特許異議申立
2023-700760
エレクトレットシート
- 審判番号
- 2023-700760
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-019853
- 登録番号
- 7221582
- 請求日
- 2023年07月21日
- 審決日
- 2023年10月30日
- 公報発行日
- 2023年12月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【異議申立人】佐伯 圭佑
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 岩田 淳
- 審判官 須原 宏光
- 分類
- P1651.113-Y (H01G) / P1651.121-Y (H01G) / P1651.536-Y (H01G) / P1651.537-Y (H01G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7221582号発明「エレクトレットシート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7221582号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7221582号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)2月6日(優先権主張2016年(平成28年)2月4日)を出願日とする出願であって、令和5年2月6日にその特許権の設定登録がされ、令和5年2月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし3に係る特許に対し、令和5年7月21日に特許異議申立人佐伯圭佑(以下「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。
第2 本件発明
特許第7221582号の請求項1ないし3の特許に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
帯電された合成樹脂発泡シートを含み、25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上で且つ25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が6kV以上であり、発泡倍率が7.5倍以上であり、上記合成樹脂発泡シートは無機微粒子を含有していないことを特徴とするエレクトレットシート。
【請求項2】
25℃で且つ相対湿度90%における体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上で且つ25℃で且つ相対湿度90%における絶縁破壊電圧が4kV以上であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトレットシート。
【請求項3】
合成樹脂発泡シートの厚みが10~300μmであることを特徴とする 請求項1又は2に記載のエレクトレットシート。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた申立ての理由は、以下のとおりである。
1 申立理由1
本件特許の請求項1ないし3に係る各特許発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきである。
2 申立理由2
本件特許の請求項1ないし3に係る特許発明は、甲第1号証を主たる引用文献とした場合に、周知技術(例えば、甲第2号証や甲第4号証)および技術常識(例えば、甲第3号証)を考慮して、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、また甲第5~8号証に記載された事項を考慮すると顕著な技術的効果が奏されるとは言えないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3
本件発明1ないし3について、明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていないものであり、その特許は同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
4 申立理由4
本件発明1ないし3について、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないものであり、その特許は同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきである。
甲第1号証:国際公開第2015/137351号
甲第2号証:特開2013-42484号公報
甲第3号証:国際公開第2018/164207号
甲第4号証:特開2014-90916号公報
甲第5号証:特開2013-203058号公報
甲第6号証:特開2008-156396号公報
甲第7号証:Exxon Mobil Corporationのウェブページに掲載の「ExactTM 3027」のペ-ジ(URL: https://www.exxonmovilchemical.com/en/chemicals/webapi/dbs/v1/datasheets/150000100712/0/en)の印刷物(印刷日:令和5年7月20日)およびその抄訳
甲第8号証:株式会社ロンビックのウェブペ-ジ(URL: https://www.rhombic.co.jp/business/resin-sales-2-2)、「樹脂販売のご案内」と題するペ-ジに掲載の「ノバテックLD/高圧法低密度ポリエチレン」のペ-ジ(URL: https://www.rhombic.co.jp/wp-content/uploads/2017/03/novatec-ld.pdf)の印刷物(印刷日:令和5年7月20日)
第4 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、「エレクトレットシート」について、以下の各記載がある(下線は当審で付与した。)。
「[0001] 本発明は、エレクトレットシート及び圧電センサに関する。」
「[0015] 本発明のエレクトレットシート及び圧電センサを詳細に説明する。本発明のエレクトレットシートは、平均厚みが90~150μm、発泡倍率が3.5~9倍及びゲル分率が35~50重量%である、帯電されているプロピレン系樹脂発泡シートを含み、上記プロピレン系樹脂発泡シートは、重量平均分子量が370000~420000であるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の架橋体を60重量%以上含有する樹脂組成物を含有している。」
「[0072] 次に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[0073](実施例1~42、比較例1~22)
下記のプロピレン-エチレンランダム共重合体A~Eを用意した。
プロピレン-エチレンランダム共重合体A(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWFX4T」、エチレン単位の含有量:4重量%、重量平均分子量:377000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:730ppm)
プロピレン-エチレンランダム共重合体B(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWEG7T」、エチレン単位の含有量:1重量%、重量平均分子量:408000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:540ppm)
プロピレン-エチレンランダム共重合体C(日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックEG7FTB」、エチレン単位の含有量:1~10重量%、重量平均分子量:413000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:30ppm)
プロピレン-エチレンランダム共重合体D(プライムポリマー社製 商品名「プライムポリプロB221WA」、エチレン単位の含有量:1~10重量%、重量平均分子量:508000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:780ppm)
プロピレン-エチレンランダム共重合体E(プライムポリマー社製 商品名「プライムポリプロB241」、重量平均分子量:527000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:250ppm)
(中略)
[0076] プロピレン-エチレンランダム共重合体A~E及びAW~EW、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アゾジカルボンアミド、メチルベンゾトリアゾール、並びに、テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを表1~9に示した所定量ずつ押出機に供給して溶融混練し、Tダイからシート状に押出し、厚みが450μmである発泡性樹脂シートを製造した。発泡性樹脂シートを一辺が30cmの平面正方形状に切り出した。
[0077] 得られた発泡性樹脂シートの両面に電子線を加速電圧300kVの条件下にて表1~9に示した強度で照射し、発泡性樹脂シートのプロピレン-エチレンランダム共重合体を架橋した。
[0078] 発泡性樹脂シートを250℃に加熱して発泡性樹脂シートを発泡させてプロピレン系樹脂発泡シートを得た。得られたプロピレン系樹脂発泡シートを130℃の軟化状態に維持し、プロピレン系樹脂発泡シートを自動一軸延伸装置(井元製作所社製 商品名「IMC-18C6型」)を用いて押出方向に延伸速度900mm/minにて表1~9に示した延伸倍率に一軸延伸した。
