特許異議申立
2024-700530
粉末油脂
- 審判番号
- 2024-700530
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-003215
- 登録番号
- 7395361
- 請求日
- 2024年06月04日
- 審決日
- 2024年12月26日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ミヨシ油脂株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人牛木国際特許事務所
- 【異議申立人】金澤 毅
- 審判長/審判官
- 審判長 植前 充司
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 松本 陶子
- 分類
- P1651.113-YAA(A23D) / P1651.121-YAA(A23D) / P1651.537-YAA(A23D) / P1651.536-YAA(A23D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7395361号発明「粉末油脂」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7395361号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
特許第7395361号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7395361号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和2年1月10日を出願日とする出願であって、令和5年12月1日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月11日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年6月4日に特許異議申立人 金澤 毅(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし4)がされ、同年8月8日付けで取消理由が通知され、同年10月15日に特許権者 ミヨシ油脂株式会社から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月24日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月21日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年10月15日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。
訂正事項
特許請求の範囲の請求項1に「粉末油脂。」と記載されているのを、「粉末油脂(但し、前記油脂が硬化ヤシ油である場合を除く)。」に訂正する。併せて請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし4も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項による請求項1についての訂正は、粉末油脂から油脂が硬化ヤシ油である場合を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2ないし4についての訂正について
訂正事項による請求項2ないし4についての訂正はいずれも請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項による請求項2ないし4についての訂正はいずれも願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項による請求項1ないし4についての訂正はいずれも特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、訂正事項による請求項1ないし4についての訂正はいずれも特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし4は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項による請求項1ないし4についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
また、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし4に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし4〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
抽出物と、デキストリンと、油脂と、粉末化基材と、を含む粉末油脂であって、
前記抽出物が、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスであり、
前記抽出物の総量が、前記粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である、
粉末油脂(但し、前記油脂が硬化ヤシ油である場合を除く)。
【請求項2】
前記抽出物の質量に対する前記デキストリンの質量の比率が20以上7000以下である、請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
前記デキストリンの質量及び前記抽出物の質量の総量に対する前記油脂の質量の比率が0.7以上3.5以下である、請求項1又は2に記載の粉末油脂。
【請求項4】
