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特許異議申立

2023-700466

成形性が向上したアルミニウムシート及び該アルミニウムシートから製造されたアルミニウム容器

審判番号
2023-700466
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-511441
登録番号
7168555
請求日
2023年05月02日
審決日
2024年12月26日
公報発行日
2025年05月30日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】カイザー アルミニウム ウォリック,エルエルシー
  • 【権利者代理人】弁理士法人 丸山国際特許事務所
  • 【異議申立人】黒野 美穂
審判長/審判官
  • 審判長 井上 猛
  • 審判官 相澤 啓祐
  • 審判官 佐藤 陽一
分類
P1651.113-YAA(C22F) / P1651.121-YAA(C22F) / P1651.536-YAA(C22F) / P1651.537-YAA(C22F)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項
データ出所
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特許第7168555号発明「成形性が向上したアルミニウムシート及び該アルミニウムシートから製造されたアルミニウム容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7168555号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~14〕、〔15、16〕、〔17、18〕について訂正することを認める。 特許第7168555号の請求項1~18に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7168555号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願は、2017年(平成29年) 9月 1日を国際出願日とする出願(特願2019-511441号。以下「本願」という。)であって、令和 4年10月31日にその特許権の設定登録がされ、同年11月 9日にその特許掲載公報が発行されたものである。 本件は、その後、令和 5年 5月 2日に特許異議申立人 黒野 美穂(以下、「申立人」という。)により請求項1~18(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件である。 本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、以下のとおりである。 令和 5年 5月 2日提出 特許異議申立書(申立人) 同年 9月11日付け 取消理由通知書 同年12月14日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者) 令和 6年 3月22日付け 訂正拒絶理由通知書 同年 5月15日提出 手続補正書及び意見書(特許権者) 同年 8月 9日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年11月12日提出 訂正請求書及び意見書(特許権者) 同年11月22日付け 手続補正指令書(方式) 同年12月 3日提出 手続補正書(特許権者) なお、下記第2の2のとおり、令和 6年11月12日に提出され、同年12月3日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は軽微なものであることを考慮すると、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情があるとき」に該当するといえるから、申立人に対して意見書を提出する機会を与えないこととした。 第2 本件訂正請求について 1 請求の趣旨及び訂正の内容 本件訂正請求の請求の趣旨は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~18について訂正することを求めるものであり、本件訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所には下線を付した。)。 なお、令和 5年12月14日提出の訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなされる。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1について、 本件訂正前の 「前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、」を 「前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、前記第1インゴット及び前記第2インゴットに対して、」と訂正し(以下、「訂正事項1-1」という。)、 本件訂正前の 「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、」を 「SEM画像によって測定された総面積で割算し、」と訂正する(以下、「訂正事項1-2」という。)。 請求項1を引用する請求項2~6も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7について、 本件訂正前の 「前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、」を 「前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、前記第1インゴット及び前記第2インゴットに対して、」と訂正し(以下、「訂正事項2-1」という。)、 本件訂正前の 「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、」を 「SEM画像によって測定された総面積で割算し、」と訂正する(以下、「訂正事項2-2」という。)。 請求項7を引用する請求項8~14も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項15について、 本件訂正前の 「前記第1分散質のf/r値は、」を 「前記第1分散質のf/r値は、前記第1インゴットに対して、」と訂正し(以下、「訂正事項3-1」という。)、 本件訂正前の 「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、」を 「SEM画像によって測定された総面積で割算し、」と訂正する(以下、「訂正事項3-2」という。)。 請求項15を引用する請求項16も同様に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項17について、 本件訂正前の 「前記第1分散質のf/r値は、」を 「前記第1分散質のf/r値は、前記第1インゴットに対して、」と訂正し(以下、「訂正事項4-1」という。)、 本件訂正前の 「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、」を 「SEM画像によって測定された総面積で割算し、」と訂正する(以下、「訂正事項4-2」という。)。 請求項17を引用する請求項18も同様に訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の段落【0071】について、 「f/r値が7.65以上の分散質を有するシート」を 「f/r値が7.65以上の分散質を有するインゴットから圧延されたシート」と訂正し(以下、「訂正事項5-1」という。)、 「f/r値が7.65未満の分散質を有するシート」を 「f/r値が7.65未満の分散質を有するインゴットから圧延されたシート」と訂正し(以下、「訂正事項5-2」という。)、 明細書の段落【0082】について、 「f/r値が7.65未満の分散質を有するシート」を 「f/r値が7.65未満の分散質を有するインゴットから圧延されたシート」と訂正する(以下、「訂正事項5-3」という。)。 2 訂正の適否についての当審の判断 2-1 訂正の目的及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否について (1)訂正事項1について ア 訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値」について、令和 6年 8月 9日付け取消理由通知書(決定の予告)において、当審が取消理由1(2)として「「f/r値」とは、「インゴット」に対する値であるのか、「アルミニウム合金シート」に対する値であるのかが不明である。」と指摘したことを受け、「前記第1インゴット及び前記第2インゴットに対して」のものであることを特定したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 イ 訂正事項1-2は、上記訂正事項1-1により、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「f/r値」が「インゴットに対して」のものであることが特定されたことに伴い、f/r値を得るために「fの値」を求める過程で、「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積」を用いるという不合理が生じることを解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2-1は、本件訂正前の請求項7の発明特定事項である「前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値」について、令和 6年 8月 9日付け取消理由通知書(決定の予告)において、当審が取消理由1(2)として「「f/r値」とは、「インゴット」に対する値であるのか、「アルミニウム合金シート」に対する値であるのかが不明である。」と指摘したことを受け、「前記第1インゴット及び前記第2インゴットに対して」のものであることを特定したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 イ 訂正事項2-2は、上記訂正事項2-1により、本件訂正前の請求項7の発明特定事項である「f/r値」が「インゴットに対して」のものであることが特定されたことに伴い、f/r値を得るために「fの値」を求める過程で、「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積」を用いるという不合理が生じることを解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項2は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (3)訂正事項3について ア 訂正事項3-1は、本件訂正前の請求項15の発明特定事項である「前記第1分散質のf/r値」について、令和 5年 9月11日付け取消理由通知書において、当審が取消理由1(2)として「「f/r値」とは、「インゴット」に対する値であるのか、「アルミニウム合金シート」に対する値であるのかが不明である。」と指摘したことを受け、「前記第1インゴットに対して」のものであることを特定したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 イ 訂正事項3-2は、上記訂正事項3-1により、本件訂正前の請求項15の発明特定事項である「f/r値」が「インゴットに対して」のものであることが特定されたことに伴い、f/r値を得るために「fの値」を求める過程で、「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積」を用いるという不合理が生じることを解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項3は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (4)訂正事項4について ア 訂正事項4-1は、本件訂正前の請求項17の発明特定事項である「前記第1分散質のf/r値」について、令和 5年 9月11日付け取消理由通知書において、当審が取消理由1(2)として「「f/r値」とは、「インゴット」に対する値であるのか、「アルミニウム合金シート」に対する値であるのかが不明である。」