鮮明度の低下を抑制できる。」(【0015】)と記載されている。
これらの記載から、本件特許に係る発明は、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となるディスプレイの表面に装着した状態における前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差を所定の範囲(0以上12以下の範囲)の値となるように設定された防眩層を備えることを課題解決手段としていると理解できる。そして、防眩層の表面の凹凸による屈折やレンズ効果の発生が減少するように、上記輝度分布の標準偏差を調整する手法として、共連続相構造により適度な凹凸を形成することや、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することが、挙げられている。
(3)第1実施形態について
本件特許の明細書には、第1実施形態として、「防眩層3は、複数の長細状凸部と、隣接する長細状凸部間に位置する凹部とにより防眩性を発現する。防眩フィルム1は、このような防眩層3を備えることで、ヘイズ値と透過像鮮明度(写像性)とのバランスに優れたものとなっている。」(【0036】)、「防眩層3の表面は、上記した構造が形成されることで、レンズ状(海島状)の凸部が形成されるのが防止されている。よって、防眩層3を透過するディスプレイ16aからの光が防眩層3の表面の凹凸により屈折したり、防眩層3の表面の凹凸によるレンズ効果でディスプレイ16aの画素が拡大されて見えたりするのが防止され、ディスプレイ16aのギラツキが抑制される。」(【0037】)と記載されている。また、「長細状凸部の共連続相構造は、溶媒蒸発後の樹脂成分の溶融流動性がある程度高くなるような乾燥条件や処方を設定することにより形成できる。」(【0070】)、「乾燥温度が低過ぎたり、乾燥時間が短か過ぎると、樹脂成分に対する熱量の付与が不十分となり、樹脂成分の溶融流動性が低下して、長細状凸部の形成が困難となるおそれがあるため留意する。」(【0071】)、「乾燥温度が高過ぎたり、乾燥時間が長過ぎると、一旦形成された長細状凸部が流動して高さが低下する場合があるものの、長細状凸部の構造は維持される。そのため、長細状凸部の高さを変えて防眩層3の防眩性や滑り性を調整する手段として、乾燥温度及び乾燥時間を利用できる。また形成工程では、溶媒の蒸発温度を高くしたり、樹脂成分に粘性の低い成分を用いたりすることにより、相分離構造が繋がった共連続相構造を形成できる。」(【0072】)、「相分離の程度によって、共連続相構造と液滴相構造との中間的構造(共連続相から液滴相に移行する過程の相構造)も形成できる。」(【0073】)、「調製工程において溶液にある程度の量の微粒子を添加することで、微粒子を含む防眩層3を形成することもできる。」(【0074】)、「ディスプレイ16aのギラツキを抑制する方法としては、例えば防眩層の表面の凹凸を縮小することが考えられるが、防眩フィルムの防眩性が低下するおそれがある。しかしながら、これ以外にも、防眩層の凹凸の傾斜の高さによる凹凸の急峻化の度合と凹凸の数とを調整することにより、ヘイズ値を所定範囲内に抑制しつつ、ディスプレイのギラツキを抑制しながら防眩性を向上させることができる。」(【0079】)と記載されている。
これらの記載に基づけば、【0013】に記載された、共連続相構造により適度な凹凸を形成することについて、溶媒蒸発後の樹脂成分の溶融流動性がある程度高くなるような乾燥条件や処方を設定すること、つまり、乾燥温度、乾燥時間、溶媒の蒸発温度、樹脂成分の粘性、相分離の程度を調整することにより設定できることが示唆されており、微粒子を添加することで微粒子を含む防眩層を形成することもできることが理解できる。
また、本件特許の明細書には、第1実施形態として、「微粒子の平均粒径は特に限定されず、例えば、0.5μm以上5.0μm以下の範囲の値に設定できる。」(【0058】)、「微粒子の平均粒径が小さすぎると、防眩性が得られにくくなり、大き過ぎると、ディスプレイのギラツキが大きくなるおそれがあるため留意する。」(【0059】)との記載がある。さらに、「防眩層3のヘイズ値及び内部ヘイズ値、防眩フィルム1の透過像鮮明度、表面に防眩フィルム1を装着したディスプレイ16aの輝度分布の標準偏差の値(ギラツキ値)は、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、或いは、調製工程、形成工程、及び硬化工程の施工条件等によって変化しうる。従って、各条件を変化させて防眩層を形成し、得られた防眩層の物性を予め測定・把握しておくことで、目的の物性を有する防眩フィルムを得ることができる。」(【0068】)との記載もある。
これらの記載に基づけば、乾燥温度、乾燥時間、溶媒の蒸発温度、樹脂成分の粘性、相分離の程度が調整されるように、溶液中の樹脂組成物の組み合わせや重量比、或いは、調製工程、形成工程、及び硬化工程の施工条件を変化させて防眩層を形成し、形成される共連続相構造のサイズや密度等を最適化することにより、輝度分布の標準偏差の値(ギラツキ値)と共に、ヘイズ値、透過像鮮明度が所望の範囲内の値となるように調整することを、当業者は過度の試行錯誤を要することなく実施できたものといえる。
