特許異議申立
2024-700794
銀粉
- 審判番号
- 2024-700794
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-162672
- 登録番号
- 7438305
- 請求日
- 2024年08月22日
- 審決日
- 2024年12月03日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】DOWAエレクトロニクス株式会社
- 【権利者代理人】杉村 憲司
- 【権利者代理人】福井 敏夫
- 【異議申立人】山▲崎▼ 浩一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 池渕 立
- 審判官 土屋 知久
- 分類
- P1651.121-Y (B22F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7438305号発明「銀粉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7438305号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7438305号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願(特願2022-162672号。以下、「本願」という。)は、令和 4年 2月25日(優先権主張令和 3年 3月10日)に出願した特願2022-28634号の一部を令和 4年10月 7日に新たな特許出願としたものであって、令和 6年 2月15日に特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、同年 8月22日に、全請求項(請求項1~4)に係る特許に対し、特許異議申立人である山▲崎▼浩一郎(「崎」は正しくはたつさきである。以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、「本件特許発明1」等といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~4(以下、「本件請求項1」等という。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
タップ密度が4.8g/mL以上であり、
前記タップ密度(g/mL)を湿式レーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)で除した値であるTAP/D50値が7.03以上15以下であり、
比表面積が0.75m2/g以上1.3m2/g以下であり、かつ
前記粒度分布測定による、粒子径の小さい側からの粒子量の累積が10%となる径D10に対する、粒子径の小さい側からの粒子量の累積が90%となる径D90の比の値である、D90/D10値が4.5以上5.5以下である、銀粉。
【請求項2】
前記TAP/D50が、7.03以上10以下である請求項1に記載の銀粉。【請求項3】
前記メジアン径が0.32μm以上1μm以下である請求項1又は2に記載の銀粉。
【請求項4】
前記メジアン径が0.4μm以上0.8μm以下である請求項3に記載の銀粉。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、甲第5号証を除いて、いずれも本願の優先日前に日本国内において公知となった下記甲第1~5号証を提出して、以下の申立理由1により、本件特許の請求項1~4に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(進歩性)
本件特許発明1~4は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2~4号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
甲第1号証:韓国公開特許第10-2020-0082067号公報
甲第2号証:特開2005-226094号公報
甲第3号証:特開2021-4410号公報
甲第4号証:特開2017-101268号公報
甲第5号証:FRITSCH社の粒度分布測定装置(ANALYSETTE22)を用いてTiO2(Rutile)の測定を行った際の結果(測定日2012年2月20日)を示すデータシート
(https://www.fritsch-international.com/uploads/tx_messprotako11/S120019_Rutil-eng-LDB.pdf
なお、このPDFファイルをオンラインで確認するためには
https://www.fritsch-international.com/particle-sizing/sizing-reports/report-details/?protokoll=128
のHPにおいて、「DOWNLOAD REPORT AS PDF」をクリックする。)
(以下、甲第1~5号証をそれぞれ「甲1」~「甲5」という。)
第4 当審の判断
上記申立理由1は採用できない。その理由は以下に記載のとおりである。
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「
[図:0001418261000001.jpg]
(当審訳:球状銀粉およびその製造方法)」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「
[図:0001418261000002.jpg]
」
(当審訳:特許請求の範囲
請求項1
粒子内部に閉鎖された空隙を有する球状銀粉末であって、上記銀粉末が0.1~5.0μmの平均粒子径を有し、前記閉じた空隙を10個以上含む、銀粉末。)
(1イ)「
[図:0001418261000003.jpg]
」(当審訳:技術分野
[0001]
本発明は、球状銀粉およびその製造方法に関し、より具体的には、内部に囲まれた空所を多量に含有し、均一に焼結可能な粉末、及び反応温度の調節を介して、上記銀粉末を容易に製造する方法に関する。)
(1ウ)「
[図:0001418261000004.jpg]
」(当審訳:解決すべき課題
[0008]
本発明の目的は、内部において囲まれた空所を多量に含有し、均一に焼結可能な球状銀粉末を提供することである。
[0009]
また、本発明の他の目的は、反応温度の調節によっても、これらは粉末を容易に製造する方法を提供することである。)
(1エ)「
[図:0001418261000005.jpg]
…
[図:0001418261000006.jpg]
」(当審訳:[0055]
以下、本発明を下記実施例によってさらに詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらのみに限定されるものではない。
[0056]
[実施例]
[0057]
実施例1.
