特許異議申立
2024-700724
全固体電池
- 審判番号
- 2024-700724
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-042821
- 登録番号
- 7426518
- 請求日
- 2024年07月31日
- 審決日
- 2024年10月09日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日立造船株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人河崎特許事務所
- 【異議申立人】中村 絵美
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 信一
- 審判官 ▲高▼橋 徳浩
- 審判官 山本 章裕
- 分類
- P1651.121-Y (H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7426518号発明「全固体電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7426518号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7426518号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、令和5年3月17日の出願であって、令和6年1月24日にその特許権の設定登録がなされ、令和6年2月1日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1ないし4に係る特許に対して、令和6年7月31日に特許異議申立人 中村 絵美により特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明
特許第7426518号の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
全固体電池であって、
少なくとも1つの発電要素を含む積層体と、
前記積層体を囲むように配置された絶縁フィルムと、
前記積層体および前記絶縁フィルムを内部に収容する外装体とを含み、
前記外装体は、金属ラミネートフィルムを用いて形成されており、
前記外装体の内部は減圧されており、
前記積層体は、6つの面を有する直方体状の形状を有し、
前記絶縁フィルムは密封されておらず、
前記外装体は、前記積層体の少なくとも一部が収容される直方体状の凹部を有する第1の外装部材と、前記第1の外装部材と貼り合わせられている第2の外装部材とを含み、
前記凹部は、前記積層体を収容する前に予め形成されており、
前記絶縁フィルムの少なくとも一部は、前記6つの面のそれぞれと前記外装体との間に配置されている、全固体電池。
【請求項2】
全固体電池であって、
少なくとも1つの発電要素を含む積層体と、
前記積層体を囲むように配置された絶縁フィルムと、
前記積層体および前記絶縁フィルムを内部に収容する外装体とを含み、
前記外装体は、金属ラミネートフィルムを用いて形成されており、
前記外装体の内部は減圧されており、
前記積層体は、6つの面を有する直方体状の形状を有し、
前記絶縁フィルムは密封されておらず、
前記外装体は、前記積層体の少なくとも一部が収容される直方体状の凹部を有する第1の外装部材と、前記第1の外装部材と貼り合わせられている第2の外装部材とを含み、
前記凹部は、前記積層体を収容する前に予め形成されており、
前記絶縁フィルムは、前記6つの面のそれぞれと対向する複数の面を有する、全固体電池。
【請求項3】
全固体電池であって、
少なくとも1つの発電要素を含む積層体と、
前記積層体を囲むように配置された絶縁フィルムと、
前記積層体および前記絶縁フィルムを内部に収容する外装体とを含み、
前記外装体は、金属ラミネートフィルムを用いて形成されており、
前記外装体の内部は減圧されており、
前記積層体は、6つの面を有する直方体状の形状を有し、
前記絶縁フィルムは密封されておらず、
前記外装体は、前記積層体の少なくとも一部が収容される直方体状の凹部を有する第1の外装部材と、前記第1の外装部材と貼り合わせられている第2の外装部材とを含み、
前記凹部は、前記積層体を収容する前に予め形成されており、
前記積層体は、正極タブを有する正極集電体と、負極タブを有する負極集電体とを含み、
前記正極タブは、第1の接続部で正極リードに接続され、
前記負極タブは、第2の接続部で負極リードに接続され、
前記絶縁フィルムは、前記第1の接続部と前記第2の接続部とを覆っている、全固体電池。
【請求項4】
