特許異議申立
2024-701094
積層体の製造方法
- 審判番号
- 2024-701094
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-128543
- 登録番号
- 7480618
- 請求日
- 2024年11月11日
- 審決日
- 2026年04月17日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】君塚 哲也
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】真角 侑子
- 審判長/審判官
- 審判長 里村 利光
- 審判官 高松 大
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第2条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7480618号発明「積層体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7480618号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7480618号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7480618号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和2年7月29日に出願され、令和6年4月30日にその特許権の設定登録がされ、同年5月10日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年11月11日に、特許異議申立人 真角 侑子(以下「申立人」という。)より、特許異議申立書が提出され、本件特許の請求項1~5に係る特許について、特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立て以降の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和7年 3月18日付け:取消理由通知書
同年 5月22日 :意見書(特許権者)の提出
同年 5月22日 :訂正請求書(特許権者)の提出
同年 7月 7日 :意見書(申立人)の提出
同年 9月22日付け:取消理由通知書
同年11月21日 :意見書(特許権者)の提出
同年11月21日 :訂正請求書(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。)の提出
令和8年 2月25日 :意見書(特許権者)の提出
なお、令和7年5月22日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7480618号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の末尾に、「(前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する。)」との記載を付加する。(請求項1の記載を引用する請求項2~5についても同様に訂正される。)
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「真空紫外線を照射して」とあるのを、「真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~5についても同様に訂正される。)
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜を形成して」とあるのを、「表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される硬化膜を形成して」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2~5についても同様に訂正される。)
3 訂正の適否についての判断
(1) 一群の請求項について
訂正前の請求項2~5は、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用しており、訂正事項1に係る訂正によって連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項1~5は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2) 訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載された発明に係る積層体の製造方法について、「前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する」ことを特定するものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項2~5についてみても、同様である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項1に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
願書に添付した明細書の段落【0105】に、「基材上に塗布する際の作業性を向上させる目的で、硬化性組成物中に有機溶剤を必要に応じて配合する」、及び、段落【0106】に、「硬化性組成物に有機溶剤を配合する場合、その含有量は、塗布操作における操作性の向上の観点から、不揮発分100質量部に対して10質量部以上1900質量部以下が好ましく」と記載されているとおり、訂正事項1に係る訂正の「(前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する。)」ことは、願書に添付した明細書の段落【0105】及び【0106】に記載されている。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同様である。
(3) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載された発明に係る積層体の製造方法について、「真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射」することを特定するものであって、エネルギー線を照射するステップをより具体的に限定するものである。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項2~5についてみても、同様である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項2に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
願書に添付した明細書の段落【0112】に、「真空紫外線照射後、硬化膜を深部まで硬化させるために真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射することが好ましい」と記載されているとおり、訂正事項2に係る訂正の「真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射」することは、願書に添付した明細書の段落【0112】に記載されている。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同様である。
(4) 訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載された発明に係る硬化膜の表面が有するしわ状の凹凸構造について、「硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」ことを特定するものである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
請求項2~5についてみても、同様である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことについて
上記アより、訂正事項3に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは、明らかである。
請求項2~5についてみても、同様である。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであることについて
訂正事項3に係る訂正の「表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」ことは、願書に添付した明細書の段落【0147】の、「表面形状計測システム(日立ハイテクサイエンス社製 走査型白色干渉顕微鏡「VS1330」)を用い、硬化膜の表面の177.6μm×236.87μmの領域について、表面形状を光干渉法にて測定し、データ解析を行った。データ解析を行った。・・・略・・・測定時における対物レンズの倍率は20倍に設定して測定した。なお、本評価にてしわ状の凹凸構造の有無も確認した。」との記載に基づくものである。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
請求項2~5についてみても、同様である。
4 本件訂正請求についてのまとめ
上記3によれば、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第7480618号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1~5に係る発明は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項によって特定されるとおりの以下のものである。
なお、各請求項に係る訂正後の特許発明をその請求項の番号に基づいて、「本件特許発明1」などといい、全ての請求項に係る特許発明を総称して、「本件特許発明」ということがある。
「【請求項1】
基材上に(メタ)アクリレートと粒子を含有する硬化性組成物を積層し、真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させて、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される硬化膜を形成して、全光線透過率が50%以上である積層体を得る、積層体の製造方法。
(前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する。)
【請求項2】
前記硬化膜の60°グロスが50以下である請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記凹凸構造における局部傾斜角度の平均値(θa)が2°以上である請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
