審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2023-701115

心筋細胞の成熟

審判番号
2023-701115
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-511378
登録番号
7262385
請求日
2023年10月18日
審決日
2024年06月25日
公報発行日
2024年10月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ザ・カウンシル・オブ・ザ・クィーンズランド・インスティテュート・オブ・メディカル・リサーチ
  • 【権利者代理人】村山 靖彦
  • 【権利者代理人】実広 信哉
  • 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
審判長/審判官
  • 審判長 福井 悟
  • 審判官 名和 大輔
  • 審判官 高堀 栄二
分類
P1651.111-YAA(C12N) / P1651.121-YAA(C12N) / P1651.536-YAA(C12N) / P1651.537-YAA(C12N)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7262385号発明「心筋細胞の成熟」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7262385号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-30〕について訂正することを認める。 特許第7262385号の請求項1ないし30に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7262385号の請求項1~30に係る特許についての出願は、平成29年8月25日(パリ条約による優先権主張 平成28年8月26日)に出願され、令和5年4月13日に特許の設定登録がされ、同年4月21日に特許掲載公報が発行された。その特許に対し、令和5年10月18日に特許異議申立人山崎(当審注:「崎」は正しくは異字体のいわゆるたつざき)浩一郎(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 それ以降の手続の経緯は以下のとおりである。 令和5年12月19日付け 取消理由通知書 令和6年 3月21日 意見書・訂正請求書(特許権者) 同年 4月18日付け 通知書(申立人宛) 同年 5月21日 意見書(申立人) 第2 訂正の適否についての判断 令和6年3月21日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「インスリンを含まないか、または最小限のインスリンを含み、前記最小限のインスリンの濃度は、インスリンの完全な非存在下で見られる活性化よりも、5~10%を超えずに上回る心筋細胞の増殖及び/又はWnt/β-カテニンの活性化を刺激する濃度である、心臓細胞成熟培地。」を、「インスリンを含まない、心臓細胞成熟培地。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~30も同様に訂正する。)。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項2~30は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1~30は、一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「インスリンを含まないか、または最小限のインスリンを含み、前記最小限のインスリンの濃度は、インスリンの完全な非存在下で見られる活性化よりも、5~10%を超えずに上回る心筋細胞の増殖及び/又はWnt/β-カテニンの活性化を刺激する濃度である、心臓細胞成熟培地。」について、「インスリンを含まない、心臓細胞成熟培地。」に限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 4 独立特許要件 本件特許異議の申立てがされている請求項1~30については、独立特許要件の検討を要しない。 5 まとめ 以上のとおり、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 本件訂正発明 本件訂正請求により訂正された請求項1~30に係る発明(以下、項番に従い、「本件訂正発明1」などといい、これらを総称して、「本件訂正発明」ということがある。また、本件特許の設定登録時の請求項1~30に係る発明を、項番に従い、「本件訂正前発明1」などといい、これらを総称して、「本件訂正前発明」ということがある。また、本件特許の設定登録時の明細書を「本件明細書」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~30に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 「【請求項1】 基礎培地、1つ又は複数の脂肪酸、グルコース及びアルブミンを含み、 前記1つ又は複数の脂肪酸は、パルミチン酸であるか、またはパルミチン酸を含み、 前記1つ又は複数の脂肪酸及びグルコースは、約1:5~1:60の濃度比で存在し、 インスリンを含まない、心臓細胞成熟培地。 