特許異議申立
2024-700898
W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法
- 審判番号
- 2024-700898
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-058113
- 登録番号
- 7460895
- 請求日
- 2024年09月18日
- 審決日
- 2024年11月22日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】味の素株式会社
- 【権利者代理人】高島 一
- 【権利者代理人】鎌田 光宜
- 【異議申立人】犬伏 有希
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 宮久保 博幸
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.121-Y (A23D) / P1651.537-Y (A23D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7460895号発明「W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7460895号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7460895号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、令和2年3月27日に特許出願され、令和6年3月26日にその特許権の設定登録(請求項の数2)がされ、同年4月3日に特許掲載公報が発行され、その後、当該特許に対し、同年9月18日に特許異議申立人 犬伏 有希(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし2)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相(O)、及び外水相(W2)からなるW1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法であって;
当該製造方法は、内水相(W1)形成用液と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製すること、及び、当該W1/O型乳化物と外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製することを含み;
外水相(W2)形成用液が、卵黄を含有し;
内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧を、それぞれXmOsmol/kg及びYmOsmol/kgとし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の全重量を、a重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の全重量を、b重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量を、c重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の水分量を、d重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の水分量を、e重量部とし、かつ
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量(生換算)を、f重量部とするとき、
(i)X/Yが、1超過5以下であり、
(ii)d/(d+c)×100が、72以下であり、かつ
(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335が、70以上87以下であり、
前記cが、20以下である、製造方法。
【請求項2】
W1/O/W2型乳化物を含む食品が、マヨネーズ様食品である、請求項1記載の製造方法。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要
令和6年9月18日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(サポート要件)
本件特許発明1ないし2についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
(1)「cが、20以下」との事項に関して その1
本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との構成に関し、本件明細書の実施例1ないし6において、cが13ないし18の範囲について立証されている。しかしながら、cが13未満の場合、具体的には、ゼロに近づくほど、(ii)式であるd/(d+c)×100の値は、限りなく100に近づくことなり、「72以下」を満たさないこととなる。
そうすると、本件発明1は、cが13未満の場合について立証されておらず、本件出願の出願当時の技術常識を考慮しても、cが13未満の場合、当然に本件特許発明1を満たすとは考え難く、本件特許発明1ないし2は、サポート要件違反である。
(2)「cが、20以下」との事項に関して その2
本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との構成に関し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(以下「PGPR」という。)を含有する油の割合が20以下とは規定しているものの、当該割合中のPGPRおよび食用油脂のそれぞれの割合は規定されていない。
