特許異議申立
2024-701075
難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法
- 審判番号
- 2024-701075
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-197610
- 登録番号
- 7477957
- 請求日
- 2024年11月05日
- 審決日
- 2025年06月16日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】アキレス株式会社
- 【権利者代理人】細井 勇
- 【権利者代理人】栗田 由貴子
- 【異議申立人】藤央 弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 近野 光知
- 審判官 藤井 勲
- 審判官 加藤 幹
- 分類
- P1651.121-ZC (C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7477957号発明「難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7477957号の請求項1及び3に係る特許を取り消す。
同請求項2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7477957号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和1年10月30日に出願され、令和6年4月23日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年5月2日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和6年11月5日に、本件特許の請求項1~3に係る特許に対して、特許異議申立人 藤央弁理士法人(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
以後の手続は以下のとおりである。
令和 7年 1月28日付け 取消理由通知
同年 5月 7日 応対記録(特許権者・最終応対日)
同年 同月14日 応対記録(申立人・最終応対日)
同年 同月20日 上申書
なお、特許権者は令和7年1月28日付けの取消理由通知において指定した期間内に意見書の提出をしなかった。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~3に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明3」といい、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、
メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、
メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、
メタセシス触媒を含む第2反応液と、
メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む第3反応液と、を用い、
前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、
金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、
第1反応液槽に充填された前記第1反応液を第1流路から流入させ、
第2反応液槽に充填された前記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ
第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、
前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、
前記混合反応液を金型に射出し、
前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。
【請求項2】
前記三酸化アンチモンが平均粒子径0.3μm以上0.9μm以下である請求項1に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。
【請求項3】
前記第3反応液に熱膨張マイクロカプセルが配合される請求項1または2に記載の難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載された取消理由
1 特許異議申立書に記載された申立理由
(1)特許異議申立書に記載された申立理由の概要
ア 申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性)
本件発明1~3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由2(甲第2号証を主引用例とする進歩性)
本件発明1~3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)特許異議申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証:特開平7-178756号公報
甲第2号証:特開平8-41177号公報
甲第3号証:特開平11-49868号公報
甲第4号証:特開2010-84039号公報
甲第5号証:特開2018-34422号公報
甲第6号証:METTON専用RIM機「METTOMAX」のカタログ(平成1年6月)
甲第7号証:DCPD-RIM成形装置「SUPER RIM」のカタログ(http://www.met-japan.com/products/download/product_5.pdf,http://www.met-japan.com/products/products_top.html)(平成29年2月8日)
甲第8号証:特開2010-235699号公報
以下「甲第1号証」等を「甲1」等という。
2 取消理由通知書に記載された取消理由
(1)令和7年1月28日付けの取消理由通知書に記載された取消理由の概要
令和7年1月28日付けの取消理由通知書に記載された取消理由(以下「取消理由1」という。)の概要は、「本件発明1及び3は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。」というものである。
(2)令和7年1月28日付けの取消理由通知書で提示された証拠方法
甲1~甲4及び甲8
参考1:西澤仁,臭素系難燃剤,日本ゴム協会誌,第92巻,第6号,2019年6月,211~217頁(DOI:https://doi.org/10.2324/gomu.92.211)
参考2:西澤仁,難燃性高分子材料(III)難燃剤,日本ゴム協会誌,第86巻,第11号,2013年,341~347頁(DOI:https://doi.org/10.2324/gomu.86.341)
参考3:日本難燃剤協会,三酸化アンチモンを難燃助剤として使用する樹脂等とその用途,厚生労働省「平成27年度第3回化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会」資料2-2-2(平成27年10月7日)(URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000099988.html,https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/sochi27_3_shiryou2-2-2.pdf)
