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特許異議申立

2022-701265

RNAの免疫原性を低減するための方法

審判番号
2022-701265
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-189401
登録番号
7089003
請求日
2022年12月19日
審決日
2023年03月27日
公報発行日
2023年04月28日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】バイオンテック・エスイー
  • 【権利者代理人】村山 靖彦
  • 【権利者代理人】実広 信哉
  • 【権利者代理人】阿部 達彦
  • 【異議申立人】伊藤 匠
  • 【異議申立人代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
審判長/審判官
  • 審判長 冨永 みどり
  • 審判官 馬場 亮人
  • 審判官 岡崎 美穂
分類
P1651.121-Y (A61K) / P1651.4 -Y (A61K) / P1651.536-Y (A61K) / P1651.537-Y (A61K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第39条第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7089003号発明「RNAの免疫原性を低減するための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7089003号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7089003号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願(以下「本件出願」という。)は、平成28年8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年8月28日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする出願(特願2018-509891号)の一部を、令和2年11月13日に新たな特許出願としたものであって、令和4年6月13日に特許権の設定登録がされ、同月21日に特許掲載公報が発行された。 その後、本件特許についての特許異議申立の期間内である令和4年12月19日に特許異議申立人 伊藤 匠(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1~3に係る発明の特許に対して特許異議の申立てがなされた。 第2 本件発明 特許異議の申立てがなされた特許第7089003号の請求項1~3の特許に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、特許第7089003号の請求項1~3の特許に係る発明を、請求項順に「本件発明1」等といい、それらをまとめて「本件発明」ということがある。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件特許明細書」という。)。 「【請求項1】 天然に存在するRNAから由来し、前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含むヌクレオチド配列を有する、少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードし、Aに富む修飾RNA、を含む医薬組成物であって、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され、前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大しており、前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一である、医薬組成物。 【請求項2】 前記修飾RNAは、前記天然に存在するRNAによって誘導されるIFN-α分泌のレベルと比較して低減している、前記修飾RNAと接触した細胞からのIFN-α分泌のレベルを誘導することによって特徴づけされる、請求項1に記載の医薬組成物。 【請求項3】 対象の処置における使用のための、請求項1又は2に記載の医薬組成物。」 第3 申立ての理由の概要及び証拠 申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、本件発明についての特許を取り消すべき理由として、以下の「1」に概要を示す(1)~(4)の申立ての理由(以下「申立理由1」等という。)を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2」に示す甲第1号証~甲第5号証(以下、それぞれ番号順に「甲1」等という。)を提出した。 1 申立人による申立ての理由の概要 (1)申立理由1(進歩性) 本件発明は、甲1に記載された発明、及び、甲2~甲4の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(同日出願) 本件発明は、同日に出願された甲5の請求項14に係る発明と同一と認められ、かつ、甲5の請求項14に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件発明についての特許は、同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(実施可能要件) 本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明を当業者が実施できるように記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由4(サポート要件) 