前記抽出物の質量に対する前記粉末化基材の質量の比率が4以上1000以下である、請求項1から3のいずれかに記載の粉末油脂。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和6年6月4日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、2及び4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし4は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、特許異議申立書の「3 申立ての理由」の「(1)申立ての理由の要約」及び「(3)申立ての根拠」の欄においては、本件特許発明3についても特許法第29条第1項第3号に該当するとしているが、「(4)具体的理由」及び「(5)むすび」においては、本件特許発明3については特許法第29条第2項の規定に違反する旨のみ主張しているので、上記のとおり申立理由1を認定した。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許発明1ないし4は、加熱による戻り臭、及び、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下が抑制され、溶解時の乳化安定性が良好な粉末油脂を提供することを課題としている(段落【0007】等参照)。
ここで、本件特許発明1ないし4における「酵母エキス」に関し、実際に上記課題の解決が確認できたものは、「商品名「アジレックスNH」のみである(明細書の段落【0087】)。前記「アジレックスNH」は、甲第7号証に記載されているように、ペプチド食物繊維などを豊富に含む一方で、アミノ酸や核酸などのうま味成分を含まない画期的な味質を持った酵母エキスであり、特殊な酵母エキスであるといえる。
また、酵母エキスにはいろいろな種類があり、また、その効果も様々であることは、甲第5号証、甲第8号証及び甲第9号証の記載から、技術常識であるといえる。この点については、甲第7号証においても、それぞれ違う特徴を持つ3種類の酵母エキス(アジトップ(R)、アジレックス(R)LK、アロマイルド(R))が記載されていることからも明らかであるといえる。
してみると、特殊な酵母エキスである「アジレックスNH」を用いた場合に得られた効果が、他の酵母エキスを用いた場合にも同様に得られるとはいえず、本件特許発明1ないし4は、酵母エキスが特定されていない点で、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決する手段が反映されていない。また、技術常識に照らしても、本件特許発明1ないし4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるともいえない。よって、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
上記2に記載したように、本件特許発明1ないし4における「酵母エキス」に関し、実際に本件特許発明1ないし4の課題の解決が確認できたものは、「商品名「アジレックスNH」」のみである(明細書の段落【0087】)。
そして、上記2に記載したように、酵母エキスにはいろいろな種類があり、また、その効果も様々であることが技術常識であることを考慮すると、「アジレックスNH」以外の酵母エキスを用いるためには、多種多様な酵母エキスについて、本件特許の効果を奏することを逐一確認するという、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要がある。そのため、当業者がそのものを生産でき、かつ、使用できるように発明の詳細な説明が記載されていない。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2016-185079号公報
甲第2号証:特開2013-143943号公報
甲第3号証:特開2013-255440号公報
甲第4号証:特開2018-171046号公報
甲第5号証:日本食品保蔵科学会誌、VOL.27、NO.2、2001、99-106頁、一般社団法人日本食品保蔵科学会
甲第6号証:月刊フードケミカル、2016-11、53-57頁、株式会社 食品化学新聞社
甲第7号証:興人ライフサイエンス株式会社のWebページ:「食品素材」、https://www.kohjinls.com/business/foodmaterial/
甲第8号証:紙パルプ技術協会誌、第52巻、第6号、1998年6月、106-115頁、紙パルプ技術協会
甲第9号証:月刊フードケミカル、2008-8、70-74頁、株式会社 食品化学新聞社
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和6年8月8日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。なお、該取消理由は申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)のうちの請求項1、2及び4に対する新規性・進歩性とおおむね同旨である。
取消理由(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、2及び4は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由についての当審の判断
1 甲1に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項
甲1には、「乳脂様風味油脂およびそれを使用した食品」に関しておおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