以下「参考1」等を「参1」等という。
第4 当審の判断
1 判断の概要
当審は、本件発明1及び3に係る特許は取消理由1により取り消すべきものであり、本件発明2に係る特許は取消理由1並びに申立理由1及び2によっては取り消すことはできないと判断する。その理由は以下のとおりである。
2 取消理由1について
(1)甲1の記載
甲1には以下のとおりの記載がある。
「【0011】以下、本発明の成形品および製造方法についてさらに詳しく説明する。先ず本発明者が行ったモデル実験およびその結果について説明する。メタセシス重合性環状オレフィンにメタセシス重合触媒系の触媒成分を含有するモノマー液(溶液A)と活性化剤成分を含有するモノマー液(溶液B)とを混合し、金型内で重合・架橋せしめる反応射出成形方法において、第3成分を混合させるような構造となし、この第3成分(溶液C)として前記環状オレフィンにカーボンブラックを分散させたスラリーを使用し、この溶液Cを溶液Aおよび溶液Bの注入される時間の初期の間だけ混合注入することによって成形品を試作した。この場合、重合および架橋を起こす活性成分は溶液Aと溶液Bの混合された成分である。この方法を図1の例を用いてさらに詳しく説明する。
【0012】図1において、1は溶液Aの、2は溶液Bの、および3は溶液Cの貯槽である。それぞれの溶液は配管4、4’、5、5’および6、6’によってミキシングヘッド7と貯槽1、2、3の間をそれぞれ循環している。金型8への注入への信号が発信されるとミキシングヘッド7内の流路が変更され、溶液A、溶液Bおよび溶液Cがミキシングヘッド7内の空間に注入され、通常はその注入の際の衝突によって各溶液の混合が達成される。この時、溶液A、溶液Bおよび溶液Cの注入開始は同時に実施し、溶液Cの注入終了は溶液Aおよび溶液Bの注入終了より早くなるように実施した。」
「【0067】[実施例1]
(溶液Aの調製)六塩化タングステン20重量部を窒素気流中下で乾燥トルエン70重量部に添加し、次いでノニルフェノール2重量部およびトルエン16重量部よりなる溶液を添加して0.5Mのタングステン含有触媒溶液を調製し、この溶液に対し窒素ガスを一晩パージして、六塩化タングステンとノニルフェノールとの反応によって生成される塩化水素ガスを除去して、さらにかかる溶液10容量部に対し、1容量部のアセチルアセトンを加えて重合用触媒とした。
【0068】次いで、精製ジシクロペンタジエン(純度99.7重量%、以下同様)95重量部、精製エチリデンノルボルネン(純度99.5重量%、以下同様)50重量部よりなるモノマー混合物に対し、エチレン含有70モル%のエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン重合ゴム3重量部、酸化安定剤としてエタノックス702 2重量部を加えた溶液に上記重合用触媒溶液をタングステン含量が0.01モル/リットルになるように加えて触媒成分を含有するモノマー液A(溶液A)を調製した。
【0069】(溶液Bの調製)トリオクチルアルミニウム85、ジオクチルアルミニウムアイオダイド15、ジグライム100のモル割合で混合調整した重合用活性化剤混合溶液を精製ジシクロペンタジエン95重量部、精製エチリデンノルボルネン5重量部、エチレン含有70モル%のエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン重合ゴム3重量部よりなるモノマー混合物にアルミニウムが含量が0.03モル/リットルになる割合で混合し、活性化剤成分を含有するモノマー液B(溶液B)を調製した。溶液Bの粘度は30℃で300cpsであった。
【0070】(溶液C1の調製)精製ジシクロペンタジエン95重量部、精製エチリデンノルボルネン5重量部よりなるモノマー混合物に対し、エチレン含有70モル%のエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン重合ゴム3重量部、酸化安定剤としてエタノックス702を2重量部加えた溶液(以下、DCDP溶液という)90重量部に10重量部のカーボンブラック(デンカ化学/HS-100)を混合し、溶液C1とした。
【0071】(流れ性を失う時間)30℃の溶液A10ml、溶液B10mlおよび所定量の溶液C1を予め窒素置換し、溶液と同じ温度の下に置いた50mlの容器中に注入し、攪拌装置によって急速に攪拌し、攪拌機の軸に樹脂が絡み付く時点で停止し、攪拌開始からこの時点までの時間を「流れ性を失う時間」とした。ここで、溶液Aおよび溶液Bの合計20mlに対するC1液の量は、型内に注入する溶液Aおよび溶液Bの合計量(それぞれの注入速度と注入時間の積により算出したものの和)に対するC1の比と同じとなるようにした。80℃においても同様に測定した。実施例2~12においても同様の値を測定し、表2に示す。
【0072】(成形)図1に示す射出装置の貯槽1、2、3にそれぞれ溶液A、溶液Bおよび第三成分として溶液C1を窒素雰囲気下に入れ、溶液A、B、第三成分の速度はそれぞれ450g/秒、450g/秒、100g/秒とし、各液の注入時間を表2に示すように設定し、成形を行った。表2において全注入時間とは、溶液A、B、C1の如何を問わず注入が開始されてから終了するまでの時間を秒単位で表わしたものであり、注入開始時間は常に0である。溶液Aの注入時間、溶液Bの注入時間および溶液C1の注入時間についてはそれぞれの液の注入が開始されてから終了するまでの時間を秒単位で表わしたものである。
【0073】金型は550mm×550mm×4mmの板状の空間を持つ鉄製の物を使用し、当該空間を充填する量を越える射出成分は金型の出口に設けられた容器にあふれ出る方式とした。金型温度は予め、片面側を90℃、もう一方の面を60℃とした。射出終了後1分で金型を開け、成形物を得た。得られた成形物は、均一な黒色の表面を有する良好な成形物であった。該成形物を切断し、その断面を調べたところ、表皮層として0.2~0.4mmの黒色層と、その内側にあめ色の内層が観察された。」
「【0078】[実施例6]溶液C1のかわりに、下記の要領で調製した溶液C6を用い、溶液A、B、C6の注入速度をそれぞれ250g/秒、250g/秒、250g/秒とし、且つ溶液A、B、C6の注入時間を表2に示す条件とする以外は実施例1と同様に成形を行った。
(溶液C6の調製)84重量部のDCPD溶液、15重量部のポリスチレンおよび1重量部のカーボンブラック(デンカ化学/HS-100)を混合し、溶液C6とした。なお、添加したカーボンブラックは表皮層および内層の複数の相が形成されることを色によって確認するために添加したものである。得られた成形物は均一な表面を有する良好な成形物であった。その断面は表皮相として0.2~0.4mmのポリスチレンを含有する黒色層と、その内側にあめ色の内層が観察された。」
「【0080】[実施例8]溶液C6のかわりに、下記の要領で調製した溶液C8を用い、且つ溶液A、BおよびC8の注入時間を表2に示す条件とする以外は実施例6と同様に成形を行った。
(溶液C8の調製)50重量部のDCPD溶液、49重量部の酸化アンチモンおよび1重量部のカーボンブラック(デンカ化学/HS-100)を混合し、溶液C8とした。なお、添加したカーボンブラックは表皮層および内層の複数の相が形成されることを色によって確認するために添加したものである。得られた成形物は均一な表面を有する良好な成形物であった。その断面は表皮相として0.2~0.4mmの酸化アンチモンを含有する黒色層と、その内側にあめ色の内層が観察された。」
「【0085】
【表2】
[図:0001425764000001.jpg]
」
「【図1】
