特許異議申立
2024-700615
塗装鋼板
- 審判番号
- 2024-700615
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-208902
- 登録番号
- 7453775
- 請求日
- 2024年07月01日
- 審決日
- 2024年12月20日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日鉄鋼板株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人北斗特許事務所
- 【異議申立人】菊井 俊一
- 審判長/審判官
- 審判長 古屋野 浩志
- 審判官 津熊 哲朗
- 審判官 加藤 範久
- 分類
- P1651.537-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7453775号発明「塗装鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7453775号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7453775号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和元年11月19日に出願された特願2019-208902号であって、令和6年3月12日にその特許権の設定登録がされ、同月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和6年7月1日に特許異議申立人菊井 俊一(以下「申立人」という。)により、請求項1~6に係る特許に対して、特許異議の申立てがされた。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1~6の特許に係る発明(以下、それぞれを「本件特許発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
縮み模様層が鋼板の上にある塗装鋼板であって、
前記縮み模様層は、水酸基含有ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂と、前記水酸基含有ポリエステル樹脂と前記アミノ樹脂との反応を触媒する酸触媒と、未硬化時に前記酸触媒の触媒作用を抑制するアミン化合物と、ガラス繊維と、を含有する縮み塗料からなり、
前記アミノ樹脂の量は、前記縮み塗料の固形分に対して、5重量%以上20重量%以下であり、前記アミン化合物の量は、前記縮み塗料の固形分に対して、0.1重量%以上5重量%以下であり、前記ガラス繊維の量は、前記縮み塗料の固形分に対して4.0重量%以上18.0重量%以下であり、
前記縮み塗料は、シリカ粒子を含有せず、かつ、尿素樹脂粒子及びアクリル樹脂ビーズを更に含有し、
前記縮み模様層の表面粗さである十点平均粗さRzは、12μm以上26μm以下である、
塗装鋼板。
【請求項2】
縮み模様層が鋼板の上にある塗装鋼板であって、
前記縮み模様層は、水酸基含有ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂と、前記水酸基含有ポリエステル樹脂と前記アミノ樹脂との反応を触媒する酸触媒と、未硬化時に前記酸触媒の触媒作用を抑制するアミン化合物と、ガラス繊維と、を含有する縮み塗料からなり、
前記アミノ樹脂の量は、前記縮み塗料の固形分に対して、5重量%以上20重量%以下であり、前記アミン化合物の量は、前記縮み塗料の固形分に対して、0.1重量%以上5重量%以下であり、前記ガラス繊維の量は、前記縮み塗料の固形分に対して4.0重量%以上18.0重量%以下であり、
前記縮み塗料は、シリカ粒子を含有せず、かつ、ワックス成分を更に含有し、
前記縮み模様層の表面粗さである十点平均粗さRzは、12μm以上26μm以下である、
塗装鋼板。
【請求項3】
縮み模様層が鋼板の上にある塗装鋼板であって、
前記縮み模様層は、水酸基含有ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂と、前記水酸基含有ポリエステル樹脂と前記アミノ樹脂との反応を触媒する酸触媒と、未硬化時に前記酸触媒の触媒作用を抑制するアミン化合物と、ガラス繊維と、を含有する縮み塗料からなり、
前記アミノ樹脂の量は、前記縮み塗料の固形分に対して、5重量%以上20重量%以下であり、前記アミン化合物の量は、前記縮み塗料の固形分に対して、0.1重量%以上5重量%以下であり、前記ガラス繊維の量は、前記縮み塗料の固形分に対して4.0重量%以上18.0重量%以下であり、
