特許異議申立
2024-700879
接合基板、金属回路基板及び回路基板
- 審判番号
- 2024-700879
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-549435外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7455751
- 請求日
- 2024年09月12日
- 審決日
- 2024年12月10日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.121-Y (H05K) / P1651.537-Y (H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7455751号発明「接合基板、金属回路基板及び回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7455751号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7455751号(以下「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)9月27日(優先権主張平成30年9月27日)を国際出願日とする出願であって、令和6年3月15日にその特許権の設定登録がされ、同年3月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~8に係る特許に対し、令和6年9月12日に特許異議申立人 廣瀬 妙子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項1について、当審において次のように分説し、符号A~Hを用いて分説した発明特定事項を、それぞれ「特定事項A」~「特定事項H」のように参照する。
「【請求項1】
A 基板と、
B 前記基板とで積層状態を構成している金属板であって、前記基板側の第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有しており、積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している金属板と、
C 前記基板と前記金属板との間に配置され前記金属板を前記基板に接合させている接合部材であって、前記積層方向から見て前記金属板の全周に亘って縁からはみ出している接合部材と、
D を備え、
E1 前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記第1面の周縁に相当する部分から前記第2面の周縁に相当する部分までの前記積層方向と直交する直交方向の長さを周面長A(mm)、前記接合部材のはみ出し部分の前記直交方向の長さをはみ出し長B(mm)、及び、記第1面から前記第2面までの距離を前記金属板の厚みC(mm)とした場合、下記の第1式及び下記の第2式を満たし、
F1 前記金属板における前記第1面の全周縁と前記第2面の全周縁とを繋ぐ周面は、傾斜面を含む面とされており、前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記傾斜面に相当する部分の前記直交方向に対する傾斜角θ(°)は、下記の第3式を満たし、
G1 前記第1面の周縁に相当する部分から前記金属板の上面の内側に向けて、前記金属板の下面に相当する直線と45°となるように直線を引き、前記直線と前記金属板の上面とが交わる点と、前記第1面の周縁に相当する部分とを結ぶ直線を斜辺とする直角二等辺三角形に相当する断面の面積をS1とし、前記直角二等辺三角形の前記斜辺より前記基板の外側方向に向けてはみ出す断面の面積をS2とした場合、前記面積S1と前記面積S2との関係は、下記の第4式を満たしている
H 接合基板。
E2 (第1式)0.200≦B/(A+B)≦0.400
E3 (第2式)0.8(mm)≦C≦2.0(mm)
F2 (第3式)86≧θ>69(°)
G2 (式4式)0.6≦S2/S1
【請求項2】
前記金属板は、前記積層方向から見て角が4つ以上の多角形とされ、
前記少なくとも1つの切断面は、前記積層方向から見た前記金属板の対角線で切断した切断面とされている、
請求項1に記載の接合基板。
【請求項3】
すべての前記対角線で前記積層方向に沿って切断したすべての切断面における、前記周面長A(mm)及び前記はみ出し長B(mm)は、前記第1式を満たす、
請求項2に記載の接合基板。
【請求項4】
前記積層方向から見た前記金属板のすべての対角線で前記積層方向に沿って切断したすべての切断面における、前記傾斜面に相当する部分の前記直交方向に対する傾斜角θ(°)は、前記第3式を満たす、
請求項1~3のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項5】
前記周面長A(mm)は、0.15(mm)以上0.30(mm)以下のいずれかの長さとされている、
請求項1~4のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項6】
前記はみ出し長B(mm)は、10μm以上100μm以下のいずれかの長さとされている、
請求項1~5のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の接合基板と、
回路パターンが形成された前記金属板に実装されている電子部品と、
を備えている回路基板。
【請求項8】
前記電子部品の動作温度は、100℃以上250℃以下の範囲とされている、
請求項7に記載の回路基板。」
第3 申立ての理由の概要
令和6年9月12日に申立人が提出した特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要、及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立ての理由
(1)申立理由1(進歩性)
請求項1~8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
(2)申立理由2(サポート要件)
請求項1~8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、請求項1~8に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法113条4号)
2 証拠方法
甲第1号証 特開2004-172182号公報
甲第2号証 国際公開第2017/056360号
以下、「甲第1号証」、「甲第2号証」を、それぞれ「甲1」、「甲2」という。
第4 甲号証の記載
1 甲1に記載された事項及び甲1発明
(1)甲1には、次の事項が記載されている。(下線は、強調のため当審で付したものである。以下同様。)
「【請求項1】
セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された回路基板であり、該接合層の金属回路からのはみ出し長さが20~60μmであり、パターントップにせり出し部がなく、パターントップのコーナー部のRサイズが10~100μmで、金属回路の表面粗さ(Rz)が3μm以下であることを特徴とする回路基板。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高耐電圧の回路基板及びその製造方法に関する。」