[図:0001425764000002.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明の認定
甲1には、実施例1として、触媒成分を含有するモノマー液A(溶液A)、活性化剤成分を含有するモノマー液B(溶液B)、精製ジシクロペンタジエン等を含有するDCDP溶液にカーボンブラックを混合した溶液C1をそれぞれ調製し、図1に示す射出装置の貯槽1、2、3にそれぞれ溶液A、溶液B及び第三成分として溶液C1を窒素雰囲気下に入れ、各液を設定した速度および時間で金型に注入して成形して成形体を得たことが記載され(段落0067~0073)、実施例8として、実施例1における溶液C1の代わりに溶液C6を用いた実施例6における溶液C6の代わりに溶液C8を用い、溶液A、B及びC8の注入速度を、実施例6のとおり、それぞれ250g/秒とし、注入時間を表2に示すとおりにしたことが記載されている(段落0078、0080及び0085)。
また、甲1には、図1に示す射出装置において、1は溶液Aの、2は溶液Bの、及び3は溶液Cの貯槽であり、それぞれの溶液は配管4、4’、5、5’及び6、6’によってミキシングヘッド7と貯槽1、2、3の間をそれぞれ循環しており、金型8への注入への信号が発信されるとミキシングヘッド7内の流路が変更され、溶液A、溶液B及び溶液Cがミキシングヘッド7内の空間に注入され、通常はその注入の際の衝突によって各溶液の混合が達成されること(段落0012)も記載されている。
そして、甲1の記載(段落0011及び0012)から、甲1の図1に示す射出装置を用いた成形物の成形は、メタセシス重合性環状オレフィンにメタセシス重合触媒系の触媒成分を含有するモノマー液(溶液A)と活性化剤成分を含有するモノマー液(溶液B)とを混合し、金型内で重合・架橋せしめる反応射出成形であるといえる。
そうすると、甲1には、実施例8として、
「六塩化タングステン20重量部を窒素気流中下で乾燥トルエン70重量部に添加し、次いでノニルフェノール2重量部およびトルエン16重量部よりなる溶液を添加して0.5Mのタングステン含有触媒溶液を調製し、この溶液に対し窒素ガスを一晩パージして、六塩化タングステンとノニルフェノールとの反応によって生成される塩化水素ガスを除去して、さらにかかる溶液10容量部に対し、1容量部のアセチルアセトンを加えて重合用触媒溶液とし、
精製ジシクロペンタジエン95重量部、精製エチリデンノルボルネン50重量部よりなるモノマー混合物に対し、エチレン含有70モル%のエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン重合ゴム3重量部、酸化安定剤としてエタノックス702を2重量部を加えた溶液に前記重合用触媒溶液をタングステン含量が0.01モル/リットルになるように加えて触媒成分を含有するモノマー液A(溶液A)を調製し、
トリオクチルアルミニウム85、ジオクチルアルミニウムアイオダイド15、ジグライム100のモル割合で混合調整した重合用活性化剤混合溶液を精製ジシクロペンタジエン95重量部、精製エチリデンノルボルネン5重量部、エチレン含有70モル%のエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン重合ゴム3重量部よりなるモノマー混合物にアルミニウムが含量が0.03モル/リットルになる割合で混合し、活性化剤成分を含有するモノマー液B(溶液B)を調製し、
精製ジシクロペンタジエン95重量部、精製エチリデンノルボルネン5重量部よりなるモノマー混合物に対し、エチレン含有70モル%のエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネン重合ゴム3重量部、酸化安定剤としてエタノックス702を2重量部加えた溶液(DCDP溶液)50重量部、49重量部の酸化アンチモンおよび1重量部のカーボンブラック(デンカ化学/HS-100)を混合し、溶液C8を調製し、
射出装置の貯槽1、2、3にそれぞれ溶液A、溶液B及び第三成分として溶液C8を窒素雰囲気下に入れ、溶液A、溶液B及び溶液C8の注入速度はいずれも250g/秒であり、溶液A、溶液B及び溶液C8の注入開始は同時であり、溶液A、溶液B及び溶液C8の注入時間をそれぞれ1.5秒、1.5秒、0.8秒に設定し、
前記射出装置は、溶液Aの貯槽である貯槽1、溶液Bの貯槽である貯槽2及び溶液Cの貯槽である貯槽3並びにミキシングヘッド7を備え、溶液A、溶液B及び溶液C8は配管4、4’、5、5’及び6、6’によってミキシングヘッド7と貯槽1、2、3の間をそれぞれ循環しており、金型8への注入への信号が発信されるとミキシングヘッド7内の流路が変更され、溶液A、溶液B及び溶液C8がミキシングヘッド7内の空間に注入され、通常はその注入の際の衝突によって各溶液の混合が達成され、金型内で重合・架橋するものである、
均一な表面を有し、その断面は表皮相として0.2~0.4mmの酸化アンチモンを含有する黒色層とその内側にあめ色の内層が観察される成形物の反応射出成形方法。」
の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
(3)本件発明1について
ア 対比
甲1発明を本件発明1と対比すると、両発明の構成の対応は以下のとおりとなる。
a 甲1発明における溶液Bに含まれる「トリオクチルアルミニウム」及び「ジオクチルアルミニウムアイオダイド」は、甲1の段落0025及び0053の記載からみて、メタセシス重合触媒系の活性化成分であるから、本件発明1における「メタセシス触媒活性剤」に相当する。
b 甲1発明における溶液Aの調製に含まれる「六塩化タングステン」は、甲1の段落0024及び段落0053の記載からみて、メタセシス重合触媒系の触媒成分であるから、本件発明1における「メタセシス触媒」に相当する。
c 甲1発明における溶液C8に含まれる「酸化アンチモン」は、本件発明1における「三酸化アンチモン」と「酸化アンチモン」であるという限度で一致する。
d 甲1発明における溶液A、溶液B及び溶液C8に含まれる「精製ジシクロペンタジエン」及び「精製エチリデンノルボルネン」は、甲1の段落0023及び段落0051の記載からみてメタセシス重合性環状オレフィンであるし、本件明細書の段落0016~0018のシクロオレフィン系樹脂にはシクロオレフィン系モノマーも含まれ、ジシクロペンタジエンやエチリデンノルボルネンが例示される旨の記載からみて、本件発明1における「シクロオレフィン系樹脂」に相当する。
e 前記a~cから、甲1発明における「溶液B」は本件発明1における「メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液」に相当し、甲1発明における「溶液A」は本件発明1における「メタセシス触媒を含む第2反応液」に相当し、甲1発明における「溶液C8」は、本件発明1における「メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む第3反応液」と、「酸化アンチモンを含む第3反応液」という限度で一致する。そして、これらのことと前記dとから、甲1発明は「前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ」たものであるといえる。
