特許異議申立
2023-700212
植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋
- 審判番号
- 2023-700212
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-036130
- 登録番号
- 7124911
- 請求日
- 2023年02月24日
- 審決日
- 2024年03月06日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】結田 純次
- 【権利者代理人】竹林 則幸
- 【異議申立人】土田 裕介
- 【異議申立人代理人】長谷川 芳樹
- 【異議申立人代理人】黒木 義樹
- 【異議申立人代理人】吉住 和之
- 審判長/審判官
- 審判長 藤原 直欣
- 審判官 藤井 眞吾
- 審判官 稲葉 大紀
- 分類
- P1651.121-YAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第44条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7124911号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7124911号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7124911号の請求項1~7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯
特許第7124911号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、出願の分割の経緯は次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の願書の提出日を示す。
最先の出願:特願2011- 28784号(平成23年2月14日)
第1次分割:特願2015- 77247号(平成27年4月3日)
第2次分割:特願2016-248731号(平成28年12月22日)
第3次分割:特願2018-218098号(平成30年11月21日)
第4次分割:特願2020- 21264号(令和2年2月12日)
第5次分割:特願2020-122500号(令和2年7月17日)
第6次分割:特願2021- 36130号(本件特許出願:令和3年3月8日)
2 本件特許異議の申立てに係る手続の経緯
本件特許は、令和4年8月16日にその特許権の設定登録がされ、令和4年8月24日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和5年 2月24日 :特許異議申立人土田裕介(以下「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
令和5年 6月 7日付け:取消理由通知書
令和5年 8月 4日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和5年 9月29日 :申立人による意見書の提出
令和5年10月24日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和5年12月15日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
令和6年 2月 1日 :申立人による意見書の提出
なお、令和5年8月4日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求
1 訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第7124911号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1における「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、」との記載を「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなるヒートシール性フィルムであって、」と訂正し、
「該ヒートシール性フィルムは、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、」との記載を「該ヒートシール性フィルムは多層構造であり、
該多層構造の中間層が、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、」と訂正し、
末尾の「。」の直前に「(但し、前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルムを除く)」との事項を追加する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2における「該ヒートシール性フィルムは、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、」との記載を「該ヒートシール性フィルムは単層構成であり、
該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層であり、
該層を構成する樹脂組成物は、前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5~90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95重量%含み、」と訂正し、
末尾の「。」の直前に「(但し、直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るものを除く)」との事項を追加する(請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する)。
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3における「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、」との記載を「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなるヒートシール性フィルムであって、」と訂正し、
「該ヒートシール性フィルムは、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み、」との記載を「該ヒートシール性フィルムは三層構造であり、
該三層構造のいずれの層も、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み、」と訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する)。
(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4における「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、」との記載を「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなるヒートシール性フィルムであって、」と訂正し、
「該ヒートシール性フィルムは、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み、」との記載を「該ヒートシール性フィルムは単層構成であり、
