特許異議申立
2024-700738
活性炭
- 審判番号
- 2024-700738
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-042335
- 登録番号
- 7428347
- 請求日
- 2024年08月06日
- 審決日
- 2025年03月21日
- 公報発行日
- 2025年04月25日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社アドール
- 【権利者代理人】田中 順也
- 【権利者代理人】水谷 馨也
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【権利者代理人】田中 順也
- 【権利者代理人】水谷 馨也
- 【権利者】大阪ガスケミカル株式会社
- 【権利者代理人】田中 順也
- 【権利者代理人】水谷 馨也
- 【異議申立人】平居 博美
- 審判長/審判官
- 審判長 原 賢一
- 審判官 小野 久子
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.536-Y (C01B) / P1651.537-Y (C01B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7428347号発明「活性炭」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7428347号の請求項1~8に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7428347号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~8に係る特許についての出願は、2019年(令和元年)6月18日(優先権主張 平成30年6月19日)を国際出願日とする特願2019-563309号(以下、「原出願」という。)の一部を、令和2年3月11日に新たな特許出願としたものであって、令和6年1月29日にその特許権の設定登録がされ、同年2月6日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月6日に、請求項1~8に係る特許について、特許異議申立人 平居 博美(以下、「申立人」という。)により、甲第1~8号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされ、同年9月11日に申立人より手続補正書が提出され、同年11月5日付けで当審より取消理由が通知され、同年12月25日に特許権者より意見書(以下、「意見書」という。)が提出され、令和7年2月14日付けで当審より申立人に対して審尋がされ、同年3月4日に申立人より甲第9号証を添付して回答書(以下、「回答書」という。)が提出されたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~8に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下、請求項1~8に係る発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明8」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】
QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.4cc/g以上、
QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.2cc/g以上、且つ、
QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積C(cc/g)に対する、前記細孔容積B(cc/g)の割合(細孔容積B/細孔容積C)が0.880~0.985である、活性炭であって、
ジクロロメタン平衡吸着量が40質量%以上である、活性炭。
【請求項2】
前記細孔容積C(cc/g)に対する、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積A(cc/g)の割合(細孔容積A/細孔容積C)が0.5~0.94である、請求項1に記載の活性炭。
【請求項3】
前記細孔容積C(cc/g)に対する前記細孔容積B(cc/g)の割合(細孔容積B/細孔容積C)が0.90~0.99である、請求項1又は2に記載の活性炭。
【請求項4】
前記活性炭が繊維状活性炭である、請求項1~3のいずれか1項に記載の活性炭。
【請求項5】
前記ジクロロメタン平衡吸着量が45質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の活性炭。
【請求項6】
気相中のジクロロメタンを吸着させるために用いられる、請求項1~5のいずれか1項に記載の活性炭。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の活性炭を含む、ジクロロメタンの吸着剤。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の活性炭を用いる、ジクロロメタンの吸着除去方法。」
第3 特許異議申立理由の概要
1 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件発明1における「活性炭」は、粉末状活性炭、粒状活性炭及び繊維状活性炭を含む上位概念であるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、繊維状活性炭についての実施の形態のみが記載されている。
そして、「活性炭」の分野では、粒状活性炭と繊維状活性炭とは、製造方法も細孔構造も異なること、及び、原料や賦活条件によって形成される細孔構造が異なることは、本件特許の原出願の出願日当時の技術常識であるから、繊維状活性炭についての実施の形態のみが記載されている前記発明の詳細な説明の記載に基づいて本件発明1の細孔構造を満足する粒状活性炭を製造するためには、過度の試行錯誤を要することとなるので、前記発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさない。
更に、本件発明2、3、5~8について検討しても事情は同じである。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) 本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0040】(下記第5の1(2)ウ)には、「活性炭」中のイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物等の効果によりジクロロメタンの平衡吸着量が向上することが記載されている。
また、前記発明の詳細な説明の段落【0099】に記載された実施例17及び比較例5(下記第5の1(2)エ)は、繊維状活性炭の細孔構造が同一範囲であり、これらの明確な相違点はイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物の含有の有無であり、このことと前記段落【0040】の記載によれば、前記実施例17及び比較例5のジクロロメタン平衡吸着量の相違は、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物の含有の有無に起因していることは明らかである。
更に、「活性炭」の吸着性能は、「活性炭」の組成、細孔径等の物性だけでなく、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物などの添加物にもよることは、本件特許の原出願の出願日当時の技術常識である。