f 甲1発明における「均一な表面を有し、その断面は表皮相として0.2~0.4mmの酸化アンチモンを含有する黒色層とその内側にあめ色の内層が観察される成形物」は、甲1の段落0022及び0023の記載からみてこの成形物を構成する架橋重合体が溶液B、溶液A及び溶液C8に含まれる精製ジシクロペンタジエンと精製エチリデンノルボルネンとの共重合体であると認められること、甲1の段落0038、0039及び0042の記載からみてこの成形物に含まれる酸化アンチモンは難燃化のための添加剤であると認められること並びに前記a~cから、本件発明1における「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体」と、「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、および酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体」という限度で一致するといえる。
g 甲1発明における「成形物の反応射出成形方法」は、本件発明1における「成形体を反応射出成形により製造する方法」に相当する。
h 甲1発明における射出装置の「貯槽2」、「配管5」、「貯槽1」、「配管4」、「貯槽3」、「配管6」、「ミキシングヘッド7」及び「金型8」は、甲1発明における射出装置が、溶液Aの貯槽である貯槽1、溶液Bの貯槽である貯槽2及び溶液Cの貯槽である貯槽3並びにミキシングヘッド7を備え、溶液A、溶液B及び溶液C8は配管4、4’、5、5’及び6、6’によってミキシングヘッド7と貯槽1、2、3の間をそれぞれ循環しており、金型8への注入への信号が発信されるとミキシングヘッド7内の流路が変更され、溶液A、溶液B及び溶液C8がミキシングヘッド7内の空間に注入され、通常はその注入の際の衝突によって各溶液の混合が達成され、金型内で重合・架橋するものであることと、前記eとから、本件発明1における「第1反応液槽」「第1流路」、「第2反応液槽」、「第2流路」、「第3反応液槽」、「第3流路」、「ミキシングヘッド」及び「金型」にそれぞれ相当する。
i 甲1発明における「射出装置の貯槽1、2、3にそれぞれ溶液A、溶液B及び第三成分として溶液C8を窒素雰囲気下に入れ、溶液A、溶液B及び溶液C8の注入速度はいずれも250g/秒であり、溶液A、溶液B及び溶液C8の注入開始は同時であり、溶液A、溶液B及び溶液C8の注入時間をそれぞれ1.5秒、1.5秒、0.8秒に設定し、…それぞれの溶液は配管4、4’、5、5’及び6、6’によってミキシングヘッド7と貯槽1、2、3の間をそれぞれ循環しており、金型8への注入への信号が発信されるとミキシングヘッド7内の流路が変更され、溶液A、溶液B及び溶液C8がミキシングヘッド7内の空間に注入され、通常はその注入の際の衝突によって各溶液の混合が達成され、金型内で重合・架橋する」という成型工程は、金型8への注入への信号が発信されると、貯槽1に入れた溶液A、貯槽2に入れた溶液B及び貯槽3に入れた溶液Cがそれぞれ配管4、5及び6を通じてミキシングヘッド7内の空間に注入され、ミキシングヘッド7内でその注入の際の衝突によって各溶液の混合が達成され、各溶液の混合物が金型内に流入し金型内で流入した各溶液の混合物が重合・架橋する工程であるといえることと、前記d及びhとから、本件発明1における「金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、第1反応液槽に充填された前記第1反応液を第1流路から流入させ、第2反応液槽に充填された前記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ第3反応液槽において充填され」「た状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、前記混合反応液を金型に射出し、前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させる」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、
メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、および酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、
メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、
メタセシス触媒を含む第2反応液と、
酸化アンチモンを含む第3反応液と、を用い、
前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、
金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、
第1反応液槽に充填された前記第1反応液を第1流路から流入させ、
第2反応液槽に充填された前記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ
第3反応液槽において充填された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、
前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、
前記混合反応液を金型に射出し、
前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。」
という点で一致し、
相違点1:本件発明1は、第3反応液が「メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤」を含み、難燃性シクロオレフィン樹脂成形体が「臭素系難燃剤」を含むのに対し、甲1発明は、溶液C8が「メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤」を含まず、成形物も「臭素系難燃剤」を含まない点
相違点2:本件発明1は、第3反応液に含まれる及び難燃性シクロオレフィン樹脂成形体に含まれる酸化アンチモンが「三酸化アンチモン」であるのに対し、甲1発明は、溶液C8及び成形物に含まれる酸化アンチモンがどのような酸化アンチモンか特定されていない点
相違点3:第3反応液槽において充填された第3反応液が、本件発明1は「撹拌された状態にある」のに対し、甲1発明はそのような特定を有しない点
で相違する。
イ 相違点1及び2についての検討
a 甲1発明における酸化アンチモンが難燃化のための添加剤であることは、甲1の段落0042の記載に接した当業者に自明である。そして、難燃化のために用いられる酸化アンチモンが、通常、三酸化アンチモンを意味することは技術常識である(参1の211頁右欄1~7行、213頁左欄3~9行)。
b また、臭素系難燃剤が三酸化アンチモンとの併用で相乗効果を発揮し高い難燃性を示すことは技術常識であり(参1の211頁右欄1~7行、213頁左欄3~9行)、臭素系難燃剤の性能(難燃効果)は臭素含有率に依存することやエチレンビスペンタブロモフェニル(本件発明1における「エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル」の別名である。)の臭素含有率は代表的な臭素系難燃剤の中で比較的高いことも技術常識である(参2の342頁右欄2~4行、表1)。
c さらに、ポリオレフィンの難燃化のために三酸化アンチモンとビス(ペンタブロモフェニルエタン)(同じく本件発明1における「エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル」の別名である。)とを組み合わせた難燃剤を用いることは周知かつ慣用の手法である(参1の216頁表8、参3、甲3の段落0068~0073、甲4の段落0071及び0072)。そして、甲1発明における「溶液A」、「溶液B」及び「溶液C8」に含まれる「精製ジシクロペンタジエン」及び「精製エチリデンノルボルネン」がシクロオレフィンであってオレフィンの一種であり、甲1発明における「成形物」はポリオレフィンを主体とするものである。
