特許異議申立
2024-700654
ポリウレタンフォーム、及び車両用防音材
- 審判番号
- 2024-700654
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-507247
- 登録番号
- 7414061
- 請求日
- 2024年07月11日
- 審決日
- 2024年11月01日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人志賀国際特許事務所
- 【異議申立人】佐藤 和弘
- 審判長/審判官
- 審判長 ▲吉▼澤 英一
- 審判官 松本 直子
- 審判官 近野 光知
- 分類
- P1651.121-Y (C08G) / P1651.536-Y (C08G) / P1651.537-Y (C08G)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7414061号発明「ポリウレタンフォーム、及び車両用防音材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7414061号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7414061号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、令和2年3月11日(優先権主張 平成31年3月20日)を国際出願日とする出願(特願2021-507247号)であって、令和6年1月5日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和6年7月11日に、本件特許の請求項1~9に係る特許に対して、特許異議申立人 佐藤 和弘(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審による令和6年8月22日付けの手続補正指令書(方式)の通知に対し、申立人から令和6年9月6日に、手続補正書(方式)が提出された。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~9に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。また、本件の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。
「【請求項1】
ポリオキシアルキレンポリオール、有機ポリイソシアネート化合物、発泡剤及び触媒を含む原料組成物(ただし、炭酸水素ナトリウムを前記ポリオキシアルキレンポリオール100重量部に対して5~30重量部含む場合を除く。)を発泡させたポリウレタンフォームであって、
前記ポリオキシアルキレンポリオールが、数平均分子量が1500~12000であり、かつ1分子中に活性水素含有基を2~4個有する開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合したポリオキシアルキレンポリオールを含み、
前記有機ポリイソシアネート化合物がトルエンジイソシアネートであり、
前記発泡剤が水を含み、
前記触媒がアミン系触媒及びスズ系触媒からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記原料組成物における前記発泡剤としての水の量が、前記ポリオキシアルキレンポリオールの100質量部に対して4質量部以上8質量部以下であり、
垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上であり、密度が5~25kg/m3であり、かつ、発泡セルの残膜率が40%以上94%未満である、
ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレンポリオールが1分子中に活性水素含有基を3個有する開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合したポリオキシアルキレンポリオールを含む、請求項1に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項3】
前記原料組成物が整泡剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項4】
前記原料組成物が、前記発泡剤として、沸点が70℃以下で、炭素数が8以下の炭化水素化合物をさらに含み、前記炭化水素化合物の炭素原子に結合する水素原子の一部は、ハロゲン原子に置換されていてもよい飽和炭化水素を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項5】
前記ハロゲン原子が塩素原子又はフッ素原子である、請求項4に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項6】
前記発泡セルの平均骨格径を平均セル径で除した値が0.10~0.25であり、かつ、前記発泡セルの平均セル径が50~400μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項7】
厚みが3~50mmである、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項8】
通気量が5~50L/minである、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリウレタンフォームを含む車両用防音材。」
第3 申立理由の概要
令和6年9月6日提出の手続補正書(方式)により補正された特許異議申立書(以下「申立書」という。)に記載された申立理由は、以下のとおりである。
1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)
本件発明1~9は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明及び甲2~4に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件明細書の発明の詳細な説明には、厚さが20mmの試料の吸音率を測定して、周波数3000Hzにおける吸音率と周波数4000Hzにおける吸音率が0.95以上であったことが記載されている(【0079】、【0086】、表3)が、20mm以外の厚さの試料の吸音率を測定した結果は記載されていないため、試料の厚さによって吸音率が変わることを考慮すると(甲3(図14)、128頁4~8行)及び甲4(図14))、厚さ20mm以外の任意の厚さの試料が、周波数3000Hzにおける吸音率と周波数4000Hzにおける吸音率が両方とも0.95以上という結果になることは推測できない。
