特許異議申立
2024-700896
積層体、包装袋及び包装体
- 審判番号
- 2024-700896
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-115330
- 登録番号
- 7452744
- 請求日
- 2024年09月18日
- 審決日
- 2024年11月28日
- 公報発行日
- 2024年12月27日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】長谷川 芳樹
- 【権利者代理人】黒木 義樹
- 【権利者代理人】鈴木 洋平
- 【権利者代理人】石坂 泰紀
- 【異議申立人】加藤 三千代
- 審判長/審判官
- 審判長 八木 誠
- 審判官 長清 吉範
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1652.113-Y (B32B) / P1652.121-Y (B32B) / P1652.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7452744号発明「積層体、包装袋及び包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7452744号の請求項1、4~9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7452744号の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和5年6月19日に出願された特願2023-100042号の一部を令和5年7月13日に新たな特許出願とした出願であって、令和6年3月11日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報の発行日は令和6年3月19日)、その後、その請求項1、4~9に係る特許に対し、令和6年9月18日に特許異議申立人加藤三千代(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
特許第7452744号の請求項1、4~9の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、4~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」等という。)。
「【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロン6フィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体であって、
前記積層体における前記ポリエチレンテレフタレートフィルム側の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が11.5以上であり、
前記ナイロン6フィルムの単体の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が25.42より大きく、
前記ナイロン6フィルムはチューブラー法によって得られる延伸フィルムである、積層体。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロン6フィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体であって、
前記積層体における前記ポリエチレンテレフタレートフィルム側の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が11.5以上であり、
前記ナイロン6フィルムの単体の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が25.42より大きく、
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの単体の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ポリエチレンテレフタレートの(100)面のピーク強度値をI2としたとき、I2/I0が41以上である前記ポリエチレンテレフタレートフィルムを備える、積層体。
【請求項4】
突刺し強度が17N以上である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記ナイロン6フィルムの突刺し強度は11.65Nより大きい、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
前記ナイロン6フィルムの厚さは10~25μmである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
前記ポリエチレンテレフタレートフィルムの厚さは9~25μmである、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の積層体を備える包装袋。
【請求項9】
請求項8に記載の包装袋と、当該包装袋の収容部に収容物と、を備える、包装体。」
第3 申立理由の概要
申立人による申立理由は、概略以下のとおりである。なお、それぞれの申立を「申立理由1」等という。
1 申立人は、証拠として、甲第1号証及び参考資料1~5を提出し、本件発明1、6~9は甲1号証記載の発明Aであり、本件発明1、4、6~9は甲1号証記載の発明Bであり、請求項1、4、6~9に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであるから、請求項1、4、6~9に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
2 申立人は、証拠として、甲第1号証及び参考資料1~5を提出し、本件発明1、本件発明4~9は甲1号証記載の発明A又は発明Bに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1、4~9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、4~9に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