したがって、本件発明に係る繊維状活性炭に必須的に含まれているイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物は、「ジクロロメタン平衡吸着量を40質量%以上」とするために必須の構成要件であるが、本件発明1には、「活性炭」がイットリウム及び/又はバナジウムを含有することが特定されていないから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるので、本件発明1が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、本件発明2~8について検討しても事情は同じである。
(2) 本件特許明細書の段落【0006】、【0008】、【0039】、【0042】、【0045】、【0059】及び【0060】(下記第5の1(2)イ~エ)の記載によれば、本件発明の課題を解決するためには、「活性炭」の細孔構造を特定の細孔構造とすることが重要であり、特定の細孔構造とするための活性炭前駆体原料として、フェノール樹脂等の不融性樹脂等やポリアクリロニトリル、ピッチ、ポリビニルアルコール、セルロース等の合成樹脂かピッチを使用し、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を含有させた活性炭前駆体を所定の条件で賦活処理することが記載されている。
そして、本件特許明細書の実施例1~18の記載によれば、本件特許明細書において発明の課題を解決できた「活性炭」として具体的に示されているのは、石炭ピッチにイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を溶融混合して得られたピッチ繊維を活性炭前駆体とし、これを所定の条件で賦活して得られた繊維状活性炭のみである。
ところが、繊維状活性炭と粒状活性炭等は細孔の大きさや形成される細孔構造が異なり、吸着挙動や吸着性能なども異なることは、本件特許の原出願の出願日当時の技術常識であるから、発明の詳細な説明に記載された事項を繊維状活性炭以外の「活性炭」まで拡張ないし一般化することはできないので、本件発明1が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、本件発明2~8について検討しても事情は同じである。
3 証拠方法
甲第1号証:佐々木雅彦ら,「イットリウム錯体含有ピッチから得られたメソポア活性炭素繊維の吸着特性と酸処理の影響」,炭素TANSO,1998年,炭素材料学会,Vol.1998,No.181,p.20-26
甲第2号証:尾関寿美男,「吸着の科学と工学」,Adsorption News,2011年7月,日本吸着学会,Vol.25,No.2,p.2-7
甲第3号証:「活性炭素繊維環境浄化材」,株式会社ソーエンのホームページ,URL:https://so-en.net/acf1.html#:~:text=活性炭素繊維
甲第4号証:「活性炭繊維(ACF)とは」,ユニチカ株式会社のホームページ,URL:https://www.unitika.co.jp/acf/about/
甲第5号証:「活性炭の種類」,株式会社クラレのホームページ,URL:https://www.kuraray-c.co.jp/activecarbon/about/04.html
甲第6号証:特開平11-240707号公報
甲第7号証:西野博,「活性炭」,有機合成化学,1982年,社団法人有機合成化学協会,Vol.40,No.9,p.853-854
甲第8号証:中野重和,「最近の活性炭をめぐる話題」,生産と技術,1994年,社団法人生産技術振興協会,Vol.46,No.4,p.15-20
第4 取消理由の概要
1 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件発明1の発明特定事項からみれば、本件発明1に係る「活性炭」は、粒状活性炭、粉末状活性炭及び「繊維状活性炭」のいずれも包含するものであるが、「繊維状活性炭」と粒状活性炭、粉末活性炭とは、細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積、更には吸着の機構が相当に異なるものであるといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1に係る発明特定事項を満たす「活性炭」の製造方法として、「繊維状活性炭」の製造方法しか記載されていないのであり、このことから、「繊維状活性炭」について本件発明1に係る発明特定事項を満たす「活性炭」の製造方法が明らかであるとしても、細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積、更には吸着の機構が「繊維状活性炭」とは相当に異なる粒状活性炭や粉末活性炭について、本件発明1に係る発明特定事項を満たす「活性炭」の製造方法が明らかであるとはいえないし、本件特許の原出願の出願時の技術常識から、当該製造方法を推認することも困難である。
すると、当業者は、前記発明の詳細な説明の記載及び本件特許の原出願の出願時の技術常識に基づいて、粒状活性炭や粉末活性炭について、本件発明1に係る発明特定事項を満たす「活性炭」を過度の試行錯誤を要することなく製造できるとはいえないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が粒状活性炭や粉末活性炭を包含する本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないので、実施可能要件を満たさない。
更に、本件発明2、3及び5~8(ただし、直接的又は間接的に請求項4を引用するものを除く)について検討しても事情は同じであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合しない。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件発明1に係る「活性炭」は、粒状活性炭、粉末状活性炭及び「繊維状活性炭」のいずれも包含するものであるが、粒状活性炭や粉末活性炭について、本件発明1に係る発明特定事項を満たす「活性炭」の製造方法が明らかであるとはいえないし、本件特許の原出願の出願時の技術常識から、当該製造方法を推認することも困難であることは、前記したとおりである。
そして、製造方法が明らかでなく、その推認も困難である粒状活性炭や粉末活性炭が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に実質的に記載されているとはいえないから、前記発明の詳細な説明には、本件発明1に係る発明特定事項を満たす「活性炭」として、実質的に「繊維状活性炭」しか記載されていないのであって、前記発明の詳細な説明に記載された事項から、「活性炭」を、粒状活性炭や粉末活性炭を包含する本件発明1まで拡張ないし一般化することもできないので、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
更に、本件発明2、3及び5~8(ただし、直接的又は間接的に請求項4を引用するものを除く)について検討しても事情は同じであるから、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合しない。
第5 特許異議申立理由及び取消理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第3の特許異議申立理由と第4の取消理由をまとめて検討する。
1 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
(1) 実施可能要件の判断手法
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができるので、以下、前記観点に立って検討する。
(2) 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下のア~エの記載がある。
ア 「【0001】
本発明は、活性炭及びその製造方法に関し、特に気相中のジクロロメタンを吸着させるのに好適な、活性炭及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気相中又は液相中に存在する成分を活性炭によって吸着させ、これらの成分を除去する吸着除去技術が知られている。また、従来、活性炭による吸着除去技術は、有機溶剤を含むガスからの溶剤回収にも用いられている。
