特許異議申立
2024-700620
非晶質組成物、熔融水砕物、熔融水砕物含有組成物、及び肥料
- 審判番号
- 2024-700620
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-133595
- 登録番号
- 7407533
- 請求日
- 2024年07月03日
- 審決日
- 2024年10月24日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】デンカ株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【権利者代理人】伊藤 高志
- 【権利者】日之出化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【権利者代理人】伊藤 高志
- 【異議申立人】山口 真知子
- 審判長/審判官
- 審判長 光本 美奈子
- 審判官 長谷川 真一
- 審判官 渡辺 陽子
- 分類
- P1651.113-Y (C05D) / P1651.121-Y (C05D) / P1651.536-Y (C05D) / P1651.537-Y (C05D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7407533号発明「非晶質組成物、熔融水砕物、熔融水砕物含有組成物、及び肥料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7407533号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7407533号に係る特許についての出願は、令和元年7月19日(優先権主張 平成30年7月20日)に出願され、令和5年12月21日に特許権の設定登録がされ(請求項の数7)、令和6年1月4日に特許掲載公報が発行された。その後、令和6年7月3日に特許異議申立人である山口 真知子(以下「申立人」という。)により、全請求項に係る特許について特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件発明及び本件明細書の記載
1 本件発明
本件発明は、次のとおりの発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、MgOとSiO2とCaOとP2O5とを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上5.0質量%以下含有する肥料用の非晶質組成物であって、
モル換算したときの、前記SiO2及びP2O5の合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.20~1.35であり、
粒径が0.212mm~0.300mmである非晶質組成物。
【請求項2】
化学成分として、MgOとSiO2とCaOとP2O5とを含み、アルミナ成分を1.2質量%以上4.0質量%以下含有する肥料用の非晶質組成物であって、
モル換算したときの、前記SiO2及びP2O5の合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.35~1.45であり、
粒径が0.15mm~0.5mmである非晶質組成物。
【請求項3】
前記MgO及びSiO2源が、フェロニッケルスラグを含む請求項1又は2に記載の非晶質組成物。
【請求項4】
4%クエン酸ソーダ緩衝液(pHの初期値が5.5)へのケイ酸の溶出率が75%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の非晶質組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の非晶質組成物を含有する熔融水砕物。
【請求項6】
請求項5に記載の熔融水砕物を含む熔融水砕物含有組成物。
【請求項7】
請求項5に記載の熔融水砕物又は請求項6に記載の熔融水砕物含有組成物を含む肥料。」
2 本件明細書の記載
「【0010】
これまでは、MgO源及びSiO2源としては主に蛇紋岩が使用されてきた。蛇紋岩はその優れたMgO及びSiO2供給能力から、広く肥料原料として採用されてきたが、入手が困難となり代替資材が求められていた。蛇紋岩に代わるMgO及びSiO2源として他の原料を採用しようとすると、コスト増を招いたり他の不純物成分が多くてMgO及びSiO2の供給を阻害したりすることがあった。
【0011】
そこで、本発明者らはSiO2の供給を阻害する成分について検討したところ、アルミナ成分を多く含むとこれがゲル化してSiO2の溶出が阻害されることを突き止めた。そこで、アルミナ成分量の少ない材料を使用することが有効と予想されるが、当該材料は得てして蛇紋岩よりも高価であり、コスト的な問題を有することになる。
例えば、マグネサイト鉱等を使用してMgO源とすることも可能であるが、輸入原料の高騰にともない安価肥料を提供することに支障がでてくる。
【0012】
上記状況を鑑み、本発明者らはあえてアルミナ成分量の高いものを使用し、材料中の組成と粒径を制御した本発明により、蛇紋岩を使用した場合と同様の有効性を発揮できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。」
「【0020】
第1の非晶質組成物及び第2の非晶質組成物は共に、アルミナ成分(Al2O3)を1.2質量%以上含有する。アルミナ成分は使用する原料に起因するもので、1.2質量%以上含有するとSiO2等の有効成分の溶出が阻害されるが、原料種の選択の幅が広がりコストの低減が可能となる。アルミナ成分の含有量は、5.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることが最も好ましく、2.2質量%以下であることが尚更好ましい。
ここで、アルミナ成分を1.2質量%以上含有することの課題、すなわち、SiO2の供給を阻害する課題は、モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]の範囲を2つの場合に分けて、それぞれについて特定の粒径範囲とすることで解決される。また、アルミナ成分の存在はケイ酸溶出率を低下させ、かつその含有量が増加すると他の成分の含有量が実質的に減るといった問題も、本実施形態により解決できる。
【0021】
