特許異議申立
2024-701006
二次電池用電池ケースおよびガス排出部の製造方法
- 審判番号
- 2024-701006
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-507871
- 登録番号
- 7466975
- 請求日
- 2024年10月15日
- 審決日
- 2024年12月11日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
- 【権利者代理人】飯田 雅人
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【異議申立人】尾崎 真実
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 洋
- 審判官 丸山 高政
- 審判官 土居 仁士
- 分類
- P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M) / P1651.113-Y (H01M) / P1651.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7466975号発明「二次電池用電池ケースおよびガス排出部の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7466975号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7466975号(以下「本件特許」という。)の請求項1~19に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)8月24日(優先権主張外国庁受理 2019年8月27日 大韓民国)を国際出願日とする出願であって、令和6年4月5日にその特許権の設定登録がされ、同年4月15日に特許掲載公報が発行された。その後、その全請求項(請求項1~19)に係る特許に対し、令和6年10月15日に特許異議申立人 尾崎 真実(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
前記特許異議の申立てのために提出された特許異議申立書を、以下では単に「申立書」という。
第2 本件の特許請求の範囲と本件発明
本件の特許請求の範囲の請求項1~19に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明19」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、その請求項に記載されたとおりのものと認める。
なお、後の参照の便宜のために、本件発明1、4、10、17及び18については、以下に示すように分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。
【請求項1】
1A パウチ型の二次電池用電池ケースであって、
1B 電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部と、
1C 前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部と、
1D ガスが透過するガス排出部であって、前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホールの内側に付着されたガス排出部とを含み、
1E 前記ガス排出部は、
1F ガスが透過するガス排出層と、
1G 前記ガス排出層の外側面に形成され、疎水性を有する外部機能性層とを含み、
1H 前記外部機能性層は、
1I 外側面に複数の微細突起が分布して形成される、
1J パウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項2】
前記微細突起は、
直径が50nm~10μmである、請求項1に記載のパウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項3】
前記微細突起は、
直径が100nm~1μmである、請求項2に記載のパウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項4】
4A パウチ型の二次電池用電池ケースであって、
4B 電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部と、
4C 前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部と、
4D ガスが透過するガス排出部であって、前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホールの内側に付着されたガス排出部とを含み、
4E 前記ガス排出部は、
4F ガスが透過するガス排出層と、
4G 前記ガス排出層の外側面に形成され、疎水性を有する外部機能性層とを含み、
4H 前記外部機能性層は、
4I オイルまたはワックス成分を含む、
4J パウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項5】
前記オイルは、
フッ化炭素オイル、シリコンオイル、炭素系オイル、脂肪酸アミドのうち少なくとも1つを含む、請求項4に記載のパウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項6】
前記ガス排出層は、
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうち少なくとも1つを含む、請求項1~5の何れか一項に記載のパウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項7】
前記ガス排出層の内側面に形成され、疎水性を有する内部機能性層をさらに含む、請求項1~6の何れか一項に記載のパウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項8】
前記シール部は、
前記カップ部に隣接した内側領域と、
前記内側領域よりも外側に位置して縁となり、シールされることで前記カップ部を密閉する外側領域とを含み、
前記ホールは、
前記シール部において、前記内側領域に形成される、請求項1~7の何れか一項に記載のパウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項9】
前記ガス排出部は、
複数で形成される、請求項1~8の何れか一項に記載のパウチ型の二次電池用電池ケース。
【請求項10】
10A ガスが透過するガス排出層を備えるステップと、
10B 微細粒子および高分子溶液を撹拌して混合物を製造するステップと、
10C 前記ガス排出層の少なくとも一面に、前記混合物を噴射するステップと、
10D 前記混合物を乾燥するステップと
10E を含む、ガス排出部の製造方法。
【請求項11】
前記ガス排出層は、
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうち少なくとも1つを含む、請求項10に記載のガス排出部の製造方法。
【請求項12】
前記高分子溶液は、
ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうち少なくとも1つを含む、請求項10または11に記載のガス排出部の製造方法。
【請求項13】
前記微細粒子は、
シリカ粒子、カーボンナノチューブ(CNT)、アルミナ粒子のうち少なくとも1つを含む、請求項10に記載のガス排出部の製造方法。
【請求項14】
前記シリカ粒子は、
0.1~2wt%の範囲内で含まれる、請求項13に記載のガス排出部の製造方法。
【請求項15】
前記混合物を噴射するステップは、
前記ガス排出層から8~15cm離れた距離から、ノズルを用いて0.2~0.5MPaの圧力で前記混合物を噴射する、請求項10に記載のガス排出部の製造方法。
【請求項16】
前記混合物を噴射するステップおよび前記混合物を乾燥するステップは、
2回~4回繰り返し行われる、請求項10に記載のガス排出部の製造方法。
【請求項17】
17A 電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体と、
17B 前記電極組立体を内部に収容する電池ケースとを含み、
17C 前記電池ケースは、
17D 前記電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部と、
17E 前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部と、
17F ガスが透過するガス排出部であって、前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホールの内側に付着されたガス排出部とを含み、
17G 前記ガス排出部は、
17H ガスが透過するガス排出層と、
17I 前記ガス排出層の外側面に形成され、疎水性を有する外部機能性層とを含み、
17J 前記外部機能性層が外側面に複数の微細突起が分布して形成されるか、またはオイルまたはワックス成分を有する、
17K パウチ型二次電池。
【請求項18】
18A パウチフィルムをドローイング成形してカップ部を形成するステップと、
18B 前記カップ部または前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部のうち少なくとも一方に、ホールを穿孔するステップと、
18C 前記ホールに、ガスが透過するガス排出部を内側に付着するステップと、