(4)第2実施形態について
本件特許の明細書には、第2実施形態について、「第2実施形態の防眩フィルムによれば、防眩層において、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することにより、微粒子により防眩層の内部ヘイズ値が上昇するのを抑制できると共に、防眩フィルムの透過像鮮明度の低下を抑制できる。」(【0102】)と記載されている。防眩層の表面の凸部を形成する微粒子の屈折率を調整することにより、屈折や、レンズ効果が生じることを抑制し、防眩性を有しつつ、ディスプレイのギラツキが発生するのを低下させるものと理解できる。
また、本件特許の明細書には、「防眩層の表面の凹凸を形成するために複数の微粒子を使用する場合でも、防眩層の形成時に微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことによって、微粒子の適度な凝集を引き起こし、急峻の度合と数密度が調整された凹凸の分布構造を防眩層に形成できる。」(【0080】)、「第2実施形態に係る防眩フィルムの防眩層は、マトリクス樹脂と、マトリクス樹脂中に分散された複数の微粒子を含む。微粒子は、真球状に形成されているが、これに限定されず、実質的な球状や楕円体状に形成されていてもよい。」、「防眩層には、各微粒子が一次粒子として分散していてもよいし、複数の微粒子が凝集して形成された複数の二次粒子が分散していてもよい。」(【0081】)、「粒径が比較的均一に揃えられ且つ平均粒径が上記範囲に設定された微粒子により、防眩層の表面に均一且つ適度な凹凸が形成される。これにより、防眩性を確保しつつディスプレイ16aのギラツキを抑制できる。」(【0085】)と記載されている。
これらの記載に基づけば、【0015】に記載された、マトリクス樹脂と微粒子との屈折率差を所定範囲に設定して、マトリクス樹脂中に複数の微粒子を分散することについて、微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うことや、微粒子の形状を変更すること、凝集状態を調整することにより、ヘイズ値や透過像鮮明度が所望の範囲内の値となるように調整することを、当業者は過度の試行錯誤を要することなく実施できたものといえる。
したがって、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4について、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていたといえる。
特許異議申立人は、令和4年4月5日付けの意見書において、「当業者は、本件明細書の実施例3及び4の防眩フィルムを再現することが困難である。なぜなら、本件明細書の実施例3及び4は、微粒子の凝集及び配列に影響を与える乾燥条件の記載が不足しているためである。」、「オーブンの種類及び設定等により、熱の対流の仕方が異なったり、塗膜にあたる熱風の風速が異なったりするため、100℃のオーブンで1分放置した後の微粒子の凝集及び配列の程度は千差万別であるといえる。したがって、本件明細書の記載を元に、当業者が実施例3及び4の光学特性を満たす防眩フィルムを再現することは、極めて困難といえる。」(第4頁)と主張している。
しかし、仮に、オーブンの特性の違いによって、同一温度及び同一時間で乾燥を行った場合に変化が生じたとしても、オーブンの特性に応じて乾燥条件を変更することや、明細書の記載に基づいて、微粒子とそれ以外の樹脂や溶剤との斥力相互作用が強くなるような材料選定を行うこと等により、実施例3及び4と同じ光学特性を満たすように光学特性を調整することは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できたといえる。
そして、本件特許発明1は、「ヘイズ値が7%以上20%以下の範囲の値」、「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値」、「ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値」であれば、その要件を満たすものである。仮に、実施例3及び4と同じ光学特性を満たす防眩フィルムを再現できないとしても、本件特許発明1の要件を満たす防眩フィルムを得ることが困難であるということはできない。
(5)第3実施形態について
本件特許の明細書には、第3実施形態について、「第3実施形態に係る防眩フィルムは、基材フィルム上に硬化性樹脂を含むコート層を形成し、このコート層の表面を凹凸形状に賦形した後、コート層を硬化することにより製造される。」(【0105】)、「ロール24の表面の凹凸部は、ブラスト法により、所定の粒径のブラスト粒子を衝打させて形成されており、ブラスト粒径を調整することで、防眩フィルム33のコート層に形成される凹凸形状を調整できる。」(【0110】)と記載されている。また、ディスプレイのギラツキを抑制し易くすると共に防眩性を得易くすることができる形状として、共連続相構造も挙げられている(【0013】)。
これらの記載に基づけば、防眩層の表面の凹凸による屈折やレンズ効果の発生が減少するように、その凹凸形状を調整することは、当業者が過度の試行錯誤を要することなく実施できたものといえる。
