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特許異議申立

2024-700392

殻付きエビ及びその製造方法

審判番号
2024-700392
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-078412
登録番号
7368652
請求日
2024年04月24日
審決日
2024年12月13日
公報発行日
2025年04月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】マルハニチロ株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人翔和国際特許事務所
  • 【異議申立人】鈴木 憲治
審判長/審判官
  • 審判長 淺野 美奈
  • 審判官 加藤 友也
  • 審判官 天野 宏樹
分類
P1651.536-YAA(A23L) / P1651.537-YAA(A23L) / P1651.113-YAA(A23L) / P1651.121-YAA(A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第3項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7368652号発明「殻付きエビ及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7368652号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕及び7について訂正することを認める。 特許第7368652号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7368652号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、令和5年5月11日(優先権主張 令和4年5月18日)に出願されたものであって、令和5年10月16日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和6年4月24日に特許異議申立人 鈴木 憲治(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされ、同年5月27日付けで手続補正指令書(方式)が通知され、同年6月12日に特許異議申立人から手続補正書(方式)が提出され、同年7月11日付けで取消理由が通知され、同年9月13日に特許権者 マルハニチロ株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月26日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年10月30日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和6年9月13日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「pH10.0以下の水溶液に浸漬する、殻付きエビの製造方法。」とあるのを、「pH6.5以上10.0以下の水溶液に浸漬する、殻付きエビの製造方法。」と訂正する。併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし6も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7において「pH10.0以下の水溶液である浸漬液。」とあるのを、「pH6.5以上10.0以下の水溶液である浸漬液。」と訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4において「前記水溶液に浸漬後、更に有機酸水溶液による浸漬処理を行わずに得られたものである、請求項1又は2に記載の殻付きエビの製造方法。」とあるのを、「前記水溶液に浸漬後、更に有機酸水溶液による浸漬処理を行わない、請求項1又は2に記載の殻付きエビの製造方法。」に訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「水溶液」の「pH」の下限を特定することによって、「水溶液」の「pH」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2、3、5及び6についての訂正について 訂正事項1による請求項2、3、5及び6についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項2、3、5及び6についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項4についての訂正について 訂正事項1による請求項4についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項3による請求項4についての訂正は、本件訂正前の「行わずに得られたものである」という記載が「製造方法」を特定する事項としては明確でなかったものを、「行わない」という記載にすることで「製造方法」を特定する事項として明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項1及び3による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)請求項7についての訂正について 訂正事項2による請求項7についての訂正は、「水溶液」の「pH」の下限を特定することによって、「水溶液」の「pH」の数値範囲を狭くするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2による請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1ないし3による請求項1ないし7についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1又は3号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1ないし3による請求項1ないし7についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし6は一群の請求項に該当するものである。 そして、訂正事項1及び3による請求項1ないし6についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 訂正事項2による請求項7についての訂正は、請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。 また、特許異議申立人からの特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし7に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし6〕及び7について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 腹部の身と、腹部の身を被覆する殻とを有し、加熱調理用又は加熱済みであり且つ殻付き状態で喫食できる殻付きエビの製造方法であって、 頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビを、頭胸部を除去するか又は頭胸部を除去せずに、酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を2.0~10.0質量%含有する、pH6.5以上10.0以下の水溶液に浸漬する、殻付きエビの製造方法。 【請求項2】 前記水溶液のpHが6.5~9.0である、請求項1に記載の殻付きエビの製造方法。 【請求項3】 エビ浸漬中の前記水溶液の温度が0.0~10.0℃で、浸漬時間が4~24時間である、請求項1又は2に記載の殻付きエビの製造方法。 【請求項4】 前記水溶液に浸漬後、更に有機酸水溶液による浸漬処理を行わない、請求項1又は2に記載の殻付きエビの製造方法。 【請求項5】 前記水溶液に浸漬させるエビの第2腹節の殻の厚さが0.05mm以上0.16mm以下である、請求項1又は2に記載の殻付きエビの製造方法。 【請求項6】 酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩が酢酸ナトリウムである、請求項1又は2に記載の殻付きエビの製造方法。 【請求項7】 腹部の身と、腹部の身を被覆する殻とを有する頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である殻付きエビを浸漬処理して軟化し、加熱調理したときに殻付き状態で喫食可能とするための浸漬液であって、 酢酸、クエン酸、アスコルビン酸及びリン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩のpH6.5以上10.0以下の水溶液である浸漬液。」 