特許異議申立
2022-701192
RNAの免疫原性を低減するための方法
- 審判番号
- 2022-701192
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-509891
- 登録番号
- 7078812
- 請求日
- 2022年12月01日
- 審決日
- 2024年03月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】バイオンテック・エスイー
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【権利者代理人】廣戸 健太郎
- 【異議申立人】伊藤 匠
- 【異議申立人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 前田 佳与子
- 審判官 田中 耕一郎
- 分類
- P1651.121-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7078812号発明「RNAの免疫原性を低減するための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7078812号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕、〔13~14〕について訂正することを認める。
特許第7078812号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7078812号(以下、「本件特許」という。)に係る発明についての出願(特願2018-509891号)は、2016年(平成28年)8月24日(パリ条約による優先権主張 2015年8月28日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とするものであり、令和4年5月24日にその特許権の設定登録(請求項の数 14)がされたものである。
これに対して、特許異議申立人 伊藤 匠(以下「申立人」という。)から、令和4年12月1日提出の特許異議申立書によって、本件特許の全ての請求項1~14に係る発明の特許を取り消すべき旨の特許異議の申立てがされた。以降の主な手続の経緯は下記のとおりである。
令和5年 3月 8日付け 取消理由通知書
同年 6月12日提出 意見書(特許権者)
同年 9月14日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月30日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者)
なお、申立人に対し、令和5年11月15日付け通知書により、上記訂正の請求があった旨を通知し、意見を述べる機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨
令和5年10月30日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求めるものである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質・・・を生産する方法であって、」、「前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、」及び「前記非修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、」という記載を、それぞれ「少なくとも1種のタンパク質・・・を生産する方法であって、」、「前記修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、」及び「前記非修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、」という記載に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「少なくとも1種の・・・を生産する方法であって、」という記載の直後に、「前記タンパク質がエリスロポエチンであり、」という記載を追加する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質・・・を準備する方法であって、」、「前記第2のRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、」及び「前記第1のRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、」という記載を、それぞれ「少なくとも1種のタンパク質・・・を準備する方法であって、」、「前記第2のRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、」、及び「前記第1のRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、」という記載に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3の「少なくとも1種の・・・を準備する方法であって、」という記載の直後に、「前記タンパク質がエリスロポエチンであり、」という記載を追加する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4の「ペプチド又はタンパク質が、」という記載を、「タンパク質が、」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項5の「U含有量を低減することにより修飾されたRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列が、」及び「非修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一である、」という記載を、それぞれ「U含有量を低減することにより修飾されたRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列が、」及び「非修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一である、」という記載に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項12の「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質・・・を得る方法であって、」という記載を、「少なくとも1種のタンパク質を・・・を得る方法であって、」という記載に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項12の「少なくとも1種の・・・を得る方法であって、」という記載の直後に、「前記タンパク質がエリスロポエチンであり、」という記載を追加する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項13に「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質を・・・であって、」、「前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、」及び「前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、」という記載を、それぞれ「少なくとも1種のタンパク質を・・・であって、」、「前記修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、」及び「前記天然に存在するRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、」という記載に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項13の「少なくとも1種の・・・であって、」という記載の直後に、「前記タンパク質がエリスロポエチンであり、」という記載を追加する。
(11)一群の請求項について
訂正前の請求項2及び4~11は請求項1を引用するものであり、請求項4~12は請求項3を引用するものである。
また、請求項14は請求項13を引用するものである。
よって、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12、並びに訂正後の請求項13及び14に対応する訂正後の請求項13及び14は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であるから、訂正事項1~10は、一群の請求項に対して請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1、3、5~7及び9について
訂正事項1、3、5~7及び9は、訂正前の請求項1、3~5、12及び13における「ペプチド又はタンパク質」という選択肢から「ペプチド」を削除して、「タンパク質」のみにするものであるから、当該訂正事項1、3、5~7及び9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1、3、5~7及び9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2、4、8及び10について
訂正事項2、4、8及び10は、訂正前の請求項1、3、12及び13における「タンパク質」を「エリスロポエチン」に限定するものであるから、当該訂正事項2、4、8及び10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2、4、8及び10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものには該当しない訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。
(3)独立特許要件について
本件特許異議の申立てにおいては、訂正前の請求項1~14について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条7項の独立特許要件は課されない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕、〔13~14〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~14に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
以下、本件特許の請求項1~14に係る発明を、請求項の番号順に、それぞれ「本件訂正発明1」等といい、これらをまとめて「本件訂正発明」ともいう。
「【請求項1】
少なくとも1種のタンパク質をコードする修飾RNAを生産する方法であって、前記タンパク質がエリスロポエチンであり、ウリジン(U)含有量を低減することによってRNAのヌクレオチド配列を修飾する工程を含み、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され、前記修飾RNAはAに富み、非修飾RNAと比較して少なくとも40%までA含有量が増大しており、前記修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、前記非修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす、方法。
