特許異議申立
2024-700784
電極箔、巻回形コンデンサ、電極箔の製造方法、及び巻回形コンデンサの製造方法
- 審判番号
- 2024-700784
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-180253
- 登録番号
- 7435700
- 請求日
- 2024年08月20日
- 審決日
- 2025年06月26日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本ケミコン株式会社
- 【権利者代理人】木内 光春
- 【権利者代理人】大熊 考一
- 【権利者代理人】片桐 貞典
- 【権利者代理人】木内 加奈子
- 【異議申立人】田崎 和代
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 ▲吉▼澤 雅博
- 審判官 多田 幸司
- 分類
- P1651.113-YAA(H01G) / P1651.121-YAA(H01G) / P1651.536-YAA(H01G) / P1651.537-YAA(H01G) / P1651.851-YAA(H01G) / P1651.853-YAA(H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第39条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項、特許法第36条、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7435700号発明「電極箔、巻回形コンデンサ、電極箔の製造方法、及び巻回形コンデンサの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7435700号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-8〕、〔9-12〕、13について訂正することを認める。
特許第7435700号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7435700号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、令和4年11月10日に出願され、令和6年2月13日にその特許権の設定登録がされ、令和6年2月21日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 6年 8月20日 :特許異議申立人田崎 和代(以下、「特許異議申立人」という。)による請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 6年11月21日付け:取消理由通知
令和 7年 1月24日 :特許権者による意見書、訂正請求書(以下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)の提出
令和 7年 4月 9日 :特許異議申立人による意見書(以下、この意見書を「意見書」という。)の提出
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求は、特許第7435700号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし13に訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は、以下のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、」とあるのを、「前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2ないし6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、」を追加する訂正をする(請求項1の記載を引用する請求項2ないし6も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む」とあるのを、「前記箔を平坦にした状能で溝幅が、当該分断部の界面が少なくとも部分的に接している状態である実質的に0を含む」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6も同様に訂正する。)。
なお、訂正前の請求項1ないし6は、請求項2ないし6が訂正の請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕について請求されたものである。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、」とあるのを、「前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回の外側になる表面に形成され、」を追加する訂正をする(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する。)。
なお、訂正前の請求項7は、請求項8が訂正の請求の対象である請求項7の記載を直接的に引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔7-8〕について請求されたものである。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に「前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、」とあるのを、「前記箔を化成処理し、前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10ないし12も同様に訂正する。)。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、」を追加する訂正をする(請求項9の記載を引用する請求項10ないし12も同様に訂正する。)。
なお、訂正前の請求項9は、請求項10ないし12が訂正の請求の対象である請求項9の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、本件訂正請求は、一群の請求項〔9-12〕について請求されたものである。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項13に「前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、」とあるのを、「前記箔を化成処理し、前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13に「前記箔形成ステップでは、前記分断部を前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成し、」を追加する訂正をする。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、4、6及び8について
訂正事項1及び4は、訂正前の請求項1及び7の「前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、」を、「前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、」に訂正し、また、訂正事項6及び8は、請求項9及び13の「前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、」を、「前記箔を化成処理し、前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、」に訂正するものであり、択一的記載の要素を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項1、4、6及び8は、択一的記載の要素を削除するものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(2)訂正事項2、5、7及び9について
訂正事項2及び7は、訂正前の請求項1及び9に「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、」を追加する訂正、訂正事項5は、訂正前の請求項7に「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回の外側になる表面に形成され、」を追加する訂正、訂正事項9は、訂正前の請求項13に「前記箔形成ステップでは、前記分断部を前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成し、」を追加する訂正であり、それぞれ、「分断部」について、その形成箇所が「前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面」であることの限定を付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、本件特許明細書段落【0035】の記載に基づいて導き出せることであり、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項2、5、7及び9は、発明特定事項である「分断部」について限定を付加することによって、特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項5の「前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む」を、「前記箔を平坦にした状能で溝幅が、当該分断部の界面が少なくとも部分的に接している状態である実質的に0を含む」に訂正する訂正であり、溝幅が「0を含む」という明瞭でない記載を、「当該分断部の界面が少なくとも部分的に接している状態である実質的に0を含む」と釈明するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、本件特許明細書段落【0031】の記載に基づいて導き出せることであるから、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項3は、明瞭でない記載を釈明するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものにも該当しない。
(4)独立特許要件について