[0058]
10Lビーカーに、160gの銀を含む硝酸銀水溶液5,100gを入れ、ビーカーの温度を65℃に加熱した後、28質量%のアンモニア水溶液(pH 11.6) 560 gを添加して、銀-アンモニア錯体溶液を作った。
[0059]
ホルマリン(37重量%のホルムアルデヒド(HCHO)水溶液)532gを水1,350gで希釈した水溶液を上記の銀-アンモニア錯体溶液に5秒間加えて銀のスラリーを得た。得られたスラリーは、水とエタノールを用いて洗浄および濾過し、100℃のオーブンで6時間乾燥した後フードミキサーで粉砕して平均粒子径1.62μmの粉末を得た。
…
[0070]
比較例2.
[0071]
10Lビーカーに水420gを添加し、100gの銀を含む硝酸銀水溶液322.5gおよび25重量%のアンモニア水溶液83.3gを添加して、銀-アンモニア錯体水溶液を作った。銀-アンモニア錯体の水溶液の温度は15℃に維持した。次いで水素化ホウ素ナトリウム(製造社:Vertellus) 9 gを含む還元剤320gを上記銀-アンモニア錯体水溶液に20秒間加えて銀のスラリーを得た。スラリーの水洗、濾過、乾燥及び粉砕する工程を実施例1と同様にして、銀粉を得た。)
(1オ)「
[図:0001418261000007.jpg]
」(当審訳:[0074]
実験例2.
[0075]
上記実施例及び比較例は、粉末を対象とする粒度分布、BET、真比重および充填密度を測定した。また、上記実施例及び比較例は、粉末をバインダ樹脂、焼結助剤としてのガラスフリット(glass frit)、溶媒および添加剤を混合して製造したペースト組成物を対象にそれぞれの直列抵抗(Rs、mΩ)を測定した。具体的には、上記銀粉末、バインダー樹脂、ガラスフリット(glass frit)、溶媒及び添加剤をミキサ(planetary mixer)で混合攪拌した。このとき、バインダー樹脂としては、セルロースエステル(EASTMAN社CAB-382-20)及びエチルセルロース樹脂(AQUALON間ECN-50)を使用し、溶媒としてはTXIB(Trimethyl Pentanyl Diisobutylate)およびブチルカルビトール(Butyl Carbitol)を使用し、添加剤としては、チキソトロピー調整剤(ELEMENTIS間THIXATROL MAX)および分散剤(LUBRISOL間SOLSPERSE)を添加した。ガラスフリットの場合Te-Pb系ガラスフリット(DAEJOO Electric Materials)のDPS-1900V17)を使用した。その後、3本ロールミルを用いてさらに分散作業を進行した後、濾過してゴミおよび不純物等を除去することにより、ペースト組成物を製造した。前記ペースト組成物は、銀粉末90重量%、バインダー樹脂2重量%、ガラスフリット2重量%、溶媒5質量%及び添加剤1重量%を含んでいた。前記製造されたペースト組成物をスクリーン印刷によってウェーハに塗布し、乾燥炉350℃及び焼成炉810を通過して処理した。シミュレータを用いて処理された試験片の直列抵抗値、Rs(mΩ)を測定した。)
(1カ)「
[図:0001418261000008.jpg]
[図:0001418261000009.jpg]
」(当審訳:[0076]
前記測定結果を下記表1に示し、焼成されたペースト試片の焼結面を電子顕微鏡で撮影したイメージを図4及び図6に示した(図4:実施例5、図6(比較例1)。
[0077]
1)粒度分布測定
[0078]
粒度分布測定装置(フリッチュ、Analysette22)を用いて測定
[0079]
2)BET測定
[0080]
粉末を100℃で60分間脱気した後、比表面積測定装置(MicrotracBEL社製のBELSORP-miniII)を用いて測定
[0081]
3)真比重測定
[0082]
Micromeritics間のAccupyc II 1340を用いて測定
[0083]
4)充填密度(Tap density)測定
[0084]
充填密度測定機(Quantachrome社製のAutotap)を用いて測定
[0085]
[充填密度=試料質量(g)/タッピング後の体積(cc)]
[0086]
5)直列抵抗測定
[0087]
ORIEL社のシミュレータ(Sol3A)を使用して測定)
(1キ)「
[図:0001418261000010.jpg]
」(当審訳:[0088]
表1
[図:0001418261000011.jpg]
)
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(1ウ)によれば、甲1に記載された発明が解決しようとする課題の一つは、内部において囲まれた空所を多量に含有し、均一に焼結可能な球状銀粉末を提供することであると認められる(以下、単に「課題」という。)。
(イ)上記ア(1エ)には、実施例1の銀粉末と比較例2の銀粉末が製造されたことが記載されており、上記ア(1キ)の表1には、実施例1と比較例2の銀粉末を含む銀粉末の各種物性の測定結果が記載されているところ、特に、比較例2の銀粉末に注目する。