前記縮み塗料は、シリカ粒子を含有せず、かつ、尿素樹脂粒子及びアクリル樹脂ビーズ並びにワックス成分を更に含有し、
前記縮み模様層の表面粗さである十点平均粗さRzは、12μm以上26μm以下である、
塗装鋼板。
【請求項4】
前記アミン化合物は、2級アミン化合物、及び3級アミン化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の塗装鋼板。
【請求項5】
前記酸触媒は、スルホン酸系化合物を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の塗装鋼板。
【請求項6】
前記鋼板は、めっき鋼板である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の塗装鋼板。」
第3 特許異議申立理由の概要
申立人による特許異議申立理由の概要は、次のとおりである。
1 特許異議申立理由(サポート要件)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、いずれも発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第4 当審の判断
1 サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
2 判断基準に基づく判断
上記1の判断基準に基いて、判断する。
(1)発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
ア 【0002】~【0008】
「【背景技術】
【0002】
従来、鋼板の上に縮み模様層がある塗装鋼板が提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鋼板上に形成された縮み模様塗膜(縮み模様層)の表面粗度が十点平均粗さ(Rz)で7.5~11.5μmである塗装鋼板が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、縮み柄を形成する塗膜の中にガラスフレークを分散させることによって大柄の縮み柄塗膜を形成する技術が開示されている。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、滑雪性は表面を平滑にするほど向上するが、意匠性が低下すると説明しており、特定の粗度の範囲であれば、滑雪性を保ちつつ光沢を下げることができるとしている。
【0007】
また、特許文献2の縮み柄塗膜は大柄であるため、この縮み柄塗膜の表面を低粗度にすることは困難である。
【0008】
本発明の目的は、縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面と、色深さとを容易に得ることができ、この縮み模様層により意匠が良好になりやすく、更に優れた耐候性を有する塗装鋼板を提供することである。」
イ 【0014】
「【0014】
このような塗装鋼板1によれば、縮み模様層5において表面を特定の粗さRzにすることで、縮み模様層5は、低光沢の表面と、色深さとを容易に得ることができる。そして、この縮み模様層5により塗装鋼板1の意匠性を高くすることができる。また、縮み模様層5が鋼板2の上にあることで、鋼板2の第1面21は縮み模様層5により覆われるため、鋼板2は雨風に曝されにくくなる。また、本発明の縮み模様層5は、優れた耐候性を有する。このため、塗装鋼板1は優れた耐候性と高い意匠性を両立させることができる。」
ウ 【0050】
「【0050】
縮み模様層5は、凹凸構造を形成しており、通常、その構造を表す物性値として2次元粗さ計による計測値(表面粗さRz)を用いる。この表面粗さRzは、12μm以上70μm以下である。表面粗さRzがこの範囲内であることで、縮み模様層5は、低光沢の表面と、色深さとを容易に得ることができ、この縮み模様層5により塗装鋼板1の意匠を高めることができる。しかも、鋼板2の第1面21は耐候性に優れる縮み模様層5により覆われるため、優れた意匠性を有しかつ耐候性の良好は塗装鋼板を得ることができる。表面粗さRzは、より好ましくは、12μm以上40μm以下である。」
エ 【0055】
「【0055】
また、縮み塗料は、好ましくは、シリカ粒子を含有しない。縮み塗料がシリカ粒子を含有しない場合、シリカ粒子は腐食や劣化因子である水分を取り込みやすいが、シリカ粒子を含有しないことで樹脂劣化を加速する要因がなくなるため、塗装鋼板1の耐候性をより高くすることができる。また、縮み塗料がシリカ粒子を含有しなくても、後述の骨材を含有することで、縮み模様層5の表面を低光沢にしやすくできる。」
