特許異議申立
2024-700476
積層体およびそれを用いた化粧シート
- 審判番号
- 2024-700476
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-074063
- 登録番号
- 7383237
- 請求日
- 2024年05月20日
- 審決日
- 2024年12月24日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】TOPPANホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】廣瀬 一
- 【権利者代理人】宮坂 徹
- 【権利者代理人】田中 秀▲てつ▼
- 【異議申立人】下河 あい
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 木原 裕二
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7383237号発明「積層体およびそれを用いた化粧シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7383237号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
特許第7383237号の請求項1、2、4、6~8に係る特許を維持する。
特許第7383237号の請求項3、5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7383237号の請求項1~8に係る特許についての出願は、平成29年8月7日に出願された特願2017-152461号の一部を令和4年4月28日に新たな特許出願としたものであって、令和5年11月10日にその特許権の設定登録がされ、令和5年11月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年5月20日 :特許異議申立人下河あい(以下「申立人」という。)による請求項1~8に係る特許に対する特許異議の申立て
令和6年7月30日付け:取消理由通知書
令和6年9月30日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
なお、当審から令和6年10月10日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは応答がなかった。
第2 本件訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1に記載された
「複数の樹脂層からなる積層体であって、
上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有し、
上記トップコート層は、熱硬化層と光硬化層とを備え、
上記熱硬化層は、上記光硬化層に比べて紫外線吸収剤を多く含み、
前記紫外線吸収剤は酸性を示し、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5であることを特徴とする積層体。」を、
「複数の樹脂層からなる積層体であって、
上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有し、
上記トップコート層は、熱硬化層と光硬化層とを備え、
上記熱硬化層は、上記光硬化層に比べて紫外線吸収剤を多く含み、
前記紫外線吸収剤は酸性を示し、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5であり、
上記トップコート層は、無機粒子からなる光沢調整剤を含み、
上記光沢調整剤は、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子であることを特徴とする積層体。」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2、4、6~8も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項4に記載された
「請求項3に記載した」を、
「請求項1又は請求項2に記載した」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6~8も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項5を削除する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項6に記載された
「請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した」を、
「請求項1、請求項2、及び請求項4のいずれか1項に記載した」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7、8も同様に訂正する)。
(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項7に記載された
「請求項1~請求項6のいずれか1項に記載した」を、
「請求項1、請求項2、請求項4、及び請求項6のいずれか1項に記載した」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項8も同様に訂正する)。
(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項8に記載された
「請求項1~請求項7のいずれか1項に記載した」を、
「請求項1、請求項2、請求項4、請求項6、及び請求項7のいずれか1項に記載した」に訂正する。
2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項1~8は、請求項2~8が、本件訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~8〕について請求されたものである。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載された「トップコート層」について限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1は、本件特許の明細書の【0038】及び本件特許の明細書の【請求項3】、【請求項5】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、また、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2、4について
訂正事項2、4は、本件訂正前の請求項3、5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1とともに、本件訂正前の請求項4が、請求項3の記載を引用する記載であったものを当該請求項3の記載を引用しないものとするものであるから、訂正事項3は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。
また、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項5~7について
訂正事項5~7は、本件訂正前の請求項6~8について、訂正事項2、4によって請求項3、5が削除されたことに伴い、引用する請求項の数を減少させ、また、訂正事項2、4によって削除された請求項3、5を引用しているという不明瞭な状態を解消させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項5~7は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 本件訂正の適否のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正請求が認められたことから、本件特許の請求項1、2、4、6~8に係る発明(以下「本件発明1」等という。また、本件発明1、2、4、6~8を「本件発明」と総称することもある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4、6~8に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1、2、4、6~8の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
