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特許異議申立

2022-700566

ブリ属養殖魚の飼育方法及びブリ属養殖魚

審判番号
2022-700566
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-121059
登録番号
6989451
請求日
2022年06月30日
審決日
2023年06月29日
公報発行日
2023年09月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】日本水産株式会社
  • 【権利者代理人】須藤 晃伸
  • 【権利者代理人】鈴木 恵理子
  • 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
  • 【異議申立人】伊藤 匠
審判長/審判官
  • 審判長 前川 慎喜
  • 審判官 土屋 真理子
  • 審判官 津熊 哲朗
分類
P1651.113-YAA(A01K) / P1651.121-YAA(A01K) / P1651.536-YAA(A01K) / P1651.537-YAA(A01K)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第29条、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第2条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6989451号発明「ブリ属養殖魚の飼育方法及びブリ属養殖魚」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6989451号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔8-13〕について訂正することを認める。 特許第6989451号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6989451号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成30年6月26日に出願され、令和3年12月6日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月5日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後の特許異議の申立ての経緯は以下のとおりである。 令和4年 6月30日 特許異議申立人伊藤 匠(以下「申立人」と いう。)による請求項1ないし14に係る発 明の特許に対する特許異議の申立て 同年 9月 9日付け 取消理由通知 同年11月14日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者) 同年12月26日 意見書の提出(申立人) 令和5年 3月 6日付け 取消理由通知(決定の予告) 同年 5月 9日 意見書の提出(特許権者) 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和4年11月14日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項8に「雌のブリ属養殖魚であって、」とあるのを、 「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた雌のブリ属養殖魚であって、」と訂正する。 (請求項8を引用する請求項9、11~13も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項10に、「生殖器官成熟期後の雌個体であって、」とあるのを、 「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた、生殖器官成熟期後の雌個体であって、」と訂正する。 (請求項10を引用する請求項12及び13も同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1に係る訂正は、請求項8に記載された「雌のブリ属養殖魚」を「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 新規事項の有無 願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0054】には「本開示に係る低GSIブリ属養殖魚の飼育方法は、調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること、(以下、「飼育工程」ということがある)、生殖器官成熟期に、・・・GSIが0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること(以下、「成熟期個体獲得工程」と称することがある)、得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、GSIが、生殖器官成熟期での数値よりも低いブリ属養殖魚を得ること(以下、「成熟期後個体獲得工程」と称することがある)を含み、必要に応じて他の工程を含む。」と記載されている。 したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的 訂正事項2に係る訂正は、請求項10に記載された「生殖器官成熟期後の雌個体」を「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 新規事項の有無 本件明細書の段落【0054】には「本開示に係る低GSIブリ属養殖魚の飼育方法は、調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること、(以下、「飼育工程」ということがある)、生殖器官成熟期に、・・・GSIが0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること(以下、「成熟期個体獲得工程」と称することがある)、得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、GSIが、生殖器官成熟期での数値よりも低いブリ属養殖魚を得ること(以下、「成熟期後個体獲得工程」と称することがある)を含み、必要に応じて他の工程を含む。」と記載されている。 したがって、訂正事項2に係る訂正は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 3 一群の請求項について 本件訂正前の請求項9、11ないし13は、請求項8を引用しており、訂正事項1によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものである。 本件訂正前の請求項12及び13は、請求項10を引用しており、訂正事項2によって記載が訂正される請求項10に連動して訂正されるものである。 そして、訂正前の請求項9、11ないし13と、訂正前の請求項10、12、13は共通する請求項12、13を介して一体として連関しているから、訂正前の請求項8ないし13は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 したがって、訂正事項1及び2による訂正は、一群の請求項〔8-13〕についてするものである。 4 小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔8-13〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ、請求項番号により「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件発明」という。)。 【請求項1】 調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること、 生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること、 得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ること を含むブリ属養殖魚の飼育方法。 【請求項2】 生殖器官成熟期後のブリ属養殖魚のGSIが1.0%以下である請求項1記載の飼育方法。 【請求項3】 ブリ属魚類の仔魚の飼育開始時から、ブリ属魚類の飼育環境下の水温を、15℃~28℃に調整する請求項1又は請求項2記載の飼育方法。 【請求項4】 前記成育における飼育中に、形態異常及び/又は成長不良の個体の除去を行い、ブリ属魚類の個体を選抜することを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項記載の飼育方法。 【請求項5】 前記成育における飼育が、少なくとも5ヶ月間の水面下10m~18mでの海中養殖を含み、15ヶ月以上行われる、請求項1~請求項4のいずれか1項記載の飼育方法。 【請求項6】 前記成育における飼育中に、ブリ属魚類の計量管理を行う請求項1~請求項5のいずれか1項記載の飼育方法。 【請求項7】 前記成育における飼育中に、飼料100重量部に対して0.1重量部~0.3重量部のトウガラシを含む飼料を、少なくとも1ヶ月間、ブリ属魚類に給餌することを含む請求項1~請求項6のいずれか1項記載の飼育方法。 【請求項8】 人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた雌のブリ属養殖魚であって、 生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下であり、 生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い、 ブリ属養殖魚。 【請求項9】 生殖器官成熟期後のブリ属養殖魚のGSIが雌個体で1.0%以下である請求項8記載のブリ属養殖魚。 【請求項10】 人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた、生殖器官成熟期後の雌個体であって、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であり、生殖腺体指数(GSI)が0.5%未満であるブリ属養殖魚。 【請求項11】 生殖器官成熟期の雌個体のブリ属養殖魚が、以下の(4)~(6)の少なくともひとつを満たす請求項8記載のブリ属養殖魚: (4) 11-ケトテストステロン(11-KT)の血中濃度が、20pg/mL~175pg/mL、 (5) 17α,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(DHP)の血中濃度が、100pg/mL~350pg/mL、及び、 (6) エストラジオール(E2)の血中濃度が、300pg/mL~10000pg/mL。 【請求項12】 尾叉長が50cm以上である請求項8~請求項11のいずれか1項記載のブリ属養殖魚。 【請求項13】 ブリ、ヒラマサ、カンパチ、又はヒレナガカンパチである請求項8~請求項12のいずれか1項記載のブリ属養殖魚。 【請求項14】 請求項1~請求項7のいずれか1項記載の飼育方法で得られたブリ属養殖魚。 第4 取消理由(決定の予告)について 1 取消理由の概要 令和4年9月9日付け取消理由通知書において通知した取消理由は、概略次のとおりである。 (1)本件訂正前の請求項8ないし14に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件訂正前の請求項8ないし14に係る発明は、甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)本件訂正前の請求項8、9、11ないし14に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 取消理由(決定の予告)の概要 令和5年3月6日付け取消理由通知書(決定の予告)において通知した取消理由は、概略次のとおりである。 (1)本件発明8、9、11ないし13について ア 本件発明8は、「ブリ属養殖魚」を特許請求の対象とする「物の発明」であるが、請求項8には以下の飼育過程における事項が発明特定事項として記載されている。 (ア)「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであること。 (イ)「生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下であ」ること。 (ウ)「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い」こと。 イ(ア)上記ア(ア)について、本件発明8は、得られた「ブリ属養殖魚」が、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであることによって、そのように得られ、成育されたものでない「ブリ属養殖魚」と相違するのか否か不明であり、相違する場合どのように相違するのかも不明である。 (イ)上記ア(イ)について、得られた「ブリ属養殖魚」は、少なくとも「生殖器官成熟期」ではないから、上記ア(イ)の「生殖器官成熟期」における肥満度、体重及び生殖腺体指数(GSI)の特定によっては、得られた「ブリ属養殖魚」は特定されず、「生殖器官成熟期」において肥満度、体重及び生殖腺体指数(GSI)が上記ア(イ)のように特定されない「ブリ属養殖魚」と相違するのか否かも不明であり、相違する場合どのように相違するのかも不明である。 (ウ)上記ア(ウ)の「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い」ことについても、当該発明特定事項により、得られた「ブリ属養殖魚」が、単に「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であ」る、「生殖器官成熟期後において、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い」ものではない「ブリ属養殖魚」と相違するのか否か不明であり、相違する場合どのように相違するのかも不明である。 ウ また、仮に、上記ア(ア)、(イ)の発明特定事項及び上記ア(ウ)のうちの「生殖器官成熟期後において」、「生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い」ことが、得られた「ブリ属養殖魚」の構成に影響するとしても、本件特許に係る出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由が見いだせない。 エ 以上のとおりであるから、本件発明8及びこれを引用する本件発明9、11ないし13は、明確でない。 (2)本件発明10、12及び13について ア 本件発明10は、「ブリ属養殖魚」を特許請求の対象とする「物の発明」であるが、請求項10には「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであるという飼育過程における事項が発明特定事項として記載されている。 イ 本件発明10は、得られた「ブリ属養殖魚」が、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであることによって、そのように得られて成育されたものでない「ブリ属養殖魚」と相違するのか否か不明であり、相違する場合どのように相違するのかも不明である。 