第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等 令和6年6月12日に特許異議申立人から提出された手続補正書(方式)により補正された同年4月24日に提出された特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明7は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし7は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 本件特許発明1~6を頭胸部を除去せずに実施するためには、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等を要することとなる。 3 申立理由3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)請求項1ないし6 本件特許発明1ないし6を頭胸部を除去せずに実施することは不可能であるから、本件特許明細書に記載の実施例はいずれも実施可能でない。本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例以外に、本件特許発明1ないし6の発明特定事項を満たせば、課題を解決できることについて説明した記載はない。 (2)請求項1ないし7 浸漬時間が8時間よりも短い場合において課題が解決されるとは認められない。 エビとして実施例として用いられたバナメイエビ以外のエビを用いた場合においても、本件特許発明1ないし7において規定された条件を満たしさえすれば課題を解決されるとは認められない。 4 申立理由4(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 (1)請求項1ないし7 本件特許発明1ないし7における頭胸部の殻の厚さは、厚み計をどのような条件で用いて測定して得られる値を指すのか不明である。 (2)請求項4 「製造方法」が「得られたものである」とは、何を意味するのか判然としない。 5 証拠方法 甲第1号証:特開2020-150932号公報 甲第2号証:ソフトシェルシュリンプ(脱皮直後のバナメイエビ)人気の中型サイズ30~35尾(400g以上)のレビュー、越前かに職人 甲羅組、2021年10月31日、URL:https://kouragumi.com/p/reviews/210125?pageNo=2、検索日:2024年4月5日 甲第3号証:ソフトシェルシュリンプの塩ゆで、レンコ鯛の南蛮漬け、魚料理と簡単レシピ、2021年1月4日、URL:https://dt125kazuo.blog.fc2.com/blog-entry-5356.html、検索日:2024年4月5日 甲第4号証:【ガーリックシュリンプのレシピ】本場・ハワイの味を自宅で完全再現!、ほほえみごはん・冷凍で食を豊かに・ニチレイフーズ、公開日:2019.8.6(更新日:2022.11.25)、URL:https://www.nichireifoods.co.jp/media/9876/、検索日:2024年4月5日 甲第5号証:カリッと香ばしい!「甘えびの唐揚げ」のレシピ、セブンプレミアム公式、2022年3月29日、URL:https://7premium.jp/blog/detail?id=1823、検索日:2024年4月5日 甲第6号証:殻付き甘エビとトマトのいしり醤油炒め、有限会社カネイシ、2018年8月29日、URL:https://kaneishi.com/news/post-1565/、検索日:2024年4月5日 甲第7号証:矢野 勲、「エビ,カニ類の外皮の構造と形成」、化学と生物、公益社団法人 日本農芸化学会、1977年5月、第15巻、第5号、pp.328-336 甲第8号証:皆川 恵、「水産生物と塩 2.甲殻類の脱皮とミネラル」、日本海水学会誌、日本海水学会、1995年、第49巻、第6号、pp.362-364 甲第9号証:Tem Thi Dang,et al.,"Proteomic and microscopic approaches in understanding mechanisms of shell-loosening of shrimp(Pandalus borealis)induced by high pressure and protease", Food Chemistry 289(2019),729-738 甲第10号証:秋~冬に旨い甘海老と、絶品タラバエビ科の海老まとめ、FISH LOVERS JAPAN、2017年11月8日、URL:https://fishloversjapan.com/entry/171005amaebi/、検索日:2024年4月12日 甲第11号証:ホッコクアカエビ、ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、 URL: https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%B3%E3%82%AF%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%93、検索日:2024年4月12日 甲第12号証:ホンホッコクアカエビ、ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑、URL:https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%83%9B%E3%83%B3%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%B3%E3%82%AF%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%82%A8%E3%83%93、検索日:2024年4月12日 甲第13号証:ボイル甘えび 大 70/90 5Kg、 【ショップタイセイ】、URL:https://numazu.shop-pro.jp/?pid=163941742、検索日:2024年4月12日 甲第14号証:【楽天市場】ボイル冷凍甘エビ船上ワンフローズン 500グラム バラで冷凍 旨みしっかり有頭殻付き【えび】【甘海老】【自然解凍OK】【内子】【海老味噌】【ホンホッコクアカエビ】【中華食材 無添加 白灼蝦 バイ・ズオ・シャー做法】、Eもの海産物 楽天市場支店、URL:https://item.rakuten.co.jp/e-monokaisan/h027_1709/、検索日:2024 年4月12日 甲第15号証:【楽天市場】ボイル冷凍甘エビ船上ワンフローズン 500グラム バラで冷凍 旨みしつかり有頭殻付き【えび】【甘海老】【自然解凍OK】【内子】【海老味噌】【ホンホッコクアカエビ】【中華食材 無添加 白灼蝦 バイ・ズオ・シャー做法】(Eもの海産物 楽天市場支店)_みんなのレビュー・口コミ、Eもの海産物 楽天市場支店、URL:https://review.rakuten.co.jp/item/1/316109_10000241/1.1/?12・id=item_review、検索日:2024年4月12日 甲第16号証:【楽天市場】【ふるさと納税】レビューキャンペーン実施中!!福井県産 越前子持ち甘えび 500g×2パック(計1kg)【ますよね 増米 敦賀あまえび アマエビ 甘エビ 刺身 生 生食 冷凍 500 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甲第23号証:本申立人が参考のために作成した資料、作成日:2024年10月25日 甲第19ないし23号証は令和6年10月30日に提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。 第5 取消理由の概要 令和6年7月11日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 1 取消理由1(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由1は申立理由2とおおむね同旨である。 本件特許発明1は「頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビを、頭胸部を除去するか又は頭胸部を除去せずに、酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を2.0~10.0質量%含有する、pH10.0以下の水溶液に浸漬する」という発明特定事項を有するものである。 そして、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0017】の「エビ頭胸部の殻の厚さは具体的には以下のように特定する。」及び同【0018】の「本発明において頭胸部の殻の厚さの規定は、得られる殻付きエビが頭胸部を有さないことを許容する。