本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、本件発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立人が提出した証拠(証拠方法) 甲第1号証:特表2015-513916号公報 甲第2号証:HEIL, Florian et al., SCIENCE, 2004年, Vol.303, PP.1526-1529 甲第3号証:MEIER, Angela et al., Journal of Virology, 2007年, Vol.81, No.15, PP.8180-8191 甲第4号証:特表2011-510640号公報 甲第5号証:特許第7078812号 第4 申立理由についての当審の判断 1 申立理由1(進歩性)について (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 本決定において、引用箇所等に付した下線は、注記がない限り、いずれも当審合議体によるものである。また、記載が冗長になるのを避けるため、一部を「・・・」と省略して記載する。 ア 甲1の記載事項 甲1には以下の事項が記載されている。 甲1a(特許請求の範囲) 「【請求項1】 目的のポリペプチドをインビボで産生する方法であって、前記目的のポリペプチドをコードする少なくとも1つの単離mRNAに哺乳動物の細胞、組織又は生体を接触させることを含み、前記目的のポリペプチドは、・・・、コロニー刺激因子3(顆粒球)(GCSF)、・・・、及びX連鎖アポトーシス阻害剤(XIAP)からなる群より選択される、前記方法。 ・・・ 【請求項6】 前記単離mRNAは、少なくとも1つの化学的に修飾されたヌクレオシドを含む、請求項1記載の方法。 【請求項7】 前記少なくとも1つの化学的に修飾されたヌクレオシドは、ピリジン-4-オン・リボヌクレオシド、・・・、及びN2,N2-ジメチル-6-チオ-グアノシンからなる群より選択される、請求項6記載の方法。 」 甲1b(【0006】~【0010】) 「【0006】 1990年代初めに、Bloomおよび同僚は、インビトロで転写されたバソプレシンmRNAを視床下部に注入することによってバソプレシン欠乏ラットの救助に成功した(Science 255:996-998;1992)。しかしながら、低レベルの翻訳および分子の免疫原性が治療薬としてのmRNAの開発を妨害し、それ以来、むしろこれらの落とし穴を利用し得る代替用途、すなわち、癌抗原をコードするmRNAでの免疫化に労力を集中させている。 【0007】 他者は、目的とするポリペプチドを送達するためのmRNAの使用を研究しており、mRNA分子のある特定の化学修飾、具体的には、シュードウリジンおよび5-メチル-シトシンが免疫刺激作用を低下させたことを示している。 ・・・ 【0010】 この目的を達成するために、本発明者らは、ある特定の修飾mRNA配列が、単に免疫応答を逃れるか、回避するか、または低減させるだけではない利点を有する治療薬としての可能性を有することを示した。・・・ 【0011】 本発明は、目的とするポリペプチド(例えば、修飾mRNAまたはmmRNA)をコードし、当技術分野における課題のうちの1つ以上を回避する構造的および/または化学的特徴、例えば、構造的および機能的完全性を保持し、発現の閾値を克服し、発現速度、半減期、および/またはタンパク質濃度を改善し、タンパク質局在化を最適化し、かつ免疫応答等の有害な生物応答および/または分解経路を回避しながら、核酸系治療薬の製剤化および送達の最適化に有用な特徴を有する核酸系化合物またはポリヌクレオチドを提供することによって、この必要性に対処する。」 甲1c(【0018】) 「【0018】 本発明に従って、これらのポリヌクレオチドは、好ましくは、当技術分野の他のポリペプチドをコードする分子の欠陥を回避するように修飾される。したがって、これらのポリヌクレオチドは、修飾mRNAまたはmmRNAと称される。」 甲1d(【0703】) 「【0703】 投薬 本発明は、本発明に従う修飾mRNAおよびそれらのコードされたタンパク質または複合体をそれを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。核酸、タンパク質、もしくは複合体、またはその薬学的、画像化、診断的、もしくは予防的組成物は、疾患、障害、および/または状態(例えば、記憶障害の取り組みに関連した疾患、障害、および/または状態)の予防、治療、診断、または画像化に有効な任意の量および任意の投与経路を用いて対象に投与することができる。・・・ 」 甲1e(【0781】) 「【0781】 免疫応答の調節 免疫応答の回避(avoidance) 本明細書に記載されるように、本発明のポリヌクレオチド、一次構築物、またはmmRNAの有用な特長は、細胞の自然免疫応答を低減させるか、逃れるか、または回避する能力である。一態様において、細胞に送達されるとき、参照化合物、例えば、・・・、もしくはmmRNAに対応する未修飾ポリヌクレオチドによって誘起される応答と比較して、低減された宿主からの免疫応答をもたらす、目的とするポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、一次構築物、またはmmRNAが本明細書に提供される。・・・ 」 甲1f(【1338】~【1346】) 「【1338】 ・・・ 実施例56. サイトカイン研究:PBMC A. PBMCの単離および培養 ・・・ 【1341】 B. トランスフェクション調製物 ヒトG-CSFをコードするmmRNA(mRNA配列は配列番号170に示される;約160ヌクレオチドのポリA尾部は配列内に示されない;5’キャップ、キャップ1)((1)天然のNTP、(2)5-メチルシチジンおよびシュードウリジンでの100%置換、または(3)5-メチルシチジンおよびN1-メチル-シュードウリジンでの100%置換いずれかを含有、ルシフェラーゼをコードするmmRNA(・・・、各シトシンにおける5-メチルシトシンおよび各ウリジン部位におけるシュードウリジン置換で完全に修飾)・・・ 【1344】 C. 