ウ また、仮に、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであるということが、得られた「ブリ属養殖魚」の構成に影響するとしても、本件特許に係る出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由が見いだせない。 エ 以上のとおりであるから、本件発明10は、明確でない。 本件発明10を引用する本件発明12及び13についても同様である。 (3)本件発明14について ア 本件発明14は「請求項1~請求項7のいずれか1項記載の飼育方法で得られたブリ属養殖魚」であって、本件発明1の飼育方法で得られたブリ養殖魚を択一的に含むものであるところ、請求項1を引用する請求項14には、請求項1に記載される以下の飼育過程における事項が発明特定事項として記載されているといえる。 (ア)「調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させる」ものであること。 (イ)「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること」。 (ウ)「得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ること」。 イ 本件発明14は、上記(ア)ないし(ウ)により、「物の発明」の特許請求の対象である「ブリ属養殖魚」を特定しようとするものである。 そこで、当該記載による「ブリ属養殖魚」の特定について検討する。 (ア)上記ア(ア)について、得られた「ブリ属養殖魚」が、「調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させる」ものであることによって、そのように得られ、成育されたものではない「ブリ属養殖魚」と相違するのか否か不明であり、相違する場合どのように相違するのかも不明である。 (イ)また、上記ア(イ)の「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得る」ことによっては、得られた「ブリ属養殖魚」が、上記ア(イ)によって得られない「ブリ属養殖魚」と相違するのか否かも不明であり、相違する場合どのように相違するのかも不明である。 (ウ)さらに、上記ア(ウ)の「得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ること」ことついても、当該発明特定事項により得られた「ブリ属養殖魚」が、単に「肥満度17以上及び体重が3.5kg以上」であって、当該発明特定事項により得られたものではない「ブリ属養殖魚」と相違するのか否か不明であり、相違する場合どのように相違するのかも不明である。 ウ また、仮に、上記ア(ア)、(イ)の発明特定事項及び上記ア(ウ)のうちの「得られた成熟期ブリ属養殖魚から」得られるものであること、及び「生殖器官成熟期後に」、「生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い」ことが、得られた「ブリ属養殖魚」の構成に影響するとしても、本件特許に係る出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在することについて、明細書等に記載がなく、また、出願人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由が見いだせない。 エ 以上のとおりであるから、本件発明14は、明確でない。 3 意見書における特許権者の主張 上記2の取消理由通知書(決定の予告)において通知した取消理由に対し、特許権者は、令和5年5月9日付けで意見書(以下「特許権者意見書」という。)を提出し、以下の主張をしている。 (1)「本件発明8は、「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い、ブリ属養殖魚」(以下、「(ウ)のブリ属養殖魚」ということがある。)という「物」の発明である。本件発明8の(ウ)のブリ属養殖魚は、さらに、(ア)「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた雌のブリ属養殖魚」であり、かつ(イ)「生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下である」という飼育による成長過程を経た、生殖器官成熟期後のブリ属養殖魚であることが特定されている。 上記(ア)の特定は、「人工種苗による雌ブリ属養殖魚」とも書き換えられる。また、上記(イ)の(GSI)が0.5%以上4.5%以下である生殖器官成熟期のブリ属養殖魚という特定は、生殖器官成熟期でGSIが0.5%以下というGSI値が低いままのブリは、一見して成長不良であり、また、GSIが4.5%以上のものは、成熟し過ぎており、その後の生殖器官成熟期後でやせてしまうブリ属養殖魚であり、(イ)では、そうでないものを特定している。 本件発明8は、(ア)と(イ)の要件を満たす、生殖器官成熟期後(ウ)であるブリ属養殖魚に係るものである。そして、GSI値は魚を殺さなくてもX線検査、赤外線検査、CT検査、超音波検査などの非破壊検査を利用することにより測定できると考えられる。また、本件明細書段落【0069】等に「成熟期個体獲得工程では、目的とするGSI、体重及び肥満度を有する個体を、サイズの測定、血中ホルモン濃度の測定等を行うことによって選抜することができる。サイズの測定には、計量管理に関して既述した方法を適用することができる。血中ホルモンとしては、11-KT、DHP、E2等を挙げることができる。」と記載のように、GSIは魚を殺さなくても血中ホルモン濃度の測定により判別できるから、同じ個体の魚が(イ)および(ウ)の過程を経ることができる。 このように、本件発明8は、(ア)を由来として(イ)という過程を経た(ウ)のブリ属養殖魚に係るものであり、発明および発明の範囲は明確であり、請求項8の発明は明確であると思料する。」 (特許権者意見書3頁4行~4頁5行) (2)「「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させたものであること」については、人工的に採卵して得られたブリ属魚類(人工種苗)は、以下の点等で天然種苗と相違する。 ・・・ ・形態的特徴 人工種苗は一定の比率で天然種苗にはない形態的特徴が観察される。これは人工種苗の孵化から稚魚期における育成環境・高密度飼育のために生じると考えられ、成魚においても形態的特徴は維持される。 また理由は不明だが、天然種苗よりも人工種苗は通常、体高が高くなりやすいという特徴がある。 ・大きさ 天然種苗は得られる時期が1年のうち1時期だけであり、(3月頃)、その種苗のサイズは一定している。人工種苗は通常、通年ブリを生産するために天然種苗と時期をずらして用意するものであり、その意味で天然種苗は人工種苗と大きさが異なる。 ・耳石 ブリには耳石というものがあり、それを調べることによって年齢などを調べられる。この耳石は飼育環境に影響を受けると言われている。人工種苗は人工の環境でふ化し、継続的に飼育されているので、安定した環境で育つ。一方、天然種苗は天然の環境でふ化、育成しているためその環境は人工種苗のものと大きく異なり、飼育環境を反映すると考えられている耳石にはそれが反映しており、判別可能である。」 (特許権者意見書7頁8行~8頁9行) (3)「「生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上0.5%以下であること」、および「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低いこと」については、生殖器官成熟期後、生殖器官成熟期の状態よりも肥満度があまり落ちないことを表現したものである。 通常、成熟期後ではGSIは小さくなるが、そのような場合でも、肥満度17以上、3.5kgとなることを特定している。 通常、生殖腺は、成熟期に成熟しその後成熟期後に退縮し、それに伴って生殖腺の色が変化するのに対して、本件発明8のブリ属養殖魚の生殖腺は、退縮して色が変化することはない。また通常成熟期後の生殖腺は、雌であれば切片による組織観察より、退行変形卵(成熟期後に卵巣が退縮していく過程において、ある程度大きくなった卵が変形して退行する)あるいは排卵痕(魚が卵を排出した跡)が観察されることで産卵期後であることが確認可能であるが、本件発明8のブリ属養殖魚の生殖腺では、このような対応変形卵や排卵痕が観察されない。その意味で判別可能である。 このような特徴により本件発明8のブリ属養殖魚は、生殖腺の発達、退化にエネルギーをほとんど割かなくて済むため、肥満度、体重を肥満度17以上、3.5kg以上に維持できると考えられる。 このことは、本件明細書の段落【0016】に「本開示の一態様に係るブリ属養殖魚は、生殖器官成熟期後においてGSIが生殖器官の成熟期よりも下がったとしても、生殖器官成熟期において、3.5kg以上の体重及び18以上の肥満度と低すぎない範囲のGSIとを有し、生殖器官成熟期後においても体重が3.5kg以上及び肥満度17以上を有している。・・・」等と説明されている。」 (特許権者意見書8頁10行~9頁12行) (4)「不可能・非実際的事情の存在についての釈明 成熟期後にやせにくいという特性は、成熟期と成熟期を比較した相対的なものであるため、定量的に物質の構成などで表記することはできない。 また、ブリのような生物が成熟期後にやせにくいということは、多種多様な生体分子を含むブリ属養殖魚の、多種多様な生体反応によって生じるものである。 そうすると、本件発明8~14のブリ属養殖魚をその構造または特性により直接特定するためには、魚に含まれる無数といってよい天然成分の構造や特性を解析し、本件発明8~14の有効成分たり得るために、どの成分がどの割合で含まれる必要があるかを特定しなければならない。しかしながら、そのような特定は、本件出願時において技術的に不可能であったか、可能であったとしても作業を行うことに著しく過大な費用及び時間を要するため非実際的である。 したがって、本件発明8~14については、不可能・非実際的事情が存在するため、請求項8~14に係る発明の記載は不明確なものではないと思料する。」 (特許権者意見書12頁5行~20行) 4 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 (1)取消理由(決定の予告)で通知した取消理由についての検討 ア 取消理由(決定の予告)で通知した取消理由の検討の観点 (ア)本件発明8ないし14は、「ブリ属養殖魚」を特許請求の対象とする「物の発明」である。そして、本件発明8、9、11ないし14は、本件訂正前から飼育の一過程における「生殖器官成熟期」におけるブリ属養殖魚の有する「肥満度」、「体重」及び「生殖腺体指数(GSI)」等が発明特定事項とされていたものである。 (イ)一般に、請求項中に製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合は、その記載を、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解釈して特許要件の審査、審理を行う。「ブリ属養殖魚」は、飼育の一過程における「生殖器官成熟期」において「肥満度」、「体重」及び「生殖腺体指数(GSI)」が特定の範囲のものであったとしても、その後の「生殖器官成熟期後」において異なる範囲となれば、最終的に得られた「ブリ属養殖魚」においては、「生殖器官成熟期」におけるブリ属養殖魚の有する「肥満度」、「体重」及び「生殖腺体指数(GSI)」が、最終的に得られた「ブリ属養殖魚」を特定するものとはならないことは自明である。 (ウ)上記(イ)の事情から、令和4年9月9日付けの取消理由通知においては、請求項中に「生殖器官成熟期」における「肥満度」、「体重」及び「生殖腺体指数(GSI)」が特定されているとしても、特許請求の対象である「ブリ属養殖魚」は最終的に得られた「ブリ属養殖魚」であって「生殖器官成熟期」における「肥満度」、「体重」及び「生殖腺体指数(GSI)」によらないものとして、新規性、進歩性の判断を行った。 (エ)当該取消理由に対し、特許権者は、同年11月14日付けで訂正請求書を提出して、本件発明8及び本件発明10において、ブリ属養殖魚が「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであることを特定する訂正を行うとともに、同日付けの意見書において「生殖器官成熟期」における「肥満度」、「体重」及び「生殖腺体指数(GSI)」を特定する構成について、要旨認定がされないことは、最高裁平成3年3月8日判決、昭和62年(行ツ)第3号審決取消訴訟事件(いわゆる「リパーゼ判決」)に照らして許されない旨の主張をした。 (オ)上記(エ)に示したように、訂正により、本件発明8及び本件発明10において、ブリ属養殖魚が「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであることが特定された。本件発明9、11ないし13は本件発明8または10の従属項であり、請求項14が引用する請求項1ないし7も同様に「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を「成育させ」ることが特定されていることから、本件発明8ないし本件発明14は、ブリ属養殖魚が「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を「成育させ」たものである旨の発明特定事項を備えるものとなった。 (カ) a 一般に、請求項が製造方法によって生産物を特定しようとする記載がある場合には、その記載を、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解釈して、請求項に係る発明の新規性、進歩性等の特許要件の判断をする。そのため、その生産物の構造、性質等を理解できない結果、的確に新規性、進歩性等の特許要件の判断ができない場合がある。このような場合は、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要であるという特許請求の範囲の機能を担保しているといえないから、明確性要件違反となる。そして、物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、その請求項の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる。そうでない場合には、当該物の発明は不明確であると判断される。 b 申立人も、令和4年12月26日付けの意見書(以下「申立人意見書」という。)において、本件発明8~14は、「物の発明についての請求項にそのものの製造方法が記載されている場合」に相当するものであり、技術常識を考慮しても「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ことが当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのかは、当業者にとって明らかとはいえず、また、「出願時における当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではない事情」について何らの説明も存在しないため、明確性の要件を満たさない旨、本件発明8は、「生殖器官成熟期」の構造・特徴及び「生殖器官成熟期後」の構造・特徴を特定する、経時的な要素を含む発明である点についても、「物の発明についての請求項にそのものの製造方法が記載されている場合」に相当する旨、主張する(申立人意見書4頁9~28行)。 (キ)上記(カ)の観点から、本件発明8~14が明確であるというためには、本件発明8~14において、少なくとも、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を「成育させ」た「ブリ属養殖魚」がそのように成育させたものではないブリ属養殖魚とはその構造又は特性において異なるが、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在することが必要である。そして、取消理由(決定の予告)においては、上記観点から、本件発明8~14について、明確性についての拒絶理由を通知した。 (ク)以上の事情に鑑み、以下、本件発明8~14の明確性について、 a 「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させ」た「ブリ属養殖魚」がそのように成育させたものではないブリ属養殖魚とはその構造又は特性において異なるといえるか、 b 出願時において「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を「成育させ」た「ブリ属養殖魚」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するか、 との2の観点から検討する。 (ケ)また、取消理由(決定の予告)において通知した取消理由(上記第4の2)のうち、上記(ク)の観点において検討しなかった事項について、発明が明確であり、取消理由が解消されているかについて検討する。 イ 検討 (ア)「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させ」た「ブリ属養殖魚」がそのように成育させたものではないブリ属養殖魚とはその構造又は特性において異なるといえるか。 (第4の2(1)イ(ア)、(2)イ、(3)イ(ア)) a ブリは、「人工的に採卵し」た卵から飼育したブリと、天然ブリが産卵した卵から成育したブリとに分けることができる。そして、天然ブリは2~4月の産卵期に産卵するのに対し、「人工的に採卵」し「成育させ」る場合には、日本で養殖をしているブリの産卵時期は特段の調整をしなければ5~6月であり、天然ブリと同時期の2~4月が産卵期となるように調整をしたもの以外とは、成育時期が異なることによって魚齢や大きさ等の特性が異なるといえる。 b また、卵や育成環境の相違は成育されたブリに影響を及ぼすものと認められる。例えば、耳石等から育成環境が推定できることから、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させ」た「ブリ属養殖魚」がそのように成育させたものではないブリ属養殖魚とは耳石等において異なるものとなり、その構造又は特性において異なるといえる。 (イ)出願時において「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を「成育させ」た「ブリ属養殖魚」をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するか。 (第4の2(1)ウ、(2)ウ、(3)ウ) 上記(ア)において検討したように、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させ」た「ブリ属養殖魚」がそのように成育させたものではないブリ属養殖魚とはその構造又は特性において異なるといえるが、その構造又は特性を直接特定するためには、耳石その他のブリの体組織を解析し、特定する等しなければならない。 しかし、そのような特定のために、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させ」た「ブリ属養殖魚」をそのように成育させたものではないブリ属養殖魚と区別するための特徴を特定する指標を見いだすには、著しく多くの試行錯誤を重ねることが必要であり、およそ実際的ではないものと認められる。 (ウ)「生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下である」との特定、及び、「生殖器官成熟期後」に、「生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い」との特定について (第4の2(1)イ(イ)及び(ウ)、(3)イ(イ)及び(ウ)) 上記(ア)及び(イ)において検討したように、本件発明8ないし14は、製造方法によって生産物を特定する発明であり、特許請求の対象である「ブリ属養殖魚」は、本件発明8、9、11ないし14においては、「生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下である」という飼育による成長過程を経た、生殖器官成熟期後のブリ属養殖魚であって、「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い」「ブリ属養殖魚」が特定されたものであることは明らかであるから、第三者に不測の不利益を及ぼすものではなく、発明は明確である。 (3)小括 本件発明8ないし14は、発明が明確である。 第5 取消理由(決定の予告)で通知しなかった異議申立理由について 1 特許異議申立理由の概要 申立人が令和4年6月30日付けの特許異議申立書(以下「申立書」という。)において申し立てた特許異議申立理由は、概略次のとおりである。 (1)新規性(特許法29条1項3号) ア 請求項10、12及び13に係る発明は、甲第2号証に記載されている。 イ 請求項10、12及び13に係る発明は、甲第3号証に記載されている。 (申立書33頁11行~34頁22行、38頁最下行~39頁9行、同頁15~24行) (2)進歩性(特許法29条2項) ア 請求項1ないし4に係る発明は、甲第8号証に記載された発明、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (申立書40頁4行~44頁15行) イ 請求項5、6に係る発明は、甲第8号証に記載された発明、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第10号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (申立書44頁16行~45頁下から5行) ウ 請求項7、14に係る発明は、甲第8号証に記載された発明、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第10号証、甲第11号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (申立書45頁下から4行~46頁下から5行) エ 請求項8、9、11~13に係る発明は、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証、甲第5号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (申立書34頁下から4行~40頁3行) オ 請求項10、12及び13に係る発明は、甲第2号証または甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)実施可能要件(特許法36条4項1号) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件の請求項1~14に係る発明について、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に記載されていない。 したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 (申立書46頁下から4行~53頁下から7行) (4)サポート要件(特許法36条6項1号) 本件の請求項1~7に係る発明は、明細書の記載に基づいて当業者が課題を解決できることを認識できる技術的範囲を超えているため、発明の詳細な説明に記載されていないものを含むものであり、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。 (申立書53頁下から5行~55頁最下行) 2 証拠について (1)申立人が提出した証拠のうち、本決定において引用する証拠は以下のとおり。 甲第2号証 :特開2013-188207号公報 甲第3号証 :竹丸 巌「養殖ブリ上湾症の発生と成熟との関係」、 水産増殖 第57巻、第2号、2009年、 p301-306 甲第4号証 :樋口 健太郎、「ブリの配偶子形成および産卵に及ぼす制 限給仕の影響とその内分泌メカニズムに関する研究」、 2016年10月、 長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科博士論文 甲第5号証 :栽培漁業技術シリーズ No.5 ブリの親魚要請技術開発、社団法人 日本栽培漁業協会、 平成11年3月25日 甲第8号証 :特開2007-300837号公報 以下、甲第2号証を「甲2」等ということがある。 (2)甲2 ア 記載事項 甲2には次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。 (ア)「【課題を解決するための手段】 【0013】 本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、対象魚において産卵又は放精が通常観察される時期の少なくとも90日(3か月)前から、対象魚にビタミンEの含有量が低い魚類用飼料を持続的に給餌した場合に、対象魚において生殖器官の成熟が抑制され、通常生殖期間にみられる産卵又は放精が起こらず、生殖期間においても対象魚は持続的に成長し、産卵、放精、成長の停滞又は減退、肉質の劣化、及び/又は体色変化を抑制できることを見出した。本発明は、係る知見に基づいて完成されたものである。」 (イ)「【0025】 本発明による魚類の飼育方法又は抑制方法は、対象魚において通常産卵又は放精が観察される時期の少なくとも90日前から、該対象魚に本発明の魚類用飼料又は抑制組成物を少なくとも90日の間継続して給餌することを必須とする。何故ならば、対象魚に本発明の魚類用飼料又は抑制飼料を少なくとも90日間継続して給餌することにより、対象魚において生殖期間における生殖器官の成熟が抑制されて産卵や放精などの生殖活動が抑制され得、その結果、対象魚において生殖期間に通常見られる産卵、放精、成長の停滞又は減退、肉質低下を伴う体重減少ないし婚姻色(体色黒化或いは体色褪せ)などの体色変化を防止することが可能となり、十分な商品価値を有する魚類を提供することが出来るからである。」 (ウ)「【0040】 (2)効果確認 飼育試験終了時に対照区および試験区より雌各10尾のマダイを取り上げ、各分析に供した。分析項目として魚体重、尾叉長、肝臓重量、生殖腺重量を測定し、魚体重に占める生殖腺重量の比率である生殖腺体指数(GSI:Gonad Somatic Index)を以下の式に基づいて算出した。分析結果については表3に示す。 生殖腺体指数(%)=(生殖腺重量(g)÷魚体重(g))×100」 (エ)「【0051】 [実施例2] 1.飼料の作製及び組成分析 以下の表8に示す各原材料を混合することにより、魚粉を主原料とする対照区用及び試験区用のそれぞれについて各粉末飼料を作製した。対照区用飼料にはブリのビタミン要求量を満たすビタミンプレミックスを添加し、一方、試験区用飼料では対照区飼料で用いたビタミンプレミックスからビタミンEおよびビタミンAを除外したものを添加した。 ・・・ 【0055】 2.養殖魚の飼育方法及び効果確認 (1)飼育方法 上記の通り作製した各粉末飼料は、船上にて冷凍生魚と粉末飼料を1対1にて混合した後、造粒し、対照区及び試験区のそれぞれにおいて試験魚に給餌した。海面養殖筏2面それぞれに平均体重約3.4kgのカンパチ約3,500尾を飼養し、飼育試験に供した。餌飼料は2日に1回飽食給餌とし、自然水温にて105日間飼育した。 試験期間中の水温は、開始時が16.0℃であり、対照区において産卵行動が観察された終了時には23.5℃であった。 【0056】 (2)効果確認 飼育試験終了時に対照区および試験区より各8尾のカンパチを取り上げ各分析に供した。 分析項目として魚体重、尾叉長、肝臓重量、及び生殖腺重量を測定し、魚体重に占める生殖腺重量の比率である生殖腺体指数(GSI:Gonad Somatic Index)を実施例1と同様にして算出した。加えて、卵巣の成熟段階についても実施例1と同様にして判定した。その結果を表10及び11に示す。」 (オ)「【表11】 [図:0001401629000001.jpg] 」 上記表11には、No.5のカンパチは、魚体重が3.5kg、尾叉長が58.2cm、肥満度が17.8、GSIが0.17であり、組織切片成熟判定が産卵後であることが示されている。 イ 甲2に記載された発明 上記アからみて、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 (甲2発明) 「対象魚において産卵又は放精が通常観察される時期の少なくとも90日前から、対象魚にビタミンEの含有量が低い魚類用飼料を持続的に給餌し、対象魚において生殖器官の成熟が抑制され、通常生殖期間にみられる産卵又は放精が起こらず、生殖期間においても対象魚は持続的に成長し、産卵、放精、成長の停滞又は減退、肉質の劣化、及び/又は体色変化を抑制できる魚類の飼育方法によって、 対照区及び試験区のそれぞれにおいて、平均体重約3.4kgのカンパチ約3,500尾を、対照区用飼料にはブリのビタミン要求量を満たすビタミンプレミックスを添加し、試験区用飼料では対照区飼料で用いたビタミンプレミックスからビタミンEおよびビタミンAを除外したものを添加した各粉末飼料を給餌して105日間飼育し、 効果確認のために、飼育試験終了時に対照区および試験区より取り上げたカンパチのうち、対照区のカンパチの1匹であって、 組織切片成熟判定が産卵後であり、魚体重が3.5kg、尾叉長が58.2cm、肥満度が17.8、生殖腺体指数(%)=(生殖腺重量(g)÷魚体重(g))×100で算出して得たGSIが0.17である、カンパチ。」 (3)甲3 ア 記載事項 甲3には次の事項が記載されている。 (ア)「本研究では上湾症の発生原因を明らかにするため,1999年に上湾症の発生率が高かった漁場において,翌年の5月から8月に飼育されているブリの2才魚を定期的に取り上げ,上湾症の発生時期として疑われる期間における魚体の特性について調べた。」 (第301頁本文右欄第1~5行) (イ)「材料および方法 本研究では,1999年に上湾症の発生率が高かった漁場(B)および上湾症の経験がほとんどない漁場(D)において,翌年の2000年にブリの2才魚が飼育されている生簀をそれぞれ1基ずつ選定し,5月上旬~8月中旬にかけて3~5尾を定期的に取り上げて,各漁場における飼育魚の魚体サイズおよび脊椎骨の形態を比較した。検体の採取日はTable1に示すとおりである。」 (第301頁本文右欄第6~14行) (ウ)「 [図:0001401629000002.jpg] 」 (第302頁左上欄) (上記Table1のタイトル訳。日本語訳は、当審において作成した。以下同様。) 「表1 BおよびD漁場の検体の採取日」 表1からは、漁場(B)の検体の採取日が、5月11日、22日、6月5日、19日、7月12日、8月16日であったことが理解できる。 (エ)「 [図:0001401629000003.jpg] 」(第303頁) (上記Fig.2の説明訳。) 「図2 検査期間における測定された魚体サイズ及び臓器の平均値の変化 ○:漁場(B)で養殖されたブリの測定値 △:漁場(B)で養殖されたブリの測定値」 上記(イ)及び(ウ)の記載を踏まえると、Fig.2中の各グラフ内の○は漁場(B)の検体の各採取日におけるデータの平均値を示しているものと理解できる。 