基材がフィルムである請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記積層体が光学用である請求項1~4のいずれかに記載の積層体の製造方法。」
第4 申立人が提出した証拠方法及び申立理由
1 証拠方法
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠方法として、以下に示す甲第1号証~甲第30号証を提出した。
甲第1号証:米国特許出願公開第2013/0129980号明細書
甲第2号証:特開2020-111715号公報
甲第3号証:特開2014-92657号公報
甲第4号証:欧州特許出願公開第2154184号明細書
甲第5号証:韓国公開特許第10-2020-0031282号公報
甲第6号証:真空紫外線に関するwikipedia,[online],[取得日 2024年11月11日],取得先<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9C%9F%E7%A9%BA%E7%B4%AB%E5%A4%96%E7%B7%9A>
甲第7号証:JIS K7361-1:1997,一般財団法人 日本規格協会(JSA),1997年,取得先<https://kikakurui.com/k7/K7361-1-1997-01.html>
甲第8号証:JIS K7375:2008,一般財団法人 日本規格協会(JSA),2008年,取得先<https://kikakurui.com/k7/K7375-2008-01.html#google_vignette>
甲第9号証:水銀灯に関するwikipedia,[online],[取得日 2024年11月11日],取得先<https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E9%8A%80%E7%81%AF>
甲第10号証:光技術情報誌「ライトエッジ」,2010年8月,No.33(ウシオ電機株式会社のウェブページ)
甲第11号証:特開2019-207381号公報
甲第12号証:実開平6-67021号公報
甲第13号証:特開2002-347177号公報
甲第14号証:特開2012-66582号公報
甲第15号証:特開2018-171935号公報
甲第16号証:特開平5-92503号公報
甲第17号証:広辞苑第六版,株式会社岩波書店,2008年1月11日
甲第18号証:エコサーモコートのウェブページ,取得先<https://ecothermo.marusyosangyo.com/93>
甲第19号証:JIS K5600-5-4:1999,一般財団法人 日本規格協会(JSA),1999年,取得先<https://kikakurui.com/k5/K5600-5-4-1999-01.html>
甲第20号証:大阪大学のウェブ,[online],[取得日 2024年11月11日],取得先<https://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/ishijima/Absorbance-01.html>
甲第21号証:特開2009-151476号公報
甲第22号証:特開2019-64121号公報
甲第23号証:DIC Color&Comfortウェブページ,[online],取得先<https://www.dic-global.com/ja/products/uv.html>
甲第24号証:DENACOLの実験室のウェブページ,[online],取得先<https://group.nagase.com/nagasechemtex/denacol/column/20240601/>
甲第25号証:米国特許出願公開第2014/0371384号明細書
甲第26号証:繊維製品のしわに関する研究(第1報),繊維製品消費科学,1973年,Vol.14,No.9,取得先<https://www.jstage.jst.go.jp/article/senshoshi1960/14/9/14_9_351/_pdf/-char/ja>
甲第27号証:「非線形システム論」に関するwikipedia,[online],[更新日 2019年10月9日],取得先<https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E9%9D%9E%E7%B7%9A%E5%BD%A2%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AO%E8%AB%96&oldid=74560265>
甲第28号証:形状可変な境界としてのシワ(リンクル)構造の展開,取得先<https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri/70/4/70_KJ00009904131/_pdf/-char/ja>
甲第29号証:米国特許出願公開第2019/0210331号明細書
甲第30号証:欧州特許出願公開第2527408号明細書
(当合議体注:甲1~5は主引用例であり、甲6~30は周知技術又は技術常識を示す文献である。)
以下、甲号証に付された番号を使って、それぞれ、「甲1」などという。
2 申立理由の概要
申立人は、概略、下記(1)~(8)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が付与したものである。
(1) 申立理由1(明確性要件違反)
本件特許発明1~5はいずれも、特許請求の範囲の記載により、特許を受けようとする発明が明確ではない。よって、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
(2) 申立理由2(サポート要件違反)
本件特許発明1~5はいずれも、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明に記載したものではない。よって、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
(3) 申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許発明1~5はいずれも、これらの発明を実施することができる程度に、明細書に必要な事項を記載しているとは認められない。よって、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(4) 申立理由4(甲1を主引用例とする進歩性違反)
本件特許発明1~5はいずれも、甲1に記載の発明を基に、適宜他の公知文献と組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。よって、本件特許発明1~5はいずれも、甲1に記載の発明に対して進歩性を欠く。
(5) 申立理由5(甲2を主引用例とする進歩性違反)
本件特許発明1~5はいずれも、甲2に記載の発明を基に、適宜他の公知文献と組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。よって、本件特許発明1~5はいずれも、甲2に記載の発明に対して進歩性を欠く。
(6) 申立理由6(甲3を主引用例とする進歩性違反)
本件特許発明1~5はいずれも、甲3に記載の発明を基に、適宜他の公知文献と組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。よって、本件特許発明1~5はいずれも、甲3に記載の発明に対して進歩性を欠く。
(7) 申立理由7(甲4を主引用例とする進歩性違反)
本件特許発明1~5はいずれも、甲4に記載の発明を基に、適宜他の公知文献と組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。よって、本件特許発明1~5はいずれも、甲4に記載の発明に対して進歩性を欠く。
(8) 申立理由8(甲5を主引用例とする進歩性違反)
本件特許発明1~5はいずれも、甲5に記載の発明を基に、適宜他の公知文献と組み合わせることにより、当業者が容易に想到し得たものに過ぎない。よって、本件特許発明1~5はいずれも、甲5に記載の発明に対して進歩性を欠く。
第5 当合議体が通知した取消しの理由
令和7年9月22日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由は、概略以下のとおりである。
理由1(進歩性)本件特許の請求項1~5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許の請求項1~5に係る特許は、同法113条2号に該当し、取り消すべきものである。
・請求項1~5:甲2
第6 当合議体の判断
1 甲号証の記載並びに甲2に記載された発明及び甲号証から認定される周知技術
(1) 甲2の記載
甲2には、以下の記載事項がある。(当合議体注:下線は当合議体が付したものであり、発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。)
「【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の硬化物は表面にしわ状構造を有する。本発明において、しわ状構造とは、一般にリンクル構造として知られている、表面層が座屈して得られる波上の凹凸構造であり、たとえば図1に示すような迷路状の構造をいう。
・・・(略)・・・
本発明における前記しわ状構造の算術平均粗さRa、平均長さRsm、最大高さRz、傾斜角θaは、JIS B 0601-2001に準拠し、光干渉法にて測定した値である。
なお、測定は、表面形状計測システム(株式会社日立ハイテクノロジーズ「VertScan」(登録商標)R5500)を用いて、硬化物表面において、縦237.65μm、横178.25μmの四角形の領域の測定を行い、補完およびベースライン補正を行い、データを読み取った。なお、測定時における対物レンズの倍率は20倍に設定した。
・・・(略)・・・
【0009】
さらに、本発明の硬化物の断面構造は、厚み方向に架橋密度の異なる2層以上の構造を有している。
・・・(略)・・・
前記断面構造における、厚み方向に架橋密度の異なる2層は、硬化膜の最表面の層に紫外線活性基を有する重合体Aが配置され、最表面から2番目の層に多官能(メタ)アクリレートBが配置されることで形成される。このため、厚み方向に架橋密度の異なる2層はいずれも有機物である。
【0010】
次に、本発明の硬化物の製造方法の一例を示す。
本発明の硬化物のしわ状構造は、硬化性重合体組成物が硬化する際に塗膜の表面が先に硬化し硬化被膜を形成し、その後、塗膜の内部が硬化する際の収縮応力により、表面の硬化被膜が収縮し発現すると考えられる。
本発明の硬化物のしわ状構造は、活性エネルギー線の照射強度を強化し硬化性組成物の硬化時間を短くすることで、より小さいしわ状構造を得ることができ、活性エネルギー線の照射強度を低下し硬化性組成物の硬化時間を長くすることでより大きいしわ状構造を得ることができる。
さらに、本発明の硬化物のしわ状構造は、硬化性組成物の溶剤を除いた粘度を高くし流動性を低下させることで、より小さいしわ状構造を得ることができ、硬化性組成物の溶剤を除いた粘度を低く流動性を向上させることでより大きいしわ状構造を得ることができる。
