特許異議申立
2024-700321
熱伝達抑制シート及び組電池
- 審判番号
- 2024-700321
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-086809
- 登録番号
- 7364742
- 請求日
- 2024年04月05日
- 審決日
- 2025年01月30日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】イビデン株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人栄光事務所
- 【異議申立人】古谷 多賀志
- 【異議申立人代理人】神谷 惠理子
- 審判長/審判官
- 審判長 高野 洋
- 審判官 上田 翔太
- 審判官 衣鳩 文彦
- 分類
- P1651.113-YAA(H01M) / P1651.121-YAA(H01M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7364742号発明「熱伝達抑制シート及び組電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7364742号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5~11〕、〔3、4、12〕について訂正することを認める。
特許第7364742号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7364742号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和4年5月27日に出願され、令和5年10月10日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月18日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、特許異議申立人 古谷 多賀志(以下「申立人」という。)により請求項1~11を対象として特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年 4月 5日 :特許異議申立書
令和6年 5月 7日付け:手続補正指令書(方式)、審尋(申立人宛て)
令和6年 5月15日 :回答書(申立人)
令和6年 5月21日 :手続補正書(方式)(申立人)
令和6年 6月27日付け:取消理由通知書
令和6年 8月30日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
令和6年10月 9日 :意見書(申立人)
令和6年10月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和6年12月26日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
なお、令和6年8月30日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。
また、令和6年12月26日に提出された訂正請求書による訂正については、すでに申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、訂正の請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、事件において提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体が判断したことにより、特許法120条の5第5項ただし書に規定された「特別の事情があるとき」に該当するから、申立人に再度の意見書の提出の機会を与えていない。
以下、令和6年8月30日に提出された訂正請求書による訂正を「先の訂正」といい、令和6年10月30日付け取消理由通知書(決定の予告)を「決定の予告」といい、令和6年12月26日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1~4のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シートであって、複数の三次元的に連結した空孔を有し、前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されていることを特徴とする、熱伝達抑制シート。」とあるのを、
「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シートであって、複数の三次元的に連結した空孔を有し、前記無機粒子の合計の含有量は、前記熱伝達抑制シートの全質量に対して70質量%以上95質量%以下であり、前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されており、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されることにより形成された繊維束を有することを特徴とする、熱伝達抑制シート。」(下線は訂正部分)に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2及び5~11も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に
「厚さ方向に直交する第1面及び第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。」とあるのを、
「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シートであって、複数の三次元的に連結した空孔を有し、前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されており、厚さ方向に直交する第1面及び第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層を有することを特徴とする、熱伝達抑制シート。」に訂正する(請求項3を直接的又は間接的に引用する請求項4及び12も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項11に
「複数の電池セルと、請求項1~10のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。」とあるうち、請求項1、2又は5~10を引用するものについて、
「複数の電池セルと、請求項1、2又は5~10のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項11に
「複数の電池セルと、請求項1~10のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。」とあるうち、請求項3又は4を引用するものについて、
「複数の電池セルと、請求項3又は4に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。」とし、新たに請求項12とする。
(5)一群の請求項について
本件訂正は、本件訂正前の請求項1~11についての訂正であり、本件訂正前の請求項2~11は請求項1の記載を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正請求書による訂正請求は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
また、訂正後の請求項3、4及び12については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがされている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「熱伝達抑制シート」について、「前記無機粒子の合計の含有量は、前記熱伝達抑制シートの全質量に対して70質量%以上95質量%以下であり」ということ及び「複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されることにより形成された繊維束を有す」るということを特定することにより、「熱伝達抑制シート」の構成を限定するものといえる。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮(特許法120条の5第2項ただし書1号)を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アで示したとおり、訂正事項1は「熱伝達抑制シート」の構成を限定するための訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」ということがある。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1により追加された「前記無機粒子の合計の含有量は、前記熱伝達抑制シートの全質量に対して70質量%以上95質量%以下であり」との事項は、明細書等の【0080】の「無機粒子4の合計の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい」、「無機粒子4の合計の含有量は、熱伝達抑制シート10の全質量に対して95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい」との記載に基づくものであると認められる。
また、訂正事項1により追加された「複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されることにより形成された繊維束を有す」るとの事項は、明細書等の【0045】の「熱伝達抑制シート40は、複数の有機繊維1同士の少なくとも一部が溶着部5により溶着されることにより形成された繊維束6を有する」との記載に基づくものであると認められる。
したがって、訂正事項1は、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
エ 独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~11に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の適用はない。
オ 小括
前記ア~エのとおりであるから、訂正事項1に係る訂正は、適法なものと認められる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項3について、請求項間の引用関係を解消し独立形式請求項に改めるものである。
したがって、訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(特許法120条の5第2項ただし書4号)を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アで示したとおり、訂正事項2は訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項3を独立形式請求項に改めるための訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アで示したとおり、訂正事項2は訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項3を独立形式請求項に改めるための訂正であるから、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
エ 独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~11に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項2に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の適用はない。
オ 小括
前記ア~エのとおりであるから、訂正事項2に係る訂正は、適法なものと認められる。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1~10のいずれか1項を引用するものであるところ、請求項3又は4を引用しないものとするものである。
したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮(特許法120条の5第2項ただし書1号)を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アで示したとおり、訂正事項3は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1~10のいずれか1項を引用するものであるところ、請求項3又は4を引用しないものとするための訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アで示したとおり、訂正事項3は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1~10のいずれか1項を引用するものであるところ、請求項3又は4を引用しないものとするための訂正であるから、訂正前の請求項11の範囲を減縮するものであり、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
エ 独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~11に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項3に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の適用はない。
オ 小括
前記ア~エのとおりであるから、訂正事項3に係る訂正は、適法なものと認められる。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1~10のいずれか1項を引用するものであるところ、請求項1、2及び5~10を引用しないものとして新たに請求項12とするものである。
したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮(特許法120条の5第2項ただし書1号)を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
前記アで示したとおり、訂正事項4は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1~10のいずれか1項を引用するものであるところ、請求項1、2及び5~10を引用しないものとするための訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法120条の5第9項で準用する同法126条6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
前記アで示したとおり、訂正事項4は、訂正前の請求項11が訂正前の請求項1~10のいずれか1項を引用するものであるところ、請求項1、2及び5~10を引用しないものとするための訂正であるから、訂正前の請求項11の範囲を減縮するものであり、明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項に適合する。
エ 独立特許要件
本件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~11に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項4に関して、特許法120条の5第9項で読み替えて準用する同法126条7項の適用はない。
オ 小括
前記ア~エのとおりであるから、訂正事項4に係る訂正は、適法なものと認められる。
3 本件訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
また、訂正後の請求項3、4及び12について、別の訂正単位とする求めがされている。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、5~11〕、〔3、4、12〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
訂正後の本件特許の請求項1~12に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1~12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シートであって、
複数の三次元的に連結した空孔を有し、
前記無機粒子の合計の含有量は、前記熱伝達抑制シートの全質量に対して70質量%以上95質量%以下であり、
前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されており、
複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されることにより形成された繊維束を有することを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【請求項2】
さらに、無機繊維を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項3】
無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シートであって、
複数の三次元的に連結した空孔を有し、
前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されており、
厚さ方向に直交する第1面及び第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層を有することを特徴とする、熱伝達抑制シート。
【請求項4】
さらに、無機繊維を有し、
前記繊維層は、前記無機繊維を含むことを特徴とする、請求項3に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記有機繊維は第1の有機材料からなり、前記溶着部は第2の有機材料を含み、
前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも低いことを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記第2の有機材料の融点は、前記第1の有機材料の融点よりも60℃以上低いことを特徴とする、請求項5に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記第1の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であり、
前記第2の有機材料は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン及びナイロンから選択された少なくとも1種であることを特徴とする、請求項5に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記無機粒子は、酸化物粒子、炭化物粒子、窒化物粒子及び無機水和物粒子から選択される少なくとも1種の無機材料からなる粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記無機粒子は、乾式シリカ粒子及びシリカエアロゲルから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項8に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項10】
前記無機粒子は、さらに、チタニア、ジルコン、ジルコニア、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びアルミナから選択された少なくとも1種の粒子を含むことを特徴とする、請求項9に記載の熱伝達抑制シート。
【請求項11】
複数の電池セルと、請求項1、2又は5~10のいずれか1項に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。
【請求項12】
複数の電池セルと、請求項3又は4に記載の熱伝達抑制シートを有し、前記複数の電池セルが直列又は並列に接続された、組電池。」
第4 異議申立の概要
申立人は、以下の証拠方法(甲第1号証~甲第6号証。以下、甲第1号証~甲第6号証をそれぞれ、「甲1」~「甲6」という。)を提出し、本件特許の請求項1~11に係る特許は、以下に示す理由により、取り消すべきものである旨主張する。
1 理由(新規性及び進歩性)
本件特許の請求項1~11に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当する、または、甲1に記載された発明及び甲2~甲6の記載事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
2 証拠方法
甲1 国際公開第2022/024076号
甲2 特表2013-528712号公報
甲3の1 Trevira社の「Bicomponent fibres」(webページ)、インターネット<URL:https://www.trevira.de/en/fibres/bicomponent-fibres>
甲3の2 Treviraの不織布用ステープルファイバーのカタログ(webページ)、インターネット<URL:http://www.hknonwoven.com/eng/pr/TreviraFiber.pdf>
甲4の1 粉体工学ハンドブック、初版、p.663
甲4の2 「フュームドシリカ」エアロゾル研究、Vol.5 No.1、p.32-43
甲4の3 日本アエロジル株式会社のwebページ、インターネット<URL:https://www.aerosil.jp/ja>
甲4の4 株式会社トクヤマの製品情報、乾式シリカ「レオロシール○R」(webページ)、インターネット<URL:https://www.tokuyama.co.jp/products/advanced_materials/reolosil.html>(当審注:「○R」は、○で囲まれたRの上付き文字を意味する。)
甲5 化学繊維の実際知識、第4版 第4刷、p.237-238
甲6 特開2021-34278号公報
第5 決定の予告の概要
当審において令和6年10月30日付けの取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
理由1(新規性) 本件特許の請求項1、2、5~11に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、当該請求項についての特許は、特許法29条1項の規定に違反してされたものである。
理由2(進歩性) 本件特許の請求項1、2、5~11に係る発明は、甲1発明、甲2技術及び甲5技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項についての特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。
甲1 国際公開第2022/024076号
甲2 特表2013-528712号公報
甲5 化学繊維の実際知識、第4版 第4刷、p.237-238
第6 決定の予告についての当審の判断
1 甲1の記載事項及び甲1発明
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の事項が記載されている。なお、当審訳として甲1の訳文として提出された特表2023-535480号公報の対応する記載を採用した。また、下線は強調のために当審で付した(以下同様)。
ア 1頁28行目~2頁7行目
「In one aspect of the present invention, a thermal runaway barrier is provided that is operatively adapted for being disposed between battery cells of a battery assembly and for at least significantly slowing down a thermal runaway event within the battery assembly. The thermal runaway barrier consists of or consists essentially of a single-layer of a nonwoven fibrous thermal insulation comprising a fiber matrix of inorganic fibers, thermally insulative inorganic particles dispersed within the fiber matrix, and a binder dispersed within the fiber matrix so as to hold together the fiber matrix. An optional organic encapsulation layer may also be included for encapsulating the single-layer of nonwoven fibrous thermal insulation.