特許異議申立人による特許異議申立ては、訂正前の請求項1ないし13の全てに対してなされているので、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、一群の請求項〔1-6〕、〔7-8〕、〔9-12〕、13についての本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-8〕、〔9-12〕、13について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし13に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明13」という。また、「本件発明1」ないし「本件発明13」をまとめて、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(下線部は訂正箇所を示す。)
「【請求項1】
巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔であって、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部を分断する複数の分断部と、
前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備え、
前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、
前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回されること、
を特徴とする電極箔。
【請求項2】
複数の前記分断部は、位置、長さ及び延び方向が区々であること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔。
【請求項3】
複数の前記分断部の一部は、延び途中で分岐していること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔。
【請求項4】
前記分断部は、
少なくとも複数の前記トンネル状のピットを繋ぎ又は跨いで形成されること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔。
【請求項5】
前記分断部は、前記箔を平坦にした状態で溝幅が、当該分断部の界面が少なくとも部分的に接している状態である実質的に0を含む50μm以下であること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の電極箔。
【請求項6】
前記多数のトンネル状のピットのうちの一部のピットは、前記芯部を貫通していること、
を特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の電極箔。
【請求項7】
電極箔を巻回して成るコンデンサ素子を備え、
前記電極箔は、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部を分断する複数の分断部と、
前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備え、
前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回の外側になる表面に形成され、
前記コンデンサ素子は、前記分断部が存在する前記電極箔が巻回されて成ること、
を特徴とする巻回形コンデンサ。
【請求項8】
前記コンデンサ素子は、巻回中心に巻芯部を有し、
前記電極箔は、前記巻芯部に巻回され、
前記分断部は、少なくとも、前記巻芯部への巻き始めを含む所定半径内の巻回中心側に形成されていること、
を特徴とする請求項7記載の巻回形コンデンサ。
【請求項9】
巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔の製造方法であって、
帯状の箔の表面に多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成するステップと、
前記拡面部を分断する複数の分断部を延在させるステップと、
前記箔を化成処理し、前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、
を有し、
前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、
前記電極箔は、前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回されること、
を特徴とする電極箔の製造方法。
【請求項10】
前記分断部の形成の後、前記箔を前記化成処理すること、
を特徴とする請求項9記載の電極箔の製造方法。
【請求項11】
前記拡面部の形成の後、前記分断部の形成の前に、前記箔を前記化成処理すること、
を特徴とする請求項9記載の電極箔の製造方法。
【請求項12】
前記分断部の形成の後、前記箔を再化成処理するステップと、
を更に有すること、
を特徴とする請求項11記載の電極箔の製造方法。
【請求項13】
電極箔を形成する箔形成ステップと、
前記電極箔を巻回することでコンデンサ素子を形成する素子形成ステップと、
前記コンデンサ素子に電解質を形成する電解質形成ステップと、
前記コンデンサ素子をエージングするエージングステップと、
を有し、
前記箔形成ステップは、
帯状の箔の表面に多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成するステップと、
前記拡面部を分断する複数の分断部を延在させるステップと、
前記箔を化成処理し、前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、
を有し、
前記箔形成ステップでは、前記分断部を前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成し、
前記素子形成ステップでは、
前記分断部を有する前記電極箔を巻回して前記コンデンサ素子を形成し、
前記電解質形成ステップにより前記電解質を形成した後に前記エージングステップを行い、又は前記エージングステップの後に前記電解質形成ステップによって前記エージングされたコンデンサ素子に前記電解質を形成すること、
を特徴とする巻回形コンデンサの製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由通知に記載した取消理由の要旨
訂正前の請求項1ないし13に係る特許に関して、当審が令和6年11月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1 請求項5及び6に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
理由2 請求項1ないし13に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 当審の判断
(1)訂正後の請求項に係る発明
本件訂正請求により訂正された本件発明1ないし13は、上記第3で示したとおりのものである。
(2)理由1(特許法第36条第4項第1号)について
ア 理由1は、訂正前の請求項5において、溝幅を完全に0μmとすることは困難であるから、発明の詳細な説明は、訂正前の請求項5及び請求項6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないというものである。
イ 上記指摘に対して、上記訂正事項3により、本件発明5が「前記箔を平坦にした状能で溝幅が、当該分断部の界面が少なくとも部分的に接している状態である実質的に0を含む」と訂正されたことにより、その記載は、溝幅を完全に0μmとするものではなく、本件特許明細書段落【0030】に記載された「電極箔1を湾曲させずに平坦にならした際、分断部4の界面が少なくとも部分的に接している状態」である「実質的に0」であることが明確になった。
そして、当業者は本件発明5の「前記箔を平坦にした状能で溝幅が、当該分断部の界面が少なくとも部分的に接している状態である実質的に0」である状態を実施できることは明らかであるといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明5及び本件発明5を引用する本件発明6に係る発明について、その実施をすることができる程度に明確かつ充分に記載されたものである。
(3)理由2(特許法第36条第6項第1号)について
ア 理由2-1について
(ア)取消理由通知に記載した理由2-1は、本件特許明細書には、分断部が不連続であるものしか開示されておらず、分断部が拡面部に「連続」で延在する構成を含みうる訂正前の請求項1の範囲まで、出願時の技術常識に照らして拡張ないし一般化できるとはいえないないから、発明の詳細な説明に記載したものでないというものである。
(イ)本件特許明細書段落【0032】の「ここで、分断部4の形成方法として、例えば、丸棒へ電極箔1を押し付ける等の物理的手段によることが考えられる。」旨の記載から、本件発明には、丸棒を押しつける形成手法により、拡面部に形成された分断部が含まれるものと認められる。
ここで、丸棒を押しつける形成手法では、分断部は無作為に形成され、分断部が連続するか否かも含め、その性状を制御することはできないことは明らかである。
すなわち、そのような形成手法を採用する場合は、分断部が拡面部に連続で延在するか否か制御することができないから、連続する構成を排除することができず、むしろ、連続する構成も含まれ得ると解される。
そして、本件特許明細書に分断部が拡面部に連続で延在する構成を排除する記載はなく、また、分断部が連続なものであっても不連続なものであっても、本件特許明細書段落【0046】及び図4に記載されているように、分断部に曲げ応力が分散することにより新たに拡面部に微細なクラックが生じにくくなるという本件特許の効果を奏することは明らかである。
以上から、本件発明1が、分断部が拡面部に「連続」で延在する構成を含み得るからといって、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえず、本件発明1の範囲まで、出願時の技術常識に照らして拡張ないし一般化できないものではない。
本件発明1と同様の記載を有する本件発明7、本件発明9及び本件発明13、並びに、本件発明1、本件発明7及び本件発明9を引用する本件発明2ないし6、本件発明8及び本件発明10ないし12についても同様である。
イ 理由2-2について
取消理由通知に記載した理由2-2は、訂正前の請求項1において、誘電体皮膜が拡面部の表面のみに形成されたものについては、本件発明の課題を解決できない部分を含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないというものであるところ、上記訂正事項1により、本件発明1から誘電体皮膜が拡面部の表面のみに形成された態様は削除された。
以上から、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