上記ア(1カ)の記載も参照すると、比較例2の銀粉末は次の特徴を有するものである。
・粒度分布測定装置(フリッチュ、Analysette22)を用いて測定された平均粒子径は0.652μmである。
・比表面積測定装置(MicrotracBEL社製のBELSORP-miniII)を用いて測定されたBET比表面積は0.943m2/gである。
・充填密度測定機(Quantachrome社製のAutotap)を用いて測定された充填密度(TAP密度のこと。試料質量(g)/タッピング後の体積(cc)で算出される。)は5.16g/mlである。
(ウ)以上、上記比較例2の銀粉末についての記載を総合すると、甲1には次の発明が記載されているものと認められる。
「充填密度測定機(Quantachrome社製のAutotap)を用いて測定された充填密度(TAP密度のこと。試料質量(g)/タッピング後の体積(cc)で算出される。)は5.16g/mlであり、
粒度分布測定装置(フリッチュ、Analysette22)を用いて測定された平均粒子径は0.652μmであり、
比表面積測定装置(MicrotracBEL社製のBELSORP-miniII)を用いて測定されたBET比表面積は0.943m2/gである、銀粉末。」(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2の記載
ア 甲2には、「高結晶性銀粉及びその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、高結晶性銀粉及びその製造方法に関し、詳しくは、例えば、チップ部品、プラズマディスプレイパネル等の電極や回路を、大幅にファイン化し、高密度及び高精度で且つ高信頼性をもって形成することができる導電性ペースト、特に微細な配線又は薄層で平滑な塗膜等を高密度及び高精度で且つ高信頼性をもって形成することができる導電性ペーストの製造に好ましい、微粒で、分散性がよく、粒度分布がシャープすぎず比較的ブロードであり、結晶子が大きいため、導電性ペーストの原料として用いた場合に、ペーストへの銀粉の分散性及び導電性ペーストにおける銀粉の充填性に優れ、銀厚膜から形成される電極や回路等をよりファイン化することができ、導電性ペーストから得られる銀厚膜が耐熱収縮性に優れると共に比抵抗(抵抗率)の低いものとすることができる高結晶性銀粉及びその製造方法に関するものである。」
(2イ)「【0011】
従って、本発明の目的は、微粒で、分散性がよく、粒度分布がシャープすぎず比較的ブロードであり、結晶子が大きい高結晶性銀粉、及びその製造方法を提供することにある。」
(2ウ)「【0031】
本発明に係る高結晶性銀粉は、D90/D10が通常2.1~5.0、好ましくは2.5~4.7である。なお、本発明において、D10及びD90は、それぞれ、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積分布10容量%及び90容量%におけるメジアン径(μm)を示す。D90/D10はバラツキを示す指標であり、D90/D10が大きいと粒度分布のバラツキが大きいことを示す。D90/D10が上記範囲内にあると、銀粉の粒度分布がシャープすぎず比較的ブロードになり、該銀粉を用いた導電性ペーストで回路を形成すると銀粉の充填性が優れるため回路の耐熱収縮性が優れたもの、すなわち、焼成前後における回路の寸法変化が小さいものとなり易いため好ましい。」
(3)甲3の記載
ア 甲3には、「銀粉およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(3ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉およびその製造方法に関し、特に、導電性ペーストの材料に適した銀粉およびその製造方法に関する。」
(3イ)「【0006】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、導電性ペーストの材料として使用する場合に、導電性ペーストの焼成時間が従来よりも短くても、抵抗値が低い導電膜を形成することができる、銀粉およびその製造方法を提供することを目的とする。」
(3ウ)「【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による銀粉の実施の形態の製造方法では、粉末X線回折装置により測定して算出した結晶子径が50nm(好ましくは42nm)以下であり且つレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により湿式で測定して得られた体積基準の粒度分布において累積50%粒子径(D50)が1μm以上で4μm以下の大径の銀粉と、粉末X線回折装置により測定して算出した結晶子径が50nm(好ましくは42nm)以下であり且つレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により湿式で測定して得られた体積基準の粒度分布において累積50%粒子径(D50)が0.3μm以上で1μm未満の小径の銀粉とを混合することにより、粉末X線回折装置により測定して算出した結晶子径が50nm以下であり、且つ圧縮密度が6.3g/cm3以上である銀粉を製造する。
