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特許異議申立

2024-700471

熱伝達抑制シート及び組電池

審判番号
2024-700471
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-103045
登録番号
7392051
請求日
2024年05月17日
審決日
2024年08月19日
公報発行日
2024年09月27日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】イビデン株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
  • 【異議申立人】赤松 智信
  • 【異議申立人】古谷 多賀志
  • 【異議申立人代理人】神谷 惠理子
審判長/審判官
  • 審判長 千葉 輝久
  • 審判官 馬場 慎
  • 審判官 寺谷 大亮
分類
P1651.121-Y (H01M) / P1651.113-Y (H01M) / P1651.536-Y (H01M) / P1651.537-Y (H01M)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第113条第4号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7392051号発明「熱伝達抑制シート及び組電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7392051号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7392051号(以下「本件特許」という。)の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和4年6月27日に出願され、令和5年11月27日にその特許権の設定登録がされ、同年12月5日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和6年5月17日に特許異議申立人 赤松智信(以下「申立人A」という。)は特許異議の申立てを行い、同年6月4日に特許異議申立人 古谷多賀志(以下「申立人B」という。)は特許異議の申立てを行った。その後、令和6年6月26日に申立人Bは特許異議申立書の手続補正書を提出した。 前記特許異議の申立てのために申立人Aにより提出された特許異議申立書を、以下では単に「申立書A」といい、申立人Bにより提出及び補正された特許異議申立書を、以下では単に「申立書B」という。 第2 本件発明 本件特許の請求項1~12に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明12」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、 無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、 水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質と、を含み、 前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいことを特徴とする、熱伝達抑制シート。 【請求項2】 無機粒子を含み、前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項3】 前記撥液性物質は、疎水性シリカであることを特徴とする、請求項2に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項4】 無機粒子を含み、 前記撥液性物質は、熱伝達抑制シートの表面、熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面、及び熱伝達抑制シートの内部における前記繊維の表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項5】 前記撥液性物質は、パラフィン基油類、ナフテン基油類、炭化水素系合成油、エステル系合成油、動植物油脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ロジン系サイズ剤及びアルキルケテンダイマーサイズ剤から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項4に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項6】 前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、請求項4に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項7】 前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項6に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項8】 前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項7に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項9】 前記撥液性物質の表面張力は、45mN/m以下であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項10】 前記撥液性物質は、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂から選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項9に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項11】 複数の三次元的に連結した空孔を有し、 前記空孔は、熱伝達抑制シートの表面に向けて開口していることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項12】 複数の電池セルと、請求項1~11のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。」 なお、本件発明1、2、4については、後の参照の便宜のために、以下のとおり分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。 【請求項1】 1A 複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、 1B 無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、 1C 水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質と、を含み、 1D 前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいことを特徴とする、 1E 熱伝達抑制シート。 【請求項2】 2A 無機粒子を含み、前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。 【請求項4】 4A 無機粒子を含み、 4B 前記撥液性物質は、熱伝達抑制シートの表面、熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面、及び熱伝達抑制シートの内部における前記繊維の表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。 第3 申立ての理由の概要 申立書A、Bに記載された申立ての理由及び証拠方法は、次のとおりである。 1 申立書Aについて (1)申立理由 理由A1 本件発明1~12は、甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許法第113条第2号) (2)証拠方法 甲第1号証 特開2022-86028号公報 甲第2号証 国際公開第2021/149249号 甲第3号証 特開2012-81701号公報 甲第4号証 特開2021-140968号公報 甲第5号証 国際公開第2019/031457号 以下、申立人Aが提出した「甲第1号証」~「甲第5号証」を、それぞれ「甲A1」~「甲A5」という。 