結果 ・・・ 【1346】 G-CSF ELISAでは、Lipofectamine 2000未処理条件によるバックグラウンドシグナルを、各時点で差し引いた。データは、ヒト末梢血単核によるヒトG-CSFタンパク質の特異的産生が、天然のNTP、5-メチルシチジンおよびシュードウリジンでの100%置換、または5-メチルシチジンおよびN1-メチル-シュードウリジンでの100%置換を含有するG-CSF mRNAで見られることを示した。G-CSFの産生は、修飾mRNAの使用により未修飾mRNAと比較して有意に増加し、5-メチルシチジンおよびN1-メチル-シュードウリジンを含有するG-CSF mmRNAが、最も高いG-CSF産生を示した。自然免疫認識に関して、未修飾mRNAは、かなりのIFN-α産生をもたらしたが、修飾mRNAは、インターフェロンα産生を大きく阻止した。5-メチルシチジンおよびN1-メチル-シュードウリジンで完全に修飾されたG-CSF mRNAは、サイトカインを実質的に増加させなかったが、5-メチルシチジンおよびシュードウリジンで完全に修飾されたG-CSF mRNAは、IFN-α、TNF-α、およびIP10を誘導した。多数の他のサイトカインは、いずれの修飾にも影響を受けなかった。 」 甲1g(【1410】~【1413】) 「【1410】 実施例67. 自然免疫応答のインビボ検出研究 雌BALB/Cマウス(n=5)に、・・・、5-メチルシトシンおよびシュードウリジンで完全に修飾されたG-CSF mRNA(G-CSF mRNA 5mc/pU)、5-メチルシトシンおよびN1-メチル-シュードウリジンで完全に修飾された5’キャップを有するG-CSF mRNA(G-CSF mRNA 5mc/N1pU)もしくは5’キャップなしのG-CSF mRNA(G-CSF mRNA 5mc/N1 pUキャップなし)、またはR848もしくは5%ショ糖のいずれかである対照を、表102に記載されるように、筋肉内注入した。・・・。 【1411】 表102に示されるように、未修飾、5mc/pU、および5mc/N1pU修飾のG-CSF mRNAは、マウス血清におけるヒトG-CSF発現をもたらした。キャップなしの5mC/N1pU修飾G-CSF mRNAは血清中にヒトG-CSF発現を示さず、5’キャップ構造を有することがタンパク質翻訳に重要であることを協調する。 【1412】 予測した通り、R848、5%ショ糖のみ、および未処理の群ではヒトG-CSFタンパク質は発現しなかった。重要なことに、血清中のマウスIFN-αによって測定されるサイトカイン産生に有意差が見られた。予測した通り、未修飾G-CSF mRNAは、インビボで強固なサイトカイン応答を示した(R848陽性対照よりも高い)。5mc/pUの未修飾G-CSF mRNAは、インビボで低いが検出可能なサイトカイン応答を示したが、5mc/N1pU修飾mRNAは、血清中に検出可能なIFN-αを示さなかった(ビヒクルおよび未処理動物も同じであった)。 【1413】 さらに、5mc/N1pU修飾mRNAの応答は、キャップを有するかどうかにかかわらず、同じであった。これらのインビボ結果は、1)未修飾mRNAが強固な自然免疫応答を生成すること、2)これは、5mc/pU修飾の100%組み込みにより低減されるが、廃止されないこと、および3)5mc/N1pU修飾の組み込みは、検出可能なサイトカイン応答をもたらさないこと、という結論を強める。 」 イ 甲1に記載された発明 甲1f及び甲1gには、シトシン及びウリジン(以下、それぞれ「C」及び「U」と表記する場合がある。)が、それぞれ、修飾核酸である5-メチルシトシンおよびN1-メチル-シュードウリジンによって、完全に置換されたG-CSFのmRNAが、PBMCを用いたin vitro実験及びマウスを用いたin vivo実験において、G-CSFの産生量を増加させること、及び、IFN-αの産生を増加させないことが記載されている。 また、C及びUを、それぞれ、5-メチルシトシン及びN1-メチル-シュードウリジンに置換することによって、これらの核酸を含むコドンがコードするアミノ酸に変化はないから、上記修飾されたG-CSFのmRNAがコードするG-CSFのアミノ酸配列は、未修飾のmRNAがコードするG-CSFのアミノ酸配列と同一である。 そうすると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。 「天然のG-CSFをコードするmRNAに由来し、Cを5-メチルシトシンに100%置換し、UをN1-メチルーシュードウリジンに100%置換した、修飾mRNAを含む医薬組成物であって、該mRNAがコードするG-CSFが、天然のG-CSFと同一のアミノ酸配列を有する、組成物」(以下「甲1発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「天然のG-CSFをコードするmRNAに由来」することは、本件発明1における「天然に存在するRNAから由来し」、「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードする」ことに相当する。 甲1発明において「UをN1-メチルーシュードウリジンに100%置換」することにより、U含有量が低減することは明らかであるから、甲1発明における「UをN1-メチルーシュードウリジンに100%置換」することは、本件発明1における「前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含」み、「U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオシド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含」むことに相当する。 また、甲1発明における「該mRNAがコードするG-CSFが、天然のG-CSFと同一のアミノ酸配列を有する」ことは、本件発明1における「前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一である」ことに相当する。 