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特許異議申立

2024-700730

シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法

審判番号
2024-700730
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-197611
登録番号
7427422
請求日
2024年08月02日
審決日
2026年01月23日
公報発行日
2026年04月24日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】アキレス株式会社
  • 【権利者代理人】細井 勇
  • 【権利者代理人】栗田 由貴子
  • 【異議申立人】藤央 弁理士法人
審判長/審判官
  • 審判長 古屋野 浩志
  • 審判官 外川 敬之
  • 審判官 里村 利光
分類
P1651.121-YAA(B29C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条、特許法第113条、特許法第36条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7427422号発明「シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7427422号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第7427422号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続等の経緯 特許第7427422号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2019-197611号、以下「本件出願」という。)は、令和元年10月30日の出願であって、令和6年1月26日にその特許権の設定登録がされ、令和6年2月5日に特許掲載公報が発行された。 本件特許について、特許掲載公報の発行の日から6月以内である令和6年8月2日に、特許異議申立人 藤央弁理士法人(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続の経緯の概要は、以下のとおりである。 令和6年12月 6日付け:取消理由通知書 令和7年 2月 5日 :意見書(特許権者)の提出 令和7年 2月 5日 :訂正請求書の提出(この訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。) 令和7年 3月25日 :意見書(特許異議申立人)の提出 令和7年 7月28日付け:取消理由通知書(審決の予告) 令和7年 9月26日 :意見書(特許権者)の提出 第2 本件訂正請求について 1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容 (1)訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、特許第7427422号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1~4について訂正することを求める、というものである。 (2)訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、 メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、熱膨張マイクロカプセルを含むシクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、 メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、メタセシス触媒を含む第2反応液と、 熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液と、を用い、 前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、 金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、 第1反応液槽に充填され前記第1反応液を第1流路から流入させ、 第2反応液槽に充填され前記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ 第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、 前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、 前記混合反応液を金型に射出し、 前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とするシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。」と記載されているのを、 「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、 メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、熱膨張マイクロカプセルを含むシクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、 メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、 メタセシス触媒を含む第2反応液と、 熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液と、を用い、 前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、 金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、 第1反応液槽に充填され前記第1反応液を予備撹拌せずに第1流路から流入させ、 第2反応液槽に充填され前記第2反応液を予備撹拌せずに第2流路から流入させ、かつ 第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、 前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、 前記混合反応液を金型に射出し、 前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とするシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。」 