特許異議申立
2022-701135
熱伝達抑制シート及び組電池
- 審判番号
- 2022-701135
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-214812
- 登録番号
- 7074925
- 請求日
- 2022年11月17日
- 審決日
- 2024年03月19日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】イビデン株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】古谷 多賀志
- 【異議申立人代理人】神谷 惠理子
- 審判長/審判官
- 審判長 猪瀬 隆広
- 審判官 衣鳩 文彦
- 審判官 土居 仁士
- 分類
- P1651.113-YAA(F16L) / P1651.121-YAA(F16L) / P1651.536-YAA(F16L) / P1651.537-YAA(F16L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第113条、特許法第120条の5第7項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7074925号発明「熱伝達抑制シート及び組電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7074925号の特許請求の範囲を令和6年2月26日に提出された手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3~12〕について訂正することを認める。
特許第7074925号の請求項1~3、7、8、11及び12に係る特許を維持する。
同請求項4~6、9及び10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯及び証拠方法
1 手続の経緯
特許第7074925号の請求項1~12に係る特許についての出願は、令和3年12月28日に出願したものであって、令和4年5月16日にその特許権の設定登録がされ、同年5月24日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。
令和4年11月17日 :特許異議申立人 古谷 多賀志(以下「申立
人」という。)による請求項1~12に係る
特許に対する特許異議の申立て
令和5年 2月20日付け:取消理由通知書
4月28日 :訂正請求書・意見書(特許権者)の提出
6月 5日付け:訂正拒絶理由通知書
8月 2日付け:取消理由通知書(決定の予告)
10月 6日 :訂正請求書・意見書(特許権者)の提出
11月16日 :意見書(申立人)
令和6年 1月24日付け:訂正拒絶理由通知書
2月26日 :手続補正書・意見書(特許権者)の提出
なお、令和5年4月28日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなされる。
2 証拠方法
(1)申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2010-155733号公報
甲第2号証:国際公開第2019/187313号
甲第3号証:特開2012-140310号公報
甲第4号証:特開2010-106381号公報
甲第5号証の1:化学大辞典3、縮刷版第24刷、p.890-891、p.901-902、p.940
甲第5号証の2:化学便覧 応用化学編I、第5版第2刷、p.115-116
甲第5号証の3:セラミックス辞典、第2版、P.276-277、P.337
甲第6号証の1:化学大辞典6、縮刷版第24刷、p.696-697
甲第6号証の2:化学大辞典4、縮刷版第24刷、p.870
甲第6号証の3:Silica Aerogel Composites、p.87及び部分訳
甲第6号証の4:高純度シリカの製造と応用、普及版、p.115
甲第6号証の5:「ナノマテリアル情報提供シート」、非晶質コロイダルシリカ、日産化学株式会社(webページ)、https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/files/nanomaterial/SiO3_2018.pdf
甲第6号証の6:「商品・技術紹介 開発中シリカ製品の紹介」CREATIVE No.8 2007、p.62-71
甲第6号証の7:粉体工学ハンドブック、初版、p.663
甲第7号証の1:やさしい産業用繊維の基礎知識、初版、p.152-154、p.159、p.210-211
甲第7号証の2:「人造鉱物繊維の概要」ニチアス技術時報 No.382 2018年3号、p.12-17
甲第7号証の3:「生体溶解性ファイバー製断熱材について」あいち産業科学技術総合センターニュース2019年3月号、p.5
甲第7号証の4:高純度シリカの製造と応用、普及版、p.194
甲第7号証の5:新・繊維総合辞典、初版、p.149-150、p.214-215、p.227
甲第8号証の1:機能性粘土素材の最新動向、普及版、p.20-24
甲第8号証の2:セピオライトの特性(webページ)、https://www.kusumoto.co.jp/product/coating-wt/filler/sepiolite/about-sepiolite.html
甲第9号証:シラスバルーン(マールライトR)(webページ)、http://www.marunakahakudo.co.jp/balloon/index.html(なお、上付きの「R」は、丸囲みの「R」を表記したものである。)
甲第10号証の1:化学大辞典、第1版 第6刷、p.468、p.1659
甲第10号証の2:ガラスの百科事典、初版、p.503-504、p.584-585
甲第11号証:新日本サーマルセラミックス株式会社の会社情報・沿革(webページ)、https://www.thermalceramics.co.jp/company/history.html
甲第12号証:特許第7074925号の図1-3
(2)申立人が令和5年11月16日に提出した意見書に添付した証拠及び参考資料は、以下のとおりである。
甲第13号証:先端材料シリーズ繊維と材料、第1版、目次、p.54-56、p.133
甲第14号証:「ガラス繊維,ロックウールおよびセラミックファイバーの製造と利用」エアロゾル研究 Vol.6 No.1、p.4-9
甲第15号証:「炭化ケイ素繊維」成形加工 第33巻第4号、p.121-124
甲第16号証:「吹き付け材中のアスベストの判定方法」鹿児島県工業技術センター研究報告 No.1(1987)、p.45-60
参考資料1:やさしい産業用繊維の基礎知識、初版、目次
参考資料2:「人造鉱物繊維の概要」ニチアス技術時報 No.382 2018年3号、p.12-17
(3)特許権者は、令和5年4月28日に提出した意見書、同日に提出した訂正請求書及び同年10月6日に提出した訂正請求書に添付して、乙第1号証を提出している。
乙第1号証:「エアロゾル研究 繊維状粒子の環境測定(Measurements of Airborne Fibrous Particles)」、Vol.6、No.1(1991)、p.17-24
以下、「甲第1号証」~「甲第16号証」を、それぞれ「甲1」~「甲16」という。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求書の補正の適否
令和5年10月6日に提出された訂正請求書(以下、単に「訂正請求書」という。)及びこれに添付した訂正特許請求の範囲は、令和6年2月26日に提出された手続補正書(以下、単に「手続補正書」という。)により補正された。
そして、手続補正書による補正は、令和6年1月24日付け訂正拒絶理由通知書において通知した、請求項9に係る訂正である訂正事項8について、「訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号~第4号に掲げる何れの事項を目的とするものでもない」ものであり、「本件訂正による訂正後の請求項3~12についての訂正は認められない。」との訂正拒絶理由に対し、請求項9の削除、及び請求項9の削除に伴い整合をとるための補正であり、訂正請求書の請求の趣旨の要旨を変更するものではないから、手続補正書による訂正請求書の補正を認める。
また、手続補正書による補正により、同年1月24日付け訂正拒絶理由通知書の訂正拒絶理由は解消した。
2 訂正の適否
前記1のとおり、手続補正書による訂正請求書の補正は認められるから、訂正請求書の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、手続補正書により補正された訂正請求書の記載からみて、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3の「請求項1又は2」を「請求項2」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7の「請求項1~6のいずれか1項」を「請求項1~3のいずれか1項」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「前記第1の無機粒子が、シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、カルシア粒子及びマグネシア粒子から選択される少なくとも1種からなる粒子である、」と記載されているのを、「前記第1の無機粒子が、シリカ粒子である、」に訂正する(請求項8を直接的又は間接的に引用する請求項11及び12も同様に訂正する)。