酵母エキスを10重量ppm以上2000重量ppm以下含有する、乳脂様風味油脂。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂難溶性の酵母エキスを特定量含有させた乳脂様風味油脂およびそれを使用した食品に関するものである。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のとおり、食品に乳味を付与する目的から、乳味が付与された油脂や食品が提案されているが、風味強度が十分でなかったり、製造方法が煩雑であったりするため、さらなる改良が望まれている。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、乳脂肪を含まない、あるいは含有量を減少させた食品でも、乳脂に由来する特有の芳醇な乳風味に近似した乳脂様風味を強化することであり、さらに乳脂様風味が強化された乳脂様風味油脂および乳系食品を、平易な方法で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、水溶液に溶解した状態で添加された酵母エキスを油脂に特定量含有させるという平易な方法で、食品の乳味が持続し、強く感じることを見出し、本発明を完成させるに至った。」
・「【発明の効果】
【0013】
本発明により、食品、特に乳系食品において、または乳脂含量の少ない食品において、物性や作業性に影響を与えずに、乳味の増強及び持続性のある乳味を付与する油脂組成物の提供が可能となった。
なお、本発明の乳脂様風味油脂は、酵母エキスに加えて、マロニルイソフラボン配糖体を含有させることで、さらに乳味の増強及び持続性のある乳味を付与することができる。
前記のとおり、本発明における乳味の増強及び持続効果は、特に乳脂を含まない又は乳脂含量の少ない乳系食品において、乳味の増強及び持続効果を付与するが、乳脂を含む食品に利用した場合でも、乳味の増強及び持続効果が得られる。
また、乳味の増強及び持続効果は、酵母エキスまたは酵母エキスおよびマロニルイソフラボン配糖体を、乳脂様風味油脂中へ含有させることで得られるものであり、食品に粉体添加あるいは水相添加などの方法では望ましい効果は得られない。」
・「【0063】
<油脂D1の作成方法>
酵母エキス(商品名:ハイマックスGL、富士食品工業株式会社製)を水に加え5.0%酵母エキス含有水溶液を作製する。
70℃に加温し融解した硬化ヤシ油(不二製油株式会社製、商品名:硬化ヤシ油、ヨウ素価0.5)100部に対し、乳化剤(理研ビタミン株式会社製 ポエムPR-100)0.02部を加えて溶解し、5.0%酵母エキス水溶液1.0部加えた後、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて10000rpmで10分の撹拌を行った。その後、50℃、10torrの減圧条件下で、攪拌しながら30分間脱水処理を行って、酵母エキスを500ppm含有する硬化ヤシ油(油脂D1)を得た。
【0064】
<油脂D2の作成方法>
酵母エキス(商品名:ハイマックスGL、富士食品工業株式会社製)を水に加え9.0%酵母エキス含有水溶液を作製する。
70℃に加温し融解した硬化ヤシ油(不二製油株式会社製、商品名:硬化ヤシ油、ヨウ素価0.5)100部に対し、乳化剤(理研ビタミン株式会社製 ポエムPR-100)0.02部を加えて溶解し、9.0%酵母エキス水溶液1.0部加えた後、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて10000rpmで10分の撹拌を行った。その後、50℃、10torrの減圧条件下で、攪拌しながら30分間脱水処理を行って、酵母エキスを900ppm含有する硬化ヤシ油(油脂D2)を得た。」
・「【0067】
<油脂D5の作成方法>
酵母エキス(商品名:ラクトベースLB-BT、大日本明治製糖株式会社製)を水に加え5.0%酵母エキス含有水溶液を作製する。
70℃に加温し融解した硬化ヤシ油(不二製油株式会社製、商品名:硬化ヤシ油、ヨウ素価0.5)100部に対し、乳化剤(理研ビタミン株式会社製 ポエムPR-100)0.02部を加えて溶解し、5.0%酵母エキス水溶液1.0部加えた後、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて10000rpmで10分の撹拌を行った。その後、50℃、10torrの減圧条件下で、攪拌しながら30分間脱水処理を行って、酵母エキスを500ppm含有する硬化ヤシ油(油脂D5)を得た。
【0068】
<油脂D6の作成方法>
酵母エキス(商品名:ハイマックスGL、富士食品工業株式会社製)を水に加え5.0%酵母エキス含有水溶液を作製する。また、イソフラボン含有組成物(商品名:ソヤフラボンHG、不二製油株式会社製、マロニルイソフラボン配糖体含有量41.3%)を水に加え、3.0%イソフラボン含有水溶液を作製する。
70℃に加温し融解した硬化ヤシ油(不二製油株式会社製、商品名:硬化ヤシ油、ヨウ素価0.5)100部に対し、乳化剤(理研ビタミン株式会社製 ポエムPR-100)0.02部を加えて溶解し、5.0%酵母エキス水溶液1.0部および、3.0%イソフラボン含有水溶液0.24部を加えた後、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて10000rpmで10分の撹拌を行った。その後、50℃、10torrの減圧条件下で、攪拌しながら30分間脱水処理を行って、酵母エキス500ppmおよびマロニルイソフラボン配糖体30ppmを含有する硬化ヤシ油(油脂D6)を得た。
【0069】
<油脂D7の作成方法>
酵母エキス(商品名:ハイマックスGL、富士食品工業株式会社製)を水に加え9.0%酵母エキス含有水溶液を作製する。また、イソフラボン含有組成物(商品名:ソヤフラボンHG、不二製油株式会社製、マロニルイソフラボン配糖体含有量41.3%)を水に加え、6.02%イソフラボン含有水溶液を作製する。
70℃に加温し融解した硬化ヤシ油(不二製油株式会社製、商品名:硬化ヤシ油、ヨウ素価0.5)100部に対し、乳化剤(理研ビタミン株式会社製 ポエムPR-100)0.02部を加えて溶解し、9.0%酵母エキス水溶液1.0部および、6.02%イソフラボン含有水溶液0.24部を加えた後、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて10000rpmで10分の撹拌を行った。その後、50℃、10torrの減圧条件下で、攪拌しながら30分間脱水処理を行って、酵母エキス900ppmおよびマロニルイソフラボン配糖体60ppmを含有する硬化ヤシ油(油脂D7)を得た。」
・「【0143】