と指摘したことを受け、「前記第1インゴットに対して」のものであることを特定したものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 イ 訂正事項4-2は、上記訂正事項4-1により、本件訂正前の請求項17の発明特定事項である「f/r値」が「インゴットに対して」のものであることが特定されたことに伴い、f/r値を得るために「fの値」を求める過程で、「SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積」を用いるという不合理が生じることを解消するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項4は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5-1~5-3は、上記訂正事項1-1、2-1、3-1、4-1により、本件訂正前の請求項1、7、15、17の発明特定事項である「f/r値」が「インゴットに対して」のものであることが特定されたことに伴い、本件訂正前の【0071】及び【0082】に記載されていた「f/r値が7.65以上の分散質を有するシート」又は「f/r値が7.65未満の分散質を有するシート」を、「f/r値が7.65以上の分散質を有するインゴットから圧延されたシート」又は「f/r値が7.65未満の分散質を有するインゴットから圧延されたシート」と変更するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (6)小括 訂正事項1~5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当しており、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 2-2 新規事項の追加の有無について (1)訂正事項1について ア 訂正事項1-1は、願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0052】に記載の「上記の分散質f/r値は、アルミニウムシートコイルとしてアルミニウム容器メーカー(例えば、アルミニウム缶及び/又はアルミニウムボトルのメーカー)に出荷されるアルミニウム合金シートを形成するために加工されるインゴットに対するものである。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 イ 訂正事項1-2は、本件明細書の【0074】に記載の「図5は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について17時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。図6は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について55時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。」及び同【0076】の「分散質を同定し、これを利用して、分散質のf/r値を定量化する。SEMにより、表面で15画像、t / 4(1/4平面(plane))で15画像、t / 2(1/2平面)で15画像のデジタル画像を収集した。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項1-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2-1は、本件明細書の【0052】に記載の「上記の分散質f/r値は、アルミニウムシートコイルとしてアルミニウム容器メーカー(例えば、アルミニウム缶及び/又はアルミニウムボトルのメーカー)に出荷されるアルミニウム合金シートを形成するために加工されるインゴットに対するものである。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項2-1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 イ 訂正事項2-2は、本件明細書の【0074】に記載の「図5は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について17時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。図6は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について55時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。」及び同【0076】の「分散質を同定し、これを利用して、分散質のf/r値を定量化する。SEMにより、表面で15画像、t / 4(1/4平面(plane))で15画像、t / 2(1/2平面)で15画像のデジタル画像を収集した。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項2-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 (3)訂正事項3について ア 訂正事項3-1は、本件明細書の【0052】に記載の「上記の分散質f/r値は、アルミニウムシートコイルとしてアルミニウム容器メーカー(例えば、アルミニウム缶及び/又はアルミニウムボトルのメーカー)に出荷されるアルミニウム合金シートを形成するために加工されるインゴットに対するものである。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項3-1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 イ 訂正事項3-2は、本件明細書の【0074】に記載の「図5は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について17時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。図6は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について55時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。」及び同【0076】の「分散質を同定し、これを利用して、分散質のf/r値を定量化する。SEMにより、表面で15画像、t / 4(1/4平面(plane))で15画像、t / 2(1/2平面)で15画像のデジタル画像を収集した。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項3-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 (4)訂正事項4について ア 訂正事項4-1は、本件明細書の【0052】に記載の「上記の分散質f/r値は、アルミニウムシートコイルとしてアルミニウム容器メーカー(例えば、アルミニウム缶及び/又はアルミニウムボトルのメーカー)に出荷されるアルミニウム合金シートを形成するために加工されるインゴットに対するものである。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項4-1は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 イ 訂正事項4-2は、本件明細書の【0074】に記載の「図5は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について17時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。図6は、本開示の幾つかの実施形態によるもので、合金1~3と比較用の対照合金について55時間の予熱後の後方散乱電子(BSE)顕微鏡写真の例を示す。」及び同【0076】の「分散質を同定し、これを利用して、分散質のf/r値を定量化する。SEMにより、表面で15画像、t / 4(1/4平面(plane))で15画像、t / 2(1/2平面)で15画像のデジタル画像を収集した。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項4-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 ウ 以上のとおりであるから、訂正事項4は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 (5)訂正事項5について 訂正事項5-1~5-3は、本件明細書の【0052】に記載の「上記の分散質f/r値は、アルミニウムシートコイルとしてアルミニウム容器メーカー(例えば、アルミニウム缶及び/又はアルミニウムボトルのメーカー)に出荷されるアルミニウム合金シートを形成するために加工されるインゴットに対するものである。」を根拠とするものである。 よって、訂正事項5-1~5-3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。 (6)小括 訂正事項1~5は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合している。 2-3 一群の請求項について (1)本件訂正前の請求項2~6は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1~6は一群の請求項である。 (2)本件訂正前の請求項8~14は、請求項7を引用するものであって、請求項7の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7~14は一群の請求項である。 (3)本件訂正前の請求項16は、請求項15を引用するものであって、請求項15の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項15、16は一群の請求項である。 (4)本件訂正前の請求項18は、請求項17を引用するものであって、請求項17の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項17、18は一群の請求項である。 (5)ここで、本件訂正請求は、上記(1)~(4)の各一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 (6)また、訂正事項5は、本件明細書の【0071】、【0082】について訂正するものであるところ、訂正事項1~4は、訂正事項5の訂正に係る請求項1、7、15、17を含む、上記(1)~(4)に記載した一群の請求項の全てについて訂正を行うものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。 2-4 独立特許要件について 本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 2-5 むすび 以上のとおり、訂正事項1~5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕、〔7~14〕、〔15、16〕、〔17、18〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2の2-5のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1~18に係る発明は、本件訂正請求によって訂正された特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。なお、以下において、本件訂正後の請求項1~18に係る発明を順に「本件発明1」~「本件発明18」という。 「【請求項1】 3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることであって、前記第1のアルミニウム合金シートのMn含有量が0.45~0.95重量%であり、前記圧延前に、前記第1インゴットは、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている、第1のアルミニウム合金シートを得ることと、 前記第1のアルミニウム合金シートから容器前駆体を形成することと、を含む方法であって、 前記第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少なく、 前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、前記第1インゴット及び前記第2インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ、 前記5xxx系アルミニウム合金は、AA5043及びAA5006からなる群から選択される、方法。 【請求項2】 前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項1の方法。 【請求項3】 前記3xxx系アルミニウム合金は、AA3x03、AA3x04及びAA3x05からなる群から選択される、請求項1の方法。 【請求項4】 前記3xxx系アルミニウム合金はAA3104である、請求項1の方法。 【請求項5】 前記第1分散質のf/r値は4.5以上、7.65未満である、請求項1の方法。 【請求項6】 前記第1のアルミニウム合金シート中のMgの量は0.5重量%~0.9重量%である、請求項1の方法。 【請求項7】 3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、 前記第1インゴットを第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含む方法であって、 前記第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少なく、 前記第1分散質のf/r値及び前記第2分散質のf/r値は、前記第1インゴット及び前記第2インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、 を実行することによって得られる、方法。 【請求項8】 前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項7の方法。 【請求項9】 前記3xxx系アルミニウム合金は、AA3x03、AA3x04及びAA3x05からなる群から選択される、請求項7の方法。 【請求項10】 前記3xxx系アルミニウム合金はAA3104である、請求項7の方法。 