18D 前記カップ部に備えられた収容空間に、電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体が収容されるステップと、
18E 前記シール部に熱圧着をするステップとを含み、
18F 前記ガス排出部は、
18G ガスが透過するガス排出層と、
18H 前記ガス排出層の外側面に形成され、疎水性を有する外部機能性層とを含み、
18I 前記外部機能性層が外側面に複数の微細突起が分布して形成されるか、またはオイルまたはワックス成分を有する、
18J パウチ型二次電池の製造方法。
【請求項19】
前記パウチフィルムは、
ポリマーから製造され、最内層に位置するシーラント層を含み、
前記ガス排出部を付着するステップにおいて、
前記外部機能性層が、前記シーラント層に熱および圧力が印加されてシールされる、請求項18に記載のパウチ型二次電池の製造方法。
第3 証拠方法及び申立理由
申立人は、申立書とともに以下の1に示す甲第1号証~甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の2に示す申立理由により、請求項1~19に係る特許を取消すべきものである旨主張する。
1 証拠方法
甲1 特開2011-108433号
甲2 角田光雄,大場洋一,福村勉郎,“放電処理テフロンの表面構造”,工業化学雑誌,72巻,11号,(1969年),pp.2446~2450
甲3 岩森暁,小野洋平,“ポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene)-エチレンビニルアルコール(Ethylene vinyl alcohol)共蒸着薄膜”,真空,Vol.49,No.1,(2006年),pp.34~39
2 申立理由
申立書に記載された申立理由は、概略、以下のとおりである。
理由A 本件発明1~3、6~8及び17~19は、甲2及び甲3に記載された内容を考慮すると、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当する甲1に記載された発明と同一であるから、同項の規定に違反してされたものである。(同法113条1項2号)
なお、申立書15頁の「(3)申立ての根拠」には、本件発明4、5及び9についても新規性欠如を主張するような記載があるものの、同14頁の理由の要点及び同20~39頁の「4.理由A、及び、理由B(本件特許発明1~9、17~19)について」に記載された具体的な理由によれば、本件発明4、5及び9には新規性欠如の申立理由は主張されていないと認める。
理由B 本件発明1~9及び17~19は、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1~9及び17~19についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条1項2号)
理由C 本件の発明の詳細な説明は、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件発明についての特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法113条1項4号)
理由D 本件発明は明確ではないから、本件発明についての特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法113条1項4号)
第4 申立理由についての判断
事案に鑑み、まず、本件発明の技術的意義を明らかにし(以下の1)、次いで、理由C及びDについて判断し(以下の2及び3)、最後に、理由A及びBについて判断する(以下の4)。
1 本件発明の技術的意義
以下では、本件発明の技術分野、課題、課題解決手段(その作用及び具体例を含む)及び効果を明らかにする。
(1)技術分野
本件発明は、パウチ型の二次電池用電池ケースの発明(本件発明1~9)、ガス排出部の製造方法の発明(本件発明10~16)、パウチ型二次電池の発明(本件発明17)及びパウチ型二次電池の製造方法の発明(本件発明18、19)であり、本件明細書の「本発明は、二次電池用電池ケースおよびガス排出部の製造方法に関し、より詳しくは、パウチの内部圧力が増加すると、内部のガスを外部に排出して圧力を調節することができる、二次電池用電池ケースおよびガス排出部の製造方法に関する。」(【0002】)との記載によれば、本件発明の技術分野は、パウチ型二次電池に関するものであると認められる。
(2)本件課題、課題解決手段及び課題解決手段の作用
本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)、本件課題を解決するための手段(以下「課題解決手段」という。)及び課題解決手段の作用は、以下のとおりである。
ア 本件明細書の「一方、二次電池は、外部衝撃による内部短絡、過充電、過放電などによりガスが発生し得る。または、高温で保管または貯蔵する場合、高い温度が電解質および電極活物質の電気化学的反応を速く促進してガスが発生し得る。」(【0005】)との記載及び「本発明が解決しようとする課題は、パウチの内部圧力が増加すると、内部のガスを外部に排出して圧力を調節することができる、二次電池用電池ケースおよびガス排出部の製造方法を提供することにある。」(【0007】)との記載によれば、本件課題の一つ(以下「課題1」という。)として、パウチの内部で発生したガスにより内部圧力が増加したときに、内部のガスを排出して圧力を調節することができるようなガス排出部を提供することが含まれることは明らかである。
イ 他方、本件明細書には、「本発明の課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及していない更なる他の課題は、下記の記載から当業者に明らかに理解できるものである。」(【0008】)との記載があることから、前記アに示した課題1の他にも、本件明細書の記載から当業者が明らかに理解できる課題が存在し得る。
本件発明の発明特定事項には、本件発明の全てに共通する発明特定事項として、「ガス排出部」(発明特定事項1D~1I、4D~4I、10A~10E、17F~17J、18C、18F~18I)があるので、以下、「ガス排出部」についての本件明細書の記載について検討する。
ウ 本件明細書及び図面には、「ガス排出部」について、次の記載が認められる。
「ホール137は、上部ケース131または下部ケース132のうち少なくとも一方に形成される。…(略)…普段は、上部および下部ケース131、132の2つのシール部134が互いに接してホール137を閉鎖して、外部の水分浸透および内部の電解液漏れを防止することができる。そして、二次電池1の内部でガスが多く発生する際には、二次電池1の体積が膨張しつつ、互いに接していた2つのシール部134の内側領域1341が離隔する。すると、ホール137が開放され、ガスがガス排出部136を通して外部に排出されることができる。」(【0039】)
「ガス排出部136は、カップ部133またはシール部134のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホール137に、内側に付着され、ガスが透過する。かかるガス排出部136は、図3に示されたように、ガスが透過するガス排出層1362と、ガス排出層1362の外側面に形成され、疎水性を有する外部機能性層1361とを含む。」(【0042】)
「ガス排出層1362は、ガスは容易に透過することができるが、水、電解液などの液体は透過することが容易ではない半透膜…(略)…からなることが好ましい。」(【0043】)
「電池ケース13に形成されたホール137を開閉する別のカバーは存在しない。…(略)…カバーが存在しないのであれば、いくらガス排出層1362を通して液体が透過することが容易ではないとしても、ガス排出層1362を通して少量の水分が外部から浸透し得る。」(【0044】)
「したがって、図3に示されたように、ガス排出層1362の外側面に、疎水性を有する外部機能性層1361が形成される。」(【0045】)
「仮にホール137にカバーが存在しないのであれば、少量の水分だけが浸透するのではなく、ガス排出層1362を通して少量の電解液が内部から漏出し得る。よって、図3に示されたように、ガス排出層1362の内側面に、疎水性を有する内部機能性層1363が形成されてもよい。」(【0049】)
【図1】
[図:0001418276000001.jpg]
【図3】
[図:0001418276000002.jpg]
エ 前記ウの記載によれば、本件発明の実施形態において、ガス排出部136は、「ガスは容易に透過することができる」(【0043】)ガス排出層1362によって前記アに示した課題1を解決するのみならず、「外部の水分浸透および内部の電解液漏れを防止すること」(【0039】)をも目的としていると理解される。そして、パウチ型二次電池の技術分野において、外部からの水分浸透及び内部の電解液漏れを防止することが必須であることは技術常識であるから、本件明細書及び図面の記載により当業者は本件発明の課題として、外部からの水分の浸透を防止すること(以下「課題2」という。)及び電解液漏れを防止すること(以下「課題3」という。)を認識することができる。
オ 前記ウの記載によれば、課題2の解決は、「ガスは容易に透過することができるが、水、電解液などの液体は透過することが容易ではない」(【0043】)ガス排出層1362と、「疎水性を有する外部機能性層1361」(【0045】)とによって達成されると理解できる。すなわち、外部機能性層1361の疎水性により大部分の水分は外部にとどまることとなり、ガス排出層1362まで浸透する水分は極めて少量となると推測される。そして、ガス排出層1362は、元来「液体が通過することが容易ではない」(【0044】)ので、ガス排出層1362に到達した極めて少量の水分のうち、ガス排出層1362を通過できるものは、ほとんどないと理解できる。