複数の樹脂層からなる積層体であって、
上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有し、
上記トップコート層は、熱硬化層と光硬化層とを備え、
上記熱硬化層は、上記光硬化層に比べて紫外線吸収剤を多く含み、
前記紫外線吸収剤は酸性を示し、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5であり、
上記トップコート層は、無機粒子からなる光沢調整剤を含み、
上記光沢調整剤は、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
上記光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする請求項1に記載した積層体。
【請求項4】
上記無機粒子は、分散時のpHが5.0より大きく且つ8.5以下の無機粒子であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した積層体。
【請求項6】
樹脂の主成分がオレフィン系樹脂であり、且つpKaが7.0以下の化合物を、樹脂材料100質量部に対して0.3質量部以上含有した樹脂層であるオレフィン樹脂層を有し、
上記トップコート層は、上記オレフィン樹脂層の上に形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2、及び請求項4のいずれか1項に記載した積層体。
【請求項7】
上記熱硬化層を構成する熱硬化性樹脂は、メチルメタクリレートと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを構成成分とする樹脂であることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項4、及び請求項6のいずれか1項に記載した積層体。
【請求項8】
請求項1、請求項2、請求項4、請求項6、及び請求項7のいずれか1項に記載した積層体を備えた化粧シート。
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
当審において、請求項1~4、6~8に係る特許に対して通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、2、6、8に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、6、8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
本件特許の請求項1~4、6、8に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、6、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許の請求項1~4、7、8に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明、下記甲5に記載された事項及び周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、7、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(進歩性)
本件特許の請求項1~4、8に係る発明は、下記甲第3号証に記載された発明、下記甲第5号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~4、8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
甲第1号証 特開2014-88026号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証 特開2005-15557号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証 特開平11-165394号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証 特開2007-268830号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証 特開2017-7156号公報(以下「甲5」という。)
甲第8号証 国際公開第2018/221610号(以下「甲8」という。)
甲第10号証 “製品一覧”、[online]、富士シリア化学株式会社、[令和6年3月27日出力]、インターネット
<URL: https://www.fuji-silysia.co.jp/products/p388/>(以下「甲10」という。)
2 取消理由1についての当審の判断
ここでは、取消理由の対象としなかった請求項7も含め、請求項1、2、4、6~8について判断する。
(1)甲1に記載された発明
甲1(【0094】~【0097】、【図3】)には、次の発明が記載されている。なお、【0096】中の「ヘキサンメチレンジイソシアネート」は「ヘキサメチレンジイソシアネート」の誤記である。
「基材2として、着色ポリプロピレン樹脂(厚さ80μm)からなる樹脂シートを準備し、この表面及び裏面にコロナ放電処理を施した後、
表面に木目柄をグラビア印刷により形成し、柄印刷層3を得て、
裏面には、ウレタン系樹脂をバインダーとした裏面プライマー層7(厚さ2μm)をグラビア印刷により形成し、
柄印刷層3の上に、2液硬化型ウレタン樹脂からなる塗液を塗工して接着剤層8(乾燥状態での厚さ15μm)を形成し、透明樹脂層用樹脂組成物をTダイで溶融して得た透明樹脂層4(厚さ80μm)を形成し、透明樹脂層4をドライラミネート法により積層させ、
該透明樹脂層4の上に、プライマー層形成用組成物を塗工し、厚さ2.5μmのプライマー層5を形成し、
次に、電離放射線硬化性樹脂組成物を、グラビアコートにより塗工し、塗膜を形成した後、175keV及び5Mrad(50kGy)の条件で電子線を照射して上記塗膜を架橋硬化させることにより、表面保護層(10g/m2)を形成させて得た、化粧シートであって、
透明樹脂層用樹脂組成物は、
ポリプロピレン:100質量部
α-オレフィンエラストマー(プロピレン系):100質量部
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン400(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):0.3質量部
ヒンダードアミン系光安定剤(「チヌビン123(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):3質量部
成形性改質剤(低密度ポリエチレン成形性改質剤):5質量部
からなり、
プライマー層形成用組成物は、
ポリカーボネート系ウレタンアクリレート(ポリカーボネート系ウレタンアクリレートにおけるウレタン成分とアクリル成分の質量比:70/30):100質量部
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン400(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):15質量部
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン479(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):5質量部
ヒンダードアミン系光安定剤(「チヌビン123(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):6質量部
からなる樹脂組成物と
ヘキサメチレンジイソシアネート
からなる硬化剤