「【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、本発明は、セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された回路基板であり、該接合層の金属回路からのはみ出し長さが20~60μmであり、パターントップにせり出し部がなく、パターントップのコーナー部のRサイズが10~100μmで、金属回路の表面粗さ(Rz)が3μm以下であることを特徴とする回路基板である。」
「【0010】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら、更に詳しく本発明について説明する。図1は、本発明の回路基板の形状を説明するための回路基板端部断面の図面代用走査型電子顕微鏡写真であり、図2は従来品のそれである。
【0011】
本発明の回路基板は、セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された構造を基本としている。金属回路を形成させた反対面には金属放熱板を形成させた構造のものや、金属回路又は金属放熱板に更にNiめっきが施されているものをも本発明が対象としている。このような回路基板には、その形状、材質等において多くの市販品と先行技術文献があるが、本発明においては特に限定はなく、いずれも使用可能である。まず、これについて概説する。」
「【0014】
金属回路の厚みは、電気的、熱的特性の面からAl回路の場合は0.4~0.5mm、Cu回路の場合は0.3~0.5mmであることが好ましい。金属放熱板を形成させる場合、その厚みは半田付け時の反りを生じさせないように決定される。具体的には、Al放熱板の場合は0.1~0.4mm、Cu放熱板の場合は0.15~0.4mmであることが好ましい。
【0015】
セラミックス基板に金属回路又は金属放熱板を形成させるには、金属板とセラミックス基板とを接合した後、エッチングする方法、金属板から打ち抜かれた回路及び放熱板のパターンをセラミックス基板に接合する方法等によって行うことができる。これらの接合には、活性金属ろう付け法が用いられる。
【0016】
Niめっきが施される前の金属回路又は金属放熱板の表面は、研削、物理研磨、化学研磨等によって平滑化されていることが好ましく、表面粗さがRa≦0.2μmであることが好ましい。Niめっきは無電解法によることが好ましく、これによってファインパターンに対応可能となる。Niめっき膜厚は2~8μmであることが好ましい。
【0017】
接合層は、セラミックス基板に金属回路又は金属放熱板を活性金属ろう付け法によって接合したときに形成される。ろう材の金属成分は銀及び/又は銅を主成分とし、溶融時のセラミックス基板との濡れ性を確保するためにチタンを副成分とする。このチタンは、セラミックス基板の窒素成分と反応して窒化物(TiN)となり接合体の結合を強固なものとする。チタンの活性金属は、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム等のチタン以外の活性金属と併用することもできる。これらのチタン以外の活性金属はろう材の融点を降下させる。」
「【0020】
本発明の回路基板は、上記基本構造にして、接合層のはみ出し長さと、金属回路のパターントップのコーナー部の形状を適正化したことに特徴がある。
【0021】
まず、本発明における接合層のはみ出し長さとは、金属回路の端部よりはみ出した接合層の長さを意味する(図1のaで示される長さ)。本発明においては、はみ出し長さが20~60μm、好ましくは30~50μmであることが必要である。60μmより大きくなると、使用電圧6~9kVにおいて、部分放電電荷量が10pC以上となり部分放電特性の改善が十分でなくなる。また、はみ出し長さが20μm未満であると、熱衝撃によりセラミックス基板にクラックが入り絶縁不良を起こす恐れがある。なお、接合層の厚みは、7μm以下であることが好ましい。接合層のはみ出し長さと厚みは、接合層のエッチング条件、ろう材の塗布条件によって調整することができる。接合層の成分は、上記ろう材の金属成分、金属成分の合金、金属成分の窒化物などで構成されている。
【0022】
金属回路のパターントップのコーナー部(図1のCで示される部分)の形状は、そのRサイズが10~100μm、好ましくは40~80μmであることが必要である。Rが大きいほど放電が起こりにくくなるが、100μmをこえると金属回路に実装部品を半田付けする際に、部品が傾くなどの支障を来す。また、Rサイズが10μm未満では、高電圧を印加すると放電する。コーナー部の形状は、パターンエッチング後に更にパターン表面をエッチングすることによって調整することができる。
【0023】
本発明においては、接合層のはみ出し長さと、パターントップのコーナー部の形状を特定することによって、使用電圧6~9kVにおいても部分放電電荷量が10pC未満となる。この理由は定かでないが、回路形状自体に鋭い部分がないので電界集中が発生しにくくなったので、部品の実装後に封入する放電防止用のゲルの密着性が向上したためであると考えている。なお、本発明において、ゲル中への放電は、回路基板に半導体チップを半田付けし、ケースに組み込み、放電防止ゲルにて樹脂封止した後、通電を行い、目視で観察した。
【0024】
さらには、本発明の回路基板には、パターントップにせり出しがないことが必要である。ここで、「せり出し」とは、金属回路の上面が、断面より観察して外側にせり出ている(図2のbで示される部分)ことを意味する。せり出しをなくすには、回路パターンを形成した後、エッチングレジストを全て剥離し再度エッチングすることによって行うことができる。」
「【0026】
なお、本発明における回路基板の断面形状は、走査型電子顕微鏡によって観察される。試料の作製に際しては、必要に応じて樹脂包埋や研磨が施こされる。
【0027】
つぎに、本発明の回路基板の製造方法について説明する。この発明においては、金属板とセラミックス基板の接合体から、金属回路をエッチングによって形成させた後、全てのエッチングレジストを除去し、さらに金属回路の表面を20~60μm、好ましくは30~50μmエッチング除去される。Niめっきを施す場合にはこの後に行われる。
【0028】
本発明において、全てのエッチングレジストを除去するまでの工程は、従来と同様にして行われる。すなわち、金属板とセラミクス基板の接合体を製造する工程、エッチングレジストを印刷する工程、エッチングを行い金属回路を形成する工程、エッチングレジストを除去する工程を経る。
【0029】
接合体を製造するためのろう材ペーストとしては、上記したものを用い、その塗布量を乾燥基準で5~20mg/cm2とする。塗布量が5mg/cm2未満では未反応の部分が生じ、また20mg/cm2をこえると接合層を除去するのに手間取る。塗布には、スクリーン印刷法、ロールコーター法等が採用される。
金属放熱板を形成させる場合には、裏面にも塗布する。
【0030】