【0003】
ジクロロメタン等の有機化合物に対し特に優れた吸着性能を有する活性炭繊維として、例えば、BET比表面積が700~1500m2/g、全細孔容積が0.3~0.7cc/g、細孔直径1nm以下のマイクロポア細孔(ミクロ孔)容積が全マイクロポア細孔容積の95%以上であり、かつ、温度25℃、相対湿度52%における水分吸着率が15%以下である、活性炭繊維が知られている(例えば、特許文献1参照)。・・・
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された活性炭において、ジクロロメタンの平衡吸着量が不十分であるという問題があった。本発明は、上記問題を解決し、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れた、活性炭の提供を主な目的とする。」
イ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者等はジクロロメタン等の低沸点有機化合物の吸着に適する細孔構造の実現を検討した。具体的には、ジクロロメタン等の低沸点有機化合物の吸着に適すると考えられる細孔直径1nm以下のミクロ孔容量を維持或いは増大し、なお且つ共存する水分の影響を受けにくいよう、これより大きな細孔を適量備えさせることが有効であると考えた。
【0007】
また、このような比較的大きな細孔を適度に発達させることは、ジクロロメタン分子の細孔内拡散を補助する役割を果たすとも考えられ、平衡吸着だけではなく、通気処理においても有効であると考えた。
【0008】
そこで、本発明者等がさらに鋭意検討した結果、活性炭前駆体としてイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を特定量含有させたものとし、賦活ガスを二酸化炭素として賦活をおこなうことにより、初めて、1nm以下の細孔の容積を維持しつつ、1nmを超える比較的大きな細孔径の別の細孔を適量備えさせることに成功した。さらに、検討を重ね、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)及び0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)を特定範囲とし、且つ、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、上記1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Bの割合(B/C)を特定範囲となるように制御し得られる活性炭が、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れることを見出した。
【0009】
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0010】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.4cc/g以上、
QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.2cc/g以上、且つ、
QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.880~0.985である、活性炭。
・・・
項5. ジクロロメタン平衡吸着量が40質量%以上である、項1~項4のいずれか1項に記載の活性炭。・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明の活性炭によれば、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.4cc/g以上、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.2cc/g以上、且つ、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.880~0.985であることから、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れたものとすることができる。」
ウ 「【0039】
後述の通り、本発明の製造方法において、活性炭前駆体の主原料(すなわち、本発明の活性炭の由来となる原料)としては、特に制限されず、例えば、不融化或いは炭素化した有機質材料、フェノール樹脂等の不融性樹脂等が挙げられ、該有機質材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ピッチ、ポリビニルアルコール、セルロース等が挙げられる。これらの中でも、本発明の活性炭は、ピッチに由来することが好ましく、石炭ピッチに由来することがより好ましい。
【0040】
本発明の活性炭は、上記特定の細孔径分布とするために、活性炭前駆体としてイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を含むものを用いる。そして、本発明の活性炭は、活性炭前駆体に含まれるイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物に由来する、イットリウム単体、イットリウム化合物、バナジウム単体及びバナジウム化合物からなる群より選ばれる1種以上を含むものであってもよい。・・・中でも、本発明の活性炭は、イットリウム化合物及びバナジウム化合物を含むものとすると、バナジウムの効果により1nm以下のミクロ孔容量を大きく維持し、尚且つイットリウムの効果により、やや大きな細孔も適度に分布させることができ、これらのやや大きな細孔が被吸着物質の細孔内拡散を補助するため、ジクロロメタンの平衡吸着量をより向上させる点で好ましい。この場合、本発明の活性炭の総質量における、該活性炭に含有される、イットリウム単体及びイットリウム化合物の含有量の合計と、バナジウム単体及びバナジウム化合物の含有量の合計との比(バナジウム単体及びバナジウム化合物の含有量の合計/イットリウム単体及びイットリウム化合物の含有量の合計)としては、4~16が挙げられる。
・・・
【0042】
本発明の活性炭の形態は特に限定されないが、例えば、粒状活性炭、粉末状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられる。ジクロロメタンの吸着速度をより向上させるという観点から繊維状である繊維状活性炭とすることがより好ましい。・・・
【0043】
本発明の活性炭は、気相中または液相中のいずれでも使用することができる。特に、本発明の活性炭は、気相中のジクロロメタンを吸着させるために好適に用いられる。
【0044】
次に、本発明の活性炭の製造方法について詳細に説明する。
【0045】
本発明の活性炭の製造方法は、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を含む活性炭前駆体を、CO2濃度が90容積%以上の雰囲気下、温度600~1200℃で賦活する工程を含む。これにより、初めて、1nm以下の細孔の容積、特に0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E及び1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)を維持しつつ、さらに比較的大きい細孔径1.5nm以上2.0nm以下の細孔を適量備えさせることができ、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)を特定範囲とすることができ、発明の活性炭を得ることができる。・・・
・・・
【0047】
本発明の活性炭の製造方法において、活性炭前駆体のイットリウム及びバナジウムの含有量の合計としては、好ましくは0.01~5.0質量%、より好ましくは0.03~1.0質量%、さらに好ましくは0.03~0.3質量%が挙げられる。・・・イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物において、中でも、活性炭前駆体中に金属を高分散させる観点から、有機金属化合物とすることが好ましく、有機金属化合物としては、β-ジケトン型化合物を配位子とする金属錯体がより好ましく挙げられる。β-ジケトン型化合物としては、下記式(1)~(3)に示す構造を有するものが挙げられ、具体的にはアセチルアセトン等が挙げられる。・・・
