特許異議申立
2025-700636
シリカガラス、シリカガラスを用いた高周波デバイス、およびシリカガラスの製造方法
- 審判番号
- 2025-700636
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-503353
- 登録番号
- 7601085
- 請求日
- 2025年06月17日
- 審決日
- 2025年09月03日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】麻生 由紀子
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 増山 淳子
- 審判官 三崎 仁
- 分類
- P1652.113-Y (C03B) / P1652.121-Y (C03B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7601085号発明「シリカガラス、シリカガラスを用いた高周波デバイス、およびシリカガラスの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7601085号の請求項1~11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7601085号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~13に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)2月19日(優先権主張 令和2年2月28日)を国際出願日とする出願であって、令和6年12月9日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1~11に係る特許に対して、令和7年6月17日に特許異議申立人麻生由紀子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~11に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
気泡数が1×107~1×1015個/cm3であり、密度が0.5~1.95g/cm3であり、20GHz~110GHzの周波数領域における誘電正接が1.0×10-5~5.0×10-4であるシリカガラス。
【請求項2】
前記密度が0.7~1.8g/cm3である、請求項1に記載のシリカガラス。
【請求項3】
前記気泡を1×107~1×1013個/cm3含有する、請求項1又は2に記載のシリカガラス。
【請求項4】
前記気泡に含まれるガスの90質量%以上がHe,Ne,Ar,Kr,Xe,N2又はこれらの混合ガスである、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項5】
ガラス表面に形成された開口部の長径の平均値が30μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項6】
ガラス表面に形成された開口部の長径の平均値が10μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項7】
OH基の含有量が100質量ppm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項8】
Li,Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Mn,Fe,Ni,Cu,Ti,Co及びZnの各金属不純物の含有量がそれぞれ0.5質量ppm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項9】
20GHz~110GHzの周波数領域における比誘電率が1.3~3.5である、請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項10】
20GHz~110GHzの周波数領域における比誘電率が1.5~3.5である、請求項1~8のいずれか1項に記載のシリカガラス。
【請求項11】
ガラス表面の二乗平均平方根高さが1μm以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載のシリカガラス。」
第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証:特開平7-330376号公報
甲第2号証:国際公開第2019/171577号
甲第3号証:特開平10-203839号公報
甲第4号証:特開平9-40434号公報
以下、「甲第1号証」等を「甲1」等という。
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
請求項1~11に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
請求項1、3~11に係る発明は、甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲3を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)
請求項1~5、7~11に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
2 各甲号証について