最上段左のグラフは、縦軸がbody weight(kg)(体重(kg))であり、上記(ウ)の記載を踏まえると、左から4番目の○は6月19日の漁場(B)の検体の体重の平均値を表していることが理解でき、6月19日の漁場(B)の検体の体重が平均値で3.6kg程度であることが看取できる。 最上段中央のグラフは、縦軸がFork length(cm)(尾叉長(cm))であり、同様に、6月19日の漁場(B)の検体の尾叉長が平均値で58cm程度であることが看取できる。 最上段右のグラフは、縦軸がCondition factor(B.W/F.L3×1000)(肥満度)であるから、同様に、6月19日の漁場(B)の検体の肥満度が平均値で18.2程度であることが看取できる。 最下段中央のグラフは、縦軸がWeight of ovary/B.W.×100)(卵巣重量/体重×100)であって、雌ブリの生殖腺体指数であるから、同様に、6月19日の漁場(B)の検体の雌ブリの生殖腺体指数(GSI)が平均値で0.3%程度であることが看取できる。 イ 甲3に記載された発明 上記アからみて、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 (甲3発明) 「漁場(B)において、ブリの2才魚が飼育されている生簀を選定し、5月上旬~8月中旬にかけて3~5尾を定期的に取り上げて、各漁場における飼育魚の魚体サイズ等、魚体の特性について調べたものにおいて、 6月19日の漁場(B)の検体となった、飼育されているブリの2才魚であって、体重が平均値で3.6kg程度、尾叉長が平均値で58cm程度、肥満度が平均値で18.2程度、雌ブリの生殖腺体指数(GSI)が平均値で0.3%程度であった、飼育魚。」 (4)甲4 ア 記載事項 甲4には次の事項が記載されている。 (ア)「第2節 成熟開始前の長期間の制限給餌がブリの成熟・産卵に及ぼす影響・・・ 2-1 材料および方法 供試魚およびサンプリング 本研究には,国立研究開発法人水産研究・教育機構西海区水産研究所五島庁舎において海面小割生簀(5m×5m×5m)内で天然種苗から育成したブリ2歳魚を用いた。2014年7月2日に筋肉中にPITタグを装着したブリ親魚の雌30尾,雄5尾ずつを3つの生簀に収容した後,生簀ごとに以下の試験区を設けて産卵期となる2015年4月まで飼育した。試験区は,1) 試験期間中飽食給餌を行う試験区(飽食給餌区),2) 成熟開始前(7~12月)に飽食給餌区と比較して50%量の給餌を行う試験区(50%給餌区),3) 成熟開始前(7~12月)に飽食給餌区と比較して25%量の給餌を行う試験区(25%給餌区)とした。・・・毎月すべての個体を海面小割生簀からタモで一尾ずつ捕獲し,尾叉長および体重を測定し,肥満度を算出した。また,2014年11月4日,2015年1月14日,2月24日および4月20日にはすべての個体から・・・採血を行った。・・・成熟開始前の制限給餌が成熟に及ぼす影響を調べるため,2015年1月14日および2月24日に各試験区7尾,4月20日に各試験区雌7尾及び雄5尾をサンプリングし,肝臓及び生殖腺重量を測定した。」(第27頁第1行~第29頁第2行) (イ)「 [図:0001401629000004.jpg] 」(第34頁) (Fig.11の説明の訳。日本語訳は、申立人の示した翻訳を参考にして、当審において作成した。以下同様。) 「図11 実験期間中の雌ブリの尾叉長(A)、体重(B)、及び肥満度(C)の変化。データは平均値±標準誤差を示す(11月から1月はn=28から30尾、2月はn=21尾、4月はn=14尾)。黒、灰色、白の丸は、それぞれ、成熟開始前(7~12月)の飽和、50%、25%の給餌区を指す。異なる文字は、特定の時点でそれぞれの給餌区の間に有意差があったことを示す(P<0.05)。」 上記図11からは、飽食給餌区の雌ブリの、4~5月の尾叉長は66cm程度であり、4~5月の体重は6.5~6.7kg程度であり、4~5月の肥満度は22~23程度であることが看取される。 (ウ)「成熟開始前の制限給餌が肝臓重量,卵巣重量および最大卵巣卵群の平均卵経に及ぼす影響 ・・・卵巣重量は,すべての試験区において1月以降徐々に増加し,2月から4月にかけて急激に増加して最大となった。(Fig.13B)。」 (第35頁第5~10行。) (エ)「成熟開始前の制限給餌が血中E2濃度に及ぼす影響 血中E2濃度は,すべての試験区においても11月以降に徐々に増加した後,1月から4月にかけて急激に増加して最大となった(Fig.14)。」 (第35頁下から5~3行。) (オ)「 [図:0001401629000005.jpg] 」(第37頁) (Fig.13の説明の訳。) 「図13 6ヶ月をこえる成熟開始前の制限給餌により飼育した雌ブリの肝臓重量(A)、卵巣重量(B)、及び最大卵巣卵群の平均卵経(C)。データは平均値±標準誤差を示す(特定の時点でn=7尾)。異なる文字は、特定の時点でそれぞれの給餌区の間に有意差があったことを示す(P<0.05)。」 上記図13からは、飽食給餌区の雌ブリの1/24、2/24、4/20の卵巣重量は、それぞれ、40g、60g、250~270g程度であったことが看取される。 (カ)「 [図:0001401629000006.jpg] 」(第38頁) (Fig.14の説明の訳。) 「図14 6ヶ月をこえる成熟開始前の制限給餌により飼育した雌ブリの血中E2濃度のレベル。データは平均値±標準誤差を示す(11/14はn=28尾、1/14及び2/24はn=21尾、4/20はn=14尾)。異なる文字は、特定の時点でそれぞれの給餌区の間に有意差があったことを示す(P<0.05)。」 上記図14からは、飽食給餌区の雌ブリの4/20の血中E2濃度は、8.5~9.8ng/ml程度であったことが看取される。 イ 甲4に記載された発明 上記アからみて、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。 (甲4発明) 「2014年7月2日に筋肉中にPITタグを装着したブリ親魚の雌30尾、雄5尾ずつを3つの生簀に収容した後、生簀ごとに以下の試験区を設けて産卵期となる2015年4月まで飼育し、 試験区は、1) 試験期間中飽食給餌を行う試験区(飽食給餌区)、2) 成熟開始前(7~12月)に飽食給餌区と比較して50%量の給餌を行う試験区(50%給餌区)、3) 成熟開始前(7~12月)に飽食給餌区と比較して25%量の給餌を行う試験区(25%給餌区)とし、 毎月すべての個体を海面小割生簀からタモで一尾ずつ捕獲し、尾叉長および体重を測定し、肥満度を算出し、 2014年11月4日、2015年1月14日、2月24日および4月20日にはすべての個体から採血を行い、 2015年1月14日および2月24日に各試験区7尾、4月20日に各試験区雌7尾及び雄5尾をサンプリングし、肝臓及び生殖腺重量を測定した、 成熟開始前の長期間の制限給餌がブリの成熟・産卵に及ぼす影響の調査における飽食給餌区の雌ブリであって、 4~5月の尾叉長は66cm程度、体重は6.5~6.7kg程度、肥満度は22~23程度であり、 1/24、2/24、4/20の卵巣重量は、それぞれ、40g、60g、250~270g程度であり、 4/20の血中E2濃度は、8.5~9.8ng/ml程度であった、 雌ブリ。」 (5)甲5 ア 記載事項 甲5には、以下の記載がある。 (ア)「五島および古満目両事業場における平成4~9年度の5カ年間の月別平均水温を図I-2に示したが,過去においてもその水温変動はほぼ同じであった。」(3ページ左欄下から8~5行) (イ)「 [図:0001401629000007.jpg] 」(3頁右欄) (ウ)「(2)人工生産魚 ブリの天然親魚の漁獲量には年変動があるため,安定して採卵用親魚を確保するためには天然モジャコや種苗生産された人工種苗を親魚に養成する技術開発が求められていた。五島事業場では,昭和57年から平成元年までの間,毎年事業場で生産された種苗を飼育して採卵用親魚の養成を行い,成長,成熟あるいは採卵時期などの検討を行った。 養成と成熟調査 昭和57年から昭和59年の間に五島事業場で生産し養成した人工種苗の成長を図I-4に示した。それらの平均尾又長は,満1歳で約40cm,満2歳で50~60cm,満3歳で60~70cmとなり,満4歳では70~80cmまで成長する。体重は満1歳で1kg前後となり,満4歳では9kg前後に達し,その後,成長は鈍るが,満7歳では12kg以上になる個体もある。ただし,ここに示した成長は採卵用親魚としての養成を目的としたものであり,天然魚あるいは養殖魚の成長とは差があると考えられる(鉄,1967)。昭和59年に人工2の親魚(表I-1)より人工授精で初めて採卵に成功し,その時の供試魚の最小個体の尾又長および体重はそれぞれ55cmおよび3.2kgであった。」 (4頁左欄下から9行~右欄15行) (エ)「 [図:0001401629000008.jpg] 」(4頁右欄) (オ)「 [図:0001401629000009.jpg] 」(5頁左欄) (6)甲8 ア 記載事項 甲8には、以下の記載がある。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ブリの人工養成親魚の雌雄を9月中旬に陸上水槽に収容して約90日間、日長条件と水温条件を制御して雌親魚の卵巣卵径を増大させた後ホルモン剤を注射して産卵を誘発させる早期採卵技術によって12月に採卵を行ない、その種苗から得られた仔魚の一部を1年間養殖して得られた成魚を出荷すると共に、残りの仔魚を2年間養成し、得られた親魚の雌雄を9月中旬に陸上水槽に収容して前記の早期採卵技術を用いて12月に採卵を行ない、その種苗から得られた仔魚の一部を1年間養殖して出荷すると共に、残りの仔魚を2年間親魚として養成して前記の早期採卵技術を用いて12月に採卵を行なう方法によって、ブリ養殖の期間と親魚養成の期間をそれぞれ約1年間短縮し、ブリの飼育コストを低減する方法。」 (イ)「【0008】 ブリ人工種苗の生産技術の開発を進める上では、その起点となる優良親魚の養成と良質卵の安定確保が最も重要であるが、同時に、親魚に仕立てるためのコストを極力下げる必要がある。そのためには、成熟するまでの親魚の養成期間をできるだけ短縮することが必要である。また、人工生産魚(人工種苗由来の成魚)を用いて12月早期採卵技術を安定的に実施できる技術の開発も必要である。 【0009】 本発明者らは、長年の間ブリ親魚養成技術の開発・改良研究に従事しているが、上記のとおり、12月採卵技術由来の人工生産魚が1年後に優良な成魚に成長することに鑑み、この人工生産魚を2年間養成して親魚とし、この親魚から再び12月採卵技術によって種苗を得、その仔魚の一部を1年間養殖して出荷すると、ブリの養殖期間を従来より1年間短縮できる上、残りの仔魚を2年間養成して親魚にすれば、採卵用親魚の養成期間も従来より1年間短縮できるのではないかという発想を得て、試験・研究を続けた結果、本発明を完成するに至った。なお、ブリ親魚養成における飼育環境条件や早期採卵技術に関しては、以下の技術文献が知られている。」 (ウ)「【発明の効果】 【0020】 従来は天然種苗由来の成魚を養成した親魚から得られた仔魚を用いて、種苗から親魚までの養成期間が3年、種苗から出荷までの養殖期間が2年とされていた親魚養成とブリ養殖の方法を、本発明によれば、人工種苗由来の成魚を養成した親魚から得られた仔魚を用いて、種苗から親魚までの養成期間を2年、種苗から出荷までの期間を1年にそれぞれ短縮できるので、本発明は、親魚養成の期間とブリ養殖の期間をそれぞれ約1年間も短縮でき、ブリの飼育コストを大幅に低減することができる。」 (エ)「【0028】 《試験例1》 (1)供試した親魚 本試験例には、平成15年12月25日に12月採卵技術によって得られ、孵化したブリの仔魚を約1年5カ月飼育した人工養成2歳魚(平均尾叉長55cm、平均体重3.7kg)計28尾(♂:♀=14:14)を供した。これらの養成親魚を平成17年8月25日に試験区と対照区に2分し、容量80kLの陸上水槽2面にそれぞれ14尾(♂:♀=7:7)を収容した 【0029】 (2)試験方法 イ)試験区の環境条件は、供試魚を水槽に収容した当日から、自然環境条件下で17日間の陸上水槽へ馴致させる期間を設けた翌日から、以下に説明する日長及び水温の両条件について制御した。日長条件は、短日処理と長日処理を組み合わせて制御した。 ロ)すなわち、短日処理は、明期8時間と暗期16時間(8L16D)として午前8時から午後4時までの8時間は自然日長条件下で飼育し、午後4時から翌朝8時までの16時間は水槽全体を遮光幕(遮光率100%:ボンガードZT-2602F、日本ウエーブロック)で覆った。短日処理の期間は、9月11日から9月20日までの10日間とした。 ハ)長日処理は、短日処理終了直後から明期18時間と暗期6時間(18L6D)とし、朝6時から深夜12時までの18時間について、タイマー制御により水槽直上部に設置したレフランプ(500W)2灯を点灯した。長日処理の期間は、9月5日から12月10日までの80日間とした。 ニ)なお、対照区は、水槽収容直後から試験期間を通して自然日長とした。 ホ)試験区における水温条件は、陸上水槽収容時以降は自然条件とし、その後、自然水温が19℃を下回るようになった時点から加温により最低水温を19℃に維持した。水温を19℃に維持する理由は、自然界においてブリは19℃前後の水温のときに産卵するからである。一方、対照区では、試験期間を通して自然水温とした。 ヘ)陸上水槽収容時(8月25日)、環境制御開始40日後(10月21日)、同90日後(12月10日)にカニューレを用いて卵巣卵の一部を採取し、卵巣卵径を測定する成熟調査を実施した。また、同90日目には産卵を誘発するためにヒト胎盤性生殖線刺激ホルモン(HCG)を供試魚の背部筋肉内へ注射し、水槽内での産卵を誘発した。なお、ブリを含む多くの魚種について試験した結果、産卵誘発剤として現状ではHCGが最も効果が大きいことが確認されている。」 イ 甲8に記載された発明 上記アより、甲8には、以下の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。 (甲8発明) 12月採卵技術由来の人工生産魚を2年間養成して親魚とし、この親魚から再び12月採卵技術によって種苗を得るブリ親魚養成方法であって、 12月採卵技術によって得られ、孵化したブリの仔魚を約1年5カ月飼育した人工養成2歳魚計28尾(♂:♀=14:14)を水槽に収容し、 90日目に水槽内での産卵を誘発した、方法。 3 取消理由(決定の予告)で通知しなかった異議申立理由についての当審の判断 (1)甲8を主引用例とする進歩性(上記第5の1(2)アないしウ)について ア 本件発明1 (ア)対比 本件発明1と甲8発明とを対比する。 a 甲8発明の「人工生産魚を2年間養成して親魚とし、この親魚から再び12月採卵技術によって種苗を得る」ものにおいて、「12月採卵技術によって得られ、孵化したブリの仔魚」は、本件発明1の「調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」に相当する。 b 上記aの対比を踏まえると、「ブリ属魚類の仔魚」を「親魚」として「養成」することは、本件発明1の「ブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること」及び「ブリ族養殖魚の飼育方法」に相当する。 c 甲8発明の「人工養成2歳魚」の雌(♀)は、「産卵」が誘発されたものであり、生殖腺体指数(GSI)が「生殖器官成熟期後」に「生殖器官成熟期での数値よりも低い」ものとなることは自明であるから、甲8発明は本件発明1の「生殖器官成熟期」の「雌個体であ」る「成熟期ブリ属養殖魚を得ること」、「得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後」に、「生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ること」に相当する構成を備える。 