食用油脂に対するPGPRの割合は、本件発明で得られるW1/O/W2型乳化物の油相(O)の安定に影響することは明らかであり、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液それぞれの浸透圧X及びYに影響しないとも言えない。
そうすると、本件明細書の実施例1ないし6で立証されていない食用油脂に対するPGPRの割合が2.4/15.6末満の場合、あるいは2.4/10.6超の場合、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を製造し得るか不明であり、本件特許発明1ないし2は、サポート要件違反である。
なお、本件明細書の段落0051に記載のPGPRの含有量は、実施例1ないし6における含有量と一致していない。
(3)「cが、20以下」との事項に関して その3
本件特許発明1では、乳化剤であるPGPRに関し、PGPRを含有する油の割合が20以下とは規定しているものの、PGPRの乳化剤としての機能については、何ら規定していない。
PGPRは、「グリセリン重合度」により、親水の程度が異なり、「エステル化度」及び「リシノレイン酸縮合度」により、親油の程度が異なる。
しかしながら、本件明細書の段落0064以下の実施例では、PGPRとして「グリセリン重合度:6、エステル化度:25%、リシノレイン酸縮合度:6」の1種類しか立証されていない。
また、cが20以下において、含有するPGPRのグリセリン重合度、エステル化度及びリシノレイン酸縮合度を変更しても、得られるW1/O/W2型乳化物が、その効果において、十分なコクを有し、かつ安定性の高いという本件出願時の技術常識もない。
したがって、乳化物全量に対するPGPRを含有する油の割合しか規定していない構成要件を含む本件特許発明1は、PGPRの乳化剤としての機能の相違による影響について何ら立証されておらず、本件特許発明1ないし2は、サポート要件違反である。
(4)マヨネーズ様食品に関して
本件特許発明2に係るマヨネーズ様食品が、本件特許発明1に係る各構成要件のうちどの構成要件で、甲第1号証に記載の発明で達成し得なかったマヨネーズと同等ないし類似する性状、具体的には、ツヤ及びジューシーな外観に係る「鮮明な色沢」を達成し得たのか、本件明細書には記載も示唆もされておらず、本件特許発明2は、サポート要件に違反するものである。
さらに、本件特許発明1には、マヨネーズの必須原料である「醸追酢及びかんきつ類の果汁」は、規定されていない。そうすると、本件特許発明1の従属項である本件特許発明2に係るマヨネーズ様食品が、本件特許発明1に係る各構成要件のうちどの構成要件で、マヨネーズと同等ないし類似する食味、具体的には、醸造酢等の酸味を達成し得たのか不明であり、本件特許発明2は、サポート要件に違反するものである。
2 申立理由2(明確性要件)
本件特許発明1ないし2についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との構成要件に関し、W1/O/W2型乳化状態を形成するための最低限の油相(O)の含有割合が存在するはずである。しかしながら、本件特許発明1では、「前記cが、20以下」と規定されているものの、下限値については規定しておらず、明確性に欠けることから、本件特許発明1ないし2は、明確性要件違反である。
3 申立理由3(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許発明1ないし2は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2016-86748号公報
甲第2号証:平成28年2月24日農林水産省告示第489号
甲第3号証:特許第5648770号公報
甲第4号証:特開2014-8053号公報
甲第5号証:特開2016-19470号公報
甲第6号証:特開2016-174541号公報
証拠の表記は特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」等という。
第4 当審による判断
当審は以下に述べるように申立理由1ないし3の理由によっては本件特許を取り消すことはできないと判断する。
1 申立理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
本件特許発明の課題は、「十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法を提供すること」(【0006】)である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意検討し、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各浸透圧、並びに、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各水分量等が、所定の関係を充足するよう調整することによって、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を製造し得ることを見出し、更に研究を重ねることによって、本発明を完成するに至った。」(【0007】)と記載され、さらに、本件特許発明の特定事項に含まれる(i)、(ii)、(iii)の各式に関し、以下の記載がある。
「具体的には、(i)X/Y(本明細書において「(i)の値」と称する場合がある)は、好ましくは1超過であり、より好ましくは1.2以上であり、特に好ましくは1.4以上である。また、当該(i)の値は、好ましくは5以下であり、より好ましくは4.8以下であり、特に好ましくは4.5以下である。
(i)の値は、内水相(W1)形成用液と外水相(W2)形成用液との浸透圧比を示し、当該(i)の値が所定の範囲内であることにより、安定性の高いW1/O/W2型乳化物を得ることができる。」(【0015】)
「(ii)d/(d+c)×100(本明細書において「(ii)の値」と称する場合がある)は、好ましくは72以下であり、より好ましくは71.7以下であり、特に好ましくは71.3以下である。当該(ii)の値の下限は特に制限されない。
