特許異議申立
2024-700326
絶縁電線
- 審判番号
- 2024-700326
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-030050
- 登録番号
- 7359033
- 請求日
- 2024年04月09日
- 審決日
- 2024年10月18日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社プロテリアル
- 【権利者代理人】弁理士法人筒井国際特許事務所
- 【異議申立人】加藤 純子
- 審判長/審判官
- 審判長 須田 勝巳
- 審判官 山崎 慎一
- 審判官 脇岡 剛
- 分類
- P1651.121-YAA(H01B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7359033号発明「絶縁電線」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7359033号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
特許第7359033号の請求項2及び3に係る特許を維持する。
特許第7359033号の請求項1についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7359033号の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和2年2月26日に出願され、令和5年10月2日にその特許権の設定登録がされ、令和5年10月11日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和6年4月9日に特許異議申立人加藤純子(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、当審は、同年6月25日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である同年8月23日に意見書の提出及び訂正の請求を行ったところ、本件訂正請求に対して、申立人は、同年10月3日に意見書(以下、「申立人意見書」という。)を提出した。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正内容
令和6年8月23日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(3)のとおりである。(なお、下線は、訂正請求書において特許権者によって付加されたものである。)
(1)訂正事項1(請求項1に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2(請求項2に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項2に
「 請求項1に記載の絶縁電線において、
前記第1ベース樹脂に含まれる前記エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量は、40質量%以下である、絶縁電線。」
とあるのを、
「導体と、
前記導体の外周を覆う絶縁層と、
前記絶縁層の外周を覆う難燃層と、
を備える、絶縁電線であって、
前記難燃層を構成する第1樹脂組成物は、
エチレン酢酸ビニル共重合体を含む第1ベース樹脂と、
前記第1ベース樹脂に添加された金属水酸化物と、
メタクリル基を含むシランカップリング剤と、
を有し、
前記第1樹脂組成物は、前記第1ベース樹脂の100質量部に対して、前記金属水酸化物を150質量部~200質量部の割合で含み、かつ、前記シランカップリング剤を1質量部~3質量部の割合で含み、かつ、架橋され、
前記第1ベース樹脂に含まれる前記エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量は、40質量%以下である、絶縁電線。」に訂正する。
(3)訂正事項3(請求項3に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項3に
「請求項1または2に記載の絶縁電線において、」
とあるのを、
「請求項2に記載の絶縁電線において、」
に訂正する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項と認める。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
以下、訂正事項1~3についての、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について判断する。