に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~4も同様に訂正する)。 イ 訂正事項2 明細書段落【0008】に、「本発明のシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法は、シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、熱膨張マイクロカプセルを含むシクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、メタセシス触媒を含む第2反応液と、熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液と、を用い、前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、第1反応液槽に充填され前記第1反応液を第1流路から流入させ、第2反応液槽に充填され前記第2反応液を第2流路から流入させ、かつ第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、前記混合反応液を金型に射出し、前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする。」 と掲載されているのを、 「本発明のシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法は、シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、熱膨張マイクロカプセルを含むシクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、メタセシス触媒を含む第2反応液と、熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液と、を用い、前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、第1反応液槽に充填された前記第1反応液を予備撹拌せずに第1流路から流入させ、第2反応液槽に充填された前記第2反応液を予備撹拌せずに第2流路から流入させ、かつ第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、前記混合反応液を金型に射出し、前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とする。」 と訂正する。 (3)一群の請求項 訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、それぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1~4に対応する訂正後の請求項1~4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1に係る訂正は、請求項1に記載された「第1反応液を第1流路から流入させ」る工程及び「第2反応液を第2流路から流入させ」る工程について、訂正前の請求項1では、それぞれ単に「第1流路から流入させ」及び「第2流路から流入させ」と特定していたのに対し、訂正後の請求項1では、それぞれ「予備撹拌せずに第1流路から流入させ」及び「予備撹拌せずに第2流路から流入させ」と特定することにより、上記各工程において予備攪拌することを排除することで、訂正後の請求項1に係る発明の上記各工程をより具体的に限定するものである。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 また、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~4についても、同様である。 イ 新規事項の有無 本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には「製造方法1」について、「メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、メタセシス触媒を含む第2反応液と、熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液と、を準備する・・・それぞれ第1反応液槽120、第2反応液槽130、第3反応液槽140に充填する。第3反応液槽140に充填された第3反応槽は、攪拌羽根144によって予備攪拌され」と記載され(【0046】)、製造方法1の説明図である、本件特許の願書に添付した図面(以下「本件図面」という。)の【図1】(下記参照)には、第3反応槽140のみに攪拌羽根144が設けられ、触媒等を含む第1反応液槽及び第2反応槽には攪拌羽根が設けられていないことが理解される。 また、当該製造方法1について、本件明細書の【0050】には、「予備撹拌において触媒等が反応して活性が低下することを防止することができる。」とも記載されており、この記載は、予備攪拌によって何らかの原因で触媒等の活性が低下することを意味していると理解される。 以上総合すると、本件明細書及び本件図面には、メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、メタセシス触媒を含む第2反応液には予備撹拌を行わないという技術的事項が記載されているといえる。 [図:0001434114000001.jpg] そうすると、上記訂正事項1は、本件明細書の【0046】、【0050】及び本件図面の【図1】の記載から導き出すことができる事項であり、当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものといえる。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 また、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~4についても、同様である。 ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項1に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 また、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~4についても、同様である。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2に係る訂正は、訂正事項1に係る訂正である、特許請求の範囲の訂正に伴い、特許請求の範囲と整合させるために行う明細書の訂正である。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 また、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~4についても、同様である。 イ 新規事項の有無 上記(1)イのとおりである。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項の規定に適合する。 また、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~4についても、同様である。 ウ 特許請求の範囲の拡張、変更の存否 上記ア及びイに照らせば、訂正事項2に係る訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかである。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項の規定に適合する。 また、請求項1の記載を引用して記載された請求項2~4についても、同様である。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求に係る訂正は認められた。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明4」という。)は、本件訂正請求に係る訂正後の特許請求の範囲の請求1~4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、 メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、熱膨張マイクロカプセルを含むシクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、 メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、 メタセシス触媒を含む第2反応液と、 熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液と、を用い、 前記第1反応液、前記第2反応液、および前記第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、 金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、 第1反応液槽に充填された前記第1反応液を予備撹拌せずに第1流路から流入させ、 第2反応液槽に充填された前記第2反応液を予備撹拌せずに第2流路から流入させ、かつ 第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、 前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、 前記混合反応液を金型に射出し、 前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させることを特徴とするシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。 【請求項2】 前記熱膨張マイクロカプセルの外殻が(メタ)アクリロイル基を有する樹脂を含む請求項1に記載のシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。 【請求項3】 前記シクロオレフィン系樹脂成形体100質量%において、前記熱膨張マイクロカプセルは0.2質量%以上1.0質量%以下である請求項1または2に記載のシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。 【請求項4】 前記第3反応液は非溶解型臭素系難燃剤を含む請求項1から3のいずれか一項に記載のシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 申立人が提出した証拠方法 甲第1号証:特開平2-167333号公報(甲1) 甲第2号証:「METTON専用RIM機 METTOMAX」,株式会社ポリウレタンエンジニアリング(甲2) 甲第2号証-1:甲第2号証の公開日を証明する書面(甲2-1) 甲第3号証:「DCPD-RIM成形装置 SUPER RIM 射出注入機」,[online],[平成29年2月8日検索],インターネット<http://www.met-japan.com/products/download/product_5.pdf>(甲3) 甲第4号証:特開2005-288772号公報(甲4) 甲第5号証:特開平5-155989号公報(甲5) 甲第6号証:特開平5-93048号公報(甲6) 甲第7号証:特開平11-49898号公報(甲7) (当合議体注:甲1は主引例であり、甲2、甲3及び甲6は技術常識を示す文献であり、甲4及び甲7は周知技術を示す文献である。