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア 「【0004】上記ガラス質発泡体を半導製造用部材として使用するには一層の高純度化が必要であるが、かかる高純度ガラス質発泡体の製造方法として、水酸基(OH基)含有量が100ppm以上の高純度の多孔質石英ガラス母材をアンモニアと反応させた後に、これを1,500~1,700℃の温度に加熱して溶融発泡させるものがある(特開平1-308846号公報参照)。
・・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0006】すなわち、本発明は、気泡が独立気泡で、しかもその分布が均一で断熱性に優れ、かつ半導体汚染物質の放出がなく、過酷な高温条件下においても寸法安定性が高く、耐久性に優れた高純度シリカガラス質発泡体を工業的に有利に製造する方法を提供することを目的とする。」
イ 「【0015】実施例1
結晶粉Aを内径200mmφ×高さ200mmの高純度カーボン容器に深さ200mmまで充填し、それを真空炉内に設置し、窒素をフローさせながら温度を室温から1,500℃までは、20℃/minの昇温速度で1,500℃から1,750℃の温度までは、10℃/minの昇温速度で昇温し、1,750℃で60分間保持し加熱溶融した。得られた不透明石英ガラスブロックからサンプルを切り出し、このサンプルについて、気泡密度、気泡体積、気泡断面積、比重を測定した。その結果、気泡密度は478,200個/cm3、気泡体積は8.8%、比重は2.115g/cm3であった。」
(2)甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、熱線遮断性、機械的強度、表面平滑性に優れる不透明石英ガラス及びその製造方法に関する。
更に詳しくは、半導体製造装置用部材、光学機器の部品等に好適に使用し得る不透明石英ガラス及びその製造法に関する。」
イ 「発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明は、上記の課題を解決し、熱線遮蔽性、機械的強度、表面平滑性に優れる不透明石英ガラスを提供することである。」
ウ 「[0012] 以下に本発明の製造方法について説明する。
・・・
[0013]
・・・
(6)造粒粉の溶融
次に、得られた造粒粉を酸水素炎にて溶融、あるいは真空雰囲気下にて溶融することで、本発明の不透明石英ガラスが得られる。酸水素炎を用いた溶融では、酸素と水素の反応により水が発生するため、不透明石英ガラスのOH基濃度が100~1000ppmmになり、真空雰囲気下で溶融したものよりも高い値となる。真空雰囲気下での溶融では、水が生じないため、OH基濃度が10ppm以下と酸水素炎で溶融したものよりも低い値となる。」
エ 「発明を実施するための形態
[0015] 以下に記載した実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1
シリカ原料粉末として、ヒュームドシリカ(D10:2.5μm 、D50:10.1μm 、D90:28.1μm)を使用した。ヒュームドシリカを水に分散させてスラリーとし、濃度を67wt%に調整した。次に、調整したスラリーをビーズミル粉砕機に投入し、平均粒径2.0mmの窒化珪素ビーズを用いて、スラリー中のシリカ粉末に対する窒化珪素濃度が250ppmとなるまで湿式粉砕を行い、スラリー(A)を調整した。一方、発泡剤を含まないシリカ原料粉末で固形物濃度が67wt%のスラリーBを調整した。その後、粉砕造粒用スラリーとして、スラリー(A)をスラリー(B)でスラリー中のシリカ粉末に対する窒化珪素濃度が1ppmとなるよう希釈して調整した。粉砕造粒用スラリーを平均粒径2.0mmのジルコニアビーズを用いて、BET比表面積が6.0m2/gになるまで湿式粉砕を行った。
次に、上記の方法で作製した粉砕造粒用スラリーを噴霧乾燥して、造粒粉を得た。得られた造粒粉は平均径80μmであり、含水率が1wt%であった。得られた造粒粉を酸水素炎で溶融し、コラム状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
[0016] 実施例2
窒化珪素の添加量を5ppmとしたこと以外は実施例1に準じてコラム状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られた不透明石英ガラスの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0017] 実施例3
窒化珪素の添加量を0.3ppmとしたこと以外は実施例1に準じてコラム状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られたコラム状の不透明石英ガラスインゴットの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0018] 実施例4
実施例1と同様にシリカ原料粉末としてヒュームドシリカを水に分散させ、その濃度を50%に調整した。次に調整したスラリーをビーズミル粉砕機に投入し、平均粒径0.3mmの窒化珪素ビーズを用いて、スラリー中の窒化珪素濃度が1ppmとなるまで湿式粉砕を行った。その後、窒化珪素ビーズを除去し、発泡剤を添加したスラリーを平均粒径0.3mmのジルコニアビーズを用いて、BET比表面積が3.0m2/gになるまで湿式粉砕を行った。次に、上記方法で作製したスラリー乾燥噴霧して造粒粉を得た。得られた造粒粉は平均40μmで含水率が1wt%であった。得られた造粒粉を酸水素炎で溶融し、コラム状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られたコラム状の不透明石英ガラスインゴットの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0019] 実施例5