In another aspect of the present invention, a battery cell module or assembly for an electric vehicle is provided. The battery cell module or assembly comprises a plurality of battery cells disposed in a housing, and a plurality of thermal runaway barriers according to the present invention. The battery cells are lined up in a row or stack, with one thermal runaway barrier being disposed between each pair of adjacent battery cells, or between a predetermined number of battery cells (e.g., after every third battery cell), or between battery modules.」
(当審訳:
本発明の一態様では、電池アセンブリの電池セル間に配置され、電池アセンブリ内の熱暴走事象を少なくとも有意に減速させるように作用可能に適合された熱暴走バリアが提供される。熱暴走バリアは、無機繊維の繊維マトリックスと、繊維マトリックス内に分散された断熱性無機粒子と、繊維マトリックス内に分散されて繊維マトリックスを一緒に保持する結合剤と、を含む不織繊維断熱材の単層からなる、又はそれらから本質的になる。任意選択の有機封入層もまた、不織繊維断熱材の単層を封入するために含まれ得る。
本発明の別の態様では、電動ビークル用の電池セルモジュール又はアセンブリが提供される。電池セルモジュール又はアセンブリは、ハウジング内に配置された複数の電池セルと、本発明による複数の熱暴走バリアと、を備える。電池セルは、1つの熱暴走バリアが隣接する電池セルの各対の間、又は所定数の電池セルの間(例えば、3つおきの電池セルの後)、又は電池モジュールの間に配置された状態で、一列に又はスタックに並べられている。)
イ 5頁25行目~6頁5行目
「Referring to FIG. 5, a conventional dry-laid manufacturing equipment and processes can be used to manufacture thermal runaway barriers 20 according to the invention. Examples of such equipment and processes can be found described in U.S. Pat. Nos. 9,580,848 (Henderson et al.), 9,475,034 (Vincent et al.), 7,491,354 (Anderson), and 6,808,664 (Falk et al.). Such equipment can include a chamber or forming box 40 with multiple feeder inlets, including an inlet 42 for feeding any desired combination of fibers, binder and particles into the box 40, and multiple inlets 44, 44’ and 44” for feeding any desired number or type of filler materials into the box 40. After the fibers are combined and mixed together with the other ingredients, the resulting nonwoven fibrous material 45 is deposited onto a belt 46 that conveys the material 45 into, through and out of a baking oven 47 where the binder is cured at least so that the fibrous material 45 can be further processed. The resulting cured nonwoven fibrous material 45’ is then die-cut, laser-cut, water-jet cut, or otherwise processed into individual nonwoven fiber layers 10 (not shown), which are each then processed at an encapsulation station 48, e.g., by having a polymeric film 12 (not shown) laminated to opposite sides of each layer 10. An optional hot melt adhesive or pressure sensitive adhesive can be applied to one or both sides of the encapsulate 12 at corresponding spray stations 49 and 49’. A protective release liner (not shown) can be subsequently applied to each adhesive surface.」
(当審訳:
図5を参照すると、従来の乾式製造機器及びプロセスを使用して、本発明による熱暴走バリア20を製造することができる。そのような機器及びプロセスの例は、米国特許第9,580,848号(Henderson et al.)、同第9,475,034号(Vincent et al.)、同第7,491,354号(Anderson)、及び同第6,808,664号(Falk et al.)に記載されて見出すことができる。そのような機器は、繊維、結合剤、及び粒子の任意の所望の組み合わせをボックス40に供給するための入口42と、任意の所望の数又はタイプの充填剤材料をボックス40に供給するための複数の入口44、44’、及び44”とを含む、複数のフィーダ入口を備えたチャンバ又はフォーミングボックス40を含み得る。繊維を他の原材料と組み合わせて混ぜ合わせた後、得られた不織繊維材料45はベルト46上に置かれ、ベルト46は材料45を運搬して焼成オーブン47に通し、ここで、結合剤は、少なくとも繊維材料45を更に処理できるように硬化される。得られた硬化した不織繊維材料45’は、その後、個々の不織繊維層10(図示せず)にダイカット、レーザーカット、ウォータージェットカット、又は他の方法で処理され、次いで、各々が、封入ステーション48で、例えば、各層10の両側にポリマーフィルム12(図示せず)をラミネート(laminated)することによって処理される。任意選択のホットメルト接着剤又は感圧接着剤は、対応するスプレーステーション49及び49’で封入体12の片側又は両側に適用することができる。続いて、各接着面に保護剥離ライナー(図示せず)を適用することができる。)
ウ 「Table 1: Test Materials
[図:0001422424000001.jpg]
[図:0001422424000002.jpg]
」
(当審訳:
[図:0001422424000003.jpg]
)
表1によると、材料として、SW+はアルカリ土類ケイ酸塩繊維、T255はTrevira GmbHのポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維、FSはヒュームドシリカであることが見て取れる。
エ 15頁7~24行目
「Examples 41 - 57 (EX41 - EX57)
Combinations of staple fibers by basis weight (as identified in Table 9) were weighed and processed through an air-laid processer. Details of the apparatus and methods of using the apparatus in forming air-laid webs are described in U.S. Pat. Nos. 9,580,848 (Henderson et al.), 9,475,034 (Vincent et al.), 7,491,354 (Anderson), and 6,808,664 (Falk et al.). The combined staple fibers were then processed again by the air-laid processor and a fumed silica filler was directly fed into the chamber of the air-laid processor by basis weight (as identified in Table 2). A screw feeder was used to distribute the fillers into the web uniformly. The web was sent through a forced-air convection oven at 148.89°C (300°F) at a speed between 0.25 m/min and 1.5 m/min. The thickness of the samples was between 0.5 to 15 mm.