3 申立人は、請求項1、4~9に係る特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、請求項1、4~9に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
甲第1号証(以下「甲1」という。):特開2020-147368号公報
参考資料1:加工技術研究会、「プラスチックフィルム・レジン材料総覧’93」、1992年12月10日、p.341-346
参考資料2:興人フィルム&ケミカルズ株式会社、「二軸延伸ナイロンフィルムBONYL(R)ボニール」(注:(R)は○の中にR)、[online]、「イプロスものづくり 興人フィルム&ケミカルズ株式会社 二軸延伸ナイロンフィルム『ボニール』」ページからダウンロード、[令和6年9月11日データ出力]、インターネット<URL:https://www.ipros.jp/catalog/detail/473900/>
参考資料3:興人フィルム&ケミカルズ株式会社、「易接着性二軸延伸ナイロンフィルム ボニール-QC(15μm)」、[online]、「ボニール-Q(耐水接着性)」ページ「ボニール-QC(15μm)特性表 ダウンロードはこちら」からダウンロード、興人フィルム&ケミカルズ株式会社、[令和6年9月11日データ出力]、インターネット<URL:https://www.kohjin.co.jp/product/film/convert/bonyl_q/>
参考資料4:出光ユニオンテック株式会社、「「ユニロンTM」「ユニアスロンTM」の開発」、[online]、「沿革 1984年4月「OPSシートの開発を基に、チューブラー二軸延伸ナイロンフィルム「ユニロンTM」の開発開始」」をクリックして表示される画面、出光ユニオンテック株式会社、[令和6年9月11日データ出力]、インターネット<URL:https://www.idemitsu.com/jp/iut/company/history.html>
参考資料5:出光ユニオンテック株式会社、「ユニロンGグレード」、[online]、出光ユニオンテック株式会社、[令和6年9月11日出力]、インターネット<URL:https://www.idemitsu.com/jp/iut/product/film/unilon-uniaslon/unilon_g.pdf>
第4 当審の判断
1 申立理由1及び2について(甲1を主とする新規性及び進歩性欠如)
(1)甲号証、参考資料の記載及び引用発明
ア 甲1
甲1には以下の記載がある(下線は当審で付した。)
「【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものである。すなわち、機械的強度を高めることができ、かつピンホールの発生を抑制できるパウチおよび包装材料を提供することを目的とする。また、耐落下衝撃性に優れたパウチを提供することを目的とする。」
「【0107】
<実施例1>
まず、第1の二軸延伸プラスチックフィルムとして、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「E5100」、東洋紡株式会社製)を準備した。
続いて、このフィルムに印刷層を形成した。印刷層の厚みは1.0μmであった。また、第2の二軸延伸プラスチックフィルムとして、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)を準備した。また、シーラントフィルムとして、厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(製品名「ZK500」、東レフィルム加工株式会社製)を準備した。ZK500は、上述のプロピレン・エチレンブロック共重合体およびエラストマーを含むものであった。
【0108】
ZK500は、一般的な未延伸ポリプロピレンフィルムに比べて高い引張伸度を有する。具体的には、流れ方向(MD)におけるZK500の引張伸度は、厚みが50μmの場合に1180%であり、厚みが60μmの場合に1100%である。したがって、流れ方向におけるZK500の引張伸度(%)と厚み(μm)の積は、厚みが50μmの場合に59000であり、厚みが60μmの場合に66000である。また、幅方向(TD)におけるZK500の引張伸度は、厚みが50μmの場合に1240%であり、厚みが60μmの場合に1150%である。したがって、幅方向におけるZK500の引張伸度(%)と厚み(μm)の積は、厚みが50μmの場合に62000であり、厚みが60μmの場合に69000である。
【0109】
続いて、ドライラミネート法により、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、印刷層、第1接着剤層、二軸延伸ナイロンフィルム、第2接着剤層、および未延伸ポリプロピレンフィルムを順に積層し、包装材料を作製した。第1接着剤層および第2接着剤層としては、ロックペイント株式会社製の2液型ポリウレタン系接着剤(主剤:RU-40、硬化剤:H-4)を用いた。なお、主剤のRU-40は、ポリエステルポリオールである。第1接着剤層および第2接着剤層の厚さは、3.0μmであった。
【0110】
そして、上記で作製した包装材料3枚を用いて、200mlの水を充填の上、図1に示すスタンディングパウチを作製した。具体的には、まず、底面となる包装材料においては、シーラントフィルムである未延伸ポリプロピレンフィルムが外側となるように2つ折りにして、折線を介して連設された第1部分および第2部分を形成しておき、また2つ折りの状態で、裁断後にパウチとしたとき底面の横方向の両縁部の下端近傍となる箇所を直径10mmの円状に打ち抜き、貫通孔を形成した。」
「【0115】
<実施例3>
厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)の代わりに、第2の二軸延伸プラスチックフィルムとして、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ユニロンG-101」、出光ユニテック株式会社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、包装材料を作製した。そして、この包装材料3枚を用いて、実施例1と同様にして、実施例3に係るパウチを作製した。実施例3においては、包装材料の流れ方向(MD)がパウチのX方向DRXに該当し、包装材料の幅方向(TD)がパウチのY方向DRYに該当している。」
「【0122】
以下、包装材料の構成および評価結果を表1に示す。
【表1】
[図:0001417676000001.jpg]
