特許異議申立
2025-700652
セラミックス基板
- 審判番号
- 2025-700652
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-033365
- 登録番号
- 7605236
- 請求日
- 2025年06月20日
- 審決日
- 2025年09月17日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】株式会社プロテリアル
- 【異議申立人】廣瀬 妙子
- 審判長/審判官
- 審判長 丸山 高政
- 審判官 行武 哲太郎
- 審判官 寺谷 大亮
- 分類
- P1651.121-Y (C04B) / P1651.537-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第2項、特許法第44条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7605236号発明「セラミックス基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7605236号の請求項1~3に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7605236号(以下「本件特許」という。)の請求項1~3に係る特許についての出願は、令和4年3月29日の出願である特願2022-54654号(以下「原出願」という。)の一部を令和5年3月6日に新たな特許出願としたものであって、令和6年12月16日にその特許権の設定登録がされ、同年12月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その全請求項(請求項1~3)に係る特許に対し、令和7年6月20日に特許異議申立人 廣瀬 妙子(以下「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。
第2 本件の特許請求の範囲と本件発明
本件の特許請求の範囲の請求項1~3に係る発明(以下、それぞれを「本件発明1」~「本件発明3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、以下の請求項1~3に記載されたとおりのものと認める。
なお、後の参照の便宜のために、本件発明1については1A~1F′に、本件発明3については3A、3Bに分説し、「発明特定事項1A」のようにして参照する。
【請求項1】(本件発明1)
1A 矩形状で平板状の窒化珪素基板と、
1B 前記窒化珪素基板の第1の主面に設けられた第1のろう材層と、
1C 前記窒化珪素基板の第2の主面に設けられた第2のろう材層と、
1D 前記第1のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第1の主面側に固定され、電気回路部品が搭載される第1の金属層と、
1E 前記第2のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第2の主面側に固定され、前記電気回路部品で発生した熱を放熱する第2の金属層と
1F からなるセラミックス基板において、
1G 前記第1の金属層および前記第2の金属層は、同種の金属であって、それぞれの厚さの差は、0.02mm以下であり、
1H 前記第1のろう材層および前記第2のろう材層は、いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さ、及び前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さのうち、厚い方をTa(μm:小数第1位)とし、薄い方をTb(μm:小数第1位)としたとき、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たし、
1I 前記窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下とした、
1F′ セラミックス基板。
【請求項2】(本件発明2)
前記第1の金属層と前記第2の金属層は、銅板からなる、
請求項1に記載のセラミックス基板。
【請求項3】(本件発明3)
3A 前記第1のろう材層及び前記第2のろう材層は、銀を含まない、
3B 請求項1又は2の何れか1項に記載のセラミックス基板。
第3 証拠方法及び申立理由
特許異議申立人は、特許異議申立書とともに以下の1に示す甲第1号証~甲第7号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲7」という。)を提出し、以下の2に示す申立理由により、本件発明に係る特許を取消すべきものである旨主張する。
1 証拠方法
甲1 特開2000-58723号公報
甲2 国際公開第2018/221492号
甲3 特開平4-170089号公報
甲4 国際公開第2021/095843号
甲5 特開2003-283064号公報
甲6 国際公開第2017/213207号
甲7 特開2022-165046号公報
2 申立理由
特許異議申立書に記載された申立理由の概要は、以下の申立理由1~3のとおりである。
(1)申立理由1
本件発明1~3は、以下のアの点で、特許請求の範囲の記載が不備のため、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
ア 本件発明1において、反り量の定義が窒化珪素基板のサイズとの関係で不明瞭であるため、反り量が明確に特定できない点(5頁11~19行目)(本件発明2及び3についても同様)
本件発明1は、「窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下とした」構成を特定している。
しかしながら、本件発明1は、窒化珪素基板のサイズについて何ら特定されておらず、窒化珪素基板の各辺の長さが100mm未満の態様を含んでいる。そして、例えば「各辺が100mm以上である窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量」の場合と、「各辺が100mm未満である窒化珪素基板において、各辺を100mmに換算したときの各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量」の場合が考えられるため、反り量の定義が不明瞭である。
(2)申立理由2
本件発明1~3は、以下ア~ウの点で、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(同法第113条第4号)
ア 本件発明1が、第1、2のろう材層、第1、2の金属層と寸法との関係で、課題が解決できるか定かでない点(5頁9、10行目、5頁20行目~6頁14行目)(本件発明2及び3についても同様)
本件発明1では、第1のろう材層、第2のろう材層、第1の金属層、第2の金属層のサイズについて特定されていない。