なお、補正前の訂正請求書3頁1~2行目には、「する(請求項8を直接的又は間接的に引用する請求項9、11及び12も同様に訂正する)。」と記載されているが、請求項9は、本件訂正請求により削除されることから、当該記載は、「する(請求項8を直接的又は間接的に引用する請求項11及び12も同様に訂正する)。」の明らかな誤記であると認める。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8の「請求項1~7のいずれか1項」を「請求項1~3及び7のいずれか1項」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10を削除する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11の「請求項1~10のいずれか1項」を「請求項1~3、7及び8のいずれか1項」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項12の「請求項1~11のいずれか1項」を「請求項1~3、7、8及び11のいずれか1項」に訂正する。
(12)一群の請求項について
訂正事項1~11に係る訂正前の請求項3~12について、請求項4~12は請求項3を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。
3 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用するものであるところ、請求項1を引用しないものとするための訂正であり、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用するものであるところ、請求項1を引用しないものとするための訂正であり、訂正前の請求項3に係る発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」ということがある。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用するものであるところ、請求項1を引用しないものとすることで、訂正前の請求項3の記載を減縮するものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(2)訂正事項2~4、8及び9
ア 訂正の目的について
訂正事項2~4、8及び9は、それぞれ訂正前の請求項4~6、9及び10を削除するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2~4、8及び9は、それぞれ請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2~4、8及び9は、それぞれ請求項を削除するものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(3)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項7における「請求項1~6のいずれか1項」との記載を、訂正事項2~4により訂正前の請求項4~6を削除したことに伴い、訂正後の請求項7において「請求項1~3のいずれか1項」と訂正するものであり、訂正事項5は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、訂正事項2~4により訂正前の請求項4~6を削除したことに伴い、請求項7の記載を整合させるために行うものであり、訂正前の請求項7に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、訂正事項2~4により訂正前の請求項4~6を削除したことに伴い、請求項7の記載を整合させるために行うものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(4)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の請求項8に択一的に記載されていた酸化亜鉛粒子、カルシア粒子及びマグネシア粒子を削除するものであり、訂正事項6は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、訂正前の請求項8に択一的に記載されていた酸化亜鉛粒子、カルシア粒子及びマグネシア粒子を削除するものであり、訂正前の請求項8に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、訂正前の請求項8に択一的に記載されていた酸化亜鉛粒子、カルシア粒子及びマグネシア粒子を削除することで、訂正前の請求項8の記載を減縮するものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(5)訂正事項7
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、訂正前の請求項8における「請求項1~7のいずれか1項」との記載を、訂正事項2~4により訂正前の請求項4~6を削除したことに伴い、訂正後の請求項8において「請求項1~3及び7のいずれか1項」と訂正するものであり、訂正事項7は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項7は、訂正事項2~4により訂正前の請求項4~6を削除したことに伴い、請求項8の記載を整合させるために行うものであり、訂正前の請求項8に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、訂正事項2~4により訂正前の請求項4~6を削除したことに伴い、請求項8の記載を整合させるために行うものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(6)訂正事項10
ア 訂正の目的について
訂正事項10は、訂正前の請求項11における「請求項1~10のいずれか1項」との記載を、訂正事項2~4、8及び9により訂正前の請求項4~6、9及び10を削除したことに伴い、訂正後の請求項11において「請求項1~3、7及び8のいずれか1項」と訂正するものであり、訂正事項10は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項10は、訂正事項2~4、8及び9により訂正前の請求項4~6、9及び10を削除したことに伴い、請求項11の記載を整合させるために行うものであり、訂正前の請求項11に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項10は、訂正事項2~4、8及び9により訂正前の請求項4~6、9及び10を削除したことに伴い、請求項11の記載を整合させるために行うものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(7)訂正事項11
ア 訂正の目的について
訂正事項11は、訂正前の請求項12における「請求項1~11のいずれか1項」との記載を、訂正事項2~4、8及び9により訂正前の請求項4~6、9及び10を削除したことに伴い、訂正後の請求項12において「請求項1~3、7、8及び11のいずれか1項」と訂正するものであり、訂正事項11は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」、及び同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項11は、訂正事項2~4、8及び9により訂正前の請求項4~6、9及び10を削除したことに伴い、請求項12の記載を整合させるために行うものであり、訂正前の請求項12に記載された発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項11は、訂正事項2~4、8及び9により訂正前の請求項4~6、9及び10を削除したことに伴い、請求項12の記載を整合させるために行うものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
(8)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項1~12についてされているので、訂正事項1~11に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、訂正事項1~11に係る訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔3~12〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2の3のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~3、7、8、11及び12に係る発明は、手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3、7、8、11及び12に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、本件訂正後の請求項1~3、7、8、11及び12に係る発明を、それぞれ「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)