該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み、」と訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5~7も同様に訂正する)。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~7は、請求項5~7が、本件訂正請求の対象である請求項1~4のいずれかの記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1~7〕について請求されている。
3 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1の「ポリエチレン系樹脂」について、「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」とし、また、「ヒートシール性フィルム」について、「多層構造」とするとともに、「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層」について「該多層構造の中間層」が有するものであることを限定し、さらに、「包装材用シーラントフィルム」について、「(但し、前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルムを除く)」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1の「ポリエチレン系樹脂」について、「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」とする点は、「ポリエチレン系樹脂」から「但し、押出ラミネート用樹脂組成物」を除外することにより、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項1の「ヒートシール性フィルム」について層構造を限定する点は、本件特許明細書の【0030】、【0033】、【0052】の記載に基づくから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項1の「包装材用シーラントフィルム」について、「(但し、前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルムを除く)」とする点は、「包装材用シーラントフィルム」から「前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム」を除外することにより、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の「ヒートシール性フィルム」について、「単層構成」とするとともに、「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層」を「該単層」とし、「該層を構成する樹脂組成物は、前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5~90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95重量%含」むと限定し、さらに、「包装材用シーラントフィルム」について、「(但し、直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るものを除く)」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2の「ヒートシール性フィルム」について層構造を限定する点は、本件特許明細書の【0030】、【0031】の記載に基づくから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項2の「包装材用シーラントフィルム」について、「(但し、直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るものを除く)」とする点は、「包装材用シーラントフィルム」から「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るもの」を除外することにより、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3の「ポリエチレン系樹脂」について、「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」とし、また、「ヒートシール性フィルム」について、「三層構造」とするとともに、「該三層構造のいずれの層」も「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含」むと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項3の「ポリエチレン系樹脂」について、「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」とする点は、「ポリエチレン系樹脂」から「但し、押出ラミネート用樹脂組成物」を除外することにより、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項3の「ヒートシール性フィルム」について層構造を限定する点は、本件特許明細書の【0059】の記載に基づくから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項3は、本件訂正前の請求項3に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4の「ポリエチレン系樹脂」について、「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」とし、また、「ヒートシール性フィルム」について、「単層構成」とするとともに、「該単層」が「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含」むと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項4の「ポリエチレン系樹脂」について、「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」とする点は、「ポリエチレン系樹脂」から「但し、押出ラミネート用樹脂組成物」を除外することにより、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項4の「ヒートシール性フィルム」について層構造を限定する点は、本件特許明細書の【0050】の記載に基づくから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
したがって、訂正事項4は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項4は、本件訂正前の請求項4に係る発明の発明特定事項をさらに限定するものであり、発明のカテゴリーや対象を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり本件訂正が認められたことから、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~7の記載は、次のとおりである。
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは多層構造であり、
該多層構造の中間層が、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であって、密度が0.910~0.925g/cm3の物性を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用シーラントフィルム(但し、前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルムを除く)。