2 申立書Bについて (1)申立理由 理由B1 本件発明2~4、6~8、及びこれらを直接的又は間接的に引用する本件発明12は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1号第3号に該当するから、請求項2~4、6~8及びこれらを直接的又は間接的に引用する請求項12に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 又は、本件発明2~4、6~8、及びこれらを直接的又は間接的に引用する本件発明12は、甲第1号証に記載された発明及び技術常識・周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2~4、6~8及びこれらを直接的又は間接的に引用する請求項12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(特許法第113条第2号) 理由B2 本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明2及び3が発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法第113条第4号) 本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2及び3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法第113条第4号) 理由B3 本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明1、3、4、7が明確ではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(特許法第113条第4号) (2)証拠方法 甲第1号証 特開2021-144879号公報 甲第2号証 CABOT Corporation、「P200エアロゲル粒子の製品カタログ」、2013年 甲第3号証の1 株式会社東京化学同人、「化学大辞典、第1版第6刷、p1923-1924」、2001年6月1日 甲第3号証の2 日刊工業新聞社、「表面処理工学-基礎と応用-、初版第1刷、p15-17」、2000年2月28日 甲第3号証の3 米田出版、「生活と産業のなかのコロイド・界面科学、初版、p12-17」、2011年7月20日 甲第3号証の4 一般社団法人色材協会、「「表面張力測定法」色材協会誌79巻9号、p404-409」、2006年9月20日 甲第4号証の1 株式会社東京化学同人、「化学大辞典、第1版第6刷、p1313-1314」、2001年6月1日 甲第4号証の2 株式会社工業調査会、「プラスチック工業辞典5版第2刷、p474」、1992年5月25日 甲第5号証 Merck、「ジメチルカーボネートの安全データシート」、2022年9月22日 以下、申立人Bが提出した「甲第1号証」~「甲第5号証」を、それぞれ「甲B1」~「甲B5」という(例えば、「甲第3号証の1」を「甲B3の1」という。)。 第4 理由A1についての判断 理由A1(進歩性)の有無を判断するために、まず、以下の1において甲A1発明の認定を行う。次いで、以下の2において本件発明1と甲A1発明との対比を行い、以下の3において本件発明1と甲A1発明との相違点について判断し、以下の4に小括する。 1 甲A1発明の認定 (1)甲A1の記載 甲A1には、次の事項が記載されている。なお、下線は、甲A1発明の認定に使用する箇所を示すことを目的に、当審で付した。 「【0045】 また上述した実施形態に係る熱拡散シートを複数枚積層して、放熱材や断熱材を構成してもよい。この際、熱拡散シートを断熱シートと組み合わせてもよい。例えば、断熱性を有する中間層の両面に、表面層として実施形態に係る熱拡散シートを用いた三層構造の断熱シートを構成することもできる。このような例を、実施形態2に係る断熱シートとして、図2~図6に基づいて説明する。 【0046】 断熱シートは、断熱性が求められる用途に適宜利用できる。例えば冷蔵庫や冷凍庫等を断熱する断熱材、建材用の断熱シート等に用いることができる。ここでは、二次電池セルを多数積層して直列や並列に接続した電源装置において、隣接する二次電池セル同士の間に介在されるスペーサとして、断熱シートを用いる例を説明する。このような電源装置は、電気自動車やハイブリッド自動車、電動バス、電車、電動カート等の電動車両の駆動用電源として、あるいは工場や基地局のバックアップ電源用、さらには家庭用の蓄電池として利用される。 【0047】 実施形態2に係る断熱シートを用いた電源装置を、図2の斜視図及び図3の垂直断面図に示す。これらの図に示す電源装置100は、複数の二次電池セル1と、二次電池セル1同士の間に介在される断熱シート10とを備える。このように二次電池セル1と断熱シート10とを交互に積層して、電池積層体を構成している。また電池積層体の側面には、必要に応じて側板2が配置される。側板2は、二次電池セル1の側面と熱的に結合されて、熱伝導により放熱する放熱板として機能する。 (断熱シート10) 【0048】 隣接する二次電池セル1同士の間には、断熱シート10が介在される。断熱シート10は、スペーサやセパレータ等と呼ばれ、隣接する二次電池セル1間を断熱して類焼を防止または抑制するための部材である。また断熱シート10は、その上端や下端、側面などを放熱板などと熱的に結合して、放熱部材として機能させることもできる。例えば電池積層体の上下に放熱フィンを配置し、断熱シートの上下端をそれぞれ放熱フィンと熱結合することができる。 (二次電池セル1)」 「【0050】 断熱シート10の拡大断面図を、図4に示す。この図に示す断熱シート10は、中間層11と、この中間層11を挟むように、両面に積層された表面層12で構成される。」 「【0056】 ここでは、断熱シート10の中間層11は、繊維基材と、充填材と、結合材を含む。好適には、繊維基材として天然パルプと無機繊維、充填材として珪酸塩鉱物、結合材としてゴム組成物を利用できる。具体的には、実施形態2に係る中間層11は、繊維基材として麻パルプとマイクロガラス、充填材としてタルクとセピオライト、結合材としてNBRを含んでいる。 【0057】 繊維基材(基材繊維とも呼ぶ。)は、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミック繊維などの無機繊維や、あるいは芳香族ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維が利用できる。ここでは、繊維基材として有機繊維の天然パルプを用いている。天然パルプには麻パルプが好適に利用できる。麻パルプの配合比率は、例えば5重量%~20重量%、好ましくは10重量%とする。」 「【0059】 充填材は、無機の充填材が利用できる。無機充填材としては、セピオライト、タルク、カオリン、マイカ、セリサイト等の珪酸塩鉱物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ハードクレー、焼成クレー、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、ウォラストナイト、重炭酸ナトリウム、ホワイトカーボン・溶融シリカ等の合成シリカ、珪藻土等の天然シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ガラスビーズ等が挙げられ、これらは単独又は複数を組み合わせて用いられる。これらの無機充填材の添加は、高温雰囲気下の形状維持と断熱性向上といった効果を示す。実施形態2においては、可撓性が高いタルクを用いた。充填材の配合量は断熱シート中、5重量%~65重量%が好ましい。実施形態2においては、充填材として珪酸マグネシウムを用い、タルクを58重量%、セピオライトを14結合材には、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、アクリル酸樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂の他に、アクリルニトリルブタジエンゴム、水素化アクリルニトリルブタジエンゴム、アクリルゴム、アクリルニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレーンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フッ化シリコーンゴム、クロロスルフォン化ゴム、エチレン酢ビゴム、塩化ポリエチレン、塩化ブチルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルイソプレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム等が利用できる。中でも、アクリルニトリルブタジエンゴム(NBR)が、耐水性、耐油性が高い点で好ましい。これらのゴムは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、より高い耐水性、耐油性を目的にアルキルケテンダイマー等のサイズ剤やフッ素系、シリコーン系の撥水剤を組合わせて使用することもできる。結合材にゴム組成物を用いる場合、ゴムの配合量は断熱シート中、5.0~40重量%が好ましい。ここではNBRであるニポール1562を6.0重量%添加している。」 「【0072】 本発明の熱拡散シートは、発熱体の放熱部材として好適に利用できる。このような発熱体としては、車両、電車、船舶などの移動体用の駆動電力を供給する電源装置、アシスト自転車や電動スクータ等の電動二輪車、電動ゴルフカートやドローン、電力貯蔵用システム等に用いられる二次電池、あるいは電動工具やコードレス掃除機等の携帯型電気機器、スマートフォンやモバイルブースタ等の携帯型電子機器用の電池パック等が挙げられる。またコンピュータに内蔵されるCPUやMPU、GPU、SoC等の電子部品やLED、液晶、PDP、EL、携帯電話等の発光素子等の電子部品の放熱シート等としても好適に利用できる。また、車両用のヘッドライト、電気自動車やハイブリッド自動車等の電動車両用の電源として用いられる電池ブロック、半導体駆動素子やMCU等の発熱体とヒートシンクとの間に介在される緩衝シートとしても好適に利用できる。 【符号の説明】 【0073】 1000…放熱装置 100…電源装置 1…二次電池セル 2…側板 10、10X…断熱シート 11…中間層 12…表面層 20…熱拡散シート HG…発熱体 HS…放熱器」 「【図3】 [図:0001414226000001.jpg] 」 (2)甲A1に記載された発明 前記(1)によれば、甲A1には、次の発明(以下「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲A1発明を以下のa~fに分説し、「構成a」のようにして参照する。 