【請求項2】 心筋細胞の成熟に適している、請求項1に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項3】 ゲル化培地を含む、請求項1に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項4】 1つ又は複数の細胞外マトリックス(ECM)分子又はこれらの成分を含む、請求項3に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項5】 (ECM)分子又はこれらの成分が、コラーゲンI及びMatrigel(商標)を含む、請求項4に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項6】 1つ又は複数の脂肪酸及びグルコースが、約1:10の濃度比で存在する、請求項1から5のいずれか一項に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項7】 グルコースが、約1mMの濃度である、請求項1から6のいずれか一項に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項8】 1つ又は複数の脂肪酸が、約100μMの濃度である、請求項1から7のいずれか一項に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項9】 TGFを含まないか、又は2ng/mL未満のTGFを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項10】 無血清培地である、請求項1から9のいずれか一項に記載の心臓細胞成熟培地。 【請求項11】 (i)各々が、ウェルの基底面から、実質的に垂直に伸びる対向ポールを含む、複数のウェルを含む、心臓細胞培養容器と; (ii)請求項1から10のいずれか一項に記載の心臓細胞成熟培地 を含む、心臓細胞培養システム。 【請求項12】 ウェル内の筋束により引き起こされる対向ポールの変位が、収縮力の測定を容易とする、請求項11に記載の心臓細胞培養システム。 【請求項13】 対向ポールが、矩形の断面を有する、請求項12に記載の心臓細胞培養システム。 【請求項14】 ウェルが、卵形を有する、請求項11、請求項12、又は請求項13に記載の心臓細胞培養システム。 【請求項15】 約3mmの長軸と、約2mmの短軸とを有するウェル;各々の矩形の断面が、約0.2mm×約0.5mmの大きさを有する対向ポール;及び/又はウェルの長軸に沿って、それぞれのポールの中心から、約1.0mm離れて対称的に隔てられた対向ポールを含む、少なくとも1つの大きさを含む、請求項11から14のいずれか一項に記載の心臓細胞培養システム。 【請求項16】 心臓細胞培養容器が、各々がウェルの基底面から実質的に垂直に伸びる対向ポールを含む、複数のウェルを含む、請求項15に記載の心臓細胞培養システム。 【請求項17】 心臓動力計であるか、又はこの構成要素である、請求項16に記載の心臓細胞培養システム。 【請求項18】 心臓細胞を培養する方法であって、1つ又は複数の心筋細胞の成熟を誘導又は促進するのに十分な時間にわたり、これに適する条件下で、1つ又は複数の心筋細胞を、請求項11から17のいずれか一項に記載の細胞培養システム内の、請求項1から10のいずれか一項に記載の心臓細胞成熟培地と接触させる工程を含む方法。 【請求項19】 1つ又は複数の心筋細胞を、ECM成分又は分子及びアルブミンの存在下で最初にゲル化する、請求項18に記載の方法。 【請求項20】 グルコース及び1つ又は複数の脂肪酸を、その後、インスリンの非存在下で、ゲル化した心筋細胞へと添加する、請求項19に記載の方法。 【請求項21】 1つ又は複数の心筋細胞が、1つ又は複数の始原細胞から分化している、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。 【請求項22】 始原細胞が、ヒト胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞であるか、又はこれらを含む、請求項21に記載の方法。 【請求項23】 アスコルビン酸-2-リン酸塩、BMP-4、アクチビンA、FGF-2、及びCHIR99021等のGSK-3阻害剤のうちの1つ又は複数を使用して、始原細胞を培養する、請求項22に記載の方法。 【請求項24】 請求項18から23のいずれか一項に記載の方法により作製される、心臓細胞、オルガノイド、又は操作心臓組織。 【請求項25】 心臓細胞成熟をモジュレートする1つ又は複数の分子を同定する方法であって、1つ又は複数の心筋細胞を、請求項11から17のいずれか一項に記載の細胞培養システム内の、1つ又は複数の候補分子と接触させる工程を含み、1つ又は複数の心筋細胞の成熟の修飾が、候補分子が心臓細胞成熟のモジュレーターであることを指し示す方法。 【請求項26】 モジュレーターが、少なくとも部分的に、心臓細胞成熟を阻害又は抑制する、請求項25に記載の方法。 【請求項27】 モジュレーターが、少なくとも部分的に、心臓細胞成熟を増強又は促進する、請求項25に記載の方法。 