特許異議申立
2024-700189
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2024-700189
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-150276
- 登録番号
- 7336577
- 請求日
- 2024年02月29日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】古橋 伸茂
- 【権利者代理人】石原 俊秀
- 【権利者代理人】末広 尚也
- 【異議申立人】猪狩 充
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 植前 充司
- 審判官 磯貝 香苗
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.536-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7336577号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7336577号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。
特許第7336577号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7336577号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、
令和 3年12月22日を出願日とする特願2021-208562号の一部を新たな特許出願として、
令和 4年 9月21日に出願した特願2022-150276号に係るものであって、
令和 5年 8月23日に特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、
令和 5年 8月31日に特許掲載公報が発行され、
その後、当該特許に対し、
令和 6年 2月29日に特許異議申立人 猪狩 充(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされ、
令和 6年 7月11日付けで取消理由が通知され、
令和 6年 9月 5日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社から訂正請求がされると共に意見書が提出され、
令和 6年11月 8日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、
令和 6年12月13日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和 6年 9月 5日にされた訂正請求における訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、」と記載されているのを、
「アルコール度数が4.6(v/v)%以下であり、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし10も同様に訂正する。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし10について、請求項2ないし9は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし10に対応する訂正後の請求項1ないし10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否(1)訂正事項1に係る請求項1ないし10の訂正について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1の「アルコール度数」を「5.0(v/v)%以下」から「4.6(v/v)%以下」にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、本件特許明細書【0011】の記載からみて、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2ないし10も同様である。
(2)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全請求項に対してされているから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とし、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし10について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アルコール度数が4.6(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
糖質濃度が1.5g/100mL超であり、
イソα酸の含有量が0.1質量ppm超であり、
リナロールを120μg/L以下で含有し、
インベルターゼ活性値が0~55ユニットである、発酵ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記リナロールの含有量(単位:μg/L)と前記濁度(単位:Helm)との比〔リナロールの含有量/濁度〕が、0.00001~5.0である、請求項1に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項3】
総ポリフェノール量が、10mg/L以上である、請求項1または2に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項4】
総ポリフェノール量(単位:mg/L)と前記濁度(単位:Helm)との比〔総ポリフェノール量/濁度〕が、0.001~10.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項5】
遊離アミノ酸の含有量が、1.0~50mg/100mLである、請求項1~4のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項6】
前記発酵ビールテイスト飲料に含まれる酵母数が、6cells/100mL以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項7】
前記発酵ビールテイスト飲料のNIBEM-T値が、50秒以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、下記工程(1)~(2)を有し、工程(2)の後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わない、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、発酵を行う工程。
【請求項9】
さらに下記工程(3)を有する、請求項8に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(3):工程(2)の後に、発酵ビールテイスト飲料の濁度を調整する処理を行う工程。
【請求項10】
さらに下記工程(4)を有する、請求項9に記載の発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(4):工程(3)の後に、加熱処理により、得られる発酵ビールテイスト飲料のインベルターゼ活性値を0~55ユニットに調整する工程。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
令和 6年 2月29日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立理由の概要は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許発明1ないし10についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