d そうすると、甲1発明において、成形物の難燃性を向上するために、三酸化アンチモンとエチレン-1,2-ビスペンタブロモフィニルを併用することは、当業者が甲1の前記記載及び技術常識に基づいて容易になし得たことである。
ウ 相違点3についての検討
甲1発明は、溶液A、溶液B及び溶液C8がそれぞれ「配管4、4’、5、5’及び6、6’によってミキシングヘッド7と貯槽1、2、3の間をそれぞれ循環しており、金型8への注入への信号が発信されるとミキシングヘッド7内の流路が変更され、溶液A、溶液B及び溶液C8がミキシングヘッド7内の空間に注入され、通常はその注入の際の衝突によって各溶液の混合が達成され、金型内で重合・架橋する」ものである。
すなわち、甲1発明において、溶液C8は、金型8への注入の信号が発信されるまでは貯槽3、配管6、ミキシングヘッド7及び配管6’を循環しているといえる。そして、この循環により貯槽3において溶液C8は撹拌された状態で貯められていると推認される。
そうすると、甲1発明において、金型8への注入の信号が発信された時点で、ミキシングヘッド7に対し、溶液C8の貯槽3において撹拌された状態にある溶液C8が配管6から注入されることになるといえる。
よって、相違点3は実質的な相違点ではない。
また、仮に相違点3が実質的な相違点であるとしても、待機状態にある原料を均一な状態に維持するために攪拌機等で持続的に撹拌することは化学工業において広く採用されている手法であるから、甲1発明において貯槽3にこの手法を採用することは当業者が適宜なし得たことである。
エ 本件発明1の効果について
(ア)本件発明1の効果
本件明細書(段落0010、0057~0064)には、本件発明1により難燃性が良好であり、かつ表面のべたつき等がないシクロオレフィン樹脂が得られること、実施例1~4に係る樹脂成形体はべたつきのなさ(重合性)、仕上げ作業性、燃焼性に優れること、が記載されている。
(イ)難燃性について
上記イのb~dで述べたように、三酸化アンチモンとエチレン-1,2-ビスペンタフェニルの併用により難燃性を向上することは本件出願時の技術常識であるから、上記「難燃性が良好」であるという効果は、当業者が予測することができたものである。また、臭素系難燃剤が三酸化アンチモンとの併用で相乗効果を発揮し高い難燃性を示すことは技術常識であるから(参1の211頁右欄1~7行、213頁左欄3~9行)、エチレンビスペンタブロモフェニルと三酸化アンチモンとを併用する実施例1がエチレンビスペンタブロモフェニルのみを使用し三酸化アンチモンを使用しない比較例2と比較して燃焼性に優れることも当業者が予測することができたものである。
したがって、本件発明1の燃焼性が本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということはできない。
(ウ)べたつきのなさ(重合性)について
ここでいうべたつきのなさ(重合性)とは、本件明細書(段落0058)の記載からみて、樹脂成形体の目視観察及び触感確認に基づく、樹脂成形体の外表面の未硬化のゲル状部分やべたつく部分の有無である。そして、本件明細書(段落0006、0026、0057~0064)には、溶解型臭素系難燃剤である臭素化ポリスチレンを使用しない実施例1~3は臭素化ポリスチレンを使用する比較例1と比較して重合性に優れることが記載されている。
ここで、本件明細書には、可溶性の難燃剤に不純物が混在していると不純物が樹脂材料全体に分散して重合反応を阻害することが記載されているが(段落0013)、臭素化ポリスチレンに含まれ得る不純物がメタセシス重合を阻害することは知られているから(甲2の段落0012及び0013)、比較例1の重合性が劣るのは臭素化ポリスチレンを使用することによるものであり、実施例1の重合性が優れるのは臭素化ポリスチレンを使用しないことによるものと解される。
これに対し、甲1発明に係る成形体は、臭素化ポリスチレンを使用するものではないし、甲1には甲1発明に係る成形体にゲル状部分やべたつきがあることを示唆する記載はないから、本件発明1と同様に、べたつきがないものであるといえる。
そうすると、本件発明1の重合性が甲1発明と比較した有利な効果であるということはできない。
したがって、本件発明1において、重合性に係る効果は本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということはできない。
なお、本件発明1は、三酸化アンチモンの粒子径を何ら特定していないところ、本件明細書の、粒子径の小さい三酸化アンチモンを用いた場合、水分の影響から反応阻害が生じる虞があり、樹脂成形体の表面にべたつきが発生することがある旨の記載(段落0027)及び、三酸化アンチモンの粒子径が小さい(0.2μm)実施例4についての重合性評価の結果が「△」(部分的にべたつきが観察された)であり、比較例1と同程度であったことからみて、本件発明1の重合性は有利な効果であるとはいえない。この点においても、本件発明1において、重合性に係る効果は当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであるということはできない。
(エ)仕上げ作業性について
ここでいう仕上げ作業性とは、本件明細書(段落0059)の記載からみて、紙やすりを用いて成形体表面が平滑になるまで研磨する作業とパテを使用して樹脂成形体表面に生じたピンホールや凹状部を埋める作業とを樹脂成形体表面の平滑性が目視で確認されるまで行うために要する時間である。
一方、前記(イ)で指摘したとおり、重合性とは樹脂成形体の目視観察及び触感確認に基づく、樹脂成形体の外表面の未硬化のゲル状部分やべたつく部分の有無であり、未硬化のゲル状部分やべたつく部分を紙やすりにより平滑にすることは、そうでない部分と比べて時間がかかると解されるから、仕上げ作業性は重合性の影響を受けるといえる。
したがって、前記(ウ)で述べたとおりの理由により、本件発明1の仕上げ作業性が本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということはできない。
(オ)本件発明1の効果についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1の効果の程度が、本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということはできない。
オ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は甲1発明、甲1の記載及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4)本件発明2について
ア 対比
本件発明2は、本件発明1を引用し、「前記三酸化アンチモンが平均粒子径0.3μm以上0.9μm以下である」とするものである。
甲1発明を本件発明2と対比すると、前記相違点1~3に加えて、以下の点で相違する。
相違点4:三酸化アンチモンの平均粒子径が、本件発明2は「0.3μm以上0.9μm以下」であるのに対し、甲1発明は不明である点
イ 相違点4についての検討
甲1には、酸化アンチモンの平均粒子径は何ら記載されていない。