【請求項2】
ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは単層構成であり、
該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層であり、
該層を構成する樹脂組成物は、前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5~90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95重量%含み、
前記植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、メルトフローレートが0.5~4.0g/10分の物性を有する包装材用シーラントフィルム(但し、直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るものを除く)。
【請求項3】
ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは三層構成であり、
該三層のいずれの層も、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であって、密度が0.910~0.925g/cm3の物性を有するエチレン-α-オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用シーラントフィルム。
【請求項4】
ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは単層構成であり、
該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み、
前記植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、メルトフローレートが0.5~4.0g/10分の物性を有する包装材用シーラントフィルム。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか一項に記載のフィルムを、基材フィルムと積層させたことを特徴とする包装材用積層フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。
【請求項7】
請求項1~4のうちいずれか一項に記載の包装材料シーラントフィルムと用いてなることを特徴とする包装袋。
第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由の概要
(進歩性)本件特許の請求項1、3、5~7に係る発明は、下記甲8に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものであるため、請求項1、3、5~7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献等一覧>
(甲第2号証を「甲2」という。ほかも同じ。)
甲2:杉山英路ら、“地球環境に優しい「サトウキビ由来のポリエチレン」”、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年(平成21年)8月15日、第37巻、第8号、通巻437号、63~67ページ
甲3:杉山英路、“新しいバイオマスプラスチックスの可能性~「サトウキビ由来ポリエチレン」の製品化から~”、Polyfile、株式会社大成社、2009年(平成21年)12月10日、Vol.46、No.550、28~30ページ
甲8:特開昭59-75933号公報
引用文献1:特開平10-119207号公報(令和5年9月29日に申立人が提出した意見書に添付された参考文献1)
2 取消理由1についての当審の判断
(1)甲8に記載された事項、発明
ア 甲8に記載された事項
(ア)「2.特許請求の範囲
1.直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るラミネート用組成物。」(1ページ左下欄4~7行)
(イ)「3.発明の詳細な説明
本発明は、他のフィルムへの押出ラミネートにおいて、極めて優れた特性を有するラミネート用組成物に関する。
ポリプロピレン延伸フィルム等、それを構成する樹脂の融点が比較的高いフィルム同志をヒートシールする場合、ヒートシール部分付近のフィルムが熱収縮を起こし、良好なシール性が得られないことがしばしばある。そのため、従来から該フィルムの表面に低融点の樹脂をラミネートすることにより、ヒートシール温度を下げると共にヒートシール強度を向上させる方法が実施されている。上記低融点の樹脂としては種々の樹脂が提案されているが、就中、直鎖状低密度ポリエチレン(以下LLDPEとも略記する)は、低い融点を有すると共に優れたヒートシール強度を発揮するため、ラミネート用樹脂として注目されている。
ところが、LLDPEはこれをTダイ等を用いて他のフィルム表面に溶融状態で押出すことによりラミネートする所謂、押出ラミネートする場合、次のような問題を有する。即ち、LLDPEの押出ラミネートにおいて、ラミネート速度を上げると押出されたLLDPE層にサージングが起こってラミネート層の厚みが不均一となり、得られる複合フィルムの商品価値が著しく低下させる。
また、該LLDPE層はネックインが大きく、押出ラミネート作業性に著しい悪影響を与える。
従って、LLDPEは前記した如く優れた性質を持っているにもかかわらず、押出ラミネートに用いることが工業的に困難であった。本発明者等はLLDPEを用いた押出ラミネートにおける前記問題を解消すべく研究を重ねた。
その結果、LLDPEに特定量の高圧法により得られる低密度ポリエチレン(以下LDPEとも略記する)を添加してなる組成物が前記したLLDPEの元来有している特性と同等或いはそれ以上の特性を有すると共に押出ラミネートにおける諸問題を解消し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とよりなるラミネート用組成物である。
本発明においてLLDPEとは実質的に長鎖分岐を持たない直鎖状の低密度ポリエチレンであり、一般にエチレン含量80~99.9モル%、密度0.910~0.935g/cm3のエチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとのランダム共重合体である。該炭素数4以上のα-オレフィンとしては、ブテン-1、メチルペンテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1等が挙げられるが、ブテン-1が一般的である。また、メルトフローインデックス(ASTM D1238、230℃:以下MFIともいう)が0.3~30g/10分、特に10~20g/10分のものが好ましい。」(1ページ左下欄8行~2ページ左上欄15行)
(ウ)「本発明のラミネート用組成物は、ポリプロピレンフィルム等、ヒートシールが困難なフィルムに押出ラミネートする場合に有効である。特に該フィルムに押出ラミネートした後、これを一軸或いは二軸方向に延伸することによりヒートシール強度が著しく優れた複合フィルムとすることができる。」(2ページ左下欄下から6行~末行)
イ 甲8に記載された発明
上記アから、甲8には、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されている。
「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成るラミネート用組成物をフィルムに押出ラミネートした、複合フィルムであって、