殻の厚さは、特定のアルカリ金属塩(有機酸塩又はリン酸塩)の水溶液を浸漬液として用いた浸漬処理前に該当すればよいためである。なお、殻の厚さは、殻の内側に位置する薄膜の厚さを含む。殻の厚さは、例えば、指定箇所のエビ殻を約5~7mm角に切り出した後、厚み計(ミツトヨ製デジマチックシックネスJAN:4946368124261)を使用して測定できる。」という記載によると、エビ頭胸部の殻の厚さは浸漬処理前に測定しなければならないものであり、測定に当たっては指定箇所のエビ殻を予め約5~7mm角に切り出しておくことが必要となることが明らかである。 他方、発明の詳細な説明の【0045】の「殻厚さの測定後、頭胸部を未除去の殻付きエビを、エビ100質量部に対し、酢酸ナトリウム8質量%、食塩2質量%の水溶液(3.8℃、浸漬前における3.8℃のpH 8.41)110質量部に、表1に示す時間浸漬させた。」という記載によると、殻厚さの測定後、頭胸部を未除去の殻付きエビを浸漬液に浸漬することになる。 すなわち、指定箇所のエビ殻を予め約5~7mm角に切り出した後に、頭胸部を未除去の殻付きエビを浸漬液に浸漬することになるが、どのようにすれば、そのようなことが実施できるのか、発明の詳細な説明には記載されていないし、当業者の出願時の技術常識であったともいえない。 したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1を使用し、本件特許発明1により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるとはいえない。 また、本件特許発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様のことがいえる。すなわち、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明2ないし6を使用し、本件特許発明2ないし6により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるとはいえない。 よって、本件特許発明1ないし6に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足するとはいえない。 2 取消理由2(サポート要件) 本件特許の請求項1及び3ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 当業者は発明の詳細な説明の記載から、「頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビを、頭胸部を除去するか又は頭胸部を除去せずに、酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を2.0~10.0質量%含有する、pH6.5以上10.0以下の水溶液に浸漬する、殻付きエビの製造方法」及びそれに使用する「浸漬液」は発明の課題を解決できると認識できる。 しかし、本件特許発明1及び3ないし6は、「水溶液」の「pH」の下限が「6.5以上」に特定されていない。 したがって、本件特許発明1及び3ないし6は発明の課題を解決できる範囲のものであるとはいえない。 また、本件特許発明7も本件特許発明1及び3ないし6と同様に発明の課題を解決できる範囲のものであるとはいえない。 したがって、本件特許発明1及び3ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえず、本件特許発明1及び3ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するものであるとはいえない。 3 取消理由3(明確性要件) 本件特許の請求項4に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由3は申立理由4(2)とおおむね同旨である。 本件特許発明4は「前記水溶液に浸漬後、更に有機酸水溶液による浸漬処理を行わずに得られたものである」という発明特定事項を有する「製造方法」の発明であるが、「前記水溶液に浸漬後、更に有機酸水溶液による浸漬処理を行わずに得られたものである」という発明特定事項は、「殻付きエビ」という「物」を特定する事項と解されるから、「製造方法」を特定する事項としては、明確でない。 したがって、本件特許発明4に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるといえる。 第6 取消理由についての当審の判断 1 取消理由1(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第3のとおり、本件特許発明1ないし6は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法を使用し、その物を生産する方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 取消理由1は、要するに、発明の詳細な説明の記載によると、指定箇所のエビ殻を予め約5~7mm角に切り出し、エビ殻の厚さを測定した後に、頭胸部を未除去の殻付きエビを浸漬液に浸漬することになるが、どのようにすれば、そのようなことが実施できるのか、発明の詳細な説明には記載されていないし、当業者の出願時の技術常識であったともいえないというものである。 そこで、検討する。 令和6年9月13日に特許権者から提出された意見書に添付された下記参考資料1ないし3によると、甲殻類の殻の厚さをノギスで測定できることは、当業者の技術常識である。 また、下記参考資料5に示されるように、本件特許の出願前に甲殻類の殻の厚さを測定可能な小型のノギスがあることも、当業者の技術常識である。 さらに、エビ殻を切り出さずに殻の厚さを測定する場合に、上記意見書に添付された証拠説明書で示されるような方法で行うことは、当業者に過度の試行錯誤を要するものではないといえる。 そうすると、指定箇所のエビ殻を予め約5~7mm角に切り出すことなしに、エビ殻の厚さを測定する方法について、発明の詳細な説明には記載されているとはいえないものの、当業者の技術常識を考慮すれば、指定箇所のエビ殻を予め約5~7mm角に切り出すことなく、エビ殻の厚さを測定した後に、頭胸部を未除去の殻付きエビを浸漬液に浸漬することは、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。 したがって、取消理由1は解消したといえる。 そこで、改めて検討する。 本件特許発明1ないし6における各発明特定事項について、発明の詳細な説明に具体的に記載されており、また、実施例についても具体的に記載されている。 したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし6を使用し、本件特許発明1ないし6により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1ないし6に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。 <令和6年9月13日に特許権者から提出された意見書に添付された参考資料> ・参考資料1:BIODIVERSITAS、Volume 21, Number 8, August 2020、p3856-3866,https://www.researchgate.net/publication/343392745_The_population_and_mortality_characteristics_of_mangrove_crab_Scylla_serrata_in_the_mangrove_ecosystem_of_Tarakan_City_Indonesia、2024年9月12日検索 ・参考資料2:Estuarine, Coastal and Shelf Science 、 Volume 95, (2011),p424-430,https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S027277141100429 X、2024年9月12日検索 ・参考資料3:Food Control 123 (2021) 107826、 