(ii)の値は、W1/O/W2型乳化物の製造時の、W/O型乳化物(油滴)中の、内水相(W1)の割合を示し、当該(ii)の値が高くなると、W/O型乳化物の粘度が上昇し(固くなり)、W1/O/W2型乳化物を製造しづらくなる、すなわち製造適性が損なわれる傾向がある。」(【0016】)
「(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335(本明細書において「(iii)の値」と称する場合がある)は、好ましくは70以上であり、より好ましくは70.5以上であり、特に好ましくは71.1以上である。また、当該(iii)の値は、好ましくは87以下であり、より好ましくは86以下であり、特に好ましくは85以下である。
(iii)の値は、製造後のW1/O/W2型乳化物において、外水相(W2)から内水相(W1)へ水が移行して、外水相(W2)及び内水相の浸透圧が釣り合った時(平衡時)の、W1/O/W2型乳化物におけるW/O型乳化物(油滴)の割合を示し、当該(iii)の値が所定の範囲内であることにより、十分なコクを有するW1/O/W2型乳化物を得ることができる。」(【0017】)
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、実施例(【0064】-【0091】)として、(i)、(ii)、(iii)の各式を満たす実施例1~6と、各式のいずれかを満たさない比較例1~4の各乳化物につき、具体的な製造方法、評価方法及び評価結果が記載されており、各実施例及び比較例の評価結果のまとめとして、以下の記載がある。
「表11に示されるように、(iii)の値が「92.3」である比較例3及び(ii)の値が「73.5」である比較例4では、W1/O/W2型乳化物を製造できなかった。
また(iii)の値が「69.6」である比較例2の乳化物は、コクの味覚評価において、十分なコクを感じられなかった。
(i)の値が「6.6」である比較例1の乳化物は、安定性確認試験において、安定性に問題があると考えられた。
一方、(i)~(iii)の値が所定の範囲内である実施例1~6の乳化物は、十分なコクを有し、かつ安定性の高いものであった。
これらの結果から、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各浸透圧、内水相(W1)形成用液、外水相(W2)形成用液及びPGPRを含有する油の各重量、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の各水分量、並びに、外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量が、所定の関係を充足すること、すなわち(i)~(iii)の値が所定の範囲内であることにより、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を製造し得ることが確認された。」(【0091】)
これらの記載に接した当業者であれば、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造において、製造に用いられる各材料の浸透圧及び重量を表すX、Y及びa~fの各値に関し、「(i)X/Yが、1超過5以下であり」、「(ii)d/(d+c)×100が、72以下であり」、かつ「(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335が、70以上87以下である」との特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。さらに、本件特許発明1は、「前記cが、20以下である」との特定事項を備えている。
してみると、本件特許発明1ないし2はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て有し、さらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
よって、本件特許発明1ないし2はいずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
申立理由1(サポート要件)についての特許異議申立人の各主張について、以下検討する。
ア 「cが、20以下」との事項に関して その1 について
特許異議申立人は、本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との発明特定事項に関して、上記第3 1(1)のとおり主張している。
上記主張について検討する。
本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との特定事項はcの下限を特定していないが、本件特許発明1はさらに、「(ii)d/(d+c)×100が、72以下であり、」かつ「(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335が、70以上87以下であり、」との特定事項を備えており、これらを満たさないようなcの値を有する製造方法は、本件特許発明1に含まれない。そして、(ii)式ではdに対する比率に基づいてcの下限が特定されている。すなわち、本件特許発明1において、(ii)式及び(iii)式に係る特定事項によりcの下限が特定されているといえる。そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に接した当業者であれば、(i)~(iii)の各式に係る特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できることを認識できる。
よって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
イ 「cが、20以下」との事項に関して その2 について
