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特許異議申立

2024-700796

SARS-COV-2 mRNAドメインワクチン

審判番号
2024-700796
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-548194
登録番号
7438604
請求日
2024年08月23日
審決日
2024年11月05日
公報発行日
2024年12月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】モデルナティエックス インコーポレイテッド
  • 【権利者代理人】飯田 雅人
  • 【権利者代理人】塩尻 一尋
  • 【異議申立人】伊藤 匠
  • 【異議申立人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 中村 浩
  • 審判官 深草 亜子
  • 審判官 福井 悟
分類
P1651.121-Y (C12N) / P1651.536-Y (C12N) / P1651.537-Y (C12N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7438604号発明「SARS-COV-2 mRNAドメインワクチン」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7438604号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7438604号(請求項の数3。以下、「本件特許」という。)は、下記の優先権主張を伴う、令和 3年 2月 6日を国際出願日とする特願2022-548194号の請求項1~3に係る発明について、令和 6年 2月16日に特許権の設定登録がされ、特許掲載公報が令和 6年 2月27日に発行されたものである。その後、その請求項1~3に係る特許について、令和 6年 8月23日に特許異議申立人である伊藤匠(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがされた。 よって、本件特許異議の申立てに係る審理対象は、全ての請求項に係る特許についてであり、審理対象外の請求項は存しない。 [図:0001417671000001.jpg] 第2 本件発明 本件特許第7438604号の請求項1~3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~3に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明3」といい、それらを総称して、「本件発明」という。また、本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)ワクチンであって、前記RBDが可溶性であり、前記mRNAが、約20~60mol%のイオン化可能なカチオン性脂質と、約5~25mol%の非カチオン性脂質と、約25~55mol%のステロールと、約0.5~15mol%のPEG修飾脂質とを有する脂質ナノ粒子を含むmRNAワクチン内に存在し、前記mRNAが少なくとも1つの化学修飾を含み、前記少なくとも1つの化学修飾が、シュードウリジン(ψ)、1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)、1-エチル-シュードウリジン(e1ψ)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-メチルシチジン(m5C)、5-メトキシメチルウリジン、5-メチルチオウリジン、1-メトキシメチルシュードウリジン及び/または5-メトキシシチジンからなる群から選択される、mRNAワクチン。 【請求項2】 前記イオン化可能なカチオン性脂質は、式(I): 【化1】 [図:0001417671000002.jpg] の化合物またはその塩もしくは異性体を有し、式中、 R1は、C5-30アルキル、C5-20アルケニル、-R*YR”、-YR”、及び-R”M’R’からなる群より選択され、 R2及びR3は、独立して、H、C1-14アルキル、C2-14アルケニル、-R*YR”、-Y-R”、及び-R*OR”からなる群より選択されるか、またはR2及びR3は、それらが結合している原子と一緒になって、複素環もしくは炭素環を形成し、 R4は、C3-6炭素環、-(CH2)nQ、-(CH2)nCHQR、-CHQR、-CQ(R)2、及び非置換C1-6アルキルからなる群より選択され、ここで、Qは、炭素環、複素環、-OR、-O(CH2)nN(R)2、-C(O)OR、-OC(O)R、-CX3、-CX2H、-CXH2、-CN、-N(R)2、-C(O)N(R)2、-N(R)C(O)R、-N(R)S(O)2R、-N(R)C(O)N(R)2、-N(R)C(S)N(R)2、-N(R)R8、-O(CH2)nOR、-N(R)C(=NR9)N(R)2、-N(R)C(=CHR9)N(R)2、-OC(O)N(R)2、-N(R)C(O)OR、-N(OR)C(O)R、-N(OR)S(O)2R、-N(OR)C(O)OR、-N(OR)C(O)N(R)2、-N(OR)C(S)N(R)2、-N(OR)C(=NR9)N(R)2、-N(OR)C(=CHR9)N(R)2、-C(=NR9)N(R)2、-C(=NR9)R、-C(O)N(R)OR、及び-C(R)N(R)2C(O)ORから選択され、各nは、独立して、1、2、3、4、及び5から選択され、 各R5は、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 各R6は、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 M及びM’は、独立して、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)N(R’)-、-N(R’)C(O)-、-C(O)-、-C(S)-、-C(S)S-、-SC(S)-、-CH(OH)-、-P(O)(OR’)O-、-S(O)2-、-S-S-、アリール基、及びヘテロアリール基から選択され、 R7は、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 R8は、C3-6炭素環及び複素環からなる群より選択され、 R9は、H、CN、NO2、C1-6アルキル、-OR、-S(O)2R、-S(O)2N(R)2、C2-6アルケニル、C3-6炭素環及び複素環からなる群より選択され、 各Rは、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 各R’は、独立して、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、-R*YR”、-YR”、及びHからなる群より選択され、 各R”は、独立して、C3-14アルキル及びC3-14アルケニルからなる群より選択され、 各R*は、独立して、C1-12アルキル及びC2-12アルケニルからなる群より選択され、 各Yは、独立して、C3-6炭素環であり、 各Xは、独立して、F、Cl、Br、及びIからなる群より選択され、 mは、5、6、7、8、9、10、11、12、及び13から選択される、請求項1に記載のmRNAワクチン。 【請求項3】 対象内の抗原特異的免疫応答を誘導する方法における使用のための、請求項1または2に記載のmRNAワクチンであって、前記使用は、抗原特異的免疫応答をもたらすのに有効な量で、前記対象に、前記mRNAワクチンを投与することを含む、mRNAワクチン。」 第3 申立人が申し立てた特許異議申立理由 申立人が申し立てた特許異議申立の理由(以下、「申立理由」という。)の概要及び証拠方法は以下のとおりである。 1 申立理由の概要 (1)申立理由1(進歩性の欠如) 本件発明1~3は、 第1~3優先権主張の利益を享受できない場合、甲第1号証及び甲第14号証、又は甲第1~3号証及び甲第14号証の記載に基づき、 第1~2優先権主張の利益を享受できない場合、甲第1号証及び甲第14号証、又は甲第1号証、甲第2号証及び甲第14号証の記載に基づき、 第1優先権主張の利益を享受できない場合、甲第1号証及び甲第3号証、又は甲第1号証、甲第3号証及び甲第8号証の記載に基づき、 全ての優先権主張の利益を享受できる場合、甲第1号証、甲第4号証、甲第9号証及び甲第5号証、甲第6号証若しくは甲第7号証、又は甲第1号証、甲第4号証、甲第8号証、甲第9号証及び甲第5号証、甲第6号証若しくは甲第7号証の記載に基づき、 当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2、3(実施可能要件、サポート要件違反) 下記ア及びイについて、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということができず、同様の理由により、本件発明は、特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載したものということもできないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、本件特許は、同法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。 