【0011】
本発明の硬化物は、たとえば、紫外線活性基を有する重合体A、多官能(メタ)アクリレートB及び有機溶媒Cを含む硬化性重合体組成物を、基材に塗布した後、熱風乾燥により溶剤を留去し、活性エネルギー線を照射することで得られる。
前記活性エネルギー線としては、例えば、α線、β線、γ線、紫外線等が挙げられる。汎用性の観点から、活性エネルギー線としては紫外線が好ましい。
紫外線の発生源としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、マグネトロンを利用した無電極UVランプ、LED等が挙げられる。
前記硬化性重合体組成物を硬化させる際の雰囲気としては、空気、窒素、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。実用性及び経済性の観点から、空気もしくは窒素が好ましい。活性エネルギー線として紫外線を使用する場合の好ましい硬化条件としては、例えば、高圧水銀灯を用いて波長340~380nmの積算光量が10以上3000mJ/cm2以下となるように照射することが好ましい。
・・・(略)・・・
【0028】
・・・(略)・・・光源としては、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、無電極ランプ、メタルハライドランプ、あるいは走査型、カーテン型電子線加速路による電子線等高圧水銀灯、超高圧水銀灯等、低圧水銀灯などを用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、評価は以下の方法によって行った。
<評価方法>
<評価サンプル>
硬化性重合体組成物の塗布液を、厚さ100μmのPETフィルム(三菱ケミカル(株)製、O321E100)に#7のバーコーターで塗布し、得られた塗膜を100℃に加熱した熱風乾燥機で60秒間乾燥を行うことで溶剤を揮発させた。次いで、アイグラフィックス株式会社製のUVコンベアを用いて、高圧水銀灯により空気下で塗膜の硬化を行ったものを評価サンプルとした。
紫外線による硬化は、波長300~390nmの積算光量が、岩崎電気株式会社製の照度計(アイ紫外線積算照度計 UVPF-A1、PD-365)で測定した際に、250mJ/cm2(250mW/J/cm2)となるように調整し、約1秒の照射を2回(500mJ/cm2)行った。
・・・(略)・・・
【0032】
<表面形状>
前記粗さ曲線要素の平均長さRsm、最大高さRz、算術平均粗さRa、傾斜角θaは表面形状計測システム(株式会社日立ハイテクノロジーズ「VertScan」(登録商標)R5500)を用いて、硬化物表面において、237.縦237.65μm、横178.25μmの四角形の領域における表面の凹凸形状を光干渉法にて測定し(当合議体注:「237.縦237.65μm」は、「縦237.65μm」の誤記と認める。)、補完およびベースライン補正を行い、データを読み取った。なお、測定時における対物レンズの倍率は20倍に設定した。
・・・(略)・・・
【0035】
<硬化性>
硬化性重合体組成物を、厚さ100μmのPETフィルム(三菱ケミカル(株)製、O321E100)に#7のバーコーターで塗布し、得られた塗膜を100℃に加熱した熱風乾燥機で60秒間乾燥を行った。乾燥後に、高圧水銀灯を用いて空気下、波長300~390nmの積算光量が、岩崎電気株式会社製の照度計(アイ紫外線積算照度計 UVPF-A1、PD-365)で測定した際に、250mJ/cm2(250mW/J/cm2)となるように調整し紫外線照射を行った。硬化物表面のタック(粘着性)が無くなるまでの照射回数を測定することで、硬化性重合体組成物の硬化性を評価した。
○:照射回数1回(250mJ/cm2)で硬化膜表面のタック性が無くなる
△:照射回数2回(500mJ/cm2)で硬化膜表面のタック性が無くなる
×:照射回数3回(750mJ/cm2)でも硬化膜表面のタック性は無くならない。
【0036】
<紫外線活性基を有する重合体A-1>
撹拌機、冷却管及び温度計を備えたフラスコ中に、メチルイソブチルケトン(MIBK)78.0部を入れて撹拌した。次いで、フラスコ内を窒素置換し65℃に昇温してメチルメタクリレート(三菱ケミカル(株)製、商品名:アクリエステルM)30.0部、ステアリルメタクリレート(三菱ケミカル(株)製、商品名:アクリルエステルS)20.0部、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MCCユニテック(株)製)50.0部、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBM-803)3.0部、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名:V-65)1.0部、MIBK78.0部の混合溶液を2時間かけて滴下した。さらに2時間後、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、商品名:V-65)0.5部、MIBK0.6部の混合液を投入し、5時間保持した。その後、反応液を40℃に冷却することで紫外線活性基を有する重合体A-1を重合した。前記A-1の固形分は40%であり、重量平均分子量(Mw)は10,700であった。また、ガラス転移温度は95℃であった。
・・・(略)・・・
【0038】
<実施例1>
撹拌子を備えたフラスコ中に、紫外線活性基を有する重合体AとしてA-1を固形分として2.5質量部、多官能のアクリレートBとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製 商品名:KAYARAD DPHA)(E型粘度計で測定した粘度6850mPa・s)を固形分として90.0質量部とペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業(株)製 商品名:V#300)(E型粘度計で測定した粘度500mPa・s)を固形分として10.0質量部、有機溶剤Cとして、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)105.6質量部、メチルエチルケトン(MEK)45.3質量部を添加した後に均一になるまで撹拌を行い、硬化性重合体組成物の塗布液を調製した。得られた塗布液の硬化物の評価結果を表1に示す。
【0039】
<実施例2>
多官能のアクリレートBとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製 商品名:KAYARAD DPHA)を固形分として80.0質量部とペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業(株)製 商品名:V#300)を固形分として20.0質量部とした以外は実施例1と同様に硬化性重合体組成物の塗布液を調製した。得られた塗布液の硬化物の評価結果を表1に示す。
・・・(略)・・・
【0046】
【表1】
[図:0001437356000001.jpg]
」(当合議体注:【0046】【表1】は、便宜のため、時計回りに90°回転させた。)
(2) 甲2製造方法発明
ア 甲2の【0007】の記載によれば、【0046】【表1】における「前記しわ状構造の算術平均粗さRa、平均長さRsm、最大高さRz、傾斜角θaは、JIS B 0601-2001に準拠し、光干渉法にて測定した値であると認められる。
イ 上記(1)及びアより、甲2には、実施例2の硬化性重合体組成物をPETフィルムに塗布し、得られた塗膜を硬化させて得られる評価サンプルの製造方法の発明として、次の発明(以下「甲2製造方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「 フラスコ中に、メチルイソブチルケトン(MIBK)78.0部を入れて撹拌し、次いで、メチルメタクリレート30.0部、ステアリルメタクリレート20.0部、4-メタクリロイルオキシベンゾフェノン50.0部、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン3.0部、アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.0部、MIBK78.0部の混合溶液を滴下し、さらにアゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.5部、MIBK0.6部の混合液を投入し、5時間保持し、反応液を40℃に冷却することで紫外線活性基を有する重合体A-1を重合し、
紫外線活性基を有する重合体AとしてA-1を固形分として2.5質量部、多官能のアクリレートBとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを固形分として80.0質量部とペンタエリスリトールトリアクリレートを固形分として20.0質量部、有機溶剤Cとして、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)105.6質量部、メチルエチルケトン(MEK)45.3質量部を添加した後に均一になるまで撹拌を行い、硬化性重合体組成物の塗布液を調製し、
硬化性重合体組成物の塗布液を、PETフィルムに塗布し、得られた塗膜を熱風乾燥機で乾燥を行うことで溶剤を揮発させ、次いで、高圧水銀灯により空気下で塗膜の硬化を行って評価サンプルとする、評価サンプルの製造方法であって、
紫外線による上記空気下での塗膜の硬化は、波長300~390nmの積算光量が、岩崎電気株式会社製の照度計(アイ紫外線積算照度計 UVPF-A1、PD-365)で測定した際に、250mJ/cm2(250mW/J/cm2)となるように調整し、約1秒の照射を2回(500mJ/cm2)行ったものであり、
得られた塗布液の硬化物の評価は、縦237.65μm、横178.25μmの四角形の領域における表面の凹凸形状を光干渉法にて測定した、硬化後の表面形状がしわ状であり、JIS B 0601-2001に準拠した、平均長さRsmが7.33[μm]であり、算術平均粗さRaが0.22[μm]であり、傾斜角θaが、9.01[°]であり、60°光沢度が14.50であり、全光線透過率が90.76[%]である、
評価サンプルの製造方法。」
(3) 甲1の記載
甲1には、以下の記載事項がある。
「
[図:0001437356000002.jpg]
・・・(略)・・・
[図:0001437356000003.jpg]
」
(合議体訳:
実施例
[0031] 以下の実施例は、本発明を例示し、より良く理解するためのものであるが、本発明の範囲または適用分野に関して本発明を限定するものではない。
[0032] 以下では、本発明のナノ複合コーティング剤でコーティングされた半製品を、比較例として、Evonik Rohm GmbHのPLEXIGLAS Satinice(R)サンプルと比較する。半製品PMMAの組成および寸法はまったく同じである。
[0033] コーティング剤はスクリーン印刷によって塗布された。