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、請求項1を削除するというものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の記載を独立形式に改めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の記載を独立形式に改めたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の記載を独立形式に改めたものであるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1又は2を引用するうち、請求項1を引用するものを削除し、請求項2を引用することのみを特定する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1又は2を引用するうち、請求項1を引用するものを削除し、請求項2を引用することのみを特定する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合する。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、本件訂正前の請求項1又は2を引用するうち、請求項1を引用するものを削除し、請求項2を引用することのみを特定する訂正であるから、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合する。
3 独立特許要件について
本件異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~3に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、訂正後の請求項1~3に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(「独立特許要件」)は課されない。
4 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
特許第7359033号の請求項1~3の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明3」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次の1~3に示すとおりのものである。(なお、各構成要件の前に付した、「A」~「J」の記号は、各構成要件を区別するために当審で付したものであり、それぞれ「構成要件A」~「構成要件J」などという。なお、「/」は、改行位置を表す。)
1 本件特許発明1
(削除)
2 本件特許発明2
A: 導体と、/前記導体の外周を覆う絶縁層と、/前記絶縁層の外周を覆う難燃層と、/を備える、絶縁電線であって、
B: 前記難燃層を構成する第1樹脂組成物は、/エチレン酢酸ビニル共重合体を含む第1ベース樹脂と、/前記第1ベース樹脂に添加された金属水酸化物と、/メタクリル基を含むシランカップリング剤と、/を有し、
C: 前記第1樹脂組成物は、前記第1ベース樹脂の100質量部に対して、前記金属水酸化物を150質量部~200質量部の割合で含み、かつ、
D: 前記シランカップリング剤を1質量部~3質量部の割合で含み、かつ、
E: 架橋され、
F: 前記第1ベース樹脂に含まれる前記エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量は、40質量%以下である、絶縁電線。
3 本件特許発明3
G: 請求項2に記載の絶縁電線において、/前記絶縁層を構成する第2樹脂組成物は、/第2ベース樹脂と、/シランカップリング剤で表面処理された無機充填剤と、/を有し、
H: 前記第2ベース樹脂の100質量部に対して、前記シランカップリング剤で表面処理された前記無機充填剤を80質量部以上含み、
I: 前記第2ベース樹脂は、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体から選ばれる樹脂を単体または複数含み、
J: 前記第2樹脂組成物は、架橋されている、絶縁電線。
第4 申立理由の概要
1 異議申立理由(甲第1号証に基づく進歩性違反)について
本件特許発明1~2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許発明3は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。(なお、甲第1号証及び甲第2号証を、以下、「甲1」、「甲2」などと記載することがある。)
したがって、本件特許発明1~3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(証拠)
甲第1号証 : 特開2014-011140号公報
甲第2号証 : 特開2015-162291号公報
第5 各証拠に記載された事項
申立人が異議申立書(以下、「申立書」という。)において、証拠として提示する、甲第1号証及び甲第2号証には、以下の1及び2に示す事項の記載が認められる。(下線は当審で付加。以下同様。)
1 甲第1号証(特開2014-011140号公報)
(1)甲1に記載された事項
甲1には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付加。以下同様。)
ア 「【0001】
本発明は、車両用絶縁電線及び車両用ケーブルに関する。さらに詳しくは、難燃性を備えるとともに、高い耐油性及び優れた低温特性(低温での可とう性)を両立させた車両用絶縁電線及び車両用ケーブルに関する。
…中略…
【0011】