【請求項2】
(i)第1のRNAのヌクレオチド配列を準備する工程と、
(ii)第1のRNAのヌクレオチド配列と比較して低減されたU含有量を含む第2のRNAのヌクレオチド配列を設計する工程と
(iii)第2のRNAを準備する工程と
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1種のタンパク質をコードするRNAの転写のための核酸分子を準備する方法であって、前記タンパク質がエリスロポエチンであり、
(i)第1のRNAのヌクレオチド配列をコードする第1のDNA配列を準備する工程と、
(ii)第1のRNAのヌクレオチド配列と比較して低減されたU含有量を含む第2のRNAのヌクレオチド配列をコードする第2のDNA配列を設計する工程であって、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含む、工程と、
(iii)第2のDNA配列を含む核酸分子を準備する工程と
を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され、第2のRNAはAに富み、第1のRNAと比較して少なくとも40%までA含有量が増大しており、前記第2のRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、前記第1のRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、前記第2のRNAは、前記第1のRNAと比較して、細胞と接触した際に、これらの細胞からIFN-αの減少した分泌をもたらす、方法。
【請求項4】
タンパク質が、薬学的に活性、又は抗原性である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
U含有量を低減することにより修飾されたRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列が、非修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記低減されたU含有量が、U含有量を低減することにより修飾されたRNAを非修飾RNAと比較してより低い免疫原性にする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
U含有量を低減することにより修飾されたRNA中のU含有量が、非修飾RNAと比較して少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%低減される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
U含有量が、RNAの5'非翻訳領域、コード領域、及び3'非翻訳領域のうちの1つ又は複数において低減される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
U含有量が、RNAのコード領域内で低減される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
U含有量の前記低減が、少なくとも1個のUヌクレオシドを含むコドンを、同じアミノ酸をコードするが、より少ないUヌクレオシドを含む、好ましくはUヌクレオシドを含まない他のコドンによって変更する工程を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
RNAがmRNAである、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種のタンパク質をコードするRNAを得る方法であって、前記タンパク質がエリスロポエチンであり、(i)請求項3から11のいずれか一項に記載の方法に従ってRNA転写のための核酸分子を準備する工程と、(ii)鋳型として核酸分子を使用してRNAを転写する工程とを含む方法。
【請求項13】
少なくとも1種のタンパク質をコードし、Aに富む修飾RNAであつて、前記タンパク質がエリスロポエチンであり、天然に存在するRNAから由来し、前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含むヌクレオチド配列を有し、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され、前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大しており、前記修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ撃配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす、修飾RNA。
【請求項14】
治療における使用のための、請求項13に記載の修飾RNA。」
第4 取消理由通知(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1~14に係る特許に対して、当審において令和5年9月14日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した[取消理由1(進歩性)]の概要は、下記のとおりである。
なお、以下では、申立人が提出した甲第1号証、甲第2号証、・・・を、各甲号証の番号順に「甲1」、「甲2」・・・のように記載する。また、[取消理由1(進歩性)]は、申立人による進歩性の申立理由(以下「申立理由1」という。)と同趣旨である。
[取消理由1(進歩性)]
本件特許の請求項1~14に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された甲1~甲4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1~14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
<甲号証一覧>
甲1:特表2015-513916号公報
甲2:Florian Heil et al., SCIENCE, Vol.303, 5 March 2004, p.1526-1529
甲3:Angela Meier et al., Journal of Virology, Vol.81, No.15, Aug.2007, p.8180-8191
甲4:特表2011-510640号公報
第5 取消理由1(進歩性)についての当審の判断
1 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(1)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付したものである。以下同様。
(甲1a)
「【請求項1】
目的のポリペプチドをインビボで産生する方法であって、前記目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離mRNAに哺乳動物の細胞、組織又は生体を接触させることを含み、前記目的のポリペプチドは、フルクトース二リン酸アルドラーゼA(ALDOA)、α-メチルアシル-CoAラセマーゼ(AMACR)、・・・コロニー刺激因子2(顆粒球マクロファージ)(GM-CSF)、コロニー刺激因子3(顆粒球)(GCSF)、デオキシリボヌクレアーゼI(DNAse1)、エリスロポエチン(EPO)、・・・血管内皮成長因子(VEGF)、及びX連鎖アポトーシス阻害剤(XIAP)からなる群より選択される、前記方法。
・・・
【請求項6】
前記単離mRNAは、少なくとも1つの化学的に修飾されたヌクレオシドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの化学的に修飾されたヌクレオシドは、ピリジン-4-オン・リボヌクレオシド、5-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオウリジン、4-チオ-シュードウリジン、2-チオ-シュードウリジン、5-ヒドロキシウリジン、3-メチルウリジン、5-カルボキシメチル-ウリジン、1-カルボキシメチル-シュードウリジン、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-シュードウリジン、5-タウリノメチルウリジン、1-タウリノメチル-シュードウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン、1-タウリノメチル-4-チオ-ウリジン、5-メチル-ウリジン、1-メチルシュードウリジン、4-チオ-1-メチル-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-シュードウリジン、1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-シュードウリジン、ジヒドロウリジン、ジヒドロシュードウリジン、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロシュードウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-シュードウリジン、4-メトキシ-2-チオ-シュードウリジン、5-アザ-シチジン、シュードイソシチジン、・・・7-デアザ-8-アザ-アデニン、7-デアザ-2-アミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2-アミノプリン、7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、7-デアザ-8-アザ-2,6-ジアミノプリン、1-メチルアデノシン、N6-メチルアデノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、2-メチルチオ-N6-(シス-ヒドロキシイソペンテニル)アデノシン、N6-グリシニルカルバモイルアデノシン、N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、2-メチルチオ-N6-スレオニルカルバモイルアデノシン、N6,N6-ジメチルアデノシン、7-メチルアデニン、2-メチルチオ-アデニン、2-メトキシ-アデニン、イノシン、1-メチル-イノシン、ワイオシン、ワイブトシン、7-デアザ-グアノシン、7-デアザ-8-アザ-グアノシン、6-チオ-グアノシン、・・・、及びN2,N2-ジメチル-6-チオ-グアノシンからなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記単離mRNAは製剤化される、請求項1記載の方法。
・・・
【請求項11】
前記単離mRNAは、1日合計1ug~150ugの用量で投与される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記単離mRNAは、2以上の均等又は不均等に分割した用量で投与される、請求項1記載の方法。」(請求項1~12)
(甲1b)
「【0004】
発明の分野
本発明は、ポリヌクレオチド、一次構築物、および修飾mRNA分子(mmRNA)の組成、これらの設計、調製、製造、および/または製剤化の方法、プロセス、キット、ならびにデバイスに関する。
・・・
【0007】