オ 【0065】
「【0065】
酸触媒は、縮み塗料が硬化する際に、水酸基含有ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂との反応を触媒する成分である。酸触媒は、具体的にはスルホン酸系化合物を含む。このため、縮み塗料中でスルホン酸系化合物はアミン化合物との中和物として存在するため、未使用の縮み塗料を保存させやすくできる。スルホン酸系化合物はスルホン酸基を含有する化合物である。スルホン酸系化合物としては、例えば、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、メタンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等が挙げられる。スルホン酸は、上記の群から選択される少なくとも1つの成分を含有できる。また、酸触媒は、上記の成分以外に、水酸基含有ポリエステル樹脂とアミノ樹脂との反応を触媒する任意の化合物を含むことができる。」
カ 【0077】
「【0077】
無機骨材として、例えば、ガラス繊維等が挙げられる。骨材がガラス繊維を含む場合、ガラス繊維の直径は、好ましくは1μm以上40μm以下である。また、ガラス繊維の平均繊維長さは、好ましくは300μm以下である。平均繊維長さが300μm以下であると、縮み模様の柄を安定して形成しやすくなり、塗装鋼板1の耐候性と、意匠性とを向上させることができる。平均繊維長さは、より好ましくは、250μm以下であり、特に好ましくは、200μm以下である。平均繊維長さの下限は、特に限定されないが、例えば5μm以上である。ガラス繊維の平均繊維長さは、走査型電子顕微鏡で撮影された10個のガラス繊維の長さの平均値として算出される。」
キ 【0093】~【0094】
「【0093】
<縮み塗料の調製>
{実施例 1、2、4~10、参考例及び比較例1~7}
後掲の表に示す成分を混合することで、各実施例、参考例及び比較例の塗料を得た。塗料を調整する際、容器内のアミン化合物にスルホン酸系化合物を添加し、その後、スルホン酸系化合物がアミン化合物により完全に中和するまで容器の内容物を混合した。なお、後掲の表に示す成分の詳細は、下記の通りである。
・水酸基含有ポリエステル樹脂:DIC株式会社製ベッコライト46-118(不揮発分60%、水酸基価115、数平均分子量2,500)、
・アミノ樹脂:日本サイテックインダストリーズ製サイメル303(不揮発分100%、ヘキサキスアルコキシメチル化メラミン樹脂)、
・アミン化合物:トリエチルアミン、
・スルホン酸系化合物:パラトルエンスルホン酸、
・骨材A:有機樹脂ビーズ(アクリル樹脂ビーズ)(平均粒子径20μm)、
・骨材B:有機樹脂粒子(尿素樹脂粒子)(平均粒子径20μm)、
・骨材C:ガラス繊維(直径13μm、平均繊維長さ35μm)、
・シリカ粒子:平均粒径7μm、
・ワックス成分:ポリテトラフルオロエチレン(株式会社喜多村製KTL-8N(商品名))
【0094】
【表1】
[図:0001419363000001.jpg]
」
ク 【0095】~【0099】
「【0095】
{製造例1~2}
次に、各実施例 、参考例及び比較例の縮み塗料を用いて、下記の手順で塗装鋼板を作製した。なお、各製造例に用いられた、化成処理剤、及び下塗り塗料の詳細は、下記の通りである。
・化成処理剤:クロメート前処理材(日本パーカライジング社製ZM1300)、
・下塗り塗料:ポリエステル/メラミン樹脂系塗料(アクゾノーベル・コーティングス社製FX39プライマー)。
【0096】
[製造例1]
鋼板として、55%Al-Zn-Mg系溶融めっき鋼板である「エスジーエル(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.8mm、両面付着量:150g/m2)(以下、SGLという場合がある)を用意した。
・・・
【0099】
[製造例2]
鋼板として、55%Al-Zn系溶融めっき鋼板である「ガルバリウム鋼板(登録商標)」(日鉄住金鋼板株式会社製、板厚:0.8mm、両面付着量:150g/m2)(以下、GLという場合がある)を用いた以外は、製造例1と同様にして、塗装鋼板を作製した。」
ケ 【0100】~【0106】(当合議体注:表2は便宜のため右90°回転して摘記した。)
「【0100】
<評価>