これに対し、本件発明1に試料の厚さが20mmであることは記載されておらず、本件発明7は厚さ3~50mmという具合に20mm以外の厚さが記載されており、本件発明1~9の記載は発明の詳細な説明に発明として記載された範囲を超えている。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1~9に係る特許は、下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・申立人は発明の詳細な説明の記載(【0016】、【0081】)に基づき、光学顕微鏡を用いて軟質ポリウレタンフォームの断面を撮像してセル骨格の観察を試みたが、セル骨格の内周部の膜の有無を正確に判定することができなかった。上記記載に基づいて請求項に係る発明の実施をしようとした場合に、特定の部分にピントが合った画像(甲第5号証の図1、2参照)を用いて残膜率を求めるのか深度合成をした画像(甲第5号証の図3、4参照)を用いて残膜率を求めるのか不明であるし、いずれの画像を用いて残膜率を求めても残膜率に個人差が現れることは明らかであるから、発明の詳細な説明には、本件発明1~9について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
4 証拠方法
(1)申立人は、申立書に添付して提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証 特開2008-24773号公報
甲第2号証 ポリオール(PPG)輸送管理指針、2015年9月(第5版)、ウレタン原料工業会
甲第3号証 小林智企画編集、「遮音・吸音材料の組み合わせ・設計と評価 事例集」、2012年5月31日、第1版第1刷、株式会社技術情報協会、127~136頁「第7節 軟質ポリウレタンフォームを用いた多孔質材料の吸音・遮音・制振機能」
甲第4号証 子安勝、「遮音・吸音材料の基礎事項」、音響技術、1986年6月、No.54
甲第5号証 軟質ポリウレタンフォームの断面の画像、2024年5月17日、佐藤和弘作成
(以下「甲第1号証」~「甲第5号証」を、それぞれ「甲1」~「甲5」という。)
(2)当審が職権で提示した証拠方法は以下のとおりである。
参考文献1 特開2002-105194号公報
参考文献2 特開昭61-275349号公報
(以下「参考文献1」及び「参考文献2」を、それぞれ「参1」及び「参2」という。)
第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、申立人が申し立てる申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。
1 申立理由1(甲1を主引例とする進歩性)について
(1)本件発明1について
ア 甲1に記載された事項及び発明
(ア)甲1には、以下の事項が記載されている(当審注:下線は当審による。以下同じ。但し、【0038】及び【0041】の下線は甲1記載のとおり。)。
「【0001】
本発明は、自動車・車両部品、各種事務機器及び電気機器の吸音材料としてポリウレタンフォームに関するものであり、特に、シート,ドア,天井等の自動車・車両の内装材料として好適に使用される軟質ポリウレタンフォームに関するものである。」
「【0006】
本発明は、・・・吸音性をより一層高めた軟質ポリウレタンフォームを提供することを目的とする。」
「【0008】
即ち、本発明において、ポリオール成分としてスチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールを含有させることにより、ポリウレタン樹脂自体の強度を向上させ、かつ、ジエチレングリコールを添加することにより、架橋密度を向上させ、ポリウレタン樹脂自体の末端(表面)における膜強度を向上させるころができる。さらには、メチレンクロライドを発泡剤として使用することにより、反応性,安全性を確保しながらポリウレタンフォームを低密度に仕上げることができる。本発明は、これらのウレタンフォーム構造と低密度化により、高い吸音性と、自動車の燃費向上につながる軽量化を実現可能したものである。」
「【0011】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の軟質ポリウレタンフォームは、ポリオールとイソシアネートとを主成分とするポリウレタンフォーム配合物を発泡成形して得られたものであり、本発明では、ポリオール成分としてスチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールが含まれる。
【0012】
上記スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールを配合した理由は、ポリウレタン樹脂自身の強度を向上させる点からであり、本発明の効果付与に貢献する。
【0013】
上記スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールとして具体的には、市販の製品を用いることができ、例えば、ダウ・ケミカル日本(株)製の「ボラノール3943A」等が挙げられる。
【0014】
上記スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールは、後述する他のポリオールと混合して用いることが好適である。このようにスチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールを他のポリオールと混合することにより、樹脂化反応を遅延化させることが可能であり、反応速度を調整する上で有用である。
【0015】
その配合割合は、特に制限はないが、ポリオール成分100質量部に対して5~20質量部の範囲とすることが好適である。この数値を超えると、樹脂化反応が早まり、クラック等の現象が起きる場合がある。
【0016】
本発明では、上記スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールのほかに、他の種類のポリオールを併用することができ、例えば、数平均分子量が1000~10000、好ましくは2000~5000、OH価が20~100、好ましくは20~60であるポリオールを用いることができる。具体的には、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエステルポリエーテル系ポリオール等やこれらの変性ポリオールの1種を単独で又は2種以上を併用配合して使用することができる。併用配合する場合には、各重量比が1:1の割合で配合するように調製することが推奨される。本発明においては、特にポリエーテル系ポリオールを好適に使用することができる。
【0017】
また、上記各種ポリオールの市販品としては、「E-3030」(分子量3000、f=3、旭硝子(株)製ポリエーテル系ポリオール)、「ボラノール3943A」(ベースポリオール分子量3000、f=3、ダウ・ケミカル日本(株)製アクリロニトリル/スチレン43%グラフトコポリマーポリオール)、「3P56D」(分子量3000、f=3、三井化学ポリウレタン(株)製ポリエステルポリエーテル系ポリオール)、「N2200」(分子量約2200、日本ポリウレタン(株)製ポリエステル系ポリオール)等を挙げることができる。
【0018】
本発明に用いられるイソシアネートとしては、特に制限はなく、ポリウレタン発泡原料として用いられる通常のイソシアネートを用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリフェニルジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用して用いても良い。上記TDIとMDIとを併用する場合、その配合比としては通常TDI/MDI=100/0~50/50(重量比)の比であることが好ましい。このようなTDI、MDIとしては、市販品を用いることができ、TDIとして例えば、「コスモネートT-80」(三井化学ポリウレタン(株)製)等を挙げることができる。」