その後、ろう材ペーストの塗布されたセラミックス基板に金属板を配置し、真空中、熱処理してから冷却する。熱処理の温度は830~860℃、時間は30~60分間、真空度は1×10-6~5×10-5torrであることが好ましい。熱処理条件が上記よりも緩やかであると未反応の部分が生じ、また過激であると反応層の均一性を保つことができなくなる。また、真空度が1×10-6torrよりも高いと反応が活発となりすぎて接合層の均一性を保つことが困難となる。真空度が5×10-5torrよりも低いとTi等の活性金属の活性が失われ反応不足となる。
【0031】
接合体から金属回路を形成するには、接合体の金属板にエッチングレジストを塗布しエッチングする。エッチングレジストとしては、紫外線硬化型や熱硬化型が用いられる。また、エッチング液としては、金属が銅であるときには、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅液、硫酸、過酸化水素水等の溶液が使用される。好ましくは、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅溶液である。
【0032】
エッチングによって不要な金属部分が除去された回路基板の金属回路間には、もともと塗布したろう材やその合金層・窒化物層、更には金属回路パターン外には、必要長さ以上にはみ出した不要ろう材がまだ残っている。そこで、まず第1処理としてNH4 F等のハロゲン化アンモニウム水溶液、第2処理として硫酸、硝酸等の無機酸と過酸化水素水を含む溶液を用いてそれらを除去する。無機酸の濃度は2~4質量%、過酸化水素の濃度は0.5~1質量%が望ましい。
【0033】
その後に、全てのエッチングレジストをアルカリ溶液によって除去する。
【0034】
本発明で重要なことは、この後に金属回路を再度エッチングし、更に20~60μm除去することである。エッチング量が10μm程度でも金属回路コーナー部のRサイズが10μm以上となるが、パターントップのせり出しがあるので、少なくとも20μmの除去が必要となる。エッチング量を60μmよりも大きくすると、金属回路コーナー部のRサイズが60μmよりも大きくなる。」
「【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3で得られた本発明の回路基板基板端部断面の図面代用走査型電子顕微鏡写真。」
【図1】
[図:0001418269000001.jpg]
(2)甲1発明
前記(1)より、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、甲1発明をa~kに分説し、「構成a」などのようにして、以下参照する。
「a セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された回路基板であって、該接合層の金属回路からのはみ出し長さが20~60μmであり、パターントップにせり出し部がなく、パターントップのコーナー部のRサイズが10~100μmで、金属回路の表面粗さが3μm以下であり、(【請求項1】)
b 金属回路の厚みは、電気的、熱的特性の面からCu回路の場合は0.3~0.5mmであることが好ましく、(【0014】)
c 接合層のはみ出し長さとは、金属回路の端部よりはみ出した接合層の長さを意味し、(【0021】)
d 回路基板に半導体チップを半田付けするものであり、(【0023】)
e 回路基板の製造方法は、金属板とセラミックス基板の接合体から、金属回路をエッチングによって形成させた後、全てのエッチングレジストを除去し、さらに金属回路の表面を20~60μmエッチング除去するものであり、(【0027】)
f 接合体は、ろう材ペーストの塗布されたセラミックス基板に金属板を配置し、真空中、熱処理してから冷却することで製造され、(【0029】~【0030】)
g 接合体から金属回路を形成するために、接合体の金属板にエッチングレジストを塗布しエッチングし、(【0031】)
h エッチングによって不要な金属部分が除去された回路基板の金属回路間には、塗布したろう材やその合金層・窒化物層、更には金属回路パターン外には、必要長さ以上にはみ出した不要ろう材がまだ残っており、まず第1処理としてNH4 F等のハロゲン化アンモニウム水溶液、第2処理として硫酸、硝酸等の無機酸と過酸化水素水を含む溶液を用いてそれらを除去し、(【0032】)
i その後に、全てのエッチングレジストをアルカリ溶液によって除去し、(【0033】)
j この後に金属回路を再度エッチングし、更に20~60μm除去する、(【0034】)
k 回路基板」
2 甲2に記載された事項
(1)甲2には、次の事項が記載されている。
「[請求項1]
第1の面と第2の面とを有するセラミックス基板と、
第1の接合層を介して前記第1の面に接合された第1の金属板と、
第2の接合層を介して前記第2の面に接合された第2の金属板と、
を具備し、
前記第1の接合層は、前記第1の面と前記第1の金属板との間からはみ出すように前記第1の面上に延在する第1のはみ出し部を有し、
前記第2の接合層は、前記第2の面と前記第2の金属板との間からはみ出すように前記第2の面上に延在する第2のはみ出し部を有し、
前記セラミックス基板の3点曲げ強度は、500MPa以上であり、
前記第1のはみ出し部の厚さH1(μm)に対する前記第1のはみ出し部のはみ出し長さL1(μm)の比L1/H1、および前記第2のはみ出し部の厚さH2(μm)に対する前記第2のはみ出し部のはみ出し長さL2(μm)の比L2/H2の少なくとも一つは、0.5以上3.0以下であり、
前記第1のはみ出し部の10箇所の第1のビッカース硬度の平均値、および前記第2のはみ出し部の10箇所の第2のビッカース硬度の平均値の少なくとも一つは、250以下である、回路基板。」
「[0001] 実施形態は、回路基板および半導体装置に関する。
背景技術
[0002] 近年、産業機器の高性能化に伴い、それに搭載されるパワーモジュールの高出力化が進んでいる。これに伴い、半導体素子の高出力化が進んでいる。半導体素子の動作保証温度は、125℃~150℃であるが、今後175℃以上に上昇する可能性を有する。」
「[0006] パワー密度は、例えばモジュールに搭載する半導体素子の数を増やす、モジュールの体積を小さくする、ことにより大きくすることができる。この2つのパラメータを改善するには、セラミックス金属回路板に複数の半導体素子を搭載することが求められる。複数の半導体素子が搭載でき、体積が小さいセラミックス金属回路板を実現するためには、複数の金属板の配置間隔を狭くすることが好ましい。金属板の配置間隔を狭くする場合においても、セラミックス金属回路板は、175℃以上の高温でのTCT特性の改善が求められる。」
「[0010] 図1は、回路基板の構造例を示す断面模式図である。図1に示す回路基板1は、セラミックス基板2と、金属板(表金属板)3と、金属板4(裏金属板)と、接合層5と、接合層7と、を具備する。接合層5は、はみ出し部6を有する。接合層7は、はみ出し部8を有する。」
「[0014] 金属板3は、半導体素子を搭載するための金属回路板である。金属板3は、接合層5を介してセラミックス基板2の第1の面と接合されている。金属板4は、放熱板である。金属板4は、接合層7を介してセラミックス基板2の第2の面と接合されている。」