各製造例で得られた塗装鋼板を、下記のように評価した。この評価結果を後掲の表2に示す。
【0101】
{縮み柄}
各製造例の塗装鋼板の表面を目視で確認し、この表面に縮み模様が形成されている場合を「有」、縮み模様が形成されていない場合を「無」とした。
【0102】
{表面粗さ}
各製造例の塗装鋼板の表面から得られる粗さ曲線を触針法により作成した。そして、この粗さ曲線を用い、塗装鋼板の表面粗さを示す十点平均粗さRz及び算術平均粗さRaをJIS B 0601:2001に準拠して測定した。塗装鋼板の表面粗さを測定するにあたって、2次元粗さ計(株式会社東京精密製のSURFCOM1500SD-JDE12(型番))を用い、測定長さを8.0mmとし、カットオフ値を0.8mmとした。
【0103】
{耐候性}
JIS K 5600-7-6:2002に準拠して、各製造例の縮み模様層の耐候性を試験し、試験後の縮み模様層を下記項目に従って評価した。
A:縮み模様層の表面にチョーキングが生じていない、
B:縮み模様層の表面にチョーキングが生じている。」
【0104】
{光沢度}
各製造例の塗装鋼板の表面から得られる光沢度Gsを光沢度計(日本電色工業株式会社製のSE-2000)により求めた。このとき、塗装鋼板表面の法線に対する光の入射角度θを60°とし、塗装鋼板の表面に入射する光束φosと、塗装鋼板の表面を鏡面反射した光束φとの百分比を下記式(1)により算出した。そして、この百分比を光沢度Gsとした。なお、光沢度Gsを求める前に、樹脂製の標準板を用いて光沢度計の測定値をゼロ点補正した。
光沢度Gs(θ)(%)=φs/φos×100・・・(1)
参考資料として、JIS規格(JIS Z 8741)によると、屈折率が1.567であるガラス板において、入射角度θが60°で、かつガラス板表面の鏡面反射率が10%である場合に光沢度Gs(60°)は100%とされ、入射角度θが20°で、かつガラス板表面の鏡面反射率が5%である場合に光沢度(20°)は100%とされている。
【0105】
{耐傷付き性}
各製造例の塗装鋼板の表面に対して45度の角度で10円玉硬貨を当てた状態で、塗装鋼板の表面の表面を、1.0kgの荷重で30mm程度、引掻いた。その後、塗装鋼板の表面の表面を目視で評価した。塗装鋼板の表面において、傷がない場合を〇、下塗り層までの剥離があったが鋼板表面に傷がない場合を△、縮み模様層を含む表層の剥離があり、かつ鋼板表面まで傷がある場合を×とした。
【0106】
【表2】
[図:0001419363000002.jpg]
」
コ 【0110】
「【0110】
第2態様によれば、シリカ粒子による腐食や劣化因子の影響が小さくなる。しかも縮み模様の大きさを安定化するため、表面粗さRzが安定した縮み模様層(5)が得られやすくなり、これにより、塗装鋼板(1)の耐候性と、高い意匠性とを両立させることができる。」
(2)解決しようとする課題
ア 【0008】には、発明の目的として、「縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面と、色深さとを容易に得ることができ、この縮み模様層により意匠が良好になりやすく、更に優れた耐候性を有する塗装鋼板を提供すること」が記載されている。
イ 【0008】の「低粗度でありながら低光沢の表面」を得ることについて、一般に、低粗度、すなわち、表面を平滑にするにつれて、金属光沢のように光沢度が高くなることは、本件特許の出願時において技術常識である。
してみると、【0008】の「縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面」を得るとは、「縮み模様層」において、低粗度でありながら、光沢度を高くすることなく、低光沢の表面を実現することであると言える。
ウ 【0008】の「色深さ」について、色に関して「深い」とは、一般に「色・匂いなどが濃い。」ことを意味する(広辞苑第三版)。一方、【0050】には、「縮み模様層5」の「表面粗さRz」が、「12μm以上70μm以下」の「範囲内であることで、縮み模様層5は、低光沢の表面と、色深さとを容易に得ることができ」ると記載され、【0102】には、Rzが十点平均粗さであることが記載されている(以下「表面粗さRz」との記載は「十点平均粗さRz」であると記載を統一した。)。ここで、表面の凹凸と色との関係について、表面が平坦であると、光が同じ向きに反射されて、人の目に入ってくるため、色が鮮やかに見え、表面に凹凸があると、光が散乱されるため、色が暗く濃く見えることは、広く知られたことである。