前記絶縁フィルムは折り曲げられて前記積層体を囲っている、請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体電池。」
第3 申立理由の概要
特許異議申立人の申立理由(進歩性)の概要は、以下のとおりである。
請求項1ないし4に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
記
甲第1号証:特許第7231123号公報
甲第2号証:特開2021-176134号公報
第4 甲第1号証及び甲第2号証の記載事項
1.甲第1号証
(1)甲第1号証(特許第7231123号公報)には、「蓄電デバイス10」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0001】
本開示は、蓄電デバイス用樹脂フィルム及び蓄電デバイスに関する。」
イ.「【0010】
このような状況下、本開示の第1の態様は、蓄電デバイスの内部への水分の浸入を抑制する技術を提供することを主な目的とする。」
ウ.「【0026】
1.蓄電デバイス用樹脂フィルム
本開示の第1の態様に係る蓄電デバイス用樹脂フィルムは、吸水剤を含む樹脂フィルムにより構成されている。すなわち、本開示の第1の態様に係る蓄電デバイス用樹脂フィルムは、吸水剤と樹脂を含む樹脂フィルムである。図5から図11の模式図に示すように、本開示の蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、蓄電デバイスの外装材3と蓄電デバイス素子4との間に配置される。」
エ.「【0033】
本開示の蓄電デバイス10は、例えば図5から図11に示されるように、外装材3で蓄電デバイス素子4を封止した構造を有している。金属端子2は、外装材3の外側に突出している。金属端子2は、蓄電デバイス素子4が備える正極及び負極の各々に接続されている。金属端子2と外装材3との間には、金属端子用接着性フィルム21が配置されており、金属端子2と外装材の熱融着性樹脂層35との密着性が高められている。蓄電デバイス10の封止は、蓄電デバイス素子4の周縁に外装材3のフランジ部(外装材3の周縁部3a)が形成できるようにして、蓄電デバイス素子4を外装材3で被覆し、外装材3のフランジ部をヒートシールして密封させることで行われる。外装材3を用いて蓄電デバイス素子4を収容する場合、外装材3の熱融着性樹脂層35が内側(蓄電デバイス素子4と接する面)になるようにして用いられる。
【0034】
また、図10及び図11に示すように、蓄電デバイス用外装材3の熱融着性樹脂層が内側となるようにして、蓄電デバイス素子4(図10及び図11では直方体形状)の周囲に外装材3を巻きつけ(胴巻き)、熱融着性樹脂層同士をヒートシールすることで熱融着部70を形成し、両端の開口部をそれぞれ閉じるように蓋体60が配置されている。蓄電デバイスの外装材3の蓋体60と蓄電デバイス素子4との間に、本開示の蓄電デバイス用樹脂フィルム1を配置してもよい。この場合、蓋体60は、蓄電デバイス用外装材3の一部を構成しており、外装材3と蓄電デバイス素子4との間に、本開示の蓄電デバイス用樹脂フィルム1が配置される。
【0035】
本開示の蓄電デバイス用樹脂フィルム1を蓄電デバイス10に適用する場合、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、外装材3の蓄電デバイス素子4側(熱融着性樹脂層35側)の面の全体に位置するようにしてもよいし、蓄電デバイス素子4側(熱融着性樹脂層35側)の面の一部に位置するようにしてもよい。本開示の効果を好適に発揮する観点から、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、外装材3の蓄電デバイス素子4側(熱融着性樹脂層35側)の面の全体に位置するようにして、蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4との間に配置することが好ましい(図5から図9、図11の模式図を参照)。例えば、図5及び図11に示すように、蓄電デバイス用外装材3と蓄電デバイス素子4との間のみに蓄電デバイス用樹脂フィルム1を配置してもよいし、図6に示すように、外装材3の外装材の周縁部3a(熱融着部)と蓄電デバイス素子4との間に配置されていてもよいし、図7に示すように、蓄電デバイス用樹脂フィルム1で蓄電デバイス素子4を覆ってもよいし、図8に示すように、さらに金属端子2の表面の一部が蓄電デバイス用樹脂フィルム1で覆われていてもよい。さらに、図9に示すように、蓄電デバイス素子4が蓄電デバイス用樹脂フィルム1によって封止されるようにして、本開示の蓄電デバイス用樹脂フィルム1を、蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4との間に配置することもできる。また、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、外装材3と金属端子2との間に存在してヒートシールされていてもよい。」
