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特許異議申立

2021-701116

ポリエステルフィルム、積層体およびポリエステルフィルムの製造方法

審判番号
2021-701116
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-069745
登録番号
6882766
請求日
2021年11月30日
審決日
2023年01月26日
公報発行日
2023年06月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】ユニチカ株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人森本国際特許事務所
  • 【異議申立人】平居 博美
  • 【異議申立人】小島 早奈実
審判長/審判官
  • 審判長 ▲吉▼澤 英一
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 三上 晶子
分類
P1651.537-YAA(B29C) / P1651.536-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.112-YAA(B29C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項2号特許法29条2項特許法113条2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6882766号発明「ポリエステルフィルム、積層体およびポリエステルフィルムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6882766号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。 特許第6882766号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6882766号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成29年3月31日の出願であって、令和3年5月11日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年6月2日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年11月30日に特許異議申立人 平居 博美(以下、「特許異議申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、同年12月2日に特許異議申立人 小島 早奈実(以下、「特許異議申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、令和4年3月17日付けで取消理由が通知され、同年5月19日に特許権者 ユニチカ株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年6月2日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年同月29日に特許異議申立人Aから意見書が提出され、同年7月7日に特許異議申立人Bから意見書が提出され、同年9月8日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年11月17日に特許異議申立人Aから上申書が提出され、同年同月18日に特許権者から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和4年5月19日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に 「条件(1):前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、70~120MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は15MPa以下である。 条件(2):前記4方向のそれぞれの15%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~180MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は10MPa以下である。」 とされているのを、 「条件(1):前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、70~120MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は9.3MPa以下である。 条件(2):前記4方向のそれぞれの15%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~180MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は8.7MPa以下である。」に訂正する。 併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8も請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「条件(1)」については、「前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕」の数値範囲の上限を「15MPa以下」から「9.3MPa以下」と低くし、下限の限定がなかったものを下限として「-9.3MPa以上」を追加するものであり、「条件(2)」については、「前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕」の数値範囲の上限を「10MPa以下」から「8.7MPa以下」と低くし、下限の限定がなかったものを下限として「-8.7MPa以上」を追加するものと言い替えることができるから、実質的には、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 なお、特許異議申立人Bは、令和4年7月7日に提出された意見書において、「(ウ)しかしながら、本件特許明細書及び特許請求の範囲において「両応力の差」について記載された【0009】、【0032】及び【特許請求の範囲】の全てにおいて「両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕」と明確に記載されており、本件特許出願時において両応力の差とは「応力(A)-応力(B)」を想定していたことは明白である。そうすると、「応力(A)-応力(B)」を削除する訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるから認められない。」(第2ページ第)旨主張する。 そこで、検討する。 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「応力(A)-応力(B)」という記載を削除するものではあるが、上記のとおり、「条件(1)」及び「条件(2)」それぞれについて、数値範囲の上限を低くし、下限の限定を追加するものといえるから、実質的には、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、特許異議申立人Bの上記主張は採用できない。 (2)請求項2ないし8についての訂正について 訂正事項1による請求項2ないし8についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項2ないし8についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1による請求項1ないし8についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1による請求項1ないし8についての訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし8は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1による請求項1ないし8についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし8に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力について、引張速度100mm/分にて測定した応力(A)と引張速度1000mm/分にて測定した応力(B)が、下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とするポリエステルフィルム。 条件(1):前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、70~120MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は9.3MPa以下である。 条件(2):前記4方向のそれぞれの15%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~180MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は8.7MPa以下である。 【請求項2】 密度が1.360~1.400g/cm3であることを特徴とする請求項1記載のポリエステルフィルム。 【請求項3】 前記4方向における厚みの平均値が30μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のポリエステルフィルム。 【請求項4】 請求項1~3のいずれかに記載のポリエステルフィルムと金属箔を含む積層体。 【請求項5】 金属箔、接着剤層、請求項1~3のいずれかに記載のポリエステルフィルムがこの順に積層されてなる積層体。 