【0048】
【化1】
[図:0001421366000001.jpg]
・・・
【0052】
本発明の製造方法において、賦活の雰囲気温度は通常600~1200℃程度であり、好ましくは800~1000℃程度、より好ましくは900~1000℃程度である。また、賦活時間としては、活性炭前駆体の主原料に応じ、所定の細孔径分布となるよう調整すればよい。例えば、活性炭前駆体の主原料として軟化点が275℃~288℃のピッチを用いた場合は、賦活の雰囲気温度は900~1000℃、賦活時間は10~80分、より好ましくは、30~80分として賦活をすることが挙げられる。」
エ 「【0059】
(実施例1)
有機質材料として、軟化点が280℃の粒状石炭ピッチ100質量部に対して、ビス(2,4-ペンタンジオナト)バナジウム(IV)オキシド(CAS番号:3153-26-2)0.6質量部、及びトリスアセチルアセトナトイットリウム(CAS番号:15554-47-9)0.1質量部と、を混合したものを、溶融押出機に供給し、溶融温度320℃で溶融混合し、吐出量16g/minで紡糸することによりピッチ繊維を得た。得られたピッチ繊維を空気中常温から354℃まで1~30℃/分の割合で54分間昇温することにより不融化処理をおこない、不融化されたピッチ繊維である活性炭前駆体を得た。該活性炭前駆体において、バナジウムの含有量は0.11質量%、イットリウムの含有量は0.022質量%であった。
【0060】
得られた活性炭前駆体をCO2濃度が100容量%のガスを賦活炉内に連続的に導入し、雰囲気温度950℃で32分間熱処理することにより賦活をおこない、実施例1の活性炭を得た。得られた活性炭は、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.456cc/g、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.216cc/g、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.970、バナジウムの含有量は0.220質量%、イットリウムの含有量は0.040質量%、平均繊維径は13.5μmであった。
・・・
【0098】
得られた活性炭の物性を表1及び表2に示す。また、図1~25に、実施例1~18、比較例1~7の活性炭のQSDFT法によって算出される細孔径分布図を示す。
【0099】
【表1】
[図:0001421366000002.jpg]
【表2】
[図:0001421366000003.jpg]
【0100】
実施例1~18の活性炭は、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.4cc/g以上、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.2cc/g以上、且つ、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.880~0.985であることから、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れたものであった。
・・・
【0104】
比較例5の活性炭は、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.985を超えるものであることから、ジクロロメタンの平衡吸着量に劣るものであった。」
(3) 実施可能要件についての判断
ア 前記(2)アの記載によれば、本件発明は、「活性炭」及びその製造方法に関し、特に気相中のジクロロメタンを吸着させるのに好適な、「活性炭」及びその製造方法に関するものであって、従来、ジクロロメタン等の有機化合物に対し特に優れた吸着性能を有する活性炭繊維として、BET比表面積が700~1500m2/g、全細孔容積が0.3~0.7cc/g、細孔直径1nm以下のマイクロポア細孔(ミクロ孔)容積が全マイクロポア細孔容積の95%以上であり、かつ、温度25℃、相対湿度52%における水分吸着率が15%以下である活性炭繊維が知られていたのであるが、そのような活性炭繊維は、ジクロロメタンの平衡吸着量が不十分であるという問題があったことから、本件発明は、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れた、「活性炭」の提供を主な目的とするものである。
そして、前記(2)イの記載によれば、本件発明は、「活性炭」を、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.4cc/g以上、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.2cc/g以上、且つ、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.880~0.985である「活性炭」であって、ジクロロメタン平衡吸着量が40質量%以上である「活性炭」とすることで、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れたものとすることができるものである。
イ また、前記(2)ウの記載によれば、本件発明に係る「活性炭」は、その製造方法における活性炭前駆体の主原料(すなわち、「活性炭」の由来となる原料)として、不融化或いは炭素化した有機質材料、フェノール樹脂等の不融性樹脂等が挙げられ、特定の細孔径分布とするために、活性炭前駆体としてイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を含むものを用いるものであり、「活性炭」をイットリウム化合物及びバナジウム化合物を含むものとすると、バナジウムの効果により1nm以下のミクロ孔容量を大きく維持し、尚且つイットリウムの効果により、やや大きな細孔も適度に分布させることができ、これらのやや大きな細孔が被吸着物質の細孔内拡散を補助するため、ジクロロメタンの平衡吸着量をより向上させる点で好ましいものであり、この場合、本発明の「活性炭」の総質量における、該「活性炭」に含有される、イットリウム単体及びイットリウム化合物の含有量の合計と、バナジウム単体及びバナジウム化合物の含有量の合計との比(バナジウム単体及びバナジウム化合物の含有量の合計/イットリウム単体及びイットリウム化合物の含有量の合計)としては、4~16が挙げられるものである。
更に、本件発明に係る「活性炭」の形態は特に限定されないが、粒状活性炭、粉末状活性炭、繊維状活性炭等が挙げられ、前記「活性炭」は、気相中又は液相中のいずれでも使用することができ、特に、気相中のジクロロメタンを吸着させるために好適に用いられるものである。
そして、本件発明に係る「活性炭」の製造方法は、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を含む活性炭前駆体を、CO2濃度が90容積%以上の雰囲気下、温度600~1200℃で賦活する工程を含み、これにより、初めて、1nm以下の細孔の容積、特に0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E及び1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)を維持しつつ、さらに比較的大きい細孔径1.5nm以上2.0nm以下の細孔を適量備えさせることができ、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)を特定範囲とすることができ、本件発明に係る「活性炭」を得ることができるものである。