オ.「【0100】
2.蓄電デバイス
本開示の蓄電デバイス10は、前記の通り、外装材3で蓄電デバイス素子4を封止した構造を有している。蓄電デバイス10の封止は、蓄電デバイス素子4の周縁に外装材3のフランジ部(外装材3の周縁部3a)が形成できるようにして、蓄電デバイス素子4を外装材3で被覆し、外装材3のフランジ部をヒートシールして密封させることで行われる。本開示の蓄電デバイス10において、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、外装材3の蓄電デバイス素子4側(熱融着性樹脂層35側)の面の全体に位置していてもよいし、蓄電デバイス素子4側(熱融着性樹脂層35側)の面の一部に位置していてもよい。本開示の効果を好適に発揮する観点から、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、外装材3の蓄電デバイス素子4側(熱融着性樹脂層35側)の面の全体に位置するようにして、蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4との間に配置されていることが好ましい(図5から図9の模式図を参照)。例えば、図5に示すように、蓄電デバイス用外装材3と蓄電デバイス素子4との間のみに蓄電デバイス用樹脂フィルム1を配置してもよいし、図6に示すように、外装材3の外装材の周縁部3a(熱融着部)と蓄電デバイス素子4との間に配置されていてもよいし、図7に示すように、蓄電デバイス用樹脂フィルム1で蓄電デバイス素子4を覆ってもよいし、図8に示すように、さらに金属端子2の表面の一部が蓄電デバイス用樹脂フィルム1で覆われていてもよい。さらに、図9に示すように、蓄電デバイス素子4が蓄電デバイス用樹脂フィルム1によって封止されるようにして、本開示の蓄電デバイス用樹脂フィルム1を、蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4との間に配置することもできる。また、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、外装材3と金属端子2との間に存在してヒートシールされていてもよい。
【0101】
[外装材3]
外装材3としては、少なくとも、基材層31、バリア層33、及び熱融着性樹脂層35をこの順に有する積層体からなる積層構造を有するものが挙げられる。図4に、外装材3の断面構造の一例として、基材層31、必要に応じて設けられる接着剤層32、バリア層33、必要に応じて設けられる接着層34、及び熱融着性樹脂層35がこの順に積層されている態様について示す。外装材3においては、基材層31が外層側になり、熱融着性樹脂層35が最内層になる。蓄電デバイスの組み立て時に、蓄電デバイス素子4の周縁に位置する熱融着性樹脂層35同士を接面させて熱融着することにより蓄電デバイス素子4が密封され、蓄電デバイス素子4が封止される。なお、図5から図9には、エンボス成形などによって成形されたエンボスタイプの外装材3を用いた場合の蓄電デバイス10を図示しているが、外装材3は成形されていないパウチタイプであってもよい。なお、パウチタイプには、三方シール、四方シール、ピロータイプなどが存在するが、何れのタイプであってもよい。また、図10及び図11のように、蓄電デバイス素子4の周囲に外装材3を巻き付ける胴巻きタイプであってもよい。」
カ.「【0116】
(バリア層33)
外装材において、バリア層33は、外装材の強度向上の他、蓄電デバイス内部に水蒸気、酸素、光などが侵入することを防止する機能を有する層である。バリア層33は、金属層、すなわち、金属で形成されている層であることが好ましい。バリア層33を構成する金属としては、具体的には、アルミニウム、ステンレス、チタンなどが挙げられ、好ましくはアルミニウムが挙げられる。バリア層33は、例えば、金属箔や金属蒸着膜、無機酸化物蒸着膜、炭素含有無機酸化物蒸着膜、これらの蒸着膜を設けたフィルムなどにより形成することができ、金属箔により形成することが好ましく、アルミニウム箔により形成することがさらに好ましい。外装材の製造時に、バリア層33にしわやピンホールが発生することを防止する観点からは、バリア層は、例えば、焼きなまし処理済みのアルミニウム(JIS H4160:1994 A8021H-O、JIS H4160:1994 A8079H-O、JIS H4000:2014 A8021P-O、JIS H4000:2014 A8079P-O)など軟質アルミニウム箔により形成することがより好ましい。」