ア mRNAワクチン組成物の具体例と効果について イ SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)のワクチン効果について (3)申立理由4(明確性要件違反) 下記ア-ウについて、本件特許の請求項の記載が明確であるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ア 対象とするmRNA イ 脂質ナノ粒子の粒子径 ウ ワクチンが対応するウイルス種 2 証拠方法 甲第1号証: 国際公開第2017/070626号 甲第2号証: Nature, 2020.07.29, Vol.586, pp.572-577 甲第3号証: Cellular and Molecular Immunology, 2020.03.19, Vol17, pp.613-620 甲第4号証: Nature, 2020.02.03, Vol.579, pp.265-269 甲第5号証: 特表2016-539944号公報 甲第6号証: World J.Gastroenterol., 2005, Vol.11, Number 39, pp.6159-6164 甲第7号証: Journal of Thoracic Disease, 2013, Vol.5, Suppl 2, pp.S142-S148 甲第8号証: Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accession No.MN908947, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/1791269088?sat=47&satkey=147804071 甲第9号証: 一般社団法人日本感染症学会 https://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31 「新型コロナウイルス感染症(2019-nCoV)への対応について」 https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/2019ncov_taiou_200128.pdf 甲第10号証: 米国特許仮出願第62/971,825号(第1優先権基礎出願)の出願書類 甲第11号証: 米国特許仮出願第63/016,175号(第2優先権基礎出願)の出願書類 甲第12号証: 米国特許仮出願第63/044,330号(第3優先権基礎出願)の出願書類 甲第13号証: 米国特許仮出願第63/063,137号(第4優先権基礎出願)の出願書類 甲第14号証: 中国特許出願公開第111218458号(2020.06.02) (以下、「甲第1号証」~「甲第14号証」を「甲1」~「甲14」という。) 第4 当審の判断 1 申立理由1(進歩性の欠如)について (1)本件発明の優先日について 本件発明1~3について、第1優先権主張の利益が享受できると、本件特許の優先日は2020年2月7日となり、第2~4優先権主張の検討は不要になるので、以下では、本件発明1~3が、第1優先権基礎出願(米国特許仮出願第62/971,825号)の出願書類(甲10)の全体の記載を総合することにより導き出せる技術的事項を備え、本件発明1~3が第1優先権主張の利益を享受できるか否かについての検討を優先する。 ア 第1優先権基礎出願の出願書類(甲10)に記載された事項 第1優先権基礎出願(米国特許仮出願第62/971,825号)の出願書類(甲10)には、次の事項が記載されている。なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載し、また、下線は当審合議体が付した。 (ア)特許請求の範囲 「3.配列番号3、7、10、13、16、19、22、25、28、31、 48、50、52、54、56、60、63、66、69、72、75、78、81、84又は 87のいずれか1つの配列に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含むオープンリーディングフレーム(ORF)を含むリボ核酸(RNA)。 ・・・ 9.ORFが武漢コロナウイルス抗原をコードするクレーム3~8のいずれか一つに記載のRNA。 10.コロナウイルス抗原が構造タンパク質であるクレーム9記載のRNA。 11.構造タンパク質がスパイクタンパク質であるクレーム10記載のRNA。 ・・・ 24.クレーム1~19のいずれかひとつ記載のRNAと脂質混合物を含む組成物。 25.脂質混合物が、PEG修飾脂質、非カチオン脂質、ステロール、イオン化可能カチオン脂質又はそれらの組み合わせであるクレーム24記載の組成物。 26.脂質混合物が、0.5~15%のPEG修飾脂質、5~25%の非カチオン脂質、25~55%のステロール、20~60%のイオン化可能脂質を含む、クレーム25記載の組成物。 ・・・ 31.対象においてコロナウイルスに対する中和抗体応答及び/又はT細胞免疫応答、随意にCD4+及び/又はCD8+T細胞免疫応答を誘導するのに有効な量の、先行クレーム記載のいずれか一つの組成物を、対象に投与する方法。」 (イ)第5頁第28-33行 「本開示は、コロナウイルス抗原に対する強力な中和抗体を誘発する免疫組成物(例えば、RNAワクチン)を提供する。いくつかの実施形態では、免疫組成物は、武漢コロナウイルス抗原などのコロナウイルス抗原をコードするRNA(例えば、メッセンジャーRNA(mRNA))を含む。いくつかの実施形態では、コロナウイルス抗原は構造タンパク質である。いくつかの実施形態では、コロナウイルス抗原は、スパイクタンパク質、エンベロープタンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質、又は膜タンパク質である。」 (ウ)第19頁第19-27行 「いくつかの実施形態では、核酸(例えば、mRNA核酸などのRNA核酸)中の修飾された核酸塩基は、1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)、1-エチル-シュードウリジン(e1ψ)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-メチル-シチジン(m5C)、及び/又はシュードウリジン(ψ)を含む。いくつかの実施形態では、核酸(例えば、mRNA核酸などのRNA核酸)中の修飾された核酸塩基は、5-メトキシメチルウリジン、5-メチルチオウリジン、1-メトキシメチルシュードウリジン、5-メチルシチジン及び/又は5-メトキシシチジンを含む。いくつかの実施形態では、ポリリボヌクレオチドは、前述の任意の修飾核酸塩基(限定されるものではないが、化学修飾を含む)のうちの少なくとも2つ(例えば、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上)の組合せを含む。」 (エ)第30頁第20行-第31頁第31行 「いくつかの実施形態では、脂質ナノ粒子は、モル比で、20~60%のイオン化可能なカチオン性脂質、5~25%の中性脂質、25~55%のステロール、及び0.5~15%のPEG修飾脂質を含む。 