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特許異議申立

2024-700916

樹脂接合体及びその接合方法

審判番号
2024-700916
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-072735
登録番号
7458108
請求日
2024年09月24日
審決日
2025年12月19日
公報発行日
2026年03月27日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】国立研究開発法人産業技術総合研究所
  • 【異議申立人】松浦 康次
審判長/審判官
  • 審判長 古屋野 浩志
  • 審判官 外川 敬之
  • 審判官 高松 大
分類
P1651.121-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7458108号発明「樹脂接合体及びその接合方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7458108号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを認める。 特許第7458108号の請求項1~6に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続等の経緯 特許第7458108号の請求項1~6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成31年2月6日に出願した特願2019-19656号の一部を令和5年4月26日に特願2023-72735号として出願したものであって、令和6年3月21日にその特許権の設定登録がされ、同年3月29日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、令和6年9月24日に特許異議申立人 松浦 康次(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。 その後の手続の経緯は以下のとおりである。 令和6年12月19日付け 取消理由通知書 令和7年 1月30日提出 訂正請求書・意見書(特許権者) 令和7年 5月13日付け 取消理由通知書 令和7年 7月11日提出 訂正請求書・意見書(特許権者) なお、申立人に対し、令和7年1月30日及び令和7年7月11日に提出された訂正請求書による訂正請求があった旨の通知をしたが、いずれの通知に対しても指定した期間内に、申立人からの意見書の提出はなかった。 また、令和7年1月30日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正請求について 1 訂正請求の趣旨 令和7年7月11日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第7458108号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める、というものである。 なお、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」、本件訂正前又は本件訂正後を、単に「訂正前」又は「訂正後」ということがある。また、下線は訂正箇所を示す。 2 訂正の内容 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、」と記載されているのを、「前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下であり、」に訂正する。請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~4、6も同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5に「前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmのナノ凹部である、請求項1に記載の樹脂接合体」と記載されているのを、「高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体であって、前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5であり、また、前記樹脂接合体において、前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている、樹脂接合体」に訂正する。 (3) 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に「前記樹脂部品1の内部、もしくはその前記樹脂部品2との接合面に、ミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有する」と記載されているのを、「前記樹脂部品1の内部に、ミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有する、もしくは前記樹脂部品1の前記樹脂部品2との接合面に設けた凹構造と、前記樹脂部品2の前記樹脂部品1との接合面とで形成されるミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有する」に訂正する。 3 訂正の適否についての判断 (1) 一群の請求項について 訂正前の請求項2~6は、訂正前の請求項1を直接的または間接的に引用しており、訂正事項1に係る訂正によって連動して訂正されるものであるから、訂正後の請求項1~6は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2) 訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部」との事項に係り、「前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下であり、」との限定を追加するものである。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号(特許請求の範囲を減縮)に掲げる事項を目的とするものである。 イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1の、「ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下であり、」との訂正事項は、本件特許の出願の願書に添付した明細書の段落【0019】における、「本発明に効果的なナノ凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、アスペクト比は0.5以上の構造体が望ましく、成形性や密着性を考慮すると、凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、2μm~200nm程度の深さを有する、アスペクト比は1以上2以下であることが最良である。」という記載に基づくものである。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、本件出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3) 訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項5が請求項1のみを引用していたところ、請求項1を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式に改めるとともに、訂正前の請求項5の「ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さ200~2000nmであ」るとの事項に対し、「直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5であ」るとの限定をするものである。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」及び同4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものに該当する。 イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2の、「直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5であ」るとの訂正事項は、本件特許出願の願書に添付した明細書の段落【0019】における、「本発明に効果的なナノ凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、アスペクト比は0.5以上の構造体が望ましく、成形性や密着性を考慮すると、凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、2μm~200nm程度の深さを有する、アスペクト比は1以上2以下であることが最良である。」及び「具体的には、凹構造の直径が均一な場合には、ある一定の深さまで樹脂が充填されないと十分な密着力が発揮できないが、凹構造の構造体の大きさがガウシャン分布を持つことによって、樹脂充填深さが、構造体に対して構造体の高さアスペクト比0.2~0.5程度の不十分な領域の場合には、小さい構造体や構造体の間隔が短い領域がもっとも強固なアンカー効果を発揮させる事ができる。」という記載に基づくものである。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、新規事項の追加に該当せず、本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (4) 訂正事項3について ア 訂正の目的の適否 訂正事項3の訂正は、本件訂正前の請求項6において、「前記樹脂部品1の前記樹脂部品2との接合面」に「凹構造」を設けることを明らかにしている。