第1の非晶質組成物においては、モル換算したときの、SiO2及びP2O5の合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.20~1.35であり、粒径が0.5mm以下であることで、アルミナ成分を1.2質量%以上含有することの課題をなくしている。粒径が0.5mm以下である場合は、モル比が1.20~1.35であることで、Caイオン、Mgイオンの存在量が減少、資材粒子表面付近の微細な環境でのpH上昇が抑制され、Al化合物による溶出への抑制作用を低下させると推定され、結果として上記課題が除去されると考えられる。粒径は0.01mm以上が好ましい。
【0022】
また、第2の非晶質組成物においては、モル換算したときの、SiO2及びP2O5の合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.35~1.45であり、粒径が0.15mm~0.5mmであることで、粒径が0.15mm以下であるときよりも資材粒子表面付近の微細な環境でのpH上昇が抑制され、Al化合物による溶出への抑制作用を低下させると推定され、結果として上記課題が除去されると考えられる。モル比は1.35を超えることが好ましい。」
「【0023】
第1の非晶質組成物及び第2の非晶質組成物における粒径は、例えば、粒径未調整の熔融水砕物前駆体を粉砕機で粉砕し、その粉砕物を各種ふるいで篩い分けすることによって、所望の範囲に調整することができる。
・・・
【0037】
その後、第1の非晶質組成物とする場合は、既述の篩い分けにより粒径が0.5mm以下となるように分級する。また、第2の非晶質組成物とする場合は、粒径が0.15mm~0.5mmとなるように分級する。篩はJIS Z 8801に記載された篩を用いることが好ましい。」
「【0049】
本実施例及び比較例で使用した原料は下記のとおりである。
・燐鉱石
・カンラン岩(東邦オリビン工業(株)製)
・マグネサイト鉱(マグボール、不二鉱材(株)製)
・硬焼石灰(上田石灰製造(株)製)
・フェロニッケルスラグ(ナスサンド、日本冶金工業(株)製)
・ケイ石(中部鉱業(株)製)
・高炉滓(ケイカル)(新日鉄(株)製)
本実施例及び比較例の熔融水砕物において、非晶質とは、NMR-Siの半値幅が10ppm以上の拡がりを有することをいう。表において、非晶質とは、NMR-Siの半値幅が10ppm以上の拡がりを有することをいう。結晶質とは、NMR-Siの半値幅が10ppm未満であることをいう。
【0050】
〔実施例1,2及び比較例1,2〕
化学成分として、MgO、SiO2、P2O5、CaO、Al2O3が下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、カンラン岩、マグネサイト鉱、硬焼石灰、フェロニッケルスラグ、及びケイ石を混合し、白金坩堝に入れて電気炉内に置き1500℃で加熱熔融した。電気炉から取り出した熔融物をすばやく水中に投入して粒径未調整熔融水砕物を得た。
なお、含有比率からモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]を求めた。
【0051】
粒径未調整熔融水砕物をトップグラインダーで粉砕した。粉砕された粉砕品を目開き212μmの篩に入れ、篩を20°傾斜しながら1分間に120回の割合で、篩枠を手でたたき、この間、1分間に4回の割合で篩を水平に置き、90°回転させて、篩枠を1~2回強くたたいた。篩網の裏面に微粉が付着している場合には、適当なブラシで静かにふるいの裏面から除去し、その微粉は篩下とした。
これらの操作を繰返し、篩を通過させ、篩を通過した試料を合わせて混合し、熔融水砕物を作製した。なお、篩分は公定法に準じて手篩いし、2回目の篩目(目開き)は150μmであった。
篩はJIS Z 8801に記載された篩を用いた。
【0052】
〔比較例3〕
化学成分として、MgO、SiO2、P2O5、CaO、Al2O3が下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、カンラン岩、マグネサイト鉱、硬焼石灰、フェロニッケルスラグ、及びケイ石を混合し、白金坩堝に入れて電気炉内に置き、1500℃で加熱後、あえて急冷せず冷却速度約2℃/分程度で室温まで冷却したこと以外は実施例1と同様にして、試料を作製した。
【0053】
〔実施例4〕
化学成分として、MgO、SiO2、P2O5、CaO、Al2O3が下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、硬焼石灰、マグネサイト鉱、ケイカル及びケイ石を混合した以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0054】
〔実施例8〕
化学成分として、MgO、SiO2、P2O5、CaO、Al2O3が下記表2に示す割合となるように、燐鉱石、硬焼石灰、マグネサイト鉱、ケイカル及びケイ石を混合した以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0055】
〔参考例4〕
化学成分として、MgO、SiO2、P2O5、CaO、Al2O3が下記表1に示す割合となるように、燐鉱石、蛇紋岩、硬焼石灰、マグネサイト鉱及びケイ石を混合した以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0056】
〔実施例3〕
篩目を変更して粒径を0.212mm~0.300mmとした以外は実施例1と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0057】
〔測定方法〕
〔化学成分の測定〕
肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)-1992年版-の各成分における全量分析の方法で分析した。各成分は、MgO換算値、SiO2換算値、P2O5換算値、CaO換算値、Al2O3換算値として測定した。
〔溶出率の測定〕
実施例及び比較例で作製した熔融水砕物について、4%クエン酸ソーダ緩衝液(pHの初期値が5.5)への溶出ケイ酸量を測定してケイ酸の溶出率を測定した。結果を表1に示す。
なお、溶出率の具体的測定方法は下記のとおりとした。