他者は、目的とするポリペプチドを送達するためのmRNAの使用を研究しており、mRNA分子のある特定の化学修飾、具体的には、シュードウリジンおよび5-メチル-シトシンが免疫刺激作用を低下させたことを示している。
・・・
【0011】
本発明は、目的とするポリペプチド(例えば、修飾mRNAまたはmmRNA)をコードし、当技術分野における課題のうちの1つ以上を回避する構造的および/または化学的特徴、例えば、構造的および機能的完全性を保持し、発現の閾値を克服し、発現速度、半減期、および/またはタンパク質濃度を改善し、タンパク質局在化を最適化し、かつ免疫応答等の有害な生物応答および/または分解経路を回避しながら、核酸系治療薬の製剤化および送達の最適化に有用な特徴を有する核酸系化合物またはポリヌクレオチドを提供することによって、この必要性に対処する。
・・・
【0018】
本発明に従って、これらのポリヌクレオチドは、好ましくは、当技術分野の他のポリペプチドをコードする分子の欠陥を回避するように修飾される。したがって、これらのポリヌクレオチドは、修飾mRNAまたはmmRNAと称される。
」(【0004】~【0018】)
(甲1c)
「【0165】
II.mmRNAの設計および合成
本発明に従って用いるポリヌクレオチド、一次構築物、またはmmRNAは、化学合成、一般にインビトロ転写(IVT)と称される酵素合成、またはより長い前駆体の酵素的もしくは化学的切断等を含むが、これらに限定されない任意の利用可能な技法に従って調製され得る。RNAを合成する方法は、当技術分野において既知である・・・。
【0166】
本発明の一次構築物の設計および合成のプロセスは、概して、遺伝子構築ステップ、mRNA産生ステップ(修飾を伴うか、または伴わない)、および精製ステップを含む。酵素合成方法において、目的とするポリペプチドをコードする標的ポリヌクレオチド配列が、増幅されてcDNA鋳型を産生するベクターへの組み込みのために最初に選択される。任意に、標的ポリヌクレオチド配列および/または任意の隣接配列は、コドン最適化され得る。その後、cDNA鋳型を用いて、インビトロ転写(IVT)によってmRNAを産生する。産生後、mRNAは、精製および浄化プロセスを経り得る。これらのステップは、以下でより詳細に提供される。
【0167】
遺伝子構築
遺伝子構築ステップは、遺伝子合成、ベクター増幅、プラスミド精製、プラスミド線形化および浄化、ならびにcDNA鋳型合成および浄化を含み得るが、これらに限定されない。
【0168】
遺伝子合成
目的とするポリペプチドまたは標的が産生のために選択された時点で、一次構築物が設計される。一次構築物内で、目的とするポリペプチドをコードする結合ヌクレオシドの第1の領域は、選択された核酸(DNAまたはRNA)転写物のオープンリーディングフレーム(ORF)を用いて構築され得る。ORFは、野生型ORF、アイソフォーム、変異形、またはその断片を含み得る。本明細書で使用するとき、「オープンリーディングフレーム」または「ORF」は、目的とするポリペプチドをコードすることができる核酸配列(DNAまたはRNA)を指すよう意図される。ORFは、多くの場合、開始コドンATGで始まり、ナンセンスまたは終止コドンもしくはシグナルで終わる。
・・・
【0171】
・・・
本発明のいくつかの実施形態において有益であると見なされ得る特徴は、一次構築物によってコードされ得、第1または第2の隣接領域としてORFに隣接し得る。この隣接領域は、ORFの最適化前および/または後に一次構築物に組み込まれ得る。一次構築物が5’隣接領域と3’隣接領域の両方を含有する必要はない。そのような特徴の例には、非翻訳領域(UTR)、コザック配列、オリゴ(dT)配列、および検出可能なタグが挙げられるが、これらに限定されず、XbaI認識を有し得る複数のクローニング部位も挙げられ得る。
【0172】
いくつかの実施形態において、5’UTRおよび/または3’UTRが、隣接領域として提供され得る。複数の5’または3’UTRが、隣接領域に含まれ得、同一または異なる配列であり得る。隣接領域の任意の部分(そのような部分がない場合を含み)が、コドン最適化され得、それらのいずれも、独立して、コドン最適化の前および/または後に1つ以上の異なる構造または化学修飾を含有し得る。特徴の組み合わせは、第1および第2の隣接領域に含まれ得、他の特徴内に含有され得る。例えば、ORFは、ポリA尾部の鋳型付加のために、強力なコザック翻訳開始シグナルを含有し得る5’UTRおよび/またはオリゴ(dT)配列を含み得る3’UTRに隣接し得る。参照により全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第20100293625号に記載の5’UTR等の5’UTRは、同一および/または異なる遺伝子由来の第1のポリヌクレオチド断片および第2のポリヌクレオチド断片を含み得る。
【0173】
表2および3は、隣接領域として本発明の一次構築物において利用され得る例示のUTRの一覧を提供する。本発明の5’非翻訳領域の一覧が表2に示される。A、T、C、もしくはGを含む1個以上のヌクレオチドが末端に付加されるか、または末端から除去される5’UTRの変異形が利用され得る。」
(【0165】~【0173】)
(甲1d)
「【0249】
III. 修飾
本明細書におけるポリヌクレオチド(一次構築物またはmRNA分子等)において、「修飾」または必要に応じて「修飾された」という用語は、A、G、U、またはCリボヌクレオチドに対する修飾を指す。概して、本明細書において、これらの用語は、天然に存在する5’末端mRNAキャップ部分におけるリボヌクレオチド修飾を指すようには意図されていない。ポリペプチドにおいて、「修飾」という用語は、基準の組の20個のアミノ酸(部分)と比較した修飾を指す。」(【0249】)
(甲1e)
「【1075】
実施例1. 修飾mRNAの産生
本発明に従う修飾mRNA(mmRNA)は、標準的な実験室方法および材料を用いて作製することができる。目的とする遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)は、ポリA尾部の鋳型付加のために、強力なコザック翻訳開始シグナルを含有し得る5’非翻訳領域(UTR)および/またはオリゴ(dT)配列を含み得るα-グロビン3’UTRに隣接し得る。修飾mRNAは、細胞の自然免疫応答を低減させるように修飾され得る。細胞の応答を低減させる修飾には、シュードウリジン(ψ)および5-メチル-シチジン(5meC、5mc、またはm5C)が含まれ得る(それぞれ、参照により全体が本明細書に組み込まれる、Kariko K et al.Immunity 23:165-75(2005)、Kariko K et al.Mol Ther 16:1833-40(2008)、Anderson BR et al.NAR(2010)を参照のこと)。
・・・
【1085】
本明細書に記載の修飾mRNA作製方法を用いて、長い分子を含むすべての大きさの分子を産生することができる。記載の方法を用いて、酸性αグルコシダーゼ(GAA)(3.2kb)、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)(4.7kb)、第VII因子(7.3kb)、リソソーム酸リパーゼ(45.4kDa)、グルコセレブロシダーゼ(59.7kDa)、およびイズロン酸2-スルファターゼ(76kDa)を含む異なる大きさの分子の修飾mRNAが作製された。」(【1075】~【1085】)
(甲1f)
「実施例18~23の材料および方法
G-CSF(mRNA配列は配列番号170に示される;約160ヌクレオチド(nulceotide)のポリA尾部は配列内に示されない;5’キャップ、キャップ1;5-メチルシトシンおよびシュードウリジンで完全に修飾)およびEPO(mRNA配列は配列番号173に示される;約160ヌクレオチドのポリA尾部は配列内に示されない;5’キャップ、キャップ1;5-メチルシトシンおよびシュードウリジンで完全に修飾)修飾mRNAを、シリンジポンプ法を用いて脂質ナノ粒子(LNP)として製剤化した。LNPは、最終的な脂質モル比50:10:38.5:1.5(DLin-KC2-DMA:DSPC:コレステロール:PEG-c-DOMG)で、総脂質と修飾mRNAの量比20:1で製剤化した。表38に列挙される製剤を、粒径、ゼータ電位、およびカプセル封入によって特徴付けた。」(【1173】の最終段落)
(当審注:「EPO」はエリスロポエチンの略語である。また、「G-CSF」はコロニー刺激因子2(granulocyte colony stimulating factor(顆粒球コロニー刺激因子))の略語である。)
(甲1g)
実施例18には、5-メチルシトシン及びシュードウリジンウリジンで修飾した修飾mRNA製剤をラットに投与して、EPO及びG-CSFをインビボで発現させたことが記載されている(【1175】~【1178】【表0039】)。
(甲1h)
実施例22には、5-メチルシトシン及びシュードウリジンウリジンで修飾した修飾mRNA製剤をカニクイザルに投与して、EPO及びG-CSFをインビボで発現させたことが記載されている(【1186】~【1189】【表0042】)。
(甲1i)
「実施例57. 修飾mRNAの化学修飾の範囲
化学修飾5-メチルシトシンおよびシュードウリジン等であるがこれらに限定されない修飾ヌクレオチドは、哺乳動物細胞において、自然免疫応答を低下させ、RNAの発現を増加させることが示されている。驚くべきことであり、またこれまでに知られていないことには、化学修飾の量が100%未満である場合、化学修飾が呈する効果を滴定することができる。以前は、完全な修飾が、化学修飾の有益な効果を誘発するのに必要かつ十分であり、mRNAの100%未満の修飾は、効果がほとんどないと考えられていた。しかしながら、今では、化学修飾の利益が、完全に満たない修飾により誘導され得、その効果は、標的、濃度、および修飾に依存することが示された。
【1350】
A. PBMCにトランスフェクトした修飾RNA
960ngの5-メチルシトシン(5mC)およびシュードウリジン(シュードU)で修飾されたG-CSF mRNAまたは未修飾G-CSF mRNAを、0.8μLのLipofectamine 2000を用いて3人の正常な血液ドナー(D1、D2、D3)からの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクトした。・・・表79および80は、mRNAが完全に修飾されていない場合に、G-CSF、IFN-α、およびTNF-αの化学修飾の量を滴定することができ、滴定可能傾向は各対象で同じではないことを示す。
【1351】
表79. G-CSF発現
【1352】
【表0079】
[図:0001411256000001.jpg]
表80. IFN-αおよびTNF-αの発現
【1353】
【表0080】
[図:0001411256000002.jpg]
」(【1349】の最終段落~【1353】【表0080】)。
(甲1j)
「【1410】
実施例67. 自然免疫応答のインビボ検出研究