「[0016] 上記特性を有する金属板3、4の厚さは、0.6mm以上、さらには0.8mm以上であることが好ましい。金属板を厚くすることにより、通電容量の確保と放熱性の向上とを両立させることができる。また、金属板の厚さ方向だけでなく面方向にも熱を拡散させることができ、放熱性を向上させることができる。金属板3、4の厚さは5mm以下であることが好ましい。5mmを超えると金属板の重量が増え過ぎて、はみ出し部6、8のサイズの調整が難しくなるおそれがある。」
「[0030] 金属板3aは、接合層5aを介してセラミックス基板2の第1の面と接合されている。金属板3bは、接合層5bを介してセラミックス基板2の第1の面と接合されている。接合層5aおよび接合層5bの説明については、接合層5の説明を適宜援用する。
[0031] 図3は、図2に示す回路基板1の一部を示す拡大図である。接合層5aは、セラミックス基板2の第1の面と金属板3aとの間からはみ出すように当該第1の面上に延在するはみ出し部6aを有する。接合層5bは、セラミックス基板2の第1の面と金属板3bとの間からはみ出すように当該第1の面上に延在するはみ出し部6bを有する。
[0032] 金属板3の厚さ方向を含む断面において、金属板3の側面31aは、金属板3の上面32aの外側に向かって傾斜している。金属板3の側面31bは、金属板3の上面32bの外側に向かって傾斜している。金属板3aの側面31aと下面33aとのなす角度θおよび金属板3bの側面31bと下面33bとのなす角度θは、40度以上84度以下であることが好ましい。側面31a、31bを傾斜させることにより、熱応力を緩和させることができる。金属板3aの側面31aと上面32aとのなす角度および金属板3bの側面31bと上面32bとのなす角度は、85度以上95度以下である(垂直または略垂直である)ことが好ましい。図3に示す構造は、金属板3a、3bの厚さが0.6mm以上、さらには0.8mm以上であるときに特に有効である。
[0033] 金属板3aの側面31aの角度θおよび金属板3bの側面31bの角度θを40度以上84度以下にしつつ、かつ金属板3aの側面と上面とのなす角度および金属板3bの側面と上面とのなす角度を85度以上95度以下にすることにより、応力を緩和させつつ、金属板3a、3bの平坦面の面積を増やすことができる。金属板3a、3bの平坦面の面積を増やすことにより、半導体素子の搭載可能面積を広くすることができる。半導体素子の搭載可能面積を広くできると回路設計の自由度を向上させることができる。
[0034] はみ出し部のはみ出し長さは、金属板の側面とはみ出し部の接触部を基準として求められる。はみ出し部の厚さは、はみ出し部の最も厚い部分の厚さである。例えば、側面31aとはみ出し部6aとの接触部におけるはみ出し部6aの厚さ、および側面31bとはみ出し部6bとの接触部におけるはみ出し部6bの厚さを一番厚くし、はみ出し部6aは、側面31aとはみ出し部6aとの接触部から端部に向かって徐々に薄くなる厚さ勾配を有し、はみ出し部6bは、側面31bとはみ出し部6bとの接触部から端部に向かって徐々に薄くなる厚さ勾配を有することが好ましい。厚さ勾配を有することにより、熱応力によるはみ出し部の変形を抑制することができる。
[0035] はみ出し部6a、6bのはみ出し長さL1は、40μm以下、さらには25μm以下であることが好ましい。はみ出し部6a、6bのL1/H1およびビッカース硬度HVを制御することにより、応力緩和効果を向上させることができる。すなわち、40μm以下の短いはみ出し長さを有するはみ出し部であっても、十分な応力緩和効果を得ることができる。」
「[0064][表3]
[図:0001418269000002.jpg]
」
「[0067][表4]
[図:0001418269000003.jpg]
」
「[図3]
[図:0001418269000004.jpg]
」
(2)甲2発明
前記(1)より、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「 回路基板であって、([0001])
金属板3は、半導体素子を搭載するための金属回路板であり、([0014])
金属板3の厚さは、0.8mm以上であることが好ましく、([0016])
金属板3aは、接合層5aを介してセラミックス基板2の第1の面と接合され、金属板3bは、接合層5bを介してセラミックス基板2の第1の面と接合され、([0030])
接合層5aは、セラミックス基板2の第1の面と金属板3aとの間からはみ出すように当該第1の面上に延在するはみ出し部6aを有し、接合層5bは、セラミックス基板2の第1の面と金属板3bとの間からはみ出すように当該第1の面上に延在するはみ出し部6bを有し、([0031])
金属板3の厚さ方向を含む断面において、金属板3の側面31aは、金属板3の上面32aの外側に向かって傾斜し、金属板3の側面31bは、金属板3の上面32bの外側に向かって傾斜し、金属板3aの側面31aと下面33aとのなす角度θおよび金属板3bの側面31bと下面33bとのなす角度θは、40度以上84度以下であることが好ましく、([0032])
はみ出し部6a、6bのはみ出し長さL1は、40μm以下である、([0035])
回路基板([0001])」
第5 申立理由についての当審の判断
1 申立理由1(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)特定事項Hについて
a 「接合基板」の意味について
本件特許明細書には、「接合基板」について、次の記載がある。
「【0023】
<接合基板>
本実施形態の接合基板10は、図1、図2A及び図2Bに示されるように、セラミックス基板20(基板の一例)と、金属板30と、ろう材40(接合部材の一例)とを備えている。また、セラミックス基板20と金属板30とは、図2A及び図2Bに示されるように、ろう材40を挟んで積層状態を構成している。
なお、本実施形態、実施例及び変形例における「接合基板」とは、回路パターン60(図3A及び図3B参照)が形成される前の基板を意味する。また、「金属回路基板」とは、接合基板10の金属板30に回路パターン60が形成された状態の基板を意味する。また、「回路基板」とは、接合基板10の金属板30に回路パターン60が形成された後に回路パターン60の一部に半導体素子70等の電子部品が実装された状態の基板を意味する。」
「【0041】
≪本実施形態の回路基板及び金属回路基板の製造方法≫
次に、本実施形態の回路基板50(図3A及び図3B参照)及び金属回路基板の製造方法について説明する。
まず、セラミックス基板20の一方の面にろう材40を塗布する。
次いで、ろう材40が塗布されたセラミックス基板20の一方の面に金属板30を張り付ける。すなわち、セラミックス基板20に金属板30を接合する。
次いで、金属板30が例えば、図1のようにT方向の上側から見てセラミックス基板20の内側で矩形となるように、金属板30をエッチングする。
次いで、金属板30の上面34に所定の表面処理を施す。