【請求項6】 請求項1~3のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造するための方法であって、未延伸シートの縦方向(MD)と横方向(TD)の逐次二軸延伸または同時二軸延伸において、 横方向(TD)の延伸を3段階で、それぞれの段階の延伸時間を等しくして行い、横方向延伸前のフィルム幅W0と、1段階目の横方向延伸後のフィルム幅W1と、2段階目の横方向延伸後のフィルム幅W2と、3段階目の横方向延伸後のフィルム幅W3とが下記(a)を満足し、 かつ縦方向(MD)の延伸倍率(DRMD)と、横方向(TD)の全延伸倍率(DRTD=W3/W0)とが、下記(b)、(c)を満足するように二軸延伸することを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。 W2-W1<W1-W0<W3-W2 (a) 0.70≦DRMD/DRTD≦0.90 (b) 12.5≦DRMD×DRTD≦15.5 (c) 【請求項7】 逐次二軸延伸において、 未延伸シートを縦方向(MD)に延伸して縦延伸フィルムを得る縦延伸を、65~105℃の温度範囲で行ない、 縦延伸フィルムを横方向(TD)に延伸する横延伸を、90~160℃の温度範囲で行なうことを特徴とする請求項6記載のポリエステルフィルムの製造方法。 【請求項8】 二軸延伸後のフィルムに、160~210℃の温度範囲で熱処理を行なうことを特徴とする請求項6または7記載のポリエステルフィルムの製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和3年11月30日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由A1(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・段落0036には5%伸長時の応力及び15%伸長時の応力の測定方法が記載されており、具体的には「1kN測定用のロードセルとサンプルチャックとを取り付けた引張試験機(島津製作所社製AG-1S)を用い、応力(A)については、引張速度100mm/分にて、5%伸長時の応力(F5)および15%伸長時の応力(F15)をそれぞれ測定する。また、応力(B)については、引張速度1000mm/分にて、5%伸長時の応力(F5)および15%伸長時の応力(F15)をそれぞれ測定する。」と記載されている。 しかし、以下のア及びイのいずれの観点からも、明細書等又は技術常識から5%伸長時の応力(F5)および15%伸長時の応力(F15)の測定条件が一義的に導かれないため、本件特許発明は明確でない。 ア チャック間の距離の変更による応力への影響について 段落0036には引張試験でのチャック(つかみ具)間の距離の記載がない。チャック間の距離によって測定値が変わることは当業者間で広く知られており、その証拠として、段落0036に記載の引張試験機を作製している島津製作所社の特許出願である甲第A1号証の段落0003においても「引張試験をはじめとする各種材料試験においては、図2に例示するように、試験開始当初におけるつかみ具間の距離L、つまり試験片Wを把持した状態で負荷を与える前の状態におけるつかみ具C1,C2間の距離Lは、試験結果に重大な影響を及ぼす」と記載されている。 本件明細書に記載の測定条件では、チャック間の距離が変わると、試料の変形速度(%/分)も変わってしまい、チャック間距離が1/2になると、変形速度は2倍になる。具体的には、引張速度が100mm/分であるとき(本件特許発明1、段落0036)は、チャック間距離50mmの場合では変形速度200%/分となり、チャック間距離25mmの場合では変形速度400%/分となる。しかし、チャック間距離50mmとして変形速度200%/分で測定した応力とチャック間距離25mmとして変形速度400%/分で測定した応力とが全く同じ値になるとは到底考えられない。 引張速度が1000mm/分であるとき(本件特許発明1、段落0036)も同様である。 イ JIS規格について 特許権者は、当業者であればJISの規定に準じて測定する、と反論するかもしれない。しかし、本件明細書において、準拠すべきJISの規格を記載していない。加えて、仮に当業者がJISの規格を参照したとしても、チャック間距離を特定することができない。 フィルムの引張試験においては、一般的に甲第A2号証に記載のJIS規格(JIS K7127「プラスチック-引張特性の試験方法 第3部:フィルム及びシートの試験条件」)が用いられる。 本件特許の実施例で用いられる試料は、縦100mm×横15mmの短冊状試験片であり(段落0036)、甲第A2号証に記載された試験片タイプの中で最も近いのは「試験片タイプ2」であると思われるが、試験片タイプ2は、幅10~25mm、全長≧150mmであり、チャック間の距離は100mm±5mmであることから、試験片タイプ2は上記短冊状試験片とは大きく異なる。よって、甲第A2号証に記載のいずれの試験片タイプとも大きく異なる。以上のことからJIS K7127に準拠し、本件特許の試料のチャック間の距離として100mmを設定することは不可能である。 また、甲第A2号証の「5.装置」には試験速度が5mm/分~500mm/分であることが記載されており、本件特許発明1における引張速度1000mm/分はJISの規格外である。 したがって、当業者がJISの規格を参照しても、チャック間の距離を設定できるとは言えず、当業者がチャック間距離を一義的に把握することができない。 (2)申立理由A2(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 実施例で用いられているポリエステルについて 本件特許発明1はポリエステルフィルムに関する発明であるが、実施例には、PBT:2~50質量%/PET:98~50質量%のポリエステル、またはイソフタル酸共重合PET:10~20質量%/PET:90~80質量%のポリエステルといった実施例しか記載されていない。換言すると、実施例で用いられているポリエステルの組成が非常に限定されたものであり、例えば、PETが100質量%である実施例の記載やイソフタル酸共重合PETが10質量%未満の実施例やイソフタル酸共重合PETが20質量%を超える実施例は記載されていない。 従って、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、サポート要件違反である。 イ 有効数字について 本件特許発明1において「5%伸長時の・・・両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は15MPa以下・・・15%伸長時の・・・両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は10MPa以下である。」と規定されている。一方、実施例及び比較例の数値は、小数点1桁まで含む(表2、3、5、6)。両応力の差である「15MPa」、「10MPa」は有効数字2桁であり、当該数字はそれぞれ14.5~15.4及び9.5~10.4までを含む数字であり、段落0032の記載を見ても15MPa、10MPaがそれぞれ15.0MPa、10.0MPaであると解する理由はない。そうしてみると、比較例5及び比較例17、18は、本件特許発明1の範囲内に含まれているが、比較例5及び比較例17、18は冷間成型性に劣っている(表6)。 従って、発明の詳細な説明には発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されておらず、また出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許発明はサポート要件違反である。 (3)申立理由A3(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・実施例において、樹脂B-2として「イソフタル酸を共重合したPET(日本エステル社製MA-1342)を使用しているが、イソフタル酸の共重合比率の記載がされていない。また、インターネットを参照しても、日本エステル社製MA-1342に関する情報がない。イソフタル酸の共重合比率によって伸長時の応力等の物性は大きく変わるものであるが、実施例を見ても共重合比率の開示がなく、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないため、本件特許発明は実施可能要件違反である。 (4)証拠方法 甲第A1号証:特開2002-365188号公報 甲第A2号証:JIS K7127「プラスチック-引張特性の試験方法 第3部:フィルム及びシートの試験条件」、JISハンドブック26 プラスチックI(試験)、2002年、日本規格協会 証拠の表記は、特許異議申立書Aの記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。 2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和3年12月2日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由B1(甲第B1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由B2(甲第B2号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由B3(甲第B5ないしB7号証から認定される公然実施をされた発明に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、下記の甲第B5ないしB7号証から認定される本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であり、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるか、上記公然実施をされた発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由B4(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 なお、該申立理由B4は申立理由A2のうちアに基づく理由とおおむね同旨である。 ・本件特許発明1~8において「ポリエステルフィルム」の発明であるものの、本願の実施例においては、ポリエステルとしてPBTとPETからなるPBT/PETが2/98~50/50の質量比の組成のフィルムと、ポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートとからなるポリエチレンテレフタレート/イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートが10/90~20/80の質量比の組成のフィルムしか示されていない。 