特許異議申立
2026-700316
磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク
- 審判番号
- 2026-700316
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-138443
- 登録番号
- 7759211
- 請求日
- 2026年04月14日
- 審決日
- 2026年07月06日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社UACJ
- 【権利者】古河電気工業株式会社
- 【異議申立人】山田 友則
- 審判長/審判官
- 審判長 伊藤 隆夫
- 審判官 樫本 剛
- 審判官 大濱 宏之
- 分類
- P1651.121-Y (G11B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7759211号発明「磁気ディスク用アルミニウム合金基板及び当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板を用いた磁気ディスク」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7759211号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7759211号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和3年8月26日に出願され、令和7年10月15日にその特許権の設定登録がされ、同年10月23日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和8年4月14日に特許異議申立人(以下「申立人」という。)山田友則により特許異議の申立てがされた。
2 本件発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明4」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1~4の記載は次のとおりである。
〔本件発明1〕【請求項1】
Mg:1.00~3.50mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ヤング率が68.7GPa以上で、密度が2.72g/cm3以下で、導電率が32.0%IACS以上であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
〔本件発明2〕【請求項2】
前記アルミニウム合金が、Fe:1.80mass%以下、Mn:1.80mass%以下、Ni:3.00mass%以下、Cu:0.40mass%以下、Zn:0.70mass%以下、Cr:0.40mass%以下、Si:0.60mass%以下及びBe:0.0020mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
〔本件発明3〕【請求項3】
前記アルミニウム合金が、Sr:0.100mass%以下、Na:0.100mass%以下及びP:0.100mass%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を更に含有する、請求項1又は2に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
〔本件発明4〕【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気ディスク用アルミニウム合金基板の表面に、無電解Ni-Pめっき処理層と、当該無電解Ni-Pめっき処理層の上の磁性体層とを有することを特徴とする磁気ディスク。
3 特許異議申立理由
特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
本件発明1は、甲第2号証の発明及び甲第4号証の発明、又は甲第2号証の発明及び甲第7号証の発明(甲第5号証の知見に基づく甲第6号証のシミュレーション結果を反映)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件発明2~4は、本件発明1の理由に加え、甲第2号証の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件請求項1~4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
甲第2号証:特開2020-87485号公報
甲第4号証:特開昭63-257917号公報
甲第5号証:Kent R. Van Horn、「ALMINUM Vol.I. Properties, Physical Metallurgy and Phase Diagrams」、American Society for Metals、第2刷、1967年、174頁
甲第6号証:シミュレーション結果報告書(甲第5号証に基づく実証結果)
