特許異議申立
2024-700747
硬化膜、積層体及びその製造方法
- 審判番号
- 2024-700747
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-128540
- 登録番号
- 7435343
- 請求日
- 2024年08月07日
- 審決日
- 2025年01月31日
- 公報発行日
- 2025年03月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】田▲崎▼ 聡
- 【権利者代理人】君塚 哲也
- 【権利者代理人】大浪 一徳
- 【異議申立人】青木 一幸
- 【異議申立人】真角 侑子
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.121-Y (C08J) / P1651.161-Y (C08J) / P1651.537-Y (C08J) / P1651.536-Y (C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7435343号発明「硬化膜、積層体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7435343号の請求項1~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7435343号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和2年7月29日の出願であって、令和6年2月13日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対して、令和6年8月7日に特許異議申立人青木一幸(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がなされ、同年同月21日に特許異議申立人真角侑子(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象:全請求項)がなされたものである。
以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 9月26日付け:手続補正指令書(方式)(申立人Aに対して)
同年 同月 同日付け:手続補正指令書(方式)(申立人Bに対して)
同年10月16日 :特許異議申立書の手続補正書(方式)
(申立人A)
同年 同月30日 :特許異議申立書の手続補正書(方式)
(申立人B)
第2 本件発明について
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明9」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
「[請求項1]
表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造であり、
当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である硬化膜。
[請求項2]
前記硬化膜の表面の動摩擦係数の振れ幅の平均値が0.02以上である請求項1に記載の硬化膜。
[請求項3]
前記硬化膜の表面の静止摩擦係数が0.35以下である請求項1または2に記載の硬化膜。
[請求項4]
前記凹凸構造における局部傾斜角度の平均値(θa)が2°以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の硬化膜。
[請求項5]
前記表面の60°グロスが50以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の硬化膜。
[請求項6]
基材上に請求項1~5のいずれか1項に記載の硬化膜を有する積層体。
[請求項7]
前記基材がフィルムである請求項6に記載の積層体。
[請求項8]
ディスプレイ用途に使用される請求項6または7に記載の積層体。
[請求項9]
基材上に、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物を積層して塗膜を形成し、前記塗膜にエキシマ光を照射して前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線を照射して硬化膜を形成する請求項6~8のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
1.申立人A
申立人Aは、証拠方法として下記(3)に示す甲第1号証~甲第6号証(以下、申立人Aが提出した甲第1号証~甲第6号証を、それぞれ「甲1A」~「甲6A」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当審が仮に付与した。
(1)理由1A(甲1Aに基づく進歩性欠如)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Aに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由2A(甲6Aに基づく拡大先願)
本件発明1~7及び9は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願(甲6Aに係る特許出願)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)証拠方法
甲1A:Frank Bauer,Ulrich Decker,Konstanze Czihal,Reiner Mehnert,Carsten Riedel,Marion Riemschneider,Rolf Schubert,Michael R. Buchmeiser,"UV curing and matting of acrylate nanocomposite coatings by 172 nm excimer irradiation",Progress in Organic Coatings,Elsevier B.V.,2009年3月,Vol.64,No.4,p.474-481
甲2A:国際公開第2018/221542号
甲3A:特開2013-117560号公報
甲4A:特開2014-92657号公報
甲5A:特開2020-111715号公報
甲6A:特開2021-24102号公報
2.申立人B
申立人Bは、証拠方法として下記(9)に示す甲第1号証~甲第20号証(以下、申立人Bが提出した甲第1号証~甲第20号証を、それぞれ「甲1B」~「甲20B」のようにいう。)を提出し、概略、以下の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当審が仮に付与した。
(1)理由1B(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件発明をプロダクト・バイ・プロセス・クレームでも特定していることで、表面の凹凸構造の状態が二重に規定されていること
本件発明1は構成要件Bで表面の凹凸構造の状態をプロダクト・バイ・プロセス・クレームの方式で規定している一方で、構成要件C-1、C-2、Dでも直接的に表面の凹凸構造の状態を規定していることから、当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか、又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載に接した当業者において、当該発明の内容を明確に理解することができない。本件明細書の[0022]には、表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜が形成される方法が本件発明を得るための単なる例示的な方法に過ぎないことが記載され、[0044]及び[0057]には、しわの凹凸形状の変化はそれ自体が特段の技術的意義を持つのではなく、Rsmの低下やSaの低下をもたらす手段でしかないことが記載されている。実施例及び比較例にも、本件発明の課題を解決する効果を得られるか否かは、本件発明1の請求項で指定されたパラメータを満たすか否かで決まることが記載されており、本件発明と同様の課題を本件発明と同様の各パラメータで解決でき、表面の凹凸構造の状態はパラメータを使って直接可能であることは技術常識であった(甲3B~甲5B、甲13B及び甲14Bを参照。)。本件発明1の技術的思想の特定において徒にプロダクト・バイ・プロセスクレーム形式をとる必要はなく、特許権者主張の「不可能・非実際的事情」は存在しない。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9も同様である。
イ 本件発明2に規定する「前記硬化膜の表面の動摩擦係数の振れ幅の平均値」に関し、「振れ幅」とは何を指すのか、「平均」とはどのように算出するのか、また、何の「平均」なのかその数や範囲等が不明確であること
本件発明2に「前記硬化膜の表面の動摩擦係数の振れ幅の平均値」と記載されているが、「振れ幅」とは何を指すのか、さらに、「平均」とはどのように算出するのか、その上、何の「平均」なのかが不明確であり、明細書の記載及び図面を考慮したとしても当業者と雖もその意味を一義的に理解することができない。本件発明2における「振れ幅」に関して、本件明細書の[0018]及び[0149]の記載から「振れ幅」が「ハンチング幅」であることは読み取れても、それ以上に、制御曲線における具体的に如何なる幅を指すのか、当業者と雖も理解することができない。さらに、「平均」に関して、(ア)表示されるグラフのどの範囲(横軸測定距離)までの「平均」をとっているか理解できず、(イ)「読み取った」といっても、具体的にどのような方法で「平均」を算出しているのか、また、(ウ)グラフの範囲や1グラフからの読み取り方が明らかになったとしても、結局、「振れ幅の平均値」とは、多数のサンプル(グラフ)における平均をとったのか、1つのサンプル(グラフ)の中で「平均をとった」に過ぎないのか、(エ)仮に(ウ)で多数のサンプル(グラフ)に跨る場合、その範囲はどこまでか、当業者と雖も理解することができない。よって本件発明2には明確性要件違反の取消理由が存在し、請求項2を直接又は間接的に引用する本件発明3~9にも同様に明確性要件違反の取消理由が存在する。
(2)理由2B(サポート要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同法同条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件発明の課題解決に不可欠な「しわ状の凹凸形状」の特定が不十分であること