(6)まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明には、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていたといえる。
6 理由4(サポート要件)
(1)発明が解決しようとする課題
本件特許の【0008】の記載に基づけば、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、「ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することにより、良好な防眩性を有しながらディスプレイのギラツキを抑制可能であると共に、ディスプレイの表示性能が低下するのを防止可能な防眩フィルムを提供すること」にあるといえる。
(2)本件特許発明1、3、4
本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、以下の構成要件を備えている。
「光学櫛幅0.5mmの透過像鮮明度が60%以上96%以下の範囲の値であり、且つ、画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値であり、」
(3)課題を解決できると認識できるか
本件特許の明細書には、「ディスプレイの輝度分布の標準偏差の値は、ディスプレイ上の輝点のばらつきの程度を示し、ディスプレイのギラツキを定量的に評価できる客観的指標となる。このため上記構成では、当該標準偏差を0以上12以下の範囲の値に設定されるように防眩フィルムを構成することで、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して防眩フィルムを設計できる。従って、例えばディスプレイのギラツキを試験者が目視で主観的に評価した場合等に比べて、ディスプレイのギラツキを効果的に抑制できる防眩フィルムを安定して得ることができる。」(【0010】)と記載されている。当該記載に基づけば、上記輝度分布の標準偏差が所定の範囲にある場合に、ディスプレイのギラツキを定量的に評価することができるようになり、それに基づいて設計することにより、ディスプレイのギラツキを抑制可能である防眩フィルムを提供できるといえる。
そうすると、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、発明が解決しようとする課題を解決できると認識できるということができる。
特許異議申立人は、令和4年4月5日付けの意見書において、「ヘイズ、像鮮明度、輝度分布の標準偏差の値により、防眩フィルムとしての物の構造、構成が示されているとはいえず、特許権者の主張は妥当ではない。」(第6頁)と主張している。
しかし、上記のとおり、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、その構成要件から、ディスプレイのギラツキを定量的に評価して設計することができるものであり、発明が解決しようとする課題を解決できるものである。ギラツキを抑制できる防眩層として、防眩層の表面の凹凸を縮小すること等、様々な形状、構成の防眩層が考えられていたところ、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、客観的な指標によって区別される防眩層を具備することによって課題を解決するものであり、課題解決に特定の物の構造、構成を要するものとは理解できない。
したがって、防眩フィルムとしての物の構造、構成が示されていないとしても、サポート要件を満たさないとはいえない。
(4)まとめ
以上より、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。したがって、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は、サポート要件を満たしている。
7 理由5(明確性要件)
(1)輝度分布の標準偏差
本件特許発明1は、「画素密度が441ppiである有機ELディスプレイの表面に装着した状態において、8ビット階調表示で且つ平均輝度が170階調のグレースケール画像として画像データが得られるように調整したときの前記ディスプレイの輝度分布の標準偏差が、0以上12以下の範囲の値」であることを発明特定事項としている。本件特許発明3、4についても同様である。
(2)ギラツキ検査