https://pdf.sciencedirectassets.com/271164/1-s2.0-S0956713520X00132/1-s2.0-S0956713520307428/main.pdf?X-Amz-Security-Token=IQoJb3JpZ2luX2VjEHQaCXVzLWVhc3QtMSJGMEQCIFDCScVdIHiXxf8vjj31n5J2zsdoHGDTfW4gzPLFcFHeAiAAsHxQkkBI5IHxtKGrCllPSO4zOXaXlC%2FDiXj0UN3ywSq7BQid%2F%2F%2F%2F%2F%2F%2F%2F%2F%2F8BEAUaDDA1OTAwMzU0Njg2NSIM4MXVrbotRgfXJATZKo8FZ%2FC40lE1uGwf0aF4khjhstC8TyxoYp6HWpfsfbd6Paz7wqscpthKT1NBRaYBIjIv%2BOPXKAK%2FoKuDG8hM2sXUBciIzs0tlt0bsJXHphu1wNqT83LZI9bB2XBx8r0jYoANJ5koTWW4PmBOKZshGAe7hjCwbG99hJG4gISqFJmFKcKpVvRxPAbQvUW3YAUWlTMXaQCweigigbtrbP6nXUyoN%2FrkjrSBj7prGMGlUBcuoXd8S8c%2B2rNd1WHZaa%2BQYFDQPEYxre4Nr17qz5GZBOORW%2FyqAYOGs5IDVxklz%2FcGdiCVXNiQShlKUqWNcNq261loEJcIQqo87EaCrxDuZCQ9TPr3wMQg2156WX5t6UPX%2BRkCkHMftYhcWaHDkkJX1FnH87GXpa14C2sIcYgKIlOWWQ5Xc0Cr8KhKAsOgJJ44SWDBHTOqaTS2Zhc6CXZh7U9yFeGLLT8%2B6NK9RU8FWakbdig5Qi3YiwAUX3vw3ny8n1WvIqsb2iUHV8pje6Hyk8Z%2B4xYPutIylmVDA5LMJC%2FsvR8zwbzcyx64k%2B4lwcp%2FjY0u8A%2FqIxJ91XHVHLNESMLl2klPb6ZkJR0m8CbLxvjJHKYhd13wK%2BgvCqIGpwhLHv5HWQso67S1J5PinUgvBgDyNcLzx06ZcmGLmPTh4dSupwljsvp9H7yEJhLheuNVkxHj13goyxw%2BhbQkD0tK%2Bh5mrJkK14U5d4qohu0UPCtIM71W%2BtK2TkS9N463WmeKNTKlpGpcbtXoV8LG3%2BQb0rfbgoj9dglVLVJ2045fEexmGorC2uvEm3GPUcUZfodgvFwHZ3cf7wSN8XaQfYClAdaQlxYmLj4HbEEZuogwbE1IbissCa8GZVzDyNkXyKgHKjD8xYm3BjqyATNTpGYXuJ%2FMdl1LsVuPQScSWOlN9XS0mcVoANiPs%2Fk9DEL%2FxYJr7dqhzLTSEXvXgUG9bYXfglDQIDM00XNTSGo1bnz%2FKw6M9%2FR3tNB04GHxRF8bjYqPKvEDMtGmym2ySha1g1XMn7c3utxSQtJo5sRXoFW5PK4q%2FmO%2FzuT9qXw1Ks7m8cCZnWLpnCvoX%2BguwgsLT%2BYefN%2B8LoWUeLtonkrQKKf0%2BjBlqh5P4vDBatv8cFY%3D&X-Amz-Algorithm=AWS4-HMAC-SHA256&X-Amz-Date=20240912T041618Z&X-Amz-SignedHeaders=host&X-Amz-Expires=300&X-Amz-Credential=ASIAQ3PHCVTY7GDDN6S4%2F20240912%2Fus-east-1%2Fs3%2Faws4_request&X-Amz-Signature=6bb304d7cd12db57abde6d0e0f463f9f518821ea9ee5967b941e0b96ae410850&hash=cc7d43b6264e90be292272b583eee44bd75311b8127832c707833eb6a0a10016&host=68042c943591013ac2b2430a89b270f6af2c76d8dfd086a07176afe7c76c2c61&pii=S0956713520307428&tid=spdf-b68954f2-407b-4136-92a0-e8222d272f91&sid=2f69d0d25055384f3d8a097-358ba63b705cgxrqa&type=client&tsoh=d3d3LnNjaWVuY2VkaXJlY3QuY29t&ua=10155f01530b5555050302&rr=8c1d14cfcc08688b&cc=jp、2024年9月12日検索 ・参考資料4:ICES Journal of Marine Science , 2024, Vol. 0, Issue 0, p1-17、https://www.researchgate.net/publication/378338197_Experimental_target_strength_measurements_of_pteropods_and_shrimp_emphasize_the_importance_of_scattering_model_inputs、2024年9月12日検索 ・参考資料1~4の和訳 ・参考資料5:ミツトヨカタログ No.13-52版、2021年7月発行、一部抜粋 (3)特許異議申立人の主張について ア 特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、令和6年10月30日に提出された意見書において、おおむね次のとおり主張(以下、順に「主張1」のようにいう。)する。 (ア)主張1 「特許権者は、意見書において、参考資料1~4を参照しつつ、ノギスを用いた方法が、生体の殻などの生体の部位を測定する方法として技術常識であることを主張している。しかしながら、参考資料1~3はいずれもカニの殻の厚さの測定方法について記載されたものであり、エビの殻の厚さの測定方法について記載されたものではない。同じ甲殻類といえど、カニとエビとでは、生体の形状および構造が異なるものであるから、これらの参考資料によって、エビの殻の厚さ、特に頭胸部の殻の厚さの測定においてノギスを用いることが技術常識であったとはいえない。また、特許権者自身も認めているように、参考資料4は、本件特許の優先日の後に公開されたものであるため、これによって、エビの頭胸部の殻の厚さの測定においてノギスを用いることが優先日の時点で技術常識であったことを示すことはできない。特許権者は、「カニの殻の厚さと、本件特許発明での測定対象であるエビの殻の厚さとの差は大きいものではない」と主張しているが、頭胸部を除去せずにノギスを用いて測定できるかどうかは、殻の厚さのみにより決定されるものではなく、生体の構造によっても左右される。カニの殻の厚さをノギスを用いて測定できることが知られていたからといって、エビの頭胸部の殻の厚さを頭胸部を除去せずにノギスを用いて測定できたことが知られていたとはいえない。 したがって、この点に関する特許権者の主張は認められるべきではない。」(上記意見書第1及び2ページ) (イ)主張2 「特許権者は、実験成績証明書を提出し、バナメイエビの頭胸部の殻の厚さを非破壊で測定可能であることを示している。 ここで、知財高判平30.7.5(平成29年(行ケ)10143号審決取消請求事件)では、「実施可能要件適合性は,出願時の技術常識を前提として,発明の詳細な説明の記載に基づいて判断すべきであって,出願後に提出された証拠によって要件適合性の立証をすることはできないというべきである。」と判示されている。 したがって、出願後に提出された証拠である当該実験成績証明書によって、実施可能要件適合性の立証をすることはできない。」(上記意見書第2ページ) (ウ)主張3 「特許権者の実験成績証明書では、市販のバナメイエビの殻の厚みが測定されている。 しかしながら、本件各特許発明においては、エビの種類が限定されていない。特許権者は、どのようなエビであっても、頭胸部の殻の厚みを測定することが可能であることを示していない。 ・・・(略)・・・ 特許権者の実験成績証明書の方法1によってC1の位置の殻の厚みを測定するためには、頭胸部の側端部(鯉部)を外側に開き、殻のC1の位置をデジタルノギスにて挟んで測定する必要がある。しかしながら、体長5cmのサクラエビのように小型のエビの場合、方法1によってC1の箇所の殻の厚みを測定するためには、頭胸部を大きく破壊しなければ、殻を外側に開くことはできない。 ・・・(略)・・・ サクラエビにおいてL2を二等分する点C1に位置する殻の厚みをマイクロメータで測定する場合、L2の長さ約6mmに対して測定面の直径が6.3mmであることから、測定面でC1に位置する殻を挟むことは物理的に不可能である。したがって、エビとしてサクラエビのような小型のものを用いた場合において、頭胸部を除去せずにC1に位置する殻の厚みを測定することはできない。 したがって、実験成績証明書における特許権者の主張は認められるべきではない。」(上記意見書第3ないし5ページ) イ 上記主張についての判断 上記主張について検討するに、次のとおり、いずれの主張も採用できない。 (ア)主張1について 「参考資料1~3はいずれもカニの殻の厚さの測定方法について記載されたものであり、エビの殻の厚さの測定方法について記載されたものではない」としても、甲殻類の殻の厚さを測定する方法としてノギスによる測定方法が技術常識であるとはいえる。 また、「カニとエビとでは、生体の形状および構造が異なるもの」であるとしても、甲殻類である以上、カニの殻の厚さの測定方法をエビの殻の厚さの測定に適用することは、当業者に格別困難性はない。 したがって、「カニの殻の厚さをノギスを用いて測定できることが知られていたからといって、エビの頭胸部の殻の厚さを頭胸部を除去せずにノギスを用いて測定できたことが知られていたとはいえない。」