本件発明は、その課題解決手段である、凹凸構造における、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)や算術平均高さ(Sa)など、そのように規定することの技術的意味が見出し難いパラメータを規定する、典型的なパラメータ発明に該当するものであるから、それらのサポートが厳密に判断されなければならない。特許権者は、艶消し性や書き心地、或いは摩擦係数に影響を与える「しわ状の凹凸形状」についてRSm、Ra、Sa、θaだけでは特定することができず、硬化性組成物の組成やエキシマ照射の条件が影響を与えることを自ら認めており、これにより特許を付与されている。然るところ、本件明細書の実施例で開示されたものは[0156]乃至[0159]記載のものを[0167]の[表1]の割合で含有させた、たったの5例のみであり、これを他の硬化性組成物の組成や照射条件の場合に一般化することはできない。本件発明1においては硬化性組成物の組成やエキシマ照射の条件といったその特定に不可欠と考えられる条件が全く規定されておらず、本件発明の構成は、その課題を解決できると認識できる範囲と比較して過度に広範な規定がされていることは明らかである。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9も同様である。
イ 「膜厚」は艶消し性や書き心地に大きな影響を与えることは技術常識であるところ、本件発明の構成要件では「膜厚」が規定されておらず、また、実施例の場合を一般化できないこと
「膜厚」は艶消し性や書き心地に影響を与えるが(甲1B~甲5B)、本件発明1では「膜厚」が構成要件として規定されておらず、その上、実施例においても膜厚が6(実施例1、3~5)、15(実施例2)のものしかなく、これを膜厚が無限定の場合に一般化することはできないから、本件発明1は課題を解決し得ない過大な範囲を含んでいる。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9も同様である。
ウ 本件発明は「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」ことを課題としているにも拘らず、その用途が限定されていないこと
本件発明の課題は「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」ことである(段落[0005])にも拘らず、本件発明は「・・・である硬化膜」と規定されているのみで、何らの用途の限定もされていない。本件発明は、本件発明の課題解決と全く無関係の過度に広範な用途をその権利範囲に含むものであるが、発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)自体が認識し得ないような態様を含む広いクレームに関して独占権を認めてしまうことは、発明の公開の代償として独占権を付与することにより、権利者と第三者の利益の調和を図り、以って産業の発達に寄与せんとする特許法の目的に真っ向から反するものである。
エ 本件発明に規定されたRSmやSaといったパラメータにつき、その技術的意味を認識できないこと
RSmやSaが大きすぎたり、動(静)摩擦係数等が小さすぎると、却って、艶消し性や書き心地を損なったり、その他の弊害が生じるのは技術常識であるところ(甲3B~甲5B、甲7B)、本件発明1にはRSmやSaの上限値や動(静)摩擦係数等の下限値が定められていない。また、比較例2と実施例1及び5の「書き心地」の評価、並びに実施例4と比較例2の「艶消し性」の評価から、動摩擦係数、RSm及びSaに関し本件発明に規定された数値範囲に技術的意義がないことは明らかであり、実施例4と実施例1~3及び5の「艶消し性」の評価から、RSmやSaの値によって艶消しの度合いが直線的に変化する訳ではないことも理解できる。そうである以上、本件実施例でサポートされているのは、せいぜい、実施例1~5のそれぞれの1点であって、RSmやSaの数値範囲につき、具体性のある連続的な数値範囲の境界値として認識することはできない。さらに、本件発明1は、請求項1に規定された境界点付近でサポートされているとは言い難く、本件発明1で規定された境界点は何ら技術的意義をもたないことから、その数値範囲と効果との関係を認識できるとはいえない。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9も同様である。
以上のことから、本件発明に規定する各種パラメータに関し、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとは認められず、その意味でサポート要件を充足しない。
(3)理由3B(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件発明1~9についての特許は同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア プロダクト・バイ・プロセスクレームについて
理由1Bアにおいて述べたとおり、本件発明は明確でなく、その技術的範囲を当業者も理解することができず、過度の試行錯誤を要することなく本件発明1の実施をすることができるとは認められない。請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9も同様である。
イ 動摩擦係数の振れ幅の平均値について
理由1Bイにおいて述べたとおり、「振れ幅の平均値」の意味を当業者も理解することができず、過度な試行錯誤を要することなく本件発明2の実施をすることができるとは認められない。請求項2を直接又は間接的に引用する本件発明3~9も同様である。
ウ 本件発明に規定されたRSmやSaといったパラメータについて
理由2Bエにおいて述べたとおり、例えば、実施例4は「艶消し性」の評価が劣り課題を解決していないが、実施例4と実施例2の組成を比較したとき、実施例4がB4、実施例2がB1を使用している以外はほぼ同じ組成であり、B4とB1は2官能のアクリレートである点で同じである。したがって、当業者は、たとえB1を使用すればよいことが分かったとしても、それ以外の材料としてどのような材料を使用すればよいのか理解することができず、過度な試行錯誤を要することなく本件発明1の実施をすることができるとは認められない。
また、理由2Bエにおいて述べたとおり、本件発明の実施例では、ごく限られた硬化性組成物に関してキセノンによるエキシマ光を所定の照射条件で照射した場合しか記載されておらず、それ以外の場合の条件として、どのような組成物に対しどのような照射条件であれば本件発明1の構成を充足する硬化膜が得られるか、当業者と雖も理解することができず、過度な試行錯誤を要することなく本件発明1の実施をすることができるとは認められない。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9も同様である。
(4)理由4B(甲1Bに基づく進歩性欠如)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1Bに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)理由5B(甲2Bに基づく進歩性欠如)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲2Bに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(6)理由6B(甲3Bに基づく進歩性欠如)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲3Bに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(7)理由7B(甲4Bに基づく進歩性欠如)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲4Bに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(8)理由8B(甲5Bに基づく進歩性欠如)
本件発明1~9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲5Bに記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(9)証拠方法
甲1B:欧州特許出願公開第2154184号明細書
甲2B:韓国公開特許第10-2020-0031282号公報
甲3B:特開2009-151476号公報
甲4B:特開2020-111715号公報
甲5B:特開2014-92657号公報
甲6B:株式会社イマダ,"[実験室レポート]秋は集中の季節!鉛筆、ボールペン、サインペンなど筆記具の書き心地と摩擦の関係を「大披露」!",フォースチャンネル,[online],株式会社イマダ,2021年9月30日,[2024年8月21日印刷],インターネット<URL:https://force-channel.com/post_1395/>
甲7B:国際公開第2017/099036号
甲8B:特開2018-108699号公報
甲9B:特開2017-206587号公報
甲10B:特開平4-299139号公報
甲11B:欧州特許出願公開第3453463号明細書
甲12B:特開2019-207381号公報
甲13B:特許第7363034号公報
甲14B:特許第6224883号公報
甲15B:森本幸裕,"VUV~UV光の発生方法とその応用",ライトエッジ,[online],ウシオ電機株式会社,2010年8月,No.33,[2024年8月21日印刷],インターネット<URL:https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/201008/100396.html>
甲16B:株式会社キーエンス,"面粗さ(ISO 25178)",粗さ入門.com,[online],キーエンス株式会社,2024年,[2024年8月21日印刷],インターネット<URL:https://www.keyence.co.jp/ss/products/microscope/roughness/surface/>
甲17B:特開2019-64121号公報
甲18B:株式会社RE ものづくりウェブ事務局,"摩擦力と摩擦係数",ものづくりウェブ,[online],株式会社RE,2024年,[2024年8月21日印刷],インターネット<URL:https://d-engineer.com/Mechanics/masatu.html>