[0079] プロピレン系樹脂発泡シートの一面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、プロピレン系樹脂発泡シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧-10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させてプロピレン系樹脂発泡シートを帯電させた。その後、電荷を注入したプロピレン系樹脂発泡シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持してエレクトレットシートを得た。
[0080] 得られたエレクトレットシートについて、ゲル分率、平均厚み、発泡倍率、35℃及び80℃における通常圧電性、並びに、35℃及び80℃における耐圧圧電性を上述の要領で測定し、その結果を表1~9に示した。得られたエレクトレットシートを80℃で1日間に亘って養生した。養生後のエレクトレットシートの35℃における耐圧圧電性を上述の要領で測定した。結果を表1~9の「80℃養生後の耐圧圧電性」の欄に示した。なお、表中の「脂肪酸及び脂肪酸誘導体の総含有量(ppm)」は、「樹脂組成物中の全てのプロピレン-エチレンランダム共重合体の架橋体の全重量に対する、樹脂組成物中の全てのプロピレン-エチレンランダム共重合体の架橋体中に含まれている脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量」を意味する。表中の「脂肪酸及び脂肪酸誘導体の総含有量(ppm)」の欄において、「<1」は、「1ppm未満」を意味する。
[0081]
[表1]
[図:0001404829000001.jpg]
」
「[請求項1] 平均厚みが90~150μm、発泡倍率が3.5~9倍及びゲル分率が30~50重量%である、帯電されているプロピレン系樹脂発泡シートを含み、上記プロピレン系樹脂発泡シートは、重量平均分子量が370000~420000であるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の架橋体を60重量%以上含有する樹脂組成物を含有していることを特徴とするエレクトレットシート。」
(2)上記記載から、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 段落[0015]、[請求項1]によれば、甲第1号証には、「平均厚みが90~150μm、発泡倍率が3.5~9倍及びゲル分率が30~50重量%である、帯電されているプロピレン系樹脂発泡シートを含み、上記プロピレン系樹脂発泡シートは、重量平均分子量が370000~420000であるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の架橋体を60重量%以上含有する樹脂組成物を含有していることを特徴とするエレクトレットシート。」が記載されている。
イ 段落[0001]、[0072]、[0080]によれば、「本発明は、エレクトレットシート」「に関する」ものであり、「本発明の実施例を説明する」記載において、「表1」は「得られたエレクトレットシートについて、ゲル分率、平均厚み、発泡倍率、35℃及び80℃における通常圧電性、並びに、35℃及び80℃における耐圧圧電性を上述の要領で測定し、その結果を」「示した」ものであるところ、当該表1には、各「実施例」について、「ゲル分率(重量%)」、「ポリプロピレン系樹脂発泡シートの平均厚み(μm)」、「発泡倍率(倍)」、「35℃」及び「80℃」の「通常圧電性」、「35℃」及び「80℃」の「耐圧圧電性」が記載されているから、表1に記載の各実施例はエレクトレットシートである。
ウ 段落[0081]の表1には、「実施例」「3」として、「組成(重量部)」は、「樹脂」「プロピレン-エチレンランダム共重合体」「A」が「100」、「架橋剤」「トリメチロールプロパントリメタクリレート」が「3.6」、「発泡剤」「アゾジカルボンアミド」が「8.8」、「金属害防止剤」「メチルベンゾトリアゾール」が「0.5」、「酸化防止剤」「テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン」が「1」であることが記載されている。
そして、段落[0073]の「プロピレン-エチレンランダム共重合体A(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWFX4T」、エチレン単位の含有量:4重量%、重量平均分子量:377000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:730ppm)」との記載、及び上記イを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例3として、プロピレン-エチレンランダム共重合体A(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWFX4T」、エチレン単位の含有量:4重量%、重量平均分子量:377000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:730ppm)が100重量部、架橋剤であるトリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミドが8.8重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部、酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部からなる、エレクトレットシートが記載されているといえる。
エ 段落[0081]の表1には、「実施例」「3」として、「電子線照射強度(kGy)」が「25」、「延伸倍率(倍)」が「4」であることが記載されており、上記イを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例3として、電子線照射強度が25kGy、延伸倍率が4倍である、エレクトレットシートが記載されているといえる。
オ 段落[0076]ないし[0080]の記載に、上記イ、ウ、エを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例3として、「プロピレン-エチレンランダム共重合体A」「、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アゾジカルボンアミド、メチルベンゾトリアゾール、並びに、テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを」上記ウに示した「所定量ずつ押出機に供給して溶融混練し、Tダイからシート状に押出し、厚みが450μmである発泡性樹脂シートを製造し」、「発泡性樹脂シートを一辺が30cmの平面正方形状に切り出し」、「得られた発泡性樹脂シートの両面に電子線を加速電圧300kVの条件下にて」電子線照射強度25kGy「で照射し、発泡性樹脂シートのプロピレン-エチレンランダム共重合体を架橋し」、「発泡性樹脂シートを250℃に加熱して発泡性樹脂シートを発泡させてプロピレン系樹脂発泡シートを得」、「得られたプロピレン系樹脂発泡シートを130℃の軟化状態に維持し、プロピレン系樹脂発泡シートを自動一軸延伸装置」「を用いて押出方向に延伸速度900mm/minにて」延伸倍率4倍「に一軸延伸し」、「プロピレン系樹脂発泡シートの一面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、プロピレン系樹脂発泡シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧-10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させてプロピレン系樹脂発泡シートを帯電させ」、「その後、電荷を注入したプロピレン系樹脂発泡シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持し」、「80℃で1日間に亘って養生した」、エレクトレットシートが記載されているといえる。
カ 段落[0081]の表1には、「実施例」「3」として、「ポリプロピレン系樹脂発泡シートの平均厚み(μm)」が「123」、「発泡倍率(倍)」が「8.1」であることが記載されており、上記イを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例3として、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの平均厚みが123μmであり、発泡倍率が8.1倍である、エレクトレットシートが記載されているといえる。
キ 段落[0081]の表1には、「実施例」「6」として、「組成(重量部)」は、「樹脂」「プロピレン-エチレンランダム共重合体」「B」が「100」、「架橋剤」「トリメチロールプロパントリメタクリレート」が「3.6」、「発泡剤」「アゾジカルボンアミド」が「8.8」、「金属害防止剤」「メチルベンゾトリアゾール」が「0.5」、「酸化防止剤」「テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン」が「1」であることが記載されている。