一方、本件発明の課題は、本件特許明細書の[0007]からみて、「コストを抑制しながらも、反りを抑制する」ことであると認められる。そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、[0031]に「絶縁基材2は、長辺方向の長さL1が190.5mm、短辺方向の長さL2が138.0mm、長さT0が0.32mmである。第1の金属板401及び第2の金属板402は、矩形状の平板であり、長辺方向の長さL11,L21が188.4mm、短辺方向の長さL12,L22が133.6mm、厚さT10,T20が0.8mmである。第1のろう材層31及び第2のろう材層32は、第1の金属板401及び第2の金属板402と同じ大きさで形成されている」ことが記載されていることからもわかるとおり、各サイズについて1つの組み合わせしか実施例に記載が無い。そうすると、各サイズのその他の組み合わせの場合に上記課題を解決して「コストを抑制しながらも、反りを抑制する」という効果を得ることが可能であるかどうかについては、本件特許明細書の実施例で何ら証明されていない。
イ 本件発明1の「窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下」とすることは、発明の詳細な説明において比較例および実施例としては記載されていない点(6頁15行目~7頁5行目)(本件発明2及び3についても同様)(下線は強調のため当審にて付与、以下同様)
本件特許明細書の[0038]には「この比較例では、実施例よりも絶縁基材2の反りが大きく、絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量が0.03mmよりも大きかった。すなわち、第1のろう材層形成工程におけるスクリーン印刷の回数値と、第2のろう材層形成工程におけるスクリーン印刷の回数値とを一致させることにより、第1のろう材層31の厚みと第2のろう材層32の厚みとの差を小さくすることができ、絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下にできることが確認された」ことが記載されている。しかしながら、反り量が0.03mmよりも大きい比較例よりも反りが小さいからといって実施例における反り量が0.03mm以下であるとは必ずしも言えない。これは例えば、比較例における実際の反り量が0.05mmであった場合、実施例における実際の反り量が0.04mmであった可能性があるからである。
ゆえに、本件特許明細書の発明の詳細の説明には、比較例および実施例における反り量の具体的な数値について記載されているといえない。また、窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下とすることについては、本件特許明細書の実施例で何ら証明されていない。
ウ 本件発明3の「前記第1のろう材層及び前記第2のろう材層は、銀を含まない」とすることは、発明の詳細な説明の実施例として記載おらず、課題を解決できるか証明されていない点(7頁6~16行目)
本件発明3は、「前記第1のろう材層及び前記第2のろう材層は、銀を含まない」と特定されている。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、[0014]に「第1のろう材層31及び第2のろう材層32は、銅粉及び銀粉をバインダ及び溶剤と共に混成したろう材を、スクリーン印刷法によって絶縁基材2の第1の主面2a及び第2の主面2bに塗布して形成したものである」ことが記載されているが、銀を含まないろう材を用いた場合の実施例の記載が無い。そして、ろう材の組成が異なれば、セラミックス基板の反りに影響を及ぼすことは、明らかであるにも関わらず、銀を含まないろう材を用いた場合に「コストを抑制しながらも、反りを抑制する」という課題を解決し、またそのような効果を得ることが可能であるか、本件特許明細書の実施例で何ら証明されていない。
(3)申立理由3
本件発明1~3は、甲5に記載された発明及び甲1~4、6及び7に記載された事項に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(同法第113条第2号)
第4 当審の判断
1 申立理由1について
(1)本件発明1において、反り量の定義が窒化珪素基板のサイズとの関係で不明瞭であるため、反り量が明確に特定できない点(前記「第3」2(1)ア)
本件特許1の「前記窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下とした」(発明特定事項1I)との発明特定事項において、「反り量」は、「100mmあたり」にて特定されている。
ここで「各辺に沿った方向の100mmあたり」の「あたり」とは、「(13)(接尾辞的に)「…に対して」の意。」(広辞苑)であると解されるから、「各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下とした」とは、各辺に沿った方向の「100mm」に対する割合として「反り量」が「0.03mm以下」であることを表すと解される。これは割合であるがゆえに「窒化珪素基板」の「各辺」が「100mm」であることを特定するものではない。(時計が1日あたり2.4秒遅れると表現した場合、遅れは1日経って初めて確定するというわけではなく、1時間あたりで見れば0.1秒遅れるのと同様のことである。)
ゆえに、本件発明1の反り量の定義は、窒化珪素基板のサイズに対する割合として明瞭であるから、反り量は明確に特定されており、不明確ではない。
(2)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は、採用することができない。
また、本件特許1~3は、いずれも明確ではないという事情はない。
よって、本件発明1~3は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
2 申立理由2について
(1)本件発明1が、第1、2のろう材層、第1、2の金属層の寸法との関係で、課題が解決できるか定かでない点について(前記「第3」2(2)ア)
本件の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0005】・・・このため、本発明者らは、反りが発生する原因を鋭意研究し、セラミックス製の基材の各部位における一方の面と他方の面に塗布されたろう材の厚みの違いが反りの発生に関与していることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は、コストを抑制しながらも、反りを抑制することが可能なセラミックス基板を提供することを目的とする。・・・」
「【0028】・・・セラミックス基板1は、絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの絶縁基材2の反り量が0.03mm以下となっている。」
「【0029】(実施例)
次に、セラミックス基板1のより具体的な実施例について説明する。・・・」
「【0038】・・・すなわち、第1のろう材層形成工程におけるスクリーン印刷の回数値と、第2のろう材層形成工程におけるスクリーン印刷の回数値とを一致させることにより、第1のろう材層31の厚みと第2のろう材層32の厚みとの差を小さくすることができ、絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下にできることが確認された。」
「【0039】(実施の形態の作用及び効果)