作成した油脂D1~D10を用いて粉末ホワイトナーを作成して評価した。
【0144】
[実施例37]
油脂D1 30部と乳化剤 (グリセリン脂肪酸エステル 理研ビタミン製「エマルジーMS」)1部を混合した油相部と、水200部、デキストリン(松谷化学製 「TK-15」) 62部、カゼインナトリウム(油分1.2%、乳脂含量1.2%) 5部、りん酸水素二カリウム 2部を混合した水相部を調合し、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて、8500rpm、30分予備乳化した後、ホモゲナイザー(深尾機械(株)製)を用い、150Kg/cm2 の均質化圧で均質化し、スプレードライヤー(日本ビュッヒ製 B290)を用いて、熱風温度 180℃で噴霧乾燥し、油分 31.1%、乳脂含量 0.06%、総油分に対する乳脂含量が 0.19%の粉末ホワイトナーを得た。
作成した粉末ホワイトナー3部、市販のインスタントコーヒー2部、温水147部を混合し、官能評価を実施した。結果を表6にまとめた。
【0145】
[実施例38]
油脂D2 30部を用い、その他の配合組成、作成方法は実施例37と同様に粉末ホワイトナーを作成した。実施例37と同様に評価した。結果を表6にまとめた。」
・「【0148】
[実施例41]
油脂D5 30部を用い、その他の配合組成、作成方法は実施例37と同様に粉末ホワイトナーを作成した。実施例37と同様に評価した。結果を表6にまとめた。
【0149】
[実施例42]
油脂D6 30部を用い、その他の配合組成、作成方法は実施例37と同様に粉末ホワイトナーを作成した。実施例37と同様に評価した。結果を表6にまとめた。
【0150】
[実施例43]
油脂D7 30部を用い、その他の配合組成、作成方法は実施例37と同様に粉末ホワイトナーを作成した。実施例37と同様に評価した。結果を表6にまとめた。」
・「【0158】
【表6】
[図:0001422439000001.jpg]
」
(2)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に実施例37、38、41、42及び43に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1実施例37発明」のようにいう。)が記載されていると認める。
<甲1実施例37発明>
「油脂D1 30部と乳化剤 (グリセリン脂肪酸エステル 理研ビタミン製「エマルジーMS」)1部を混合した油相部と、水200部、デキストリン(松谷化学製 「TK-15」) 62部、カゼインナトリウム(油分1.2%、乳脂含量1.2%) 5部、りん酸水素二カリウム 2部を混合した水相部を調合し、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて、8500rpm、30分予備乳化した後、ホモゲナイザー(深尾機械(株)製)を用い、150Kg/cm2 の均質化圧で均質化し、スプレードライヤー(日本ビュッヒ製 B290)を用いて、熱風温度 180℃で噴霧乾燥し、得た、油分 31.1%、乳脂含量 0.06%、総油分に対する乳脂含量が 0.19%の粉末ホワイトナー。」(当審注:「油脂D1」については甲1の【0063】参照。)
<甲1実施例38発明>
「油脂D2 30部と乳化剤 (グリセリン脂肪酸エステル 理研ビタミン製「エマルジーMS」)1部を混合した油相部と、水200部、デキストリン(松谷化学製 「TK-15」) 62部、カゼインナトリウム(油分1.2%、乳脂含量1.2%) 5部、りん酸水素二カリウム 2部を混合した水相部を調合し、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて、8500rpm、30分予備乳化した後、ホモゲナイザー(深尾機械(株)製)を用い、150Kg/cm2 の均質化圧で均質化し、スプレードライヤー(日本ビュッヒ製 B290)を用いて、熱風温度 180℃で噴霧乾燥し、得た、油分 31.1%、乳脂含量 0.06%、総油分に対する乳脂含量が 0.19%の粉末ホワイトナー。」(当審注:「油脂D2」については甲1の【0064】参照。)
<甲1実施例41発明>
「油脂D5 30部と乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル 理研ビタミン製「エマルジーMS」)1部を混合した油相部と、水200部、デキストリン(松谷化学製 「TK-15」) 62部、カゼインナトリウム(油分1.2%、乳脂含量1.2%) 5部、りん酸水素二カリウム 2部を混合した水相部を調合し、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて、8500rpm、30分予備乳化した後、ホモゲナイザー(深尾機械(株)製)を用い、150Kg/cm2 の均質化圧で均質化し、スプレードライヤー(日本ビュッヒ製 B290)を用いて、熱風温度 180℃で噴霧乾燥し、得た、油分 31.1%、乳脂含量 0.06%、総油分に対する乳脂含量が 0.19%の粉末ホワイトナー。」(当審注:「油脂D5」については甲1の【0067】参照。)
<甲1実施例42発明>
「油脂D6 30部と乳化剤 (グリセリン脂肪酸エステル 理研ビタミン製「エマルジーMS」)1部を混合した油相部と、水200部、デキストリン(松谷化学製 「TK-15」) 62部、カゼインナトリウム(油分1.2%、乳脂含量1.2%) 5部、りん酸水素二カリウム 2部を混合した水相部を調合し、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて、8500rpm、30分予備乳化した後、ホモゲナイザー(深尾機械(株)製)を用い、150Kg/cm2 の均質化圧で均質化し、スプレードライヤー(日本ビュッヒ製 B290)を用いて、熱風温度 180℃で噴霧乾燥し、得た、油分 31.1%、乳脂含量 0.06%、総油分に対する乳脂含量が 0.19%の粉末ホワイトナー。」(当審注:「油脂D6」については甲1の【0068】参照。)
<甲1実施例43発明>