そうすると、上記のような本件特許の発明の詳細な説明の記載及び、「ポリエステルフィルム」にはPBTとPET、及び、ポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート以外にも様々な種類の樹脂が含まれる出願時の技術常識を考慮して、「ポリエステルフィルム」としか特定していない請求項1~8に係る発明の範囲まで、本件特許の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。 したがって、本件特許発明1~8は、本願の発明の詳細な説明に記載したものでない。 (5)証拠方法 甲第B1号証:特開2012-238491号公報 甲第B2号証:特開2016-187967号公報 甲第B3号証:特開2015-147309号公報 甲第B4号証:国際公開第2014/017457号 甲第B5号証:特開2012-59379号公報 甲第B6号証:国際公開第2011/158662号 甲第B7号証:特許第5453680号公報 甲第B8号証:2021年11月25日に測定された東レ株式会社製「ルミラー」(登録商標)P60の5%伸長時及び15%伸長時の応力測定結果 甲第B9号証:東レ株式会社のホームページ、物理的熱的性質_ルミラー○R(当審注:「○R」はRを〇で囲んだ記号である。)_テクニカル情報 _フィルム製品_URL:https://www.films.toray/technical/lumirror/lum_002.html 証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」のようにいう。 第5 取消理由(決定の予告)の概要 令和4年9月8日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。 ・取消理由(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 なお、該取消理由は申立理由A1とおおむね同旨である。 ・甲A1の【0003】によると、引張試験においては、試験開始当初におけるつかみ具間の距離は、試験結果に重大な影響を及ぼすことが当業者の出願時の技術常識であるといえる。 そうすると、本件特許発明1においても、「フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力」を測定するにあたっては試験開始当初におけるつかみ具間の距離が特定されている必要があるといえる。 しかし、特許請求の範囲の請求項1には、当該距離を特定する記載はない。 また、発明の詳細な説明には、【0036】に、本件特許発明1における「フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力」の測定方法が記載されているが、発明の詳細な説明の他の箇所及び図面を含め、上記距離を特定する記載はない。 さらに、JIS規格である甲A2に記載された事項を考慮しても、本件特許発明1において、試験開始当初におけるつかみ具間の距離を特定することはできないし、他に、本件特許発明1において、上記距離を特定できるような当業者の出願時の技術常識があるともいえない。 したがって、発明の詳細な説明の記載及び図面並びに当業者の出願時の技術常識を基礎としても、どのような測定条件で、本件特許発明1において特定される「フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力」の数値が得られるのかが当業者といえども理解できない。 よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎としても、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確である。 本件特許発明2ないし8についても同様である。 第6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断 1 主な証拠に記載された事項等 (1)甲A1に記載された事項 甲A1には、「材料試験機」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 ・「【0002】 【従来の技術】材料試験機においては、一般に、試験片の両端部を一対のつかみ具により把持した状態で、つみか具の一方を他方に対して接近または離隔することによって、試験片に負荷を与える。通常、一対のつかみ具のうちの一方はテーブルに、他方は駆動機構の駆動によりそのテーブルに対して接近/離隔する方向に移動するクロスヘッドに、それぞれ取り付けられ、試験片の両端部をこれらのつかみ具で把持した状態でクロスヘッドを移動させることによって試験片に負荷を与えるように構成されている。 【0003】ここで、引張試験をはじめとする各種材料試験においては、図2に例示するように、試験開始当初におけるつかみ具間の距離L、つまり試験片Wを把持した状態で負荷を与える前の状態におけるつかみ具C1,C2間の距離Lは、試験結果に重大な影響を及ぼすため、このつかみ具間距離は規格等に則って正確にセットする必要がある。」 ・「【図2】 [図:0001398224000001.jpg] 」 (2)甲A2に記載された事項 甲A2には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「5.装置 JIS K 7161の5.(装置)によるが、次の事項を追加する。 5.1.2(試験速度)で,引張試験機は,JIS K 7161の表1に規定する推奨試験速度を維持できなければならない。フィルム及びシートの試験速度は,通常5mm/min,50mm/min,100mm/min,200mm/min,300mm/min又は500mm/minである。」(第842ページの「5.装置」の欄) ・「6.試験片 6.1 形状及び寸法 6.1.1 この試験方法による引張特性測定の試験片は,10mm~25mm幅で、長さは150mm以上(試験片タイプ2,図1参照)が望ましく,試験片中央部には50mm離れて平行な2本の標線をつける。 フィルムの材質によっては,破断時の伸びが非常に大きく,試験機の伸びの容量を超えるものがある。この場合は初期のチャック間隔を50mmまで減らしてもよい。 ・・・(略)・・・ [図:0001398224000002.jpg] 」(第842及び843ページの「6.試験片」の「6.1 形状及び寸法」の欄) (3)乙第2号証に記載された事項 令和4年11月18日に特許権者から提出された意見書に添付された乙第2号証(以下、「乙2」という。)には、おおむね次の事項が記載されている。 ・「 [図:0001398224000003.jpg] [図:0001398224000004.jpg] [図:0001398224000005.jpg] 」 2 明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 3 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 4 発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、伸長時応力が特定の範囲である新規なポリエステルフィルムおよびその製造方法に関する。さらに、本発明は、前記ポリエステルフィルムを含む積層体に関する。 【背景技術】 【0002】 ポリエステルフィルムは、耐熱性、耐薬品性、絶縁性などに優れることから、包装用フィルム、磁気テープ用フィルム、光学用フィルム、電子部品用フィルムなど、幅広い分野で利用されている。 【0003】 近年、ラミネート型リチウムイオン電池外装材や、プレススルーパックなどは、樹脂フィルムや金属箔から構成される積層体を、冷間成型することで得られている。 上記冷間成型を行なうための積層体は、一般的に、ナイロンフィルム(Ny)/アルミニウム箔(Al箔)/未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)や、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)/Ny/Al箔/CPPなどの構成が採られ、Al箔を含む積層体には、延展性を付与して冷間成型を可能にするために、ナイロンフィルムが積層されている。 しかしながら、積層体は、ナイロンフィルムの積層により、コストアップに直結することに加えて、ナイロンフィルムは、ポリエステルフィルムと比較して耐熱性に劣るため、高温高湿度下では熱劣化により物性が低下する問題があり、また吸湿性であるため、吸湿により寸法が変化する問題があり、得られる包装袋は、カールする懸念があるなどの問題があった。 【0004】 一方、ポリエステルフィルムは、ナイロンフィルムと比較して硬く脆く、また一般的にテンター式逐次延伸法で製造されているため、異方性が大きく、このポリエステルフィルムに積層した金属箔に延展性を付与することが困難であった。しかしながら、冷間成型性に優れた積層体を構成することが可能なポリエステルフィルムが提案され、例えば、特許文献1、2には、フィルムの長手方向と幅方向の伸長時応力が特定範囲に規定された、リチウム電池包装用のポリエステルフィルムが開示されている。そして、近年、ラミネート型リチウムイオン電池外装材や、プレススルーパックなどに用いる積層体として、ナイロンフィルムを用いることなく、ポリエステルフィルムのみを外層に使用したPET/Al箔/CPPのような構成のものが採用されている。 【0005】 樹脂フィルムに金属箔を積層した積層体を冷間成型する際には、樹脂フィルムにより金属箔に延展性を付与することが重要である。樹脂フィルムに伸びやすい方向と伸びにくい方向とが存在することで、冷間成型時に金属箔が破断したり、樹脂フィルムと金属箔とのデラミネーションが生じたり、ピンホールが発生する。このような問題が起こると、得られた成型体は、包装体等としての機能が果たせなくなり、被包装体(内容物)の損傷等につながるおそれがある。そして、冷間成型加工においては、金型形状や成形深さも多様であることから、多様な加工条件(例えば、絞り成型時の様々な圧力や速度など)にも適応できる、安定した成型性を有するポリエステルフィルムが求められている。 【0006】 このように、多様な冷間成型条件においても、樹脂フィルムにより金属箔に延展性を付与することができ、金属箔が破断したり、樹脂フィルムと金属箔とのデラミネーションが生じたり、ピンホールが発生することを防ぎ、良好な冷間成型性を有している樹脂フィルムとして、ポリエステルフィルムの開発が切望されているものの、このようなフィルムは未だ開発されるに至っていないのが現状である。 ・・・(略)・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は、冷間成型時の絞り深さ、圧力、速度等の多様な加工条件においても、樹脂フィルムにより金属箔に延展性を付与することができ、金属箔が破断したり、樹脂フィルムと金属箔とのデラミネーションが生じたり、またはピンホールが発生することを防ぐことができ、冷間成型用途に好適なポリエステルフィルムを提供することを目的とするものである。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、2種類の測定条件で測定する前記4方向における応力が特定の範囲を満足するポリエステルフィルムが、多様な冷間成型条件に適応し、金属箔に延展性を付与することができることができることを見出し、本発明に至った。 すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。 [1]フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力について、引張速度100mm/分にて測定した応力(A)と引張速度1000mm/分にて測定した応力(B)が、下記(1)及び(2)の条件を満たすことを特徴とするポリエステルフィルム。 条件(1):前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、70~120MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は15MPa以下である。 条件(2):前記4方向のそれぞれの15%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~180MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は10MPa以下である。 [2]密度が1.360~1.400g/cm3であることを特徴とする[1]記載のポリエステルフィルム。 [3]前記4方向における厚みの平均値が30μm以下であることを特徴とする [1]または[2]記載のポリエステルフィルム。 [4]上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルフィルムと金属箔を含む積層体。 [5]金属箔、接着剤層、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルフィルムがこの順に積層されてなる積層体。 [6]上記[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルフィルムを製造するための方法であって、未延伸シートの縦方向(MD)と横方向(TD)の逐次二軸延伸または同時二軸延伸において、 横方向(TD)の延伸を3段階で、それぞれの段階の延伸時間を等しくして行い、横方向延伸前のフィルム幅W0と、1段階目の横方向延伸後のフィルム幅W1と、2段階目の横方向延伸後のフィルム幅W2と、3段階目の横方向延伸後のフィルム幅W3とが下記(a)を満足し、 かつ縦方向(MD)の延伸倍率(DRMD)と、横方向(TD)の全延伸倍率(DRTD=W3/W0)とが、下記(b)、(c)を満足するように二軸延伸することを特徴とするポリエステルフィルムの製造方法。 W2-W1<W1-W0<W3-W2 (a) 0.70≦DRMD/DRTD≦0.90 (b) 12.5≦DRMD×DRTD≦15.5 (c) [7]逐次二軸延伸において、 未延伸シートを縦方向(MD)に延伸して縦延伸フィルムを得る縦延伸を、65~105℃の温度範囲で行ない、 縦延伸フィルムを横方向(TD)に延伸する横延伸を、90~160℃の温度範囲で行なうことを特徴とする[6]記載のポリエステルフィルムの製造方法。[8]二軸延伸後のフィルムに、160~210℃の温度範囲で熱処理を行なうことを特徴とする[6]または[7]記載のポリエステルフィルムの製造方法。 」 ・「【0012】 以下、本発明について詳細に説明する。 本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸成分とジオール成分とから構成されるポリエステル樹脂や、ヒドロキシカルボン酸成分から構成されるポリエステル樹脂が挙げられる。 ・・・(略)・・・ 【0031】 ポリエステル樹脂の重合においては、必要に応じ、添加剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を添加することができる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が、熱安定剤としては、例えば、リン系化合物等が、紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。また、ポリエステル樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とポリエチレンテレフタレート樹脂(B)とを含有するように、2種以上の樹脂を含有する場合、それらが反応することを抑制する反応抑制剤として、リン系化合物を添加することが好ましい。」 ・「【0032】 次に、本発明のポリエステルフィルムの特性値について説明する。本発明のポリエステルフィルムは、多様な冷間成型加工に適応できる特性を有していることを示す指標として、下記(1)および(2)の条件を同時に満足することを必須とする。すなわち、本発明のポリエステルフィルムは、フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と前記4方向のそれぞれにおける15%伸長時の応力について、引張速度100mm/分にて測定した応力(A)と引張速度1000mm/分にて測定した応力(B)が、下記(1)及び(2)の条件を満たすことを必須とする。 つまり、条件(1)として、前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、70~120MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は15MPa以下である。 中でも、前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、80~120MPaであることが好ましく、85~115MPaであることがさらに好ましい。 そして、条件(2)として、前記4方向のそれぞれの15%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~180MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差〔応力(A)-応力(B)〕は10MPa以下である。 中でも、前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~170MPaであることが好ましく、95~160MPaであることがさらに好ましい。 【0033】 本発明のポリエステルフィルムは、伸長時の応力について、2種類の測定方法で測定した値が特定の範囲のものとなり、かつ、2種類の測定方法で測定した値の差が特定の範囲内のものであることにより、様々な金型形状や成形深さの冷間成型にも対応可能であり、例えば、絞り成型時の様々な圧力や速度などにも適応できるものとなる。そして、様々な加工条件においても、ポリエステルフィルムが金属箔に追従しやすく、金属箔に十分な延展性を付与することができる。 上記の条件(1)や条件(2)の少なくともいずれかを満足しない場合は、多様な冷間成型加工において、上記のような効果を奏することができず、冷間成型時に金属箔が破断したり、樹脂フィルムと金属箔とのデラミネーションが生じたり、ピンホールが発生する。」 ・「【0036】 本発明フィルムにおける前記4方向の応力は、次のように測定する。まず、ポリエステルフィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、図1に示すように、フィルム上の任意の点Aを中心点とし、フィルムの基準方向(0°方向)を任意で特定し、その基準方向(a)から時計回りに45°方向(b)、90°方向(c)及び135°方向(d)の4方向を測定方向とし、中心点Aから各測定方向に100mm、かつ、測定方向に対して垂直方向に15mmの短冊状に裁断したものを試料とする。例えば、図1に示すように、0°方向では中心点Aから30mm~130mmの範囲で試料X(縦100mm×横15mm)のように切り取る。他の方向についても同様に試料を切り取る。 これらの試料について、1kN測定用のロードセルとサンプルチャックとを取り付けた引張試験機(島津製作所社製AG-1S)を用い、応力(A)については、引張速度100mm/分にて、5%伸長時の応力(F5)および15%伸長時の応力(F15)をそれぞれ測定する。また、応力(B)については、引張速度1000mm/分にて、5%伸長時の応力(F5)および15%伸長時の応力(F15)をそれぞれ測定する。 応力(A)、応力(B)ともに、各方向について、それぞれ試料数5で測定を実施し、平均値を算出し、各方向の応力値とする。そして、4方向の応力値の最大値と最小値との差をそれぞれ求める。 なお、上記の基準方向(0°)は、フィルム製造時の延伸工程におけるMDが判明しているときには、MDを基準方向とすることが好ましい。」 ・「【0037】 次に、本発明のポリエステルフィルムは、密度が1.360~1.400g/cm3であることが好ましく、中でも1.370~1.385g/cm3であることが好ましい。 密度は、ポリエステルフィルムの柔軟性を示す指標である。樹脂フィルムは、柔軟性が低いと、冷間成型の伸長時に強い負荷がかかってしまい、金属箔とのデラミネーションやピンホールが発生する可能性がある。逆に樹脂フィルムは、柔軟性が大きくなりすぎると、基材としての、金属箔を含む積層体を保護する効果が薄れ、得られる積層体は、機械的特性が低下してしまう。このため、樹脂フィルムは、高すぎず、低すぎない柔軟性を持つことが好ましい。 ポリエステルフィルムの密度が1.360g/cm3未満であると、柔軟性が大きくなりすぎるため、得られる積層体の物理的特性が低下する。一方、ポリエステルフィルムの密度が1.400g/cm3を超えると、柔軟性が低くなり、冷間成型の伸長時に負荷がかかり、金属箔に良好な延展性を付与することができず、冷間成型性が低下する傾向がある。 