【請求項11】 前記5xxx系アルミニウム合金は、AA5043及びAA5006からなる群 から選択される、請求項7の方法。 【請求項12】 前記第1分散質のf/r値は4.5以上、7.65未満である、請求項7の方法。 【請求項13】 前記第1のアルミニウム合金シート中のMnの量は0.45重量%~0.95重量%である、請求項7の方法。 【請求項14】 前記第1のアルミニウム合金シート中のMgの量は0.5重量%~0.9重量%である、請求項7の方法。 【請求項15】 3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることであって、前記第1のアルミニウム合金シートのMn含有量が0.45~0.95重量%であり、前記第1インゴットが、圧延前に、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている、第1のアルミニウム合金シートを得ることと、 前記第1のアルミニウム合金シートから容器を成形することと、を含む方法であって、 前記第1インゴットは、前記第1分散質のf/r値が7.65未満であり、 前記第1分散質のf/r値は、前記第1インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、 を実行することによって得られる、方法。 【請求項16】 前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項15の方法。 【請求項17】 3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、 前記第1インゴットを、第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含む方法であって、 前記第1インゴットは、前記第1分散質のf/r値が7.65未満であり、 前記第1分散質のf/r値は、前記第1インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、 を実行することによって得られる、方法。 【請求項18】 前記第1のアルミニウム合金シートは、0.006インチ(0.152mm)以上、0.07インチ(1.778mm)以下の厚さを有する、請求項17の方法。」 第4 特許異議申立理由 申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、次の甲第1~3号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲3」という。)を提出し、以下の申立理由1~4により、本件訂正前の請求項1~18に係る本件特許は取り消されるべきものである旨主張している。 (証拠方法) 甲第1号証:国際公開第2015/168443号 甲第2号証:アルミニウムハンドブック(第7版)、2007年、日本アルミニウム協会発行、第256頁~第259頁 甲第3号証:特開2014-198879号公報 1 申立理由1(新規性、進歩性) 本件訂正前の請求項1~4、6~11、13~18に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項1~18に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 申立理由2(新規性、進歩性) 本件訂正前の請求項1~3、6~10、13~18に係る発明は、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、本件訂正前の請求項1~3、5~18に係る発明は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 申立理由3(実施可能要件) 本件明細書等の発明の詳細な説明には、第2インゴットについて第2分散質のf/r値が7.65以上という下限値が記載されるのみであるが、第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体の表面に観察されるストライエーション及びリッジは、第2インゴットの組成、第2分散質のf/r値及び第2インゴットの圧延条件等に応じて変化するため、本件訂正前の請求項1、7に記載の「第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少な」いとの事項を満たすというためには、膨大な容器前駆体を形成し、比較する必要があり、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤、複雑高度な実験を行う必要がある。 よって、本件明細書等の発明の詳細な説明の記載は、本件訂正前の請求項1~14に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113号第4号に該当し、取り消されるべきものである。 4 申立理由4(明確性要件) (1)本件訂正前の請求項1、7、15、17に記載の「1ディケイド」に関し、当業者といえどもその意味内容を理解することができないため、「1ディケイド」を用いて算出される「f/r値」を一義的に定めることができない。 よって、本件訂正前の請求項1、7、15、17及び同請求項を引用する本件訂正前の請求項2~6、8~14、16、18に係る発明は明確でなく、本件訂正前の請求項1~18の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。 (2)本件訂正前の請求項1、7に記載の「第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少な」いとの事項(以下、「表面要件」という。)について、「f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体」の「表面に観察されるストライエーション及びリッジ」は、第2インゴットの組成、第2分散質のf/r値及び第2インゴットの圧延条件等に応じて変化するところ、上記表面要件を満たすか否かは、基準として選択した容器前駆体に応じて変化し得るから、上記表面要件を具備するか否かを一義的に判断することができない。 よって、本件訂正前の請求項1、7及び同請求項を引用する本件訂正前の請求項2~6、8~14に係る発明は明確でなく、本件訂正前の請求項1~14の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4項に該当し、取り消されるべきものである。 第5 取消理由の概要 当審は、上記申立理由4(2)を採用した上で、職権による理由と併せて、令和 5年 9月11日付けで以下の取消理由1を通知した。 1 取消理由1(明確性要件) (1)「f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体」について(上記申立理由4(2)) 本件訂正前の請求項1、7には「第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少な」い(「表面要件」)という記載があるが、「f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体」について、第2分散質のf/r値が7.65以上であること以外の条件が不明であるから、「第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体」をいかなる他の「容器前駆体」と比較した場合に、上記表面要件を満たすといえるのかが不明である。 よって、本件特許の本件訂正前の請求項1、7及び同請求項を引用する本件訂正前の請求項2~6、8~14の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。 (2)「f/r値」について(職権で通知) 本件訂正前の請求項1には「圧延前に、前記第1インゴットは、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている」、本件訂正前の請求項7には「第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱する」、本件訂正前の請求項15には「第1インゴットが、圧延前に、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている」、本件訂正前の請求項17には「第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱する」という記載があるが、「f/r値」とは、「インゴット」に対する値であるのか、「アルミニウム合金シート」に対する値であるのかが不明であるから、本件特許の本件訂正前の請求項1、7、15、17及び同請求項を引用する本件訂正前の請求項2~6、8~14、16、18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。 第6 取消理由(決定の予告)の概要 令和 5年12月14日に提出され、令和 6年 5月15日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書によって特許権者が行った訂正請求に係る訂正のうち、請求項〔1~6〕、〔7~14〕についての訂正は認められなかったため、請求項1~14を対象として、上記第5の1の取消理由1のうち、(2)を以下の取消理由1’として改めて通知した。 なお、上記第5の1の取消理由1のうち、(1)については撤回した。 1 取消理由1’(明確性) 本件訂正前の請求項1には「圧延前に、前記第1インゴットは、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている」、本件訂正前の請求項7には「第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱する」という記載があるが、「f/r値」とは、「インゴット」に対する値であるのか、「アルミニウム合金シート」に対する値であるのかが不明であるから、本件特許の本件訂正前の請求項1、7及び同請求項を引用する本件訂正前の請求項2~6、8~14の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。 第7 当審の判断 以下に述べるとおり、取消理由通知書に記載した取消理由1、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由1’及び特許異議申立書に記載された申立理由1~4によっては、本件特許の請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。 1 申立理由1(新規性、進歩性) (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 ア 甲1の記載事項 甲1には、「ALUMINUM SHEET WITH ENHANCED FORMABILITY AND AN ALUMINUM CONTAINER MADE FROM ALUMINUM SHEET」(翻訳:向上した成形性を有するアルミニウムシート及びアルミニウムシートから製造されたアルミニウム容器)(発明の名称)に関して、次の記載がある(翻訳文は、甲1に対応する日本出願の公表特許公報である特表2017-524530号公報による。)。なお、「・・・」は記載の省略を表し、以下同様である。 (ア)「16. A method comprising: forming a container from an aluminum sheet comprising a 3XXX or a 5xxx alloy having a tensile yield strength as measured in the longitudinal direction of 27-33 ksi and an ultimate tensile strength; wherein the ultimate tensile strength minus the tensile yield strength is less than 3.30 ksi (UTS-TYS < 3.30 ksi); and reducing a diameter of a portion of the container by at least 26%. ・・・ 24. The method of claim 16 wherein the aluminum sheet comprises one of AA: 3x03, 3x04 or 3x05. 25. The method of claim 16 wherein the aluminum sheet comprises AA 3104. 26. The method of claim 16 wherein the container is a bottle. 27. The method of claim 16 further comprising expanding a section of the portion of the container having a reduced diameter. 28. The method of claim 27 wherein the section has a length and the length is at least 0.3 inches. 29. The method of claim 28 wherein the length is at least 0.4 inches.」 (翻訳: 【請求項16】 引張降伏強度及び極限引張強度を有し、長手方向で測定された引張降伏強度が27~33ksiであって、極限引張強度と前記引張降伏強度との差が3.30ksiより小さい(UTS-TYS<3.30ksi)3XXX又合金又は5xxx合金を含むアルミニウムシートから容器を形成すること、及び 前記容器の一部分の直径を少なくとも26%減少させること、を含む方法。 ・・・ 【請求項24】 アルミニウムシートは、AA3x03、AA3x04又はAA3x05の1つを含む、請求項16の方法。 【請求項25】 アルミニウムシートはAA3104を含む、請求項16の方法。 【請求項26】 容器はボトルである、請求項16の方法。 【請求項27】 縮小された直径を有する容器の一部分のセクションを拡大することをさらに含む、請求項16の方法。 【請求項28】 前記セクションの長さは少なくとも0.3インチである、請求項27の方法。 【請求項29】 前記長さは少なくとも0.4インチである、請求項28の方法。) (イ)「[0011] An aluminum sheet is rolled aluminum having a thickness of 0.006 inch to 0.030 inch.」 (翻訳: 【0011】 アルミニウムシートは、厚さが0.006インチ~0.030インチの圧延されたアルミニウムである。) (ウ)「[0025] The formability of can bottle stock (as measured by reject rate after finishing the opening of the container) has been empirically demonstrated to increase with reduced (< 3.30 ksi) UTS-TYS difference. UTS-TYS differences of < 3.30 ksi have resulted in less product rejects. Specimens measured were made from finished gauge sheet with a nominal width of ~0.50". The samples were oriented such that the rolling direction is parallel to the applied load. [0026] In some embodiments, finishing comprises one or a combination of the following: forming threads, expanding, narrowing, curling, flanging, or forming the opening of the container to accept a closure. Bottles made from coils of aluminum sheet with UTS-TYS < 3.30 ksi have lower reject rates after finishing. Rejection can he caused by container failures, such as one or more of the following: curl splits, container fracture, container collapse. Other types of container failures may cause rejection. [0027] One method to produce reduced UTS-TYS difference bottle stock sheet is a reduction in Ti level and an increase in preheat soak time from standard production targets. In some embodiments, the Ti levels in the aluminum sheet are in the range of 0.0030 - 0.008 wt %. In some embodiments, the aluminum sheet experiences presoak times in the range of 3 hours at 1080°F plus 30-40 hours at 1060°F. In some embodiments, the aluminum sheet experiences presoak times in the range of 3 hours at 1080°F plus 35-40 hours at 1060°F. In some embodiments, the aluminum sheet experiences presoak times in the range of 3 hours at 1080°F plus 37-40 hours at 1060°F.」 (翻訳: 【0025】 缶ボトルストックの成形性(容器の開口部を仕上げた後の不合格率によって測定)は、UTSとTYSの差が小さい(<3.30ksi)と向上することが経験的に示された。UTSとTYSの差が3.30ksiより小さいと、製品不良の発生は減少した。測定された試験片は、公称幅約0.5インチの仕上げゲージシートから製造した。サンプルは、圧延方向が適用荷重に平行となる方向に圧延された。 【0026】 幾つかの実施形態において、仕上げは、ネジ部を形成すること、拡径すること、縮径すること、フランジを形成すること、閉鎖具を受け入れられるように容器の開口部を形成することの1又は組合せを含む。UTS-TYS<3.30ksiのアルミニウムシートのコイルから作られたボトルは、仕上げ後の不良率が低下した。不良は、例えば、カール成形時の割れ(curl splits)、容器の破損(container fracture)、容器の潰れ(container collapse)等の1又は複数の損傷によって生じる。なお、他の種類の容器損傷も不良を生じることがある。 【0027】 UTSとTYSの差の小さいボトルストックシートを製造する1つの方法は、Ti量を少なくすることと、予熱均熱(preheat soak)時間を標準の時間よりも長くすることである。幾つかの実施形態において、アルミニウムシート中のTi量は、0.0030~0.008wt%の範囲である。幾つかの実施形態において、アルミニウムシートの予熱均熱時間は、1080°Fで3時間プラス1060°Fで30~40時間の範囲である。幾つかの実施形態において、アルミニウムシートの予熱均熱時間は、1080°Fで3時間プラス1060°Fで35~40時間の範囲である。幾つかの実施形態において、アルミニウムシートの予熱均熱時間は、1080°Fで3時間プラス1060°Fで37~40時間である。) イ 甲1に記載された発明 上記ア(ア)に摘記した請求項16の記載中、「3XXX又合金」が「3XXX合金」の誤記であることは明らかであるから、請求項16の記載に基づくと、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。 「引張降伏強度及び極限引張強度を有し、長手方向で測定された引張降伏強度が27~33ksiであって、極限引張強度と前記引張降伏強度との差が3.30ksiより小さい(UTS-TYS<3.30ksi)3XXX合金又は5xxx合金を含むアルミニウムシートから容器を形成すること、及び 前記容器の一部分の直径を少なくとも26%減少させること、を含む方法。」(以下、「甲1発明」という。) (2)本件発明1について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 (ア)甲1発明の「3XXX合金又は5xxx合金を含むアルミニウムシート」における「を含む」が「からなる」を意味することは技術常識に照らして明らかであるから、甲1発明における「3XXX合金又は5xxx合金を含むアルミニウムシート」は、本件発明1における「3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる」「第1のアルミニウム合金シート」に相当する。 (イ)上記(1)ア(ウ)の摘記事項には、縮径することが仕上げに含まれる旨が記載されているところ、甲1発明における、「アルミニウムシートから」「形成」され、「一部分の直径を少なくとも26%減少させる」、すなわち縮径する前の「容器」は仕上げ前の状態であるから、本件発明1における「容器前駆体」に相当する。 (ウ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からなる第1のアルミニウム合金シートを得ることと、 前記第1のアルミニウム合金シートから容器前駆体を形成することと、を含む方法」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1-1> 本件発明1における「第1のアルミニウム合金シート」は、「第1インゴットを圧延することによって形成された」ものであり、「圧延前に、前記第1インゴットは、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されて」おり、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲1発明における「アルミニウムシート」は、どのようにして形成されたものであるのか不明である点。 <相違点1-2> 本件発明1における「第1のアルミニウム合金シートのMn含有量が0.45~0.95重量%であ」るのに対し、甲1発明における「アルミニウムシート」のMn含有量は不明である点。 <相違点1-3> 本件発明1では、「第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少な」いのに対し、甲1発明では、このような特徴を有するのか不明である点。 <相違点1-4> 本件発明1における「5xxx系アルミニウム合金」は、「AA5043及びAA5006からなる群から選択される」のに対し、甲1発明における「5xxx合金」は、AA5043及びAA5006からなる群から選択されるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、上記相違点1-1について検討する。 (イ)a 上記(1)ア(ウ)の摘記事項には、「UTSとTYSの差の小さいボトルストックシートを製造する1つの方法は、Ti量を少なくすることと、予熱均熱(preheat soak)時間を標準の時間よりも長くすることである。・・・幾つかの実施形態において、アルミニウムシートの予熱均熱時間は、1080°Fで3時間プラス1060°Fで30~40時間の範囲である。」と記載されているから、甲1発明は、上記方法を含むものであると解される。 b ここで、上記aには、「アルミニウムシートの予熱均熱時間」と記載されているため、「予熱均熱」の対象は「アルミニウムシート」であると解される一方、「予熱均熱(preheat soak)」とも記載されており、均熱処理(ソーキング)はインゴットに対して行うものであることが技術常識であることを踏まえると、「アルミニウムシートの予熱均熱時間」との記載は誤りで、「アルミニウムインゴットの予熱均熱時間」が正しい記載であると認められる。 c また、上記(1)ア(イ)からすると、甲1発明における「アルミニウムシート」は圧延されたアルミニウムであると認められるから、当該「アルミニウムシート」がアルミニウムインゴットを予熱均熱した後、圧延することによって形成されたものであることは、甲1に記載されているに等しい事項であるといえるし、当該アルミニウムインゴットの「予熱均熱時間は、1080°Fで3時間プラス1060°Fで30~40時間の範囲である」と認められる。 d しかしながら、上記cの「予熱均熱」が、「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであるのかは依然として不明である。 e そこで、上記dの点について検討すると、本件明細書には、次の記載がある。 (a)「【0078】 ミクロ組織、機械的性質、及び成形性に対する予熱時間(従来の時間、及び従来より長時間)の影響を評価/決定するために、3種類の合金を対照合金と比較して評価した。 【0079】 次の表は、SEM画像及び定量的金属組織学を用いて、分散質(Al12Mn3Si)について、合金と予熱とによる差異を定量化したものである。 【表1】 [図:0001422372000001.jpg] 【0080】 合金1は、Si0.21重量%、Fe0.51重量%、Cu0.16重量%、Mn0.88重量%、Mg0.50重量%、残部アルミニウムの組成を有するアルミニウム合金シートである。合金2は、Si0.21重量%、Fe0.52重量%、Cu0.15重量%、Mn0.69重量%、Mg0.70重量%、残部アルミニウムの組成を有するアルミニウム合金シートである。合金3は、Si0.2重量%、Fe0.53重量%、Cu0.15重量%、Mn0.55重量%、Mg0.99重量%、残部アルミニウムの組成を有するアルミニウム合金シートである。幾つかの実施形態では、対照合金はAA3104である。図4は、本開示の幾つかの実施形態に係るもので、実施例の項で示された3種類の合金における様々な合金元素の組成をグラフで表している。 【0081】 長時間の予熱時間では、面積%及び数密度が小さくなったことが観察された。また、予熱時間が17時間の画像を、予熱時間が55時間の画像と比較すると、構成相(constituent phase)の成長が分散質を犠牲にして起こったことが観察された。さらに、分散質粒子の直径に僅かな変化が観察された。また、長時間(55時間)の予熱により、全ての試料(すなわち、合金1~3及び対照合金)について、分散質f/r値に有意な低下が観察された。 