[1]導体と、前記導体の外周に形成された絶縁層とを備えた車両用絶縁電線であって、前記絶縁層は、ベースポリマと、前記ベースポリマに添加されたシランカップリング剤及び金属水酸化物とを含有するハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物から構成され、前記ベースポリマは、主成分として、(a)エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)及び(b)DSC法によるガラス転移点(Tg)が-55℃以下である酸変性オレフィン樹脂を、(a):(b)=70:30~100:0の割合で含有するとともに、その酢酸含有量(VA)が50~70質量%であり、前記シランカップリング剤は、前記ベースポリマ100質量部に対して、1~5質量部の割合で添加され、かつ前記金属水酸化物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、100~250質量部の割合で添加されている車両用絶縁電線。
【0012】
[2]前記EVAは、2種以上から構成されるとともに、メルトフローレイト(MFR)が15g/10min以上のEVAが5~10質量%含まれている前記[1]に記載の車両用絶縁電線。
【0013】
[3]導体と、前記導体の外周に形成された絶縁層と、前記絶縁層の外周に形成されたシースとを備えた車両用ケーブルであって、前記シースは、ベースポリマと、前記ベースポリマに添加されたシランカップリング剤及び金属水酸化物とを含有するハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物から構成され、前記ベースポリマは、主成分として、(a)エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)及び(b)DSC法によるガラス転移点(Tg)が-55℃以下である酸変性オレフィン樹脂を、(a):(b)=70:30~100:0の割合で含有するとともに、その酢酸含有量(VA)が50~70質量%であり、前記シランカップリング剤は、前記ベースポリマ100質量部に対して、1~5質量部の割合で添加され、かつ前記金属水酸化物は、前記ベースポリマ100質量部に対して、100~250質量部の割合で添加されている車両用ケーブル。
…中略…
【0025】
本実施の形態において、用いられるハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物のベースポリマのVAが、50質量%未満だと耐油性を満足することができず、70質量%を超えると、低温特性が得られない。また、EVAは、燃焼時に脱酢酸による吸熱が起こる。したがって、VAが低いと、難燃性が低下する傾向にある。
…中略…
【0030】
本実施の形態において用いられるシランカップリング剤は、ベースポリマと反応可能な基及びアルコキシ基を有するものが好ましい。EVAが有する酢酸は、系内を酸性に傾けるため、アルコキシ基の加水分解が促進され、シラノール基が生成される。このシラノール基が金属水酸化物の水酸基と水素結合及び脱水縮合反応による化学的な結合を形成するため、金属水酸化物との密着が強固なものとなる。
【0031】
具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、β-(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フエニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物等を挙げることができる。また、これらのシラン化合物の2種以上を併用することができる。特に、ビニル基を有するシランカップリング剤は、過酸化物や電子線照射等で生成するラジカルにより化学的にポリマと密着することが可能で、低温特性が良好となるため好ましい。
【0032】
本実施の形態において用いられる架橋方式としては、特に制限はないが、上記の点から有機過酸化物架橋、電子線照射等のラジカル反応型が好ましい。
【0033】
本実施の形態において、ベースポリマへの添加物質の他の1つである金属水酸化物は、その含有量が、100質量部未満であると、十分な難燃性を得ることができず、250質量部を超えると、低温特性が確保されない。
…中略…
【0046】
(実施例1)
図2に示す車両用ケーブルを以下のようにして製造した。すなわち、導体として、構成80本/0.40mmの錫めっき銅導体を用い、絶縁層として、エチレン-ブテン-1共重合体ゴム(三井化学社製、商品名:タフマA-4050S)100質量部に対して、有機過酸化物(日本油脂社製、商品名:パーブチルP)を2質量部添加した樹脂組成物を用い、シースとして、表1に示す配合用材料からなるハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物を用いた。これらの樹脂組成物を、導体の外周に、絶縁層の厚さが0.45mm、また、シースの厚さが1.67mmになるように、4.5インチ連続蒸気架橋押出機で2層押出を行い、外径8.60mmになるように被覆した。架橋は、1.8MPaの高圧蒸気を用いて3分間行って、車両用ケーブルを得た。
【0047】
この場合、シースを構成するハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物の配合用材料としては、EVA(VA:60質量%)(LANXESS社製、商品名:レバプレン600)を100質量部、シランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン、チッソ社製、商品名:サイラエースS210)を3質量部、有機過酸化物(日本油脂社製、商品名:パーブチルP)を2質量部、水酸化マグネシウム(協和化学社製、商品名:キスマ5L)を100質量部、それぞれ配合したものを用いた。」