【0038】 なお、本発明のポリエステルフィルムにおける密度は、JISK-7112に記載の密度勾配管法を用いて測定する。なお、測定はそれぞれ3回ずつ行い、その平均値を算出し、密度とする。 【0039】 また、本発明のポリエステルフィルムは、厚みの平均値が30μm以下であることが好ましく、26μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。本発明のポリエステルフィルムは、金属箔と貼り合せる積層体とすることが好適であり、冷間成型用途に用いることが好適なものであるが、後述するようなテンターを用いる二軸延伸を特定の条件を満足する延伸条件で行うことにより、厚みの小さいフィルムであっても、本発明で規定する特定の応力値を有するポリエステルフィルムを得ることができる。 ポリエステルフィルムは、厚みの平均値が30μmを超えると、成型性が低下し、小型の電池外装材に用いることが困難な場合があり、またコスト面でも不利となるおそれがある。 なお、ポリエステルフィルムの厚みの平均値は、以下のようにして測定、算出するものである。ポリエステルフィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、図2に示すように、フィルム上の任意の位置を中心点Aとし、フィルムの基準方向(0°方向)を任意で特定し、その基準方向(a)から時計回りに、45°方向(b)、90°方向(c)、135°方向(d)の4方向へ、それぞれ100mmの直線L1~L4の合計4本引く。それぞれの直線上の中心点から10mm間隔で10点における厚みを、長さゲージ(ハイデンハイン社製 HEIDENHAIN-METRO MT1287)により測定する。そして、4本の直線において測定して得られた40点の厚みの平均値を算出し、これを厚みの平均値とする。」 ・「【0047】 以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について詳述する。上記した特性値を満足する本発明のポリエステルフィルムは、本発明の製造方法により得ることが可能となったものである。 ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とポリエチレンテレフタレート樹脂(B)とを含有するポリエステル樹脂(R)からなるポリエステルフィルムの製造方法を例として説明する。本発明のポリエステルフィルムは、シート成形工程とそれに続く延伸工程により製造することができる。 【0048】 シート成形工程では、ポリエステル樹脂(R)をシート状に成形することにより、未延伸シートを得る。 【0049】 ポリエステル樹脂(R)は、公知の方法に従って調製することができる。例えば、加熱装置を備えた押出機に、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(B)を含む原料を投入し、270~300℃で3~15分間溶融混練することにより得ることができる。溶融混練された樹脂組成物をTダイにより押し出し、50℃以下に温度調整したキャスティングドラム等により冷却固化することによって、シート状の成形体である未延伸シートを得ることができる。 【0050】 未延伸シートの厚みの平均値は特に限定されないが、一般的には15~250μm程度であることが好ましく、50~235μmであることがより好ましい。未延伸シートは、厚みの平均値が上記範囲内であることによって、より効率的に延伸することができる。 【0051】 延伸工程では、前記未延伸シートを縦方向(MD)および横方向(TD)に逐次または同時に二軸延伸することによって延伸フィルムを得る。 同時二軸延伸としては、テンターを用いて未延伸フィルムの両端を把持し、MDに延伸すると同時にTDにも延伸することにより、MDおよびTDの二軸延伸を同時に行なう方法が挙げられる。 一方、逐次二軸延伸においては、MDおよびTDの少なくとも一方向を、テンターにより延伸することが好ましく、これにより、より均一なフィルム厚みを得ることが可能となる。テンターを用いる逐次二軸延伸は、(1)回転速度が異なる複数のロールに未延伸シートを通過させることによりMDに延伸した後、その延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法、(2)未延伸シートをテンターによりMDに延伸した後、その延伸されたフィルムをテンターによりTDに延伸する方法等がある。得られるフィルムの物性、生産性等の点で前記(1)の方法が特に好ましい。テンターを用いる逐次二軸延伸は、MDをロールによって延伸することから、生産性、設備面等において有利であり、TDをテンターによって延伸することから、フィルム厚みの制御等において有利となる。 【0052】 本発明の製造方法では、延伸工程において、横方向(TD)の延伸時に、それぞれ延伸後のフィルム幅の増加量が異なるように3段階の延伸を行うことが必要であり、重要なポイントである。延伸前のフィルム幅W0と、1段階目の延伸後のフィルム幅W1と、2段階目の延伸後のフィルム幅W2と、3段階目の延伸後のフィルム幅W3とが下記(a)を満足することが必要である。 W2-W1<W1-W0<W3-W2 (a) さらに、MDの延伸倍率(DRMD)と、TDの全延伸倍率(DRTD=W3/W0)とが、下記(b)および(c)を同時に満足するように、未延伸シートを逐次または同時に二軸延伸することが必要である。 0.70≦DRMD/DRTD≦0.90 (b) 12.5≦DRMD×DRTD≦15.5 (c) なお、3段階の横延伸によるフィルム幅増加量の合計((W1-W0)+(W2-W1)+(W3-W2)=W3-W0)を横延伸前のフィルム幅W0で割ったもの((W3-W0)/W0=W3/W0-W0/W0)は、DRTD-1に相当する。 上記(a)、(b)および(c)の全てを満足することにより、得られるポリエステルフィルムは4方向の応力の値が特定の範囲を満たすものとなり、かつ4方向の応力バランスが優れたものとすることができる。 【0053】 つまり、横方向(TD)の延伸時に、1段目~3段目の延伸後のフィルム幅の増加量が上記(a)の関係を満足しない場合や、横方向(TD)の延伸を1段階や2段階で行った場合は、異なる引張速度にて測定した応力(A)と応力(B)の差(バラツキ)を小さくすることができず、かつ4方向の応力値を特定の範囲のものとすることができない。 1段階目の延伸、2段階目の延伸及び3段階目の延伸を行う時間は、いずれもほぼ等しいものとすることが好ましい。例えば1段目の延伸時間をT1とすると、2段目の延伸時間T2と3段目の延伸時間T3は、0.8×T1~1.2×T1の範囲とすることが好ましい。 【0054】 また、横延伸(TD)の延伸を3段階で行うには、テンターを用いて延伸し、レール幅をそれぞれの段階で異なるように調整することにより可能である。また、逐次二軸延伸方法を採用することが好ましい。 【0055】 さらに、延伸倍率比(DRMD/DRTD)が0.70未満である場合、MD倍率に対してTD倍率が高倍率になるため、ポリエステルフィルムは、TDの応力-歪み曲線における応力値が高く、低伸度となる。一方、延伸倍率比(DRMD/DRTD)が0.90を超える場合、TD倍率に対してMD倍率が高倍率になるため、ポリエステルフィルムは、MDの応力-歪み曲線における応力値が高く、低伸度となる。 【0056】 また、面倍率(DRMD×DRTD)が12.5未満である場合、面倍率が低過ぎて延伸が不十分となるため、ポリエステルフィルムは、十分な分子配向が得られない。一方、面倍率(DRMD×DRTD)が15.5を超える場合、面倍率が高過ぎるため、ポリエステルフィルムは、延伸時に全方向における延伸を均一に行なうことができない。 【0057】 延伸倍率比(DRMD/DRTD)と面倍率(DRMD×DRTD)は、上記のように(b)および(c)を満足することが必要であり、中でも、DRMDを3.0~3.7とすることが好ましく、3.1~3.6とすることがさらに好ましい。 【0058】 逐次二軸延伸を行なう際には、未延伸シートを縦方向(MD)に延伸して縦延伸フィルムを得る縦延伸を、65~105℃の温度範囲で行なうことが好ましく、中でも70~100℃の温度範囲で行うことが好ましい。次に、縦延伸フィルムを横方向(TD)に延伸する横延伸を、90~160℃の温度範囲で行うことが好ましく、中でも100~150℃の温度範囲で行うことが好ましい。延伸工程における温度は、例えば、予熱用ロールやテンターの予熱ゾーン等にて予熱しながら設定・制御することができる。 【0059】 また、テンターを用いる同時二軸延伸および逐次二軸延伸ともに、延伸後に、弛緩熱処理を行なうことが好ましい。弛緩熱処理における温度は、160~210℃であることが好ましく、170~210℃であることがより好ましい。弛緩熱処理における温度は、テンターの弛緩熱処理ゾーンにて設定・制御することができる。また、弛緩熱処理における弛緩率は、2~9%であることが好ましく、中でも3~7%であることが好ましい。 【0060】 延伸時の温度や弛緩熱処理時の温度を上記の範囲内とすることによって、本発明のポリエステルフィルムを確実に得ることができ、密度が1.360~1.400g/cm3のものとすることができる。そして、縦延伸、横延伸ともに上記の温度範囲で、フィルムの引き取り方向に沿って順次温度を上げていくことが好ましい。」 ・「【0063】 そして、本発明の積層体は、ポリエステルフィルムと金属箔を含むものである。本発明の積層体の代表例として、本発明のポリエステルフィルムおよびそのフィルム上に積層された金属箔を含む積層体が挙げられる。この場合、本発明のポリエステルフィルムと金属箔とは直接に接するように積層されていてもよいし、接着剤層などの他の層を介在させた状態で積層されていてもよい。特に、本発明では、本発明フィルム/金属箔/シーラントフィルムの順に積層した積層体であることが好ましい。この場合、各層間には接着剤層を介在させてもよいし、介在させなくてもよい。 なお、本発明のポリエステルフィルムは、金属箔に良好な延展性を付与することができるものであるため、ナイロンフィルムなどの延展性を有する他の樹脂フィルムの積層を必要としないものである。 【0064】 金属箔としては、各種の金属元素(アルミニウム、鉄、銅、ニッケル等)を含む金属箔(合金箔を含む。)が挙げられるが、特に純アルミニウム箔またはアルミニウム合金箔が好適に用いられる。