ここで、ガス排出層1362は、本件発明の「ガス排出層」(発明特定事項1F、4F、10A、17H、18G)に対応することが明らかであり、外部機能性層1361は、本件発明の「外部機能性層」(発明特定事項1G、4G、17I、18H)に対応することが明らかである。
また、本件発明10において「前記ガス排出層の少なくとも一面に、前記混合物を噴射」し(発明特定事項10C)、「前記混合物を乾燥」(発明特定事項10D)して得られる層は、これを外側に向けて配置した場合、外部機能性層1361として機能することが明らかである。
カ 他方、課題3の解決は、「ガスは容易に透過することができるが、水、電解液などの液体は透過することが容易ではない」(【0043】)ガス排出層1362と、「疎水性を有する内部機能性層1363」(【0049】)とによって達成されると理解できる。その作用は、浸透の方向は逆であるが課題2と同様と理解できる。
ここで、内部機能性層1363は、本件発明7の「内部機能性層」に対応することが明らかである。
また、本件発明10において「前記ガス排出層の少なくとも一面に、前記混合物を噴射」し(発明特定事項10C)、「前記混合物を乾燥」(発明特定事項10D)して得られる層は、これを内側に向けて配置した場合、内部機能性層1363として機能することが明らかである。
キ 前記ア~カを総合すると、本件課題、課題解決手段及び課題解決手段の作用は、以下のとおりである。
(ア)課題1について
課題1は、パウチの内部で発生したガスにより内部圧力が増加したときに、内部のガスを排出して圧力を調節することができるようなガス排出部を提供することであると認められる。
課題1の課題解決手段は、ガス排出層(発明特定事項1F、4F、10A、17H、18G)であると認められる。
課題1の課題解決手段の作用は、ガスが透過することにより、内部のガスを排出することであると認められる。
(イ)課題2について
課題2は、外部からの水分の浸透を防止することであると認められる。
課題2の課題解決手段は、ガス排出層(発明特定事項1F、4F、10A、17H、18G)及び外部機能性層(発明特定事項1G、4G、17I、18H)であり、本件発明10において発明特定事項10C及び10Dにより形成された層は、これを外側に配置した場合に、外部機能性層となる。
課題2の課題解決手段の作用は、外部機能性層の疎水性によりガス排出層まで浸透する水分が極めて少量となった上で、ガス排出層は液体が通過することが容易ではないので、ガス排出層を通過できる水分がほとんどなくなるというものであると認められる。
(ウ)課題3について
課題3は、内部からの電解液漏れを防止することであると認められる。
課題3の課題解決手段は、ガス排出層(発明特定事項1F、4F、10A、17H、18G)及び内部機能性層(請求項7)であり、本件発明10において発明特定事項10C及び10Dにより形成された層は、これを内側に配置した場合に、内部機能性層となる。
課題3の課題解決手段の作用は、内部機能性層の疎水性によりガス排出層まで浸透する電解液が極めて少量となった上で、ガス排出層は液体が通過することが容易ではないので、ガス排出層を通過できる電解液がほとんどなくなるというものであると認められる。
なお、内部機能性層を備える発明は、本件発明7並びにそれを引用する本件発明8及び9と、本件発明10~16に限られ、これらの発明のみが課題3を解決できる。
(3)課題2についての課題解決手段の具体例
課題2についての課題解決手段は、「ガス排出層」及び「外部機能性層」である(前記(2)キ(イ))。
これらの具体例について以下にまとめる。
ア ガス排出層の具体例
本件明細書には、ガス排出層の具体例として、「半透膜」である「ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうち少なくとも1つを含」むこと(【0053】)が記載されている。
これは、請求項6及び請求項11に記載された発明特定事項に対応する。
イ 外部機能性層の具体例
本件明細書には、外部機能性層の具体例として、大別して2つの具体例が記載されている。ひとつは、「外側面に複数の微細突起が分布」することにより「複数の微細突起が外部機能性層1361の外側面において水分の凝縮を妨害」するもの(【0046】、以下「具体例1」という。)であり、もうひとつは、外部機能性層1361が「オイルまたはワックス成分を有」するもの(【0048】、以下「具体例2」という。)である。
具体例1は発明特定事項1I、17J及び18Iに対応し、具体例2は発明特定事項4I、17J及び18Iに対応する。
(ア)具体例1
具体例1について、本件明細書及び特許請求の範囲には、微細突起の直径を「50nm~10μm、好ましくは、直径が100nm~1μm」とすること(【0046】、請求項2、請求項3)、「かかる微細突起が分布するために、外部機能性層1361には微細粒子が含まれ」ること(【0047】)、微細粒子の直径を「50nm~10μm、好ましくは、直径が100nm~1μm」とすること(【0054】)が記載されている。これらの記載によれば、「微細突起」を形成するために「微細粒子」を用いることと、「微細突起」の直径と「微細粒子」の直径とが同じであることが理解できるから、「微細突起」の直径と「微細粒子」の直径とが等しくなるのは、「微細粒子」が「微細突起」となったからであると理解される。
また、本件明細書には、第1の手法において使用される微細粒子が「シリカ粒子、カーボンナノチューブ(CNT)、アルミナ粒子のうち少なくとも1つを含んでもよく、特にカーボンナノチューブ(CNT)を含むことが最も好ましい」こと(【0054】、請求項13)、「微細粒子がシリカ粒子を含むのであれば、約0.1~2wt%以下の非常に少ない量だけを含むことが好ましい」こと(【0047】、請求項14)が記載されている。
また、「微細突起」を製造する方法として、「微細粒子および高分子溶液を撹拌して混合物を製造」し(【0054】、発明特定事項10B)、「ガス排出層1362の少なくとも一面に、前記混合物を噴射」し(【0056】、発明特定事項10C)、「熱を印加して混合物を乾燥」して(【0058】、発明特定事項10D)、「外部機能性層1361」を形成すること(【0059】)が記載され、「微細粒子」の詳細は上述のとおりであり、「高分子溶液」は「ガス排出層1362と同一または類似した材質」(【0055】、請求項12)であり、混合物の噴射は、「ガス排出層1362から約8~15cm、特に10cm離れた距離から、ノズルを用いて約0.2~0.5MPaの圧力、特に0.4MPaの圧力で前記混合物を噴射」すること(【0057】、請求項15)が記載されている。印加する熱は「50~140℃、特に50~100℃」(【0058】)である。
(イ)具体例2
具体例2について、本件明細書及び特許請求の範囲には、「オイルは、フッ化炭素オイル、シリコンオイル、炭素系オイル、脂肪酸アミドのうち少なくとも1つを含んでもよく、ワックスは、パラフィンワックス、炭素系ワックスのうち少なくとも1つを含んでもよい」こと(【0048】、請求項5)が記載されている。
ウ 課題2についての課題解決手段の具体例の小括
以上をまとめると、課題2についての課題解決手段の具体例は、以下のとおりである。
〈ガス排出層の具体例〉
ガス排出層の具体例は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のうち少なくとも1つを含む半透膜である。(請求項6、11)
〈外部機能性層の具体例1〉
外部機能性層は、以下の(i)~(iii)の手順で作成された、微細粒子が微細突起となって外側面に分布するものである(発明特定事項1I、17J、18I)。
(i)微細粒子及び高分子溶液を撹拌し混合物を製造(発明特定事項10B)
微細粒子は、シリカ粒子、カーボンナノチューブ(CNT)、アルミナ粒子のうち少なくとも1つを含み(請求項13)、その直径は、50nm~10μm、好ましくは、100nm~1μmであり(請求項2、請求項3)、シリカ粒子は約0.1~2wt%以下の非常に少ない量だけを含むことが好ましい(請求項14)。
高分子溶液はガス排出層と同一または類似した材質である(請求項12)。
(ii)ガス排出層の少なくとも一面に混合物を噴射(発明特定事項10C)
混合物の噴射は、ガス排出層から約8~15cm、特に10cm離れた距離から、ノズルを用いて約0.2~0.5MPaの圧力、特に0.4MPaの圧力で前記混合物を噴射する(請求項15)。
(iii)50~140℃、特に50~100℃の熱を印加して混合物を乾燥(発明特定事項10D)
〈外部機能性層の具体例2〉
外部機能性層はオイルまたはワックス成分を有するものであり(発明特定事項4I、17J、18I)、オイルは、フッ化炭素オイル、シリコンオイル、炭素系オイル、脂肪酸アミドのうち少なくとも1つを含んでもよく(請求項5)、ワックスは、パラフィンワックス、炭素系ワックスのうち少なくとも1つを含んでもよい。
(4)効果
本件明細書には、発明の効果として、「二次電池の内部圧力が増加すると、内部のガスを外部に排出して圧力を調節することができる」こと(【0022】)が記載されており、当該効果は、課題1を解決する効果である。
さらに、本件明細書には、発明の効果として、「外部の水分浸透および内部の電解液漏れを防止することができる」こと(【0023】)が記載されており、当該効果は、課題2及び3を解決する効果である。