」
これらの記載を踏まえると、甲1には以下の発明(以下それぞれ「甲1発明A」、「甲1発明B」という。)が記載されていると認められる。
(ア)甲1発明A
「機械的強度を高めることができ、かつピンホールの発生を抑制できるように、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「E5100」、東洋紡株式会社製)、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)、及びシーラントフィルムである厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(製品名「ZK500」、東レフィルム加工株式会社製)をこの順に積層し、突き刺し強度が16.8Nである包装材料。」
(イ)甲1発明B
「機械的強度を高めることができ、かつピンホールの発生を抑制できるように、厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「E5100」、東洋紡株式会社製)、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ユニロンG-101」、出光ユニテック株式会社製)、及びシーラントフィルムである厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(製品名「ZK500」、東レフィルム加工株式会社製)をこの順に積層し、突き刺し強度が17.3Nである包装材料。」
イ 参考資料1
参考資料1には、株式会社興人の二軸延伸ナイロンフィルム「ボニール」が、ナイロン6を原料としたチューブラー方式による同時二軸延伸フィルムであることが記載されている(ページ341の「1.基本特性」)。
ウ 参考資料2
参考資料2には、「ボニールQC」が「ボニール」の一種である「ボニール-Q」のタイプ「QC」であることが記載されている(ページ5「ボニール-Q」の表)。
エ 参考資料3
参考資料3には、「ボニール-QC(15μm)」において、測定方法JIS Z 1714による引張強さがMD方向で250MPa、TD方向で290MPa、伸びがMD方向で130%、TD方向で100%であることが記載されている(表)。また、右下には「2012.11.1」と記載されている。
オ 参考資料4
参考資料4には、Ny6樹脂を用いたチューブラー同時二軸延伸ナイロンフィルム「ユニロンTM」の開発を決定したことが記載されている。また、「ユニロンTM」の製造技術をベースに特殊Ny樹脂をNy6にブレンドした直線カット性を持つ「ユニアスロンTM」が1992年販売開始であることが記載されている。
カ 参考資料5
参考資料5には、「ユニロンG-101」が「二軸延伸ナイロンフィルム」であり、試験法ASTM D 882による、引張強度がMD方向で300MPa、TD方向で320MPa、引張伸度がMD方向で140%、TD方向で110%であることが記載されている。
(2)本件発明1について
ア 甲1発明Aを引用発明とした場合
(ア) 以下、本件発明1と甲1発明Aとを対比する。
甲1発明Aにおける「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「E5100」、東洋紡株式会社製)」及び「シーラントフィルムである厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(製品名「ZK500」、東レフィルム加工株式会社製)」はそれぞれ、本件発明1における「ポリエチレンテレフタレートフィルム」及び「シーラント層」に相当する。また、甲1発明Aの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)」は本件発明1の「ナイロン6フィルム」と対比して、少なくとも「ナイロンフィルム」である限りにおいて一致する。また、甲1発明Aにおける「積層」された「包装材料」は、本件発明1における「積層体」に相当する。そうすると、甲1発明Aにおける「厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「E5100」、東洋紡株式会社製)、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)、及び厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(製品名「ZK500」、東レフィルム加工株式会社製)をこの順に積層し」た「包装材料」は、本件発明1における「ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロン6フィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体」と比較して、「ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体」に限り一致する。
甲1発明Aの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)」は本件発明1の「前記ナイロン6フィルムはチューブラー法によって得られる延伸フィルム」と対比して、少なくとも「ナイロンフィルムは延伸フィルム」である限りにおいて一致する。
(イ)そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体であって、
前記ナイロンフィルムは延伸フィルムである、積層体。
<相違点1>
本件発明1は「チューブラー法によって得られる」「ナイロン6フィルム」であり、「チューブラー法によって得られる」ものであるのに対し、甲1発明Aの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)」は「ナイロン6フィルム」であるか、また、「チューブラー法」によって得られるものであるかが、不明である点。
<相違点2>
本件発明1は「前記積層体における前記ポリエチレンテレフタレートフィルム側の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が11.5以上」であるのに対し、甲1発明Aは、包装材料のポリエチレンテレフタレートフィルム側の表面をX線回折で測定した場合の、2θが19.5°の時に検知されるピーク強度値I0、ナイロンの(002)面のピーク強度値I1としたときのI1/I0がどの程度になるのかが、明らかでない点。
<相違点3>