直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンとα-オレフィンとのランダム共重合体であり、密度が0.910~0.935g/m3であり、メルトフローインデックス(ASTM D1238、230℃)が0.3~30g/10分である、複合フィルム。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲8発明とを対比する。
甲8の「本発明のラミネート用組成物は、ポリプロピレンフィルム等、ヒートシールが困難なフィルムに押出ラミネートする場合に有効である。特に該フィルムに押出ラミネートした後、これを一軸或いは二軸方向に延伸することによりヒートシール強度が著しく優れた複合フィルムとすることができる。」(2ページ左下欄下から6行~末行)との記載から、甲8発明における「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成るラミネート用組成物をフィルムに押出ラミネートした」ものは、ヒートシールのためであること、また、そのようにラミネートされた組成物はフィルム状であることから、本件発明1の「ヒートシール性フィルム」に相当し、「包装材用シーラントフィルム」とは「シーラントフィルム」の限りで一致する。
甲8発明の「ラミネート用組成物」が「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成」り、「押出ラミネート」されるものであることと、本件発明1の「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなる」こととは、「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂からなる」限りで一致する。
甲8発明の「ラミネート用組成物」が、「エチレンとα-オレフィンとのランダム共重合体であり、密度が0.910~0.935g/m3であり、メルトフローインデックス(ASTM D1238、230℃)が0.3~30g/10分である」「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成る」ことと本件発明1の「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であって、密度が0.910~0.925g/cm3の物性を有するエチレン-α-オレフィン共重合体である」こととは、「エチレンとα-オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体である」限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲8発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点1]
「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであり、
該ヒートシール性フィルムは、エチレンとα-オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、
該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体である、シーラントフィルム。」
[相違点1-1]
「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂からなる」ことに関して、本件発明1の「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなる」のに対して、甲8発明の「ラミネート用組成物」が「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成」り、「押出ラミネート」されるものである点。
[相違点1-2]
本件発明1は「該ヒートシール性フィルムは多層構造であ」るのに対して、甲8発明はそうではない点。
[相違点1-3]
「エチレンとα-オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体である」ことに関して、本件発明1は、「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であって、密度が0.910~0.925g/cm3の物性を有するエチレン-α-オレフィン共重合体である」のに対して、甲8発明は、「ラミネート用組成物」が「エチレンとα-オレフィンとのランダム共重合体であり、密度が0.910~0.935g/m3であり、メルトフローインデックス(ASTM D1238、230℃)が0.3~30g/10分である」「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成る」点。
[相違点1-4]
「シーラントフィルム」に関して、本件発明1は「包装材用シーラントフィルム」であるのに対して、甲8発明は「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成るラミネート用組成物をフィルムに押出ラミネートした」フィルムであって、包装材用か不明である点。
[相違点1-5]
本件発明1は、「(但し、前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルムを除く)」のに対して、甲8発明はその点が不明である点。
イ 判断
相違点1-1について検討する。
甲8発明における「ラミネート用組成物」は、「押出ラミネート」されるものである。この点、甲8には、LLDPEを押出ラミネートする場合、ラミネート速度を上げると押出されたLLDPE層にサージングが起こってラミネート層の厚みが不均一となり、得られる複合フィルムの商品価値が著しく低下させ、また、該LLDPE層はネックインが大きく、押出ラミネート作業性に著しい悪影響を与えるという問題を解消するために、LLDPEに特定量のLDPEを添加してなる組成物が、押出ラミネートにおける諸問題を解消し得ることを見い出したものであることが記載されていることからも(上記(1)ア(イ))、甲8に記載された技術は、「押出ラミネート」に用いられることを前提としたものである。すなわち、甲8には、「ラミネート用組成物」を「押出ラミネート」以外の用途に用いることについて阻害要因があるといえる。
したがって、甲8発明において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和6年2月1日提出の意見書において、(a)甲8の特許請求の範囲に記載されている発明は、「押出ラミネート用組成物」に限定されていない旨、及び(b)甲8の「低温でのヒートシールにおける優れたヒートシール強度の発揮性」の効果に着目した当業者であれば、甲8発明のラミネート用組成物を、押出ラミネート以外の用途に使用する動機付けがある旨を述べている。
申立人の主張(a)について、上記イで述べたとおり、甲8発明は「押出ラミネート」に用いられることを前提としたものである。
申立人の主張(b)について、甲8には、「低温でのヒートシールにおける優れたヒートシール強度の発揮性」の効果が書かれているが、「押出ラミネート」で用いられることを前提としたものであって、甲8には、「ラミネート用組成物」を「押出ラミネート」以外に用いた場合であっても同様の効果が得られることは記載も示唆もされていない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
エ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲8発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点2]
