特許異議申立
2021-700934
植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋
- 審判番号
- 2021-700934
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-122500
- 登録番号
- 6852830
- 請求日
- 2021年09月29日
- 審決日
- 2024年10月29日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】結田 純次
- 【権利者代理人】竹林 則幸
- 【異議申立人】土田 裕介
- 【異議申立人代理人】長谷川 芳樹
- 【異議申立人代理人】黒木 義樹
- 【異議申立人代理人】吉住 和之
- 審判長/審判官
- 審判長 岩谷 一臣
- 審判官 神山 茂樹
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P1651.121-YAA(B65D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第44条第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第44条第2項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6852830号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6852830号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕、12について訂正することを認める。
特許第6852830号の請求項1~12に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 出願分割の経緯
特許第6852830号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願であって、出願の分割の経緯は次のとおりである。なお、括弧内は当該出願の出願日を示す。
最先の出願:特願2011-28784号(平成23年2月14日)
第1次分割:特願2015-77247号(平成27年4月3日)
第2次分割:特願2016-248731号(平成28年12月22日)
第3次分割:特願2018-218098号(平成30年11月21日)
第4次分割:特願2020-21264号(令和2年2月12日)
第5次分割:特願2020-122500号(本件特許出願:令和2年7月17日)
2 本件特許異議の申立てに係る手続の経緯
本件特許は、令和3年3月15日にその特許権の設定登録がされ、同年3月31日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 9月29日 :特許異議申立人 土田裕介(以下「申立人」という。)による本件特許の請求項1~11に対する特許異議の申立て
令和4年 5月11日付け:取消理由通知
令和4年 7月 8日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出
令和4年 8月15日 :申立人による意見書の提出
令和5年 3月15日 :訂正請求書の手続補正書の提出
令和5年 6月 7日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和5年 8月 4日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出
令和5年 9月 7日 :上申書(特許権者)
令和6年 3月15日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和6年 5月23日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出(以下、この訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)
なお、手続補正書により補正された令和4年7月8日になされた訂正請求及び令和5年8月4日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、当審から令和6年7月16日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは応答がなかった。
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6852830号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めるものであり、本件訂正の内容は、次の訂正事項を含むものである。なお、下線は、当審が訂正箇所に付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「包装材用ヒートシール性フィルム。」とあるのを、「包装材用ヒートシール性フィルム(但し、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く)。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~11も同様に訂正する
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の包装材用ヒートシール性フィルム。」とあるのを、「請求項1に記載の包装材用ヒートシール性フィルム。」に訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4~11も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3において、請求項2を引用するものについて独立形式に改め、新たに請求項12として、
「外層と、中間層と、内層と、を有する多層構成のフィルムであって、
前記外層および前記内層が、石油由来の樹脂組成物からなり、
前記中間層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含み、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定 14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であって、
前記フィルムは、植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5重量%以上25重量%以下含み、
前記フィルムのバイオマス度が22%以下であり、
前記α-オレフィンが、ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物であることを特徴とする包装材用ヒートシール性フィルム(但し、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く)。」に訂正する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2~11は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件訂正は一群の請求項について請求されたものである。
また、訂正後の請求項12について、特許権者は、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
「前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く」とする事項を追加して限定する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
訂正事項2は、引用する請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、訂正前の請求項2を引用する請求項3について、請求項間の引用関係を解消して請求項12とするとともに、「前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く」とする事項を追加して限定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とし、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