甲2には、三酸化二アンチモン等の金属酸化物について、難燃効果を効率よく発揮するためにはできるだけ細粒状のものが好ましく、特に約44ミクロンより小さい最大寸法を有するものが好ましい旨の記載(段落0017及び0018)がある。しかし、甲2には、三酸化アンチモンの好ましい粒径は記載されているものの、その平均粒子径を0.3~0.9μmとすることは記載されておらず、三酸化アンチモンと、メチレン-1,2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1,2-ビスペンタフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤を用いることも記載されていない。
甲3には、三酸化二アンチモン等の酸化アンチモンの粒径は、好ましくは0.1~1μmであり、粒径が大きすぎると反応原液中で沈降して均一な難燃性特性を持つ成形体が得られないおそれがあり、粒径が小さ過ぎると反応原液の粘度が上がり過ぎてミキシングヘッドでの混合性の低下、注入圧が高くなるなどのおそれがある旨の記載(段落0023)があり、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン(本件発明2が引用する本件発明1の「エチレン-1,2-ビスペンタブロモフェニル」の別名である。)と平均粒径が0.7μmのSb2O2(三酸化アンチモンである。)とを併用した旨の記載(段落0068~0070)もある。
また、甲4には、1,2-ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等の臭素含有難燃剤が高い難燃性を得られる点で好適であること(段落0030)、その他の難燃剤として三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物が挙げられること(段落0051)、ハロゲン系難燃剤としてビス(ペンタブロモフェニル)エタン(アルベマール社製;SAYTEX8010)と難燃助剤として三酸化アンチモン(日本精鉱社製;PATOX-M)を用いた具体例(段落0071)が記載され、このPATOX-Mは平均粒径が0.5μmである難燃用標準グレードである(日本精鉱株式会社,三酸化アンチモン,日本精鉱株式会社Webサイト,オンライン,検索日2024年12月20日,URL:https://www.nihonseiko.co.jp/products/antimony/trioxide/)。
しかしながら、甲3は、反応原液の経時的な活性低下や反応原液の数が増えることによる作業性の低下などの課題を解決するために、メタセシス触媒と酸化アンチモンが同じ反応原液に添加されるものであり(段落0005、0006及び0041)、甲4は、樹脂組成物は粘度が高いため炭素繊維への含浸性が悪く、また、未反応モノマーがボイドとして残存し、得られる積層体の機械強度が不十分であるので、難燃性及び機械的強度に優れた積層体を製造するという課題を解決しようとするものであって(段落0006及び0007)、甲3及び甲4にはシクロオレフィン系樹脂の反応時における反応阻害を抑制するという観点から三酸化アンチモンの平均粒子径を0.3~0.9μmとすることは記載されていない。
そうすると、本件発明1について述べたのと同様に、甲1発明において、三酸化アンチモンと、メチレン-1,2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1,2-ビスペンタフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤を用いることは動機付けられるとしても、前記三酸化アンチモンの平均粒子径を0.3~0.9μmとすることまで動機付けられるとはいえない。
さらに、甲5(段落0055)及び甲8(段落0064)には三酸化アンチモンが例示されているに過ぎないし、甲6及び甲7には三酸化アンチモンは記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、酸化アンチモンの平均粒子径を0.3μm以上0.9μm以下とすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
ウ 本件発明2の効果について
本件明細書には、「本発明に用いられる三酸化アンチモンの粒子径は…小さいほど、良好な難燃性効果を発揮する傾向にある。一方…三酸化アンチモンは、粒子径が小さいほど毛細管現象で吸湿性が高くなる。本願発明者の検討によれば、粒径の小さい三酸化アンチモンを用いてシクロオレフィン系樹脂の硬化反応を行った場合、水分の影響から反応阻害が生じる虞があり、その結果、樹脂成形体の表面にべたつきが発生する場合があることがわかった。したがって、シクロオレフィン系樹脂の反応時における反応阻害を抑制しつつ、充分難燃性を発揮させるという観点からは、三酸化アンチモンの平均粒子径は、0.3μm以上0.9μm以下であることが好ましく、0.4μm以上0.8μm以下であることがより好ましい。上記平均粒子径が0.3μm以上であることにより、一次粒子間における凝集の発生が良好に防止され、分散性の改善が図られ得る一方、上記平均粒子径が0.8μm以下であることにより高い難燃性効果が得られる。」(段落0027)と記載されている。
そして、三酸化アンチモンの平均粒子径のみが異なる実施例1~4によると、いずれも難燃性に優れるものであり、また、三酸化アンチモンの平均粒子径が0.3μm以上0.9μm以下の範囲内にある実施例1~3は、三酸化アンチモンの平均粒子径が0.2μmである実施例4と比較して、重合性評価及び仕上げ作業性評価に優れ(段落0062、0064)、前記段落0027の記載を裏付ける結果であるといえる。
そうすると、本件発明2は、特定の臭素系難燃剤と特定の平均粒子径の三酸化アンチモンとの組み合わせにより、難燃性と表面のべたつき等がないシクロオレフィン樹脂を提供することができるものであるといえ、そのような効果は甲1~甲8の記載から予測し得るものではない。
エ 上申書における申立人の主張について
申立人は上申書において「反応射出成形において、重合性が要求されることは技術常識である。また、粒子径が小さいほど吸湿性が高くなることは、三酸化アンチモンを含むあらゆる微粒子についての技術常識であり、水分によりシクロオレフィン系樹脂の重合性が阻害されることも、技術常識である。加えて、…反応射出成形において、反応原液の混合性が低下すると重合性が低下することも、技術常識である」、「難燃剤に分散性が求められることは技術常識であり、また、無機粒子について、粒子径が小さいほど比表面積が大きく粒子間相互作用が相対的に強くなり凝集しやすくなる一方、粒子径が大きいほど粒子間相互作用が相対的に弱くなり、分散状態が維持されやすくなることは技術常識である」とした上で、「甲3の…記載からは、換言すれば酸化アンチモンの粒径の好適範囲(0.1~1μm)においては重合性が良好であるということが示唆され」、「甲3の…記載からは、換言すれば酸化アンチモンの粒径の好適範囲(0.1~1μm)においては分散性が維持され、均一な難燃性特性を持つ成形体が得られるということが示唆される」から、「本件発明2の効果の程度は、本件発明2の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるということはできない」と主張する(上申書4頁23行~5頁24行)。
しかし、上記イ及びウで検討したように、甲1~甲8のいずれにも、甲1発明において、シクロオレフィン系樹脂の反応時における反応阻害を抑制するという観点から三酸化アンチモンの平均粒子径を0.3μm以上0.9μm以下とすることを動機付ける記載はなく、本件発明2の難燃性と表面のべたつき(重合性)等とを両立させるという効果も、甲1~甲8の記載から予測し得るものではない。
したがって、申立人の主張は前記イ及びウにおける判断を左右しない。