さらに、本件訂正前の請求項6において、「接合面」なる「面」により「中空構造部」なる「空間」を特定したことにより、発明の構成が不明確となっていたものを、訂正事項3によって、「中空構造物」が、「前記樹脂部品2の前記樹脂部品1との接合面とで形成され」、「ミクロン数値以上の大きさをもつ」ことを明らかにしている。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とする。 イ 新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項3の「前記樹脂部品1の前記樹脂部品2との接合面に設けた凹構造と、前記樹脂部品2の前記樹脂部品1との接合面とで形成されるミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有する」と限定する訂正は、本件明細書の段落【0015】の「接合面に複数のナノ数値範囲のナノ凹部とミクロン数値以上の大凹部を有する樹脂部品1と」、「接合面が平坦な樹脂部品2とを用い、両接合面を当接、熱溶着し、樹脂部品1の前記ナノ凹部の90体積%以上を樹脂部品2の樹脂で充填して、樹脂部品1の前記大凹部に由来する中空構造を有する樹脂接合体を製造する」という記載、及び、段落【0020】の「図2に示すように、上記中空構造が、熱変形を発生させない樹脂部品の接合面に設けた大きい凹構造に由来するものである」という記載、及び、【図2】の樹脂接合体の断面模式図の記載に基づく。 したがって、訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合する。また、訂正事項3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合する。 (5) 特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件では、訂正前の全ての請求項1~6について特許異議の申立てがされている。したがって、訂正事項1~3に関しては、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件が課されない。 4 本件訂正請求についてのまとめ 上記3によれば、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、結論に記載のとおり、特許第7458108号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおり、訂正後の請求項1~6のとおり訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。 そうしてみると、特許異議の申立ての対象となっている、請求項1~6に係る発明は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項によって特定されるとおりの、以下のものである。 なお、各請求項に係る訂正後の特許発明をその請求項の番号に基づいて、「本件特許発明1」などといい、全ての請求項に係る特許発明を総称して、「本件特許発明」ということがある。 「【請求項1】 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体であって、 前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下であり、 また、前記樹脂接合体において、前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている、樹脂接合体。 【請求項2】 前記高分子熱可塑性樹脂材料2のガラス転移温度が90℃以上110℃以下である、請求項1に記載の樹脂接合体。 【請求項3】 前記高分子熱可塑性樹脂材料1と前記高分子熱可塑性樹脂材料2は、同一素材の樹脂材料である、請求項1に記載の樹脂接合体。 【請求項4】 前記同一素材の樹脂材料は、ポリスチレン樹脂材料、又はシクロオレフィン樹脂材料である、請求項3に記載の樹脂接合体。 【請求項5】 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体であって、 前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5であり、 また、前記樹脂接合体において、前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている、樹脂接合体。 【請求項6】 前記樹脂部品1の内部に、ミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有する、もしくは前記樹脂部品1の前記樹脂部品2との接合面に設けた凹構造と、前記樹脂部品2の前記樹脂部品1との接合面とで形成されるミクロン数値以上の大きさをもつ中空構造物を有する、請求項1に記載の樹脂接合体。」 第4 申立人が提出した証拠方法及び申立理由 1 証拠方法 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)とともに証拠方法として、以下に示す甲第1号証~甲第11号証を提出した。 甲第1号証:特開2018-9924号公報(以下「甲1」という。) 甲第2号証:特開2016-83739号公報(以下「甲2」という。) 甲第3号証:化学事典 第1版(以下「甲3」という。) 甲第4号証:特開2003-139705号公報(以下「甲4」という。) 甲第5号証:特開2003-270245号公報(以下「甲5」という。) 甲第6号証:国際公開第2018/159257号(以下「甲6」という。) 甲第7号証:国際公開第2016/009796号(以下「甲7」という。) 甲第8号証:ZEONOR 1420R Product Data(以下「甲8」という。) 甲第9号証:特開2005-254508号公報(以下「甲9」という。) 甲第10号証:Displays and Touch Sensors(以下「甲10」という。) 甲第11号証:特開2017-100066号公報(以下「甲11」という。) 2 申立理由の概要 申立人は、概略、下記(1)~(4)の特許異議申立理由を主張している。申立理由の番号は当合議体が付与したものである。 (1) 新規性欠如 本件特許発明1、2及び6は、甲1に記載された発明である(申立書24~29ページ)。 (2) 進歩性欠如 本件特許発明1~6は、甲1及び甲2に記載の発明から容易に想到できた発明である(申立書24~35ページ)。 (3) サポート要件違反 本件特許発明1~6は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない(申立書35~36ページ)。 (4) 明確性要件違反 本件特許発明1~6は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない(申立書36ページ)。 第5 当合議体が通知した取消しの理由 令和7年7月11日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由は、以下のとおりである。 理由1(進歩性)請求項1~4及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 したがって、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由2(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 したがって、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 第6 当合議体の判断 1 理由1(進歩性)について (1)甲号証の記載 ア 甲1の記載 甲1には、以下の記載がある。 (ア) 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、2枚の基板の貼り合わせ方法およびマイクロチップの製造方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 生化学分野において、マイクロリアクタを用いて微量の試薬の分離、合成、抽出または分析などを行う手法が注目されている。このマイクロリアクタは、例えばシリコン、シリコーン樹脂またはガラスなどよりなる小さな基板上に、半導体微細加工技術によってマイクロスケールの分析用チャネルなどが形成されたマイクロチップよりなるものである。 ・・・(略)・・・ 【0005】 マイクロチップの製造において、2枚のマイクロチップ基板を貼り合わせる方法としては、接着剤によって接着する方法や熱融着による方法などが考えられる。 しかしながら、これらの方法には、以下のような問題がある。すなわち、接着剤によって貼り合わせる方法においては、接着剤が微小流路に染みだして流路が閉塞してしまったり、微小流路の一部が狭くなって流路の径が不均一なものとなったり、さらに、流路の壁面における均質な特性に乱れが生じたりする、という問題が生じるおそれがある。また、熱融着によって貼り合わせる方法においては、加熱溶融温度以上で融着すると加熱段階で流路が潰れてしまったり、流路が所定の断面形状に保持されなかったりするため、マイクロチップの高機能化が困難となる、という問題がある。 ・・・(略)・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 近年、複数の検体の同時測定や、測定法が相違する多数の測定といった、多彩な測定に対応することができるマイクロチップが検討されている。 このようなマイクロチップの実現には、1枚のマイクロチップに複数の測定検出部を組み込むことや、測定検出部に複数の測定法に対応した多様な測定構造を構築することなどが必要とされる。従って、必然的に1枚のマイクロチップは大型化することになる。 ・・・(略)・・・ 【0011】 このように、マイクロチップ基板に限らず、貼り合わせる基板が大きいほど、基板の張り合わせ面のうねりや基板自体の反りにより、基板同士の接合の不良個所が生じることや、2枚の基板の接合面に気泡などが挟まることなどの問題が発生しやすい。 