そして、段落[0073]の「プロピレン-エチレンランダム共重合体B(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWEG7T」、エチレン単位の含有量:1重量%、重量平均分子量:408000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:540ppm)」との記載、及び上記イを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例6として、プロピレン-エチレンランダム共重合体B(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWEG7T」、エチレン単位の含有量:1重量%、重量平均分子量:408000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:540ppm)が100重量部、架橋剤であるトリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミドが8.8重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部、酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部からなる、エレクトレットシートが記載されているといえる。
ク 段落[0081]の表1には、「実施例」「6」として、「電子線照射強度(kGy)」が「25」、「延伸倍率(倍)」が「4」であることが記載されており、上記イを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例6として、電子線照射強度が25kGy、延伸倍率が4倍である、エレクトレットシートが記載されているといえる。
ケ 段落[0076]ないし[0080]の記載に、上記イ、キ、クを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例6として、「プロピレン-エチレンランダム共重合体」B「、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アゾジカルボンアミド、メチルベンゾトリアゾール、並びに、テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを」上記キに示した「所定量ずつ押出機に供給して溶融混練し、Tダイからシート状に押出し、厚みが450μmである発泡性樹脂シートを製造し」、「発泡性樹脂シートを一辺が30cmの平面正方形状に切り出し」、「得られた発泡性樹脂シートの両面に電子線を加速電圧300kVの条件下にて」電子線照射強度25kGy「で照射し、発泡性樹脂シートのプロピレン-エチレンランダム共重合体を架橋し」、「発泡性樹脂シートを250℃に加熱して発泡性樹脂シートを発泡させてプロピレン系樹脂発泡シートを得」、「得られたプロピレン系樹脂発泡シートを130℃の軟化状態に維持し、プロピレン系樹脂発泡シートを自動一軸延伸装置」「を用いて押出方向に延伸速度900mm/minにて」延伸倍率4倍「に一軸延伸し」、「プロピレン系樹脂発泡シートの一面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、プロピレン系樹脂発泡シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧-10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させてプロピレン系樹脂発泡シートを帯電させ」、「その後、電荷を注入したプロピレン系樹脂発泡シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持し」、「80℃で1日間に亘って養生した」、エレクトレットシートが記載されているといえる。
コ 段落[0081]の表1には、「実施例」「6」として、「ポリプロピレン系樹脂発泡シートの平均厚み(μm)」が「121」、「発泡倍率(倍)」が「8.1」であることが記載されており、上記イを合わせ考慮すると、甲第1号証には、実施例6として、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの平均厚みが121μmであり、発泡倍率が8.1倍である、エレクトレットシートが記載されているといえる。
(3)上記(2)から、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明1」ないし「甲1発明3」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明1)
「平均厚みが90~150μm、発泡倍率が3.5~9倍及びゲル分率が30~50重量%である、帯電されているプロピレン系樹脂発泡シートを含み、上記プロピレン系樹脂発泡シートは、重量平均分子量が370000~420000であるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の架橋体を60重量%以上含有する樹脂組成物を含有していることを特徴とするエレクトレットシート。(上記ア)」
(甲1発明2)
「プロピレン-エチレンランダム共重合体A(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWFX4T」、エチレン単位の含有量:4重量%、重量平均分子量:377000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:730ppm)が100重量部、架橋剤であるトリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミドが8.8重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部、酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部からなり、(上記ウ)
プロピレン-エチレンランダム共重合体A、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アゾジカルボンアミド、メチルベンゾトリアゾール、並びに、テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを上記所定量ずつ押出機に供給して溶融混練し、Tダイからシート状に押出し、厚みが450μmである発泡性樹脂シートを製造し、発泡性樹脂シートを一辺が30cmの平面正方形状に切り出し、得られた発泡性樹脂シートの両面に電子線を加速電圧300kVの条件下にて電子線照射強度25kGyで照射し、発泡性樹脂シートのプロピレン-エチレンランダム共重合体を架橋し、発泡性樹脂シートを250℃に加熱して発泡性樹脂シートを発泡させてプロピレン系樹脂発泡シートを得、得られたプロピレン系樹脂発泡シートを130℃の軟化状態に維持し、プロピレン系樹脂発泡シートを自動一軸延伸装置を用いて押出方向に延伸速度900mm/minにて延伸倍率4倍に一軸延伸し、プロピレン系樹脂発泡シートの一面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、プロピレン系樹脂発泡シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧-10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させてプロピレン系樹脂発泡シートを帯電させ、その後、電荷を注入したプロピレン系樹脂発泡シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持し、80℃で1日間に亘って養生した、(上記オ)
ポリプロピレン系樹脂発泡シートの平均厚みが123μmであり、発泡倍率が8.1倍である、(上記カ)
エレクトレットシート。(上記イ)」
(甲1発明3)
「プロピレン-エチレンランダム共重合体B(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWEG7T」、エチレン単位の含有量:1重量%、重量平均分子量:408000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:540ppm)が100重量部、架橋剤であるトリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミドが8.8重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部、酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部からなり、(上記キ)
プロピレン-エチレンランダム共重合体B、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アゾジカルボンアミド、メチルベンゾトリアゾール、並びに、テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンを上記所定量ずつ押出機に供給して溶融混練し、Tダイからシート状に押出し、厚みが450μmである発泡性樹脂シートを製造し、発泡性樹脂シートを一辺が30cmの平面正方形状に切り出し、得られた発泡性樹脂シートの両面に電子線を加速電圧300kVの条件下にて電子線照射強度25kGyで照射し、発泡性樹脂シートのプロピレン-エチレンランダム共重合体を架橋し、発泡性樹脂シートを250℃に加熱して発泡性樹脂シートを発泡させてプロピレン系樹脂発泡シートを得、得られたプロピレン系樹脂発泡シートを130℃の軟化状態に維持し、プロピレン系樹脂発泡シートを自動一軸延伸装置を用いて押出方向に延伸速度900mm/minにて延伸倍率4倍に一軸延伸し、プロピレン系樹脂発泡シートの一面に、アースされた平板電極を密着状態に重ね合わせ、プロピレン系樹脂発泡シートの他面側に所定間隔を存して直流の高圧電源に電気的に接続された針状電極を配設し、針状電極の表面近傍への電界集中により、電圧-10kV、放電距離10mm及び電圧印可時間1分の条件下にてコロナ放電を発生させ、空気分子をイオン化させて、針状電極の極性により発生した空気イオンを反発させてプロピレン系樹脂発泡シートを帯電させ、その後、電荷を注入したプロピレン系樹脂発泡シートを、接地されたアルミニウム箔で包み込んだ状態で3時間に亘って保持し、80℃で1日間に亘って養生した、(上記ケ)
ポリプロピレン系樹脂発泡シートの平均厚みが121μmであり、発泡倍率が8.1倍である、(上記コ)
エレクトレットシート。(上記イ)」
2 甲第2号証
甲第2号証には、以下の各記載がある(下線は当審で付与した。)。