アルミニウム合金箔については、鉄を含有していること(アルミニウム-鉄系合金等)が好ましく、他の成分については前記積層体の成型性を損なわない範囲で、JIS等に規定されている公知の含有量の範囲であればいずれの成分を含んでいてもよい。 金属箔の厚みは、特に限定されないが、成型性等の観点より15~80μmとすることが好ましく、特に20~60μmとすることがより好ましい。」 ・「【実施例】 【0066】 以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例によって何ら制限されるものではない。ポリエステルフィルムおよび積層体の特性は、下記の方法により測定した。 なお、得られたフィルムロールは、幅方向に3等分した。中央のフィルムロールを「a」、フィルムの流れ方向の上流側から見て右のフィルムロールを「b」、フィルムの流れ方向の上流側から見て左のフィルムロールを「c」とした。 【0067】 (1)ポリエステルフィルムの5%伸長時及び15%伸長時の4方向の応力(応力(A)、応力(B)) ポリエステルフィルムの5%伸長時および15%伸長時の4方向の応力(応力(A)、応力(B))は、基準方向(0°方向)をMDとしたうえで、前記で説明した方法で測定し、算出した。 このとき、フィルムロール「a」からサンプルを採取して測定した。フィルムロール「a」においては、巻量の半分にあたる位置で採取したフィルムを用い、幅方向の中心点を図1に示す中心点Aとした。 【0068】 (2)ポリエステルフィルムの密度 ポリエステルフィルムの密度は、前記の方法で測定した。 【0069】 (3)ポリエステルフィルムの平均厚み ポリエステルフィルムの平均厚みは、前記の方法で測定した。 このとき、フィルムロール「a」からサンプルを採取して測定した。フィルムロール「a」においては、巻量の半分にあたる位置で採取したフィルムを用い、幅方向の中心点を図2に示す中心点Aとした。 【0070】 (4)冷間成型性 得られた積層体を23℃×50%RHで1時間以上調湿した後、JISZ2247に基づいて、エリクセン試験機(安田精機製作所社製No.5755)を用い、23℃×50%RHにおいて、積層体に鋼球ポンチを所定の押し込み深さで押し付け、エリクセン値を求めた。なお、このとき、鋼球ポンチの押し込み速度を15mm/分とした。また、試料とする積層体のサイズは、縦10cm、横10cmであり、エリクセン値は0.5mmごとに測定し、試料数10で測定を実施し、平均値を算出した。 エリクセン値が6.5mm以上である場合、中でも7mm以上である場合を、深絞り成型に好適であると判断した。 【0071】 ポリエステル樹脂(R)として、下記のポリエステル樹脂を使用した。 A-1:ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチック社製 NOVADURAN5010S、極限粘度:1.10) A-2:ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチック社製 NOVADURAN5505S、極限粘度:0.92) B-1:ポリエチレンテレフタレート(日本エステル社製 UT-CBR、極限粘度:0.67) B-2:イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレート(日本エステル社製 MA-1342、極限粘度:0.63) 【0072】 実施例1 (ポリエステルフィルムの作製) ポリエステル樹脂(R)として、上記A-1とB-1を質量比(A-1/B-1)5/95で混合し、凝集シリカマスター(日本エステル社製 GS-BR-MG)をシリカ含有量が0.05質量%となるように添加し、280℃で溶融し、滞留時間5分でTダイ出口より押出し、急冷固化して、延伸後の厚みが25μmとなるように未延伸フィルムを得た。 次いで、未延伸フィルムを逐次延伸した。まず、縦延伸機にて加熱ロールを用いて、85℃に加熱し、MDに3.4倍延伸し、続いて120℃で横延伸を開始し、1段階目の延伸後に、フィルム幅増加量の割合((W1-W0)/W0)が1.12に、また2段階目の延伸後のフィルム幅増加量の割合((W2-W1)/W0)が0.71に、3段階目の延伸後のフィルム幅増加量の割合((W3-W2)/W0)が1.41になるように、全延伸倍率(DRTD=W3/W0)4.25倍に延伸した。この延伸において、延伸倍率比(DRMD/DRTD)は0.80であり、面倍率(DRMD×DRTD)は14.5であった。また、それぞれの段階の延伸時間は等しいものとした。 次に、弛緩熱処理温度を190℃とし、TDの弛緩率を6.0%として4秒間の弛緩熱処理を施した後、室温まで冷却して厚みが25μmのポリエステルフィルム得た。得られたポリエステルフィルムは、ロール状に巻き取られた。 【0073】 (積層体の作製) 次に得られたポリエステルフィルムに、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン社製 TM-K55/CAT-10L)を塗布量が5g/m2となるように塗布し、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面にアルミニウム箔(AA規格8079P、厚み50μm)を貼り合わせた。次に、ポリエステルフィルムに貼り合わせたアルミニウム箔のアルミニウム箔側に、同種の接着剤を同様の条件で塗布し、未延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製 GHC、厚み50μm)を貼り合わせ、40℃の雰囲気下で72時間エージング処理を実施し、積層体を作製した。 【0074】 実施例2~45、比較例1~26 ポリエステル樹脂(R)として用いるポリエステル樹脂の種類、質量比、MDおよびTDの延伸倍率、延伸温度、弛緩熱処理温度、弛緩率、延伸後の厚みを表1から6に記載したように変更した以外は、実施例1と同様の方法で行ない、ポリエステルフィルムを得た。延伸後の厚みを変更する際には、Tダイ出口より押出すポリエステル樹脂(R)の供給量を変更して行った。なお、比較例2、3、16、17においては、横延伸の全延伸時間は、実施例1の横延伸の全延伸時間と同じであるが、2段階で横延伸を実施し、それぞれの段階の延伸時間が等しくなるようにして延伸した。 得られたポリエステルフィルムを用い、実施例1と同様にして積層体を得た。 【0075】 実施例1~45、比較例1~26で得られたポリエステルフィルムの構成、製造条件および特性値、得られた積層体の冷間成型性を表1~6に示す。 【0076】 [図:0001398224000006.jpg] 【0077】 [図:0001398224000007.jpg] 【0078】 [図:0001398224000008.jpg] 【0079】 [図:0001398224000009.jpg] 【0080】 [図:0001398224000010.jpg] 【0081】 [図:0001398224000011.jpg] 【0082】 これらの結果から明らかなように、実施例1~45では、横方向(TD)の3段階の延伸におけるフィルム幅増加量、延伸倍率比(DRMD/DRTD)、面倍率(DRMD×DRTD)が本発明で規定する範囲であったため、得られたポリエステルフィルムは、4方向の5%伸長時の応力は、引張速度100mm/分と引張速度1000mm/分の測定方法において、いずれも70~120MPaの範囲内にあり、測定方法の相違による応力の差は、15MPa以下であり、また、4方向の15%伸長時の応力は、引張速度100mm/分と引張速度1000mm/分の測定方法において、いずれも90~180MPaの範囲内にあり、測定方法の相違による応力差は、10MPa以下であった。 そして、このような本発明で規定する特性値を満足するポリエステルフィルムを用いて得られた積層体は、エリクセン値が高く、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有するものであった。つまり、各実施例のポリエステルフィルムは、冷間成型時に、アルミニウム箔が破断したり、デラミネーション、ピンホール等が発生することなく、優れた冷間成型性を有していた。 一方、比較例1~26では、ポリエステルフィルムを得る際の、横方向(TD)の3段階の延伸におけるフィルム幅増加量や、延伸倍率比(DRMD/DRTD)や、面倍率(DRMD×DRTD)が本発明で規定する範囲にないため、得られたポリエステルフィルムは、上記した本発明の特性値を満足しないものであった。このため、これらの比較例1~26のポリエステルフィルムを用いて得られた積層体は、エリクセン値が低く、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有していないものであった。したがって、冷間成型時に、アルミニウム箔が破断したり、デラミネーション、ピンホール等が発生し、冷間成型性に劣るものであった。」 ・「 [図:0001398224000012.jpg] 」 5 明確性要件の判断 (1)本件特許発明1について 甲A1の【0003】によると、引張試験においては、試験開始当初におけるつかみ具間の距離は、試験結果に重大な影響を及ぼすことが当業者の出願時の技術常識であるといえるところ、本件特許の請求項1には、試験開始当初におけるつかみ具間の距離に関する記載はないし、発明の詳細な説明及び図面にも、上記4のとおり、試験開始当初におけるつかみ具間の距離に関する記載はない。 しかし、乙2の表A及びBにおいて、JIS規格である甲A2に記載された事項に従い、つかみ具間の距離を70mm、90mm及び100mmに設定した場合の応力(A)、応力(B)、応力(A)と応力(B)の差のばらつきが、つかみ具間の距離を50mmとした場合の応力(A)、応力(B)、応力(A)と応力(B)の差のばらつきの範囲内にあることが示されている。 そうすると、本件特許発明1のような「ポリエステルフィルム」における「5%」及び「15%」の伸度の場合の応力の測定をする場合、つかみ具間の距離は、JIS規格である甲A2で定められた範囲である限り、重大な影響を及ぼすものではないといえる。 したがって、本件特許の請求項1に試験開始当初におけるつかみ具間の距離について記載がなく、発明の詳細な説明及び図面にもその記載がないとしても、当業者は、本件特許発明1は、JIS規格である甲A2で定められた範囲のつかみ具間距離で応力を測定したものであると理解する。 また、他に本件特許の請求項1に不明確な記載はない。 よって、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 なお、令和4年11月17日に特許異議申立人Aから提出された上申書を検討したが、上記判断は左右されない。 (2)本件特許発明2ないし8について 本件特許の請求項2ないし8においてそれ自体不明確な記載はなく、本件特許発明2ないし8において、新たに追加された発明特定事項は明確である。 したがって、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2ないし8に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 6 取消理由(決定の予告)についての当審の判断のむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。 第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立て理由について 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立て理由は、申立理由A2(サポート要件)、申立理由A3(実施可能要件)、申立理由B1(甲B1に基づく進歩性)、申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)、申立理由B3(甲B5ないしB7から認定される公然実施をされた発明に基づく新規性・進歩性)及び申立理由B4(サポート要件)である。なお、申立理由B4は申立理由A2に含まれる。 そこで、順に検討する。 1 申立理由A2(サポート要件)及び申立理由B4(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 (3)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明の記載は上記第6 4のとおりである。 (4)サポート要件の判断 ア 発明の課題 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0008】によると、本件特許発明1ないし3の解決しようとする課題は「冷間成型時の絞り深さ、圧力、速度等の多様な加工条件においても、樹脂フィルムにより金属箔に延展性を付与することができ、金属箔が破断したり、樹脂フィルムと金属箔とのデラミネーションが生じたり、またはピンホールが発生することを防ぐことができ、冷間成型用途に好適なポリエステルフィルムを提供すること」であり、本件特許発明4及び5の解決しようとする課題は「該ポリエステルフィルムと金属箔を含む積層体を提供すること」であり、本件特許発明6ないし8の解決しようとする課題は「該ポリエステルフィルムの製造方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。 イ 本件特許発明1について 発明の詳細な説明の【0066】ないし【0082】の実施例及び比較例に関する記載によると、5%伸張時の応力Aと応力Bの差が135°の方向で15.3MPaである比較例18及び15%伸張時の応力Aと応力Bの差が0°の方向で10.3MPaである比較例17のエリクセン値はいずれも6.5mmより小さく(発明の詳細な説明の【0070】によると6.5mm以上である場合に深絞り成型に好適であると判断している。)、0°、45°、90°、135°の4方向の5%伸張時の応力Aと応力Bがともに70~120MPaの範囲内の値であり、両応力の差が0°の方向で9.3MPaである実施例13(他の実施例はいずれも、上記4方向のどの方向でも9.3MPa以下である。)及び上記4方向の15%伸張時の応力Aと応力Bがともに90~180MPaの範囲内の値であり、両応力の差が90°の方向で8.7MPaである実施例6(他の実施例はいずれも、上記4方向のどの方向でも8.7MPa以下である。)のエリクセン値はいずれも6.5mmより大きくなっている。 そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の実施例及び比較例の対比から、上記4方向の5%伸張時の応力Aと応力Bともに70~120MPaであり、かつ上記4方向のそれぞれにおける両応力の差が9.3MPa以下及び上記4方向の15%伸張時の応力Aと応力Bともに90~180MPaであり、かつ上記4方向のそれぞれにおける両応力の差が8.7MPa以下の条件を満たすものが、「エリクセン値が高く、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有する」という効果を奏し、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1は、上述の条件を満たすものであり、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 ウ 本件特許発明2ないし8について 本件特許発明2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1をさらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様に、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 したがって、本件特許発明2ないし8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明2ないし8に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (5)特許異議申立人A及びBの主張について 特許異議申立人Aの上記第4 1(2)及び特許異議申立人Bの上記第4 2(4)における主張について検討する。 ア 特許異議申立人Aの上記第4 1(2)における主張について 上記(4)イのとおり、当業者は「上記4方向の5%伸張時の応力Aと応力Bともに70~120MPaであり、かつ上記4方向のそれぞれにおける両応力の差が9.3MPa以下及び上記4方向の15%伸張時の応力Aと応力Bともに90~180MPaであり、かつ上記4方向のそれぞれにおける両応力の差が8.7MPa以下の条件を満たす」ものが発明の課題を解決できると認識するものであり、ポリエステルの組成や有効数字はサポート要件の判断に関係がない。 したがって、特許異議申立人Aの上記第4 1(2)における主張は採用できない。 イ 特許異議申立人Bの上記第4 2(4)における主張について 上記アと同様であり、ポリエステルの組成はサポート要件の判断に関係がない。 したがって、特許異議申立人Bの上記第4 2(4)における主張は採用できない。 (6)申立理由A2及びB4についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A2及びB4によっては取り消すことはできない。 2 申立理由A3(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第3のとおり、本件特許発明1ないし5は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 また、本件特許発明6ないし8は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の記載は、上記第6 4のとおりであり、発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし8の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。 したがって、本件特許の発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし5を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明6ないし8を使用し、本件特許発明6ないし8により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1ないし8に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人Aの主張について 特許異議申立人Aの上記第4 1(3)における主張について検討する。 本件特許の発明の詳細な説明の【0071】において、「B-2」の「イソフタル酸」の共重合比率の記載がされておらず、また、「日本エステル社製 MA-1342」に関する情報がないとしても、上記第6 4のとおり、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし8の各発明特定事項について具体的な記載があり、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載され、その中には、特許異議申立人Aが不備を指摘していない実施例も数多く挙げられていることから、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者に過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし8を実施することができる程度の記載があるといえる。 したがって、特許異議申立人Aの上記第4 1(3)における主張は採用できない。 (4)申立理由A3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A3によっては取り消すことはできない。 3 申立理由B1(甲B1に基づく進歩性)について (1)甲B1に記載された発明 甲B1の【請求項1】及び【請求項3】に記載された事項を整理すると、甲B1には次の発明(以下、順に「甲B1発明」及び「甲B1製造方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲B1発明> 「25℃におけるフィルムの長手方向(MD)、および、幅方向(TD)の5%伸長時応力(F5値)、および、10%伸長時応力(F10値)がそれぞれ下記(I)、(II)式を満たす電池外装用ポリエステルフィルム。 