甲第7号証:特開2017-186597号公報
4 甲号証について
(1)甲第2号証について
ア 記載事項
甲第2号証には次の記載がある。なお、以降の下線は当審において付されたものである。
「【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金板、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートに関する。」
「【0055】
[サブストレート]
本実施形態に係るサブストレートは、前記した本実施形態に係るブランクからなる。そして、本実施形態に係るサブストレートは、本実施形態に係るブランクの端面に切削加工を施し、主面に研削加工を施したものであって、化学組成は、前記したブランクおよびアルミニウム合金板から変化しない、つまり、当該ブランクおよびアルミニウム合金板と同様である。
また、本実施形態に係るサブストレートのヤング率、密度、E/ρ、耐力などの特性値は、本実施形態に係るブランクから変化しない、つまり、当該ブランクと同様である。よって、本実施形態に係るブランクについて求めた特性値をサブストレートについての特性値とみなすことができるし、本実施形態に係るサブストレートについて求めた特性値をブランクについての特性値とみなすこともできる。」
「【0060】
(ラボ試作:供試材の準備)
No.1-1~1-12に係る供試材は、表1に示す化学組成のアルミニウム合金を用い、以下の条件に基づいて製造した。
【0061】
まず、溶湯を35mm(厚さ)×145mm(幅)×250mm(長さ)の鋳型に注入してスラブを作製した。そして、得られたスラブの両面(厚さ方向)を其々2mm面削した。その後、540℃で8時間の均質化熱処理を施した。そして、厚さが2.3mmとなるまで熱間圧延(終了温度:約300℃)を施し、厚さが0.74mmとなるまで冷間圧延を施した。その後、矯正焼鈍を模した焼鈍(昇温速度:約80℃/h、焼鈍温度:約320℃、保持時間:約3時間)を施して、ブランク(O調質材)を製造した。
なお、耐力を測定する引張試験片については、前記の冷間圧延板からJIS5号引張試験片を加工して、前記の矯正焼鈍と同じ焼鈍処理を施して作製した。」
「【0064】
製造した各供試材について、ヤング率、密度、E/ρ、耐力、平坦度を、以下のようにして評価した。
【0065】
(ヤング率)
ヤング率は、JIS Z 2280:1993(金属材料の高温ヤング率試験方法)に準拠して、圧延方向を長手方向とする60mm×10mm×約0.7mm厚の試験片を作製し、その試験片を用いて、大気雰囲気下、室温で自由共振法により測定した。試験装置としては、日本テクノプラス社製JE-RT型を用いた。ヤング率が71.0GPa以上のものを「〇」(合格)、71.0GPa未満のものを「×」(不合格)と評価した。
【0066】
(密度)
密度は、JIS Z8807:2012(幾何学的測定による密度及び比重の測定方法)に準拠して、マイクロメータとノギスを使用して体積を測定し、電子天秤を使用して質量を測定し、質量を体積で除し供試材の密度(g/cm3)を求めた。密度が2.80g/cm3以下のものを「〇」(合格)、2.80g/cm3を超えるのものを「×」(不合格)と評価した。」
「【0070】
表1、2に、合金組成、ヤング率、密度、E/ρ、耐力の評価の結果を示すとともに、表2は、平坦度(詳細には、平坦度の平均値+3σ)の評価の結果も示す。
なお、表1、2の「Fe+Mn+Ni」は、Fe、MnおよびNiの含有量の合計を示す。
【0071】
【表1】
[図:0001437445000001.jpg]
」
イ 甲2発明
上記アから、甲第2号証には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。なお、各構成の末尾括弧内に、対応する記載箇所を付した。
〔甲2発明〕
表1に示す化学組成のアルミニウム合金を用いて製造したNo.1-5又は1-6に係る供試材のブランクの端面に切削加工を施し、主面に研削加工を施した磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートであって、(【0001】、【0055】、【0060】、【0061】)
前記サブストレートの化学組成は、前記ブランク及びアルミニウム合金板から変化しない、つまり、当該ブランク及びアルミニウム合金板と同様であり、(【0055】)
前記サブストレートのヤング率、密度などの特性値は、ブランクから変化しない、つまり、当該ブランクと同様であり、ブランクについて求めた特性値をサブストレートについての特性値とみなすことができ、(【0055】)
前記No.1-5に係る供試材(ブランク)の製造に用いられたアルミニウム合金の化学組成は、Mg:2.0%、Cr:0.21%、Si:0.04%、Cu:0.00%、Fe:0.93%、Mn:0.0%、Ni:1.8%、Sr:0ppm、残部がAl及び不可避的不純物であり、(【0060】、【0061】、【0071】【表1】)
前記No.1-5に係る供試材(ブランク)のヤング率は74.7GPaであり、密度は2.72g/cm3であり、(【0070】、【0071】【表1】)