としても、上記(2)のとおり、指定箇所のエビ殻を予め約5~7mm角に切り出すことなく、エビ殻の厚さを測定した後に、頭胸部を未除去の殻付きエビを浸漬液に浸漬することは、当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。 したがって、該主張1は採用できない。 (イ)主張2について 「知財高判平30.7.5(平成29年(行ケ)10143号審決取消請求事件)」は、対象となる発明に係る組成物についての具体的な実施例が発明の詳細な説明に記載されていると認めることはできないと判断され、また、追試実験に係る証拠を考慮しても対象となる発明に係る組成物が現実に得られるのかも判然としないというべきであると判断された事案に関するもので、特許請求の範囲に記載された発明の具体的な実施例が記載されている本件特許とは事情が異なるものである。 したがって、「知財高判平30.7.5(平成29年(行ケ)10143号審決取消請求事件)」における判示は本件特許には当たらない。 よって、該主張2も採用できない。 (ウ)主張3について 本件特許発明1は、本件特許の請求項1の「頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビ」という記載からみて、「頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下」である「エビ」を対象とするもので、サクラエビのような小型のエビで、破壊することなしに頭胸部の殻の厚みを測定することができないようなエビを対象とするものではないことは当業者に明らかである。 したがって、該主張3も採用できない。 (4)取消理由1についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。 2 取消理由2(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 ア 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 イ 判断 発明の詳細な説明の【0001】ないし【0007】によると、本件特許発明1ないし6の解決しようとする課題は「喫食時に身がぼそぼそするといった身の食感が劣化を抑制しつつ、殻の硬い食感が改善された殻付きエビの製造方法」を提供することであり、本件特許発明7の解決しようとする課題は該「殻付きエビの製造方法」に使用する「浸漬液」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。 発明の詳細な説明の【0008】には「本発明者が従来の殻付きエビの殻の食感を鋭意検討したところ、特に奥歯で咀嚼したときの殻の硬さやエビを飲み込んだ後の殻が口内に残る感覚が、殻付きエビの食べにくさに大きく影響することを見出した。そして、特定の厚さのエビ殻を特定の塩で処理することで、驚くべきことに、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さを効果的に低減でき、エビを飲み込んだ後の殻が口内に残る感覚(殻の口残り感)も抑制できることを見出した。」と記載されている。 発明の詳細な説明の【0009】、【0010】、【0020】、【0023】、【0024】、【0026】、【0027】、【0032】及び【0035】には、本件特許発明1ないし7に対応する事項が記載されている。 発明の詳細な説明の【0015】には「本発明で用いるエビの頭胸部の殻の厚さは、0.09mm以上0.21mm以下である。 本発明者は、頭胸部の殻の厚さが所定範囲のエビであると、驚くべきことに、従来は、殻付きエビの処理剤として緩衝剤としてしか知られていなかった有機酸塩やリン酸塩の中性から弱アルカリ性の水溶液による処理を行っても、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さを効果的に低減でき、エビを飲み込んだ後の殻が口内に残る感覚(殻の口残り感)も低減できることを見出した。 すなわち、酢酸ナトリウムを初めとする有機酸塩やリン酸塩の中性ないし弱アルカリ性の水溶液を殻の軟化に用いることは、従来ほとんど検討されていなかった。しかし、本発明者は、エビ殻厚さが所定以下であることで、これらの塩の中性ないし弱アルカリ性の水溶液を用いても殻の軟化が可能であることを知見した。限定されるものではないが、軟化のメカニズムの例としては、殻中のカルシウムが溶出し、殻中のキチン等と結合して硬い殻を構成していた構造が変性して行われたと考えられる。このような特定のリン酸塩や有機酸塩の水溶液で処理した場合、これらの塩ではなく、有機酸等の酸で処理した場合に比して、身の食感の劣化を効果的に抑制することができる。」と記載されている。 発明の詳細な説明の【0022】には「上記の殻厚さのエビを用い、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸及びリン酸から選ばれるすくなくとも一種のアルカリ金属塩の水溶液(以下、「浸漬液」ともいう。)に浸漬させることで、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さやエビを飲み込んだ後の殻が口内に残る感覚を効果的に低減できる。 従来、酢酸、クエン酸等の有機酸の塩を殻の軟化に用いる場合、有機酸との組み合わせた酸性の緩衝剤として用いられていたが、本発明ではこれらを中性ないし弱アルカリ性で用いる。アルカリ金属塩は、例えばナトリウム塩又はカリウム塩であることが好ましい。」と記載されている。 発明の詳細な説明の【0024】には「具体的には、酢酸、クエン酸、アスコルビン酸及びリン酸から選ばれるすくなくとも一種のアルカリ金属塩の水溶液のpHは3~5℃にて10.0以下であり、中性又は弱アルカリ性のpHである6.5~9.0であることが好適であり、特に6.5~8.9であることが好適である。更に好適には当該水溶液の10℃のpHは6.7~8.5であることが好適であり、更に6.9~7.5であってもよい。このような中性ないし弱アルカリ性の水溶液で浸漬させても、特定の厚みの殻のエビに対し、特定の塩を組み合わせて用いる場合、驚くべきことに殻の軟化を行うことができる。本発明で用いる浸漬液のpHが所定値以上であることは、酸味や身の変質(エビの筋肉が縮む等)を効果的に防止できる点で望ましい。また本発明で用いる浸漬液のpHが所定値以下であることで、強アルカリ性である場合の肉部の変性や肉部に透明感が発現すること、また食感がぶよぶよと過度に軟化することを回避することができる。」と記載されている。 発明の詳細な説明の【0043】ないし【0061】において、「頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビを、頭胸部を除去するか又は頭胸部を除去せずに、酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を2.0~10.0質量%含有する、pH6.5以上10.0以下の水溶液に浸漬する、殻付きエビの製造方法」という条件を満たす実施例の製造方法(なお、実施例で使用された水溶液のpHは8.4、7.48、8.25、8.9及び8.3のいずれかである。)により製造された殻付きエビが、上記条件を満たさない製造方法により製造された殻付きエビよりも、奥歯で咀嚼したときの殻の硬さ、殻の口残り感、殻の食感及び身の食感が優れていることを確認している。 そうすると、当業者は発明の詳細な説明の記載から、「頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビを、頭胸部を除去するか又は頭胸部を除去せずに、酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を2.0~10.0質量%含有する、pH6.5以上10.0以下の水溶液に浸漬する、殻付きエビの製造方法」及びそれに使用する「浸漬液」は発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1及び3ないし6は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「殻付きエビの製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明7は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「浸漬液」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1及び3ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1及び3ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (3)取消理由2についてのむすび したがって、本件特許の請求項1及び3ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。 