実施例1と同様のシリカ原料粉末としてヒュームドシリカを水に分散させ、その濃度を70%に調整した。次に調整したスラリーをビーズミル粉砕機に投入し、平均粒径1.0mmの窒化珪素ビーズを用いて、スラリー中の窒化珪素濃度が1ppmとなるまで湿式粉砕を行った。その後、窒化珪素ビーズを除去し、発泡剤を添加したスラリーを平均粒径1.0mmのジルコニアビーズを用いて、BET比表面積が8.0m2/gになるまで湿式粉砕を行った。次に、上記方法で作製したスラリー乾燥噴霧して造粒粉を得た。得られた造粒粉は平均150μmで含水率が1wt%であった。得られた造粒粉を酸水素炎で溶融し、コラム状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られたコラム状の不透明石英ガラスインゴットの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0020] 実施例6
シリカ原料粉末として、ヒュームドシリカ(D10:2.5μm 、D50:10.1μm 、D90:28.1μm)を使用した。ヒュームドシリカを水に分散させスラリーとし、濃度を67wt%に調整した。次に、調整したスラリーをビーズミル粉砕機に投入し、平均粒径2.0mmの窒化珪素ビーズを用いて、スラリー中のシリカ粉末に対する窒化珪素濃度が250ppmとなるまで湿式粉砕を行い、スラリー(A)を調整した。一方、発泡剤を含まないシリカ原料粉末で固形物濃度が67wt%のスラリーBを調整した。その後、粉砕造粒用スラリーとして、スラリー(A)をスラリー(B)でスラリー中のシリカ粉末に対する窒化珪素濃度が1ppmとなるよう希釈して調整した。粉砕造粒用スラリーを平均粒径2.0mmのジルコニアビーズを用いて、BET比表面積が6.0m2/gになるまで湿式粉砕を行った。次に、上記の方法で作製した粉砕造粒用スラリーを噴霧乾燥して、造粒粉を得た。得られた造粒粉は平均径80μmであり、含水率が1wt%であった。得られた造粒粉を酸水素炎で溶融し、スラブ状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られたスラブ状の不透明石英ガラスインゴットの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0021] 実施例7
窒化珪素の添加量を5ppmとしたこと以外は実施例1に準じてスラブ状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られたスラブ状の不透明石英ガラスインゴットの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0022] 実施例8
窒化珪素の添加量を0.3ppmとしたこと以外は実施例1に準じてスラブ状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られたスラブ状の不透明石英ガラスの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0023] 実施例9
実施例1と同様にシリカ原料粉末としてヒュームドシリカを水に分散させ、その濃度を50%に調整した。次に調整したスラリーをビーズミル粉砕機に投入し、平均粒径0.3mmの窒化珪素ビーズを用いて、スラリー中の窒化珪素濃度が1ppmとなるまで湿式粉砕を行った。その後、窒化珪素ビーズを除去し、発泡剤を添加したスラリーを平均粒径0.3mmのジルコニアビーズを用いて、BET比表面積が3.0m2/gになるまで湿式粉砕を行った。次に、上記方法で作製したスラリーを乾燥噴霧して造粒粉を得た。得られた造粒粉は平均40μmで含水率が1wt%であった。得られた造粒粉を酸水素炎で溶融し、スラブ状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られた不透明石英ガラスの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
[0024] 実施例10
実施例1と同様のシリカ原料粉末としてヒュームドシリカを水に分散させ、その濃度を70%に調整した。次に調整したスラリーをビーズミル粉砕機に投入し、平均粒径1.0mmの窒化珪素ビーズを用いて、スラリー中の窒化珪素濃度が1ppmとなるまで湿式粉砕を行った。その後、窒化珪素ビーズを除去し、発泡剤を添加したスラリーを平均粒径1.0mmのジルコニアビーズを用いて、BET比表面積が8.0m2/gになるまで湿式粉砕を行った。次に、上記方法で作製したスラリー乾燥噴霧して造粒粉を得た。得られた造粒粉は平均150μmで含水率が1wt%であった。得られた造粒粉を酸水素炎で溶融し、スラブ状の不透明石英ガラスインゴットを製造した。
得られたスラブ状の不透明石英ガラスインゴットの気泡は目視観察により均一に分散しており、美観上も優れていた。
・・・