さらに、本件特許明細書の【0030】の記載から、本件発明1における修飾RNAは、Cを5-メチルシトシンに置換することを排除していない。 そうすると、本件発明1と甲1発明の間には、以下の一致点及び相違点(以下、それぞれ「相違点1」、「相違点2」という。)が存在するといえる。 <一致点> 天然に存在するRNAから由来し、前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含むヌクレオチド配列を有する、少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードする修飾RNAを含む医薬組成物であって、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質と同一である、医薬組成物 <相違点1> 本件発明1は、U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択されるのに対して、甲1発明においては、U以外のヌクレオシドが、N1-メチルーシュードウリジンである点 <相違点2> 本件発明1の修飾RNAは「Aに富む修飾RNA」であって、「前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大して」いるものであるのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点 イ 判断 (ア)相違点1について a 甲2には、以下の記載がある。 なお、甲2は英文で記載されているため、その記載事項は翻訳文により示す。 甲2a(1526頁 要約) 二本鎖リボ核酸(dsRNA)は、ウイルス感染に関連する危険信号として機能し、自然免疫細胞の刺激につながる。対照的に、一本鎖RNA(ssRNA)の免疫刺激の可能性はよくわかっておらず、ssRNAの自然免疫受容体は不明である。ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)由来のグアノシン(G)およびウリジン(U)に富むssRNAオリゴヌクレオチドが、樹状細胞(DC)およびマクロファージを刺激して、インターフェロンα並びに炎症誘発性及び調節性サイトカインの分泌を促進することを報告する。Toll様受容体(TLR)欠損マウスと遺伝的相補性を使用して、マウスTLR7とヒトTLR8がGUリッチssRNAの種特異的認識を仲介することを示す。これらのデータは、ssRNAがTLR7およびTLR8の生理学的リガンドを表すことを示唆している。 甲2b(1526頁右欄7~13行) これにより、HIV-1 RNAのU5領域からのGUに富む配列(RNA40)と、すべてのUまたはGヌクレオチドが、それぞれアデノシンに置換された2つの誘導体RNA41およびRNA42を含む、ホスホチオエートで保護されたRNAオリゴヌクレオチドの合成が促された(図1B)。 甲2c(1526頁右欄下から21行~1527頁左欄15行) ヒトPBMCは、DOTAPと複合体を形成したRNA40で刺激すると、インターフェロンα(IFN-α)も産生した(図1E)。・・・。 興味深いことに、RNA42はIFN-αを誘導できなかったが、他の調節および炎症性サイトカインは容易に誘導された(図1CおよびE)。まとめると、これらのデータは、HIV-1由来のGUリッチssRNAオリゴヌクレオチドがpDCと同様にヒト骨髄細胞を活性化し、IFN-α、IL-6、TNF-α、およびIL12p40の産生をもたらすことを示している。IFN-αの産生は、RNAオリゴヌクレオチドのGU組成に強く依存しているが、UはIL-6、TNF-α、およびIL12p40の分泌の前提条件である。 並行して、精製されたマウスpDCおよび骨髄由来マクロファージのRNA誘導性サイトカイン産生を分析した。RNA40はpDCを刺激し、IFN-α、IL-6、IL-12p40、およびTNF-αを産生したが、RNA41とRNA42は刺激しなかった(図2)。」 甲2d(1528頁右欄下から5行~末行 さらに、合成GUまたはUリッチRNAオリゴヌクレオチドの使用は、ワクチン接種および免疫療法のための強力な新しいアジュバントの生成に不可欠である可能性がある。 以上のとおり、甲2には、ssRNAの自然免疫応答受容体を調査するために、HIV-1由来のGUに富むssRNA、及び、当該ssRNAのU又はGをアデノシン(以下「A」と表記する場合がある。)に置換した変異体(RNA41、RNA42)について、自然免疫活性化能を調査したことが記載されおり(甲2a、甲2b)、U又はGをAに置換したRNA41及びRNA42が、INF-αの産生を誘導できなかったことが示されている(甲2c)。 しかしながら、甲2には、タンパク質をコードするRNAの免疫原性を低下させるために、UをA、GまたはCの何れかに置換することは、記載も示唆もされておらず、むしろ、甲2dに示したとおり、UリッチRNAオリゴヌクレオチドを使用することを推奨する記載さえある。 b 甲3には、以下の記載がある。 なお、甲3は英文で記載されているため、その記載事項は翻訳文により示す。 甲3a(8180頁 要約) 免疫活性化は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)感染症の大きな特徴であり、HIV-1疾患の進行の強い予後因子である。しかし、ウイルス性HIV-1感染症における免疫活性化の基礎となるメカニズムは完全には解明されていない。我々は、高活性抗レトロウイルス療法開始後、免疫活性の即時低下とHIV-1ウイルス血症の減少が密接に関連していることを示し、HIV-1自体が免疫活性化に直接寄与することを示唆した。このメカニズムを提案するために、我々は、HIV-1の一本鎖RNAが、ウリジンに富む複数のToll様受容体7/8(TLR7/8)リガンドをコードし、MyD88依存の強い形質細胞樹状細胞と単球の活性化、およびアクセサリー細胞依存のT細胞活性化を誘導することを実証した。したがって、HIV-1にコードされたTLRリガンドは、ウイルス性HIV-1感染時に観察される免疫活性化に直接寄与していると考えられる。