「油脂D7 30部と乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル 理研ビタミン製「エマルジーMS」)1部を混合した油相部と、水200部、デキストリン(松谷化学製 「TK-15」) 62部、カゼインナトリウム(油分1.2%、乳脂含量1.2%) 5部、りん酸水素二カリウム 2部を混合した水相部を調合し、ホモミキサー(TK ROBO MIX:特殊機化工業株式会社製)にて、8500rpm、30分予備乳化した後、ホモゲナイザー(深尾機械(株)製)を用い、150Kg/cm2 の均質化圧で均質化し、スプレードライヤー(日本ビュッヒ製 B290)を用いて、熱風温度 180℃で噴霧乾燥し、得た、油分 31.1%、乳脂含量 0.06%、総油分に対する乳脂含量が 0.19%の粉末ホワイトナー。」(当審注:「油脂D7」については甲1の【0069】参照。)
2 本件特許発明1について
(1)甲1実施例37発明との対比・判断
ア 対比
本件特許発明1と甲1実施例37発明を対比する。
甲1実施例37発明における「油脂D1」の成分である「硬化ヤシ油(不二製油株式会社製、商品名:硬化ヤシ油、ヨウ素価0.5)」は本件特許発明1における「油脂」に相当する。
甲1実施例37発明における「油脂D1」の成分である「酵母エキス(商品名:ハイマックスGL、富士食品工業株式会社製)」は本件特許発明1における「抽出物」に相当すると共に「サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキス」に相当する。
甲1実施例37発明における「デキストリン(松谷化学製 「TK-15」)」は本件特許発明1における「デキストリン」に相当する。
甲1実施例37発明における「カゼインナトリウム(油分1.2%、乳脂含量1.2%)」は本件特許発明1における「粉末化基材」に相当する。
甲1実施例37発明における「粉末ホワイトナー」は本件特許発明1における「粉末油脂(但し、前記油脂が硬化ヤシ油である場合を除く。)」と、「粉末油脂」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「抽出物と、デキストリンと、油脂と、粉末化基材と、を含む粉末油脂であって、
前記抽出物が、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスである、
粉末油脂。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1>
本件特許発明1においては、「前記抽出物の総量が、前記粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である」と特定されているのに対し、甲1実施例37発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2>
「粉末油脂」に関して、本件特許発明1においては「粉末油脂(但し、前記油脂が硬化ヤシ油である場合を除く。)」と特定されているのに対し、甲1実施例37発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1実施例37発明における「粉末ホワイトナー」は「硬化ヤシ油(油脂D1)」、すなわち「硬化ヤシ油」を含むものであるから、相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1には、甲1実施例37発明において、「硬化ヤシ油(油脂D1)」に代えて、硬化ヤシ油以外の油脂を用いる動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
そして、本件特許発明1は「加熱による戻り臭、及び、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下が抑制され、溶解時の乳化安定性が良好な粉末油脂を得ることができる。」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0013】)という、甲1実施例37発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果を奏するものである。
ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人は、令和6年11月21日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張する。
「本件特許の課題のうち、「加熱による戻り臭」の抑制については、本件特許の段落[0005]において、「従来の粉末油脂は、殺菌工程等の加熱により、「戻り臭」として知られる異臭が生じてしまう可能性があった。」と記載されているように、周知の課題であったといえる。
また、本件特許の課題のうち、「粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下」の抑制及び「溶解時の乳化安定性」を良好にすることについては、甲1発明に記載の課題であるか、周知の課題であるといえる。具体的には、甲1発明の段落[0013]において、「本発明により、食品、特に乳系食品において、または乳脂含量の少ない食品において、物性や作業性に影響を与えずに、乳味の増強及び持続性のある乳味を付与する油脂組成物の提供が可能となった。」と記載がある(下線は加筆した。)。当該記載のうち、「作業性」は本件特許の課題における「粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下」の抑制、「物性」は本件特許の課題における「溶解時の乳化安定性」を良好にすることにそれぞれ対応するものといえる。また、粉末油脂を製造する際の歩留まり率の低下を抑制したり、溶解時の乳化安定性を良好にすることは、製品を作るにあたって、当然に考慮する事項に過ぎない。そのため、「粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下」の抑制及び「溶解時の乳化安定性」を良好にすることについては、甲1発明に記載の課題であるか、周知の課題であるといえる。