クエン酸水溶液に2N水酸化ナトリウム水溶液を加えた溶液をビーカーに加え、pHを5.5に調整した4質量%クエン酸ソーダ緩衝液150mlに、1gの熔融水砕物を加え、30℃の水浴中で1時間揺動した。この溶液をろ紙でろ過して得られるろ液を純水で希釈した後、ろ液中に含まれるSiO2量(溶出ケイ酸量)をICP(誘導結合プラズマ発光分光法)で測定した。得られた溶出ケイ酸量と熔融水砕物中のSiO2量から溶出率を求めた。」
【0058】
【表1】
[図:0001416512000001.jpg]
【0059】
〔実施例5~7及び比較例5〕
化学成分として、MgO、SiO2、P2O5、CaO、Al2O3が下記表2に示す割合となるように、燐鉱石、カンラン岩、マグネサイト鉱、硬焼石灰、フェロニッケルスラグ及びケイ石を混合し、白金坩堝に入れて電気炉内に置き1500℃で加熱熔融した。電気炉から取り出した熔融物をすばやく水中に投入して粒径未調整熔融水砕物を得た。
なお、含有比率からモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]を求めた。
【0060】
粒径未調整熔融水砕物をトップグラインダーで粉砕した。粉砕された粉砕品を目開き500μmの篩に入れ、篩を20°傾斜しながら1分間に120回の割合で、篩枠を手でたたき、この間、1分間に4回の割合で篩を水平に置き、90°回転させて、篩枠を1~2回強くたたいた。篩網の裏面に微粉が付着している場合には、適当なブラシで静かにふるいの裏面から除去し、その微粉は篩下とした。
これらの操作を繰返し、篩を通過させ、篩を通過した試料を合わせて混合し、熔融水砕物を作製した。なお、篩分は公定法に準じて手篩いし、2回目の篩目(目開き)は150μmであった。
【0061】
〔比較例6〕
篩目を変更して粒径を0.106mm以下とした以外は実施例5と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0062】
〔比較例7〕
篩目を変更して粒径を0.600mm~3.35mmとした以外は実施例4と同様にして、熔融水砕物を作製した。
【0063】
〔溶出率の測定〕
実施例5~8及び比較例5~7の熔融水砕物について、実施例1と同様にして溶出率を求めた。結果を下記表2に示す。
【0064】
【表2】
[図:0001416512000002.jpg]
【0065】
表1、表2より、すべての実施例において溶出率が高く良好な結果であった。なお、蛇紋岩を使用した熔融水砕物と同程度の良好な溶出率であるが、本実施例では蛇紋岩の代わりにフェロニッケルスラグ、ケイカルを使用しているため、蛇紋岩を使用した場合と同等以下なコストであり、かつ、安全性を確保できる。
本発明によれば、蛇紋岩を使用せず、かつコスト削減が可能で肥料として有効な熔融水砕物を提供することができる。また、アルミナ成分を多く含有しても、SiO2の溶出が良好な熔融水砕物を提供することができる。」
第3 異議申立ての概要及び証拠方法
1 異議申立ての概要
(1)申立理由1(新規性欠如)
本件発明2~7は、本件特許に係る出願(以下「本件出願」ともいう。)の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明2~7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1は、本件出願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲1に記載された発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明は、下記ア、イの理由から、当業者が本件発明1~7について、実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないため、本件特許の請求項1~7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
ア 発明の詳細な説明には、アルミナ成分の含有量を、本件発明の所定の範囲とするために、どの原料をどの量で用いたかについての具体的内容は記載されておらず、その内容は周知のものでもない。
イ 発明の詳細な説明には、非晶質組成物の粒径の具体的な内容(数値)が記載されておらず、その内容は周知のものでもない。
(4)申立理由4(サポート要件違反)
本件発明1~7には、非晶質組成物のアルミナ成分の含有量に関し、本件発明の課題を解決できない態様が含まれるから、本件発明1~7についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 証拠方法の一覧
申立人は、次の甲第1号証及び甲第2号証を提出した。甲第1号証及び甲第2号証を、以下「甲1」及び「甲2」ともいう。
甲第1号証:特開2000-34185号公報
甲第2号証:室蘭工業大学 学術資源アーカイブ(公開日:2014年6月20日)
第4 甲号証等の記載
1 甲1の記載
甲1には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】主成分がMgO、SiO2、CaO、P2O5からなり、MgOを1~20重量%、SiO2を30~50重量%含有し、しかも非晶質であることを特徴とする無機組成物。
・・・
【請求項3】モル換算したときの(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)の比が、1.2~2.5であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の無機組成物。
・・・
【請求項7】請求項1、請求項2、請求項3、請求項4又は請求項5記載の無機組成物を含有することを特徴とする肥料。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、稲等の土壌中からのケイ酸分を必要とする作物に有用な土づくり資材並びに肥料として用いることのできる無機組成物、およびその製造方法に関する。」
「【0019】また、本発明の無機組成物について、モル換算した(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)比が1.2~2.5であることが好ましい。前記比が1.2より小さくなるとケイ酸溶出量が減少する一方、2.5を超えるとSiO2含有量の低下や融点の上昇とケイ酸溶出性の低下が起こることがある。1.3~2.0が好ましい範囲である。