本件発明1と同様の記載を有する本件発明7、本件発明9及び本件発明13、並びに、本件発明1、本件発明7及び本件発明9を引用する本件発明2ないし6、本件発明8及び本件発明10ないし12についても同様である。
ウ 理由2-3について
取消理由通知に記載した理由2-3は、訂正前の請求項1において、電極箔の巻回時に箔内側となる表面のみに分断部が存在する状態で巻回される態様は、本件発明の課題を解決できない部分を含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないというものであるところ、上記訂正事項2により、電極箔の巻回時に箔内側となる表面のみに分断部が存在する状態で巻回される態様は削除された。
以上から、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
本件発明1と同様の記載を有する本件発明7、本件発明9及び本件発明13、並びに、本件発明1、本件発明7及び本件発明9を引用する本件発明2ないし6、本件発明8及び本件発明10ないし12についても同様である。
(4)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は、理由2-1について「例えば「連続」する分断部が、長手方向に連続するものであるとき、いかにして応力分担が生じるのか不明である。」から、「拡面部に「連続」で延在する分断部のものまで拡張ないし一般化できるとは到底言えない」と主張する(意見書 第3頁7行~第4頁第7行)。
特許異議申立人は、分断部が長手方向に連続する、すなわち、箔の長手方向と平行方向にのみ延在する場合について主張していると認められるところ、上記「2 (3)ア」で検討したように、丸棒を押しつける形成手法では、分断部は無作為に形成され、そもそも、長手方向に連続する分断部のみが形成されることはないといえる。また、分断部が長手方向にのみ延在するものにおいては、分断部が連続であっても不連続であっても、例えば本件特許明細書図4のような応力分担が生じないことは明らかであり、そのような特殊な場合は本件発明の範囲外であると解されることは技術常識であると認められる。
よって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
3 小括
以上から、取消理由通知に記載した取消理由により、本件発明を取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立書の記載からみて、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、以下のとおりである。
(1)特許法第29条第1項第3号違反
本件特許出願は不適法な分割出願であるから、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である令和4年11月10日に出願されたものであり、本件特許は、甲第1号証(国際公開2018/181485号)に記載された発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、取り消されるべきである。
(2)特許法第39条第2項違反
本件特許1及び4ないし13は、原出願に係る特許第7180049号(以下「原出願発明」という。)の請求項1ないし11に係る発明(以下「原出願発明1ないし11」という。)と実質同一であるから、本件特許は特許法第39条第2項に該当し、取り消されるべきである。
(3)特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項違反
ア 本件特許1、7及び9は、甲第2号証に記載された発明である。
イ 本件特許1、7及び9は、甲第2号証に記載された発明に基いて、または甲第2号証に記載された発明および(甲第4号証ないし甲第6号証に記載された)周知技術に基いて、本件特許2、3及び5は、甲第2号証に記載された発明に基いて、または甲第2号証に記載された発明および周知技術に基いて、本件発明4は、甲第2号証に記載された発明および周知技術に基いて、本件特許6は、甲第2号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明および周知技術に基いて、本件特許8、11及び13は、甲第2号証に記載された発明および甲第7号証に記載された発明に基いて、または甲第2号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明および周知技術に基いて、本件特許10は、甲第2号証に記載された発明および甲第8号証に記載された発明に基いて、または甲第2号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明および周知技術に基いて、本件特許12は、甲第2号証に記載された発明および甲第3号証に記載された発明に基いて、または甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消されるべきである。
ウ 本件特許1ないし5、7、9、10及び12は、甲第3号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明、および周知技術に基いて、本件特許6は、甲第3号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明および周知技術に基いて、本件特許8、11及び13は、甲第3号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明、甲第8号証に記載された発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消されるべきである。
(4)特許法第36条第6項第1号違反
本件発明1ないし13は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項1号違反に該当し、取り消されるべきである。
(5)特許法第36条6項第2号違反
本件発明1ないし13は、明確でないから、特許法第36条第6項2号違反に該当し、取り消されるべきである。
2 各文献の記載
(1)提出された証拠
特許異議申立人が提出した証拠は次のとおりである。
甲第1号証 国際公開2018/181485号
甲第2号証 特開平7-211595号公報
甲第3号証 特開2002-367864号公報
甲第4号証 特開2005-264288号公報
甲第5号証 特開2007-16255号公報
甲第6号証 特開2008-144255号公報
甲第7号証 特開2013-153024号公報
甲第8号証 特開2014-135481号公報
甲第9号証 特開平8-264391号公報
(2)原出願発明の記載
ア 原出願発明(特許第7180049号)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「 【請求項1】
巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔であって、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部に不連続で延在し、前記拡面部を分断する複数の分断部と、
前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備え、
前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回されること、
を特徴とする電極箔。
【請求項2】
前記分断部は、
少なくとも複数の前記トンネル状のピットを繋ぎ又は跨いで形成されること、
を特徴とする請求項1記載の電極箔。
【請求項3】
前記分断部は、前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む50μm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電極箔。
【請求項4】
前記多数のトンネル状のピットのうちの一部のピットは、前記芯部を貫通していること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電極箔。
【請求項5】
電極箔を巻回して成るコンデンサ素子を備え、
前記電極箔は、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部に不連続で延在し、前記拡面部を分断する複数の分断部と、
前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備え、
前記コンデンサ素子は、前記分断部が存在する前記電極箔が巻回されて成ること、
を特徴とする巻回形コンデンサ。
【請求項6】
前記コンデンサ素子は、巻回中心に巻芯部を有し、
前記電極箔は、前記巻芯部に巻回され、
前記分断部は、少なくとも、前記巻芯部への巻き始めを含む所定半径内の巻回中心側に形成されていること、
を特徴とする請求項5記載の巻回形コンデンサ。
【請求項7】
巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔の製造方法であって、
帯状の箔の表面に多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成するステップと、
前記拡面部を分断する複数の分断部を、前記箔に不連続で延在させるステップと、
前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、
を有し、
前記電極箔は、前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回されること、
を特徴とする電極箔の製造方法。
【請求項8】
前記分断部の形成の後、前記箔を前記化成処理すること、
を特徴とする請求項7記載の電極箔の製造方法。
【請求項9】
前記拡面部の形成の後、前記分断部の形成の前に、前記箔を前記化成処理すること、
を特徴とする請求項7記載の電極箔の製造方法。
【請求項10】
前記分断部の形成の後、前記箔を再化成処理するステップと、
を更に有すること、
を特徴とする請求項9記載の電極箔の製造方法。
【請求項11】
電極箔を形成する箔形成ステップと、
前記電極箔を巻回することでコンデンサ素子を形成する素子形成ステップと、
前記コンデンサ素子に電解質を形成する電解質形成ステップと、
前記コンデンサ素子をエージングするエージングステップと、
を有し、
前記箔形成ステップは、
帯状の箔の表面に多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成するステップと、
前記拡面部を分断する複数の分断部を、前記箔に不連続で延在させるステップと、
前記箔を化成処理し、前記拡面部の表面、又は前記拡面部と前記分断部の表面に誘電体皮膜を形成するステップと、