甲5は技術常識を示す文献であり、周知技術を示す文献でもある。) 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、当合議体が令和6年12月6日付け取消理由通知書により通知した取消理由は、概略次のとおりである。 理由1:(進歩性)本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 当合議体の判断 1 甲1の記載及び甲1に記載された発明 (1)甲1の記載 令和7年7月28日付け取消理由通知書で引用された甲1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付したものであって、甲1に記載された発明の認定に用いた箇所を示す。 ア 特許請求の範囲 「8.ノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマーおよびメタセシス共触媒を含む反応性配合液(A)と、ノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマー、メタセシス触媒系および熱膨張性マイクロカプセルを含む反応性配合液(B)をミキシングヘッドで混合した後、キャビティー型とコア型に温度差を設けて保持した金型内に注入して反応射出成形を行なうことを特徴とするノルボルネン系シクロオレフィンポリマーの製造法。」(1頁右下欄17行~2頁左上欄5行) イ 産業上の利用分野 「 本発明は、ノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマーからなる反応性配合液および金型内での該反応性配合液の塊状重合によるノルボルネン系シクロオレフィンポリマーの製造法に関する。より詳しくは、反応性配合液中に熱膨張性マイクロカプセルを含有せしめることによって、製品の硬化不良が少なく、かつボス、リブ充填性のよいノルボルネン系シクロオレフィンポリマーを製造する方法に関する。」(2頁左上欄7~16行) ウ 発明が解決しようとする課題 「 本発明は、さらに、ノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマーおよび活性剤を含む反応性配合液(A)と、ノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマー、メタセシス触媒系および熱膨張性マイクロカプセルを含む反応性配合液(B)をミキシングヘッドで混合した後、キャビティー型とコア型に温度差を設けて保持した金型内に注入して反応射出成形を行なうことを特徴とするノルボルネン系シクロオレフィンポリマーの製造法を提供する。」(5頁左上欄5~14行) エ シクロオレフィンモノマー 「 本発明で用いられるシクロオレフィンモノマーは下記式(I)で示されるノルボルネン基を少なくとも一つ以上有する二環またはそれ以上の多環ノルボルネンであり、置換基を有していても、いなくともよい。 [図:0001434114000002.jpg] 好ましいシクロオレフィンモノマーの具体例としては、例えばノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、シクロペンタジエン三量体、テトラシクロドデセン、シクロペンタジエン四量体、ヘキサシクロヘプタデセン及びこれらの置換体などが例示される。」(5頁右下欄13行~6頁左上欄6行) オ メタセシス触媒系 「 本発明の反応性配合液はメタセシス触媒系を含有する。この触媒系はメタセシス触媒と共触媒を含む。反応性配合液の個々の供給原料はメタセシス触媒又は共触媒のいずれか一方のみを含有する。」(7頁右上欄6~10行)「 メタセシス触媒は、ノルボルネン系モノマーの1モルに対し、通常、約0.01~50ミリモル、好ましくは0.1~10ミリモルの範囲で用いられる。活性剤(共触媒)は、触媒成分に対して、通常、0.1~200(モル比)、好ましくは2~10(モル比)の範囲で用いられる。」(10頁左上欄3~8行) カ 熱膨張マイクロカプセル 「 本発明で使用する熱膨張性マイクロカプセルは膨張可能な熱可塑性重合体粒子中に液状発泡剤を内包させたものである。かかる発泡剤は典型的には低沸点液体からなる液状発泡剤を内包した熱可塑性マイクロカプセルとして製造される。・・・中略・・・ 本発明で用いられる熱膨張性マイクロカプセル粒子は、一般に(1)所望の物性を有する熱可塑性樹脂を形成するのに適した有機モノマーと(2)生成する重合体に対して殆ど溶剤として作用しない液状発泡剤との水性分散液を調製することにより得られる。重合によりモノマーは固形の球形粒子となり、液状発泡剤をその内部に包み込む。 ・・・中略・・・ アクリレートモノマーは単独、またはアルケニル芳香族モノマーと紐み合わせて使用することができる。アクリレートモノマーは通常下式で示される。 [図:0001434114000003.jpg] 式中、Rは炭素数1~12のアルキル基であり、R1は水素又はメチル基である。アクリレートモノマーの具体例としては、例えばメチルメタクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ラウリルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、エチルメククリレートなどが例示される。 ・・・中略・・・ エキスパンセル(EXPANCEL)、マイクロライト(MICROLITE)、ミラライト(MIRALITE)及びマツモトマイクロスフェアーの商品名で市販されているマイクロカプセルは興味あるものである。エクスパンセルは湿った未膨張品、乾燥した未膨張品、湿った既膨張品、乾燥した既膨張品の形で市販されている。ある種のエクスパンセルは初期において平均10~17μmの粒径を有しており、膨張すると平均粒径40~60μmになる。未膨張及び既膨張のマイクロカプセルの好ましい粒径は200μm以下、とくに2~200μmである。