【0020】本発明の無機組成物において、主成分を構成する前記の成分の他に、微量成分として有効な硼素やマンガンを含有させることもできる。硼素やマンガンの存在は、後述する製造方法において溶融温度の低下や溶融物の流動性の増加の効果があるし、得られる無機組成物の非晶質化を促し、ケイ酸の溶出性を助長する効果もある。また、不可避的に混入する鉄酸化物やアルミニウムの酸化物などが含まれてもよい。しかし、アルミニウムについては、肥料効果が無く、有効成分の含有量を低下させ、また、量が多くなるとケイ酸分の溶出性に悪影響を及ぼすので、Al3O3の量は2重量%以下に抑制することが好ましい。」
(当審注:上記「Al3O3」は、「Al2O3」の誤記と当審は判断した。)
「【0023】本発明における可溶性ケイ酸の評価方法は、4重量%クエン酸緩衝液(pHの初期値が5.5)を用いることを特徴とし、次に例示するように行えば良い。即ち、多量の肥料或いは土壌改質剤の場合について、前記の肥料或いは土壌改質剤より約100gのサンプルを従来公知の方法で採取し、前記サンプルを振動ミルで粉砕し、目開き150ミクロンの篩下とし、可溶性ケイ酸の評価試料とする。前記評価試料を1gはかりとり、クエン酸水溶液に2N水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを5.5に調整した4重量%クエン酸ソーダ緩衝液150mlを加え、30℃水浴中で1時間揺動する。前記溶液をろ紙でろ過して得られるろ液を純水で希釈した後、ろ液中に含まれるSiO2量をICP(誘導結合プラズマ発光分光法)で測定する。
【0024】また、NMR-29Siの測定は、無機組成物を振動ミルで粉砕して、目開き150ミクロンの篩下とし、例えば、日本電子製GX270を用いて、マジックアングルスピニング下にハイパワーデカップリングを組み合わせたモードで10秒間隔に約8000回の積算を行い、ケミカルシフトの調整としてポリジメチルシランを-33.8ppmとして、測定すればよい。尚、アダマンタンを用いて13Cの高磁場側共鳴ピークの半値幅が0.147~0.072ppmとなる様に調整し、この条件下で調整したときに、単結晶シリコンの半値幅は0.7ppmであった。本発明の無機組成物は、前記条件で測定したときに、得られるNMR-29Siが-80ppm以上-72ppm以下にケミカルシフト値を示し、その半値幅が13~23ppmの間で様々な値を示す。」
「【0029】本発明の無機組成物を得る方法に関しては、原料として、燐鉱石、蛇紋岩、ケイ石、石灰石、フェロニッケル鉱滓、フェロマンガン鉱滓、各種高炉滓、各種製鋼滓、製リンスラグ、フライアッシュ等のP2O5、CaO、MgO、或いはSiO2を含有する通常の原料類を利用することができる。上記原料の中にはアルミナ分(Al2O3)を含むものもあるが、Al2O3の存在はケイ酸溶出率を悪化させ、またAl2O3含有量が増加すると他の成分の含有量が実質的に減るので、Al2O3含有量の増大は好ましくない。Al2O3が含まれていない原料を使用するか、またはAl2O3が含まれている原料は少量に限定して使用し、得られる無機組成物中にするAl2O3量が2重量%以下とすることが好ましい。
【0030】前記原料を、揮発分の量等を考慮し、生成物が所望組成となるように、即ち、MgOを1~20重量%、SiO2を30~50重量%含有するように、好ましくはP2O5が1~12重量%であるように、更に好ましくは、モル比(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)が1.2~2.5となるように、配合し、高温で溶融する。
【0031】前記溶融に用いる炉(溶融炉)は、外熱式電気炉、アーク炉、高周波加熱炉等の電気炉、或いは平炉を初めとするいろいろな燃焼ガス炉等が使用できる。溶融温度は、組成にもよるが1350℃以上が望ましい。目標とする組成を有する原料が完全に溶融する温度より、およそ150℃以上高い温度で溶融すると、溶融温度から結晶化の進まない温度までの間で十分な冷却速度がとれるので好ましい。前記溶融炉のうち、後述するとおりに、溶融液を急冷することができ、非晶質化した無機組成物を容易に得ることができることから電気炉、並びに平炉が選択される。
【0032】溶融液の急冷は、得られる無機組成物の非晶質化を達成し、ケイ酸の溶出性を高めるために必須である。急冷は、一般には、炉から抜き出した溶融液に溶融液の20~40倍の重量の水を吹き付ける方法や、多量の水中に浸漬する方法等を適用することによって行われる。本発明の無機組成物を得る際の冷却方法としては、溶融温度から100℃までの所要時間は20秒以下好ましくは10秒以下とすることがよく、特に、原料が完全に溶融する温度の上下200℃の間を5秒以内とする事が望ましいので、このため、ジェット水流を当てて冷却する方法が好ましい。更に、ジェット水流を用いる冷却方法は、溶融液より砂状物を直接に得られ、後工程としての粉砕を省略することもできるという効果も得られる。」
「【0034】
【実施例】以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。
・・・
【0038】〔実施例2〕りん鉱石、蛇紋岩、フェロニッケル鉱滓、ケイ石、石灰石を、それぞれ25.0kg、31.9kg、3.4kg、21.5kg、39.3kg混合し、100kVAの直流アーク式電気炉に投入し通電して加熱溶融した。電気炉のタップ口から流れ出た溶融物に水流を吹き付け、急冷・水砕した。
【0039】この水砕物は、P2O5、SiO2、MgO、CaOをそれぞれ7.7重量%、38.7重量%、14.3重量%、34.9重量%含んでいた。従って、モル比(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)は1.40である。
【0040】この組成物を粉砕・分級して150ミクロン下の粉を評価に用いた。4%クエン酸ソーダ緩衝液(pHの初期値が5.5)へのC-SiO2量は35.9%、ク溶率は93%だった。NMR-Siの測定を行ったところ、ピーク位置は-76.5ppm、半値幅は18.6ppmだった。」
2 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。
「
[図:0001416512000003.jpg]
・・・
[図:0001416512000004.jpg]
」(第254頁)
第5 申立理由1、2(新規性欠如、進歩性欠如)についての当審の判断