を有し、
前記素子形成ステップでは、
前記分断部を有する前記電極箔を巻回して前記コンデンサ素子を形成し、
前記電解質形成ステップにより前記電解質を形成した後に前記エージングステップを行い、又は前記エージングステップの後に前記電解質形成ステップによって前記エージングされたコンデンサ素子に前記電解質を形成すること、
を特徴とする巻回形コンデンサの製造方法。」
(3)甲第2号証及び甲第2発明
ア 甲第2号証(特開平7-211595号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項3】 アルミニウム箔の両面、片面又は所要の一部にコロナ放電処理を施して表面に無数の凹凸を形成した後、該アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理して表面積を大幅に増大させた陽極用電極箔及び陰極用電極箔の間に隔離紙を挟み、巻き上げてなるコンデンサ素子を含むことを特徴とするコンデンサ。」
「【0002】
【従来の技術】従来のコンデンサ、特に電解コンデンサは、純度99.99%程度のアルミニウム箔をエッチングして粗面化して表面積を増大させ、更に陽極酸化させて表面に誘電酸化皮膜を形成した陽極用電極箔と、同じく純度99.99%程度のアルミニウム箔をエッチングして粗面化した陰極用電極箔とに極引出し用タブを固着し、該陽極用電極箔、陰極用電極箔及び隔離紙を交互に重ね合わせて円筒状に巻き上げた後、電解液を含浸させてコンデンサ素子を製作し、更に該コンデンサ素子を金属製の有底円筒状のケースに収納した後、該ケースの開放端を弾性を有するゴム等の封口材によって封口して製作されている。
【0003】エッチング処理は、アルミニウム箔の表面積を増大させるために行うものであって、電解コンデンサを小型化し、高性能化するには重要な処理であり、直流電解方式、交流電解方式又は直流電解方式と交流電解方式とを組み合わせた複合方式等が用いられており、前処理工程、腐食工程、洗浄後工程及び乾燥工程の多くの処理工程を経てエッチングが行われている。」
「【0007】更に他の目的は、アルミニウム箔の両面、片面又は所要の一部にコロナ放電処理を施して表面に無数の凹凸を形成した後、該アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理して表面積を大幅に増大させた陽極用電極箔及び陰極用電極箔を用い、該陽極用電極箔及び陰極用電極箔の間に隔離紙を交互に挟んで巻き上げてコンデンサ素子を製作することにより、高性能かつ小型のコンデンサを容易に製作できるようにすることである。」
「【0011】また本発明に係るコンデンサ(請求項3)は、アルミニウム箔の両面、片面又は所要の一部にコロナ放電処理を施して表面に無数の凹凸を形成した後、該アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理して表面積を大幅に増大させた陽極用電極箔及び陰極用電極箔の間に隔離紙を挟み、巻き上げてなるコンデンサ素子を含むことを特徴とするものである。
【0012】
【作用】アルミニウム箔は、圧延ローラで圧延して製作されるが、該圧延ローラに付着している油脂分が圧延時にアルミニウム箔に付着するため、電気化学的なエッチング処理の前工程として脱脂工程を設けて該油脂分を除去する必要があるが、コロナ放電処理を施すことによりアルミニウム箔に付着していた油脂分は、分解し、ガス化して飛散し、脱脂工程を簡略化するか又は不要とすることができる。
【0013】またアルミニウム箔をコロナ放電処理することによって表面に均一な凹凸面を形成することができ、表面積を増大させることができ、更にその後の電気化学的なエッチング処理において、該凹凸面からあらゆる方向に腐食穴が進行するので、従来に比べて大幅に表面積を増大させることができ、しかも表面積が増大した割にはアルミニウム箔の強度の低下は少なく、アルミニウム箔の巻き上げにより損傷を受けることなく小型で高性能かつ信頼性の高いコンデンサを容易に製作することができる。
【0014】アルミニウム箔の表面に形成された凹凸面には、コロナ放電により生じたオゾン、活性酸素が作用して極めて均一な酸化膜が形成されているので、次工程の電気化学的なエッチング処理においてもエッチングの開始点を均一とすることができ、電気特性の安定したコンデンサを製作することができる。
【0015】またアルミニウム箔の表面をコロナ放電処理した面としない面とを、又は任意の図形に沿ってコロナ放電処理を行うことにより、コロナ放電処理する面を任意に設定することができるので、コロナ放電処理した面としない面とでエッチング状態に変化を持たせて要求されるコンデンサの特性に応じて最適な表面処理をアルミニウム箔に行うことができる。」
「【0016】
【実施例】以下本発明を図面に示す実施例に基いて説明する。図1から図4において、本発明に係るコンデンサは、コロナ放電処理を施した後、電気化学的にエッチング処理したコンデンサ用アルミニウム箔2を含む構成となっている。
【0017】図4において、コンデンサ用アルミニウム箔2は、純度99.99%程度のアルミニウム箔2を、矢印A方向に回転する一対の圧延ローラ3間に通して、陽極用電極箔としては厚さ60μm乃至100μmに、また陰極用電極箔としては厚さ40μm乃至50μmに圧延して製作した後、コロナ放電処理及び電気化学的にエッチング処理されて製作され、アルミニウム箔2を所定の厚さに圧延する一対の圧延ローラ3及び該アルミニウム箔2の表面2aをコロナ放電処理する一対の電極4がアルミニウム箔2を挟んで配設されている。
【0018】一対の電極4は、放電し易いように端部4aが鋭角状に形成され、該端部4aは1cm程度離間して配設されており、一対の電極4には夫々電線(図示せず)によって高圧交流電源装置(図示せず)に電気的に接続され、該電極4間に70kV程度の高電圧を付与できるようになっている。
【0019】圧延ローラ3には、圧延が支障なく行えるように油脂5が塗布されており、アルミニウム箔2の圧延時に該油脂5は圧延ローラ3からアルミニウム箔2に転移してアルミニウム箔2に付着した状態でコロナ放電処理する一対の電極4に供給される。
【0020】ここで高圧交流電源装置を作動させて一対の電極4間に70kV程度の高電圧をかけると、端部4aの周囲に電離作用が起こり、該端部4a間に1乃至100μA程度の微弱電流が流れてコロナ放電が始まる。
【0021】そして図1において、端部4aの間を矢印B方向に走行するアルミニウム箔2には、コロナ放電による光、電流及び電離生成物たるオゾン、活性酸素が作用してアルミニウム箔2に付着している油脂5を分解し、ガス化させて飛散させ、更にアルミニウム箔2の表面2aを物理的にエンボス加工して均一な凹凸面2bとして粗面化してその表面積を増大させ、また化学的にオゾン、活性酸素を作用させて該凹凸面2bを活性化させ、かつ酸化させて酸化アルミニウムを生成して誘電酸化皮膜2dを形成させる。
【0022】図2及び図3において、コロナ放電処理されたアルミニウム箔2を電気化学的にエッチング処理すると、コロナ放電処理によって形成された凹凸面2bから腐食があらゆる方向に進行し、腐食穴2cはアルミニウム箔2の厚さ方向だけでなく表面2aと平行又はこれに近い方向にも進行して表面積が著しく増大する。
【0023】そして本発明に係るコンデンサ用アルミニウム箔2の製造方法は、アルミニウム箔2の両面、片面又は所要の一部にコロナ放電処理を施して表面2aに無数の凹凸2cを形成した後、該アルミニウム箔2を電気化学的にエッチング処理して表面積を大幅に増大させて陽極用電極箔及び陰極用電極箔とすることを特徴とするものである。
【0024】本発明は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1から図4において、アルミニウム箔2にコロナ放電処理を施すことにより付着していた油脂5を分解しガス化させて飛散させ、コンデンサ用アルミニウム箔2の製作工程において該アルミニウム箔2から該油脂5を除去する脱脂工程を簡略化又は不要とすることができ、生産性を大幅に向上させ、かつ製作費を低減させることができる。
【0025】またアルミニウム箔2の表面2aに均一な凹凸面2bを形成し、更に該均一な凹凸面2bからあらゆる方向に腐食穴2cを進行させてアルミニウム箔2の強度を低下させることなく大幅に表面積を増大させるて小型で高性能なコンデンサを製作することができる。
【0026】またアルミニウム箔2の表面2aは極めて均一に処理されているので電気的特性の安定した信頼性の高いコンデンサを製作することができる。
【0027】大幅に表面積が増大したにもかかわらず、アルミニウム箔2の強度は、それほど低下することがないので、極引出し用タブのぐさり加工(タブ付け加工)及びアルミニウム箔2の巻き上げ作業においてもアルミニウム箔2が損傷を受けることがない。
【0028】またアルミニウム箔2の表面2aにコロナ放電処理する面としない面とを任意に設定して、又は任意の図形に沿ってコロナ放電処理を行い、その後の電気化学的エッチング処理においてコロナ放電処理された面とされない面とのエッチング状態に変化を持たせて要求されるコンデンサの特性に応じた最適な表面処理を行うことができる。」
「【図2】
[図:0001426825000001.jpg]
」
「【図3】
[図:0001426825000002.jpg]
」
イ 上記記載について検討する。
(ア)甲第2号証の請求項3および段落【0007】及び【0011】の記載を参照すると、甲第2号証には「陽極用電極箔及び陰極用電極箔」を「巻き上げてなるコンデンサ素子」の制作に用いられる「陽極用電極箔及び陰極用電極箔」が記載されている。
(イ)甲第2号証の段落【0011】、【0013】、【0021】~【0023】及び【0025】の記載を参照すると、甲第2号証の「陽極用電極箔及び陰極用電極箔」は、「アルミニウム箔2」に「コロナ放電処理を施」すことにより「アルミニウム箔2の表面2aを物理的にエンボス加工して均一な凹凸面2bとして粗面化」した後、「電気化学的にエッチング処理」することにより「凹凸面2bからあらゆる方向に腐食穴2cを進行させて」「大幅に表面積を増大させ」たものである。
(ウ)甲第2号証の図2、3を参照すると、「該均一な凹凸面2bからあらゆる方向に腐食穴2cを進行させ」た「複数の腐食穴2cが存在する部位」が、アルミニウム箔2の「凹凸面2b」に沿って存在しており、その下層に「複数の腐食穴2cが存在する部位」を除いた残部として「腐食穴2cの存在しない部位」が存在するものと認められる。
また、甲第2号証の段落【0014】、【0021】及び図3を参照すると、「誘電酸化皮膜2d」が、アルミニウム箔2の表面2aにおいて、凹凸面2b、腐食穴2cに沿って、すなわち、「腐食穴2cが存在する部位」の表面に形成されている。
ウ 上記イの記載によれば、甲第2号証には「陽極用電極箔及び陰極用電極箔」について、次の発明(以下「甲第2発明」という。)が記載されている。