いくつかの実施形態では、本開示のイオン化可能なカチオン性脂質は、式(I)の化合物又はその塩もしくは異性体を有し、: 【化1】 [図:0001417671000003.jpg] 式中、 R1は、C5-30アルキル、C5-20アルケニル、-R*YR”、-YR”、及び-R”M’R’からなる群より選択され、 R2及びR3は、独立して、H、C1-14アルキル、C2-14アルケニル、-R*YR”、-Y-R”、及び-R*OR”からなる群より選択されるか、又はR2及びR3は、それらが結合している原子と一緒になって、複素環もしくは炭素環を形成し、 R4は、C3-6炭素環、-(CH2)nQ、-(CH2)nCHQR、-CHQR、-CQ(R)2、及び非置換C1-6アルキルからなる群より選択され、ここで、Qは、炭素環、複素環、-OR、-O(CH2)nN(R)2、-C(O)OR、-OC(O)R、-CX3、-CX2H、-CXH2、-CN、-N(R)2、-C(O)N(R)2、-N(R)C(O)R、-N(R)S(O)2R、-N(R)C(O)N(R)2、-N(R)C(S)N(R)2、-N(R)R8、-O(CH2)nOR、-N(R)C(=NR9)N(R)2、-N(R)C(=CHR9)N(R)2、-OC(O)N(R)2、-N(R)C(O)OR、-N(OR)C(O)R、-N(OR)S(O)2R、-N(OR)C(O)OR、-N(OR)C(O)N(R)2、-N(OR)C(S)N(R)2、-N(OR)C(=NR9)N(R)2、-N(OR)C(=CHR9)N(R)2、-C(=NR9)N(R)2、-C(=NR9)R、-C(O)N(R)OR、及び-C(R)N(R)2C(O)ORから選択され、各nは、独立して、1、2、3、4、及び5から選択され、 各R5は、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 各R6は、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 M及びM’は、独立して、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)N(R’)-、-N(R’)C(O)-、-C(O)-、-C(S)-、-C(S)S-、-SC(S)-、-CH(OH)-、-P(O)(OR’)O-、-S(O)2-、-S-S-、アリール基、及びヘテロアリール基から選択され、 R7は、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 R8は、C3-6炭素環及び複素環からなる群より選択され、 R9は、H、CN、NO2、C1-6アルキル、-OR、-S(O)2R、-S(O)2N(R)2、C2-6アルケニル、C3-6炭素環及び複素環からなる群より選択され、 各Rは、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 各R’は、独立して、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、-R*YR”、-YR”、及びHからなる群より選択され、 各R”は、独立して、C3-14アルキル及びC3-14アルケニルからなる群より選択され、 各R*は、独立して、C1-12アルキル及びC2-12アルケニルからなる群より選択され、 各Yは、独立して、C3-6炭素環であり、 各Xは、独立して、F、Cl、Br、及びIからなる群より選択され、 mは、5、6、7、8、9、10、11、12、及び13から選択される。」 (オ)表1 第94-95頁 [図:0001417671000004.jpg] [図:0001417671000005.jpg] イ 第1優先権主張の検討 第1優先権基礎出願の出願書類(甲10)の上記ア(ア)-(エ)の記載によると、上記出願書類には、武漢コロナウイルス抗原のスパイクタンパク質をコードする配列番号3、7、10、13、16、19、22、25、28、31、 48、50、52、54、56、60、63、66、69、72、75、78、81、84又は 87のいずれか1つの配列に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含むオープンリーディングフレーム(ORF)を含むリボ核酸(RNA)及び0.5~15%のPEG修飾脂質、5~25%の非カチオン脂質、25~55%のステロール、20~60%のイオン化可能脂質を含む脂質混合物を含む、コロナウイルスに対する中和抗体応答及び/又はT細胞免疫応答、随意にCD4+及び/又はCD8+T細胞免疫応答を誘導するのに有効な組成物が記載されていると認められる。 一方、本件明細書の【0180】には、本件発明1の「可溶性RBD抗原」が、以下の表7Bの配列番号61のmRNA構築物のORFを有することが記載されているところ、このORFは、第1優先権基礎出願の出願書類の上記ア(オ)に記載された配列番号60のmRNA構築物のORFと同じである。 [図:0001417671000006.jpg] そうすると、第1優先権基礎出願の出願書類に記載された上記組成物で使用されている、配列番号60の配列に対して少なくとも80%の同一性を有する配列を含むオープンリーディングフレーム(ORF)を含むリボ核酸(RNA)は、実質的に本件発明1の「可溶性」である「SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)」であるから、本件発明1~3は、第1優先権主張の基礎出願(米国特許仮出願第62/971,825号)の出願書類(甲10)の全体の記載を総合することにより導き出せる技術的事項を備えているといえる。 したがって、本件発明1~3は、第1優先権主張の利益を享受できる。 ウ 申立人の主張について 申立人は、第1優先権基礎出願明細書(甲10)並びに第2優先権基礎出願明細書(甲11)には、本件発明の「SARS-CoV―2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むmRNA」に関係する発明概念は一切記載されていないこと、またSARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)の概念も一切記載されず、特定もされていないこと、第3優先権基礎出願明細書(甲12)にはSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)と膜貫通タンパク質(TM)及び/又はN末端ドメインを含む融合タンパク質を抗原としそれをコードするORFの核酸配列等の情報が記載されているが、本件特許で開示された可溶性RBDに関しては、その説明も関連するアミノ酸配列、核酸配列も一切記載されていないこと、一方、第4優先権基礎出願明細書(甲13)には請求項71に「SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)。」が、請求項72には、「RBDが可溶性である、請求項71に記載のmRNA。」が記載されており、可溶性RBDの説明及び各種配列が64頁~65頁の段落番号179、段落番号180及び表7に記載されていることに基づいて、本件発明の「可溶性であるSARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むmRNA」が記載されているのは、第4優先権基礎出願明細書(甲13)のみであり、このことから導かれる優先日は2020年8月7日となることを、主張する(申立書第26~28頁)。 しかし、本件発明1~3が、本件明細書及び第1優先権基礎出願の出願書類(甲10)の双方に記載されたmRNA構築物のORFの配列を介して、第1優先権主張の利益を享受できることは、上記イに記載したとおりであり、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件発明1~3は、第1優先権主張の利益、すなわち、第一国出願である米国特許仮出願第62/971,825号に基づくパリ条約による優先権主張の利益を享受できるので、第2~4優先権基礎出願の出願書類(甲11~13)の記載に基づく第2~4優先権主張は検討を要しない。 そして、本件発明1~3についての、特許法第29条の規定の適用にあたっては、本件特許は、第1優先権基礎出願(米国特許仮出願第62/971,825号)の出願日である「2020年2月7日」に出願がされたものとみなされるので、以下の進歩性欠如の検討では、「2020年2月7日」以降に頒布された甲2、甲3及び甲14は検討を要しない。 (2)証拠の記載事項 ア 甲1 甲1(国際公開第2017/070626号)には、以下の事項が記載されている。なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載し、また、下線は当審合議体が付した。 甲1a 「特許請求の範囲 ・・・ 43.少なくとも1つのベータコロナウイルスの抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを有する少なくとも1つのリボ核酸(RNA)ポリヌクレオチドを含むベータコロナウイルス(ベータCoV)ワクチン。 44.前記少なくとも1つの抗原性ポリペプチドが、Sタンパク質(S、S1及び/又はS2)、Eタンパク質、Nタンパク質及びMタンパク質から選択される、請求項43に記載のワクチン。 ・・・ 65.前記少なくとも1つの抗原性ポリペプチドが膜融合活性を有し、細胞受容体に結合し、ウイルス膜と細胞膜の融合を引き起こし、及び/又は細胞感染時にウイルスの細胞膜への結合に関与する、請求項1~64のいずれか一項に記載のワクチン。 66.