以上により、回路基板50を製造するために必要とされる、接合基板10が製造される。なお、金属板30のエッチングが終了した時点では、ろう材40は、金属板30の全周縁よりもはみ出した状態とされている。また、金属板30の周面36は、エッチングによる影響により、図2A及び図2Bに示されるように、傾斜面を含む面となる。」
上記記載を踏まえると、本件発明1の「接合基板」は、回路パターンが形成される前の基板を意味するところ、基板と、金属板と、接合部材とを備え、当該金属板に回路パターンが形成されていない、と理解される。
そして、当該理解は、本件特許明細書全体及び図面から把握される事項と整合するものである。
b 甲1発明の「回路基板」は、「セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された」(構成a)ものである。
そして、「金属回路」は、「金属板とセラミックス基板の接合体」「の金属板に」「エッチングし」て形成される(構成e、g)から、金属板に回路のパターンを形成したものを意味すると認められる。
そうすると、甲1発明の「セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された回路基板」(構成a)における「金属回路」は、金属板に回路のパターンを形成したものであり、また、「金属板とセラミックス基板の接合体」(構成e)における「金属板」は、回路のパターンを形成していないものといえる。
c 本件発明1の「接合基板」は、前記aのとおり、回路パターンが形成されていない金属板が接合された基板であるから、前記bを踏まえれば、甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」が、本件発明1の「接合基板」に対応する。
d 前記a~cより、本件発明1と甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」とは、「接合基板」である点で一致する。
(イ)特定事項A、Dについて
前記(ア)を踏まえれば、甲1発明の「セラミックス基板」は、本件発明1の「基板」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」とは、「基板と、」「を備え、」る点で一致する。
(ウ)特定事項B、Dについて
甲1発明において、「金属板」は、板の形状を有しているといえ、2つの対向する面、すなわち「第1面」と「第1面と反対側の第2面」とを有していることは明らかである。
また、「接合体」は、「セラミックス基板に金属板を配置し」て製造される(構成f)から、金属板は、セラミックス基板とで積層状態を構成しているということができ、セラミックス基板側の面を上記第1面と称することは任意である。
よって、本件発明1と甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」とは、「前記基板とで積層状態を構成している金属板であって、前記基板側の第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有している金属板と、」「を備え、」る点で一致する。
他方、甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」が備える「金属板」は、「積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している」ことを特定してない。
(エ)特定事項C、Dについて
甲1発明において、「金属板とセラミックス基板の接合体」は、「ろう材ペーストの塗布されたセラミックス基板に金属板を配置し、真空中、熱処理してから冷却することで製造され」(構成f)る。
そして、「ろう材ペースト」は「セラミックス基板」と「金属板」とを接合させる部材であるから、本件発明1の「接合部材」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」とは、「前記基板と前記金属板との間に配置され前記金属板を前記基板に接合させている接合部材と、」「を備え、」る点で一致する。
他方、甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」は、「接合部材」が「前記積層方向から見て前記金属板の全周に亘って縁からはみ出している」ことを特定していない。
(オ)特定事項E1、E2、E3について
甲1発明は、「接合層の金属回路からのはみ出し長さが20~60μm」(構成a)であることを特定しているが、当該はみ出し長さは、回路基板における「金属回路の端部よりはみ出した接合層の長さ」(構成c)であり、「金属板とセラミックス基板の接合体」における金属板の端部よりはみ出した接合層の長さに対応するものではないから、甲1発明では、「金属板とセラミックス基板の接合体」について、「前記接合部材のはみ出し部分の前記直交方向の長さをはみ出し長B(mm)」を特定していない。
また、甲1発明では、「金属板とセラミックス基板の接合体」について、「第1面の周縁に相当する部分から前記第2面の周縁に相当する部分までの前記積層方向と直交する直交方向の長さを周面長A(mm)」を特定していない。
さらに、甲1発明において、「金属回路の厚み」は、「Cu回路の場合は0.3~0.5mm」(構成b)であり、「金属回路」は、「金属板とセラミックス基板の接合体から、」「エッチングによって形成」(構成e)され、「金属回路の表面を20~60μmエッチング除去」(構成e)したものであるから、エッチングする前の「金属板とセラミックス基板の接合体」における金属板の厚み、すなわち、「前記第1面から前記第2面までの距離を前記金属板の厚みC(mm)」は、最大でも0.56mmであると認められる。
よって、甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」について、特定事項E1、E2、E3は特定されていない。
(カ)特定事項F1、F2について
甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」について、特定事項F1、F2は特定されていない。
(キ)特定事項G1、G2について
甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」について、特定事項G1、G2は特定されていない。
(ク)前記(ア)~(キ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「 基板と、
前記基板とで積層状態を構成している金属板であって、前記基板側の第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有している金属板と、
前記基板と前記金属板との間に配置され前記金属板を前記基板に接合させている接合部材と、
を備える
接合基板」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1 「金属板」について、本件発明1は、「積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している」ことを特定しているのに対し、甲1発明は、当該事項を特定していない点