【請求項1】
ガラス転移点が800℃以下である第1の無機繊維及びガラス転移点が800℃以下である第1の無機粒子のうち少なくとも一方と、
ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維と、
ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機粒子と、
有機バインダと、
を含む、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記第1の無機繊維の平均繊維径が、前記第2の無機繊維の平均繊維径よりも大きい、
請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記第1の無機繊維の平均繊維長が、前記第2の無機繊維の平均繊維長よりも大きい、
請求項2に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
前記第1の無機繊維が、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、リフラクトリーセラミック繊維、バサルトファイバ及びソルブルファイバから選択される少なくとも1種からなる繊維である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記第1の無機粒子が、シリカ粒子である、請求項1~3及び7のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
(削除)
【請求項10】
(削除)
【請求項11】
前記第1の無機繊維及び前記第1の無機粒子のうち少なくとも一方の含有量が、前記有機バインダの含有量以上である、請求項1~3、7及び8のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項12】
複数の電池セルを直列又は並列に接続した組電池において、
請求項1~3、7、8及び11のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを用いた、組電池。
第4 決定の予告の概要
決定の予告において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(実施可能要件)
本件訂正前の以下の請求項に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1~12
本件訂正前の本件発明において、「第1の無機粒子」は、「シリカ粒子、酸化亜鉛粒子、カルシア粒子及びマグネシア粒子」から選択され、「第2の無機繊維」は、「アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、カーボン繊維、炭化ケイ素繊維、鉱物系繊維及びジルコニア繊維」から選択され、「第2の無機粒子」は、「チタニア粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子及びチタン酸バリウム粒子」から選択されるものであるから、「第1の無機粒子」、「第2の無機繊維」、及び「第2の無機粒子」の「ガラス転移点」の温度をどのように特定するか、発明の詳細な説明を見ても当業者が理解することができず、どのような無機繊維、無機粒子が、本件発明の「第1の無機粒子」、「第2の無機繊維」、及び「第2の無機粒子」に該当するか理解できないから、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(2)請求項4、5、及び請求項6~12
発明の詳細な説明において、捲縮度を10%以上とする技術、あるいは樹枝状又は縮れ状とする技術について記載されておらず、捲縮度10%以上、あるいは樹枝状又は縮れ状となっている無機繊維について具体例も示されていないので、発明の詳細な説明には、請求項4、5に係る発明を、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
請求項4、5を引用する請求項6~12も同様である。
2 取消理由2(サポート要件)
本件訂正前の以下の請求項に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項3~5、及び請求項6~12
請求項1を引用する請求項3~5に係る発明は、第1の無機繊維が太径であり、第2の無機繊維が細径であることに限定されないことから、これらの発明は、発明の詳細な説明に記載されていない事項を含むものである。
請求項3~5を引用する請求項6~12についても同様である。
3 取消理由3(明確性)
本件訂正前の以下の請求項に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(1)請求項1~12
「ガラス転移点」の温度について、発明の詳細な説明の記載を見ても、「ガラス転移点」の温度の定義、特定が不明であるため、軟化点又は融点が公知の無機粒子、無機繊維が、本件発明の「第1の無機粒子」、「第2の無機繊維」、及び「第2の無機粒子」に該当するか否か、特定困難である。
(2)請求項6、及び請求項7~12
請求項6において、「結晶質の繊維」が「ガラス転移点」をもつという技術常識はないから、「第2の無機繊維」と「ガラス転移点」の温度との関係が明確でない。
請求項6を引用する請求項7~12も同様である。
(3)請求項7、9、及び請求項8、請求項10~12
請求項9で挙げられる「アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維」は、いずれも「鉱物繊維」に分類されるものであり、同様に列挙される「鉱物系繊維」との関係が不明確である。
また、請求項7で第1の無機繊維として挙げられる「ロックウール、スラグウール、バサルトファイバ」も鉱物繊維に含まれるものであり、請求項9で特定される「鉱物系繊維」と、請求項7のこれらの無機繊維との関係が不明確である。
さらに、「鉱物系繊維」について、本件明細書にはどのようなものが含まれるかの定義がなく、「鉱物系繊維」に含まれる範囲が明確でない。
請求項7、9を引用する請求項8、10~12についても、同様である。
(4)請求項8、及び請求項9~12
請求項8において「第1の無機粒子」として特定される粒子のうち、「酸化亜鉛粒子、カルシア粒子、マグネシア粒子」と「ガラス転移点」の温度との関係が明確でない。
請求項8を引用する請求項9~12も同様である。
(5)請求項9、及び請求項10~12
請求項9において「第2の無機繊維」として特定される繊維のうち、「アルミナ繊維」、「ジルコニア繊維」と「ガラス転移点」の温度との関係が明確でない。
請求項9を引用する請求項10~12も同様である。
(6)請求項10、及び請求項11~12
請求項10において「第2の無機粒子」として特定される「チタニア粒子、ジルコニア粒子、ジルコン粒子及びチタン酸バリウム粒子」と「ガラス転移点」の温度との関係が明確でない。
請求項10を引用する請求項11~12も同様である。
第5 決定の予告についての当審の判断
1 取消理由1(実施可能要件)
(1)前記第4の1(1)について
明細書の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かという観点から判断すべきものである。
そして、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法2条3項1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
本件発明1は、第1の無機繊維及び第2の無機粒子を、ガラス転移点が800℃以下であることにより特定し、第2の無機繊維及び第2の無機粒子を、ガラス転移点が1000℃以上であることにより特定するものである。
ここで、「ガラス転移温度またはガラス転移点」は、「ガラスを加熱したときに、熱容量(図参照)、比容、熱膨張率などの性質の温度依存性が、ある温度範囲で急に変化する現象」が「起こる温度」であり、「ガラス転移温度以下の状態をガラス状態(glassy state)」という(甲10の1の468頁「ガラス転移」の項参照)から、ガラス転移点は、ガラス状態となりうる物質において定義できる特有の温度を意味することは、技術常識といえる。
本件明細書には、第1の無機繊維の種類として、「ガラス転移点が800℃以下であれば特に制限はない」(【0033】)、第1の無機粒子の種類として、「ガラス転移点が800℃以下であれば特に制限はない」(【0035】)、第2の無機繊維の種類として、「ガラス転移点が1000℃以上であれば特に制限はなく」(【0037】)、第2の無機粒子の種類として、「ガラス転移点が800℃以下であれば特に制限はない」(【0039】)と記載されるものであり、提出された全ての証拠をみても、ガラス転移点を有する無機粒子及び無機繊維が存在しないことが、技術常識ともいえないから、ガラス転移点を有する無機粒子及び無機繊維が存在することが推認される。
そして、本件発明において、第1、第2の無機粒子、及び第1、第2の無機繊維について、ガラス転移点という指標に基づいて、無機粒子及び無機繊維を選択することに、過度の試行錯誤を有するとはいえないから、本件明細書の記載は、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載がされていると認められる。