前記少なくとも1つのRNAポリヌクレオチドが少なくとも1つの化学修飾を含む、請求項1~65のいずれか一項に記載のワクチン。 67.前記化学修飾が、シュードウリジン、N1-メチルシュードウリジン、N1-エチルシュードウリジン、2-チオウリジン、4’-チオウリジン、5-メチルシトシン、5-メチルウリジン、2-チオウリジン-1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-シュードウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ジヒドロシュードウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-2-チオ-シュードウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、4-チオ-1-メチル-シュードウリジン、4-チオ-シュードウリジン、5-アザ-ウリジン、ジヒドロシュードウリジン、5-メトキシウリジンおよび2’-O-メチルウリジンから選択される、請求項1、2又は66に記載のワクチン。 ・・・ 79.ナノ粒子中に配合された、請求項3~78のいずれか一項に記載のワクチン。 80.前記ナノ粒子が脂質ナノ粒子である、請求項79に記載のワクチン。 ・・・ 82.前記脂質ナノ粒子が、カチオン性脂質、PEG修飾脂質、ステロール、及び非カチオン性脂質を含む、請求項1、2、又は80に記載のワクチン。 83.前記脂質ナノ粒子担体が、モル比約20~60%のカチオン性脂質、0.5~15%のPEG修飾脂質、25~55%のステロール、及び25%の非カチオン性脂質を含む、請求項82に記載のワクチン。 84.カチオン性脂質がイオン化可能なカチオン性脂質であり、非カチオン性脂質が中性脂質であり、ステロールがコレステロールである請求項82又は83記載のワクチン。 ・・・ 122.対象の抗原特異的免疫応答を誘導する方法において使用するための、請求項1~95のいずれか一項に記載のワクチンであって、対象において抗原特異的免疫応答を引き起こすのに有効な量でワクチンを対象に投与することを含むワクチン。 ・・・ 128.式(I)の化合物又はその塩若しくは異性体を含む脂質ナノ粒子を配合した呼吸器疾患抗原をコードするmRNAを含むワクチン: [図:0001417671000007.jpg] 式中、 R1は、C5-30アルキル、C5-20アルケニル、-R*YR”、-YR”、及び-R”M’R’からなる群より選択され、 R2及びR3は、独立して、H、C1-14アルキル、C2-14アルケニル、-R*YR”、-Y-R”、及び-R*OR”からなる群より選択されるか、又はR2及びR3は、それらが結合している原子と一緒になって、複素環もしくは炭素環を形成し、 R4は、C3-6炭素環、-(CH2)nQ、-(CH2)nCHQR、-CHQR、-CQ(R)2、及び非置換C1-6アルキルからなる群より選択され、ここで、Qは、炭素環、複素環、-OR、-O(CH2)nN(R)2、-C(O)OR、-OC(O)R、-CX3、-CX2H、-CXH2、-CN、-N(R)2、-C(O)N(R)2、-N(R)C(O)R、-N(R)S(O)2R、-N(R)C(O)N(R)2、-N(R)C(S)N(R)2、-N(R)R8、-O(CH2)nOR、-N(R)C(=NR9)N(R)2、-N(R)C(=CHR9)N(R)2、-OC(O)N(R)2、-N(R)C(O)OR、-N(OR)C(O)R、-N(OR)S(O)2R、-N(OR)C(O)OR、-N(OR)C(O)N(R)2、-N(OR)C(S)N(R)2、-N(OR)C(=NR9)N(R)2、-N(OR)C(=CHR9)N(R)2、-C(=NR9)N(R)2、-C(=NR9)R、-C(O)N(R)OR、及び-C(R)N(R)2C(O)ORから選択され、各nは、独立して、1、2、3、4、及び5から選択され、 各R5は、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 各R6は、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 M及びM’は、独立して、-C(O)O-、-OC(O)-、-C(O)N(R’)-、-N(R’)C(O)-、-C(O)-、-C(S)-、-C(S)S-、-SC(S)-、-CH(OH)-、-P(O)(OR’)O-、-S(O)2-、-S-S-、アリール基、及びヘテロアリール基から選択され、 R7は、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 R8は、C3-6炭素環及び複素環からなる群より選択され、 R9は、H、CN、NO2、C1-6アルキル、-OR、-S(O)2R、-S(O)2N(R)2、C2-6アルケニル、C3-6炭素環及び複素環からなる群より選択され、 各Rは、独立して、C1-3アルキル、C2-3アルケニル、及びHからなる群より選択され、 各R’は、独立して、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、-R*YR”、-YR”、及びHからなる群より選択され、 各R”は、独立して、C3-14アルキル及びC3-14アルケニルからなる群より選択され、 各R*は、独立して、C1-12アルキル及びC2-12アルケニルからなる群より選択され、 各Yは、独立して、C3-6炭素環であり、 各Xは、独立して、F、Cl、Br、及びIからなる群より選択され、 mは、5、6、7、8、9、10、11、12、及び13から選択される。」 甲1b 「ベータコロナウイルス いくつかの実施形態では、RNA(例えば、mRNA)ワクチンは、少なくとも1つのベータCoV抗原ポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームを有する少なくとも1つのRNA(例えば、mRNA)ポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ベータCoVはMERS-CoVである。いくつかの実施形態では、ベータCoVはSARS-CoVである。いくつかの実施形態では、ベータCoVはHCoV-OC43である。いくつかの実施形態では、ベータCoVはHCoV-229Eである。いくつかの実施形態では、ベータCoVはHCoV-NL63である。いくつかの実施形態では、ベータCoVはHCoV-HKU1である。」(第8頁第27~33行) イ 甲4 甲4(Nature, 2020.02.03, Vol.579, pp.265-269)には、以下の事項が記載されている。なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載し、また、下線は当審合議体が付した。 甲4a 「このウイルス株はWH-ヒト1コロナウイルス(WHCV)(「2019-nCoV」とも呼ばれる)と定められ、その全ゲノム配列(29,903ヌクレオチド)にはGenBankアクセッション番号MN908947が割り当てられた。」(p.266左欄第15-18行) 甲4b 「WHCVがヒトに感染する可能性をより深く理解するために、そのスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をSARS-CoV及びコウモリSARS様CoVのそれと比較した。WHCVのRBD配列は、SARS-CoV (アミノ酸同一性 73.8~74.9 %) 並びに Rs4874 株、Rs7327株、及びRs4231 株 (アミノ酸同一性 75.9~76.9%) を含むSARS様CoVの配列とより密接に関係しており、細胞侵入のためにヒトACE2受容体を利用することが可能であった(補足表7)。さらに、WHCV由来のスパイクタンパク質の RBD は、SARS-CoV 由来のスパイクタンパク質のRBDよりも1アミノ酸だけ長かった (拡張データ図 7a)。対照的に、ヒトACE2に結合できないRp3株を含む他のコウモリSARS様CoVは、SARS-CoVの配列と比較して、位置433~437及び460~472にアミノ酸欠失を持っていた(拡張データ図7a)。以前に決定されヒトACE2と複合体を形成したSARS-CoV のスパイクタンパク質のRBDの結晶構造 (タンパク質データバンク (PBD) 2AJF) では、領域 433~437及び460~472がヒトACE2と直接相互作用しており、このため種特異性の決定においても重要である可能性がある(拡張データ図 7b)。SWISS-MODELサーバーを用いたタンパク質相同性モデリングにより、WHCV、Rs4874、Rp3のスパイクタンパク質のRBDドメインのタンパク質立体構造を予測し、SARS-CoVのスパイクタンパク質のRBDドメインの結晶構造(PDB 2GHV)と比較した (拡張データ図7c-f)。