「【0022】
本発明に用いられる発泡剤としてメチレンクロライドが採用される。発泡剤としてメチレンクロライドのみを使用することができるほか、本発明を損なわない範囲で他の発泡剤、例えば、水やモノフッ化トリ塩化メタンなどの低沸点の化合物を使用することもできる。特に、メチレンクロライドと水とを併用することが好ましい。水は、発泡剤のほか架橋剤としても作用し得るのでメチレンクロライドと水とを併用すると強度が向上する。なお、水単独で発泡剤として使用すると、二酸化炭素が多く発生し、反応速度が非常に速くなり、反応のバランスが取れなくなる。また、発熱反応が大きくなり、火災発生につながる危険性があり、安全性を確保することができなくなる。メチレンクロライドの配合量は適宜調製され、通常全ポリオール100質量部に対して5~20質量部とすることができる。
【0023】
上記ポリウレタンフォーム配合物中には、通常のポリウレタンフォーム配合物と同様にして、必要に応じて触媒、整泡剤などを配合することができる。
【0024】
触媒としては、アミン系、錫系のいずれの触媒も好適に使用することができ、・・・。
【0025】
整泡剤としては、例えば、オルガノポリシロキサン、アルキルカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等を挙げることができる。整泡剤の配合量は、全ポリオール100質量部に対して0~5質量部、特に0.5~2質量部とすることができる。
【0026】
更に、本発明のポリウレタンフォーム配合物に対しては、必要に応じて各種添加剤を配合することができ、例えば、顔料等の着色剤、炭酸カルシウム等の充填剤、酸化防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、光安定剤、カーボンブラック等の導電性物質、抗菌剤などを配合することができる。」
「【0030】
また、上記軟質ポリウレタンフォームの密度は、0.020g/cm3以下の低密度に設定されることが好ましい。その理由は、本発明を自動車用材料等に用いる場合、自動車の低燃費やコスト低減の要請に応えることができるからである。
【0031】
本発明の軟質ポリウレタンフォームは、低通気性を有しかつ、膜強度を大きく向上させることができ、このようなポリマー骨格と気泡膜を有したフォーム構造により、音の減衰性を高めることができる。具体的な指標として、国際規格ISO 10534-2に準じて測定した垂直入射吸音率を用いると、試料厚10mmにおいて、その測定数値が、周波数1500Hzで30%以上、2000Hzで50%以上、3000Hzで60%以上、4000Hzで90%以上であることが好適である。ここで、垂直入射吸音率とは、インピーダンス管(音響管)と呼ばれる測定装置を用いてポリウレタンフォーム試料に対して垂直(入射角度が0度)に音が入射したときの吸音性を意味し、その測定の方法としては、伝達関数法と定在波比法がある。前者は、インピーダンス管内に設置した2つのマイクロフォン間の伝達関数により、ゲインと位相情報を取得し、垂直入射吸音率を算出するものであり、ランダムノイズによって迅速に全周波数帯域の計測を行うことができ、処理時間が非常に速く、またインピーダンス管を短く設定することができることで後者よりも利点がある。上記の国際規格ISO10534-2は、伝達関数法による垂直入射吸音率の測定方法である。」
「【0036】
[実施例,比較例]
下記表1に示すポリウレタン発泡成形体用材料(液温20℃)を調製し、これを温調した発泡コンベア上のモールド紙に注入し、ワンショット法により発泡成形してポリウレタンフォームを作成した。
【0037】
【表1】
[図:0001416516000001.jpg]
【0038】
上記の各成分の内容を下記のとおりである。
スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオール混合物
スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールとポリエーテルポリオールとの混合物、ダウ・ケミカル日本(株)製の「ボラノール3943A」
ポリエーテルポリオール
三井化学ポリウレタン(株)製の「アクトコール79-56」
トリレンジイソシアネート
三井化学ポリウレタン(株)製の「コスモネートT-80」
(2,4-異性体と2,6-異性体とを80:20(質量比)の割合で混合した混合物)
3級アミン
トリエチレンジアミン〔東ソー(株)製の「TEDA-L33」〕などの3級アミン
シリコーンポリマー
信越化学工業(株)製の「F-242T」
含ハロゲン縮合リン酸エステル
大八化学工業(株)製の「CR504L」
【0039】
得られたポリウレタンフォームの諸物性を下記の評価方法により評価した。結果を表2に示す。
〔密度〕
JIS K 6400に記載の方法により、全密度の測定を実施した。全密度は、JIS規格で規定している「見掛け密度」を指す。本発明では、表皮スキン有りの直方体フォームサンプルを用いて全密度の測定を行った。
〔硬さ〕
JIS K 6400-1(2004年度版)の規格に基づいて測定した。
〔通気性〕
JIS K 6400-7(2004年度版)B法の規格に基づいて測定した。
〔引張り強さ〕
JIS K 6400-5(2004年度版)の規格に基づいて測定した。
〔伸び(%)〕
JIS K 6400-5(2004年度版)の規格に基づいて測定した。
〔セル数〕
JIS K 6400-1(2004年度版)付属書1(参考)に基づいて測定した。
〔難燃性〕
FMVSS(米国連邦自動車安全基準)No.302に基づいて測定した。
【0040】
【表2】
[図:0001416516000002.jpg]
※硬さについては、予備圧縮なしにて測定。
【0041】
垂直入射吸音率の測定
実施例及び比較例のポリウレタンフォームについて試料厚10mmを用意し、伝達関数法(ISO 10534-2)により、その吸音率を測定した。Abs値×100を吸音率(%)として測定した。その結果を下記表3に示す。
【0042】
【表3】
[図:0001416516000003.jpg]
【0043】
上記表に示された結果から、本実施例(本発明)のポリウレタンフォームは、試料厚が比較的薄いにもかかわらず、中高音域で高い吸音性を示すことが確認された。」
(イ)甲1の実施例(【0036】~【0042】、表1~3)の記載に着目すると、以下の発明が記載されていると認められる。
「スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオール混合物(スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールとポリエーテルポリオールとの混合物、ダウ・ケミカル日本(株)製の「ボラノール3943A」)を100質量部、
ポリエーテルポリオール(三井化学ポリウレタン(株)製の「アクトコール79-56」)を10質量部、
メチレンクロライドを10質量部、
トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン(株)製の「コスモネートT-80」(2,4-異性体と2,6-異性体とを80:20(質量比)の割合で混合した混合物))を61.1質量部、
