特許異議申立
2024-700651
積層フィルムおよびその製造方法
- 審判番号
- 2024-700651
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-178192
- 登録番号
- 7426064
- 請求日
- 2024年07月10日
- 審決日
- 2025年02月18日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【異議申立人】平居 博美
- 審判長/審判官
- 審判長 岩谷 一臣
- 審判官 木原 裕二
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.537-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7426064号発明「積層フィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7426064号の請求項1~4に係る特許を維持する。
理由
理 由
1 手続の経緯
特許第7426064号(以下「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和元年9月30日に出願され、令和6年1月24日にその特許権の設定登録(特許掲載公報令和6年2月1日発行)がされ、その後、その特許について、令和6年7月10日に特許異議申立人平居博美(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
2 本件特許発明
本件特許の請求項1~4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明4」といい、総称して「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の面に樹脂層を有する積層フィルムであって、
樹脂層表面は、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が 2~15μmであり、
二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5~17.3°であり、かつ、
水接触角が50°以下であることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】
樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)が0.01~3.0μmであることを特徴とする請求項1記載の積層フィルム。
【請求項3】
基材フィルムがポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項1または2記載の積層フィルム。
【請求項4】
請求項1記載の積層フィルムを製造するための方法であって、
樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する工程と、塗布された液状物を発泡させる工程を含むことを特徴とする積層フィルムの製造方法。」
3 申立理由の概要
申立人は、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく(特許法第36条第6項第1号(サポート要件))、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない(特許法第36条第4項第1号(実施可能要件))から、本件発明1~4に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消すべきものである旨主張する。
<証拠方法>
甲第1号証:国際公開第2012/015026号
甲第2号証:特開2010-20268号公報
4 当審の判断
(1)発明の詳細な説明の記載
ア 背景技術、発明が解決しようとする課題
(ア)「【背景技術】
【0002】
表面が親水化されたフィルムは、湿度が高く結露しやすい環境でも、水滴の付着が抑制されるので、視認性および意匠性の低下を抑制することが可能である。そのため、表面が親水化されたフィルムは、浴室、洗面化粧台の鏡や、冷凍ショーケース、冷凍食品の包装、メガネなどに、防曇フィルムとして用いられている。
【0003】
フィルムの表面を親水化する方法として、特許文献1にはコーティングによって親水性塗膜を形成する方法が提案され、また、特許文献2には表面に微小突起を作成してモスアイ(蛾の目)構造を形成する方法が提案されている。」
(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、親水性の塗膜を形成したフィルムは、ロールに巻き取った際に、巻取時の圧力によって、ブロッキングが発生することがある。ブロッキングの発生を防ぐ方法として、塗膜に粒子などを添加して、塗膜表面に凹凸を作成する方法があるが、粒子による光の散乱により、フィルムは、透明度が失われることがある。
また、フィルムにモスアイ構造を形成するには、フィルム表面に微小突起を作成するための金型が必要であり、さらに工程数が増えることにより、大きなコストが発生する。
【0006】
本発明の課題は、上記問題を鑑み、親水性に優れる樹脂層を有する積層フィルムであって、耐ブロッキング性や透明性にも優れる積層フィルムを提供することである。」