これらのマイクロカプセルはビニリデンクロライドとアクリロニトリルの共重合体で形成された殻を有している。この殻が加圧下に発泡剤(液状イソブタン)を内包している。 ・・・中略・・・ 未膨張性マイクロカプセル(部分的に膨張させたものを含む)の配合量は、成形品の機械的物性を大きく阻害しない範囲内で適宜選択すればよいが、反応性配合液重量に基づき約0.01~5重量%、なかでも約0.05~2重量%、とくに約0.1~1重量%が好ましい。」(10頁左上欄13行~11頁右下欄5行) キ 反応性配合液の塊状重合 「 好ましい実施態様においては、反応性配合液はRIM法で固体成形品とされる。すなわち、ノルボルネン系シクロオレフィンモノマーを所定形状の金型内に導入し、金型中でメタセシス触媒系の存在下に塊状重合せしめる方法によりノルボルネン系ポリマー、すなわち成形品を製造する。 メタセシス触媒系の二つの部分(触媒および共触媒)はそれぞれ別個にモノマーと湿合され、熱彬張性マイクロカプセルはいずれか一方又は双方に配合されることにより本発明の供給原料が形成される。これらの混合物は30日以上の間ゲルを含まない状態を保つような貯蔵安定性に優れたものであることが好ましい。これらの混合物は二つの別々の反応原料の流れとして、RIM機のミキシングヘッドで混合され、次いで予備加熱された金型に射出され、そこで重合して発泡体を形成する。当業者には自明なことであるが、モノマー又は熱膨張性マイクロカプセルは反応流れの一方のみに加えることができ、またモノマー、熱膨張性マイクロカプセル又は双方を含む付加的な流れを有する多液型の流れとしてもよい。」(12頁右下欄下から2行~13頁左上欄下から2行) (2)甲1に記載された発明 上記(1)アの記載から、甲1には、下記の引用発明が記載されていると認められる。 甲1発明「ノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマーおよびメタセシス共触媒を含む反応性配合液(A)と、ノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマー、メタセシス触媒および熱膨張性マイクロカプセルを含む反応性配合液(B)をミキシングヘッドで混合した後、キャビティー型とコア型に温度差を設けて保持した金型内に注入して反応射出成形を行なうノルボルネン系シクロオレフィンポリマーの製造法。」 (当合議体注:甲1の特許請求の範囲の「8.」における「メタセシス触媒系」は「メタセシス触媒」の誤記と認められる。) (3)RIM機に関する技術常識(技術常識1)の認定 甲2(「2頁の「◆フローシート」及び4頁の〔標準性能表〕の「原料タンク攪拌機(KW)」の欄)及び甲3(2頁の「装置構成部品概略仕様」の「●原液デイタンク」の「付属」欄及び「3ストリーム装置」の「●P・F液デイタンク」の「型式」欄)の各記載によれば、RIM機の技術分野において、以下の事項が、本件出願時における技術常識であったと認められる。 「反応槽に充填された反応液を流路からミキシングヘッドに流入させること」及び「フィラー沈殿防止のために反応槽に充填された反応液を撹拌しておくこと」 (以下、まとめて「技術常識1」という。) (4)RIM法によるノルボルネン系ポリマー製造に関する技術常識(技術常識2)の認定 甲5の【0041】における「(塊状重合)ノルボルネン系ポリマーの好ましい製造法では、一般に、ノルボルネン系モノマーを二液に分けて別の容器に入れ、一方にはメタセシス触媒を、他方には活性剤を添加し、二種類の安定な反応原液を調製する。この二種類の反応液を混合し、次いで所定形状の金型中に注入し、そこで塊状による開環重合を行なう。」との記載、及び、甲6の【0023】における「好ましいポリマーの製造法では、ノルボルネン系モノマーを二液に分けて別の容器に入れ、一方にはメタセシス触媒を、他方には共触媒および活性調節剤をそれぞれ添加し、二種類の安定な反応溶液を調製する。この二種類の反応溶液を混合し、次いで所定形状の金型または型枠中に注入し、そこで塊状による開環重合を行なう。」との記載によれば、RIM法によるノルボルネン系ポリマー製造の技術分野において、以下の事項が、本件出願時における技術常識であったと認められる。 「ノルボルネン系モノマーを二液に分けて別の容器に入れ、一方にはメタセシス触媒を、他方には活性剤を添加して調製した反応原液は安定であること」 (以下「技術常識2」という。) 2 本件訂正発明1について (1)対比 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。 ア 第1反応液 甲1発明の「反応性配合液(A)」は、「メタセシス共触媒」を含んでいるところ、甲1における「活性剤(共触媒)」(10頁左上欄5、6行)との記載より、甲1発明の「メタセシス共触媒」は、本件特許発明1の「メタセシス触媒活性剤」に相当するものと認められる。 したがって、甲1発明の「反応性配合液(A)」は、本件特許発明1において「メタセシス触媒活性剤を含む」と特定された「第1反応液」に相当する。 イ 第2反応液 甲1発明の「反応性配合液(B)」は、「メタセシス触媒」及び「熱膨張性マイクロカプセル」を含んでいるところ、甲1発明の「メタセシス触媒」及び「熱膨張性マイクロカプセル」は、それぞれ本件特許発明1の「メタセシス触媒」及び「熱膨張マイクロカプセル」に相当する。 したがって、甲1発明の「反応性配合液(B)」は、本件特許発明1において「メタセシス触媒を含む」と特定された「第2反応液」に相当する。 ウ 反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させること 甲1発明の「シクロオレフィンモノマー」は、本件明細書の【0015】における「ここでシクロオレフィン系樹脂とは、メタセシス触媒系で重合可能な環状オレフィン化合物であればよく、シクロオレフィン系モノマーおよび/またはシクロオレフィン系オリゴマーを含む。」との記載を考慮すると、本件特許発明1の「シクロオレフィン系樹脂」に相当する。 