[0034] 表1から明らかなように、増粘剤の割合のみが異なる同じマトリックス組成の2つのナノ複合コーティング剤を、120-34Yスクリーンによって、60℃または90℃に予熱したサンプルプレートに平均コーティング厚さ7~9μmで塗布し、このようにして予備構造を生成した。1分以内の滞留時間の後、図1に従って、残留酸素含有量が70ppm未満の不活性化照射トンネル内で、4.5mJ・cm-2の172nmエキシマVUV線量によって開始されたコーティングの表面を本発明の方法論によってマイクロシワ加工し、その後、中圧水銀ランプからの800mJ・cm-2のUV線量でコーティング全体を最終硬化させた。
・・・(略)・・・
[図:0001437356000004.jpg]
)
(合議体注:合議体訳においては、「o」のウムラウトを省略して「Rohm」と記載し、登録商標を示す丸囲いの「R」を、閉じ括弧により「(R)」で代用して記載した(以下同じ。)。)
(4) 甲4の記載
甲4には、以下の記載事項がある。
「
[図:0001437356000005.jpg]
」
(合議体訳:
[0007] 本発明の第1の特徴によれば、可撓性床材および壁材にワニスを塗布する方法は、マットワニスを製造する段階と、それを床材および壁材の塗膜材の構成構造上に薄く規則的な層に堆積させる段階と、乾燥機を使用してマイクロUV線量下で露光することによりワニスを事前に高密化すること、エキシマ型ランプの単色放射線下で架橋することにより表面処理用に構成されたアセンブリを露光すること、続いて紫外線による架橋の第2段階が続くこと、これらの段階は、例えば窒素(N2)の存在下、不活性雰囲気のチャンバー内で実行され、その後、このように処理されたワニスを含む床材を真空にする。)
(5) 甲5の記載
甲5には、以下の記載事項がある。
「
[図:0001437356000006.jpg]
」
(合議体訳:[0062] 積層フィルムの製造方法
[0063] また、本発明は、一実施例において、
[0064] 基材層上に塗布されたアクリル樹脂組成物に、不活性ガス条件下で300nm未満の波長の光を照射して、上記組成物を活性化させる第1の光照射段階;及び
[0065] 活性化された組成物に、空気(air)条件下で200nmから400nmの波長の光を照射して組成物を硬化させる第2の光照射段階を含む。)
(6) 甲29の記載
甲29には、以下の記載事項がある。
「
[図:0001437356000007.jpg]
[図:0001437356000008.jpg]
・・・(略)・・・
[図:0001437356000009.jpg]
・・・(略)・・・
[図:0001437356000010.jpg]
」
(合議体訳:
[0044] 図6Bを参照すると、UV照射された層14m(基板14s上の)は、照射を受けた層全体を架橋および硬化させ、剥離シート14の最終の模様付UV硬化塗膜14cを形成する。
[0045] この手順は、まず、得られた剥離シート14の表面上に直接、最終エポキシ-アクリルまたはウレタンアクリル模様付UV硬化被覆14cとなり、所望の艶消しになるUV硬化性アクリレート混合物14eaに収縮プロセスを作成する。模様付艶消表面14aの製造は、100%ラッカー、別個の艶消し剤(シリカ等)を添加すると、'408公開にしたがって達成される。電子線を照射することによって、層全体の硬化および架橋は、有害な方法でマット面に影響を与えることなく、部分的な硬化および照射によって作製されるつや消し表面とを固定する。このようにして製造されたマット剥離シート14は、優れた艶消し性により優れていて、光沢度は3未満(DINENISO2813および60°の幾何学的配置に従って測定した場合)又は5未満(85°の幾何学的配置に対応する)に到達することができる。
・・・(略)・・・
[0052] UV硬化性アクリレート混合物を、総アクリレート混合物の5~10重量%の割合で添加し、Ebecryl(R)5129であることが好ましく、白色顔料と混合された0.1ミクロンの平均粒度の二酸化チタン顔料である。UV硬化可能なアクリレート混合物14eaが塗布された基板14sは、その後、172nmエキシマレーザーエミッタの下の連続(インライン)法における不活性気体下で、コーティング表面から0.5cmの距離で60m/分の典型的な原料である。その結果、部分的に硬化した表面、即ち、その後、UV硬化可能なアクリレート混合物14eaの電子線架橋(ひいては硬化)に供して、最終的に完全に硬化したエポキシアクリルまたはウレタンアクリル模様付UV硬化被膜14cを形成する放射線吸収線量30kGyの直近にある光沢<4(60°配置が、前に測定された)の表面のマットとUV照射された層14mである。
・・・(略)・・・
[0066] UV照射された層214mは、電子ビームまたはUV照射(すなわち200-400nm)によって完全に硬化される。特に、エキシマレーザにより部分硬化UV層214mはまた、電子ビームの照射を受けて、全体の層を架橋させ、硬化させ、UV照射なしに、外部保護層の最終的な模様付コーティング層を形成することができる。)
(7) 甲30の記載
甲30には、以下の記載事項がある。
「
[図:0001437356000011.jpg]
・・・(略)・・・
[図:0001437356000012.jpg]
」
(合議体訳:
特許請求の範囲
1.マット仕上げの表面を有する帯状またはシート状フィルム、特に基材用のコーティングフィルムを製造する方法であって、以下の工程を特徴とする方法。
- プラスチック、金属、または紙のフィルムを形成する基材を準備する工程、
- アクリレートおよび着色顔料を含み、溶剤を含まず水分も含まない、電子線硬化型の塗料で基材をコーティングする工程、
- 塗料が未架橋状態のまま、コーティング面側から単色UV光を照射し、塗料を完全硬化または完全架橋させることなくマット表面を形成する工程、
- その後、単色UV光によりマット化されたコーティング層に電子線を照射し、コーティングを架橋・完全硬化させる工程。
2.請求項1に記載の方法において、単色UV照射が波長172nmで行われ、好ましくはエキシマランプが使用されることを特徴とする方法。
・・・(略)・・・
14.表面形成プロセス用の離型フィルムであって、特に人工皮革またはプラスチックラミネートの製造に用いられ、請求項1から11のいずれかの方法によって製造された離型フィルム。)
(8) 甲1、甲4~甲5、甲29~甲30に記載された周知技術
上記(3)~(7)の記載事項(特に下線部)によれば、以下の事項は、本件出願時における周知技術であったと認められる。
「硬化性組成物を硬化させる際に、真空紫外線を照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射すること。」
(以下「本件周知技術」という。)
2 本件特許発明1について
(1) 対比
本件特許発明1と甲2製造方法発明とを対比する。
ア 基材上に硬化性組成物を積層すること
甲2製造方法発明の「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」及び「ペンタエリスリトールトリアクリレート」は、いずれも、本件特許発明1の「(メタ)アクリレート」に相当する。また、甲2製造方法発明の「PETフィルム」は、本件特許発明1の「基材」に相当する。加えて、甲2製造方法発明の「硬化性重合体組成物の塗布液」は、本件特許発明1の「硬化性組成物」に相当する。そして、甲2製造方法発明の「評価サンプルの製造方法」は、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」と「ペンタエリスリトールトリアクリレート」を含む「硬化性重合体組成物の塗布液」を、「PETフィルムに塗布し」ているから、本件特許発明1の「基材上に(メタ)アクリレート」「を含有する硬化性組成物を積層し」という要件を満たす。
イ しわ状の凹凸構造が観察される硬化膜を形成すること
甲2製造方法発明の「評価サンプルの製造方法」は、「硬化性重合体組成物の塗布液」を、「PETフィルムに塗布し」「得られた塗膜」を「硬化」しているから、本件特許発明1の「当該組成物を硬化させて」という要件を満たす。また、甲2製造方法発明の「評価サンプル」においては、「縦237.65μm、横178.25μmの四角形の領域における表面の凹凸形状を光干渉法にて測定し」た「硬化後の表面形状がしわ状であり」、JIS B 0601-2001に準拠した、「平均長さRsm」が「7.33[μm]」であり、「算術平均粗さRa」が「0.22[μm]」である。
ここで、JIS B0601:2013における「平均長さRsm」の定義はJIS B0601:2001と同一であり、また、ISO25178における「算術平均高さSa」の定義は、上記「算術平均粗さRa」を線から面に拡張したものであるところ、甲2製造方法発明の「評価サンプル」の「平均長さRsm」及び「算術平均粗さRa」(0.22μm)の値からみて、「算術平均高さSa」及び「算術平均粗さRa」の定義に相違があるとしても、甲2製造方法発明は、本件特許発明1の「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が」「観察される硬化膜を形成」するという要件を満たす。
ウ 全光線透過率が50%以上である積層体を得ること
甲2製造方法発明の「評価サンプル」は、「全光線透過率が90.76[%]」である。
そうすると、上記アとイより、甲2製造方法発明の「評価サンプル」は、本件特許発明1の「積層体」に相当し、甲2製造方法発明は、本件特許発明1の「全光線透過率が50%以上である積層体を得る」という要件を満たす。
エ 積層体の製造方法
上記ア~ウより、甲2製造方法発明の「評価サンプルの製造方法」は、本件特許発明1の「積層体の製造方法」に相当する。
オ 硬化性組成物が有機溶剤を含有すること
甲2製造方法発明の「プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)」及び「メチルエチルケトン(MEK)」は、いずれも、本件特許発明1の「有機溶剤」に相当する。そして、甲2製造方法発明の「硬化性重合体組成物の塗布液」は、「紫外線活性基を有する重合体A」を「固形分として2.5質量部」、「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを固形分として80.0質量部」、「ペンタエリスリトールトリアクリレートを固形分として20.0質量部」、「プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)105.6質量部」及び「メチルエチルケトン(MEK)45.3質量部」含有するから、その材料組成からみて、甲2製造方法発明は、本件特許発明1の「(前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する。)」という要件を満たす。
(2) 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲2製造方法発明は、下記アの点で一致し、下記イの点で相違する。
ア 一致点