本件特許の明細書には、ディスプレイの輝度分布の標準偏差を求める「ギラツキ評価方法」として、前記1(8)に、「撮像装置12の撮像素子の単位画素当たりに撮像されるフィルムを装着したディスプレイ16aの画素サイズを調整する調節ステップを行う。調整ステップでは、撮像装置12の撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12が撮像する画像において、画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に、撮像装置12と、フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整する。」(【0127】)、「撮像装置12と表示装置16との間の相対距離は、表示装置16の使用態様(例えば、ユーザの目とディスプレイ16aの表面との間の相対距離)を考慮して設定されることが望ましい。」、「調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aのギラツキを評価する測定エリアを設定する設定ステップを行う。」(【0128】)、「調整ステップを行った後、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアを撮像装置12により撮像する撮像ステップを行う。」(【0129】)、「撮像ステップ後、画像処理装置17は、画像データを用いて、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアにおける輝度のばらつきを求める演算ステップを行う。この演算ステップにおいて、輝度のばらつきは、輝度分布の標準偏差として数値化される。」(【0130】)と記載されている。
ここで、上記評価方法において、撮像装置12により撮像される「輝度分布」及び輝度分布から求められる「標準偏差」は、技術常識から、「撮像装置12」と「ディスプレイ16a」との距離(撮像距離)や、「撮像装置12」のレンズのFナンバー等の撮像条件に依存する。
(3)Fナンバー
本件特許発明における撮影は、撮像された画像データを用いて、フィルムを装着したディスプレイ16aの測定エリアにおける輝度のばらつきを求める演算ステップを行うためのものである(【0130】)から、当業者は、なるべく被写体のコントラストを忠実に再現できる条件で撮影するものと解される。そうすると、当業者は、コントラストのピークがあるFナンバーに絞りを設定することになる。
特許異議申立人は、令和4年4月5日付けの意見書において、「乙4号証の参考図1には、F8を超えるFナンバーの分布図が、F8の分布図と略同一形状になることが示されていない。このため、乙4号証により、Fナンバーが大きくなると輝度分布の標準偏差値が一定となる、ということはできない。」、「引用例6の解説図6の測定装置Bでは、Fナンバーの値を大きくしても、ぎらつきコントラストが収束していない。よって、Fナンバーが大きくなると輝度分布の標準偏差値が一定となる、ということはできない。」(第7頁)と主張している。
しかし、当業者は、上記のとおり、コントラストのピークがあるFナンバーに絞りを設定すると理解される。そのようなFナンバーを特定する上で必要な作業は、Fナンバーを変えながら数回の撮影を行ってコントラストの変化を確認し、最もコントラストが高くなるFナンバーを求めることだけであり、そのことに特段の困難性があるとは認められないから、Fナンバーが大きくなると輝度分布の標準偏差が一定とならないとしても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
(4)撮影距離
本件特許の明細書には、「調整ステップでは、撮像装置12の撮像素子の有効画素数に応じて、撮像装置12が撮像する画像において、画素による輝線がない、或いは、画素による輝線があってもディスプレイ16aのギラツキの評価に影響を与えない程度に、撮像装置12と、フィルムを装着したディスプレイ16aとの間の相対距離を調整する。」(【0127】)と具体的に記載されている。当該記載に基づけば、当業者は、輝度の分布を把握するのに十分な解像度が得られる程度に撮影距離を短くすることを前提としつつ、ギラツキの評価に影響を与えるほど輝線が映り込まない程度の距離を保持すべきと理解する。
特許異議申立人は、令和4年4月5日付けの意見書において、「特許権者の主張は、どのような技術常識に基づくのかが不明であり、主張の根拠が不足している」(第7頁)、「相対距離の影響が低減することに関して、特許権者は何ら根拠を示していない。」(第8頁)と主張している。
しかし、上記のとおり、明細書の記載に基づけば、当業者は、輝度の分布を把握するのに十分な解像度が得られる程度に撮影距離を短くすることを前提としつつ、ギラツキの評価に影響を与えるほど輝線が映り込まない程度の距離を保持すべきと理解でき、本件明細書の【0127】に従った方法により調整すれば、被写体毎に自ずと撮影距離は定まるといえる。。そうすると、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
(5)まとめ
以上のとおり、撮像装置12により撮像される「輝度分布」及び輝度分布から求められる「標準偏差」は、「撮像装置12」と「ディスプレイ16a」との距離(撮像距離)や、「撮像装置12」のレンズのFナンバー等の撮像条件に依存するとしても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできないから、本件特許発明1、本件特許発明3及び本件特許発明4は明確である。
第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立人が主張する申立ての理由、当合議体が令和3年4月7日付け、及び、令和3年12月6日付けで、特許権者に通知した取消しの理由によっては、請求項1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700014