「【請求項1】
金属基材上に、フッ素樹脂と、ケイ素、ケイ素化合物、又はこれらの混合物と、導電性カーボンとを含む下地樹脂層を介して、フッ素樹脂からなるエレクトレット層を形成してなることを特徴とする耐熱エレクトレット材。」
「【0061】
このようにして得られるエレクトレット層の膜厚は特に限定されないが、8~50μm、特に15~45μmであることが好ましい。また、エレクトレット層の10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値は、1015Ω・m以上であることが好ましい。エレクトレット層の体積抵抗値が、1015Ω・m未満である場合には、エレクトレット層中に保持する電荷の絶対量が少なくなり、また、保持した電荷の長期の保持安定性も悪くなるため好ましくない。」
そうすると、甲第2号証には、以下の技術(以下「甲2に記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「金属基材上に、フッ素樹脂と、ケイ素、ケイ素化合物、又はこれらの混合物と、導電性カーボンとを含む下地樹脂層を介して、フッ素樹脂からなるエレクトレット層を形成してなることを特徴とする耐熱エレクトレット材であって、(【請求項1】)
エレクトレット層の10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値は、1015Ω・m以上である、(段落【0061】)
耐熱エレクトレット材」とする技術。
3 甲第3号証
甲第3号証には、以下の各記載がある(下線は当審で付与した。)。
「[0130] 帯電処理により積層体に導入される電荷の量は、処理時に主電極と対電極に流れた電流量に依存し、該電流量は両電極間の電圧が高いほど多くなる。一方、積層体が絶縁破壊を起こすと両電極間を短絡するため、理論上帯電処理量は0になる。エレクトレット化シートの処理効果を高める観点から、印加電圧は積層体の絶縁破壊電圧に対して99%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましい。
[0131] また、印加電圧は一般的な直流コロナ放電の安定性の観点から、1kV以上であることが好ましく、3kV以上であることが好ましく、5kV以上であることがより好ましく、10kV以上であることがさらに好ましい。一方、積層体の絶縁破壊電圧の観点から、印加電圧は100kV以下が好ましく、70kV以下がより好ましく、50kV以下がさらに好ましく、30kV以下が特に好ましい。」
そうすると、甲第3号証には、以下の技術(以下「甲3に記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「帯電処理により積層体に導入される電荷の量は、処理時に主電極と対電極に流れた電流量に依存し、該電流量は両電極間の電圧が高いほど多くなり、一方、積層体が絶縁破壊を起こすと両電極間を短絡するため、理論上帯電処理量は0になり、エレクトレット化シートの処理効果を高める観点から、印可電圧は積層体の絶縁破壊電圧に対して99%以下であり(段落[0130])、
印加電圧は一般的な直流コロナ放電の安定性の観点から、1kV以上であることが好ましく、3kV以上であることが好ましく、5kV以上であることがより好ましく、10kV以上であることがさらに好ましい。一方、積層体の絶縁破壊電圧の観点から、印加電圧は100kV以下が好ましく、70kV以下がより好ましく、50kV以下がさらに好ましく、30kV以下が特に好ましい(段落[0131])」技術。
4 甲第4号証
甲第4号証には、以下の各記載がある(下線は当審で付与した。)。
「【0089】
(電荷の注入)
樹脂膜(A)に電荷を注入することで、該樹脂膜(A)は、エレクトレット膜29になる。
樹脂膜(A)への電荷の注入方法としては、一般的に絶縁体を帯電させる方法であれば特に限定されない。たとえば、G.M.Sessler, Electrets Third Edition,pp20,Chapter2.2“Charging and Polarizing Methods”(Laplacian Press, 1998)に記載のコロナ放電法、電子ビーム衝突法、イオンビーム衝突法、放射線照射法、光照射法、接触帯電法、液体接触帯電法等が適用可能である。本発明においては、特にコロナ放電法、電子ビーム衝突法を用いることが好ましい。
電荷を注入する際の温度条件としては、樹脂膜(A)に含まれる含フッ素重合体(a)または誘導体(a’)のガラス転移温度(Tg)以上で行うことが、注入後に保持される電荷の安定性の点から好ましく、該Tg+10℃~該Tg+20℃程度の温度条件で行うことが特に好ましい。
電荷を注入する際の印加電圧としては、樹脂膜(A)の絶縁破壊電圧以下であれば、高圧を印加することが好ましい。本発明において、樹脂膜(A)への印加電圧は、正電荷では6~30kV、好ましくは8~15kVであり、負電荷では-6~-30kV、好ましくは-8~-15kVである。
含フッ素重合体(a)または誘導体(a’)は、正電荷より負電荷をより安定に保持できることから、印加電圧は負電荷であることが好ましい。この場合、エレクトレットの表面電位はマイナスとなる。」
そうすると、甲第4号証には、以下の技術(以下「甲4に記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「樹脂膜は、フッ素重合体(a)または誘導体(a’)を含み、
樹脂膜に電荷を注入することで、該樹脂膜は、エレクトレット膜になり、
電荷を注入する際の印可電圧としては、樹脂膜の絶縁破壊電圧以下であれば、高圧を印可することが好ましく、樹脂膜への印可電圧は、正電荷では6~30kVである(段落【0089】)」技術。
5 甲第5号証
甲第5号証には、段落【0048】、【0070】、【0075】の記載を総合勘案すると、以下の事項が記載されている。
「融点(Tm)が125℃である、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体 日本ポリプロ社製、ウィンテック WFX4T(PP-1)。」
6 甲第6号証
甲第6号証には、段落【0046】の記載を総合勘案すると、以下の事項が記載されている。
「融点が153℃である、メタロセン触媒系プロピレン-エチレンランダムコポリマー ウィンテックWEG7T。」
7 甲第7号証
甲第7号証には、タイトル及び「Resin Properties」の項の記載を総合勘案すると、以下の事項が記載されている。
「融点が91℃である、エチレン系プラストマー樹脂 Exact3027。」
8 甲第8号証
甲第8号証には、タイトル及び「LH520H」の列の記載を総合勘案すると、以下の事項が記載されている。
「融点が111℃である、高圧法低密度ポリエチレン、ノバテックLD LE520H。」
第5 当審の判断
1 申立理由1(新規性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明1との対比、判断
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1の「帯電されているプロピレン系樹脂発泡シート」は、プロピレン系樹脂が合成樹脂であることは明らかであるから、本件発明1の「帯電された合成樹脂発泡シート」に相当する。
(イ)甲1発明1の「エレクトレットシート」において、「プロピレン系樹脂発泡シートは、重量平均分子量が370000~420000であるプロピレン-α-オレフィンランダム共重合体の架橋体を60重量%以上含有する樹脂組成物を含有している」ものの、無機微粒子を含有することは特定されておらず、このことは、本件発明1の「エレクトレットシート」において、「合成樹脂発泡シートは無機微粒子を含有していない」ことに相当する。
(ウ)エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が、本件発明1は「1.0×1015Ω・cm以上」であるのに対し、甲1発明1では特定されていない点で相違する。
(エ)エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が、本件発明1は「6kV以上」であるのに対し、甲1発明1では特定されていない点で相違する。
(オ)発泡倍率が、本件発明1の合成樹脂発泡シートは「7.5倍以上」であるのに対し、甲1発明1のプロピレン系樹脂発泡シートは「3.5~9倍」である点で相違する。
(カ)したがって、上記(ア)ないし(オ)によれば、甲1発明1と本件発明1とは、
「帯電された合成樹脂発泡シートを含み、上記合成樹脂発泡シートは無機微粒子を含有していないことを特徴とするエレクトレットシート。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1-1)
エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が、本件発明1は「1.0×1015Ω・cm以上」であるのに対し、甲1発明1では特定されていない点。
(相違点1-2)
エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が、本件発明1は「6kV以上」であるのに対し、甲1発明1では特定されていない点。
(相違点1-3)
発泡倍率が、本件発明1の合成樹脂発泡シートは「7.5倍以上」であるのに対し、甲1発明1のプロピレン系樹脂発泡シートは「3.5~9倍」である点。
したがって、本件発明1は甲1発明1ではない。
イ 甲1発明2との対比、判断
本件特許発明1と甲1発明2とを対比する。
(ア)甲1発明2の「帯電させ」た「プロピレン系樹脂発泡シート」は、プロピレン系樹脂が合成樹脂であることは明らかであるから、本件発明1の「帯電された合成樹脂発泡シート」に相当する。
(イ)甲1発明2の「プロピレン系樹脂発泡シート」の「発泡倍率が8.1倍」であることは、本件発明1の「合成樹脂発泡シート」の「発泡倍率が7.5倍以上」である範囲に含まれる。