ジエチレングリコールを3質量部、
蒸留水を5.2質量部、
6-ジメチルアミノ-1-ヘキサノールを0.1質量部
第2錫イソオクトエートを0.3質量部、
ポリオキシアルキレン シリコーンポリマー(信越化学工業(株)製の「F-242T」)を1.5質量部、
含ハロゲン縮合リン酸エステル(大八化学工業(株)製の「CR504L」)を25質量部
からなるポリウレタン発泡成形体用材料(液温20℃)を調製し、これを温調した発泡コンベア上のモールド紙に注入し、ワンショット法により発泡成形して得られたポリウレタンフォームであって、
密度が、0.0187g/cm3であり、
垂直入射吸音率が、周波数が3000Hzのときに62%、周波数が4000Hzのときに94%であるポリウレタンフォーム。
但し、密度及び垂直入射吸音率は、以下の方法で測定したものである。
〔密度〕
JIS K 6400に記載の方法により、全密度の測定を実施した。全密度は、JIS規格で規定している「見掛け密度」を指す。本発明では、表皮スキン有りの直方体フォームサンプルを用いて全密度の測定を行った。
〔垂直入射吸音率〕
実施例のポリウレタンフォームについて試料厚10mmを用意し、伝達関数法(ISO 10534-2)により、その吸音率を測定した。Abs値×100を吸音率(%)として測定した。」(以下「甲1発明」という。)
イ 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリエーテルポリオール(三井化学ポリウレタン(株)製の「アクトコール79-56」)」は、参1の【0068】及び参2の3頁左上欄16~18行の記載を参照すると、グリセリンのPO付加物であって、数平均分子量3000のポリオキシプロピレントリオールであり、「グリセリン」が「1分子中に活性水素含有基を3個有する開始剤」に相当することを踏まえると、本件発明1の「数平均分子量が1500~12000であり、かつ1分子中に活性水素含有基を2~4個有する開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合したポリオキシアルキレンポリオール」に相当する。
甲1発明の「トリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン(株)製の「コスモネートT-80」(2,4-異性体と2,6-異性体とを80:20(質量比)の割合で混合した混合物))」は、本件発明1の「トルエンジイソシアネート」である「有機ポリイソシアネート化合物」に相当する。
甲1発明の「メチレンクロライド」及び「蒸留水」は、甲1の【0022】の記載によれば、発泡剤であるから、本件発明1の「水」を含む「発泡剤」に相当する。
甲1発明の「6-ジメチルアミノ-1-ヘキサノール」及び「第2錫イソオクトエート」は、甲1の【0024】の記載からみて、それぞれアミン系触媒及び錫系触媒であると認められるから、本件発明1の「アミン系触媒及びスズ系触媒からなる群から選択される少なくとも1種」である「触媒」に相当する。
そして、甲1発明における「ポリウレタン発泡成形体用材料」の各成分は上記のとおりであり、また、炭酸水素ナトリウムを含むものではないから、これらの成分からなる「ポリウレタン発泡成形体用材料を発泡成形して得られ」る「ポリウレタンフォーム」は、本件発明1の「ポリオキシアルキレンポリオール、有機ポリイソシアネート化合物、発泡剤及び触媒を含む原料組成物(ただし、炭酸水素ナトリウムを前記ポリオキシアルキレンポリオール100重量部に対して5~30重量部含む場合を除く。)を発泡させたポリウレタンフォーム」に相当する。
(イ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリオキシアルキレンポリオール、有機ポリイソシアネート化合物、発泡剤及び触媒を含む原料組成物(ただし、炭酸水素ナトリウムを前記ポリオキシアルキレンポリオール100重量部に対して5~30重量部含む場合を除く。)を発泡させたポリウレタンフォームであって、
前記ポリオキシアルキレンポリオールが、数平均分子量が1500~12000であり、かつ1分子中に活性水素含有基を2~4個有する開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合したポリオキシアルキレンポリオールを含み、
前記有機ポリイソシアネート化合物がトルエンジイソシアネートであり、
前記発泡剤が水を含み、
前記触媒がアミン系触媒及びスズ系触媒からなる群から選択される少なくとも1種である、ポリウレタンフォーム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1においては、「前記原料組成物における前記発泡剤としての水の量が、前記ポリオキシアルキレンポリオールの100質量部に対して4質量部以上8質量部以下」と特定されているのに対し、甲1発明においては、水の質量部が明らかでない点
<相違点2>
本件発明1においては、「垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「実施例のポリウレタンフォームについて試料厚10mmを用意し、伝達関数法(ISO 10534-2)により、その吸音率を測定した。Abs値×100を吸音率(%)として測定した。」という測定方法による「垂直入射吸音率が、周波数が3000Hzのときに62%、周波数が4000Hzのときに94%」である点
<相違点3>
本件発明1においては、「密度が5~25kg/m3」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「JIS K 6400に記載の方法により、全密度の測定を実施した。全密度は、JIS規格で規定している「見掛け密度」を指す。本発明では、表皮スキン有りの直方体フォームサンプルを用いて全密度の測定を行った。」という測定方法による「密度が、0.0187g/cm3」である点
<相違点4>
本件発明1においては、「発泡セルの残膜率が40%以上94%未満」であるのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点
ウ 相違点についての判断
(ア)相違点1について
a 本件発明1における水の質量部の基準となる「前記ポリオキシアルキレンポリオール」とは、「数平均分子量が1500~12000であり、かつ1分子中に活性水素含有基を2~4個有する開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合したポリオキシアルキレンポリオール」を指すものと認められる。
他方、甲1発明の「ポリウレタン発泡成形体用材料」には、本件発明1の「前記ポリオキシアルキレンポリオール」に相当する(甲2参照)「ポリエーテルポリオール(三井化学ポリウレタン(株)製の「アクトコール79-56」)を10質量部」及び「蒸留水を5.2質量部」が含まれているから、蒸留水の量は、上記ポリエーテルポリオール100質量部に対し、52質量部となり、「4質量部以上8質量部以下」には該当しない。