「 陽極用電極箔及び陰極用電極箔を巻き上げてなるコンデンサ素子の制作に用いられる陽極用電極箔及び陰極用電極箔であって、
コロナ放電処理を施すことによりアルミニウム箔2の表面2aを物理的にエンボス加工して均一な凹凸面2bとして粗面化した後、
電気化学的にエッチング処理することにより、凹凸面2bからあらゆる方向に腐食穴2cを進行させて大幅に表面積を増大させた、複数の腐食穴2cが存在する部位と、
腐食穴2cが存在する部位を除いた残部として腐食穴2cの存在しない部位を備え、
誘電酸化皮膜2dが、腐食穴2cが存在する部位の表面に形成されている、
陽極用電極箔及び陰極用電極箔。」
(4)甲第3号証及び甲第3発明
ア 甲第3号証(特開2002-367864号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】一般的なアルミ電解コンデンサは、アルミニウム箔をエッチング処理によって実効表面積を拡大させたエッチング箔の表面に化成処理により化成皮膜を形成した陽極箔と、アルミニウム箔をエッチング処理によって実効表面積を拡大させた陰極箔と、この陽極箔と陰極箔をその間にセパレータを介在させて巻回することによりコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸させるとともに、このコンデンサ素子を金属ケース内に封止することにより構成されている。」
「【0010】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明の請求項1に記載の発明は、エッチング箔を直流電源の陽極に接続された給電ローラと接触させ、上記直流電源の陰極に接続された複数の陰極板と電解液を有した化成槽内で上記エッチング箔に一定の耐電圧を有する化成皮膜を形成する工程と、このエッチング箔の両面に機械的な応力を交互に加えて化成皮膜に亀裂を形成する工程と、上記直流電源とは別の直流電源の陽極に接続された電極板と給電液を有した給電槽内で上記エッチング箔に液体給電する工程と、上記別の直流電源の陰極に接続された複数の陰極板と電解液を有した複数の化成槽内で上記化成皮膜を再化成して所定の耐電圧を有する化成皮膜を形成する工程とを備えたもので、この方法により、化成皮膜に均一な亀裂を形成することができるので、静電容量、耐電圧の特性のばらつきを低減し、化成処理における工程不良を低減した陽極箔を得ることができるという作用を有する。
【0011】請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、化成皮膜に亀裂を形成する工程がエッチング箔の両面をローラに交互に少なくとも1回以上押しつけるようにしたもので、エッチング箔の両面の化成皮膜に均一に亀裂を形成することができるという作用を有する。
【0012】請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、エッチング箔がローラと接触するときの接触角を110~160度の範囲としたもので、請求項2に記載の発明による作用効果よりもさらに化成皮膜に亀裂を形成することができるという作用を有する。
【0013】なお、エッチング箔の接触角が110度未満では、エッチング箔への機械的応力が強くなりすぎて箔切れを起こしやすくなり、また、接触角が160度を越えると化成皮膜に亀裂を形成しにくくなる。」
「【0016】本発明の一実施の形態による化成処理による化成皮膜を形成する製造装置の概念図を図1に示す。同図1において、1はアルミニウム箔をエッチング処理したエッチング箔で、厚さ0.07~0.12mm、幅が500mm、長さ100~2000mのものが用いられる。2は第1直流電源3および第2直流電源6の陽極側が接続されてエッチング箔1に電流を供給する給電ローラ、5および8は化成槽で、この化成槽5,8内には複数の陰極板4,7がそれぞれ設置され、電解液(図示せず)で満たされている。上記複数の陰極板4,7には第1直流電源3および第2直流電源6の陰極がそれぞれ接続されており、上記エッチング箔1が複数の陰極板4,7の間を通過することにより一定の耐電圧を有する化成皮膜を形成する。
【0017】9は亀裂形成部で、上記化成槽5および化成槽8で一定の耐電圧を有する化成皮膜を形成したエッチング箔1の表裏に、ローラで交互に機械的な応力を加えることにより上記化成皮膜に均一な亀裂を形成することができる。12は給電槽で、第3直流電源10の陽極を接続した電極板11と給電液(図示せず)を有しており、この電極板11の間をエッチング箔1が通過することにより電流をエッチング箔1に液体給電することができる。14および16は上記第3直流電源10の陰極と接続された陰極板13,15を有した化成槽で、エッチング箔1を上記化成槽14および化成槽16にて再化成して、所定の耐電圧を有する化成皮膜を形成した陽極箔17を得ることができる。」
「【0023】
【表1】
[図:0001426825000003.jpg]
」
イ 上記記載について検討する。
(ア)甲第3号証の段落【0002】の記載を参照すると、甲第3号証には「陽極箔と陰極箔」を「巻回することにより」作製される「アルミ電解コンデンサ」の「陽極箔」が記載されている。
(イ)甲第3号証の段落【0002】、【0010】~【0013】及び【0017】の記載を参照すると、甲第3号証の「陽極箔」は「アルミニウム箔をエッチング処理によって実効表面積を拡大させたエッチング箔の表面に化成処理により化成皮膜を形成した」ものであることが記載されている。
すると、甲第3号証の「陽極箔」は、「エッチング処理によって実効表面積を拡大させた部位」を備え、また、該「エッチング処理によって実効表面積を拡大させた部位」の表面に「化成処理により化成皮膜を形成」したものであると認められる。
(ウ)甲第3号証の段落【0011】には、甲第3号証の「陽極箔」は、エッチング箔の両面をローラに交互に少なくとも1回以上押しつけることにより、「エッチング箔の両面の化成皮膜に均一に亀裂を形成した」ものであることが記載されている。
ウ 上記イの記載によれば、甲第3号証には「電極箔」について、次の発明(以下「甲第3発明」という。)が記載されている。
「 陽極箔と陰極箔を巻回することにより作製されるアルミ電解コンデンサの陽極箔であって、
アルミニウム箔をエッチング処理によって実効表面積を拡大させた部位の表面に化成処理により化成皮膜を形成し、
エッチング箔の両面の化成皮膜に均一に亀裂を形成した、
陽極箔。」
(5)甲第4号証ないし甲第6号証の記載および周知技術
ア 甲第4号証(特開2005-264288号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0003】
一般的なアルミ電解コンデンサは、アルミニウム箔をエッチング処理によって実効表面積を拡大させた表面に陽極酸化により誘電体酸化皮膜を形成した陽極箔とアルミニウム箔をエッチング処理によって実効表面積を拡大させた陰極箔とをセパレータを介して巻回することによりコンデンサ素子を形成し、このコンデンサ素子に駆動用電解液を含浸させるとともに、このコンデンサ素子を金属ケース内に封止することにより構成されている。
【0004】
この種のアルミ電解コンデンサにおいて、その静電容量を高める或いは小形化を図るには、陽極箔の実効表面積を拡大し単位面積当たりの静電容量を高めることが必要不可欠になっており、陽極箔の実効表面積を拡大させるエッチング技術の開発が盛んに行われ、また、高電圧で高容量の化成箔を得るために化成技術の開発も行われている。
【0005】
なお、エッチング処理して実効表面積を拡大されたものをエッチング箔とし、そのエッチング箔に化成処理されたものを化成箔とし、この化成箔をアルミ電解コンデンサに使用されるときに陽極箔とされている。
【0006】
前記エッチング箔のエッチング処理方法は、硫酸、硝酸、燐酸、蓚酸などの皮膜を形成する酸を添加した塩酸水溶液中で化学的あるいは電気化学的に行われているが、特に中高圧用に使用されるエッチング箔のエッチング処理方法は、基本的にはトンネル状のピット(以下、単にピットと称す)を生成させる前段エッチング工程と、このピットをアルミ電解コンデンサの使用電圧に適した径まで拡大する後段エッチング工程とからなる方法で、いかに数多くのピットを生成させて、そのピットを効率よく拡大させるかが重要なポイントとなっている。」
イ 甲第5号証(特開2007-16255号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0017】
本発明は、このような技術背景に鑑みてなされたものであって、エッチピットを高密度かつ均一に形成させ、このエッチピットを起点に深くかつトンネル内で結合が起こりにくくエッチングすることで確実に拡面率を高め、静電容量の更なる増大を図ることができる、エッチング特性に優れた電解コンデンサ電極用アルミニウム材及びその製造方法、アルミニウム電解コンデンサ用電極材ならびにアルミニウム電解コンデンサを提供することを目的とする。」
「【0049】
これらの元素は、アルミニウム材1の表面にそのまま付着した状態でも効果を発現するが、前述したように加熱処理を施すことでアルミニウム材1中に拡散し、図1(e)に示すように、表面に濃化層7を形成する。これにより、エッチピットの不均一発生を抑止して、よりエッチピットの分散性の制御効果を高めることができる。その際、貴な元素はアルミニウムとの境界域においてエッチピットの発生を促進する効果があり,また、卑な元素は境界域あるいはそれ自体がエッチピット発生の起点となりやすい傾向がある。本発明はこの原理を利用し、エッチピットの分布を更に積極的に制御することも狙いとしている。
[電解エッチング処理]
上記により製造したアルミニウム材の拡面化にあたっては、塩素イオンを含む水溶液中にリン酸、硫酸、硝酸等を添加した電解液中で電解エッチング処理する。基本的にはトンネルエッチングされる直流エッチングを施すのが望ましいが、初期のエッチング核形成についてはこの限りではない。すなわち、拡散した金属を有効な核とするための初期エッチングとその後のトンネルピット形成のためのエッチングを別々に行うことは、何ら問題なく、むしろ積極的に推奨されるべきものである。
【0050】
エッチングで得られるエッチピット径は、円相当径0.4~10μmの範囲に規定されているのが望ましいが、適正なエッチピット径は、化成電圧によって異なる。中圧(化成電圧200-500V)の場合のエッチピット径は、円相当径で0.7~1.5μmが好ましく、間隔はエッチピット中心間距離で1~4μmが好ましい。高圧(化成電圧500V以上)の場合のエッチピット径は、円相当径で2~3μmが好ましく、間隔はエッチピット中心間距離で3~15μmが好ましい。」
ウ 甲第6号証(特開2008-144255号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