[0028] 実施例及び比較例の製造条件を表1に、また、得られた不透明石英ガラスインゴットの特性(平均気泡径、密度、反射率、白度、曲げ強度、及び焼仕上げ面の表面粗さRa)を表2に示す。
・・・
[0031][表2]
[図:0001428024000001.jpg]
」
(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0004】本発明の目的は、微細な気泡を多く含有する新規な不透明石英ガラス及びその製造方法を提供することにある。」
イ 「【0013】
【実施例】
・・・
【0018】実施例1~3
シリカ原料として、平均粒径5μmの非晶質シリカ粉末(日東化学工業製)、窒化ケイ素原料としてイミド法粉末(宇部興産、E-10)を用いた。まず、窒化ケイ素粉末を水に入れ超音波分散と攪拌操作を行った後、そこにシリカ粉末を添加し、さらに攪拌し67重量%のスラリ-を調整した。この方法で窒化ケイ素がシリカ粉末に対して50,300,1000ppmと異なる種類のスラリ-を準備した。窒化ケイ素を添加した各々スラリ-を多孔質性樹脂型に鋳込み成形し、150mm×50mm×15mm(厚さ)の成形体を得た。この成形体を大気中、1000℃に10時間保持して仮焼体を得た。この仮焼体をカ-ボン平板上に載せて電気炉に入れ真空中で1000℃まで300℃/Hrで昇温して1時間保持した後、炉内に窒素ガスを大気圧まで導入し窒素ガス雰囲気で1800℃まで300℃/Hrで昇温して10分間保持し不透明石英ガラスを得た。
【0019】比較例1
実施例1同様の非晶質シリカ粉末を水に分散させ67重量%のスラリ-を調整した。このスラリ-を実施例1同様の多孔質樹脂型で鋳込み成形し、成形体を得た。この成形体を同様に仮焼し、同様に1000℃で窒素雰囲気を大気圧として、1800℃で10分間保持して不透明石英ガラスを得た。
【0020】実施例4
実施例1同様の手法で窒化ケイ素300ppmになる様スラリ-を調整し、同様の成形体を得た。この成形体を同様に仮焼し、同様に1000℃で窒素雰囲気を5Kgf/cm2として1800℃で10分間保持して不透明石英ガラスを得た。
【0021】実施例5~7
実施例1同様の手法で窒化ケイ素を添加した各々スラリ-を調整し、同様の成形体を得た。この成形体を同様に仮焼した。得られた仮焼体を同様に真空中で1650℃まで300℃/Hrで昇温して窒素ガスを大気圧まで導入した。この窒素雰囲気で1800℃まで300℃/Hrで昇温し10分間保持して不透明石英ガラスを得た。
【0022】比較例2
比較例1同様の手法で成形体を得た。得られた成形体を実施例5同様に仮焼し、同様に1650℃で窒素雰囲気を大気圧にして10分間保持して透明石英ガラスを得た。
【0023】実施例1~7及び比較例1~2で得られた不透明石英ガラスについて、かさ密度、平均気泡径、気泡数を測定した結果を以下の表1に示す。
【0024】
【表1】
[図:0001428024000002.jpg]
」
(4)甲4の記載事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0014】
【実施例】本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】実施例1
表1に示す純度を有し、平均粒径1μmの非晶質シリカ粉末500gを純水500gに分散させスラリーとした。このスラリーを十分脱泡した後、泡を巻き込まないようにφ150mm×10mmの空間を有するエポキシ系樹脂製の多孔質鋳込み型内に流し込む。ここで、脱泡が不十分であるとガラス中に大きな気泡ができてしまう。できた成形体は、十分乾燥させた後、電気炉内で1100~1600℃の温度範囲内を60℃/hの昇温速度で昇温させた。本実施例のガラスは透明ガラスにするため1600℃までは真空雰囲気(2×10-3torr)中で焼結させ、その後1.2kg/cm2の圧力まで窒素ガスを導入し1800℃で15分間加熱し溶融させた。ここで、1100℃まで及び1600℃以上の温度範囲では300℃/hで昇温した。焼成用セッタとしてはカーボンを用いた。
【0016】
【表1】
[図:0001428024000003.jpg]
【0017】得られたガラスは、表2に示す純度を有し、含有OH基濃度は2ppmであった。また、ガラス中には50μm以上の気泡は存在せず、50μmよりも小さい気泡も非常に少なく透明度の高いガラスを得ることができた。
【0018】
【表2】
[図:0001428024000004.jpg]
」
3 当審の判断
(1)申立理由1(甲1を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲1に記載された発明
上記2(1)イによれば、実施例1に着目すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「気泡密度が478,200個/cm3、比重が2.115g/cm3である不透明石英ガラス体。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明の対比
本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「不透明石英ガラス体」は、本件発明1の「シリカガラス」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「シリカガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本件発明1では、気泡数が1×107~1×1015個/cm3であるのに対して、甲1発明では、気泡密度が478,200個/cm3である点。