3 取消理由3(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 取消理由3は、本件訂正前の本件特許発明4が「前記水溶液に浸漬後、更に有機酸水溶液による浸漬処理を行わずに得られたものである」という「製造方法」を特定する事項としては明確でない発明特定事項を有していたことに起因するものであるところ、本件訂正により、「製造方法」を特定する事項として明確な発明特定事項を有するものに訂正されたので、「前記水溶液に浸漬後、更に有機酸水溶液による浸漬処理を行わずに得られたものである」という発明特定事項に起因する明確性要件違反はなくなった。 そこで、改めて検討する。 本件特許の請求項4の記載は、それ自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。 したがって、本件特許発明4に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)取消理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由3によっては取り消すことはできない。 第7 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について 取消理由として採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由は次のとおりである。 ・申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性) ・申立理由3(サポート要件)(当審注:取消理由2とは異なる根拠のサポート要件である。) ・申立理由4(明確性要件)(1) 以下、順に検討する。 1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1には、「水産物の漬込み方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。 ・「【技術分野】 【0001】 本発明は、水産物の漬込み方法に関する。詳細には、凍結や加熱によりドリップが発生しにくく、かつ、水産物本来の味や食感を維持することができる漬込み方法に関する。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、水産物本来の味及び食感に対する影響が小さく、かつ、冷凍、加熱時のドリップを抑制する漬込み方法を提供することを課題とする。」 ・「【課題を解決するための手段】 【0006】 水産物の漬け込みについては、従来さまざまな配合の漬け込み液、漬込み方法が工夫されてきているが、いまだ、生の水産物のような味、食感を保持したうえで、冷凍、加熱時のドリップを抑制する、すなわち、旨味の流出を抑え、食感を保持するための効果的な方法が確立していない。そこで、本発明では、味と食感に影響を及ぼさずにドリップを抑制し、歩留まりを保持するために、何が必須であるかという観点で、漬け込み液の見直しを行った。 その結果、重要なのは塩類の種類や濃度ではなく、イオン強度という観点であることを見出した。このイオン強度が重要であることが明らかになったことにより、味や食感に影響を与える成分の配合量を抑え、イオン強度を高める成分の配合量を多くすることにより、味や食感に影響が少なく、歩留まりを保持することができる方法を見出した。」 ・「【発明の効果】 【0008】 本発明の漬込み方法を採用することにより、水産物の味や食感への影響、具体的には塩味やアルカリによる透明感、ゼリー状の食感などが生じるのを防ぎつつ、冷凍、加熱時のドリップを抑制し、旨味の流出を抑制するとともに、歩留まりを保持することができる。」 ・「【発明を実施するための形態】 【0010】 本発明は、水産物の漬込み方法に関する。 本発明の対象となる水産物とは、魚類、甲殻類、軟体動物のうち、食用にされるものであれば特に限定しない。具体的には、甲殻類としてはエビ類、軟体動物としてはイカ類、タコ類、貝類の貝柱が挙げられる。 本発明の対象となるエビ類とは、節足動物門・甲殻亜門・軟甲綱・十脚目(エビ目)に属する生物のうち、食用にされるものである。具体的には、テッポウエビ、クルマエビ、ウシエビ(ブラックタイガー)、バナメイ、シバエビ、サルエビ、ウチワエビ、サラサエビ、カクレエビ類、オトヒメエビ、イセエビ、セミエビ、ロブスター、サクラエビ、シラエビ、ホッコクアカエビ(アマエビ)、アカザエビ、イソスジエビ、ホッカイエビ、コシマガリモエビ、アシナガモエビ、テナガエビ類、スジエビ、ヌマエビ類、ザリガニ、アメリカザリガニなどが例示される。 エビは、生でも冷凍解凍したものでもよい。 本発明の対象となるイカ類とは、軟体動物門・頭足網・鞘形亜門・十腕形上目に属する生物のうち、食用にされるものである。具体的には、スルメイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ(ダルマイカ)、アカイカ(ムラサキイカ)、アオリイカ、ソデイカ、コウイカ、モンゴウイカ、シリヤケイカ、ミミイカ、コブシメ、ジンドウイカ、ホタルイカ、アメリカオオアカイカなどが例示される。イカは、生でも冷凍解凍したものでもよい。 本発明の対象となるタコ類とは、軟体動物門・頭足網・鞘形亜門・八腕形上目(タコ目)に属する生物のうち、食用にされるものである。具体的には、マダコ、ミズタコ、イイダコ、コツブイイダコ、シマダコ(ワモンダコ)、ヤナギダコ、テナガダコ、チヒロダコなどが例示される。タコは、生でも冷凍解凍したものでもよい。 本発明の対象となる貝類の貝柱とは、軟体動物門・二枚貝網・イタヤガイ目またはイガイ目に属する生物の貝柱のうち、食用にされるものである。具体的には、イタヤガイ目に属する生物としてはホタテガイ、ヒオウギガイ、イタヤガイなどが例示され、イガイ目に属する生物としてはタイラギ、ムラサキイガイなどが例示される。貝類の貝柱は、生でも冷凍解凍したものでもよい。」 ・「【0014】 本発明における「全体イオン強度」、「全体食塩濃度」、「全体クエン酸3ナトリウム濃度」とは、漬込み液のイオン強度や塩類の濃度ではなく、水産物の重量も水の重量とみなし、それぞれ水産物の重量と漬け込み液の水の重量の合計におけるイオン強度、塩類濃度、クエン三3ナトリウム濃度を意味する。 本発明者は、漬け込み液につけられた水産物の内部まで塩類が浸透し、一定になった段階のイオン強度が重要であることを見出し、水産物の重量を水の量とみなし、「水溶液イオン強度×水溶液量)/(水溶液量+エビ重量)」を全体イオン強度と定義した。 同様に、食塩等塩類の濃度も、「水溶液中濃度×水溶液量)/(水溶液量+水産物重量)」を全体濃度と定義した。 このように全体イオン濃度、全体濃度を規定することにより、漬込み液量と水産物の量によって、効果に違いが生じることがなく、設計通りに漬込まれた水産物を生産することが可能になる。 殻付きのエビを用いる場合、殻の存在により、漬込み液の浸透がやや悪くなるが、殻の重量は軽く、大きな影響はないので、むきエビの場合も殻付きエビの場合もエビの重量を水の重量とみなして計算することができる。」 ・「【0016】 本発明の漬込み時の全体イオン強度は0.2~0.8mol/kgであるが、好ましくは、0.3~0.7mol/kg、さらに好ましくは、0.4~0.7mol/kgである。全体食塩濃度は1.5重量%未満であり、好ましくは、1.2重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下、0.8重量%以下、0.75重量%以下である。食塩濃度に下限はなく、ゼロでも良いが、食塩の味はエビの旨味を増強する効果もあるので、全体濃度として、少なくとも0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.05重量%以上含有させることが好ましい。その他の味付けの関係で食塩味が強くてもいい場合はこの限りではない。漬込み後の水産物のpHが6.5~8.6となるように漬け込む。好ましくはpH6.6~8.3、さらに好ましくはpH7.0~8.2、pH7.0~8.1、pH7.0~8.0となるように漬け込む。漬込み後の水産物のpHは漬け込み液との相関性が高いので、漬け込み液のpHを調整することにより、水産物のpHも容易に調整することができる。漬込み液のpHは7.0~9.5であり、好ましくは7.0~9.3、7.0~9.0、さらに好ましくは7.0以上9.0未満、7.0~8.8、7.0~8.5である。」 ・「【0019】 低濃度でイオン強度を高めるためには、分子量が小さく、電荷の高いイオンを含む塩類が好ましいことになる。食品に用いられる塩類のうちでは、クエン酸3ナトリウム等が適していることがわかる。実施例3に示したように、クエン酸3ナトリウムを少なくとも全体濃度1重量%以上となるように用いて、イオン強度を調節すれば、塩味に影響がない範囲で好ましいイオン強度に調製することができる。 