【請求項28】 心臓細胞、組織、又はオルガノイドに対する1つ又は複数の分子の効果を決定、評価、又はモニタリングする方法であって、心臓細胞、オルガノイド、若しくは操作心臓組織を、請求項18から23のいずれか一項に記載の方法に従い作製し、心臓細胞、オルガノイド、若しくは操作心臓組織を、1つ若しくは複数の分子と接触させる工程;又は請求項24に記載の心臓細胞、オルガノイド、若しくは操作心臓組織を、1つ若しくは複数の分子と接触させる工程;及び心臓細胞、オルガノイド、又は操作心臓組織に対する1つ又は複数の分子の効果を決定、評価、又はモニタリングする工程を含む方法。 【請求項29】 1つ又は複数の分子の毒性又は安全性を決定する、請求項28に記載の方法。 【請求項30】 1つ又は複数の分子の治療有効性を決定する、請求項28に記載の方法。」 (以下、「本件発明1」、「本件発明2」等という。まとめて「本件発明」ということもある。) 第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由 1 異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。) (1)申立理由の概要 ア 申立理由1(新規性) 本件訂正前発明1、2、9、10は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するから、これら発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 イ 申立理由2(進歩性) 本件訂正前発明3~8は、甲第1、2号証(主引例 甲第1号証)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、これら発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 ウ 申立理由3(サポート要件) 本件明細書には、「パルミチン酸とパルミチン酸以外の脂肪酸」を用いて心筋細胞を成熟させた実施例がなく、例えば、脂肪酸がパルミチン酸とパルミチン酸以外の脂肪酸の割合がパルミチン酸1に対してパルミチン酸以外の脂肪酸9であるようなときはパルミチン酸濃度がグルコースに対してかなり小さくなるので、このような場合、特許権者が主張するようなパルミチン酸を含有することによる所望の心筋細胞成熟効果が得られるとは到底理解できない。 よって、本件訂正前発明1~30は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するので、これら発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 エ 申立理由4(明確性) 本件訂正前の請求項1の「前記最小限のインスリンの濃度は、インスリンの完全な非存在下で見られる活性化よりも、5~10%を超えずに上回る心筋細胞の増殖及び/又はWnt/β-カテニンの活性化を刺激する濃度である」の記載は、インスリンの増殖効果やWnt/β-カテニンの活性化効果の評価系が不明であるため、インスリン濃度の範囲が不明確である。 よって、本件訂正前発明1~30は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するので、これら発明に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立人が提出した証拠方法 ア 申立書に添付した証拠方法 甲第1号証:The FASEB Journal, Mar 2000, Vol.14, p.495-502 甲第2号証:米国出願公開2016/0201034号公報 (以下、「甲第1号証」、「甲第2号証」を、「甲1」、「甲2」という。) イ 令和6年5月21日提出の意見書に添付した証拠方法 甲第3号証:PLoS One, Aug 2011, Vol.6, Issue 8, e23657 甲第4号証:J. Mol. Cell Cardiol, Sep 2011, Vol.51, No.3, p.288-298 (以下、「甲第3号証」、「甲第4号証」を、「甲3」、「甲4」という。) 2 令和5年12月19日付け取消理由通知書に記載した取消理由 (1)取消理由1(明確性)、理由2(サポート要件)、理由3(実施可能要件)の概要 本件訂正前の請求項1には、心臓細胞成熟培地が「インスリンを含まないか、最小限のインスリンを含み、前記最小限のインスリンの濃度は、インスリンの完全な非存在下で見られる活性化よりも、5~10%を超えずに上回る心筋細胞の増殖及び/又はWnt/β-カテニンの活性化を刺激する濃度である」ことが記載されており、インスリンを含まない場合の他、「インスリンの完全な非存在下で見られる活性化よりも、5~10%を超えずに上回る心筋細胞の増殖及び/又はWnt/β-カテニンの活性化を刺激する濃度」(以下では、「最小限のインスリン濃度」という。)である範囲においてインスリンを含む場合を包含している。 ここで、本件明細書の発明の詳細な説明を参酌しても「最小限のインスリンの濃度」がどの程度であるのかについて当業者は推知することができない。また、「最小限のインスリンの濃度」は、基礎培地の組成、及び、心筋細胞の増殖効果やWnt/β-カテニンの活性化効果の評価系(評価手段、評価基準等)によっても影響を受けることは否定できないから、これらの条件が不定のままで、「最小限のインスリンの濃度」を一義的に定めることは技術的に不可能であるといえる。 したがって、インスリンが添加されている心臓細胞培地において、添加されているインスリンの濃度が、請求項1が規定する「最小限のインスリンの濃度」を満たすか否かを、当業者が判断することができたとは認められないので、本件訂正前発明1は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確というべきである。