「 基材上に(メタ)アクリレートを含有する硬化性組成物を積層し、当該硬化性組成物を硬化させて、JIS B0602:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が観察される硬化膜を形成して、全光線透過率が50%以上である積層体を得る、積層体の製造方法。
(前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する。)」
イ 相違点
(ア) 相違点1-2-1
硬化性組成物が、本件特許発明1は、「粒子を含有する」のに対し、甲2製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(イ) 相違点1-2-2
硬化性組成物の紫外線による硬化を、本件特許発明1では、「真空紫外線を照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して」行っているのに対して、甲2製造方法発明においては、空気下での波長300~390nmの積算光量が、250mJ/cm2(250mW/J/cm2)となるように調整し、約1秒の照射を2回(500mJ/cm2)行っている点。
(ウ) 相違点1-2-3
しわ状の凹凸構造が、本件特許発明1は、「硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において」観察されるのに対し、甲2製造方法発明は、「縦237.65μm、横178.25μmの四角形の領域」が測定される点。
(3) 判断
事案に鑑み、相違点1-2-2について検討する。
ア 甲2製造方法発明において、「空気下」での「塗膜の硬化」は、「高圧水銀灯」の「約1秒の照射」「2回」によるものであるが、技術常識によれば、「高圧水銀灯」は、紫外線から可視光にかけての輝線スペクトルを放射するものの、真空紫外線(波長10~200nm)を放射するものではない。
イ 甲2製造方法発明において製造される評価サンプルは、甲2の段落【0046】【表1】によれば、硬化性、艶消し性、ぎらつき及び光透過性のいずれの特性にも優れ、甲2でいう本発明の課題(同【0004】)を解決し、かつ優れた効果(同【0006】)を奏するものであるところ、
甲2の段落【0009】には、「本発明の硬化物の断面構造は、厚み方向に架橋密度の異なる2層以上の構造を有している」こと、「前記断面構造における、厚み方向に架橋密度の異なる2層は、硬化膜の最表面の層に紫外線活性基を有する重合体Aが配置され、最表面から2番目の層に多官能(メタ)アクリレートBが配置されることで形成される」こと、
段落【0010】には、「本発明の硬化物のしわ状構造は、硬化性重合体組成物が硬化する際に塗膜の表面が先に硬化し硬化被膜を形成し、その後、塗膜の内部が硬化する際の収縮応力により、表面の硬化被膜が収縮し発現すると考えられる。」こと、
段落【0011】には、「本発明の硬化物は、たとえば、紫外線活性基を有する重合体A、多官能(メタ)アクリレートB及び有機溶媒Cを含む硬化性重合体組成物を、基材に塗布した後、熱風乾燥により溶剤を留去し、活性エネルギー線を照射することで得られる」こと、「活性エネルギー線としては紫外線が好まし」く、「紫外線の発生源としては、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、マグネトロンを利用した無電極UVランプ、LED等が挙げられる」こと、「前記硬化性重合体組成物を硬化させる際の雰囲気としては、空気、窒素、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。実用性及び経済性の観点から、空気もしくは窒素が好ましい。」ことが記載されている。(下線は当合議体が強調のために付した。)
ウ ここで、上記1(8)で述べたとおり、「硬化性組成物を硬化させる際に、真空紫外線を照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射すること」は本件出願時における周知技術(本件周知技術)である。
エ しかしながら、上記イの記載(特に下線部)によれば、甲2製造方法発明は、「紫外線活性基を有する重合体A」、「多官能のアクリレートB」及び「有機溶剤C」を含む硬化性重合体組成物を、基材に塗布した後、「熱風乾燥により溶剤を留去し」、「高圧水銀灯により空気下」で塗膜の硬化を行う際に塗膜の表面が先に硬化被膜を形成し、その後、塗膜の内部が硬化する際の収縮応力により、表面の硬化被膜が収縮して、厚み方向に架橋密度の異なる2層以上の構造を有する硬化物のしわ状構造を発現させることで、優れた硬化物(評価サンプル)が得られる製造方法と理解することができる。
そうすると、甲2製造方法発明における、「高圧水銀灯」による2回の紫外線照射は、所望のしわ状構造及び艶消し効果を得るためのきわめて有効な硬化手段といえる。したがって、本件周知技術の存在を考慮しても、当業者が引用製造方法発明において硬化性重合体組成物を硬化させる際に、敢えて「真空紫外線を照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射」する工程を採用しようとする動機付けはない。そして、このことは、甲2の【0011】の「前記硬化性重合体組成物を硬化させる際の雰囲気としては・・・中略・・・空気もしくは窒素が好ましい。活性エネルギー線として紫外線を使用する場合の好ましい硬化条件としては、例えば、高圧水銀灯を用いて波長340~380nmの積算光量が10以上3000mJ/cm2以下となるように照射することが好ましい。」の記載からも無理なく理解できることである。
エ してみると、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(4) 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(3)のとおり、本件特許発明1が、甲2製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~5も、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) 申立人の主張について
ア 申立人は、令和8年2月25日に提出した意見書の4~8ページにおいて、甲2には、「真空紫外線照射後、」「真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させ」ることが、実質的に記載または示唆されている旨主張する。
しかしながら、甲2の段落【0035】には、硬化性重合体組成物の硬化物のタック性が無くなるまでの所定光量(mJ/cm2)の紫外線の照射回数を測定して、硬化性重合体組成物の硬化性を評価することが記載されるにとどまる。そして、(所定光量の)紫外線の照射回数をもとに硬化性を評価する場合に、照射する紫外線の種類を特定・固定しておくことは明らかである。してみると、甲2に、「真空紫外線照射後、」「真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させ」ることが、実質的に記載または示唆されているとはいえない。
イ また、申立人は、同意見書の8~16ページにおいて、真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させることは周知の技術事項であったこと、甲2製造方法発明に当該周知の技術事項を組み合わせることは、当業者であれば容易になし得ることである旨主張する。
しかしながら、上記(3)で述べたとおり、上記技術事項が周知であるとしても、甲2製造方法発明において、「真空紫外線を照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射」する構成とする動機付けが存在しない。
したがって、申立人の主張を採用することはできなない。
第7 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 明確性要件違反
(1) 明確性要件の判断基準
特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 明確性要件についての判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5の記載は上記第3のとおりである。そして、請求項1~5の記載自体は明確であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。
よって、本件特許発明1~5については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3) 申立人の主張について
ア 申立人は、申立書の35ページにおいて、「しわ状」の定義について記載されていないため、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である旨主張する。
しかしながら、申立人が申立書35ページで述べているとおり、「しわ」とは、「皮膚・紙・布などの表面に細かい筋目の縮みよったもの。」(広辞苑第七版、株式会社岩波書店)であるから、「しわ状」とは、「表面に細かい筋目の縮みよった」状態をいうものと理解できる。
イ また、申立人は、令和7年7月7日に提出した意見書の21ページにおいて、「しわ状の凹凸構造」が、表面の「粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)」及び「算術平均高さ(Sa)」で特徴付けられる構造をさらに限定するための発明特定事項といえるのかについて、合理的な説明がない旨主張する。
しかしながら、「粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)」や「算術平均高さ(Sa)」は、基材の表面をX-Y平面、基材法線方向をZ方向とした場合において、基材のX-Z断面あるいはY-Z断面における単位曲線の平均長さや、Z方向の大きさを表すJIS規格で規定されている指標であるのに対し、「しわ状」の有無は、本願明細書の【0009】等の記載に照らせば、X-Y平面上における「表面に細かい筋目の縮みよった」状態の有無を指すといえる。そうしてみると、「粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)」及び「算術平均高さ(Sa)」と、「しわ状」は、それぞれ独立した指標といえるから、「しわ状の凹凸構造」が、表面の「粗さ曲線要素の平均長さ(Rsm)」及び「算術平均高さ(Sa)」で特徴付けられる構造をさらに限定するための発明特定事項ということができる。
ウ さらに、申立人は、令和7年7月7日に提出した意見書の21~24ページにおいて、「しわ状構造」がパラメータ等で記述困難とはいえない旨主張する。
しかしながら、明確性要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、申立人のその他のいずれの主張も、上記(2)の判断を左右するものではない。
2 サポート要件違反
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
(2) サポート要件についての判断