してみると、【0008】の「縮み模様層において」「色深さ」を「得る」とは、「縮み模様層」において、表面に光が散乱される程度の凹凸があり、色が暗く濃く見えるようにすると解するのが自然である。
エ 【0008】の「意匠が良好になりやす」いことについて、「意匠」とは、一般に「美術・工芸・工業品などの形・模様・色またはその構成について、工夫をこらすこと。また、その装飾的考案。」を意味し(広辞苑第三版)、「意匠が良好」であるとは、美術・工芸・工業品などの形・模様・色またはその構成が良好な状態であると解される。一方、【0050】には、「縮み模様層5」の「十点平均粗さRz」が、「12μm以上70μm以下」の「範囲内であることで、縮み模様層5は、低光沢の表面と、色深さとを容易に得ることができ」、「この縮み模様層5により塗装鋼板1の意匠を高めることができる。」と記載されている。ここで、「縮み模様層5」の有無、光沢及び色が異なれば、「縮み模様層5」を見たときの印象が異なり、すなわち意匠性が異なることは明らかである。
してみると、【0008】の「この縮み模様層により意匠が良好になりやす」いとは、直前の「縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面と、色深さとを容易に得ることができ」という記載から、縮み模様層が低光沢な表面や色深さを実現することで、模様や色が良好な状態になりやすいと解するのが自然である。
オ 上記イ、ウ及びエを踏まえると、「縮み模様層において」、「低粗度でありながら」、光沢度を高くすることなく、「低光沢の表面」を実現すると、適度な凹凸があることで、光が散乱され、「色深さ」を得ることを実現することができ、「縮み模様層5」が「低光沢な表面」や「色深さ」を得ることをを実現することで、「意匠が良好になりやすく」なることから、「低粗度でありながら低光沢な表面」を得ることと、「色深さ」を得ることと、「意匠が良好になりやすく」なることは直列的な因果関係を備えると認められる。
したがって、【0008】の記載が実質的に意味することは、発明の目的が「縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面」を「容易に得ることができ」、「更に優れた耐候性を有する塗装鋼板を提供する」ことであり、これらを実現することで、結果的に「縮み模様層において」、「色深さ」を得ることができ、この縮み模様層により意匠が良好になりやすく」なるといえる。
カ また、【0006】の「特許文献1によれば、滑雪性は表面を平滑にするほど向上するが、意匠性が低下すると説明しており、特定の粗度の範囲であれば、滑雪性を保ちつつ光沢を下げることができるとしている。」との記載、及び、【0003】の「特許文献1には、鋼板上に形成された縮み模様塗膜(縮み模様層)の表面粗度が十点平均粗さ(Rz)で7.5~11.5μmである塗装鋼板が開示されている」との記載から、滑雪性を有する場合、表面粗度は低いことが明らかであることを踏まえると、特許文献1において、縮み模様層の表面粗度を特定の範囲にすることで、表面粗度を低く保ちつつ光沢を下げることができることが開示されているといえる。
すなわち、「縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面を容易に得ることができ」ることについては、特許文献1において解決済みの課題であると認められる。
キ 上記オ及びカを踏まえると、発明の詳細な説明の記載全体から把握される本件特許発明の課題は、以下のとおりと認められる。
「縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面を容易に得ることができ、かつ、優れた耐候性を有する塗装鋼板を提供すること」
そして、当該課題を解決することで、結果的に、「縮み模様層において」、「色深さ」を得ることができ、「この縮み模様層により意匠が良好になりやすく」なるといえる。
(3)課題を解決できると当業者が認識できるものか否か
ア 縮み模様層において、低粗度でありながら低光沢の表面を得ること
【0050】には、「縮み模様層5」の「十点平均粗さRz」が「12μm以上70μm以下」の「範囲内であることで、縮み模様層5は、低光沢の表面」を「容易に得ることができ」ることが記載されている。