「a 隣接する二次電池セル同士の間に介在される断熱シートであって、(【0046】) b 断熱シート10は、中間層11と、この中間層11を挟むように、両面に積層された表面層12で構成され、(【0050】) c 断熱シート10の中間層11は、繊維基材と、充填材と、結合材を含み、(【0056】) d 繊維基材は、無機繊維や有機繊維が利用でき、(【0057】) e 結合材には、より高い耐水性、耐油性を目的にアルキルケテンダイマー等のサイズ剤やフッ素系、シリコーン系の撥水剤を組合わせて使用することもできる、(【0060】) f 断熱シート。」 2 本件発明1と甲A1発明との対比 本件発明1と甲A1発明とを対比する。 (1)発明特定事項1A「複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、」、発明特定事項1E「熱伝達抑制シート」について 甲A1発明の「隣接する二次電池セル同士の間に介在される断熱シート」(構成a)が、本件発明1の「複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シート」に相当する。 (2)発明特定事項1B「無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、」「を含み、」について 甲A1発明の「断熱シート10の中間層11は、繊維基材」「を含み」(構成c)、「繊維基材は、無機繊維や有機繊維が利用でき」る(構成d)ものである。 そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、「無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維」を含む点で一致する。 (3)発明特定事項1C「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質と、を含み」について ア 甲A1発明の「断熱シート10の中間層11は、」「結合材を含み」(構成c)、「結合材には、より高い耐水性、耐油性を目的にアルキルケテンダイマー等のサイズ剤やフッ素系、シリコーン系の撥水剤を組合わせて使用することもできる」(構成e)ものである。 イ 甲A1発明の「フッ素系、シリコーン系の撥水剤」(構成e)は撥水性物質といえるから、本件発明1の「撥液性物質」に相当する。 ウ 甲A1発明の「撥水剤」は、より高い耐水性を目的に使用されるものであり、撥水性を有する、すなわち、水を弾く性質を有するものであるから、技術常識を踏まえると、水の表面張力よりも小さい表面張力を有するといえる。 エ 前記ア~ウによれば、本件発明1と甲A1発明とは、「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質」を含む点で一致する。 (4)発明特定事項1D「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」について 甲A1発明の「撥水剤」は、より高い耐水性、耐油性を目的に使用されるものであるが、その表面張力は、二次電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいことが特定されていない。 (5)一致点及び相違点 前記(1)~(4)によれば、本件発明1と甲A1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、 無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、 水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質と、を含む、 熱伝達抑制シート。」 <相違点> 本件発明1の「撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」のに対し、甲A1発明の「撥水剤」の表面張力は、二次電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいことが特定されていない点。 3 本件発明1と甲A1発明との相違点についての判断 前記2(5)で示した相違点について、以下、検討する。 (1)甲A1には、「撥水剤」の表面張力を二次電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さくすることについて、記載も示唆もない。 加えて、複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートが、(水の表面張力及び)電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質を含むことについて、甲A2~甲A5のいずれにも開示も示唆もされていないし、技術常識でもない。 したがって、当該相違点は、当業者といえども、甲A1発明から容易に想到し得るとは認められない。 (2)申立人Aは、当該相違点について、以下のとおり主張する。 「一方、甲第1号証の【0060】には、断熱シート10の中間層11に含まれる結合剤の説明が記載されている。すなわち「結合材には、・・・フッ素樹脂、シリコーン樹脂、・・・フェノール樹脂等の合成樹脂の他に、・・・が利用できる。・・・また、より高い耐水性、耐油性を目的にアルキルケテンダイマー等のサイズ剤やフッ素系、シリコーン系の撥水剤を組合わせて使用することもできる。・・・」と記載されている。 してみれば、甲1発明においても水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質を含むものであるから、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明と実質的に相違はないものである。」(申立書Aの14頁) 以下、当該主張について検討する。 申立人Aのいうとおり、甲A1発明においても水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質を含むものである。しかしながら、これを根拠に、何ら説明もなく本件発明1は甲A1に記載された発明と実質的に相違はないとする主張は、論理に飛躍があり、到底採用できない。 なお、甲A1の【0060】には、撥水剤として「フッ素系、シリコーン系」が例示されているが、二次電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい撥水剤として例示されているわけではないので、当該例示をもって、本件発明1と実質的に相違はない、又は、本件発明1が容易想到であるとは認められない。 (3)本件発明1と甲A1発明との相違点についての小括 前記(1)及び(2)によれば、本件発明1と甲A1発明との相違点は、甲A1発明から容易に想到し得るものではない。 また、当該相違点は、その他の証拠及び技術常識によっても容易に想到し得るものではない。 4 理由A1についての小括 前記3(3)によれば、本件発明1は、当業者が甲A1発明及び甲A2~甲A5に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 そして、本件発明2~12は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項を備えるものである。 そうすると、本件発明2~12と甲A1発明とは、少なくとも前記2(5)に示した相違点を有し、当該相違点については前記3のとおりであるから、本件発明2~12も、当業者が甲A1発明及び甲A2~甲A5に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 以上によれば、理由A1には理由がない。 第5 理由B2についての判断 本件発明の新規性又は進歩性の有無(理由B1)を判断する前に、記載要件不備の有無(理由B2及び理由B3)を判断する。 最初に、理由B2(サポート要件違反、実施可能要件違反)の有無を判断する。 1 本件発明2について (1)実施可能要件についての判断 以下、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて検討する。 ア 本件発明2の発明特定事項は、熱伝達抑制シートが含む材料を特定しており、本件の発明の詳細な説明には、発明特定事項に対応する具体的な説明が具体例とともに記載されており、発明特定事項の具現化のための明確かつ十分な記載があると認められる。 イ 本件発明2の発明特定事項である「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質」、「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」、「前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である」に関して、本件の発明の詳細な説明には、次のとおり具体的な説明が具体例とともに記載されており(なお、下線は、強調のため当審で付した。)、当該発明特定事項の具現化のための明確かつ十分な記載があると認められる。 「【0042】 <第3の実施形態> 第3の実施形態については図示を省略するが、図1を参照して説明する。第3の実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、図1に示すように撥液性物質2を表面に付着させたものではなく、撥液性を有する無機粒子を使用したものである。すなわち、断熱材9における無機粒子の少なくとも一部が撥液性物質となっている。このような無機粒子としては、例えば、疎水性シリカ(ヒュームドシリカ)が挙げられる。」 「【0051】 <撥液性物質> 撥液性物質2は、熱伝達抑制シート10の内部への結露水5の浸入を防止する効果を有する重要な成分である。結露水5の浸入を防水の表面張力よりも小さいものであることが必要である。また、熱伝達抑制シート10の近傍に配置されている電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいものとすると、電解液の浸入をも防止することができる。 