本件特許明細書の段落【0005】には、発明が解決しようとする課題として、「基材上に艶消し性と硬度に優れた硬化膜を有する積層体の製造方法を提供すること」が記載され、同段落【0006】及び【0007】には、「基材上に(メタ)アクリレートを含有する硬化性組成物を積層し、真空紫外線を照射して当該組成物を硬化させて、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜を形成する」ことにより、上記課題を解決できることが記載されている。そして、そのことは、同段落【0143】~【0168】【表2】に記載された実施例1~6及び比較例1~2の評価結果によっても裏付けられている。
そうすると、本件特許発明は、当業者が上記課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有し、さらに限定するものであるから、当然発明の課題を解決できると認識できる。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件に適合する。
(3) 申立人の主張について
申立人は申立書38~52ページにおいて、本件特許発明はサポート要件を満たさない旨、縷々主張するが、サポート要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、申立人のいずれの主張も、上記(2)の判断を左右するものではない。
3 実施可能要件違反
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1~5は、上記第3のとおり「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法2条3項2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許明細書の段落【0009】には、「積層体の製造方法」として、「基材上に(メタ)アクリレートを含有する硬化性組成物を積層し、真空紫外線を照射して当該組成物を硬化させる。硬化性組成物の塗膜に真空紫外線を照射することにより、塗膜の表面側が先に硬化して硬化被膜が形成され、その後、塗膜の内部が硬化すると、表面側の硬化塗膜が座屈することで、表面にしわ状の凹凸構造(非平滑構造)を有する硬化膜が形成する」こと、同【0060】には、「硬化性組成物に配合する(メタ)アクリレート」として、「しわ状の凹凸構造を形成しやすいという観点から、単官能あるいは二官能(メタ)アクリレートが好ましい」こと、同【0064】には、「硬化性組成物中の(メタ)クリレートの含有量」が、「不揮発性分に対して、通常10質量%以上」の場合、「しわ状の凹凸構造が形成しやすくなり、また硬度にも優れる硬化膜を形成することができる」こと、同【0152】~【0168】【表2】には、本件特許発明1の要件を満たす積層体の材料組成及び製法が実施例として具体的に記載されている。
してみると、これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1~5に係る発明の方法を実施することができるものといえる。
よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1~5について、当業者が実施できる程度に明確且つ十分に記載されており、実施可能要件を満たすということができる。
(3) 申立人の主張について
申立人は申立書53~54ページにおいて、本件特許発明1~5に係る発明について、実施可能要件を満たしていない旨を縷々主張するが、実施可能要件については、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであって、申立人のいずれの主張も、上記(2)の判断を左右しない。
したがって、出願人の意見は採用しない。
4 甲1を主引例とした進歩性欠如
(1) 甲1発明
上記第6の1(3)の記載を総合すると、甲1には、実施例1として示される、以下の「ナノ複合コーティング剤でプラスチック表面をコーティングする方法」の発明(以下「甲1製造方法発明」という。)が記載されているものと認められる。
「HDDA、SiOxナノ粒子を含有するナノ複合コーティング剤を、60℃または90℃に予熱したサンプルプレートに平均コーティング厚さ7~9μmで塗布し、残留酸素含有量が70ppm未満の不活性化照射トンネル内で、4.5mJ・cm-2の172nmエキシマVUV線量によって、コーティングの表面をマイクロシワ加工し、その後、中圧水銀ランプからの800mJ・cm-2のUV線量でコーティング全体を最終硬化させる、
ナノ複合コーティング剤でプラスチック表面をコーティングする方法。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 基材上に(メタ)アクリレートと粒子を含有する硬化性組成物を積層すること
甲1製造方法発明の「HDDA」及び「SiOxナノ粒子」は、それぞれ、本件特許発明1の「(メタ)アクリレート」及び「粒子」に相当する。また、甲1製造方法発明は、「ナノ複合コーティング剤を」、「サンプルプレートに」「塗布」しているから、本件特許発明1の、「基材上に(メタ)アクリレートと硬化性組成物を積層し」という要件を満たす。
(イ) 積層体の製造方法
上記(ア)によれば、本件特許発明1と甲1製造方法発明は、「積層体の製造方法」である点で一致する。
(ウ) 真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して、しわ状の凹凸構造を形成すること
甲1製造方法発明は、「4.5mJ・cm-2の172nmエキシマVUV線量によって、コーティングの表面をマイクロシワ加工し、その後、中圧水銀ランプからの800mJ・cm-2のUV線量でコーティング全体を最終硬化させる」から、本件特許発明1の「真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させて」「しわ状の凹凸構造が」「観察される硬化膜を形成して」という要件を満たす。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。
(ア) 一致点
「基材上に(メタ)アクリレートと粒子を含有する硬化性組成物を積層し、真空紫外線を照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させて、表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜を形成して積層体を得る、積層体の製造方法。」
(イ) 相違点
(相違点1-1-1)
硬化膜が、本件特許発明1は、「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」のに対し、甲1製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-1-2)
積層体が、本件特許発明1は、「全光線透過率が50%以上である」のに対して、甲1製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-1-3)
基材上に塗布される硬化性組成物が、本件特許発明1は、「不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する」のに対して、甲1製造方法発明は、そのように特定されていない点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点1-1-3について検討する。
(ア) 本件特許明細書の段落【0105】には、「基材上に塗布する際の作業性を向上させる目的で、硬化性組成物中に有機溶剤を必要に応じて配合すること」が記載され、「有機溶剤」として、「芳香族系溶剤」、「ケトン系溶剤」、「エーテル系溶剤」、「エステル系溶剤」、「アミド系溶剤」、「セロソルブ系溶剤」、「アルコール系溶剤」、「ハロゲン系溶剤」が挙げられている。
(イ) 甲1の段落[0014]及び[0036](TABLE 1)には、ナノ複合コーティング剤に反応性希釈剤を含有させること、また、同段落[0026]には、バインダーマトリックスが反応性希釈剤の部分を有することが記載されている。
してみると、甲1製造方法発明の「反応性希釈剤」(「HDDA」)は、反応によりバインダーマトリックスを構成する材料であるから、上記(ア)で例示される、本件特許発明1の「有機溶剤」に相当するとはいえない。そうすると、甲1製造方法発明の「ナノ複合コーティング剤」の組成からみて、相違点1-1-3は実質的な相違点である。
(ウ) また、甲1には、上記(ア)で例示される有機溶剤に相当する材料が開示されていない。
さらに、甲1の段落[0006]には、「DE 10207401」に開示された「透明コーティング剤」は「無溶剤ナノ複合コーティング剤」であること、同段落[0027]には、甲1の「ナノ複合コーティング剤」が「DE 10207401」に類似した方法で調製されることが記載されている。
してみると、甲1製造方法発明の「ナノ複合コーティング剤」は、「無溶剤」で調製されることが前提であるといえるから、甲1製造方法発明の「ナノ複合コーティング剤」に、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有」させる動機付けはない。
エ 申立人の主張について
申立人は、令和7年7月7日に提出した意見書8ページにおいて、基材上に塗布する際の作業性を向上させる目的で、硬化性組成物の粘度を低下させるために有機溶剤や反応性希釈剤を添加することは、周知技術に過ぎない旨主張する。
しかしながら、上記(2)で述べたとおり、甲1製造方法発明の「反応性希釈剤」(「HDDA」)は、本件特許発明1の「有機溶剤」に相当するものではなく、また、甲1製造方法発明の「ナノ複合コーティング剤」は、「無溶剤」で調製されることが前提であるから、甲1製造方法発明の「ナノ複合コーティング剤」に、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有」させる動機付けが存在しない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
オ 小括
したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~5も、甲3発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
5 甲3を主引例とした進歩性欠如
(1) 甲3号証の記載及び甲3発明
ア 甲3の記載
甲3には、以下の記載がある。
「【実施例】
【0077】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例及び比較例のフィルムの原料及び物性の評価方法は、以下の通りである。
【0078】
[原料]
ウレタンプレポリマー:大日精化工業(株)製、ダイアロマーSP-3035
ACA:(株)ダイセル製、サイクロマーP(ACA)Z321M、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させたアクリル樹脂、溶剤として1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)を含有、固形分40重量%