また、基板の張り合わせ面のうねりや基板自体の反りがある状態において2枚の基板を貼りわせた場合、上記したうねりや反りに起因して接合体の一部に応力集中が生じ、場合によっては当初は接合していた基板の少なくとも一部の領域が、この応力集中により、剥がれてしまうといった問題も生じ得る。 また、接合体において接合面に気泡が存在する場合は、これが光学的測定を行う際のノイズの原因となってしまうことがある。 ・・・(略)・・・ 【0013】 本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、少なくとも一方の基板に反りや貼り合せ面のうねりを有する2枚の基板を、高い密着状態で貼り合わせることのできる基板の貼り合わせ方法およびマイクロチップの作製方法を提供することにある。」 (イ) 「【0024】 〔基板の貼り合わせ方法〕 図1は、本発明の基板の貼り合わせ方法の一例を概略的に示す説明図である。 本発明の基板の貼り合わせ方法は、第1の基板11の貼り合わせ面11aおよび第2の基板15の貼り合わせ面15aの各々を活性化する表面活性化工程(図1(a-1)および(a-2))と、当該第1の基板11と当該第2の基板15とをそれぞれの貼り合わせ面11a,15aが接触するように積重する積重工程(図1(b))と、第2の基板15の貼り合わせ面15aを、第1の基板11の貼り合わせ面11aの形状に従って変形させる変形工程(図1(c))とを有する。 【0025】 〔基板〕 本発明に適用される第1の基板11および第2の基板15は、それぞれ、ガラスおよび 合成樹脂よりなる群から選ばれる材料からなるものである。 基板11,15を構成する合成樹脂としては、シリコーン樹脂、シクロオレフィン樹脂(シクロオレフィンポリマー(COP)やシクロオレフィンコポリマー(COC)など)、アクリル樹脂などを用いることができる。例えば基板11,15がマイクロチップ基板である場合、光透過性に優れる材料を用いることが好ましく、光透過性に優れる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂またはシクロオレフィン樹脂を用いることができる。 基板11,15を構成するガラスとしては、石英ガラス、アルカリガラス、硼珪酸ガラスなどを用いることができる。 【0026】 本発明において、基板の可変形温度とは、当該基板が変形する温度であり、具体的には当該基板を構成する材料のガラス転移点(Tg)より少し低い(Tg-10)℃をいう。この基板の可変形温度は、射出成型時の樹脂投入量や保圧ならびに温度低下速度により若干変化する場合がある。 第1の基板11および第2の基板15は、第1の基板11の可変形温度が第2の基板15の可変形温度よりも高い材質のものとされる。 すなわち、第1の基板11のガラス転移点をTg1、第2の基板15のガラス転移点をTg2とすると、第1の基板11および第2の基板15の可変形温度は関係式:(Tg1-10)>(Tg2-10)を満たすものである。 【0027】 第1の基板11および第2の基板15の大きさは、例えば縦横が85mm×128mm、厚みがそれぞれ1~3mmとされる。 本発明の基板の貼り合わせ方法によれば、以下に詳述するように、厚みが例えば1~3mmと厚い基板であっても、第2の基板15の貼り合わせ面15aを第1の基板11の貼り合わせ面11aの形状に従って変形させることができて得られる接合体17の接合面17aの全面を有効に密着させることができる。 ・・・(略)・・・ 【0032】 [積重工程] 積重工程においては、図1(b)に示すように、室温環境下において、第1の基板11および第2の基板15を、第1の基板11の貼り合わせ面11aと第2の基板15の貼り合わせ面15aとが互いに接触した状態に積重する。 この積重工程を経ることにより、第1の基板11と第2の基板15とが積重した状態の積重体10が得られる。 ここで、第1の基板11の貼り合わせ面11aにはうねり(図1において点線で囲った部分)が生じているものとする。従って、得られた積重体10において、第1の基板11の貼り合わせ面11aに係るうねりを有する部分には、空間Sが形成される。 なお、図1の例においては第2の基板15にはうねりが生じていないものとされているが、第2の基板15にもうねりや反りが生じていても、本発明の効果が得られる。 【0033】 [変形工程] 変形工程においては、積重工程において得られた積重体10を加熱することにより、第2の基板15の貼り合わせ面15aを、第1の基板11の貼り合わせ面11aの形状に従って変形させることができる。 ・・・(略)・・・ 【0037】 この変形工程においては、以下のように第2の基板15が変形する。すなわち、積重体10を第2の基板15の可変形温度以上、第1の基板11の可変形温度未満の温度で加熱すると、第2の基板15が軟化する。一方、第1の基板11は自身のガラス転移点に到達していないため軟化することはなく、剛性を保っている。従って、第2の基板15のみが軟化して、第2の基板15の貼り合わせ面15aの形状が、第1の基板11の貼り合わせ面11aのうねりの形状に倣って変形して積重体10における空間Sが消失し、図1(d)に示すように、第1の基板11の貼り合わせ面11aと第2の基板15の貼り合わせ面15aとが全面において一様に接触した状態となる。その結果、基板同士の接合の不良個所が発生することや2枚の基板の接合面に気泡が挟まることなどが回避され、第1の基板11および第2の基板15間に良好な密着状態が得られる。 そして、第1の基板11と第2の基板15とが、様々な化学反応プロセスを経ることによって、例えば、第1の基板11の貼り合わせ面11aの終端のOH基と第2の基板15の貼り合わせ面15aの終端のOH基とによる水素結合により、あるいは、そこから脱水縮合した共有結合により接合され、以って、第1の基板11と第2の基板15とが一体に強固に接合された接合体17が得られる。 ・・・(略)・・・ 【0039】 〔マイクロチップの作製方法〕 本発明のマイクロチップの作製方法は、上記の基板の貼り合わせ方法を用いて内部に媒体が流れる流路を有するマイクロチップを得る方法である。 すなわち、それぞれガラスまたは樹脂からなり、互いに可変形温度の異なる第1の基板および第2の基板において、第1の基板および第2の基板の少なくとも一方の貼り合わせ面、好ましくは可変形温度の高い方の基板(本発明においては第1の基板)の貼り合わせ面のみに流路形成部分が設けられたものをマイクロチップ基板として用いる。 流路形成部分が可変形温度の高い方の基板(本発明においては第1の基板)の貼り合わせ面のみに設けられている場合には、変形工程中に第1の基板は軟化しないので、当該第1の基板に形成された流路形成部分が潰れることや変形することはなく、従って、得られたマイクロチップにおける流路に潰れや変形が生じることがない。」 (ウ) 「【実施例】 【0046】 以下、本発明の基板の貼り合わせ方法の具体的な実施例について説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。 【0047】 下記の基板Aおよび基板Bを用意した。 基板Aは、シクロオレフィン樹脂(日本ゼオン株式会社製「ゼオネックス460R」、可変形温度:120℃)、よりなる。 基板Bは、アクリル樹脂(住友化学株式会社製「スミペックス」、可変形温度:100℃)よりなる。 各基板は、寸法が100mm×150mm×2mmの短形の板状のものである。 各基板の可変形温度は、それぞれのガラス転移点-10℃に相当するものである。 【0048】 <参照例1~7> 第1の基板および第2の基板として2枚の基板Bを用い、これらを下記の紫外線照射処理工程および接合工程を行って貼り合わせた。第1の基板として用いた基板Bには、微少な流路形成部分を予め複数設けた。流路形成部分は幅150μm、深さ150μm、長さ20mmである。 【0049】 [紫外線照射処理工程] キセノンエキシマランプを用い、2枚の基板の各々の貼り合わせ面に、照度が40mW/cm2、照射時間が20秒間となる条件で、真空紫外線を照射した。 【0050】 [接合工程] 2枚の基板B,Bを、それぞれの貼り合わせ面が互いに接触するよう積重して積重体を得た(積重工程)。次いで、この積重体を加圧力が0.2MPa、加圧時間が300秒間、加熱温度が表1に記載の通りとした条件で加圧することによって、2枚の基板B,Bを接合した。 【0051】 このようにして得られた接合体について、接合状況の評価を目視で行った。また、破断した断面を観察して流路変形の有無を確認した。結果を表1に示す。 参照例1~3においては、2枚の基板B,Bを貼り合わせることはできたが、それぞれが有する貼り合わせ面のうねりや反りを吸収しきることができず、接合面の一部に隙間が生じてしまうことが確認された。 基板Bの可変形温度付近に加熱した参照例4,5においては、2枚の基板B,Bを貼り合わせることができ、かつ、貼り合わせ面のうねりや反りが加圧力により変形され、貼り合わせ面同士がより密着し、接合面の隙間はかなり改善されたが、完全ではなかった。 基板Bの可変形温度以上に加熱した参照例6,7においては、2枚の基板B,Bを貼り合わせることはでき、また、それぞれが有する貼り合わせ面のうねりや反りが加圧力により変形され、貼り合わせ面同士がより密着し、接合面に隙間が生じなかったが、加圧部材が接触する面の変形や流路変形が生じてしまった。 【0052】 <実施例1,2、比較例1~5> 第1の基板および第2の基板としてそれぞれ基板Aおよび基板Bを用い、これらを下記の紫外線照射処理工程および接合工程を行って貼り合わせた。第1の基板として用いた基板Aには、微少な流路形成部分を予め複数設けた。流路形成部分は幅150μm、深さ150μm、長さ20mmである。 【0053】 [紫外線照射処理工程] キセノンエキシマランプを用い、2枚の基板の各々の貼り合わせ面に、照度が40mW/cm2、照射時間が20秒間(基板Aに対して)または30秒間(基板Bに対して)となる条件で、真空紫外線を照射した。 【0054】 [接合工程] 2枚の基板A,Bを、それぞれの貼り合わせ面が互いに接触するよう積重して積重体を得た(積重工程)。