(2)前記第4の1(2)について
本件訂正請求において請求項4及び5は削除されたことにより、当該取消理由は解消した。
2 取消理由2(サポート要件)
(1)前記第4の2(1)について
本件訂正請求において、請求項3は請求項2のみを引用するものに訂正されたことにより、請求項3は、第1の無機繊維が太径であり、第2の無機繊維が細径であるものに限定され、当該取消理由は解消した。
3 取消理由3(明確性)
(1)前記第4の3(1)について
「ガラス転移温度またはガラス転移点」は、「ガラスを加熱したときに、熱容量(図参照)、比容、熱膨張率などの性質の温度依存性が、ある温度範囲で急に変化する現象」が「起こる温度」であり、「ガラス転移温度以下の状態をガラス状態(glassy state)」という(甲10の1の468頁「ガラス転移」の項参照)から、ガラス転移点は、ガラス状態となりうる物質において定義できる特有の温度を意味することは、技術常識といえる。
そして、本件訂正により、本件発明において、第1、第2の無機繊維、第1、第2の無機粒子について、軟化点又は融点が公知の無機粒子、無機繊維を特定していた矛盾する特定事項は削除されたことから、本件発明は、明確である。
よって、当該取消理由は解消した。
(2)前記第4の3(2)について
本件訂正請求により本件訂正前の請求項6は削除され、当該取消理由は解消した。
(3)前記第4の3(3)について
当該取消理由は、本件訂正前の請求項9に記載されていた「鉱物系繊維」との関係で本件訂正前の請求項7の記載が不明確であるとしたものである。
そして、本件訂正請求により本件訂正性前の請求項9は削除されたことにより、本件訂正前の請求項9との関係で不明確とされた、請求項7の記載は、明確なものとなったことから、当該取消理由は解消した。
(4)前記第4の3(4)について
本件訂正請求により、請求項8において「酸化亜鉛粒子、カルシア粒子、マグネシア粒子」は削除され、「第1の無機粒子」は、シリカ粒子であることが特定された。
そして、「第1の無機粒子」として、「ガラス転移点」を特定できる「シリカ粒子」であることを特定する請求項8の記載は明確である。
よって、当該取消理由は解消した。
(5)前記第4の3(5)について
本件訂正請求により本件訂正前の請求項9は削除され、当該取消理由は解消した。
(6)前記第4の3(6)について
本件訂正請求により本件訂正前の請求項10は削除され、当該取消理由は解消した。
4 小括
以上のとおり、決定の予告において通知した取消理由は解消した。
第6 決定の予告で採用しなかった特許異議申立理由について
1 決定の予告で採用しなかった特許異議申立理由の概要
(1)申立理由1-1(甲1を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1、8、9、11及びこれを引用する請求項12に係る発明は、甲1に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件訂正前の請求項1、8、9、11及びこれを引用する請求項12に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術、技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由1-2(甲2を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1~7、9、11及びこれを引用する請求項12に係る発明は、甲2に記載された発明と同一であって、特許法29条1項3号に該当するから、当該請求項に係る特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し取り消すべきものである。
また、本件訂正前の請求項1~7、9、11及びこれを引用する請求項12に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し取り消すべきものである。
(3)申立理由1-3(甲3を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1、8、10及びこれを引用する請求項12に係る発明は、甲3に記載された発明及び周知技術、技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し取り消すべきものである。
(4)申立理由1-4(甲4を主たる証拠とした進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1、7、9及びこれを引用する請求項12に係る発明は、甲4に記載された発明及び周知技術、技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し取り消すべきものである。
2 主たる証拠である甲号証の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている(下線は強調のために付与したものである。以下同様。)。
「【0001】
本発明は、無機質成形体に関する。」
「【0008】
このような状況下、本発明は、炉材として用いたときに、熱容量および熱伝導率が低く、十分な強度を有するとともに、アルカリガスに対する耐性が高い無機質成形体を提供することを目的とするものである。」
「【0027】
無機バインダーとしては、特に制限されず、例えば、アニオン性のコロイダルシリカ、カチオン性のコロイダルシリカ等のコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、ジルコニアゾル、チタニアゾル、アルミナゾル、ベントナイト等を挙げることができるが、これらの無機バインダーのうち、コロイダルシリカが好ましい。」
「【0075】
得られた無機質成形体は、例えば、ボード状、シート状、ブロック状の形状を有するものであることが好ましい。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
以下に示す方法により、実施例1に係る無機質成形体を作製した。
(1)スラリー作製工程
水に、アルミナ繊維(電気化学工業社製「B97N5」、アルミナ含有割合97質量%、シリカ含有割合3質量%、アルミナ中に占めるαアルミナ含有割合50~59%であるもの)70質量部、アルミナ粒子(日本軽金属社製「A11」、平均粒径50μmであるもの)30質量部、無機バインダーであるコロイダルシリカ(日本化学工業社製「シリカドール30」、固形分30質量%の懸濁液、固形分の平均粒径15nm、pH10.0)を固形分換算で8質量部、澱粉(日澱化学社製、「ペトロサイズJ」)3質量部及び高分子凝集剤であるポリアクリルアミド(荒川化学工業社製「ポリストロン311」、カチオン性、不揮発分10質量%、pH4.2~4.8、粘度500~1500cps)3質量部を加え、更に、スラリー濃度が2質量%となるように、水を加えて攪拌し、スラリーを作製した。
得られたスラリーのウェットボリュームを測定したところ、700mL/20gであった。
【0077】
(2)湿潤成形体作製工程
上述のようにして得たスラリーを、底部に網が設置された成形型中にスラリーを流し込み、溶媒を吸引する吸引脱水成形法により脱水成形して、得ようとする無機質成形体に相似するボード形状を有する湿潤成形体を得た。
【0078】
(3)乾燥工程
(2)で得た湿潤成形体を乾燥機により110℃で36時間乾燥処理することにより、嵩密度が100kg/m3で、アルミナ含有割合が89質量%で、厚さ25mmのボード形状の無機質成形体を得た。」
「【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、炉材として用いたときに熱容量および熱伝導率が十分に低いとともに、十分な強度を有しアルカリガスに対する耐性が高い無機質成形体を提供することができる。」
イ 甲1発明
前記アより、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「アルミナ繊維、アルミナ粒子、無機バインダーであるコロイダルシリカ、澱粉及び高分子凝集剤であるポリアクリルアミドを加え、スラリーを作製し、(【0076】)
スラリーを、脱水成形して、ボード形状を有する湿潤成形体を得て、(【0077】)
乾燥処理することにより得た、ボード形状の無機質成形体。「【0078】)」
(2)甲2
ア 甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
「[0002] 大出力が要求される電源装置は、多数の電池を直列や並列に接続している。たとえば、モータで走行する電気自動車、あるいはモータとエンジンの両方で走行するハイブリッド自動車等の自動車、自然エネルギーで充電される蓄電装置、停電のバックアップ電源に使用される電源装置等は、複数の電池セルを積層して電池ブロックとしている。電池ブロックは、電池セルを絶縁して積層している。直列に接続される電池セルに電位差が発生するからである。電池セルを絶縁するために、電池セルを絶縁フィルムで被覆し、さらに電池セルの間に絶縁セパレータを配置している。(特許文献1参照)」
「[0005] 本発明は、従来のこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的の一つは、簡単な構造で電池セルの熱暴走の連鎖を効果的に阻止できる技術を提供することにある。」