d そうすると、本件発明1と甲8発明とは、以下の一致点、相違点を有する。 (一致点) 調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること、 生殖器官成熟期の雌個体である成熟期ブリ属養殖魚を得ること、 得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ること を含むブリ属養殖魚の飼育方法。 (相違点1) 本件発明1は、成熟期ブリ属養殖魚が「生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下」、「肥満度18以上及び体重3.5kg以上」であり、生殖器官成熟期後のブリ属養殖魚が「肥満度17以上及び体重3.5kg以上」であると特定されているのに対し、引用発明8はそのようなものか不明である点。 (イ)判断 上記相違点1について検討する。 a 甲3、甲4、甲5は、いずれも、相違点1に係る本件発明1の構成について記載も示唆もされておらず、甲8発明において、甲3ないし甲5を参照して、相違点1に係る本件発明1の構成を備えるものとすることは、当業者といえども容易になし得たものではない。 b (a)申立人は、甲8に種苗から親魚までの育成期間が1年短縮できたとの記載があることを参照すれば、甲8発明の人工生産ブリの2歳魚の成熟度が甲4に記載の3歳魚と同程度か甲3に記載の2歳魚と甲4に記載の3歳魚の中間程度となることは当業者が容易に理解可能であり、生殖器官成熟期の親魚の肥満度、GSIも、18以上、0.5%以上4.5%以下となることは容易に想定でき、甲8発明の成熟期ブリ属養殖魚が「生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下」である蓋然性が高い旨、甲8の人工種苗から育成した養殖ブリは甲3に記載の天然種苗ブリよりも成熟が早いものであるから、生殖器官成熟期後に体重3.5kg以上、肥満度17.0以上の養殖ブリが得られることは容易に想定でき、甲8発明の生殖器官成熟期後のブリ属養殖魚が「肥満度17以上及び体重3.5kg以上」である蓋然性が高い旨主張する。(申立書41頁下から5行~42頁21行) (b)しかし、ブリ族養殖魚において成長するほど体重、肥満度及びGSIが大きくなるといった相関を有するものではない。例えば肥満度は尾叉長の三乗を分母に持つものであるから、成長して尾叉長が大きくなると肥満度が小さくなる蓋然性が高い。また、GSIが大きいと、生殖にエネルギーを使う分、痩せる蓋然性が高くなるものであるから、甲3、甲4、甲5の記載を参照しても、甲8発明のブリの2歳の成熟期及び成熟期後の魚体重、肥満度、GSIについて、必ずしも本件発明1の数値範囲となるとはいえない。 よって、本件発明1は甲8発明と甲3、甲4、甲5に記載された事項から当業者が容易に想到し得るとの申立人の主張は採用できない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲8発明及び甲3、甲4、甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2~7 本件発明2~7は、本件発明1の発明特定事項を含み、さらに限定したものであるところ、本件発明1が甲8発明及び甲3、甲4、甲5に記載されたに基づいて、当業者が容易になし得たものではない以上、本件発明2~7も、同様に、当業者が容易になし得たものではない。 ウ 本件発明14 (ア)対比 a 本件発明14は、「請求項1~7のいずれか1項記載の飼育方法で得られたブリ族養殖魚」であり、少なくとも、以下の構成を備えると認められる。 「調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を「飼育」して「成育」させた、 生殖器官成熟期後に「肥満度17以上及び体重3.5kg以上」である、「生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い」「雌個体」の「ブリ属養殖魚」であって、「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下、肥満度18以上及び体重3.5kg以上」の「ブリ属養殖魚」。 b 上記アの本件発明1と甲8発明との対比を踏まえて本件発明14と甲8発明から把握される「雌」の「ブリ親魚」とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。 (相違点2) 本件発明14は、「ブリ属養殖魚」が「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下、肥満度18以上及び体重3.5kg以上」であり、生殖器官成熟期後に「肥満度17以上及び体重3.5kg以上」であるのに対し、甲8発明の「雌」の「ブリ親魚」は、そのようなものか不明である点。 (イ)判断 上記相違点2について検討する。 相違点2は相違点1と同様の点であり、上記ア(イ)において相違点1について検討したのと同様の理由により、相違点2に係る本件発明14の構成は、甲8発明及び甲3、甲4、甲5に記載された事項から当業者が容易になし得たものではない。 (ウ)小括 よって、本件発明14は、甲8発明及び甲3、甲4、甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明8~13 (ア)申立人の意見書による主張 a 申立人は、申立人意見書において、本件発明8は、甲8に記載された発明であるから新規性がない旨、及び、甲8発明及び甲4、甲9の記載事項(生殖器官成熟期後にGSIが低下すること)から当業者が容易になし得たものである旨主張する。 (申立人意見書8頁9行~9頁17行) b また、申立人は、本件発明10は、甲8に記載された発明であるから新規性がない旨、及び、甲8発明及び甲3の記載事項から当業者が容易になし得たものである旨主張する。(申立人意見書14頁1行~15頁5行) c さらに、本件発明8ないし本件発明10を引用する本件発明9、11ないし13についても、本件発明8及び本件発明10と同様に、甲8発明を主引用例とする新規性及び進歩性について主張をしている。 (イ)主張の検討 当該主張は、異議申立ての際になされたものではないため、当該主張について、本決定においては判断を行わないが、本件発明8は、実質上、本件発明1を引用する本件発明14と同様の構成であるところ、本件発明8及びその従属項に関しては、上記ウ(イ)において検討したのと同様の判断となると考えられる。 また、本件発明10についても、上記(1)ア(イ)において検討したのと同様の判断になると考えられる。 (2)甲3を主引用例とする新規性、進歩性(上記第5の1(1)イ、(2)エ及びオ)について ア 本件発明8 (ア)対比 本件発明8と甲3発明とを対比する。 a 甲3発明の「漁場(B)において」「飼育され」、「6月19日の漁場(B)の検体となった」「雌ブリ」は、本件発明8の「雌のブリ属養殖魚」及び「ブリ属養殖魚」に相当し、6月19日が生殖器官成熟期後であることは明らかであるから、甲3発明の検体となったブリが平均値で「魚体重が3.7kg」、「肥満度が18.2」であることは、本件発明8の「雌のブリ属養殖魚」が「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であ」ることに相当する。 b 甲3発明において、「6月19日の漁場(B)の検体となった」「雌ブリ」は、生殖腺体指数(GSI)が、平均値で「0.3%程度」であって、「生殖器官成熟後」において、「生殖器官成熟期」の数値よりも低く、かつ「0.5%以上4.5%以下」を超えるものでもないことは明らかである。 c そうすると、本件発明8と甲3発明とは、以下の一致点、相違点を有する。 (一致点) 「 雌のブリ属養殖魚であって、 生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値(0.5%以上4.5%以下)よりも低い、 ブリ属養殖魚。」 (相違点A) 本件発明8は、雌のブリ属養殖魚が「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであるのに対し、甲3発明はそのようなものであるか不明である点。 (相違点B) 本件発明8は、「生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下」であるのに対し、甲3発明はそのようなものであるか不明である点。 (イ)判断 上記相違点Aについて検討する。 ブリ属養殖魚を「人工的に採卵」し、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を成育させることは、ブリ属魚類の養殖の技術分野における周知技術であるといえる。 しかし、仮に、甲3発明において「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものとするとしても、その際に検体となる魚が甲3と同じ計測値を持つものとなるものではなく、甲3発明において、雌のブリ属養殖魚を「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」、「生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であ」り、生殖腺体指数(GSI)が生殖器官成熟期の数値よりも低いものとすることが容易であるといえるものではない。 (ウ)小括 よって、相違点Bについて検討するまでもなく、本件発明8は、甲3発明及び甲4、甲5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明8を引用する本件発明9、11~13 本件発明9、11~13は、本件発明8の発明特定事項を含み、さらに限定したものであるところ、本件発明8が甲3発明及び甲4、甲5に記載された事項から当業者が容易になし得たものではない以上、本件発明9、11~13も、同様に、当業者が容易になし得たものではない。 ウ 本件発明10 (ア)対比 本件発明10と甲3発明とを対比する。 a 甲3発明の「漁場(B)において」「飼育され」、「6月19日の漁場(B)の検体となった」「雌ブリ」は、本件発明10の「雌個体」である「ブリ属養殖魚」に相当し、6月19日が生殖器官成熟期後であることは明らかであるから、甲3発明の検体となったブリが平均値で「魚体重が3.7kg」、「肥満度が18.2」であることは、本件発明10の「ブリ属養殖魚」が「生殖器官成熟期後」において、「肥満度17以上及び体重3.5kg以上であ」ることに相当するといえる。 b 甲3発明の「6月19日の漁場(B)の検体となった」「雌ブリ」は、生殖腺体指数(GSI)が、平均値で「0.3%程度」であることは、本件発明10の「ブリ属養殖魚」が「生殖器官成熟後」に「生殖腺体指数(GSI)が0.5%未満である」ことに相当するといえる。 c そうすると、本件発明10と甲3発明とは、以下の一致点、相違点を有する。 (一致点) 「生殖器官成熟期後の雌個体であって、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であり、生殖腺体指数(GSI)が、0.5%未満であるブリ属養殖魚。」 (相違点A’) 本件発明10は、ブリ属養殖魚が「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであるのに対し、甲3発明はそのようなものであるか不明である点。 (イ)新規性についての判断 上記相違点A’は、実質的な相違点であるから、本件発明10は、甲3に記載された発明ではない。 (ウ)進歩性についての判断 ブリ属養殖魚を「人工的に採卵」し、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を成育させることは、ブリ属魚類の養殖の技術分野における周知技術であるといえる。 しかし、仮に、甲3発明において「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものとするとしても、その際に検体となる魚が甲3と同じ計測値を持つものとなるものではなく、甲3発明においてブリ属養殖魚を「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた、生殖器官成熟期後の雌個体であって、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であり、生殖腺体指数(GSI)が0.5%未満であるブリ属養殖魚」とすることが容易であるといえるものではない。 (エ)小括 よって、本件発明10は、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 エ 本件発明10を引用する本件発明12、13 本件発明12、13は、本件発明10の発明特定事項を含み、さらに限定したものであるところ、本件発明10が甲3に記載された発明ではなく、甲3発明から当業者が容易になし得たものではない以上、本件発明12、13も、同様に、甲3に記載された発明ではなく、甲3発明から当業者が容易になし得たものではない。 (3)甲2を主引用例とする新規性、進歩性(上記第4の1(1)ア、(2)オ)について ア 本件発明10 (ア)対比 本件発明10と甲2発明とを対比する。 a 甲2発明の「対照区」の「組織切片成熟判定が産卵後であり、魚体重が3.5kg、肥満度が17.8」、「GSIが0.17である、カンパチ」は、本件発明10の「生殖器官成熟期後の雌個体であって、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であり、生殖腺体指数(GSI)が0.5%未満であるブリ属養殖魚。」に相当する。 b そうすると、本件発明10と甲2発明とは、以下の一致点、相違点を有する。 (一致点) 「生殖器官成熟期後の雌個体であって、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であり、生殖腺体指数(GSI)が、0.5%未満であるブリ属養殖魚。」 (相違点α) 本件発明10は、雌のブリ属養殖魚が「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものであるのに対し、甲2発明はそのようなものか不明である点。 (イ)新規性についての判断 上記相違点αは、実質的な相違点であるから、本件発明10は、甲2に記載された発明ではない。 (ウ)進歩性についての判断 上記相違点αについて検討する。 ブリ属養殖魚を「人工的に採卵」し、「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚」を成育させることは、ブリ属魚類の養殖の技術分野における周知技術であるといえる。 しかし、仮に、甲2発明において「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた」ものとするとしても、その際に調査する魚が甲2と同じ計測値を持つものとなるものではなく、甲2発明においてブリ属養殖魚を「人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を成育させた、生殖器官成熟期後の雌個体であって、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であり、生殖腺体指数(GSI)が0.5%未満であるブリ属養殖魚」とすることが容易であるといえるものではない。 (エ)小括 よって、本件発明10は、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明10を引用する本件発明12、13 本件発明12、13は、本件発明10の発明特定事項を含み、さらに限定したものであるところ、本件発明10が甲2に記載された発明ではなく、甲2発明から当業者が容易になし得たものではない以上、本件発明12、13も、同様に、甲2に記載された発明ではなく、甲2発明から当業者が容易になし得たものではない。 (4)実施可能要件について ア 申立人の主張 申立人は、概略以下の主張をする。 (ア)a 本件発明1の、「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること」及び「得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ること」との発明特定事項は、本件特許発明の解決すべき課題そのものを表示したものであり、具体的な解決手段を提示するものではない。 (申立書47頁3~11行) b 調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させることで、本件発明1の「成熟期のブリ属養殖魚」を獲得でき、さらに、これを育成することで本件発明1の「成熟期後のブリ属養殖魚」を獲得できるとしても、公知の人工種苗のブリ属養殖魚全てが、必ずしも所望のパラメータを有するブリ属養殖魚に育成されるとは考えられず。本件発明1には、他に飼育条件等の特定がないため、所望のパラメータを有するブリ属養殖魚を獲得できない態様を包含する。 (申立書47頁下から7行~最下行) c 本件明細書の[0081]~[0091]には、実施例として、特定の条件下でブリ属養殖魚を育成して、本件発明1のブリ属養殖魚を獲得できたことが一応記載されている。また、本件明細書には、以下の(i)~(vi)の記載があり、当業者は、上記(i)~(vi)のすべての条件を満たせば、本件発明1のブリ属養殖魚を獲得できる可能性があることは一応理解できる。 (i)ブリ属魚類の飼育環境下の水温は、ブリ属魚類の成育効率の観点から15℃~28℃に調整することが好ましい。(段落[0059]) (ii)飼育工程では、28℃を超える高水温の時期を含んでもよい。(段落[0059]) (iii)前記成育における飼育中に、形態異常及び/又は成長不良の個体の除去を行い、ブリ属魚類の個体を選抜することを含んでもよい。(段落[0060]) (iv)個体管理の容易性及び低GSIブリ属養殖魚の獲得効率の観点から、少なくとも5ヶ月間の水面下10m~18mでの海中養殖を含むことが好ましい。海中養殖は、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、又は少なくとも8ヶ月にわたって行うことができる。(段落[0063]) (v)ブリ属養殖魚用飼料としては、飼料100重量部に対して0.1重量都~0.3重量部のトウガラシを含む飼料を用いることができる。(段落[0065])。 (vi)飼育工程では、飼料の量及び組成等において制限を設けることなく、飽食給餌を行うことが好ましい。(段落[0067])。 しかし、上記記載はすべて、「好ましい」、「含んでもよい」、「~ことができる」と、任意の条件として記載されており、当業者は、どの条件を満たせば本件発明1の「成熟期のブリ属養殖魚」及び「成熟期後のブリ属養殖魚」を獲得できるか理解できず、所望のブリ属養殖魚の獲得のためには、過度の試行錯誤が要求される。 (申立書48頁1行~49頁1行) (イ)本件発明2についても、具体的な課題解決手段を示すものではなく、本件発明3ないし7についても、本件発明1同様、所望のブリ属魚類が獲得できることが獲得できるか、明確に理解できない。本件発明1ないし7を引用する本件発明14も、同様に、実施可能要件を満たさない。 (申立書49頁11~14行) (ウ)本件発明8について、本件発明8は、達成すべき結果によって、物である「ブリ属養殖魚」を特定しようとする記載を含んでいる。本件明細書の【0081】~【0091】には、実施例として、人工種苗から特定の条件下でブリ属養殖魚を育成して、本件発明8に記載のブリ属養殖魚を一応獲得できたことが記載されている。また本件明細書には、上記(ア)の(i)~(vi)に記載した飼育に関する記載があり、本件明細書の実施例を参照すれば、当業者は、本件発明8のブリ属養殖魚の獲得できる可能性があることは理解できる。しかし、上記ブリ属魚類の飼育に関する記載はすべて、任意の条件として記載されており、また、本件発明8には育成条件を特定する記載がないことから、本件発明8は、上記(ア)に記載された条件で育成されたブリ属養殖魚をも包含するが、このような任意の条件で育成することで、必ず所望のブリ属養殖魚を獲得できるとは考えられない。したがって、本件特許発明8は、本件明細書に記載された特定の条件以外では実現することができない発明であるため、本件特許発明8は実施可能要件を満たさない。本件発明9も、本件発明8と同様に、実施可能要件を満たさない。 (申立書51頁下から7行~52頁17行) (エ)本件発明10は、達成すべき課題によって物を特定しようとする記載を含んでおり、本件発明8と同様に、実施可能要件を満たさない。本件発明11ないし13は、本件発明8~10に特徴を有するものであり、同様に実施可能要件を満たさない。 (申立書53頁3~7行) イ 判断 (ア)検討の観点 一般に「方法の発明における発明の実施とは,その方法の使用をすることをいい(特許法2条3項2号),物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(同項1号),方法の発明については,明細書にその方法を使用できるような記載が,物の発明については,その物を製造する方法についての具体的な記載が,それぞれ必要があるが,そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその方法を使用し,又はその物を製造することができるのであれば,上記の実施可能要件を満たすということができる。」とされている〔平成22年(行ケ)10348号判決参照。〕。 以下、この観点に立って検討する。 (イ)本件明細書の記載 a 本件明細書には、以下の記載がある。 (a)「【技術分野】 【0001】 本開示は、ブリ属養殖魚の飼育方法及びブリ属養殖魚に関する。 【背景技術】 【0002】 ブリは一般に冬が旬の魚類として知られている魚類であり、天然資源の維持、品質管理などの観点から、天然ブリだけでなく、養殖ブリも流通している。 一般にブリは、成熟して産卵期を迎えると、その前後において栄養分を卵に取られ、痩せが生じることが知られている。このため、天然ブリの場合2~4月の産卵期又はその後、養殖ブリの場合には5~6月の産卵期又はその後に、多くの場合、成長の停滞などが生じたり、脂ののりが悪くなって、商品価値が下がる。このために、ブリ養殖魚における成長の停滞、痩せ等の影響を低減させる技術が種々検討されている。 【0003】 特許文献1には、生殖器官の成熟と産卵、放精の器官に起因している魚の成長の停滞ないし減退がなく、定常的に魚が成熟し、出荷を停滞させることのない養殖方法が提供されている。具体的には、遅くとも10月から翌年の5月までの期間、一定の照度の電灯を夕方から翌朝までの間照射しながら、ハマチ等を飼育する養殖方法が開示されている。この方法によれば、魚の生殖器官の成長が殆ど抑えられ、産卵と精子の水中への放出が起こらず、この期間にも魚が成長を持続すると記載されている。 【0004】 特許文献2では、1kgあたりのビタミンE含有量が90mg以下であり、コエンザイムQ10、セサミノール、αリボ酸及びアスタキサンチンからなる群より選択される少なくとも1つの抗酸化物質を含有する魚類用飼料が記載されており、この魚類用飼料を用いることによって、生殖活動に起因する魚の成長の停滞等を抑制することができると記載されている。 【0005】 また、非特許文献1には、冬から春にかけて、繁殖期の直前まで飼料の摂取を制限することによって、非制限群と比較して体重が上昇し、また、繁殖期のブリにおいて生殖腺の発達が抑制されることが開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特開2003-333953号公報 【特許文献2】特開2013-188207号公報 【非特許文献】 【0007】 【非特許文献1】Aquaculture, 424-425 (2014) 10-17 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 しかしながら、ブリとしての商品価値は大きさに依存するところがあり、生殖器官の成熟期の前に体重が抑えられた場合又は、生殖器官の成熟後に大きく痩せて体重が3kg程度となった場合などでは、商品価値としては充分とは言えない。 また、養殖魚としての良好な形質を維持して継続的な養殖を目的とする場合には、生殖器官の成熟は欠かせないため、生殖器官の成熟を完全に抑制された養殖魚では、養殖の持続性が失われる。 【0009】 従って、本開示の目的は、生殖器官の成熟期後に痩せにくく、かつ持続性に優れたブリ属養殖魚を得ることにある。」 (b)「【発明を実施するための形態】 【0012】 本開示の一態様に係るブリ属養殖魚の飼育方法は、調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること、生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上10.0%以下の雄個体、又は、GSIが0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること、得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ることを含む飼育方法である。 【0013】 本開示の他の一態様に係るブリ属養殖魚は、上記の態様に係るブリ属養殖魚の飼育方法により得られたブリ属養殖魚である。 また本開示の他の一態様に係るブリ属養殖魚は、生殖器官成熟期において、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が雄の場合で0.5%以上10.0%以下、雌の場合で0.5%以上4.5%以下であり、生殖器官成熟期後において、肥満度17以上及び体重が3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期の数値よりも低い、ブリ属養殖魚である。 【0014】 本開示の一態様における上記ブリ属養殖魚の飼育方法によれば、生殖器官の成熟期後に痩せにくく、かつ持続性に優れたブリ属養殖魚を得ることができる。 【0015】 これをさらに説明すれば、本開示のブリ属養殖魚の飼育方法では、人工的な採卵を経て得られたブリ属魚類の仔魚からブリ属魚類を成育させて、生殖器官成熟期に、体重3.5kg以上及び肥満度18以上であって、所定のGSIを有する成熟期ブリ属養殖魚が得られる。このような体重3.5kg以上及び肥満度18以上であって所定のGSIを示す成熟期ブリ属養殖魚から、GSIは下がるものの、体重3.5kg以上を維持し、肥満度が17以上のブリ属養殖魚を得ることができる。このような体重3.5kg以上及び肥満度17以上のブリ属養殖魚は、生殖器官の成熟期後であっても充分な商品価値を有するものであり、いわゆる「成熟期間後に痩せた個体」には相当しない。 したがって、本開示のブリ属養殖魚の飼育方法によれば、生殖器官の成熟期後であっても、「成熟期間後に痩せた個体」ではない体重3.5kg以上及び肥満度17以上のブリ属養殖魚を得ることができる。 【0016】 本開示の一態様に係るブリ属養殖魚は、生殖器官成熟期後においてGSIが生殖器官の成熟期よりも下がったとしても、生殖器官成熟期において、3.5kg以上の体重及び18以上の肥満度と低すぎない範囲のGSIとを有し、生殖器官成熟期後においても体重が3.5kg以上及び肥満度17以上を有している。 したがって、生殖器官成熟期において機能的な精子又は卵を提供でき、養殖の持続性に優れ、生殖器官成熟期後で、充分に高い肥満度と体重3.5kg以上の個体であるため、栄養価が高く、可食部の割合も充分に高いので、商品価値が高いという利点も有する。 【0017】 本開示の他の態様に係るブリ属養殖魚は、生殖器官成熟期の個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上であり、生殖腺体指数(GSI)が雄の場合で0.5%以上10.0%以下、雌の場合で0.5%以上4.5%以下であるブリ属養殖魚である。 本開示の他の態様に係る生殖器官成熟期のブリ属養殖魚は、高い肥満度と充分な体重を有すると共に、天然ブリと比較してGSIが低すぎない個体である。この生殖器官成熟期のブリ属養殖魚は、上述した態様に係る生殖器官成熟期後のブリ属養殖魚を、効率よく提供することができる。 【0018】 本開示の他の態様に係る生殖期ブリ属養殖魚の飼育方法は、調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して、ブリ属魚類の仔魚を得ること、得られたブリ属魚類の仔魚から飼育を開始し、ブリ属魚類に成育させること、生殖器官成熟期に、GSIが0.5%以上10.0%以下の雄個体、又は、GSIが0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること、を含む成熟期ブリ属養殖魚の飼育方法である。 本態様に係る生殖期ブリ属養殖魚の飼育方法によれば、上述した有用な生殖器官成熟期のブリ属養殖魚を提供することができる。 ・・・ 【0022】 ブリ属養殖魚であるブリ属(Seriola Cuvier)としては、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi Valenciennes)、ブリ(Seriola quinqueradiata)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana Valenciennes)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、Seriola hippos Gunther、Seriola peruana Steindachner、及びSeriola zonataを挙げることができる。低GSIブリ属養殖魚としては、ブリ、ヒラマサ、カンパチ、又はヒレナガカンパチであることができ、特にブリであることができる。」 (c)「【0045】 低GSIブリ属養殖魚の尾叉長は、雄雌共に、50cm以上、55cm以上、57cm以上、又は60cm以上の尾叉長を有することができる。50cm以上の尾叉長を有する低GSIブリ属養殖魚は、天然魚と比較して肥満度が高くなる傾向が強く、可食部をより多く提供することができる。尾叉長とは、魚の頭部先端部から尾びれ中央の端部までの距離をいい、当業者には周知の外部形態の指標である。尾叉長の測定は、魚の頭部先端部から尾びれ中央の端部までの平面視直線距離を測定する。低GSIブリ属養殖魚の尾叉長の上限値については、特に制限はなく、例えば200cm以下とすることができる。 ・・・ 【0053】 本開示に係る低GSIブリ属養殖魚は、養殖に用いる配合飼料の組成、日長条件、水温条件、養殖期間、給餌量、体重等を管理又は調整することによって、所定の範囲のGSIを調整することによって得ることができる。生殖腺の成熟を調整可能な方法としては、例えば、特開2013-188207号公報、特開2013-188207号公報、特表2015-510878号公報に記載された方法を挙げることができる。なかでも、生殖腺の成熟を調整可能な配合飼料の組成、生殖腺の成熟を調整可能な日長条件及び水温条件に基づいて、生殖腺の成熟を調整する方法を適用することが、外来物質の導入が少ない点で好ましい。 本開示に係るブリ属養殖魚は、本明細書に記載のブリ属養殖魚の飼育方法により得られたものであることできる。」 (d)「【0054】 <ブリ属養殖魚の飼育方法> 本開示に係る低GSIブリ属養殖魚の飼育方法は、調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること、(以下、「飼育工程」ということがある)、生殖器官成熟期に、GSIが0.5%以上10.0%以下の雄個体、又は、GSIが0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること(以下、「成熟期個体獲得工程」と称することがある)、得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、GSIが、生殖器官成熟期での数値よりも低いブリ属養殖魚を得ること(以下、「成熟期後個体獲得工程」と称することがある)を含み、必要に応じて他の工程を含む。 本飼育方法では、ブリ属養殖魚の飼育方法によれば、生殖器官の成熟期後に痩せにくく、かつ持続性に優れたブリ属養殖魚を得ることができる。 なお、「飼育方法」とは、本開示の低GSIブリ属養殖魚を生産するための方法として捉えることができ、「生産方法」、「作製方法」等のいずれの用語とも互換的に用いることができる。 また、「調節飼育」とは、日長条件及び水温条件を適宜調節しながら飼育することをいう。 【0055】 〔飼育工程〕 飼育工程においては、調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚が用いられる。 上記仔魚としては、調節飼育環境下で2か月間飼育されたブリ属魚類から、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を購入等の手段により入手したものを用いてもよいし、上記飼育工程を行う者が、上記調節飼育環境下における少なくとも2ヵ月間の飼育、及び、上記採卵よりなる群から選ばれた少なくとも一方を行うことにより入手したものを用いてもよい。 また、採卵された卵は、仔魚を得るために採卵後に受精処理に供されるが、上記飼育工程を行う者が上記受精処理を行ってもよいし、上記飼育工程を行う者は上記受精処理後に得られた仔魚を購入等の手段により入手して飼育工程における生育に用いてもよい。 調節飼育における日長条件とは、9時間~15時間の明期と、9時間~15時間の暗期とを適宜組み合わせることを意味する。例えば、短日条件では、明期10時間及び暗期14時間を30日間行い、長日条件では、明期14時間及び暗期10時間を60日間行うことができる。水温条件とは、15℃~30℃、又は16℃~28℃の範囲内で水温を調整することを意味する。 調節飼育における日長条件及び水温条件は飼育に併せて適宜調整することができる。例えば、天然環境下で、好ましい明暗サイクル、又は水温が達成できれば、その条件をそのまま適用すればよい。 【0056】 調節飼育環境下での飼育は、少なくとも2ヶ月、好ましくは3ヶ月以上、より好ましくは7ヶ月以上、行うことができる。日長条件及び水温条件を調整することにより、例えば、雌個体の生殖器官の成熟を促すことができ、これにより、天然ブリよりも少なくとも3ヶ月早期に採卵が可能となる。 【0057】 採卵は、人工的に行う。ここで「人工的」とは、採卵に際して、環境の調整、薬剤の投与等、外部から制御された環境下で産卵を誘導させることを意味する。その結果、例えば、天然ブリよりも早く採卵することができる。日本では、一年を通じてどの時期に採卵を行ってもよい。 採卵された卵は、その後、受精処理に供される。受精後の受精卵を、所定の環境下で保持することによってブリ属魚類の仔魚が得られる。ブリ属魚類の仔魚は、成育に供される。 【0058】 飼育工程では、ブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始してブリ属魚類を成育させる。ブリ属魚類の仔魚から飼育を開始してブリ属魚類を成育させるためには、ブリ属魚類の仔魚から成魚まで、成長段階に適した環境下で通常行う方法を用いて飼育すればよい。海面養殖に適した大きさに達したブリ属魚類は、海面での飼育をすることができる。ブリ属魚類の飼育は、一般にブリが成育する環境下で行えばよい。 本明細書において、「ブリ属魚類の仔魚」は、孵化後から尾叉長が5cm程度よりも小さい個体を意味し、それ以降の稚魚及び成魚をまとめて「ブリ属魚類」と称する。 【0059】 ブリ属魚類の飼育環境下の水温は、ブリ属魚類の成育効率の観点から15℃~28℃に調整することが好ましい。このとき、ブリ属魚類の仔魚の飼育開始時から、飼育環境下の水温を15℃~28℃の範囲内に調整することにより、より遅い時期から開始するよりも、ブリ属魚類の飼育段階の初期からブリ属魚類の成育速度を速めて、低GSIブリ属養殖魚を効率よく得ることができる。 飼育工程における水温の調整は、飼育段階に応じて変更することができる。例えば、ブリ属魚類の仔魚の飼育には、18℃~22℃に調整し、仔魚が成長してブリ属魚類となってから15℃~28℃に調整することができる。水温の調整には、加水、加温、周囲温度の調整、遮光、日照時間の調整、海面養殖場の選択、飼育魚の移槽等を挙げることができる。 飼育工程では、28℃を超える高水温の時期を含んでもよい。例えば30℃以上の高水温を成熟過程のブリ属魚類に経験させることは、適度なストレスを個体に負荷して成熟調整に有効であり得る。飼育工程において「高水温」となる水温は、例えば、29℃、30℃、又は31℃とすることができる。高水温の期間は、1日以上、2日以上、3日以上、又は5日以上とすることができる。高水温の期間は、連続した期間であってもよく、断続的であってもよい。 【0060】 飼育工程では、より効果的に目的とするブリ属養殖魚を得るために、前記成育における飼育中に、形態異常及び/又は成長不良の個体の除去を行い、ブリ属魚類の個体を選抜することを含んでもよい。形態異常及び/又は成長不良は、摂餌効率、摂餌率、体重、体長、尾叉長等を基準に判断することができる。体重、体長、尾叉長等を総称して、本明細書では単に「サイズ」と称する場合がある。形態異常としては、たとえば、頭部陥没、脊椎湾曲、短躯、顎部異常等を挙げることができる。形態異常又は成長不良による選抜率は、以下の式により評価することができる。 選抜率(%)=正常魚の個体数/(形態異常又は成長不良の個体数+正常魚の個体数)×100 【0061】 飼育工程では、個体の計量管理を行うことができる。個体の計量管理は、形態異常及び/又は成長不良に基づく個体選抜と併用して行ってもよい。計量管理は、ブリ属養殖魚のサイズを定期的に測定又は推定して、管理することを意味する。計量管理の方法としては、特に制限はなく、体重の測定、画像解析等を挙げることができる。例えば、1ヶ月毎に個体の重量を測りで測定することができる。この場合には、各個体の重量、すなわち体重を測定してもよく、数十匹まとめて測定し、平均を算出して、平均値で管理してもよい。また、画像解析手段としては、例えば、「AM-100」(AQ1 systems)を用いることができる。体重測定手段としては、例えば、「AM-100」(AQ1systems)を用いることができる。 【0062】 飼育工程におけるブリ属魚類の飼育期間は、3.5kg以上の体重を有する成熟期の個体が得られるまで継続することができ、12ヶ月以上であればよく、15ヶ月以上、18ヶ月以上、20ヶ月以上、又は22ヶ月以上とすることができる。飼育工程は、後述する成熟期後個体獲得工程まで継続することができる。 【0063】 飼育工程における飼育は、海洋で行ってもよく、陸上で行ってもよい。個体管理の容易性及び低GSIブリ属養殖魚の獲得効率の観点から、少なくとも5ヶ月間の水面下10m~18mでの海中養殖を含むことが好ましい。このような海中養殖は、沈下式とも称されるものであり、水温の安定性に優れ、また波などの影響を受けにくい飼育環境を提供しやすい。海中養殖は、少なくとも5ヶ月、少なくとも6ヶ月、又は少なくとも8ヶ月にわたって行うことができる。海中養殖の期間の上限には、特に制限はなく、飼育期間に応じて適宜設定できる。 【0064】 海中養殖を行う水面下10m~18mは、15℃~28℃の範囲で水温が一定になっていることが多く、環境の安定性の観点から好ましい。ただし、海中養殖を行う水面下の位置は、10mよりも浅い位置又は18mよりも深い位置であってもよい。給餌の際には、海中養殖の位置を、海中から海面に引き上げることができる。また、通常は浅い位置ほど水温が高く、深い位置ほど水温が低い。このことを利用し、海面養殖を行う位置により水温を調整することもできる。また、上述した高水温による飼育を、海中養殖を行う際に適用してもよい。この場合には、たとえば、より高水温になりやすい海面近くに飼育位置を移動させることによって、簡便に高水温の飼育環境を提供し、より効率よく成熟調整を行うことができる。 本開示において、養殖に用いられる生簀の上限が海面以上の位置にある場合を海面養殖といい、生簀の上限が海面よりも下の位置にある場合を海中養殖という。 【0065】 飼育工程で使用される飼料としては、特に制限はなく、ブリ属養殖魚に対して通常用いられるものを制限なく使用することができる。ブリ属養殖魚用飼料としては、飼料100重量部に対して0.1重量部~0.3重量部のトウガラシを含む飼料を用いることができる。以下、この飼料を「トウガラシ含有飼料」と称する。トウガラシは、ブリ属養殖魚における血合筋色調改善又は保持効果があることが知られており(例えば、特開2009-232864号公報)、低GSIブリ属養殖魚を得ることにも有効である。トウガラシ含有飼料におけるトウガラシは、トウガラシ成分又はトウガラシ粉末とすることができる。 【0066】 トウガラシ含有飼料としては、トウガラシ以外にも、チョウジ油を含むことができる。チョウジ油の配合量としては、飼料100重量部に対して0.1重量部~0.25重量部とすることができる。 トウガラシ含有飼料による給餌の期間については特に制限はなく、例えば少なくとも1ヶ月間、少なくとも2ヶ月間、又は少なくとも3ヶ月間、給餌することができる。 【0067】 飼育工程におけるブリ属魚類に対する給餌は、低GSIブリ属養殖魚を効率よく得る観点から、飼育期間において制限なく行うことが好ましい。すなわち、飼育工程では、飼料の量及び組成等において制限を設けることなく、飽食給餌を行うことが好ましい。飽食給餌とは、水面上で餌を要求する個体が観察されなくなるまで給餌を行うことをいう。低GSIブリ属養殖魚をより効率よく得る観点から、高度飽食給餌することが好ましい。高度飽食給餌とは、水中カメラによる観察を行いながら、摂餌が見られなくなるまで給餌をすることをいう。これにより、水面では確認できない水中での摂餌行動も加味し、より多くの個体、好ましくは飼育下にある全ての個体での飽食を達成することができる。高度飽食給餌を行うことにより、飼育工程におけるブリ属魚類の成育速度が速く、より確実に、成熟期低GSIブリ属養殖魚を得ることができる。 【0068】 飼育工程では、形態異常及び成長不良からなる群より選択される少なくとも一方の発育不良を有する個体を除去することが好ましい。このような発育不良を有する個体を除去することで、生殖腺の成長状態よりも良好な成育状態の個体を選抜して、より効率的に低GSIブリ属養殖魚を得ることができる。形態異常を有する個体とは、頭部陥没、脊椎湾曲、短躯、顎部異常等が見られる個体であり、観察により明らかに外見上の異常があると確認できる個体をいう。成長不良を有する個体とは、観察により明らかに、同時期の成育状態よりも劣ることが確認できる個体をいう。形態異常の個体は成長に制限がかかることから、全体重という観点から成長不良を引き起こしやすい。形態異常が生殖腺の成長を止めない場合には、形態異常の個体を除去することによって、GSIが高い成長不良の個体を排除できる。 【0069】 〔成熟期個体獲得工程〕 成熟期個体獲得工程では、生殖器官成熟期に、GSIが0.5%以上10.0%以下の雄個体、又は、GSIが0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚が得られる。 ここで得られる成熟期ブリ属養殖魚は、3.5kg以上の体重及び18以上の肥満度を有する成熟期個体であると共に、成熟期個体の天然又は他の養殖魚よりも低いGSIを有する。このような成熟期ブリ属養殖魚を得ることによって、後続の成熟期後個体獲得工程における成熟後低GSIブリ属養殖魚を得ることができる。 成熟期個体獲得工程では、目的とするGSI、体重及び肥満度を有する個体を、サイズの測定、血中ホルモン濃度の測定等を行うことによって選抜することができる。サイズの測定には、計量管理に関して既述した方法を適用することができる。血中ホルモンとしては、11-KT、DHP、E2等を挙げることができる。11-KT、DHP及びE2の測定は、上述した方法を適用することができる。 【0070】 成熟期ブリ属養殖魚の肥満度は、比較的高いものであり、好ましくは、19以上、20以上、又は21以上であってもよい。成熟期ブリ属養殖魚における肥満度の上限値は特に制限はなく、例えば28以下、又は27以下とすることができる 成熟期ブリ属養殖魚について、上述した事項をそのまま適用することができる。 成熟期個体獲得工程までを含む飼育方法によって、成熟期ブリ属養殖魚を得ることができる。ここで得られた成熟期ブリ属養殖魚の生殖器官は充分に成熟しているため、この個体から卵又は精子を得ることができる。ここで得られた成熟期ブリ属養殖魚からの卵又は精子は、有用な形質を有するブリ属養仔魚を得るための種苗として使用することができる。すなわち、本開示に係るブリ属養殖魚の飼育方法は養殖の持続性に優れるといえる。また成熟期ブリ属養殖魚は、次の成熟期後個体獲得工程へ供給されてもよい。 【0071】 〔成熟期後個体獲得工程〕 成熟期後個体獲得工程では、得られた成熟期ブリ属養殖魚から、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、GSIが、生殖器官成熟期での数値よりも低いブリ属養殖魚、すなわち成熟期後ブリ属養殖魚が得られる。成熟期後のブリ属養殖魚については、成熟期後低GSIブリ属養殖魚に関して上述した事項をそのまま適用することができる。 得られた成熟期後ブリ属養殖魚は、体重3.5kg未満又は肥満度17未満まで痩せることが回避されたブリ属養殖魚であり、このような有用な形質を次世代に継続させることができる。 目的とするGSI、体重及び肥満度を有する個体は、成熟期ブリ属養殖魚と同様に、サイズ、血中ホルモン濃度等の値によって選抜することができ、または水揚げして生殖器官の重量を計測することによって選抜することもできる。」 (e)「【実施例】 【0080】 以下、本開示を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」又は「%」は質量基準である。 【0081】 [実施例1] ブリの仔魚を、天然環境下で24ヶ月間飼育し、その後、29ヶ月目から、日長条件及び水温を調整して飼育を開始した。給餌は、通常1日1回飽食給餌、冬季2日1回飽食給餌とした。日長条件としては、短日条件と長日条件を採用した。その他、飼育条件は特開2007-300837号公報に記載の条件に準じて調整した。 【0082】 ホルモン剤を注射して産卵を誘発させて、雌個体から採卵した。雄個体からは精子を採取して、受精させ、ブリの仔魚を得た。仔魚について、18℃~20℃の水温で、陸上にて飼育を開始した。稚魚に成育した3か月目から、海面に設置された生け簀で飼育した。上記稚魚を水面下10m~18mに沈下させて海中養殖を開始した。稚魚期には15℃~22℃の水温になるように調整した。成魚期には15℃~28℃の水温になるように調整し、また、飼育期間では、生育中の個体の体重が500g~1kg程度となる期間において少なくとも30℃になる日を連続して2日以上設けて、成育中の個体に高水温を経験させた。 【0083】 給餌は、通常1日1回高度飽食給餌、冬季2日1回高度飽食給餌とし、一年を通じて高度飽食給餌とし、給餌制限は行わなかった。