これらのデータは、HIV-1によって誘発される慢性的な免疫活性化とそれに関連する免疫病態を直接的に軽減するために、TLR経路を阻害する最初の根拠となるものである。 甲3b(8186頁右欄11行~23行) HIV-1由来のUリッチオリゴヌクレオチドは生存を促進し単球とpDCのサイトカイン分泌を誘導する。 さらに、単球およびpDCを、これらのオリゴヌクレオチドに応答してIL-6、IFN-αおよびTNF-αを産生する能力について、マルチパラーメーターフローサイトメーターアッセイにより評価した。UリッチHIV-1由来オリゴヌクレオチドで刺激した後、単球は有意な量のTNF-αとIL-6を産生し(図4)、pDCは有意な量のIFN-αとTNF-αを産出した(図5)。・・・。ここでも、この活性化効果は、RNA40を含むU-rich変異体でのみ観察され、それぞれのU-to-A変異体では見られなかった(全ての比較においてP<0.05、図4B及びD、図5B及びD)。 以上のとおり、甲3には、HIV-1由来のssRNAが、Uに富む複数のTLR7/8リガンドをコードし、樹状細胞及び単球を活性化することが示されている。 しかしながら、甲3には、タンパク質をコードするRNAの免疫原性を低下させるために、UをA、GまたはCの何れかに置換することは、記載も示唆もされていない。 c 甲4には、以下の記載がある。 甲4a(特許請求の範囲) 「【請求項1】 式(I): (NuGlXmGnNv)a で表される核酸分子であって、 式中、 Gは、グアノシン、ウリジン、グアノシン類似体、及びウリジン類似体のいずれかであり ・・・ ことを特徴とする核酸分子。 【請求項13】 薬剤としての、特に免疫賦活剤としての請求項1から12のいずれかに記載の核酸分子。」 甲4b(【0006】) 「【0006】 従って、本発明の第1の目的は、好ましくは他の生物学的活性化合物と組み合わせて投与された場合、具体的には免疫調節化合物と共に投与された場合、より好ましくは抗原等の適応性免疫系を特異的に刺激する化合物と組み合わせて投与された場合、アジュバントとして作用し自然免疫系を刺激する免疫賦活剤を提供することである。」 甲4c(【0168】~【0173】) 「【0168】 5.ヒトPBMCにおけるTNFα及びIFNαの分泌 この実験では、上で定義した式(I)に係る本発明の核酸分子のうち数種、即ち配列番号114~119で表されるmRNA配列を有する核酸分子とDOTAP(Roche)とを配合した。 【0169】 この実験で用いた本発明の核酸配列は、 配列番号114(R820/(N100)2); 配列番号115(R719/(N100)5); 配列番号116(R720/(N100)10); 配列番号117(R821/(N40T20N40)2); 配列番号118(R722/(N40T20N40)5);及び 配列番号119(R723/(N40T20N40)10) であった。 【0170】 次いで8μg/mL及び12μg/mLの濃度のDOTAPを配合したRNAでヒトPBMCを20時間刺激した。次いでmatched-pairedELISAを用いて上清のTNFα及びIFNα分泌について調べた。 ・・・ 【0173】 図1及び図2から分かるように、TNFα及びIFNαの分泌は、対照配列であるG2U20G20(ホスホロチオエートで修飾されている)、Poly(U)(Sigma、Taufkirchen、Germany)、及びオリゴU21(ホスホジエステル)に比べて、式(I)に係る本発明の核酸分子により共に著しく誘導され、上で定義した式(I)に係る配列番号114~119で表される本発明の核酸分子に係るmRNA配列、即ち配列番号114~119で表されるmRNA配列(配列番号114(R820/(N100)2)、配列番号115(R719/(N100)5)、配列番号116(R720/(N100)10)、配列番号117(R821/(N40T20N40)2)、配列番号118(R722/(N40T20N40)5)、及び配列番号119(R723/(N40T20N40)10))によって特に著しく誘導された。」 以上のとおり、甲4にはG若しくはU、又はそれらの類似体に富む式(I)で表される核酸分子が、対照配列であり、G又はUに富むものでもある、G2U20G20、Poly(U)及びオリゴU21に比べて、高い免疫賦活作用を有すること、及び、当該核酸分子をアジュバントとして使用することが記載されている(甲4a~4c)。 しかしながら、甲4には、タンパク質をコードするRNAの免疫原性を低下させるために、UをA、GまたはCの何れかに置換することは、記載も示唆もされていない。 d 上記a~cに示したとおり、甲2~甲4のいずれにも、タンパク質をコードするRNAの免疫原性を低下させるために、UをA、G又はCの何れかに置換することは記載も示唆もされていないから、当業者が、甲2~甲4の記載を参酌したとしても、甲1発明において、U以外のヌクレオシドとして、N1-メチル-シュードウリジンに代えて、A、G又はCを採用することを、動機付けられたとはいえない。 (イ)小括 したがって、上記相違点2及び本願発明の効果について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、及び、甲2~甲4に記載された事項、並びに、本件特許出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本件発明2、3について 請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3についても、本件発明1と同様であり、甲1発明及び甲2~4に記載された事項、並びに、本件特許出願時の技術常識から当業者が容易に発明することができたものではない。 (4)申立人の主張について ア 申立人は、申立書において、以下のとおり主張している。 「5(当審注:数字は丸付きの5である。)相違点についての検討 甲2、甲3には、免疫原性が強くFLT3リガンド誘導マウス形質細胞様細胞(pDC)等をDOTAP複合体として刺激した場合にIFN-αを産生するmRNA40中のウリジンをアデニンに置換したRNA41を、DOTAP複合体としてpDCに感作してもIFN-α等のサイトカインを産生しないことが記載されている。 