特許異議申立人は、本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との発明特定事項に関して、上記第3 1(2)のとおり主張している。
上記主張について検討する。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、実施例1~6として、食用油脂に対するPGPRの割合の具体例が示されている。加えて、油脂に適量のPGPRを含有させることによりW1/O/W2型乳化物を形成可能であることは技術常識である(必要ならば、特許異議申立人が提示した甲1の段落00019-0020,0048、甲3の段落0050-0056、甲4の段落0016-0019,甲5の段落0040-0045、甲6の段落0062-0067等を参照。)。そうすると、本件特許発明1において、食用油脂に対するPGPRの割合は特定されていないが、本件特許に接した当業者であれば、実施例の数値及び技術常識に基づき、W1/O/W2型乳化物を製造するために適正なPGPRの割合を選択しつつ、本件特許発明1の構成要件を満たすことで、発明の課題を解決できると認識できる。
また、特許異議申立人は、「食用油脂に対するPGPRの割合が2.4/15.6末満の場合、あるいは2.4/10.6超の場合、本件発明1により、十分なコクを有し、かつ安定性の高い、Wl/O/W2型乳化物を製造し得るか、不明」である旨を主張しているが、食用油脂に対するPGPRの割合が2.4/15.6末満の場合や2.4/10.6超の場合に、十分なコクを有し、かつ安定性の高いWl/O/W2型乳化物を製造し得えないとする具体的な根拠は示されておらず、採用することはできない。
さらに、特許異議申立人は、本件発明の明細書の段落0051の「本発明の食品におけるPGPRの含有量は、油に対して、好ましくは0.01~5重量%であり、より好ましくは0.3~4重量%である。」との記載が、実施例1~6の値と一致していない旨を指摘しているが、当該段落0051の「油に対して」との記載は、実施例の値を参酌すれば「乳化物に対して」等の誤記であることが容易に理解でき、サポート要件違反に該当しない軽微な誤記であるといえる。
ウ 「cが、20以下」との事項に関して その3 について
特許異議申立人は、本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との発明特定事項に関して、上記第3 1(3)のとおり主張している。
上記主張について検討する。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明(【0047】-【0049】)では、PGPRの「グリセリン重合度」「エステル化度」「リシノレイン酸縮合度」について、それぞれ好ましい値が示され、実施例において「グリセリン重合度:6、エステル化度:25%、リシノレイン酸縮合度:6」のPGPRを乳化物の製造に用いている。加えて、適切な特性のPGPRを油脂に含有させることによりW1/O/W2型乳化物を形成可能であることは技術常識である(必要ならば、特許異議申立人が提示した甲1の段落00019-0020,0048、甲3の段落0050-0056、甲4の段落0016-0019,甲5の段落0040-0045、甲6の段落0062-0067等を参照。)。そうすると、本件特許発明1において、PGPRの各特性値は特定されていないが、本件特許に接した当業者であれば、発明の詳細な説明、実施例で用いられたPGPRの特性値及び技術常識に基づき、W1/O/W2型乳化物を製造するために適正なPGPRの特性値を選択しつつ、本件特許発明1の構成要件を満たすことで、発明の課題を解決できると認識できる。
また、特許異議申立人は、「含有するPGPRのグリセリン重合度、エステル化度及びリシノレイン酸縮合度を変更しても、得られるWl/O/W2型乳化物が、その効果において、十分なコクを有し、かつ安定性の高いという本件出願時の技術常識もない。」との旨を主張しているが、本件特許発明1においてPGPRのグリセリン重合度、エステル化度及びリシノレイン酸縮合度を実施例に記載の値から変更した場合に、得られるWl/O/W2型乳化物が、十分なコクを有し安定性の高いものとならないとする具体的な根拠は示されておらず、採用することはできない。
エ マヨネーズ様食品に関して について
特許異議申立人は、本件特許発明2の「W1/O/W2型乳化物を含む食品が、マヨネーズ様食品である」との発明特定事項に関して、上記第3 1(4)のとおり主張している。
上記主張について検討する。
まず、「鮮明な色沢」に関する主張点について検討する。本件特許発明2は、「マヨネーズ様食品」の製造方法に係る発明である。ここで、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「マヨネーズ様食品」とは「JAS規格のマヨネーズの規格には適合しないが、JAS規格に適合するマヨネーズと同等乃至類似の食味、食感、性状を有する食品」(【0013】)と定義されており、JAS規格に適合するマヨネーズとしての性状を有することは必須とされていない。さらに、本件特許発明の課題は「十分なコクを有し、かつ安定性の高い、W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法を提供すること」(【0006】)である。すなわち、「鮮明な色沢」を達成することは、本件特許発明において必須とされておらず、本件特許発明の課題(コク、安定性)とも無関係である。そうすると、本件特許発明1のどの構成要件により「鮮明な色沢」を達成し得たのか本件特許の明細書に記載がない、という特許異議申立人の主張は、サポート要件の判断に影響するものではなく、採用することはできない。