(ウ)甲1発明2の「エレクトレットシート」は、「プロピレン-エチレンランダム共重合体A(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWFX4T」、エチレン単位の含有量:4重量%、重量平均分子量:377000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:730ppm)が100重量部、架橋剤であるトリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミドが8.8重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部、酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部からなり」、このことは、本件発明1の「エレクトレットシート」が「合成樹脂発泡シートは無機微粒子を含有していない」ことに相当する。
(エ)エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が、本件発明1は「1.0×1015Ω・cm以上」であるのに対し、甲1発明2では特定されていない点で相違する。
(オ)エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が、本件発明1は「6kV以上」であるのに対し、甲1発明2では特定されていない点で相違する。
(カ)したがって、上記(ア)ないし(オ)によれば、甲1発明2と本件発明1とは、
「帯電された合成樹脂発泡シートを含み、発泡倍率が7.5倍以上であり、上記合成樹脂発泡シートは無機微粒子を含有していないことを特徴とするエレクトレットシート。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点2-1)
エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が、本件発明1は「1.0×1015Ω・cm以上」であるのに対し、甲1発明2では特定されていない点。
(相違点2-2)
エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が、本件発明1は「6kV以上」であるのに対し、甲1発明2では特定されていない点。
したがって、本件発明1は甲1発明2ではない。
ウ 甲1発明3との対比、判断
本件発明1と甲1発明3とを対比する。
(ア)甲1発明3の「帯電させ」た「プロピレン系樹脂発泡シート」は、プロピレン系樹脂が合成樹脂であることは明らかであるから、本件発明1の「帯電された合成樹脂発泡シート」に相当する。
(イ)甲1発明3の「プロピレン系樹脂発泡シート」の「発泡倍率が8.1倍」であることは、本件発明1の「合成樹脂発泡シート」の「発泡倍率が7.5倍以上」である範囲に含まれる。
(ウ)甲1発明3の「プロピレン-エチレンランダム共重合体B(日本ポリプロ社製 商品名「ウィンテックWEG7T」、エチレン単位の含有量:1重量%、重量平均分子量:408000、脂肪酸及び脂肪酸アミドの総含有量:540ppm)が100重量部、架橋剤であるトリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、発泡剤であるアゾジカルボンアミドが8.8重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部、酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部からなり」、このことは、本件発明1の「エレクトレットシート」が「合成樹脂発泡シートは無機微粒子を含有していない」ことに相当する。
(エ)エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が、本件発明1は「1.0×1015Ω・cm以上」であるのに対し、甲1発明3では特定されていない点で相違する。
(オ)エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が、本件発明1は「6kV以上」であるのに対し、甲1発明3では特定されていない点で相違する。
(カ)したがって、上記(ア)ないし(オ)によれば、甲1発明3と本件発明1とは、
「帯電された合成樹脂発泡シートを含み、発泡倍率が7.5倍以上であり、上記合成樹脂発泡シートは無機微粒子を含有していないことを特徴とするエレクトレットシート。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点3-1)
エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が、本件発明1は「1.0×1015Ω・cm以上」であるのに対し、甲1発明3では特定されていない点。
(相違点3-2)
エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が、本件発明1は「6kV以上」であるのに対し、甲1発明3では特定されていない点。
したがって、本件発明1は甲1発明3ではない。
(2)本件特許発明2ないし3について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに「25℃で且つ相対湿度90%における体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上で且つ25℃で且つ相対湿度90%における絶縁破壊電圧が4kV以上である」との発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
また、本件発明3は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み、さらに「合成樹脂発泡シートの厚みが10~300μmである」との発明特定事項を加え、本件発明1又は2を限定するものである。
ア 甲1発明1との対比、判断
本件発明2と甲1発明1とを対比すると、上記「(1)ア」で述べたとおり、少なくとも両者は相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3を有する。
また、本件発明3と甲1発明1とを対比すると、上記「(1)ア」で述べたとおり両者は少なくとも相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3を有する。
したがって、本件発明2ないし3は甲1発明1ではない。
イ 甲1発明2との対比、判断
本件発明2と甲1発明2とを対比すると、上記「(1)イ」で述べたとおり、両者は少なくとも相違点2-1及び相違点2-2を有する。
また、本件発明3と甲1発明2とを対比すると、上記「(1)イ」で述べたとおり両者は少なくとも相違点2-1及び相違点2-2を有する。
したがって、本件発明2ないし3は甲1発明2ではない。
ウ 甲1発明3との対比、判断
本件発明2と甲1発明3とを対比すると、上記「(1)ウ」で述べたとおり、両者は少なくとも相違点3-1及び相違点3-2を有する。
また、本件発明3と甲1発明3とを対比すると、上記「(1)ウ」で述べたとおり両者は少なくとも相違点3-1及び相違点3-2を有する。
したがって、本件発明2ないし3は甲1発明3ではない。
(3)特許異議申立書における具体的理由について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の第13ページ第18行~第26ページ第2行において、本願明細書における実施例3のエレクトレットシート(以下「本願実施例3」という。)と甲第1号証における実施例3のエレクトレットシート(甲1発明2)とを対比するとその組成及び製造時の条件にいくつかの相違点を有するものの、それらの相違点について、本願明細書の記載からエレクトレットシートの体積抵抗率及び絶縁破壊電圧に影響を与えると考えることはできない旨、また令和3年4月9日付意見書において特許権者がエレクトレットシートの体積抵抗率及び絶縁破壊電圧に影響を与えると主張した事項ではなく、エレクトレットシートの体積抵抗率及び絶縁破壊電圧に影響を与えると考えることはできない旨、さらに体積抵抗率及び/又は絶縁破壊電圧に差が生じたとしても、25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上であり、25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が6kV以上である範囲から外れる値となることは考えられない旨主張している。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書の第13ページ第18行~第26ページ第2行において、本願明細書における実施例4のエレクトレットシート(以下「本願実施例4」という。)と甲第1号証における実施例6のエレクトレットシート(甲1発明3)との対比においても、同様の主張をしている。
イ 本願実施例3と甲1発明2について
本願実施例3は、本願明細書の段落【0044】ないし【0055】によれば、その組成として、アゾジカルボンアミドが6質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレートが3.3質量部、フェノール系酸化防止剤が2質量部を含み、金属害防止剤を含むとの特定はなく、その製造において、発泡性樹脂シートの厚みが180μm、発泡性樹脂の養生が雰囲気温度25℃にて48時間、電子線の照射の加速電圧が500kV、発泡倍率が8.3倍、一軸延伸は延伸倍率について特定はなく、その方向が押出方向に対して直交する方向、帯電処理は放電距離が30mm、電圧印加時間が10秒、樹脂発泡シートの表面温度が40℃、得られたエレクトレットシートの厚みが0.23mm(230μm)である。
他方、甲1発明2は、その組成として、アゾジカルボンアミドが8.8重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、フェノール系酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部を含み、その製造において、発泡性樹脂シートの厚みが450μm、発泡性樹脂の養生については特定なし、電子線の照射の加速電圧が300kV、発泡倍率が8.1倍、一軸延伸は方向について特定はなく、延伸倍率が4倍であり、帯電処理は放電距離が10mm、電圧印加時間が1分、樹脂発泡シートの表面温度について特定はなく、得られたエレクトレットシートの厚みが123μmである。