雌BALB/Cマウス(n=5)に、5’キャップがキャップ1であるG-CSF mRNA(G-CSF mRNA未修飾)(mRNA配列は配列番号170に示される;約160ヌクレオチドのポリA尾部は配列内に示されない)、5-メチルシトシンおよびシュードウリジンで完全に修飾されたG-CSF mRNA(G-CSF mRNA 5mc/pU)、5-メチルシトシンおよびN1-メチル-シュードウリジンで完全に修飾された5’キャップを有するG-CSF mRNA(G-CSF mRNA 5mc/N1pU)もしくは5’キャップなしのG-CSF mRNA(G-CSF mRNA 5mc/N1 pUキャップなし)、またはR848もしくは5%ショ糖のいずれかである対照を、表102に記載されるように、筋肉内注入した。血液を投薬の8時間後に採取し、ELISAを用いてG-CSFおよびインターフェロン-α(IFN-α)のタンパク質レベルをELISAによって判定し、表102に示す。
【1411】
表102に示されるように、未修飾、5mc/pU、および5mc/N1pU修飾のG-CSF mRNAは、マウス血清におけるヒトG-CSF発現をもたらした。キャップなしの5mC/N1pU修飾G-CSF mRNAは血清中にヒトG-CSF発現を示さず、5’キャップ構造を有することがタンパク質翻訳に重要であることを協調する。
・・・
【1416】
表102. 血清中のヒトG-CSFおよびマウスIFN-α
【1417】
【表0102】
[図:0001411256000003.jpg]
」(【1410】~【1417】【表0102】)
(2)甲1に記載された発明
甲1には、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを修飾したポリヌクレオチド(修飾mRNA又はmmRNAと称される。)の調製方法について(特に甲1b~甲1e)、G-CSFをコードするmRNA(以下「非修飾G-CSF mRNA」という。)を5-メチルシトシン及びシュードウリジンで修飾したG-CSF mRNA(以下「修飾G-CSF mRNA」という。)を、3人の正常な血液ドナー(D1、D2、D3)からの末梢血単核細胞(PBMC)、すなわちヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクトすることにより、G-CSFの発現量が増加し、かつ、IFN-αの発現量が減少したことが記載されている(甲1i)。
そして、「非修飾G-CSF mRNA」でコードされるG-CSFと「修飾G-CSF mRNA」でコードされるG-CSFとは同一物質であるから、それぞれのアミノ酸配列も同一であると解される。
また、「修飾されたG-CSF mRNA」は、「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列中のウリジン(U)を5-メチルシトシン及びシュードウリジンに置換されて得られたものであり、「非修飾G-CSF mRNA」よりもウリジン(U)含有量が低減しているといえる(甲1d)。
さらに、「cDNA鋳型を産生するベクターへの組み込み」、「cDNA鋳型を用いて、インビトロ転写(IVT)によってmRNAを産生する」、「cDNA鋳型合成」、「目的とするポリペプチドをコードする結合ヌクレオシドの第1の領域は、選択された核酸(DNAまたはRNA)転写物のオープンリーディングフレーム(ORF)を用いて構築され得る」、及び「目的とするポリペプチドをコードすることができる核酸配列(DNAまたはRNA)を指すよう意図される」という記載(甲1c)から、甲1には、mRNAのヌクレオチド配列をコードするDNA配列を作成する工程及び前記DNA配列を使用する方法が記載されているといえる。
そうすると、甲1には、下記の甲1A~甲1C発明が記載されていると認められる。
(甲1A発明)
「G-CSFをコードする修飾mRNA(「修飾G-CSF mRNA」)を生産する方法であって、
ウリジン(U)含有量を低減することによって、G-CSFをコードするmRNA(「非修飾G-CSF mRNA」)のヌクレオチド配列を修飾する工程を含み、U含有量の前記低減は、mRNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、
前記U以外のヌクレオシドが、5-メチルシトシン及びシュードウリジンであり、
前記「修飾G-CSF mRNA」によってコードされるG-CSFのアミノ酸配列は、前記「非修飾G-CSF mRNA」によってコードされるG-CSFのアミノ酸配列と同一であり、
前記「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列を修飾する工程は、前記「修飾G-CSF mRNA」をヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす、方法。」
(甲1B発明)
「G-CSFをコードするmRNAの転写のための核酸分子を準備する方法であって、
(i)G-CSFをコードするmRNA(「非修飾G-CSF mRNA」)のヌクレオチド配列をコードする第1のDNA配列を準備する工程と、
(ii)「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列と比較して低減されたウリジン(U)含有量を含む、G-CSFをコードする修飾mRNA(「修飾G-CSF mRNA」)のヌクレオチド配列をコードする第2のDNA配列を設計する工程であって、U含有量の前記低減は、「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含む、工程と、
(iii)第2のDNA配列を含む核酸分子を準備する工程と、
を含み、
前記U以外のヌクレオシドが、5-メチルシトシン及びシュードウリジンであり、
前記「修飾G-CSF mRNA」のRNAによってコードされるG-CSFのアミノ酸配列は、前記「非修飾G-CSF mRNA」によってコードされるG-CSFのアミノ酸配列と同一であり、
前記「修飾G-CSF mRNA」は、前記「非修飾G-CSF mRNA」と比較して、ヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす、前記方法。」
(甲1C発明)
「G-CSFをコードする修飾mRNA(「修飾G-CSF mRNA」)であって、
前記「修飾G-CSF mRNA」が、G-CSFをコードするmRNA(「非修飾G-CSF mRNA」
)と比較して低減されたウリジン(U)含有量を含むヌクレオチド配列を有し、
U含有量の前記低減は、「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、
前記U以外のヌクレオシドが、5-メチルシトシン及びシュードウリジンであり、
前記「修飾G-CSF mRNA」によってコードされるG-CSFのアミノ酸配列は、前記「非修飾G-CSF mRNA」によってコードされるG-CSFのアミノ酸配列と同一であり、
前記「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換は、前記「修飾G-CSF mRNA」をヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす、前記「修飾G-CSF mRNA」。」
2 本件訂正発明1について
(1)本件訂正発明1と甲1A発明との対比
甲1A発明の「mRNA」及び本件訂正発明1の「RNA」は、いずれもRNAであり、甲1A発明の「G-CSF」はタンパク質であるので、甲1A発明の「G-CSFをコードする修飾mRNA(「修飾G-CSF mRNA」)」、及び「G-CSFをコードするmRNA(「非修飾G-CSF mRNA」)」は、それぞれ、本件訂正発明1の「少なくとも1種のタンパク質をコードする修飾RNA」、及び「RNA」にそれぞれ相当する。
そして、甲1A発明において「「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列を修飾する工程は、前記「修飾G-CSF mRNA」をヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす」ことは、本件訂正発明1において「前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明1と甲1A発明とは、下記の点で一致及び相違する。
<一致点>
「少なくとも1種のタンパク質をコードする修飾RNAを生産する方法であって、
ウリジン(U)含有量を低減することによってRNAのヌクレオチド配列を修飾する工程を含み、
U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、
前記修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、前記RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、
前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす、方法。
<相違点1>
本件訂正発明1の「U以外のヌクレオシド」は「アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され」るのに対し、甲1A発明の「U以外のヌクレオシド」は「5-メチルシトシン及びシュードウリジン」である点。
<相違点2>
本件訂正発明1では、「前記修飾RNAはAに富み、非修飾RNAと比較して少なくとも40%までA含有量が増大して」いることが特定されているのに対し、甲1A発明では、このような特定がされていない点。
<相違点3>
修飾RNAがコードするタンパク質であって、前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす前記タンパク質が、本件訂正発明1では「エリスロポエチン」であるのに対し、甲1A発明では「G-CSF」である点。
(2)相違点1について検討する。
ア 甲1には、「修飾mRNAは、細胞の自然免疫応答を低減させるように修飾され得る。細胞の応答を低減させる修飾には、シュードウリジン(ψ)および5-メチル-シチジン(5meC、5mc、またはm5C)が含まれ得る。」(甲1e)という記載がある。
また、甲1には、「実施例57. 修飾mRNAの化学修飾の範囲」において、「化学修飾5-メチルシトシンおよびシュードウリジン等であるがこれらに限定されない修飾ヌクレオチドは、哺乳動物細胞において、自然免疫応答を低下させ、RNAの発現を増加させることが示されている」(甲1i)という記載があり、さらに、哺乳動物細胞における自然免疫応答を低下させるために用いる化学修飾に用いるヌクレオシドとして、具体的に、各種のシュードウリジン誘導体を含むウリジン(U)誘導体、アデノシン(A)誘導体、グアノシン(G)誘導体、及びシチジン(C)誘導体等、多種多様なヌクレオシド(甲1aの【請求項7】)が記載されている。
そして、上記(甲1e)及び(甲1i)の記載に加えて、甲1には、甲1A発明の「修飾G-CSF mRNA」を、ヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクトしたin vitro実験(甲1i)、及びマウスに投与したin vivo実験(甲1j)のいずれにおいても、「非修飾G-CSF mRNA」と比較して、「修飾G-CSF mRNA」によるG-CSF発現量が増加し、INF-α発現量が減少したことが記載されているので、甲1A発明で「細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす」ことは、細胞の自然免疫応答を低下させることと同義であるといえる。