甲19B:toishi.info,"表面粗さ記号の換算表について:Ra、Rz、Rmax(Rzjis)",工業情報とメーカー実務の百科事典,[online],toishi.info,2009年9月14日更新,[2024年8月21日印刷],インターネット<URL:https://www.toishi.info/faq/question-seven/ra-rz-rmax-rzjis.html>
甲20B:JIS B 0601:2013,[online],一般財団法人日本規格協会,2013年改訂,[2024年8月21日印刷],インターネット<URL:https://kikakurui.com/b0/B0601-2013-01.html>
第4 当審の判断
当審は、申立人A及び申立人Bが申し立てたいずれの特許異議申立理由によっても、本件発明1~9についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。
1.理由1A(甲1Aに基づく進歩性欠如)について
(1)甲1Aに記載された事項
甲1Aには以下の事項が記載されている。申立人Aによる翻訳文のみ示す。
(1A-1)「1.緒言
・・・UV/EB硬化では、全ての成分(樹脂バインダーとしてのオリゴマーおよび反応性希釈剤としてのモノマー)が完全に反応性で、このようないわゆる100%系の膜形成の際には、従来の溶媒含有コーティングと異なり、塗膜厚みにおける損失は無視できる程度である。UV硬化は、通常、水銀アークランプにより開始されるが、これにより不必要な赤外線が生成され、硬化塗膜に熱損傷をもたらすことがある。エキシマランプは、可視光線および赤外線を放射することなく、単色かつ短波長の強力な光を発し、光重合反応に新しい可能性を切り開くものである[2~4]。たとえばアクリレートは、約220~240nm末満の波長の光線を強く吸収する。したがって、アクリレートは、短波長紫外線への暴露で直接励起でき、重合プロセスは上記波長での光子透過深さに限定される。
・・・このようなUV硬化性100%系の表面粗さを、UV硬化プロセスに単色172nmエキシマランプと水銀アークランプとを組み合わせることにより得ることができる[19~2l]。高エネルギーエキシマ光子の透過深さが浅いため、架橋反応が表面近傍層に限定され、これが皺状構造に変換される。水銀アークランプからの多色紫外線照射により、最終的に全体硬化(through cure)される。この皺状表面テクスチャは、低反射性塗膜や滑り止め表面、審美的テクスチャ仕上げに適用される可能性がある。本研究は、シリカナノ粒子とコランダムマイクロ粒子との両方により強化された木材コーティングを上述のデュアルUVランプシステムによって硬化させ、耐摩耗性、全体的な硬度および光沢度に特徴がある。また、塗膜のアクリレート転化率、表面エネルギー、および耐化学性に対して172nmエキシマ照射が及ぼす影響を検討する。」(p.474-475「1.Introduction」)
(1A-2)「2.1. 原材料
たとえばメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MEMO)およびビニルトリメトキシシラン(VTMO)である複数のトリアルコキシシランを、平均粒径がそれぞれ12nmおよび40nmであるナノサイズシリカAerosil200およびOX50(すべてEvonik Degussa社製)の修飾に使用した。耐摩耗性をさらに向上させるため、微細コランダム粉末(粒径3~30μm、Treibacher Schleifmittel社)を使用した。たとえばEB1290およびEB5129である脂肪族ウレタンアクリレート、テトラヒドロキシエチルペンタエリトリトール・テトラアクリレート(SR494)、および1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)をCYTEC Surface Specialties社から購入した。」(p.475「2.1. Materials」)
(1A-3)「2.4. ポリアクリレートナノコンポジットの作製
先の研究により、フィラー含有量が15重量%を超える場合のみ、耐摩耗性を有意に向上できることが示された[23]。したがって、典型的なアクリレート剤は、15~35重量%のナノサイズシリカと、15重量%の微細コランダムと、2重量%の光開始剤(Darocure 1173(Ciba社))とを含有していた。ロールコータを使用して、100μm以下の膜をパーケット上およびポリマープレート上に作製した。視覚的に惹きつける膜を作製するためには、単一の厚い層を設けるよりも、薄膜の積層を設けてから予備硬化を行う方が効果的であることが分かっている。濡れた塗膜は、通常のように従来の中圧Hgランプ(120Wcm-1)を用いて窒索フラッシング下で硬化したが、予備硬化はUVランプの低出力で空気下で行った。172nm光線には、放射発散度5~25mWcm-1のエキシマランプ(Heraeus Noblelight社)を使用した。空気中で172nm光子によりオゾンが形成されるため、また、ラジカル重合効率向上のため、UVランプを窒索でパージして、酸素含有量を100ppm未満とした。」(p.475「2.4. preparation of polyacrylate nanocomposites」
(1A-4)「3.2. 172nmエキシマ照射の塗膜艶消し処理への応用
粗い表面からの光の拡散反射により、塗膜の外観が艶消しになる。このような表面粗さは、表面近傍層に適切なフィラー粒子が優先的に配置されること、および/または、塗膜が適切に表面収縮することによって得られる。172nm光子のアクリレート中の透過深さが浅いことにより、薄い表面層のみが架橋されて、濡れ塗膜上に固化皮膜が形成される。硬化度、すなわち固化および収縮の度合における深度勾配により生じる内部応力が、表面の皺となって現れうる。・・・図4に示すように、多色水銀UVランプによる硬化と、単色172nmエキシマランプとHgUVランプとの組み合わせによる硬化との実施の際、塗膜の表面反射挙動に有意な変化があり、光沢度(60°)はそれぞれ87ユニットおよび4ユニットという結果である。」(p.476「3.2. Application of 172nm excimer irradiation for matting of coatings」)
(1A-5)「4.結言
UV硬化性アクリレート樹脂のフリーラジカル重合と表面修飾シリカナノ粒子とをベースとした耐擦傷性・耐摩耗性塗膜について、短波長紫外線照射がアクリレート転化率および表面特性に及ぼす影響を研究した。単色172nmエキシマランプと多色水銀UVランプからなるデュアルランプセットアップを用いて、塗膜の微細構造表面を得た。表面粗さによって起こる拡散光反射により、高い耐摩耗性を維持しつつ、0.5ユニット(60°)という低光沢度の艶消し効果とソフトタッチ感が創出された。特に、UV艶消し処理ナノ/マイクロハイブリッド複合材料は非常に自然な光学的外観を備え、高耐久性のパーケットフローリングやPVCフローリングの用途に適していると思われる。」(p.480「4. Conclusions」)
(2)甲1Aに記載された発明
甲1Aの「1.緒言」(摘記1A-1)には、「本研究は、シリカナノ粒子とコランダムマイクロ粒子との両方により強化された木材コーティングを上述のデュアルUVランプシステムによって硬化させ、耐摩耗性、全体的な硬度および光沢度に特徴がある」と記載されており、「2.1. 原材料」(摘記1A-2)及び「2.4. ポリアクリレートナノコンポジットの作製」(摘記1A-3)には、所定の原材料を所定の重量割合で用い、「ロールコータを使用して、100μm以下の膜をパーケット上およびポリマープレート上に作製」し、エキシマランプ及び中圧Hgランプで硬化させたことが記載され、「3.2. 172nmエキシマ照射の塗膜艶消し処理への応用」(摘記1A-4)には、「172nm光子のアクリレート中の透過深さが浅いことにより、薄い表面層のみが架橋されて、濡れ塗膜上に固化皮膜が形成される。硬化度、すなわち固化および収縮の度合における深度勾配により生じる内部応力が、表面の皺となって現れうる」、及び「図4に示すように、多色水銀UVランプによる硬化と、単色172nmエキシマランプとHgUVランプとの組み合わせによる硬化との実施の際、塗膜の表面反射挙動に有意な変化があり、光沢度(60°)はそれぞれ87ユニットおよび4ユニットという結果である」と記載されている。
そうすると、甲1Aには以下の発明が記載されている。
「平均粒径がそれぞれ12nm及び40nmであるナノサイズシリカ、粒径3~30μmである微細コランダム粉末、脂肪族ウレタンアクリレート、テトラヒドロキシエチルペンタエリトリトールテトラアクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレートを含有する光硬化性組成物の膜をポリマープレート上に作製し、単色172nmのエキシマランプの光による表面硬化の後、多色水銀UVランプの光による全体硬化を行うことにより得られる、表面に皺を有し、60°での光沢度が4ユニットである硬化膜。」(以下、「甲1A発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1A発明との対比
本件発明1と甲1A発明とを対比すると、甲1A発明における「表面に皺を有し」及び「硬化膜」は、それぞれ本件発明1における「表面にしわ状の凹凸構造を有する」及び「硬化膜」に相当し、甲1A発明における「平均粒径がそれぞれ12nm及び40nmであるナノサイズシリカ、粒径3~30μmである微細コランダム粉末、脂肪族ウレタンアクリレート、テトラヒドロキシエチルペンタエリトリトールテトラアクリレート及び1,6-ヘキサンジオールジアクリレートを含有する光硬化性組成物」及び「膜」は、それぞれ本件発明1における「(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物」及び「塗膜」に相当し、甲1A発明における「単色172nmのエキシマランプの光による表面硬化の後、多色水銀UVランプの光による全体硬化を行うことにより得られる、表面に皺を有し」は、甲1Aの「3.2. 172nmエキシマ照射の塗膜艶消し処理への応用」(摘記1A-4)における「172nm光子のアクリレート中の透過深さが浅いことにより、薄い表面層のみが架橋されて、濡れ塗膜上に固化皮膜が形成される。硬化度、すなわち固化および収縮の度合における深度勾配により生じる内部応力が、表面の皺となって現れうる」という記載を参酌すると、本件発明1における「エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造であり」に相当する。