【0016】
この銀粉の製造方法により製造された銀粉のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により湿式で測定して得られた体積基準の粒度分布において累積10%粒子径(D10)に対する累積90%粒子径(D90)の比が4.0~6.5であるのが好ましい。また、製造された銀粉のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により湿式で測定して得られた体積基準の粒度分布において累積50%粒子径(D50)が1.2~3.0μmであるのが好ましく、1.5~2.8μmであるのがさらに好ましい。また、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置による湿式の測定が、銀粉をイソプロピルアルコールなどの溶媒に分散させて行われるのが好ましい。」
(4)甲4の記載
ア 甲4には、「球状銀粉およびその製造方法、ならびに導電性ペースト」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(4ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、球状銀粉およびその製造方法、ならびに導電性ペーストに関する。」
(4イ)「【0009】
本発明は、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化やファインライン化に対応可能な球状銀粉およびその製造方法ならびに導電性ペーストを提供することを目的とする。」
(4ウ)「【0035】
<1.球状銀粉の製造方法>
本実施形態における球状銀粉の製造工程は、銀イオン分散液の調液工程と、銀イオンを還元して銀粒子を析出させる還元工程と、析出した銀粒子に対して分散剤を吸着させる吸着工程と、回収(および洗浄)工程と、乾燥工程ならびに解砕工程と、分級工程とを含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。以下、各工程について説明する。」
(4エ)「【0052】
(球状銀粉の粒度分布に係る各条件)
本実施形態における球状銀粉のレーザー回折式粒度分布測定法によるD50は、0.1μm以上2.0μm以下が好ましく、0.1μm以上1.5μm以下がより好ましく、0.3μm以上1.2μm以下が更に好ましい。D90及びD10に対するD50の比[(D90-D10)/D50]は2.0以下が好ましく1.8以下がより好ましい。また、Dmaxは5.0μm未満であり、かつD50の7倍未満であることが好ましい。
【0053】
上記の各条件の意義についてであるが、球状銀粉の粒径に関しては、上記の条件ならば、粒径が大きすぎないため微細配線の描画に適する一方、粒径が小さすぎないため球状銀粉を導電性ペーストへと活用したときに導電性ペースト中の銀濃度を向上させられ、電子部品の性能の向上につながる。また、粒度分布に関しては、上記の条件ならば、粒度分布のピーク幅が狭く、粒径のばらつきが少なく、粒径が揃った球状銀粉であって粗大粒子を含まない球状銀粉となる。
【0054】
なお、本実施形態の手法にて得られる球状銀粉は、粗大粒子・凝集粒子を含まない状態となっている。その一方、後述の実施例1に係る図1に示すように、本実施形態の球状銀粉において、比較的小さな粒径の銀粒子は存在している。比較的小さな粒径の粒子を存在させることにより、導電性ペーストに球状銀粉を活用した際に、D50の粒径を有する銀粒子と銀粒子の間に比較的小さな粒径の銀粒子を充填させることが可能となる。その結果、導電性ペースト中の銀濃度を向上させられ、電子部品の性能の向上につながる。そのため、粒度分布の条件として、比較的小さな粒径の銀粒子も一定数存在することを示すべく、D10/D50が0.5以下という条件を付与しても構わない。
また、本実施形態の手法ならば比較的小さな粒径の銀粒子も一定数存在させることも可能であるため、D50は多少大きくなっても構わない。そのため、D50を0.4μm以上2.0μm以下(好ましくは1.2μm以下)としても構わない。
ちなみに、このように比較的小さな粒径の銀粒子も一定数存在させられる理由としては、上述の還元工程において、銀イオンを含有する水性反応系に還元剤を添加するという方式を採用しているからであり、水性反応系において銀粒子を還元析出させているためである。このように比較的小さな粒径の銀粒子も一定数存在させた上で、上述の分級工程、さらには銀粒子を球状に維持しづらくなるはずの親水性の分散剤を使用することにより、分級工程後であっても球形度を高く維持した球状銀粉を得ることができる上、より密に銀粒子を充填させることが可能となる。」
(4オ)「【0074】
(実施例2)