そうすると、甲1A発明において、mRNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドを、「5-メチルシトシン及びシュードウリジン」以外の、細胞の自然免疫応答を低下させる作用、すなわち細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす作用を有するヌクレオシドを用いて置換することを、当業者は自然に想起するといえる。
イ ここで、mRNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドを「U以外のヌクレオシド」に置換することによって、細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす先行技術について、甲2及び甲3には、それぞれ以下の事項が記載されている。なお、甲2及び甲3は外国語で記載されているため、Fig.の記載以外は、当審合議体による訳文を記載する。
(ア)甲2には以下の事項が記載されている。
(甲2a)
「二本鎖リボ核酸(dsRNA)は、ウイルス感染に関連する危険信号として機能し、自然免疫細胞の刺激につながる。対照的に、一本鎖RNA(ssRNA)の免疫刺激の可能性はよくわかっておらず、ssRNAの自然免疫受容体は不明である。我々は、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)由来のグアノシン(G)及びウリジン(U)に富むssRNAオリゴヌクレオチドが、樹状細胞(DC)及びマクロファージを刺激して、インターフェロンα並びに炎症誘発性及び調節性サイトカインの分泌を促進することを報告する。Toll様受容体(TLR)欠損マウスと遺伝的相補性を使用して、マウスTLR7とヒトTLR8がGUリッチssRNAの種特異的認識を仲介することを示す。これらのデータは、ssRNAがTLR7及びTLR8の生理学的リガンドを表すことを示唆している。」(p.1526の要約)
(甲2b)
「これにより、HIV-1 RNAのU5領域からのGUに富む配列(RNA40)と、すべてのU又はGヌクレオチドが、それぞれアデノシンに置換された2つの誘導体RNA41及びRNA42を含む、ホスホチオエートで保護されたRNAオリゴヌクレオチドの合成が促された(図1B)。
・・・
[図:0001411256000004.jpg]
」(p.1526右欄7~13行、及びFig.1B)
(当審注:「RNA41」は「RNA40」のウリジン(U)をアデノシン(A)に置換したものである。)
(甲2c)
「ヒトPBMCは、DOTAPと複合体を形成したRNA40で刺激すると、インターフェロンα(IFN-α)も産生した(図1E)。・・・。興味深いことに、RNA42はIFN-αを誘導できなかったが、他の調節及び炎症性サイトカインは容易に誘導された(図1C及びE)。まとめると、これらのデータは、HIV-1由来のGUリッチssRNAオリゴヌクレオチドがpDCと同様にヒト骨髄細胞を活性化し、IFN-α、IL-6、TNF-α、及びIL12p40の産生をもたらすことを示している。IFN-αの産生は、RNAオリゴヌクレオチドのGU組成に強く依存しているが、UはIL-6、TNF-α、およびIL12p40の分泌の前提条件である。
並行して、精製されたマウスpDCおよび骨髄由来マクロファージのRNA誘導性サイトカイン産生を分析した。RNA40はpDCを刺激し、IFN-α、IL-6、IL-12p40、およびTNF-αを産生したが、RNA41とRNA42は刺激しなかった(図2)。
・・・
[図:0001411256000005.jpg]
・・・
[図:0001411256000006.jpg]
」(p.1526右欄下から21行~p.1527頁左欄15行、及びFig.1E、及びFig.2)
(当審注:Fig.1E、及びFig.2の「RNA41」はHIV-1由来の「RNA40」のウリジン(U)をアデノシン(A)に置換したものである(甲2bのFig.1Bを参照。)。
また、「DOTAP」は「N-[1-(2,3-Dioleoyloxy)propyl]-N,N,Ntrimethylammoniununethyl-sulfate」であり、「pDC」は形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cells)である。)
(甲2d)
「さらに、合成GU又はUリッチRNAオリゴヌクレオチドの使用は、ワクチン接種及び免疫療法のための強力な新しいアジュバントの生成に不可欠である可能性がある。」(p.1528右欄下から5行~末行)
(イ)甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3a)
「免疫活性化は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染症の大きな特徴であり、HIV-1疾患の進行の強い予後因子である。しかし、ウイルス性HIV-1感染症における免疫活性化の基礎となるメカニズムは完全には解明されていない。我々は、高活性抗レトロウイルス療法開始後、免疫活性の即時低下とHIV-1ウイルス血症の減少が密接に関連していることを示し、HIV-1自体が免疫活性化に直接寄与することを示唆した。このメカニズムを提案するために、我々は、HIV-1の一本鎖RNAが、ウリジンに富む複数のToll様受容体7/8(TLR7/8)リガンドをコードし、MyD88依存の強い形質細胞樹状細胞と単球の活性化、及びアクセサリー細胞依存のT細胞活性化を誘導することを実証した。したがって、HIV-1にコードされたTLRリガンドは、ウイルス性HIV-1感染時に観察される免疫活性化に直接寄与していると考えられる。これらのデータは、HIV-1によって誘発される慢性的な免疫活性化とそれに関連する免疫病態を直接的に軽減するために、TLR経路を阻害する最初の根拠となるものである。」(p.8180の要約)
(甲3b)
「HIV-1由来のUリッチオリゴヌクレオチドは生存を促進し単球とpDCのサイトカイン分泌を誘導する。・・・
さらに、単球およびpDCを、これらのオリゴヌクレオチドに応答してIL-6、IFN-α及びTNF-αを産生する能力について、フローサイトメトリーアッセイのマルチパラメータにより評価した。UリッチHIV-1由来オリゴヌクレオチドで刺激した後、単球は有意な量のTNF-αとIL-6を産生し(図4)、pDCは有意な量のIFN-αとTNF-αを産出した(図5)。・・・。ここでも、この活性化効果は、RNA40を含むU-rich変異体でのみ観察され、それぞれのU-to-A変異体では見られなかった(全ての比較においてP<0.05、図4B及びD、図5B及びD)。
・・・
[図:0001411256000007.jpg]
」(p.8186頁左欄下から13~12行、同頁右欄11~23行、及びFig.5B)
(当審注:「DOTAP」は「N-[1-(2,3-Dioleoyloxy)propyl]-N,N,Ntrimethylammoniununethyl-sulfate」であり、「pDC」は形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cells)である。
また、Fig,5Bの「RNA41」は、HIV-1由来の「RNA40」のウリジン(U)をアデノシン(A)に置換したものであり(甲3のp.8186左欄2段落の最終文の「RNA40 and its U-to-A variant RNA41」、及び甲2bのFig.1Bを参照。)、Fig,5Bの「GagRNA1166(A)」、「VIFRNA327(A)」、「VPRRNA203(A)」、「GP160RNA523(A)」及び「GP160RNA2093(A)」は、それぞれHIV-1由来の「GagRNA1166」、「VIFRNA327」、「VPRRNA203」、「GP160RNA523」及び「GP160RNA2093」のウリジン(U)をアデノシン(A)に置換したものである(p.8181のTABLE 1.を参照。)。)
(ウ)上記(ア)から、甲2には、HIV-1由来の「RNA40」においてUヌクレオチドをアデノシン(A)に置換した「RNA41」と「DOTAP」との複合体は、pDCからのインターフェロン-α(IFN-α)を産生しないこと(甲2a~甲2c)、すなわち当該細胞におけるIFN-α発現量を減少させたことが記載されているといえる。
また、上記(イ)から、甲3には、HIV-1由来の「RNA40」、「GagRNA1166」、「VIFRNA327」、「VPRRNA203」、「GP160RNA523」及び「GP160RNA2093」という複数のRNAのそれぞれにおけるウリジン(U)をアデノシン(A)に置換したRNAである、「RNA41」、「GagRNA1166(A)」、「VIFRNA327(A)」、「VPRRNA203(A)」、「GP160RNA523(A)」及び「GP160RNA2093(A)」が、いずれもpDCからのIFN-α産生しないこと(甲3a~甲3b)、すなわち当該細胞におけるIFN-α発現量を減少させたことが記載されているといえる。
ウ 上記イから、本件特許の優先日当時、複数種のRNAについて、Uヌクレオチドをアデノシン(A)に変換して得られたRNAが、変換する前のRNAよりも、細胞におけるIFN-α発現量を減少させることが知られていたといえる。
エ そうすると、甲1A発明において、mRNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドを、「5-メチルシトシン及びシュードウリジン」と同様に、細胞におけるIFN-α発現量を減少させる「アデノシン(A)」を用いて置換して、甲1A発明を相違点1に係る本件訂正発明の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たといえる。
(3)相違点2について検討する。
ア 甲1の(甲1i)には、5-メチルシトシン及びシュードウリジンを用い、修飾率を0.1%~100%の範囲で段階的に変化させて修飾したG-CSF mRNAについて、修飾率の変化(0.1%~100%の範囲)に伴い、G-CSF及びIFN-α発現量も変化することを示す実験結果(特に【1352】【表0079】、【1353】【表0080】)が記載されているので、甲1A発明において、mRNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドを「アデノシン(A)」を用いて置換する際に、「修飾G-CSF mRNA」中の「アデノシン(A)」の最適な含有量を決定することを、当業者は当然に試みるといえる。
イ ここで、甲4には、RNA中の「アデノシン(A)」の含有量と、細胞におけるIFN-α分泌量について、以下の事項が記載されている。
(ア)甲4には、547ヌクレオチド長を有し、その中で24.7%のウリジン(U)部分(135/547)、25.0%のアデノシン(A)部分(137/547)を含むRNA比較塩基配列〔配列番号115:(N100)5〕と、546ヌクレオチド長を有し、その中で38.5%のウリジン(U)部分(210/546)、20.5%のアデノシン(A)部分(112/546)を含むRNA塩基配列〔配列番号118:(N40U20N40)5〕が記載されている(【0052】)。
そして、〔配列番号118:(N40U20N40)5〕のウリジン(U)含有量(38.5%)は、〔配列番号115:(N100)5〕のウリジン(U)含有量(24.7%)と比較して55.9%((38.5-24.7)÷24.7×100)増加しており、〔配列番号118:(N40U20N40)5〕のアデノシン(A)含有量(20.5%)は、〔配列番号115:(N100)5〕のアデノシン(A)含有量(25.0%)と比較して18.0%((25.0-20.5)÷25.0×100)減少している。