1 甲1に記載された発明
甲1の実施例2には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「りん鉱石、蛇紋岩、フェロニッケル鉱滓、ケイ石、石灰石を、それぞれ25.0kg、31.9kg、3.4kg、21.5kg、39.3kg混合し、100kVAの直流アーク式電気炉に投入し通電して加熱溶融し、電気炉のタップ口から流れ出た溶融物に水流を吹き付け、急冷・水砕して得られた、P2O5、SiO2、MgO、CaOをそれぞれ7.7重量%、38.7重量%、14.3重量%、34.9重量%含み、モル比(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)は1.40であり、粉砕・分級により150ミクロン下の粉とされた組成物。」
2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 対比
甲1発明と本件発明1とを対比すると、甲1発明の「P2O5、SiO2、MgO、CaOをそれぞれ7.7重量%、38.7重量%、14.3重量%、34.9重量%含み」は、本件発明1の「化学成分として、MgOとSiO2とCaOとP2O5とを含み」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「化学成分として、MgOとSiO2とCaOとP2O5とを含む組成物。」
<相違点1>
組成物におけるアルミナ成分の含有量について、本件発明1は、1.2質量%以上5.0質量%以下含有するのに対して、甲1発明は、そのような特定がない点。
<相違点2>
組成物に含まれるMgO、SiO2、CaO、P2O5のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]について、本件発明1は、1.20~1.35であるのに対して、甲1発明は、1.40である点。
<相違点3>
組成物の粒径の範囲について、本件発明1は、0.212mm~0.300mmであるのに対して、甲1発明は、粉砕・分級により150ミクロン下の粒径の範囲である点。
<相違点4>
本件発明1は、組成物が「肥料用の非晶質組成物」であることが特定されているのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点の検討
はじめに、相違点4について検討する。
甲1の段落【0031】の「原料が完全に溶融する温度より、およそ150℃以上高い温度で溶融すると、溶融温度から結晶化の進まない温度までの間で十分な冷却速度がとれるので好ましい。・・・溶融液を急冷することができ、非晶質化した無機組成物を容易に得ることができることから、電気炉、並びに平炉が選択される。」との記載から、電気炉から流れ出た溶融物を急冷・水砕して得られた甲1発明の組成物は、「非晶質」であると認められる。
さらに、甲1の段落【0001】には、「本発明は、稲等の土壌中からのケイ酸分を必要とする作物に有用な土づくり資材並びに肥料として用いることのできる無機組成物・・・に関する。」と記載されていることから、当該「本発明」を詳細に説明したものである実施例2から認定した甲1発明の組成物を肥料用と特定することは、当業者が容易に想到し得るものである。
次に、相違点1について検討する。
アルミナ成分の含有量に関して、甲1の段落【0020】には、無機組成物には、不可避的に混入する鉄酸化物やアルミニウムの酸化物などが含まれてもよいが、アルミニウムについては、肥料効果が無く、有効成分の含有量を低下させ、また、量が多くなるとケイ酸分の溶出性に悪影響を及ぼすので、Al2O3の量は2重量%以下に抑制することが好ましい旨記載されている。
しかしながら、当該記載は、無機組成物のAl2O3の含有量を2重量%以下に抑制することが好ましいことを示しているに過ぎず、無機組成物が1.2~2重量%の範囲のAl2O3を含有していることを示すものではない。
さらに、甲1には、実施例の無機組成物にどの程度のAl2O3が含まれるかという点について何ら具体的に記載されていない。
また、甲1発明は、りん鉱石、蛇紋岩、フェロニッケル鉱滓、ケイ石、石灰石を、それぞれ25.0kg、31.9kg、3.4kg、21.5kg、39.3kg混合したものを溶融・急冷して得られたものであるところ、甲2(上記第4の摘記2を参照)には、北海道空知群山部村野沢鉱業所より提供された蛇紋石の化学組成が、SiO2:38.08%、Al2O3:1.26%、Fe2O3:8.27%、CaO:1.53%、MgO:39.88%、NiO:0.37%、灼熱減量:13.45%であることが記載されている。
そして、上記甲2の記載により、蛇紋石が約26質量%(≒31.9/(25.0+31.9+3.4+21.5+39.3)×100(質量%))の割合で含まれる混合物から得られた甲1発明の組成物がAl2O3を含むことは理解できる。
しかしながら、蛇紋石に含まれるAl2O3の含有量は1.26質量%であり、他の原料に含まれるAl2O3の含有量は甲2に記載されておらず、前記他の原料がAl2O3を一定以上の割合で含むことが本願出願時の技術常識から明らかとはいえないことから、甲1発明のAl2O3の含有量が、1.2質量%以上5.0質量%以下であるとは認められない。
そして、甲1の段落【0020】の記載によると、Al2O3は不可避的に混入するものであって、積極的に添加するものではなく、また、Al2O3を含むことにより、ケイ酸分の溶出性に悪影響を及ぼすものであると理解され、同段落【0029】には、無機組成物の原料は、Al2O3が含まれていないものを使用するか、またはAl2O3が含まれている原料は少量に限定して使用することが好ましい旨記載されていることから、これらの甲1の記載に接した当業者が、Al2O3を1.2質量%以上5.0質量%以下含まれるように調整することを動機付けられたとはいえない。
してみれば、甲1発明において、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、相違点1の構成を導くことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。
さらに、相違点3について検討する。
甲1の段落【0023】、【0024】には、物性評価において、非晶質組成物の粒径の範囲を、目開き150ミクロンの篩下のものとすることについては記載されているものの、それ以外の粒径の範囲とすることについては記載も示唆もされておらず、甲1の記載に接した当業者が、甲1発明において、無機組成物の粒径の範囲を0.212mm~0.300mmとすることを動機付けられたとはいえない。