CAP1:イーストマン社製、CAP482-0.5、セルロースアセテートプロピオネート、ポリスチレン換算数平均分子量25,000
CAP2:イーストマン社製、CAP482-20、セルロースアセテートプロピオネート、ポリスチレン換算数平均分子量75,000
DPHA:ダイセル・サイテック(株)製、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート
PETIA:ダイセル・サイテック(株)製、ペンタエリスリトールトリアクリレート
TMPTA:ダイセル・サイテック(株)製、トリメチロールプロパントリアクリレート
EB7100:ダイセル・サイテック(株)製、多官能アクリル系UV硬化モノマー
Z7501:JSR(株)製、デソライトZ7501、ナノシリカ粒子を含む多官能アクリル系UV硬化モノマー
U15HA:新中村化学工業(株)製、ウレタンアクリレート
開始剤1:BASF社製、イルガキュア(Irgacure)184
開始剤2:BASF社製、イルガキュア(Irgacure)907
ビーズ:東洋紡績(株)製、FH-S005(平均粒子径5μm)、FH-S010(平均粒子径10μm)、FH-015(平均粒子径15μm)
・・・(略)・・・
【0091】
実施例3~9
表1に示す成分を、表1に示す割合になるように秤量し、遮光瓶に入れ混合した。なお、アクリル樹脂とセルロースアセテートプロピオネートとは非相溶であり、上記溶液は濃縮とともに相分離性を示す。上記溶液を、所定のワイヤーバーを用いてトリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、室温中で5秒間放置し、所定温度に調整した防爆オーブンにて所定時間乾燥することにより、相分離構造を形成し、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス社製)から照射量300mJ/cm2で紫外線を約9秒間照射することにより硬化処理し、フィルムを作製した。
【0092】
実施例及び比較例のフィルムの評価結果を表2に示す。また、実施例1~3、8~9及び比較例1~2、4のフィルムの粗さ曲線及び表面構造を図1~8に示す。
【0093】
【表1】
[図:0001437356000013.jpg]
【0094】
【表2】
[図:0001437356000014.jpg]
」(当合議体注:【0093】【表1】及び【0094】【表2】は、便宜のため、時計回りに90°回転させた。)
イ 甲3発明
上記アの記載を総合すると、甲3には、実施例3として示される、以下の「表面フィルム」の製造方法の発明(以下「甲3製造方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「 ACA((メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体のカルボキシル基の一部に、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチルアクリレートを付加させたアクリル樹脂、溶剤として1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)を含有、固形分40重量%)11.8重量部、CAP2(セルロースアセテートプロピオネート)1.6重量部、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)8.5重量部、PETIA(ペンタエリスリトールトリアクリレート)2.1重量部、EB7100(多官能アクリル系UV硬化モノマー)1.1重量部、Z7501(ナノシリカ粒子を含む多官能アクリル系UV硬化モノマー)4重量部、開始剤0.7重量部、MEK50重量部、1-BuOH11.2重量部、MMPG9重量部を混合し、この溶液を、トリアセチルセルロースフィルム上に流延した後、室温中で放置し、乾燥し、窒素雰囲気下で、高圧水銀ランプから紫外線を照射することにより硬化処理する、
全光線透過率が90.6%、表面平均粗さSaが0.18μm、平均凸間距離Smが51.2μm、平均傾斜角θaが1.50°である、
表面フィルムの製造方法。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 基材上に(メタ)アクリレートと粒子を含有する硬化性組成物を積層すること
甲3製造方法発明は、「ACA」、「DPHA」、「PETIA」、「EB7100」及び「Z7501」「を混合し、この溶液を、トリアセチルセルロースフィルム上に流延し」ているから、本件特許発明1の「基材上に(メタ)アクリレートと硬化性組成物を積層し」という要件を満たす。
(イ) 硬化性組成物が有機溶剤を含有すること
甲3製造方法発明は、ACA(溶剤として1-メトキシ-2-プロパノール(MMPG)を含有、固形分40重量%)11.8重量部、CAP2を1.6重量部、DPHAを8.5重量部、PETIAを2.1重量部、EB7100を1.1重量部、Z7501を4重量部、開始剤を0.7重量部、MEKを50重量部、1-BuOHを11.2重量部、MMPGを9重量部混合しているところ、当該混合物における溶剤の含有量は、11.8×60重量%+50+11.2+9=77.28重量部であるから、混合物における溶剤の含有割合は、77.28÷(11.8×0.4+1.6+8.5+2.1+1.1+4+0.7)×100=340.1%となる。そうしてみると、甲3製造方法発明は、本件特許発明1の「(前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する。)」という要件を満たす。
(ウ) 積層体の製造方法
上記(ア)及び(イ)より、甲3製造方法発明は、積層体を製造しているから、本件特許発明1の「積層体の製造方法」といえる。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲3発明を対比すると、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。
(ア) 一致点
「基材上に(メタ)アクリレートと粒子を含有する硬化性組成物を積層し、当該組成物を硬化させて、積層体を得る、積層体の製造方法。
(前記、基材上に塗布される硬化性組成物は、不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する。)」
(イ) 相違点
(相違点1-3-1)
本件特許発明1は、「真空紫外線を照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して」当該組成物を硬化させているのに対して、甲3製造方法発明においては、そのように特定されていない点。
(相違点1-3-2)
硬化膜が、本件特許発明1は、「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」のに対し、甲3製造方法発明は、そのように特定されていない点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点1-3-2について検討する。
甲3には、硬化膜が、「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」ようにすることが記載されていない。また、その他の甲号証を参照しても、硬化膜が、「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」ようにする動機付けが存在しない。
エ 申立人の主張について
申立人は、申立書112~113ページにおいて、甲3に記載のフィルムは多数のしわ状の凹凸構造があるから、この点について本件特許発明1と甲3製造方法発明に相違点は存在しないし、相違点があったとしても単なる周知慣用技術の付加に過ぎない旨主張する。
しかしながら、上記(2)ウで述べたとおり、甲3に記載の「硬化膜」が、「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」ようにすることが記載されていないし、硬化膜の製造方法からみても、硬化膜の「RSm」が「1μm以上」、かつ「Sa」が「0.1μm以上」という要件を満たす蓋然性が高いともいえない。
したがって、申立人の主張を採用することはできないない。
オ 小括
したがって、その他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3) 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)ウのとおり、本件特許発明1が、甲3製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~5も、甲3製造方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
6 甲4を主引例とした進歩性欠如
(1) 甲4号証の記載及び甲4発明
ア 甲4の記載
甲4には、以下の記載がある。
「
[図:0001437356000015.jpg]
」
(合議体訳:
特許請求の範囲
1.可撓性の床材および壁材にワニスを塗る方法であって、マットワニスを形成し、床材を形成する構造上にそれを薄く規則的な層に堆積させ、紫外線照明および乾燥機(16)を用いて、ワニスを事前に高密化し、形成されたアセンブリをエキシマ型単色放射ランプ(14)下で架橋することによる表面処理のために露光する工程、続いて紫外線ランプ(15)によって架橋する第2の工程を実施し、これらの工程は、N2下の不活性雰囲気のチャンバー(13)内で実行され、その後、このようにして処理されたワニス付きの床材および壁材を移動させることを特徴とする方法。)
イ 甲4発明
上記アの記載を総合すると、甲4には、請求項1として示される、以下の「可撓性の床材および壁材にワニスを塗る方法」の発明(以下「甲4製造方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「可撓性の床材および壁材にワニスを塗る方法であって、マットワニスを形成し、床材を形成する構造上にそれを薄く規則的な層に堆積させ、紫外線照明および乾燥機(16)を用いて、ワニスを事前に高密化し、形成されたアセンブリをエキシマ型単色放射ランプ(14)下で架橋することによる表面処理のために露光する工程、続いて紫外線ランプ(15)によって架橋する第2の工程を実施し、これらの工程は、N2下の不活性雰囲気のチャンバー(13)内で実行され、その後、このようにして処理されたワニス付きの床材および壁材を移動させることを特徴とする方法。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 基材上に硬化性組成物を積層すること
甲4製造方法発明は、「マットワニスを形成し、床材を形成する構造上にそれを薄く規則的な層に堆積させ」「架橋」させているから、本件特許発明1の「基材上に」「硬化性組成物を積層し」という要件を満たす。