(イ)甲4の実施例(【0169】~【0172】、【図2】)には、上記(ア)の塩基配列を有するRNAの存在下で、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)におけるIFN-α分泌量を測定したことが記載されている。
そして、【図2】で観測されたように、〔配列番号115:(N100)5〕と比較してウリジン(U)含有量が55.9%増加し、かつアデノシン(A)含有量が18.0%減少した〔配列番号118:(N40U20N40)5〕の塩基配列を有するRNA存在下での、PBMCにおけるIFN-α分泌量は、〔配列番号115:(N100)5〕の塩基配列を有するRNA存在下での、PBMCにおけるIFN-α分泌量の約2倍である。
(ウ)そして、上記(イ)の記載は、〔配列番号115:(N100)5〕のRNAよりも、アデノシン(A)含有量が18.0%減少したRNA〔配列番号118:(N40U20N40)5〕の方が、PBMCにおけるIFN-α分泌量が多かったことを意味している。
ウ そうすると、甲4の記載を参酌した当業者は、RNA中の「アデノシン(A)」の含有量を多くした方が、細胞におけるIFN-α分泌量を低減し得る、すなわち細胞におけるIFN-αの産生を低減し得ることを理解するといえる。
エ 上記ア~ウから、甲1A発明において、mRNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドを、「アデノシン(A)」を用いて置換する際に、細胞におけるIFN-αの産生を低減する程度を考慮して、「修飾G-CSF mRNA」中の「アデノシン(A)」の含有量を、「非修飾G-CSF mRNA」と比較して少なくとも40%まで増加させるようにして、甲1A発明を相違点2に係る本件訂正発明の構成を備えたものとすることは、当業者が適宜調整し得た事項であるといえる。
(4)相違点3について検討する。
甲1には、修飾mRNAがコードするポリペプチドとして、コロニー刺激因子2(顆粒球マクロファージ)(GM-CSF)とともに、エリスロポエチン(EPO)が例示されており(甲1a)、5-メチルシトシン及びシュードウリジンウリジンで修飾した修飾mRNA製剤をカニクイザルに投与して、EPO及びG-CSFをインビボで発現させたことを示す実施例の記載もある(甲1f~甲1h)。
また、上記1(2)で説示したように、甲1には、「非修飾G-CSF mRNA」を5-メチルシトシン及びシュードウリジンで修飾した「修飾G-CSF mRNA」を、ヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクトすることにより、G-CSFの発現量が増加し、かつ、IFN-αの発現量が減少したことが記載されている(甲1i)。
しかし、甲1には、エリスロポエチン(EPO)をコードする修飾mRNAをPBMCにトランスフェクトすることにより、EPOが発現するとともに、IFN-αの発現量が減少したことを確認した実施例は記載されていない。
そして、甲1、及び甲2~甲4の記載から、PBMCに、EPOをコードする修飾mRNAをトランスフェクトした際に、G-CSFをコードする修飾mRNAをトランスフェクトした場合と同様に、EPOが発現するとともに、IFN-αの発現量が減少することを、当業者が推認できるとはいえない。
また、上記「EPOが発現するとともに、IFN-αの発現量が減少すること」が、本願優先日当時の技術常識をであったともいえない。
そうすると、EPOが発現するとともに、IFN-αの発現量が減少することを期待して、甲1A発明の「G-CSF」を「EPO」に変更して、甲1A発明を相違点3に係る本件訂正発明1の構成を備えたものすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(5)上記(1)~(4)のとおりであるから、甲1A発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1A発明を相違点1~3に係る本件訂正発明1の構成を全て備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(6)本件訂正発明1の効果について
ア 本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件訂正発明1で「前記修飾RNAはAに富み、非修飾RNAと比較して少なくとも40%までA含有量が増大して」いることが特定されていることについて、「(実施例1)mRNAの生成及び精製」、「(実施例2)mRNAを捕捉した脂質ナノ粒子(LNP)の調製」、「(実施例3)TransIT複合体化mRNAの調製」、「(実施例4)リポソームmRNA製剤の調製」(【0177】~【0181】)において、マウスEPO又はイヌEPOをコードするmRNAからアデノシン(A)に富む修飾RNAを調製したこと、これらの核酸配列(【0184】)及び各種ヌクレオチド組成%(下記【図1A】及び【図1B】)が記載されている。
【図1A】
[図:0001411256000008.jpg]
【図1B】
[図:0001411256000009.jpg]
そして、【図1A】における「mEPO,wtEPO,orig.mEPO」(非修飾RNA)のアデノシン(A)含有量は24%であり、「Aに富む、U欠乏」(修飾RNA)のアデノシン(A)含有量は34%であるので、【図1A】の「修飾RNA」のアデノシン(A)含有量は、【図1A】の「非修飾RNA」と比較して、42%((34-24)/24)増加している。
また、【図1B】における「cEPO,wtEPO,orig.cEPO」(非修飾RNA)のアデノシン(A)含有量は20%であり、「Aに富む、U欠乏」(修飾RNA)のアデノシン(A)含有量は33%であるので、【図1B】の「修飾RNA」のアデノシン(A)含有量は、【図1B】の「非修飾RNA」と比較して、65%((33-20)/20)増加している。
イ さらに、本件明細書には、本件訂正発明1の効果について、
「(実施例5) 製剤化したmRNAの投与/注射」(【0183】)で、実施例2~4で製剤化した修飾RNAをヒト樹状細胞にin vitroで、又はBALB/cマウスにin vivoで投与したことが記載されており、その結果が下記【図2】に示されている。
【図2】
[図:0001411256000010.jpg]
上記【図2】には、「A-rich」(修飾RNA)がコードするEPOのアミノ酸配列と、「wt」(非修飾RNA)がコードするEPOのアミノ酸配列は同一であり、非修飾RNAを修飾してA-richである修飾RNAにすることによって、細胞と接触した際にINF-αの減少した分泌がもたらされたことが示されているといえる。
ウ 上記ア及びイから、本件明細書には、本件訂正発明1の「少なくとも1種のタンパク質」が「EPO」(エリスロポエチン)である場合に、非修飾RNAと比較して少なくとも40%までA含有量が増大している「修飾RNA」によってコードされる「EPO」のアミノ酸配列は、前記非修飾RNAによってコードされる「EPO」のアミノ酸配列と同一であるとともに、上記「修飾RNA」が細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす、という効果が奏されたことが記載されているといえる。
エ そして、本件訂正発明1による上記ウの効果を、甲1A発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得たとはいえない。
(7)上記(1)~(6)のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲1A発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 本件訂正発明2について
請求項1を引用する本件訂正発明2は、本件訂正発明1の方法において、さらに、
「(i)第1のRNAのヌクレオチド配列を準備する工程と、
(ii)第1のRNAのヌクレオチド配列と比較して低減されたU含有量を含む第2のRNAのヌクレオチド配列を設計する工程と、
(iii)第2のRNAを準備する工程とを含む」ことを特定したものである。
そして、甲1の「修飾G-CSF mRNA」の調製方法についての記載(特に甲1c~甲1e)から、上記特定をすることに格別の創意工夫を要したとはいえない。
しかし、上記2(5)と同様の理由により、甲1A発明を相違点1~3に係る本件訂正発明2の構成を全て備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、上記2(6)と同様の理由により、本件訂正発明2の効果を、甲1A発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得たとはいえない。
したがって、本件訂正発明2は、甲1A発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
4 本件訂正発明3について
(1)本件訂正発明3と甲1B発明とを対比する。
甲1B発明の「mRNA」及び本件訂正発明1の「RNA」は、いずれもRNAであり、甲1B発明の「G-CSF」はタンパク質であるので、甲1B発明の「G-CSFをコードするmRNA」、及び「G-CSFをコードするmRNA(「非修飾G-CSF mRNA」)のヌクレオチド配列をコードする第1のDNA配列」は、それぞれ、本件訂正発明3の「少なくとも1種のタンパク質をコードするRNA」、及び「第1のRNAのヌクレオチド配列」に相当する。
また、甲1B発明の「「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列と比較して低減されたウリジン(U)含有量を含む、G-CSFをコードする修飾mRNA(「修飾G-CSF mRNA」)のヌクレオチド配列をコードする第2のDNA配列」は、本件訂正発明3の「第2のRNAのヌクレオチド配列」に相当する。
そして、甲1B発明において「「修飾G-CSF mRNA」は、前記「非修飾G-CSF mRNA」と比較して、ヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす」ことは、本件訂正発明3において「前記第2のRNAは、前記第1のRNAと比較して、細胞と接触した際に、これらの細胞からIFN-αの減少した分泌をもたらす」ことに相当する。
そうすると、両発明は、下記の点で一致及び相違する。
<一致点>
「少なくとも1種のタンパク質をコードするRNAの転写のための核酸分子を準備する方法であって、
(i)第1のRNAのヌクレオチド配列をコードする第1のDNA配列を準備する工程と、
(ii)第1のRNAのヌクレオチド配列と比較して低減されたU含有量を含む第2のRNAのヌクレオチド配列をコードする第2のDNA配列を設計する工程であって、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含む、工程と、
(iii)第2のDNA配列を含む核酸分子を準備する工程とを含み、前記第2のRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、前記第1のRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、前記第2のRNAは、前記第1のRNAと比較して、細胞と接触した際に、これらの細胞からIFN-αの減少した分泌をもたらす、方法。」