してみれば、甲1発明において、甲1に記載された事項に基づいて、相違点3の構成を導くことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。
(イ)発明の効果の検討
本件発明1の効果について検討すると、本件明細書には実施例3(表1)として、無機組成物の粒径の範囲を0.212mm~0.300mmとしたものについて、モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.23、Al2O3の含有量が2.0質量%のものは、97%のケイ酸の溶出率が得られることが具体的に示されており、本件発明1の効果が、本件発明1の構成から当業者が予測できた範囲のものであったということはできない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲1に記載された発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(2)本件発明2
ア 対比
甲1発明と本件発明2とを対比すると、甲1発明の「P2O5、SiO2、MgO、CaOをそれぞれ7.7重量%、38.7重量%、14.3重量%、34.9重量%含み」は、本件発明2の「化学成分として、MgOとSiO2とCaOとP2O5とを含み」に相当する。
また、甲1発明の「モル比(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)は1.40であり」は、本件発明2の「モル換算したときの、前記SiO2及びP2O5の合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.35~1.45であり」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「化学成分として、MgOとSiO2とCaOとP2O5とを含み、モル換算したときの、前記SiO2及びP2O5の合計に対する前記CaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.35~1.45である組成物。」
<相違点5>
組成物におけるアルミナ成分の含有量について、本件発明2は、1.2質量%以上4.0質量%以下含有するのに対して、甲1発明は、そのような特定がない点。
<相違点6>
組成物の粒径の範囲について、本件発明2は、0.15mm~0.5mmであるのに対して、甲1発明は、粉砕・分級により150ミクロン下の粒径の範囲である点。
<相違点7>
本件発明2は、組成物が「肥料用の非晶質組成物」であることが特定されているのに対して、甲1発明ではそのような特定がなされていない点。
イ 判断
(ア)相違点の検討
相違点7は相違点4と実質的に同じであり、前記(1)イ(ア)で検討した理由から、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
相違点5と相違点1は、本件発明におけるアルミナ成分の含有量の上限値が異なるものではあるが、前記(1)イ(ア)で検討した理由と同様の理由から、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当該構成を導くことは、当業者といえども容易に想到し得たことではない。
さらに、相違点6について検討すると、甲1発明の非晶質組成物の粒径の範囲は、粉砕・分級により150ミクロン下の粒径の範囲であるところ、これは粒子の集団として、粒径が0.15mm以下のもののみであること、すなわち、0.15mmよりも上の粒径のものを含まないことを意味すると認められる。一方、本件発明2は、粒径が0.15mm~0.5mmであるところ、本件明細書の段落【0037】に記載されているように、篩い分けにより、粒径が0.15mm~0.5mmとなるように分級したものであり、粒子の集団として、0.15mmよりも上の粒径のものを主として含むものと認められる。
そうすると、両者は、粒子の集団として異なるものといえるから、相違点6は、実質的な相違点である。
また、甲1の段落【0023】、【0024】には、物性評価において、非晶質組成物の粒径の範囲を、目開き150ミクロンの篩下のものとすることについては記載されているものの、それ以外の粒径の範囲とすることについては記載も示唆もされておらず、甲1の記載に接した当業者が甲1発明の非晶質組成物の粒径を0.15mm~0.5mmの範囲内に設定することを動機付けられたとはいえない。
してみれば、甲1発明において、甲1に記載された事項に基づいて、相違点5の構成を導くことは当業者といえども容易に想到し得たことではない。
(イ)発明の効果の検討
本件発明2の効果について検討すると、本件明細書には実施例3(表1)として、無機組成物の粒径の範囲を0.15mm~0.5mmとしたものについて、当該モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.37~1.44、Al2O3の含有量が1.8~2.8質量%のものは、82%~97%のケイ酸の溶出率が得られることが具体的に示されており、本件発明2の効果が、本件発明2の構成から当業者が予測できた範囲のものであったということはできない。
(ウ)まとめ
したがって、本件発明2は、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
(3)本件発明3~7について
本件発明3~7は、本件発明1又は2を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、上記(1)~(2)で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
3 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第6~8頁において、以下を主張する。
(主張1)甲1発明における「Al3O3の量は2重量%以下に抑制することが好ましい。」(「Al3O3」は、「Al2O3」の誤記と認められる。)(段落〔0020〕)は、本件特許発明1における「アルミナ成分を1.2質量%以上5.0質量%以下含有する」に相当し、本件特許発明2における「アルミナ成分を1.2質量%以上4.0質量%以下含有する」に相当する(特に、アルミナ成分1.2質量%以上2.0質量%以下が重複する)。