そうすると、両者は、
「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造である、硬化膜。」
の点で一致し、
相違点甲1A-1:本件発明1は「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」と特定するのに対し、甲1A発明においてはそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、相違点甲1A-1について検討する。
イ 相違点甲1A-1について
甲1Aの「4.結言」(摘記1A-5)には、硬化膜について、「UV艶消し処理ナノ/マイクロハイブリッド複合材料は非常に自然な光学的外観を備え、高耐久性のパーケットフローリングやPVCフローリングの用途に適している」と記載されているが、相違点甲1A-1に係るRSm、Sa及び動摩擦係数の測定値は記載されておらず、甲1Aにおける硬化膜の製造方法等についての記載に基づいてそれらの値を求めることもできない。また、他の証拠を参照しても、当業者が甲1A発明の表面をRSm、Sa及び動摩擦係数が相違点甲1A-1に係る特定の数値範囲の組合せであるような凹凸構造にする動機は見いだせない。そして、本件発明1の「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」という効果は、甲1A及び他の証拠から当業者が予測することができない顕著な効果である。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは、相違点甲1A-1に係るRSm、Sa又は動摩擦係数の値が甲2A~甲4Aに記載されている旨を主張している。しかし、甲1A発明の硬化膜が「パーケットフローリングやPVCフローリングの用途に適している」(甲1Aの「4.結言」(摘記1A-5))とされるものであるのに対し、甲2A~甲4Aにはフローリングの表面の凹凸形状は記載されていないから、当業者が甲1Aと甲2A~甲4Aとを組み合わせる動機はない。また、甲1A発明の硬化物表面の凹凸を、RSm、Sa及び動摩擦係数の3つの観点によって、それらが相違点甲1A-1に係る特定の3つの数値範囲の組合せを持つものに特定することは、いずれの証拠にも記載されていないことであり、エキシマ光の照射及び真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって形成される座屈形状を有しかつ前記3つの数値範囲が特定の組合せを持つ本件発明1が「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」という効果を発揮することも、当業者が予測し得ないことである。
よって、申立人Aの主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1は甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~9は、いずれも甲1A発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)理由1A(甲1Aに基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~9は、いずれも甲1Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由1A(甲1Aに基づく進歩性欠如)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
2.理由2A(甲6Aに基づく拡大先願)について
(1)引用出願
甲6Aに係る特許出願:特願2019-141002号(特開2021-24102号公報)
甲6Aに係る特許出願(以下、「甲6A出願」という。)は、本件特許の出願日前である令和元年7月31日に出願され、その後、令和3年2月22日に出願公開されたものであり、しかも、本件特許に係る出願の発明者は甲6A出願の発明者と同一でなく、また、本件特許に係る出願の出願時において、その出願人は甲6A出願の出願人と同一でもない。
(2)甲6A出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「甲6A出願の当初明細書等」という。)に記載された事項
甲6A出願の当初明細書等には、以下の事項が記載されている。
(6A-1)「[請求項1]
基材と、
前記基材の表面上に設けられ、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとを含有するエキシマ光照射物である表面層と
を備え、
前記表面層の光沢度が13以下であり、表面粗さSaが0.2μm以上であることを特徴とする化粧シート。
・・・
[請求項3]
基材を準備する工程と、
前記基材の表面に、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと光重合開始剤とを含有する塗料を塗布し、前記基材の表面上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にエキシマ光を照射する工程と、
前記塗膜に紫外線を照射して該塗膜を硬化させることにより、前記基材の表面上に表面層を形成する工程と
を少なくとも備えることを特徴とする化粧シートの製造方法。」
(6A-2)「[背景技術]
[0002]
壁面材、造作材、建具等の建装材、家具等の表面装飾、自動車内装・弱電の表装等の様々な用途で、表面装飾を施して意匠性を高めるために化粧シートが用いられている。この化粧シートとしては、例えば、基材上に低艶化(艶消し)効果を有する層が設けられたものが知られている。
・・・
[0006]
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、粒子の添加を行うことなく、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐指紋性に優れた化粧シート及びその製造方法を提供することを目的とする。」
(6A-3)「[0031]
ここで、本発明者らは、化粧シート1において、低光沢性と耐指紋性を実現できる条件を検討したところ、表面層3となる塗膜に上述のエキシマ光を照射して、塗膜をエキシマ光照射物とし、塗膜の表面にシワを形成することにより、表面層3における低光沢性と耐指紋性を両立できることを見出した。
[0032]
すなわち、塗膜にエキシマ光を照射することにより、塗膜の最表面のみに硬化が生じて、塗膜の表面と内部との間で不均一性が生じ、塗膜内部の未反応部分から塗膜成分が表面に移動するため、塗膜の表面にシワが形成され、結果として、表面層3における光沢度と表面粗さを制御することが可能になることを見出した。
[0033]
そして、本発明の化粧シート1は、上述のシワによる艶消し効果により、表面層3の表面3aにおける光沢度が13以下となるため、粒子の添加を行うことなく、低光沢性を図ることが可能になる。
[0034]
なお、ここで言う「光沢度」とは、低艶性の指標であり、JIS Z 8741:1997に準拠した方法で測定される60°光沢度のことを言う。
[0035]
また、本発明の化粧シート1は、上述のシワの効果により、表面層3の表面3aにおける光沢度が13以下になるとともに、表面粗さSaが0.2μm以上となるため、耐指紋性を向上させることが可能になる。
[0036]
なお、ここで言う「表面粗さSa」とは、ISO 25178に規定されている「三次元表面性状パラメータ(三次元の算術平均粗さ)」のことを言う。」
(6A-4)「[実施例]
[0040]
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
[0041]
化粧シートの作製に使用した材料を以下に示す。
(1)ウレタンアクリレート-1:2官能ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:EBECRYL8402)
(2)ウレタンアクリレート-2:2官能ウレタンアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:AH-600)
(3)ウレタンアクリレート-3:3官能ウレタンアクリレート(粘度:230mPa・s(25℃)、光開始剤:5%添加)
(4)ウレタンアクリレート-4:6官能ウレタンアクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:UA-306H)
(5)ウレタンアクリレート-5:10官能ウレタンアクリレート(ダイセル・オルネクス(株)製、商品名:KRM8452)
(6)単官能アクリレート-1:テトラヒドロフルフリルアクリレート(東京化成工業(株)製、商品名:Tetrahydrofurfuryl Acrylate)
(7)単官能アクリレート-2:エチルカルビトールアクリレート(東京化成工業(株)製、商品名:2-(2-Ethoxyethoxy)ethyl Acrylate)
(8)開始剤:アルキルフェノン系光重合開始剤(IGM Resins B.V.製、商品名:Omnirad1173)
(実施例1)
<化粧シートの作製>
まず、基材として、厚みが250μmであるRPETを準備した。次に、表1に示す各材料を配合して、表1に示す組成(質量部)を有する実施例1の塗料を準備し、この塗料を、バーコーターを用いて基材の表面上に塗布して、基材の表面上に表面層となる塗膜を形成した。
[0042]
次に、エキシマ照射装置(エム・ディ・コム社製、商品名:172nm 空冷式エキシマ照射装置(型式:MEIRA―M―1―152―H4)を用いて、窒素雰囲気下において、Xe2を放電ガスとして用いたエキシマ光(ピーク波長:172nm)を塗膜に照射した。なお、積算光量が20mJ/cm2、照射光度が40mW/cm2となるように照射した。
[0043]
そして、紫外線照射装置(アイグラフィックス(株)製、紫外硬化用高圧水銀ランプ4kW(H04-L41))を用いて、塗膜に紫外線(主波長:365nm)を照射して、塗膜を光硬化させることにより、基材の表面上に、厚みが19.8μmである表面層を形成し、化粧シートを作製した。なお、紫外線の照射距離が15cm、ランプ移動速度が0.75m/分の条件下で紫外線照射を行い、照射量を150mJ/cm2とした。
・・・
[0054]
[表1]