【0052】 25℃における水の表面張力は、約72.0(mN/m)であるため、撥液性物質の表面張力の具体的な値としては、例えば70.0(mN/m)以下とし、65(mN/m)以下であることが好ましい。また、電解液の浸入を抑制するためには、撥液性物質の表面張力は45(mN/m)以下であることがより好ましく、25(mN/m)以下であることがさらに好ましい。 【0053】 撥液性物質としては、一般的に使用されている撥水剤、撥油剤、サイズ剤が挙げられる。 撥水剤の具体的な例としては、パラフィン基油類、ナフテン基油類、炭化水素系合成油、エステル系合成油、動植物油脂等の撥水剤が挙げられる。また、撥油剤の具体的な例としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。さらに、サイズ剤の具体的な例としては、ロジン系(松脂)、アルキルケテンダイマー(AKD:AlkylKetene Dimer)等が挙げられる。 これらの撥液性物質のうち、電解液よりも小さい表面張力を有する撥液性物質としては、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。なお、シリコーン樹脂の表面張力は、16~30(mN/m)であり、フッ素樹脂の表面張力は、10~25(mN/m)である。 【0054】 なお、上記第3の実施形態に示すように、無機粒子を撥液性物質として使用することができる。この場合に、撥液性物質として、疎水性シリカ(ヒュームドシリカ)等が挙げられる。」 「【0108】 <第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法> 第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法の例について、以下に説明する。 繊維(ガラス繊維1)、撥液性を有する無機粒子(疎水性シリカ)及び不図示のバインダ等を所定の割合でV型混合機などの混合機に投入し、混合物を作製する。その後、得られた混合物を所定の型内に投入し、プレス機等により加圧して、得られた成形体を加熱した後、これを冷却することにより、シート状に加工された熱伝達抑制シートが得られる。 【0109】 第3の実施形態に係る製造方法においては、材料とする無機粒子が撥液性の効果を有しているため、シート状に加工した後に、材料の段階又はシート状に加工した断熱材に撥液処理をする必要がなく、容易に製造することができる。なお、材料とする無機粒子のうち、一部のみを疎水性シリカとし、残部を他の無機粒子としてもよく、このような構成であっても、撥水効果を得ることができる。 【0110】 なお、第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法に示すように、撥液性を有する無機粒子を撥液性物質2として使用した場合においても、これをシート状に加工した後に、第1の実施形態に係る製造方法に倣って、シート表面にさらに撥液性物質2を付着させると、より一層撥液性を向上させることができる。 【0111】 <その他の製造方法> 本発明の製造方法については、本発明の要件を満たす熱伝達抑制シートを製造することができれば、特に限定されない。上記第1~第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法の他に、例えば、無機粒子として、酸化物粒子の表面にシリコーン、合成樹脂等を付着させて撥液処理を施したものを使用する方法が挙げられる。そして、第3の実施形態に係る熱伝達抑制シートの製造方法と同様の方法により、撥液性を有する熱伝達抑制シートを製造することができる。」 ウ 前記ア及びイによれば、本件の発明の詳細な説明には、本件発明2の全ての発明特定事項を具現化するための十分な説明が記載されていると認められるから、本件の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明2の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。 (2)実施可能要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明2の実施可能要件について、以下のとおり主張する。 「表面張力とは、甲3の1で説明されているように、液体が気体と接しているとき、液体がその表面をできるだけ縮小しようとする力である。固体については、融点近くの溶融状態で表面張力が測定されることになる(甲3の3)。 全ての固体が融点を有し、液体状態を示すとは限らない。高温で溶融する前に分解する固体もある。実際、甲3の4に「固体の表面張力を直接、測定によって求めることは困難である(第404頁右欄)。」と記載されている程である。 このような状況下、本件明細書には、撥液性物質である無機粒子の表面張力の値は一切示されていないし、表面張力をどのように測定するのかといった記載も存在しない。 また、表面張力は温度に依存することが知られているが(甲3の2)、無機粒子の表面張力について、何℃のときの表面張力の特性について、「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する」及び「前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」と定義しているのか明らかにされていない。 したがって、請求項2に係る特許発明、すなわち撥液性物質が無機粒子である場合に、「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する」及び「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」無機粒子とは、具体的に例示されている疎水性シリカに基づき、他にどのような無機粒子が該当するのか、いかにして判断すればよいのか、発明の詳細な説明には、当業者が実施できるように記載されていない。」(申立書Bの17~18頁) 以下、当該主張について検討する。 申立人Bのいうとおり、本件の発明の詳細な説明には、撥液性物質である無機粒子の表面張力の値や表面張力の測定方法について記載がない。しかしながら、固体にも表面張力は存在し、その値を得ることができることは技術常識である(例えば、甲B3の3、甲B3の4を参照)から、本件の発明の詳細な説明に、撥液性物質である無機粒子の表面張力の値や表面張力の測定方法について記載がなくとも、上記技術常識を鑑み、任意の方法で無機粒子の表面張力の値を得ればよいと認められる。 また、無機粒子の表面張力について、何℃のときの表面張力を考慮すればよいか明らかでないとのことであるが、本件の発明の詳細な説明の【0052】には、水の表面張力の値が「25℃における」ものとして記載されており、当該記載に続く撥液性物質の表面張力の値も「25℃における」ものであると考えるのが自然であるところ、無機粒子の表面張力についても、25℃のときの表面張力を考慮すればよいと認められる。 したがって、撥液性物質が無機粒子である場合に、どのような無機粒子が該当するのか、いかにして判断すればよいのか、本件の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に記載されており、当該主張は採用できない。 (3)サポート要件についての判断 以下、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明2が発明の詳細な説明に記載したものであるか否かについて検討する。 ア 本件発明2を特定する発明特定事項は、いずれも、本件の発明の詳細な説明に記載されたものである。 イ 本件発明2の発明特定事項である「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質」、「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」、「前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である」に関して、本件の発明の詳細な説明には、前記(1)イのとおり記載されている。 ウ 前記ア及びイによれば、本件発明2は発明の詳細な説明に記載したものであると認められる。 (4)サポート要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明2のサポート要件について、以下のとおり主張する。 「常温で流体ないし固体であるシリコーン樹脂、フッ素樹脂の表面張力が示されている。しかしながら、これらは無機粒子には該当しないので、かかる記載を参酌しても、請求項2の従属項である請求項3で具体的物質名として記載されている「疎水性シリカ」以外の無機粒子としては、どのような無機粒子にまで拡張、一般化されるのか、当業者は理解できない。」(申立書Bの18頁) 以下、当該主張について検討する。 本件の発明の詳細な説明には、発明の課題として「優れた断熱性を有するとともに、水分の浸入を防止し、これにより、電池セル同士が短絡することによる発火等を防止することができ、好ましくは電解液の浸入による断熱性の低下を防止することができる熱伝達抑制シート及びこの熱伝達抑制シートを有する組電池を提供する」(【0007】)ことが記載され、「本発明の熱伝達抑制シートは、表面及び内部の少なくとも一部に撥液性物質を有し、この撥液性物質の表面張力は水の表面張力よりも小さいため、熱伝達抑制シートの外部に生成された結露水等が熱伝達抑制シートの内部に浸入することを抑制できる。したがって、熱伝達抑制シートの絶縁性が低下して隣接する電池セル同士が短絡し、発火することを防止することができる。また、撥液性物質の表面張力が、電池セルに使用されている電解液の表面張力よりも小さいと、電解液の熱伝達抑制シートの内部への浸入をも抑制することができ、断熱性の低下を防止することができる。」