・・・第1のろう材層形成工程におけるスクリーン印刷の回数値と、第2のろう材層形成工程におけるスクリーン印刷の回数値とを一致させることにより、工程を追加することなく、各測定箇所における第1のろう材層31の厚さと第2のろう材層32の厚さとの差を小さくすることができる。これにより、本実施の形態によれば、コストを抑制しながらも、反りを抑制することが可能となる。」
段落【0005】の記載によれば、本件発明1が解決すべき課題は、「コストを抑制しながらも、反りを抑制することが可能なセラミックス基板を提供すること」にあり、反りが発生する原因は、「一方の面と他方の面に塗布されたろう材の厚みの違い」であると理解される。
そして、段落【0038】の記載によれば、「第1のろう材層31の厚みと第2のろう材層32の厚みとの差を小さくすること」により、「絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下にでき」たとされるのだから、2つのろう材の厚みの差を小さくすることにより上記課題を解決したことが理解され、「100mmあたりの反り量を0.03mm以下」は、課題を解決できた状態の反り量であると解される。
そして、本件発明1の発明特定事項1Hは、「第1のろう材層31の厚みと第2のろう材層32の厚みとの差を小さくすること」をより具体的に特定したものであり、これにより上記課題は解決されるから、課題解決手段であると解される。加えて、発明特定事項1Iは、上記課題を解決した状態を具体的に特定するものであるから、やはり、課題解決手段であると解される。これらの課題解決手段は、金属層の寸法に左右されるものではない。
ゆえに、本件発明1において、第1、2の金属層の寸法が特定されておらずとも、発明特定事項1H及び発明特定事項1Iが特定されているから、「コストを抑制しながらも、反りを抑制することが可能なセラミックス基板を提供することを目的とする」という課題を解決していると認められる。
(2)本件発明1の「窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下」とすることは、発明の詳細な説明において比較例および実施例としては記載されていない点について(前記「第3」2(2)イ)
発明の詳細な説明には、「本実施の形態」として、「セラミックス基板1は、絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの絶縁基材2の反り量が0.03mm以下となっている。」(【0028】)との記載があり、これに続く実施例の説明に、「次に、セラミックス基板1のより具体的な実施例について説明する。」(【0029】)との記載がある。すなわち、「本実施の形態」では「セラミックス基板1」の「絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの絶縁基材2の反り量が0.03mm以下」となっており、「実施例」とは「セラミックス基板1」を「より具体的」にしたものと解される。
ゆえに、段落【0029】以降に説明される「実施例」においても、セラミックス基板1の絶縁基材2の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量が0.03mm以下となっているものと解される。
よって、本件発明1で特定されている「前記窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下」とすること(発明特定事項1I)は、実施例として発明の詳細な説明に記載されていると認められる。
(3)本件発明3の「前記第1のろう材層及び前記第2のろう材層は、銀を含まない」とすることは、発明の詳細な説明の実施例として記載おらず、課題を解決できるか証明されていない点について(前記「第3」2(2)ウ)
本件発明3が包含する本件発明1は、前記(1)のとおり、課題を解決するための手段が特定されているから、「前記第1のろう材層及び前記第2のろう材層は、銀を含まない」(発明特定事項3A)との特定によらず、「コストを抑制しながらも、反りを抑制することが可能なセラミックス基板を提供することを目的とする」という課題を解決していると認められる。
(4)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。
また、本件特許1~3は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものではないという事情はない。
よって、本件発明1~3は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできない。
3 申立理由3について
(1)甲5の記載と甲5発明
甲5には、以下アのとおりの記載がある。また、当該記載に基づき、以下イのとおり甲5発明を認定する。
ア 甲5の記載
甲5には、以下の記載がある。
(ア)「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のセラミック回路基板は、セラミック基板上にCuを主成分とした金属回路層及びCuを主成分とした放熱層、或いは、セラミック基板上にCuを主成分とした金属回路層のみがろう材により接合されたものであり、上記「Cuを主成分とする」の意味は、通常、Cu80質量%以上、好ましくは90質量%以上(100質量%を含む。)である。このセラミック基板の材料として、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素等を使用することができる。
【0008】また、上記ろう材は、Snと、Ti、Nb、Hf及びZrのうちの少なくとも1種(以下活性金属とする。)と、Cuとからなり、Agを含有しないのもである。・・・
【0009】即ち、本発明のセラミック回路基板において、ろう材層をCu基とすることにより、金属回路層とセラミック層との耐力耐熱サイクル性を向上させ、更に、エッチングの際に、接合された金属回路板と、それに対応するろう材層とを同時にパターン形成することができる。・・・」
(イ)「【0011】次に、本発明のセラミック回路基板の製造方法について説明する。まず、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素等により形成されたセラミック基板上にCuを主成分とした金属回路板及び放熱板、或いは、Cuを主成分とした金属回路板をろう材より接合する。このとき、金属回路板又は放熱板として、厚さ0.1~0.6mm程度のものを使用することができる。
・・・
【0016】上記セラミック基板と上記金属回路板及び放熱板との接合は、ペーストろう材を使用する場合、このペーストろう材をセラミック基板の両面又は片面に印刷、乾燥後、真空下で上記セラミック基板の両面に各々金属回路板、放熱板を配置し、或いは、片面のみにペーストろう材が印刷されているときは、ペーストろう材が印刷された面に金属回路板を配置し、その状態で加熱することにより行うことができる。・・・
【0017】次に、接合された上記金属回路板及びそれに対応するろう材層をエッチングすることにより、セラミック回路基板が得られる。・・・」
(ウ)「【0021】
【実施例】以下、本発明を具体化した実施例について説明する。
1.実施例のセラミック回路基板の作製