本件発明1は「前記ナイロン6フィルムの単体の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が25.42より大き」いものであるのに対し、甲1発明Aは、ナイロンフィルムの単体の表面をX線回折で測定した場合の、2θが19.5°の時に検知されるピーク強度値I0、ナイロンの(002)面のピーク強度値をI1としたときのI1/I0がどの程度になるのかが、明らかでない点。
(ウ) 以下、上記相違点について検討する。
<相違点1>について
参考資料1によれば、商品名「ボニール」のナイロンフィルムは、ナイロン6が原料としたチューブラー方式のフィルムであり、参考資料2によれば「ボニールQC」は「ボニール」の一種であると認められるから、甲1発明Aの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)」は、チューブラー法によって得られるナイロン6フィルムといえる。
そうすると、相違点1は実質的な相違点ではない。
<相違点2>について
甲1発明AがX線回折で測定した際のどの程度の値を取るかは、甲1及び参考資料1~5のいずれにも記載も示唆もされていないから、甲1及び参考資料1~5からは、甲1発明Aが上記相違点2に係る本件発明1の事項を備えるとはいえない。
また、申立人は、特許異議申立書3.〔4〕[2][2-1](1)(ク)において、甲1発明Aと関連する甲1実施例1の突き刺し強度が16.8Nであり、本件発明1が包含する本件発明4の突刺し強度17N以上と非常に近いと主張し、また、参考資料3によれば「ボニールQC(15μm)」はMD方向及びTD方向の引張強さがそれぞれ250MPa及び290MPaであり、MD方向及びTD方向の伸びがそれぞれ130%及び100%であるから甲1発明Aの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)」は結晶配向されていることが自明であって、上記相違点2に係る本件発明1の事項で特定される程度のピーク強度を有する蓋然性は極めて高い、と主張する。
しかしながら、甲1発明Aの突刺強度とした16.8Nは、本件発明4の下限値を下回るほか、本件明細書の実施例を参照しても、16.8Nの突き刺し強度のものが、上記相違点2に係る本件発明1の数値範囲に含まれている例は見当たらない。加えて、積層体全体での突き刺し強度は、他の層の影響も受けることにも鑑みると、全体の突刺強度が近いことをもって、積層体の一部を構成する層のピーク強度値を特定することはできないから、積層体全体の突き刺し強度から、特定層のX線ピーク値を含む相違点2に係る本件発明1の事項へと、数値変換できる関係にはない。
また、MD方向及びTD方向の違いからは、結晶配向されているということを示すにとどまり、当該資料においてX線回折した際の、2θが19.5°におけるピーク強度値とナイロン6の(002)面のピーク強度値との比がどの程度であるかは特定することができない。
そうすると、申立人の特許異議申立書における主張を踏まえても、甲1及び参考資料1~5からでは、甲1発明Aが上記相違点2に係る本件発明1の事項を備えているとする合理的な疑いがある、とまではいえない。
さらに、甲1及び参考資料1~5には、X線回折によるピーク値を所定の数値範囲とする点について記載も示唆もされていないから、甲1発明Aが、上記相違点2に係る本件発明1の数値範囲内とすることも、当業者にとって容易になし得たものではない。
(エ) したがって、本件発明1は、相違点3について検討するまでもなく、甲1発明Aではなく、また、甲1発明A及び参考資料1~5に基づいて当業者が容易になし得たものでもない。
イ 甲1発明Bを引用発明とした場合
(ア) 以下、本件発明1と甲1発明Bとを対比する。
甲1発明Bの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ユニロンG-101」、出光ユニテック株式会社製)」は本件発明1の「前記ナイロン6フィルムはチューブラー法によって得られる延伸フィルム」と対比して、少なくとも「ナイロンフィルムは延伸フィルム」である限りにおいて一致する。
また、甲1発明Bは、甲1発明Aの「厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ボニールQC」、興人フィルム&ケミカルズ株式会社)」を「厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ユニロンG-101」、出光ユニテック株式会社製)」に置き換えたものであるから、上記ア(ア)を踏まえると、甲1発明Bにおける「厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(製品名「E5100」、東洋紡株式会社製)、厚さ15μmの二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ユニロンG-101」、出光ユニテック株式会社製)、及び厚さ60μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(製品名「ZK500」、東レフィルム加工株式会社製)をこの順に積層し」た「包装材料」は、本件発明1における「ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロン6フィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体」と比較して、「ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体」に限り一致する。
(イ)そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム、及びシーラント層をこの順に備える積層体であって、
前記ナイロンフィルムは延伸フィルムである、積層体。
<相違点4>
本件発明1は「チューブラー法によって得られる」「ナイロン6フィルム」であり、「チューブラー法によって得られる」ものであるのに対し、甲1発明Bの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ユニロンG-101」、出光ユニテック株式会社製)」は「ナイロン6フィルム」であるか、また、「チューブラー法」によって得られるものであるかが、不明である点。
<相違点5>