本件訂正前発明1を引用する本件訂正前発明2~30についても同様である。 さらに、当該「最小限のインスリンの濃度」について、本件明細書の発明の詳細な説明には、培地に添加するインスリンの具体的な量について開示がないことに加え、培養条件を一定にした場合の「最小限のインスリンの濃度」の例示すら記載されておらず、本件訂正前発明1~30は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、サポート要件に適合していない。 加えて、「最小限のインスリンの濃度」のインスリンを含む発明を実施するには当業者に過度の試行錯誤、実験を要すると認められ、本件訂正前発明1~30は、実施可能要件に適合していない。 よって、本件訂正前発明に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件、特許法第36条第6項第1号に規定する要件、及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由4(新規性)、理由5(進歩性)の概要 本件訂正前発明1、2、9、10は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反し、本件訂正前発明1~10は、甲1及び甲2(主引例 甲1)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これら発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 本件訂正発明1~30に係る特許は、以下のとおり、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由及び申立人による申立理由によっては、取り消すことができない、と判断する。 1 取消理由通知書に記載した取消理由 (1)取消理由1(明確性)、理由2(サポート要件)、理由3(実施可能要件)について 本件訂正により、本件訂正前発明1における「心臓細胞成熟培地」を特定する「最小限のインスリンを含み、前記最小限のインスリンの濃度は、インスリンの完全な非存在下で見られる活性化よりも、5~10%を超えずに上回る心筋細胞の増殖及び/又はWnt/β-カテニンの活性化を刺激する濃度である」という記載が削除されたから、当該記載に係る部分に通知された取消理由1~3は解消した。 (2)取消理由4(新規性)、理由5(進歩性)について ア 甲1の記載事項 甲1には、以下の記載がある。なお、甲1は英語で記載されているため、当審による翻訳文により示す。下線は当審が付した。 (ア)「脂肪酸は脱共役タンパク質(UCP)の活動に役割を果たしていると考えられており、脂肪酸の処理に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を制御することが示されている。それゆえ、私たちは心臓の主な基質である脂肪酸がラットの心臓のUCP-2のインビボ及びインビトロでの発現に関与しているかどうか調査した。生後、脂肪酸の酸化による心臓へのエネルギーの転換が増えてから、UCP-2の発現は急速に増加した。しかしながら、成人の心臓では、UCP-2mRNAのレベルは脂肪酸の利用が増加(断食、糖尿病)していても、減少(肥大)していても変化がなかった。新生児の心筋細胞及びラットの心臓に由来するH9c2細胞への脂肪酸(パルミチン酸及びオレイン酸)の48時間の暴露はUCP-2の発現を強力に誘導した。新生児の心筋細胞に対するトリヨードチロニンによる刺激もUCP-2mRNAレベルを増加したが、脂肪酸の存在下のみであった。脂肪酸が活性化する転写因子PPARαに特異的であって、PPARγには特異的でない、リガンドが心筋細胞におけるUCP-2の発現のインデューサーとして機能した。脂肪酸は新生児の心筋細胞におけるUCP-2の発現を促進すると結論づけられ、出生後の心臓におけるUCP-2mRNAの急速な増加を説明するかもしれない。しかしながら、成人男性におけるUCP-2mRNAレベルについて、様々な病理学的条件に伴う心臓における脂肪酸の変化とは関係が見られないようであった。」(要約) (イ)「新生児の心筋細胞を用いた実験はH9c2細胞と同様に、4:1で混合したDMEM/M199であり、P/Sを含み、10mMのグルコースを唯一の基質として含む無血清培地における24時間の培養により開始した。その後、0.25mMのL-カルニチンを含む無基質培地(4:1で混合したDMEM、M199及びP/Sを含む)及び0.25mU/mlのインスリンが細胞に適用された。最初の実験のグループはグルコースのみ(最終濃度、10mM)を基質として与えられた。ウシ血清アルブミン(BSA0.15mM;シグマ)も培地に添加されることで、グルコースのグループと脂肪酸とBSAの複合体を含む培地を与えられた実験のグループにおける適切な比較ができるようになった。2番目のグループはパルミチン酸(C16:0)及びオレイン酸(C18:1)(ほかに記載されたように、0.25mMずつ、0.15mMのBSAと複合体が形成された。;参照17)の混合物を与えられた。3番目のグループは両方の基質の組み合わせを与えられた:グルコース(10mM)及びC16:0/C18:1(0.25mMずつ)。細胞は48位時間後に採取された。」