イ 「【0057】
【表1】
[図:0001418245000001.jpg]
」
ウ 「図2
[図:0001418245000002.jpg]
」
(2)甲1発明
上記(1)の記載事項(特に下線部)より、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
「難燃性を備えるとともに、高い耐油性及び優れた低温特性(低温での可とう性)を両立させた車両用ケーブルであって(【0001】)、
導体と、前記導体の外周に形成された絶縁層と、前記絶縁層の外周に形成されたシースとを備え、前記シースは、ベースポリマと、前記ベースポリマに添加されたシランカップリング剤及び金属水酸化物とを含有するハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物から構成され(【0013】、図2)、
シランカップリング剤は、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物等であり(【0030】、【0031】)、
架橋方式としては有機過酸化物架橋、電子線照射等のラジカル反応型が好ましく(【0032】)、
ベースポリマへの添加物質の他の1つである金属水酸化物は、その含有量が、100質量部未満であると、十分な難燃性を得ることができず、250質量部を超えると、低温特性が確保されず(【0033】)、
車両用ケーブルシースとして、表1に示す配合用材料からなるハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物を用い、架橋は、1.8MPaの高圧蒸気を用いて3分間行われ(【0046】、図2)、
表1に示す配合用材料は、EVA100質量部、ビニルトリメトキシシランη3質量部、水酸化マグネシウム100質量部(実施例1)を含み(【0057】、表1)、
シースを構成するハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物の配合用材料としては、EVAを100質量部、シランカップリング剤を3質量部、水酸化マグネシウムを100質量部、それぞれ配合したものを用い(【0047】)、
用いられるハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物のベースポリマのVAが、50質量%未満だと耐油性を満足することができず、70質量%を超えると、低温特性が得られない(【0025】)
車両用ケーブル。」
2 甲第2号証(特開2015-162291号公報)
(1)甲2に記載された事項
甲2には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン多層絶縁電線に関し、特に、内層と外層とにより導体を被覆するノンハロゲン多層絶縁電線に関する。
…中略…
【0021】
充填剤は、タルクと焼成クレーと炭酸カルシウムとのうち少なくとも1種類以上を含有する。タルクは押出特性を改良し、組成物の押出加工性及び押出外観を向上させる。焼成クレーは、組成物の絶縁抵抗を向上させる。炭酸カルシウムは、安価な充填剤で、組成物中の炭酸カルシウムの含有量が多いほど、低コストとなる。炭酸カルシウムは、重質、軽質いずれのものでも良いが、後述する実施例では重質のものを用いる。樹脂成分100質量部に対して、充填剤は20~200質量部(X質量部とする)混和され、より好ましくは80~150質量部である。組成物中の充填剤成分が20質量部未満であると、押出加工性が低下する。逆に、組成物中の充填剤成分が200質量部を超えると、機械的特性(引張強さ、伸び等)が低下する。さらに、組成物中の上記充填剤の量が多いほど材料費の低減を図れる。」
第6 取消理由通知の概要
訂正前特許請求の範囲の請求項1~3に対して、当審が通知した、令和6年6月25日付けの取消理由通知(以下、「取消理由通知」という。)の要旨は、次のとおりである。
本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。よって、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由」という。)
第7 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)本件特許発明1について
本件訂正により訂正された本件特許発明1は、上記第3の1に示したとおりのものであるところ、本件特許発明1は削除されたので、取消理由通知に記載した取消理由は解消した。
2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人が主張する、取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断を以下に示す。
(1)異議申立理由について
ア 本件特許発明2について
本件訂正により訂正された、本件特許発明2は、上記第3の2に示したとおりのものである。
イ 対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比する。