The webs were then densified to a specified gap thickness using a hot press. Polytetrafluoroethylene (PTFE) coated fiberglass fabric sheets (obtained from McMaster-Carr of Elmhurst, IL. United States) were placed on both sides of the samples and the samples were placed between two hot plates maintained at a temperature of 148.89°C. (300°F.). Pressure was applied for 30 to 120 seconds to activate the bi-component fibers (T255). The densified sample was then immediately placed between two plates maintained at room temperature under a pressure for 30 to 120 seconds, to set the web to the desired thickness.」
(当審訳:
実施例41~57(EX41~EX57)
(表9で特定されるような)坪量によるステープル繊維の組み合わせを秤量し、エアレイド加工機を通して処理した。装置及びエアレイドウェブを形成する際にその装置を使用する方法の詳細は、米国特許第9,580,848号(Henderson et al.)、同第9,475,034号(Vincent et al.)、同第7,491,354号(Anderson)、及び同第6,808,664号(Falk et al.)に記載されている。次いで、組み合わせたステープル繊維を、エアレイド加工機によって再び処理し、ヒュームドシリカ充填剤を、坪量でエアレイド加工機のチャンバに直接供給した(表2(当審注:表9の誤記と認める。)で特定されるように)。スクリューフィーダを使用して、充填剤をウェブに均一に分配した。次いで、ウェブを148.89℃(300°F)の強制空気対流オーブンに0.25m/分及び1.5m/分の速度で送った。試料の厚さは、0.5~15mmであった。
次いで、ウェブを、ホットプレスを使用して特定のギャップ厚さに緻密化した。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)でコーティングされたガラス繊維ファブリックシート(McMaster-Carr(Elmhurst,IL.United States)から入手)を試料の両側に置き、試料を148.89℃(300°F)の温度に維持された2つのホットプレートの間に置いた。二成分繊維(T255)を活性化するために、30~120秒間圧力を加えた。次いで、緻密化された試料を直ちに、室温に維持された2枚のプレートの間に圧力下で30~120秒間置いて、ウェブを所望の厚さに設定した。)
オ 16頁1~3行目
「Table 9: Sample Compositions (gsm)
[図:0001422424000004.jpg]
」
(当審訳:
表9:試料の組成(gsm))
前記ウ及びエの記載を踏まえて、前記表9を参照すると、試料として、アルカリ土類ケイ酸塩繊維と、ポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維と、ヒュームドシリカとを用いていることが見て取れる。
また、ヒュームドシリカの含有量は、試料全体の質量に対して20%(EX41等の場合)~67%(EX46の場合)程度であると認められる。
カ 19頁7~11行目
「Exemplary binder fibers include the use of bicomponent core-sheath polymeric fibers in a dry-laid process. In a wet-laid process, ethylene vinyl acetate latex dispersion binder, bicomponent core-sheath polymeric fibers, or a combination of both can be used. When a polymeric binder fiber is used, the binder can be activated by heating and compressing the nonwoven fibrous thermal insulation material. A combination of organic and inorganic binders can also be used.」
(当審訳:
例示的な結合剤繊維としては、乾式プロセスにおける二成分コア-シースポリマー繊維の使用が挙げられる。湿式プロセスでは、エチレン酢酸ビニルラテックス分散結合剤、二成分コア-シースポリマー繊維、又は両方の組み合わせを使用することができる。ポリマー結合剤繊維が使用される場合、結合剤は、不織繊維断熱材料を加熱及び圧縮することによって活性化され得る。有機結合剤と無機結合剤との組み合わせを使用することもできる。)
キ 22頁29~34行目
「4. The thermal runaway barrier according to any one of embodiments 1 to 3, wherein the layer of nonwoven fibrous thermal insulation contains an amount of the thermally insulative inorganic particles in the range of from as low as about 10%, 15%, 20%, 25%, 30% or 35% up to as high as about 40%, 45%, 50%, 55% or 60%, by weight of the layer of nonwoven fibrous thermal insulation. For example, a particle content as high as 60% can be achieved using a dry-laid process, and as high as 50% using a wet laid process.」
(当審訳:
4.不織繊維断熱材の層が、不織繊維断熱材の層の約10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、又は35重量%という低い値から約40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、又は60重量%という高い値までの範囲の量の断熱性無機粒子を含有する、実施形態1~3のいずれか1つに記載の熱暴走バリア。例えば、乾式プロセスを使用して60%という高い粒子含有量を達成することができ、湿式プロセスを使用して50%という高い粒子含有量を達成することができる。)
ク 24頁19~33行目