したがって、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1~11〕、12について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、本件訂正後の請求項1~12に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
外層と、中間層と、内層と、を有する多層構成のフィルムであって、
前記外層および前記内層が、石油由来の樹脂組成物からなり、
前記中間層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含み、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定 14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であって、
前記フィルムは、植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5重量%以上25重量%以下含むことを特徴とする包装材用ヒートシール性フィルム(但し、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く)。
【請求項2】
前記フィルムのバイオマス度が22%以下であることを特徴とする請求項1に記載の包装材用ヒートシール性フィルム。
【請求項3】
前記α-オレフィンが、ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の包装材用ヒートシール性フィルム。
【請求項4】
少なくとも、基材フィルムと、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の包装材用ヒートシール性フィルムとからなり、
前記基材フィルムが、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂のいずれかである包装材用積層フィルム。
【請求項5】
請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする容器。
【請求項6】
請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。
【請求項7】
請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とする蓋材。
【請求項8】
請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とするラベル。
【請求項9】
請求項4に記載の包装材用積層フィルムを用いてなることを特徴とするラミネートチューブ。
【請求項10】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の包装材用ヒートシール性フィルムを用いてなることを特徴とする容器。
【請求項11】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の包装材用ヒートシール性フィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。
【請求項12】
外層と、中間層と、内層と、を有する多層構成のフィルムであって、
前記外層および前記内層が、石油由来の樹脂組成物からなり、
前記中間層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含み、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定 14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であって、
前記フィルムは、植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5重量%以上25重量%以下含み、
前記フィルムのバイオマス度が22%以下であり、
前記α-オレフィンが、ブテン-1またはヘキセン-1またはこれらの混合物であることを特徴とする包装材用ヒートシール性フィルム(但し、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く)。
第4 取消理由通知(令和6年3月15日付け決定の予告)の概要
請求項1~12に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項1~12に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
記
証拠
・甲第2号証 特開平10-114037号公報(申立人が提出したもの)
・甲第3号証 リニアポリエチレンカタログ「SUMIKATHEN-L[R](当審注:以下丸囲みを[]と記載する。) スミカセン-L[R]」、住友化学工業株式会社、1992年3月(申立人が提出したもの)
・甲第4号証 高圧法ポリエチレンカタログ「SUMIKATHEN[R] スミカセン[R]」、住友化学工業株式会社、2001年3月(申立人が提出したもの)
・甲第5号証 特開平6-32946号公報(申立人が提出したもの)
・甲第6号証 特開2000-248123号公報(申立人が提出したもの)
・甲第7号証 杉山英路ら、「地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」」、コンバーテック、株式会社加工技術研究会、2009年8月15日、第37巻、第8号、第63頁~67頁(申立人が提出したもの)
・甲第8号証 杉山英路、「新しいバイオマスプラスチックスの可能性~「サトウキビ由来ポリエチレン」の製品化から~」、Polyfile、株式会社大成社、2009年12月10日、第46巻、第12号、第28頁~30頁(申立人が提出したもの)
・甲第9号証 特開2010-162748号公報(申立人が提出したもの)
・甲第10号証 特開2010-241471号公報(申立人が提出したもの)
・甲第11号証 特開平11-198289号公報(申立人が提出したもの)
以下、甲第2~11号証については、「甲2」等という。
第5 当審の判断
取消理由1(甲2に基づく進歩性)について
1 甲2に記載された発明
甲2には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 表基材フィルム(A) とシーラントフィルム(B) が積層されたラミネートフィルムの袋において、下記(A),(B) のフィルムを使用したことを特徴とする易引裂き性ラミネートフィルムの袋。
(A)表基材フィルムとして、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール及びエチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物の群より選ばれた樹脂の一軸延伸あるいは二軸延伸の単独フイルムあるいはラミネートフィルム、