(主張2)
非晶質組成物の粒径は、発明の効果とは関係ないものであるから、当該モル比や粒径を本件特許発明1又は2の範囲内とすることは設計的事項にすぎない。
以下、上記主張1~2について、検討する。
(1)主張1について
上記2(1)イ(ア)の相違点1、(2)イ(ア)の相違点5で検討したとおり、甲1におけるAl2O3の量は2重量%以下に抑制することが好ましい旨の記載や、甲2における蛇紋石のAl2O3の含有量の記載を参酌しても、甲1発明の組成物が、Al2O3を1.2質量%~2.0質量%含んでいるとは推認できないから、上記申立人の主張は採用できない。
(2)主張2について
上記2(1)イ(ア)の相違点3、並びに、2(2)イ(ア)の相違点6で検討したとおり、本件明細書の表1~2の実施例には、本件発明1又は2の範囲内の非晶質組成物が、良好なケイ酸の溶出率が得られることが具体的に示されており、申立人からは、本件発明1又は2の範囲内のものが、ケイ酸の溶出性についての所望の効果が得られないことについての具体的な証拠も提出されていないことを考慮すれば、粒径の範囲を本件発明1又は2の範囲とすることには技術的意義はないとして、その範囲を本件発明1又は2の所定の範囲とすることは設計的事項にすぎないということはできない。
よって、上記申立人の主張は採用できない。
4 小括
以上のとおり、本件発明1~7は、甲1に記載された発明でなく、また、甲1に記載された発明、並びに、甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとすることはできないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、同法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。
第6 申立理由3(実施可能要件違反)についての当審の判断
1 実施可能要件違反について
本件発明1~7は、上記第2の1に記載のとおりの「非晶質組成物」、それを含む「熔融水砕物」、「熔融水砕物含有組成物」、「肥料」(以下、「非晶質組成物等」という。)に係る発明であるから、本件発明1~7は物の発明であり、本件発明1~7が実施可能であるというためには、本件明細書の記載及び本件出願当時の技術常識に基づき、当業者が、本件発明1~7に係る「非晶質組成物等」を作ることができ、かつ、当該「非晶質組成物等」を使用できる必要があるとともに、それで足りるというべきである。
2 「非晶質組成物等」を作ることができるかについて
本件明細書の段落【0049】~【0065】、【表1】、【表2】には、実施例3、6~8として、本件発明の発明特定事項を充足する非晶質組成物の具体例が記載されており、非晶質組成物の原料やその製造方法が具体的に記載されている。
そして、本件明細書には、各原料をどのような重量比で混合したかについては記載されていないが、当業者であれば、各原料に含まれる化学成分の含有量を把握して、各原料の混合比を調整して、目的とする化学成分の組成の非晶質組成物を得ることは、容易に実施できることと認められる。
また、非晶質組成物の粒径の範囲をどのように調整するかについては、例えば、本件明細書の段落【0022】に、「第1の非晶質組成物及び第2の非晶質組成物における粒径は、例えば、粒径未調整の熔融水砕物前駆体を粉砕機で粉砕し、その粉砕物を各種ふるいで篩い分けすることによって、所望の範囲に調整することができる。」と記載されているように、当業者であれば、各種の目開きの篩いを使用して、非晶質組成物の粒径を本件所定の範囲に調整することは、容易に実施できるといえる。
そうすると、当業者であれば、実施例の記載や上記本件明細書の記載を参考に、本件発明1~7の「モル比」や「粒径」をはじめ、本件発明1~7の発明特定事項を充足する非晶質組成物等を実際に作ることができるというべきである。
3 「非晶質組成物等」を使用できるかについて
本件明細書の段落【0010】~【0012】の記載を参酌すると、本件発明1~7の非晶質組成物等は、従来使用されてきた肥料を改良する目的で肥料に使用されるものであり、同実施例の記載等を参酌すれば、本件発明1~7の非晶質組成物は、ケイ酸の溶出性についての所望の効果が得られることが読み取れるから、本件発明1~7は、技術上の意義のある態様で使用することができることについても読み取れる。
そうすると、本件発明1~7の非晶質組成物等を使用できるといえる。
4 小括
以上で検討したとおり、本件明細書の記載は、当業者が本件発明1~7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
第7 申立理由4(サポート要件違反)についての当審の判断
1 判断手法について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
2 発明の課題
本件発明1及び2の解決しようとする課題は、本件明細書の段落【0012】、【0020】~【0022】の記載を参酌すると「アルミナ成分量が高い場合であっても、ケイ酸溶出率が低下しない非晶質組成物を提供すること」であると認められる。
3 判断
以下、下線は合議体による。
本件明細書の段落【0020】には、第1の非晶質組成物及び第2の非晶質組成物は共に、アルミナ成分(Al2O3)を1.2質量%以上含有する。アルミナ成分は使用する原料に起因するもので、1.2質量%以上含有するとSiO2等の有効成分の溶出が阻害されるが、原料種の選択の幅が広がりコストの低減が可能となる・・・ここで、アルミナ成分を1.2質量%以上含有することの課題、すなわち、SiO2の供給を阻害する課題は、モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]の範囲を2つの場合に分けて、それぞれについて特定の粒径範囲とすることで解決される。」と記載されている。