以上のように、本件特許の課題と甲1発明の課題とは、まったく異なるものではなく、本件特許と甲1発明とは、技術的思想としては、顕著に異なる発明とはいえない。
また、硬化ヤシ油を用いた甲1発明では、「物性や作業性に影響を与えない」のであるから、硬化ヤシ油を公知の他の油脂に置き換えて、同様の効果が得られることを確認する程度のことは、当業者が容易になし得ることである。」(上記意見書第1及び2ページ)
(イ)検討
そこで、上記主張について検討する。
甲1の【0013】に「本発明により、食品、特に乳系食品において、または乳脂含量の少ない食品において、物性や作業性に影響を与えずに、乳味の増強及び持続性のある乳味を付与する油脂組成物の提供が可能となった。」という記載があるとしても、当該記載における「作業性」及び「物性」はいずれも幅広い概念の用語であり、「作業性」は本件特許発明1の課題における「粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下」の抑制に、「物性」は本件特許発明1の課題における「溶解時の乳化安定性」を良好にすることにそれぞれ対応するものとは甲1の記載からはいえないし、他の証拠をみても、そのようなことが本件特許の出願時の当業者の技術常識であったとはいえない。
そうすると、「粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下」の抑制及び「溶解時の乳化安定性」を良好にすることが、甲1実施例37発明の課題であるとはいえないし、周知の課題であるともいえない。
また、仮に、「粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下」の抑制及び「溶解時の乳化安定性」を良好にすることが甲1実施例37発明の課題又は周知の課題であったとしても、硬化ヤシ油を用いた甲1実施例37発明において、硬化ヤシ油以外の油脂を用いる動機付けはないし、さらに、仮に、甲1実施例37発明において、硬化ヤシ油以外の油脂を用いることが動機付けられたとしても、本件特許発明1の「加熱による戻り臭、及び、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下が抑制され、溶解時の乳化安定性が良好な粉末油脂を得ることができる。」という効果は、甲1実施例37発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からは当業者といえども予測することはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
エ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1実施例37発明であるとはいえないし、甲1実施例37発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(2)甲1実施例38発明、甲1実施例41発明、甲1実施例42発明及び甲1実施例43発明いずれかとの対比・判断
本件特許発明1と甲1実施例38発明、甲1実施例41発明、甲1実施例42発明及び甲1実施例43発明いずれかを対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲1実施例37発明との間と同様の相当関係が成り立ち、両者の一致点及び相違点は、本件特許発明1と甲1実施例37発明との間の一致点及び相違点と同様である。
そして、相違点についての判断も同様である。
したがって、本件特許発明1は甲1実施例38発明、甲1実施例41発明、甲1実施例42発明及び甲1実施例43発明いずれかであるとはいえないし、甲1実施例38発明、甲1実施例41発明、甲1実施例42発明及び甲1実施例43発明いずれか並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
以下、甲1実施例37発明、甲1実施例38発明、甲1実施例41発明、甲1実施例42発明及び甲1実施例43発明を総称して甲1発明という。
3 本件特許発明2及び4について
本件特許発明2及び4はいずれも請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記2のとおり、本件特許発明1が甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明2及び4のいずれも甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
4 取消理由についての当審の判断のむすび
したがって、本件特許発明1、2及び4は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができたものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができたものであるともいえないから、本件特許の請求項1、2及び4に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、取消理由によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は次のとおりである。
・申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)のうちの請求項3に対する進歩性
・申立理由2(サポート要件)
・申立理由3(実施可能要件)
以下、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)のうちの請求項3に対する進歩性について