「[0011] 本発明のある態様の電源装置は、以下の構成により特定されてもよい。電源装置は、角形である複数の電池セル1と、複数の電池セル1を積層状態に固定している固定部材6と、電池セル1の積層面11Aに挟まれて隣接する電池セル1を断熱してなる断熱シート2とを備えており、断熱シート2を、無機繊維を立体的に方向性なく集合して無機繊維の間に微細な空隙を設けている無機繊維シート2Xとしている。」
「[0013] 断熱シート2は、無機繊維の隙間に無機粒子を充填してなる無機繊維シート2Xとしてもよい。以上の電源装置は、無機繊維の隙間に充填している無機粒子によって圧縮強度が向上するので、電池セルが熱暴走して膨張する状態においても優れた断熱特性を維持して熱暴走の誘発を防止できる特徴がある。それは、無機繊維の隙間に充填している無機粒子が繊維の隙間を確保して、微細な空気が押し潰されるのを防止するからである。この特性は熱暴走の誘発に特に大切である。それは、熱暴走した電池セルが膨張して断熱シートを強く加圧するので、この状態で押し潰されると空隙の空気量が減少して断熱特性が低下するからである。
[0014] 無機粒子は、無機中空粒子又は無機発泡粒子としてもよい。以上の電源装置は、無機繊維の隙間に充填している無機中空粒子や無機発泡粒子によって圧縮強度が向上するので、熱暴走して膨張した電池セルに加圧されて断熱特性が低下するのを防止できることに加えて、さらに無機粒子が中空あるいは発泡状態にあるので、さらに無機粒子自体が含有する空気によって断熱特性が向上して、熱暴走の誘発をさらに有効に防止できる特徴がある。」
「[0019] 本発明の実施の形態に係る電源装置を図1~図3に示す。これらの図において、図1は電源装置の斜視図、図2は図1の電源装置の分解斜視図、図3は電池セルと断熱シートの積層構造を示す分解斜視図をそれぞれ示している。この電源装置100は、主としてハイブリッド自動車や電気自動車等の電動車両に搭載されて、車両の走行モータに電力を供給して、車両を走行させる電源に使用される。ただ、本発明の電源装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車以外の電動車両に使用でき、また電動車両以外の大出力が要求される用途、例えば蓄電装置用の電源としても使用できる。
[0020] 図1~図3に示す電源装置100は、角形である複数の電池セル1と、複数の電池セル1を積層してなる電池積層体9を積層状態に固定している固定部材6と、電池セル1の積層面11Aに挟まれて隣接する電池セル1を断熱してなる断熱シート2とを備えている。図に示す電源装置100は、隣接する電池セル1を断熱シート2を介して積層して電池積層体9とし、この電池積層体9を固定部材6で締結して電池ブロック10としている。電源装置100は、図示しないが、電池ブロック10を冷却プレートの上に載せて、各電池セル1を冷却プレートで強制冷却することができる。」
「[0028](断熱シート2)
断熱シート2は、図2及び図3に示すように、電池セル1の積層面11Aに挟まれて隣接する電池セル1を断熱する。断熱シート2は、無機繊維を立体的に方向性なく集合して、無機繊維の間には微細な空隙を設けている無機繊維シート2Xである。無機繊維は、無機物からなる繊維であって断熱特性に優れた繊維が使用される。無機繊維は、たとえば、ケイ酸マグネシウム(セピオライト)、ロックウール、セラミック繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム等が単一であるいは複数の繊維を混合して使用される。ケイ酸マグネシウム(セピオライト)は、成分をタルクと同じケイ酸マグネシウムとするが、タルクとは分子構造が異なってミクロの微細な孔があって優れた断熱特性を示し、また、表面には、叩解されたパルプのように無数の微細な繊維があるので、バインダーを使用することなく湿式抄紙してシート状にできるので、無機繊維として適している。また、ロックウールは、主成分が二酸化ケイ素と酸化カルシウムで優れた断熱性と断熱特性を示す不燃材で、しかも安価に多量生産しているので原料コストを低減できる。」
「[0030] 無機繊維シート2Xに添加される無機粒子には、シリカやアルミナなどの無機質材の粒子などを使用できるが、好ましくはシラスバルーンなどの無機中空粒子や、無機発泡を粒状に破砕した微粒子が適している。無機中空粒子にシラスバルーンなどの多孔質シリカ粒子を使用して無機中空粒子を無機繊維の隙間に充填してなる断熱シート2は、とくに優れた断熱特性を実現する。この断熱シート2は、粒径を数μm~数百μmとするシラスバルーンを多孔質シリカ粒子に使用する。シラスバルーンは、シリカ(SiO2)を主成分とするシラスを1000℃で急速加熱して発泡させて製造されることから、極めて優れた耐熱性があり、さらに、気泡を抱いた微細な粒子であって、熱伝導率を約0.06~0.08W/mkとする優れた断熱特性を示す。このことから、シラスバルーンを含有する断熱シート2も、含有するシラスバルーンの優れた耐熱性によって、電池セル1が高温に加熱される状態にあっても優れた断熱特性を維持し、さらに、熱暴走して高温に発熱する電池セル1の熱エネルギーを効果的に遮断して、隣接する電池セル1の熱暴走の誘発を効果的に阻止する。断熱シート2は、無機繊維を立体的に集合している多孔質基材の隙間に多孔質シリカ粒子を充填して製作される。無機繊維シート2Xは、無機中空粒子等を添加して断熱特性を改善できるが、多すぎると強度が低下するので、添加量は、たとえば30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは約10重量%以下とする。
[0031] 熱可塑性樹脂や無機粒子は、湿式抄紙法で無機繊維シート2Xを製造する工程で抄紙スラリーに添加される。熱可塑性樹脂は抄紙用スラリーに繊維の状態で添加される。繊維の状態で抄紙用スラリーに添加され熱可塑性樹脂は、湿式抄紙されてシート状に加工された後、加熱・加圧されて溶融して無機繊維を交点で結合することができる。」
「実施例1
[0059] 以上の電源装置に使用する断熱シート2は、以下のようにして製作される。
80重量%のケイ酸マグネシウム(セピオライト)に、10重量%のガラス繊維と、10重量%のナイロン繊維を懸濁し、分散して抄紙用スラリーとし、これを湿式抄紙してシート状とし、これを乾燥した後熱プレスして厚さを0.7mm、重量を5gとする無機繊維シート2Xを製造し、得られた無機繊維シート2Xの両面に、厚さ50μmのポリエチレンフィルムを接着して断熱シート2を製作する。」
イ 甲2発明
(ア)甲2には、実施例1として、ケイ酸マグネシウム(セピオライト)に、ガラス繊維と、ナイロン繊維を懸濁し、無機繊維シート2Xを製造することが記載([0059])されている。そして、無機繊維シート2Xの無機繊維は、「無機繊維は、たとえば、ケイ酸マグネシウム(セピオライト)、ロックウール、セラミック繊維、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム等が単一であるいは複数の繊維を混合して使用される。」([0028])とあり、上記実施例1の、ケイ酸マグネシウム(セピオライト)及びガラス繊維は、[0028]で列挙される無機繊維であるから、甲2には、ケイ酸マグネシウム(セピオライト)及びガラス繊維を、無機繊維として無機繊維シート2Xに用いることが開示されているといえる。
(イ)甲2発明
前記(ア)及びアより、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「電池セル1の積層面11Aに挟まれて隣接する電池セル1を断熱してなる断熱シート2の無機繊維シート2Xであって、断熱シート2を、無機繊維の間に微細な空隙を設けている無機繊維シート2Xとし、([0011]、[0013])
無機繊維は、ケイ酸マグネシウム(セピオライト)及びガラス繊維を混合して使用され、([0028]、前記(ア))
ケイ酸マグネシウム(セピオライト)に、ガラス繊維と、ナイロン繊維を懸濁し、無機繊維シート2Xを製造するものであり、([0059])
断熱シート2は、無機繊維の隙間に無機粒子を充填してなる無機繊維シート2Xとしてもよく、([0013])
無機繊維シート2Xに添加される無機粒子には、シリカやアルミナなどの無機質材の粒子などを使用でき、シラスバルーンなどの無機中空粒子や、無機発泡を粒状に破砕した微粒子が適しており、無機中空粒子にシラスバルーンなどの多孔質シリカ粒子を使用して無機中空粒子を無機繊維の隙間に充填してなる断熱シート2は、とくに優れた断熱特性を実現する、([0030])
無機繊維シート2X」
(3)甲3
ア 甲3の記載事項
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、断熱材の製造方法に関する。」
「【0070】
(実施例1)
まず、99重量部の水に、カチオン化澱粉(敷島スターチ製のマーメイド350)1重量部を加え、約60分間よく攪拌することにより、カチオン化澱粉を1重量%に希釈した希釈水を調製した。
【0071】
次に、槽に9900重量部の水を張り、上記工程で調製した希釈水を添加し、攪拌した後、生体溶解性ファイバ(ニチアス株式会社製 BIOOL、SiO2:73重量%、CaO:25重量%、Al2O3:2重量%、MgO:1重量%未満、平均繊維径:4.0μm)100重量部を添加し、1分間よく攪拌した。
【0072】
次に、シリカゾル(日産化学工業社製のスノーテックス30(SiO2濃度:30重量%))を16.7重量部(固形分換算で5.0重量部)加え、再び、1分間よく攪拌した。