イ 発明を実施するための形態
(ア)「【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の積層フィルムは、基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられた樹脂層とを有する。
本発明の積層フィルムは、後述するように樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する工程と、塗布された液状物を発泡させる工程とを含む製造方法により、樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を15μm以下とし、二乗平均平方根傾斜(RΔq)を5°以上とし、かつ、水接触角を50°以下とすることができる。」
(イ)「【0011】
<基材フィルム>
本発明の積層フィルムの基材フィルムは、その種類や表面粗さは特に限定されるものではない。
本発明において、基材フィルムを構成する樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、・・・などが挙げられる。」
(ウ)「【0021】
<樹脂層>
本発明の積層フィルムは、上記の基材フィルムの少なくとも一方の面に、樹脂層が設けられたものであり、樹脂層表面は、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以下であることが必要であり、1~13μmであることが好ましく、2~12μmであることがより好ましい。樹脂層表面は、RSmが15μmを超えると、表面積の増加が少ないため、良好な親水性を示さなくなる。一方、RSmが1μm未満であると、表面積が大きくなることで摩擦力が増大し、樹脂層表面は、滑り性が低下することがある。
【0022】
本発明において、樹脂層表面は、二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5°以上であることが必要であり、6~70°であることが好ましく、7~60°であることがより好ましい。樹脂層表面は、RΔqが5°未満であると、凹凸が細かく急な角度でないため、フィルムが巻き取られた際の接触面積が増加し、ブロッキングの発生を抑制できなくなる。一方、RΔqが80°を超えると、樹脂層表面の凸部は、脆弱になり破壊されることがある。
【0023】
本発明において、樹脂層表面は、水接触角が50°以下であることが必要であり、4~48°であることが好ましく、5~45°であることがより好ましい。樹脂層表面は、水接触角が50°を超えると、液滴による結露の発生が顕著となる。一方、水接触角が4°未満であると、製品として巻き取られたフィルムのロールは、吸湿によってブロッキングすることがある。」
(エ)「【0027】
<積層フィルムの製造方法>
本発明の積層フィルムは、樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する工程と、塗布された液状物を発泡させる工程とを含む製造方法により得ることができる。樹脂層形成用液状物は、後述する、樹脂層を構成する成分と、溶媒と、発泡剤を含有するものである。
【0028】
樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布する方法としては、公知慣用の方法が挙げられ、例えば、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、リップコーティング、エアナイフコーティング、カーテンフローコーティング、スプレーコーティング、浸漬コーティング、はけ塗り法等が挙げられる。
【0029】
基材フィルム表面に均一に樹脂層形成用液状物を塗布し、必要に応じて室温付近でセッティングした後、加熱処理に供して、乾燥する。このようにすることで、均一な樹脂層を基材フィルムに密着させて形成することができる。
樹脂層表面に凹凸を形成し、表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を15μm以下とするには、塗布した樹脂層形成用液状物の乾燥初期温度を、40~160℃とすることが好ましく、60~150℃とすることがさらに好ましく、65~120℃とすることがさらに好ましい。乾燥初期温度が低すぎると、乾燥ができず、高すぎると、所定の表面粗さの樹脂層を発現することができないことがある。・・・
【0030】
本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層を基材フィルムに積層する方法は特に限定されず、例えば樹脂層形成用液状物を二軸延伸された基材フィルムに塗布、乾燥するオフラインコート法や、樹脂層形成用液状物を未延伸状態や一軸延伸状態の基材フィルムに塗布し、基材フィルムと共に、乾燥、配向延伸するインラインコート法が挙げられる。・・・」
(オ)「【0031】
<発泡剤>
樹脂層形成用液状物を構成する発泡剤としては特に制限はないが、無機系発泡剤や有機系発泡剤などが挙げられる。」
(カ)「【0034】
<樹脂層構成成分>