(第496頁右欄第7行~第25行) イ 甲2の記載事項 甲2には、以下の記載がある。なお、甲2は英語で記載されているため、当審による翻訳文により示す。下線は当審が付した。 (ア)「人工の心筋(EHM)を製造する方法であって、方法は以下のステップを含む; (i)無血清再構成混合物を1つ以上の型に提供するステップであって、再構成混合物は(a)無血清最小必須培地、(b)無血清サプリメントであって、0.5~50mg/mlのアルブミン、1~100μg/mlのトランスフェリン、0.1~10μg/mlのエタノールアミン、0.003~0.3μg/mlの亜セレン酸ナトリウム、0.4~40μg/mlのL-カルニチンHCl、0.1~10μg/mlのヒドロコルチゾン、0.05~5μl/mlの脂肪酸サプリメント、0.0001~0.1μg/mlのトリヨード-L-チロニン(T3)、及び、0.2~2mg/mlのコラーゲンの最終濃度を生じるサプリメント、(c)ヒト心筋細胞、及び、ヒト非筋細胞の混合物であって、総細胞混合物の20~80%が心筋細胞であり、再構成混合物のpHが7.2~7.6である、ステップ、 (ii)1つ以上の型の中の無血清再構成混合物を培養するステップであって、無血清再構成混合物は少なくとも15分間凝縮されるステップ、 (iii)ステップ(ii)で得られた1つ以上の型の中の混合物を無血清のEHM培養培地中で、混合物が本来の厚みよりも少なくとも50%凝縮するまで培養するステップであって、EHM培養培地は(a)0.5~3mmol/LのCa2+を含む基本培地、(b)(i)で定義された無血清サプリメント、(c)0.5~10mmol/LのL-グルタミン、(d)0.01~1.0mmol/Lのアスコルビン酸、(e)1~100ng/mlのIGF-1、及び、(f)1~10ng/mlのTGFβ1を含む、ステップ、 (iv)ステップ(iii)で得られた混合物を、ステップ(iii)の(a)~(f)として定義された無血清EHM培養培地の中で機械的伸張下で培養するステップであって、力を発生するEHMが形成されるステップ。」(請求項16) (イ)「 [図:0001415290000001.jpg] 」(表1) ウ 甲3の記載事項 甲3には、以下の記載がある。なお、甲3は英語で記載されているため、当審による翻訳文により示す。下線は当審が付した。 (ア)「ヒトESC/ヒトiPSCの培養と分化 ・・・ 心筋細胞の分化誘導は、図lA(modified-directed differentiation protocol)に示すように、いくつかの修正を加えながら、既報[1]と同様に行った。細胞をVersene(Invitrogen)で3-5分間インキュベートして剥離し、誘導前の2-3日間、4ng/mL bFGFを加えたMEF-CMにおいて10,000細胞/cm2の密度でマトリゲルコートプレートに播種した。細胞は誘導の前日にマトリゲル(1:60希釈)で覆った。心臓分化を誘導するため、MEF-CMをアクチビンA(ActA;R&D Systems社製)100ng/mLを添加したRPMI+B27培地(RPMI1640、2mM Lーグルタミン、インスリン無添加B27サプリメントx1)に24時間交換し、その後10ng/mLヒト骨形成タンパク質4(BMP4;R&D社製)及びl0ng/mL hbFGFを添加した培地に4日間、培地交換せずに培養した。その後、培地を100ng/mLのDkk1を添加したRPMI+B27に2日間交換した。7日目に、培地をサイトカインを補充しないRPMI+B27に交換した;培地は1-2日ごとにリフレッシュした。拍動細胞は8-9日目に出現し、11日目には拍動領域が広がった。」(第2頁右欄最終段落~第3頁左欄最終段落) エ 甲4の記載事項 甲4には、以下の記載がある。なお、甲4は英語で記載されているため、当審による翻訳文により示す。下線は当審が付した。 (ア)「培地選択の主な考慮点は、緩衝性、イオン組成、及び栄養補助因子である。成体心筋細胞の培養には、炭酸水素ナトリウム緩衝培地199(Cellgro M-199、Mediatech)[59]が基本的な選択となり、当該培地は5% CO2の標準的な培養環境下においてpHを7.3から7.4に維持するものである。市販のM-199の組成(mM)は以下の通りである:CaCl2, 1.8;NaCl, 116;酢酸Na, 0.6;NaHP04, 1;KCI, 5.3;MgS04, 0.8に加えて、グルタミンを除くすべてのアミノ酸、及びビタミンを含む。この基本培地は一般的に、'CCT'(Creatine-Carnitine-Taurine)(クレアチン、5;L-カルニチン、2;タウリン、5;Na2HCO3、10;HEPES、10)となるように補充される([60])。新生児細胞の場合、基本培地はダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で代用できる[31]。・・・」(第7頁最終段落) オ 甲1に記載された発明 甲1は心筋細胞に脂肪酸を添加することによって、脱共役タンパク質(UCP-2)の発現が増加したことを報告する学術論文である(上記ア(ア))。 甲1には、新生児の心筋細胞を、4:1で混合したDMEM/M199であり、P/Sを含み、10mMのグルコースを唯一の基質として含む無血清培地において、24時間培養し、その後、0.25mMのL-カルニチンを含む無基質培地(4:1で混合したDMEM、M199及びP/Sを含む)及び0.25mU/mlのインスリンが細胞に適用されたこと、3番目のグループは、グルコース(10mM)及びウシ血清アルブミンと複合体化した0.25mMずつのC16:0(パルミチン酸)/C18:1(オレイン酸)を与えられたことが記載されている(上記ア(イ))。 