また、本件明細書の段落【0021】には、「第1の非晶質組成物においては、モル換算したときの、SiO2及びP2O5の合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.20~1.35であり、粒径が0.5mm以下であることで、アルミナ成分を1.2質量%以上含有することの課題をなくしている。粒径が0.5mm以下である場合は、モル比が1.20~1.35であることで、Caイオン、Mgイオンの存在量が減少、資材粒子表面付近の微細な環境でのpH上昇が抑制され、Al化合物による溶出への抑制作用を低下させると推定され、結果として上記課題が除去されると考えられる。」との記載があり、同段落【0022】には、「第2の非晶質組成物においては、モル換算したときの、SiO2及びP2O5の合計に対するCaO及びMgOとの合計のモル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が1.35~1.45であり、粒径が0.15mm~0.5mmであることで、粒径が0.15mm以下であるときよりも資材粒子表面付近の微細な環境でのpH上昇が抑制され、Al化合物による溶出への抑制作用を低下させると推定され、結果として上記課題が除去されると考えられる。」との記載がある。
そして、非晶質組成物の溶出のしやすさは粒径に依存するという技術常識や、(CaO+MgO)は、アルカリ成分であり、モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]は、アルカリ成分の含有量の程度を反映したパラメータであることを考慮すると、非晶質組成物の粒径と、モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]を調整することで、非晶質組成物の粒子の周囲のpHが適当な範囲となり、所望の効果が得られるものと理解できるところ、本件発明1及び2はそれぞれ、上記本件明細書の段落【0020】~【0022】に記載された特定のモル比及び粒径の範囲を満たすものである。
さらに、本件明細書の【表1】の実施例3、【表2】の実施例6~8には、本件発明1又は2の発明特定事項を満たす非晶質組成物について、良好なケイ酸の溶出率が得られることが具体的に示されている。
加えて、実施例3、実施例6~8以外の組成のものが、良好なケイ酸の溶出率が得られないという事実は特段見当たらず、実施例3、実施例6~8以外の組成のものがケイ酸の溶出率が低いことが本願出願時の技術常識であるともいえない。
そうすると、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
本件発明1又は2を引用し、さらに、MgOとSiO2源等を特定する本件発明3~7についても同様の理由から、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
よって、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものとはいえない。
4 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の第11頁において、以下のとおり主張する。
本件明細書には、「本発明者らはあえてアルミナ成分量の高いものを使用し、材料中の組成と粒径を制御した本発明により、蛇紋岩を使用した場合と同様の有効性を発揮できることを見出した。」(段落【0012】)と記載されている。
しかしながら、本件特許発明1の実施例として、アルミナ成分を2.0質量%含むものしか記載されておらず、しかも、表1には、本件特許発明1で「粒径が0.212mm~0.300mm」である場合に、蛇紋岩を使用した例が記載されていない。
また、本件特許発明2の実施例として、アルミナ成分を1.8~2.8質量%含むものしか記載されておらず、しかも、表2には、本件特許発明2(粒径が0.15mm~0.5mm)である場合に、蛇紋岩を使用した例が記載されていない。
さらに、アルミナ成分が1.2質量%付近や、2.8質量%を超えた、例えば、3.0質量%以上4.0質量%以下の効果について一切記載されていない。
加えて、本件特許発明1と本件特許発明2とでは、モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]が異なる特定の粒径範囲としているにもかかわらず、アルミナは本件特許発明1、本件特許発明2とも2.0質量%と同じであるため、本件特許発明に記載されている「アルミナ成分を1.2質量%以上含有することの課題」の解決は、発明の詳細な説明において立証されておらず、また、技術常識であるともいえないから、発明の詳細な説明の開示を、本件特許発明1のように、「アルミナ成分を1.2質量%以上5.0質量%以下含有する」ことまで拡張することはできず、さらに、本件特許発明2のように、「アルミナ成分を1.2質量%以上4.0質量%以下含有する」ことまで拡張することはできない。
以下、上記主張について検討する。
確かに、本件明細書の段落【0012】には、「本発明者らはあえてアルミナ成分量の高いものを使用し、材料中の組成と粒径を制御した本発明により、蛇紋岩を使用した場合と同様の有効性を発揮できることを見出した。」との記載はあるものの、本件明細書の記載を総合考慮すると、本件発明1~7の解決しようとする課題は、上記2で記載したとおり、「アルミナ成分量が高い場合であっても、ケイ酸溶出率が低下しない非晶質組成物を提供すること」と認められる。
そして、上記3で検討したとおり、本件明細書の段落【0020】~【0022】の一般的な記載から、非晶質組成物の粒径と、モル比[(CaO+MgO)/(SiO2+P2O5)]を本件発明1及び2の範囲に調整することで、非晶質組成物の粒子の周囲のpHが適当な範囲となり、所望の効果が得られるものと理解でき、表1~2に記載された実施例において、本件発明1又は2の発明特定事項を満たす非晶質組成物について、良好なケイ酸の溶出率が得られることが具体的に示されている。
加えて、実施例において示された組成以外のものが、良好なケイ酸の溶出率が得られないという事実は特段見当たらず、申立人からも、本件発明1又は2の範囲内のものが、ケイ酸の溶出率が極めて低いなどの課題を解決できないことを示す証拠等も提出されていない。
そうすると、本件発明1及び2が、発明の課題を解決できないものとはいえないから、上記申立人の主張は採用できない。
5 小括
以上で検討したとおり、本件発明1~7は、発明の詳細な説明及び技術常識に基づいて、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
第8 むすび
以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700620