相違点2 「接合部材」について、本件発明1は、「前記積層方向から見て前記金属板の全周に亘って縁からはみ出している」ことを特定しているのに対し、甲1発明は当該事項を特定していない点
相違点3 本件発明1は、「前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記第1面の周縁に相当する部分から前記第2面の周縁に相当する部分までの前記積層方向と直交する直交方向の長さを周面長A(mm)、前記接合部材のはみ出し部分の前記直交方向の長さをはみ出し長B(mm)、及び、記第1面から前記第2面までの距離を前記金属板の厚みC(mm)とした場合、下記の第1式及び下記の第2式を満たし、
(第1式)0.200≦B/(A+B)≦0.400
(第2式)0.8(mm)≦C≦2.0(mm)
」ていることを特定しているのに対し、甲1発明は、当該事項を特定していない点
相違点4 本件発明1は、「前記金属板における前記第1面の全周縁と前記第2面の全周縁とを繋ぐ周面は、傾斜面を含む面とされており、前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記傾斜面に相当する部分の前記直交方向に対する傾斜角θ(°)は、下記の第3式を満たし、
(第3式)86≧θ>69(°)
」ていることを特定しているのに対し、甲1発明は、当該事項を特定していない点
相違点5 本件発明1は、「前記第1面の周縁に相当する部分から前記金属板の上面の内側に向けて、前記金属板の下面に相当する直線と45°となるように直線を引き、前記直線と前記金属板の上面とが交わる点と、前記第1面の周縁に相当する部分とを結ぶ直線を斜辺とする直角二等辺三角形に相当する断面の面積をS1とし、前記直角二等辺三角形の前記斜辺より前記基板の外側方向に向けてはみ出す断面の面積をS2とした場合、前記面積S1と前記面積S2との関係は、下記の第4式を満たしている
(式4式)0.6≦S2/S1
」ことを特定しているのに対し、甲1発明は、当該事項を特定していない点
イ 判断
相違点1について検討する。
甲1発明において、「金属板とセラミックス基板の接合体」の「金属板」は、「ろう材ペーストの塗布されたセラミックス基板に金属板を配置し、真空中、熱処理してから冷却することで製造され」るものであり、接合することによって、金属板の第1面の縁が第2面の縁よりも外側に位置するものとはならないことは明らかである。
また、甲2発明は、「金属板3は、半導体素子を搭載するための金属回路板であ」るから、甲2発明の「金属板3」は、回路パターンが形成されているものを意味すると認められ、本件発明1の「金属板」に対応するものとはいえない。
そして、甲1発明の「金属板とセラミックス基板の接合体」において、金属板が「積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している」ことが当業者に周知であるとも、自明であるともいえないから、甲1発明において、金属板が積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置しているようにすることは、当業者が容易になし得たものではない。
ウ 小括
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
エ 異議申立書の主張について
(ア)申立人は、「ウ 本件特許発明と証拠に記載された発明との対比」において、次の事項を主張する。
a 特定事項H(前記第2)に関連して、「甲第1号証に記載の「回路基板」は、本件特許発明1における「接合基板」に相当します。」と主張する。(異議申立書13頁)
しかしながら、甲1発明の「回路基板」は、「セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された」ものであり、本件発明1の「接合基板」は、前記ア(ア)aのとおり、基板に回路パターンが形成されていない金属板が接合されたものである。
よって、甲1発明の「回路基板」が本件発明1の「接合基板」に相当するものとはいえず、申立人の当該主張は採用できない。
b 特定事項B(前記第2)に関連して、「甲第1号証に記載の「セラミックス基板と接合層を介して接合された金属回路」は、本件特許発明1における「前記基板とで積層状態を構成している金属板」に相当します。」と主張する。(異議申立書13~14頁)
甲1発明の「金属回路」は、前記ア(ア)bのとおり、金属板に回路のパターンを形成したものであり、これに対して、本件発明1の「金属板」は、前記aのとおり、回路パターンが形成されていないものである。
よって、甲1発明の「金属回路」が本件発明1の「金属板」に相当するものとはいえず、申立人の当該主張は採用できない。
c 特定事項C(前記第2)に関連して、「甲第1号証に記載の「セラミックス基板と金属回路とを接合し、金属回路の端部よりはみ出した接合層」は、」「前記基板と前記金属板との間に配置され前記金属板を前記基板に接合させている接合部材であって、前記積層方向から見て前記金属板の縁からはみ出している接合部材」である点で一致します。」と主張する。(異議申立書14~15頁、[参考図1])
当該主張は、甲1発明の「金属回路」が本件発明1の「金属板」に相当することを前提とするものであり、前記bのとおり、甲1発明の「金属回路」は、本件発明1の「金属板」に相当するものとはいえないから、これを前提とした当該主張は採用できない。
d 特定事項[F1、F2](前記第2)に関連して、甲1の図1を参照して、「金属回路における第1面の全周縁と第2面の全周縁とをつなぐ周面が傾斜面に相当する部分の一部(白色破線で示す部分)の直交方向に対する傾斜角θは、「77°」であります。このことは、」特定事項F1、F2の「構成に相当します。」と主張する。(異議申立書15~16頁、[参考図2])
しかしながら、当該主張は、甲1の図1に基づく主張であるところ、図1は「回路基板基板端部断面の図面代用走査型電子顕微鏡写真」(前記第4、1(1))であり、「金属板とセラミックス基板の接合体」における断面を示したものではなく、甲1発明の「金属回路」が本件発明1の「金属板」に相当することを前提としたものであるから、採用することができない。
また、甲1発明の「金属板」は、「積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している」ことを特定してない(前記ア(ウ))ことからも、当該主張は採用できない。
e 特定事項[G1、G2](前記第2)に関連して、甲1の図1を参照して、「S1、S2を算出すると、S1=約1100mm2、S2=約760mm2であり、S2/S1が約0.69であることがわかります。このことは、」特定事項G1、G2の「構成に相当します。」と主張する。(異議申立書17~18頁、[参考図3])
しかしながら、当該主張は、甲1の図1に基づく主張であるところ、図1は「回路基板基板端部断面の図面代用走査型電子顕微鏡写真」(前記第4、1(1))であり、「金属板とセラミックス基板の接合体」の断面の写真を示したものではなく、甲1発明の「金属回路」が本件発明1の「金属板」に相当することを前提としたものであるから、採用することができない。