また、このとき、活性炭前駆体のイットリウム及びバナジウムの含有量の合計は、好ましくは0.01~5.0質量%、より好ましくは0.03~1.0質量%、更に好ましくは0.03~0.3質量%が挙げられ、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物は、活性炭前駆体中に金属を高分散させる観点から、有機金属化合物とすることが好ましく、有機金属化合物としては、β-ジケトン型化合物を配位子とする金属錯体がより好ましく挙げられるものであり、賦活時間としては、活性炭前駆体の主原料に応じ、所定の細孔径分布となるように調整すればよいものであって、そのような製造方法により本件発明に係る「活性炭」を製造できることは、前記(2)エの実施例1~16及び18の記載からも裏付けられるものである。
ウ 前記イによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、本件発明に係る「活性炭」を製造することができるし、気相中のジクロロメタンを吸着させるために使用することができる。
そして、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。
(4) 申立人の主張について
ア 始めに、前記第3の1の特許異議申立書の主張について検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に係る「活性炭」のうち、繊維状活性炭の製造方法しか記載されておらず、粒状活性炭や粉末状活性炭の製造方法は記載されていない。
ところが、当業者であれば、繊維状活性炭が製造できれば、当該繊維状活性炭を粉砕することで、繊維状活性炭と同等の物性を有する粒状活性炭や粉末状活性炭を製造できることを理解できるのであり、このことは、例えば、特許権者が意見書で引用し、本件特許の原出願の出願日前に公知となった刊行物である特開平6-32609号公報の記載や、申立人が回答書で引用し、本件特許の原出願の出願日前に公知となった刊行物である甲第9号証の記載(下記ウ(ア))からも裏付けられるものである。
すなわち、前記特開平6-32609号公報には、以下の(ア)~(ウ)の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 原料成形品を不融化、炭化する工程と、不融化、炭化品を賦活する工程と、賦活品を粉末化する工程とからなる粉末活性炭の製造方法において、原料成形品として繊維径40μm以下の石炭系等方性ピッチ炭素繊維を使用し、賦活品を微粉砕して粉末化することを特徴とする粉末活性炭の製造方法。」
(イ) 「【0007】本発明では、炭素繊維として石炭系等方性ピッチ炭素繊維を使用する。繊維径は40μm以下で、好ましくは25μm以下とする。この石炭系等方性ピッチ炭素繊維をO2およびN2雰囲気下で不融化、炭化処理し、CO2またはH2O雰囲気下で賦活する。賦活は温度800~1100℃で5~420分行う。この賦活により比表面積が1500~2000m2/g程度の繊維状活性炭が得られる。得られた繊維状活性炭をボールミルや振動ミル等の粉砕機を用いて微粉砕すると、1500~2000m2/g程度の比表面積を持つ平均粒径5~20μm程度の粉末活性炭が得られる。」
(ウ) 「【0013】比較例1
繊維径25μmの石炭系異方性ピッチ炭素繊維をO2およびN2雰囲気で不融化、炭化し、この炭素繊維をCO2雰囲気下950℃で420分賦活した。これを振動ミルで90秒間微粉砕すると、平均粒径15μmの粉末となった。この粉末の比表面積はBET法で395m2/gであった。
【0014】比較例2
繊維径53μmの石炭系等方性ピッチ炭素繊維をO2およびN2雰囲気で不融化、炭化し、この炭素繊維をCO2雰囲気下950℃で420分賦活した。これを振動ミルで90秒間微粉砕すると、平均粒径22μmの粉末となった。この粉末の比表面積はBET法で1294m2/gであった。」
前記(ア)、(イ)の記載によれば、粉末活性炭の製造方法において、石炭系等方性ピッチ炭素繊維をO2およびN2雰囲気下で不融化、炭化処理し、CO2又はH2O雰囲気下で、温度800~1100℃で5~420分賦活して比表面積が1500~2000m2/g程度の繊維状活性炭を得た後、得られた繊維状活性炭をボールミルや振動ミル等の粉砕機を用いて微粉砕すると、繊維状活性炭と同等の、1500~2000m2/g程度の比表面積を持つ平均粒径5~20μm程度の粉末活性炭が得られるものである。
このことからみれば、当業者は、前記特開平6-32609号公報の記載に基づいて、所定の方法で繊維状活性炭を製造した後、当該繊維状活性炭を粉砕することで、繊維状活性炭と同等の比表面積を有する粒状活性炭や粉末状活性炭を製造できることを理解できる。
また、下記ウ(ウ)の検討から、前記甲第9号証は、繊維状活性炭を粉砕することによって、「細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積」に、吸着速度及び吸着率に影響するほどの「大きな差が生じ」ないことを開示するものといえるから、当業者は、前記甲第9号証の記載に基づいて、繊維状活性炭を粉砕することによって、前記繊維状活性炭と同等の細孔構造や細孔径分布、外表面積を有する粒状活性炭や粉末状活性炭を製造できることも理解できる。
してみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、繊維状活性炭の製造方法しか記載されておらず、粒状活性炭や粉末状活性炭の製造方法が記載されていないとしても、当業者は、粒状活性炭や粉末状活性炭の製造方法も含めて、本件発明に係る「活性炭」の製造方法を理解できるから、前記第3の1の主張は採用できない。
イ 次に、申立人の回答書における主張を検討すると、申立人は、サポート要件違反も含め、下記甲第9号証を挙げて、特許権者の意見書における主張は誤っている旨を主張しており、その内容は、概略、以下のとおりである。
甲第9号証:国際公開第2013/051680号
(ア) 特開平6-32609号公報の記載について
特許権者は、意見書3ページにおいて、技術常識として、特開平6-32609号公報の段落【0007】(前記ア(イ))を引用しているが、前記段落【0007】は、繊維状活性炭を粉砕すると、粉砕前とほぼ同程度の比表面積を持つ粉末活性炭が得られる、という事実を示しているにすぎず、粉砕によって「細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積、更には吸着の機構に大きな差が生じない」ことの根拠にはならない。
甲第9号証に開示された技術常識によれば、一般に、活性炭の比表面積は、主に細孔の表面積に由来し、粉砕によって、繊維状活性炭の外表面積は増加するが、細孔構造(細孔径分布、細孔容積)は変化する。特に、ボールミルなどの強い粉砕条件下では、活性炭の破砕に伴って細孔が破壊されたり、細孔入口が閉塞したりするため、比表面積が減少したり、細孔径分布が変化する。
(イ) 特開平6-32609号公報の開示内容の限定性
更に、前記特開平6-32609号公報の段落【0007】の記載全体を考慮すると、特許権者の主張は、文脈を無視した恣意的なものであることは明白である。
すなわち、前記段落【0007】は、原料、及び繊維径が繊維径40μm以下の石炭系等方性ピッチ炭素繊維、炭化処理がO2及びN2雰囲気、賦活処理がCO2またはH2O雰囲気、800~ 1100℃ 、5~420分という前提条件の下で、特定の繊維状活性炭とその粉砕物の比表面積について述べているにすぎない。
そして、特開平6-32609号公報の段落【0013】、【0014】(前記ア(ウ))に記載される比較例1及び比較例2は、前記前提条件を満たさないため、粉砕後の粉末活性炭の比表面積、平均粒径は、上記「1500~2000m2/g程度の比表面積を持つ平均粒径5~20μm程度の粉末活性炭」を満足しない。
すなわち、特開平6-32609号公報は、特定の条件下でのみ、粉砕前後で繊維状活性炭と粉末活性炭の比表面積がほぼ同等になることを示しているにすぎず、あらゆる繊維状活性炭の粉砕において、比表面積が同等になることは示されていないし、細孔構造や吸着機構が変化しないことを示唆するものでもない。
(ウ) 本件発明1と特開平6-32609号公報の相違