中高圧電極コンデンサ用の電極材として一般に用いられるアルミニウム箔には、その実効面積を拡大して単位面積あたりの静電容量を増大するため、通常、電気化学的もしくは化学的エッチング処理が施される。とりわけ、化成電圧が高くたとえば200V以上の電圧で化成処理される電解コンデンサ用のアルミニウム箔は、箔表面の面積拡大エッチング処理に直流電解法が用いられている。この方法は、一次直流電解エッチング法でアルミニウム箔表面に初期のトンネル状ピットを多数穿孔し、次いで処理条件を変えて二次直流電解エッチング法で初期トンネルピットの径を拡大してトンネル状に穿孔するものである。」
「【0013】
このように、近年の電解コンデンサの小型化および高静電容量化の要求の高まりに鑑み、高純度アルミニウム箔コイル内での高レベルの(100)方位密度(99%レベル)の実現とエッチングピットの分散密度の均一化をはかり、しかも一部の直流電解エッチング条件によって生じる場合があった局部的かつ圧延方向に展伸した未エッチング部の発生を解消することが求められている。」
「【0083】
また、この電極材を用いた電解コンデンサは大きな静電容量を実現できる。電解コンデンサの種類や製造方法は特に限定されることはないが、例えば、それぞれリードタブが電気的に接続された陽極材と陰極材とをセパレータを介して巻回または積層したコンデンサ素子に、駆動用電解液を含浸して、アルミニウム電解コンデンサとする製造方法を挙げることができる。」
エ 以上、甲第4号証ないし甲第6号証の記載から、次の技術(以下、「周知技術」という。)が記載されているものと認められる。
「巻回形コンデンサに用いられる電極箔において、箔の表面に、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部を形成すること。」
(6)甲第7号証
甲第7号証(特開2013-153024号公報)には以下の事項が記載されている。
「【0033】
次に、第1実施形態に係る電解コンデンサの製造方法について説明する。図5は、本実施形態に係る電解コンデンサの製造工程を示すフローチャートである。図6は、図5に示すレーザ加工処理を説明するための斜視図である。
【0034】
(エッチング工程)
まず、エッチング工程においては、アルミニウム箔をエッチング液(塩酸等の強酸性の水溶液)中に配置し、このアルミニウム箔に対して直流電圧や交流電圧により電気化学的処理(エッチング処理)を施す。これにより、アルミニウム箔の表面は、凹凸状となって粗面化され、表面積が拡大する。これにより、高倍率箔あるいは高圧箔といった電極箔1,2が形成される(ステップS101)。
【0035】
(化成工程)
次に、化成工程においては、電極箔1,2を化成液(硼酸アンモニウム等の弱酸性の水溶液)中に配置し、電極箔1,2に対して直流電圧を印加する。これにより、電極箔1,2の表面には、誘電体となるアルミニウム酸化皮膜が形成される(ステップS102)。
【0036】
(レーザ加工工程)
コンデンサ素子7は、最初にセパレータ3を巻き取りながら巻芯を形成し、巻芯と、引き続き巻き取られるセパレータ3との間に、陽極箔1と陰極箔2を各々差し込んで、巻芯側からセパレータ3、陰極箔2、セパレータ3、陽極箔1の順になるよう、円筒形に巻き取り形成する。
レーザ加工工程は、陽極箔1と陰極箔2の外側面に各々、レーザ照射器L1,L2を配置し、これらのレーザ照射器L1,L2から陽極箔1および陰極箔2の表面に向けてレーザを照射する(ステップS103、図6参照)。
これにより、陽極箔1および陰極箔2の表面には、図3,4に示すような第1および第2の溝D1,D2が形成される。特に、第1の溝D1は、陽極箔1および陰極箔2の搬送方向に対して交差する方向にレーザを走査しながら照射することによって形成される。これにより、第1の溝D1の両端部D1aは、陽極箔1および陰極箔2の長辺1A,2Aに一致するように形成される。・・・(後略)・・・」
「【0040】
(エージング工程)
次に、エージング工程においては、高温下で電解コンデンサに直流電圧を印加し、電極箔1,2に対するレーザ加工や巻回によって損傷した酸化皮膜の修復を行う(ステップS107)。これにより、電解コンデンサの完成品が形成される。」
「【0056】
たとえば、第1の溝や第2の溝は、コンデンサ素子の外側よりも内側に位置するものほど、あるいはその逆に溝同士の間隔が狭くなるように形成してもよい。そうした場合、コンデンサ素子の外側と内側とで電解液の含浸性が異なる場合に好適に対応することができる。
具体的には、含浸性が低い部分ほど溝同士の間隔を狭めて溝を密に形成することにより、電解液の含浸性を高めることができる。」
(7)甲第8号証
甲第8号証(特開2014-135481号公報)には以下の事項が記載されている。
「【0043】
ここで、巻回する前に、巻回時のストレスを予め加えて亀裂を生じさせた上で、化成により該亀裂を修復した陽極体を巻回してコンデンサ素子を形成してもよい。巻回型コンデンサ素子20を形成する際の巻回工程において、巻回時の曲げ応力により焼結層にストレスが加わり亀裂が生じることがあり、この亀裂によってコンデンサ素子形成後の化成工程において化成効率が悪化したり、化成時に発生する反応ガスによってコンデンサが膨張したりすることがあった。この亀裂は、巻回後の化成工程で、修復することもできるが、上述したように巻回時のストレスを予め加えて亀裂を生じさせた上で、化成により該亀裂を修復することで、予め亀裂を発生させた上で修復しているため、巻回工程で新たに生じる亀裂は少ない。このため、巻回工程後の化成工程においては、化成効率が改善し、また、化成工程で生じるガスの発生量を抑制し、コンデンサの膨らみを抑制できるので、コンデンサの寿命を向上させることができる。予め亀裂を発生させるには、例えば、焼結層が形成された陽極体の化成工程中や、巻回によるコンデンサ素子形成工程前に、巻回手段の巻き軸より小径のローラーに巻き付けることにより、行うことができる。」
(8)甲第9号証
甲第9号証(特開平8-264391号公報)には以下の事項が記載されている。
「【0005】即ち、本願発明による電解コンデンサ用アルミニウム箔の製造方法は、少なくとも塩素イオンを含む水溶液中において、第1の工程にて直流電流で電気化学的にエッチングを行い、さらに第2の工程にて少なくとも塩素イオンと硫酸イオンを含む水溶液中で直流電流にて電気化学的にエッチングを行い、その後第3工程として少なくとも硝酸イオンあるいは塩素イオンを含む水溶液中で電気化学的あるいは化学的にエッチングし、前2段の工程で形成したピットを拡大する第3の工程を経てなる電解コンデンサ用アルミニウム箔のエッチング方法において、第1の工程で貫通ピットを設け、第2の工程で非貫通ピットを設けることを特徴とするものである。」
3 当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号違反について
特許異議申立人は、原出願の当初明細書等に、分断部が「連続」であるものについて記載も示唆もないから、本件特許は原出願の当初明細書等に記載されていたものとは認められず、本件特許出願は不適法な分割出願である旨主張している。
しかしながら、そもそも本件発明に分断部が「連続」であることを特定する記載がなされているわけではなく、また、上記「第4 取消理由通知に記載した取消理由について」の「2 当審の判断 (3)特許法第36条第6項第1号について ア 理由2-1について」において検討した点を踏まえると、原出願の当初明細書には分断部が連続するものについて記載がないとまではいえない。
以上を踏まえると、本件発明は適法な分割出願であるといえ、その出願日は原出願の時にしたものとみなされるから、特許法第29条第1項第3号違反であるとはいえない。
(2)特許法第39条第2項違反について
ア 特許異議申立人は、本件特許1及び4ないし13は、原出願に係る特許第7180049号(以下「原出願発明」という。)の請求項1ないし11に係る発明(以下「原出願発明1ないし11」という。)と実質同一であるから、本件特許は特許法第39条第2項違反に該当し、取り消されるべきである旨主張している。
イ 本件発明1及び本件発明4ないし6について
本件特許出願と原出願とは上記(1)で検討したように同日出願であるところ、本件特許1と原出願発明1とを対比すると、次の点で相違する。
相違点1 分断部について、原出願発明1は「前記拡面部に不連続で延在し」と特定されているのに対し、本件発明1はそのように特定されていない点
相違点2 分断部について、本件発明1は「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、」と特定されているのに対し、原出願発明1はそのように特定されていない点
以上から、本件発明1と原出願発明1とは同一であるとはいえないから、特許法第39条第2項違反であるとはいえない。
本件発明1を引用する本件発明4ないし6と、原出願発明1を引用する原出願発明2ないし4も同様に相違するから、特許法第39条第2項違反であるとはいえない。
ウ 本件発明7ないし13について
本件発明7と原出願発明5、本件発明9と原出願発明7、本件発明13と原出願発明11も、本件発明1と原出願発明1と同様の点で相違し、同一であるとはいえないから、特許法第39条第2項違反であるとはいえない。。
そして、本件発明7を引用する本件発明8と原出願発明5を引用する原出願発明6、本件発明9を引用する本件発明10ないし12と原出願発明7を引用する原出願発明8ないし10も同様の点で相違するから、特許法第39条第2項違反であるとはいえない。
(3)特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項違反について
(3-1)甲第2号証に基づく取消理由について
ア 本件発明1について
特許異議申立人は、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるか、又は甲第2号証に記載された発明に基いてもしくは甲第2号証に記載された発明および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張(特許異議申立書第42頁第26行~第43頁第34行)している。
そこで、本件発明1と甲第2発明とを対比する。
(ア)甲第2発明における「コンデンサ素子」は「陽極用電極箔及び陰極用電極箔を巻き上げてなる」ことから、本件発明1の「巻回形コンデンサ」に相当する。
また、甲第2発明における「陽極用電極箔及び陰極用電極箔」は「陽極用電極箔及び陰極用電極箔を巻き上げてなるコンデンサ素子の制作に用いられる」ものであるから、「組み込まれる前」であり、一定の長さを有する「帯状の箔」であることは明らかである。
すると、甲第2発明における「陽極用電極箔及び陰極用電極箔」と、本件発明1の「電極箔」とは、「巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔」であり、「帯状の箔により成る」点で一致する。