してみると、甲1発明2は本願実施例3とその組成及び製造時の条件において多くの点が相違する。例えば、エレクトレットシートの厚みが薄くなると絶縁破壊電圧が小さくなることは技術常識であるところ、本願実施例3は0.23mm(230μm)であるのに対し、甲1発明2は半分程度の123μmである。そして、エレクトレットシートの組成及び製造時の条件が異なれば、その体積抵抗率及び絶縁破壊電圧も異なると考えられるが、上記相違を有する甲1発明2の体積抵抗率及び絶縁破壊電圧がどのような値であるかを特許異議申立人の主張等から特定できるとはいえない。
そうすると、甲1発明2は、25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上であり、25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が6kV以上であるということはできない。
ウ 本願実施例4と甲1発明3について
本願実施例4は、本願明細書の段落【0044】ないし【0055】によれば、その組成として、アゾジカルボンアミドが6質量部、トリメチロールプロパントリメタクリレートが3.3質量部、フェノール系酸化防止剤が2質量部を含み、金属害防止剤を含むとの特定はなく、その製造において、発泡性樹脂シートの厚みが180μm、発泡性樹脂の養生が雰囲気温度25℃にて48時間、電子線の照射の加速電圧が500kV、発泡倍率が7.5倍、一軸延伸は延伸倍率について特定はなく、その方向が押出方向に対して直交する方向であり、帯電処理は放電距離が30mm、電圧印加時間が10秒、樹脂発泡シートの表面温度が40℃、得られたエレクトレットシートの厚みが0.22mm(220μm)である。
他方、甲1発明3は、その組成として、アゾジカルボンアミドが8.8重量部、トリメチロールプロパントリメタクリレートが3.6重量部、フェノール系酸化防止剤であるテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタンが1重量部、金属害防止剤であるメチルベンゾトリアゾールが0.5重量部を含み、その製造において、発泡性樹脂シートの厚みが450μm、発泡性樹脂の養生については特定なし、電子線の照射の加速電圧が300kV、発泡倍率が8.1倍、一軸延伸は方向について特定はなく、延伸倍率が4倍、帯電処理は放電距離が10mm、電圧印加時間が1分、樹脂発泡シートの表面温度について特定はなく、得られたエレクトレットシートの厚みが121μmである。
してみると、甲1発明3は本願実施例4とその組成及び製造時の条件において多くの点が相違する。例えば、エレクトレットシートの厚みが薄くなると絶縁破壊電圧が小さくなることは技術常識であるところ、本願実施例4は0.22mm(220μm)であるのに対し、甲1発明3は半分程度の121μmである。そして、エレクトレットシートの組成及び製造時の条件が異なれば、その体積抵抗率及び絶縁破壊電圧も異なると考えられるが、上記相違を有する甲1発明3の体積抵抗率及び絶縁破壊電圧がどのような値であるかを特許異議申立人の主張等から特定できるとはいえない。
そうすると、甲1発明3は、25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上であり、25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が6kV以上であるということはできない。
エ 申立理由1に対する特許異議申立人の主張についてのまとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(4)申立理由1についてのまとめ
したがって、本件特許発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。
2 申立理由2(進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明1との対比、判断
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、上記「1(1)ア」で述べたとおり、両者は相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3を有する。以下、事案に鑑み相違点1-1及び相違点1-2について検討する。
(ア)相違点1-1について
甲2に記載の技術における「エレクトレット層」は「フッ素樹脂からなる」のに対し、甲1発明1の「エレクトレットシート」は「プロピレン系樹脂発泡シート」からなるものであり、材質が異なれば体積抵抗値も異なることは技術常識であるから、フッ素樹脂からなるエレクトレット材に関する甲2に記載の技術における「エレクトレット層の10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値は、1015Ω・m以上である」との構成をプロピレン系樹脂からなる甲1発明1に採用し得るとは認められない。また、本件発明1では「25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率」であり、甲2に記載の技術では「10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値」であって両者の測定条件は一致していない。そうすると、甲1発明1において甲2に記載の技術を採用し得たとしても、「25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上」になるとはいえない。
また、甲第5号証ないし甲第8号証には、エレクトレットシートの体積抵抗率に関する記載はなく、相違点1-1に係る構成は、甲1発明1及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)相違点1-2について
甲3に記載の技術によれば、「印可電圧は一般的な直流コロナ放電の安定性の観点から、1kV以上が好ましく、10kV以上であることがさらに好ましい」ものの、「帯電処理により積層体に導入される電荷の量は、処理時に主電極と対電極に流れた電流量に依存し、該電流量は両電極間の電圧が高いほど多くなり、一方、積層体が絶縁破壊を起こすと両電極間を短絡するため、理論上帯電処理量は0にな」るとされるように、印可電圧は、積層体の絶縁破壊電圧に関係なく高くできるものではなく、積層体の絶縁破壊電圧による制約の範囲で設定されるものといえる。
そして、エレクトレットシート中に保持される電荷の量を多くすることがエレクトレットを得るための帯電処理における周知の課題であり、かつ、甲1発明1において当該周知の課題を解決するために帯電処理時の印可電圧をエレクトレットシートの絶縁破壊電圧による制約の範囲で高くすることを甲3に記載の技術に基づき想到し得るとしても、甲第1号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧は特定されておらず、絶縁破壊電圧を高くする手段について記載も示唆もされていない。また、甲第3号証には「印加電圧は一般的な直流コロナ放電の安定性の観点から、1kV以上であることが好ましく、3kV以上であることが好ましく、5kV以上であることがより好ましく、10kV以上であることがさらに好ましい。一方、積層体の絶縁破壊電圧の観点から、印加電圧は100kV以下が好ましく、70kV以下がより好ましく、50kV以下がさらに好ましく、30kV以下が特に好ましい」として具体的な印可電圧の値が記載されているものの、エレクトレットシートの構成が、甲3に記載の技術は積層体であるのに対し、甲1発明1はプロピレン系発泡樹脂シートからなるものであり、また絶縁破壊電圧の測定条件が、甲3に記載の技術は特定されていないのに対し、甲1発明1は25℃で且つ相対湿度60%とされているから、甲3に記載の技術と甲1発明1とはエレクトレットシートの構成や絶縁破壊電圧の測定条件の点で異なり、甲1発明1において甲3に記載の技術における印可電圧の値を採用し、それにより相違点1-2に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
してみれば、甲1発明1及び甲3に記載の技術に基づいて、当業者が相違点1-2に係る構成を容易に想到することができたとはいえない。
また、甲4に記載の技術によれば、「電荷を注入する際の印可電圧としては、樹脂膜の絶縁破壊電圧以下であれば、高圧を印可することが好まし」いとされるように、印可電圧は、樹脂膜の絶縁破壊電圧に関係なく高くできるものではなく、樹脂膜の絶縁破壊電圧による制約の範囲で設定されるものといえる。
そして、エレクトレットシート中に保持される電荷の量を多くすることがエレクトレットを得るための帯電処理における周知の課題であり、かつ、甲1発明1において当該周知の課題を解決するために帯電処理時の印可電圧をエレクトレットシートの絶縁破壊電圧による制約の範囲で高くすることを甲4に記載の技術に基づき想到し得るとしても、甲第1号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧は特定されておらず、絶縁破壊電圧を高くする手段について記載も示唆もされていない。また、甲第4号証には「樹脂膜への印可電圧は、正電荷では6~30kV」として具体的な印可電圧の値が記載されているものの、エレクトレットシートの構成が、甲4に記載の技術はフッ素重合体(a)または誘導体(a’)を含む樹脂膜であるのに対し、甲1発明1はプロピレン系発泡樹脂シートからなるものであり、また絶縁破壊電圧の測定条件が、甲4に記載の技術は特定されていないのに対し、甲1発明1は25℃で且つ相対湿度60%とされているから、甲4に記載の技術と甲1発明1とはエレクトレットシートの構成や絶縁破壊電圧の測定条件の点で異なり、甲1発明1において甲4に記載の技術における印可電圧の値を採用し、それにより相違点1-2に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