本発明において、樹脂層は、特定の表面性状を有するため、良好な親水性を示すが、樹脂層を構成する成分を目的に応じて選択することにより、親水性に加えて、様々な機能性を付与することができる。機能性を有する樹脂層としては、例えば、離型層、易接着層、帯電防止層、バリア層、導電層などが挙げられる。本発明の積層フィルムの樹脂層は、前記機能性を付与する樹脂層形成用液状物を基材フィルムに塗布し、塗布された液状物を発泡させることで、樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以下という特定の表面状態にすることができる。
【0035】
本発明において、樹脂層を構成する成分としては、例えば、シリコーン系化合物、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール、ウレタン樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。」
ウ 実施例と比較例
(ア)「【実施例】
【0070】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。積層フィルムの特性は下記の方法で測定した。
【0071】
(1)樹脂層厚さ
接触式膜厚計により積層フィルムの厚さを測定し、積層フィルムの厚さから、基材フィルムの厚さを減じて、樹脂層の厚さを求めた。
【0072】
(2)樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)、二乗平均平方根傾斜(RΔq)、算術平均粗さRa
三次元測定レーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS4100)を用い測定した。λc、λs、λfのいずれも無しの設定で、観察面内で3点測定し、平均値を算出した。
【0073】
(3)水接触角
自動接触角計(KRUSS社、DSA30)を用いて、2μLの水液滴を滴下し、滴下後2秒後の接触角をEllipse(Tangent-1)法で自動算出した。」
(イ)「【0079】
実施例1
共重合ポリエステル樹脂水性分散体と、オキソザリン化合物水溶液と、発泡剤F1と、濡れ調整剤D-1を、各成分の固形分質量比が100/2/100/10となるように混合して、樹脂層形成用液状物を得た。
得られた液状物を、マイヤーバーを用いて、基材フィルムS-1の表面に塗布した後、150℃で60秒乾燥し、基材フィルム上に厚さ0.2μmの樹脂層を有する積層フィルムを得た。
【0080】
実施例2、4~5、7~10、比較例1~10
樹脂成分の種類、架橋剤の質量部、発泡剤の種類と質量部、濡れ調整剤の種類、粒子の種類と質量部を、表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。
【0081】
実施例3
ポリエチレンテレフタレート(重合触媒:三酸化アンチモン、固有粘度:0.62、ガラス転移温度:78℃、融点:255℃)に、シリカ粒子(粒子径2.3μm)を0.08質量%添加したポリエチレンテレフタレートAを押出機Iに、また粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートBを押出機IIに、それぞれ投入し、280℃で溶融後、それぞれの溶融体をTダイの出口に至る前で層状に合流積層させた。層の厚み比(I/II)が4/6となり、総厚みが600μmとなるよう調整してTダイ出口より押出し、急冷固化して未延伸の複層ポリエステルフィルムを得た。
この未延伸フィルムをロール式縦延伸機で85℃の条件下、3.5倍に延伸して縦延伸フィルムを得た。
次いで、実施例1で得た樹脂層形成用液状物を、縦延伸フィルムの、押出機IIからのフィルム層の表面に、グラビアロールで5g/m 2となるように塗布したのち、横延伸テンター内で、100℃の条件下、横4.5倍に延伸を施し、その後、横方向の弛緩率を3%として、240℃で3秒間の熱処理を施して、複層ポリエステルフィルムからなる基材フィルムの片面に厚さ0.10μmの樹脂層が設けられた厚さ38μmの積層フィルムを得た。
【0082】
実施例6
樹脂層形成用液状物を実施例4で得たものに変更した以外は、実施例3と同様にして、積層フィルムを得た。
【0083】
実施例、比較例で得られた積層フィルムの評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
[図:0001421363000001.jpg]
【0085】
実施例1~10の積層フィルムは、樹脂層表面の粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以下であり、二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5°以上であり、水接触角が50°以下であるため、耐結露性、耐ブロッキング性に優れるとともに、透明性が良好であった。
一方、比較例1~2、5~10の積層フィルムは、樹脂層表面のRSmおよびRΔqが本発明で規定する範囲を満たさないため、耐結露性が低下し、耐ブロッキング性に劣っていた。比較例3、4の積層フィルムは、樹脂層が粒子を含有すると、耐ブロッキング性がわずかに改良したが、ヘーズが高くなった。」
エ 効果
「【発明の効果】
【0009】