配列アラインメントによれば、WHCV及びRs4874のRBDドメインの予測タンパク質構造は、SARS-CoVのタンパク質構造と密接に関係しており、Rp3からのRBDドメインの予測構造とは異なっていた。さらに、WHCVのスパイクタンパク質のN末端は、シアル酸に結合できる他のヒトコロナウイルス (HKU1及びOC43) よりも SARS-CoVのN末端に似ている (拡張データ図8)。要すれば、WHCVとSARS-CoVのRBDドメインのアミノ酸配列と予測タンパク質構造の高い類似性は、WHCVが細胞侵入のための受容体としてヒトACE2を効率的に利用している可能性があり、それがヒトからヒトへの感染を促進する可能性があることを示唆している。」(p.267左欄第6行-p.268左欄第24行) 甲4c 「1から1029まで及び1652から配列の終わりまでのヌクレオチド断片の系統学的性質としては、WHCVはコウモリSL-CoVZC45及びコウモリSL-CoVZXC21と最も密接に関連しているが、ヌクレオチド 1030~1651の領域 (RBD領域) では、WHCVは直接ヒトへ感染できるSARS-CoV及びコウモリSARS様 CoV(WIV1及びRsSHC014) とグループ化された。」(p.268右欄第6-11行) 甲4d 「ここでは、中国の武漢で重度の呼吸器疾患を経験した患者から採取されたBALF中の新型コロナウイルス(WHCV)について記載した。系統解析により、WHCVはベータコロナウイルス属 (サルベコウイルス亜属) のメンバーであり、特にスパイクタンパク質の RBD において、SARS-CoVとゲノム及び系統学的類似性を有することが示唆された。」(p.268右欄第21-26行) 甲4e 「この論文が受理された後、ICVTはこのウイルスをSARS-CoV2 と定めた。さらに、WHOはこのウイルスによって引き起こされる病気の正式名称をCOVID-19と発表した。」(第269頁左欄第12-14行) ウ 甲5 甲5(特表2016-539944号公報)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。 甲5a 「【請求項1】 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)を含む単離された組成物であって、該ドメインが少なくとも1つのグリコシル化部位を欠く、または正常条件下でグリコシル化されている少なくとも1つの部位で脱グリコシル化されている組成物。 ・・・ 【請求項3】 前記ドメインが前記SARS-CoVスパイクタンパク質の断片である、請求項1に記載の組成物。 【請求項4】 前記断片が前記SARSCoVスパイクタンパク質のアミノ酸残基318~510を含む、請求項3に記載の組成物。 【請求項5】 前記断片が前記SARSCoVスパイクタンパク質のアミノ酸残基318~536を含む、請求項3に記載の組成物。 ・・・ 【請求項18】 薬学的に許容されるビヒクルに含まれる、請求項1から17のいずれか1項に記載の組成物。」 甲5b 「【0007】 完全長Sタンパク質の代替として、残基318~510を含有するその193アミノ酸(aa)の最小受容体結合ドメイン(RBD)(RBD193)が確認され、その推定ヒト受容体、膜貫通型アンギオテンシン変換酵素2(ACE2)とin vitroで結合することが分かった(Wong et al.、2004)。さらに、それぞれ哺乳動物細胞293Tとチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)-K1の培養上清で発現される、組換えタンパク質RBD193と関連構築物RBD219(残基318~536)は、予防接種済みマウスにおいて中和抗体および防御免疫を誘発することが実証された(Du et al.、2009;Du et al.、2012)。さらにRBDは、完全SARS-CoVまたはSタンパク質構築物発現ワクシニアウイルスで免疫処置したマウス、サル、およびウサギの抗血清において大部分の中和抗体を吸収および除去することもできる(Chen et al.、2005)。」 甲5c 「【0010】 本開示のいくつかの実施形態は、SARS-CoVスパイクタンパク質の受容体結合ドメインを含む、ワクチンなどのSARS免疫原性組成物の開発を含む。ワクチンまたは免疫原性組成物は1つまたは複数のアジュバントを含むことができる。個別の例では、ワクチンまたは免疫原性組成物は、例えば酵母中または哺乳動物系中で組換えタンパク質として発現され得る。」 甲5d 「【0012】 個別の例では、RBD193とRBD219組換えタンパク質、およびそれらの発現、ならびにそれらの脱グリコシル化型がある。具体的実施形態では、組換えタンパク質は、典型的な酵母ピキア・パストリス(Pichia pastoris)の系において産生される。突然変異体の1つ、RBD219のN1位置におけるN結合型グリコシル化アスパラギンが欠失したRBD219-N1は、組換えタンパク質として発現され、高収率で精製され、哺乳動物発現系RBD193と同等以上のその機能性と抗原性を維持し得る。(ミョウバン系アジュバントとの組合せなどの)RBD219-N1は、SARS-CoV偽ウイルスと生存ウイルスの両方に対する高力価の中和抗体を誘発した。したがってこの分子は、例えばワクチンなどの組換えSARS免疫原性組成物に関する、スケールアップ・プロセスの開発と製造に有用である。」 エ 甲6 甲6(World J.Gastroenterol., 2005, Vol.11, Number 39, pp.6159-6164)には、以下の事項が記載されている。なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載し、また、下線は当審合議体が付した。 「最終的に、我々は可溶性に発現した組換えRBDタンパク質をGST融合型で得た。 組換えGST・RBDタンパク質を精製し、ELISAにより抗Sタンパク質RBDモノクローナル抗体との陽性反応を確認し、フローサイトメトリーによりACE2陽性Vero E6細胞への効果的な結合能を有することを確認した。融合タグを除去した後、組換えタンパク質は、受容体とのSタンパク質の結合をブロックするためのサブユニットワクチンを開発し、SARS-Cov感染を中和するために使用できる。」(p.6163左欄下から11-下から2行) オ 甲7 甲7(Journal of Thoracic Disease, 2013, Vol.5, Suppl 2, pp.S142-S148)には、以下の事項が記載されている。なお、英文で記載されているため、当審合議体による翻訳文にて記載し、また、下線は当審合議体が付した。 「これまでの研究に基づき、RBDベースのSARSワクチンが最も効果的で安全であると考えている。第一に、哺乳類細胞で発現したヒトIgGFcに結合した組み換えRBD(RBD-Fc)が、ワクチン接種したマウスとウサギで非常に強力な中和抗体を誘導できることを実証した(34)。第二に、哺乳類(293T)細胞、昆虫(Sf9)細胞、大腸菌でそれぞれ発現したFcタグなしの組み換えRBDは、マウスでSARS-CoV感染に対する非常に強力な中和抗体反応と完全な防御免疫を誘導することができた。第三に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)-K1細胞で発現した219-mer(残基318-536)RBDタンパク質(RBD219-CHO)と、CHO細胞で安定的に発現した193-mer(残基318-510)RBD(RBD193-CHO)は、ワクチン接種を受けたすべてのマウスで強力な体液性及び細胞性免疫応答と防御を誘導することができた(35、36)。第四に、組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベースのRBD(RBD-rAAV)ワクチンは、筋肉内(im)ワクチン接種を受けたBALB/cマウスで中和活性を伴う体液性免疫応答を誘導することができた(37)。RBD-rAAVワクチンの鼻腔内(in)適用は、筋肉内投与よりも強力なSARS-CoV特異的全身及び粘膜免疫応答を誘導する可能性がある(38)。第五に、RBD-rAAVワクチンによるプライミングとT細胞エピトープに対するRBD特異的ペプチドによるブーストにより、抗SARS-CoV体液性及び細胞性免疫応答が有意に上昇した(39)。第六に、RBDベースのSARSワクチンは、動物モデルにおいて長期中和活性と長期防御免疫を備えた高力価のS特異的抗体を誘導することができた(40)。これらすべての結果は、RBDベースのワクチンが、将来的にSARS-CoV感染を予防し、SARSパンデミックの再発と闘うための効果的で安全なワクチンとしてさらに開発される可能性が高いことを示している。」