次に、「醸追酢及びかんきつ類の果汁」に関する主張点について検討する。上記「鮮明な色沢」に関する主張点について検討した内容と同様に、本件特許発明2は「マヨネーズ様食品」であって、「醸追酢及びかんきつ類の果汁」を用いることは必須ではなく、本件特許発明の課題とも無関係である。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、原料として用いられる食酢、かんきつ類の果汁(【0032】-【0036】)について説明され、実施例において原料として所定量の醸造酢を用いたこと(【0064】-【0065】)が記載されている。さらに、マヨネーズ様食品において醸造酢やかんきつ類の果汁を原料として用いることは技術常識に過ぎない。
本件特許に接した当業者であれば、本件特許発明1の構成要件を満たすことで発明の課題を解決でき、さらに、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき、原料として醸造酢等を適宜用いることで本件特許発明2に係る「マヨネーズ様食品」の食味を得られることを認識できる。
そうすると、本件特許発明2において、醸造酢等の酸味を達成するための手段が特定されていなくても、当業者は本件特許発明の課題を解決できることを理解できるから、特許異議申立人の主張は、採用することはできない。
(4)申立理由1についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を、申立理由1の理由によって取り消すことはできない。
2 申立理由2(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)明確性要件の判断
本件特許の請求項1ないし2の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載とも整合する。特に、発明の主要部といえる(i)、(ii)、(iii)の各式において、各材料の浸透圧及び重量を表すX、Y及びa~fの各値が満たすべき関係式が明確に特定されている。
したがって、本件特許発明1ないし2に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との発明特定事項に関して、上記第3 2のとおり主張している。
上記主張について検討する。
上記1(3)アで検討したとおり、本件特許発明1は、「前記cが、20以下である」との特定事項に加えて、「(ii)d/(d+c)×100が、72以下であり、」かつ「(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335が、70以上87以下であり、」との特定事項を備えており、(ii)式及び(iii)式に係る特定事項によりcの下限値が特定されているといえる。そして、これらの発明特定事項により、Wl/O/W2型乳化状態を形成するための最低限の油相(O)の含有割合を下回るようなcの値を有する製造方法は、本件特許発明1の範囲に含まれないものと認められる。また仮に、(ii)式及び(iii)式に係る特定事項を満たしつつ、Wl/O/W2型乳化状態を形成するための最低限の油相(O)の含有割合を下回るようなcの値が存在するとしても、本件特許発明1は「W1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法」であって、Wl/O/W2型乳化状態を形成し得ないようなcの値を含む製造方法は本件特許発明1の範囲に含まれないから、cの下限値が特定されないことにより本件特許発明1が明確でなくなっているとはいえない。してみると、本件特許発明1の「前記cが、20以下である」との特定事項において、cの下限値が特定されていないことにより本件特許発明1が明確性要件違反であるということはできない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2についても同様である。
(4)申立理由2についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を、申立理由2の理由によって取り消すことはできない。
3 申立理由3(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、「W/O/W型乳化調味料」に関し、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相(O)、外水相(W2)からなるW/O/W型乳化調味料であって、
食用油脂を前記乳化調味料全体に対して20%以上35%未満含有し、
外水相(W2)に、卵白、卵黄、糖質及びガム質類を含有し、前記卵白含有量が前記乳化調味料全体に対して生換算で1%以上10%以下であり、
外水相(W2)における固形分が、外水相(W2)に対して20%以上40%以下であり、
前記外水相(W2)における卵白と卵黄との含有比率が、生換算で1:1~1:10であり、
前記乳化調味料の粘度が50Pa・s以上500Pa・s以下である、
W/O/W型乳化調味料。」
「【0007】
そこで、本発明は、マヨネーズらしいツヤ及びジューシーな外観を有し、且つ食材と混合したときに、食材からの離水を効果的に抑制することができるW/O/W型乳化調味料を提供する。」
「【0017】
<食用油脂>
油脂(食用油脂)は、本発明のW/O/W型乳化調味料の油相(O)を主に構成する。本発明のW/O/W型乳化調味料では、食用油脂の含有量が20%以上35%未満である。
食用油脂の含有量が前記範囲であることによって、マヨネーズらしいツヤ及びジューシーな外観が得られる。
特に、食用油脂の含有量が20%未満の場合は、マヨネーズらしいツヤ及びジューシーな外観が得られない。」
「【実施例】
【0038】
[実施例1]
<W/O/W型乳化調味料の調製>
下記表1の配合にて、W/O/W型乳化調味料を調製した。
すなわち、下記表1の内水相(W1)を形成する各成分を混合した。ホモミキサー(特殊機化工業製、T.K.オートホモミキサーMA)を用いて、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加した食用油脂に内水相形成用混合液を注加し、攪拌混合して予備乳化を行い、得られた混合物をコロイドミルにかけて精乳化することによりW/O型乳化物を調製した。