「10. The thermal runaway barrier according to any one of embodiments 1 to 9, wherein the thermally insulative inorganic particles are made from or at least comprise particles of one or any combination of the materials selected from the group consisting of inorganic (e.g., titania, zirconia, and/or silica) aerogel, xerogel, hollow or porous ceramic (e.g., glass, alumina, etc.) microspheres (e.g., bubbles, foamed spheres, beads, etc.), unexpanded vermiculite, irreversibly or permanently expanded vermiculite (i.e., vermiculite that has been heated to a temperature and for a time that causes the vermiculite particles to irreversibly or permanently expand to at least 10% and up to 100% of its expandability, either by being pre-expanded before being used to form the barrier, or post-expanded after it is in the single layer of nonwoven fibrous thermal insulation), fumed silica and otherwise porous silica, irreversibly or permanently expanded perlite (i.e., perlite that has been heated to a temperature and for a time that causes the perlite particles to irreversibly or permanently expand to at least 10% and up to 100% of its expandability, either by being pre expanded before being used to form the barrier, or post-expanded after it is in the single layer of nonwoven fibrous thermal insulation), unexpanded perlite, pumicite, irreversibly or permanently expanded clay, diatomaceous earth, titania, and zirconia.」
(当審訳:
10.断熱性無機粒子が、無機(例えば、チタニア、ジルコニア、及び/又はシリカ)エアロゲル、キセロゲル、中空又は多孔質セラミック(例えば、ガラス、アルミナなど)マイクロスフェア(例えば、バブル(bubbles)、発泡球、ビーズなど)、非膨張のバーミキュライト、不可逆的又は恒久的に膨張したバーミキュライト(すなわち、バリアを形成するために使用される前に予備膨張すること、又は不織繊維断熱材の単層になった後に後膨張することのいずれかにより、バーミキュライト粒子を、その膨張能力の少なくとも10%から100%まで不可逆的又は恒久的に膨張させる温度及び時間まで加熱したバーミキュライト)、ヒュームドシリカ及びその他の多孔質シリカ、不可逆的又は恒久的に膨張したパーライト(すなわち、バリアを形成するために使用される前に予備膨張すること、又は不織繊維断熱材の単層になった後に後膨張することのいずれかにより、パーライト粒子を、その膨張能力の少なくとも10%から100%まで不可逆的又は恒久的に膨張させる温度及び時間まで加熱したパーライト)、非膨張のパーライト、軽石、不可逆的又は恒久的に膨張したクレイ、珪藻土、チタニア、及びジルコニアからなる群から選択される材料の1つ又は任意の組み合わせの粒子から作製される、又は少なくともそれらを含む、実施形態1~9のいずれか1つに記載の熱暴走バリア。)
(2)甲1発明
前記(1)によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲1発明をa~kに分説し、「構成a」などのようにして参照する。
<甲1発明>
「a 電池アセンブリの電池セル間に配置され、電池アセンブリ内の熱暴走事象を少なくとも有意に減速させるように作用可能に適合された熱暴走バリアであって、(前記(1)ア)
b 電池アセンブリは、ハウジング内に配置された複数の電池セルと、複数の熱暴走バリアと、を備え、(前記(1)ア)
c 熱暴走バリアは、無機繊維の繊維マトリックスと、繊維マトリックス内に分散された断熱性無機粒子と、繊維マトリックス内に分散されて繊維マトリックスを一緒に保持する結合剤と、を含む不織繊維断熱材の単層からなり、(前記(1)ア)
d 試料として、アルカリ土類ケイ酸塩繊維と、ポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維と、ヒュームドシリカとを用い、(前記(1)オ)
e 坪量によるステープル繊維の組み合わせを秤量し、(前記(1)エ)
f ヒュームドシリカの含有量は、試料全体の質量に対して20%~67%程度であり、(前記(1)オ)
g ステープル繊維の組み合わせをエアレイド加工機を通して処理し、(前記(1)エ)
h ヒュームドシリカ充填剤をウェブに均一に分配し、(前記(1)エ)
i 試料を148.89℃の温度に維持された2つのホットプレートの間に置き、二成分繊維(T255)を活性化するために、圧力を加え、(前記(1)エ)
j 室温に維持された2枚のプレートの間に圧力下で置いて、ウェブを所望の厚さに設定する工程により形成される(前記(1)エ)
k 熱暴走バリア。」
2 甲2の記載事項及び甲2技術
(1)甲2の記載事項
甲2には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
(発明の分野)
本開示は、化学的に活性な微粒子を含む不織布繊維ウェブに関し、より好ましくは、化学的に活性な微粒子を含む不織布繊維を組み込む流体濾過物品、並びにそのような物品及びウェブを作製及び使用する方法に関する。」
イ 「【0079】
A.化学的に活性な微粒子を含む不織布繊維ウェブ
図1は、本開示による複数の別個の繊維200を含む、不織布繊維ウェブ100の例示的な一実施形態の斜視図である。図2A~2Cは、図1の不織布繊維ウェブ100の3つの異なる実施形態の領域2の分解図を示す。したがって、図2Aに示される領域2の分解図によって示される例示的な一実施形態では、不織布繊維ウェブ100は、複数のランダムに配向された別個の繊維200と、複数の化学的に活性な微粒子130とを含み、このランダムに配向された別個の繊維110は、第1の融解温度を有する第1の領域112と、第2の融解温度を有する第2の領域114とを少なくとも含み、第1の融解温度は、第2の融解温度未満である。多成分繊維110は、不織布繊維ウェブの総重量の0重量%超~10重量%(%wt.)未満を構成する。いくつかの例示的実施形態では、多成分繊維110は、別個の繊維の総重量の0重量%超~10重量%未満を構成する。」
ウ 「【図1】
[図:0001422424000005.jpg]
」
エ 「【0089】
1.多成分繊維構成要素
図2Aに示されるいくつかの実施形態では、不織布繊維ウェブ100は、少なくとも第1の領域112と、第2の領域114とを有する多成分繊維110を含む、別個の繊維200を含み、第1の領域112は、第2の領域114よりも低い融解温度を有する。様々な異なる種類及び構成の多成分繊維110が存在する。適切な多成分繊維110は、例えば、米国特許第7,695,660号(Berriganら)、第6,057,256号(Kruegerら)、及び第5,486,410号、第5,662,728号、及び第5,972,808号(全てGroegerら)に記載される。
【0090】
特定の例示的実施形態では、多成分繊維110は、2成分繊維である。好適な2成分繊維110の一例は、シース/コアの繊維であり、コアを包囲するシア(当審注:シースの誤記と認める。)が、第1の領域112を形成し、コアが繊維の第2の領域114を形成する。第1の領域112は、コポリエステル又はポリエチレンなどの材料で構成されてもよい。第2の領域114は、ポリプロピレン又はポリエステルなどの材料で構成されてもよい。好適な2成分繊維110は、例えば、米国特許第4,552,603号(Harrisら)に記載されている。