(【0024】)と記載されている。 そして、出願時の技術常識(表面張力に関する技術常識)に照らせば、発明の詳細な説明には、撥液性物質について、その表面張力が水及び電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいものであれば、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているところ、本件発明の「撥液性物質」としては、その表面張力が水及び電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいものまで、拡張ないし一般化することができ、具体的な物質に限定することを要しないと認められる。 そうすると、本件発明2で特定される「少なくとも一部が前記撥液性物質である」「無機粒子」としては、本件発明2で特定されるとおり、撥液性物質の表面張力が水及び電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいものまで、拡張ないし一般化され、具体的物質名を特定することは要しない。 したがって、当該主張は採用できない。 2 本件発明3について (1)実施可能要件についての判断 以下、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて検討する。 ア 本件発明3の発明特定事項は、本件発明2からさらに撥液性物質の材料を特定しており、本件の発明の詳細な説明には、発明特定事項に対応する具体的な説明が具体例とともに記載されており、発明特定事項の具現化のための明確かつ十分な記載があると認められる。 イ 本件発明3の発明特定事項である「前記撥液性物質は疎水性シリカである」に関して、本件の発明の詳細な説明の【0042】、【0054】、【0108】、【0109】には、具体的な説明が具体例とともに記載されており、当該発明特定事項の具現化のための明確かつ十分な記載があると認められる。 ウ 前記1(1)、前記ア及びイによれば、本件の発明の詳細な説明には、本件発明3の全ての発明特定事項を具現化するための十分な説明が記載されていると認められるから、本件の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。 (2)実施可能要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明3の実施可能要件について、以下のとおり主張する。 「発明の詳細な説明には、「疎水性シリカ」の表面張力に関して、具体的数値をもって説明した記載がないことはいうまでもなく、その上位概念である無機粒子の表面張力の具体的数値範囲、測定方法についての記載も一切ないことはすでに述べたとおりである(前記ウ(1))。また、「疎水性」についての定義、説明も、発明の詳細な説明には一切存在しない。 一方、「疎水性」とは、甲第4号証に示されているように、「水との親和力が弱い」(甲4の1)といった程度の意味であり、「水を吸収または吸着しない、水と混合しない、水を反撥するなどの性質」(甲4の2)に記載されているように、水に対する親和力の弱さの程度には幅がある。 このような技術常識に照らすと、疎水性シリカと一般に認識されているものと、表面張力に関する要件である「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する」、「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」の少なくともいずれか一方の要件を充足できない疎水性シリカとを区別することはできない。いかなる疎水性シリカの場合に請求項1で特定する表面張力の要件を充足するのか、少なくともその特定方法となる、表面張力の測定方法について説明が一切存在しないからである。」(申立書Bの19頁) 以下、当該主張について検討する。 申立人Bのいうとおり、本件の発明の詳細な説明には、疎水性シリカの表面張力について具体的な数値の記載がない。しかしながら、前記1(2)のとおり、任意の方法で疎水性シリカの表面張力の値を得ればよいと認められる。 また、申立人Bのいうとおり、本件の発明の詳細な説明には、「疎水性」についての定義や説明の記載がない。しかしながら、「疎水性」は一般的な意味である(例えば、甲B4の1、甲B4の2を参照)と認められ、また、「疎水性シリカ」も一般に使用されている技術用語であり、一般に認識されてるもの(例えば、甲B2を参照)と相違ないと認められる。 そして、疎水性シリカのうち、その表面張力が水及び電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいものが、本件発明3の発明特定事項である「前記撥液性物質は疎水性シリカである」を充足することは、明らかである。 したがって、当該主張は採用できない。 (3)サポート要件についての判断 以下、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明3が発明の詳細な説明に記載したものであるか否かについて検討する。 ア 本件発明3を特定する発明特定事項は、いずれも、本件の発明の詳細な説明に記載されたものである。 イ 本件発明3の発明特定事項である「前記撥液性物質は疎水性シリカである」に関して、本件の発明の詳細な説明の【0042】、【0054】、【0108】、【0109】に記載されている。 ウ 前記ア及びイによれば、本件発明3は発明の詳細な説明に記載したものであると認められる。 (4)サポート要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明3のサポート要件について、以下のとおり主張する。 「請求項3にかかる発明は、疎水性シリカとして、一般に認知されているシリカが請求項1で特定する表面張力を有するという結論と軌を一にするものでないとするならば、請求項3にかかる発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない」(申立書Bの19頁) 以下、当該主張について検討する。 疎水性シリカとして一般に認知されているシリカの全てが、水及び電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい表面張力を有するとは限らない(疎水性シリカとして、一般に認知されているシリカが請求項1で特定する表面張力を有するという結論と軌を一にするものでない)が、そうならば、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとする主張は、論理に飛躍があり、到底採用できない。 3 理由B2についての小括 前記1(1)及び(2)、前記2(1)及び(2)によれば、本件の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明2及び3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものと認められる。 前記1(3)及び(4)、前記2(3)及び(4)によれば、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明2及び3が発明の詳細な説明に記載したものと認められる。 以上によれば、理由B2には理由がない。 第6 理由B3についての判断 次いで、理由B3(明確性要件違反)の有無を判断する。 1 本件発明1について (1)明確性要件についての判断 以下、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明1が明確であるか否かについて検討する。 ア 本件発明1を特定する発明特定事項の記載は、いずれも明確である。 イ 本件発明1の発明特定事項である「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」との記載は、それ自体で明確であり、熱伝達抑制シートに含まれる撥液性物質の表面張力は、熱伝達抑制シートが介在される電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいことが、明確に把握できると認められる。 ウ 前記ア及びイに加えて、本件発明1はその範囲が明確であるから、本件発明1は明確であると認められる。 (2)明確性要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明1の明確性要件について、以下のとおり主張する。 「要するに、請求項1において表面張力で特定される撥液性物質は、比較対象とする電解液が明確にされておらず、唯一例示されるジメチルカーボネートの表面張力との関係において矛盾する範囲を包含しているので、結果として、撥液性物質が不明確となり、請求項1に係る発明は不明確である。」(申立書Bの21頁) 以下、当該主張について検討する。 本件発明1において、比較対象とする電解液は、熱伝達抑制シートが介在される電池セルに含まれる電解液であることが、明確に特定されている。 また、電解液として、例えばジメチルカーボネート(甲B5によれば、その表面張力は、31.92mN/mである)を用いる場合、撥液性物質としては、その表面張力がジメチルカーボネートの表面張力より小さいもの、すなわち、その表面張力が31.92mN/mより小さいものを用いることになるが、このことは、本件発明9の発明特定事項である「前記撥液性物質の表面張力は、45mN/m以下」と何ら矛盾しない。 したがって、当該主張は採用できない。 2 本件発明3について (1)明確性要件についての判断 以下、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明3が明確であるか否かについて検討する。 ア 本件発明3を特定する発明特定事項の記載は、いずれも明確である。 