加えて、本件明細書には、発明の効果として、「ガス排出部がホールに内側に付着されており、ホールの内周面に露出されたガスバリア層の金属が、電解液により腐食するのを防止することができる」こと(【0023】)が記載されている。
以上によれば、本件発明の効果は、課題1を解決すること(効果1)、課題2を解決すること(効果2)、課題3を解決すること(効果3)、及び、ホールの内周面に露出されたガスバリア層の金属が電解液により腐食するのを防止すること(効果4)であると認められる。
効果1及び2は、本件発明全てが奏する効果であると認められ、効果3
は、本件発明7~16が奏する効果であると認められる。
効果4は、電解液が外側に漏れるのを防止することにより得られる効果であると解されるから、効果3と同様に、本件発明7~16が奏する効果であると認められる。
2 理由C(実施可能要件)についての判断
申立人は、理由Cについて、概略、以下の主張C1~C4を主張するので、これらの主張について以下の(1)~(5)で検討し、以下の(6)で理由Cについての判断を小括する。
主張C1(申立書39頁21行~40頁18行)
本件発明1の「外部機能性層」は、「疎水性を有する」こと(発明特定事項1G)が必須であると理解されるが、「外部機能性層」に分布する「複数の微細突起」(発明特定事項1H、1I)の「微細」についての定義は、本件の発明の詳細な説明に記載されておらず、どのような範囲の大きさを有する突起が「微細突起」に該当するのか、出願時の技術常識を考慮しても、当業者が「微細」の範囲を理解できない。
また、発明の詳細な説明の【0046】によると、「微細」には、疎水性が低下する範囲も包含され得ると認められ、その場合、外部機能性層の疎水性が不十分となるため、どのような微細突起を形成した場合に、「疎水性を有する外部機能性層」といえるのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できない。
したがって、本件発明1を実施するには過度な試行錯誤を要することが明白であるため、本件の発明の詳細な説明は、本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
本件発明1を引用する本件発明6~9及び「微細突起」について規定されている本件発明17~19についても同様である。
主張C2(申立書40頁19行~41頁4行)
本件発明2及び3では、「微細突起の直径」の数値範囲が規定されているが、本件の発明の詳細な説明では、微細突起の直径の定義や、その測定方法について記載されていない。そうすると、本件発明2及び3で規定されている微細突起の直径とは、全ての微細突起が満たすものであるのか、全ての微細突起の平均値が満たすものであれば良いのか、あるいは、存在する1つの微細突起が満たすものであれば良いのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できない。
そのため、本件発明2及び3を実施するには過度な試行錯誤を要することが明白であるため、本件の発明の詳細な説明は、本件発明2及び3を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
本件発明2又は3を引用する本件発明6~9についても同様である。
主張C3(申立書41頁5~20行)
本件発明4では、「前記外部機能性層は、」「オイルまたはワックス成分を含む」こと(発明特定事項4H、4I)が規定されている。
本件の発明の詳細な説明の【0048】(当審注:申立書では「0046」と記載されるが、内容から、0048の誤記と認める。)の記載によれば、オイルまたはワックス成分は、外部機能性層に疎水性を付与するために添加されると理解される。
しかしながら、本件の発明の詳細な説明では、「疎水性を有する」の定義について記載されておらず、オイルまたはワックス成分の添加量についても記載されていないため、どのような添加量でオイルまたはワックス成分を添加した場合に「疎水性を有する」といえるのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できない。
そのため、本件発明4を実施するには過度な試行錯誤を要することが明白であるため、本件の発明の詳細な説明は、本件発明4を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
本件発明4を引用する本件発明5~9についても同様である。
主張C4(申立書41頁21行~42頁13行)
本件発明10では、「微細粒子および高分子溶液を撹拌して混合物を製造するステップ」(発明特定事項10B)について規定されている。
本件の発明の詳細な説明の【0054】によれば、微細粒子の大きさによっては外部機能性層の疎水性が不十分になると認められる。
そうすると、どのような大きさの微細粒子を用いて外部機能性層を形成した場合に、「疎水性を有する」といえるのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できない。
そのため、本件発明10を実施するには過度な試行錯誤を要することが明白であるため、本件の発明の詳細な説明は、本件発明10を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
本件発明10を引用する本件発明11~16についても同様である。
(1)外部機能性層に要求される疎水性
主張C1~C4はいずれも、「外部機能性層」に関する主張であるから、課題2に関連するものである。
前記1(2)キ(イ)に示したように、課題2の解決は、外部機能性層の疎水性によりガス排出層まで浸透する水分が極めて少量となった上で、ガス排出層は液体が通過することが容易ではないので、ガス排出層を通過できる水分がほとんどなくなるという作用により達成されると認められる。
上記作用に鑑みれば、外部機能性層の目標とする疎水性は、外部からガス排出層まで浸透する水分量を、ガス排出層単体によって阻止できる水分量以下に減ずることができる程度のもの(以下「目標疎水性」という。)であると理解できる。
(2)主張C1について
前記(1)の理解に基づき、主張C1について検討する。
ア 前提として、本件発明は、ガスが透過するガス排出層と、疎水性を有する外部機能性層とを用いることにより、課題1~3を解決するものに過ぎず、目標疎水性の正確な測定方法や、その正確な値を定めることを課題とするものではない。したがって、目標疎水性を得るための構成としても、その組成及び寸法等に厳密性が求められるとは解されない。
イ 本件の発明の詳細な説明には、「複数の微細突起が外部機能性層1361の外側面において水分の凝縮を妨害し、疎水性を有することができる」、「仮に微細突起の直径が過度に小さいのであれば、疎水性が低下し得るし、直径が過度に大きいのであれば、その後にガス排出部136とパウチフィルム135との間の融着力が低下し得る」(【0046】)と記載されているから、「微細突起」の直径は、融着力が低下しない程度に大きく、かつ、前記(1)の目標疎水性を達成できる程度に小さくすれば良いと理解できる。
以上によれば、「外部機能性層」が十分な「疎水性」(目標疎水性)を有するような「微細突起の直径」範囲は、明確である。
ウ 本件の発明の詳細な説明には、「仮に微細突起の直径が過度に小さいのであれば、疎水性が低下し得る」(【0046】)との記載があるが、これは直径が「過度に」小さい場合の説明に過ぎず、前記記載がそのような過度に小さな直径を有する微細突起が本件発明1、6~9及び17~19に包含されることを説明するものではないことは、課題2についての技術的意義(前記1(2)キ(イ))に照らして明らかである。
エ 前記ア~ウによれば、「外部機能性層」に十分な「疎水性」を与える「微細突起」は、明確に理解できる。
また、本件の発明の詳細な説明には、そのような疎水性を与えるための具体例が示されている(前記1(3)ウ)ため、本件発明1、6~9及び17~19を実施するために過度な試行錯誤を要するとは認められない。
よって、主張C1は採用できない。
(3)主張C2について
前記(2)アに示したように、本件発明は前記(1)に示した目的疎水性を得るための構成について、厳密な組成や寸法等を求めるものではない。
そして、本件発明2、3及び6~9における「微細突起の直径」は、「50nm~10μm」(請求項2)又は「100nm~1μm」(請求項3)とされており、下限値と上限値とが1桁以上異なるような広範な範囲が示されているのだから、例えばその範囲の中央である500nm近傍を平均粒径とするような微細粒子を用いて微細突起を形成すれば、直径の定義やその測定方法に左右されず、本件発明2、3及び6~9を実施することが可能であると認められる。
よって、主張C2は採用できない。
(4)主張C3について
前記(2)アに示したように、本件発明は前記(1)に示した目的疎水性を得るための構成について、厳密な組成や寸法等を求めるものではないから、本件の発明の詳細な説明にオイル又はワックス成分の量が記載されていないからといって、本件発明4~9が不明確となることもない。
そして、オイル及びワックスが疎水性であることは技術常識であるから、前記(1)に示した目標疎水性を達成する程度のオイル又はワックス成分を含む外部機能性層は、当業者の過度な試行錯誤なく実施し得ることであると認められる。
よって、主張C3は採用できない。
(5)主張C4について
「微細粒子」の直径については「微細突起」の直径と同様の議論が成立するから、前記(3)と同様である。
よって、主張C4は採用できない。
(6)理由Cについての小括
前記(1)~(5)のとおりであるから、申立人が主張する実施可能要件違反は存在しない。