また、甲1発明の「金属板」は、「積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している」ことを特定してない(前記ア(ウ))ことからも、当該主張は採用できない。
(イ)異議申立書の申立理由1(進歩性)についての主張について
申立人の申立理由1(進歩性)についての主張は、前記(ア)の主張を前提とするものであるから、採用できない。
そして、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえないことは、前記ア~ウで述べたとおりである。
(2)本件発明2~8について
ア 本件発明2~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2~8と甲1発明とは、少なくとも、前記(1)ア(ク)に示した相違点において相違するものであり、当該相違点は、前記(1)イと同様の理由により、当業者が容易になし得たものではない。
イ 異議申立書の主張について
本件発明2~8に対する申立人の申立理由1(進歩性)についての主張(異議申立書22~29頁)は、前記(1)エ(ア)における主張を前提とするものであるから、採用できない。
(3)申立理由1のまとめ
前記(1)、(2)より、申立理由1は理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)申立理由2の概要
申立理由2の概要は、「本件特許発明1では、金属板の周面における傾斜面に相当する部分の傾斜角θが第3式(86≧θ>69(°))を満たすことが規定」されているが、「傾斜面のその他の特徴については記載されておらず」、「上記傾斜面の形状は、例えばヒートサイクル特性に大きく影響を及ぼすものであって、当該影響を正確に予測することが困難であることは、広く知られた事項」であるから、「本件特許発明1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは」いえない、というものである。(異議申立書29~30頁)
(2)当審の判断
ア 本件特許明細書には、次の事項が記載されている。
「【0006】
本発明は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れた接合基板の提供を目的とする。また、本発明は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れた金属回路基板の提供を目的とする。また、本発明は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れた回路基板の提供を目的とする。」
「【0028】
本実施形態では、金属板30の厚み方向における2つの面のうち、セラミックス基板20側の平面を下面32(第1面の一例)、セラミックス基板20側と反対側の平面、すなわち、下面32と反対側の平面を上面34(第2面の一例)とする。また、金属板30の上面34の全周縁34Aと下面32の全周縁32Aとを繋ぐ面を周面36とする。ここで、金属板30は、積層方向から見て下面32の縁が上面34の縁よりも外側に位置している。別言すると、金属板30をT方向の上側から見ると、下面32は、上面34を囲んでいる(図2A及び図2B参照)。すなわち、周面36は、上面34側から下面32側に亘って、上面34の全周縁から外側に広がる傾斜状の面とされている。より具体的には、周面36は、図2Bに示されるように、上面34の縁34AよりもX方向の外側(下面32の縁32A側)で縁34Aに繋がっている曲面部分36Aと、曲面部分36Aの外側端部から下面32の縁32Aまでの平面部分36Bとで構成されている。平面部分36BのX方向(下面32)に対する傾斜角θは、45°よりも急勾配(傾斜角θ>45°)とされている。すなわち、本実施形態の周面36は、傾斜面とされる平面部分36Bを含む面とされている。なお、本実施形態の傾斜角θは、一例として傾斜角θが69°とされている。
なお、周面36の始点となる上面34の縁34Aは、図2に示すように、断面の観察視野において、厚みの減少が始まった位置を意味する。図2の観察視野から明らかな通り、ここでの厚みの減少において、表面の微細な凹凸(表面粗さ)は考慮しない。
また、ろう材40は、例えば、ぬれ性を考慮すると、図2Cや図2Dのような断面形状を呈する。図2Cのようにろう材40の厚さが外縁向かうに従って小さくなりろう材40とセラミックス基板20とが接する場合には、断面におけるセラミックス基板20とろう材40との接点40Cが、下面32の縁32Aから接点40Cまでの距離がはみ出し長Bとなる。また、図2Dのように、ろう材40の外縁が凸形状となる場合には、下面32の縁32Aから凸形状の頂点40Dまでがはみ出し長Bとなる。
また、平面部分36Bは、例えば、断面において面の平均粗さ以下で所定距離以上直線となっている領域である。言い換えると、連続して上記傾斜角θとなっている領域である。」
「【0030】
以上のとおりであるから、本実施形態の接合基板10では、周面長A(mm)と、はみ出し長B(mm)との関係は、後述する実施例の評価結果(図4の表を参照)を考慮すると、下記の式1を満たしている。
【0031】
(式1)0.032≦B/(A+B)≦0.400」
【0032】
さらに、金属板30の厚みC(mm)についても考慮すると、本実施形態の接合基板10は、上記の式1を満たしつつ、下記の式2を満たすといえる。
【0033】
(式2)0.5(mm)≦C≦2.0(mm)」
【0034】
なお、前述のとおり、本実施形態の接合基板10の周面36は、曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されている。ここで、図2Bに示されるように、金属板30の断面図において、縁32Aから金属板30の上面34の内側に向けてX方向に沿う直線(例えば下面32に相当する直線)と45°となるように直線を引き、この直線と上面34とが交わる点を点34Bとする。縁32Aと点34Bとを結ぶ直線を斜辺とする直角二等辺三角形に相当する断面の面積をS1とする。また、縁32Aと点34Bとを結ぶ直線よりセラミックス基板20の外側方向に向けてはみ出す断面の面積、すなわち、金属板30の端部から前述の直角二等辺三角形を除いた部分の断面の面積をS2とする。この場合、本実施形態では、面積S1と、面積S2との関係は、下記の式3を満たしている。
【0035】
(式3)0.6≦S2/S1」
「【0044】
≪実施例及び比較例のヒートサイクル試験≫
次に、周面長A(mm)、はみ出し長B(mm)、金属板30の厚みC(mm)、傾斜角θ(°)及びS2/S1をパラメータとして、複数の接合基板(試料1~27)を準備して、後述するヒートサイクル試験を行った。この場合、上記のパラメータ以外は、前述の実施形態の接合基板10と同じ設定条件とした(図1、図2A及び図3B参照)。
そして、後述する定められた基準を満たす場合と満たさない場合とを調べた。その結果、図4の表に示されるように、前述の式1、式2及び式3を満たす場合が定められた基準を満たす場合となった。」
「【0046】
以上より、ヒートサイクル試験の結果、図4の表のようになった。そして、本願の発明者は、式1、式2及び式3を満たす接合基板(試料1~21)は、満たしてない接合基板(試料22~28)に比べて、ヒートサイクル特性の点で優れていることを見出した。」