したがって、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「0.25mMのL-カルニチンを含む無基質培地(4:1で混合したDMEM、M199及びP/Sを含む)に、0.25mU/mlのインスリン、10mMのグルコース、ウシ血清アルブミンと複合体化した0.25mMずつのパルミチン酸/オレイン酸を含有させた、 新生児の心筋細胞を培養するための培地。」 カ 本件訂正発明1の新規性、進歩性の検討 (ア)本件訂正発明1と甲1発明の対比 甲1発明における「0.25mMのL-カルニチンを含む無基質培地(4:1で混合したDMEM、M199及びP/Sを含む)」、「パルミチン酸/オレイン酸」、「ウシ血清アルブミン」、「心筋細胞」はそれぞれ、本件訂正発明1における「基礎培地」、「1つまたは複数の脂肪酸」、「アルブミン」、「心臓細胞」に相当する。 甲1発明は「パルミチン酸/オレイン酸」の混合物を含んでいるから、本件訂正発明1における「1つ又は複数の脂肪酸は・・・パルミチン酸を含み」を満たすものである。 甲1発明はパルミチン酸/オレイン酸を0.25mMずつ、グルコースを10mM含有しているから、脂肪酸とグルコースの濃度比は1:20(0.25+0.25:10)であり、「1つ又は複数の脂肪酸及びグルコースは、約1:5~1:60の濃度比で存在し」を満たすものである。 そうすると、本件訂正発明1と甲1発明とは、 「基礎培地、1つ又は複数の脂肪酸、グルコース及びアルブミンを含み、 前記1つ又は複数の脂肪酸は、パルミチン酸を含み、 前記1つ又は複数の脂肪酸及びグルコースは、約1:5~1:60の濃度比で存在する、 心臓細胞培地。」で一致し、以下の点で相違する。 <一応の相違点1> 心臓細胞培地について、本件訂正発明1では、心臓細胞「成熟」培地と特定されているのに対し、甲1発明では、培地を「成熟」のために用いることが特定されていない点。 <相違点2> 心臓細胞培地について、本件訂正発明1では、「インスリンを含まない」ことが特定されているのに対し、甲1発明では、「0.25mU/mlのインスリン・・・を含有させた」ことが特定されている点。 (イ)相違点の検討 a 一応の相違点1について検討する。 甲1発明は未成熟な細胞を含む新生児の心筋細胞を培養するための培地であり、培地の組成は本件訂正発明1と同様であるから、甲1発明の培地によって新生児の心筋細胞を培養する場合には、心筋細胞の成熟は生じるものと認められる。 したがって、一応の相違点1は実質的な相違点ではない。 b 相違点2について検討する。 甲1には、心臓の主な基質である脂肪酸がラットの心臓のUCP-2の発現に関与しているかどうかを調査する目的の実験において(上記ア(ア))、甲1発明の培地を用いることが記載されている。しかし、いずれの実験も0.25mU/mlのインスリンを細胞に適用しているので(上記ア(イ))、甲1発明の培地でインスリンを含ませないことを動機づける記載や示唆が甲1に存在するとは認められない。 そして、本件明細書を参照すると、グルコースとパルミチン酸を含む培地で培養した場合の心臓オルガノイドの収縮力が、インスリン添加条件に比べてインスリン非添加条件で高い傾向が認められ(【0138】、図12c、【0143】、図18a)、グルコースとパルミチン酸を含む培地で培養した場合の心臓オルガノイドのKi-67発現が、インスリン添加条件に比べてインスリン非添加条件で低減すること(【0145】、図19)が具体的に示されるので、本件訂正発明1は、上記の相違点2として挙げた本件訂正発明1の発明特定事項により、当業者の予測を超える効果を奏するものと認められる。 そうすると、本件訂正発明1は、甲1発明に基づき当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 (ウ)申立人の主張 申立人は、令和6年5月21日提出の意見書において、本件特許の優先日前に、心筋細胞用培地をインスリンを含まない培地にすることは公知であったことを、甲3及び甲4を根拠に説明し、甲1発明の心筋栽培用培地を、インスリンを含まない培地にすることは、本件特許の優先日当時の当業者が容易に想到し得る旨を主張する。 上記主張について検討すると、甲3には、ES細胞又はiPS細胞から心筋細胞を分化誘導する培養において、培地サプリメントとして、インスリン無添加のB27 supplementをRPMI基礎培地に添加することが記載され(上記ウ(ア))、甲4には、成体心筋細胞の培養培地にインスリンが含まれていないことが記載されている(上記エ(ア))。 しかし、甲3、4には、グルコースと、ウシ血清アルブミンと複合体化したパルミチン酸/オレイン酸等を含む甲1発明の培地に関する記載は見当たらない。 一方、甲2をみると、心筋細胞を培養する際の培地には、インスリンを含まない培地とインスリンを含む培地の両方が存在するものの、甲3、4と同様に、グルコースと、ウシ血清アルブミンと複合体化したパルミチン酸/オレイン酸等を含む甲1発明の培地に関する記載は見当たらないし、インスリンを含む培地からインスリンを含まない培地に変更することを当業者に動機づけるような記載や示唆も存在しない。 