次いで、この積重体を加圧力が0.2MPa、加圧時間が300秒間、加熱温度が表1に記載の通りとした条件で加圧することによって、2枚の基板A,Bを接合した。 【0055】 このようにして得られた接合体について、接合状況の評価を目視で行った。また、破断した断面を観察して流路変形の有無を確認した。結果を表1に示す。 比較例1~3においては、2枚の基板A,Bを貼り合わせることはできたが、それぞれが有する貼り合わせ面のうねりや反りを吸収しきることができず、接合面の一部に隙間が生じてしまうことが確認された。 可変形温度が低い方の基板(基板B)の可変形温度付近に加熱した比較例4,5においては、2枚の基板A,Bを貼り合わせることができ、かつ、貼り合わせ面のうねりや反りが加圧力により変形され、貼り合わせ面同士がより密着し、接合面の隙間はかなり改善されたが、完全ではなかった。 可変形温度が低い方の基板(基板B)の可変形温度以上に加熱した実施例1,2においては、2枚の基板A,Bを貼り合わせることができ、また、それぞれが有する貼り合わせ面のうねりや反りが加圧力により変形され、貼り合わせ面同士がより密着し、接合面に隙間が生じず、また、加圧部材が接触する面の変形や流路変形も生じなかった。 ・・・(略)・・・ 【0061】 【表1】 [図:0001433059000001.jpg] 【0062】 以上の結果より、可変形温度が低い方の基板の可変形温度以上の温度で積重体を加熱することにより、2枚の基板A,Bを、貼り合わせ面のうねりや反りが加圧力により変形され、貼り合わせ面同士がより密着し、接合面に隙間が生じない状態で貼り合わせることができ、かつ、加圧部材が接触する面の変形や流路変形も生じない接合体が得られることが確認された。」 イ 甲1発明 上記アの記載を総合すると、甲1には、実施例2として示される、以下の「接合体」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「 基板Aは、シクロオレフィン樹脂(日本ゼオン株式会社製「ゼオネックス460R」、可変形温度:120℃)、よりなり、 基板Bは、アクリル樹脂(住友化学株式会社製「スミペックス」、可変形温度:100℃)よりなり、 基板Aおよび基板Bを用い、これらを下記の紫外線照射処理工程および接合工程を行って貼り合わせた、 接合体。 [紫外線照射処理工程] キセノンエキシマランプを用い、2枚の基板の各々の貼り合わせ面に、照度が40mW/cm2、照射時間が20秒間(基板Aに対して)または30秒間(基板Bに対して)となる条件で、真空紫外線を照射した。 [接合工程] 2枚の基板A,Bを、それぞれの貼り合わせ面が互いに接触するよう積重して積重体を得た(積重工程)。次いで、この積重体を加圧力が0.2MPa、加圧時間が300秒間、加熱温度が110℃とした条件で加圧することによって、2枚の基板A,Bを接合した。」 ウ 甲4の記載 甲4には、以下の記載がある。 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、核酸、タンパク質、酵素、その他の生理物質などを固相基板表面に配置・固定したデバイスであるマイクロチップ用基板に関する。 ・・・(略)・・・ 【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、測定装置など外部環境に起因するバックグラウンドのムラを低減したマイクロチップ用基板を提供することである。 ・・・(略)・・・ 【0009】 【発明の実施の形態】本発明についてさらに詳しく説明する。測定装置等の外部環境からの影響によるノイズの低減には、基板の光透過率を下げることが有効である。すなわち、光透過率を下げることにより、基板を透過して測定装置治具等に達する励起光の量を減らし、かつ、測定装置治具等からの反射光が検出装置に達する量を低減することが可能である。基板の光透過率を下げる手段としては、表面の粗面化、金属・カーボン等の蒸着、染料・顔料の混練などによる着色等を利用することができる。製造時のコスト、簡便性の観点から、表面の粗面化による方法が好ましい。また、基板の材料としては、ガラス、金属、合成樹脂などを用いることができるが、加工性に優れ、破損しにくく、安価で、かつ表面処理が容易であるという利点を併せ持つ、合成樹脂を用いることが好ましい。 【0010】(粗面)以下、表面の粗面化について述べる。透明な材料が粗面化により半透明となるのは、表面の微小な凹凸により光が散乱するためであり、その光透過率は表面粗さに依存する。マイクロチップ用基板の表面粗さについては、中心線平均粗さ(Ra値)が好ましくは0.01~0.2μm、より好ましくは0.03~0.1μmであり、さらに最も好ましくは0.04~0.08μmである。 【0011】表面を粗面化する方法は乾式法と湿式法に大別される。乾式法として、機械的な粗面化、プラズマ接触処理、イオンビーム処理、エキシマレーザー処理等を利用することができる。機械的な粗面化とは、物理的な力を付加して表面に微小な凹凸を付与する方法である。具体的には、金型形状の転写、砥粒等による研磨、サンドペーパーや布などによるスクラッチング、粒子の吹き付けなどを利用することができる。表面の粗さを高度に制御する必要がある場合、プラズマ接触処理、イオンビーム処理、エキシマレーザー処理等を利用することができる。湿式法には、薬剤処理、溶剤処理等がある。具体的には、酸、アルカリ、材料の良溶媒を用いた処理で表面の一部を溶解させ、粗面化を実現することができる。」 エ 甲5の記載 甲5には、以下の記載がある。 「【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はマイクロチップ用基板に関する。例えば核酸、タンパク質、酵素、その他の生理物質などを固相基板表面に配置・固定したデバイスであるマイクロチップ用基板に関する。 ・・・(略)・・・ 【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、測定装置の基板固定用治具からの不均一な力付加による試料固定面の変形が起こらないマイクロチップ用基板を提供することである。 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明は、(1)測定装置の基板固定用治具との接触面を限定する手段を試料固定面の裏面に設けたマイクロチップ用基板、(2)接触面を限定する手段が試料固定面の裏面の一部に凸部を設けることである(1)記載のマイクロチップ用基板、(3)凸部は、試料固定面の厚みよりも厚い外縁部である(2)記載のマイクロチップ用基板、(4)基板の材料が飽和環状ポリオレフィンである(1)~(3)記載のいずれかのマイクロチップ用基板、である。 ・・・(略)・・・ 【0013】 【実施例】本発明を以下の実施例により具体的に説明する。 (実施例1)ノルボルネン系ポリオレフィン樹脂を用いて、縦76mm、横26mm、試料固定部の厚さ0.9mm、外縁部の厚さ1mmの図1に示した基板を射出成形した。成形品の表面粗さは0.002~0.003μmであり、基板全体にわたって歪み、反りは認められなかった。この基板をPackard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー'ScanArray LITE'を用いてスキャンした。スキャン条件はレーザー出力90%、PMT感度90%であった。図5のヒストグラムに示すようにバックグラウンド蛍光量にはムラが少なく、基板表面に反り、歪みなどの変形の無いことが示された。 ・・・(略)・・・ 【0015】 【発明の効果】本発明により、測定装置の基板固定用治具からの応力による試料固定面の変形が起こらないマイクロチップ用基板の作成が可能である。試料固定面の変形は検出器の焦点調整を妨げ、信号量のバラツキの原因となっていたが、本発明により正確な評価の行える基板の作製が可能となった。」 オ 甲6の記載 甲6には、以下の記載がある。 「 技術分野 [0001] 本発明は、シクロオレフィンポリマー(COP)を相手材料に接合する方法に関する。 背景技術 [0002] 飽和炭化水素系の非晶質プラスチックであるシクロオレフィンポリマー(COP)は、可視光領域において透明で複屈折が小さいという優れた光学特性を有する上、水による膨張が少ないことから、光学レンズに多く用いられる。また、バックグラウンドの蛍光強度がガラスに匹敵するほど低いことから、蛍光検出系のマイクロ流路デバイス(マイクロ流路チップ)への利用が考えられている。さらには、材料内での電気エネルギーの損失の度合いを示す誘電正接が小さく、高周波特性に優れている点に着目して、電子材料としての応用も期待されている。 [0003] しかし、COPは疎水性樹脂であり、濡れ性や接着性が低いことから、マイクロ流路チップ等の光学デバイスを製造する際には困難性を伴う。そこで、エキシマUV光の照射によりCOPの表面を改質し、接着剤を使うことなくCOP同士を接合することが報告されている(非特許文献1)。また、酸素プラズマ処理によりCOPの表面を改質し、接着剤を使うことなくCOPとシリコン(あるいはガラス)を接合する技術も提案されている(特許文献1)。 ・・・(略)・・・ [0007] 本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、COPを、大きな圧力や温度を付加することなく、また、光学特性を変化させることなく、相手材料に接合する方法を提供するものである。 発明が解決しようとする課題 [0008] 上記課題を解決するために成された本発明は、 シクロオレフィンポリマー(COP)である第1材料と、第2材料を接合する方法であって、 少なくとも前記第1材料の接合面をH2Oプラズマに曝すステップと、 前記第1材料の接合面と前記第2材料の接合面を合わせるステップと、 を含むことを特徴とする。 ・・・(略)・・・ [0024] <2.処理の流れ> 実施形態に係る接合方法について、図2を参照しながら説明する。図2は、該接合方法の流れを示す図である。 [0025] ステップS1:はじめに、接合するべき2つの材料(第1材料81及び第2材料82)を準備する。ここでは、第1材料81および第2材料82はいずれも、シクロオレフィンポリマー(COP)により形成された薄板であり、例えば、マイクロ流路チップの下側基板、及び、中間基板(すなわち、流路パターンが形成された基板)をそれぞれ構成する部材である。