次に、外水相形成用混合液を調製し、ホモミキサー等の攪拌装置を用いて、外水相形成用混合液に、上記W/O型乳化物を注加攪拌して予備乳化して、更にコロイドミルを用いて精乳化することによりW/O/W型乳化調味料を得た。
なお、粘度は250Pa・sであった。」
「【0048】
【表1】
[図:0001417677000001.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1の表1において、各成分の分量の単位は重量部と認められる。
上記アの記載、特に実施例1についての記載を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加した食用油脂(O)、外水相(W2)からなるW/O/W型乳化調味料を調製する方法であって、
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加した食用油脂に内水相形成用混合液を注加し乳化してW/O型乳化物を調製し、次に、外水相形成用混合液に、上記W/O型乳化物を注加し乳化してW/O/W型乳化調味料を得ることを含み、
前記W/O/W型乳化調味料は、原材料として、
内水相(W1)形成用混合液に、酸度4% 水分95%の食酢10重量部、食塩1重量部、砂糖5重量部、清水15.5重量部を含み、
外水相(W2)形成用混合液に、酸度4% 水分95%の食酢10重量部、食塩1重量部、砂糖3重量部、澱粉0.4重量部、卵黄(固形分50%)8.4重量部、卵白(固形分10%)6重量部、キサンタンガム0.3重量部、清水8重量部を含み、
油相(O)に、食用植物油脂30重量部、PGPR1.4重量部を含む、
方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「内水相W1、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加した食用油脂O、外水相W2からなるW/O/W型乳化調味料を調製する方法」は、本件特許発明1における「内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相(O)、及び外水相(W2)からなるW1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法」に対応する。
甲1発明における「ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加した食用油脂に内水相形成用混合液を注加し乳化してW/O型乳化物を調製し、次に、外水相形成用混合液に、上記W/O型乳化物を注加し乳化してW/O/W型乳化調味料を得ることを含み」との構成は、本件特許発明1における「当該製造方法は、内水相(W1)形成用液と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製すること、及び、当該W1/O型乳化物と外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製することを含み」との構成に相当する。
甲1発明は、外水相(W2)形成用液に卵黄(固形分50%)を8.4重量部を含んでおり、当該構成は本件特許発明1における「外水相(W2)形成用液が、卵黄を含有し」との構成に相当する。
以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「内水相(W1)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油相(O)、及び外水相(W2)からなるW1/O/W2型乳化物を含む食品の製造方法であって;
当該製造方法は、内水相(W1)形成用液と、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油とを乳化してW1/O型乳化物を調製すること、及び、当該W1/O型乳化物と外水相(W2)形成用液とを乳化してW1/O/W2型乳化物を調製することを含み;
外水相(W2)形成用液が、卵黄を含有する;
製造方法。」
<相違点1>
本件特許発明1は、
「内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧を、それぞれXmOsmol/kg及びYmOsmol/kgとし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の全重量を、a重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の全重量を、b重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量を、c重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる内水相(W1)形成用液の水分量を、d重量部とし、
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液の水分量を、e重量部とし、かつ
W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる外水相(W2)形成用液に含有される卵黄の量(生換算)を、f重量部とするとき、
(i)X/Yが、1超過5以下であり、
(ii)d/(d+c)×100が、72以下であり、かつ
(iii)d×X/(d×X+e×Y)×(a+b-f×0.335)+c+f×0.335が、70以上87以下であり、」
との構成を備えるのに対し、甲1発明では、内水相(W1)形成用液の水分量d、外水相(W2)形成用液の水分量e、内水相(W1)形成用液及び外水相(W2)形成用液の、10重量倍希釈時の氷点降下法により測定される浸透圧であるXmOsmol/kg、YmOsmol/kgの各値が明確に特定されておらず、(i)、(ii)、(iii)の各式を満たすか否かが不明である点。
<相違点2>