【0073】
次に、カチオン性凝集剤(荒川化学工業社製のポリストロン705)を20重量部(固形分換算で2.0重量部)加え、1分間攪拌した後、アニオン性凝集剤(明成化学工業社製のファイレックスM)を3重量部(固形分換算で0.3重量部)加え、1分間攪拌し、その後10分間放置し、凝集体を作製した。
【0074】
続いて、形成された凝集体を含むスラリーを脱水用の型に流し込み、脱水成形を行うことにより水分を含む成形断熱体を作製した。
この後、水分を含む成形断熱体を105℃で乾燥させた後、切削加工を行い断熱材を製造した。添加したカチオン化澱粉等の添加物質の重量(重量部)を表1に示す。」
「【0096】
(実施例4)
まず、990重量部の水に、カチオン化澱粉(敷島スターチ製のマーメイド350)10重量部を加え、約60分間よく攪拌することにより、カチオン化澱粉を1重量%に希釈した希釈水を調製した。
【0097】
次に、槽に9000重量部の水を張り、上記工程で調製した希釈水を添加し、攪拌した後、ロックウール(太平洋マテリアル株式会社製 太平洋ミネラルファイバ、SiO2:42.3重量%、CaO:35.5重量%、Al2O3:15.5重量%、MgO6.4重量%、Fe2O3:0.6重量%、平均繊維径:5.0μm)100重量部を添加し、1分間よく攪拌した。
【0098】
次に、酸化チタン(キンセイマティック社製のルチルフラワーS)を10重量部加え、1分間よく攪拌した。
【0099】
次に、シリカゾル(日産化学工業社製のスノーテックス30(SiO2濃度:30重量%))を16.7重量部(固形分換算で5.0重量部)加え、再び、1分間よく攪拌した。
【0100】
次に、カチオン性凝集剤(荒川化学工業社製のポリストロン705)を20重量部(固形分換算で2.0重量部)加え、1分間攪拌した後、アニオン性凝集剤(明成化学工業社製のファイレックスM)を3重量部(固形分換算で0.3重量部)加え、1分間攪拌し、その後10分間放置し、凝集体を作製した。
続いて、形成された凝集体を含むスラリーを脱水用の型に流し込み、脱水成形を行うことにより水分を含む成形断熱体を作製した。
この後、水分を含む成形断熱体を105℃で乾燥させた後、切削加工を行い断熱材を製造した。添加したカチオン化澱粉等の添加物質の重量(重量部)を表3に示す。」
「【0119】
(実施例10~12及び比較例6)
実施例10~12及び比較例6では、無機粒子として酸化チタンを使用し、無機繊維として実施例1で使用したものと同様の生体溶解性ファイバを使用した。
酸化チタン及びロックウール等を含む添加物質の重量を変えた他は、実施例4と同様にして、カチオン化澱粉、酸化チタン、シリカゾル、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤を加え、水中に投入した無機繊維を凝集させ、脱水成形することにより断熱材を製造した。添加したカチオン化澱粉等の添加物質の重量(重量部)を表7に示す。なお、実施例10~12では、酸価チタンの添加量を10重量部~70重量部の範囲で変化させており、比較例6では、カチオン化澱粉を添加していない。」
イ 甲3発明
前記アより、甲3には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「無機粒子として酸化チタンを使用し、無機繊維として生体溶解性ファイバを使用し、カチオン化澱粉、酸化チタン、シリカゾル、カチオン性凝集剤及びアニオン性凝集剤を加え、水中に投入した無機繊維を凝集させ、脱水成形することにより製造した、断熱材(【0119】)」
(4)甲4
ア 甲4の記載事項
甲4には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、断熱材、耐熱濾過材、耐熱電気絶縁材、耐熱シール材、耐熱パッキン材、耐熱緩衝材、耐熱クッション材、耐熱触媒担持材等として使用される耐熱セラミックシート、特に、常温~1600℃の任意の温度領域で使用し得る汎用性の高い耐熱セラミックシートに関する。」
「【0018】
また、本願において、「(薄片状無機粒子が)自己造膜性を有する」とは、薄片状無機粒子を単独で、水中で分散させて乾燥固化させたときに自ら造膜する性質を言う。つまり、水中で分散させ分散液を得る際に他の添加材を併用することで乾燥固化後に造膜する性質をもたらすものは多いが、このように他の材料の力を借りて造膜するのではなく、薄片状無機粒子単独で造膜するものを指す。また、本願において、薄片状無機粒子とは、薄片状、板状、鱗片状の無機粒子を指す。
【0019】
このような自己造膜性を有する薄片状無機粒子は、薄片状無機粒子を水中で分散させると、容易に薄片状無機粒子がばらけて一次粒子近くまでミクロに分散した粘稠な液体を形成し、乾燥固化後に、ばらけていた薄片状無機粒子の薄片状一次粒子同士が再び層状に重なり合うことで互いに強く結び付いて強固な膜を形成するものである。また、前記膜は、薄片状無機粒子のミクロな薄片状一次粒子が層状に重なってできていることから、乾燥しても脆くならず柔軟性がある。
【0020】
前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子は、2~15質量%程度の濃度で水に分散した状態で粘稠な液体となり(チキソトロピー性を有するものも含む)、50~200℃程度の乾燥固化後に割れの無い強固な膜を形成する。この作用によって、繊維材料同士を室温から強固に結着させることができる。また、前記膜は柔軟性があるので、乾燥後に脆くならず割れを生じにくい上、耐熱セラミックシートも硬くならず可撓性を維持するため、シート原反のロール巻きが可能で二次加工時や製品組立時や施工時や使用時等における曲げ等の操作や曲面施工にも対応可能である。
【0021】
前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子としては、ベントナイト、スメクタイト、マイカ、シリカ等が挙げられる。特に、少量の添加で高いバインダー効果が得られ、湿式抄造時の歩留まりが良好である点から、合成マイカ、鱗片状シリカのような鱗片状無機粒子の使用が好ましい。尚、ベントナイト、スメクタイト、マイカの耐熱温度は900℃程度であり、シリカの耐熱温度は1000℃程度である。前記鱗片状シリカとしては、例えば、BET法による比表面積当たりの水酸基の量が20μmol/m2以上、レーザー散乱法による平均粒径が2μm以下、アスペクト比が10以上の鱗片状シリカの使用が好ましい。」
「【0032】
次に、本発明の実施例について比較例とともに詳細に説明する。
(実施例1)
自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてマイカを固形分として5質量%(コープケミカル社製合成マイカ:ソマシフ MEB-3)となるようにミキサに添加して水と共に混合・分散させた後、セラミック繊維として融点1600℃、平均繊維径4μmのシリカ-アルミナ繊維85質量%と、ガラス短繊維として軟化点600℃、平均繊維径0.8μmのCガラス短繊維10質量%(日本板硝子社製CMLF208)を添加し、混合・分散させた。次に高分子凝集剤を適量添加して、手抄き用角型シートマシンにて湿式抄造してシート化し、180℃で乾燥して、耐熱セラミックシートを得た。得られた耐熱セラミックシートの微細構造を観察したところ、前記セラミック繊維等の繊維材料が前記自己造膜性を有する薄片状無機粒子によって結着されていた。」
イ 甲4発明
前記アより、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてマイカ、セラミック繊維としてシリカ-アルミナ繊維、ガラス短繊維としてCガラス短繊維を添加し、高分子凝集剤を適量添加して、湿式抄造して得た、耐熱セラミックシート(【0032】)」
3 当審の判断
(1)申立理由1-1(甲1を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「アルミナ繊維」は、無機繊維であるから、「第2の無機繊維」と称することができる。
甲1発明の「アルミナ粒子」は、無機粒子であるから、「第2の無機粒子」と称することができる。
甲1発明の「無機バインダーであるコロイダルシリカ」は、無機粒子であるから、「第1の無機粒子」と称することができる。
そして、甲1発明の「澱粉及び高分子凝集剤であるポリアクリルアミド」は、本件発明1の「有機バインダ」に相当する。
甲1発明の「ボード形状の無機質成形体」は、「熱容量および熱伝導率が低」い(【0008】)から、熱伝達を抑制するものであり、本件発明1の「熱伝達抑制シート」とは、「熱伝達抑制体」である点で共通するといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点、及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「第1の無機粒子と、
第2の無機繊維と、
第2の無機粒子と、
有機バインダと、
を含む、熱伝達抑制体」
<相違点>
相違点1:第1の無機粒子について、本件発明1は、「ガラス転移点が800℃以下である」のに対して、甲1発明は、「コロイダルシリカ」であり、ガラス転移点が800℃以下であるか不明である点