銀45.3gを含む硝酸銀水溶液3900gに、工業用のアンモニア水77gを加えて、銀のアンミン錯体溶液を生成した。この銀のアンミン錯体溶液にベンゾトリアゾールナトリウム水溶液を銀に対し0.5質量%の割合で加えた後、還元剤として含水ヒドラジン水溶液を10.0mL加えた。その直後に、リシノール酸を銀粉に対して0.6質量%の割合で添加し、リシノール酸で被覆された銀粒子のスラリーを得た。それ以外は実施例1と同様にして球状銀粉を得た。
【0075】
このようにして得られた球状銀粉の粒度分布を測定したところ、D10=0.2μm、D50=0.4μm、D90=0.9μm、Dmax=2.3μmであり、[(D90-D10)/D50]=1.8、Dmax/D50=5.8であり、球状銀粉のBET比表面積は2.2m2/gであった。」
(5)甲5の記載
ア 甲5には、「ANALYSETTE22 MicroTec plus」(パンフレットの標題)に関して、次の記載がある。
(5ア)「
[図:0001418261000012.jpg]
」(第1頁上部の表の一部抜粋。)
(5イ)「
[図:0001418261000013.jpg]
」(第2頁左中ほど)
(5ウ)「
[図:0001418261000014.jpg]
」(第3頁左中ほど)
2 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「充填密度測定機(Quantachrome社製のAutotap)を用いて測定された充填密度(TAP密度のこと。試料質量(g)/タッピング後の体積(cc)で算出される。)は5.16g/mlであ」ることは、本件特許発明1の「タップ密度が4.8g/mL以上であ」ることに相当する。
イ FRITSCH社のHPに掲載されている「ANALYSETTE22」のパンフレット
(https://www.fritsch-international.com/particle-sizing/static-light-scattering/
のHPにおいて「PRODUCT LEAFLET LASER PARTICLE SIZERS ANALYSETTE 22 NeXT」をダウンロードしたもの)の第7頁には次の記載がある。
「
[図:0001418261000015.jpg]
」
(当審訳:ISO13320(粒径分析-レーザー回折法)は、繰り返し性、再現性および測定精度に関するレーザー粒径測定装置の最小基準をガイドラインとして規定し、したがって測定結果の妥当性を規定する。FRITSCH ANALYSETTE22NEXTは、ISO13320の要件を明らかに上回る。…)
上記記載によれば、FRITSCH社の粒度分布測定装置である「ANALYSETTE22」は、レーザー回折法によって粒径を測定する装置である。また、レーザー回折法による粒度分布は、体積基準であることが通常である。
したがって、甲1発明の「粒度分布測定装置(フリッチュ、Analysette22)を用いて測定された平均粒子径」は、本件特許発明1の「湿式レーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)」と、「レーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)」である限りで共通する。
ウ 上記アとイの検討を踏まえると、甲1発明において、「タップ密度(g/mL)を」「レーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)で除した値であるTAP/D50値」は次のように計算できる。
TAP/D50=5.16g/ml÷0.652μm=7.91
したがって、甲1発明において「TAP/D50=7.91」と算出できることは、本件特許発明1の「タップ密度(g/mL)を湿式レーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)で除した値であるTAP/D50値が7.03以上15以下であ」ることと、「タップ密度(g/mL)を」「レーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)で除した値であるTAP/D50値が7.03以上15以下であ」る限りで共通する。
エ 甲1発明の「比表面積測定装置(MicrotracBEL社製のBELSORP-miniII)を用いて測定されたBET比表面積は0.943m2/gである」ことは、本件明細書の「銀粉の比表面積は、BET法で求めた値」(段落【0028】)との記載を踏まえると、本件特許発明1の「比表面積が0.75m2/g以上1.3m2/g以下であ」ることに相当する。
オ 甲1発明の「銀粉末」は、本件特許発明1の「銀粉」に相当する。
カ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「タップ密度が4.8g/mL以上であり、
前記タップ密度(g/mL)をレーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)で除した値であるTAP/D50値が7.03以上15以下であり、