キ.「【0134】
本開示の蓄電デバイスは、電池(コンデンサー、キャパシター等を含む)などの蓄電デバイスである。また、本開示の蓄電デバイスは、一次電池、二次電池のいずれであってもよいが、好ましくは二次電池に使用される。二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、全固体電池、半固体電池、擬固体電池、ポリマー電池、全樹脂電池、鉛蓄電池、ニッケル・水素蓄電池、ニッケル・カドミウム蓄電池、ニッケル・鉄蓄電池、ニッケル・亜鉛蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサー、キャパシター等が挙げられる。これらの二次電池の中でも、本開示の蓄電デバイスとして、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、全固体電池が挙げられ、特に全固体電池に好適に使用される。」
ク.【図7】
「
[図:0001416525000001.jpg]
」
ケ.【図8】
「
[図:0001416525000002.jpg]
」
(2)上記記載から、甲第1号証には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア.甲第1号証に記載の「蓄電デバイス10」は、上記「(1)オ.」の段落【0100】、「(1)キ.」の段落【0134】の記載によれば、蓄電デバイス用樹脂フィルム1、金属端子2、外装材3及び蓄電デバイス素子4から構成され、全固体電池に好適に使用されるものである。
イ.上記「(1)ウ.」の段落【0026】、「(1)エ.」の段落【0035】の記載によれば、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、吸水剤と樹脂を含む樹脂フィルムからなり、蓄電デバイス素子4を覆うものである。
ウ.上記「(1)エ.」の段落【0033】の記載によれば、金属端子2は、外装材3の外側に突出しており、蓄電デバイス素子4が備える正極及び負極の各々に接続されるものである。
エ.上記「(1)オ.」の段落【0100】、【0101】の記載によれば、外装材3は、少なくとも、基材層31、バリア層33及び熱融着性樹脂層35をこの順に有する積層体からなる積層構造を有し、エンボス成形によって成形されたエンボスタイプであり、蓄電デバイス用樹脂フィルム1を蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4の間に配置し、外装材3のフランジ部をヒートシールして密封させることにより、外装材3で蓄電デバイス素子4を封止するものである。
オ.上記「(1)エ.」の段落【0033】の記載によれば、蓄電デバイス素子4は、正極及び負極を備えるものである。
カ.上記「(1)カ.」の段落【0116】の記載によれば、バリア層33は、金属層である。
キ.上記「(1)オ.」の段落【0100】の記載、「(1)ク.」の【図7】、「(1)ケ.」の【図8】から、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、蓄電デバイス素子4に接するように蓄電デバイス素子4を覆い、少なくとも金属端子2と蓄電デバイス素子4の接続部においては金属端子2の表面を覆っていることが見てとれる。
ク.上記「(1)ク.」の【図7】、「(1)ケ.」の【図8】から、外装材3は、フランジ部において互いに接合される2つの外装部材を含み、それぞれの外装部材は、蓄電デバイス素子4の少なくとも一部を収容する凹部を有し、当該凹部は、フランジ部の近傍においてテーパ面を形成していることが見てとれる。
(3)以上のことから、【図7】及び【図8】に図示された蓄電デバイス10に着目し、上記記載及び図面を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「蓄電デバイス用樹脂フィルム1、金属端子2、外装材3及び蓄電デバイス素子4から構成され、全固体電池に好適に使用される蓄電デバイス10であって、
蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、吸水剤と樹脂を含む樹脂フィルムからなり、蓄電デバイス素子4を覆うものであり、
金属端子2は、外装材3の外側に突出しており、蓄電デバイス素子4が備える正極及び負極の各々に接続されるものであり、