【0091】
加熱中、第1の領域112は融解するが、より融解温度の高い第2の領域114は、元の状態のままである。融解中、第1の領域112は、繊維が互いに接触する接合点に集まる傾向がある。次に、冷却すると、第1の領域112の材料は、再度凝固してウェブを一緒に固定する。したがって、これが、繊維を一緒に固定してウェブ100を形成する、多成分繊維110の領域である。一般に、不織布繊維ウェブ100を形成するために個別のバインダは必要ない。」
オ 「【図2A】
[図:0001422424000006.jpg]
」
カ 「【0182】
図3は、上述の例示的不織布繊維ウェブ100を作製するための様々なプロセスを実践するように構成され得る、例示的装置220を示す側面図である。1つ以上の別個の繊維入力流(210、210’、210’’)は、形成チャンバ220の上部の近位に位置付けられ、別個の繊維は、混合、ブレンドされて、最終的に不織布繊維ウェブ100を形成する。」
キ 「【0196】
図2A及び3を参照して、いくつかの例示的実施形態では、形成された不織布繊維ウェブ100が形成チャンバ220を出て、オーブンのような随意の加熱ユニット240に進み、多成分繊維110が不織布繊維ウェブ100に含まれる場合、これを使用して多成分繊維110の第1の領域112を加熱する。融解した第1の領域112は移動し、不織布繊維ウェブ100の繊維の交点で集合する傾向がある。次に、冷却すると、融解した第1の領域112は融合及び固化して、固定、相互接続された不織布繊維ウェブ100を形成する。
【0197】
化学的に活性な微粒子130は、いくつかの実施形態において、多成分繊維110の融解後に融合した第1の領域112又は部分的に融解した後融合した第1の集団の熱可塑性単一成分繊維116によって、不織布繊維ウェブ100に固定されてもよい。したがって、最初にウェブを形成し、次にウェブを加熱するという2つの工程で、バインダ又は更なるコーティング工程を必要とせずに、化学的に活性な微粒子130を含有する不織布ウェブを形成することができる。」
ク 「【0235】
材料
繊維
1.3デニール及び3mm長のTREVIRA T255タイプの2成分繊維(Trevira GmbH(ドイツ、ボビンゲン)から市販)。
【0236】 1.3デニール及び6mm長のTREVIRA T255タイプの2成分繊維(TreviraGmbH(ドイツ、ボビンゲン)から市販)。」
(2)甲2技術
前記(1)の記載によれば、甲2には、次の技術(以下「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。
「微粒子を含む不織布繊維ウェブを組み込む流体濾過物品を作製する方法であって、(【0002】)
不織布繊維ウェブ100を作製するためのプロセスにおいて、(【0182】)
別個の繊維は、混合、ブレンドされて、不織布繊維ウェブ100を形成し、(【0182】)
不織布繊維ウェブ100は、複数のランダムに配向された別個の繊維200と、複数の微粒子130とを含み、このランダムに配向された別個の繊維110は、第1の融解温度を有する第1の領域112と、第2の融解温度を有する第2の領域114とを少なくとも含み、第1の融解温度は、第2の融解温度未満であり、(【0079】)
多成分繊維110は、2成分繊維であり、(【0090】)
好適な2成分繊維110の一例は、シース/コアの繊維であり、コアを包囲するシースが、第1の領域112を形成し、コアが繊維の第2の領域114を形成し、(【0090】)
第1の領域112は、ポリエチレンなどの材料で構成されてもよく、(【0090】)
第2の領域114は、ポリプロピレン又はポリエステルなどの材料で構成されてもよく、(【0090】)
オーブンのような随意の加熱ユニット240を使用して多成分繊維110の第1の領域112を加熱し、(【0196】)
加熱中、第1の領域112は融解するが、より融解温度の高い第2の領域114は、元の状態のままであり、(【0091】)
融解した第1の領域112は移動し、不織布繊維ウェブ100の繊維の交点で集合し、(【0196】)
冷却すると、融解した第1の領域112は融合及び固化して、固定、相互接続された不織布繊維ウェブ100を形成し、(【0196】)
微粒子130は、多成分繊維110の融解後に融合した第1の領域112によって、不織布繊維ウェブ100に固定されてもよく、(【0197】)
Trevira GmbHから市販されているT255タイプの2成分繊維を材料とできる(【0235】)」技術。
3 甲5の記載事項及び甲5技術
(1)甲5の記載事項
甲5には、次の事項が記載されている。
ア 「ポリエステル …(略)…軟化点:238~240℃ 溶融点:255~260℃」(237頁)
イ 「ポリエチレン(低圧法) …(略)…軟化点:100~115℃ 溶融点:125~135℃」(238頁)
(2)甲5技術
前記(1)の記載によれば、甲5には、次の技術(以下「甲5技術」という。)が記載されていると認められる。
<甲5技術>
「ポリエステルの軟化点は238~240℃、溶融点は255~260℃であり、ポリエチレンの軟化点は100~115℃、溶融点は125~135℃である」技術。
4 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シート」について
a 甲1発明の「熱暴走バリア」は、「電池アセンブリの電池セル間に配置され、電池アセンブリ内の熱暴走事象を少なくとも有意に減速させる」(構成a)ものであって、「無機繊維の繊維マトリックスと、繊維マトリックス内に分散された断熱性無機粒子と、繊維マトリックス内に分散されて繊維マトリックスを一緒に保持する結合剤と、を含む不織繊維断熱材の単層からな」る(構成c)ものであるから、「熱伝達抑制シート」であるといえる。
b 甲1発明では、「試料として、アルカリ土類ケイ酸塩繊維と、ポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維と、ヒュームドシリカとを用い」る(構成d)から、「無機粒子と、有機繊維と、を有する」といえる。
c 前記a及びbより、本件発明1と甲1発明とは、「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シート」である点で一致する。
(イ)「複数の三次元的に連結した空孔を有し」について
甲1発明は、「ステープル繊維の組み合わせをエアレイド加工機を通して処理し」(構成g)、「ヒュームドシリカ充填剤をウェブに均一に分配し」(構成h)、「試料を148.89℃の温度に維持された2つのホットプレートの間に置き」、「圧力を加え」(構成i)、「室温に維持された2枚のプレートの間に圧力下で置いて」、「所望の厚さに設定する工程により形成される」(構成j)ものであるところ(以下、構成i及び構成jからなる一連の「工程」を、「加熱・加圧する工程」という。)、複数の三次元的に連結した空孔を有するか否かが特定されていない。
(ウ)「前記無機粒子の合計の含有量は、前記熱伝達抑制シートの全質量に対して70質量%以上95質量%以下であり」について
甲1発明では、無機粒子である「ヒュームドシリカの含有量は、試料全体の質量に対して20%~67%程度であ」り(構成f)、質量に対する割合は「質量%」を意味すると認められる。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、無機粒子の含有量が、本件発明1は、「70質量%以上95質量%以下」であるのに対し、甲1発明は、「20質量%~67質量%程度」である点で相違する。
(エ)「前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されており」について
a 甲1発明では、有機繊維である「ポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維」(構成d)が、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有するか否かが特定されていない。