b また、甲1発明には、上記「ポリエーテルポリオール」の他に、「スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオール混合物(スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールとポリエーテルポリオールとの混合物、ダウ・ケミカル日本(株)製の「ボラノール3943A」)を100質量部」も含まれている。
当該商品名「ボラノール3943A」である「スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオール混合物」は、甲1の【0017】の「「ボラノール3943A」(ベースポリオール分子量3000、f=3、ダウ・ケミカル日本(株)製アクリロニトリル/スチレン43%グラフトコポリマーポリオール)」、同【0038】の「スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオール混合物 スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールとポリエーテルポリオールとの混合物、ダウ・ケミカル日本(株)製の「ボラノール3943A」」という記載からみて、分子量3000、f=3のベースポリオールを有するアクリロニトリル/スチレン43%グラフトコポリマーポリオールと、ポリエーテルポリオールとの混合物である。
ここで、当該混合物の前者の「分子量3000、f=3のベースポリオールを有するアクリロニトリル/スチレン43%グラフトコポリマーポリオール」は、グラフト鎖を有するものであるから、本件発明1の「前記ポリオキシアルキレンポリオール」に相当するものではない。仮に、「分子量3000、f=3のベースポリオール」の部分が、「数平均分子量が1500~12000であり、かつ1分子中に活性水素含有基を2~4個有する開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合したポリオキシアルキレンポリオール」に相当するとしても、グラフト鎖を含めた「アクリロニトリル/スチレン43%グラフトコポリマーポリオール」全体の数平均分子量が不明であるから、いずれにしても、前者の「分子量3000、f=3のベースポリオールを有するアクリロニトリル/スチレン43%グラフトコポリマーポリオール」は、本件発明1の「前記ポリオキシアルキレンポリオール」に相当するとはいえない。
また、当該混合物の後者の「ポリエーテルポリオール」は、その構造が示されていないから、本件発明1の「前記ポリオキシアルキレンポリオール」に相当するとはいえない。
そうすると、「スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオール混合物(スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオールとポリエーテルポリオールとの混合物、ダウ・ケミカル日本(株)製の「ボラノール3943A」)を100質量部」に、本件発明1の「前記ポリオキシアルキレンポリオール」に相当する化合物が含まれるのか否か、また、含まれるとした場合の含有量が明らかではないから、当該混合物を考慮した場合の水の質量部を特定することはできない。
c そして、甲1の【0014】、【0015】には、「スチレン/アクリロニトリルコポリマーポリオール」を他のポリオールと混合して用いる際に、他のポリオールの配合割合は、ポリオール成分100質量部に対して5~20質量部の範囲が好適であることが記載され、【0022】には、発泡剤として、メチレンクロライドと共に、水を使用することができることが記載されているものの、水の含有量の好ましい範囲について記載も示唆もないことを考慮すると、上記aで述べたように、蒸留水の量が、上記ポリエーテルポリオール100質量部に対し、52質量部である実施例の記載に基づいて、水の量を、「前記ポリオキシアルキレンポリオールの100質量部に対して4質量部以上8質量部以下」とすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
d(a)申立人は、申立書の12頁6~17行において、甲1の実施例において、「ポリオール混合物100質量部とポリエーテルポリオール10質量部(ポリオールの合計110質量部)に対し蒸留水5.2質量部が配合されているから(段落0037、表1)、蒸留水はポリオール100質量部に対して4.7質量部」である点は、本件発明1と一致すると主張する。
(b)しかし、上記bにおいて述べたように、「分子量3000、f=3のベースポリオールを有するアクリロニトリル/スチレン43%グラフトコポリマーポリオール」は、本件発明1の「前記ポリオキシアルキレンポリオール」に相当するとはいえず、申立人は相当することの具体的な根拠を何ら示していないから、「ポリオール混合物」が「前記ポリオキシアルキレンポリオール」に含まれるものと解釈して算出した蒸留水の質量部についての主張は採用できない。
(イ)相違点2について
a 本件明細書の記載を参照すると、本件発明1の「垂直入射法による吸音率測定法」における「吸音率」は、【0079】に記載の以下の方法で測定されるものと認められ、「厚みが20mmの測定用サンプル」を用いて測定されたものである。
一方、甲1発明の「試料厚10mm」のサンプルを用いて測定した「垂直入射吸音率」が、「周波数が3000Hzのときに62%、周波数が4000Hzのときに94%」であるところ、「厚みが20mmの測定用サンプル」を用いて測定した際に、「垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上」であるかは不明であり、その蓋然性が高いともいえない。
また、甲1の記載をみても、甲1発明において、「厚みが20mmの測定用サンプル」を用いて測定した際に、「垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上」とすることを、当業者が容易に想到し得るともいえない。
b(a)申立人は、申立書の13頁18~25行において、甲3に試料の厚さが異なると垂直入射吸音率が異なることが記載されており(128頁及び図14)、甲4に試料の厚さが増加すると中低音域の吸音率が上昇することが記載されているため(5頁左欄2~3行)、甲1発明の試料を厚くすると、垂直入射吸音率は周波数3000~4000Hzの全域において95%以上となる可能性が高く、実質的な相違点ではないと主張する。
(b)しかし、たとえ、甲3及び甲4の上記記載から、試料の厚さの増加に伴って、中低音域における吸音率が上昇するという一般的な傾向があることが理解できるとしても、甲1発明の「試料厚10mm」のサンプルを用いて測定した「垂直入射吸音率」が、「周波数が3000Hzのときに62%、周波数が4000Hzのときに94%」であれば、「厚みが20mmの測定用サンプル」を用いて測定した際に、「垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上」となるかは明らかではない。
しかも、甲3の128頁の1~14行には、「Rf(当審注:空気流れ抵抗)の相違した三種類のFRUF吸音特性を音響管計測により測定し,その吸音メカニズムについて検討を行った」ことが記載されており、「図4に示した三種類のRfを持つFRUF,VHZ,VO,MCF5三種の各々,公称試料厚さ10mm,20mm,30mm,40mm,50mmの吸音特性を求めた」こと、「各試料のかさ高密度の平均値は,VHZが22.0(kg/m3),VOが34.2(kg/m3),MCF5が126.4(kg/m3)」であるところ、かさ高密度が22.0(kg/m3)のVHZでは、「すべての厚さにおいて同じ結果を示して」おり、かさ高密度が34.2(kg/m3)のVO及び126.4(kg/m3)のMCF5では、「厚さごとに結果が相違している」と記載されている。