外装材3は、少なくとも、基材層31、バリア層33及び熱融着性樹脂層35をこの順に有する積層体からなる積層構造を有し、エンボス成形によって成形されたエンボスタイプであり、蓄電デバイス用樹脂フィルム1を蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4の間に配置し、外装材3のフランジ部をヒートシールして密封させることにより、外装材3で蓄電デバイス素子4を封止するものであり、
蓄電デバイス素子4は、正極及び負極を備え、
バリア層33は、金属層であり、
蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、蓄電デバイス素子4に接するように蓄電デバイス素子4を覆い、少なくとも金属端子2と蓄電デバイス素子4の接続部においては金属端子2の表面を覆っており、
外装材3は、フランジ部において互いに接合される2つの外装部材を含み、それぞれの外装部材は、蓄電デバイス素子4の少なくとも一部を収容する凹部を有し、当該凹部は、フランジ部の近傍においてテーパ面を形成している、
蓄電デバイス10。」
2.甲第2号証
(1)甲第2号証(特開2021-176134号公報)には、以下の記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
「【0070】
絶縁層(DLC)の表面に、ステンレス(SUS)粒子(球形、直径 120μm)が配置された。SUS粒子は、導電性異物に相当する。電池要素が筐体に収納された。-80kPaの条件で、筐体が減圧封止された。以上より、No.1に係る供試電池(全固体リチウムイオン電池)が製造された。」
(2)上記(1)の記載を総合勘案すると、甲第2号証には、次の技術事項が記載されている。
「全固体リチウムイオン電池において、電池要素が収納された筐体を減圧封止すること。」
第5 当審の判断
1.本件発明1に対する申立理由(進歩性)について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア.甲1発明における「蓄電デバイス10」は、「全固体電池に好適に使用される」ものであり、本件発明1でいう「全固体電池」に相当する。また、甲1発明における「蓄電デバイス素子4」は、「全固体電池に好適に使用される蓄電デバイス10」を構成し、かつ、「正極及び負極を備える」ものであるから、正極及び負極から外部へ電力を供給する、発電要素の実体としての「発電体」を構成するものであり、本件発明1でいう「積層体」と甲1発明における「蓄電デバイス素子4」とは、「発電体」である点で共通するといえる。更に、甲1発明における「蓄電デバイス用樹脂フィルム1」は、「吸水剤と樹脂を含む樹脂フィルム」からなり、吸水剤と樹脂を含む樹脂フィルムは絶縁性を有するものであるから、本件発明1でいう「絶縁フィルム」に相当する。加えて、甲1発明における「外装材3」は、本件発明1でいう「外装体」に相当する。
そして、甲1発明における「蓄電デバイス10」は、「蓄電デバイス用樹脂フィルム1」、「外装材3及び蓄電デバイス素子4から構成され」るものであり、本件発明1でいう「全固体電池」が、「発電体」と、「絶縁フィルム」と、「外装体」とを含むことに相当する。また、上記で述べたように、甲1発明における「蓄電デバイス素子4」は、発電要素の実体としての「発電体」を構成するものであり、本件発明1でいう「積層体」とは、「少なくとも1つの発電要素を含む」点で共通する。更に、甲1発明における「蓄電デバイス用樹脂フィルム1」は、「蓄電デバイス素子4を覆う」ものであり、本件発明1でいう「絶縁フィルム」が、「発電体」を「囲むように配置された」ことに相当する。加えて、甲1発明における「外装材3」は、「蓄電デバイス用樹脂フィルム1を蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4の間に配置し」「蓄電デバイス素子4を封止する」ものであり、本件発明1でいう「外装体」が、「発電体」及び「絶縁フィルムを内部に収容する」ことに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「全固体電池であって、少なくとも1つの発電要素を含む発電体と、前記発電体を囲むように配置された絶縁フィルムと、前記発電体および前記絶縁フィルムを内部に収容する外装体と」を含む点では一致する。
しかしながら、「発電体」について、本件発明1では、「積層体」を構成することを特定するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点で相違する。
イ.甲1発明における「外装材3」は、「基材層31、バリア層33及び熱融着性樹脂層35をこの順に有する積層体からなる積層構造を有し」、「バリア層33は、金属層」であり、本件発明1でいう「外装体」が、「金属ラミネートフィルム用いて形成されて」いることに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記外装体は、金属ラミネートフィルムを用いて形成されて」いる点で一致する。