本発明の積層フィルムの樹脂層表面は、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以下であり、樹脂層の表面積が増加するため、良好な親水性を示し、また二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5°以上であり、樹脂層表面の凹凸が細かく急な角度のため、フィルムが巻き取られた際の接触面積が低下し、ブロッキングの発生を抑制することができ、また水接触角が50°以下であるため、適度な親水性を有し、フィルム表面での液滴による結露の発生が抑制され、高湿度下および低温度下において、結露が発生せず、さらに霜がつきにくいことにより、フィルムを通した視野や意匠性を損なうことがない。
さらに本発明の積層フィルムの樹脂層は、実質的に粒子を含まないため、良好な透明性を示す。」
(2)サポート要件について
ア 特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきであるところ、本件発明のようなパラメータ発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解される。
イ そこで、以下、本件発明について検討する。
本件発明の解決しようとする課題は、「親水性に優れる樹脂層を有する積層フィルムであって、耐ブロッキング性や透明性にも優れる積層フィルムを提供すること」(上記(1)ア)である。
ウ そして、本件発明のパラメータの技術的な意味は、発明の詳細な説明の記載から、次のように把握される。
(ア)樹脂層表面の「粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)」について
発明の詳細な説明において、樹脂層表面は、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が15μm以下であることが必要であり、2μm以上であることが好ましく、RSmが15μmを超えると、表面積の増加が少ないため、良好な親水性を示さなくなる旨記載されている(【0021】)。
ここで、「粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)」は、基準長さにおける輪郭曲線要素の長さの平均を表したものであり、その値の大小が表面の濡れ性に影響することは技術常識である。
これらから、「粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)」の値により、親水性を制御できることが把握される。
(イ)樹脂層表面の「二乗平均平方根傾斜(RΔq)」について
発明の詳細な説明において、樹脂層表面は、二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5°以上であることが必要であり、RΔqが5°未満であると、凹凸が細かく急な角度でないため、フィルムが巻き取られた際の接触面積が増加し、ブロッキングの発生を抑制できなくなると記載されている(【0022】)。
ここで、「二乗平均平方根傾斜(RΔq)」は、基準長さにおける局部傾斜dZ/dXの二乗平均平方根を表したものであり、その定義からみて、「二乗平均平方根傾斜(RΔq)」が樹脂層表面の凹凸の傾斜の細かさに関係し、フィルム同士の接触面積の多寡と影響して、耐ブロッキング性に関係することが当業者に理解できる。
これらから、「二乗平均平方根傾斜(RΔq)」の値により、耐ブロッキング性を制御できることが把握される。また、ブロッキングの発生を防ぐために樹脂層に粒子を添加する必要がないから、フィルムの透明性を損なうことがないことも把握される。
(ウ)樹脂層表面の「水接触角」について
発明の詳細な説明において、樹脂層表面は、水接触角が50°以下であることが必要であり、水接触角が50°を超えると、液滴による結露の発生が顕著となると記載されている(【0023】)。
ここで、「水接触角」は、樹脂層表面での水との濡れ性を示すものであり、親水性に関係することが当業者に理解できる。
このことから、「水接触角」の値により、親水性を制御できることが把握される。
エ さらに、各パラメータの具体的な数値範囲については、発明の詳細な説明の【0079】~【0085】の実施例及び比較例より、樹脂層表面の表面性状が、「粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が 2~15μmであり、二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5~17.3°であり、かつ、水接触角が50°以下である」ことを満たす実施例1~10では耐結露性、耐ブロッキング性及びヘーズの各評価項目について良好な結果を得ることが確認でき、前記パラメータの一部を満たさない比較例1~10においては良好な結果を得られなかったことが確認できる。
オ そうすると、実施例と比較例とを比較考慮すれば、本件発明における各パラメータの数値範囲は、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者に認識できるように記載されたものといえる。
カ 申立人は、次の(ア)、(イ)のサポート要件に係る申立理由を主張する。
(ア)本件発明の解決しようとする課題のうち、「透明性」の課題の解決手段である、樹脂層(塗布層)に粒子を含有させないことが本件発明1に反映されていないために、本件発明1~4はサポート要件を充足しない。(特許異議申立書の「申立ての根拠1」)
(イ)全ての実施例において、本件発明1で特定する所定のRSm、RΔqを達成するために発泡剤を使用していることから、発泡剤の使用は本件発明では必須の手段であるところ、発泡剤の使用が本件発明1に反映されていないために、本件発明1~3はサポート要件を充足しない。(特許異議申立書の「申立ての根拠3」)