イ 本件発明3の発明特定事項である「疎水性シリカ」との記載は、一般に使用されている技術用語であり、出願時の技術常識を考慮すれば、これを明確に把握できると認められる。 ウ 前記ア及びイに加えて、本件発明3はその範囲が明確であるから、本件発明3は明確であると認められる。 (2)明確性要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明3の明確性要件について、以下のとおり主張する。 「要するに、技術常識に照らしても、いかなる「疎水性シリカ」が、請求項1で特定する「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する」及び「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」を充足するのかが明確ではない。」(申立書Bの22頁) 以下、当該主張について検討する。 前記第5の2(2)のとおり、疎水性シリカのうち、その表面張力が水及び電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいものが、本件発明3の発明特定事項である「前記撥液性物質は疎水性シリカである」を充足することは、明らかである。 したがって、当該主張は採用できない。 3 本件発明4について (1)明確性要件についての判断 以下、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明4が明確であるか否かについて検討する。 ア 本件発明4を特定する発明特定事項の記載は、いずれも明確である。 イ 本件発明4の発明特定事項である「無機粒子を含み」との記載は、それ自体で明確であり、熱伝達抑制シートがさらに無機粒子を含むことが明確に把握できると認められる。 ウ 本件発明4の発明特定事項である「前記撥液性物質は」「熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面」「の少なくとも一部に付着している」との記載は、それ自体で明確であり、撥液性物質は前記無機粒子の表面の少なくとも一部に付着していることが、明確に把握できると認められる。 エ 前記ア~ウに加えて、本件発明4はその範囲が明確であるから、本件発明4は明確であると認められる。 (2)明確性要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明4の明確性要件について、以下のとおり主張する。 「ここで、請求項4に係る発明は、請求項1に係る熱伝達抑制シート(必須構成要素は、繊維と撥液性物質)に対して、さらなる構成要件として、「無機粒子」を含むことを特定しているのか、さらには無機粒子が撥液性物質の場合を含んでいるのか不明である。」(申立書Bの23頁) 「ところで、請求項4で特定している撥液性物質の存在態様(『熱伝達抑制シートの表面、熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面、及び熱伝達抑制シートの内部における前記繊維の表面の少なくとも一部に付着している』)のうち、「前記無機粒子の表面に付着している」の「前記無機粒子」は、撥液性物質が無機粒子である場合に、撥液性物質をさしているのか、撥液性物質でない無機粒子をさしているのか不明確である(このことは、後述する新規性、進歩性に影響を与える)。 ひいては撥液性物質である無機粒子の場合、請求項4の『無機粒子を含む』は、さらなる構成要素として無機粒子を含むことを意味するのか否か不明である。 このように、請求項4の無機粒子は、請求項7のシリカエアロゲル(疎水性のシリカエアロゲルの場合)との関係において不明確であり、かかる事項は特許発明の技術的範囲の画定、新規性、進歩性の判断とも大きくかかわる事項である。 よって、請求項4の無機粒子は、撥液性物質とが同一物質の場合を含んでいるのか、換言すると無機粒子の一部が撥液性物質の場合を含んでいるのか否かが不明であるから、結果として、請求項4、7は、不明確である。」(申立書Bの24~25頁) 以下、当該主張について検討する。 前記(1)イのとおり、本件発明4は、本件発明1に対して、さらなる構成要件として、「無機粒子を含」むことを特定していることは明らかである。そして、撥液性物質である無機粒子は、無機粒子である以上、当該無機粒子に包含されることは明らかであり、すなわち、本件発明4の「無機粒子」は、無機粒子の一部が撥液性物質の場合を含むことは明らかである。 また、本件発明4で特定される撥液性物質の存在態様のうち、「前記無機粒子の表面に付着している」の「前記無機粒子」は、前記(1)ウのとおり、その表面の少なくとも一部に撥液性物質が付着しているから、撥液性物質が無機粒子である場合には、当該撥液性物質である無機粒子が付着している別の無機粒子(なお、当該「別の無機粒子」が撥液性物質に該当するかどうかは問わない)を意味することは、明らかである。 さらに、本件発明4の「無機粒子」は、本件発明7の「シリカエアロゲル」を包含していることは明らかである。 したがって、当該主張は採用できない。 4 本件発明7について (1)明確性要件についての判断 以下、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明7が明確であるか否かについて検討する。 ア 本件発明7を特定する発明特定事項の記載は、いずれも明確である。 イ 本件発明7の発明特定事項である「乾式シリカ及びシリカエアロゲル」との記載は、それ自体で明確である。 ウ 前記ア及びイに加えて、本件発明7はその範囲が明確であるから、本件発明7は明確であると認められる。 (2)明確性要件に関する申立人Bの主張についての判断 申立人Bは、本件発明7の明確性要件について、以下のとおり主張する。 「請求項6、7の記載からは、無機粒子である「乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲル」が、撥液性物質である無機粒子に該当するのか否か不明である。かかる場合、明細書の記載を参酌することになるが、以下のように、明細書の記載に照らしても尚、不明である。」(申立書Bの23頁) 以下、当該主張について検討する。 「乾式シリカ及びシリカエアロゲル」が、その表面張力が水及び電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さいければ、撥液性物質である無機粒子に該当し、そうでなければ該当しないことは、本件の発明の詳細な説明の記載を参酌するまでもなく、明らかである。 よって、当該主張は採用できない。 5 理由B3についての小括 前記1~4によれば、本件の特許請求の範囲の記載は、本件発明1、3、4、7が明確であると認められる。 以上によれば、理由B3には理由がない。 第7 理由B1についての判断 最後に、理由B1(新規性又は進歩性)の有無を判断する。 理由B1の有無を判断するために、まず、以下の1において甲B1発明の認定を行い、以下の2において甲B2技術の認定を行う。次いで、以下の3において本件発明2と甲B1発明との対比を行い、以下の4において本件発明2と甲B1発明との相違点について判断する。次いで、以下の5において本件発明4と甲B1発明との対比を行い、以下の6において本件発明4と甲B1発明との相違点について判断する。終わりに、以下の7に小括する。 1 甲B1発明の認定 (1)甲B1の記載 甲B1には、次の事項が記載されている。なお、下線は、甲B1発明の認定に使用する箇所を示すことを目的に、当審で付した。 「【請求項1】 断熱層と、該断熱層を挟んで配置される第一基材および第二基材と、を備え、 該断熱層は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する多孔質構造体と、補強繊維と、バインダーとしての金属酸化物のナノ粒子と、を有し、500℃下で30分間保持する熱重量分析における該断熱層の質量減量率は10%以下であり、 該断熱層、該第一基材および該第二基材の積層方向を厚さ方向として、該厚さ方向に15MPaの荷重を加えて圧縮する圧縮試験を行った場合に、該圧縮試験前の厚さに対する該圧縮試験後の厚さの変化率は70%より小さいことを特徴とするバッテリーパック用断熱材。」 「【請求項13】 リチウムイオン電池からなる複数のバッテリーセルと、 隣り合う該バッテリーセル間に配置され、請求項1ないし請求項12のいずれかに記載のバッテリーパック用断熱材と、を有することを特徴とするバッテリーパック。」 「【0001】 本発明は、複数のバッテリーセルが収容されるバッテリーパックにおいて、バッテリーセル間に配置される断熱材に関する。 【背景技術】 【0002】 ハイブリッド自動車や電気自動車には、複数のバッテリーセルを収容したバッテリーパックが搭載される。バッテリーパックにおいては、複数のバッテリーセルが積層されてなるバッテリーモジュールが、積層方向の両側から締結部材により固定された状態で筐体内に収容される。例えば特許文献1には、隣り合うバッテリーセルの間に介装される複合シートが記載されている。当該複合シートは、断熱層を有し、一つのバッテリーセルの温度が上昇した際、隣接するバッテリーセルへの熱の伝達を抑制する。断熱層は、不織布にシリカキセロゲルを担時して形成されている。」 「【0016】 (2)本発明のバッテリーパックによると、隣り合うバッテリーセル間に、本発明の断熱材が介装される。前述したように、本発明の断熱材は、圧縮されても潰れにくい。したがって、本発明のバッテリーパックによると、複数のバッテリーセルが積層方向両側から加圧されていても、断熱材の断熱性が低下しにくい。また、本発明の断熱材を構成する断熱層は、断熱性だけでなく、高温下での形状保持性(耐熱性)に優れる。加えて、圧縮されても潰れにくく割れにくい(つまり、耐圧縮性に優れる)。