【0082】 f/rが7.65未満の分散質を有するシートを製造するための1つの方法は、缶シートに利用される標準的な製造目標における予熱の実施時間を増やすことである。 【0083】 特定のメカニズム及び/又は理論に拘束されるものでないが、予熱の均熱温度が上昇するにつれて、最も小さい分散質Al12 Mn3Siは、熱力学的に不安定になり溶解すると考えられる。固溶体に戻るMnは、より大きな粒子(構成成分又は分散質のどちらも、大きな粒子が小さな粒子を犠牲にして成長する)に拡散する。特定のメカニズム及び/又は理論に拘束されるものでないが、この拡散により、不溶性構成成分の量が増加し、分散質の量が減少すると考えられる(すなわち、これらの相の総量は一定のままである)。このプロセスは、予熱均熱時間の増加及び/又は予熱均熱温度の上昇によって持続する。 【0084】 幾つかの実施形態において、アルミニウムシート用のインゴットの予熱時間は、1080°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1085°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1090°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1095°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱 、又は1100°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱である。さらに長い時間又は高い温度を適用することができる。」 (b)「【図4】 [図:0001422372000002.jpg] 」 f 上記e(a)に摘記した本件明細書の【0084】に記載の「1080°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱」との「アルミニウムシート用のインゴットの予熱」条件と、上記cの「1080°Fで3時間プラス1060°Fで30~40時間の範囲である」アルミニウムインゴットの「予熱均熱」の条件とは、数値範囲が完全に一致している。 g そして、上記e(a)に摘記した本件明細書の【0082】に「f/rが7.65未満の分散質を有するシートを製造するための1つの方法は、缶シートに利用される標準的な製造目標における予熱の実施時間を増やすことである。」と記載されていることを踏まえると、上記cの「予熱均熱」が、「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであると解する余地がある。 h しかしながら、上記e(a)に摘記した本件明細書の【表1】からすると、たとえ同じ予熱時間でインゴットを加熱しても、アルミニウム合金の組成に応じて加熱後のインゴット中の分散質のf/r値が変化することは明らかである。また、上記e(b)からすると、同じ規格合金であっても取り得る組成の範囲には幅があるため、特定の規格合金からなるインゴットを、取り得る時間に幅がある所定の予熱条件で加熱しても、加熱後のインゴット中の分散質のf/r値が7.65未満となるとは限らないといえる。 i そうすると、甲1発明における「3XXX合金又は5xxx合金」の具体的な組成は不明であるから、上記cの「予熱均熱」が、「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであるのかは不明であるというほかなく、上記相違点1-1は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)a 次に、上記相違点1-1の容易想到性について検討すると、甲1に「f/r値」に関する事項は記載も示唆もされていないから、甲1発明において、上記相違点1-1に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。 b 仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、上記aの判断に変わりはない。 c したがって、甲1発明において、上記相違点1-1に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 d よって、上記相違点1-2~1-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2~4、6について(新規性) 本件発明2~4、6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2~4、6も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件発明2~6について(進歩性) 本件発明2~6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2~6も同様に、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明7について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明7と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。 <相違点1-1’> 本件発明7に係る「方法」は、「第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、 前記第1インゴットを第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含」み、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲1発明における「アルミニウムシート」がどのようにして形成されたものであるのか不明であるため、甲1発明に係る「方法」は、インゴットを、f/r値が7.65未満の分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、前記インゴットを「アルミニウムシート」に圧延することと、を含むのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)上記相違点1-1’について検討すると、上記相違点1-1’は上記(2)ア(ウ)に示した相違点1-1と実質的に同じである。 (イ)そうすると、上記(2)イ(イ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点1-1’は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)また、上記(2)イ(ウ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明において、上記相違点1-1’に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえないし、仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、この判断に変わりはない。 (エ)したがって、甲1発明において、上記相違点1-1’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明7は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明7は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件発明8~11、13、14について(新規性) 本件発明8~11、13、14は、本件発明7の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(5)ウのとおり、本件発明7が、甲1に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明8~11、13、14も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえない。 (7)本件発明8~14について(進歩性) 本件発明8~14は、本件発明7の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(5)ウのとおり、本件発明7が、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明8~14も同様に、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (8)本件発明15について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明15と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。 <相違点1-1’’> 本件発明15における「第1のアルミニウム合金シート」は、「第1インゴットを圧延することによって形成された」ものであり、「前記第1インゴットが、圧延前に、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されて」おり、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲1発明における「アルミニウムシート」は、どのようにして形成されたものであるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)上記相違点1-1’’について検討すると、上記相違点1-1’’は上記(2)ア(ウ)に示した相違点1-1と実質的に同じである。 (イ)そうすると、上記(2)イ(イ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点1-1’’は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)また、上記(2)イ(ウ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明において、上記相違点1-1’’に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえないし、仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、この判断に変わりはない。 (エ)したがって、甲1発明において、上記相違点1-1’’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明15は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明15は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明15は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (9)本件発明16について(新規性、進歩性) 本件発明16は、本件発明15の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(8)ウのとおり、本件発明15が、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明16も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (10)本件発明17について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明17と甲1発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。 <相違点1-1’’’> 本件発明17に係る「方法」は、「第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、前記第1インゴットを、第1のアルミニウム合金シートに圧延することと、を含」み、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲1発明における「アルミニウムシート」がどのようにして形成されたものであるのか不明であるため、甲1発明に係る「方法」は、インゴットを、f/r値が7.65未満の分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱することと、前記インゴットを、「アルミニウムシート」に圧延することと、を含むのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)上記相違点1-1’’’について検討すると、上記相違点1-1’’’は上記(2)ア(ウ)に示した相違点1-1と実質的に同じである。 (イ)そうすると、上記(2)イ(イ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点1-1’’’は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)また、上記(2)イ(ウ)で検討したのと同様の理由により、甲1発明において、上記相違点1-1’’’に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえないし、仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、この判断に変わりはない。 (エ)したがって、甲1発明において、上記相違点1-1’’’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明17は、甲1に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明17は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (11)本件発明18について(新規性、進歩性) 本件発明18は、本件発明17の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(10)ウのとおり、本件発明17が、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明18も同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (12)申立理由1についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~4、6~11、13~18は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件発明1~18は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由1によっては、本件特許の請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(新規性、進歩性) (1)甲3の記載事項及び甲3に記載された発明 ア 甲3の記載事項 甲3には、「包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、次の記載がある。 (ア)「【請求項3】 Mn:0.50~1.50質量%、Mg:0.50~1.50質量%、Si:0.10~0.50質量%、Fe:0.10~0.70質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する第1工程と、 前記鋳塊を均質化熱処理する第2工程と、 前記均質化熱処理された鋳塊表面を面削する第3工程と、 前記面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第4工程と、 前記圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する第5工程とからなる包装容器用アルミニウム合金板の製造方法において、 前記第2工程において、前記均質化熱処理を、580~620℃の到達温度で24時間以上保持した後、室温まで冷却する条件で行い、前記第3工程において、鋳塊表面を5mm以上面削することを特徴とする包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。 【請求項4】 前記アルミニウム合金が、さらに、Cu:0.50質量%以下を含有することを特徴とする請求項3に記載の包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。」 (イ)「【0033】 その他、アルミニウム合金板の板厚は特に規定されるものではなく、DI缶またはボトル缶用として通常用いられている板厚であればよい。例えば0.24~0.40mmである。」 (ウ)「【0049】 本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板を、図2に示すような従来の一般的なボトル缶1(ここでは、3ピースボトル缶を例に説明する)に適用する場合には、例えば、図4(a)に示すように、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板Aに対し、カップ成形やDI成形等の缶体成形を施して有底円筒状の缶(胴体部2)を形成する。続いて、この有底円筒状の缶(胴体部2)の底部にネッキング加工を施してネック部3を形成する。そして、印刷・焼付けを施し、ネック部3に開口部4を開口した後、キャップ取り付け用のネジ切り加工を施してネジ部5を設ける。また、これに対向する開口部には、ボトムネックイン加工とフランジ加工を施した後、シーマによって別途成形した底蓋を巻き締めて底部6を形成することで、3ピースボトル缶1を製造することができる。」 (エ)「【実施例】 【0052】 次に、本発明に係る包装容器用アルミニウム合金板およびその製造方法について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。 【0053】 ≪アルミニウム合金板の作製≫ 表1に示すような合金組成を備えたアルミニウム合金を溶解、鋳造し、次に均質化熱処理、面削、続いて熱間圧延を行い、板厚2.2mmのホットコイルを製造した。熱間圧延では、熱間圧延中の圧延ワークロールに形成されるコーティングの厚さをブラシロールで制御し、コーティングの厚さを1.7μmにして圧延した。さらに、このホットコイルに冷間圧延を施し、製缶用のアルミニウム合金板(板厚0.320mm)とした。ここで、面削量は5~20mmの間で適宜設定した。 また、均質化熱処理、熱間圧延における各条件については、表2、3に示すとおりである。また、表1~3において、本発明の構成を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。 【0054】 【表1】 [図:0001422372000003.jpg] 【0055】 ≪アルミニウム合金板のMgの存在比≫ 次に、このようにして製造されたアルミニウム合金板のMgの存在比を調べた。 Mgの存在比は、アルミニウム合金板から深さ方向に、高周波グロー放電発光分光分析装置GD-OES(株式会社堀場製作所(HORIBA,Ltd.)製、JY-5000RF)にて元素分析を行うことにより測定した。分析においては、同装置により、パルスモード(周波数200Hz、デューティサイクル0.0625)でアルゴンスパッタリングして、アルミニウム合金板の主要組成である、Al、Si、Fe、Mn、Mgの各金属元素を深さ方向に定量分析(アトミックパーセント)を行った。得られたMgの深さ方向分布における、表面から20nmの範囲までのMg元素の存在量と、深さ1000~1020nmの20nmの範囲に存在するMg元素の存在量との比を求めた。すなわち、「(Mg濃度の深さ方向分布曲線における表面から20nmの範囲で曲線とX軸、Y軸に囲まれた面積)/(深さ1000~1020nmの20nmの範囲で深さ方向分布曲線とX軸に囲まれた面積)」を求めた。 【0056】 ≪ボトル缶作製法≫ 次に、このアルミニウム合金板を用いて、下記の処理および成形を行った。 まず、アルミニウム合金板表面にリン酸クロメート処理を施したのち、厚さ16μmの樹脂を両面に被覆し、270℃×20秒の熱処理を施して樹脂被覆材とした。この樹脂被覆材に揮発性の潤滑油を塗布して絞り成形(カップ成形)、その後DI成形(しごき成形)を行い、有底円筒状の缶(しごき成形缶)を作製した。その際、被覆した樹脂の剥離を防止するべく、フランジ部を残した成形を行った。このようにして得られたDI成形缶(しごき成形缶)の缶底部にネック成形を施したのち、開口部をトリミングして、缶底部に底蓋を巻き締める前の状態のボトル缶の缶胴部を作製した。その後、缶体到達温度270℃、炉内保持時間20秒の熱処理を行い、ネジ加工を施した。そして、缶底部には、ボトムネックイン加工とフランジ加工を施した後、シーマによって別途成形した底蓋を巻き締めて底部を形成することで、本発明に係るアルミニウム合金板について評価を行う際の缶(3ピースボトル缶)を作成した。 【0057】 <評価方法> 前記の成形プロセス中の缶、および作製した缶を使用して、加工性の評価として、しごき成形性、強度の評価として軸圧縮強度の評価を以下の方法で行った。さらに、表面状態の評価として、フローマークについての評価を以下の方法で行った。 【0058】 [しごき成形性] 連続成形で10000缶製缶したときに、破断(胴切れ)が発生した回数が0~3回のものをしごき成形性が良好、4回以上をしごき成形性が不良とした。 なお、しごき成形性の評価は、図4(a)に示すDI成形中に行った。 【0059】 [軸圧縮強度] 前記の3ピースボトル缶(サンプル数=10)の、開口部に軸圧縮荷重を加え、その軸圧縮強度を測定し、最大軸圧縮荷重が150kgf以下を不良とした。 【0060】 [表面状態] ネック成形したネック部を目視により観察し、年輪状の筋模様(フローマーク)の濃さを評価した。5点満点で、4点以上を合格とした。 前記の各試験結果を表2、3に示す。また、No.1およびNo.7のMg濃度分布のグラフ(深さ方向分布曲線)を図5(a)、(b)に示す。 【0061】 【表2】 [図:0001422372000004.jpg] 」 (オ)「 [図:0001422372000005.jpg] 」 イ 甲3に記載された発明 上記ア(エ)に摘記した【表1】のA4及び【表2】のNo.4に着目し、上記ア(ア)、(ウ)に摘記した記載に倣って整理すると、甲3には、次の発明が記載されていると認められる。 「Mn:0.86質量%、Mg:1.20質量%、Si:0.29質量%、Fe:0.42質量%、Cu:0.30質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する第1工程と、 600℃の到達温度で36時間保持した後、室温まで冷却する条件で前記鋳塊を均質化熱処理する第2工程と、 前記均質化熱処理された鋳塊表面を5~20mmの間で面削する第3工程と、 前記面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第4工程と、 前記圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する第5工程とからなる製造方法によって得られた包装容器用アルミニウム合金板に対し、カップ成形やDI成形等の缶体成形を施して有底円筒状の缶(胴体部2)を形成し、この有底円筒状の缶(胴体部2)の底部にネッキング加工を施してネック部3を形成し、印刷・焼付けを施し、ネック部3に開口部4を開口した後、キャップ取り付け用のネジ切り加工を施してネジ部5を設け、これに対向する開口部には、ボトムネックイン加工とフランジ加工を施した後、シーマによって別途成形した底蓋を巻き締めて底部6を形成することで、3ピースボトル缶1を製造する方法。」(以下、「甲3発明」という。) (2)本件発明1について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明1と甲3発明とを対比する。 (ア)甲3発明における「鋳塊」「アルミニウム合金板」は、それぞれ本件発明1における「第1インゴット」「第1のアルミニウム合金シート」に相当するから、甲3発明における「前記均質化熱処理された鋳塊表面を5~20mmの間で面削する第3工程と、前記面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第4工程と、前記圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する第5工程」を実施することは、本件発明1における「第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ること」に相当する。 (イ)技術常識に照らせば、溶解、鋳造、均質化熱処理、面削、熱間圧延及び冷間圧延を通じて、アルミニウム合金に含有されるMnの量はほぼ一定であるといえるから、甲3発明における、「Mn:0.86質量%」「を含有」する「アルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製」し、「鋳塊を均質化熱処理」し、「均質化熱処理された鋳塊表面を」「面削」し、「面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製」し、「圧延板を冷間圧延して」「作製」された「アルミニウム合金板」のMn含有量は、本件発明1における「第1のアルミニウム合金シートの」「0.45~0.95重量%」の「Mn含有量」に相当する。 (ウ)甲3発明において、「面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第4工程」の前の「第2工程」として、「600℃の到達温度で36時間保持した後、室温まで冷却する条件で前記鋳塊を均質化熱処理する」ことは、本件発明1において、「圧延前に、前記第1インゴットは、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されている」ことと、「圧延前に、前記第1インゴットは、所定の温度に所定の時間をかけて加熱されている」ことで共通する。 (エ)甲3発明における「有底円筒状の缶(胴体部2)」は、本件発明1における「容器前駆体」に相当するから、甲3発明における「包装容器用アルミニウム合金板に対し、カップ成形やDI成形等の缶体成形を施して有底円筒状の缶(胴体部2)を形成」することは、本件発明1における「第1のアルミニウム合金シートから容器前駆体を形成すること」に相当する。 (オ)そうすると、本件発明1と甲3発明とは、 「第1インゴットを圧延することによって形成された第1のアルミニウム合金シートを得ることであって、前記第1のアルミニウム合金シートのMn含有量が0.45~0.95重量%であり、前記圧延前に、前記第1インゴットは、所定の温度に所定の時間をかけて加熱されている、第1のアルミニウム合金シートを得ることと、 前記第1のアルミニウム合金シートから容器前駆体を形成することと、を含む方法。