<相違点4>
本件訂正発明3の「U以外のヌクレオシド」は「アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され」るのに対し、甲1B発明の「U以外のヌクレオシド」は「5-メチルシトシン及びシュードウリジン」である点。
<相違点5>
本件訂正発明3では、「第2のRNAはAに富み、第1と比較して少なくとも40%までA含有量が増大して」いることが特定されているのに対し、甲1B発明では、このような特定がされていない点。
<相違点6>
修飾RNAがコードするタンパク質であって、前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす前記タンパク質が、本件訂正発明1では「エリスロポエチン」であるのに対し、甲1B発明では「G-CSF」である点。
(2)相違点4~6についての検討
相違点4及び5は、それぞれ、上記2(1)で説示した相違点1及び2と実質的に同一であるから、上記2(2)及び(3)と同様の理由により、甲1B発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1B発明を相違点4及び5に係る本件訂正発明3の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たといえる。
しかし、相違点6は、上記2(1)で説示した相違点3と実質的に同一であるから、上記2(4)と同様の理由により、甲1B発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1B発明を相違点6に係る本件訂正発明3の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たとはいえない。
また、上記2(6)と同様の理由により、本件訂正発明3の効果を、甲1B発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得たとはいえない。
(3)したがって、本件訂正発明3は、甲1B発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
5 本件訂正発明4~12について
(1)本件訂正発明4~12は、請求項1又は請求項3を直接的又は間接的に引用するものである。
そして、甲1には、薬学的に活性又は抗原性であると解されるポリペプチド(甲1aの【請求項1】)、及び、「核酸系治療薬の製剤化および送達の最適化に有用な特徴を有する核酸系化合物またはポリヌクレオチドを提供する」こと(甲1bの【0011】)が記載されているので、甲1A発明及び甲1B発明の「G-CSF」を、「薬学的に活性、又は抗原性である」「タンパク質」(本件訂正発明4の特定事項に相当する。)にすることは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
(2)甲1A発明において「前記「修飾G-CSF mRNA」をヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす」こと、及び、甲1B発明において「前記「修飾G-CSF mRNA」は、前記「非修飾G-CSF mRNA」と比較して、ヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす」ことは、いずれも、上記2(2)アと同様の理由により、本件訂正発明6において「前記低減されたU含有量が、U含有量を低減することにより修飾されたRNAを非修飾RNAと比較してより低い免疫原性にする」ことに相当する。
(3)甲1A発明及び甲1B発明の「修飾G-CSF mRNA」は、「非修飾G-CSF mRNA」よりもU含有量が低減するように修飾されたものであるので(甲1f)、本件訂正発明5の「U含有量を低減することにより修飾されたRNA」に相当する。
そして、「非修飾G-CSF mRNA」でコードされるG-CSFと「修飾G-CSF mRNA」でコードされるG-CSFとは同一物質であるから、それぞれのアミノ酸配列も同一である(本件訂正発明5の特定事項に相当する。)と解される。
また、適切に低減されたU含有量(%)を決定すること(本件訂正発明7の特定事項に相当する。)は、当業者が適宜調整し得た事項にすぎない。
さらに、甲1には、ヌクレオシドを修飾する位置についての記載(本件訂正発明8、9の特定事項に相当する。)があり(甲1cの【0171】~【0173】)、甲1A発明及び甲1B発明のRNAはmRNA(本件訂正発明11の特定事項に相当する。)である。
(4)甲1A発明及び甲1B発明を、本件訂正発明10の「少なくとも1個のUヌクレオシドを含むコドンを、同じアミノ酸をコードするが、より少ないUヌクレオシドを含む、好ましくはUヌクレオシドを含まない他のコドンによって変更する工程」を備えた方法にすること、及び、甲1A発明及び甲1B発明を、本件訂正発明12の工程(i)及び工程(ii)を備えた方法にすることは、いずれも、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。
(5)しかし、上記2(4)及び上記4(2)と同様の理由により、甲1A発明の「修飾mRNA」、及び甲1B発明の「修飾mRNA」がそれぞれコードする「G-CSF」を「EPO」に変更することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(6)上記(1)~(5)のとおりであるから、甲1A発明、甲1B発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1A発明、甲1B発明を、本件訂正発明4~12の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たとはいえない。
(7)そして、上記2(6)と同様の理由により、本件訂正発明4~12の効果を、甲1A発明、甲1B発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得たとはいえない。
そして、上記2(5)と同様の理由により、本件訂正発明4~12によって、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が得られたとはいえない。
(8)したがって、本件訂正発明4~12は、甲1A発明、甲1B発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
6 本件訂正発明13について
(1)本件訂正発明13と甲1C発明とを対比する。
甲1C発明の「mRNA」及び本件訂正発明13の「RNA」は、いずれもRNAであり、甲1C発明の「G-CSF」はタンパク質であるので、甲1C発明の「G-CSFをコードする修飾mRNA(「修飾G-CSF mRNA」)」、及び「G-CSFをコードするmRNA(「非修飾G-CSF mRNA」)」は、それぞれ、本件訂正発明13の「少なくとも1種のタンパク質をコード」する「修飾RNA」、及び「天然に存在するRNA」に相当する。
また、甲1C発明において「「非修飾G-CSF mRNA」のヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換は、前記「修飾G-CSF mRNA」をヒトの末梢血単核細胞(PBMC)にトランスフェクションした際に、前記細胞におけるIFN-α発現量の減少をもたらす」ことは、本件訂正発明13において「前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす」ことに相当する。
そうすると、両発明は、下記の点で一致及び相違する。
<一致点>
「少なくとも1種のタンパク質をコードするRNAであって、天然に存在するRNAから由来し、
前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含むヌクレオチド配列を有し、
U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、
前記修飾RNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、
前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす、修飾RNA。」
<相違点7>
本件訂正発明13の「U以外のヌクレオシド」は「アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され」るのに対し、甲1C発明の「U以外のヌクレオシド」は「5-メチルシトシン及びシュードウリジン」である点。
<相違点8>
本件訂正発明13では、「修飾RNA」の修飾は「Aに富む修飾」であって「前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大して」いることが特定されているのに対し、甲1C発明では、このような特定がされていない点。
<相違点9>
修飾RNAがコードするタンパク質であって、前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす前記タンパク質が、本件訂正発明1では「エリスロポエチン」であるのに対し、甲1C発明では「G-CSF」である点。
(2)相違点7~9についての検討
相違点7及び8は、それぞれ、上記2(1)で説示した相違点1及び2と実質的に同一であるから、上記2(2)及び(3)と同様の理由により、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1C発明を相違点7及び8に係る本件訂正発明13の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たといえる。
しかし、相違点9は、上記2(1)で説示した相違点3と実質的に同一であるから、上記2(4)と同様の理由により、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1C発明を相違点9に係る本件訂正発明13の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たとはいえない。
また、上記2(6)と同様の理由により、本件訂正発明13の効果を、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得たとはいえない。
(3)したがって、本件訂正発明13は、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
7 本件訂正発明14について
請求項13を引用する本件訂正発明14は、本件訂正発明13の「修飾RNA」を「治療における使用のための」という用途に適用することを特定したものである。
そして、甲1には、「核酸系治療薬の製剤化および送達の最適化に有用な特徴を有する核酸系化合物またはポリヌクレオチドを提供する」ことが記載されているので(甲1bの【0011】)、甲1C発明を「治療における使用のための」という用途に適用することを、当業者は容易に想到し得たといえる。
しかし、上記2(4)と同様の理由により、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、甲1C発明を相違点9に係る本件訂正発明14の構成を備えたものとすることを、当業者は容易に想到し得たとはいえない。