甲4には、同じ500ヌクレオチド長を有し、24.7%のウラシル(U)と25%のアデニン(A)を含む比較RNA〔配列番号115:(N100)5〕と、同じ500ヌクレオチド長を有し、38.5%のウラシル(U)と20.6%のアデニン(A)を含むRNA塩基配列〔配列番号118:(A40U20N40)5〕を対比すると、ウラシル含有量が13.8%増加しアデニン含有量5%減少した配列番号118の方が、IFN-α産生量が配列番号115より、約2倍高いことが図2で観測されている。 ・・・ そうすると、甲1記載のウリジン置換ヌクレオシドの代わりに甲2,甲3および/または甲4の記載から、同じ免疫原性低下効果を持つアデニンを用いることは当業者が容易に想到できる技術である。また、その当然の結果として修飾mRNAはアデニンに富んだRNAとなる。 ・・・ 以上、発明1と甲1との相違点は、甲2、甲3および/または甲4の記載から当業者が容易に想到できる。」(75頁下から8行~77頁8行) イ しかしながら、甲2~甲4の記載を参酌したとしても、甲1発明において、U以外のヌクレオシドとして、N1-メチル-シュードウリジンに代えて、A、G又はCを採用することに、動機付けがないことは、上記(2)イ(ア)dに説示したとおりである。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (4)申立理由1についての小括 以上のとおり、本件発明1~3は、甲1に記載された発明、及び、甲2~甲4に記載された事項、並びに、本件特許出願前の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 よって、本件の請求項1~3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから、申立理由1によって取り消すことはできない。 2 申立理由2(同日出願)について (1)同日発明 申立人が甲第5号証によって示した発明である特許7078812号の請求項14に係る発明(以下「同日発明」という。)は、請求項13を引用するものであり、それを考慮して書き下すと、次のとおりのものである。 (同日発明) 少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードし、Aに富む修飾RNAであって、天然に存在するRNAから由来し、前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含むヌクレオチド配列を有し、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され、 前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大しており、前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一であり、前記RNAの修飾は、前記RNAが細胞と接触した際に、IFN-αの減少した分泌をもたらす、修飾RNAであって、 治療における使用のための、修飾RNA。 (2)本件発明1について ア 対比 同日発明を先願発明とし、本件発明1を後願発明として、本件発明1と同日発明とを対比する。 (ア)本件発明1における「天然に存在するRNAから由来し」は、同日発明における「天然に存在するRNAから由来し」に相当する。 (イ)本件発明1における「前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含」み、「U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され」は、同日発明における「前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含むヌクレオチド配列を有し、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され」に相当する。 (ウ)本件発明1における「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードし」、「Aに富む修飾RNA」は、同日発明における「少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードし、Aに富む修飾RNA」に相当する。 (エ)本件発明1における「前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大しており」は、同日発明における「前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大しており」に相当する。 (オ)本件発明1における「前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一である」は、同日発明における「前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一」に相当する。 (カ)上記(ア)~(オ)から、本件特許発明と同日発明とは、両発明に係る修飾RNAが、 「天然に存在するRNAから由来し、前記天然に存在するRNAと比較して低減されたU含有量を含むヌクレオチド配列を有する、少なくとも1種のペプチド又はタンパク質をコードし、Aに富む修飾RNA、であって、U含有量の前記低減は、RNAのヌクレオチド配列中のUヌクレオシドのU以外のヌクレオシドによる置換を含み、前記U以外のヌクレオシドが、アデノシン(A)、グアノシン(G)、及びシチジン(C)からなる群から選択され、前記修飾RNAのA含有量は、前記天然に存在するRNAと比較して少なくとも40%まで増大しており、前記修飾RNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列は、前記天然に存在するRNAによってコードされるペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列と同一である、修飾RNA」 である点で一致し、以下の点で相違する(以下「相違点3」という。)