したがって、本発明のバッテリーパックによると、一つのバッテリーセルの温度が上昇したとしても、そのバッテリーセルと隣接するバッテリーセルとの間に本発明の断熱材が介在することにより、隣接するバッテリーセル間における熱の伝達が抑制され、温度上昇の連鎖を抑制することができる。」 「【0020】 筐体10は、金属製であり箱状を呈している。複数のバッテリーセル2は、リチウムイオン電池からなる。複数のバッテリーセル2は、各々、矩形薄板状を呈しており、厚さ方向に積層されている。断熱材3は、隣り合うバッテリーセル2の間に配置されている。断熱材3は、断熱層30と第一基材31と第二基材32とを有している。 【0021】 断熱層30は、シリカエアロゲルとガラス繊維とシリカ粒子とを有している。シリカ粒子は、平均粒子径が12nmのナノ粒子である。シリカエアロゲルおよびガラス繊維は、シリカ粒子を介して結合されている。断熱層30は、厚さ2mmの矩形シート状を呈している。断熱層30を500℃下で30分間保持した場合の質量減量率は10%である。」 「【0035】 (1)断熱層 断熱層は、多孔質構造体と、補強繊維と、バインダーとしての金属酸化物のナノ粒子と、を有する。多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する。多孔質構造体の構造、形状、大きさなどは、特に限定されない。例えば、骨格をなす粒子(一次粒子)の直径は2~5nm程度、骨格と骨格との間に形成される細孔の大きさは10~50nm程度であることが望ましい。」 「【0037】 多孔質構造体の種類は特に限定されない。一次粒子として、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。なかでも化学的安定性に優れるという観点から、一次粒子がシリカである多孔質構造体が望ましい。例えば、複数のシリカ粒子が連結して骨格をなすシリカエアロゲルが挙げられる。なお、エアロゲルを製造する際の乾燥方法の違いにより、常圧で乾燥したものを「キセロゲル」、超臨界で乾燥したものを「エアロゲル」と呼び分けることがあるが、本明細書においては、その両方を含めて「エアロゲル」と称す。 【0038】 多孔質構造体は、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有する。表面に疎水部位を有すると、水分などの染み込みを抑制することができるため、細孔構造が維持され、断熱性が損なわれにくい。例えば、少なくとも表面に疎水部位を有するシリカエアロゲルは、製造過程において、疎水基を付与するなどの疎水化処理を施して製造することができる。」 「【0040】 補強繊維は、多孔質構造体の周りに物理的に絡み合って存在し、多孔質構造体の脱落を抑制すると共に、成膜性および耐熱性を向上させる。補強繊維の種類は特に限定されないが、高温下で使用した際に有機成分の分解、劣化を抑制するという観点から、無機系の繊維材料が望ましい。例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維などのセラミック繊維が好適である。」 「【0043】 金属酸化物のナノ粒子は、多孔質構造体、補強繊維などの断熱層の構成成分を結合させるバインダーである。金属酸化物の種類は特に限定されず、シリカ、チタニア、酸化亜鉛、ジルコニアなどが挙げられる。なかでも、多孔質構造体や補強繊維と相溶しやすく、安価で入手しやすいという理由から、シリカが好適である。すなわち、金属酸化物のナノ粒子はシリカ粒子であることが望ましい。」 「【0055】 (1)バッテリーパック用断熱材の製造 まず、後出の表1、表2に示す配合量(単位は質量部)にて、種々の断熱層用塗料を調製した。次に、調製した断熱層用塗料を、第一のガラスクロスの表面に塗膜厚さ2mm狙いで塗布した。そして、塗膜の上に第二のガラスクロスを重ねて積層体を形成し、それを熱風オーブンに入れて80℃で1時間保持した後、100℃に昇温して質量減少が無くなる状態まで乾燥した。このようにして、[第一のガラスクロス/断熱層/第二のガラスクロス]からなるシート状の断熱材のサンプルを製造した。第一のガラスクロスは本発明における第一基材、第二のガラスクロスは本発明における第二基材の概念に含まれる。以下、各サンプルにおける断熱層用塗料の調製方法を詳しく説明する。 【0056】 [実施例1~15、17] コロイダルシリカ(シリカ粒子の水分散液;シグマアルドリッチ社製「LUDOX(登録商標)LS」)に、増粘剤としてのポリエチレンオキサイド(住友精化(株)製「PEO(登録商標)-29」)を添加して撹拌した。続いて、シリカエアロゲルの粉砕処理品を添加して攪拌し、その後さらにガラス繊維を添加して撹拌して断熱層用塗料を調製した。なお、断熱層用塗料の粘度調整が必要な場合は、コロイダルシリカを水で希釈して使用した。シリカエアロゲルの粉砕処理品は、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)を家庭用ミキサーを用いて粉砕処理したものであり、その平均粒子径は100μmである。ガラス繊維については、日本電気硝子(株)製「チョップドストランド」の中から、アスペクト比(長さ/直径)が異なる五種類(A~E)を選んで使用した。」 「【図1】 [図:0001414226000002.jpg] 」 (2)甲B1に記載された発明 前記(1)によれば、甲B1には、次の発明(以下「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲B1発明を以下のa~fに分説し、「構成a」のようにして参照する。 「a 複数のバッテリーセルが収容されるバッテリーパックにおいて、バッテリーセル間に配置される断熱材であって、(【0001】) b 断熱材3は、断熱層30と第一基材31と第二基材32とを有しており、(【0020】) c 断熱層は、多孔質構造体と、補強繊維と、バインダーとしての金属酸化物のナノ粒子と、を有し、(【0035】) d1 多孔質構造体は、複数の粒子が連結して骨格をなし、内部に細孔を有し、表面および内部のうち少なくとも表面に疎水部位を有し、(【0035】) d2 多孔質構造体は、少なくとも表面に疎水部位を有するシリカエアロゲルであり、表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)を用い、(【0038】、【0056】) e 補強繊維は、無機系の繊維材料である、(【0040】) f 断熱材。」 2 甲B2技術の認定 甲B2には、次の技術(以下「甲B2技術」という。)が記載されている。 「CABOT社の「P200」エアロゲル粒子は、疎水性であること。」 3 本件発明2と甲B1発明との対比 本件発明2と甲B1発明とを対比する。 (1)発明特定事項1A「複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、」、発明特定事項1E「熱伝達抑制シート」について 甲B1発明の「バッテリーセル間に配置される断熱材」(構成a)が、本件発明2の「複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シート」に相当する。 (2)発明特定事項1B「無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、」「を含み、」について 甲B1発明の「断熱材3は、断熱層30」「を有しており」(構成b)、「断熱層は、」「補強繊維」「を有し」(構成c)、「補強繊維は、無機系の繊維材料である」(構成e)ものである。 そうすると、本件発明2と甲B1発明とは、「無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維」を含む点で一致する。 (3)発明特定事項1C「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質と、を含み」について ア 甲B1発明の「断熱材3は、断熱層30」「を有しており」(構成b)、「断熱層は、多孔質構造体」「を有し」(構成c)、「多孔質構造体は、」「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)を用い」る(構成d2)ものである。 イ 甲B1発明の「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」は、疎水性物質といえるが、撥水性物質とまではいえないので、撥液性物質とはいえない。そして、その表面張力が水の表面張力よりも小さいことが定かでない。 ウ ここで、甲B2技術を参酌しても、「キャボットコーポレーション製「P200」」が撥液性物質(撥水性物質)とはいえないし、その表面張力が水の表面張力よりも小さいことが定かでもない。 エ 上記ア~ウによれば、甲B1発明には「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質」を含むことが特定されていない。 (4)発明特定事項1D「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」について 上記(3)エのとおり、甲B1発明は「撥液性物質」を含むことが特定されていない。 (5)発明特定事項2A「無機粒子を含み、前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である」について ア 上記(3)アによれば、甲B1発明の「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」は、本件発明2の「無機粒子」に相当する。 イ 甲B1発明の「断熱材3は、断熱層30」「を有しており」(構成b)、「断熱層は、」「金属酸化物のナノ粒子」「を有」する(構成c)ものである。 そうすると、甲B1発明の「金属酸化物のナノ粒子」は、本件発明2の「無機粒子」に相当する。 ウ 上記ア及びイによれば、本件発明2と甲B1発明とは、「無機粒子」を含む点で一致する。 