(イ)甲第2発明における「腐食穴2c」は、「あらゆる方向に」「進行」するものであり、また、図2の記載も参酌すると「トンネル状のピット」に相当すると認められる。
そして、甲第2発明における「複数の腐食穴2cが存在する部位」は「凹凸面2bからあらゆる方向に腐食穴2cを進行させて大幅に表面積を増大させた」部位であるから、本件発明1の「多数のトンネル状のピットにより成る拡面部」に相当し、また、甲第2発明における「腐食穴2cの存在しない部位」は、本件発明1の「芯部」に相当する。
(ウ)甲第2発明の「誘電酸化皮膜2d」は、「腐食穴2cが存在する部位の表面に形成されている」から、本件発明1の「誘電体皮膜」と、「前記拡面部」「の表面に形成された誘電体皮膜」である点で一致する。
(エ)以上のことから、本件発明1と甲第2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔であって、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成され、多数のトンネル状のピットにより成る拡面部と、
前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部と、
前記拡面部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備える電極箔。」
<相違点>
相違点3 本件発明1は、「前記拡面部を分断する複数の分断部」を備え、誘電体皮膜が「前記分断部の表面に形成され」るとともに、「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回される」のに対し、甲第2発明は、「分断部」について特定されておらず、その結果、分断部の形成箇所及び巻回形コンデンサに組み込まれる際にどのような状態で巻回されるのか特定されていない点。
(オ)すると、本件発明1と甲第2発明とは、上記相違点3で相違するから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。
そして、甲第2号証及び周知技術(上記「2(5)」を参照)には、「前記拡面部を分断する複数の分断部」について何ら記載も示唆もされていないから、甲第2発明において、本件発明1の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
(カ)特許異議申立人は特許異議申立書において、「【図2】においては、図面において左右の腐食穴2cを、図面において中央の凹凸面2bが分断しているから、甲第2号証には「拡面部を分断する複数の分断部」が記載されている。」と主張(特許異議申立書第29頁第20~21行)している。
ここで、甲第2号証は「アルミニウム箔の両面、片面又は所要の一部にコロナ放電処理を施して表面に無数の凹凸を形成した後、該アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理して表面積を大幅に増大させた陽極用電極箔及び陰極用電極箔」(【0011】)であり、「コロナ放電処理されたアルミニウム箔2を電気化学的にエッチング処理すると、コロナ放電処理によって形成された凹凸面2bから腐食があらゆる方向に進行」することによりアルミニウム箔2の「表面積が著しく増大する」(【0022】)ものである。
すると、甲第2発明においては、「凹凸面2bから腐食があらゆる方向に進行」することにより「腐食穴2cが存在する部位」が形成されるものであるから、甲第2発明における「腐食穴2c」は「凹凸面2b」から進行するものであり、また、「腐食穴2cが存在する部位」は「凹凸面2b」の下層に連続して延在するものであると認められる。
したがって、「凹凸面2b」は「腐食穴2c」を分断するものでも、「腐食穴2cが存在する部位」を分断するものでもないといえる。
なお、甲第2発明の「腐食穴2c」は本件発明1の「トンネル状のピット」に相当するものであるところ、仮に特許異議申立人が主張するように「腐食穴2c」を「凹凸面2b」が分断していたとしても、「腐食穴2cが存在する部位」、すなわち、本件発明1の「拡面部」を分断するものではない。
以上のとおりであるから、異議申立人の主張は採用することができない。
(キ)また、特許異議申立人が提出した甲第3号証、甲第7ないし9号証からも、上記相違点3に係る構成を導き出すことはできず、甲第2発明において、本件発明1の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
イ 本件発明2ないし13について
本件発明1を引用する本件発明2ないし6は、上記相違点3に係る構成を有するから、同様に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件発明7は、電極箔に「前記拡面部を分断する複数の分断部」を備えた「巻回形コンデンサ」に係る発明、また、本件発明9は、箔に「前記拡面部を分断する複数の分断部を延在させるステップ」を有する「電極箔の製造方法」に係る発明であり、本件発明1と同様の相違点を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明であるとも、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
そして、本件発明7を引用する本件発明8、本件発明9を引用する本件発明10ないし12も、同様に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明13は、電極箔を形成する箔形成ステップとして「前記拡面部を分断する複数の分断部を延在させるステップ」を有する「巻回形コンデンサの製造方法」に係る発明であり、本件発明1と同様の相違点を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3-2)甲第3号証に基づく取消理由について
ア 本件発明1について
特許異議申立人は、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明、甲8号証に記載された発明および周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張(特許異議申立書第52頁第6行~第54頁第6行)している。
そこで本件発明1と甲第3発明とを対比する。
(ア)甲第3発明における「アルミ電解コンデンサ」は、「陽極箔と陰極箔をその間にセパレータを介在させて巻回することにより」「作製される」ことから、本件発明1の「巻回形コンデンサ」に相当する。
また、甲第3発明における「陽極箔」は「アルミ電解コンデンサ」に「組み込まれる前」のものであり、一定の長さを有する「帯状の箔」であることは明らかである。
すると、甲第3発明における「陽極箔」は、本件発明1の「電極箔」と、「巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔」であり、「帯状の箔により成る」点で一致する。
(イ)甲第3発明における「陽極箔」は「エッチング処理によって実効表面積を拡大させたエッチング箔」であるから、「エッチング処理によって実効表面積を拡大させた部位」を有することは明らかである。
そして、甲第3発明における「陽極箔」の「エッチング処理によって実効表面積を拡大させた部位」は、本件発明1の「拡面部」と、「前記箔の表面に形成され」「る拡面部」である点で一致する。
(ウ)甲第3発明の「化成皮膜」は、「エッチング箔の表面に化成処理により」「形成」されるものであるから、本件発明1の「誘電体皮膜」と、「前記拡面部」「の表面に形成された誘電体皮膜」である点で一致する。
(エ)以上のことから、本件発明1と甲第3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「 巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔であって、
帯状の箔により成り、
前記箔の表面に形成される拡面部と、
前記拡面部の表面に形成された誘電体皮膜と、
を備える電極箔。」
<相違点>
相違点4 本件発明1は、「拡面部」が「多数のトンネル状のピットにより成る」と特定されているのに対し、甲第3発明は、そのように特定されていない点。
相違点5 本件発明1は、「前記箔のうち、前記拡面部を除いた残部である芯部」を備えるのに対し、甲第3発明は、そのように特定されていない点。
相違点6 本件発明1は、「前記拡面部を分断する複数の分断部」を備え、誘電体皮膜が「前記分断部の表面に形成され」るとともに、「前記分断部は、前記電極箔の両面又は巻回時に外側になる表面に形成され、前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回される」のに対し、甲第3発明は、「分断部」について特定されておらず、その結果、分断部の形成箇所及び巻回形コンデンサに組み込まれる際にどのような状態で巻回されるのか特定されていない点。
(オ)事案に鑑み、相違点6について検討する。
甲第8号証および周知技術(上記「2(5)」を参照)には「前記拡面部を分断する複数の分断部」について何ら記載も示唆もされていないから、甲第3発明において、本件発明1の上記相違点6に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
(カ)特許異議申立人は異議申立書において、「構成Eにおける「前記拡面部を分断する複数の分断部」について、甲第3号証には、~エッチング箔とローラとの接触角が110度未満では、エッチング箔への機械的応力が強くなりすぎて箔切れを起こしやすくなることも記載されている(【0013】)。ここで、巻回形コンデンサ用電極箔の技術分野において「箔切れ」とは一般的に、箔の表面等に形成された亀裂が芯部にまで至り、更に芯部を切断して箔全体が切れてしまうことをいう。・・・(中略)・・・そして、甲第3号証では、エッチング箔に化成皮膜を形成していることから(【0010】)、化成皮膜と芯部との間に拡面部が存在しているのは明らかである。そうすると、甲第3号証の請求項2に係る発明のうち接触角が110度未満の実施形態においては、エッチング箔への機械的応力が強くなりすぎて、化成皮膜に形成したはずの亀裂が化成皮膜にとどまらず拡面部にまで達している可能性があり、接触角を小さくするほどその可能性は高くなることを甲第3号証の【0013】は示唆している。・・・(中略)・・・以上のことから、甲第3号証の【0013】に接した当業者であれば、更に「前記拡面部を分断する複数の分断部」が電極箔に備えられる様にすることは容易に想到し得る。」と主張(特許異議申立書第53頁第10~30行)している。
しかしながら、甲第3号証には「化成皮膜」に亀裂を形成することは記載されているが、それ以外の部位に亀裂を形成することについては記載も示唆もない。