比表面積が0.75m2/g以上1.3m2/g以下である、銀粉。」の点。
(相違点1)
本件特許発明1では、「粒度分布測定による、粒子径の小さい側からの粒子量の累積が10%となる径D10に対する、粒子径の小さい側からの粒子量の累積が90%となる径D90の比の値である、D90/D10値が4.5以上5.5以下である」のに対して、甲1発明では、D10とD90が特定されておらず、したがって、D90/D10の値が不明である点。
(相違点2)
レーザー回折式の粒度分布測定が、本件特許発明1では、「湿式」であるのに対して、甲1発明では、「湿式」であるかどうか不明である点。
(2)相違点についての検討
ア 甲1において、発明が解決しようとする課題は、上記1(1)ア(1ウ)によれば、内部において囲まれた空所を多量に含有し、均一に焼結可能な球状銀粉末を提供することであり、当該課題を解決し得る銀粉末は、上記1(1)ア(1ア)の請求項1によれば「閉じた空隙を10個以上含む」ことが必要である。
イ 一方、甲1発明の認定の基礎とした比較例2の銀粉末は、上記1(1)ア(1キ)の表1に記載されているように、閉鎖された空隙の個数が6個であり、「閉じた空隙を10個以上含む」ものではないから、上記課題を解決し得るものではない、つまり、均一に焼結可能な球状銀粉末とはいえず、使用するには不適切な銀粉末であるから、甲1に接した当業者にとって、比較例2の銀粉末を電子部品の電極や回路の製造に使用しようとは思わないものであるし、性能の高い実施例であれば格別、性能の悪い比較例についてわざわざ手間やコストをかけて改良して使用しようとは思わないことが通常であるといえる。
ウ そして、上述のとおり、比較例2の銀粉末は均一に焼結することができないため使用に耐えないものであるし、わざわざ改良して使用しようとするものとはいえないものであるところ、そのような使用に耐えない銀粉末について、あえてその特性を改善しようとするなら、甲1における上記課題を解決することができるような、「閉じた空隙を10個以上含む」ものに改良しようとすることが自然であり、そのように改良することを差し置いて、どれほど好ましいことであるかが知られていたとしても、「D90/D10値が4.5以上5.5以下」であるものにしようとする動機が存在するとはいえない。
つまり、仮に、甲1発明におけるレーザー回折式の粒度分布測定が「湿式」であったとしても、比較例2の銀粉末に基づいて認定された甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明の特定事項とする動機が存在するとはいえない。
エ したがって、仮に、相違点2が実質的な相違点ではなかったとしても、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
オ なお、仮に、どのような銀粉末においても、甲2~甲4に記載されているように、「D90/D10値が4.5以上5.5以下」とすることが好ましいことであり、したがって、甲1発明の銀粉末においても、その粒度分布を「D90/D10値が4.5以上5.5以下」とする動機があるとしても、銀粉末の粒度分布(D10、D90)を変更するためには甲1発明の製造方法(比較例2の製造方法)を変更する必要があり、甲1発明の製造方法を変更した場合には、タップ密度、平均粒子径、TAP/D50、比表面積の各値が甲1発明の各値のまま維持されるとはいえないし、また、甲1発明の各値が変化してしまうことを許容するにしても、本件特許発明1の特定事項である「タップ密度が4.8g/mL以上であり、前記タップ密度(g/mL)を湿式レーザー回折式の粒度分布測定による体積基準のメジアン径(μm)で除した値であるTAP/D50値が7.03以上15以下であり、比表面積が0.75m2/g以上1.3m2/g以下」の条件を維持できるかも不明であり、したがって、上記(1)において一致点と判断した特定事項が新たな相違点となるおそれが高い。
換言すれば、甲2~甲4に記載されているように、銀粉末の粒度分布を「D90/D10値が4.5以上5.5以下」とすることが好ましいことであるとしても、甲1発明において、タップ密度、平均粒子径、TAP/D50、比表面積の各値を維持したまま、もしくは、あまり変化させることなく、「D90/D10値が4.5以上5.5以下」とするための製造方法が不明であるから、仮に、相違点2が実質的な相違点ではなかったとしても、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~4についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲2~甲4に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
第5 結び
以上のとおりであるから、上記第3に記載した申立理由1によっては、本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700794