[図:0001420336000001.jpg]
[0055]
[表2]
[図:0001420336000002.jpg]
・・・
[0057]
表1~表2に示すように、実施例1~18の化粧シートにおいては、表面層の光沢度が13以下であるとともに、表面粗さSaが0.2μm以上であるため、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐指紋性を向上させることが可能になる。」
(3)甲6A出願の当初明細書等に記載された発明
甲6A出願の当初明細書等の特許請求の範囲(摘記6A-1)には、
「 [請求項1]
基材と、
前記基材の表面上に設けられ、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートとを含有するエキシマ光照射物である表面層と
を備え、
前記表面層の光沢度が13以下であり、表面粗さSaが0.2μm以上であることを特徴とする化粧シート。」及び
「[請求項3]
基材を準備する工程と、
前記基材の表面に、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと光重合開始剤とを含有する塗料を塗布し、前記基材の表面上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜にエキシマ光を照射する工程と、
前記塗膜に紫外線を照射して該塗膜を硬化させることにより、前記基材の表面上に表面層を形成する工程と
を少なくとも備えることを特徴とする化粧シートの製造方法。」が記載されており、
[0006](摘記6A-2)には、甲6A出願に係る発明の課題が「粒子の添加を行うことなく、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐指紋性に優れた化粧シート及びその製造方法を提供すること」にあることが記載され、[0031]~[0036]には、請求項3に記載された化粧シートの製造方法は、「塗膜にエキシマ光を照射することにより、塗膜の最表面のみに硬化が生じて、塗膜の表面と内部との間で不均一性が生じ、塗膜内部の未反応部分から塗膜成分が表面に移動するため、塗膜の表面にシワが形成され、結果として、表面層3における光沢度と表面粗さを制御することが可能になる」ものであり、「シワによる艶消し効果により、表面層3の表面3aにおける光沢度が13以下」(60°光沢度)となり、「表面粗さSaが0.2μm以上」となることが記載されている。さらに、[0040]~[0057]には、表1~表2の材料を用いて製造された「実施例1~18の化粧シート」が、目視にて「表面に多数のシワが形成」されていることを確認でき、「表面層の光沢度が13以下であるとともに、表面粗さSaが0.2μm以上であるため、艶消し効果による低光沢性を有するとともに、耐指紋性を向上させることが可能」であったことが記載されている。
そうすると、甲6A出願の当初明細書等には以下の発明が記載されている。
「基材の表面に、2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと光重合開始剤とを含有する塗料の塗膜を形成し、前記塗膜にエキシマ光を照射した後、前記塗膜に紫外線を照射して該塗膜を硬化させることにより、表面にシワが形成された表面層が形成され、表面層の60°光沢度が13以下であり、表面粗さSaが0.2μm以上である化粧シート。」(以下、「甲6A発明」という。)
(4)本件発明1について
ア 本件発明1と甲6A発明との対比
本件発明1と甲6A発明とを対比すると、甲6A発明における「表面にシワが形成された表面層」は、本件発明1における「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜」に相当し、甲6A発明における「2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと光重合開始剤とを含有する塗料」及び「塗膜」は、それぞれ本件発明1における「(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物」及び「塗膜」に相当し、甲6A発明における「前記塗膜にエキシマ光を照射した後、前記塗膜に紫外線を照射して該塗膜を硬化させることにより、表面にシワが形成された表面層が形成され、」は、甲6A出願の当初明細書等の[0032](摘記6A-3)における「塗膜にエキシマ光を照射することにより、塗膜の最表面のみに硬化が生じて、塗膜の表面と内部との間で不均一性が生じ、塗膜内部の未反応部分から塗膜成分が表面に移動するため、塗膜の表面にシワが形成され」という記載を参酌すると、本件発明1における「エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造であり」に相当する。
そうすると、両者は、
「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造である、硬化膜。」
の点で一致し、
相違点甲6A-1:本件発明1は「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」と特定するのに対し、甲6A発明においてはそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、相違点甲6A-1について検討する。
イ 相違点甲6A-1について
甲6A出願の当初明細書等には、相違点甲6A-1に係るRSm、Sa及び動摩擦係数の測定値のうちRSm及び動摩擦係数は記載されておらず、実施例で用いられた光硬化性塗料の成分及び硬化条件等に基づいてそれらの値を求めることもできない。また、他の証拠を参照しても、甲6A発明の表面が、RSm、Sa及び動摩擦係数が相違点甲1A-1に係る特定の数値範囲の組合せであるような凹凸構造であることを導き出すことはできない。よって、相違点甲6A-1は実質的な相違点である。
ウ 申立人Aの主張について
申立人Aは、甲6A発明における硬化膜を形成する成分は本件発明1と同じであり、かつ硬化膜の製造方法も同じであるため、RSm、Sa及び動摩擦係数が本件発明1で特定された数値範囲内にある蓋然性が極めて高い旨を主張しているが、甲6A出願の当初明細書等に記載された「2~10官能ウレタンアクリレートと単官能アクリレートと光重合開始剤とを含有する塗料」及び「前記塗膜にエキシマ光を照射した後、前記塗膜に紫外線を照射して該塗膜を硬化させる」という硬化方法の組合せというだけでは、硬化条件が同じであるか不明であり、硬化した表面層のRSm、Sa及び動摩擦係数の具体的な数値を求めることはできず、また、本件特許に係る出願の出願当時における技術常識を参酌しても、硬化した表面層のRSm、Sa及び動摩擦係数が常に連動して相違点甲6A-1に係る特定の3つの数値範囲の組合せに納まるものとは認められない。さらに、甲6A出願の当初明細書等の[0002](摘記6A-2)には、化粧シートの用途として「壁面材、造作材、建具等の建装材、家具等の表面装飾、自動車内装・弱電の表装等」が記載されているが、本件特許に係る出願の出願当時における技術常識を参酌しても、これらの用途に用いられる化粧材の表面のRSm、Sa及び動摩擦係数が、必ず相違点甲6A-1に係る特定の3つの数値範囲の組合せであったとは認められない。
よって、申立人Aの主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1と甲6A発明とは同一ではない。
(4)本件発明2~7及び9について
本件発明2~7及び9は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~7及び9のいずれも甲6A発明と同一ではない。
(5)理由2A(甲6Aに基づく拡大先願)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~7及び9は、いずれも甲6A出願の当初明細書等に記載された発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由2A(甲6Aに基づく拡大先願)により本件発明1~7及び9についての特許を取り消すことはできない。
3.理由1B(明確性要件違反)について
(1)明確性要件の判断手法
特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件についての判断
本件特許の請求項1~9の記載は上記第2のとおりであり、請求項1~9の記載それ自体は明確である。また、本件明細書における技術用語の定義又は説明によって、請求項の記載が不明確になることもない。
よって、本件発明1~9については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立人Bの主張について
申立人Bは、上記第3 2.(1)ア及びイのように主張しているが、以下のとおり、いずれの主張も採用することはできない。
ア プロダクト・バイ・プロセス・クレームの方式による特定について
本件特許の請求項1及び[0020]には、「しわ状の凹凸構造」が「表面側の前記硬化被膜が座屈」して形成されることが記載されており、当該被膜の座屈は、本件特許に係る出願の出願当時の技術常識、例えば甲1A(摘記1A-4)を参酌すると、「172nm光子(エキシマ光)のアクリレート中の透過深さが浅いことにより、薄い表面層のみが架橋されて、濡れ塗膜上に固化皮膜が形成される。硬化度、すなわち固化および収縮の度合における深度勾配により生じる内部応力が、表面の皺となって現れうる」という機序で生じるものであるから、本件発明1における「しわ状の凹凸構造」は本質的に不規則な形状であって、RSm、Ra等のパラメータだけでは具体的な構造又は特性を一義的に特定することが不可能・非実際的であるという事情が存在する。
また、本件特許の請求項1における「(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる」という凹凸構造の製造方法は、工程が明確に特定されているから、形成される凹凸構造を明確に特定するものである。
さらに、本件特許の請求項1における「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」というパラメータによる特定は、本件明細書の記載及び本件特許に係る出願の出願当時の技術常識を参酌すると、いずれも測定方法が明らかであり、凹凸構造の構造若しくは特性を特定する事項としてそれ自体明確なものであり、上記製造方法による特定と合わせることにより、凹凸構造の構造若しくは特性を複数の観点からより詳細に特定することに寄与するものである。