また、本件特許において、その他の実施可能要件違反も認められない。
したがって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものと認められるので、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たした特許出願に対してされたものであると認められ、理由Cには理由がない。
3 理由D(明確性要件)についての判断
申立人は、理由Dについて、概略、以下の主張D1~D4を主張する。
主張D1(申立書42頁15~23行)
本件発明1では「微細突起」(発明特定事項1I)について規定されている。
「微細突起」の「微細」についての定義は、本件の発明の詳細な説明に記載されておらず、どのような範囲の大きさを有する突起が「微細突起」に該当するのか、出願時の技術常識を考慮しても、当業者が「微細」の範囲を理解できない。
よって、本件発明1は不明確である。
本件発明1を引用する本件発明6~9及び「微細突起」について規定されている本件発明17~19についても同様である。
主張D2(申立書42頁24行~43頁9行)
本件発明2及び3では、「微細突起の直径」の数値範囲が規定されているが、本件の発明の詳細な説明では、微細突起の直径の定義や、その測定方法について記載されていない。
したがって、本件発明2及び3は不明確である。
本件発明2又は3を引用する本件発明6~9についても同様である。
主張D3(申立書43頁10~24行)
本件発明4では、「前記外部機能性層は、」「オイルまたはワックス成分を含む」こと(発明特定事項4H、4I)が規定されている。
本件の発明の詳細な説明の【0048】の記載によれば、オイルまたはワックス成分は、外部機能性層に疎水性を付与するために添加されると理解される。
しかしながら、本件の発明の詳細な説明では、「疎水性を有する」の定義について記載されておらず、オイルまたはワックス成分の添加量についても記載されていないため、どのような添加量でオイルまたはワックス成分を添加した場合に「疎水性を有する」といえるのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できない。
よって、本件発明4は不明確である。
本件発明4を引用する本件発明5~9についても同様である。
主張D4(申立書43頁25行~44頁6行)
本件発明10では、「微細粒子および高分子溶液を撹拌して混合物を製造するステップ」(発明特定事項10B)について規定されている。
本件の発明の詳細な説明において、「微細粒子」の「微細」についての定義は記載されておらず、どのような大きさの粒子が微細粒子に該当するのか、出願時の技術常識を考慮しても当業者が理解できない。
よって、本件発明10は不明確である。
本件発明10を引用する本件発明11~16についても同様である。
主張D1~D4は、それぞれ主張C1~C4と軌を一にしているため、主張C1~C4と同様に、採用できない。
また、本件特許において、その他の明確性要件違反も認められない。
したがって、本件の特許請求の範囲に記載された本件特許は明確であると認められるので、本件特許は特許法36条6項2号に規定する要件を満たした特許出願に対してされたものであると認められ、理由Dには理由がない。
4 理由A(新規性)及びB(進歩性)についての判断
理由Aは、本件発明1~3、6~8及び17~19が、甲1発明と同一であるというものであり、理由Bは、本件発明1~9及び17~19が、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるというものである。
(1) 甲1の記載
甲1には、以下の記載がある。なお、下線は後述の甲1発明の認定に使用する箇所を示すために当審で付した。
ア 「【背景技術】
【0002】
旋回、ブームの昇降など、力行と回生とを繰り返す建設用作業機械においては、回生エネルギをバッテリ(蓄電装置)に蓄えることで、エネルギ効率の増大が図られている。バッテリは、短時間ではあるが、20kW以上の電力で充電や放電を行う。ここでバッテリとしては、たとえば電気二重層キャパシタ(セル)を多数、直列に接続したものが使用される。
【0003】
電気二重層キャパシタは、たとえばアルミニウム製の薄い電極板の両面に活性層を貼着し、一対の電極板間にシート状の絶縁層を挟んで、電解液に含浸させたものである。
【0004】
電気二重層キャパシタにおいては、過充電がなされた場合などに、電解液の電解質が揮発または分解し、CO、CO2、H2等のガスが発生する。発生ガスに起因するキャパシタ内圧の上昇による外装フィルムの破損、電解液の漏出を防止するためには、これらのガスを外部に排出する必要がある。このため外装フィルムには、たとえば弁構造を伴うガス透過孔が形成されている。キャパシタ内部で発生したガスは、ガス透過孔を通過して外部に放出される。
【0005】
ガス透過孔に、キャパシタの内圧が一定値(作動圧)以上となったときに開放し、内部のガスを排出するメカニカルなガス抜き弁を配設する技術が知られている。メカニカルな弁を用いてガスを排出する構成の電気二重層キャパシタにおいては、弁の開放時に、外気がキャパシタ内部に侵入する。外気に含まれるH2O(水蒸気)は、たとえば電解質と反応しキャパシタの機能を低下させる。
【0006】
安全性、信頼性、耐リーク性に優れた非水電解質二次電池を得るための電池用安全弁の発明が公開されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1記載の電池用安全弁は、金属封口蓋に形成された電池ケース排気孔を閉塞する弾性体と、弾性体を圧迫保持する保持体とから構成される。金属封口蓋と弾性体との接する部分は、樹脂で被覆されている。樹脂は、弁材質との非接着性に優れる樹脂ならば特に限定されず、たとえばPTFEを用いることができる。」
イ 「【0020】
セル電極13a、13bは、本図において上下に配置される2枚のラミネートフィルム30で閉じられた空間の外部にまで延在している。2枚のラミネートフィルム30は、外周部において熱溶着されている。セル電極13aと複数の電極板10aとは、ラミネートフィルム30で閉じられた空間の内部で、たとえば超音波溶接されている。セル電極13bと複数の電極板10bについても同様である。セル電極13a、13bは、熱溶着された2枚のラミネートフィルム30間を通って、外部に引き出されている。引き出し位置において、セル電極13a、13bとラミネートフィルム30とは、熱溶着されている。」
ウ 「【0022】
セル電極13aが配置される辺に連続する傾斜部分のラミネートフィルム30に、ガス透過孔14が形成されている。ガス透過孔14は、たとえば直径2~3mmの円形の穴である。ラミネートフィルム30の内側(セルの内側)には、ガス透過孔14を遮蔽するガス透過構造15が配置される。なお、ラミネートフィルム30で形成されるセル外装は、ガス透過孔14及びガス透過構造15の形成位置を除いて密閉されている。
【0023】
図1(C)は、図1(A)の1C-1C線に沿う概略的な断面図である。本図において上下に配置される2枚のラミネートフィルム30で形成されたセル外装の内部に電解液20が封入され、両面に活性炭層11a、11bが形成された電極板10a、10b、及び両電極板10a、10b間に配置されたセパレータ12を含む積層物が電解液20に浸されている。ラミネートフィルム30(セル外装)のセル電極13a、13bが配置されない側の端面は、YZ平面を基準としてX軸方向に傾いている。ただし、XY面を基準とした傾斜は、セル電極13a、13bが配置されている端面の方が緩やかである。」
エ 「【0027】
ガス透過構造15は、セル内部で発生するCO、CO2、H2等のガスを透過するガス透過膜15a、15c、及び両膜15a、15cに挟持され、ガス透過性と吸湿性とを備える吸湿層15bを含んで構成される。ガス透過膜15a、15cは、たとえばプラスチック(樹脂)で形成され、吸湿層15bは、たとえば吸湿性の化合物を用いて形成される。ガス透過膜15a、15cを形成するプラスチック樹脂としては、水蒸気透過性が低く、内部ガスであるCO、CO2、H2等の透過性が高いPTFEやポリエチレンを好適に使用することができる。また、吸湿層15bを形成する吸湿性化合物としては、酸化バリウムや酸化カルシウムを用いることが可能である。」
オ 「【0032】
実施例による電気二重層キャパシタ(セル)は、セル容器外壁(ラミネートフィルム30)に形成されたガス透過孔14を、ガス透過構造15がセル内側から覆う構造を有する。セル内部で発生したガスは、ガス透過構造15を透過し、ガス透過孔14からセル外部へ排出される。内部ガス排出のためにメカニカルな弁を使用しないので、セルの小型化が実現される。また、内部ガスの透過性が高く、水蒸気の透過性が低い、PTFE等のプラスチック樹脂膜間に更に吸湿層を形成しているので、外気に含まれる水蒸気のセル内部への侵入、及びそれによるキャパシタ機能の低下が防止される。このため耐久性に優れたキャパシタを実現することができる。」
カ 「【0040】
また、実施例においてはキャパシタについて説明したが、電池等も含めた蓄電装置に適用可能である。」
キ 図1
[図:0001418276000003.jpg]
図1によれば、上に配置されるラミネートフィルム30は、水平な上面部分及び上面部分の四方から斜め下に延びる傾斜部分を備えるカップ状の部分と、カップ状の部分から外側に延び溶着位置となる外周部とを備え、カップ状の部分に電極板10a、10b、セパレータ12及び電解液20が収容されていると解される。
ク 図2
[図:0001418276000004.jpg]
図2によれば、ガス透過膜15cは、吸湿層15bの外側面に形成されていると解される。