(ウ)上記(ア)の主張について検討する。
従来、ブロッキングの発生を防ぐ方法として、塗膜に粒子などを添加して塗膜表面に凹凸を形成する方法が用いられてきたが、粒子による光の散乱によりフィルムの透明性が損なわれる問題があった(本件明細書の【0005】)ところ、本件発明では、樹脂層表面の表面性状について、特に「二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5~17.3°」とすることで、塗膜へ粒子を添加することなく、すなわち、フィルムの透明性が損なわれることなく耐ブロッキング性を向上させることを可能としたものである。
申立人は、「透明性」の課題を達成するために樹脂層(塗布層)に粒子を含有させないことの特定が必要な旨主張するが、発明の詳細な説明を参照すると、本件発明は、ブロッキングの発生を防ぐことに付随して、粒子の添加によるフィルム本来の透明性が損なわれないことも課題とするものである。
そうすると、本件発明は、耐ブロッキング性を向上させつつ、フィルムの透明性が損なわれないようにすることを、「二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5~17.3°」とすることで解決したのであって、「粒子を含有させないこと」で解決したのではないから、甲第1、2号の記載を踏まえても、申立人の上記(ア)の主張は採用できない。
(エ)上記(イ)の主張について検討する。
申立人は、本件発明1で特定する所定のRSm、RΔqを達成するために、本件発明1での発泡剤の使用の特定が必要である旨主張する。
しかしながら、本件発明は、発明の解決しようとする課題を、樹脂層表面の表面性状について、「粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が 2~15μmであり、二乗平均平方根傾斜(RΔq)が5~17.3°であり、かつ、水接触角が50°以下である」とすることで解決したものであって、本件発明1での発泡剤の使用が必須であるものではないから、申立人の上記(イ)の主張は採用できない。
(オ)よって、申立人のサポート要件に係る申立理由には理由がない。
キ 以上より、本件発明は、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たすものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものではない。
(3)実施可能要件について
ア 本件発明1~3は「積層フィルム」に係る物の発明である。
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすためには、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤をすることなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されていることを要するものと解される。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明を参照すると、本件発明1~3の積層フィルムは、基材フィルムと、この基材フィルムの少なくとも一方の面に設けられた樹脂層とを有すること(【0010】)、樹脂層は、基材フィルムに樹脂層形成用液状物を塗布することにより形成されること(【0028】)、樹脂層形成用液状物は、樹脂層を構成する成分と、溶媒と、発泡剤を含有すること(【0027】)、樹脂層を構成する成分として、シリコーン系化合物等が挙げられること(【0034】)、樹脂層表面の所定の表面性状は、発泡剤を含む樹脂層形成用液状物を発泡させることで得られること(【0027】、【0029】)が、それぞれ記載されている。
そして、実施例(【0070】以降)においても、具体的な原料及び製造方法が記載されており、その耐結露性、耐ブロッキング性及びヘーズを評価し、本件発明の積層フィルムの有用性を確認している。
そうすると、当業者であれば、発明の詳細な説明を参照して、本件発明1~3の積層フィルムを製造し、使用することができるものといえる。
ウ 申立人は、次の(ア)の実施可能要件に係る申立理由を主張する。
(ア)樹脂層が粒子を含有する場合(粒子により光の散乱や反射が生じる場合)、どの様にすれば透明性の課題を解決できるのか発明の詳細な説明には記載されておらず、過度な試行錯誤を要するため、本件発明1~3について、発明の詳細な説明は実施可能要件を充足しない(特許異議申立書の「申立ての根拠2」)。
(イ)しかし、本件発明1~3には「樹脂層が粒子を含有する」ことを特定しておらず、発明の詳細な説明において、申立人がいう、樹脂層が粒子を含有する場合の透明性に係る課題の解決方法は、記載されることを要するものではなく、申立人の上記主張は採用できない。
(ウ)よって、申立人の実施可能要件に係る申立理由には理由がない。
エ 以上より、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定の要件を満たすものであり、同法第113条第4号の規定に基づき取り消されるべきものではない。
5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700651