(B)シーラントフィルムが、[1]上記表基材フィルム(A)と接着するシーラントフィルム外層及び[2]内容物と接するシーラントフィルム内層として、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、[3]外層及び内層の中間層として、通常の直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性があるフィルム層、を組み合わせた多層フィルム。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、手で容易に直線的にカットできる易引裂き性ラミネートフィルムを使用した易引裂き性の袋に関し、食品、薬品、工業製品の包装袋として使用する。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術の問題点、すなわちラミネート強度、バリヤー性、機械強度、生産性、耐環境ストレスクラッキング性等が低下することなく、易開封性、すなわち指先によって容易に引裂くことのできる優れた開封性を持ったラミネートフィルムの袋を提供することにある。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】直鎖状低密度ポリエチレンをシーラント層として用いたラミネートフィルムの袋は、シール強度が高く、夾雑シール性が安定しているが、前述したように、引裂き難く袋の開封性の面で劣る問題点がある。本発明者らは、これらの問題点について鋭意研究の結果、直鎖状低密度ポリエチレンをシーラント層として用いたラミネートフィルムが引裂き抵抗が大きいのは、直鎖状低密度ポリエチレン自体の引裂き抵抗が大きく、かつ縦と横の引裂き強度や破断点強伸度のアンバランスなためであることを見出した。即ち、MDの破断点強伸度が機械直交方向(TD)のそれよりも高いため、これを用いたラミネートフイルムをTDに引裂こうとしても、シーラントがラミネート強度に打ち勝ってMDに伸びてしまい、切れ目付近でデラミを起こして開封困難となる。またMDに引裂こうとすると、引裂き抵抗が大きいために、ノッチ部から始まった切れ目が袋の表裏で互いに離れていき、シール部で引っかかって切り離し不能となる。
・・・
【0009】本発明の易引裂き性ラミネートフィルムの引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレンフイルム層は、カミンスキー触媒のような均一系触媒によって重合された直鎖状低密度ポリエチレンを用いたり、インフレーション法においてブロー比を高くして作る方法、いわゆるバランシャルフイルム法で作ることができる。引裂きの方向性があるフイルム層は、通常の直鎖状低密度ポリエチレンに低密度ポリエチレンあるいはエチレン-酢酸ビニル共重合体を配合した樹 脂を形成して得られるフイルムがある。袋の表基材としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物といった通常の二軸延伸フイルムが好適に用いられるが、一軸延伸フイルムのようなMDとTDの裂け方に方向性のある基材フイルムを単独、あるいは通常の二軸延伸フイルムと複合して用いることにより、さらにラミネートフイルム全体の易引裂き性を向上させることができる。」
「【0011】以下に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】袋の表基材フィルムとして二軸延伸ポリアミドフイルムを用い、シーラントフィルムの内外層として、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフィルム層を、中間層として引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0; 100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)を用いて2種3層インフレーション成形機により表1に示す構成で、ブロー比2.0 でシーラントフィルムを作製した。得られたフィルムについて性能評価を行った結果を表1に示す。評価テストの結果、ラミネート強度、引裂き易さ及び耐環境ストレスクラックング性に優れたラミネートフィルムの袋の得られることがわかった。」
上記記載から、甲2には、次の発明が記載されていると認める(以下「甲2発明」という。)。
「外層と、中間層と、内層とを有するシーラントフィルム及び表基材フィルムが積層されたラミネートフィルムであって、
外層及び内層が、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフィルム層からなり、
中間層は、引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0; 100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)からなる、
ラミネートフィルムの包装袋に用いられるシーラントフィルム。」
2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「外層と、中間層と、内層とを有するシーラントフィルム」は、本件発明1の「外層と、中間層と、内層と、を有する多層構成のフィルム」に相当する。
同様に、甲2発明の「外層及び内層が、引裂きの方向性がない直鎖状低密度ポリエチレン(宇部興産(株)製1520F)のフィルム層」及び「ラミネートフィルムの包装袋に用いられるシーラントフィルム」は、本件発明1の「前記外層および前記内層が、石油由来の樹脂組成物」及び「包装材用ヒートシール性フィルム」にそれぞれ相当する。
甲3のリニアポリエチレンのカタログ、甲4の高圧法ポリエチレンのカタログ、甲5(【0023】)によれば、甲2発明の「FA101-0」はエチレン-ブテン-1共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレンであり、「F102-0」は低密度ポリエチレンであって、いずれも石油由来の原料から製造されていると認められるから、甲2発明の「中間層は、引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0; 100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)」と、本件発明1の「前記中間層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含み、該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であって」とは、「エチレンと石油由来α-オレフィンとの重合にて得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂」を含むことで両者は共通し、その限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は、以下の点で一致し、相違する。
<一致点1>
「外層と、中間層と、内層と、を有する多層構成のフィルムであって、
前記外層および前記内層が、石油由来の樹脂組成物からなり、
前記中間層は、エチレンと石油由来α-オレフィンとの重合にて得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂を含む、
包装材用ヒートシール性フィルム。」
<相違点1>
エチレンと石油由来α-オレフィンとの重合にて得られた直鎖状低密度のポリエチレン系樹脂を含む中間層について、
本件発明1は、「前記中間層は、植物由来エチレンと石油由来α-オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を含み、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が80~100%未満のエチレン-α-オレフィン共重合体であって、
前記フィルムは、植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5重量%以上25重量%以下含む」のに対し、
甲2発明は、「中間層は、引裂きの方向性がある樹脂組成物(住友化学工業(株)製FA101-0; 100重量部と住友化学工業(株)製F102-0;40重量部との混合物)」であり、「FA101-0」はエチレン-ブテン-1共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレンであり、「F102-0」は低密度ポリエチレンであって、いずれも石油由来の原料から製造されている点。
<相違点2>
包装材用ヒートシール性フィルムに関し、本件発明1は「中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く」のに対して、甲2発明は中間層がエチレン-ブテン-1共重合体からなる直鎖状低密度ポリエチレン(FA101-0)と低密度ポリエチレン(F102-0)との混合物からなる引裂きの方向性がある樹脂組成物の層であるラミネートフィルムの包装袋に用いられるシーラントフィルムである点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討する。