申立人Bは、本件明細書における実施例及び比較例の記載等を引用し、本件発明の課題を解決する効果を得られるか否かは、本件発明1の請求項で指定されたパラメータを満たすか否かで決まるから、本件発明1の技術的思想の特定において徒にプロダクト・バイ・プロセスクレーム形式をとる必要はないとも主張しているが、本件明細書に記載された実施例は、エキシマ光及び真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって硬化被膜が座屈して形成されてなるしわ状の凹凸構造を有していることを前提とし、さらに請求項1で指定されたパラメータが特定の値を示すものについて評価を行ったものと理解することができるから、本件発明1におけるプロダクト・バイ・プロセスクレーム形式による特定の必要性が否定されるものではない。
請求項1を直接又は間接的に引用して特定される本件発明2~9についても同様である。
イ 本件発明2に規定する「前記硬化膜の表面の動摩擦係数の振れ幅の平均値」について
本件明細書の[0149]には、実施例で採用された摩擦係数及び動摩擦係数の振れ幅の測定方法について記載されており、静止摩擦係数及び動摩擦係数の測定に用いる装置及び測定条件が特定された上で、「測定距離50mmの内、10~20mm中における1mm以下の振れ幅(ハンチング幅)の平均値を、描かれる横軸測定距離、縦軸動摩擦係数のグラフから読み取った。なお、振れ幅が小さい場合、あるいは距離が1mmより大きい振れ幅となる場合は0.02未満と判断し、その場合は「<0.02」と表記する。」と記載されているから、当業者は当該記載及び本件特許に係る出願の出願当時における技術常識を参酌することにより、本件発明2における「動摩擦係数の振れ幅」を、試験片の動摩擦係数の測定で描かれる横軸測定距離、縦軸動摩擦係数のグラフから1mm以下の振れ幅(ハンチング幅)を抽出し、振れ幅が極端に小さい箇所や大きい箇所に偏らない平均的な振れ幅を示す10~20mmの測定距離において平均値を求めたものと理解することができ、請求項2の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~9の記載についても同様である。
(4)理由1B(明確性要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~9は、いずれも特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益をもたらすほど不明確であるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由1B(明確性要件違反)により本件発明1~8及び13~21についての特許を取り消すことはできない。
4.理由2B(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件発明の課題について
本件明細書の[0005]等の記載からみて、本件発明1~5の課題は「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる硬化膜を提供すること」にあり、本件発明6~8の課題は「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる硬化膜を有する積層体を提供すること」にあり、本件発明9の課題は「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる硬化膜を有する積層体の製造方法を提供すること」にあるものと認められる。
(3)本件明細書の記載事項
本件明細書の[0009]には、「本発明の硬化膜(以下、単に「硬化膜」という)は、表面にしわ状の凹凸構造(非平滑構造)を有し、当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ動摩擦係数が0.40以下である。このような特定の構造と物性を有する硬化膜は、タッチペンによる書き心地が良く、また艶消し性も良好であるので、ディスプレイ用途、特にタッチパネル用途における筆記性を備えた防眩膜として好適である。」と記載されており、[0011]及び[0012]には、それぞれRSmが15μm以上、Saが0.20μm以上又は動摩擦係数が0.40以下であることで、硬化膜が書き心地に優れ、艶消し性にも優れたものになることが記載され、[0016]には動摩擦係数が0.40以下であることで、硬化膜の筆記の感触と滑り性の両立ができ、書き心地が良いものとなることが記載されている。また、[0021]~[0065]には、活性エネルギー線硬化性組成物の構成成分の具体例及び配合割合について記載され、しわ状の凹凸構造を形成しやすいという観点からは単官能あるいは二官能(メタ)アクリレート、中でもアルコール残基に分岐のないものが好ましく用いられ、硬化膜の耐擦傷性や硬度が向上する傾向があることからは二官能及び三官能以上の多官能(メタ)アクリレート、中でもエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレートやウレタンアクリレートが好ましく用いられることが記載されている。また、[0067]~[0071]には、硬化性組成物の塗膜及び硬化膜の製造方法について、塗布方法、加熱乾燥温度、真空紫外線等の活性エネルギー線の種類及び照射条件、真空紫外線以外の活性エネルギー線の種類及び照射条件が記載され、[0072]~[0141]には、積層体を製造するための基材、任意に設けられるプライマー層、表面機能層、裏面機能層等について記載されている。さらに、[0142]~[0169]には、2官能又は3官能以上の(メタ)アクリレート系化合物を含有する光硬化性組成物及びポリエステルフィルム基材を用いた積層体製造の実施例が記載され、実施例1~5の積層体の硬化膜はしわ状の凹凸構造を有しており、その表面は書き心地が良く艶消し性が良好であったこと、エキシマ光を照射しなかったこと以外は実施例1と同様にして製造した比較例1は、硬化膜に凹凸構造が形成されておらず、その表面は書き心地も艶消し性も悪いものであったこと、塗布液と硬化膜の膜厚を変更したこと以外は実施例1と同様にして製造した比較例2は、硬化膜にしわ状の凹凸構造を有しているが、Rsm、Saが低く書き心地が悪いものであったことが記載されている。
(4)サポート要件についての判断
本件明細書の一般記載並びにその記載を裏付ける実施例の記載に基づいて、当業者は本件明細書に記載された(メタ)アクリレートを含有する光硬化性組成物を用いて形成した塗膜に対し、エキシマ光による塗膜表面側の硬化及び真空紫外線以外の活性エネルギー線による塗膜内部の硬化を行うことによりしわ状の凹凸構造が形成されており、かつ当該凹凸構造におけるRSmが15μm以上、Saが0.20以上、動摩擦係数が0.40以下である硬化膜は、書き心地に優れ艶消し性にも優れたものになり、本件発明の課題を解決し得ると認識することができる。
そうすると、当業者は、
「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造であり、
当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である硬化膜。」
の範囲で本件発明の課題が解決されるものと理解することができるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9も、本件発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)申立人Bの主張について
申立人Bは、上記第3 2.(2)ア~エのように主張しているが、当業者は本件明細書の一般記載及び実施例の記載等を参酌することにより、上記(4)に記載した範囲で発明の課題を解決し得ると認識することができるから、本件発明1~9は、申立人Bが主張するア~エの発明特定事項を追加するまでもなく、サポート要件を満たしているといえる。
本件特許の請求項1に記載された「しわ状の凹凸構造を有する硬化膜」の製造方法は、「エキシマ光のアクリレート中の透過深さが浅いことにより、薄い表面層のみが架橋されて、濡れ塗膜上に固化皮膜が形成され、硬化度、すなわち固化および収縮の度合における深度勾配により生じる内部応力が、表面の皺となって現れ」るという共通の機序(必要であれば甲1A(摘記甲1A-4)を参照。)によって、実施例で製造されているものと同等の「しわ状の凹凸構造」をもたらすものと理解できるから、申立人Bの「課題を解決できると認識できる範囲と比較して過度に広範な規定がされている」という主張は失当である。
また、本件特許の請求項1に記載されたRSm、Ra及び表面の動摩擦係数は、いずれも本件特許に係る出願の出願当時において周知のパラメータであり、当業者は、実施例で裏付けられている値を含む「書き心地が良く艶消し性が良好」と一般記載で説明されている範囲であれば、上記「しわ状の凹凸構造」と相まって発明の課題を解決し得ると認識でき、さらに、膜厚及び用途は硬化膜の凹凸構造をさらに限定する事項ではないから、これらを特定する必要はないことも理解することができる。
よって、申立人Bの主張はいずれも採用することができない。
(6)理由2B(サポート要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件発明1~9は、いずれも発明の詳細な説明に記載したものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由2B(サポート要件違反)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
5.理由3B(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、物を生産する方法の発明における実施とは、その物を生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができること及びその方法により生産した物の使用等をすることができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができ、かつその方法により生産した物の使用等をすることができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2)本件明細書の記載事項
本件明細書には、上記4.(3)に記載した事項が記載されている。
(3)実施可能要件についての判断