オ 本件発明2についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明2が甲1発明、甲1及び甲3の記載並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(5)本件発明3について
ア 対比
本件発明3は、本件発明1を引用し、「前記第3反応液に熱膨張マイクロカプセルが配合される」とするものである。したがって、甲1発明を本件発明3と対比すると、前記相違点1~3に加えて、
相違点5:熱膨張マイクロカプセルが、本件発明3は第3反応液に配合されるのに対し、甲1発明は配合されない点
で相違する。
イ 相違点5についての検討
甲8に「熱膨張性マイクロカプセルとは、加熱により膨張可能な、熱可塑性重合体粒子中に発泡剤を内包させたものである。熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性重合体の軟化点以上の温度で加熱されると熱可塑性の殻壁が軟化し、内包された発泡剤が揮発する際に膨張する性質を有する。本発明の配合液を用いれば、かかる熱膨張性マイクロカプセルの性質により、表面にヒケがなく外観に優れ、軽量な高分子成形体を得ることができる」(段落0069)、「熱膨張性マイクロカプセル、充填剤、及び金属塩分散剤は、通常、混合物として、I液、II液、及びIII液からなる群より選択される少なくとも1種に配合するか、別途、それらと混合すればよい」(段落0094)と記載されているように、重合体成形品の外観の向上や軽量化といった観点から重合体成形品の原料に熱膨張マイクロカプセルを配合することは周知の手法である。そして、甲1にも「(溶液C3の調製)90重量部のDCPD溶液、9重量部のマイクロスフェア-F-301(松本油脂(株)製)および1重量部のカーボンブラック(デンカ化学/HS-100)を混合し、溶液C3とした。上記マイクロスフェア-F-301は、塩化ビニリデン共重合体を殻壁として低沸点炭化水素を内包する熱膨張性マイクロカプセルである。なお、添加したカーボンブラックは表皮層および内層の複数の相が形成されることを色によって確認するために添加したものである。得られた成形物は均一な表面を有する良好な成形物であった。その断面は表皮相として0.2~0.4mmの主としてジシクロペンタジエンからなるあめ色の層と、その内側にマイクロスフェアを含有する黒色層が観察された」(段落0075)と甲1に係る発明の一例として溶液C3に熱膨張マイクロカプセルを配合することが記載されている。
したがって、甲1発明において成形物の外観の向上や軽量化といった観点から溶液C8に熱膨張マイクロカプセルを配合することは当業者が容易になし得たことである。そして、こうすることで格別な効果を奏するとはいえない。
ウ 本件発明3についてのまとめ
相違点1~3については前記(3)で検討したとおりである。
したがって、本件発明3は、甲1発明、甲1の記載及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
3 申立理由2について
(1)甲2の記載
甲2には以下のとおりの記載がある。
「【0039】[実施例2]次の組成の硬化性樹脂組成物を調製した。
溶液A(均一溶液)
DCP(ジシクロペンタジエン) 924重量部
エチリデンノルボルネン 12重量部
SBR(スチレンブタジエンゴム) 40重量部
タングステン系の触媒成分 12重量部
2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール 6重量部
ヘキサクロロキシレン 2重量部
溶液B(均一溶液)
DCP(ジシクロペンタジエン) 900重量部
エチリデンノルボルネン 36重量部
SBR(スチレンブタジエンゴム) 40重量部
活性化剤成分 24重量部
溶液C(スラリー)
DCP(ジシクロペンタジエン) 388重量部
エチリデンノルボルネン 12重量部
ブロム化ポリスチレン 420重量部
(ポリスチレン換算分子量1000、ブロム含有量67wt.%)
三酸化二アンチモン 180重量部
30℃における粘度は、溶液Aが310センチポイズ、溶液Bが310センチポイズであり、溶液Cは本発明に係る添加物であるブロム化ポリスチレンと三酸化二アンチモンを多量に含有するにも拘わらず430センチポイズであった。
【0040】上記硬化性樹脂組成物を使用し、RIM成形機の混合ヘッドで溶液A:溶液B:溶液C=1.00:1.00:1.08(重量比)の割合の流れを混合し金型内に射出し硬化させることにより、縦500mm、横500mm、厚さ3mmの板状成形物を得た。この板状成形物からサンプルを切出し物性測定を行った結果を後掲の表1に示した。」
(2)甲2に記載された発明の認定
甲2(段落0039及び0040)には、実施例2として、
「30℃における粘度が310センチポイズである以下の溶液A、30℃における粘度が310センチポイズである以下の溶液B及び30℃における粘度が430センチポイズである以下の溶液Cからなる硬化性樹脂組成物を使用し、RIM成形機の混合ヘッドで溶液A:溶液B:溶液C=1.00:1.00:1.08(重量比)の割合の流れを混合し金型内に射出し硬化させることにより、縦500mm、横500mm、厚さ3mmの板状成形物を得る方法。
(溶液A(均一溶液))
DCP(ジシクロペンタジエン) 924重量部
エチリデンノルボルネン 12重量部
SBR(スチレンブタジエンゴム) 40重量部
タングステン系の触媒成分 12重量部
2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール 6重量部
ヘキサクロロキシレン 2重量部
(溶液B(均一溶液))
DCP(ジシクロペンタジエン) 900重量部
エチリデンノルボルネン 36重量部
SBR(スチレンブタジエンゴム) 40重量部
活性化剤成分 24重量部
(溶液C(スラリー))
DCP(ジシクロペンタジエン) 388重量部
エチリデンノルボルネン 12重量部
ブロム化ポリスチレン 420重量部
(ポリスチレン換算分子量1000、ブロム含有量67wt.%)
三酸化二アンチモン 180重量部」
の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(3)本件発明2について
ア 対比
甲2発明を本件発明2と対比すると、両発明の構成の対応は以下のとおりとなる。
a 甲2発明における溶液Bに含まれる「活性化成分」は、甲2の段落0002、0023、0024、0026及び0035の記載からみて、オレフィンメタセシス重合触媒系の活性化剤成分であるから、本件発明2が引用する本件発明1における「メタセシス触媒活性剤」に相当する。
b 甲2発明における溶液Aに含まれる「タングステン系の触媒成分」は、甲2の段落0002、0025、0026及び0035の記載からみて、オレフィンメタセシス重合触媒系の触媒成分であるから、本件発明2が引用する本件発明1における「メタセシス触媒」に相当する。
c 甲2発明における溶液Cに含まれる「三酸化二アンチモン」は、組成ではなく酸化数に着目して三酸化アンチモンとも称される物質であるから、本件発明2が引用する本件発明1における「三酸化アンチモン」に相当する。
d 甲2発明における溶液Cに含まれる「ブロム化ポリスチレン」は、甲2の段落0009及び0012~0016の記載からみて、架橋重合体組成物に難燃性を付与するためのものであるから、本件発明2が引用する本件発明1における「メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤」と、「臭素系難燃剤」という限度で一致する。