そうすると、空気流れ抵抗Rf及びかさ高密度の違いによって、試料厚さを変えても吸音特性が同じ結果を示す場合もあることが示されているのであるから、甲3及び甲4の記載を参照したとしても、甲1発明の「試料厚10mm」のサンプルを用いて測定した「垂直入射吸音率」を根拠に、「厚みが20mmの測定用サンプル」を用いて測定した際に、本件発明1の範囲を満たす可能性が高いものと認めることはできず、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)相違点3について
本件明細書の記載を参照すると、本件発明1の「密度」は、JIS K 7222:2005「発泡プラスチック及びゴム-見掛け密度の求め方」に従って測定した(【0080】)ものである。
一方、甲1発明の密度は、JIS K 6400に記載の方法により、全密度(見掛け密度)を測定したものであり、両者は、規格は異なるものの、見掛け密度を測定している点で一致し、甲1発明の密度「0.0187g/cm3」は、「18.7kg/m3」であるから、「5~25kg/m3」の範囲内である。
したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。
(エ)相違点4について
a 本件明細書の記載を参照すると、本件発明1の「残膜率」は、以下の方法で算出されたものである。
「<残膜率>
上記測定用サンプルの断面を、光学顕微鏡(VHX-1000、キーエンス社製)を用いて、倍率150倍で撮像した。全周にわたりセル骨格を確認でき、かつ明確な周辺骨格部の破壊がない部分を観察対象とした。
観察対象のセル骨格の内周部に破損が無い膜が存在しているものを「残膜あり」と判定した。
観察対象のセル骨格の内周部に膜が無いが、又は膜が一部でも破れているものを「残膜なし」と判定した。
測定用サンプルの断面を10か所撮像し、100個のセル骨格を観察して、「残膜あり」及び「残膜なし」の数をカウントし、「残膜あり」の割合を百分率で算出した。」(【0081】)
一方、甲1には、発泡セルの残膜率についての記載ないし示唆はない。
そして、甲1発明には、本件発明1のポリオキシアルキレンポリオール、有機ポリイソシアネート化合物、発泡剤及び触媒に相当する成分以外に、含ハロゲン縮合リン酸エステル25質量部等の他の成分を含有するものであり、相違点1に係る水の質量部についても差異があるところ、ポリウレタンフォームのセル骨格の膜の形成に、他の成分の存在や水の質量部の違いが影響しないとはいえないから、本件発明1と一部の成分組成が一致していたとしても、甲1発明のポリウレタンフォームが、「発泡セルの残膜率が発泡セルの残膜率が40%以上94%未満である」ものに該当する蓋然性が高いとまではいえない。
また、甲1には、「発泡セルの残膜率」を所定範囲に調整する方法について記載も示唆もされていないから、甲1の記載に基づいて、当業者が「発泡セルの残膜率」を「40%以上94%未満」の範囲に調整することを容易になし得たともいえない。
b(a)申立人は、申立書の13頁26行~14頁4行において、甲3に、軟質ポリウレタンフォームは破泡により連続気泡が生成され、連続気泡部分の多少により通気性(空気流れ抵抗Rf)のレベルが決まり、空気伝搬音と固体伝搬音の寄与がRfによって変化することが記載されており(127頁12~15行、128頁10~12行)、連続気泡部分の多少は、破泡の程度を意味するから、甲1発明において、発泡セルの残膜率を40%以上94%未満にすることは、周波数3000-4000Hzにおける吸音率を向上させるための数値範囲の最適化に過ぎないと主張する。
(b)しかし、甲3の記載を考慮しても、「発泡セルの残膜率」を調整する手段について示唆するところはないから、当業者が、甲1発明において、「発泡セルの残膜率」を「40%以上94%未満」の範囲に調整することを容易になし得たとはいえない。
エ 本件発明1の効果について
本件明細書の記載(【0008】)によれば、本件発明1の効果は、「3000~4000Hzの中~高周波数帯の吸音率が良好であり、従来と同等以上の吸音性能を維持しながら軽量化でき、他の素材と併用せず、車両用防音材として使用可能なポリウレタンフォーム」を提供できることと認められる。
そして、本件明細書の実施例には、合成例1~4の手順に従って、グリセリンを開始剤とし、プロピレンオキシド又はこれに加えてエチレンオキシドを開環付加重合させ、表1に示される数平均分子量を有する「ポリオキシアルキレンポリオールA1~A4」を製造し、例1~3において、当該「ポリオキシアルキレンポリオールA1」又は「ポリオキシアルキレンポリオールA2」、「TDI混合物(2,4-TDIと2,6-TDIの質量比が2,4-TDI/2,6-TDI=80/20の混合物)」である「B1 有機ポリイソシアネート」、発泡剤として「C1 水」(水をA1~A4 100質量部に対して6又は6.2質量部含み、例1においては、「C2 塩化メチレン」も含む。)並びに触媒として「D1 トリエチレンジアミンのジプロピレングリコール溶液」及び「D2 2-エチルヘキサン酸スズ」を含む原料組成物1~3を調製し、当該原料組成物1~3を発泡硬化させて、ポリウレタンフォーム1~3を製造し、吸音率、密度、残膜率、通気量等を評価したことが記載されており、ポリウレタンフォーム1~3は、いずれも本件発明1の原料組成物の組成、吸音率、密度及び残膜率の数値範囲を満たすものである(【0055】~【0086】)。
そして、実施例の結果の説明として、「例1~3のポリウレタンフォームは、発泡セルの残膜率が特定範囲内であり、3000~4000Hzの中~高周波数領域の吸音特性だけではなく、中~低周波数領域の吸音性能にも優れることがわかる。また、例1~3のポリウレタンフォームは、密度が低いので、より薄く、より軽量でも、従来のポリウレタンフォームと同等以上の吸音性能を達成できる。」ことが記載されている(【0087】)。
一方、本件発明1の原料組成物の組成を満たさず、吸音率及び残膜率の数値範囲を満たさない例4及び例5(例5については、密度の数値範囲も満たさない)については、「例4及び例5のポリウレタンフォームは、発泡セルの残膜率が特定範囲外であり、高周波数領域での吸音性能が劣り、密度も高い。」(【0087】)ことが記載されている。
そして、上記ウ(イ)で述べたように、甲1、甲3及び甲4の記載をみても、甲1発明において、「厚みが20mmの測定用サンプル」を用いて測定した際に、「垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上」とすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、本件発明1の上記効果については、当業者が予測することができるものではない。
オ 小括