(p.5146左欄第19行-最終行) カ 甲8 甲8(Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], Accession No.MN908947)には、以下の事項が記載されている。 「LOCUS MN908947 30473 bp ss-RNA linear VRL 12-JAN-2020 DEFINITION Betacoronavirus sp. isolate Wuhan-Hu-1, complete genome. ACCESSION MN908947 VERSION MN908947 . 1 」 「 [図:0001417671000008.jpg] 」 キ 甲9 甲9(一般社団法人日本感染症学会 「新型コロナウイルス感染症(2019-nCoV)への対応について」)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。 甲9a 「新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染症への対応について」(タイトル) 甲9b 「今回の新型コロナウイルスは、遺伝学的にSARS-CoVに近縁であることが報告されています。」(項目2.第6-7行) 甲9c 「1月28日に新型コロナウイルスによる感染症が感染症法の「指定感染症」に指定されることが決まりました。」(項目6.第1-2行) (3)甲1に記載された発明 甲1には、「少なくとも1つのベータコロナウイルスの抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレームを有する少なくとも1つのリボ核酸(RNA)ポリヌクレオチドを含むベータコロナウイルス(ベータCoV)ワクチン」が記載され(甲1aの請求項43)、前記RNAがmRNAであること(甲1b)、前記RNAが脂質ナノ粒子内に配合されていること(甲1aの請求項79、80)、前記脂質ナノ粒子担体がモル比約20~60%のイオン化可能なカチオン性脂質、0.5~15%のPEG修飾脂質、25~55%のステロール、及び25%の非カチオン性脂質を含むこと(甲1aの請求項82-84)、前記RNAがシュードウウリジン、N1-メチルシュードウリジン、N1-エチルシュードウリジン、5-メトキシウリジン等の化学修飾を含むこと(甲1aの請求項66、67)も記載されている。 したがって、甲1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。 「少なくとも1つのベータコロナウイルスの抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)ワクチンであって、前記mRNAが、約20~60mol%のイオン化可能なカチオン性脂質と、約25mol%の非カチオン性脂質と、約25~55mol%のステロールと、約0.5~15mol%のPEG修飾脂質とを有する脂質ナノ粒子を含むmRNAワクチン内に存在し、前記mRNAが少なくとも1つの化学修飾を含み、前記少なくとも1つの化学修飾が、シュードウリジン(ψ)、1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)、1-エチル-シュードウリジン(e1ψ)及び/または5-メトキシシチジンからなる群から選択される、mRNAワクチン。」(以下、「甲1発明」という。) (4)本件発明1の進歩性の検討 ア 本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1における「SARS-CoV-2」が、甲1発明における「ベータコロナウイルス」に包含されることを前提において(甲4d、e)、本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は、 「ベータコロナウイルスの抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)ワクチンであって、前記mRNAが、約20~60mol%のイオン化可能なカチオン性脂質と、約25mol%の非カチオン性脂質と、約25~55mol%のステロールと、約0.5~15mol%のPEG修飾脂質とを有する脂質ナノ粒子を含むmRNAワクチン内に存在し、前記mRNAが少なくとも1つの化学修飾を含み、前記少なくとも1つの化学修飾が、シュードウリジン(ψ)、1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)、1-エチル-シュードウリジン(e1ψ)、及び/または5-メトキシシチジンからなる群から選択される、mRNAワクチン。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> ORFが、本件発明1ではSARS-CoV-2スパイクタンパク質の可溶性であるRBDをコードするものであるのに対し、甲1発明ではベータコロナウイルスの抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片をコードするものである点 <相違点2> 少なくとも1つの化学修飾が、本件発明1ではシュードウリジン(ψ)、1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)、1-エチル-シュードウリジン(e1ψ)、5-メトキシ-ウリジン(mo5U)、5-メチルシチジン(m5C)、5-メトキシメチルウリジン、5-メチルチオウリジン、1-メトキシメチルシュードウリジン及び/または5-メトキシシチジンからなる群から選択されるのに対し、甲1発明ではシュードウリジン(ψ)、1-メチル-シュードウリジン(m1ψ)、1-エチル-シュードウリジン(e1ψ)、及び5-メトキシシチジンからなる群から選択される点 イ 相違点1についての判断 甲1には、甲1発明におけるベータコロナウイルスとしてSARS-CoVが挙げられ(甲1b)、抗原性ポリペプチドとしてSタンパク質(S、S1及び/又はS2)が挙げられている(甲1aの請求項44)。 一方、甲4及び甲9の記載から(甲4b-e、甲9a-c)、その感染症が社会的な問題となっているSARS-CoV-2がベータコロナウイルス属のメンバーであり、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のアミノ酸配列が本件特許の優先日(2020年2月7日)前に当業者に知られていたこと、更に、そのRBDはSARS-CoVとゲノム及び系統学的類似性を有することが理解できる(甲4a、甲8)。 また、甲5~7の記載から(甲5a及びc、甲6~7)、可溶性のSARS-CoVスパイクタンパク質のRBDが、SARS-CoVに対するサブユニットワクチンの開発の標的となることが理解できる。 しかるところ、上記の甲1、甲4~9のいずれにも、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の特に可溶性であるRBDが記載も示唆もされておらず、進んで、そのSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の可溶性であるRBDをワクチン開発の標的とすることも甲1、甲4~9の記載から導き出せない。そうすると、甲1発明の「ベータコロナウイルスの抗原性ポリペプチド又はその免疫原性断片をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)」を、本件発明1の「SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)」であって「前記RBDが可溶性」であるものに置き換えることが当業者に容易に想到し得るとはいえない。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲1、4~9に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)本件発明2~3の進歩性の検討 本件発明2~3は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定しようとするものであるから、上記(4)と同様の理由により、進歩性を否定することはできない。 (6)申立人の主張について 申立人は、甲1発明における「SARS-CoV-やMERS-CoVの属するベータコロナウイルス」として「SARS-CoV-2ウイルス」を用いること、甲1発明における「細胞受容体への結合に関与するSタンパク質(S、S1及び/又はS2)」等である「抗原性ポリペプチド又はその免疫性断片」として「スパイクタンパク質の可溶性受容体結合ドメイン(RBD)」を用いることは、それぞれ、甲4~9の記載により当業者として容易に想到できることであると主張している。 