そして、甲第3号証の段落【0013】には「エッチング箔の接触角が110度未満では、エッチング箔への機械的応力が強くなりすぎて箔切れを起こしやすくな」ることも記載されていることから、甲第3号証においては、箔切れを起こしやすくなる「化成皮膜」以外の部位に亀裂を形成することは、避けるべきものであると認められる。
すると、「化成皮膜」に亀裂を形成する甲第3発明において、仮に接触角を110度未満とすることにより化成皮膜に形成した亀裂が「陽極箔」の「エッチング処理によって実効表面積を拡大させた部位」にまで達している可能性があったとしても、箔切れを起こしやすくする「接触角110度未満」とすることは、当業者においては避けるべき事項であり、むしろ阻害要因があるといえる。
以上のとおりであるから、異議申立人の主張は採用することができず、本件発明1は、甲第3号証の記載から、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
(キ)また、特許異議申立人が提出した甲第2号証、甲第7及び9号証からも、上記相違点6に係る構成を導き出すことはできず、甲第3発明において、本件発明1の上記相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
イ 本件発明2ないし13について
本件発明1を引用する本件発明2ないし6も上記相違点6を有するところ、同様に甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
本件発明7は、電極箔に「前記拡面部を分断する複数の分断部」を備えた「巻回形コンデンサ」に係る発明、また、本件発明9は、箔に「前記拡面部を分断する複数の分断部を延在させるステップ」を有する「電極箔の製造方法」に係る発明であり、本件発明1と同様の相違点を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、本件発明7を引用する本件発明8、本件発明9を引用する本件発明10ないし12も、同様に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明13は、電極箔を形成する箔形成ステップとして「前記拡面部を分断する複数の分断部を延在させるステップ」を有する「巻回形コンデンサの製造方法」に係る発明であり、本件発明1と同様の相違点を有するものであるから、本件発明1と同様に、甲第3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)特許法第36条第6項第1号違反について
ア 特許異議申立人は、本件発明には、発明の詳細な説明に記載された、所定の範囲の長さを有する分断部という課題を解決するための手段が反映されていないから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであり、上記範囲以外の他の範囲を含みうる本件発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるとはいえないから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張している(特許異議申立書第66頁第18行~第67頁18行)と認められる。
上記主張について検討すると、本件特許明細書段落【0029】に「一本の分断部4が有する両端部の離間距離は・・・短いものでは10μm程度、長いものでは600μm程度が混在する。この範囲の長さを有する分断部4により、電極箔1の柔軟性及び延伸性が向上する。」と記載のある一方、範囲外の分断部を排除する記載や、範囲内の分断部により顕著な効果を奏する旨の記載はない。そして、本件特許明細書段落【0046】及び図4を参酌すれば、本件発明は分断部に曲げ応力が分散することにより効果を奏するものであって、「分断部」の長さによらず一定の効果を奏することは明らかであるから、本件発明は、課題を解決するための手段が反映されていないとはいえない。
以上から、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
イ 特許異議申立人は、本件発明が解決しようとする課題は、巻回時にクラックを発生させ難い電極箔を提供することにあるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に実験結果は示されておらず、本件発明は課題を解決できない部分を含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張している(特許異議申立書第67頁第19行~第68頁16行)と認められる。
上記主張について検討すると、本件特許明細書段落【0055】~【0057】には、分断部を設けたことにより伸縮性・柔軟性が向上するという実験結果が開示されている。ここで、伸縮性・柔軟性が向上するのは、本件特許明細書段落【0046】及び図4に記載されているように、巻回時に分断部が曲げ応力を分担して引き受けていることによるものであり、これにより、新たなクラックが生じにくくなることは明らかである。
以上から、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。
ウ 特許異議申立人は、発明の詳細な説明には、分断部の溝幅が0μmである場合、どのようにして巻回時のクラック発生を抑制するのかの実験結果は示されておらず、本件発明5及び6は、巻回時にクラックを発生させ難い電極箔を提供するという課題を解決できない部分を含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない旨主張している(特許異議申立書第69頁第32行~第70頁15行)と認められる。
上記主張について検討すると、上記訂正事項3により、「溝幅を完全に0μm」とするものではなく、本件特許明細書段落【0030】に記載された「電極箔1を湾曲させずに平坦にならした際、分断部4の界面が少なくとも部分的に接している状態」である「実質的に0」であると特定され、ここで、「平坦にした状態で」「溝幅が0μm」であれば、巻回時には分断部に曲げ応力が分散し、クラックを発生させ難くなることは明らかであるから、課題を解決できない部分を含んでいるとはいえない。
以上から、本件発明5及び6は、発明の詳細な説明に記載したものである。
(5)特許法第36条6項2号違反について
ア 特許異議申立人は、本件発明の分断部が、拡面部の一部であるのか、あるいは拡面部とは別のどの構成要素をいうのか、判然としないから本件発明は明確であるとはいえない旨主張している(特許異議申立書第71頁第23行~第73頁21行)と認められる。
上記主張について検討すると、本件特許明細書段落【0028】に記載されているように、本件発明において「分断部」は「拡面部」を分断するものであって、割れ目や裂け目、切れ込み等により「拡面部が不連続となっている部分」を指すものであることは明らかであり、本件発明は明確である。
なお、本件特許明細書段落【0037】の「誘電体皮膜5は、分断部4の溝内表面にも形成しておくことが好ましい。」等の記載を参酌すれば、「前記分断部の表面に形成された誘電体被膜」は、分断部により形成された溝の表面に形成するものであることは明らかである。
イ 特許異議申立人は、本件発明1及び7の「前記拡面部を分断する複数の分断部」という発明特定事項について、「複数の分断部」を製造する方法を特定するものであるから、本件発明1ないし8の記載は明確であるとはいえない旨の主張している(特許異議申立書第73頁第22行~第74頁13行)と認められる。
上記主張について検討すると、「前記拡面部を分断する複数の分断部」という発明特定事項は、「複数の分断部」を「前記拡面部を分断する」という用語により修飾し、「複数の分断部」の構成を限定して表現したものであることは明らかであり、仮に「複数の分断部」の形成よりも先に「前記拡面部」が形成されていない限り「前記拡面部を分断する」ことが不可能であったとしても、製造方法が記載されているとはいえないから、本件発明の記載は明確である。
ウ 特許異議申立人は、本件発明1及び7が、組み込まれる前の電極箔を特定しようとする発明なのか、組み込まれる際の電極箔を特定しようとする発明なのか、判然としないから、本件発明1ないし8の記載は明確であるとはいえない旨主張している(特許異議申立書第74頁第14行~第75頁11行)と認められる。
上記主張について検討すると、本件発明1は「巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔であって」と明記されていることから、組み込まれる際に「前記分断部が存在する状態で巻回される」ことが特定された「巻回形コンデンサに組み込まれる前の電極箔」であることは明らかである。
また、特許異議申立人は、本件発明1の「前記巻回形コンデンサに組み込まれる際、前記分断部が存在する状態で巻回されること、」という発明特定事項は製造方法を特定するものであり、カテゴリーを不明確にする記載であるから、本件発明1ないし6は明確であるとはいえない旨も主張していると認められるところ、当該記載は電極箔が巻回される前の状態において「分断部」を備えていることを特定しようとしたものであるといえ、当該記載が電極箔の製造方法を特定しようとするものではないことも明らかである。
以上から、本件発明1ないし8の記載は明確である。
エ 特許異議申立人は、本件発明5の「前記分断部は、前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む50μm以下であること」という発明特定事項において、分断部が、箔を平坦にした状態で溝を構成する両側壁などが互いに接している状態をいうのか、あるいは一つにつながっている拡面部を別れ別れに切り離した部分をいうのか判然としないから、本件発明5および6は明確でない旨主張している(特許異議申立書第75頁第12~35行)と認められる。
上記主張について検討すると、本件発明5の「前記分断部は、前記箔を平坦にした状態で溝幅が0を含む50μm以下であること」という発明特定事項は、分断部の状態や部分を特定するものではなく、分断部の溝幅について特定したものであることは明らかであり、また、上記訂正事項3により、分断部が「前記箔を平坦にした状能で溝幅が、当該分断部の界面が少なくとも部分的に接している状態である実質的に0」を含むものであることも明確となった。
以上から、本件発明5及び6の記載は明確である。
4 小括
以上から、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由により、本件発明を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1ないし13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700784