。 ・相違点3 本件発明1は「修飾RNA、を含む医薬組成物」であるのに対して、同日発明は「治療における使用のための、修飾RNA」である点 イ 判断 相違点3について検討する。 同日発明の「治療における使用のための、修飾RNA」について、「治療における使用のための」という表現は、修飾RNAの使用方法を表現したものに過ぎず、「修飾RNA」を、修飾RNAを含む医薬組成物に特定するものではないことは明らかである。 そして、「修飾RNA」と「医薬組成物」は、物として異なるものであるから、本件発明1の「修飾RNA、を含む医薬組成物」は、同日発明の「治療における使用のための、修飾RNA」と実質的に差異を有する。 ウ 小括 同日発明を先願発明とし、本件発明1を後願発明とした場合、本件発明1は同日発明と相違点3で相違するから、同日発明は本件発明1と同一ではない。 したがって、本件発明1は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 (3)本件発明2、3について 請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3についても、本件発明1と同様であり、同日発明は本件発明2、3と同一ではない。 したがって、本件発明2、3は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 (4)申立人の主張について ア 申立人は、申立書において、上記相違点3に関して、以下のとおり主張する。 「2(当審注:数字は丸付きの2である。)発明1と甲5の請求項14記載の発明の対比 発明1と甲5の請求項14記載の発明を対比すると、 ・・・ また、前記イ(ア)8(当審注:数字は丸付きの8である。)の説明のように甲5の明細書の説明から、物の発明において「治療における使用のための修飾RNA」とは「修飾RNAを含む医薬組成物」に該当するから、この点においても発明1の修飾RNAを含む医薬組成物とも一致する。 ・・・発明1と甲5の請求項14に記載された発明は、実質的に同一である。 3(当審注:数字は丸付きの3である。)小括 従って、発明1は、同日に出願された甲5の請求項14に記載された発明と実質的に同一な発明であり、特許法第39条第2項の規定により特許受けることはできない。」(83頁9行~84頁10行) イ しかしながら、同日発明の「治療における使用のための、修飾RNA」における、「治療における使用のための」という表現は、修飾RNAの使用方法を表現したものに過ぎず、本件発明1の「修飾RNA、を含む医薬組成物」と同日発明の「修飾RNA」が、物として異なるものであることは、上記(2)イに説示したとおりである。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 (5)申立理由2についての小括 以上のとおり、本件発明1~3は、同日に出願された甲5の請求項14に係る発明と同一であるとは認められない。 よって、本件の請求項1~3に係る発明についての特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当しないから、申立理由2によって取り消すことはできない。 3 申立理由3(実施可能要件)、申立理由4(サポート要件)について (1)申立理由3、申立理由4の具体的な内容 申立人は、申立書において、以下のとおり主張する。 「1(当審注:数字は丸付きの1である。)物質発明として、物の属性、その物を作る方法、使用する方法が特定されていない ・・・、発明1~3の特許請求の範囲において、mRNAがコードするペプチド又はタンパク質に関しては、何ら具体的に特定されていない。 本件特許明細書において修飾RNAを特定するペプチド、タンパク質に関しては、「・・・」(段落番号0117)と漠然とした定義が記載されているだけであり、mRNAがコードするペプチド又はタンパク質が何ら特定されていない。このため、発明の対照であるペプチド又はタンパク質をコードする修飾RNAを当業者は具体的に特定することができない。 mRNAを含む医薬組成物の薬理効果は、mRNAをコードするペプチドまたはタンパク質の性質を反映するが、そのペプチドまたはタンパク質が特定されておらずかつ薬理効果を持つかどうかが不明であれば、それをコードする修飾mRNAが薬理効果を示すかどうか、医薬品として使用できるかどうかも特定できないのである。 発明1は物の発明である。物の発明の場合、原料からその物を得るまでの生産工程に関して、当業者が発明を実施できるように発明の詳細な説明の欄に記載されていなければならない。発明1~3の場合、原料はRNAであるが、発明の詳細な説明の欄では、原料であるRNAに関して、「・・・」(段落番号0076)と記載されているだけでどのような構造、機能を持つRNAであるかは何ら特定されていない。また、原料から特許の対照である物を生産するのに必要な処理工程を時系列に並べた説明が、具体例を除いては一切記載されていないのである。 その具体例においても修飾RNAの製造方法は、具体的にかつ詳細には記載されていない。・・・ このように本件特許明細書には、発明1~3を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されていないのである。 2(当審注:数字は丸付きの2である。)医薬品に関係する物の発明であるのに対して、薬効評価として具体例で発現が確認されているのはEPOのみである。 発明1~3は、「修飾mRNA」を含む医薬組成物としての発明であり医薬品として使用される物質の発明である。 医薬品に関する物質発明の場合、医薬品の効果の偶然性から請求項に関わる発明に薬理効果があることを示した実施例を記載しなければならない。 ところが、本件特許において実施例で修飾mRNAとその製剤を作製し、その効果確認を行っているのはエリスロポエチン(EPO)をコードする修飾mRNAのみで、しかも発現を確認しただけであり薬効確認は行われていない。・・・。 さらに、mRNA医薬品は、プロドラッグと同じく生体内に投与された後変化して主薬効物質となり薬理効果を示す。