本件発明1に係る「活性炭」は、原料や製造方法が限定されておらず、特開平6-32609号公報に開示された活性炭よりもはるかに広い範囲のものを包含している。また、本件特許明細書の段落【0039】(前記(2)ウ)の記載から、特許権者が主張するように、当業者が特開平6-32609号公報の技術常識に基づいて、本件発明1の特定の細孔容積及びジクロロメタン平衡吸着量を満たす粒状活性炭や粉末状活性炭を製造できるとは到底いえない。
(エ) 甲第9号証に開示された技術常識
甲第9号証には、繊維状活性炭を粉砕すると、細孔構造や吸着特性が変化することが明確に示されている。
すなわち、甲第9号証の段落[0020](下記ウ(ア)c)には、ボールミルやジェットミルなどの粉砕機により粉砕すると繊維形状が破壊されて吸着能が低下することが開示されており、実施例(下記ウ(ア)d)に記載された繊維状活性炭(実施例2)と、これを粉砕した粉砕活性炭(実施例10)を比べると、全細孔容積、ミクロポア容積、メソポア容積、マクロポア容積が粉砕前後で変化しており(表1)、破砕前後で吸着速度と吸着率は顕著に異なっている(表4)。
これらの記載から、甲第9号証は、繊維状活性炭の粉砕によって、「細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積、更には吸着の機構に大きな差が」生じることを明確に開示している。
(オ) 結論
前記(ア)~(エ)のとおり、特許権者の意見書における主張は、特開平6-32609号公報の記載を恣意的に解釈し、技術常識(甲第9号証)を無視したものであるから、主張の根拠を欠いているので、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号所定の規定を満たさないし、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に所定の規定を満たさない。
ウ 以下、前記イの主張について検討する。
(ア) 事案に鑑み、始めに、甲第9号証に開示された技術常識に関する前記イ(エ)の主張について検討すると、甲第9号証には、以下のa~dの記載がある。
a 「請求の範囲
[請求項1] 活性炭素繊維を有効成分として含有する、経口投与用尿毒素吸着剤。」
b 「[0001] 本発明は、経口投与用吸着剤に関し、特に、活性炭素繊維(以下、「ACF」という場合がある。)を有効成分とする経口投与用尿毒素吸着剤に関する。
・・・
[0009] 本発明は、生体内の毒性物質を大量かつ迅速に吸着又は除去し、高い吸着性能又は除去性能を有するACFを含む経口投与用吸着剤を提供することを目的とする。
・・・
[0011] 本発明者らは、従来の球状活性炭からなる経口投与用吸着剤よりも一層優れた吸着性能を示す経口投与用吸着剤の探求に鋭意研究を重ねた結果、有効成分としてACFを用いることにより、優れた吸着性能及び/又は初期吸着速度を示す経口投与用吸着剤が得られることを見出した。
・・・
[0015][ACF]
本発明におけるACFとは、アクリロニトリル系繊維、フェノール繊維、ピッチ(石油、石炭、及びコールタールなどの副生成物)を繊維状にした原料を酸化処理等の不融化処理後、賦活処理を行ったものであり、活性炭素繊維又は繊維状活性炭ともいう。」
c 「[0020] 本発明におけるACFは、繊維の長さは特に限定されないが、10~5000μmが好ましく、・・・90~3000μmがさらにより好ましい。・・・繊維を短くするには、一般的な粉砕機を用いればよく、例えばボールミルやジェットミル、又は機械回転式の粉砕機により、粉砕することができる。また、粉砕により、繊維形状が破壊された場合は吸着能が低下するため、ふるい分けや分級機で繊維形状が破壊された粒子を取り除いても良い。長さの調整は、長繊維の切断加工や長繊維、フェルト又は織物状のACFを粉砕処理(ミルド加工)することによって行われる。均一化のためにふるい分け等の処理を行ってもよい。
[0021] 本発明におけるACFは、比表面積が250~4000m2/gが好ましく、・・・600~3500m2/gがさらにより好ましい。・・・
[0022] 本発明におけるACFは、全細孔容積が0.2~3.0mL/gが好ましく、0.4~2.0mL/gがより好ましい。・・・
[0023] 本発明におけるACFは、ミクロポア容積が0.1~2.0mL/gが好ましく、0.3~1.5mL/gがより好ましい。・・・
[0024] 本発明におけるACFは、メソポア容積が0.8mL/g以下が好ましく、・・・0.5mL/g以下がさらにより好ましい。・・・
[0025] 本発明におけるACFは、マクロポア容積が0.3mL/g以下が好ましく、0.2mL/g以下がより好ましい。」
d 「[0048] 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。得られた実施例のACFの物性測定及び吸着性能評価は、繊維の長さが長い繊維を除去して、測定作業又は動物への投与を容易にする目的で、粉砕後、150μm、75μm、38μm及び20μmの目開きのふるいにかけ、75μm、38μm及び20μmの各ふるい上に残ったものを回収し使用した。
・・・
[実施例2]
フェノール系ACF(繊維径15μm:商品名「クラクテイブ」クラレケミカル社製)を使用した。そのACFの特性を表1に、繊維の長さの測定結果を表2に、繊維の長さの分布を図3に示す。
・・・
[実施例10]
実施例2のACFについて、粉砕後、旋回気流式ふるい分け測定装置を用い、目開き10μmのふるいを使って分級を行い、ふるいを通過したものを回収することにより繊維の長さの短いACFを得た。そのACFの特性を表1に、繊維の長さの測定結果を表2に、繊維の長さの分布を図4に示す。
・・・
[0049] 得られた実施例1~13、15~18のACF、及び比較例1の球状活性炭について、それらの物性値、すなわち比表面積、及び細孔容積(全細孔容積、ミクロポア容積、メソポア容積、及びマクロポア容積)を測定した。これらの結果を表1に示す。
[0050][表1]
[図:0001421366000004.jpg]
[0051][表2]
[図:0001421366000005.jpg]
・・・
[0053] 得られた実施例のACFについて、従来の経口投与用吸着剤と吸着性能を比較するため、以下の吸着性能評価を行った。
[食事成分中での尿毒素吸着性能評価]
吸着剤の活性発揮部位として想定される消化管内の食物が存在する状態を反映した条件下で、本発明の経口投与用吸着剤の尿毒素吸着性能を測定し、従来の経口投与用吸着剤と吸着性能を比較するため、経腸栄養剤(半消化態栄養剤)であるエンシュアリキッド中での本発明の経口投与用吸着剤の吸着性能を測定した。比較例1として球状活性炭からなる慢性腎不全治療薬であるクレメジン(登録商標、株式会社クレハ「クレメジン細粒」)を使用し、以下の方法により、インドール酢酸に対する吸着性能を経時的に測定した。
[0054] 実施例1~10のACF及び比較例1の球状活性炭を115℃、4時間乾燥させ、25mgを精密に量り、ポリプロピレンチューブに取った。尿毒素(インドール酢酸)をエンシュアリキッド(アボット社製)に溶解し、80μg/mLに調整し、10mLを前記のポリプロピレンチューブに添加した後、37℃で振とうし、1、3、5、24時間後に上清を一部回収した。その後、アセトニトリルを用い、除タンパク(アセトニトリル沈殿)を行い、除タンパク後の溶液の尿毒素の濃度を、液体クロマトグラフ質量分析(LC-MS)により求めた。吸着率は、吸着剤を使用しないときの尿毒素の濃度である場合を吸着率0%、溶液中に尿毒素が存在しない場合の吸着率を100%とし、液体クロマトグラフ質量分析で求めた尿毒素の濃度から算出した。吸着速度は、24時間後の吸着量を100%とし、50%吸着するために必要な時間(h)で示した。これらの結果を表4及び図1に示す。
[0055][表4]
[図:0001421366000006.jpg]
・・・
[0058] また、表2、表4、図3及び図4に示すとおり、実施例2のACFのうち、繊維の長さの短いものを集めた実施例10のACFでは、尿毒素吸着性能が実施例2のACFより大きく低下した。このことから、繊維の特徴である、繊維断面の直径に対し、繊維の長さが長い形状であることが、高い吸着性能を示すために重要であると考えられる。活性炭素繊維を含む経口投与用吸着剤は、従来の球状活性炭からなる経口投与用吸着剤より、優れた吸着性能を有する経口投与用吸着剤である。」