(2)甲1発明の認定
甲1に記載された実施例は電極板、セパレータ及び電解液を備える「電気二重層キャパシタ」であるが、甲1には「実施例においてはキャパシタについて説明したが、電池等も含めた蓄電装置に適用可能である。」(【0040】)との記載があること、並びに、電極板、セパレータ及び電解液を備える電池が周知であることに鑑みれば、甲1の「電気二重層キャパシタ」を蓄電可能な電池、すなわち「二次電池」と読み替えた発明も甲1に記載されているに等しいと認められる。
よって、甲1には、「電気二重層キャパシタ」を「二次電池」と読み替えて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲1発明を以下のa~iに分説し、「構成a」のようにして参照する。
a セル容器外壁(ラミネートフィルム30)に形成されたガス透過孔14を、ガス透過構造15がセル内側から覆う構造を有する二次電池(セル)であって、(【0032】)
b 上下に配置される2枚のラミネートフィルム30で形成されたセル外装の内部に電解液20が封入され、電極板10a、10b、及びセパレータ12を含む積層物が電解液20に浸されており、(【0023】)
c 2枚のラミネートフィルム30は、外周部において熱溶着されており、(【0020】)
d 上に配置されるラミネートフィルム30は、水平な上面部分及び上面部分の四方から斜め下に延びる傾斜部分を備えるカップ状の部分と、カップ状の部分から外側に延び溶着位置となる外周部とを備え、カップ状の部分に電極板10a、10b、セパレータ12及び電解液20が収容され、(図1)
e 傾斜部分のラミネートフィルム30に、ガス透過孔14が形成されており、(【0022】)
f ガス透過構造15は、セル内部で発生するガスを透過するガス透過膜15a、15c、及び両膜15a、15cに挟持され、ガス透過性と吸湿性とを備える吸湿層15bを含んで構成され、(【0027】)
g ガス透過膜15cは、吸湿層15bの外側面に形成されており、(図2)
h ガス透過膜15cを形成するプラスチック樹脂としては、PTFEを使用することができる、(【0027】)
i 二次電池(セル)。
(3)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 発明特定事項1A及び1Jについて
発明特定事項1Aは「パウチ型の二次電池用電池ケースであって、」というものであり、発明特定事項1Jは「パウチ型の二次電池用電池ケース。」というものである。
甲1発明の「セル容器」における「セル」は「二次電池」のことである(構成a)から、甲1発明の「セル容器」は、本件発明1の「二次電池用電池ケース」に相当する。
甲1発明の「セル容器」は、「外壁」を「ラミネートフィルム30」で形成されており(構成a)、「2枚のラミネートフィルム30」が「外周部において熱溶着されて」いる(構成c)から、甲1発明の「セル容器」は、パウチ型の容器である。
以上によれば、本件発明1と甲1発明の「セル容器」とは、「パウチ型の二次電池用電池ケース」である点で一致する。
イ 発明特定事項1Bについて
発明特定事項1Bは「電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部と、」というものである。
甲1発明の「電極板10a、10b」及び「セパレータ12」は、それぞれ本件発明1の「電極」及び「セパレータ」に相当し、甲1発明の「電極板10a、10b、及びセパレータ12を含む積層物」(構成b)は、本件発明1の「電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体」に相当する。
甲1発明の「カップ状の部分」は、「電極板10a、10b、セパレータ12及び電解液20が収容され」る(構成d)から、本件発明1の「電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部」を含む点で一致する。
ウ 発明特定事項1Cについて
発明特定事項1Cは「前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部と、」というものである。
甲1発明の「セル外装」は、「上下に配置される2枚のラミネートフィルム30で形成され」ており(構成b)、「2枚のラミネートフィルム30は、外周部において熱溶着されて」いる(構成c)から、「外周部」は熱溶着によりシールされる部分である。
そして、甲1発明の「外周部」は、「上に配置されるラミネートフィルム30」の「カップ状の部分から外側に延び」ている(構成d)ものであるから、「カップ状の部分」の外側方向に延長形成されているといえる。
よって、本件発明1と甲1発明とは、「前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部」を含む点で一致する。
エ 発明特定事項1Dについて
発明特定事項1Dは「ガスが透過するガス排出部であって、前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホールの内側に付着されたガス排出部とを含み、」というものである。
甲1発明の「ガス透過構造15」(構成f)は、ガスを透過するから、本件発明1の「ガスが透過するガス排出部」に相当する。
甲1発明の「ガス透過孔14」(構成e)は、本件発明1の「ホール」に相当する。
甲1発明の「ガス透過孔14」は、「傾斜部分のラミネートフィルム30に」形成されたものであり(構成e)、「傾斜部分」は「カップ状の部分」に備わる(構成d)ものであるから、本件発明1の「ホール」と甲1発明の「ガス透過孔14」とは、「前記カップ部」「に穿孔されて形成されたホール」である点で一致し、ひいては、「前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホール」である点で一致する。
甲1発明の「ガス透過構造15」は、「ガス透過孔14を」「セル内側から覆う」(構成a)から、本件発明1の「ガス排出部」と甲1発明の「ガス透過構造15」とは、「ホールの内側に付着されたガス排出部」である点で一致する。
以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、「ガスが透過するガス排出部であって、前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホールの内側に付着されたガス排出部とを含」む点で一致する。
オ 発明特定事項1E及び1Fについて
発明特定事項1Eは「前記ガス排出部は、」というものであり、発明特定事項1Fは「ガスが透過するガス排出層と、」というものである。
甲1発明の「吸湿層15b」は、「ガス透過性と吸湿性とを備える」(構成f)から、本件発明1の「ガスが透過するガス排出層」に相当する。
甲1発明の「ガス透過構造15」が「吸湿層15bを含んで構成される」(構成f)ことを考慮すると、本件発明1の「ガス排出層」と甲1発明の「ガス透過構造15」とは、「ガスが透過するガス排出層」を含む点で一致する。
カ 発明特定事項1E及び1Gについて
発明特定事項1Eは「前記ガス排出部は、」というものであり、発明特定事項1Gは「前記ガス排出層の外側面に形成され、疎水性を有する外部機能性層とを含み、」というものである。
甲1発明の「ガス透過膜15c」は、「セル内部で発生するガスを透過する」(構成f)という機能を有する層であり、「吸湿層15bの外側面に形成されている」(構成g)から、本件発明1の「前記ガス排出層の外側面に形成され」た「外部機能性層」に対応する。
甲1発明の「ガス透過構造15」が「ガス透過膜15a、15c」「を含んで構成される」(構成f)ことを考慮すると、本件発明1の「ガス排出層」と甲1発明の「ガス透過構造15」とは、「前記ガス排出層の外側面に形成され」た「外部機能性層とを含」む点で共通するが、本件発明1の「外部機能性層」は「疎水性を有する」のに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」は疎水性を有するか否かが不明である点で相違する。
キ 発明特定事項1H及び1Iについて
発明特定事項1Hは「前記外部機能性層は、」というものであり、発明特定事項1Iは「外側面に複数の微細突起が分布して形成される、」というものである。
本件発明1と甲1発明とは、「外部機能性層は、」「形成される」点で共通するが、本件発明1の「外部機能性層」には「外側面に複数の微細突起が分布して」いるのに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」にはそうであるか否かが不明である点で相違する。
ク 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点
前記ア~キによれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉
「パウチ型の二次電池用電池ケースであって、
電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部と、
前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部と、
ガスが透過するガス排出部であって、前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホールの内側に付着されたガス排出部とを含み、
前記ガス排出層は、
ガスが透過するガス排出層と
前記ガス排出層の外側面に形成された外部機能性層とを含み、
前記外部機能性層は、
形成される、
パウチ型の二次電池用電池ケース。」である点。