してみれば、甲1発明1及び甲4に記載の技術に基づいて、当業者が相違点1-2に係る構成を容易に想到することができたとはいえない。
さらに、甲第5号証ないし甲第8号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧に関する記載はなく、相違点1-2に係る構成は、甲1発明1及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)甲1発明1との対比、判断についてのまとめ
したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明1及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 甲1発明2との対比、判断
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、上記「1(1)イ」で述べたとおり、両者は相違点2-1及び相違点2-2を有する。
(ア)相違点2-1について
甲2に記載の技術における「エレクトレット層」は「フッ素樹脂からなる」のに対し、甲1発明2の「エレクトレットシート」は「プロピレン系樹脂発泡シート」からなるものであり、材質が異なれば体積抵抗値も異なることは技術常識であるから、フッ素樹脂からなるエレクトレット材に関する甲2に記載の技術における「エレクトレット層の10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値は、1015Ω・m以上である」との構成をプロピレン系樹脂からなる甲1発明2に採用し得るとは認められない。また、本件発明1では「25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率」であり、甲2に記載の技術では「10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値」であって両者の測定条件は一致していない。そうすると、甲1発明2において甲2に記載の技術を採用し得たとしても、「25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上」になるとはいえない。
また、甲第5号証ないし甲第8号証には、エレクトレットシートの体積抵抗率に関する記載はなく、相違点2-1に係る構成は、甲1発明2及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)相違点2-2について
上記ア(イ)で述べたとおり、甲3に記載の技術によれば、印可電圧は、積層体の絶縁破壊電圧に関係なく高くできるものではなく、積層体の絶縁破壊電圧による制約の範囲で設定されるものといえる。
そして、エレクトレットシート中に保持される電荷の量を多くすることがエレクトレットを得るための帯電処理における周知の課題であり、かつ、甲1発明2において当該周知の課題を解決するために帯電処理時の印可電圧をエレクトレットシートの絶縁破壊電圧による制約の範囲で高くすることを甲3に記載の技術に基づき想到し得るとしても、甲第1号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧は特定されておらず、絶縁破壊電圧を高くする手段について記載も示唆もされていない。また、上記ア(イ)で述べたことと同様に、甲第3号証には具体的な印可電圧の値が記載されているものの、甲3に記載の技術と甲1発明2とはエレクトレットシートの構成や絶縁破壊電圧の測定条件の点で異なり、甲1発明2において甲3に記載の技術における印可電圧の値を採用し、それにより相違点2-2に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
してみれば、甲1発明2及び甲3に記載の技術に基づいて、当業者が相違点2-2に係る構成を容易に想到することができたとはいえない。
また、上記ア(イ)で述べたとおり、甲4に記載の技術によれば、印可電圧は、樹脂膜の絶縁破壊電圧に関係なく高くできるものではなく、樹脂膜の絶縁破壊電圧による制約の範囲で設定されるものといえる。
そして、エレクトレットシート中に保持される電荷の量を多くすることがエレクトレットを得るための帯電処理における周知の課題であり、かつ、甲1発明2において当該周知の課題を解決するために帯電処理時の印可電圧をエレクトレットシートの絶縁破壊電圧による制約の範囲で高くすることを甲4に記載の技術に基づき想到し得るとしても、甲第1号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧は特定されておらず、絶縁破壊電圧を高くする手段について記載も示唆もされていない。また、上記ア(イ)で述べたことと同様に、甲第4号証には具体的な印可電圧の値が記載されているものの、甲4に記載の技術と甲1発明2とはエレクトレットシートの構成や絶縁破壊電圧の測定条件の点で異なり、甲1発明2において甲4に記載の技術における印可電圧の値を採用し、それにより相違点2-2に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
してみれば、甲1発明2及び甲4に記載の技術に基づいて、当業者が相違点2-2に係る構成を容易に想到することができたとはいえない。
さらに、甲第5号証ないし甲第8号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧に関する記載はなく、相違点2-2に係る構成は、甲1発明2及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)甲1発明2との対比、判断についてのまとめ
したがって、本件発明1は甲1発明2及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 甲1発明3との対比、判断
本件発明1と甲1発明3とを対比すると、上記「1(1)ウ」で述べたとおり、両者は相違点3-1及び相違点3-2を有する。
(ア)相違点3-1について
甲2に記載の技術における「エレクトレット層」は「フッ素樹脂からなる」のに対し、甲1発明3の「エレクトレットシート」は「プロピレン系樹脂発泡シート」からなるものであり、材質が異なれば体積抵抗値も異なることは技術常識であるから、フッ素樹脂からなるエレクトレット材に関する甲2に記載の技術における「エレクトレット層の10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値は、1015Ω・m以上である」との構成をプロピレン系樹脂からなる甲1発明2に採用し得るとは認められない。また、本件発明1では「25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率」であり、甲2に記載の技術では「10℃から350℃の温度範囲に於ける体積抵抗値」であって両者の測定条件は一致していない。そうすると、甲1発明3において甲2に記載の技術を採用し得たとしても、「25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が1.0×1015Ω・cm以上」になるとはいえない。
また、甲第5号証ないし甲第8号証には、エレクトレットシートの体積抵抗率に関する記載はなく、相違点3-1に係る構成は、甲1発明3及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(イ)相違点3-2について
上記ア(イ)で述べたとおり、甲3に記載の技術によれば、印可電圧は、積層体の絶縁破壊電圧に関係なく高くできるものではなく、積層体の絶縁破壊電圧による制約の範囲で設定されるものといえる。
そして、エレクトレットシート中に保持される電荷の量を多くすることがエレクトレットを得るための帯電処理における周知の課題であり、かつ、甲1発明3において当該周知の課題を解決するために帯電処理時の印可電圧をエレクトレットシートの絶縁破壊電圧による制約の範囲で高くすることを甲3に記載の技術に基づき想到し得るとしても、甲第1号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧は特定されておらず、絶縁破壊電圧を高くする手段について記載も示唆もされていない。また、上記ア(イ)で述べたことと同様に、甲第3号証には具体的な印可電圧の値が記載されているものの、甲3に記載の技術と甲1発明3とはエレクトレットシートの構成や絶縁破壊電圧の測定条件の点で異なり、甲1発明3において甲3に記載の技術における印可電圧の値を採用し、それにより相違点3-2に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
してみれば、甲1発明3及び甲3に記載の技術に基づいて、当業者が相違点3-2に係る構成を容易に想到することができたとはいえない。
また、上記ア(イ)で述べたとおり、甲4に記載の技術によれば、印可電圧は、樹脂膜の絶縁破壊電圧に関係なく高くできるものではなく、樹脂膜の絶縁破壊電圧による制約の範囲で設定されるものといえる。
そして、エレクトレットシート中に保持される電荷の量を多くすることがエレクトレットを得るための帯電処理における周知の課題であり、かつ、甲1発明3において当該周知の課題を解決するために帯電処理時の印可電圧をエレクトレットシートの絶縁破壊電圧による制約の範囲で高くすることを甲4に記載の技術に基づき想到し得るとしても、甲第1号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧は特定されておらず、絶縁破壊電圧を高くする手段について記載も示唆もされていない。また、上記ア(イ)で述べたことと同様に、甲第4号証には具体的な印可電圧の値が記載されているものの、甲4に記載の技術と甲1発明3とはエレクトレットシートの構成や絶縁破壊電圧の測定条件の点で異なり、甲1発明3において甲4に記載の技術における印可電圧の値を採用し、それにより相違点3-2に係る構成をなすことは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