実施例として、上記所定の金属が上記所定の割合で含有されたろう材で接合されたセラミック回路基板(実施例1~37)を、次の方法により作製した。即ち、まず、セラミック基板に金属回路及び放熱板、又は金属回路板のみをろう材で接合した。このセラミック基板として表1~5に示される材料、厚さのものを使用し、更に、面の大きさは縦30mm、横60mmとした。また、この金属回路板、放熱板として、面の大きさは縦30mm、横60mmであって、表1~5に示される厚さの無酸素銅板を用いた。」
(エ)「【0023】
【表1】
[図:0001428026000001.jpg]
」
ここで、段落【0021】に、セラミック基板並びに金属回路及び放熱板に関し、「即ち、まず、セラミック基板に金属回路及び放熱板、又は金属回路板のみをろう材で接合した。このセラミック基板として表1~5に示される材料、厚さのものを使用し、・・・。また、この金属回路板、放熱板として、・・・表1~5に示される厚さの無酸素銅板を用いた。」(【0021】)と表1を参照しての記載があることから、本表における「セラミック板」とは「セラミック基板」を意味しており、また、「Cu板厚さ」の「回路側」の列では「金属回路板」の厚さを、「Cu板厚さ」の「放熱側」の列では「放熱板」の厚さを示していると解される。また、「金属回路板」及び「放熱板」のいずれも「Cu板」であると認められる。
以上を踏まえれば、本表より、実施例3において、セラミック基板の材料は窒化珪素であり、金属回路板及び放熱板のCu板の厚さはいずれも0.40mmであると認められる。
イ 甲5発明
前記アの記載によれば、甲5には、実施例3として、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。その際、以下(ア)及び(イ)を踏まえて認定する。
(ア)「ろう材によ」る「接合」と「ろう材層」の関連性について
段落【0009】は、「即ち、本発明のセラミック回路基板において、ろう材層をCu基とすることにより」と、「即ち」との文言により、この記載より前の記載を言い換える形にて記載されている。そして、この記載より前に「ろう材層」という記載はない。
一方、段落【0009】より前の段落である段落【0007】に「セラミック基板上に・・・金属回路層及び・・・放熱層・・がろう材により接合されたもの」との記載があり、また、段落【0008】には「上記ろう材は、・・・Cuとからなり、」との記載があり、これ以外に「セラミック基板回路」における「Cu基」の「ろう材層」と関連すると考えられる記載はない。
してみると、「セラミック回路基板」における「ろう材層」は、「セラミック基板上に」「金属回路層及び」「放熱層」「がろう材により接合された」ことにより得られると認められる。
(イ)「金属回路板」と「金属回路層」、及び、「放熱板」と「放熱層」の関連性について
段落【0011】~【0016】の「セラミック回路基板の製造方法」に関する記載の中で、段落【0011】に「・・・セラミック基板上に・・金属回路板及び放熱板・・・をろう材より接合する」と記載され、また、段落【0016】に「上記セラミック基板と上記金属回路板及び放熱板との接合は、ペーストろう材を使用する場合・・・」と記載され、そして段落【0017】に「次に、接合された上記金属回路板及びそれに対応するろう材層をエッチングすることにより、セラミック回路基板が得られる。」、「セラミック回路基板」が製造される過程が「金属回路板」及び「放熱板」を用いて記載されている。
これに対し、「セラミック回路基板の製造方法」に関する記載以外の箇所おいては、「金属回路層」及び「放熱層」の記載はあるものの、「金属回路板」及び「放熱板」の記載はない。例えば、段落【0007】の「セラミック回路基板は、セラミック基板上にCuを主成分とした金属回路層及びCuを主成分とした放熱層・・・がろう材により接合されたもの」と記載されており、「金属回路層」及び「放熱層」の記載はあるものの、当該段落に「金属回路板」及び「放熱板」の記載はない。
ここで、「セラミック回路基板の製造方法」によって製造されるものは、当然、「セラミック回路基板」であることを踏まえれば、「セラミック回路基板の製造方法」と「セラミック回路基板」の各構成は対応関係を有しているものと認められる。
そして、「セラミック回路基板の製造方法」における「金属回路板」が、「セラミック回路基板」における「金属回路層」以外と関連しているものであると考えられる記載はなく、同様に、「セラミック回路起案の製造方法」における「放熱板」が、「セラミック回路基板」における「放熱層」以外と関連しているものであると考えられる記載もない。
してみると、「セラミック回路基板の製造方法」における「金属回路板」及び「放熱板」は、それぞれ「セラミック回路基板」の「金属回路層」及び「放熱層」となるものであると認められる。
(ウ)以上により、甲5発明は次のとおりのものと認められる。
なお、後の参照の便宜のため、甲5発明を5a~5a′に分説し、「構成5a」のようにして参照する。
5a セラミック回路基板であって、(【0007】)
5b セラミック基板上にCuを主成分とした金属回路層及びCuを主成分とした放熱層がろう材により接合されたものであり、(【0007】)
5c ろう材層は、セラミック基板上に金属回路層及び放熱層がろう材により接合されたことにより得られ、(前記(ア))
5d その製造方法について、(【0011】)
5d1 セラミック基板の面の大きさは縦30mm、横60mmであり、(【0021】)
5d2 セラミック基板の材料は窒化珪素であり、金属回路板及び放熱板のCu板の厚さはいずれも0.40mmであり、(【0023】【表1】)
5d3 金属回路板及び放熱板は、それぞれ金属回路層及び放熱層となるものである(前記(イ))
5a′ セラミック回路基板
(2)本件発明1と甲5発明との対比
本件発明1と甲5発明とを対比する。
ア 発明特定事項1Aについて
発明特定事項1Aは、「矩形状で平板状の窒化珪素基板と、」というものである。
甲5発明の「セラミック基板」は、「セラミック基板の材料は窒化珪素であ」る(構成5d2)から、本件発明1の「窒化珪素基板」に相当する。
また、甲5発明では「セラミック基板の面の大きさは縦30mm、横60mmであり、」(構成5d1)と特定されており、全体の寸法が縦横の寸法で表されているから、「セラミック基板」が矩形状であることは明らかである。
また、「セラミック基板」は、「基板」であるから、「平板状」であることも明らかである。
よって、本件発明1の「窒化珪素基板」と甲5発明の「セラミック基板」は、いずれも「矩形状で平板状の窒化珪素基板」であるという点で一致している。
イ 発明特定事項1Bについて
発明特定事項1Bは、「前記窒化珪素基板の第1の主面に設けられた第1のろう材層と、」というものである。
甲5発明の「セラミック基板」が、本件発明1の「窒化珪素基板」に相当することは、前記アのとおりである。
甲5発明において、「ろう材層」は、「セラミック基板上に金属回路層」「がろう材により接合されたことにより得られ」るもの(構成5c)であるから、「セラミック基板」の面である「主面」に設けられていることは明らかである。そして、当該主面を「第1の」と形容し、また、当該主面に設けられた「ろう材層」を「第1の」と形容することは任意である。
よって、本件発明1の「窒化珪素基板」と甲5発明の「セラミック基板」は、いずれもその「第1の主面に」「第1のろう材層」が「設けられ」ている点で一致している。