「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであり、
該ヒートシール性フィルムは、エチレンとα-オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、
該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体である、シーラントフィルム。」
[相違点2-1]
「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂からなる」ことに関して、本件発明3の「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなる」のに対して、甲8発明の「ラミネート用組成物」が「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成」り、「押出ラミネート」されるものである点。
[相違点2-2]
本件発明3は「該ヒートシール性フィルムは三層構成であ」るのに対して、甲8発明はそうではない点。
[相違点2-3]
「エチレンとα-オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、ポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し、該直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体である」ことに関して、本件発明3は、「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み、該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であって、密度が0.910~0.925g/cm3の物性を有するエチレン-α-オレフィン共重合体である」のに対して、甲8発明は、「ラミネート用組成物」が「エチレンとα-オレフィンとのランダム共重合体であり、密度が0.910~0.935g/m3であり、メルトフローインデックス(ASTM D1238、230℃)が0.3~30g/10分である」「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成る」点。
[相違点2-4]
「シーラントフィルム」に関して、本件発明3は「包装材用シーラントフィルム」であるのに対して、甲8発明は「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成るラミネート用組成物をフィルムに押出ラミネートした」フィルムであって、包装材用か不明である点。
イ 判断
相違点2-1について判断は、上記(2)イと同様であり、甲8発明において、相違点2-1に係る本件発明3の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
ウ 小括
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
(4)本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明1又は3の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記(2)又は(3)と同様の理由により、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第5 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立ての理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立ての理由の概要
(1)申立理由1(甲1を主引例とした進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲1に記載された発明、甲4に記載された事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものである。
(2)申立理由2(甲8を主引例とした進歩性)
本件特許の請求項2、4~7に係る発明は、甲8に記載された発明、甲4に記載された事項、甲8に記載された事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものである。
(3)申立理由3(甲9を主引例とした進歩性)
本件特許の請求項1~7に係る発明は、甲9に記載された発明、甲4に記載された事項、甲9に記載された事項、甲10に記載された事項、甲11に記載された事項、甲13に記載された事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許を受けることができないものである。
(4)提出された証拠
甲1:神谷達之、“特集 パッケージに見る材料技術と成形技術 包材用メタロセン樹脂”、プラスチックスエージ、2006年(平成18年)3月、52巻3月号、631号、73~79ページ
甲2:引用文献2 杉山英路ら、“地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」”,コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年(平成21年)8月15日,第37巻、第8号、63~67ページ
甲3:杉山英路、“新しいバイオマスプラスチックスの可能性~「サトウキビ由来ポリエチレン」の製品化から~”、Polyfile、株式会社大成社、2009年(平成21年)12月10日、Vol.46、No.550、28~30ページ
甲4:特開2010-162748号公報
甲5:特開2000-10244号公報
甲6:特開平9-48881号公報
甲7:特開平9-124856号公報
甲8:特開昭59-75933号公報
甲9:特開平10-114037号公報
甲10:リニアポリエチレンカタログ「SUMIKATHENE-L〇R(当審注:丸内にRを代用。以下同じ。) スミカセン-L〇R」、1992年(平成4年)3月、住友化学工業株式会社
甲11:高圧法ポリエチレンカタログ「SUMIKATHENE-L〇R スミカセン〇R」、2001年(平成13年)3月、住友化学工業株式会社
甲12:特開平6-32946号公報
甲13:特開2000-248123号公報
2 当審の判断
(1)申立理由1について
ア 甲1に記載された発明
甲1の73ページ左欄7~20行、右欄下から9行~末行、76ページ表3の記載を参照すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「MFRが1.0g/10min、密度が0.921g/cm3の物性を有し、エチレンとα-オレフィンとの共重合で得られる直鎖状低密度ポリエチレンで構成され、低温ヒートシール性を有する包材用途のシーラントフィルム。」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点A1-1]
本件発明1は「ポリエチレン樹脂」が「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」のに対して、甲1発明は「直鎖状低密度ポリエチレン」がそのようなものであるか不明な点。
[相違点A1-2]
本件発明1は、「該ヒートシール性フィルムは多層構造であり、該多層構造の中間層が、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層を有し」、「該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であって」、また、「包装材用シーラントフィルム」は「(但し、前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルムを除く)」のに対して、甲1発明の「包材用途のシーラントフィルム」はそのような多層構造ではない点。