(イ) 真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して組成物を硬化させること
甲4製造方法発明は、「ワニスを事前に高密化し、形成されたアセンブリをエキシマ型単色放射ランプ(14)下で架橋することによる表面処理のために露光する工程、続いて紫外線ランプ(15)によって架橋する第2の工程を実施」するから、本件特許発明1の「真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させて」という要件を満たす。
(ウ) 積層体の製造方法
上記(ア)及び(イ)より、甲4製造方法発明は、積層体を製造しているから、本件特許発明1の「積層体の製造方法」といえる。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲4製造方法発明を対比すると、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。
(ア) 一致点
「基材上に硬化性組成物を積層し、真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させて、積層体を得る、積層体の製造方法。」
(イ) 相違点
(相違点1-4-1)
硬化性組成物が、本件特許発明1は、「(メタ)アクリレートと粒子を含有する」のに対し、甲4製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-4-2)
硬化膜が、本件特許発明1は、「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」のに対し、甲4製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-4-3)
積層体の全光線透過率が、本件特許発明1は「50%以上」であるのに対し、甲4製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-4-4)
基材上に塗布される硬化性組成物が、本件特許発明1は、「不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する」のに対して、甲4製造方法発明は、そのように特定されていない点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点1-4-2について検討する。
上記5(2)ウで検討したのと同様の理由により、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 申立人の主張について
申立人は、申立書125~126ページにおいて、甲4に記載されたプロセスと本件特許発明のプロセスは、エキシマ光を用いた2段階照射である点で共通するから、甲4製造方法発明において、「表面にしわ状の凹凸構造」が形成されることは明らかである旨主張する。
しかしながら、本件特許明細書の段落【0060】に、「使用する(メタ)アクリレートによっては、しわ状の凹凸構造が形成しにくくなる場合があるため、使用する化合物種や配合割合には注意を要する」と記載されているとおり、「しわ状の凹凸構造」の形成には、紫外線の照射条件だけでなく、硬化組成物の材料組成も依存してくることは明らかである。そして、甲4の記載からは、硬化物の材料組成が明らかでなく、甲4の記載内容をもって、甲4製造方法発明において、「表面にしわ状の凹凸構造」が形成される蓋然性が高いとはいえない。
したがって、申立人の主張を採用することはできしない。
(3) 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲4製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~5も、甲4発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
7 甲5を主引例とした進歩性欠如
(1) 甲5号証の記載及び甲5発明
ア 甲5の記載
甲5には、以下の記載がある。
(ア) 「
[図:0001437356000016.jpg]
[図:0001437356000017.jpg]
」
(合議体訳:
[0101]実施例1~3
[0102]ウレタンアクリレートオリゴマー(分子量:2,240)60重量部、1,3-アミルアミン(1,3-dimethylamylamine)22~27重量部、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート5~15重量部、開始剤として1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(1-hydroxycyclohexyl phenyl ketone)3重量部、ならびに充填剤としてコロイダルシリカ(平均径:3~7μm)を含む組成物を、横15cm×縦30cmのグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG)基材に塗布し、図1に示したような構造の光硬化装置に固定した。その後、下記表1に示すように20±1m/minの移動速度で基材を移動させながら段階的に光照射を行って積層フィルムを製造した。このとき、前記硬化層の平均厚さは、5±2μmであった。
[0103]
[図:0001437356000018.jpg]
)
イ 甲5発明
上記(1)の記載を総合すると、甲5には、実施例1として示される、以下の「積層フィルム」製造方法の発明(以下「甲5製造方法発明」という。)が記載されていると認められる。
「 ウレタンアクリレートオリゴマー、1,3-アミルアミン、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、開始剤、ならびに充填剤としてコロイダルシリカ(平均径:3~7μm)を含む組成物を、グリコール変性ポリエチレンテレフタレート基材に塗布し、光硬化装置に固定し、基材を移動させながら、波長範囲172±5nm及び200~400nmの光を段階的に照射する、
表面に一定の大きさと頻度で放射状屈曲構造を含み、放射状屈曲構造は中心部から周辺部に行くほど高さが低くなるデンドライト構造を有する積層フィルムの製造方法。」
(2) 本件特許発明1について
ア 対比
(ア) 基材上に(メタ)アクリレートと粒子を含有する硬化性組成物を積層すること
甲5製造方法発明は、「トリシクロデカンジメタノールジアクリレート」、「充填剤としてコロイダルシリカ」「を含む組成物を」、「グリコール変性ポリエチレンテレフタレート基材に塗布し」ているから、本件特許発明1の「基材上に(メタ)アクリレートと硬化性組成物を積層し」という要件を満たす。
(イ) 真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射すること
甲5製造方法発明は、「波長範囲172±5nm及び200~400nmの光を段階的に照射」し、「表面に一定の大きさと頻度で放射状屈曲構造を含み、放射状屈曲構造は中心部から周辺部に行くほど高さが低くなるデンドライト構造」を積層フィルムに設けているから、本件特許発明1の「真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させて」「しわ状の凹凸構造が」「観察される硬化膜を形成して」という要件を満たす。
(ウ) 積層体の製造方法
上記(ア)及び(イ)より、甲5製造方法発明は、積層体を製造しているから、本件特許発明1の「積層体の製造方法」といえる。
イ 一致点及び相違点
本件特許発明1と甲5発明を対比すると、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。
(ア) 一致点
「 基材上に(メタ)アクリレートと粒子を含有する硬化性組成物を積層し、真空紫外線照射後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して当該組成物を硬化させて、しわ状の凹凸構造が観察される硬化膜を形成して、積層体を得る、積層体の製造方法。」
(イ) 相違点
(相違点1-5-1)
硬化膜が、本件特許発明1は、「JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm以上であり、かつISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.1μm以上である表面にしわ状の凹凸構造が硬化膜の表面の177.60μm×236.87μmの領域において観察される」のに対し、甲5製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-5-2)
積層体の全光線透過率が、本件特許発明1は「50%以上」であるのに対し、甲5製造方法発明は、そのように特定されていない点。
(相違点1-5-3)
基材上に塗布される硬化性組成物が、本件特許発明1は、「不揮発分100質量部に対して10質量部以上の有機溶剤を含有する」のに対して、甲5製造方法発明は、そのように特定されていない点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点1-5-1について検討する。
上記5(2)ウで検討したのと同様の理由により、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲5製造方法発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
エ 申立人の主張について
申立人は、令和7年7月7日に提出した意見書15ページにおいて、甲5発明の製造プロセスで無溶剤とすることは前提とされているわけではない旨主張する。
しかしながら、甲5には、組成物に有機溶剤を含有させることについて記載がない。また、甲5の段落[0093]に、「本発明に係るアクリル樹脂組成物は500cps以下の低粘度溶剤を混合しなくても作業性が容易であるので、環境親和的な利点がある」と記載されていることからみて、甲5製造方法発明の組成物に溶剤を含有させることは、環境親和的な利点を損なうという点で、阻害要因がある。
そうしてみると、甲5製造方法発明は、無溶剤とすることが前提であるといえる。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。
(3) 本件特許発明2~5について
本件特許発明2~5は、いずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。
そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲5発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~5も、甲5発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第8 むすび
本件特許の請求項1~5に係る特許は、取消しの理由及び申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701094