ウ 発明特定事項1Cについて
発明特定事項1Cは、「前記窒化珪素基板の第2の主面に設けられた第2のろう材層と、」というものである。
甲5発明の「セラミック基板」が、本件発明1の「窒化珪素基板」に相当することは、前記アのとおりである。
甲5発明において、「ろう材層」は、「セラミック基板上に」「放熱層がろう材により接合されたことによる」もの(構成5c)であるから、「セラミック基板」の面である「主面」に設けられていることは明らかである。そして、当該主面を「第2の」と形容し、また、当該主面に設けられた「ろう材層」を「第2の」と形容することは任意である。
よって、本件発明1の「窒化珪素基板」と甲5発明の「セラミック基板」は、いずれもその「第2の主面に」「第2のろう材層」が「設けられ」ている点で一致している。
エ 発明特定事項1Dについて
発明特定事項1Dは、「前記第1のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第1の主面側に固定され、電気回路部品が搭載される第1の金属層と、」というものである。
甲5発明の「金属回路層」(構成5b)は、「金属回路層」を「第1の」と形容することは任意であることを踏まえると、本件発明1の「第1の金属層」に相当する。
甲5発明において、「金属回路層」は、「セラミック基板上に」「ろう材により接合されたものであ」る(構成5b)から、「セラミック基板」に固定されていると認められる。また前記イのとおり、「セラミック基板」と「金属回路層」との間に「ろう材層」を有していると認められ、また、「ろう材層」は、「セラミック基板」の両方の主面に形成されていると認められる。ゆえに、「金属回路層」は、「ろう材層」を介して「セラミック基板」の主面側に固定されていると認められる。
よって、本件発明1の「窒化珪素基板」と甲5発明の「セラミック基板」について、いずれも「前記第1のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第1の主面側に」「第1の金属層」が「固定され」ている点で一致している。
一方、本件発明1の「第1の金属層」は「電気回路部品が搭載される」のに対し、甲5発明の「金属回路層」においてはそのように特定されていない点で相違している。
オ 発明特定事項1Eについて
発明特定事項1Eは「前記第2のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第2の主面側に固定され、前記電気回路部品で発生した熱を放熱する第2の金属層と」というものである。
甲5発明の「放熱層」は、金属である「Cuを主成分とした」もの(構成5b)であり、「放熱層」を「第2の」と形容することは任意であることを踏まえると、本件発明1の「第2の金属層」に相当する。
甲5発明の「放熱層」は熱を放熱するものであることは明らかである。そして、前記エでの「金属回路層」(構成5b)同様の検討により、甲5発明の「放熱層」は、「ろう材層」を介して「セラミック基板」の主面側に固定されていると認められる。
よって、本件発明1の「窒化珪素基板」と甲5発明の「セラミック基板」について、いずれも「前記第2のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第2の主面側に」「熱を放熱する第2の金属層」が「固定され」ている点で一致している。
一方、本件発明1の「第2の金属層」が「放熱する」「熱」は「前記電気回路部品で発生した」ものであるに対し、甲5発明において「放熱層」が放熱する熱の発生源については特定されていない点で相違している。
カ 発明特定事項1Fについて
発明特定事項1Fは「からなるセラミックス基板において」というものである。これは本件発明1の「セラミックス基板」が発明特定事項1A~1E「からなる」ことを特定するものである。
甲5発明の「セラミックス回路基板」(構成5a)は、本件発明1の「セラミックス基板」に相当する。
本件発明1の「セラミックス基板」と甲5発明の「セラミックス回路基板」は、前記ア~オを踏まえれば、「第1の金属層」に「電気回路部品が搭載される」こと(前記エ)、及び、「第2の金属層」が「放熱する」「熱」が「前記電気回路部品で発生した」ものであること(前記オ)を別にすれば、いずれも発明特定事項1A~1E「からなる」点で一致している。
キ 発明特定事項1Gについて
発明特定事項1Gは、「前記第1の金属層および前記第2の金属層は、同種の金属であって、それぞれの厚さの差は、0.02mm以下であり、」というものである。
甲5発明の「金属回路層」が本件発明1の「第1の金属層」に相当することは前記エのとおりである。
甲5発明の「放熱層」が本件発明1の「第2の金属層」に相当することは前記オとおりである。
甲5発明において、「金属回路層」は「Cuを主成分とし」、「放熱層」は「Cuを主成分とし」たもの(構成5b)であり、その製造方法(構成5d)において、「金属回路板及び放熱板」は「Cu板」を用いている。ゆえに、「金属回路板及び放熱板は、それぞれ金属回路層及び放熱層となるものである」(構成5d3)ことを踏まえれば、「金属回路層」および「放熱層」は同種の金属であると認められる。
また、甲5発明において、「金属回路板及び放熱板のCu板の厚さはいずれも0.40mm」であり(構成5d2)、同じ厚さである。ゆえに、「金属回路板及び放熱板は、それぞれ金属回路層及び放熱層となるものである」(構成5d3)ことを踏まえれば、「金属回路層」および「放熱層」の厚さの差は0.02mm以下であることも明らかである。
よって、本件発明1の「前記第1の金属層および前記第2の金属層」と甲5発明の「金属回路層」および「放熱層」は、いずれも「同種の金属であって、それぞれの厚さの差は、0.02mm以下であ」る点で一致している。
ク 発明特定事項1Hについて
発明特定事項1Hは、「前記第1のろう材層および前記第2のろう材層は、いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さ、及び前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さのうち、厚い方をTa(μm:小数第1位)とし、薄い方をTb(μm:小数第1位)としたとき、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たし、」というものである。
甲5発明においても、前記イのとおり、「ろう材層」は「セラミック基板」の両方の主面に形成されていると認められるが、その厚みについては特定されていない。
よって、本件発明1の「前記第1のろう材層および前記第2のろう材層」は、「いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さ、及び前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さのうち、厚い方をTa(μm:小数第1位)とし、薄い方をTb(μm:小数第1位)としたとき、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満た」すのに対し、甲5発明の「セラミック基板」の両方の主面に形成されている「ろう材層」においてその厚みは特定されない点で相違している。