しかし、上記(4)で述べたとおり、甲1、甲4~9のいずれにも、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の特に可溶性であるRBDが記載も示唆もされておらず、進んで、そのSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の可溶性であるRBDをワクチン開発の標的とすることも甲1、甲4~9の記載から導き出せないので、上記主張により、本件発明1~3の進歩性は否定できない。 さらに、申立人は、可溶性RBDに関して、発現させた具体例やその効果は、本件明細書には一切記載されておらず、公知技術に対する優位な点も不明であると主張している。 しかし、上記(4)で述べたとおり、本件発明1~3の進歩性の判断は、本件明細書の具体例や効果の記載内容、更には、公知技術に対する有利な効果の有無により左右されないので、上記主張は理由がない。 よって、申立人の主張は採用できない。 (7)小括 以上に述べたとおり、本件発明1~3は、甲1に記載された発明、及び、甲1、4~9に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立理由1は理由がない。 3 申立理由2(実施可能要件)及び3(サポート要件)について (1)本件明細書に記載された事項 ア 「【0004】 現在、COVID-19の特定の治療法またはSARS-CoV-2感染に対するワクチンはない。コロナウイルス感染症、特にSARS-CoV-2のパンデミックに関連する継続的な健康問題及び死亡率は、国際的に大きな懸念事項である。SARS-CoV-2によって引き起こされた公衆衛生危機は、これらのウイルスに対する効果的で安全なワクチン候補を迅速に開発することの重要性を強調している。」 イ 「【0007】 さらに、NTD及びRBDの両方とも、ウイルス活性を中和する抗体の結合部位であることが公知である。SARS-CoV-2の場合のRBDは、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に結合するスパイクタンパク質の受容体結合部位である。NTDは、その機能が完全には理解されていないが、糖部分を結合すること、及びスパイクタンパク質の融合前から融合後の高次構造への高次構造変化を促進することに、役割を果たしているようである。とにかく、NTDドメイン及びRBDドメインの両方とも、本明細書に示されるように、高結合抗体及び中和抗体力価を誘導する。」 ウ 「【0086】 いくつかの実施形態では、タンパク質ドメインは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)である。 【0087】 いくつかの実施形態では、RBDは可溶性である。 【0088】 いくつかの実施形態では、抗原は、配列番号62のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択で、この抗原は、配列番号62のアミノ酸配列を含む。 【0089】 いくつかの実施形態では、オープンリーディングフレームは、配列番号61のヌクレオチド配列に対して、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含み、任意選択で、このオープンリーディングフレームは配列番号61のヌクレオチド配列を含む。」 エ 「【0180】 可溶性RBD抗原 いくつかの実施形態では、mRNAは、可溶性SARS-CoV-2 RBDをコードする。樹状細胞は飲作用によって可溶性タンパク質をサンプリングし、流入領域リンパ節に移動する際に、サンプリングされたタンパク質を構成する線状ペプチドをCD4 + T細胞に提示する。これらのCD4 + T細胞は、RBD由来のエピトープを認識し、取り込み、そして提示したB細胞に増殖シグナルを提供するため、SARS-CoV-2スパイクタンパク質の他の成分を含まないRBDを特異的に投与すると、免疫応答をRBDに存在するエピトープに向けて集中させると予想される。可溶性SARS-CoV-2 RBD及びそれらをコードするmRNAの非限定的な例を以下の表7A及び7Bに示す。 (略)」 オ 「【0181】 膜結合RBD抗原 いくつかの実施形態では、mRNAは、膜結合SARS-CoV-2 RBDをコードする。膜結合RBDを発現する細胞は、これらの膜結合抗原を流入領域リンパ節に運び、RBD特異的B細胞によるエピトープの効率的な認識を促進すると期待される。B細胞表面には多くの表面結合抗体が含まれ、発現細胞には膜結合RBDのコピーが多数含まれているので、B細胞による抗原の最初の認識に続いてB細胞受容体が架橋し、親和性効果を通じて強力な応答が刺激されると期待される。膜結合型SARS-CoV-2 RBD及びそれらをコードするmRNAの非限定的な例を以下の表8A及び8Bに示す。 (略)」 カ 実施例1には、SARS-CoV-2の野生型スパイクタンパク質、RBD-TM、NTD-TM、又はNTD-RBD-TMをコードするmRNAの発現データが記載されている(【0531】-【0533】)。ここで、RBDは受容体結合ドメイン、NTDはN末端ドメイン、TMはインフルエンザの血球凝集素に由来するカルボキシ末端膜貫通ドメインを意味する。 キ 実施例2には、mRNA RBD-TM、mRNA NTD-TM及びmRNA NTD-RBD-TM組成物又はmRNA NTD-TMとmRNA RBD-TMの組成物との50:50混合物をマウスに単回投与した結果、NTD特異的及びRBD特異的IgG力価を誘発したこと、偽ウイルス中和アッセイによって1μg用量のmRNA RBD-TM及びmRNA NTD-RBD-TM組成物又は2μg用量のmRNA NTD-TMとmRNA RBD-TMの組成物との50:50混合物で単回ワクチン接種されたマウスの血清の中和力価を測定し、ELISA力価と中和力価との間の相関関係を分析した結果、スパイク特異的IgG、RBD特異的IgG、及びNTD特異的IgGの中和力価とELISA力価との間には有意な相関関係が見出されたことが記載されている(【0534】-【0537】 )。 ク 実施例3には、mRNA RBD-TM、mRNA NTD-TM及びmRNA NTD-RBD-TM組成物又はmRNA NTD-TMとmRNA RBD-TMの組成物との50:50混合物をマウスに2回ワクチン接種した結果、当該マウスの血清において、NTD特異的及びRBD特異的IgG力価を誘発したこと、及び中和力価を示したことが記載されている。(【0538】-【0545】)。 ケ 実施例4には、mRNA Sタンパク質(1-666)-TM組成物でマウスを2回免疫したところ、当該マウスの血清において、NTD特異的及びRBD特異的IgG力価を誘発したことが記載されている(【0546】-【0547】)。 コ 実施例5、6には、mRNA RBD-TM、mRNA NTD-TM及びmRNA NTD-RBD-TM組成物又はmRNA NTD-TMとmRNA RBD-TMの組成物との50:50混合物をマウスに2回ワクチン接種した結果、特異的IgG力価を誘発したことが記載されている。(【0548】-【0550】)。 サ 実施例7には、mRNA NTD-RBD-TM組成物をマウスに2回ワクチン接種し、S2P特異的IgG1及びIgG2力価を評価した結果、Th1タイプの応答内に明らかにおさまる抗体免疫応答を誘導したことが記載されている(【0551】)。ここで、S2Pは、二重プロリン変異を有するSタンパク質を意味する(【0538】)。 シ 実施例8には、表29に記載されるmRNAをマウスに2回ワクチン接種し、S2Pコーティングプレートで血清IgG層をアッセイした結果が記載されている(【0552】)。 (2)mRNAワクチン組成物の具体例と効果について 本件明細書には、mRNA RBD-TMを投与したマウスの血清がRBD特異的IgG抗体を誘発したことや、それが中和力価を示すこと、さらには、mRNA Sタンパク質(1-666)-TM組成物を投与したマウスの血清がRBD特異的IgG抗体を誘発したこと、が記載され(上記(1)キ-シ)、これらは、膜結合型であるRBD-TMを含むワクチンを使用した場合にRBD特異的免疫誘導を惹起することを具体的に示すものである。そして、本件明細書の【0180】及び【0181】(上記(1)エ、オ)の記載を併せ読むと、本件発明1のmRNAにコードされるRBDの部位が特異的免疫誘導を惹起することが理解できるので、本件特許の出願時の当業者であれば、本件明細書の上記の具体例より、本件発明1のmRNAを含むワクチンを製造し、そのワクチンを使用することに過度の試行錯誤、実験を要するとは認められない。 