本件特許発明3は請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記第6 2のとおり、本件特許発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件特許発明3も甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明3は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができたものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項3に係る特許は特許法第29条の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1のうちの請求項3に対する進歩性によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
イ 判断
発明の詳細な説明の【0002】ないし【0007】によると、本件特許発明1ないし4の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「加熱による戻り臭、及び、粉末油脂の製造時における歩留まり率の低下が抑制され、溶解時の乳化安定性が良好な粉末油脂を提供すること」である。
発明の詳細な説明の【0008】には、「本発明者らは、油脂及び粉末化基材と共に、特定の抽出物及びデキストリンを含む粉末油脂によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。」と記載され、同【0009】ないし【0012】には、本件特許発明1ないし4に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0020】ないし【0024】には、「サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキス」である「抽出物」を「デキストリン」と組み合わせて配合し、「これらの抽出物の総量が粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下となるように調整することで、粉末油脂の加熱による戻り臭を良好に抑制でき、さらには、粉末油脂製造時における歩留まり率の低下や、粉末油脂の溶解時の乳化安定性の低下をも抑制し得ることが見出された」旨記載されている。
発明の詳細な説明の【0060】ないし【0067】には、「抽出物と、デキストリンと、油脂と、粉末化基材と、を含む粉末油脂であって、前記抽出物が、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスであり、前記抽出物の総量が、前記粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である」という条件を満たす「粉末油脂」を用いた場合に、上記条件を満たさない「粉末油脂」を用いた場合よりも、粉末油脂の加熱による戻り臭を良好に抑制でき、粉末油脂製造時における歩留まり率の低下や、粉末油脂の溶解時の乳化安定性の低下をも抑制し得ることを確認する記載がある。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は「抽出物と、デキストリンと、油脂と、粉末化基材と、を含む粉末油脂であって、
前記抽出物が、サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキスであり、
前記抽出物の総量が、前記粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下である、
粉末油脂」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし4は、当業者が発明の課題が解決できると認識できる上記「粉末油脂」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし4に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものである。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 2における主張について検討する。
発明の詳細な説明に、「酵母エキス」として「商品名「アジレックスNH」」を用いた実施例しか記載されておらず、酵母エキスにはいろいろな種類があり、その効果も様々であるとしても、「商品名「アジレックスNH」」以外の酵母エキスでも、酵母エキスである以上、程度の差こそあれども発明の課題を解決できると当業者は理解するし、そうでないことの裏付けとなる具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記第4 2における主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし4は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には本件特許発明1ないし4の各発明特定事項について具体的に記載されており、実施例についても具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし4を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし4に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 3における主張について検討する。
上記2(3)のとおり、「商品名「アジレックスNH」」以外の酵母エキスでも、酵母エキスである以上、多少は発明の課題を解決できる、すなわち多少は本件特許発明1の効果を奏すると当業者は理解するし、そうでないことの裏付けとなる具体的な証拠が示されている訳でもない。
また、本件特許発明1は、「サトウキビ抽出物及び/又は酵母エキス」である「抽出物」、「デキストリン」、「油脂」及び「粉末化基材」を、「抽出物の総量」が「粉末油脂全体に対して0.001質量%以上1.10質量%以下」となるように含めばよいので、当業者であれば実施可能であることは明らかである。
さらに、本件特許発明2ないし4についても同様である。
したがって、特許異議申立人の上記第4 3における主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700530