(相違点2)
本件発明1では、密度が0.5~1.95g/cm3であるのに対して、甲1発明では、比重が2.115g/cm3である点。
(相違点3)
本件発明1では、20GHz~110GHzの周波数領域における誘電正接(以下、「誘電正接1」という)が1.0×10-5~5.0×10-4であるのに対して、甲1発明では、誘電正接1は特定されていない点。
(イ)相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
甲1には、誘電正接1は記載されていないし、その値が1.0×10-5~5.0×10-4であることを示すような記載や示唆もないため、相違点3は実質的な相違点である。
次に、相違点3の容易想到性について検討する。
上記2(1)アによれば、甲1発明は、半導体製造用部材として使用されるものであり、「気泡が独立気泡で、しかもその分布が均一で断熱性に優れ、かつ半導体汚染物質の放出がなく、過酷な高温条件下においても寸法安定性が高く、耐久性に優れた高純度シリカガラス質発泡体を工業的に有利に製造する方法を提供すること」を課題とするものである。
そうすると、甲1発明の課題の「気泡が独立気泡で、しかもその分布が均一で断熱性に優れ、かつ半導体汚染物質の放出がなく、過酷な高温条件下においても寸法安定性が高く、耐久性に優れた高純度シリカガラス質発泡体を工業的に有利に製造する方法」は、誘電正接1と関連するようなものとはいえないし、また、半導体製造用部材という技術分野において誘電正接1を調節することが周知の課題であるともいえない。
してみれば、甲1発明において、誘電正接1を調節する動機付けがあるとはいえず、誘電正接1を1.0×10-5~5.0×10-4とすることもない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、誘電正接1について、特許異議申立書(17~20頁)において、以下の主張をしている。
本件特許公報の段落【0016】には、シリカガラスはOH基含有量が好ましくは100ppm以下であること、より好ましくは50ppm以下であること、OH基の含有量が小さいほど誘電正接が低減されることが記載されている。また、図11には、例1~13によって、OH基濃度100ppm以下のシリカガラスの35GHzの誘電正接が1.5~3.0×10-4の範囲にあり、OH基濃度が増加すると、誘電正接も増加する傾向が見られることが示されている。そして図10からは、周波数が増加すると誘電正接が増加すること、OH基濃度が比較的高い例13のシリカガラスは周波数の増加に伴う誘電正接の増加率が他の例より明らかに大きいことが見て取れるから、OH基濃度の低減は、幅広い周波数領域で低誘電正接を維持するのに有利であることが示されている。
これらの記載から、シリカガラスにおいてOH基濃度が100ppm以下であれば、20GHz~110GHzの誘電正接は、「20GHz~110GHzの誘電正接が1.0×10-5~5.0×10-4」を満たすはずである。
他方で、甲1の段落【0008】には「前記不透明石英ガラス体は不活性雰囲気中で高温に加熱されて製造されるところからガラス中に水酸基が完全に除去されたガラス体である」と記載されている。
してみれば、甲1には、不透明石英ガラスにおいて、OH基濃度が10ppm以下の範囲が記載されているため、甲1発明の不透明石英ガラスは、「20GHz~110GHzの誘電正接が1.0×10-5~5.0×10-4」を満たすはずである。
b 申立人の上記主張について検討する。
まず、申立人は、シリカガラスにおいてOH基濃度が100ppm以下であれば20GHz~110GHzの誘電正接が1.0×10-5~5.0×10-4を満たすこと(以下、「前提事項」という。)を示す本件優先日前に公知となった技術的証拠を提示しておらず、上記aの主張のように、本件特許公報に開示されている技術内容に基づいて「前提事項」を主張することは、本件特許公報を見た上での事後分析的なものであり、いわゆる後知恵に基づく議論といわざるを得ないことから、受け入れることはできない。
さらに、本件の発明の詳細な説明の【0016】、図10、図11に記載されているのは、本件の発明の詳細な説明に記載された、特定の合成原料を選定し、特定の方法でシリカガラス多孔質体を形成し、特定の脱水処理を行い、特定の加熱焼成を行い、特定の発泡処理を行った、特定のシリカガラスにおけるOH基濃度と誘電正接1の関係である。そうすると、そのような特定の原料を用い、特定の処理を行ったシリカガラスと誘電正接1についての関係が、原料や処理方法の異なる甲1に記載された不透明石英ガラス体においても成立するとはいえない。したがって、仮に、甲1発明のOH基濃度が10ppm以下であったとしても、その35GHzにおける誘電正接がどのような値となるかは不明であるし、20GHz~110GHzの誘電正接がどのような値となるかも不明である。
よって、甲1に、水酸基が完全に除去された不透明石英ガラス体が記載されているからといって、甲1発明の不透明石英ガラス体が、20GHz~110GHzの誘電正接が1.0×10-5~5.0×10-4を満たすとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)上記(ア)~(ウ)では、実施例1に着目した甲1発明を主たる引用発明として対比判断を行ったが、仮に、甲1の実施例2に基づいて甲1記載の発明を認定しても、本件発明1とは、少なくとも上記相違点3で相違し、上記(イ)~(ウ)に記載されたのと同様の理由で、本件発明1がその発明と同一であるとも、その発明から容易想到であるともいえない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