とを100:5(質量比)の割合で混合して得られる組成物であり、
電離放射線硬化性樹脂組成物は、
カプロラクトンジオール系ウレタンアクリレート(2官能,分子量:約1000,伸び率:40%):100質量部
トリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン479(商品名)」,2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン,チバ・ジャパン株式会社製):2質量部
反応性官能基を有する光安定剤(商品名「サノールLS-3410」,1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニルメタクリレート,チバ・ジャパン株式会社製):6質量部
の組成の組成物である、
化粧シート。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「プライマー層5」と本件発明1の「熱硬化層」とは「硬化層」の限りで一致する。
本件明細書の【0017】には「紫外線硬化樹脂などの光硬化樹脂を主成分とした光硬化層」と記載されているから、甲1発明の「電離放射線硬化性樹脂組成物」を「架橋硬化」させた「表面保護層」は本件発明1の「光硬化層」に相当する。
甲1発明の「化粧シート」は、複数の樹脂層からなるから、本件発明1の「複数の樹脂層からなる」「積層体」に相当する。
甲1発明の「表面保護層」は「化粧シート」の最表面側に位置するから、甲1発明の「表面保護層」と「プライマー層5」を合わせたものは、本件発明1の「上記積層体の最表面側に位置する」「トップコート層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「複数の樹脂層からなる積層体であって、
トップコート層は上記積層体の最表面側に位置し、
上記トップコート層は、硬化層と光硬化層とを備える積層体。」
[相違点1-1]
本件発明1は、「トップコート層」が「pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有」するのに対して、甲1発明は、「プライマー層形成用組成物」が「ヒンダードアミン系光安定剤(「チヌビン123(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製)」を含み、「電離放射線硬化性樹脂組成物」が「反応性官能基を有する光安定剤(商品名「サノールLS-3410」,1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニルメタクリレート,チバ・ジャパン株式会社製)」を含む点。
[相違点1-2]
「硬化層」に関して、本件発明1は「熱硬化層」であるのに対して、甲1発明は「プライマー層5」であって、熱硬化層であるか不明である点。
[相違点1-3]
本件発明1は「上記熱硬化層は、上記光硬化層に比べて紫外線吸収剤を多く含み、前記紫外線吸収剤は酸性を示し、光を照射したときのpKaが-4.5から-5.5である」のに対して、甲1発明は、「プライマー層形成用組成物」が「ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン400(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):15質量部」と「ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン479(商品名)」,チバ・ジャパン株式会社製):5質量部」を含み、「電離放射線硬化性樹脂組成物」が「トリアジン系紫外線吸収剤(「チヌビン479(商品名)」,2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン,チバ・ジャパン株式会社製):2質量部」を含む点。
[相違点1-4]
本件発明1は「上記トップコート層は、無機粒子からなる光沢調整剤を含み、上記光沢調整剤は、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子である」のに対して、甲1発明の「表面保護層」と「プライマー層5」を合わせたものは、そのような光沢調整剤を含んでいない点。
イ 判断
事案に鑑み、まず相違点1-4について検討する。
甲1や提出された他の証拠には、積層体のトップコート層において、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子からなる光沢調整剤を含むことは記載も示唆もされておらず、甲1発明において、相違点1-4に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
なお、相違点1-4は、本件訂正前の請求項3、5の発明特定事項であるところ、請求項5に対しては新規性・進歩性の理由について、特許異議の申立てがされていない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、4、6~8について
本件発明2、4、6~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2、6、8は甲1に記載された発明ではなく、また、本件発明2、4、6~8に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由2についての当審の判断
ここでは、取消理由の対象としなかった請求項6も含め、請求項1、2、4、6~8について判断する。
(1)甲2に記載された発明
甲2(【0029】、【0030】)には、実施例1に着目すると、次の発明が記載されている。
「メチルメタクリレート65重量%、2-ヒドロキシエチルメタクリレート35重量%を共重合させ、平均分子量50000の水酸基導入メタクリル酸エステル樹脂を得て、この樹脂に対して、紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-t-ペンチルフェノール(TINUVIN328;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を5重量%、光安定剤としてヒンダードアミン系光安定剤であるデカン二酸ビス[2,2,6,6-テトラメチル-1(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル]エステル(TINUVIN123;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)を5重量%配合し、粘度調整のためメチルエチルケトンにて希釈し、固形分が20重量%となるよう調整した主剤(a)を得て、
一方、架橋剤(硬化剤)となるポリイソシアネート化合物として、アダクト型のヘキサメチレンジイソシアネートをメチルエチルケトンで固形分が75重量%となるように調整した硬化剤(b)を得て、
上記主剤(a)に対して、上記硬化剤(b)を15重量%添加して塗工液を調製し、この塗工液をグラビアコーターにて連続白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚さ188μm、幅1,000mm、一巻1,000mのE-60L;東レ(株)製)の片面に、塗布量が固形分で5g/m2となるように連続塗工し、乾燥温度60℃の条件で乾燥した後、巻き取って得た、高耐候性ポリエステルフィルム。」(以下「甲2発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とは、少なくとも次の点で相違する。
[相違点2]
本件発明1は「上記トップコート層は、無機粒子からなる光沢調整剤を含み、上記光沢調整剤は、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子である」のに対して、甲2発明の「上記主剤(a)に対して、上記硬化剤(b)を15重量%添加して」「調製し」た「塗工液」を「連続塗工」して、「乾燥温度60℃の条件で乾燥した後」に形成される樹脂層は、そのような光沢調整剤を含んでいない点。
イ 判断