〈相違点1-1〉
本件発明1の「外部機能性層」は「疎水性を有する」のに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」は疎水性を有するか否かが不明である点。(発明特定事項1G)
〈相違点1-2〉
本件発明1の「外部機能性層」には「外側面に複数の微細突起が分布して」いるのに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」はそうであるか否かが不明である点。(発明特定事項1H、1I)
(4)申立人の主張についての判断
申立人は、相違点1-1及び1-2に関して主張をするので、以下、これらの主張について判断する。
ア 相違点1-1に関する主張について
申立人は、相違点1-1について、「外部機能性層に相当するガス透過膜15cは、PTFE製であることから疎水性を有することは技術常識であり、甲3にも「PTFEは疎水性高分子であり、」と記載されている。」(申立書29頁10~12行)とし、本件発明1の「疎水性を有する外部機能性層」と甲1発明の「ガス透過膜15c」とが一致する旨(申立書29頁<一致点>)、主張する。
しかしながら、以下のとおり、申立人の主張は採用できない。
甲1発明の「ガス透過膜15c」はPTFEを使用することが想定されており(構成h)、一般的に、PTFEが疎水性高分子とされていることは、申立人の主張のとおりであるが、本件発明1における「疎水性」は、PTFEが普通に有する疎水性(甲3に記載された疎水性)と同義と解するべきではない。
本件発明の技術的意義に鑑みるに、本件発明1における「疎水性」は、前記2(1)に示した目標疎水性の意味であると解するべきである。そして、外部機能性層の具体例1(前記1(3)ウ)においては、外部機能性層を微細粒子及び高分子溶液の混合物を乾燥させて作成しており、高分子溶液は、ガス排出層と同一または類似した材質であって、PTFEを使用することが想定されている。このことは、PTFEが普通に有する疎水性では目標疎水性に到達し得ず、目標疎水性を達成するためには、更なる疎水性を得るために、例えば、微細粒子を混合して微細突起を作成する必要があったことを示している。つまり、本件発明1でいう「疎水性」は、目標疎水性の意味で解釈すべきであり、PTFEが普通に有する疎水性によって到達できるものとは解されない。
よって、申立人の相違点1-1に関する主張は、採用できない。
イ 相違点1-2に関する主張について
申立人は、相違点1-2について、甲2には、テフロン(PTFE)フィルムは表面に微細な凹凸を有する(複数の微細突起が分布して形成される)ことが開示されていることによれば、甲1発明のPTFE製のガス透過膜15cにおいても、表面に微細な凹凸を有する(複数の微細突起が分布して形成される)ものと認められるから、相違点とはならない旨(申立書30頁5~10行)、主張する。
申立人の主張は、凹凸が存在することと、複数の微細突起が分布することとを同一視できることを前提としているが、凹凸は必ずしも複数の微細突起の分布によって形成されるものではなく、例えば、複数の微細孔によっても、複数の溝によっても生じるものであるから、凹凸が存在するからといって、複数の微細突起が存在することにならない。
加えて、甲2の図2及び図3(下図)の顕微鏡写真を見ても、テフロン表面に必ず複数の微細突起があると認識することはできない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
[図:0001418276000005.jpg]
(5)本件発明1の新規性の有無についての判断
相違点1-1及び1-2は、いずれも実質的な相違点であると認められ、前記(4)のとおり、申立人の主張は採用できないから、本件発明1は、甲1発明とは同一ではなく、新規性を有する。
(6)相違点1-1及び1-2についての容易想到性の判断
相違点1-1及び1-2について判断する。
前記1(2)キ(イ)に示したように、本件発明1の「外部機能性層」の「疎水性」は、課題2(外部からの水分の浸透を防止すること)を解決するための手段であり、前記1(3)イに示したように、「外部機能性層」の「外側面に複数の微細突起が分布」することは、「複数の微細突起が外部機能性層1361の外側面において水分の凝縮を妨害」することにより課題2を解決するための疎水性(前記2(1)に示した目標疎水性)を得るものと解されるから、相違点1-1及び1-2は相互に密接に関連するひとまとまりの相違点として判断されるべきものである。
甲1の「内部ガスの透過性が高く、水蒸気の透過性が低い、PTFE等のプラスチック樹脂膜間に更に吸湿層を形成しているので、外気に含まれる水蒸気のセル内部への侵入、及びそれによるキャパシタ機能の低下が防止される。」(【0032】)との記載によれば、甲1発明における外部からの水分の侵入は、水蒸気を対象として、水蒸気の透過性が低いプラスチック樹脂(ガス透過膜15a、15c)に加えて、吸湿層15bを導入することにより十分に阻止されていると解されるから、これ以上の水分の侵入を阻止する動機付けが存在するとは認められない。
仮に、さらなる水分の侵入を阻止する動機付けが存在するとしても、そのために、「ガス透過膜15c」の外側面に複数の微細突起を分布させて疎水性を持たせることを記載又は示唆する証拠は存在しない。
甲2は、テフロン表面に凹凸があり、特定の条件下で、テフロンの表面に2~3μm程度の深さをもつ凹凸が存在することが示されている(甲2図1(下図)、2448頁左欄2~4行)に過ぎず、凹凸が微細突起により構成されていることを示すものではないし、凹凸によって疎水性が発揮されることを示すものでもない。
[図:0001418276000006.jpg]
また、甲3は、特定の条件下で、PTFE薄膜に10μm程度の粒状物が所々に見られることを示す(甲3、Fig.5a(下図))が、甲1発明の「ガス透過膜15c」が甲3のPTFE薄膜と同条件で作成されたものであるか否かは不明であるし、甲1発明の「ガス透過膜15c」を甲3のPTFE薄膜と同条件で作成する動機付けも存在しない。
[図:0001418276000007.jpg]
したがって、相違点1-1及び1-2に係る本件発明1の構成(発明特定事項1G~1I)は、当業者といえども容易に想到し得たとは認められない。
(7)本件発明1の進歩性の有無についての判断
前記(6)のとおりであるから、本件発明1は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(8)本件発明2及び3の新規性及び進歩性の有無についての判断
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を有するものであるから、本件発明2及び3と甲1発明との相違点には、少なくとも前記(3)クに示した相違点1-1及び1-2が含まれる。
そうすると、前記(5)に示したとおり、相違点1-1及び1-2は実質的な相違点であるから、本件発明2及び3は、甲1発明と同一ではない。
また、前記(6)に示したように、相違点1-1及び1-2に係る構成は、当業者といえども容易に想到し得たものではないから、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明2及び3は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(9)本件発明4と甲1発明との対比
本件発明4と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。
ア 発明特定事項4A~4G及び4Jについて
本件発明4の発明特定事項4A~4G及び4Jは、それぞれ、本件発明1の発明特定事項1A~1G及び1Jと同一であるから、これらについての対比は、前記(3)ア~(3)カと同様である。
イ 発明特定事項4H及び4Iについて
発明特定事項4Hは「前記外部機能性層は、」というものであり、発明特定事項4Iは「オイルまたはワックス成分を含む、」というものである。
本件発明4は「前記外部機能性層は」「オイルまたはワックス成分を含む」のに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」は、オイル又はワックス成分を含むか否かが不明である点で相違する。
ウ 本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点
前記ア及びイによれば、本件発明4と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉
「パウチ型の二次電池用電池ケースであって、
電極およびセパレータが積層されて形成される電極組立体を収容する収容空間が備えられたカップ部と、
前記カップ部の外側方向に延長形成されるシール部と、
ガスが透過するガス排出部であって、前記カップ部または前記シール部のうち少なくとも一方に穿孔されて形成されたホールの内側に付着されたガス排出部とを含み、
前記ガス排出層は、
ガスが透過するガス排出層と
前記ガス排出層の外側面に形成された外部機能性層とを含む、
パウチ型の二次電池用電池ケース。」である点。
〈相違点4-1〉(相違点1-1と同様)
本件発明4の「外部機能性層」は「疎水性を有する」のに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」は疎水性を有するか否かが不明である点。(発明特定事項4G)
〈相違点4-2〉
本件発明4の「外部機能性層」は「オイルまたはワックス成分を含む」のに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」はオイル又はワックス成分を含むか否かが不明である点。(発明特定事項4H、4I)