また、【0094】の表1の塗料の配合及び【0106】の表2の評価結果において、【0065】の酸触媒の記載及び【0093】の有機樹脂粒子の記載を踏まえて、実施例1,2,4,5,7~10と参考例を比較すると、いずれも水酸基含有ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂と、アミン化合物と、スルホン酸系化合物(酸触媒)と、有機樹脂ビーズと、有機樹脂粒子(尿素樹脂粒子)と、ガラス繊維を含有し、シリカ粒子を含有しないものであり、アミノ樹脂の量、アミン化合物の量、ガラス繊維の量が上記第2で示した本件特許発明1~3の数値範囲内であり、一方、十点平均粗さRzについて、実施例1,2,4,5,7~10では本件特許発明1~3の数値範囲内である12~26μmであり、参考例では本件特許発明1~3の数値範囲外である60~65μmであり、光沢度について、実施例1,2,4,5,7~10では0.7~1.4%であり、参考例では2.1~2.3%であることから、十点平均粗さRzを本件特許発明1~3の数値範囲内である12~26μmとすることで、光沢度が低くなり、より低粗度かつ低光沢の表面を得られることが示されていると認められる。
イ 優れた耐候性を有すること
【0055】には、「縮み塗料がシリカ粒子を含有しない場合、シリカ粒子は腐食や劣化因子である水分を取り込みやすいが、シリカ粒子を含有しないことで樹脂劣化を加速する要因がなくなるため、塗装鋼板1の耐候性をより高くすることができる」と記載されていることから、本件特許発明1~3で特定されている「シリカ粒子を含有しない」ことで、耐候性が優れると認められる。
また、【0094】の表1の塗料の配合及び【0106】の表2の評価結果において、実施例1,2,4,5,7~10と比較例3,5を比較すると、いずれも水酸基含有ポリエステル樹脂と、アミノ樹脂と、アミン化合物と、スルホン酸系化合物(酸触媒)と、有機樹脂ビーズと、有機樹脂粒子(尿素樹脂粒子)と、ガラス繊維を含有し、シリカ粒子を含有しないものであり、ガラス繊維の量、十点平均粗さRzが上記第2で示した本件特許発明1~3の数値範囲内であり、一方、比較例3では、アミノ樹脂の量が本件特許発明1~3の数値範囲外であり、比較例5では、アミン化合物が本件特許発明1~3の数値範囲外であり、耐候性について、実施例1,2,4,5,7~10の評価結果はAであり、比較例3,5の評価結果はBであることから、アミノ樹脂の量やアミン化合物の量を本件特許発明1~3の数値範囲内とすることで、耐候性が優れることが示されていると認められる。
ウ 上記ア、イを踏まえると、本件特許発明1~3は、上記(2)キで示した本件特許発明の課題を解決できると、合理的に認識することができる。
また、本件特許発明1~3の構成を有する本件特許発明4~6についても同様である。
したがって、本件特許発明1~6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(4)申立人の主張について
ア 第1の不備「意匠が良好」及び第2の不備「色深さ」について
(ア)申立人は、特許異議申立書の17~20頁において、【0077】及び【0110】の記載に基いて、「縮み模様の柄を安定して形成しやすくな」るか「縮み模様の大きさ」が「安定」すれば「意匠が良好」になるとしている。
また、申立人は特許異議申立書の21~22頁において、「色深さ」は、甲4によれば色についての「深い」とは色が濃いことを意味するとしている。
そして、それぞれの場合について、本件特許発明1~3が発明の詳細な説明により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない旨を主張している。
(イ)しかしながら、上記(2)イないしオで示したとおりの「低粗度でありながら低光沢な表面」を得ることと、「色深さ」を得ることと、「意匠が良好になりやすく」なることとの関係を踏まえると、「縮み模様層において」、「低粗度でありながら低光沢な表面」を実現することで、結果的に「縮み模様層において」、「色深さ」を得ることができ、この縮み模様層により意匠が良好になりやすく」なるといえる。
そして、上記(3)アで示したように、十点平均粗さRzを本件特許発明1~3の数値範囲内とすることで、より低粗度かつ低光沢の表面を得られ、その結果として、「縮み模様層」の「色深さ」を得るとともに、「縮み模様層」により「意匠が良好に」なることが理解できるから、申立人の主張は採用できない。
イ 第3の不備「低光沢の表面」について
(ア)申立人は、特許異議申立書の22~24頁において、アミン化合物の量が本件特許発明1~3の数値範囲内であるか否かが異なる実施例4,7,9と比較例5を比較して、本件特許発明1~3の範囲内外で光沢度に差異がないから、「低光沢の表面」が実施例で得られていない旨を主張している。