ここで、甲1発明の「反応性配合液(A)」及び「反応性配合液(B)」は、いずれも「シクロオレフィンモノマー」を含むから、甲1発明は、本件特許発明1と「前記第1反応液、前記第2反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ」るという点で一致する。 エ シクロオレフィン系樹脂の重合 甲1発明は、「反応性配合液(A)」と「反応性配合液(B)」をミキシングヘッドで混合した後、金型内に注入して反応射出成形を行うことによりノルボルネン系シクロオレフィンポリマーを製造するものであるから、ミキシングヘッドで「反応性配合液(A)」と「反応性配合液(B)」を混合して調製した「混合反応液」を金型内に注入(射出)し、金型中でノルボルネン基を有するシクロオレフィンモノマーを重合させることにより、ノルボルネン系シクロオレフィンポリマーを製造するものと認められる。 してみれば、甲1発明は、本件特許発明1の「前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、前記混合反応液を金型に射出し、前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させる」という要件を満たす。 オ シクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法 上記エのとおり、甲1発明は、「混合反応液」を金型内に注入(射出)し、金型中でノルボルネン系シクロオレフィンモノマーを塊状重合させることにより、ノルボルネンポリマーの成形品を製造するものであり、「混合反応液」が、「メタセシス共触媒」を含む「反応性配合液(A)」と、「メタセシス触媒」及び「熱膨張性マイクロカプセル」を含む「反応性配合液(B)」の混合物であるから、ノルボルネンポリマーの成形品も「メタセシス触媒」、「メタセシス共触媒」及び「熱膨張性マイクロカプセル」を含むことは明らかである。 そして、本件明細書の【0015】における「ここでシクロオレフィン系樹脂とは、メタセシス触媒系で重合可能な環状オレフィン化合物であればよく、シクロオレフィン系モノマーおよび/またはシクロオレフィン系オリゴマーを含む。またシクロオレフィン系樹脂からなる樹脂骨格とは、上記シクロオレフィン系樹脂から構成された重合物を指す。」との記載を考慮すると、甲1発明の「ノルボルネン系シクロオレフィンポリマー」は、シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有するものと認められる。 上記エと併せれば、結局、甲1発明は、本件特許発明1と「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、熱膨張マイクロカプセルを含むシクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法」である点及び「金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させる」「シクロオレフィン系樹脂成形体製造方法」である点で共通する。 (2)一致点及び相違点 上記(1)ア~オによれば、本件特許発明1と甲1発明との一致点は、以下のアのとおりであり、相違点は、以下のイのとおりである。 ア 一致点 「シクロオレフィン系樹脂を重合してなる樹脂骨格を有し、 メタセシス触媒、メタセシス触媒活性剤、熱膨張マイクロカプセルを含むシクロオレフィン系樹脂成形体を反応射出成形により製造する方法であって、 メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、 メタセシス触媒を含む第2反応液と、を用い、 前記第1反応液、前記第2反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、 ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し、 前記混合反応液を金型に射出し、 前記金型内において前記シクロオレフィン系樹脂を重合させるシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法。」 イ 相違点 本件特許発明1では、熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液を用い、第1反応液、第2反応液、および第3反応液の少なくとも1つにシクロオレフィン系樹脂を含有させ、金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、第1反応液槽に充填された前記第1反応液を予備撹拌せずに第1流路から流入させ、第2反応液槽に充填された前記第2反応液を予備撹拌せずに第2流路から流入させ、かつ第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させているのに対し、甲1発明では、第3反応液を用いておらず、「反応性配合液(B)」が「熱膨張性マイクロカプセル」を含み、「反応性配合液(A)」及び「反応性配合液(B)」に「シクロオレフィンモノマー」を含有させ、「ミキシングヘッド」に対し、「反応性配合液(A)」及び「反応性配合液(B)」をどのようにして流入させているのか特定されていない点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 ア 相違点に係る構成の容易想到性について 甲1発明は、「反応性配合液(A)」及び「反応性配合液(B)」をミキシングヘッドで混合した後、金型内に注入して反応射出成形を行なうものであるから、金型の射出口上流側にミキシングヘッドが配置されていることは技術的にみて明らかである。 また、甲1の13頁左上欄5~19行には、好ましい実施形態として、メタセシス触媒系の二つの部分(触媒および共触媒)が、それぞれ別個にモノマーと混合された混合物は、二つの別々の反応原料の流れとして、反応性射出成形(RIM)機のミキシングヘッドで混合されること、及び、モノマー、熱膨張性マイクロカプセル又は双方を含む付加的な流れを有する多液型の流れとしてもよいことが記載されている。 