(ア)構成要件Aについて
甲1発明の「導体」、「前記導体の外周に形成された絶縁層」、「前記絶縁層の外周に形成されたシース」及び「車両用ケーブル」は、それぞれ構成要件Aの「導体」、「前記導体の外周を覆う絶縁層」、「前記絶縁層の外周を覆う難燃層」及び「絶縁電線」に相当するから、甲1発明は、構成要件Aの「導体と、/前記導体の外周を覆う絶縁層と、/前記絶縁層の外周を覆う難燃層と、/を備える、絶縁電線であって、」に相当する構成を有するといえる。
(イ)構成要件Bについて
甲1発明の「ベースポリマ」(EVA)及び「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物等」の「シランカップリング剤」は、それぞれ構成要件Bの「エチレン酢酸ビニル共重合体を含む第1ベース樹脂」及び「メタクリル基を含むシランカップリング剤」に相当する。
甲1発明の「ハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物」に含有される「金属水酸化物」は、「ベースポリマへの添加物質の他の1つである」ところ、構成要件Bの「前記第1ベース樹脂に添加された金属水酸化物」に相当する。
したがって、甲1発明は、構成要件Bの「前記難燃層を構成する第1樹脂組成物は、/エチレン酢酸ビニル共重合体を含む第1ベース樹脂と、/前記第1ベース樹脂に添加された金属水酸化物と、/メタクリル基を含むシランカップリング剤と、/を有し、」に相当する構成を有するといえる。
(ウ)構成要件Cについて
甲1発明の「車両用ケーブルシース」の「配合用材料」は、「EVA100質量部、ビニルトリメトキシシランη3質量部、水酸化マグネシウム100質量部(実施例1)を含」むところ、上記(イ)の対比(第1ベース樹脂)を踏まえると、構成要件Cの「前記第1樹脂組成物は、前記第1ベース樹脂の100質量部に対して、前記金属水酸化物を150質量部~200質量部の割合で含み、かつ、」との構成に対し、下記の点(相違点1)で相違するものの、“前記第1樹脂組成物は、前記第1ベース樹脂の100質量部に対して、前記金属水酸化物を所定の割合で含”む点で一致する。
(エ)構成要件Dについて
甲1発明の「車両用ケーブルシース」の「配合用材料」は、「EVA100質量部、ビニルトリメトキシシランη3質量部、水酸化マグネシウム100質量部(実施例1)を含」むところ、構成要件Dの「前記シランカップリング剤を1質量部~3質量部の割合で含み、かつ、」との構成に対し、“前記シランカップリング剤を1質量部の割合で含”む限りにおいて一致する。
したがって、甲1発明は、構成要件Dの「前記シランカップリング剤を1質量部~3質量部の割合で含み、かつ、」との構成を有するといえる。
(オ)構成要件Eについて
甲1発明の「車両用ケーブルシース」の「架橋」は、「1.8MPaの高圧蒸気を用いて3分間行」われ、また、「架橋方式としては有機過酸化物架橋、電子線照射等のラジカル反応型が好まし」いことから、上記(ア)の対比(絶縁電線)を踏まえると、甲1発明は、構成要件Eの「架橋され」るとの構成を有するといえる。
(カ)構成要件Fについて
甲1発明の「車両用ケーブル」は、構成要件Fの「絶縁電線」に相当する。
一方で、甲1発明の「車両用ケーブル」は、構成要件Fのうち「前記第1ベース樹脂に含まれる前記エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量は、40質量%以下である」点については、特定されていない(相違点2)。
(キ)一致点及び相違点
以上、(ア)~(カ)の対比から、本件特許発明2と甲1発明とは、次の一致点及び相違点を有する。
〈一致点〉
A: 導体と、/前記導体の外周を覆う絶縁層と、/前記絶縁層の外周を覆う難燃層と、/を備える、絶縁電線であって、
B: 前記難燃層を構成する第1樹脂組成物は、/エチレン酢酸ビニル共重合体を含む第1ベース樹脂と、/前記第1ベース樹脂に添加された金属水酸化物と、/メタクリル基を含むシランカップリング剤と、/を有し、
C’:前記第1樹脂組成物は、前記第1ベース樹脂の100質量部に対して、前記金属水酸化物を所定の割合で含み、かつ、
D: 前記シランカップリング剤を1質量部~3質量部の割合で含み、かつ、
E: 架橋されている、
F’:絶縁電線。
〈相違点1〉
本件特許発明2の「金属水酸化物」は、「第1ベース樹脂の100質量部」に対して、「150質量部~200質量部の割合で含」むのに対し、甲1発明の「水酸化マグネシウム」は、「100質量部」含まれる点。
〈相違点2〉
本件特許発明2は、「前記第1ベース樹脂に含まれる前記エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量は、40質量%以下である」のに対し、甲1発明は、「用いられるハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物のベースポリマのVAが、50質量%未満だと耐油性を満足することができず、70質量%を超えると、低温特性が得られない」ものではあるものの、「ベースポリマのVA」を40質量%以下とすることは特定されていない点。
ウ 判断
事案に鑑み、相違点2について先に検討する。