ケ 発明特定事項1Iについて
発明特定事項1Iは、「前記窒化珪素基板の各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下とした、」というものである。
甲5発明の「セラミック基板」が本件発明1の「窒化珪素基板」に相当することは、前記アのとおりである。
甲5発明の「セラミック基板」において、反り量は特定されていない。
よって、本件発明1の「窒化珪素基板」は、その「各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下」であるのに対し、甲5発明の「セラミック基板」において反り量は特定されていない点で相違している。
コ 発明特定事項1F′について
発明特定事項1F′は、「セラミックス基板。」というものである。
甲5発明の「セラミック回路基板」(構成5a)は、本件発明1の「セラミックス基板」に相当する。
サ 一致点及び相違点について
前記ア~コによれば、本件発明1と甲5発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
(ア)一致点
「 矩形状で平板状の窒化珪素基板と、
前記窒化珪素基板の第1の主面に設けられた第1のろう材層と、
前記窒化珪素基板の第2の主面に設けられた第2のろう材層と、
前記第1のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第1の主面側に固定された第1の金属層と、
前記第2のろう材層を介して前記窒化珪素基板の前記第2の主面側に固定された第2の金属層とからなるセラミックス基板において、
前記第1の金属層および前記第2の金属層は、同種の金属であって、それぞれの厚さの差は、0.02mm以下である
セラミックス基板。」
(イ)相違点1
本件発明1の「第1の金属層」は「電気回路部品が搭載され」、「第2の金属層」が「放熱する」「熱」は「前記電気回路部品で発生した」ものであるのに対し、甲5発明の「金属回路層」においてはそのように特定されておらず、また、「放熱層」が放熱する熱の発生源については特定されていない点。(発明特定事項1D、1E)
(ウ)相違点2
本件発明の「前記第1のろう材層および前記第2のろう材層」は、「いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さ、及び前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さのうち、厚い方をTa(μm:小数第1位)とし、薄い方をTb(μm:小数第1位)としたとき、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満た」すのに対し、甲5発明の「セラミック基板」の両方の主面に形成されている「ろう材層」においてその厚みは特定されない点。(発明特定事項1H)
(エ)相違点3
本件発明の「窒化珪素基板」は、その「各辺に沿った方向の100mmあたりの反り量を0.03mm以下」であるのに対し、甲5発明の「セラミック基板」において反り量は特定されていない点。(発明特定事項1I)
(3)相違点(相違点2)についての判断
事案にかんがみ、前記(2)サに示した相違点のうち、相違点2(前記(2)サ(ウ))について検討する。
ア 当審の判断
甲1~4及び6のいずれにも、「第1のろう材層と第2のろう材層は、いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さ、及び前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さのうち、厚い方をTa(μm:小数第1位)とし、薄い方をTb(μm:小数第1位)としたとき、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満た」す(発明特定事項1H)ようにすることは記載も示唆もされていない。
よって、相違点2は、甲5発明及び甲1~4及び6に記載された事項に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に想到することができたものであるとはいえない。
また、前記第1のとおり、本件特許についての出願は、原出願の一部を新たな特許出願としたものであり、特許法44条2項の規定により原出願の出願時(令和4年3月29日)にしたものとみなされる一方、甲7の公開日は令和4年10月31日であるから、甲7に記載された発明は、原出願の出願後に公衆に利用可能となったものであり、特許法29条1項3号に掲げる発明に該当しない。ゆえに、本件発明1が、甲7に記載された発明に基づいて特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
イ 特許異議申立人の主張と検討
特許異議申立書での特許異議申立人の主張及びそれに対する当審の判断は以下のとおりである。
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書(26頁14行目~29頁14行目)において、相違点2(発明特定事項1H)の構成と関連して、以下の点を主張している。
a 発明特定事項1Hは、甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された周知技術である点(26頁14~22行目)
第1のろう材層および第2のろう材層を、いずれの箇所においても厚さを11.2μm以上20.4μm以下とし、任意の箇所における第1のろう材層の厚さと任意の箇所の裏側にあたる箇所の第2のろう材層の厚さのうち、厚い方をTa(μm:小数第1位)とし、薄い方をTb(μm:小数第1位)としたとき、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たすこと(発明特定事項1H)は、例えば甲2の[0017]及び[図1]や甲3の[特許請求の範囲]及び[第1表]、甲6の[0010]、[0011]、[0012]、[0013]、[0055]、[0056]、[0063]、[0071]、及び、甲7等の[0062]等に記載された周知技術である。
b 甲2に記載された事項に基づき、甲1に記載されている銅回路の接合層と放熱銅板の接合層の厚さの差は4μmであり、また(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たすといえる点(26頁23行目~27頁11行目)
甲2の図1は、セラミックス基板1と、金属板と、Ag-Cu-Snろう材層組織3と、Cuリッチ相4と、接合界面5と、を有するセラミックス回路基板の断面を示している。また甲2では、接合層をAg-Cu-Snろう材層組織3としている。図1では、Cuリッチ相が黒色であるから、白色に見えるのはAgリッチ相である。Agリッチ相の厚さの最小値と最大値の差は下記図の赤線に示すように4μm以下である。つまり、活性金属ろう材ペーストの塗布量が同じであれば、活性金属ろう材層の厚さは、大きくばらつくものではない。そのため、甲1における銅回路の接合層と放熱銅板の接合層の厚さの差も4μm以下であることは明らかである。また、甲1の段落【0013】には「接合層厚さは10~20μm」とあるように、この範囲で活性金属ろう材ペーストの塗布量をこの範囲で同じにすれば、表裏の接合層厚さの差は4μm以下になる。この場合、例えば厚い方の接合層厚さが20μmであるとともに接合層厚さの差が4μmであると仮定すると、(Ta-Tb)/Ta≦(20-16)/20=0.2となり、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たす。