前記No.1-6に係る供試材(ブランク)の製造に用いられたアルミニウム合金の化学組成は、Mg:2.1%、Cr:0.21%、Si:0.04%、Cu:0.00%、Fe:0.48%、Mn:0.5%、Ni:1.8%、Sr:90ppm、残部がAl及び不可避的不純物であり、(【0060】、【0061】、【0071】【表1】)
前記No.1-6に係る供試材(ブランク)のヤング率は73.6GPaであり、密度は2.72g/cm3である(【0070】、【0071】【表1】)
No.1-5又は1-6に係る供試材のブランクから製造された磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート。
(2)甲第4号証について
ア 記載事項
甲第4号証には次の記載がある。
「本発明は、コンピュータの外部メモリとして利用されている磁気ディスク用で、高加工性、高強度のAlサブストレートの製造方法に関するものである。」(1頁左欄19行~右欄2行)
「第2表に示す化学成分(vt%)を有するAl合金を通常の方法により溶製、鋳造し、得られた鋳塊に均熱処理を施した後、熱間圧延を行い、同表に示す最終冷間加工率の冷間圧延を実施し、ディスク素材を得た。
次いで、このディスク素材をブランク打抜きし、同表に示す条件でブランク焼鈍を施した。その後、同表に示すように、研削→D/Tによるサブストレート加工を実施し、その際、一部についてはサブストレート焼鈍を施した。得られたサブストレートは130φ×40φ×1.27tの寸法であった。
このサブストレートについて、強度及び平坦度を調べると共に、金属間化合物のサイズ等を調べた。その結果を第4表に示す。なお、平坦度は、サブストレート加工後、加熱(250℃X4hr、70℃X1000hrの2種類)を施して経時変化を促進させ、レーザー干渉計により測定し、10個の平均値で示した。」(3頁右下欄14行~4頁左上欄12行)
イ 甲4技術
上記アから、甲第4号証には次の技術(以下「甲4技術」という。)が記載されている。
〔甲4技術〕
Al合金から得られたディスク素材をブランク打抜きし、ブランク焼鈍を施し、その後、研削→D/Tによるサブストレート加工を実施し、その際、一部についてはサブストレート焼鈍を施して得られた磁気ディスク用Alサブストレートについて、
サブストレート加工後、250℃X4hrの加熱を施して経時変化を促進させて、平坦度を測定する技術。
(3)甲第5号証について
甲第5号証には次の記載がある。なお、仮訳として申立人が作成したものを付した。
「
[図:0001437445000002.jpg]
」(167頁)
(仮訳:
[図:0001437445000003.jpg]
)
(4)甲第6号証について
甲第6号証には、本件明細書の表1及び表2についてのシミュレーション計算値が示されており、その内容は以下のとおりである。
「
[図:0001437445000004.jpg]
」
「
[図:0001437445000005.jpg]
」
「
[図:0001437445000006.jpg]
」
「
[図:0001437445000007.jpg]
」
「
[図:0001437445000008.jpg]
」
「
[図:0001437445000009.jpg]
」
「
[図:0001437445000010.jpg]
」
「
[図:0001437445000011.jpg]
[図:0001437445000012.jpg]
」
(5)甲第7号証について
ア 記載事項
甲第7号証には次の記載がある。
「【0001】
本発明は、磁気ディスク用アルミニウム合金ブランクおよび磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートに関する。」
「【0046】
次に、本発明の効果を奏する実施例とそうでない比較例を対比して本発明に係るブランクおよびサブストレートについてより詳細に説明する。
表1のNo.1~33に示す化学組成(質量%)のAl合金を用い、No.1~15、30~33に係るサブストレートを以下のようにして製造した。なお、No.16~29は、熱間割れが生じたため、サブストレートを製造できなかった(表2参照)。ここで、表1中の「-」は該当する成分を添加しておらず、検出限界値未満であることを示し、下線は本発明の要件を満たしていないことを示している。また、表1の「Fe,Mn,Niの合計量」および「Cr,Ti,Zrの合計量」の算出にあたり、「-」で示されている含有量は0質量%として計算を行った。」
「【0056】
表2に、No.1~15、30~33に係るサブストレートに対して行った測定結果および評価結果を示す(なお、前記したようにNo.16~29に係るサブストレートは熱間割れが生じたため、ヤング率、耐力、表面に形成した無電解Ni-Pめっき膜の平滑性については評価および測定を行わなかった。)。ここで、表2中の下線は本発明の要件を満たしていないことを示している。
【0057】
【表1】
[図:0001437445000013.jpg]
」
「【0058】
【表2】