甲2や提出された他の証拠には、積層体のトップコート層において、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子からなる光沢調整剤を含むことは記載も示唆もされておらず、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
なお、相違点2は、本件訂正前の請求項3、5の発明特定事項であるところ、請求項5に対しては進歩性の理由について、特許異議の申立てがされていない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、4、6~8について
本件発明2、4、6~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2、4、6~8に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 取消理由3についての当審の判断
ここでは、取消理由の対象としなかった請求項6、7も含め、請求項1、2、4、6~8について判断する。
(1)甲3に記載された発明
甲3(【0026】)には、実施例1に着目すると、次の発明が記載されている。
「オレフィン系フィルムとして厚さ100μm のPE系樹脂着色シート(理研ビニル工業(株)製)表面に、印刷層としてウレタン系インキ(ラミスターインキ:東洋インキ製造(株)製)で木目柄を施して設け、接着剤層としてウレタン系接着剤(タケネートA3210:武田薬品工業(株)製)を塗布した後、別に作製しておいたエンボスつきのオレフィン系樹脂からなるフィルムを貼り合わせて化粧シートとし、
この化粧シートのエンボス面に表面処理を施した後、トップコート樹脂としてウレタン系樹脂(URV238ワニス:東洋インキ製造(株)製)に、硬化剤(UR150Bワニス:東洋インキ製造(株)を10重量部添加したものに、耐候性処方剤としてベンゾフェノン系紫外線吸収剤(TINUVIN326:チバスペシャルティケミカルズ(株)製)を樹脂固形分に対して0.5部、アミノエーテル型光安定剤(TINUVIN123:チバスペシャルティケミカルズ(株)製)を樹脂固形分に対して1重量部添加したものを用いて、5g/m2の塗布量でグラビアコートした、化粧シート。」(以下「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とは、少なくとも次の点で相違する。
[相違点3]
本件発明1は「上記トップコート層は、無機粒子からなる光沢調整剤を含み、上記光沢調整剤は、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子である」のに対して、甲3発明の「トップコート樹脂としてウレタン系樹脂」を「グラビアコート」して形成される層は、そのような光沢調整剤を含んでいない点。
イ 判断
甲3や提出された他の証拠には、積層体のトップコート層において、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレンワックス、又は界面活性剤で表面修飾された無機粒子からなる光沢調整剤を含むことは記載も示唆もされておらず、甲2発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。
なお、相違点3は、本件訂正前の請求項3、5の発明特定事項であるところ、請求項5に対しては進歩性の理由について、特許異議の申立てがされていない。
ウ 本件発明1についてのまとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2、4、6~8について
本件発明2、4、6~8は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、上記(2)と同様の理由により、本件発明2、4、6~8に係る発明は、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 その他採用しなかった特許異議申立理由について
1 その他採用しなかった特許異議申立理由の概要
(サポート要件)本件特許の請求項1~8に係る発明は、次の点で発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないため、請求項1~8に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)光安定剤の含有量について
請求項1には、特定の光安定剤の含有量が規定されておらず、実施例において効果が確認された積層体の構成とは異なる構成が規定されており、請求項1に記載の構成によって、本件特許の発明が解決しようとする課題を解決し得るか否か、当業者であっても認識できないため、請求項1~8に係る発明は、発明が解決しようとする課題が解決できると認識できる範囲を超えている。
(2)紫外線吸収剤及び光安定剤が添加される樹脂層を構成する樹脂組成物について
請求項1に係る発明において、単に特定の紫外線吸収剤、特定の光安定剤を用いることのみの規定では、本件特許の発明が解決しようとする課題を解決できるのか、当業者であっても認識できず、また、特定の紫外線吸収剤及び光安定剤が添加される樹脂層を構成する樹脂層が特定されておらず、どのようにして発明が解決しようとする課題が解決できるのか、当業者であっても認識することができないため、請求項1~6、8に係る発明は、発明が解決しようとする課題が解決できると認識できる範囲を超えている。
2 当審の判断
本件発明が解決しようとする課題は、「安定した耐候性を有する化粧シートを提供すること」(【0005】。以下「本件課題」という。)である。
発明の詳細な説明には、本件課題を解決するための手段に関して次の記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明らは、経時的な紫外線吸収剤および光安定剤の分解を防ぎ、長期にわたって品質を低下させずに利用することを可能とする条件を種々検討して、好適なトップコート層の条件を見出した。
課題を解決するために、本発明の一態様の積層体は、複数の樹脂層からなる積層体であって、上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有したことを特徴とする。」
そして、【0052】の記載によると、「複数の樹脂層からなる積層体であって、上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有し」ていることにより、「長期に亘って安定した耐候性有する積層体・・・を提供することができる」ことが理解できる。
また、発明の詳細な説明の【0057】~【0079】には、「複数の樹脂層からなる積層体であって、上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有し」ている「積層体」である実施例1~18が、そのような「積層体」ではない比較例1~4と比べて耐候性に優れていることを確認している。
そうすると、「複数の樹脂層からなる積層体であって、上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有し」ている「積層体」は、本件課題を解決できると認識できる。
そして、本件発明1は、本件課題を解決できると認識できる「複数の樹脂層からなる積層体であって、上記積層体の最表面側に位置するトップコート層に、pKaが4.0から7.0の光安定剤を含有し」た構成を更に限定したものである。
したがって、本件発明1、2、4、6~8は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、申立人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1、2、4、6~8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1、2、4、6~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項3、5は、本件訂正により削除されたため、請求項3、5に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700476