[図:0001428026000002.jpg]
c 甲6に、接合前と接合後を比較しても厚さは4μm以上変化しないことが示されている点(27頁12行目~27頁15行目)
甲6の段落[0071]の[表1]において、「ろう材層厚さ」と「接合層厚さ」とを比較すると、これらに大きな変化はない。このことは、接合前と接合後を比較しても厚さは4μm以上変化しないことを示している。
d 甲6に、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たす試料が記載されている点(27頁16行目~28頁15行目)
甲6の段落[0009]、[0010]、[0011]、[0012]、[0013]、[0055]、[0056]、[0063]等の記載から、甲6の実施例ではバルク状活性金属ろう材を用いていることは明らかである。また、段落[0071]の[表1]では比較例(活性金属ろう材ペースト)の接合層厚さについて具体的な記載はないが、段落[0063]に示されているように「略同じ」であるから接合層厚さも略同じであることは明らかである。
さらに、[表1]において、試料No.1、2、7における接合層の厚さが11.2~20.4μmであることが記載されており、前述のとおり、厚さの変化も4μm以上変化しないことから、接合層の厚さの差が4.0μm以下であることは明らかである。この場合、例えば接合層厚さが20μmであるとともに接合層厚さの差が4μmであると仮定すると、(Ta-Tb)/Ta≦(20-16)/20=0.2となり、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たす。なお、甲6には、反り量に関して記載されていないが、本件発明1は、前述のとおり第1のろう材層、第2のろう材層、第1の金属層、第2の金属層のそれぞれの厚さと、これらの厚さの差を制御し、セラミックス基板の反り量を制御するものであるから、これらの厚さが同等の範囲であれば、得られる反り量も同等の値であることは明らかである。
e 甲7に、「前記第1のろう材層および前記第2のろう材層は、いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さと前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さとの差が4.0μm以下である」構成を満たす試料が記載されており、また当該試料が(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たしている点(28頁16行目~29頁14行目)
甲7には、【請求項1】~【請求項3】、【0061】、【0068】、【0071】の【表2】等の記載から、試料No.4~6において、回路層側、金属層側の活性金属化合物層、Ag-Cu合金層のライン分析により測定された厚さが開示されている。ここで、接合層の厚さは、以下の表に示すとおり、活性金属化合物層の厚さとAg-Cu合金層の厚さの合計となる。
[図:0001428026000003.jpg]
試料No.4とNo.5は本件特許発明1における「前記第1のろう材層および前記第2のろう材層は、いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さと前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さとの差が4.0μm以下である」構成を満たしている。この場合、例えば厚い方の接合層厚さが15.21μmであり、薄い方の接合層厚さが13.16μmであるとともに接合層厚さの差が2.05μmであると仮定すると、(Ta-Tb)/Ta≦(15.21-13.16)/15.21=0.13となり、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たす。なお、甲7には反り量について記載されていないが、本件発明1は、前述のとおり第1のろう材層、第2のろう材層、第1の金属層、第2の金属層のそれぞれの厚さと、これらの厚さの差を制御し、セラミックス基板の反り量を制御するものであるから、これらの厚さが同等の範囲であれば、得られる反り量も同等の値であることは明らかである。
(イ)特許異議申立人の主張についての検討
a 発明特定事項1Hは、甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された周知技術である点について(前記イ(ア)a)
発明特定事項1Hは、甲2、甲3、甲6及び甲7のいずれにも記載されていない。また、発明特定事項1Hが周知技術であるといえる事情はない。
b 甲2に記載された事項に基づき、甲1に記載されている銅回路の接合層と放熱銅板の接合層の厚さの差は4μmであり、また(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たすといえる点について(前記イ(ア)b)
まず、甲2の図1を以下に示す。
[図:0001428026000004.jpg]
甲2の図1には、長さ4μmの赤線は記載されていないため、特許異議申立書に示されている図は、特許異議申立人が、図1に対し、図中右下に示されている10μmの長さを示すスケールに基づいて赤線を追記したものであると認められる。
しかし、図1は、段落[0011]に記載されているとおり、セラミックス回路基板の一例であり、また図1は10μmのスケールからもわかるように、その一部分を示しているものであることを踏まえれば、図1が一般論として、セラミックス回路基板のその全体においてろう材層(接合層)の厚さの最小値と最大値の差が4μm以下であることを示しているものとは認められない。また、甲2には、図1以外のその他の箇所においても、ろう材層の厚さの最小値と最大値については記載も示唆もされていない。よって、甲2に基づくろう材層の厚さの最小値と最大値の差が4μmであるとの主張、及び、当該主張に基づく他の主張は、採用することができない。
なお、念のため付言すると、甲2の図1に基づき、甲1における銅回路の接合層と放熱銅板の接合層の厚さの差が4μm以下であることは明らかである旨主張している点についても、甲2の記載は甲1の接合層に関する記載を説明していると認められる事情はないため、当該主張も採用することはできず、仮にそのような事情があったとしても、甲1に記載されている接合層を、甲5発明に採用する動機も特段存在しないため、相違点2について当業者が容易に想到し得たものであるといえる根拠になるものではない。
c 甲6に、接合前と接合後を比較しても厚さは4μm以上変化しないことが示されている点について(前記イ(ア)c)
甲6には以下(a)のとおりの記載があり、これに基づき(b)のとおり判断する。
(a)甲6の記載
甲6には、以下の記載がある。