b 甲1発明は、無機粒子である「ヒュームドシリカ」(構成d)を、「ウェブに均一に分配し」(構成h)、加熱・加圧する工程(前記(イ))により形成されるものであるところ、無機粒子の少なくとも一部が、溶着部により有機繊維に溶着されるか否かが特定されていない。
(オ)「複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されることにより形成された繊維束を有する」について
甲1発明は、有機繊維である「ポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維」(構成d)を含む試料を用いて、加熱・加圧する工程(前記(イ))により形成されるものであるところ、複数の有機繊維同士の少なくとも一部が溶着部により溶着されることにより形成された繊維束を有することについて特定されていない。
(カ)前記(ア)~(オ)によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シート。」
[相違点]
(相違点1)本件発明1は、「複数の三次元的に連結した空孔を有」するのに対して、甲1発明は、試料を加熱・加圧する工程(前記(イ))により形成されるものであるところ、「複数の三次元的に連結した空孔を有」するか否かが特定されていない点。
(相違点2)本件発明1は、無機粒子の合計の含有量が、熱伝達抑制シートの全質量に対して「70質量%以上95質量%以下」であるのに対し、甲1発明は、「20質量%~67質量%程度」である点。
(相違点3)本件発明1では、「有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有」するのに対して、甲1発明では、有機繊維であるポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維が、「表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有」するか否かが特定されていない点。
(相違点4)本件発明1では、「無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されている」のに対して、甲1発明では、無機粒子であるヒュームドシリカが、溶着部により有機繊維に溶着されているか否かが特定されていない点。
(相違点5)本件発明1では、「複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されることにより形成された繊維束を有する」のに対して、甲1発明では、有機繊維同士がそのような状態にあるか否かが特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、前記アで示した相違点2について、以下、検討する。
甲1発明では、無機粒子の合計の含有量は、熱伝達抑制シートの全質量に対して、多くても67質量%程度であって、本件発明1における「70質量%以上95質量%以下」の数値範囲に含まれないものであるから、上記相違点2は実質的な相違点である。
また、甲1発明及び甲1には、無機粒子の合計の含有量を70質量%以上95質量%以下とする動機付けとなる記載も示唆もない。
そして、相違点2に係る上記構成は、提出されたその他の証拠に記載されるものではなく、技術常識であるともいえないから、当該相違点に係る構成は、当業者が容易になし得たものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年10月9日に提出した意見書において、先の訂正を前提として、「訂正後の請求項1,2及び5~11に係る発明は、いずれも新規性又は進歩性を有しないので、特許法第29条第1項3号、または第2項違反により取り消されるべきものである」ことを主張している。
しかし、前記イに記載したとおり、本件訂正後の本件発明1と甲1発明とは、相違点2において実質的に相違し、また、相違点2に係る構成を採用することを動機付ける記載は甲1及び他の証拠のいずれにも見いだせないから、上記判断は覆らない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
エ 小括
以上によれば、本件発明1は、甲1発明と実質的に相違点2で相違し、相違点2は、甲1、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものではない。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(2)本件発明2、5~11について
本件発明2、5~11は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)。
したがって、本件発明2、5~11と甲1発明とは、少なくとも、前記(1)アに示した相違点1~5で相違する。
そして、前記(1)イに示したとおり、相違点2は実質的な相違点であって、前記相違点2に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明2、5~11は、甲1、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
前記(1)及び(2)のとおり、本件発明1、2、5~11は、甲1発明であるとはいえず、甲1、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、決定の予告に記載した取消理由によっては、請求項1、2、5~11に係る特許を取り消すことはできない。
第7 決定の予告において採用しなかった特許異議の申立ての理由の概要
前記第4に記載した特許異議の申立ての理由のうち、決定の予告において採用しなかった特許異議の申立ての理由は次のとおりである。
・理由(新規性及び進歩性)
本件特許の請求項3、4に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法29条1項3号に該当する、または、甲1に記載された発明及び甲2~甲6の記載事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該請求項に係る発明についての特許は、特許法29条の規定に違反してされたものである。(同法113条2号)
第8 決定の予告において採用しなかった特許異議の申立ての理由についての当審の判断
1 甲1及び甲2について
(1)甲1の記載事項は、前記第6、1(1)のとおりであり、甲1発明は、前記第6、1(2)のとおりである。
(2)甲2の記載事項は、前記第6、2(1)のとおりであり、甲2技術は、前記第6、2(2)のとおりである。
2 当審の判断
(1)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比すると、以下のとおりとなる。
(ア)「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シート」について
本件発明1の「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シート」についての前記第6、4(1)ア(ア)と同様であり、本件発明3と甲1発明とは、「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シート」である点で一致する。
(イ)「複数の三次元的に連結した空孔を有し」について
本件発明1の「複数の三次元的に連結した空孔を有し」についての前記第6、4(1)ア(イ)と同様であり、甲1発明は、複数の三次元的に連結した空孔を有するか否かが特定されていない。
(ウ)「前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されており」について