相違点2:第2の無機繊維について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲1発明は、「アルミナ繊維」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点3:第2の無機粒子について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲1発明は、「アルミナ粒子」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点4:熱伝達抑制体について、本件発明1は「熱伝達抑制シート」であり「シート」の形状であるのに対して、甲1発明は、「無機質成形体」であり「ボード形状」である点
相違点の判断
事案に鑑み、相違点2について、検討する。
アルミナ繊維は、甲7の4によると、融点(軟化点)が2040℃の繊維であることが認められる。
しかしながら、アルミナ繊維がガラス転移点を有する繊維であるとの技術常識はない。
そして、甲1において、アルミナ繊維の代わりに用いることができる繊維は何ら記載されておらず、さらに、提出されたその他の証拠を見ても、甲1発明において、アルミナ繊維に代えて、「ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維」を用いることの動機付けはない。
よって、相違点2は、実質的な相違点であり、また、甲1発明において、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
申立人は、申立書において、「アルミナ繊維(甲7の4からアルミナ繊維の軟化点2040℃)」(申立書48頁最終行から49頁1行)であるから、甲1発明の「アルミナ繊維」が、本件発明1の「ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維」であり、さらに、「本件の発明の詳細な説明には、無機粒子、無機繊維について、第1、第2を区別するためのガラス転移点800℃、1000℃についての臨界的意義が示されていないことはいうまでもなく、前記ウで述べたように、ガラス転移点の特定方法も不明である。要するに、粒子、繊維についての第1、第2の区別は、第1無機粒子及び第1無機繊維がバインダとして作用できる温度及び使用温度において、第2無機粒子及び第2無機繊維は、繊維又は粒子形状を保持しているという程度の意味にすぎない。」(申立書49頁)旨主張する。
ここで、ガラス転移点が、「ガラスを加熱したときに、熱容量(図参照)、比容、熱膨張率などの性質の温度依存性が、ある温度範囲で急に変化する現象」が「起こる温度」であり、「ガラス転移温度以下の状態をガラス状態(glassy state)」という(甲10の1、468頁「ガラス転移」の項参照)から、ガラス転移点は、ガラス状態となりうる物質において定義できる特有の温度を意味することは、技術常識といえる。
そして、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維」と特定され、第2の無機繊維についてガラス転移点を有する無機繊維であることが特定されるものであるから、「粒子、繊維についての第1、第2の区別は、第1無機粒子及び第1無機繊維がバインダとして作用できる温度及び使用温度において、第2無機粒子及び第2無機繊維は、繊維又は粒子形状を保持しているという程度の意味にすぎない。」とすることはできない。
そして、甲1発明の「アルミナ繊維」が、本件発明1の「ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維」に当たらないことは、上記のとおりである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明でなく、また、甲1発明及び周知技術、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
イ 本件発明8、11及び12について
本件発明8、11及び12は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、前記アの相違点1~4を少なくとも含むものであり、相違点2は、実質的な相違点であり、また、甲1発明において、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件発明8、11及び12は、前記アと同様に、甲1発明でなく、甲1発明及び周知技術、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
ウ 小括
以上のとおり、申立理由1-1は理由がない。
(2)申立理由1-2(甲2を主たる証拠とした新規性、進歩性欠如)
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ケイ酸マグネシウム(セピオライト)」及び「ガラス繊維」は、いずれも無機繊維であり、それぞれ、「第2の無機繊維」及び「第1の無機繊維」と称することができる。
甲2発明において、添加される無機粒子である「シリカやアルミナ」又は「シラスバルーン」は、「第2の無機粒子」と称することができる。
甲2発明の「ナイロン繊維」は、本件発明1の「有機バインダ」に相当する。
甲2発明の「無機繊維シート2X」は、「電池セル1を断熱してなる」ものであるから、本件発明1の「熱伝達抑制シート」に対応する。
そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点、及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「第1の無機繊維と、
第2の無機繊維と、
第2の無機粒子と、
有機バインダと、
を含む、熱伝達抑制シート」
<相違点>
相違点1:第1の無機繊維について、本件発明1は、「ガラス転移点が800℃以下である」のに対して、甲2発明は、「ガラス繊維」であり、ガラス転移点が800℃以下であるか不明である点
相違点2:第2の無機繊維について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲2発明は、「ケイ酸マグネシウム(セピオライト)」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点3:第2の無機粒子について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲2発明は、「シリカやアルミナ」又は「シラスバルーン」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点の判断
事案に鑑み、相違点2について、検討する。
セピオライトは、甲8の2によると、融点は1550℃の繊維であることが認められる。
しかしながら、セピオライトがガラス転移点を有する繊維であるとの技術常識はない。
そして、提出されたその他の証拠を見ても、甲2発明において、セピオライトに代えて、「ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維」を用いることの動機付けはない。
よって、相違点2は、実質的な相違点であり、また、甲2発明において、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明でなく、また、甲2発明及び周知技術、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
イ 本件発明2、3、7、11及び12について
本件発明2、3、7、11及び12は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、前記アの相違点1~3を少なくとも含むものであり、相違点2は、実質的な相違点であり、また、甲2発明において、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件発明2、3、7、11及び12は、前記アと同様に、甲2発明でなく、甲2発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
ウ 小括
以上のとおり、申立理由1-2は理由がない。
(3)申立理由1-3(甲3を主たる証拠とした進歩性欠如)
ア 本件発明1について
本件発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「生体溶解性ファイバ」は、無機繊維として使用するから「第2の無機繊維」と称することができる。
甲3発明の「酸化チタン」は、無機粒子として使用するから「第2の無機粒子」と称することができる。
甲3発明の「カチオン化澱粉」は、本件発明1の「有機バインダ」に相当する。
甲3発明の「シリカゾル」は、シリカナノ粒子が分散したコロイド溶液であることが技術常識であるから、「第1の無機粒子」と称することができる。
甲3発明の「断熱材」と、本件発明1の「熱伝達抑制シート」とは、「断熱材」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点、及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「第1の無機粒子と、
第2の無機繊維と、
第2の無機粒子と、
有機バインダと、
を含む、断熱材」
<相違点>
相違点1:第1の無機粒子について、本件発明1は、「ガラス転移点が800℃以下である」のに対して、甲3発明は、「シリカゾル」、すなわち「シリカナノ粒子が分散したコロイド溶液」であり、ガラス転移点が800℃以下であるか不明である点