また、【0094】の表1及び【0106】の表2から十点平均粗さRzと光沢度との相関係数を算出し、十点平均粗さRzと光沢度はほぼ正比例の関係にあるとし、課題と十点平均粗さRzの値との関係の技術的意味が当業者において認識されない旨を主張している。
(イ)しかしながら、比較例5の光沢度は、実施例と同程度の数値であり、低光沢の表面に該当しているといえる。一方、比較例5のアミン化合物の量が本件特許発明1~3の数値範囲外である結果、「耐候性」の評価が実施例と比較して低くなっている。そうすると、比較例5は、実施例との比較において「耐候性」の評価のために挙げられているものであって、比較例5のみを選択して実施例と比較することで「低光沢の表面」が実施例で得られていないとはいえない。
そして、上記(3)アで示したように、実施例1,2,4,5,7~10と参考例を比較すると、十点平均粗さRzを本件特許発明1~3の数値範囲内とすることで、より低粗度かつ低光沢の表面を得られることが理解できる。
したがって、申立人の主張は、光沢度を評価する際の事例の選択が示すべき事実に即していないので採用できない。
(ウ)また、表面を平滑にするにつれて、金属光沢のように光沢度が高くなることは、本件特許の出願時において技術常識であり、申立人の主張のように、任意の十点平均粗さRzの値に対して、十点平均粗さRzと光沢度が正比例の関係にあるとはいえない。
そして、【0050】及び【0106】から、十点平均粗さRzを特定の範囲とすることで、低粗度でありながら低光沢の表面を実現していると理解でき、課題と十点平均粗さRzの値との関係の技術的意味が当業者において認識できると認められる。
したがって、申立人の主張は採用できない。
ウ 第4の不備「耐候性」について
(ア)申立人は、特許異議申立書の24~26頁において、【0055】の「シリカ粒子を含有しないことで」「塗膜鋼板1の耐候性をより高くすることができる」との記載に基いて、シリカ粒子を含有するか否かが異なる実施例1,6を比較して、「耐候性」に差異がない旨を主張している。
また、【0050】の記載に基いて、十点平均粗さRzを特定の範囲とすることで、「耐候性」を有する効果を奏するとして、参考例を例に挙げて、十点平均粗さRzが特定の範囲に入っていても外れていても「耐候性」に違いはない旨を主張している。
(イ)シリカ粒子を含有する事例は、実施例6と比較例6であり、実施例6では、骨材A~Cと比較してシリカ粒子が微量であり、比較例6では、シリカ粒子の量が多く、シリカ粒子以外の骨材を含まないものである。そして、実施例6の「耐候性」の評価結果は、他の実施例と同じであり、比較例6の「耐候性」の評価結果は、実施例と比較して低くなっている。そうすると、実施例6のようにシリカ粒子が微量であれば、「耐候性」に影響がないことは、比較例6と比べると明らかである。そうすると、実施例6のみを選択して、他の実施例と比較することで、「耐候性」が他の実施例において得られていないとはいえない。
そして、上記(3)イで示したように、実施例1,2,4,5,7~10と比較例3,5を比較すると、アミノ樹脂の量やアミン化合物の量を本件特許発明1~3の数値範囲内とすることで、「耐候性」が優れることが理解できる。
したがって、申立人の主張は、耐候性を評価する際の事例の選択が示すべき事実に即していないので採用できない。
(ウ)また、【0050】には、「鋼板2の第1面21は耐候性に優れる縮み模様層5により覆われるため、優れた意匠性を有しかつ耐候性の良好は塗装鋼板を得ることができる。」と記載されているものの、十点平均粗さRzを特定の範囲とすることで、「耐候性」を有する効果を奏するとは記載されていない。
したがって、申立人の主張は、【0050】の記載に基づく主張であるとはいえないので、採用できない。
エ したがって、申立人の主張について考慮しても、上記(3)に示した判断を変更すべき事情は見いだせない。
(5)サポート要件のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1~6は、特許法36条6項1号に規定する要件を、充足する。
第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明1~6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許発明1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、前記結論のとおり、決定する。
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2024-700615