(10)相違点4-1及び4-2についての容易想到性の判断
相違点4-1及び4-2について判断する。
前記1(2)キ(イ)に示したように、本件発明4の「外部機能性層」の「疎水性」は、課題2(外部からの水分の浸透を防止すること)を解決するための手段であり、前記1(3)イに示したように、「外部機能性層」が「オイルまたはワックス成分を含む」することは、「オイルまたはワックス成分」により課題2を解決するための疎水性(前記2(1)に示した目標疎水性)を得るものと解されるから、相違点4-1及び4-2は相互に密接に関連するひとまとまりの相違点として判断されるべきものである。
甲1には、「内部ガスの透過性が高く、水蒸気の透過性が低い、PTFE等のプラスチック樹脂膜間に更に吸湿層を形成しているので、外気に含まれる水蒸気のセル内部への侵入、及びそれによるキャパシタ機能の低下が防止される。」(【0032】)との記載があることから、甲1発明における外部からの水分の侵入は、水蒸気を対象として、水蒸気の透過性が低いプラスチック樹脂(ガス透過膜15a、15c)に加えて、吸湿層15bを導入することにより十分に阻止されていると解されるから、これ以上の水分の侵入を阻止する動機付けが存在するとは認められない。
仮に、外部からの水分の侵入をさらに阻止する動機付けが存在するとしても、そのために、「ガス透過膜15c」にオイル又はワックス成分を添加することを記載又は示唆する証拠は存在しない。
したがって、相違点4-1及び4-2に係る本件発明4の構成(発明特定事項4G~4I)は、当業者といえども容易に想到し得たとは認められない。
(11)申立人の主張についての判断
申立人は、甲1の「樹脂は、弁材質との非接着性に優れる樹脂ならば特に限定されず、たとえばPTFEを用いることができる。」(【0006】)との記載によれば、ガス透過膜15cにPTFEを用いたのは、非接着性に優れる観点からであると認められ、PTFEの非接着性を向上させるためにオイル又はワックス成分を含ませることは出願時の技術常識であるから、本件発明4は甲1発明から容易に想到し得る旨(申立書32頁14~20行)、主張する。
しかしながら、申立人が指摘する甲1【0006】は、甲1における背景技術の説明であって、甲1発明を説明するものではない。むしろ、甲1には「内部ガス排出のためにメカニカルな弁を使用しないので、セルの小型化が実現される。」(【0032】、下線は強調のために当審で付した。)との記載があり、弁を廃することに動機付けられているため、弁材質との非接着性を向上させる動機付けはない。
したがって、申立人の主張は採用できない。
(12)本件発明4の進歩性の有無についての判断
前記(10)及び(11)のとおりであるから、本件発明4は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(13)本件発明5の進歩性の有無についての判断
本件発明5は、本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を有するものであるから、本件発明5と甲1発明との相違点には、少なくとも前記(9)ウに示した相違点4-1及び4-2が含まれる。
そうすると、前記(10)に示したように、相違点4-1及び4-2に係る構成は、当業者といえども容易に想到し得たものではないから、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明5は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(14)本件発明6~8の新規性及び進歩性の有無についての判断
本件発明6~8は、本件発明1の発明特定事項又は本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を有するものであるから、本件発明6~9と甲1発明との相違点には、少なくとも前記(3)クに示した相違点1-1及び1-2又は前記(9)ウに示した相違点4-1及び4-2が含まれる。
そして、前記(5)に示したとおり、相違点1-1及び1-2は実質的な相違点であり、相違点4-1は相違点1-1と同様であり実質的な相違点であるから、本件発明6~8は、甲1発明と同一ではない。
また、前記(6)及び(10)に示したように、相違点1-1、1-2、4-1及び4-2に係る構成は、当業者といえども容易に想到し得たものではないから、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明6~8は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(15)本件発明9の進歩性の有無についての判断
本件発明9は、本件発明1の発明特定事項又は本件発明4の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を有するものであるから、本件発明6~9と甲1発明との相違点には、少なくとも前記(3)クに示した相違点1-1及び1-2又は前記(9)ウに示した相違点4-1及び4-2が含まれる。
そして、前記(6)及び(10)に示したように、相違点1-1、1-2、4-1及び4-2に係る構成は、当業者といえども容易に想到し得たものではないから、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明9は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(16)本件発明17と甲1発明との対比
発明特定事項17Iは、発明特定事項1G(4G)と同じであり、発明特定事項17Jは、発明特定事項1H及び1Iと、発明特定事項4H及び4Iとを、択一的に並記したものに等しい。
そうすると、発明特定事項17I及び17Jを備える本件発明17と甲1発明とを対比すると、少なくとも、発明特定事項1G~1Iに係る相違点1-1及び1-2(前記(3)ク)、又は、発明特定事項4G~4Iに係る相違点4-1及び4-2(前記(9)ウ)と同等の相違点が存在する。
すなわち、本件発明17と甲1発明とは、少なくとも、以下の相違点において相違する。
〈相違点17-1〉
本件発明17の「外部機能性層」は「疎水性を有する」のに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」は疎水性を有するか否かが不明である点。(発明特定事項17I)
〈相違点17-2〉
本件発明17の「外部機能性層」は「外側面に複数の微細突起が分布して形成されるか、またはオイルまたはワックス成分を有する」のに対し、甲1発明の「ガス透過膜15c」はそうであるか否かが不明である点。(発明特定事項17J)
(17)本件発明17の新規性の有無についての判断
相違点17-1及び17-2は、いずれも実質的な相違点であると認められ、これら相違点についての申立人の主張(申立書36頁)は、前記(4)に示した主張と同旨であるため、前記(5)と同様であり、本件発明17は、甲1発明とは同一ではなく、新規性を有する。
(18)本件発明17の進歩性の有無についての判断
前記(16)に示したとおり、相違点17-1は相違点1-1及び4-1と同じであり、相違点17-2は、相違点1-2及び4-2を択一的に並記したものに等しいから、前記(6)及び(10)と同様に、相違点17-1及び17-2に係る本件発明17の構成(発明特定事項17I、17J)は、当業者といえども容易に想到し得たとは認められない。
したがって、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明17は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(19)本件発明18の新規性及び進歩性の有無についての判断
発明特定事項18H及び18Iは、それぞれ発明特定事項17I及び17Jと同じであるから、発明特定事項18H及び18Iを備える本件発明18と甲1発明とを対比すると、少なくとも、発明特定事項17I及び17Jに係る相違点17-1及び17-2(前記(3)ク(16))と同じ相違点が存在する。
そして、上記相違点についての申立人の主張(申立書37頁24行~38頁22行)は、前記(4)に示した主張と同旨である。
よって、前記(17)と同様に、本件発明18は、甲1発明とは同一ではない。
また、前記(18)と同様に、本件発明18は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
(20)本件発明19の新規性及び進歩性の有無についての判断
本件発明19は、本件発明18の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を有するものであるから、前記(19)と同様である。
(21)理由A及びBについての小括
以上のとおりであるから、本件発明1~9及び17~19は、甲1発明とは同一ではないため、本件発明1~9及び17~19に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものではない。
また、本件発明1~9及び17~19は、当業者が甲1発明並びに甲2及び甲3に記載された内容に基づいて容易に発明をすることができたと認められないから、本件発明1~9及び17~19に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、理由A及びBには理由がない。
第5 むすび
前記第4によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-701006