甲1発明は、「用いられるハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物のベースポリマのVAが、50質量%未満だと耐油性を満足することができ」ないものであることから、耐油性を満足することができない範囲となる、「前記第1ベース樹脂に含まれる前記エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量」を「50質量%未満」よりさらに少ない「40質量%以下」とすることには阻害要因があるというべきである。
また、相違点2に係る構成は、甲2にも記載も示唆も無いばかりか、本件出願前の周知技術であったとする証拠も無い。
エ むすび
以上検討したとおり、本件特許発明2は、その余の相違点について検討するまでもなく、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
オ 本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明2の構成を全て含むものである。
したがって、本件特許発明2と同様、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(2)申立人の意見について
ア 申立人意見書における主張
申立人は、申立意見書において、下記の主張(以下、「申立人主張」という。)を行っている。
「(3)エチレン酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量について
引用発明においては、エチレン酢酸ビニル共重合体として、酢酸ビニル含有量(以下、「VA量」と略す場合があります。)が46mass%のものと80mass%のものとをブレンドしたもの等が使用されております(引用例1の表1)。
また、引用例1には、VA量に関して、VA量が30mass%末満では極性が低く、耐燃料性が低下し、50mass%を超えると耐寒性が低下することが記載されております(段落0025)。
ところで、引用発明は、高い耐油性及び優れた低温特性(低温での可とう性)を両立させた車両用絶縁電線及び車両用ケーブルを提供することを課題としてものであるところ(段落0009等)、車両用絶縁電線において耐油性や低温特性を向上せるために、エチレン酢酸ビニル共重合体のVA量を調整すること自体は公知の事項でした。例えば、申立人が参考文献として提出する特開2017-50189号公報には、ベースポリマのVA量が25質量%未満だとエチレン酢酸ビニル共重合体は結晶性が高く、耐油性などの耐溶剤性については良好であるが、高いレベルの難燃性を満足させるためには多量の難燃剤を添加すると初期伸び特性や低温性の特性を両立させることが困難となること、一方、VA量が50質量%以上であると低温特性が低下することなどが記載されております。実際にも、本参考文献の実施例1~5では、VA量が28質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体とVA量が46質量%のエチレン酢酸ビニル共重合体とのブレンド物が使用されており、ブレンドされたエチレン酢酸ビニル共重合体のVA量は、段落0025に記載された計算式に従えば、実施例1、3~5では、VA量は約31.2質量%(28wt%×(70+/(70+15)+46%×(15/(70+15)=32.5wt%)、となり、実施例2では32.5質量%(28wt%×(60/(60+20)+46%×(20/(60+20)=32.5wt%)となります。このように、耐油性と低温特性とのバランスを考慮して、エチレン酢酸ビニル共重合体のVA量を三十数パーセント程度に調整することは、本件特許の出願当時には技術常識であったと言えます。
してみれば、高い耐油性及び優れた低温特性を両立させることを課題とする引用発明においても、上記技術常識を滴用して、エチレン酢酸ビニル共重合体のVA量を三十数パーセント程度に調整することに困難性はないと言えます。よって、本件訂正発明2は、引用例1(甲第1号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、進歩性を欠くものです。」(申立人意見書2ページ下から4行~3ページ末行)
イ 当審の判断
申立人主張について検討する。
申立人主張のうち、「エチレン酢酸ビニル共重合体のVA量を三十数パーセント程度に調整すること」に関しては、そもそも、申立人主張の中にある計算式は、どのような計算を行うと、VA量が三十数パーセント程度になるのかが不明であり、仮に申立人主張のように、「車両用絶縁電線において耐油性や低温特性を向上せるために、エチレン酢酸ビニル共重合体のVA量を調整すること自体」が公知であったとしても、上記(1)に示したとおり、甲1発明が「用いられるハロゲンフリー難燃性架橋樹脂組成物のベースポリマのVAが、50質量%未満だと耐油性を満足することができ」ないものである以上、上記相違点2に係る構成に関しては、甲1発明に基づく場合に阻害要因があるというべきであるから、申立人主張は理由が無く、採用できない。
3 むすび
以上検討したとおり、本件請求項2及び3に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
第8 むすび
以上のとおり、請求項2及び3に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正により、請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700326