ウ.「外装体」について、本件発明1では、「内部は減圧されて」いることを特定するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点で相違する。
エ.「積層体」について、本件発明1では、「6つの面を有する直方体状の形状」を有することを特定するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点で相違する。
オ.「絶縁フィルム」について、本件発明1では、「密封されて」いないことを特定するのに対して、甲1発明では、「蓄電デバイス素子4に接するように蓄電デバイス素子4を覆い、少なくとも金属端子2と蓄電デバイス素子4の接続部においては金属端子2の表面を覆って」いることを特定するものの、「密封されて」いるか否かは明らかでない点で相違する。
カ.甲1発明における「外装材3」は、「2つの外装部材を含み、それぞれの外装部材は、蓄電デバイス素子4の少なくとも一部を収容する凹部」を有するものであり、本件発明1でいう「外装体」が、「発電体」の「少なくとも一部が収容される」「凹部を有する第1の外装部材と、第2の外装部材と」を含むことに相当する。また、甲1発明における「外装材3」は、「2つの外装部材」が「フランジ部において互いに接合される」ものであり、本件発明1でいう「外装体」において、「第2の外装部材」が、「第1の外装部材と貼り合わせられている」ことに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記外装体は、前記発電体の少なくとも一部が収容される凹部を有する第1の外装部材と、前記第1の外装部材と貼り合わせられている第2の外装部材と」を含む点では一致する。
しかしながら、「第1の外装部材」について、本件発明1では、「凹部」の形状が「直方体状」であることを特定するのに対して、甲1発明では、「凹部は、フランジ部の近傍においてテーパ面を形成する」点で相違する。
また、「発電体」について相違するところがあるのは、上記「ア.」にも記載したとおりである。
キ.甲1発明における「外装材3」は、「エンボス成形によって成形されたエンボスタイプであり」、「蓄電デバイス素子4の少なくとも一部を収容する凹部」を有するものであるから、甲1発明における「凹部」は、エンボス成形の際に予め成形されたものであるといえ、本件発明1でいう「凹部」が、「発電体」を「収容する前に予め形成されて」いることに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記凹部は、前記発電体を収容する前に予め形成されて」いる点では一致する。
但し、「発電体」について相違するところがあるのは、上記「ア.」にも記載したとおりである。
ク.甲1発明における「蓄電デバイス用樹脂フィルム1」は、「蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4の間に配置」されるものであり、本件発明1でいう「絶縁フィルム」が、「発電体」と「外装体との間に配置されている」ことに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「前記絶縁フィルムの少なくとも一部は、前記発電体と前記外装体との間に配置されている」点では共通する。
しかしながら、「絶縁フィルム」について、本件発明1では、「少なくとも一部は、前記6つの面のそれぞれと前記外装体との間に配置されている」ことを特定するのに対して、甲1発明では、「外装材3と蓄電デバイス素子4の間に配置」されることを特定するものの、蓄電デバイス素子4の外形を具体的に画定する外面との関係については明らかでない点で相違する。
よって、上記「ア.」ないし「ク.」によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「全固体電池であって、
少なくとも1つの発電要素を含む発電体と、
前記発電体を囲むように配置された絶縁フィルムと、
前記発電体および前記絶縁フィルムを内部に収容する外装体とを含み、
前記外装体は、金属ラミネートフィルムを用いて形成されており、
前記外装体は、前記発電体の少なくとも一部が収容される凹部を有する第1の外装部材と、前記第1の外装部材と貼り合わせられている第2の外装部材とを含み、
前記凹部は、前記発電体を収容する前に予め形成されており、
前記絶縁フィルムの少なくとも一部は、前記発電体と前記外装体との間に配置されている、全固体電池。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