そうすると、甲1発明において、上記記載に基づいて、「反応性配合液(A)」及び「反応性配合液(B)」に加えて、「熱膨張性マイクロカプセル」(熱膨張マイクロカプセル)を含む反応性配合液(以下「反応性配合液(C)」という。)(本件特許発明1の「第3反応液」に相当)を追加して、金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、「反応性配合液(A)」の流れ(第1流路)及び「反応性配合液(B)」の流れ(第2流路)だけでなく「反応性配合液(C)」の流れ(第3流路)を付加して上記「多液型の流れ」に改変することには技術常識1及び2(上記1(3)及び(4)参照。)を理解した当業者にとって一応の動機づけがあるといえる。 イ 本件特許発明1の効果の予測可能性及び格別顕著性について 上記アに示したとおり、甲1発明において相違点に係る構成を採用する一応の動機づけは認められるものの、当合議体は、予備攪拌の有無が奏する効果に関する本件明細書の記載及び当該記載内容を裏付ける後記意見書の記載(実験結果)に照らせば、当該効果が本件出願時の技術常識1及び2からみて予測困難かつ格別顕著であって、総合的にみれば、本件特許発明1は甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない、と判断する。その理由は以下に示すとおりである。 (ア) 予備攪拌と触媒等の活性の関係について a 本件明細書の記載 予備攪拌と触媒等の活性との関係について、本件明細書には次の記載がある。 「・・・製造方法1によれば、熱膨張マイクロカプセルの沈降を防止するために、ミキシングヘッド116に流入される直前まで第3反応液を予備撹拌し、これによって熱膨張マイクロカプセルの分散性を高めるとともに、予備撹拌において触媒等が反応して活性が低下することを防止することができる。この結果、樹脂の重合反応時において触媒等の所期の活性が発揮され、望ましい重合反応を可能とし、樹脂成形体10の重合度が低下したことに起因する表面のべたつきの発生が防止されるとともに、樹脂成形体10における気泡の分散性を高め、局所的に偏りなく収縮が抑制された樹脂成形体を提供することができる。」(【0050】) ここで、上記記載における「熱膨張マイクロカプセルの分散性を高める」との効果が第3反応液を予備攪拌することによって奏される効果であることは明らかである。これに対して、「予備攪拌において触媒等が反応して活性が低下することを防止することができる」との効果が第1又は第2反応液の予備攪拌に起因すること、すなわち、当該予備攪拌しなければ触媒等の活性の低下が抑制できること(以下、この因果関係を「本件知見」という。)の具体的な裏付けは本件明細書には記載されていない。 そこで、後記bでは、本件知見の裏付けについて、令和7年9月26日提出の意見書(特許権者)の記載を検討する。 b 令和7年9月26日提出の意見書(特許権者)の記載 令和7年9月26日に提出された意見書(特許権者)には、次の記載がある。 本件特許発明は (a) 「本件特許発明の構成 ・・・中略・・・ (ろ) (ろ-1)メタセシス触媒活性剤を含む第1反応液と、 (ろ-2)メタセシス触媒を含む第2反応液と、 (ろ-3)熱膨張マイクロカプセルを含む第3反応液と、を用い」及び 「(に)金型の射出口上流側に配置されたミキシングヘッドに対し、 (に-1)第1反応液槽に充填された前記第1反応液を予備撹拌せずに第1流路から流入させ、 (に-2)第2反応液槽に充填された前記第2反応液を予備撹拌せずに第2流路から流入させ、かつ (に-3)第3反応液槽において充填され撹拌された状態にある第3反応液を第3流路から流入させて、 前記ミキシングヘッドで各反応液を混合して混合反応液を調製し」 「構成(ろ)を備える本件発明1は、さらに構成(に)を備えることで、触媒等の活性低下を止することができます。 触媒等の活性低下の要因は複数ありますが、代表的な要因の一つとして酸素と触媒等とが接触することで生じる触媒等の酸化反応の発生が挙げられます。したがって、触媒等を含む反応液が充填された反応液槽内が空気環境であれば、当該空気に含まれる酸素と触媒等が反応して触媒等が酸化し、これによって触媒の活性が低下する恐れがあります。 このような意図しない酸化反応をなるべく発生させないために、反応液槽内を窒素置換する手段が知られています。」 「 しかしながら、大規模な窒素置換に用いられる工業用の窒素ガスの純度は95.0%から99.9%程度であり、微量の酸素を含むことが一般的です。したがって、仮に反応液槽内を窒素ガスで置換したとしても、当該窒素ガスに含まれる酸素と触媒等とが反応し、かかる触媒等が酸化し、結果として触媒等の活性が低下する恐れがあります。 また一般的に、各反応液は貯留タンクにて保管がされ、シクロオレフィン系樹脂成形体の製造時において必要量が貯留タンクから配管を通って反応液槽に供給されるものですが、このような場合、貯留タンクと反応液槽間の配管は窒素置換が困難であるため、配管内に含まれる酸素は反応液槽に流入します。つまり、当該配管内に含まれる酸素も触媒等の活性低下の要因となります。」(意見書(3-1)、(4-2-2)~(4-2-3)参照。) (b) 「 本件発明1のシクロオレフィン系樹脂成形体製造方法の実施に際し、第1反応液槽を純度99.99%の窒素ガスを用いて窒素置換した後、上記第1反応液槽にメタセシス触媒活性剤(アルキルアルミニウム)およびシクロオレフィンモノマー(ジシクロペンタジエンおよびエチリデンノルボルネン)を含む第1反応液を充填し、予備撹拌することなく第1流路からミキシングヘッドに対し当該第1反応液を流入させました。 樹脂成形体の製造後、上記第1流路内に設置されたストレーナー(配管システムに設置し、液体や気体から固体状の異物等を分離・除去するためのろ過装置)を確認し、当該ストレーナーに設けられた分離のためのメッシュ部(図1 左側写真参照)をウエスで拭き取り、当該ウエスを観察しました。その結果、図1右側写真に示すとおりウエス上に黒色の異物が目視で確認されました。つまり本件発明1の製造方法を実施した結果、上記メッシュ部に当該異物が蓄積したことが確認されました。 [図:0001434114000004.jpg] ・・・中略・・・ 上記2つの分析結果から、分析に供した黒色の異物は、酸化アルミニウムAl2O3およびヒドロキシアルミニウムAl(OH)3の複合物であると推定され、このことから、メタセシス触媒活性剤(アルキルアルミニウム)の一部は第1反応液槽において酸化され、これが異物となってストレーナーにおいて分離されたと推定されました。 そして、以上のとおり酸化されたメタセシス触媒活性剤(アルキルアルミニウム)が検出されたことから、第1反応液に含有されたメタセシス触媒活性剤の活性は、第1反応液調製時に想定された値よりも低下したものと推察されました。 ・・・中略・・・ また本件発明1の製造方法における予備撹拌しない第1反応液槽においてさえ、上述のとおりメタセシス触媒活性剤の酸化が生じるのであるから、第1反応液槽で予備撹拌した場合にはさらにメタセシス触媒活性剤と置換された窒素ガスに含まれる酸素や貯留タンクと反応液槽間の配管内から反応液槽に混入した酸素との接触が増え、両者の反応が促進し、メタセシス触媒活性剤の酸化がより進み活性が低下することはいうまでもありません。」(意見書(4-2-4)参照。) c 本件知見が意見書によって裏付けられているといえるか 上記bの記載(実験結果及びその考察)によれば、当業者であれば、メタセシス触媒活性剤は、メタセシス触媒と混合される以前にも、第1反応液槽において微量の酸素と反応する等して失活し、前記第1反応液槽において予備撹拌を行った場合には、前記メタセシス触媒活性剤の失活がなお一層進行するであろうこと、を直ちに理解する。 そうすると、上記意見書は、本件知見を技術的に裏付けられていると認められる。 d 本件特許発明1の効果の予測可能性及び格別顕著性についての小括 RIM法によるノルボルネン系ポリマー製造に関する技術分野における当業者は、技術常識2を十分に認識している。 そうすると、反応槽内において95.0%から99.9%程度の高純度の窒素置換が行われた反応液中のメタセシス触媒がよもや酸化劣化が生じて活性が低下するような不都合が生じるような事態を、そのような当業者が想定することは困難というべきである。 したがって、本件特許発明1は、「第1反応液槽に充填された前記第1反応液を『予備撹拌せずに』第1流路から流入させる」という構成により、「メタセシス触媒活性剤の失活を防止することができる」という当業者にとって予測困難かつ格別顕著な効果を奏すると認めるのが相当である。 ウ 小括 上記ア~イによれば、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲1に記載された事項及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3 本件訂正発明2~4について 本件訂正特許請求の範囲の請求項2~4は、いずれも、請求項1を引用するものであって、本件訂正発明2~4は、本件特許発明1の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、上記(3)ウのとおり、本件特許発明1が、甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件特許発明2~4も、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許発明1は、甲1発明と同一であって新規性を有しない旨主張する。 しかしながら、上記2(2)イにおいて検討したとおり、本件訂正発明1と甲1発明とは同一でない。 したがって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。 また、特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲に関し、請求項4に記載の「非溶解型臭素系難燃剤」は、溶媒の種類によって溶解できる材料や溶解度も異なるところ、本件特許発明4では、いかなる溶媒に「非溶解」であるのかについて規定していないから、特許を受けようとする発明が不明確である旨を主張する。 しかしながら、本件明細書には、以下の記載がある。 「【0035】 また異なる好ましい例としては、非溶解型臭素系難燃剤を挙げることができる。非溶解型臭素系難燃剤は、シクロオレフィン系樹脂材料に対し溶解しないため、当該難燃剤中に含有される不純物がシクロオレフィン系樹脂中に分散しないという優れた性質を有する。難燃剤中に含有される不純物がシクロオレフィン系樹脂中に分散した場合、硬化反応不良が生じ、形成された樹脂成形体の外表面がべたつくなどの不具合が発生する場合があるからである。 【0036】 上記非溶解型臭素系難燃剤は、本発明の樹脂成形体に難燃性を付与可能な化合物であり、たとえば、メチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニルまたはエチレン-1,2-ビスペンタブロモフェニルのいずれかまたは組合せが例示されるがこれに限定されない。」(下線は合議体による。) 上記記載からみて、非溶解型臭素系難燃剤とは、シクロオレフィン系樹脂材料に対し溶解しないものを指す。また、非溶解型臭素系難燃剤の例としてメチレン-1、2-ビスペンタブロモフェニル等が挙げられていることからも、どのようなものが非溶解型臭素系難燃剤に包含されるかは、当業者が直ちに理解できる事項である。 そうすると、本件訂正発明4は第三者に不測の不利益を与えるほどの不明確とはいえないから明確であり、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条6項2号の要件を満たす。 したがって、特許異議申立人の上記主張は、採用することができない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、当合議体が通知した取消しの理由及び特許異議申立ての理由によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700730

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