1.5≧F10MD/F5MD≧1 ・・・(I) 1.5≧F10TD/F5TD≧1 ・・・(II)」 <甲B1製造方法発明> 「甲B1発明の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲B1発明を対比するに、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリエステルフィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1においては、「フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力について、引張速度100mm/分にて測定した応力(A)と引張速度1000mm/分にて測定した応力(B)が、 条件(1):前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、70~120MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は9.3MPa以下である。 条件(2):前記4方向のそれぞれの15%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~180MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は8.7MPa以下である。 という条件を満たす」ものであることが特定されているのに対し、甲B1発明においてはそのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点1について検討する。 甲B1には、甲B1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項の一部である、「フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力」について、「引張速度100mm/分にて測定した応力(A)」と「引張速度1000mm/分にて測定した応力(B)」それぞれの5%伸長時及び15%伸長時の差に着目し、それらの値を所定値以下とすることの動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲B1発明において、甲B1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 ウ まとめ したがって、本件特許発明1は、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし5について 本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明6について 本件特許発明6は本件特許発明1ないし3のいずれかを製造する製造方法の発明であり、甲B1製造方法発明は甲B1発明を製造する製造方法の発明である。 そして、上記(2)及び(3)のとおり、本件特許発明1ないし3は、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明6も甲B1製造方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件特許発明7及び8について 本件特許発明7及び8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明6と同様に、甲B1製造方法発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立理由B1についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし8は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。 よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由B1によっては取り消すことはできない。 4 申立理由B2(甲B2に基づく進歩性)について (1)甲B2に記載された発明 甲B2の【請求項1】及び【請求項10】に記載された事項を整理すると、甲B2には次の発明(以下、順に「甲B2発明」及び「甲B2製造方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲B2発明> 「ポリアミド系フィルムであって、 (1)前記フィルムにおける任意の点から特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度及び135度の4方向において、一軸引張試験による5%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が35MPa以下であり、かつ、 (2)前記4方向において、一軸引張試験による15%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が40MPa以下である、 ポリアミド系フィルム。」 <甲B2製造方法発明> 「甲B2発明の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲B2発明を対比するに、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「フィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点2-1> 本件特許発明1においては、「フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力について、引張速度100mm/分にて測定した応力(A)と引張速度1000mm/分にて測定した応力(B)が、 条件(1):前記4方向のそれぞれの5%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、70~120MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は9.3MPa以下である。 条件(2):前記4方向のそれぞれの15%伸長時の応力は、前記応力(A)、応力(B)ともに、90~180MPaであり、かつ前記4方向のそれぞれにおける両応力の差は8.7MPa以下である。 という条件を満たす」ものであることが特定されているのに対し、甲B2発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点2-2> 「フィルム」に関して、本件特許発明1においては、「ポリエステルフィルム」と特定されているのに対し、甲B2発明においては「ポリアミド系フィルム」と特定されている点。 イ 判断 そこで、相違点2-1について検討する。 甲B2には、甲B2発明において、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項の一部である、「フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに45°、90°、135°の4方向のそれぞれにおける5%伸長時の応力と15%伸長時の応力」について、「引張速度100mm/分にて測定した応力(A)」と「引張速度1000mm/分にて測定した応力(B)」それぞれの5%伸長時及び15%伸長時の差に着目し、それらの値を所定値以下とすることの動機付けとなる記載はなく、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲B2発明において、甲B2及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件特許発明2ないし5について 本件特許発明2ないし5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明6について 本件特許発明6は本件特許発明1ないし3のいずれかを製造する製造方法の発明であり、甲B2製造方法発明は甲B2発明を製造する製造方法の発明である。 そして、上記(2)及び(3)のとおり、本件特許発明1ないし3は、甲B2発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明6も甲B2製造方法発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件特許発明7及び8について 本件特許発明7及び8は、請求項6を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明6の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明6と同様に、甲B2製造方法発明並びに甲B2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)申立理由B2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。 よって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由B2によっては取り消すことはできない。 5 申立理由B3(甲B5ないしB7から認定される公然実施をされた発明に基づく新規性・進歩性)について 申立理由B3は、甲B5の【0064】、甲B6の[0065]及び甲B7の【0049】に記載された「東レ株式会社製「ルミラー」(登録商標)P60」は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であるところ、その実験成績証明書である甲B8によれば、該「東レ株式会社製「ルミラー」(登録商標)P60」は本件特許発明1ないし8であるというものである。 しかし、甲B8には、作成者名、実験者名及び実験場所のいずれも記載されていないことから、甲B8に証明力を認めることはできない。 したがって、本件特許発明1ないし8は、甲B5ないしB7から認定される公然実施をされた発明であるとはいえない。 また、本件特許発明1ないし8は、甲B5ないしB7から認定される公然実施をされた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 よって、本件特許発明1ないし8は、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、申立理由B3によっては取り消すことはできない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、取消理由(決定の予告)並びに特許異議申立書A及びBに記載した特許異議申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-701116

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