「発電体」について、本件発明1では、「6つの面を有する直方体状の形状」を有する「積層体」を構成することを特定するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。
[相違点2]
「外装体」について、本件発明1では、「内部は減圧されて」いることを特定するのに対して、甲1発明では、そのような特定がされていない点。
[相違点3]
「絶縁フィルム」について、本件発明1では、「密封されて」いないことを特定するのに対して、甲1発明では、「蓄電デバイス素子4に接するように蓄電デバイス素子4を覆い、少なくとも金属端子2と蓄電デバイス素子4の接続部においては金属端子2の表面を覆って」いることを特定するものの、「密封されて」いるか否かは明らかでない点。
[相違点4]
「第1の外装部材」について、本件発明1では、「凹部」の形状が「直方体状」であることを特定するのに対して、甲1発明では、「凹部は、フランジ部の近傍においてテーパ面を形成する」点。
[相違点5]
「絶縁フィルム」について、本件発明1では、「少なくとも一部は、前記6つの面のそれぞれと前記外装体との間に配置されている」ことを特定するのに対して、甲1発明では、「外装材3と蓄電デバイス素子4の間に配置」されることを特定するものの、蓄電デバイス素子4の外形を具体的に画定する外面との関係については明らかでない点。
(2)判断
そこで、事案に鑑み、まず上記相違点3について検討する。
上記「(1)オ.」に記載したように、甲1発明では、蓄電デバイス用樹脂フィルム1が密封されているか否かは明らかでないところ、上記「第4 1.(2)キ.」に記載したように、甲第1号証の【図7】、【図8】から、少なくとも図面上は、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、蓄電デバイス素子4に接するように蓄電デバイス素子4を覆い、少なくとも金属端子2と蓄電デバイス素子4の接続部においては金属端子2の表面を覆っていることが見てとれる。ここで、本件特許明細書の段落【0015】に記載された事項を参酌すれば、本件発明1において、絶縁フィルムが密封されていないことは、具体的には、絶縁フィルムにおいて、絶縁フィルムに囲まれる空間の内側と外側をつなぎ、絶縁フィルムに囲まれる空間の内側を外側から減圧するための、隙間や貫通孔などの連通部が存在することを意味するものと解される。そうすると、甲第1号証の【図7】、【図8】には、蓄電デバイス用樹脂フィルム1に囲まれる空間の内側と外側をつなぐ、隙間や貫通孔などの連通部に相当するものは明示されておらず、また、甲第1号証には、蓄電デバイス用樹脂フィルム1に囲まれる空間の内側を外側から減圧することも、記載も示唆もされていない以上、甲第1号証において、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は密封されていない、という技術的思想が記載されているとは認められない。
また、上記「第4 1.(1)イ.」に摘記したように、甲1発明は、蓄電デバイスの内部への水分の浸入を抑制することを目的とするものであることを考慮すれば、甲1発明において、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は、蓄電デバイス素子4をなるべく隙間がないように覆う方が望ましいことは明らかであり、甲1発明において、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は密封されていないようにすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえず、むしろ阻害要因が存在している。そして、本件発明1では、本件特許明細書の段落【0011】、【0015】に記載されているように、絶縁フィルムが密封されていないことによって、絶縁フィルム内を減圧することができ、その結果、積層体が充分に加圧されて、全固体電池の特性を向上させるという効果を奏することに鑑みれば、甲1発明において、相違点3に係る構成を導き出すことが、設計的事項であるともいえない。更に、甲第2号証には、全固体リチウムイオン電池において、電池要素が収納された筐体を減圧封止することが記載されているものの、甲第2号証における全固体リチウムイオン電池は、そもそも、本件発明1における「絶縁フィルム」に相当する構成を有さないものであるから、甲第2号証には、本件発明1における「絶縁フィルム」に相当するものを密封しないことも、記載も示唆もされていない。
したがって、甲第2号証を参照したとしても、甲1発明において、相違点3に係る構成を導き出すことはできない。