事案に鑑み相違点A1-2について検討する。
甲1及びその他の証拠には、相違点A1-2に係る本件発明1の構成とすることについて記載も示唆もない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
ウ 本件発明2について
本件発明2と甲1発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点A2]
本件発明2は「該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層であり、該層を構成する樹脂組成物は、前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5~90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95重量%含み」、「包装材用シーラントフィルム」が「(但し、直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るものを除く)」のに対して、甲1発明は「シーラントフィルム」がそのようなものであるか不明な点。
相違点A2について検討する。
甲1及びその他の証拠には、相違点A2に係る本件発明2の構成とすることについて記載も示唆もない。
よって、本件発明2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
エ 本件発明3について
本件発明3と甲1発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点A3-1]
本件発明3は「ポリエチレン樹脂」が「(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)」のに対して、甲1発明は「直鎖状低密度ポリエチレン」がそのようなものであるか不明な点。
[相違点A3-2]
本件発明3は、「該ヒートシール性フィルムは三層構成であり、該三層のいずれの層も、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み」、「該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であ」るのに対して、甲1発明の「包材用途のシーラントフィルム」はそのような三層構造ではない点。
事案に鑑み相違点A3-2について検討する。
甲1及びその他の証拠には、相違点A3-2に係る本件発明3の構成とすることについて記載も示唆もない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
オ 本件発明4について
本件発明4と甲1発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点A4]
本件発明4は「該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含」むのに対して、甲1発明は「シーラントフィルム」がそのようなものであるか不明な点。
相違点A4について検討する。
甲1及びその他の証拠には、相違点A4に係る本件発明4の構成とすることについて記載も示唆もない。
よって、本件発明4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
カ 本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明1、2、3又は4の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イ~オと同様の理由により、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)申立理由2について
ア 本件発明2について
本件発明2と甲8発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点B1]
本件発明2は「該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した層であり、該層を構成する樹脂組成物は、前記植物由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5~90重量%と、石油由来ポリエチレン系樹脂を10~95重量%含み」、「包装材用シーラントフィルム」が「(但し、直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るものを除く)」のに対して、甲8発明は「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とにより成るラミネート用組成物をフィルムに押出ラミネートした」ものである点。
相違点B1について検討する。
甲8発明における「ラミネート用組成物」は、「押出ラミネート」されるものである。この点、甲8には、LLDPEを押出ラミネートする場合、ラミネート速度を上げると押出されたLLDPE層にサージングが起こってラミネート層の厚みが不均一となり、得られる複合フィルムの商品価値が著しく低下させ、また、該LLDPE層はネックインが大きく、押出ラミネート作業性に著しい悪影響を与えるという問題を解消するために、「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るラミネート用組成物」とすることで、押出ラミネートにおける諸問題を解消し得ることを見い出したものであることが記載されている(上記第4の2(1)ア(イ))。
そうすると、甲8発明を、「直鎖状低密度ポリエチレン98~50重量%と低密度ポリエチレン2~50重量%とより成るもの」以外のものとする動機付けはない。
よって、本件発明2は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
イ 本件発明4について
本件発明4と甲8発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点B2-1]
「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂からなる」ことに関して、本件発明4の「ヒートシール性フィルム」が「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からなる」のに対して、甲8発明の「ラミネート用組成物」が「押出ラミネート」されるものである点。
[相違点B2-2]
本件発明4は「該単層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含」むのに対して、甲8発明は「シーラントフィルム」がそのようなものであるか不明な点。
相違点B2-1について検討する。
甲8発明における「ラミネート用組成物」は、「押出ラミネート」されるものである。この点、甲8には、LLDPEを押出ラミネートする場合、ラミネート速度を上げると押出されたLLDPE層にサージングが起こってラミネート層の厚みが不均一となり、得られる複合フィルムの商品価値が著しく低下させ、また、該LLDPE層はネックインが大きく、押出ラミネート作業性に著しい悪影響を与えるという問題を解消するために、LLDPEに特定量のLDPEを添加してなる組成物が、押出ラミネートにおける諸問題を解消し得ることを見い出したものであることが記載されている(上記第4の2(1)ア(イ))。そうすると、甲8に記載された技術は、「押出ラミネート」に用いられることを前提としたものであって、甲8には、「ラミネート用組成物」を「押出ラミネート」以外の用途に用いることについて記載も示唆もされていない。