してみれば、甲1発明3及び甲4に記載の技術に基づいて、当業者が相違点3-2に係る構成を容易に想到することができたとはいえない。
さらに、甲第5号証ないし甲第8号証には、エレクトレットシートの絶縁破壊電圧に関する記載はなく、相違点3-2に係る構成は、甲1発明3及び甲第5号証ないし甲第8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
(ウ)甲1発明3との対比、判断についてのまとめ
したがって、本件発明1は甲1発明3及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2ないし3について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに「25℃で且つ相対湿度90%における体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上で且つ25℃で且つ相対湿度90%における絶縁破壊電圧が4kV以上である」との発明特定事項を加え、本件発明1を限定するものである。
また、本件発明3は、本件発明1又は2の発明特定事項を全て含み、さらに「合成樹脂発泡シートの厚みが10~300μmである」との発明特定事項を加え、本件発明1又は2を限定するものである。
ア 甲1発明1との対比、判断
本件発明2と甲1発明1とを対比すると、上記「(1)ア」で述べたとおり両者は少なくとも相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3を有する。
また、本件発明3と甲1発明1とを対比すると、上記「(1)ア」で述べたとおり両者は少なくとも相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3を有する。
そして、相違点1-1及び相違点1-2に係る構成は、上記「(1)ア」で検討したとおりであって、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明2ないし3は、甲1発明1及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 甲1発明2との対比、判断
本件発明2と甲1発明2とを対比すると、上記「(1)イ」で述べたとおり両者は少なくとも相違点2-1及び相違点2-2を有する。
また、本件発明3と甲1発明2とを対比すると、上記「(1)イ」で述べたとおり両者は少なくとも相違点2-1及び相違点2-2を有する。
そして、相違点2-1及び相違点2-2に係る構成は、上記「(1)イ」で検討したとおりであって、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件発明2ないし3は、甲1発明2及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 甲1発明3との対比、判断
本件発明2と甲1発明3とを対比すると、上記「(1)ウ」で述べたとおり両者は少なくとも相違点3-1及び相違点3-2を有する。
また、本件発明3と甲1発明3とを対比すると、上記「(1)ウ」で述べたとおり両者は少なくとも相違点3-1及び相違点3-2を有する。
そして、相違点3-1及び相違点3-2に係る構成は、上記「(1)ウ」で検討したとおりであって、当業者が容易に想到し得たものではない。
したがって、本件発明2ないし3は、甲1発明3及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由2についてのまとめ
したがって、本件発明1ないし3は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1~3)及び甲第2~8号証に記載された事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)特許異議申立書における具体的理由について
特許異議申立書(第36ページ第15行~第43ページ第23行)における特許異議申立人の主張の概要は、本件特許明細書の段落【0033】及び【0037】には、体積抵抗率及び絶縁破壊電圧を変動させうる要素が列挙されるにすぎず、体積抵抗率及び絶縁破壊電圧を本件発明1ないし3に規定される範囲内とするための具体的な制御条件が不明であり、また本件特許明細書には、本件発明1ないし3に規定される範囲に含まれる実施例1~5が開示されているものの、エレクトレットシートの厚みを本件発明1ないし3の範囲内で薄くする場合に、体積抵抗率及び絶縁破壊電圧を変動させうる要素をどのように制御すれば体積抵抗率及び絶縁破壊電圧が本件発明1ないし3に規定される範囲内となるのか理解することができない、とするものである。
(2)当審の判断
発明の詳細な説明の段落【0044】~【0055】には、実施例1~5として、25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が117~3220×1015Ω・cmであり、25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が7.0~9.5kVであり、25℃で且つ相対湿度90%における体積抵抗率が0.222~900×1015Ω・cmであり、25℃で且つ相対湿度90%における絶縁破壊電圧が4.5~7.5kVであり、発泡倍率が7.5~8.3倍であり、ポリオレフィン系樹脂発泡シートの厚みが0.2~0.23mmである帯電されたポリオレフィン系樹脂発泡シートからなるエレクトレットシートが、その製造方法を含め具体的に記載されている。ここで、実施例1~5のエレクトレットシートは、本件発明1~3に規定される範囲に含まれるものである。
そうすると、発明の詳細な説明には、少なくとも本件発明1~3に規定される範囲に含まれる実施例1~5のエレクトレットシートが、その製造方法を含め具体的に記載されているから、発明の詳細な説明は、本件発明1~3について当業者が実施することができる程度に記載されているということができ、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
したがって、本件発明1~3について、発明の詳細な説明は、実施可能要件を満たしていないものではないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。
4 申立理由4(サポート要件)について
(1)特許異議申立書における具体的理由について
特許異議申立書(第43ページ最終行~第47ページ第13行)における特許異議申立人の主張の概要は、本件発明1ないし3に係る特許請求の範囲の記載は、25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が「1.0×1015Ω・cm以上」であり、25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧が「6kV以上」であるとしか記載されておらず、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであり、また本件発明1ないし3に係る特許請求の範囲の記載は、25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率が実施例で示された最も小さい値である「117×1015Ω・cm」より2桁小さい「1.0×1015Ω・cm以上」とされ、発明の課題を解決するための手段が十分に反映されていないものであり、さらに実施例1~5のように25℃で且つ相対湿度90%における体積抵抗率及び絶縁破壊電圧を所定の値以上であることはエレクトレットシートの高温雰囲気下における圧電性の保持性の向上に寄与すると理解されるが、本件発明1及び本件発明1のみを引用する本件発明3に係る特許請求の範囲の記載は、25℃で且つ相対湿度90%における体積抵抗率及び絶縁破壊電圧の各値が何ら規定されておらず、発明の課題を解決するための手段が十分に反映されていないものである、とするものである。
(2)当審の判断
発明の詳細な説明によれば、本件発明が解決しようとする課題は「高温環境下においても高い圧電性を保持するエレクトレットシートを提供する」こと(段落【0007】)と認められ、「エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率は、1.0×1015Ω・cm以上であ」り(段落【0030】)、「エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧は、6kV以上であ」り(段落【0034】)、「体積抵抗率及び絶縁破壊電圧が上記範囲である」場合に、「高温になってエレクトレットシートを構成している多孔質シートの構成材料の分子運動が大きくなったとしても、分子間の隙間を所定の大きさに維持することができ、その結果、多孔質シート内に帯電させた電荷を高温時においても良好に保持することができる」(段落【0038】)との記載から、当業者は、エレクトレットシートの25℃で且つ相対湿度60%における体積抵抗率を1.0×1015Ω・cm以上とし、且つ25℃で且つ相対湿度60%における絶縁破壊電圧を6kV以上とすれば、上記課題を解決し得ると理解できる。
してみれば、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
したがって、本件発明1~3に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たしていないものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものでなく、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。
第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700760