(イ) 前記(ア)aによれば、甲第9号証には、活性炭素繊維を有効成分として含有する、経口投与用尿毒素吸着剤が記載されており、同bによれば、前記経口投与用尿毒素吸着剤は、特に、活性炭素繊維(ACF)を有効成分とする経口投与用尿毒素吸着剤であって、生体内の毒性物質を大量かつ迅速に吸着又は除去し、高い吸着性能又は除去性能を有するACFを含む経口投与用吸着剤を提供することを目的とするものであり、従来の球状活性炭からなる経口投与用吸着剤よりも一層優れた吸着性能を示す経口投与用吸着剤として、有効成分としてACFを用いることにより、優れた吸着性能及び/又は初期吸着速度を示す経口投与用吸着剤が得られるものである。
そして、同cによれば、ACFの繊維の長さは10~5000μmが好ましいものであり、比表面積は600~3500m2/gが更により好ましいものであり、全細孔容積は0.4~2.0mL/gがより好ましいものであり、ミクロポア容積は0.3~1.5mL/gがより好ましいものであり、メソポア容積は0.5mL/g以下が更により好ましいものであり、マクロポア容積は0.2mL/g以下がより好ましいものである。
更に、同dによれば、甲第9号証においては、前記経口投与用尿毒素吸着剤の実施例において、得られたACFの物性測定及び吸着性能評価を行ったものであり、このうち実施例2は、フェノール系ACF(繊維径15μm:商品名「クラクテイブ」クラレケミカル社製)を使用したものであり、その物性及び吸着性能は、比表面積が1394m2/g、全細孔容積が0.99mL/g、ミクロポア容積が0.61mL/g、メソポア容積が0.27mL/g、マクロポア容積が0.12mL/g、繊維の長さがDv10:90.4μm、Dv50:190.1μm、Dv90:336.4μm、インドール酢酸に対する吸着性能を経時的に測定したときの吸着速度が1.35h、吸着率が86.4%であったものである。
また、実施例10は、実施例2のACFについて、粉砕後、旋回気流式ふるい分け測定装置を用い、目開き10μmのふるいを使って分級を行い、ふるいを通過したものを回収することにより繊維の長さの短いACFを得たものであり、その物性及び吸着性能は、比表面積が1132m2/g、全細孔容積が0.81mL/g、ミクロポア容積が0.48mL/g、メソポア容積が0.19mL/g、マクロポア容積が0.14mL/g、繊維の長さがDv10:7.1μm、Dv50:12.0μm、Dv90:17.7μm、インドール酢酸に対する吸着性能を経時的に測定したときの吸着速度が7.7h、吸着率が55.6%であったものである。
そして、実施例2のACFのうち、繊維の長さの短いものを集めた実施例10のACFでは、尿毒素吸着性能が実施例2のACFより大きく低下したことから、繊維の特徴である、繊維断面の直径に対し、繊維の長さが長い形状であることが、高い吸着性能を示すために重要であると考えられるものである。
(ウ) 前記(イ)によれば、甲第9号証には、経口投与用尿毒素吸着剤として、活性炭素繊維(ACF)を有効成分とする経口投与用尿毒素吸着剤が、従来の球状活性炭からなる経口投与用吸着剤よりも一層優れた吸着性能を示すことが開示されているといえ、前記実施例2及び実施例10は、このことを裏付ける実施例といえる。
すなわち、前記実施例2の比表面積は1394m2/gであるのに対して、前記実施例10の比表面積は1132m2/gであるから、どちらも、更により好ましい範囲とされる600~3500m2/gを満たすものであり、前記実施例2及び実施例10の全細孔容積、ミクロポア容積、メソポア容積及びマクロポア容積についてみても、これらはいずれもより好ましい範囲又は更により好ましい範囲を満たすものである。
それにもかかわらず、前記実施例2と実施例10の間でインドール酢酸に対する吸着性能を経時的に測定したとき、共に、従来の球状活性炭からなる経口投与用吸着剤よりは優れたものではあるが、前記実施例10のACFでは、尿毒素吸着性能が実施例2のACFより大きく低下するのであり、その理由は、前記実施例2の形状が繊維の長さが長いACFであるのに対して、実施例10の形状が繊維の長さが短いACFである点にあり、このことから、活性炭素繊維(ACF)を有効成分とする経口投与用尿毒素吸着剤が、従来の球状活性炭からなる経口投与用吸着剤よりも一層優れた吸着性能を示すことが裏付けられるものである。
そうすると、甲第9号証は、繊維状活性炭を粉砕することによって、比表面積、全細孔容積、ミクロポア容積、メソポア容積及びマクロポア容積が変化することにより、吸着速度及び吸着率に大きな差が生じることを開示するものではなく、繊維状活性炭を粉砕することによって、比表面積、全細孔容積、ミクロポア容積、メソポア容積及びマクロポア容積が変化したとしても、その変化量は、吸着速度及び吸着率に大きな影響を及ぼさない範囲にとどまり、インドール酢酸に対する吸着速度及び吸着率に大きな差が生じる理由は、もっぱら活性炭の形状に起因することを開示するものといえる。
してみれば、甲第9号証は、繊維状活性炭を粉砕することによって「細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積」「に大きな差が生じ」ることを開示するものではなく、むしろ、前記粉砕によって「細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積」に、吸着速度及び吸着率に影響するほどの「大きな差が生じ」ないことを開示するものといえる。
また、甲第9号証は、インドール酢酸を吸着する場合、繊維状活性炭の粉砕によって形状が変化し、吸着速度及び吸着率に大きな差が生じることを開示するものといえるから、前記粉砕によって「吸着の機構に大きな差が生じ」ることを開示するものといえるが、インドール酢酸以外のものを吸着する場合にも、前記粉砕によって「吸着の機構に大きな差が生じ」ることを開示するものとはいえないし、このことを裏付ける証拠もない。
してみれば、甲第9号証は、吸着する物質にかかわらず、繊維状活性炭の粉砕によって、「細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積、更には吸着の機構に大きな差が」生じる、という技術常識を開示したものとはいえないから、前記イ(エ)の主張は採用できない。
(エ) 次に、前記イ(ア)の主張について検討すると、前記イ(ア)の主張は、甲第9号証に基づく前記イ(エ)の主張を根拠として、特開平6-32609号公報の記載は、粉砕によって「細孔構造や細孔径の大きさ及びその分布、外表面積、更には吸着の機構に大きな差が生じない」ことの根拠にはならないことをいうものといえる。
ところが、前記イ(エ)の主張は採用できないことは前記(ウ)に記載したとおりであるから、前記イ(ア)の主張も採用できない。
(オ) 次に、前記イ(イ)の主張について検討すると、特開平6-32609号公報が、特定の条件下でのみ、粉砕前後で繊維状活性炭と粉末活性炭の比表面積が同等となることを示しているにすぎないとしても、当業者は、所定の方法で繊維状活性炭を製造した後、当該繊維状活性炭を粉砕することで、繊維状活性炭と同等の物性を有する粒状活性炭や粉末状活性炭を製造できることを理解できることに変わりはないから、前記特開平6-32609号公報に記載された事項に基づいて、粒状活性炭や粉末状活性炭も含めて、本件発明1の発明特定事項を満たす「活性炭」の製造方法を理解できることにも変わりはない。
そうすると、意見書における特許権者の主張が、前記特開平6-32609号公報の記載の文脈を無視した恣意的なものであるとはいえないから、前記イ(イ)の主張も採用できない。
(カ) 次に、前記イ(ウ)の主張について検討すると、本件発明1に係る「活性炭」が、特開平6-32609号公報に記載された活性炭よりもはるかに広い範囲のものを包含するとしても、前記(オ)に記載したのと同様の理由により、当業者は、前記特開平6-32609号公報に記載された事項に基づいて、粒状活性炭や粉末状活性炭も含めて、本件発明1の発明特定事項を満たす「活性炭」の製造方法を理解できるから、前記イ(ウ)の主張も採用できない。