[図:0001437445000014.jpg]
」
イ 記載技術
上記アから、甲第7号証には次の技術(以下「甲7技術」という。)が記載されているといえる。なお、各構成の末尾括弧内に、対応する記載箇所を付した。
〔甲7技術〕
磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレートとして、(【0001】)
化学組成を、表1のNo.7に示される
Mg:2.91%、Si:0.05%、Fe:0%、Mn:0%、Ni:2.8%、Cr:0%、Ti:0%、Zr:1.1%、Cu:0%、Zn:0%、残部がAl及び不可避的不純物
とするAl合金を用いて、(【0046】、【0057】【表1】)
ヤング率の測定結果が76GPaとなるサブストレート(【0058】【表2】)
を製造する技術。
5 当審の判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「No.1-5又は1-6に係る供試材のブランクから製造された磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート」は、本件発明1の「磁気ディスク用アルミニウム合金基板」に相当する。
甲2発明の、No.1-5及びNo.1-6に係る供試材のブランクから製造された磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)は、化学組成が、それぞれNo.1-5及びNo.1-6に係る供試材(ブランク)の製造に用いられたアルミニウム合金と同様であり、Mg:2.0%及び2.1%、その残部がAl及び不可避的不純物であるから、いずれも本件発明1の「Mg:1.00~3.50mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、」に相当する構成を備えるものである。
甲2発明の、No.1-5及びNo.1-6に係る供試材のブランクから製造された磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)は、ヤング率、密度などの特性値が当該ブランクと同様であり、ヤング率がそれぞれ74.7GPa及び73.6GPa、密度が2.72g/cm3及び2.72g/cm3であるから、いずれも本件発明1の「ヤング率が68.7GPa以上で、密度が2.72g/cm3以下で、」に相当する構成を備えるものである。
しかしながら、当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板が、本件発明1では「導電率が32.0%IACS以上である」とされているのに対し、甲2発明では導電率について特定されていない点で、両者は相違する。
以上から、本件発明1と甲2発明との間の一致点及び相違点は、次のとおりである。
〔一致点〕
Mg:1.00~3.50mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、ヤング率が68.7GPa以上で、密度が2.72g/cm3以下であることを特徴とする磁気ディスク用アルミニウム合金基板。
〔相違点〕
当該磁気ディスク用アルミニウム合金基板が、本件発明1では「導電率が32.0%IACS以上である」とされているのに対し、甲2発明では導電率について特定されていない点。
上記相違点について検討する。
ア 甲4技術の適用に基づく進歩性について
甲4技術は、磁気ディスク用Alサブストレートの平坦度を測定する際に、経時変化を促進させるために、250℃X4hrの加熱を施すものであり、甲2発明の磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)について平坦度を測定するために、当該加熱を施すことが容易に想到しえたとしても、当該加熱を施されたものが「導電率が32.0%IACS以上である」といえる根拠は甲4技術自体には存在しない。
次に、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の記載を参酌すると、「アルミニウム合金基板の導電率を32.0%IACS以上とすることにより、熱伝導率が高くなり、熱処理時に速く所望の温度に到達することができる。その結果、熱処理時のエネルギーを低減でき、省エネ性の向上に繋がる。」(【0055】)、「上記導電率が32.0%IACS未満の場合には、熱伝導率が低くなり、熱処理時において温度が上昇し難くなり、省エネ性が低下する。そのため導電率は32.0%IACS以上が好ましく、33.0%IACS以上がより好ましい。」(【0057】)との記載により、アルミニウム合金基板が実現すべき導電率の範囲が示されており、また、「焼鈍時の保持温度を190~260℃、保持時間を0.1~10時間の範囲とすることが好ましい。また、焼鈍時の保持温度は、190~240℃がより好ましく、190~220℃が更に好ましい。焼鈍時の保持時間は0.5~10時間がより好ましく、1~10時間が更に好ましい。このような条件で焼鈍処理を行うことにより固溶Mg等が析出するため、基板の導電率を上げることができる。」(【0067】)との記載により、保持温度を190~260℃、保持時間を最も好ましくは1~10時間とする焼鈍を行うことにより、固溶Mg等が析出するため、基板の導電率を上げることができることが示されている。