ウ 本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由1についての結論
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。
(2)申立理由2(甲2を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲2に記載された発明
上記2(2)エによれば、[0015]の実施例1に着目すると、甲2には、「造粒粉を酸水素炎で溶融して不透明石英ガラスインゴットを製造」することが記載されており、[表2][0031]には、その密度が2.19g/cm3であったことが記載されている。
そうすると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲2発明」という。)。
「密度が2.19g/cm3であり、造粒粉を酸水素炎で溶融して製造された不透明石英ガラスインゴット。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明の対比
本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「不透明石英ガラスインゴット」は、本件発明1の「シリカガラス」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明とは、「シリカガラス」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点4)
本件発明1では、気泡数が1×107~1×1015個/cm3であるのに対して、甲2発明では、気泡数が特定されていない点。
(相違点5)
本件発明1では、密度が0.5~1.95g/cm3であるのに対して、甲2発明では、比重が2.19g/cm3である点。
(相違点6)
本件発明1では、誘電正接1が1.0×10-5~5.0×10-4であるのに対して、甲2発明では、誘電正接1は特定されていない点。
(イ)相違点の検討
事案に鑑み、まず、相違点6について検討する。
甲2には、誘電正接1は記載されていないし、その値が1.0×10-5~5.0×10-4であることを示すような記載や示唆もないため、相違点6は実質的な相違点である。
次に、相違点6の容易想到性について検討する。
上記2(2)アによれば、甲2発明は、半導体製造装置用部材、光学機器の部品等に好適に使用し得るものであり、「熱線遮蔽性、機械的強度、表面平滑性に優れる不透明石英ガラスを提供すること」を課題とするものである。
しかし、甲2発明の課題である「熱線遮蔽性、機械的強度、表面平滑性」は、誘電正接1と関連するようなものとはいえないし、また、半導体製造装置用部材、光学機器の部品において、誘電正接1を調節することが周知の課題であるともいえない。
してみれば、甲2発明において誘電正接1を調節する動機付けがあるとはいえず、誘電正接1を1.0×10-5~5.0×10-4とすることもない。
したがって、本件発明1は、甲2発明ではないし、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものでもない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、誘電正接1について、特許異議申立書(33~34頁)において、以下の主張をしている。
甲2には、不透明石英ガラスの製造方法が記載されており、その【0013】の「(6)造粒粉の溶融」には、造粒粉を真空雰囲気下で溶融すると、水が生じないため、OH基濃度が10ppm以下となることが記載されており、甲2にはOH基濃度が10ppm以下であることが記載されている。
そうすると、甲2にはOH基濃度が10ppm以下の範囲が記載されているのであるから、甲2発明の不透明石英ガラスの20GHz~110GHzの誘電正接は1.0×10-5~5.0×10-4を満たすはずである。
b しかしながら、甲2発明は、酸水素炎で溶融して製造されたものであり、OH基濃度が10ppm以下のものとはいえない。仮に、甲2発明が、OH基濃度が10ppm以下である不透明石英ガラスの発明であったとしても、上記(1)イ(ウ)bで記載したとおり、不透明石英ガラスにおいて、OH基濃度が10ppm以下であれば、20GHz~110GHzの誘電正接が、1.0×10-5~5.0×10-4を満たすとはいえないため、申立人の上記主張は、採用できない。
(エ)上記(ア)~(ウ)では、実施例1に着目した甲2発明を主たる引用発明として対比判断を行ったが、仮に、甲2の実施例2~10のそれぞれに基づいて甲2記載の発明を認定しても、本件発明1とは、少なくとも上記相違点6で相違し、上記(イ)~(ウ)と同様の理由で、本件発明1がそれらの発明と同一であるとも、それらの発明から容易想到であるともいえない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明ではないし、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
ウ 本件発明3~11について