食塩、クエン酸3ナトリウム以外にも、食用に用いることができる有機酸塩及び/又は無機酸塩、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のいずれか又はそれらの組合せ、あるいは、クエン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、アスコルビン酸、エリソルビン酸塩、乳酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、重合リン酸塩、塩酸塩のいずれか又はそれらの組合せで等を用いることができる。 具体的には、塩化ナトリウム、クエン酸3ナトリウム、塩化カリウム、クエン酸3カリウム、クエン酸カルシウム、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、エリソルビン酸ナトリウム、重合リン酸塩などが例示される。 【0020】 本発明の好ましい漬込み方法の態様としては、以下のような態様が例示される。 全体濃度として、クエン酸3ナトリウムを1~4重量%、食塩を添加しないか、1重量%以下添加して、全体イオン強度を0.2~0.8mol/kgに調節する態様、あるいは、さらに、その他の塩として、塩化カリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸カルシウム、乳酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、エリソルビン酸ナトリウム、重合リン酸ナトリウムなどから選ばれる1種又は複数の塩を加えて、全体イオン強度を0.2~0.8mol/kgに調節する態様などである。 【0021】 本発明の漬込みは、水産物の品質に影響しない温度、通常0~20℃で、1~48時間、好ましくは、3~36時間、4~24時間、さらに好ましくは5~24時間、5~18時間漬け込むのが適当である。水産物のサイズによるが、1時間でかなりの程度均質に漬け込むことができる。3時間であれば十分である。漬込み時間の上限は特にないが、水産物の品質に影響を与えないために不必要に長くつける必要はなく、その他の作業との関係で適当な時間を設定する。漬け込む漬け込み液の濃度がエビの中心まで浸透し、均一の濃度になる程度漬け込むことにより、味や食感にムラがなくなるので好ましい。 本発明の漬込みは、漬け込み用の配合を溶解した漬け込み液に水産物を漬ける方法で行っても、漬込み用の配合の粉末を水産物にまぶしてから、水分を加えて漬け込む方法、さらに水を加えず、粉末のみをまぶす方法で行ってもよい。 粉末でまぶす場合は、水産物に対して、塩類を粉末でまぶした後に、水を加えてa)~c)を満たす条件にして、漬け込むことができる。具体的には、塩類の粉末をまぶした後、0.5~2時間保持してから、水を加え、通常0~20℃で、合計1~48時間、好ましくは、3~36時間、4~24時間、さらに好ましくは5~24時間、5~18時間漬けこむことができる。粉末でまぶすことにより、水や塩類の使用量を大幅に少なくすることができ、旨味が漬込み液に流出するのも抑制することができる。粉末でまぶす場合は、水産物に対して塩類を粉末でまぶした後に、水を加え、a)~c)を満たす条件と合わせて、さらに、d)を満たす条件にしてもよい。水を加えた後の漬け込みの効果は、漬け込み液に場合と同様に考えることができる。 粉末のみをまぶす場合、水産物に含まれる水分のみで漬け込むことになる。水を添加したほうが歩留まりが良好になるため、水を加えるほうが好ましいが粉末のみでも可能である。 本発明の方法により漬込んだ水産物は、食感が良好となり、喫食に好ましい。 以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。」 ・「【実施例2】 【0024】 表1-1及び表1-2に示す12通りの配合で漬込み液を調製した。冷凍バナメイエビ(むきエビ)を解凍し、エビの重量に対して、100重量%の漬込み液を用いて、18時間漬け込みを行った。比較例1は漬込み無し、比較例2ではpHの高い漬込み液を用いた。漬け込み後の加熱処理は、100℃の湯で90秒ボイル後、氷水で1分間冷却とした。 表1-1及び表1-2の「水溶液イオン強度」、「全体イオン強度」の定義は実施例1と同じである。 漬込み前の重量に対する漬込み後の重量の比率である漬込み歩留まりと、加熱前の重量に対する加熱後の重量の比率である加熱歩留まりを測定し、加熱後のサンプルを用いて、エビの食感について官能評価を行った。評価方法は、エビの食感について、「エビの繊維を感じる食感(2点)」、「ゼリー様の食感を感じ始める(1点)」、「全体がゼリー様の食感になっている(0点)」という、0点~2点の評価基準で、0.5点刻みで評価した(n=3)。1点以下は、エビらしくなく、好ましくない食感であると判断した。 【0025】 ・・・(略)・・・ また、イオン強度が適当であっても、漬け込み液のpHが10を超えるとエビらしい食感が損なわれることが分かった。 【0026】 【表1-1】 [図:0001421355000001.jpg] 【表1-2】 [図:0001421355000002.jpg] 」 ・「【実施例3】 【0027】 ・・・(略)・・・ エビらしい食感に影響するpHについて検討するため、表2に示す6通りの配合で漬込み液を調製した。冷凍バナメイエビ(むきエビ)を解凍し、エビの重量に対して、100重量%の漬込み液を用いて、18時間漬け込みを行った。 ・・・(略)・・・ 【0029】 【表2】 [図:0001421355000003.jpg] 」 ・「【実施例4】 【0030】 ・・・(略)・・・ 表3に示す7通りの配合で漬込み液を調製した。冷凍バナメイエビを解凍し、エビの重量に対して、100重量%の漬込み液を用いて、18時間漬け込みを行った。 ・・・(略)・・・ 【0032】 【表3】 [図:0001421355000004.jpg] 」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に実施例2ないし4に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1エビの漬け込み方法発明」及び「甲1エビの漬込み液発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1エビの漬け込み方法発明> 「表1-1の配合1ないし7、表1-2の配合8ないし12、表2の配合1ないし5及び表3の配合1ないし7に示すいずれかの配合で調整したpHが10を超えないエビの漬込み液に解凍した冷凍バナメイエビ(むきエビ)を漬け込む方法。」(当審注:表1-1の配合1ないし7、表1-2の配合8ないし12、表2の配合1ないし5及び表3の配合1ないし7については上記ア参照。以下同様。) <甲1エビの漬込み液発明> 「表1-1の配合1ないし7、表1-2の配合8ないし12、表2の配合1ないし5及び表3の配合1ないし7に示すいずれかの配合で調整したpHが10を超えない解凍した冷凍バナメイエビ(むきエビ)の漬込み液。」 (2)本件特許発明7について ア 対比 本件特許発明7と甲1エビの漬込み液発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「酢酸、クエン酸、アスコルビン酸及びリン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩のpH10.0以下の水溶液である浸漬液。」 そして、両者は次の点で一応相違する。 <相違点7-1> 本件特許発明7においては「腹部の身と、腹部の身を被覆する殻とを有する頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である殻付きエビを浸漬処理して軟化し、加熱調理したときに殻付き状態で喫食可能とするための浸漬液」と特定されているのに対し、甲1エビの漬込み液発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点7-2> 「pH10.0以下の水溶液」に関して、本件特許発明7においては「pH6.5以上10.0以下の水溶液」と特定されているのに対し、甲1エビの漬込み液発明においては「pHが10を超えない」と特定されているものの、本件特許発明7のようには特定されていない点。 イ 判断 相違点7-1について検討する。 甲1には、【0010】にエビの種類及び【0014】に殻付きのエビを用いる場合に関する記載があるものの、「頭胸部の殻の厚さ」については何ら記載されていないし、示唆もされていない。 したがって、相違点7-1は実質的な相違点である。 