上記のとおり、相違点1、2及び4に係る特定事項は容易想到であるとはいえないから、本件発明1は甲1発明及び甲1~甲4の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであって、上記(1)イに挙げたものと同一の相違点を少なくとも有するから、上記(1)ウにおいて説示したように、いずれも甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由1についてのまとめ
よって、本件発明1~9は、甲1に記載された発明及び甲1~甲4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、申立理由1は理由がない。
2 申立理由2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 本件発明が解決しようとする課題
本件明細書の【0006】によると、本件発明の解決しようとする課題(以下「本件発明の課題」という。)は「3000~4000Hzの中~高周波数帯の吸音率が良好であり、従来と同等以上の吸音性能を維持しながら軽量化でき、他の素材と併用せず、車両用防音材として使用可能なポリウレタンフォーム、その製造方法及び車両用防音材の提供」である。
イ 本件発明1について
本件明細書には、背景技術として、自動車等の車両の防音材に用いられるポリウレタンフォームは、単独では低周波数領域の吸音性能が不足するため、ゴム、熱可塑性エラストマー又は熱可塑性樹脂のシートとの複合体として利用され、製造コストの上昇及び質量の増加という問題が生じること、また、高分子量ポリオキシアルキレンポリオール、有機ポリイソシアネート化合物、発泡剤及び触媒を含む原料組成物を用いて密閉された金型内で発泡させて製造されるポリウレタンフォーム等の従来のポリウレタンフォームも、3000~4000Hzの中~高周波数帯の吸音率が充分ではなく、密度が高いことから、充分な吸音性能を得ようとすると、軽量化に限界があったことが記載されている(【0002】、【0003】及び【0005】)。
これに対し、本件発明1は、「垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上であり、密度が5~25kg/m3であり、かつ、発泡セルの残膜率が40%以上94%未満である、ポリウレタンフォーム」(【0010】)であり、吸音率が上記範囲内であると、「3000~4000Hzの中~高周波数領域の吸音性能が優れる」こと、密度が上記範囲内であると、「吸音性能を従来と同等以上に維持しながら、軽量化できる」こと、残膜率が上記範囲内であると、「ポリウレタンフォームの成形時に収縮が起きにくく、成形しやすい」ことが記載されている(【0011】~【0016】)。
そして、本件発明1の原料組成物の各成分について(【0025】~【0045】)、ポリオキシアルキレンポリオールAは、通常、触媒の存在下、開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合して合成されるものであり、1分子当たりの水酸基数(以下「平均水酸基数」という。開始剤の活性水素含有基数と一致する。)が2~4がより好ましく、平均水酸基数が上記範囲内であると、「ポリウレタンフォームの軟らかさがより適度になり、圧縮永久歪がより改善し、伸び等の機械物性がより良好になり、防音性能がより向上する傾向がある」こと(【0026】)、数平均分子量は、1500~12000がさらに好ましく、分子量が上記範囲内であると、「ポリウレタンフォームにおける発泡セルの残膜率を適度な範囲としやすく、3000~4000Hzの中~高周波数領域の吸音性能を改善しやすい」こと(【0027】)、有機ポリイソシアネート化合物Bは、トルエンジイソシアネート(TDI)が特に好ましいこと(【0036】)、発泡剤として水を含み、原料組成物G中の発泡剤Cとしての水の含有量は、ポリオールAの100質量部に対して、4質量部以上であり、5.5~8質量部がより好ましく、当該範囲とすることで、「発泡を充分に進行させ、発泡体の密度を所望の範囲としやすくなる」こと(【0038】、【0039】)、触媒Dは、アミン系触媒及びスズ系触媒からなる群から選択される少なくとも1種であり、ポリオキシアルキレンポリオールと有機ポリイソシアネート化合物とを反応させる際に使用する触媒であること(【0040】)等が記載されている。
そして、本件明細書の実施例(【0053】~【0087】、表1~3)によれば、本件発明1の原料組成物の組成、吸音率、密度及び残膜率の数値範囲を満たす例1~3については、「例1~3のポリウレタンフォームは、発泡セルの残膜率が特定範囲内であり、3000~4000Hzの中~高周波数領域の吸音特性だけではなく、中~低周波数領域の吸音性能にも優れることがわかる。また、例1~3のポリウレタンフォームは、密度が低いので、より薄く、より軽量でも、従来のポリウレタンフォームと同等以上の吸音性能を達成できる。」(【0087】)のに対し、本件発明1の原料組成物の組成を満たさず、吸音率及び残膜率の数値範囲を満たさない例4及び例5(例5については、密度の数値範囲も満たさない)については、「例4及び例5のポリウレタンフォームは、発泡セルの残膜率が特定範囲外であり、高周波数領域での吸音性能が劣り、密度も高い。」(【0087】)ことが記載されている。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1の「ポリウレタンフォーム」を用いることにより、3000~4000Hzの中~高周波数帯の吸音率が良好であり、従来と同等以上の吸音性能を維持しながら軽量化でき、本件発明の課題が解決できることを、当業者は認識できるといえる。
したがって、本件発明1は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
ウ 本件発明2~9について
本件発明2~9は、本件発明1をさらに特定したものであるから、上記イに説示した本件発明1と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、以下の点を主張する。
本件明細書の発明の詳細な説明には、厚さが20mmの試料の吸音率を測定して、周波数3000Hzにおける吸音率と周波数4000Hzにおける吸音率が0.95以上であったことが記載されている(【0079】、【0086】、表3)が、20mm以外の厚さの試料の吸音率を測定した結果は記載されていないため、試料の厚さによって吸音率が変わることを考慮すると(甲3(図14)、128頁4~8行)及び甲4(図14))、厚さ20mm以外の任意の厚さの試料が、周波数3000Hzにおける吸音率と周波数4000Hzにおける吸音率が両方とも0.95以上という結果になることは推測できない。
これに対し、本件発明1に試料の厚さが20mmであることは記載されておらず、本件発明7は厚さ3~50mmという具合に20mm以外の厚さが記載されており、本件発明1~9の記載は発明の詳細な説明に発明として記載された範囲を超えている(申立書16頁1~20行)。
イ 検討
本件発明1における「垂直入射法による吸音率測定法における、・・・吸音率」について、「試料の厚さ」は特定されていないものの、申立人が述べるように、試料の厚さによって吸音率が変わることは技術常識であるから、「吸音率」の定義について、以下の本件明細書の【0012】及び【0079】における記載を参照すると、「厚みが20mmの測定用サンプル」について測定される「吸音率」であると認められる。
「【0012】