ただしこのときの高度飽食給餌は通常の水面観察による高度飽食給餌ではなく、カメラにより水中の摂餌行動を観察して得られた最適な高度飽食給餌方法に基づく。海面養殖の期間では、水面下10m~18mに沈下させて飼育されている稚魚又は成魚を、給餌の度に海面まで引き上げた。飼料には、市販のEP(エクストルーデッドペレット)に、飼料100重量部に対して0.1重量部~0.3重量部のトウガラシ粉末を添加したものを用いた。 また、稚魚が2g~20gとなった際、陸上水槽より取り上げ、海面生け簀に移動した。上記操作を「沖出し」ともいう。飼育期間中沖出し後は、随時、体長、大きさ、形態等を確認し、1ヶ月おきに体重測定を行った。体重測定には、AM-100(AQ1 system)を使用した体重測定方法を採用した。これらの結果に基づいて、形態異常(頭部陥没、脊椎湾曲、短躯、顎部異常)がなく、成育速度が良好と思われる個体のみを飼育した。形態異常等での選抜率は50~95%だった。 【0084】 海中養殖を開始してから5ヶ月目以上となる生殖器官成熟期に、平均体重4.63kg、平均尾叉長61.03cm、平均肥満度20.35の雄と、平均体重4.66kg、平均尾叉長61.60cm、平均肥満度19.91の雌の2歳魚をそれぞれ得た。これらの2歳魚の生殖腺重量を測定して、GSIを算出し、また血中ホルモン濃度を以下のように測定した。 【0085】 血液は魚の心臓部から抜き取り、遠心分離後に上清部分を採取し、分析まで-80℃にて保管した。血液を抜き取る際には、ヘパリンナトリウム(濃度:5,000units/mL、和光純薬工業株式会社)にて処理したシリンジを用いた。 11-KTの量については、Testosterone, 11-Keto-, EIA Kit(Strip Plate)(Cayman Chemicals社)を使用して測定した。DHPの量については、Maturation-Inducing Steroid (salmonid) AChE Tracer、Maturation-Inducing Steroid (salmonid) EIA Antiserum、Precoated (Mouse Anti-Rabbit IgG) EIA 96well Strip Plate を使用して、Gen. Comp. Endocrinol. 106, 181-188に記載された方法に従って、時間分解蛍光免疫測定法(Time Resolved Fluoroimmunoassay:TR-FIA)により測定した。E2の量については、Estradiol, EIA Kit (Strip Plate)(Cayman Chemicals社)を使用して測定した。 結果を表1に示す。 【0086】 【表1】 [図:0001401629000010.jpg] 【0087】 表1に示されるように、低GSIでありながら、体重3.5kg以上且つ肥満度が18以上の成熟期のブリ養殖魚を得ることができた。 【0088】 これらの成熟期のブリ養殖魚は、産卵又は放精を行うことが可能であった。得られたブリ養殖魚を低GSI同士の個体で掛け合わせたところ、次世代のブリ仔魚を得ることができた。すなわち、本実施例において得られたブリ属養殖魚は、養殖の持続性に優れるといえる。 得られた成熟期のブリ養殖魚は、成熟期後となる2ヶ月後の6月に、体重3.5kg以上及び肥満度17以上であって、雄個体及び雌個体とも0.5未満のGSIであることが確認できた。 【0089】 [実施例2] 実施例1と同様にして、早期採卵により得られた仔魚から飼育を行い、2歳魚の雌個体としての成熟期ブリ養殖魚と、成熟期から74日後の4月の雌個体としての成熟期後ブリ養殖魚を得た。これらの成熟期ブリ養殖魚と成熟期後ブリ養殖魚について、実施例1と同様にして体重、肥満度及びGSIを測定した。結果を表2に示す。 表2に示されるように、成熟期後であっても体重は3.5kg以上、肥満度17以上を有する個体であった。 【0090】 【表2】 [図:0001401629000011.jpg] 」 (ウ)本件発明1 a 「調節飼育環境下で、ブリ属魚類を少なくとも2ヶ月間飼育してから、人工的に採卵して得られたブリ属魚類の仔魚を用いて飼育を開始し、ブリ属魚類を成育させること」、については、本件明細書段落【0054】ないし【0068】に記載されている。 b (a)「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること」については、段落【0053】に「本開示に係る低GSIブリ属養殖魚は、養殖に用いる配合飼料の組成、日長条件、水温条件、養殖期間、給餌量、体重等を管理又は調整することによって、所定の範囲のGSIを調整することによって得ることができる。生殖腺の成熟を調整可能な方法としては、例えば、特開2013-188207号公報、特開2013-188207号公報、特表2015-510878号公報に記載された方法を挙げることができる。なかでも、生殖腺の成熟を調整可能な配合飼料の組成、生殖腺の成熟を調整可能な日長条件及び水温条件に基づいて、生殖腺の成熟を調整する方法を適用することが、外来物質の導入が少ない点で好ましい。」と記載され、段落【0069】には「成熟期個体獲得工程では、目的とするGSI、体重及び肥満度を有する個体を、サイズの測定、血中ホルモン濃度の測定等を行うことによって選抜することができる。サイズの測定には、計量管理に関して既述した方法を適用することができる。血中ホルモンとしては、11-KT、DHP、E2等を挙げることができる。11-KT、DHP及びE2の測定は、上述した方法を適用することができる。」と記載されており、生殖器官成熟期までに公知の技術によって生殖腺の成熟を調整した雌ブリのうち、生殖器官成熟期において、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の個体をサイズの測定、血中ホルモン濃度の測定等を行うことによって選抜することによって行うことができるから、本件の発明の詳細な説明に実施可能に記載されているといえる。 (b)申立人は、魚のGSIは個体を屠殺しなければ計測不能であるため、育成継続のための個体の選別工程ではあり得ない旨主張する。しかし、本件明細書には、生殖腺体指数(GSI)と11-KT、DHP、E2等の生殖ホルモンの血中濃度に、ある程度の相関が認められるデータが示される(段落【0086】表1)とともに、個体の選抜を「血中ホルモン濃度の測定等を行うことによって選抜することによって行うことができる」(段落【0069】)ことが示されている。また、GSIを得るための生殖腺重量を、周知の非破壊検査によって行うことも可能であり、魚のGSIは個体を屠殺しなければ計測不能であるとまではいえない。 c 「得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、GSIが、生殖器官成熟期での数値よりも低いブリ属養殖魚を得ること」については、段落【0071】に「目的とするGSI、体重及び肥満度を有する個体は、成熟期ブリ属養殖魚と同様に、サイズ、血中ホルモン濃度等の値によって選抜することができ、または水揚げして生殖器官の重量を計測することによって選抜することもできる」と記載されており、本件の発明の詳細な説明に実施可能に記載されている。 d (a)申立人は、また、飼育工程においてどの条件を満たせば、本件発明1のブリ属養殖魚を獲得できるか理解できず、所望のブリ属養殖魚の獲得のためには、過度の試行錯誤が要求される旨主張する。 (b)しかし、上記bにおいて検討したとおり、公知の技術によって生殖腺の成熟を調整可能であり、所望の体重、肥満度と生殖腺体指数を有した雌ブリは、多数のブリを飼育する中で一定数成育させられるものと認められるところ、上記b及びcにおいて検討したとおり、雌ブリのうち、生殖器官成熟期において、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の個体をサイズの測定、血中ホルモン濃度の測定等を行うことによって選抜し、得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、GSIが、生殖器官成熟期での数値よりも低いブリ属養殖魚を選抜することによって得られると認められるから、本件発明1は、過度の試行錯誤が要求されるとはいえず、申立人の上記主張は採用できない。 e 以上のとおりであるから、本件の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確に記載されている。 (エ)本件発明2 本件の発明の詳細な説明は、実施例2(段落【0089】【0090】)において、GSIが1%以下である0.22%のブリ養殖魚が得られたことを示しており、本件の発明の詳細な説明は、本件発明2について当業者が実施可能な程度に明確に記載されている。 (オ)本件発明3~7 本件発明3について、本件明細書の段落【0059】に「ブリ属魚類の飼育環境下の水温は、ブリ属魚類の成育効率の観点から15℃~28℃に調整することが好ましい。このとき、ブリ属魚類の仔魚の飼育開始時から、飼育環境下の水温を15℃~28℃の範囲内に調整することにより、より遅い時期から開始するよりも、ブリ属魚類の飼育段階の初期からブリ属魚類の成育速度を速めて、低GSIブリ属養殖魚を効率よく得ることができる。」と記載され、本件発明4について、本件明細書の段落【0060】に「飼育工程では、より効果的に目的とするブリ属養殖魚を得るために、前記成育における飼育中に、形態異常及び/又は成長不良の個体の除去を行い、ブリ属魚類の個体を選抜することを含んでもよい。」と記載され、本件発明5について、段落【0062】に「飼育工程におけるブリ属魚類の飼育期間は、・・・15ヶ月以上とすることができる。」ことが記載され、段落【0063】に「・・・個体管理の容易性及び低GSIブリ属養殖魚の獲得効率の観点から、少なくとも5ヶ月間の水面下10m~18mでの海中養殖を含むことが好ましい。」と記載され、本件発明6について、段落【0061】に「飼育工程では、個体の計量管理を行うことができる。」と記載され、本件発明7について、段落【0065】に「ブリ属養殖魚用飼料としては、飼料100重量部に対して0.1重量部~0.3重量部のトウガラシを含む飼料を用いることができる。」と記載され、段落【0066】に「トウガラシ含有飼料による給餌の期間については特に制限はなく、例えば少なくとも1ヶ月間、・・・給餌することができる。」と記載されている。 よって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明3~7について当業者が実施可能な程度に明確に記載されている。 (カ)本件発明8~11、14 上記(ウ)及び(エ)における検討を踏まえると、本件発明8~11、14のブリ属養殖魚を飼育(製造)する方法が、本件の発明の詳細な説明に記載されているといえるから、本件の発明の詳細な説明は、本件発明8~11、14について当業者が実施可能な程度に明確に記載されている。 (キ)本件発明12、13 本件発明12について、本件明細書の段落【0045】に「低GSIブリ属養殖魚の尾叉長は、雄雌共に、50cm以上の尾叉長を有することができる。」と記載され、本件発明13について、本件明細書の段落【0022】に「低GSIブリ属養殖魚としては、ブリ、ヒラマサ、カンパチ、又はヒレナガカンパチであることができ、」と記載されている。 よって、本件の発明の詳細な説明は、本件発明12、13について当業者が実施可能な程度に明確に記載されている。 ウ 小括 本件の発明の詳細な説明は、本件発明1~14について当業者が実施可能な程度に明確に記載されている。 (5)サポート要件について ア 申立人の主張 申立人は、概略以下の主張をする。 (ア)本件発明1について、 本件発明1の、「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること」及び「得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ること」との発明特定事項は、本件特許発明の解決すべき課題そのものを表示したものであり、具体的な解決手段を提示するものではない。 本件明細書には、人工種苗のブリ属養殖魚を、上記(4)ア(ア)に記載した(i)~(vi)をすべて満たす条件下で育成することで、本件発明1のブリ属養殖魚を獲得できる、すなわち、課題を解決できる可能性があることを、当業者は一応理解可能と考えられる。この範囲が、本件明細書で「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」に相当すると解される。しかしながら、本件発明1では、上記(i)~(vi)の条件が何ら特定されていないため、本件発明1の技術的範囲には、これらの条件を満たさないブリ属養殖魚の飼育方法も包含される。したがつて、本件発明1は、明細書に発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える事項を包含するため、サポート要件を満たさない。 (申立書53頁下から4行~54頁9行) (イ)本件発明2ないし7についても、上記(i)~(vi)の条件が特定されていないか、一部のみが特定されており、明細書に発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える事項を包含するため、サポート要件を満たさない。 (申立書54頁11行~55頁最下行) イ 判断 (ア)検討の観点 一般に「特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」とされている。(平成17年(行ケ)10042号判決参照。) 以下、この観点に立って検討する。 (イ)検討 上記(4)において、本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明1~14について実施可能に記載されていることについて検討したが、上記(4)の検討からも明らかなように、本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載されている。 上記(4)イ(イ)a(a)より、本件発明の課題は、生殖器官の成熟期後に痩せにくく、かつ持続性に優れたブリ属養殖魚を得ることと認められる。 そして、生殖器官の成熟を抑制しないと産卵期の後に成長の停滞などが生じたり、脂ののりが悪くなって商品価値が下がるが、生殖器官の成熟を抑制し過ぎると養殖の持続性が失われる(本件明細書段落【0002】)ところ、本件発明1~7は、「ブリ属養殖魚の飼育方法」が「生殖器官成熟期に、生殖腺体指数(GSI)が0.5%以上4.5%以下の雌個体であって、肥満度18以上及び体重3.5kg以上の成熟期ブリ属養殖魚を得ること、得られた成熟期ブリ属養殖魚から、生殖器官成熟期後に、肥満度17以上及び体重3.5kg以上であって、生殖腺体指数(GSI)が、生殖器官成熟期での数値よりも低い、ブリ属養殖魚を得ることを含む」ことにより、生殖器官の成熟期後に痩せにくく、かつ持続性に優れたブリ属養殖魚を得るとの課題を解決したものと認識できる。 そうすると、本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 ウ 小括 本件発明1~7は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 第8 むすび 以上のとおり、本件発明1ないし14に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件発明1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2022-700566

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