(キ) 最後に、前記イ(オ)の主張のうち実施可能要件についての主張について検討すると、前記(ウ)~(カ)によれば、特許権者の意見書における主張は、特開平6-32609号公報の記載を恣意的に解釈したものとはいえないし、技術常識(甲第9号証)を無視したものともいえない。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合することは、前記(3)ウに記載したとおりであるから、前記イ(オ)の主張のうち実施可能要件についての主張も採用できない。
(ク) したがって、前記イの回答書における申立人の主張も、いずれも採用できない。
(5) 小括
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の1の特許異議の申立て理由及び第4の1の取消理由はいずれも理由がない。
2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
(1) サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるので、以下、この観点に立って検討する。
(2) サポート要件についての判断
ア 前記1(3)アによれば、本件発明は、従来の活性炭繊維における、ジクロロメタンの平衡吸着量が不十分である、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものであって、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れた「活性炭」の提供を主な目的とするものである。
このため、本件発明は、「活性炭」を、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.4cc/g以上、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.2cc/g以上、且つ、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.880~0.985である「活性炭」であって、ジクロロメタン平衡吸着量が40質量%以上である「活性炭」とすることで、ジクロロメタンの平衡吸着量に優れたものとして、本件課題を解決するものである。
イ そして、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、1.5nm以下の範囲の細孔径の細孔容積B(cc/g)が0.4cc/g以上、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、0.65nm以上1.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積E(cc/g)が0.2cc/g以上、且つ、QSDFT法によって算出される細孔容積のうち、2.0nm以下の範囲の細孔径の細孔容積Cに対する、前記細孔容積Bの割合(B/C)が0.880~0.985である「活性炭」であって、ジクロロメタン平衡吸着量が40質量%以上である「活性炭」は、本件発明1において特定される「活性炭」にほかならないから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることを理解できる。
してみれば、当業者は、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できるものであると認識できるのであり、このことを前記(1)の判断手法に当てはめれば、本件特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合する。
更に、本件発明2~8について検討しても事情は同じである。
(3) 申立人の主張について
ア 始めに、前記第3の2(1)の特許異議申立書の主張から検討すると、本件特許明細書の段落【0040】(前記1(2)ウ)には、「活性炭」を本件発明1で特定される細孔径分布とするために、活性炭前駆体としてイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物を含むものを用いること、イットリウム化合物及びバナジウム化合物を含むものとすると、バナジウムの効果により1nm以下のミクロ孔容量を大きく維持し、尚且つイットリウムの効果により、やや大きな細孔も適度に分布させることができ、これらのやや大きな細孔が被吸着物質の細孔内拡散を補助するため、ジクロロメタンの平衡吸着量をより向上させる点で好ましいことが記載されている。
前記記載によれば、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物は、「活性炭」を製造する過程において、本件発明1で特定される細孔径分布を満たし、「ジクロロメタン平衡吸着量が40質量%以上である」「活性炭」とするための化合物にすぎない。
そして、当業者は、製造された「活性炭」に、最終的にイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物が含有されないとしても、本件発明1で特定される細孔径分布を満たし、「ジクロロメタン平衡吸着量が40質量%以上である」「活性炭」により本件課題を解決できることを理解できるから、本件発明1に係る「活性炭」において、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物の含有が必須であるとはいえない。
また、実施例17は、「細孔容積Bの割合(B/C)」が0.996であって、本件発明1で特定される「0.880~0.985」の範囲にはないから、そもそも本件発明1の細孔径分布に係る発明特定事項を満たす実施例ではない。
すると、仮に、実施例17及び比較例5のジクロロメタン平衡吸着量の相違がイットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物の含有の有無に起因しているとしても、また、「活性炭」の吸着性能が、「活性炭」の組成、細孔径等の物性だけでなく、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物などの添加物にもよることが、本件特許の原出願の出願日当時の技術常識であるとしても、本件発明1において、イットリウム化合物及び/又はバナジウム化合物の含有が必須であるとはいえない。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できるものであると認識できることは、前記(2)イに記載したとおりであるから、本件発明1が発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものともいえない。
更に、本件発明2~8について検討しても事情は同じであるから、前記第3の2(1)の主張は採用できない。
ウ 次に、前記第3の2(2)の主張について検討すると、本件特許明細書において発明の課題を解決できた「活性炭」として具体的に示されているのが繊維状活性炭のみであるとしても、前記1(4)アに記載したのと同様の理由により、発明の詳細な説明に記載された事項を、粒状活性炭や粉末状活性炭といった繊維状活性炭以外のものを含む本件発明1に係る「活性炭」まで拡張ないし一般化することができるから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明である。
更に、本件発明2~8について検討しても事情は同じであるから、前記第3の2(2)の主張も採用できない。
エ したがって、前記第3の2の申立人の主張はいずれも採用できない。
更に、回答書における申立人の1(4)イ(ア)~(エ)の主張は採用できないことは、前記1(4)ウに記載したとおりであるから、申立人の前記1(4)イ(オ)の主張のうちサポート要件についての主張も採用できない。
(4) 小括
よって、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号所定の規定に適合するから、前記第3の2の特許異議申立理由及び第4の2の取消理由はいずれも理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700738