また、甲1には、甲1エビの漬込み液発明において、相違点7-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1エビの漬込み液発明において、相違点7-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明7の奏する「身の食感の劣化を抑制しつつ、殻ごと喫食したときに奥歯で咀嚼したときの殻の硬さが効果的に低減され、殻の口残り感が抑制された殻付きエビが提供」される「浸漬液」が提供される(発明の詳細な説明の【0011】)という効果は、甲1エビの漬込み液発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明7の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明7は甲1エビの漬込み液発明であるとはいえないし、甲1エビの漬込み液発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲1エビの漬け込み方法発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「エビの製造方法であって、 エビを酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を2.0~10.0質量%含有する、pH10.0以下の水溶液に浸漬する、エビの製造方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1-1> 本件特許発明1においては「腹部の身と、腹部の身を被覆する殻とを有し、加熱調理用又は加熱済みであり且つ殻付き状態で喫食できる殻付きエビの製造方法であって、頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビを、頭胸部を除去するか又は頭胸部を除去せずに」「水溶液に浸漬する」と特定されているのに対し、甲1エビの漬け込み方法発明においてはそのようには特定されていない点。 <相違点1-2> 「pH10.0以下の水溶液」に関して、本件特許発明1においては「pH6.5以上10.0以下の水溶液」と特定されているのに対し、甲1エビの漬け込み方法発明においては「pHが10を超えない」と特定されているものの、本件特許発明1のようには特定されていない点。 イ 判断 相違点1-1について検討する。 甲1には、【0010】にエビの種類及び【0014】に殻付きのエビを用いる場合に関する記載があるものの、「頭胸部の殻の厚さ」については何ら記載されていないし、示唆もされていない。 また、甲1には、甲1エビの漬け込み方法発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。 したがって、甲1エビの漬け込み方法発明において、相違点1-1に係る本件特許発明7の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「身の食感の劣化を抑制しつつ、殻ごと喫食したときに奥歯で咀嚼したときの殻の硬さが効果的に低減され、殻の口残り感が抑制された殻付きエビが提供される」(発明の詳細な説明の【0011】)という効果は、甲1エビの漬け込み方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1エビの漬け込み方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明2ないし6について 本件特許発明2ないし6は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1エビの漬け込み方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)申立理由1についてのむすび したがって、本件特許発明7は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし7は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 サポート要件の判断基準は、上記第6 2(1)のとおりである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 まず、本件特許発明1及び3ないし7に関しては、上記第6 2(2)イのとおり、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 次に、本件特許発明2に関して検討する。 上記第6 2(2)イのとおり、本件特許発明2の解決しようとする課題は「喫食時に身がぼそぼそするといった身の食感が劣化を抑制しつつ、殻の硬い食感が改善された殻付きエビの製造方法」を提供することであり、当業者は発明の詳細な説明の記載から「頭胸部の殻の厚さが0.09mm以上0.21mm以下である未加熱状態のエビを、頭胸部を除去するか又は頭胸部を除去せずに、酢酸、クエン酸及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を2.0~10.0質量%含有する、pH6.5以上10.0以下の水溶液に浸漬する、殻付きエビの製造方法」は発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明2は上記「殻付きエビの製造方法」を水溶液のpH範囲についてさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明2に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第4 3(1)及び(2)における主張について検討するに、次のとおり、いずれの主張も採用できない。 ア 上記第4 3(1)における主張について サポート要件の判断は上記第6 2(1)の判断基準に従い行われるものであり、実施例が実施可能かどうかはサポート要件の判断とは関係がない。 なお、実施例が実施可能であることは、上記第6 1(2)のとおりである。 また、発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題が解決できると認識できる範囲は上記第6 2(2)イのとおりである。 したがって、上記第4 3(1)における主張は採用できない。 イ 上記第4 3(2)における主張について 発明の詳細な説明の記載から当業者が発明の課題が解決できると認識できる範囲は上記第6 2(2)イのとおりである。 そして、発明の詳細な説明の【0048】の【表1】から、浸漬時間が8時間より短い場合でも、浸漬液として水を使用した場合よりは、発明の課題を解決できていると当業者は理解する。 また、バナメイエビを用いた場合に発明の課題を解決できる以上、バナメイエビ以外のエビでも程度の差はあれ発明の課題を解決できると当業者は理解する。 さらに、浸漬時間が8時間よりも短い場合やバナメイエビ以外のエビを用いた場合に、本件特許発明1ないし7の発明特定事項を有していても、発明の課題が解決できないものがあることの具体的な証拠が示されている訳でもない。 したがって、上記第4 3(2)における主張も採用できない。 (4)申立理由3について したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。 3 申立理由4(明確性要件)(1)について (1)明確性要件の判断基準 明確性要件の判断基準は、上記第6 3(1)のとおりである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 まず、本件特許発明4に関しては、上記第6 3(2)のとおりである。 次に、本件特許発明1ないし3及び5ないし7に関して検討する。 本件特許の請求項1ないし3及び5ないし7の記載は、それら自体に不明確な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載とも整合している。 したがって、本件特許発明1ないし3及び5ないし7に関して、特許請求の範囲の記載は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 (3)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の上記第4 4(1)における主張について検討するに、次のとおり、採用できない。 本件特許発明1ないし7における「頭胸部の殻の厚さ」に関して、発明の詳細な説明の【0017】にその定義が記載され、同【0018】には「エビ殻」を「切り出す」場合の測定方法が記載され、「エビ殻」を「切り出」さない場合の測定方法は上記第6 1(2)のとおり、当業者の技術常識である。 また、本件特許発明1ないし7における「頭胸部の殻の厚さ」を測定する際に使用する「厚み計」をどのような条件で使用するかは、測定値が「頭胸部の殻」の厚さであると評価できる程度の条件で使用することは当業者に明らかである。 したがって、本件特許発明1ないし7における「頭胸部の殻の厚さ」は明確であるといえる。 したがって、特許異議申立人の上記第4 4(1)における主張は採用できない。 (4)申立理由4(1)について したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4(1)によっては取り消すことはできない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2024-700392

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