e 甲2発明における溶液A、溶液B及び溶液Cに含まれる「DCP(ジシクロペンタジエン)」及び「エチリデンノルボルネン」は、甲2の段落0011の記載からみてメタセシス重合触媒系により重合可能な環状オレフィン化合物であるから、本件明細書の段落0016のシクロオレフィン系樹脂にはシクロオレフィン系モノマーも含まれる旨の記載からみて、本件発明2が引用する本件発明1における「シクロオレフィン系樹脂」に相当する。
f 前記a~cから、甲2発明における「溶液B」は本件発明2が引用する本件発明1における「メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液」に相当し、甲2発明における「溶液A」は本件発明2が引用する本件発明1における「メタセシス触媒を含む第2反応液」に相当し、甲2発明における「溶液C」は、本件発明2が引用する本件発明1における「メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせである臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む第3反応液」と、「臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む第3反応液」という限度で一致する。そして、これらのことと前記dとから、甲2発明は「前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ」たものであるといえる。
g 甲2発明における「縦500mm、横500mm、厚さ3mmの板状成形物」は、甲2の段落0002、0011及び0031の記載からみてこの成形物を構成する架橋重合体組成物が溶液B、溶液A及び溶液Cに含まれるDCP(ジシクロペンタジエン)とエチリデンノルボルネンとの共重合体であると認められること、甲2の段落0012~0017の記載からみてこの成形物にブロム化ポリスチレン及び三酸化二アンチモンが高められた難燃性を付与するために含まれていると認められること並びに前記a~dから、本件発明2が引用する本件発明1における「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体」に相当する。
h 甲2発明における「RIM成形機の混合ヘッドで溶液A:溶液B:溶液C=1.00:1.00:1.08(重量比)の割合の流れを混合し金型内に射出し硬化させる」は、甲2の段落0002及び0009の記載からみて、本件発明2が引用する本件発明1における「成形体を反応射出成形により製造する方法」に相当する。
i 甲2発明における「RIM成形機の混合ヘッド」及び「金型」は、本件発明1における「ミキシングヘッド」及び「金型」に相当する。
したがって、本件発明2と甲2発明とは、
「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、
メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、
メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、
メタセシス触媒を含む第2反応液と、
臭素系難燃剤、および三酸化アンチモンを含む第3反応液と、を用い、
前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、
金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、
前記第1反応液流入させ、
前記第2反応液流入させ、かつ
第3反応液流入させて、
前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、
前記混合反応液を金型に射出し、
前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする難燃性シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。」
という点で一致し、
相違点6:臭素系難燃剤が、本件発明2は「メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル、エチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組み合わせ」であるのに対し、甲2発明はブロム化ポリスチレンである点
相違点7:三酸化アンチモンの平均粒子径が、本件発明2は「0.3μm以上0.9μm以下」であるのに対し、甲2発明は不明である点
相違点8:第1~第3反応液が、本件発明2は第1~第3反応液槽に充填されたものであるとともに第1~第3流路からミキシングヘッドに流入させるものであるのに対し、甲2発明はそのようなものであるか不明である点
で相違する。
イ 相違点7についての検討
事案に鑑み相違点7について検討する。
甲2には、「本発明に使用されるアンチモン、アルミニウム、ジルコニウム、硼素から選ばれる金属の酸化物の少なくとも1種は、難燃効果を高める上で重要な役割を果たしている。かかる金属酸化物の具体例としては、酸化アンチモン(三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン)、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ほう素等があげられる」(段落0017)、「本発明で使用する上記の金属酸化物は、環状オレフィン化合物に一般的に溶解しないので、難燃効果を効率良く発揮するためにはできるだけ細粒状のものが好ましい。特に325メッシュ篩を通過するのに充分な小さいサイズ、即ち約44ミクロンより小さい最大寸法を有しているものが好ましく使われる。また細粒体を使うことにより得られる架橋重合体組成物の特性も均一になる」(段落0018)と、三酸化二アンチモンは約44ミクロンより小さい最大寸法を有しているものが好ましい旨が記載されている。
しかし、甲2には、難燃効果を効率よく発揮し、得られる架橋重合体組成物の特性を均一にするために、44ミクロンより小さい最大寸法を有する三酸化二アンチモンを用いることが記載されるにとどまり、三酸化二アンチモンの平均粒子径を0.3μm以上0.9μm以下とすることにより、表面のべたつき等がないシクロオレフィン樹脂を提供することは記載も示唆もされていない。
また、前記2(4)イで述べたのと同様に、甲1~甲8にはシクロオレフィン系樹脂の反応時における反応阻害を抑制するという観点から三酸化アンチモンの平均粒子径を0.3~0.9μmとすることを動機付ける記載はない。
したがって、甲2発明において、三酸化アンチモンとして平均粒子径が0.3μm以上0.9μm以下のものを採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
ウ 本件発明2の効果について
前記2(4)ウで述べたのと同様の理由により、本件発明2の効果は甲1~甲8の記載から予測し得るものではない。
エ 本件発明2についてのまとめ
以上のとおりであるから、相違点6及び8について検討するまでもなく、本件発明2が甲2発明、甲2及び甲3の記載並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本件発明1及び3は、甲1発明、甲1の記載及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
本件発明2に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載された取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701075