当業者は、本件明細書における(メタ)アクリレートを含有する光硬化性組成物についての記載、エキシマ光による塗膜表面側の硬化及び真空紫外線以外の活性エネルギー線による塗膜内部の硬化を含むしわ状の凹凸構造を有する硬化膜の製造方法についての記載並びに実施例及び比較例の記載等に基づいて、所定のしわ状の凹凸構造を有し、かつ、RSmが15μm以上であり、Saが0.20μm以上であり、表面の動摩擦係数が0.40以下である硬化膜を製造することができ、得られた硬化膜はタッチペンによる書き心地と艶消し性に優れ、ディスプレイ用途等で使用できることを理解することができる。
そうすると、本件明細書には本件発明1の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、当業者が本件発明1の硬化膜を生産し、かつ、本件発明1の硬化膜を使用することができる程度に具体的な記載があるといえる。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2~9についても同様の記載があるといえる。
(4)申立人Bの主張について
申立人Bは、上記第3 2.(3)ア~ウのように、本件発明が明確性要件及びサポート要件を満たしていないことを前提として実施可能要件違反を主張しているが、上記3.及び4.に記載したとおり、本件発明1~9はいずれも明確性要件及びサポート要件を満たしているから、申立人Bの主張は前提に誤りがあり、また、上記(3)に記載したとおりの理由により、本件発明1~9はいずれも実施可能要件を満たしている。
よって、申立人Bの主張はいずれも採用することはできない。
(5)理由3B(実施可能要件違反)についてのまとめ
以上のことから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、特許法第36条第4項第1号に適合するものであり、それらの発明についての特許は、同法同条第4項第1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものである。
よって、理由3B(実施可能要件違反)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
6.理由4B(甲1Bに基づく進歩性欠如)及び理由5B(甲2Bに基づく進歩性欠如)について
(1)甲1Bに記載された発明
甲1Bには、その請求項1及び6に基づいて以下の発明が記載されている。申立人Bによる翻訳文により示す。
「可撓性の床材および壁材にワニスを塗る方法であって、
マットワニスを形成し、床材を形成する構造上にそれを薄く規則的な層に堆積させ、紫外線照明および乾燥機(16)を用いて、ワニスを事前に高密化し、形成されたアセンブリをエキシマ型単色放射ランプ(14)下で架橋することによる表面処理のために露光する工程、続いて紫外線ランプ(15)によって架橋する第2の工程を実施し、
これらの工程は、N2下の不活性雰囲気のチャンバー(13)内で実行され、
その後、このようにして処理されたワニス付きの床材および壁材を移動させるものである
ワニス塗布方法により得られる可撓性床および壁装材であって、ワニスと組み合わせて、以下に従う特性領域を有する、可撓性床材および壁材。
- 光沢は6゜の角度で8~20%(NF EN ISO2813)
- 粗さRa(縦方向)とRz粗さ(横方向)の組み合わせは(217,1.2)、(196,1.4)又は(155,1.4)μm(ISO4287)
- エオシン、ヨウ素、マーカー汚れに対する耐性は0~1 で評価され(NF EN 423)- PVCサポートを直径20mmのマンドレルに巻き付けても、ワニスに亀裂が生じない(NF EN 435)」(以下、「甲1B発明」という。)
(2)甲2Bに記載された発明
甲2Bには、その請求項1及び7に基づいて以下の発明が記載されている。申立人Bによる翻訳文により示す。
「基材層と、
基材層上に塗布されたアクリル樹脂組成物に、不活性雰囲気下で、300nm末満の波長の光を照射して前記組成物を活性化させる第1光照射ステップと、
活性化された組成物に、空気(air)条件下で200nm~400nm波長の光を照射して組成物を硬化させる第2の光照射ステップとを含み、
第1光照射工程は、酸素(O2)の濃度が100ppm~4,000ppmである窒素(N2)条件下で行われる、
表面に付着する点を中心部と、前記中心部から周辺部に延在する放射状屈曲構造のデンドライト状を有するアクリル樹脂組成物の硬化層とを含み、前記半径方向の屈曲構造は、表面の単位面積(lmm×lmm)あたり30から200個存在し、
動摩擦係数が4.5kgfの垂直抗力条件下で0.3以下である積層フィルム。」(以下、「甲2B発明」という。)
(3)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1B発明又は甲2B発明との対比
上記1.(3)ア及び2.(4)アにおける甲1A発明ないし甲6A発明との対比を踏まえ、本件発明1と甲1B発明とを対比すると、両者は、
「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造である、硬化膜。」
の点で一致し、
相違点甲1B-1:本件発明1は「(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物」と特定するのに対し、甲1B発明のワニスはそのように特定されない点
相違点甲1B-2:本件発明1は「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」と特定するのに対し、甲1B発明においてはそのように特定されていない点
で相違する。
また、同様に、本件発明1と甲2B発明とを対比すると、両者は、
「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造である、硬化膜。」
の点で一致し、
相違点甲2B-1:本件発明1は「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」と特定するのに対し、甲2B発明においてはそのように特定されていない点
で相違する。
事案に鑑み、上記相違点甲1B-2及び相違点甲2B-1について検討する。
イ 相違点甲1B-2及び相違点甲2B-1について
甲1B及び甲2Bのいずれも、相違点甲1B-2又は相違点甲2B-1に係るRSm、Sa及び動摩擦係数の3つを同時に測定しておらず、甲1B又は甲2Bにおける硬化膜の製造方法等についての記載に基づいて、明記されていないパラメータの値を求めることもできない。また、他の全ての証拠を参照しても、当業者が甲1B発明又は甲2B発明の表面をRSm、Sa及び動摩擦係数が相違点甲1B-2又は相違点甲2B-1に係る特定の数値範囲の組合せであるような凹凸構造にする動機は見いだせない。そして、本件発明1の「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」という効果は、甲1B、甲2B及び他の証拠から当業者が予測することができない顕著な効果である。
ウ 申立人Bの主張について
申立人Bは、相違点甲1B-2に係る動摩擦係数の値は甲2Bに記載されており、周知技術(甲3B、甲5B及び甲6B)でもあると主張し、また、相違点甲2B-1に係るRa及びRSmは甲1B、甲4B、甲3B又は甲5Bに記載されており、周知技術(甲1B、甲3B~甲5B)でもあると主張する。しかし、甲1B発明が可撓性床材および壁材に関する発明であるのに対し、甲2Bに記載された発明は「触感に優れた低光沢の化粧シート」の発明であり、甲3Bに記載された発明は「ペン入力装置用表面材及びそれを備えたペン入力装置」の発明であり、甲4Bに記載された発明は建築建材、ディスプレイ関連、加飾フィルム等の表面の視認性、意匠性等を向上する「硬化物」の発明であり、甲5Bに記載された発明は「マルチタッチディスプレイ用表面フィルム」の発明であり、甲6Bは筆記具の書き心地と摩擦の関係について記載された証拠であり、甲1B発明又は甲2B発明と他の証拠とは互いに異なる技術分野に属するものであるから、甲1B発明又は甲2B発明において他の証拠に記載された動摩擦係数、Ra又はRSmの値を持つように硬化物表面の形状を調整することは、当業者が動機付けられることではない。また、エキシマ光の照射及び真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって形成される座屈形状を有しかつ前記3つの数値範囲が特定の組合せを持つ本件発明1が「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」という効果を発揮することも、当業者が予測し得ないことである。
よって、申立人Bの主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1B発明及び甲2B発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~9は、いずれも甲1B発明及び甲2B発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)理由4B(甲1Bに基づく進歩性欠如)及び理由5B(甲2Bに基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~9は、いずれも甲1B及び甲2Bのいずれに記載された発明に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由4B(甲1Bに基づく進歩性欠如)及び理由5B(甲2Bに基づく進歩性欠如)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
7.理由6B(甲3Bに基づく進歩性欠如)、理由7B(甲4Bに基づく進歩性欠如)及び理由8B(甲5Bに基づく進歩性欠如)について
(1)甲3Bに記載された発明
甲3Bには、その請求項1、3及び4に基づいて以下の発明が記載されている。
「基材とその表面に設けられる防眩層とから構成され、防眩層がウレタン変性(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化型樹脂、透光性微粒子及び生体なじみ性重合体を含む活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が硬化されて表面に凹凸部を有するものであるペン入力装置用表面材であって、