また、上記2(6)と同様の理由により、本件訂正発明14の効果を、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が予測し得たとはいえない。
したがって、本件訂正発明14は、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
8 取消理由1(進歩性)についての判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1~14は、甲1A発明、甲1B発明、甲1C発明、及び甲1~甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明1~14に係る特許は、取消理由1(進歩性)によって取り消されるものではない。
第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由
1 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由(以下、実施可能要件の理由を「申立理由2」、サポート要件の理由を「申立理由3」という。)は下記のとおりである。
申立理由2(対象請求項1~14、実施可能要件)の要点は、請求項1~14に係る特許は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである、というものである。
申立理由3(対象請求項1~14、サポート要件)の要点は、請求項1~14に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである、というものである。
2 そして、申立人は、申立理由2及び3について、下記(1)~(4)の趣旨の主張をしているので、順次検討する。
なお、以下では、本件特許明細書の発明の詳細な説明を、「発明の詳細な説明」と記載する。また、申立理由2及び3は、令和5年3月8日付け取消理由通知の取消理由2(実施可能要件)及び取消理由3(サポート要件)と同趣旨であり、下記主張1~4における本件発明1~14は、それぞれ訂正前の請求項1~14に係る発明である。
(1)主張1
本件発明1~12は、物を生産する方法の発明であり、物を生産する発明の場合、(i)原材料、(ii)その処理工程及び(iii)生産物に関して、当業者が発明を実施できるように、発明の詳細な説明に記載されていなければならない。
しかし、発明の詳細な説明では、本件発明1~12の修飾RNA(当審注:上記「(i)原材料」に相当する。)がコードするペプチド又はタンパク質が何ら特定されていないため、上記「(iii)生産物」であるペプチド又はタンパク質をコードする修飾RNAを当業者は具体的に特定することができないので、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、物を生産する方法における上記「(i)原材料」と「(iii)生産物」の関係を把握できず、実施をすることができない(申立書p.91の第1段落~p.92の第1段落)。
上記主張1について検討する。
本件訂正発明1~12では、訂正前の「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質」が「エリスロポエチン」のみに限定されている(上記「第2」を参照。)。
当業者が本件訂正発明1~12を実施できるといえるためには、発明の詳細な説明の記載から、エリスロポエチンをコードするRNA(非修飾RNA)におけるウリジン(U)含有量を低減して、非修飾RNAと比較して少なくとも40%までアデノシン(A)含有量を増大させたRNA(修飾RNA)を生産し、修飾RNAによってコードされるエリスロポエチンのアミノ酸配列は、非修飾RNAによってコードされるエリスロポエチンのアミノ酸配列と同一であり、前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす修飾RNAを、当業者が生産できるといえることが必要である。
これに対し、発明の詳細な説明には、非修飾RNA及び修飾RNAがコードするエリスロポエチンが、具体的に例示されている(【0124】)。
そして、上記「第5」の2(6)で説示したように、発明の詳細な説明の実施例には、
・EPO(エリスロポエチン)をコードする非修飾RNAから、非修飾RNAにおけるウリジン(U)含有量を低減(「(ii)その処理工程」に相当する)して、非修飾RNAと比較して少なくとも40%までアデノシン(A)含有量を増大させた修飾RNAを生産したこと、そして、
・修飾RNAによってコードされるEPOのアミノ酸配列は、非修飾RNAによってコードされるEPOのアミノ酸配列と同一であるとともに、修飾RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらしたこと、が記載されている。
そうすると、これらの記載から、「(i)原材料」すなわち「非修飾RNA」から、ウリジン(U)含有量を低減するという「(ii)その処理工程」によって、「(iii)生産物」すなわち「修飾RNA」を生産することができ、本件訂正発明1~12を実施できることを、当業者は、理解できるといえる。
よって、請求人の上記主張1を採用することはできない。
(2)主張2
発明の詳細な説明には、本件発明1~12の修飾RNAの具体例としてEPO(エリスロポエチン)をコードする修飾RNAの生産しか記載されておらず、全てのペプチド又はタンパク質をコードする修飾RNAの生産が可能であるわけがないから、本件発明1~12は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている(申立書p.92の第2段落~p.93の第2段落)。
上記主張2について検討する。
本件訂正発明1~12では、訂正前の「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質」が「エリスロポエチン」のみに限定されている(上記「第2」を参照。)。
よって、請求人の上記主張2を採用することはできない。
(3)主張3
本件発明13及びそれに従属する本件発明14は、「修飾RNA」に関係した物の発明である。そして、当該「修飾RNA」は、RNA療法に用いられるのであるから(発明の詳細な説明の【0001】)、医薬品として使用される物質である。
しかし、発明の詳細な説明の実施例で修飾RNAの効果確認を行っているのはエリスロポエチン(EPO)をコードする修飾RNAのみであり、しかも発現を確認しただけであり薬効確認は行われていない。
EPOをコードする修飾RNAで確認された効果を持って、「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードし、Aに富み、A含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大した修飾RNA」という非常に広範囲な修飾RNAの効果までを予測することはできない。(p.93の第4段落~p.95の第2段落)
上記主張3について検討する。
本件訂正発明1~12では、訂正前の「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質」が「エリスロポエチン」のみに限定されている(上記「第2」を参照。)。
上記「第5」の2(6)で説示したように、発明の詳細な説明の実施例には、薬学的に活性なタンパク質であるEPO(エリスロポエチン)をコードする修飾RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらしたこと(本件訂正発明13の特定事項に相当する。)が記載されている。
そして、上記修飾RNAが「IFN-αの減少した分泌」をもたらすことは、上記修飾RNAが「治療上適用可能で非免疫原性のRNA」(【0006】)であり、治療において使用し得ること(本件訂正発明14の特定事項に相当する。)を意味している。
そうすると、上記実施例の記載から、当業者は、本件訂正発明13及び14の修飾RNAによって本件訂正発明の課題(【0006】)を解決できることを認識できるといえるとともに、本件訂正発明13と14の修飾RNAを製造でき、また、使用できることを理解できるといえる。
よって、請求人の上記主張3を採用することはできない。
(4)主張4
本件発明13の修飾RNAは、「修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、」という要件があるから、「修飾RNA」本願出願日前公知である天然のペプチド又はタンパク質が発現し、当該ペプチド又はタンパク質に固有の薬理効果を奏する。
そうすると、修飾RNAのヌクレオチド配列は新規であっても、その薬効(効能・効果)は非修飾RNAがコードするペプチド又はタンパク質と同一であるから、本件発明13の修飾RNAは、医薬用途よりも広範囲な用途で特定できるものではない。
また、発明の詳細な説明には、修飾RNAがコードする特定のタンパク質と特定の疾患との関係が何ら記載されていない。
そして、本件発明14には、治療における使用のための、請求項13に記載の修飾RNAと記載されているだけであり、何の治療に用いるのかは記載されていない。
RNA療法に用いられる医薬品は、RNAがコードするペプチド又はタンパク質が使用される疾患の治療に使用することが明確であり、新規な疾患の治療に使用することはあり得ないのであるから、対象とする疾患が特定されていない本件発明13及び14は、実施可能要件違反、サポート要件違反である。(p.95の第3段落~p.96の第2段落)。
上記主張4について検討する。
本件訂正発明1~12では、訂正前の「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質」が「エリスロポエチン」のみに限定されている(上記「第2」を参照。)。
発明の詳細な説明には、本件訂正発明13及び14の修飾RNAがコードするタンパク質であるエリスロポエチンが、薬学的に活性なタンパク質、すなわち医薬品として使用し得るタンパク質であることが記載されており(【0124】)、本件特許の出願時の技術常識を参酌すれば、エリスロポエチンが、どのような疾患の治療に用い得るのかについて、当業者は理解できるといえる。
また、上記(3)で説示したように、本件訂正発明13及び14の修飾RNAは、「IFN-αの減少した分泌」をもたらす「治療上適用可能で非免疫原性のRNA」であり、治療において使用し得るものである。
そして、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件訂正発明13及び14の修飾RNAによって本件訂正発明の課題(【0006】)を解決できることを認識できるといえるとともに、本件訂正発明13と14の修飾RNAを製造でき、また、使用できることを理解できるといえることも、上記(3)で説示したとおりである。
よって、請求人の上記主張4を採用することはできない。
3 小括
以上のとおりであるから、申立理由2及び3(上記1)は、いずれも採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、令和5年3月8日付け取消理由通知に記載した取消理由2(実施可能要件)及び取消理由3(サポート要件)、令和5年9月14日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由1(進歩性)、及び特許異議申立書に記載した申立理由1~3によっては、請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701192