この場合、下側基板の上面、及び、中間基板の下面に相当する各面が、各材料81,82の接合面となる。ただし、各材料81,82の接合面の表面粗さは、共にRa10nm以下とされている。 [0026] ステップS2:次に、第1材料81の接合面、及び、第2材料82の接合面を、H2Oプラズマで処理する。 ・・・(略)・・・ [0033] 発明者らは、COPで形成された材料の接合面をH2Oプラズマで処理することによって、次の3つの反応が生じると考察した。 [0034] 第1に、H2Oプラズマに曝されることによって、接合面に存在している高分子の一部が酸化されて脱離する(すなわ、表面がエッチングされる)。また、接合面に存在している高分子の主鎖が切断されて低分子量化する。また、接合面の端のバリが除去される。これらにより、接合面が平滑化され(すなわち、表面粗さが小さくなり)、接合しやすい状態が形成されると考えられる。ただし、このような反応が過度に進むと逆に表面粗さが大きくなる可能性があるが、H2Oプラズマのパワー(すなわち、パワード電極4に印加される電力)を小さく(具体的には400W以下)することで、或いは、処理時間を短く(具体的には600秒以下)することで、表面粗さが大きくなるまでには至らないようにできるものと考えられる。 ・・・(略)・・・ [0039] 以上の3つの反応により、COPの光学特性を変化させることなく、接合面が接合しやすい状態に改質されるため、加圧・加熱をせずとも、接合面同士を合わせるだけで、接合が成されるものと考えられる。」 カ 甲7の記載 甲7には、以下の記載がある。 「 技術分野 [0001] 本発明は,内部に設けられた複数のチャンネルにレーザビーム等の光を照射し,内部に存在する物質を高感度に蛍光検出,散乱光検出する等により分析するためのマイクロチップ及びその製造方法,レーザビーム照射方法,及びそのマイクロチップを用いて試料を分析するマルチチャンネル分析装置に関する。 ・・・(略)・・・ [0056] マイクロチップ1の周囲は空気,すなわちn0=1.00とした。マイクロチップ1の部材は,ZEONORTM(ゼオノア,日本ゼオン)とした。ゼオノアは,シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂であり,透明性が高く,吸湿性が低いこと等の特徴によりマイクロチップの部材に良く用いられる。 ・・・(略)・・・ [0118] [実施例6] 本実施例では,実施例5で示した表面粗さを,より定量的に示す。材料をゼオノアとするマイクロチップを射出成形により作製した。図33に正面図を示す通り,マイクロチップ110の正面のサイズは20mm×90mm,厚さ1.5mmとした。マイクロチップの内部に,断面が40μm角のチャンネル112を1本だけ設けた。チャンネル112の両端には,入口ポート123及び出口ポート124が設けられている。本マイクロチップの正面はいずれも滑らかで,鏡面状態であった。ゼオノアは光学的に透明のため,マイクロチップの正面を挟んで反対側にあるものが透けて見える状態であった。これに対して,本マイクロチップの側面はいずれも滑らかではなく,鏡面状態でなかった。表面が曇って見えるため,マイクロチップの側面を挟んで反対側にあるものを見ることができなかった。 [0119] 本マイクロチップの側面及び正面をそれぞれ,レーザ顕微鏡(キーエンス,VK-8700)で100倍の対物レンズを用いて観察した画像(縦212μm×横283μmの領域の画像)と,その画像から導出される表面粗さRMSをそれぞれ図34に示す。ここで,表面粗さRMSは,上記の縦212μm×横283μmの領域内で任意の縦50μm×横50μmの領域の表面粗さRMSを求め,その最小値で示した。このようにして表面粗さを求めたのは,特異的な傷や汚れの影響を排除するためである。また,縦50μm×横50μmのサイズは,導入するレーザビームの径とほぼ揃えるように設定した。レーザ顕微鏡画像で明らかなように,正面が滑らかである一方で,側面は荒れているのが分かる。側面の表面粗さが0.44μmと大きいのに対して,正面の表面粗さは0.07μmと約6倍も小さかった。 [0120] 図35は,上記のマイクロチップの側面の様々な条件下でのレーザ顕微鏡による表面観察像及び表面粗さRMSを示しており,側面が未処理の状態(図34の側面と同じデータ),側面を紙やすりで研磨した状態,側面をダイヤモンドペーストで研磨した状態,側面にガラス窓を接着した状態について示している。ここで,ガラス窓は,スライドガラス(松浪,S1111)を3mm角に切断して作製した。 [0121] 表面観察像より,上記の順に表面が滑らかになることが分かり,対応して表面粗さRMSは,0.44μm,0.24μm,0.14μm,0.06μmと順次小さくなることが分かった。表面粗さRMSの導出法は図34と同様である。図34に示した,マイクロチップの正面の表面粗さ0.07μmと,上記のスライドガラスの正面の表面粗さ0.06μmが同等であることから,改めてマイクロチップの正面が鏡面状態であることを確認できた。このことは,図28のような方法を用いれば,射出成形後の段階で,側面108を鏡面状態にすることもできることを意味している。また,ここでの紙やすり研磨,及びダイヤモンドペースト研磨で得られた表面粗さは,非熟練者がマニュアルで行った結果に過ぎず,熟練者が行ったり,機械を用いて行えば,表面粗さはもっと小さくなり,ガラス窓と同等以上の鏡面状態にすることが可能であることは言うまでもない。 ・・・(略)・・・ [0125] 図37は,図35の結果と,図36の結果から,マイクロチップの側面の表面粗さRMSとレーザビームの透過率の関係を表したものである。この結果から,レーザビームが入射する面,及び出射する面の表面粗さとレーザビーム透過率は極めて高い相関があることが分かった。表面粗さが小さいほど,つまり表面が滑らかで鏡面状態に近づくほど,レーザビームの透過率は向上し,その結果,レーザビームの入出射面における散乱が抑えられ,マイクロチップ内部の単数又は複数のチャンネルに到達するレーザ強度を高め,各チャンネルにおける高感度な蛍光検出が可能となることが明らかになった。表面粗さは小さいほど良いが,図37の結果から,特に,表面粗さをRMSで0.24μm以下にすることが効果的であることが分かった。より好ましくは,表面粗さRMSを0.1μm以下にするのが良いことが分かった。また,任意の表面状態から,その表面粗さをRMSで少なくとも0.1μm低減して平滑化することで,レーザビームの透過率に顕著な向上が得られることが分かった。」 (2) 本件特許発明1について ア 対比 甲1発明の「シクロオレフィン樹脂」及び「アクリル樹脂」は、技術常識からみて、本件特許発明1でいう「高分子熱可塑性樹脂材料」である。ここで、甲1の段落【0026】には、「基板の可変形温度とは、当該基板が変形する温度」であることが記載されていることからみて、甲1発明の「可変形温度」は、本件特許発明1の「軟化温度」に該当する。そして、甲1発明の「アクリル樹脂」は、「可変形温度」が「100℃」と、甲1発明の「シクロオレフィン樹脂」より、「可変形温度」が20℃低いから、甲1発明の「シクロオレフィン樹脂」及び「アクリル樹脂」は、それぞれ、本件特許発明1の「高分子熱可塑性樹脂材料1」及び「熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2」に相当する。また、甲1発明の「基板A」及び「基板B」は、それぞれ、「シクロオレフィン樹脂」及び「アクリル樹脂」よりなるから、本件特許発明1の「高分子熱可塑性樹脂材料1からなる」「樹脂部品1」及び「高分子熱可塑性樹脂材料2からなる」「樹脂部品2」に相当する。加えて、甲1発明の「接合体」は、1枚の「基板A」と1枚の「基板B」を、「紫外線照射処理工程および接合工程を行って貼り合わせた」ものであるから、本件特許発明1の「高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された」という要件を満たす。そうしてみると、甲1発明の「接合体」は、本件特許発明1の「樹脂接合体」に相当する。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明1と甲1発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。 (ア) 一致点 「 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体。」 (イ) 相違点 (相違点1-1-1) 「樹脂部品1」が、本件特許発明1は、「前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」であるのに対して、甲1発明の「基板A」は、そのように特定されていない点。 (相違点1-1-2) 本件特許発明1は、「前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。 ウ 判断 相違点1-1-1について検討する。 (ア) 甲1には、「基板A」が「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を有することが、記載も示唆もされていない。また、甲1発明の「基板A」が、「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を有する蓋然性が高いともいえない。 (イ) 甲4の段落【0009】には、「表面の粗面化」により、「基板の光透過率を下げ」、「測定装置等の外部環境からの影響によるノイズ」を「低減」させることが記載されている。また、甲4の段落【0010】には、「マイクロチップ用基板の表面粗さについては、中心線平均粗さ(Ra値)が好ましくは0.01~0.2μm」であることが記載されている。さらに、甲4の段落【0011】には、「表面を粗面化する方法」として、「金型形状の転写、砥粒等による研磨、サンドペーパーや布などによるスクラッチング、粒子の吹き付けなどを利用することができる」ことが記載されている。 (ウ) 甲5の段落【0013】には、「ノルボルネン系ポリオレフィン樹脂を用い」た「基板を射出成形した」「成形品の表面粗さは0.002~0.003μmであ」ることが記載されている。また、甲5の段落【0015】には、「測定装置の基板固定用治具からの応力による試料固体面の変形が起こらないマイクロチップ用基板の作成が可能である」ことが記載されている。 (エ) 甲6の段落[0025]には、「マイクロ流路チップの下側基板、及び、中間基板」「をそれぞれ構成する部材」であり、「接合面の表面粗さは」、「Ra10nm以下とされている」「シクロオレフィンポリマー(COP)により形成された薄板」が記載されている。また、甲6の段落[0034]には、「接合面が平滑化され(すなわち、表面粗さが小さくなり)、接合しやすい状態が形成される」と記載されている。さらに、甲6の段落[0007]には、「光学特性を変化させることなく、相手材料に接合する」と記載されている。 (オ) 甲7の段落[0118]~[0119]には、「材料をゼオノアとするマイクロチップを射出成形により作製」すること、及び「マイクロチップ」の「正面の表面粗さは0.07μm」であることが記載されている。また、甲7の段落[0056]には、「ゼオノア」が「シクロオレフィンポリマー」であることが記載されている。さらに、甲7の段落[0125]には、「レーザビームが入射する面,及び出射する面の表面粗さとレーザビーム透過率は極めて高い相関があることが分かった。表面粗さが小さいほど,つまり表面が滑らかで鏡面状態に近づくほど,レーザビームの透過率は向上し,その結果,レーザビームの入出射面における散乱が抑えられ,マイクロチップ内部の単数又は複数のチャンネルに到達するレーザ強度を高め,各チャンネルにおける高感度な蛍光検出が可能となる」と記載されている。 (カ) 上記(イ)~(オ)によれば、甲4~7には、マイクロチップ基板は、一般に0.002~0.2μm程度の表面粗さを有することが示されているにとどまり、甲4~7及び他の甲号証には、一般的なマイクロチップ基板が、「接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さ」ないこと、及び、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を有することについては、記載も示唆もされていない。したがって、甲4~7の記載を参照しても、甲1発明の「基板A」が「接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さ」ないとは認められないし、甲1発明の「基板A」が「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を有するとも認められない。 (キ) また、甲1、甲4~7及びその他の甲号証をみても、「接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さ」ないこと、及び、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を設けることが記載されておらず、甲1発明の「基板A」が「接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さ」ないようにする動機付けが存在しないし、甲1発明の「基板A」の「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を設けるようにする動機付けも存在しない。 (ク) そうしてみると、上記相違点1-1-2を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 本件特許発明2~4及び6について 本件特許発明2~4及び6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。 そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲1発明及び甲2の記載事項に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~6も、甲1発明及び甲2の記載事項に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) 本件特許発明5について ア 一致点及び相違点 本件特許発明5と甲1発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。 (ア) 一致点 「 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体。」 (イ) 相違点 (相違点1-5-1) 「樹脂部品1」が、本件特許発明5は、「前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」であるのに対して、甲1発明の「基板A」は、そのように特定されていない点。 (相違点1-5-2) 本件特許発明5は、「前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。 ウ 判断 相違点1-5-1について検討する。 上記(2)で検討したのと同様に、甲1には、「基板A」が、「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を有することが、記載も示唆もされていない。また、甲1発明の「基板A」が、「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を有する蓋然性が高いともいえない。 また、甲4~7及び他の甲号証には、一般的なマイクロチップ基板が、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を有することについては、記載も示唆もされていない。したがって、甲4~7の記載を参照しても、甲1発明の「基板A」が、「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を有するとは認められない。 そして、いずれの甲号証の記載事項を参酌しても、甲1発明の「基板A」の「基板B」と接合する面に、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を設けるようにする動機付けが存在しない。 そうしてみると、上記相違点1-5-2を検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5) 申立人の主張について ア 申立人は、申立書(27~29ページ)において、本件特許発明1、2及び6は、甲1発明と同一であり、新規性を有しない旨、また、本件特許発明1~6は、甲4~甲7の記載を参酌することで、甲1発明から容易に想到できた旨主張している。 イ しかしながら、上記(2)~(4)で述べたとおり、本件特許発明1、2及び6は甲1発明と同一ではない。また、本件特許発明1~6は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものでもない。 ウ したがって、申立人の主張は採用しない。 2 理由2(サポート要件)について (1)本件特許発明1について ア 判断基準 特許請求の範囲の記載が、特許法36条6項1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 これを本件特許発明についてみると、以下のとおりとなる。 イ 本件特許発明における課題解決手段の認定 本件明細書の段落【0010】の記載によると、本件特許発明の課題は、「精密な形状精度を保って樹脂部品を接合させること」と認められる。 そして、発明の詳細な説明には、上記課題を解決するための方法として、段落【0017】に、「本発明では、樹脂材料によるガラス転移温度や軟化温度の違いを利用し、熱溶融の際の温度を適切に制御することで、熱変形を発生させる樹脂部品と、発生させない樹脂部品の制御を行い、熱変形を発生させる樹脂部品の熱溶融によって、熱変形を発生させない樹脂部品のナノ凹凸構造内に熱変形を発生させる樹脂材料を充填させることで、アンカー効果によって樹脂部品同士を接合させる」こと、本件明細書の段落【0019】に、「本発明に効果的なナノ凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、アスペクト比は0.5以上の構造体が望ましく、成形性や密着性を考慮すると、凹構造の大きさは、2μm~100nm程度の直径を有し、2μm~200nm程度の深さを有する、アスペクト比は1以上2以下であることが最良である。本発明においては、このような凹構造を、接合面1μm2あたり平均20~50個有することが望ましい。」及び「当該ナノ凹構造は、その分布がガウシャン分布などの正規分布を持つ、さまざまな大きさの構造体からなることで、アンカー効果による密着性を発揮させる上で、より強固な密着が可能である。具体的には、凹構造の直径が均一な場合には、ある一定の深さまで樹脂が充填されないと十分な密着力が発揮できないが、凹構造の構造体の大きさがガウシャン分布を持つことによって、樹脂充填深さが、構造体に対して構造体の高さアスペクト比0.2~0.5程度の不十分な領域の場合には、小さい構造体や構造体の間隔が短い領域がもっとも強固なアンカー効果を発揮させる事ができる。一方で、樹脂充填深さが、構造体に対して構造体の高さアスペクト比1~2程度の樹脂が十分充填された状態の場合には、凹凸構造の構造体の直径や間隔が大きい領域で最も効果的なアンカー効果を得られる。これによって、成形品を強固に接着することが可能になる。」と記載されている。 そうしてみると、本件特許発明における課題解決手段は、「ナノ凹構造の大きさ」を、「2μm~100nm程度の直径」、「2μm~200nm程度の深さ」、「アスペクト比は1以上2以下」とすることにより、「アンカー効果によって樹脂部品同士を接合させる」こと、あるいは、「ナノ凹構造」に「ガウシャン分布などの正規分布」をもたせ、「構造体に対して構造体の高さアスペクト比0.2~0.5程度」として、「小さい構造体や構造体の間隔が短い領域がもっとも強固なアンカー効果を発揮させる」ことと認められる。 