「[0013] 即ち、本発明は、セラミックス基板と、前記セラミックスの一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路と、前記セラミックスの他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板よりなるセラミックス回路基板において、前記接合層は、Agを必須成分とすると共に少なくとも2種以上の金属からなるろう材成分と、少なくとも1種以上の活性金属成分とからなり、前記活性金属の含有量が、接合層全体の金属元素量に対して0.5質量%以上2.0質量%以下となっており、前記接合層は、前記ろう材成分からなるろう材層と前記活性金属を含む活性金属化合物層とからなり、前記活性金属化合物層が前記セラミックス基板との接合界面に沿って形成されており、更に、前記接合層と前記セラミックス基板との接合面積に占める、前記活性金属化合物層と前記セラミックス基板との接合面積の割合が、88%以上であることを特徴とするセラミックス回路基板である。」
「[0049] 本発明に係るセラミックス回路基板の製造方法では、以上のようにして製造され用意された複合材料を、セラミックス基板の両面に配置し、加熱して複合材料を接合する。ここで、この活性金属ろう材による接合の条件については、上述した接合層の構成(活性金属化合物層の厚さ及び接合面積)を発現させるものであることが要求される。」
「[0066]第2実施形態:ここでは、組成の異なる複数の活性金属ろう材を使用して回路基板を製造した。第1実施形態と同様にして、下記表1に記載の組成の活性金属ろう材を製造して複合材料を製造した。そして、第1実施形態と同様に回路基板を製造した。」
「[0071]
[表1]
[図:0001428026000005.jpg]
」
(b)判断
前記(a)に基づくと、甲6は、「セラミックス基板と、前記セラミックスの一方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅回路と、前記セラミックスの他方の面に接合層を介して接合された銅系材料からなる銅放熱板よりな」り、「前記接合層は、」「ろう材成分からなるろう材層と」「活性金属を含む活性金属化合物層とからなり」「前記活性金属化合物層が前記セラミックス基板との接合界面に沿って形成されて」いる「セラミックス回路基板」([0013])が記載されていると認められる。
そして、セラミックス回路基板の製造の際には、「複合材料を、セラミックス基板の両面に配置し」、「接合層の構成を発現させる」「接合の条件」にて「加熱して複合材料を接合」すること([0049])も記載されていると認められる。
また、表1は、「第2実施形態」として「組成の異なる複数の活性金属ろう材を使用して回路基板を製造した」際の「活性金属ろう材」の「組成」を記載しているもの([0066])と認められ、表1から、それぞれの回路基板を製造した際の「ろう材厚さ」、「接合層厚さ」、「活性金属化合物層」の厚さが記載されているとも認められる。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は必ずしも判然としないが、表1には、特許異議申立人が主張するような、ろう材層の厚さと接合層の厚さとの間に大きな変化がないことについては記載されておらず、また、表1は「接合前と接合後を比較」するものとは解されず、表1には、接合前と接合後を比較して厚さが「4μm以上変化しない」ことも示されていない。
よって、甲6に基づく4μm以上変化しないとの主張、及び、当該主張に基づく他の主張は、採用することができない。
d 甲6に、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たす試料が記載されている点について(前記イ(ア)d)
甲6には、段落[0039]の記載より、「活性金属ろう材層」に「バルク状」のものを「使用する」ことが記載されていると認められる。また、表1のNo.1、2、7において、接合層の厚さは、11.2~20.4μmの範囲内のものであるとも認められる。
一方、段落[0063]には、「一方、比較例についてみると、接合層の組織そのものは本実施形態と略同じであり、・・・。また、活性金属化合物層の厚さは、0.6μmであった。・・・」と記載されている。この記載から、「比較例」は「接合層の組織そのものは本実施形態と略同じ」であるものと認められるが、続いて同段落内に「また、活性金属化合物層の厚さは、0.6μmであった。」と厚さに関する記載もあるため、「比較例についてみると、接合層の組織そのものは本実施形態と略同じ」の記載において「接合層の組織」が膜厚の意を含むかは定かではない。
ゆえに、段落[0063]で「接合層の組織そのものは」「略同じ」と記載されているからといって、実施例と比較例で、接合層厚さも略同じであるが明らかであるとはいえない。また、前記cのとおり、甲6に基づく4μm以上変化しないとの主張、及び、当該主張に基づく他の主張は、採用することができない。
よって、甲6に、(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たす試料が記載されているとはいえない。
e 甲7に、「前記第1のろう材層および前記第2のろう材層は、いずれの箇所においても厚さが11.2μm以上20.4μm以下であって、任意の箇所における前記第1のろう材層の厚さと前記任意の箇所の裏側にあたる箇所の前記第2のろう材層の厚さとの差が4.0μm以下である」構成を満たす試料が記載されており、また当該試料が(Ta-Tb)/Ta≦0.2の関係式を満たしている点について(前記イ(ア)e)
前記アのとおり、本件発明1が、甲7に記載された発明に基づいて特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張は、いずれも採用することができない。
(4)小括
以上のとおりであるから、その余の相違点(相違点1及び3)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明及び甲1~4及び6に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものであるといえない。また、本件発明1が、甲7に記載された発明に基づいて特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(5)本件発明2、3について
本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項により限定されたものであるから、本件発明2及び3と、甲5発明との間には、前記(2)サに示した相違点がある。
そして、そのうちの相違点2(前記(2)サ(ウ))についての判断は、前記(3)のとおりであるから、本件発明2及び3についても、前記(4)同様、甲5発明及び甲1~4及び6に記載された事項に基づき、当業者が容易に発明することができたものであるといえない。また、本件発明2及び3が、甲7に記載された発明に基づいて特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~3は、甲5に記載された発明及び甲1~4、6及び7に記載された事項に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるということはできない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700652