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点3-1> 本件発明1における「第1インゴット」は、「3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金からな」り、「前記5xxx系アルミニウム合金は、AA5043及びAA5006からなる群から選択される」のに対し、甲3発明における「鋳塊」は、「Mn:0.86質量%、Mg:1.20質量%、Si:0.29質量%、Fe:0.42質量%、Cu:0.30質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解、鋳造して」「作製」したものであるものの、「Mn:0.86質量%、Mg:1.20質量%、Si:0.29質量%、Fe:0.42質量%、Cu:0.30質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金」が「3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金」に該当するのか不明である点。 <相違点3-2> 本件発明1においては、「圧延前に、前記第1インゴットは、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されて」おり、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲3発明においては、「面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第4工程」の前の「第2工程」が「600℃の到達温度で36時間保持した後、室温まで冷却する条件で前記鋳塊を均質化熱処理する」ものであるものの、当該「均質化熱処理」の条件が、「鋳塊」を「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであるのか不明である点。 <相違点3-3> 本件発明1では、「第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少な」いのに対し、甲3発明では、このような特徴を有するのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、上記相違点3-2について検討する。 (イ)a 上記1(2)イ(イ)e(a)に示したとおり、本件明細書には、次の記載がある。 「【0082】 f/rが7.65未満の分散質を有するシートを製造するための1つの方法は、缶シートに利用される標準的な製造目標における予熱の実施時間を増やすことである。 【0083】 特定のメカニズム及び/又は理論に拘束されるものでないが、予熱の均熱温度が上昇するにつれて、最も小さい分散質Al12 Mn3Siは、熱力学的に不安定になり溶解すると考えられる。固溶体に戻るMnは、より大きな粒子(構成成分又は分散質のどちらも、大きな粒子が小さな粒子を犠牲にして成長する)に拡散する。特定のメカニズム及び/又は理論に拘束されるものでないが、この拡散により、不溶性構成成分の量が増加し、分散質の量が減少すると考えられる(すなわち、これらの相の総量は一定のままである)。このプロセスは、予熱均熱時間の増加及び/又は予熱均熱温度の上昇によって持続する。 【0084】 幾つかの実施形態において、アルミニウムシート用のインゴットの予熱時間は、1080°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1085°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1090°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱、又は1095°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱 、又は1100°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱である。さらに長い時間又は高い温度を適用することができる。」 b ここで、甲3発明の「均質化熱処理」における「600℃(1112°F)の到達温度で36時間保持」との条件は、上記aに摘記した本件明細書の【0084】に記載の「1080°Fで3時間の予備均熱プラス1060°Fで30~40時間の均熱」との条件等と比較して、2段階の加熱ではない点で異なるものの、温度に関しては「さらに」「高い温度を適用」(同【0084】)したものであるし、時間に関しては「30~40時間」の範囲内であるから、甲3発明の「均質化熱処理」が、「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであると解する余地がある。 c しかしながら、上記1(2)イ(イ)hにおいて述べたとおり、「たとえ同じ予熱時間でインゴットを加熱しても、アルミニウム合金の組成に応じて加熱後のインゴット中の分散質のf/r値が変化することは明らかである」との前提において、上記(2)ア(オ)において相違点3-1として示したとおり、「甲3発明における・・・「Mn:0.86質量%、Mg:1.20質量%、Si:0.29質量%、Fe:0.42質量%、Cu:0.30質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金」が「3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金」に該当するのか不明である」し、仮に該当するとしても、甲3発明におけるアルミニウム合金の組成は、「3xxx系又は5xxx系アルミニウム合金」の中の1点にすぎないから、甲3発明の「均質化熱処理」が、「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであるのかは依然として不明である。 d さらに、上記1(2)イ(イ)e(a)に摘記した本件明細書の【表1】において、合金1~3における「予熱55時間」は、「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成」できるものであると認められる(ただし、予熱温度や2段階の加熱をしているのかは不明であるが、その点はさておくこととする。)ものの、甲3発明におけるアルミニウム合金の組成及び均質化熱処理の時間は、上記合金1~3の組成及び予熱時間とは異なる。 e そうすると、上記c、dのいずれの点からしても、甲3発明の「均質化熱処理」が、「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであるのかは不明であるというほかなく、上記相違点3-2は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)a 次に、上記相違点3-2の容易想到性について検討すると、甲3に「f/r値」に関する事項は記載も示唆もされていないから、甲3発明において、上記相違点3-2に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえない。 b 仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、上記aの判断に変わりはない。 c したがって、甲3発明において、上記相違点3-2に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 d よって、上記相違点3-1、3-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明1は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、3、6について(新規性) 本件発明2、3、6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲3に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明2、3、6も同様に、甲3に記載された発明であるとはいえない。 (4)本件発明2、3、5、6について(進歩性) 本件発明2、3、5、6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(2)ウのとおり、本件発明1が、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2、3、5、6も同様に、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明7について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明7と甲3発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。 <相違点3-2’> 本件発明7は、「第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱する」ものであり、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲3発明は、「600℃の到達温度で36時間保持した後、室温まで冷却する条件で前記鋳塊を均質化熱処理する」ものであるものの、当該「均質化熱処理」の条件が、「鋳塊」を「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱する」ものであるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)上記相違点3-2’について検討すると、上記相違点3-2’は上記(2)ア(オ)に示した相違点3-2と実質的に同じである。 (イ)そうすると、上記(2)イ(イ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点3-2’は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)また、上記(2)イ(ウ)で検討したのと同様の理由により、甲3発明において、上記相違点3-2’に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえないし、仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、この判断に変わりはない。 (エ)したがって、甲3発明において、上記相違点3-2’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明7は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明7は、甲3に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明7は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件発明8~10、13、14について(新規性) 本件発明8~10、13、14は、本件発明7の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(5)ウのとおり、本件発明7が、甲3に記載された発明であるとはいえない以上、本件発明8~10、13、14も同様に、甲3に記載された発明であるとはいえない。 (7)本件発明8~14について(進歩性) 本件発明8~14は、本件発明7の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(5)ウのとおり、本件発明7が、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明8~14も同様に、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (8)本件発明15について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明15と甲3発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。 <相違点3-2’’> 本件発明15においては、「第1インゴットが、圧延前に、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱されて」おり、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲3発明においては、「面削された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第4工程」の前の「第2工程」が「600℃の到達温度で36時間保持した後、室温まで冷却する条件で前記鋳塊を均質化熱処理する」ものであるものの、当該「均質化熱処理」の条件が、「鋳塊」を「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱」するものであるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)上記相違点3-2’’について検討すると、上記相違点3-2’’は上記(2)ア(オ)に示した相違点3-2と実質的に同じである。 (イ)そうすると、上記(2)イ(イ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点3-2’’は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)また、上記(2)イ(ウ)で検討したのと同様の理由により、甲3発明において、上記相違点3-2’’に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえないし、仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、この判断に変わりはない。 (エ)したがって、甲3発明において、上記相違点3-2’’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明15は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明15は、甲3に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明15は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (9)本件発明16について(新規性、進歩性) 本件発明16は、本件発明15の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(8)ウのとおり、本件発明15が、甲3に記載された発明であるとはいえず、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明16も同様に、甲3に記載された発明であるとはいえないし、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (10)本件発明17について(新規性、進歩性) ア 対比 本件発明17と甲3発明とを対比すると、両者は少なくとも次の点で相違する。 <相違点3-2’’’> 本件発明17は、「第1インゴットを、f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱する」ものであり、「f/r値は、」「インゴットに対して、 (a)SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うことと、 (b)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるfの値を求めることであって、前記fの値は、各ビンにおける分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定された総面積で割算し、次に100を掛算することによって得られたものである、fの値を求めることと、 (c)前記分散質粒子を含む各ビンにおけるf/r値を求めることであって、fは前記(b)で求めた値であり、rは、各ビンの上限値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円の半径であって、単位はμmである、f/r値を求めることと、 (d)前記分散質粒子を含む各ビンについて、前記(c)で求めたf/r値を加算することと、を実行することによって得られ」るのに対し、甲3発明は、「600℃の到達温度で36時間保持した後、室温まで冷却する条件で前記鋳塊を均質化熱処理する」ものであるものの、当該「均質化熱処理」の条件が、「鋳塊」を「f/r値が7.65未満の第1分散質を達成するのに十分な温度に十分な時間をかけて加熱する」ものであるのか不明である点。 イ 相違点についての判断 (ア)上記相違点3-2’’’について検討すると、上記相違点3-2’’’は上記(2)ア(オ)に示した相違点3-2と実質的に同じである。 (イ)そうすると、上記(2)イ(イ)で検討したのと同様の理由により、上記相違点3-2’’’は実質的な相違点であるといえる。 (ウ)また、上記(2)イ(ウ)で検討したのと同様の理由により、甲3発明において、上記相違点3-2’’’に係る発明特定事項を備えようとする動機付けがあるとはいえないし、仮に、甲2に記載された事項(規格合金の組成)を考慮しても、この判断に変わりはない。 (エ)したがって、甲3発明において、上記相違点3-2’’’に係る発明特定事項を備えようとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。 (オ)よって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明17は、甲3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、本件発明17は、甲3に記載された発明であるとはいえない。また、本件発明17は、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (11)本件発明18について(新規性、進歩性) 本件発明18は、本件発明17の発明特定事項を全て備えるものであるから、上記(10)ウのとおり、本件発明17が、甲3に記載された発明であるとはいえず、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件発明18も同様に、甲3に記載された発明であるとはいえないし、甲3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (12)申立理由2についてのまとめ 以上のとおり、本件発明1~3、6~10、13~18は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件発明1~3、5~18は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、申立理由2によっては、本件特許の請求項1~3、5~18に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(実施可能要件) (1)本件発明1においては、「前記第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少な」いとの事項によって発明が特定されている。 (2)上記(1)の事項において、「第2」関連のものについては、第2インゴットについて「f/r値が7.65以上の第2分散質を有する」ことのみが特定されており、第2インゴットのアルミニウム合金の組成、第2インゴットから第2のアルミニウム合金シートへの圧延条件及び第2のアルミニウム合金シートから第2容器前駆体への形成条件は特定されておらず、本件明細書にもこれらの組成及び条件は記載されていない。 (3)しかしながら、第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体とを比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジの多寡を比較するのであるから、当該比較の技術的妥当性を担保する上で、第1インゴットに含まれる第1分散質のf/r値が7.65未満であるのに対し、第2インゴットに含まれる第2分散質のf/r値が7.65以上であること、すなわち当該f/r値の差異を生じさせるためのインゴットの予熱均熱以外の条件(製造工程及びアルミニウム合金の組成)をそろえる必要があることは明らかである。 (4)そうすると、第2インゴットのアルミニウム合金の組成、第2インゴットから第2のアルミニウム合金シートへの圧延条件及び第2のアルミニウム合金シートから第2容器前駆体への形成条件が、それぞれ第1インゴットのアルミニウム合金の組成、第1インゴットから第1のアルミニウム合金シートへの圧延条件及び第1のアルミニウム合金シートから第1容器前駆体への形成条件と同じであることは、技術常識に照らして明らかであるから、「第2インゴット」の組成は明確であるし、「第2分散質のf/r値」も「7.65以上」と特定されている点で明確である(「第2分散質のf/r値」の上限も、第2インゴットのアルミニウム合金の組成とインゴットの予熱均熱条件から、自ずと定まるといえる。)。 (5)本件発明1が上記(1)の事項を具備しているか否かについては、例えば本件明細書及び図7~9に記載の合金1~3のように、「第1」関連のものと「第2」関連のものとの間でインゴットの予熱時間のみを変更して両容器前駆体の表面を比較することによって判断することができるから、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤、複雑高度な実験を行う必要があるとはいえない。 (6)そして、本件発明1における上記(1)以外の事項については、全て本件明細書に記載されているため、当業者であれば、本件明細書等に記載された説明と出願時の技術常識とに基づいて、本件発明1を実施することができると認められる。 (7)本件発明7も上記(1)の事項によって発明が特定されているが、上記した理由と同様の理由により、当業者であれば、本件明細書等に記載された説明と出願時の技術常識とに基づいて、本件発明7を実施することができると認められる。 (8)したがって、本件特許の請求項1、7及び当該請求項を引用する本件特許の請求項2~6、8~14に係る発明について、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるから、申立理由3によっては、本件特許の請求項1~14に係る特許を取り消すことはできない。 4 申立理由4、取消理由1、取消理由1’(明確性要件) 4-1 申立理由4、取消理由1(上記第5の1(1)) (1)a 本件特許の請求項1、7、15、17には、分散質のf/r値を算出するためのステップ(a)として、「SEMにより測定された分散質粒子を横断面積の関数としてビンに分けてグループ化することを、1ディケイド当たりビンが5つの対数領域において行うこと」が記載されている。 b 上記「算出」について、本件明細書には、次の記載がある。 「【0077】 粒子が測定されると、それら粒子は横断面積の関数としてビンに分けられ(binned)、グループ化される。1ディケイド(decade)当たりビンが5つの対数領域(log space)において、各ビンにおける分散質粒子の面積を合計し、得られた分散質粒子の面積の和を、SEM画像によって測定されたアルミニウム合金シートの総面積で割算し、次に100を掛算したものが分散質の面積%(「f」値)として得られる。「r」値は、ビンの上限(upper bin limit)値を円の面積(πr2)に等しいとして規定される円におけるrの値(rは、粒子の半径(d/2)であり、dは粒子の直径であって、dの単位はナノメートルであるが、f/r値を算出するときのrの単位はμm(マイクロメートル))として求められる。個々のビンについて、分散質f/r値を計算し、次いで、分散質f/r値を合計することにより、特定の合金試料(例えば、合金1~3及び対照合金)の分散質f/r値が得られる。」 c 上記「ディケイド」について、特許権者は、本願の審査段階の令和 2年 7月14日に提出した意見書において、以下のとおり主張している。 「・段落0077の記載を補足説明しますと、データは、サイズが大きいため、分散質の面積は、データ・ビニング(data binning)を使用してヒストグラム上に表示されます。ヒストグラムでは、ディケイドごとに5ビンが対数スケールで表示されます。ディケイドごとに5ビンとすることは、データを正規分布で表示する方法として発明者らが選択したものです。 ・対数領域では、1ビンは、例えば、-0.6から-0.8までをカバーすることができます。この個々のビンは、-0.6と-0.8との間での対数分散質面積値(すなわち、“log(分散質面積)=-0.6”乃至“log(分散質面積)=-0.8)”を有する分散質を含むことになります。個々のビンにおける分散質の全てについて合計面積を合計し、SEM画像フレームによって測定されたインゴットの合計面積で割り算し、100を掛けると、個々のビンの分散質の百分率面積(「面積%」)、すなわちf値が得られます。」 d 「ディケイド(decade)」が「10を単位とする1群」を意味する単語であり、本件特許の請求項1、7、15、17及び本件明細書の【0077】のいずれにも「対数領域」と記載されていることを踏まえると、上記cの主張は首肯できるものであり、何ら不合理な点は見当たらない。 e そうすると、本件特許の請求項1、7、15、17に記載の「1ディケイド」の意味内容は明確であり、「1ディケイド」を用いて算出される「f/r値」は一義的に定まるといえる。 (2)本件特許の請求項1、7には、「前記第1のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体は、f/r値が7.65以上の第2分散質を有する第2インゴットから圧延された第2のアルミニウム合金シートから形成された容器前駆体と比べて、表面に観察されるストライエーション及びリッジが少なく、」と記載されているが、上記3(4)のとおり、「第2インゴット」の組成は明確であるし、「第2分散質のf/r値」も明確である。 4-2 取消理由1(上記第5の1(2))、取消理由1’ 上記第3のとおり、本件訂正により、本件特許の請求項1、7、15、17に記載の「f/r値」は、「アルミニウム合金シート」に対する値ではなく、「インゴット」に対する値であることが明確となった。 4-3 申立理由4、取消理由1、取消理由1’についてのまとめ 以上のとおり、本件特許の請求項1、7、15、17及び当該請求項の記載を引用する本件特許の請求項2~6、8~14、16、18の記載は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由4、取消理由1及び取消理由1’によっては、本件特許の請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。 第8 むすび 以上のとおり、本件特許の請求項1~18に係る特許は、令和 5年 9月11日付けで通知した取消理由1、令和 6年 8月 9日付けで通知した取消理由1’及び特許異議の申立ての理由のいずれによっても取り消すことはできない。 さらに、他に本件特許の請求項1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-700466

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