本件特許発明1は、「W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量」であるc(重量部)について、「前記cが、20以下である、」との構成を備えるのに対し、甲1発明は乳化物100重量部の調製に用いられる油相(O)に「食用植物油脂30重量部、PGPR1.4重量部」を含んでおり、W/O/W型乳化調味料100重量部の調整に用いられるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加した食用油脂が20重量部を超える点。
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明は「食用油脂を前記乳化調味料全体に対して20%以上35%未満含有」することを構成要件としている。当該構成に関し、甲1を参照すると、「食用油脂」に関して、請求項1で「食用油脂を前記乳化調味料全体に対して20%以上35%未満含有し」との構成が特定され、さらに発明の詳細な説明において
「油脂(食用油脂)は、本発明のW/O/W型乳化調味料の油相(O)を主に構成する。本発明のW/O/W型乳化調味料では、食用油脂の含有量が20%以上35%未満である。
食用油脂の含有量が前記範囲であることによって、マヨネーズらしいツヤ及びジューシーな外観が得られる。
特に、食用油脂の含有量が20%未満の場合は、マヨネーズらしいツヤ及びジューシーな外観が得られない。」(【0017】)
との記載があり、甲1発明において食用油脂の含有量を20%未満とすることについて否定的に記載されている。
そうすると、甲1発明には、W/O/W型乳化調味料におけるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを添加した食用油脂の含有量を20%以下とすることには阻害要因が存在しているといえるから、甲1発明において、「W1/O/W2型乳化物100重量部の調製に用いられる、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する油の全重量」であるc(重量部)について、「20以下」とすることが当業者にとって容易になし得たことであるということはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
なお、この点について、特許異議申立人は特許異議申立書(第23頁~第24頁)において、
「本件発明の出願当時、W/0/W型乳化調味料に係る先行技術では、多くが「コク味」を解決しようとする課題とし、「コク味」の解決が共通の課題として認知されている。例えば、特許第5648770号公報(甲第3号証)、特開2014-8053号公報(甲第4号証)、特開2016-19470号公報(甲第5号証)、特開2016-174541号公報(甲第6号証)等が挙げられる。さらに、甲第3号証及び甲第4号証は、「コク味」に加え、「乳化安定性」も課題としている。
一方、本件発明は、出願当初、油相(0)のc量(構成要件N)は規定されておらず、c量が20超のものも含んだ技術思想であった。甲第1号証公報記載の4つの実施例であるWl/O/W2型マヨネーズ様食品は全て、出願当初の本件発明1の技術的範囲、つまり本件発明1におけるパラメータ要件である構成要件J:(i)式、構成要件K:(ii)式、及び構成要件L:(iii)式の各範疇を満たしている(上記(4-4-2)欄の表参照)。
そうすると、甲1発明には、出願当初の本件発明の技術思想が開示されているものと思料する。
一方、甲1発明は、マヨネーズらしい外観を解決しようとする課題としているものの、上述したとおり本件発明を含めた多くの先行技術で共通の課題としている「コク味」については、問題視されていない。
そうすると、甲1発明に接した当業者であれば、甲1発明のWl/O/W2型マヨネーズ様食品において、油相(O)のc量が20質量%以下であったとしても「コク味」について問題となることはないことを容易に想到し得るものである。してみると、当業者が、甲1発明において、「コク味」で課題とならないc=20以下のもの(構成要件N)を検証することは、甲1発明が構成要件N以外の全ての構成要件を満たすことから、甲1発明をc=20以下のものに転用したに過ぎず、当該転用は当業者が通常なし得る範疇の行為である。」
と主張している。
上記主張について検討する。
特許異議申立人が指摘するとおり、甲3~甲6には「コク味」を解決しようとする課題とすることが記載されている一方、甲1には「コク味」について記載されていない。しかしながら、甲1には「特に、食用油脂の含有量が20%未満の場合は、マヨネーズらしいツヤ及びジューシーな外観が得られない。」(【0017】)との記載があり、外観を理由として、乳化物における食用油脂の含有量を20%未満とすることについて否定的に記載されている。そうすると、甲1発明は、「コク味」とは異なる理由により食用油脂の含有量を20%未満とすることを否定しているのだから、甲1において「コク味」が問題視されていないからといって、食用油脂の含有量を20%未満とするよう動機付けられるとはいえない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
イ 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)申立理由3についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、特許法第29条第2項に該当しないから、本件特許の請求項1ないし2に係る発明は特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし2に係る特許を、申立理由3の理由によって取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし2に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700898