「【0048】
≪本実施形態の効果≫
以上のとおり、式1、式2及び式3を満たす、本実施形態及び本実施例の接合基板10及び金属回路基板は、式1、式2及び式3の少なくともいずれか1つを満たさない接合基板に比べて、ヒートサイクル特性の点において優れていることが見出された。ここで、式1、式2及び式3の少なくともいずれか1つを満たさない接合基板には、例えば、前述の特許文献1及び特許文献2に開示されている又はその思想で変形した接合基板が含まれる。
したがって、本実施形態及び本実施形態に含まれる本実施例の接合基板10及び金属回路基板は、金属板30の厚みCが大きい場合(例えば0.5(mm)以上2.0(mm)以下)であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れる。これに伴い、本実施形態の回路基板50は、金属板30(回路パターン60の部分)の厚みCが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れる。そのため、本実施形態の回路基板50は、動作温度の範囲の上限が例えば250℃等の高温となる電子部品(例えば、パワーIC)を実装している場合であっても、故障し難い。
なお、本実施形態の効果、別言すると、式1、式2及び式3を満たす、本実施形態及び本実施例の接合基板10及び金属回路基板の技術的優位性は、本願の発明者が前述のヒートサイクル試験を行った結果に基づいて見出されたものである。そして、上記技術的優位性とは熱に対する特性であることから、定性的なものである。そのため、本願の発明者は、本ヒートサイクル試験における、第1及び第2工程での保持温度及び保持時間、並びに、繰り返し回数(2000回)の一部又は全部と異なる条件のヒートサイクル試験によっても、本ヒートサイクル試験の場合と同様の結果が見出されたと推認する。すなわち、式1、式2及び式3を満たす接合基板10及び金属回路基板の技術的優位性は、本ヒートサイクル試験と異なる条件(例えば、繰り返し回数が2000回未満なる条件)のヒートサイクル試験からも導くことができるといえる。」
「【0052】
また、本実施形態では、金属板30の周面36は、曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されているとして説明した。しかしながら、式1、式2及び式3を満たす接合基板であれば、周面36が曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されていなくてもよい。例えば、図6に示される変形例の接合基板10Bのように断面図における周面36の部分が直線状の線分(側面が平面)となっていてもよい。また、断面図における周面36が湾曲線であってもよい(図示省略)。周面36が平面ではなく湾曲等している場合、傾斜角θは、上記断面図において、縁32Aにおける周面36の接線と、下面32とが成す角を意味する。」
「【図4】
[図:0001418269000005.jpg]
」
イ 当審の判断
(ア)【0046】、【0048】、図4の記載より、本件発明は、「式1、式2及び式3を満たす」ことにより、「金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れた接合基板」を提供する(【0006】)という本件発明の課題を解決しうることを理解できる。
ここで、「式1」は、「B/(A+B)」の範囲の特定であり(【0031】)、「式2」は「C」の範囲の特定であり(【0033】)であり、「式3」は「S2/S1」の範囲の特定である(【0035】)。そして、本件発明の発明特定事項E2、E3は、上記「式1」、「式2」の範囲をより限定したものであるから、本件発明の課題を解決しうることは、当業者が当然に理解できる。
そうすると、本件発明の課題解決手段は、発明特定事項E1、E2、E3(上記「式1」及び「式2」)、発明特定事項G1、G2(上記「式3」)を満たすことであると認められる。
(イ)発明特定事項F1、F2は、【0028】、【0044】、【0046】、図4の「実施例1」~「実施例20」及び「本実施形態」におけるパラメータ(傾斜角θ(°))により、サポートされるものであるところ、当該発明特定事項F1、F2は、前記(ア)より、課題解決手段とはされていない。
(ウ)前記(ア)、(イ)より、本件発明は、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件を満たす。
ウ 申立人の主張について
申立人は、本件発明は、「傾斜面に相当する部分が、異なる傾斜角を有する複数の直線状の面からなり、傾斜面に相当する部分の少なくとも一部の傾斜角θが第3式(86≧θ>69(°))を満たす構造も包含されるものといえ」、「一方、発明の詳細な説明では、傾斜面に相当する部分が、異なる傾斜角θを有する複数の直線状の面からなる構造に関する記載が無く、上記構造の場合に上記課題を解決できると認められる具体的な記載がありません。」旨主張する。(異議申立書29頁)
しかしながら、本件明細書には、「金属板30の周面36は、曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されているとして説明した。しかしながら、式1、式2及び式3を満たす接合基板であれば、周面36が曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されていなくてもよい。例えば、図6に示される変形例の接合基板10Bのように断面図における周面36の部分が直線状の線分(側面が平面)となっていてもよい。また、断面図における周面36が湾曲線であってもよい(図示省略)。周面36が平面ではなく湾曲等している場合、傾斜角θは、上記断面図において、縁32Aにおける周面36の接線と、下面32とが成す角を意味する。」(【0052】)と記載されるところ、本件発明において、周面は、曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されるか、直線状の線分(側面が平面)である(すなわち、平面部分36Bのみで構成される)ことを想定しているのであって、「異なる傾斜角を有する複数の直線状の面からな」ることは想定していないといえる。
仮に、本件発明において、傾斜面が「異なる傾斜角を有する複数の直線状の面からな」ることを含むとしても、傾斜面の形状は、本件発明の課題解決手段(前記イ)ではないから、ただちに課題解決できないとはいえない。
申立人は、さらに「上記傾斜面の形状は、例えばヒートサイクル特性に大きく影響を及ぼすものであって、当該影響を正確に予測することが困難であることは、広く知られた事項であります。」旨、主張する(異議申立書30頁)が、当該事項を示す証拠はないし、また技術常識ともいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由2のまとめ
よって、申立理由2は理由がない。
第6 まとめ
前記第5によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700879