そうすると、特定の構成成分を有する培地においてインスリンを用いない場合があることを教示するに過ぎない甲3、4の記載、更に甲2の記載を参酌しても、甲1発明においてインスリンを含ませないことを当業者に動機付ける根拠を見いだすことはできない。 よって、申立人の主張は、理由がない。 (エ)小括 以上のとおり、本件訂正発明1、2、9、10は、甲1に記載された発明といえず、甲1~4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 キ 本件訂正発明2~30の新規性、進歩性の検討 本件訂正発明2~30は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであり、いずれの発明も、甲1発明と対比した際に、少なくとも上記相違点2を有するものであるから、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1~4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)小括 以上のとおり、本件訂正発明1~30に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1~5により取り消すことはできない。 2 取消理由通知において採用しなかった申立人による申立理由について 申立人の申立理由のうち申立理由1(新規性)、申立理由2(進歩性)、申立理由4(明確性)は、取消理由通知書で採用した取消理由4(新規性)、取消理由5(進歩性)、取消理由1(明確性)とそれぞれ実質的に同じであり、検討を要しない。 一方、申立理由3(サポート要件)は、取消理由通知書で採用しなかったので、以下で検討する。 (1)申立理由3(サポート要件)について ア 特許法第36条第6項第1号の判断規範 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。 同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 本件訂正発明の課題 本件明細書の段落【0005】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明は、広く、心筋細胞の成熟を促進又は増強する、規定された構成成分を有する培地を対象とする。本発明はまた、広く、心筋細胞及び/又は心筋細胞を含む心臓オルガノイドの、前述の培地中の形成を容易とする、1つ又は複数のウェルを含む培養システムも対象とする。」と記載されているので、本件訂正発明1の課題は、心筋細胞の成熟を促進又は増強する、規定された構成成分を有する培地、又は心筋細胞・心筋細胞を含む心臓オルガノイドを培養する前記培地の形成を容易とする、1つ若しくは複数のウェルを含む培養システムを提供すること、であると認められる。 ウ サポート要件の検討 本件訂正発明1が、上記イに示した課題を解決できると認識できる範囲のものか、以下で検討する。 本件明細書には、以下の記載がある。下線は当審が付した。 「【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の第1の態様は、基礎培地、1つ又は複数の脂肪酸、グルコース及びアルブミンを含む、心臓細胞成熟培地を提供する。」 「【0044】 本明細書で開示される心臓細胞培養培地の特定の特徴は、心筋細胞の成熟、並びに操作心臓組織(EHT)及び心臓オルガノイドの形成を最適化する成分(component)又は構成成分(constituent)の選択である。 【0045】 方法の初期工程は、hESC又はiPSC等の始原細胞を、心臓中胚葉へと分化させ、次いで、心筋細胞へと分化させる。・・・ ・・・ 【0050】 ゲル化の後、心筋細胞を、1つ又は複数の脂肪酸、アルブミン、及びグルコースを含む、心臓成熟培地中で成熟させる。・・・脂肪酸は、哺乳動物細胞内の、酸化による脂肪酸代謝のための基質として作用することが可能な、飽和脂肪族鎖又はモノ不飽和脂肪族鎖若しくはポリ不飽和脂肪族鎖を伴う、任意のカルボン酸でありうる。好ましくは、脂肪酸は、12~20個の炭素原子を含む脂肪族鎖(すなわち、C12~C20脂肪酸)を有する。好ましくは、脂肪酸は、16又は18個の炭素原子を含む脂肪族鎖(すなわち、C16又はC18脂肪酸)を有する。脂肪酸は、リノレン酸、パルミチン酸、リノール酸、又はオレイン酸であるがこれらに限定されない。特定の実施形態では、脂肪酸は、パルミチン酸であるか、又はこれを含む。パルミチン酸等の脂肪酸は、1~1000μM、5~500μM、10~200μM、又は50~150μMの範囲の濃度で存在しうる。パルミチン酸等の脂肪酸の好ましい濃度は、約100μMである。」 また、本件明細書の実施例では、「成熟培地」と名付ける「無血清培地(100μMのパルミチン酸を伴うが、インスリンを伴わない、1mMのグルコース)」(【0125】)を基礎的な培地とし、パルミチン酸やグルコースの濃度を変化させた培地、インスリンを添加した培地等を用いて、「心臓の成熟は、3つの主要なリードアウト:心機能(収縮力により評価される)、未成熟のマーカーとしての、hPSC-CMの増殖(Ki-67の発現により評価される)、及び成熟マーカーとしての、心室ミオシン軽鎖2(MLC2v)の発現(18)を介して評価した。」