したがって、甲8発明において、相違点B2-1に係る本件発明4の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲8発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
ウ 本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明2又は4の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記ア、イと同様の理由により、甲8発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)申立理由3について
ア 甲9に記載された発明
甲9(【0011】)には、特に実施例1における「シーラントフィルム」に着目すると、次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されている。
「内外層として、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフィルム層を、中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0;100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)を用いて2種3層インフレーション成形機により作製した袋用シーラントフィルム。」
イ 本件発明1について
本件発明1と甲9発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点C1-1]
本件発明1の「ヒートシール性フィルム」は、「ポリエチレン系樹脂(但し、押出ラミネート用樹脂組成物を除く)からな」り、「(但し、前記中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルムを除く)」のに対して、甲9発明の「袋用シーラントフィルム」は、「内外層として、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフィルム層を、中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0;100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)を用いて2種3層インフレーション成形機により作製した」ものである点。
[相違点C1-2]
「エチレンとα-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」に関して、本件発明1は「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」であるのに対して、甲9発明は「住友化学工業(株)製FA101-0」である点。
[相違点C1-3]
「中間層」の「ポリエチレン系樹脂」に関して、本件発明1は「石油由来のポリエチレン系樹脂」であるのに対して、甲9発明は「住友化学工業(株)製F102-0」である点。
相違点C1-1について検討する。
甲9発明は「中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0;100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)を用い」たものである。この点、甲9には、「ラミネート強度、バリヤー性、機械強度、生産性、耐環境ストレスクラッキング性等が低下することなく、易開封性、すなわち指先によって容易に引裂くことのできる優れた開封性を持ったラミネートフィルムの袋を提供する」(【0006】)ために、「外層及び内層の中間層として、通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性があるフィルム層」(【請求項1】)を用いることが記載されている。
そうすると、甲9発明において、「中間層が、直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である」もの以外のものとする動機付けはない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
ウ 本件発明2、4について
本件発明2又は4と甲9発明とは、少なくとも次の点で相違する。
[相違点C2]
本件発明2又は4は「該ヒートシール性フィルムは単層構成であ」るのに対して、甲9発明の「袋用シーラントフィルム」は「2種3層」である点。
相違点C2について検討する。
甲9には、「ラミネート強度、バリヤー性、機械強度、生産性、耐環境ストレスクラッキング性等が低下することなく、易開封性、すなわち指先によって容易に引裂くことのできる優れた開封性を持ったラミネートフィルムの袋を提供する」(【0006】)ために、「シーラントフィルム」を外層、内層及び中間層を所定のものとしたものであるところ、甲9発明の「袋用シーラントフィルム」の層構成を単層とする動機付けはない。
よって、本件発明2、4は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
エ 本件発明3について
本件発明3と甲9発明とは、少なくとも次の点で相違する。
[相違点C3]
本件発明3は、「該ヒートシール性フィルムは三層構成であり、該三層のいずれの層も、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含み」、「該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満であ」るのに対して、甲9発明の「袋用シーラントフィルム」は、「内外層として、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフィルム層を、中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0;100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)を用いて2種3層インフレーション成形機により作製した」点。
相違点C3について検討する。
甲9には、「ラミネート強度、バリヤー性、機械強度、生産性、耐環境ストレスクラッキング性等が低下することなく、易開封性、すなわち指先によって容易に引裂くことのできる優れた開封性を持ったラミネートフィルムの袋を提供する」(【0006】)ために、「シーラントフィルム」を外層、内層及び中間層を所定のものとしたものであるところ、甲9発明の「内外層」を「植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを混合した樹脂組成物を含」むものとする動機付けはない。
よって、本件発明3は、甲9発明に基いて当業者が容易に発明できたものではない。
オ 本件発明5~7について
本件発明5~7は、本件発明1、2、3又は4の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加える発明であるから、上記イ~エと同様の理由により、甲9発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第6 むすび
請求項1~7に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。また、他に請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700212