吸音率は、ポリウレタンフォームを鋭利な刃物を用いて切断した、厚みが20mmの測定用サンプル(以下、単に「測定用サンプル」という場合がある。)を、JIS A 1405-2:2007「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定」に準拠した方法により、3000~4000Hz領域全域について測定して得られる吸音率である。」
「【0079】
<吸音率>
吸音率は、ポリウレタンフォームを鋭利な刃物を用いて切断した、厚みが20mmの測定用サンプルの、JIS A 1405-2:2007「音響管による吸音率及びインピーダンスの測定」に準拠した方法により、3000~4000Hz領域全域について測定して得られる吸音率である。
吸音率は、垂直入射吸音測定管(40mmφ、日本音響エンジニアリング社製)、解析ソフトウェア(WinZacMTX VER.5.0、日本音響エンジニアリング社製)、パワーアンプ(AP15d、FOSTEX社製)、マイクロホン(46BD、GRAS社製)、マイクロホンアンプ(12AQ、GRAS社製)、及びオーディオインターフェース(Fireface UC、RME社製)を用いて測定した。」
そして、本件発明7の「厚みが3~50mmである」という特定事項は、「厚みが20mmの測定用サンプル」について測定したときに、「垂直入射法による吸音率測定法における、周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上」という特定事項を満たすポリウレタンフォームについて、その「厚み」を「3~50mm」と特定したものであって、本件発明7に上記特定事項があるからといって、本件発明1のポリウレタンフォームが、「厚さ20mm以外の任意の厚さの試料」についても、「周波数3000~4000Hz領域全域での吸音率が0.95以上」という数値範囲を満たすべきことが特定されているとは解釈できない。
よって、本件発明1に、「試料の厚さが20mmであることが記載されていない」ことを前提とする上記主張は採用できない。
(4)申立理由2についてのまとめ
よって、本件発明1~9は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、申立理由2は理由がない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件発明1~9は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件明細書には、上記2(2)イにも示したように、本件発明1~8のポリウレタンフォームの諸物性及び原料組成物の各成分について具体的に記載されており(【0010】~【0045】)、上記ポリウレタンフォームの製造方法についても具体的に記載されている(【0050】)。
そして、本件明細書の実施例(【0053】~【0087】、表1~3)によれば、本件発明1~8の原料組成物の組成及び諸物性を満たす例1~3については、「例1~3のポリウレタンフォームは、発泡セルの残膜率が特定範囲内であり、3000~4000Hzの中~高周波数領域の吸音特性だけではなく、中~低周波数領域の吸音性能にも優れることがわかる。また、例1~3のポリウレタンフォームは、密度が低いので、より薄く、より軽量でも、従来のポリウレタンフォームと同等以上の吸音性能を達成できる。」(【0087】)のに対し、本件発明1~8の原料組成物の組成を満たさず、吸音率及び残膜率の数値範囲を満たさない例4及び例5(例5については、密度の数値範囲も満たさない)については、「例4及び例5のポリウレタンフォームは、発泡セルの残膜率が特定範囲外であり、高周波数領域での吸音性能が劣り、密度も高い。」(【0087】)ことが記載されている。
また、本件発明9の上記ポリウレタンフォームを含む車両用防音材についても、上記ポリウレタンフォームが、他の素材と併用する必要がなく、従来と同等以上の吸音性能を持ちながら、より軽量にできるので、車両の軽量化のために有用である(【0052】)ことが記載されている。
したがって、本件発明1~9について、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~9について実施可能要件を満たしている。
(3)申立人の主張について
ア 申立人は、以下の点を主張する。
申立人は発明の詳細な説明の記載(【0016】、【0081】)に基づき、光学顕微鏡を用いて軟質ポリウレタンフォームの断面を撮像してセル骨格の観察を試みたが、セル骨格の内周部の膜の有無を正確に判定することができなかった。上記記載に基づいて請求項に係る発明の実施をしようとした場合に、特定の部分にピントが合った画像(甲5の図1、2参照)を用いて残膜率を求めるのか深度合成をした画像(甲5の図3、4参照)を用いて残膜率を求めるのか不明であるし、いずれの画像を用いて残膜率を求めても残膜率に個人差が現れることは明らかであるから、発明の詳細な説明には、本件発明1~9について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない(申立書16頁21行~18頁18行)。
イ 検討
本件明細書の【0016】及び【0081】を参照すると、「残膜率」の観察及び算出方法について、以下のとおり記載されている。
「【0016】
前記発泡セルの残膜率は、以下に説明する方法によって算出する。
測定用サンプルの断面を、光学顕微鏡を用いて撮像する。全周にわたりセル骨格を確認でき、かつ明確な周辺骨格部の破壊がない部分を観察対象とする。
観察対象のセル骨格の内周部に破損が無い膜が存在しているものを「残膜あり」と判定する。
観察対象のセル骨格の内周部に膜が無いが、又は膜が一部でも破れているものを「残膜なし」と判定する。
測定用サンプルの断面を10か所以上撮像し、100個のセル骨格を観察して、「残膜あり」及び「残膜なし」の数をカウントし、「残膜あり」の割合を百分率で算出する。」
「【0081】
<残膜率>
上記測定用サンプルの断面を、光学顕微鏡(VHX-1000、キーエンス社製)を用いて、倍率150倍で撮像した。全周にわたりセル骨格を確認でき、かつ明確な周辺骨格部の破壊がない部分を観察対象とした。
観察対象のセル骨格の内周部に破損が無い膜が存在しているものを「残膜あり」と判定した。
観察対象のセル骨格の内周部に膜が無いが、又は膜が一部でも破れているものを「残膜なし」と判定した。
測定用サンプルの断面を10か所撮像し、100個のセル骨格を観察して、「残膜あり」及び「残膜なし」の数をカウントし、「残膜あり」の割合を百分率で算出した。
残膜率の算出結果を、表3の「残膜率[%]」の欄に示す。」
そうすると、当業者であれば、技術常識に基づいて、光学顕微鏡を用いてセル骨格を観察することにより、「残膜率[%]」を算出することを理解できるものといえる。
申立人のピント合わせや観察者の個人差に関する上記主張は、実施可能要件についての判断を左右するものとはいえない。
(4)申立理由3についてのまとめ
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~9を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえるから、申立理由3は理由がない。
第5 まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700654