・・・。 このように修飾mRNAの効果は、コードするポリペプチドの種類、生産細胞により異なるものであり、個々に実証を重ねなければその効果、医薬品としての有効性は予測できないのである。 また、甲1実施例57では、・・・多くの実証値を測定し修飾率(%)が高いほどコードするポリペプチドの生産量が減少することを実証しているのに対して、本件特許においてはただ一つの実施例、概ねアデニン(A)含有量を天然のRNAと比較して40%である修飾RNAの結果一つしか無いにも関わらず、それを拡大解釈し、A含有量が天然のmRNAに比べ40%以上増加したmRNAを権利範囲にしている。言い換えれば、本件特許はその範囲において効果の実証がなされていない、明細書の記載事項を超えた発明である。 単にEPOをコードするmRNAでの一つの実験例の効果を持って、・・・非常に広範囲な修飾mRNAの効果まで予測することはできないのである。 前述のように発明1~3のmRNA医薬品は、・・・、天然の出願前公知のペプチド又はタンパク質が発現し、当該ペプチド又はタンパク質に固有の薬理効果を奏する。 そうすると、修飾mRNAのヌクレオチド配列は新規であっても、その薬効(効能・効果)はmRNAがコードするペプチド又はタンパク質と同一であり公知であるため、医薬用途というより広範囲な用途で特定できるものではない。・・・、本件特許には段落番号0124に薬学的に活性なタンパク質が例示されているものの個々のタンパク質の薬理作用は一切記載されていない。また、明細書の記載の中でmRNAがコードする特定のタンパク質と特定の疾患との関係が何ら記載されていないのである。このため、発明1~3記載の医薬組成物を関係する疾患で特定しようとしても特定することができない。 従って、発明1~3は記載要件違反、サポート要件違反であることは明確である。」(申立書88頁3行~92頁10行) (2)当審の判断 (1)に示したとおり、申立人は、実施可能要件違反及びサポート要件違反について、主に次の点を主張している。 ・本件発明において、修飾RNAがコードするペプチド又はタンパク質が特定されていない点(主張a) ・本件発明における修飾RNAを製造することができない点(主張b) ・本件発明の修飾RNAを含む医薬組成物について、本件特許明細書にはEPOの発現を確認したことが記載されるにとどまり、修飾RNAの薬理試験データが記載されていない点(主張c) そこで、それぞれの点について、以下に検討する。 ア 本件発明において、修飾RNAがコードするペプチド又はタンパク質が特定されていない点(主張a)について 本件発明1において、修飾RNAがコードするペプチド又はタンパク質は、具体的に特定されていない。 しかしながら、本件特許明細書の段落【0121】、【0122】には、当該RNAが薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードすること、及び、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質は、対象の処置に使用することができるペプチド又はタンパク質であり、天然に存在するRNAによってコードされるものと同一であることが記載されており、当業者であれば、これらの薬学的に活性なペプチド又はタンパク質を把握できることから、それらをコードする修飾RNAも特定することができる。 イ 本件発明における修飾RNAを製造することができない点(主張b)について 本件発明は修飾RNAを含む医薬組成物に係るものであるところ、本件特許の出願日前に公知であった甲1にも記載されるように、RNAの合成方法や、特定の塩基を特定の修飾塩基に置換する手法は、本件特許の出願日における技術常識であったといえるから、当業者であれば、本件発明の修飾RNAを含む医薬組成物を製造することができるといえる。 ウ 本件発明の修飾RNAを含む医薬組成物について、本件特許明細書にはEPOの発現を確認したことが記載されるにとどまり、修飾RNAの薬理試験データが記載されていない点(主張c)について 本件特許明細書の段落【0121】、【0122】の記載によれば、本件発明の修飾mRNAは、薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードすることができるものである。 また、本件特許明細書には、実施例として、エリスロポエチンをコードする修飾mRNAが、インビトロ及びインビボの実験系において、エリスロポエチンを発現できることが示されている。 そうすると、当業者であれば、エリスロポエチン以外の上記薬学的に活性なペプチド又はタンパク質をコードする修飾mRNAが、当該ペプチド又はタンパク質を発現することにより、ペプチド又はタンパク質に基づく薬理効果を示し、それに基づいて、当該修飾mRNAを医薬品として使用できることは理解できるといえる。 エ 以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。 また、同様の理由により、本件発明は本件特許明細書に記載されたものであると認められる。 以上より、申立人の上記主張は採用できない。 (3)申立理由3、4についての小括 以上のとおり、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されており、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。また、本件発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 したがって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当するものではないから、申立理由3、4によって取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件の請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-701265

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