前記防眩層の厚さが0.5~100μmであり、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、窒素レーザ、電子線加速装置、放射性元素等の線源等によって硬化された活性エネルギー線硬化型樹脂によって、ガラス板上に形成された厚さ300μmの硬化被膜を超微小硬さ試験装置により温度20℃、相対湿度50%の雰囲気下で測定したときのマルテンス硬度が0.5~50N/mm2であり、かつ同条件下で測定したときの弾性エネルギーが0.1~20nJであると共に、生体なじみ性重合体の含有量が活性エネルギー線硬化型樹脂に対して1~40質量%であり、更に生体なじみ性重合体により形成される平坦膜のオレイン酸に対する接触角が60゜以下であるペン入力装置用表面材であって、
前記防眩層表面の凹凸部は、JIS B 0601-1994に規定される算術平均粗さ(Ra)が0.05~5μmであり、かつ凹凸部の平均間隔(Sm)が5~500μmであり、
温度20℃、相対湿度50%の雰囲気下に入カペンを用いて防眩層の表面を荷重200g、10cm/秒の速度で移動させたときの動摩擦係数が0.02~0.6である
ペン入力装置用表面材。」(以下、「甲3B発明」という。)
(2)甲4Bに記載された発明
甲4Bには、その[0011]、請求項1及び3に基づいて以下の発明が記載されている。
「紫外線活性基を有する重合体、多官能(メタ)アクリレート及び有機溶媒を含む硬化性重合体組成物を、基材に塗布した後、熱風乾燥により溶剤を留去し、α線、β線、γ線、紫外線等の活性エネルギー線を照射することで得られる、表面に、しわ状構造を有する硬化物であって、
前記硬化物の表面の算術平均粗さRaが0.01μm以上であり、
前記しわ状構造の凹凸間周期Rsmが5μm以上20μm以下である
硬化物。」(以下、「甲4B発明」という。)
(3)甲5Bに記載された発明
甲5Bには、その[0065]、[0075]、請求項1、[0019]及び請求項3に基づいて以下の発明が記載されている。
「3~6官能(メタ)アクリレートから成る熱硬化性樹脂を
熱線や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)により硬化させて得られる、
表面に複数のポリマーの相分離構造による凹凸が形成されたマルチタッチディスプレイ用表面フィルムであって、ヘーズが15~50%であり、0.5mm幅の光学櫛を用いた写像性測定器で測定した写像鮮明度が5~50%であり、表面の三次元算術平均粗さが0.15~1μmであり、分散相の平均相間距離(又は平均凸間距離Sm)は、15~300μmであり、表面の動摩擦係数が0.5~2.5である、
表面フィルム。」(以下、「甲5B発明」という。)
(4)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3B発明、甲4B発明又は甲5B発明との対比
上記1.(3)ア及び2.(4)アにおける甲1A発明ないし甲6A発明との対比を踏まえ、本件発明1と甲3B発明とを対比すると、両者は、
「表面に凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造である、硬化膜。」
の点で一致し、
相違点甲3B-1:本件発明1は「しわ状の凹凸構造」と特定するのに対し、甲3B発明においてはそのように特定されない点
相違点甲3B-2:本件発明1は「活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造」と特定するのに対し、甲3B発明はそのように特定されない点
相違点甲3B-3:本件発明1は「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」と特定するのに対し、甲3B発明においてはそのように特定されていない点
で相違する。
また、同様に、本件発明1と甲4B発明とを対比すると、両者は、
「表面にしわ状の凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記しわ状の凹凸構造は、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し活性エネルギー線を照射することによって得られる凹凸構造である、硬化膜。」
の点で一致し、
相違点甲4B-1:本件発明1は「活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造」と特定するのに対し、甲4B発明はそのように特定されない点
相違点甲4B-2:本件発明1は「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」と特定するのに対し、甲4B発明においてはそのように特定されていない点
で相違する。
また、同様に、本件発明1と甲5B発明とを対比すると、両者は、
「表面に凹凸構造を有する硬化膜であって、
前記凹凸構造は、(メタ)アクリレートを含む活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し活性エネルギー線を照射することによって得られる凹凸構造である、硬化膜。」
の点で一致し、
相違点甲5B-1:本件発明1は「しわ状の凹凸構造」と特定するのに対し、甲5B発明においてはそのように特定されない点
相違点甲5B-2:本件発明1は「活性エネルギー線硬化性組成物の塗膜に対し、エキシマ光の照射によって前記塗膜の表面側を硬化させて硬化被膜を形成した後、真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって塗膜の内部を硬化させることにより、表面側の前記硬化被膜が座屈して形成されてなる凹凸構造」と特定するのに対し、甲5B発明はそのように特定されない点
相違点甲5B-3:本件発明1は「当該凹凸構造における、JIS B0601:2013に従う粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以上であり、ISO25178で定義される算術平均高さ(Sa)が0.20μm以上であり、かつ前記硬化膜の表面の動摩擦係数が0.40以下である」と特定するのに対し、甲5B発明においてはそのように特定されていない点
で相違する。
事案に鑑み、上記相違点甲3B-2、相違点甲4B-1及び相違点甲5B-2について検討する。
イ 相違点甲3B-2、相違点甲4B-1及び相違点甲5B-2について
甲3B、甲4B及び甲5Bのいずれにも、相違点甲3B-2、相違点甲4B-1及び相違点甲5B-2に係るエキシマ光の照射と真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射の2段階の硬化を行うことにより凹凸構造を形成することは記載されていない。また、他の全ての証拠を参照しても、当業者が甲3B発明、甲4B発明又は甲5B発明において、相違点甲3B-2、相違点甲4B-1及び相違点甲5B-2に係るエキシマ光の照射と真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射の2段階の硬化を行うことにより凹凸構造を形成する動機は見いだせない。そして、本件発明1の「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」という効果は、甲3B、甲4B、甲5B及び他の証拠から当業者が予測することができない顕著な効果である。
ウ 申立人Bの主張について
申立人Bは、甲3B-2、相違点甲4B-1及び相違点甲5B-2について、甲3Bの[0050]、甲4Bの[0011]及び甲5Bの[0075]にエキシマ光を用いることの示唆があると主張するが、いずれにもエキシマ光は記載されていない。また、申立人Bは、甲11Bに記載されており、周知技術(甲1B及び甲2B)でもあると主張するが、甲3Bに記載された発明は「ペン入力装置用表面材及びそれを備えたペン入力装置」の発明であり、甲4Bに記載された発明は建築建材、ディスプレイ関連、加飾フィルム等の表面の視認性、意匠性等を向上する「硬化物」の発明であり、甲5Bに記載された発明は「マルチタッチディスプレイ用表面フィルム」の発明であるのに対し、甲11Bにはペン入力装置やディスプレイに関する技術は記載されておらず、甲1Bに記載された発明は可撓性床材および壁材に関する発明であり、甲2Bに記載された発明は「触感に優れた低光沢の化粧シート」の発明であり、甲3B発明~甲5B発明と他の証拠とは互いに異なる技術分野に属するものであるから、甲3B発明~甲5B発明において、他の証拠に記載されたエキシマ光の照射と真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射の2段階の硬化を行うことにより形成されてなる凹凸構造を持つように硬化膜の製造方法を変更することは、当業者が動機付けられることではない。また、エキシマ光の照射及び真空紫外線以外の活性エネルギー線の照射によって形成される座屈形状を有しかつ前記3つの数値範囲が特定の組合せを持つ本件発明1が「タッチペンによる書き心地と艶消し性に優れる」という効果を発揮することも、当業者が予測し得ないことである。
よって、申立人Bの主張を採用することはできない。
エ 本件発明1についてのまとめ
以上のことから、本件発明1は甲3B発明、甲4B発明及び甲5B発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)本件発明2~9について
本件発明2~9は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。
そうすると、本件発明1と同様の理由により、本件発明2~9は、いずれも甲3B発明、甲4B発明及び甲5B発明のいずれに基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)理由6B(甲3Bに基づく進歩性欠如)、理由7B(甲4Bに基づく進歩性欠如)及び理由8B(甲5Bに基づく進歩性欠如)についてのまとめ
以上まとめると、本件発明1~9は、いずれも甲3B、甲4B及び甲5Bのいずれに記載された発明に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、理由6B(甲3Bに基づく進歩性欠如)、理由7B(甲4Bに基づく進歩性欠如)及び理由8B(甲5Bに基づく進歩性欠如)により本件発明1~9についての特許を取り消すことはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1~9についての特許は、上記のいずれの特許異議申立理由によっても取り消すことはできない。
また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700747