本件発明1の「前記有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有し、前記無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されており」についての前記第6、4(1)ア(エ)と同様であり、甲1発明では、有機繊維が、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有するか否かが特定されておらず、また、無機粒子の少なくとも一部が、溶着部により有機繊維に溶着されるか否かも特定されていない。
(エ)「厚さ方向に直交する第1面及び第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層を有する」について
甲1発明は、有機繊維である「ポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維」(構成d)を含む試料を用いて、加熱・加圧する工程(前記第6、4(1)ア(イ))により形成されるものであるところ、有機繊維同士がそのような状態にあるのか特定されていない。
(オ)前記(ア)~(エ)によれば、本件発明3と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「無機粒子と、有機繊維と、を有する熱伝達抑制シート。」
[相違点]
(相違点6)本件発明3は、「複数の三次元的に連結した空孔を有」するのに対して、甲1発明は、試料を加熱・加圧する工程(前記第6、4(1)ア(イ))により形成されるものであるところ、「複数の三次元的に連結した空孔を有」するか否かが特定されていない点。
(相違点7)本件発明3では、「有機繊維は、表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有」するのに対して、甲1発明では、有機繊維であるポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維が、「表面の少なくとも一部を被覆する溶着部を有」するか否かが特定されていない点。
(相違点8)本件発明3では、「無機粒子の少なくとも一部は、前記溶着部により前記有機繊維に溶着されている」のに対して、甲1発明では、無機粒子であるヒュームドシリカが、溶着部により有機繊維に溶着されているか否かが特定されていない点。
(相違点9)本件発明3では、「厚さ方向に直交する第1面及び第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層を有する」のに対して、甲1発明では、有機繊維同士がそのような状態にあるか否かが特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、前記アで示した相違点9について、以下、検討する。
甲1発明では、「ステープル繊維の組み合わせをエアレイド加工機を通して処理し」(構成g)、「試料を148.89℃の温度に維持された2つのホットプレートの間に置き」、「圧力を加え」(構成i)、「室温に維持された2枚のプレートの間に圧力下で置いて」、「所望の厚さに設定する工程により形成」(構成j)することにより、熱伝達抑制シートである(前記ア(ア))熱暴走バリアを形成するところ、甲1発明には、「厚さ方向に直交する第1面及び第2面」に、「有機繊維同士」が「溶着されてなる繊維層を有する」ようにするための構成は存在しない。
したがって、上記相違点9は実質的な相違点である。
ここで、上記工程に関して、甲1には、「装置及びエアレイドウェブを形成する際にその装置を使用する方法の詳細は、…略…同第9,475,034号(Vincent et al.)…略…に記載されている」と記載されており、甲2技術を適用できることが示唆されている。
しかしながら、甲2技術では、「不織布繊維ウェブ100を作製するためのプロセスにおいて、」「別個の繊維は、混合、ブレンドされて、不織布繊維ウェブ100を形成し、」「不織布繊維ウェブ100は、複数のランダムに配向された別個の繊維200と、複数の微粒子130とを含」むことが記載されており、甲1発明に適用した場合には、無機繊維であるアルカリ土類ケイ酸塩繊維と、有機繊維であるポリエステル/ポリエチレン二成分ステープル繊維(構成c、d)を、混合、ブレンドしてランダムに配向させることとなるから、有機繊維からなる層を構成する構成とはむしろ逆の作用をもたらすものと認められる。
また、他に甲1発明及び甲1には、他に「有機繊維同士」が「溶着されてなる繊維層を有する」構成とする動機付けとなる記載も示唆もない。
そして、相違点9に係る上記構成は、提出されたその他の証拠に記載されるものではなく、技術常識であるともいえないから、当該相違点に係る構成は、当業者が容易になし得たものではない。
ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、特許異議申立書において、「請求項3で特定されている「厚さ方向に直交する第1面及び第2面の少なくとも一部に、複数の前記有機繊維同士の少なくとも一部が前記溶着部により溶着されてなる繊維層」における「繊維層」と称するものは、甲1の繊維マトリックスに対応させることができ、「第1面及び第2面」は、甲1の繊維マトリックスを主体とするシートの表面及び裏面に対応させることができる。甲1の繊維マトリックスを構成する主たる繊維は無機繊維であるが、結合剤として用いられる芯鞘構造の有機繊維が複数含まれているから…略…、結合剤として用いられている当該有機繊維同士が、鞘部の溶融固化部(溶着部に該当)を介して、接触部分にて結合している」旨主張する(44頁27行目~45頁11行目)。
しかしながら、前記イに示したとおり、甲1発明には、「厚さ方向に直交する第1面及び第2面」に、「有機繊維同士」が「溶着されてなる繊維層を有する」ようにするための構成は存在せず、甲2技術を甲1発明に適用したとしても、無機繊維と、有機繊維を、混合、ブレンドしてランダムに配向させることとなるから、有機繊維からなる層を構成する構成とはむしろ逆の作用をもたらすものと認められる。
(イ)そして、特許異議申立書の「請求項3、4に係る発明は、甲1に記載された発明、又は甲1に周知技術としての甲2、甲3を参酌すると実質的に記載された発明、あるいは記載された発明から容易に想到できる発明である」との主張(45頁16~18行目)は、上記aにおける主張を前提とするものであり、上記aにおける主張が、技術常識から自明であるともいえないから、特許異議申立書の主張は採用できない。
エ 小括
以上によれば、本件発明3は、甲1発明と実質的に相違点9で相違し、相違点9は、甲1、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易になし得たものではない。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明3は、当業者が容易に想到し得るものではない。
(2)本件発明4、12について
本件発明4、12は、本件発明3の発明特定事項を全て含み、さらに別の発明特定事項を付加したものである(前記第3)。
したがって、本件発明4、12と甲1発明とは、少なくとも、前記(1)アに示した相違点6~9において相違する。
そして、前記(1)イに示したとおり、相違点9は実質的な相違点であって、前記相違点9に係る構成は、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明4、12は、甲1、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)まとめ
前記(1)及び(2)のとおり、本件発明3、4、12は、甲1発明であるとはいえず、甲1、提出された証拠方法及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、申立ての理由によっては、請求項3、4、12に係る特許を取り消すことはできない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、決定の予告に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700321