そして、このことは、本件明細書の段落【0025】~【0026】に記載の、「約300nmを中心にガウシャン分布の平均直径を持ち、高さ350nmの円錐形の構造を持つ駒金型を用いて、射出成形法で35mmx35mmの試験片を成形した」「ナノ凹部」を有する樹脂材料を使用した実施例1において、「樹脂の軟化温度が高いCOP(この場合COP 690R)の表面にナノ凹部が成形された樹脂部品を用いた場合、アンカー効果が働き、さらに強固な接合が得られ、1.5倍~3倍接合強度が向上できる」(段落【0029】)と記載されていることからも裏付けられている。 ウ 判断 上記イで認定した課題解決手段に基づいて、本件特許発明が本件課題を解決することができる範囲のものと当業者が認識することができるかについて検討する。 本件特許発明1は「 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体であって、 前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下であり、 また、前記樹脂接合体において、前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている、樹脂接合体。」であって、「アンカー効果による密着性」が発揮できると解されるから、上記課題解決手段が反映されていることは明らかである。 したがって、本件特許発明1は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。 エ 小括 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。 (2) 本件特許発明2~4及び6について 本件特許発明2~4、6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。 そうすると、上記(1)のとおり、本件特許発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である以上、本件特許発明2~4、6も、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。 (3) 本件特許発明5について 上記(1)で検討したのと同様に、本件特許発明5は「 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体であって、 前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5であり、 また、前記樹脂接合体において、前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている、樹脂接合体。」であって、「高さアスペクト比0.2~0.5程度の不十分な領域の場合」であっても、「小さい構造体や構造体の間隔が短い領域がもっとも強固なアンカー効果を発揮」できると解されるから、上記課題解決手段が反映されていることは明らかである。 したがって、本件特許発明5は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。 (4) 申立人の主張について ア 申立人は、申立書(35~36ページ)において、本件特許発明1においては、「ナノ凹部」の具体的なサイズや、「ナノ凹部」の具体的な数については全く規定されておらず、「ナノ凹部」が微小な凹部である場合や、「ナノ凹部」の数が少ない場合においてまで、十分なアンカー効果が発揮されるとはいえないから、本件特許発明1~6で規定している範囲まで、本件特許の発明の詳細な記載に開示された内容を拡張ないし一般化できない旨主張している。 イ しかしながら、本件明細書の段落【0011】に、「(B)・・・(略)・・・、ガラス転移温度及び/又は軟化温度が高い方の樹脂部品の表面にナノ数値範囲の大きさをもつ凹凸構造を形成し、接合すると、・・・(略)・・・、当該溶融変形されたガラス転移温度及び/又は軟化温度が低い樹脂材料が、当該凹凸構造体内に充填されることで、単一樹脂同士でアンカー効果と溶融拡散による樹脂の接合作用が発生し、強固に接合できる」、及び「(D)上記(B)の接合において、・・・(略)・・・、接合界面は全体として平坦な平面であり、その中にホール状の凹構造体が散在することとなるため、・・・(略)・・・、構造体にかかる圧力が緩和され、構造体の破壊を防ぐ事ができる」と記載されているとおり、本件特許発明1は、「アンカー効果」を発揮させる程度に、基板上に「ナノ凹構造」を散在させることが前提となっている。したがって、上記(1)イで述べた本件明細書の段落【0019】の記載からみて、本件特許発明は、基板上に散在する「ナノ凹構造」を「2μm~100nm程度の直径」、「2μm~200nm程度の深さ」、「アスペクト比は1以上2以下」とすること、あるいは、「ナノ凹構造」に「ガウシャン分布などの正規分布」をもたせ、「構造体に対して構造体の高さアスペクト比0.2~0.5程度」と特定することにより、当業者であれば十分に、本件特許発明が本件課題を解決することができる範囲のものと認識できるといえる。したがって、本件特許発明1~6は、「ナノ凹部」が微小な凹部である場合や、「ナノ凹部」の数が少ない場合において、十分なアンカー効果が発揮されないとはいえない。 よって、本件特許発明1~6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものといえる。 ウ したがって、申立人の主張は採用しない。 第7 取消理由通知書で採用しなかった特許異議申立ての理由について 1 甲1を主引例とした新規性欠如 上記第6の1で述べたとおり、本件特許発明1は甲1発明と同一ではない。 2 甲2を主引例とした進歩性欠如 (1) 甲号証の記載及び甲2発明 ア 甲2の記載 甲2には、以下の記載がある。 (ア) 「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は、マイクロ流路を有するマイクロチップ及びマイクロチップの製造方法に関する。 ・・・(略)・・・ 【0004】 従来、マイクロ流路を有するマイクロチップは、マイクロ流路用溝が設けられた基板の表面に、樹脂フィルムを貼り合わせることにより製造されている。基板と樹脂フィルムとを貼り合わせる方法として、一般に、接着剤や有機溶剤が用いられている。しかし、接着剤や有機溶剤を用いると、基板と樹脂フィルムとの間に、接着剤や有機溶剤が残存する。残存した接着剤や有機溶剤によって、光の反射や散乱が生じることがある。このため、マイクロチップを光学用途に用いることができない。また、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などの加熱が行われる用途においては、マイクロ流路内の溶液の蒸気圧などによって、基板と樹脂フィルムとの接着力が低下したり、基板と樹脂フィルムとが剥離したりして、液漏れが生じることがある。 ・・・(略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、耐熱性が高く、かつ液漏れが生じにくいマイクロチップ及びマイクロチップの製造方法を提供することである。」 (イ) 「【発明を実施するための形態】 【0014】 以下、本発明の詳細を説明する。 【0015】 本発明に係るマイクロチップは、第1の表面側にマイクロ流路を有する基板と、上記基板の上記第1の表面に貼り合わされている樹脂フィルムとを備える。上記樹脂フィルムの100~120℃の温度領域での線膨張係数は7×10-5/℃以下である。上記樹脂フィルムのガラス転移点は100℃以上、200℃以下である。上記基板と上記樹脂フィルムとは、熱融着によって貼り合わされている。 ・・・(略)・・・ 【0027】 上記樹脂フィルムの材質は、上記の線膨張係数及び上記のガラス転移温度を満足すれば、特に限定されない。上記樹脂フィルムの材質は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。上記樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、及びエポキシ樹脂等が挙げられ、上記樹脂フィルムの材質として、上記の線膨張係数及び上記のガラス転移温度を満足する適宜の樹脂が選ばれる。 【0028】 上記基板の材質は特に限定されないが、樹脂であることが好ましく、熱可塑性樹脂であることが好ましい。上記基板の材質は、上記のガラス転移温度が上記下限以上及び上記上限以下である材質であることが好ましい。上記樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、及びエポキシ樹脂等が挙げられる。」 (ウ) 「【0036】 (実施例1) 日本ゼオン社製「ゼオノア1420R(シクロオレフィンポリマー)」を射出成形にて板状(寸法:縦50mm×横50mm×厚み1mm)に加工し、成形体を得た。得られた成形体の第1の表面に、長さ30mm×幅0.4mm×深さ0.4mmのマイクロ流路(溝、断面形状が正方形)を形成し、基板を得た。なお、マイクロ流路を形成するために、ドリル切削を用いた。ドリルとして、NEC/NEDAC社製「V820」を用いた。 【0037】 日本ゼオン社製「ゼオノアフィルムZF14-188(シクロオレフィンポリマー)」(フィルムの厚み0.188mm)をカッターナイフで縦50mm×横50mmに切り取り、樹脂フィルムを得た。 【0038】 マイクロ流路(溝)を第1の表面側に有する基板の第1の表面に、樹脂フィルムを重ねて、熱融着し、マイクロチップを得た。熱融着の条件は、基板側のプレス板温度を60℃、樹脂フィルム側のプレス温度を190℃、プレス圧を60kg/cm2、プレス時間を10秒とした。 【0039】 (実施例2) 樹脂フィルムの種類を、日本ゼオン社製「ゼオノアフィルムZF16-188」(フィルムの厚み0.188mm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、マイクロチップを得た。 ・・・(略)・・・ 【0053】 【表1】 [図:0001433059000002.jpg] 」 イ 甲2発明 上記(1)ア~ウの記載を総合すると、甲2には、実施例2として示される、以下の「マイクロチップ」の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「 「ゼオノア1420R(シクロオレフィンポリマー)」を射出成形にて板状に加工し、成形体を得、得られた成形体の第1の表面にマイクロ流路を形成し、基板を得、 「ゼオノアフィルムZF16-188」(フィルムの厚み0.188mm)をカッターナイフで縦50mm×横50mmに切り取り、樹脂フィルムを得、 マイクロ流路を第1の表面側に有する基板の第1の表面に、樹脂フィルムを重ねて、熱融着して得られる、 マイクロチップ。」 ウ 甲9の記載 甲9には、以下の記載がある。 「【0061】 ・・・(略)・・・ III:Tgが75℃の環状ポリオレフィン(日本ゼオン:ゼオノア750R)を20%、Tgが136℃の環状ポリオレフィン(日本ゼオン:ゼオノア1420R)を80%の比率で混合した混合物」 (2) 本件特許発明1について ア 対比 甲2発明の「ゼオノア1420R(シクロオレフィンポリマー)」及び「ゼオノアフィルムZF16-188」は、技術常識からみて、本件特許発明1でいう「高分子熱可塑性樹脂材料」である。ここで、甲2の段落【0053】【表1】には、「ゼオノアフィルムZF16-188」のガラス転移点が163℃であること、甲9の段落【0061】には、「ゼオノア1420R(シクロオレフィンポリマー)」のガラス転移点が136℃であることが記載されていることからみて、甲2発明の「ゼオノアフィルムZF16-188」及び「ゼオノア1420R(シクロオレフィンポリマー)」は、それぞれ、本件特許発明1の「高分子熱可塑性樹脂材料1」及び「熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2」に相当する。また、甲1発明の「樹脂フィルム」及び「基板」は、それぞれ、「ゼオノアフィルムZF16-188」及び「ゼオノア1420R(シクロオレフィンポリマー)」よりなるから、本件特許発明1の「高分子熱可塑性樹脂材料1からなる」「樹脂部品1」及び「高分子熱可塑性樹脂材料2からなる」「樹脂部品2」に相当する。加えて、甲2発明の「マイクロチップ」は、1枚の日本ゼオン社製「ゼオノア1420R(シクロオレフィンポリマー)」と1枚の日本ゼオン社製「ゼオノアフィルムZF16-188」を、「熱融着」したものであるから、本件特許発明1の「高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された」という要件を満たす。そうしてみると、甲2発明の「マイクロチップ」は、本件特許発明1の「樹脂接合体」に相当する。 イ 一致点及び相違点 本件特許発明1と甲2発明を対比すると、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。 (ア) 一致点 「 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体。」 (イ) 相違点 (相違点2-1-1) 「樹脂部品1」が、本件特許発明1は、「前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」であるのに対して、甲1発明の「基板A」は、そのように特定されていない点。 (相違点2-1-2) 本件特許発明1は、「前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。 ウ 判断 甲2には、「樹脂フィルム」が、「基板」と接合する面に、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を設けることが、記載も示唆もされていない。また、甲2発明の「樹脂フィルム」が、「基板」と接合する面に、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を有する蓋然性が高いともいえない。 また、他の甲号証にも、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を有することについては、記載も示唆もされておらず、甲2発明の樹脂フィルムに、「深さが200~2000nmであり、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が1以上2以下」である「ナノ凹部」を設ける動機付けが存在しない。 そうしてみると、上記相違点2-2を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3) 本件特許発明2~4及び6について 本件特許発明2~4及び6は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の構成を全て具備するものである。 そうすると、上記(2)のとおり、本件特許発明1が、甲5発明及び周知技術に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものでない以上、本件特許発明2~6も、甲5発明及び周知技術に基づいても当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4) 本件特許発明5について ア 一致点及び相違点 本件特許発明5と甲1発明は、以下の点(ア)で一致し、以下の点(イ)で相違する。 (ア) 一致点 「 高分子熱可塑性樹脂材料1からなるk個(ここで、kは、1~nの自然数)の樹脂部品1と、前記熱可塑性樹脂材料1よりガラス転移温度及び/又は軟化温度が5℃以上低い高分子熱可塑性樹脂材料2からなるk個又はk+1個の樹脂部品2とが交互に積層された樹脂接合体。」 (イ) 相違点 (相違点2-5-1) 「樹脂部品1」が、本件特許発明5は、「前記樹脂部品1は、前記樹脂接合体において前記樹脂部品2と接合する面に、ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部を複数有し、かつ、接合面から高さ30nm以上に突出する突起を有さず、 前記ナノ数値範囲の大きさをもつナノ凹部は、深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」であるのに対して、甲1発明の「基板A」は、そのように特定されていない点。 (相違点2-5-2) 本件特許発明5は、「前記ナノ凹部の少なくとも一部が前記高分子熱可塑性樹脂材料2によって充填されている」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。 ウ 判断 相違点2-5-1について検討する。 上記(2)で検討したのと同様に、甲2には、「樹脂フィルム」が、「基板」と接合する面に、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を有することが、記載も示唆もされていない。また、甲2発明の「樹脂フィルム」が、「基板」と接合する面に、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を有する蓋然性が高いともいえない。 また、他の甲号証にも、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を有することについては、記載も示唆もされておらず、甲2発明の「樹脂フィルム」に、「深さが200~2000nmのナノ凹部であり、直径がガウシャン分布を持ち、直径が100nm~2000nmであり、アスペクト比が0.2~0.5」である「ナノ凹部」を設けるようにする動機付けが存在しない。 そうしてみると、上記相違点2-5-2を検討するまでもなく、本件特許発明5は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5) 申立人の主張について 申立人は、申立書(29~35ページ)において、本件特許発明1~6は、甲2発明に、甲4~11の記載事項を参酌することで容易に想到できた旨主張している。 しかしながら、上記(2)~(4)で述べたとおり、本件特許発明1~6は、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない。 したがって、申立人の主張は採用しない。 3 明確性要件違反 (1) 明確性要件の判断基準 特許法36条6項2号の定める要件を充足するか否かは、すなわち、発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2) 明確性要件についての判断 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は上記第3のとおりである。そして、請求項1~6の記載自体は明確であり、本件特許明細書の発明の詳細な説明における記載とも整合するものである。 よって、本件特許発明1~6については、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書及び図面の記載を考慮し、また、本件特許に係る出願の出願当時における当業者の技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 (3) 申立人の主張について 申立人は、申立書(36ページ)において、「ナノ数値範囲の大きさ」がどのような範囲を示すのかが不明確である旨主張している。 しかしながら、請求項1及び請求項5において、「ナノ凹部」は、「深さ」が「200~2000nm」、及び「直径」が「100nm~2000nm」と定められているから、「ナノ数値範囲の大きさ」がどのような範囲を示すのかが不明確であるとはいえない。 よって、申立人の主張は採用しない。 第8 むすび 本件特許1~6は、取消しの理由及び申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、取り消すことができない。そして、他に本件特許1~6を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700916

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