(【0124】)と記載されており、特に、グルコースとパルミチン酸を含む培地で培養した場合の心臓オルガノイドの収縮力が、インスリン添加条件に比べてインスリン非添加条件で高い傾向が認められること(【0138】、図12c、【0143】、図18a)、グルコースとパルミチン酸を含む培地で培養した場合の心臓オルガノイドのKi-67発現が、インスリン添加条件に比べてインスリン非添加条件で低減すること(【0145】、図19)が実験データを伴って示されている。 一方、細胞における脂肪酸の代謝について、脂肪酸は、細胞内での伸長反応やβ酸化によって、その炭素数や飽和度が変化しながら、合成・分解が行われ、結果として種々の生理機能が発揮されることは当業者に一般的に知られているので(要すれば、「生化学、2010年7月、Vol.82、No.7、p.591-605」の図1、3、5、7等参照)、心筋細胞の成熟におけるパルミチン酸の役割が、他の脂肪酸を用いた場合でも一定程度期待できることは、当業者に自明な事項であるといえる。 そうすると、本件明細書に「パルミチン酸とパルミチン酸以外の脂肪酸」を用いた実施例がなくても、本件訂正発明1及び本件訂正発明1を直接又は間接的に引用する本件訂正発明2~30が、上記イで示した課題を解決できることを当業者は認識し得るものと認められる。 エ 申立人の主張について 申立人は、特許権者が令和5年1月18日提出の手続補正書(方式)において、パルミチン酸とリノール酸の比較データを提出して、進歩性の拒絶理由を解消して特許査定を得ていることを考慮すると、パルミチン酸濃度がグルコースに対してかなり小さくなる場合には、パルミチン酸を含有することによる所望の心筋細胞成熟効果が得られるとは到底理解できない旨を主張する。 しかるところ、上記の手続補正書(方式)で示されたデータは、リノール酸を含む成熟培地を用いた場合と比べてパルミチン酸を含む成熟培地を用いた場合、心臓オルガノイドにおいて、より大きな収縮力が確認されたことを示すに止まるものであり、リノール酸を含む成熟培地が心筋細胞の成熟で使用に耐えないことを教示するものではない。 また、パルミチン酸濃度がグルコースに対してかなり小さくなった場合に、上記課題を解決できないことを根拠づける反証も、申立人より何ら提示されていない。 そうすると、上記ウで判断したとおり、本件訂正発明1~30はやはり上記イの課題を解決できるものであり、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 本件訂正発明1~30は、上記イで示した課題を解決できることを当業者は認識し得るものなので、サポート要件に適合しており、申立理由3(サポート要件)は理由がない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立てにおいて申立人が主張する申立理由によっては、本件訂正発明1~30に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正発明1~30に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2023-701115

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決57件(ザ・カウンシル・オブ・ザ・クィーンズランド・インスティテュート・オブ・メディカル・リサーチ、山▲崎▼ 浩一郎)
  • 2025-701104異議申立 / 2026-06-22 / 維持情報処理システムおよび情報処理方法
    同じ当事者: 山▲崎▼ 浩一郎
  • 2025-700938異議申立 / 2026-04-17 / 維持コート層付金属箔及び金属張積層板
    同じ当事者: 山▲崎▼ 浩一郎
  • 2025-700077異議申立 / 2026-02-17 / 訂正認容ポリイソシアネート組成物、その調製方法および使用
    同じ当事者: 山▲崎▼ 浩一郎
  • 2025-700519異議申立 / 2026-02-02 / 訂正認容防錆処理方法、および防錆処理された物品
    同じ当事者: 山▲崎▼ 浩一郎
  • 2025-700740異議申立 / 2026-01-07 / 維持高アルコールビールテイスト飲料
    同じ当事者: 山▲崎▼ 浩一郎
同じ論点・分野の審決(審決分類)1,849件(111・C12N、121・C12N、536・C12N ほか)
  • 2021-701259異議申立 / 2023-03-23 / 訂正認容治療免疫細胞の有効性を改良するための方法
    共通の審決分類: 111・C12N、121・C12N、536・C12N、537・C12N
  • 2025-700923異議申立 / 2026-03-17 / 維持核酸を解析するための方法および組成物
    共通の審決分類: 121・C12N、536・C12N、537・C12N
  • 2025-700369異議申立 / 2026-03-03 / 訂正認容AAVトリプルプラスミドシステム
    共通の審決分類: 121・C12N、536・C12N、537・C12N
  • 2024-701211異議申立 / 2025-11-27 / 訂正認容キノコ菌糸体を用いた食品素材
    共通の審決分類: 121・C12N、536・C12N、537・C12N
  • 2025-700220異議申立 / 2025-08-20 / 維持相補部分を含む修飾オリゴヌクレオチドの製造方法
    共通の審決分類: 121・C12N、536・C12N、537・C12N

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存