本件発明は「前記積層体における前記ポリエチレンテレフタレートフィルム側の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が11.5以上」であるのに対し、甲1発明Bは、包装材料のポリエチレンテレフタレートフィルム側の表面をX線回折で測定した場合の、2θが19.5°の時に検知されるピーク強度値I0、ナイロンの(002)面のピーク強度値I1としたときのI1/I0がどの程度になるのかが、明らかでない点。
<相違点6>
本件発明1は「前記ナイロン6フィルムの単体の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が25.42より大き」いものであるのに対し、甲1発明Bは、ナイロンフィルムの単体の表面をX線回折で測定した場合の、2θが19.5°の時に検知されるピーク強度値I0、ナイロンの(002)面のピーク強度値I1としたときのI1/I0がどの程度になるのかが、明らかでない点。
(ウ) 以下、上記相違点について検討する。
<相違点4>について
参考資料4によれば、商品名「ユニロンTM」のナイロンフィルムは、Ny6樹脂を用いたチューブラー方式のフィルムであり、参考資料5によれば「ユニロンG-101」は「ユニロンTM」の一種であると認められるから、甲1発明Bの「二軸延伸ナイロンフィルム(製品名「ユニロンG-101」、出光ユニテック株式会社製)」は、チューブラー法によって得られるナイロン6フィルムといえる。
そうすると、相違点4は実質的な相違点ではない。
<相違点5>について
甲1発明BがX線回折で測定した際のどの程度の値を取るかは、甲1及び参考資料1~5のいずれにも記載も示唆もされていないから、甲1及び参考資料1~5からは、甲1発明Bが上記相違点5に係る本件発明1の事項を備えるとはいえない。
申立人の特許異議申立書3.〔4〕[2][2-2](1)(ク)における主張を踏まえても、上記ア(ウ)の相違点2に係る判断と同じく、甲1発明Bが相違点5に係る本件発明1の事項を備えているとする合理的な疑いがある、とまではいえない。
さらに、甲1及び参考資料1~5には、X線回折によるピーク値を所定の数値範囲とする点について記載も示唆もされていないから、甲1発明Bが、上記相違点5に係る本件発明1の数値範囲内とすることも、当業者にとって容易になし得たものではない。
(エ) したがって、本件発明1は、相違点6について検討するまでもなく、甲1発明Bではなく、また、甲1発明B及び参考資料1~5に基づいて当業者が容易になし得たものでもない。
(3)本件発明4~9について
本件発明4~9は、少なくとも「前記積層体における前記ポリエチレンテレフタレートフィルム側の表面をX線回折で測定し、2θが19.5°のときに検知されるピーク強度値をI0、ナイロン6の(002)面のピーク強度値をI1としたとき、I1/I0が11.5以上」であるという発明特定事項を含む発明をさらに減縮したものであるから、上記本件発明1についての相違点2又は5についての判断と同様の理由により、甲1発明A又は甲1発明Bのいずれでもなく、甲1発明A又はB及び参考資料1~5に基づいて当業者が容易になし得たものではない。
(4)小括
以上のとおり、本件発明1、4、6~9は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものでなく、本件発明1、4~9は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでもないから、申立理由1、2は理由がない。
2 申立理由3について(サポート要件違反)
(1)申立人は、特許異議申立書3.〔4〕[4][A](3)において、「本件明細書の【実施例】において、本件発明1の効果が具体的に示されているI1/I0の下限値は、14.42(本件明細書の段落【0089】の表2中の実施例1)及び14.03(本件明細書の段落【0090】の表3中の実施例3)である。つまり、本件明細書には、I1/I0が11.5以上14.03未満である場合であっても、本件発明1の効果が得られることを示す技術的理由の説明や実施例はない。よって、本件発明1の全範囲にわたって、本件発明1の効果が得られるとは、本件明細書の【発明の詳細な説明】の記載から当業者が理解できるとは云えない。」と主張する。
(2)しかしながら、本件明細書の段落【0030】には、I0が積層体の非晶質に由来するピークであり、段落【0033】には、ナイロン6の(002)面に由来するピークにより、ナイロン6フィルム中に特定方向に配向した結晶が高い割合で存在することが確認できることが示されているから、段落【0034】~【0035】にあるように、I1/I0は、積層体中の非晶質の割合が低く、ナイロン6フィルムの配向結晶の割合が高いことを示す指標であり、当該数値が高いほど、高い突刺し強度を有する、という機序を、当業者は理解できるといえる。
当該機序に鑑みれば、【実施例】よりもI1/I0が低い値であっても、実施例に近いI1/I0であれば、実施例に近い程度にナイロン6フィルムの配向結晶の割合が高く、ひいては、実施例に近い程度の突き刺し強度が期待できる。
してみれば、段落【0034】に記載されているように「上記I1/I0は11.5以上」とした積層体であれば、比較例よりも「高い突刺し強度」を有することが期待できるから、本件発明1は、課題解決手段を有していることが当業者に理解できるものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
(3)申立人が特許異議申立書3.〔4〕[4][B]において主張する本件発明5についても、上記(2)と同じく、その機序が理解できるから、実施例よりも低い突き刺し強度の積層体を含む本件発明5が、比較例以上の効果が得られることは当業者が理解できる。そして、ナイロンフィルムの下限値を11.5N以上とすることは、段落【0047】に記載されているから、本件発明5は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。
(4)小括
以上のとおり、本件発明1、4~9は特許法第36条第6項第1項の規定に違反してされたものではないから、申立理由3は理由がない。
第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によって、請求項1、4~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、4~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700896