ここで、甲第1号証に記載された事項について、特許異議申立人は特許異議申立書において、構成要件1Hに関し、本件明細書には、「絶縁フィルム(F)には、絶縁フィルム(F)に囲まれる空間の内側と外側とをつなぐ連通部が存在することが好ましい。」(【0015】)と記載されており、甲第1号証の、図7,8において、蓄電デバイス素子4と金属端子2との接合部分は、蓄電デバイス用樹脂フィルム1に囲まれる空間の内側と外側をつなぐ連通部に相当し、当該連通部において、蓄電デバイス素子4は密封されておらず、蓄電デバイス用柑脂フィルム1で覆われておらず、甲第1号証には、密封される態様として、「さらに、図9に示すように、蓄電デバイス素子4が蓄電デバイス用樹脂フィルム1によって封止されるようにして、本開示の蓄電デバイス用樹脂フィルム1を、蓄電デバイス10の外装材3と蓄電デバイス素子4との間に配置することもできる。」(【0035】)との記載もある旨を主張している(特許異議申立書の第22頁第9~20行)。
しかしながら、上記で述べたように、甲第1号証の【図7】、【図8】において、少なくとも図面上は、蓄電デバイス用樹脂フィルム1は金属端子2と蓄電デバイス素子4の接続部における金属端子2の表面を覆っており、また、蓄電デバイス用樹脂フィルム1に囲まれる空間の内側と外側をつなぐ、隙間や貫通孔などの連通部に相当するものも明示されていない。また、甲第1号証には、段落【0033】に、外装材3で蓄電デバイス素子4を封止することが記載されているところ、段落【0035】において、「図9に示すように、蓄電デバイス素子4が蓄電デバイス用樹脂フィルム1によって封止されるようにして」と記載されていることの技術的意味は、【図9】に図示されるように、蓄電デバイス用樹脂フィルム1が蓄電デバイス素子4を封止する外装材3の内面と接するように一体となって、蓄電デバイス10の外形を画定する外装部材としての役割も備えることであると解される。そうすると、段落【0035】における上記の記載は、【図7】、【図8】に図示されるような、蓄電デバイス用樹脂フィルム1が蓄電デバイス10の外形を画定する外装部材としての役割を備えていない蓄電デバイス10に対してまで、蓄電デバイス用樹脂フィルム1が密封されているか否かについての何らかの示唆をするものではない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
したがって、他の相違点(相違点1、2、4、5)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2.本件発明2及び3に対する申立理由(進歩性)について
本件発明2は、上記「1.」で検討した本件発明1の発明特定事項に対して、「前記絶縁フィルムの少なくとも一部は、前記6つの面のそれぞれと前記外装体との間に配置されている」を「前記絶縁フィルムは、前記6つの面のそれぞれと対向する複数の面を有する」に変更したもの、すなわち、上記「1.(1)」における[相違点5]に係る構成を変更し、その他の発明特定事項を維持したものに相当する。また、本件発明3は、上記「1.」で検討した本件発明1の発明特定事項に対して、「前記絶縁フィルムの少なくとも一部は、前記6つの面のそれぞれと前記外装体との間に配置されている」を「前記積層体は、正極タブを有する正極集電体と、負極タブを有する負極集電体とを含み、前記正極タブは、第1の接続部で正極リードに接続され、前記負極タブは、第2の接続部で負極リードに接続され、前記絶縁フィルムは、前記第1の接続部と前記第2の接続部とを覆っている」に変更したもの、すなわち、上記「1.(1)」における[相違点5]に係る構成を変更し、その他の発明特定事項を維持したものに相当する。
そして、本件発明1に対して、[相違点5]に係る構成を変更し、その他の発明特定事項を維持したものに相当する本件発明2及び3は、少なくとも上記[相違点3]に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3.本件発明4に対する申立理由(進歩性)について
請求項4は請求項1ないし3のいずれか1項を引用するものであり、少なくとも上記[相違点3]に係る発明特定事項を備えるものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4.まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし4に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては取り消すことができない。
また、他に本件発明1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700724