本件発明3~11は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲2に記載された発明ではないし、また、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由2についての結論
以上のとおりであるから、申立理由2に理由はない。
(3)申立理由3(甲3を主たる証拠とした新規性・進歩性欠如)について
ア 甲3に記載された発明
上記2(3)イによれば、実施例6に着目すると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲3発明」という。)。
「かさ密度が1.63g/cm3であり、気泡数が1.2×107個/cm3の不透明石英ガラス。」
イ 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲3発明の対比
本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「かさ密度が1.63g/cm3」、「気泡数が1.2×107個/cm3」、「不透明石英ガラス」は、それぞれ、本件発明1の「密度が0.5~1.95g/cm3」、「気泡数が1×107~1×1015個/cm3」、「シリカガラス」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、
「気泡数が1×107~1×1015個/cm3であり、密度が0.5~1.95g/cm3であるシリカガラス。」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点7)
本件発明1では、誘電正接1が1.0×10-5~5.0×10-4であるのに対して、甲3発明では、誘電正接1は特定されていない点。
(イ)相違点の検討
相違点7について検討する。
甲3には、誘電正接1は記載されていないし、その値が1.0×10-5~5.0×10-4であることを示すような記載や示唆もないため、相違点7は実質的な相違点である。
次に、相違点7の容易想到性について検討する。
上記2(3)アによれば、甲3発明は、微細な気泡を多く含有する新規な不透明石英ガラス及びその製造方法を提供することを目的とするものであるといえる。
そうすると、甲3発明の課題は、誘電正接1と関連するようなものとはいえないため、甲3発明において誘電正接1を調節する動機付けがあるとはいえず、誘電正接1を1.0×10-5~5.0×10-4とすることもない。
したがって、本件発明1は、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明し得たものとはいえない。
(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、誘電正接1について、特許異議申立書(43~47頁)において、以下の主張をしている。
甲1の場合において説明したように、シリカガラスにおいてOH基濃度が100ppm以下であれば、その20GHz~110GHzの誘電正接は1.0×10-5~5.0×10-4を満たすはずである。
そして、甲4の記載を参照すると、甲3の実施例5~7と甲4の実施例1における石英ガラスの製造方法は類似しているところ、甲4の【0017】には、「得られたガラスは、・・・含有OH基濃度は2ppmであった」と記載されているため、甲3の実施例6においても含有OH基濃度は2ppm程度であるか、大きくは変化しない範囲である蓋然性が高い。したがって、甲3発明は、シリカガラスにおいてOH基濃度として100ppm以下であるから、本件発明1の誘電正接の範囲を満たすはずである。
b しかし、仮に、申立人が主張するように、甲3の実施例5~7と甲4の実施例1の製造方法が類似することからみて、甲3発明のOH基濃度が2ppm程度であると推定できたとしても、上記(1)イ(ウ)bに記載したとおり、甲3発明の、20GHz~110GHzの誘電正接は、1.0×10-5~5.0×10-4を満たすとはいえないため、申立人の上記主張は採用できない。
(エ)上記(ア)~(ウ)では、実施例6に着目した甲3発明を主たる引用発明として対比判断を行ったが、仮に、甲3の実施例1~5、7のそれぞれに基づいて甲3記載の発明を認定しても、本件発明1とは、少なくとも上記相違点7で相違し、上記(イ)~(ウ)と同様の理由で、本件発明1がそれらの発明と同一であるとも、それらの発明から容易想到であるともいえない。
(オ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3に記載された発明ではないし、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
ウ 本件発明2~5、7~11について
本件発明2~5、7~11は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、甲3に記載された発明であるといえないし、また、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由3についての結論
以上のとおりであるから、申立理由3に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~11に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700636