ただし、上記(3)エのとおり、甲B1発明は「撥液性物質」を含むことが特定されていない。 (6)一致点及び相違点 前記(1)~(5)によれば、本件発明2と甲B1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、 無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、 無機粒子と、を含む、 熱伝達抑制シート。」 <相違点> 本件発明2は「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質」を含むのに対し、甲B1発明は「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」を含むものの、これが「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する」か定かでなく、「撥液性物質」とはいえない点。 それに伴って、本件発明2は、 ア 「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」ものであり、 イ 「前記無機粒子の少なくとも一部が前記撥液性物質である」、 のに対して、甲B1発明は、これらについて特定されていない点。 4 本件発明2と甲B1発明との相違点についての判断 前記3(6)で示した相違点について、以下、検討する。 (1)前記3(3)イのとおり、甲B1発明の「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」は、本件発明2の「撥液性物質」に相当するとはいえないが、仮にこれを撥液性物質と対応づけたとしても、甲B1及び甲B2には、少なくとも、「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」の表面張力をバッテリーセルに含まれる電解液の表面張力よりも小さくすることについて、記載も示唆もされていないし、技術常識でもない。 したがって、当該相違点は、当業者といえども、甲B1発明及び技術常識・周知技術(甲B2技術)から容易に想到し得るとは認められない。 (2)申立人Bは、当該相違点のうち、特にアについて、以下のとおり主張する。 「ここで、表面張力に関するもう一つの要件である『前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい』ことについては、前記エで述べたように不明確な要件である。一方、本件特許明細書の記載を前提とするならば、「疎水性と認識されているシリカ」は、『前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい』という特性を充足することになる。」(申立書Bの27~28頁) 以下、当該主張について検討する。 申立人Bは、本件発明2に対して、明確性要件違反を理由とした申立てを行っていないから、これに基づく主張はそもそも採用できない。なお、上記第6の1のとおり、本件発明1は明確である。 また、「疎水性と認識されているシリカ」が「前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」とは限らないことは、技術常識からして自明であって、本件の発明の詳細な説明にも、「疎水性と認識されているシリカ」が「前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」という特性を充足することは、当然記載されていない。 以上のとおり、当該主張は失当であり、到底採用できない。 (3)本件発明2と甲B1発明との相違点についての小括 前記(1)及び(2)によれば、本件発明2と甲B1発明との相違点は、甲B1発明及び技術常識・周知技術(甲B2技術)からから容易に想到し得るものではない。 また、当該相違点は、その他の証拠及び技術常識によっても容易に想到し得るものではない。 5 本件発明4と甲B1発明との対比 本件発明4と甲B1発明とを対比する。 (1)発明特定事項1A~1Eについては、上記3(1)~(4)のとおりである。 (2)発明特定事項4A「無機粒子を含み、」について 上記3(5)のとおりである。 (3)発明特定事項4B「前記撥液性物質は、熱伝達抑制シートの表面、熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面、及び熱伝達抑制シートの内部における前記繊維の表面の少なくとも一部に付着している」について 上記3(3)エのとおり、甲B1発明は「撥液性物質」を含むことが特定されていない。 (4)一致点及び相違点 前記(1)~(3)によれば、本件発明4と甲B1発明の一致点及び相違点は、以下のとおりである。 <一致点> 「複数の電池セルの間に介在される熱伝達抑制シートであって、 無機繊維及び有機繊維から選択された少なくとも1種の繊維と、 無機粒子と、を含む、 熱伝達抑制シート。」 <相違点> 本件発明4は「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する撥液性物質」を含むのに対し、甲B1発明は「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」を含むものの、これが「水の表面張力よりも小さい表面張力を有する」か定かでなく、「撥液性物質」とはいえない点。 それに伴って、本件発明4は、 ア 「前記撥液性物質の表面張力は、前記電池セルに含まれる電解液の表面張力よりも小さい」ものであり、 イ 「前記撥液性物質は、熱伝達抑制シートの表面、熱伝達抑制シートの内部における前記無機粒子の表面、及び熱伝達抑制シートの内部における前記繊維の表面の少なくとも一部に付着している」、 のに対して、甲B1発明は、これらについて特定されていない点。 6 本件発明4と甲B1発明との相違点についての判断 前記5(4)で示した相違点について、以下、検討する。 (1)前記3(3)イのとおり、甲B1発明の「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」は、本件発明2の「撥液性物質」に相当するとはいえないが、仮にこれを撥液性物質と対応づけたとしても、甲B1及び甲B2には、少なくとも、「表面および内部に疎水部位を有するシリカエアロゲル(キャボットコーポレーション製「P200」)」の表面張力をバッテリーセルに含まれる電解液の表面張力よりも小さくすることについて、記載も示唆もされていないし、技術常識でもない。 したがって、当該相違点は、当業者といえども、甲B1発明及び技術常識・周知技術(甲B2技術)から容易に想到し得るとは認められない。 (2)申立人Bは、当該相違点のうち、特にアについて、特段主張していない。 なお、「一方、甲1の実施例について、シリカエアロゲルは疎水性であり、前記1で検討したように、撥液性物質に対応させることができる。」(申立書Bの29頁)があるが、そうであるとしても、上記(1)のとおりであるから、当該相違点は、当業者といえども、甲B1発明及び技術常識・周知技術(甲B2技術)から容易に想到し得るとは認められない。 (3)本件発明4と甲B1発明との相違点についての小括 前記(1)及び(2)によれば、本件発明4と甲B1発明との相違点は、甲B1発明及び技術常識・周知技術(甲B2技術)からから容易に想到し得るものではない。 また、当該相違点は、その他の証拠及び技術常識によっても容易に想到し得るものではない。 7 理由B1についての小括 (1)前記4(3)によれば、本件発明2は、甲B1発明であるとは認められず、また、当業者が甲B1発明及び技術常識・周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 そして、本件発明3、本件発明2及び3を直接的又は間接的に引用する本件発明12は、本件発明2の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項を備えるものである。 そうすると、本件発明3、本件発明2及び3を直接的又は間接的に引用する本件発明12と甲B1発明とは、少なくとも前記3(6)に示した相違点を有し、当該相違点については前記4のとおりであるから、本件発明3、本件発明2及び3を直接的又は間接的に引用する本件発明12も、甲B1発明であるとは認められず、また、当業者が甲B1発明及び技術常識・周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 (2)前記6(3)によれば、本件発明4は、甲B1発明であるとは認められず、また、当業者が甲B1発明及び技術常識・周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 そして、本件発明6~8、本件発明4、6~8を直接的又は間接的に引用する本件発明12は、本件発明4の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項を備えるものである。 そうすると、本件発明6~8、本件発明4、6~8を直接的又は間接的に引用する本件発明12と甲B1発明とは、少なくとも前記5(4)に示した相違点を有し、当該相違点については前記6のとおりであるから、本件発明6~8、本件発明4、6~8を直接的又は間接的に引用する本件発明12も、甲B1発明であるとは認められず、また、当業者が甲B1発明及び技術常識・周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。 (3)前記(1)及び(2)によれば、理由B1には理由がない。 第8 むすび 前記第4~第7によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700471

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