甲2発明は、「易開封性、すなわち指先によって容易に引裂くことのできる優れた開封性を持ったラミネートフィルムの袋を提供する」(【0006】)という課題を解決するために、甲2発明の「中間層」は、「引裂きの方向性がある樹脂組成物」を必須の構成として含むものである。
したがって、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とし、引裂きの方向性がある層を除くことは、当業者が容易になし得たものとはいえない。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲2発明に基づき当業者が容易になし得たものではない。
(2)本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記イで説示したように、本件発明1は、甲2発明に基づき当業者が容易になし得たものではないので、検討するまでもなく、本件発明1と同様に、甲2発明に基づき当業者が容易になし得たものではない。
(3)本件発明12について
本件発明12は、「中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く」という構成を有するものであり、これは、本件発明1の「前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、及び、前記中間層が直鎖状低密度ポリエチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体との配合物からなる引裂きの方向性がある層である包装材用ヒートシール性フィルム、を除く」というものから「引裂きの方向性がある」を削除したものである。そうすると、本件発明12は、本件発明1が除くとした、引裂きの方向性がある、中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルムに加えて、引裂きの方向性がない、中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる層である包装材用ヒートシール性フィルム包装材用ヒートシール性フィルムも除くものである。
すなわち、本件請求項12は、いずれにしても引裂き方向性がある中間層が直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの配合物からなる層を除くものであることには相違なく、してみれば、上記(1)イで示したように、本件発明1は甲2発明に基づき当業者が容易になし得たものではないところ、本件発明12も、甲2発明に基づき当業者が容易になし得たものではない。
第6 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立理由の概要
取消理由通知(決定の予告)に採用しなかった特許異議の申立理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1(新規性)
本件特許出願は、令和2年2月12日に出願された特願2020-021264号(原出願)の一部を、令和2年7月17日に新たな特許出願として出願されたものである。
しかしながら、本件特許出願は、適法に分割出願されたものではないから、本件特許出願について特許法第44条第2項本文の規定は適用されない。そうすると、本件特許出願の出願日は、現実の出願日である令和2年7月17日である。
一方、本件特許出願に係る甲1の公開日は、令和2年5月28日である。
そして本件発明1~11と、上記原出願に係る公開公報である甲1に記載された発明とを対比すると、本件発明1~11とは、全ての点で一致し、相違しない。
よって、本件発明1~11は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号に該当し、特許を受けることができない。
証拠
・甲1 特開2020-79118号公報(申立人が提出したもの)
(2)申立理由2(進歩性)
上記(1)のとおり、本件発明1~11と甲1に記載された発明とは、全ての点で一致し、相違しないが、仮に両者の間に相違点があるとしても、それは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
よって、本件発明1~11は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 当審の判断
(1)申立理由1(新規性)について
本件特許出願が原出願のときにしたものとみなされるためには、本件特許出願が原出願に対し特許出願の分割要件の全てを満たす必要がある。すなわち、本件特許出願は、本件特許出願の明細書等に記載された事項が、原出願の分割直前の明細書等に記載された範囲内であることが要件となるが、本件明細書等における請求項1及び【0005】において、「フィルムは、植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を5重量%以上25重量%以下含む」という記載における「25重量%以下」については、原出願の分割直前の明細書等には、一見、直接的には記載されていない。
しかしながら、原出願の分割直前の明細書に記載されている実施例4には、以下のとおり記載されている。
「【実施例4】
第1層用および第3層用樹脂組成物として、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、 三井化学C6LL-エボリューSP2020(d=0.916、MFR=2.3g/10 分)を200℃で溶融混練し、樹脂組成物を得た。同様に第2層用樹脂組成物として、スクリュー径30mmφ押出機を用いて、サトウキビ由来直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂であるブラスケム社C4LL-LL118(d= 0.916、MFR=1.0g/10分)50重量部と、宇部丸善ポリエチレンLDPE -F120N(d=0.920、MFR=1.2g/10分)50重量部とを200℃で 溶融混練し、樹脂組成物を得た。なお、第1層:第2層:第3層の層比は1:2:1とした。次いで、二種三層の上吹き空冷インフレーション共押出製膜機により、押出し温度200℃、回転数60rpmの加工条件において樹脂組成物を厚み130μmの図5に示すフィルムF4に成形し、このバイオマス度を測定すると、約22%であった。」
すなわち、第2層としてサトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂である「ブラスケム社C4LL-LL118」を50重量部、「宇部丸善ポリエチレンLDPE -F120N」を50重量部で溶融混練した上で、当該記載に引き続き「第1層:第2層:第3層の層比は1:2:1」と記載しているのであるから、当該層比とは重量比であることが直ちに理解できるところ、第2層を合計100重量部とした上でこの比率に合わせると、第1、3層はともに50重量部となる。してみれば、第1~3層の合計200重量部に対し、サトウキビ由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂である「ブラスケム社C4LL-LL118」を50重量部、すなわち25重量%含有させることが読み取れる。
したがって、本願の明細書等に記載された事項は、新規な技術的事項を追加するものではなく、原出願の分割直前の明細書等に記載された範囲内のものであり、本件特許出願は、適法に分割出願されたものである。
よって、本願は、原出願の時にしたものとみなされるべきであるから、原出願に係る公開公報である甲1に記載の発明により、拒絶されるべきものではない。
以上より、出願人の主張は採用できない。
(2)申立理由2(進歩性)について
上記(1)で説示したように、本件特許出願は、適法に分割出願されたものである。
よって、本願は、原出願の時にしたものとみなされるべきであるから、原出願に係る公開公報である甲1に記載の発明により、拒絶されるべきものではない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~12に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議の申立ての理由によって取り消すことはできない。また、他に本件発明1~12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700934