よって、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~3を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると認められ、本件発明1は、SARS-CoV-2感染に対するワクチン候補を迅速に開発するという、本件発明が解決しようとする課題(上記(1)ア)を解決できることも本件明細書の発明の詳細な説明より当業者が認識できるといえる。 申立人は、可溶性RBDをコードする配列番号61のORFを含むmRNAを生産したこと、脂質ナノ粒子に配合させて可溶性RBDのORFを含むワクチン組成物を製造したこと、可溶性RBDのmRNAが細胞中で発現したこと、可溶性mRNAを含む組成部が免疫を誘導したこと等は本件明細書中に一切記載されていないこと、及び実施例において用いられている膜結合RBD抗原をコードするmRNA RBD-TMについても、投与に際して用いた脂質ナノ粒子(LNP)の具体的な製剤組成や配合方法は一切記載されていないことから、物質の微細な構造変化により薬効が異なる医薬品の物質特許は具体例の効果の確認が必要であるにもかかわらず、ワクチン組成物がワクチンとして用いられるかどうかの効果確認は何ら行われていないと主張している。 しかし、申立人は、可溶性RBDと膜結合型RBDが異なる免疫原性を示し、後者がワクチンとして使用できても前者がワクチンとして使用できないことを端的に示す反証等は提示していないし、本件発明1の脂質ナノ粒子(LNP)の製剤組成や配合方法によりワクチンとして使用できない場合があることを示す本件特許の出願時の技術常識等も提示していない。 そして、上記で検討したとおり、本件発明1は、実施可能要件及びサポート要件を満たすものであるから、単に、実施例が不足していることを論難するに過ぎない、申立人の主張は採用できない。 (3)SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)のワクチン効果について 申立人は、本件発明1のRBDに含まれる多数のポリペプチド、本件発明1のORFに含まれる多数のポリヌクレオチドが全てSARS-CoV-2ウイルスにワクチン効果を示すものなのかどうかは、本件明細書に何ら記載されておらず、つまり、本件発明の効果を示す具体例が何ら記載されていないと主張している。 しかし、上記(2)において検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、本件発明1は、上記課題を解決できることも本件明細書の発明の詳細な説明より当業者が認識できるものである。 また、本件明細書には、本件発明1におけるRBDは配列番号62のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むこと(上記(1)ウ【0088】)、本件発明1におけるORFは配列番号61のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むこと(上記(1)ウ【0089】)が記載されているが、上記のRBDは、mRNAワクチンの免疫原として使用されるものなので、本件発明1が、免疫原性を失っているRBDを対象にしていると解すべき理由はない。 更に、本件発明1には、「SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードする」と明記されているから、配列番号62のアミノ酸配列が変異することにより、RBDとしての機能、すなわちアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)に対する結合性(上記(1)イ)を失ったRBDも、本件発明1が対象にしていると解すべき理由はない。 そうすると、請求項1の記載によれば、本件発明1のRBDに含まれる多数のポリペプチドにはSARS-CoV-2ウイルスにワクチン効果を示さないものが含まれているとは解されないので、申立人の主張は理由がない。 (4)小括 よって、本件発明1は、実施可能要件に違反するとも、サポート要件に違反するとも認めることはできない。そして、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定しようとする本件発明2~3も、本件発明1と同様の理由により、実施可能要件に違反するとも、サポート要件に違反するとも認めることはできないから、申立理由2及び3は理由がない。 4 申立理由4(明確性)について (1)対象とするmRNA 申立人は、mRNAの中に可溶性RBDをコードするORFの核酸配列に、更に他のタンパク質の情報を含むmRNAが特許の対象なのか、あるいは可溶性RBDをコードするORFの核酸に、その発現のための5’UTR、3’UTRといった特定の核酸を結合させたmRNAであるのか不明確であり、前者の場合は特許請求の範囲に記載された発明がスパイクタンパク質そのものをコードするものまで含むこととなると主張している。 しかし、請求項1の「SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)ワクチンであって、前記RBDが可溶性であり、」という記載は、mRNAがRBDを可溶性の状態で発現できるコード領域を含むものであり、その使用されている用語自体に技術的に不明確な表現は存しないし、本件明細書の【0180】(上記3(1)エ)によると、かかる記載が、スパイクタンパク質そのものをコードするものまでを含む記載であるとは解されない。 そうすると、請求項1の「SARS-CoV-2スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含むメッセンジャーリボ核酸(mRNA)ワクチンであって、前記RBDが可溶性であり、」という記載が、本件明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識を考慮した場合に、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 よって、申立人の主張は理由がない。 (2)脂質ナノ粒子の粒子径 申立人は、一般的にRNA製剤は脂質粒子に内包させて製剤化するが、粒子径によりそのDDS効果に差が出ることが知られているから、脂質ナノ粒子の粒子径が特定できない特許請求範囲の記載は不明確であると主張している。 しかし、請求項1~3には、粒子径の記載がないので、申立人の主張は、明確性要件違反の理由であるとは認められない。また、かかる主張が、実施可能要件及びサポート要件違反を論じるものであったとしても、本件明細書の記載より、RNA製剤の粒子径が、本件発明1~3の実施やその課題の解決において不可欠なものであるとは認められないので、かかる主張は失当である。 よって、いずれにしても、申立人の主張は理由がない。 (3)ワクチンが対応するウイルス種 申立人は、請求項1の「SARS-CoV-2」が変異株まで含むものなのか、本件明細書にそのスパイクタンパク質の配列が記載されているSARS-CoV-2の野生株に止まるのか、不明確であると主張している。 しかし、本件明細書の配列は、【0180】の記載をみても理解できるように、非限定的な例にすぎないので、請求項1の「SARS-CoV-2」を、本件明細書に記載される特定の野生株に止まると解すべき理由はないし、そもそも、明確性要件の観点で請求項1において変異株の範囲(申立人のいう「対応するウイルス種」)を記載すべき理由も見出せない。 そうすると、請求項1~3において、「対応するウイルス種」が特定されていないことが、本件明細書の記載及び本件特許出願時の技術常識を考慮した場合に、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。 よって、申立人の主張は理由がない。 (4)小括 よって、本件発明1は、明確性要件に違反するとはいえない。そして、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定しようとする本件発明2~3も、本件発明1と同様の理由により、明確性要件に違反するとはいえないので、申立理由4は理由がない。 第5 むすび 以上のとおり、本件特許に係る特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由は、いずれも理由がないから、本件発明1~3に係る特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件発明1~3に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700796

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