しかしながら、アルミニウム合金基板の導電率が、合金組成(元素の種類及び含有量)にも依存することは明らかであるところ、アルミニウム合金基板の合金組成及び焼鈍処理の条件(保持温度、保持時間)と、導電率(32.0%IACS以上)との関係について定性的に説明した記載は、本件明細書には存在しない。
また、本件明細書の【0080】【表1】及び【0088】【表2】には、実施例1~5、7として、導電率の測定結果が32.0%IACS以上となった合金組成及び焼鈍処理の条件(保持温度、保持時間)が具体的に示されている。
当該表1及び表2は、以下のとおりである。
「【表1】
[図:0001437445000015.jpg]
」
「【表2】
[図:0001437445000016.jpg]
」
しかしながら、甲2発明の、磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)の化学組成は、「Mg:2.0%、Cr:0.21%、Si:0.04%、Cu:0.00%、Fe:0.93%、Mn:0.0%、Ni:1.8%、Sr:0ppm、残部がAl及び不可避的不純物」(No.1-5)又は「Mg:2.1%、Cr:0.21%、Si:0.04%、Cu:0.00%、Fe:0.48%、Mn:0.5%、Ni:1.8%、Sr:90ppm、残部がAl及び不可避的不純物」(No.1-6)であり、上記実施例1~5、7はいずれも上記化学組成と同様の合金組成(元素の種類及び含有量)と解されうるものではない。したがって、甲2発明の磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)に250℃X4hrの加熱を施したとしても、「導電率が32.0%IACS以上である」ことを上記実施例との関係から合理的に推認することはできない。
よって、本件発明1は、甲2発明及び甲4技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 甲7技術(甲第5号証の知見に基づく甲第6号証のシミュレーション結果を反映)の適用に基づく進歩性について
甲7技術は、Al合金の化学組成を「Mg:2.91%、Si:0.05%、Fe:0%、Mn:0%、Ni:2.8%、Cr:0%、Ti:0%、Zr:1.1%、Cu:0%、Zn:0%、残部がAl及び不可避的不純物」とするものであるが、当該化学組成は、甲2発明の「Mg:2.0%、Cr:0.21%、Si:0.04%、Cu:0.00%、Fe:0.93%、Mn:0.0%、Ni:1.8%、Sr:0ppm、残部がAl及び不可避的不純物」(No.1-5)又は「Mg:2.1%、Cr:0.21%、Si:0.04%、Cu:0.00%、Fe:0.48%、Mn:0.5%、Ni:1.8%、Sr:90ppm、残部がAl及び不可避的不純物」(No.1-6)と同様の組成(元素の種類及び含有量)と解されうるものではないから、たとえ甲7技術に甲第5号証の知見に基づく甲第6号証のシミュレーション結果を反映したとしても、甲2発明の磁気ディスク用アルミニウム合金サブストレート(磁気ディスク用アルミニウム合金基板)について「導電率が32.0%IACS以上である」ことを甲7技術との関係から合理的に推認することはできない。
なお、申立人は、異議申立書において、甲7技術の適用について
「・また一方で、甲7発明の[0057]表1のNo.7の化学組成に関し、甲第6号証と同一手法でシミュレーションした導電率の理論値は、上述したように34%IACSであった。したがって、この甲7発明のNo.7の導電率を、本件明細書の測定方法(段落0086)で測定しても、本件特許発明1のE要素(導電率が32.O%IACS以上)を充足することは合理的に予測可能といえる。
・よって甲第1号証の特許庁審査官に認定の通り、甲2発明の[0071]表1のNo.1-6の例は、本件発明と組成がほぼ同じであることから、導電率が32.O%IACS以上とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。」
との主張を行っているが、上記判断のとおり、甲7技術のAl合金の化学組成は、甲2発明と同様ではないから、甲7技術について算出された導電率の理論値は、甲2発明の導電率を合理的に推認するための根拠とすることはできない。
以上から、本件発明1は、甲2発明及び甲7技術(甲第5号証の知見に基づく甲第6号証のシミュレーション結果を反映)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2~4について
本件発明2~4は、上記相違点に係る本件発明1の構成を備えるものであるから、上記(1)と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件発明1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2026-700316