相違点2:第2の無機繊維について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲3発明は、「生体溶解性ファイバ」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点3:第2の無機粒子について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲3発明は、「酸化チタン」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点4:熱伝達抑制材について、本件発明1は、「熱伝達抑制シート」であるのに対して、甲3発明は、どのような用途、形状か不明である点
相違点の判断
事案に鑑み、相違点3について、検討する。
酸化チタンについて検討すると、甲5の3には、「斜方晶系」、「正方晶」であることが記載されている。そして、酸化チタンがガラス転移点を有する粒子であるとの技術常識はない。
そして、提出されたその他の証拠を見ても、甲3発明において、酸化チタンに代えて、「ガラス転移点が1000℃以上の無機粒子」を用いることの動機付けはない。
よって、甲3発明において、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明及び周知技術、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
イ 本件発明8及び12について
本件発明8及び12は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、前記アの相違点1~4を少なくとも含むものであり、甲3発明において、相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件発明8及び12は、前記アと同様に、甲3発明及び周知技術、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
ウ 小括
以上のとおり、申立理由1-3は理由がない。
(4)申立理由1-4(甲4を主たる証拠とした進歩性欠如)
ア 本件発明1について
本件発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「セラミック繊維としてシリカ-アルミナ繊維」及び「ガラス短繊維としてCガラス短繊維」は、いずれも無機繊維であり、それぞれ、「第2の無機繊維」及び「第1の無機繊維」と称することができる。
甲4発明において、「自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてマイカ」は、「第2の無機粒子」と称することができる。
甲4発明の「高分子凝集剤」は、本件発明1の「有機バインダ」に相当する。
甲4発明の「耐熱セラミックシート」は、本件発明1の「熱伝達抑制シート」に対応する。
そうすると、本件発明1と甲4発明との一致点、及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「第1の無機繊維と、
第2の無機繊維と、
第2の無機粒子と、
有機バインダと、
を含む、熱伝達抑制シート」
<相違点>
相違点1:第1の無機繊維について、本件発明1は、「ガラス転移点が800℃以下である」のに対して、甲4発明は、「ガラス短繊維としてCガラス短繊維」であり、ガラス転移点が800℃以下であるか不明である点
相違点2:第2の無機繊維について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲4発明は、「セラミック繊維としてシリカ-アルミナ繊維」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点3:第2の無機粒子について、本件発明1は、「ガラス転移点が1000℃以上である」のに対して、甲4発明は、「自己造膜性を有する薄片状無機粒子としてマイカ」であり、ガラス転移点が1000℃以上であるか不明である点
相違点の判断
事案に鑑み、相違点2について、検討する。
シリカ-アルミナ繊維は、甲4の【0032】によると、融点1600℃の繊維であることが認められる。
しかしながら、シリカ-アルミナ繊維がガラス転移点を有する繊維であるとの技術常識はない。
そして、提出されたその他の証拠を見ても、甲4発明において、シリカ-アルミナ繊維に代えて、「ガラス転移点が1000℃以上である第2の無機繊維」を用いることの動機付けはない。
よって、甲4発明において、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明及び周知技術、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
イ 本件発明7及び12について
本件発明7及び12は、本件発明1の発明特定事項を全て含む発明であるから、前記アの相違点1~3を少なくとも含むものであり、甲4発明において、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、本件発明7及び12は、前記アと同様に、甲4発明及び周知技術、技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。
ウ 小括
以上のとおり、申立理由1-4は理由がない。
4 まとめ
以上のとおり、前記1(1)~(4)の申立理由1-1~1-4は理由がない。
第7 令和5年11月16日に提出した申立人の意見書における意見について
(1)申立人は、訂正違反として、意見書において、「訂正事項8は、出願当初明細書に記載された事項の範囲内でされたものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるから、係る訂正は認められるべきではない。」旨、主張する(意見書4頁~10頁、26頁)。
しかしながら、訂正請求書は、手続補正書により補正され、請求項9は削除されたので、当該主張は採用できない。
(2)申立人は、取消理由1(実施可能要件)について、「請求項1で特定する技術的特徴を有する第2の無機繊維、第2の無機粒子について、発明の詳細な説明には具体例が一切記載されておらず、技術常識を参酌しても、いかる無機繊維、無機粒子を用いれば、本発明の課題を解決できるのか不明である。」旨、主張する(意見書19頁~25頁、26頁)。
しかしながら、前記第5の1(1)のとおりであり、本件明細書の記載は、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載がされていると認められる。
(3)申立人は、取消理由2(サポート要件)について、「請求項1で特定する技術的特徴を有する第2の無機繊維、第2の無機粒子について、発明の詳細な説明には具体例が一切記載されておらず、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるものとはいえない。」旨、主張する(意見書25頁~26頁)。
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
本件発明は、「熱伝達抑制シートに要求されている保形性や強度、圧縮特性などを更に向上させるとともに、電池セルが熱暴走を起こしたとしても、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などの低下を防ぐことを目的とする」(【0007】)ものであり、「また、電池セルが熱暴走を起こして有機バインダが消失したとしても、ガラス転移点が比較的低い第1の無機繊維や第1の無機粒子がガラス化(軟化)し、消失した有機バインダに代替して結着剤として機能する。それとともに、ガラス転移点が比較的高い第2の無機繊維や第2の無機粒子が熱伝達抑制シート内に残存する。そのため、シート全体としての保形性や強度、圧縮特性などが維持される」(【0024】)ものである。
そして、ガラス転移点を有する無機粒子及び無機繊維について、本件発明の、第1、第2の無機粒子、及び第1、第2の無機繊維を、ガラス転移点という指標に基づいて選択することに、過度の試行錯誤を有するとはいえない。
したがって、本件発明は、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(4)申立人は、取消理由4(明確性)において、「請求項1、9は不明確である。」旨、主張する(意見書11頁~19頁、27頁)。
しかしながら、訂正請求書は、手続補正書により補正され、請求項9は削除された。
そして、本件訂正により、本件発明において、第1、第2の無機繊維、第1、第2の無機粒子について、矛盾する特定事項は解消されたことから、請求項1の記載は、明確である。
第8 むすび
以上のとおりであるから、決定の予告に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3、7、8、11及び12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~3、7、8、11及び12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件請求項4~6、9及び10に係る特許は、訂正により削除された。これにより、特許異議の申立てについて、請求項4~6、9及び10に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701135