(1)本件特許明細書の実施例において、インベルターゼ活性値を調製するための加熱処理の具体的条件は記載されておらず、インベルターゼ活性値すら記載されていない。本件特許明細書の実施例に記載されたビールテイスト飲料のインベルターゼ活性値も不明である。本件特許明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、当業者は、インベルターゼ活性値を0~55ユニットに調製するための具体的な加熱処理の条件を理解できず、その結果、本件特許発明1の全範囲にわたって発明を実施することができない。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし10も同様である。
(2)本件特許発明5における「遊離アミノ酸の含有量」の測定方法について、本件特許明細書には「本明細書において、遊離アミノ酸の含有量は、改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(1M)ニンヒドリン比色法」に記載の方法で測定することができる。」(【0036】)という記載のみが存在する。
しかしながら、甲第22号証によれば、本件特許明細書に記載された「改訂BCOJビール分析法」(2013年)の項目「8.18」が「遊離アミノ酸窒素」ではなく「遊離アミノ態窒素」に関連するものであることは技術常識であり、上記の項目「8.18」に記載された方法が「遊離アミノ酸」の量を直接測定する方法でないことも技術常識である。
したがって、本件特許明細書の記載を考慮しても、当業者は「改訂BCOJビール分析法」(2013年)の項目「8.18」に記載された方法によって、本件特許発明5における「遊離アミノ酸の含有量」をどのように測定すればよいのかを理解できない。このため、当業者は、本件特許発明5の全範囲にわたって発明を実施することができない。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明6ないし10も同様である。
(3)本件特許発明6は、「前記発酵ビールテイスト飲料に含まれる酵母数が、6cells/100mL以上である」ことを特定している。酵母数の測定方法に関して、本件特許明細書には、「なお、本明細書において、「酵母数」は、Analytica EBC, Method 3.1.1.1. Hemocytometryに記載の方法により測定することができる。」(【0021】)との記載がある。
しかしながら、甲第23号証の記載によれば、本件特許明細書に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1. Hemocytometryに記載の方法」(【0021】)は、その原理上、高い酵母細胞濃度(最低で106cell/mL(=108cell/100mL)を必要とする。本件特許発明6における酵母数の下限(6cells/100mL)は、甲第23号証に記載された酵母数の測定に必要な最低限の酵母数(106cell/mL(=108cell/100mL))を大きく下回り、両者の間には108の桁数の違いがある。このため、本件特許明細書に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1. Hemocytometryに記載の方法」(【0021】)を、本件特許発明6における酵母数の測定に直ちに適用できるとはいえない。
したがって、本件特許明細書の記載を考慮しても、当業者は、本件特許発明6が包含する全ての酵母数、特に6cells/100mLといった微量の酵母数を確認できず、他にどのような方法及び条件でそのような微量の酵母数を測定すればよいのかも理解できない。このため、当業者は、本件特許発明6の全範囲にわたって発明を実施することができない。
請求項6の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明7ないし10も同様である。
5 申立理由5(サポート要件)
本件特許発明1ないし10についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
・本件特許発明が解決しようとする課題は、少なくとも「適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規なビールテイスト飲料」を提供することであると考えられる。
本件特許発明1における「インベルターゼ活性」について、本件特許明細書には、「また、濁度の調整後に、加熱処理を施してインベルターゼ活性値を所定範囲となるように調整したビールテイスト飲料としてもよく、また、加熱処理を施さないビールテイスト飲料としてもよい。なお、加熱処理を施した際のインベルターゼ活性値は、0~55ユニット、0~50ユニット、0~45ユニット、0~40ユニット、0~35ユニット、0~30ユニット、0~25ユニット、0~20ユニット、0~15ユニット、又は0~10ユニットとしてもよい。なお、上記の「インベルターゼ活性値」は、ビールテイスト飲料に対する熱負荷の程度を示す指標となる。インベルダーゼは酵母に由来するものであり、酵母を添加した後の工程で加熱処理を行っていない場合、インベルダーゼは失活しない。一方で、加熱処理を行った場合、加熱処理の諸条件に応じて、インベルダーゼは失活し、インベルターゼ活性値も低下する。なお、インベルターゼ活性値は、上記の加熱処理の諸条件(加熱温度、加熱時間、加熱のタイミング等)を適宜設定することで、調整することができる。」(【0080】)との記載がある。
一方、本件特許明細書の実施例において、インベルターゼ活性値を調整するための加熱処理を行ったことは記載されておらず、インベルターゼ活性値すら記載されていない。このため、本件特許明細書の実施例において、本件特許発明1における「インベルターゼ活性値が0~55ユニットである」という構成及びその効果を裏付ける具体例は記載されていない。
インベルターゼがスクロースをグルコース及びフルクトースに分解する酵素であることは技術常識であるから、インベルターゼ活性が高い、すなわち、インベルターゼが十分に失活していない場合、時間の経過と共にインベルターゼによってスクロースがグルコース及びフルクトースに分解する。そうすると、ビールテイスト飲料の糖組成が大きく変わるため、結果的にビールテイスト飲料の風味に影響が及ぶことは明らかである。このため、インベルターゼ活性値が0~55ユニットである場合に、適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規なビールテイスト飲料が得られるとは必ずしもいえず、そのようなビールテイスト飲料を当然に得ることができることを裏付ける根拠も本件特許明細書に記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明に開示された内容を本件特許発明1の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許発明1は発明の詳細な説明に記載されたものではない。請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2ないし10も同様である。
6 申立理由6(明確性)
本件特許の請求項5ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
具体的理由はおおむね次のとおりである。
・本件特許発明5における「遊離アミノ酸の含有量」及びその測定方法について、甲第22号証によれば、本件特許明細書で記載された「改訂BOCJビール分析法」ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(1M)ニンヒドリン比色法」に記載の方法」(【0036】)が「遊離アミノ酸窒素」ではなく「遊離アミノ態窒素」を測定する方法であることは技術常識であり、「遊離アミノ酸窒素」を「遊離アミノ態窒素」と同一に扱うことはできない。
当業者は、「改訂BOCJビール分析法」(2013年)の項目「8.18」に記載された方法によって、本件特許発明5における「遊離アミノ酸の含有量」をどのように測定すればよいのかを理解できないから、「遊離アミノ酸の含有量」の意味内容も理解できず、その結果、本件特許発明5は不明確になる。
したがって、本件特許発明5は明確でない。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明6ないし10も同様である。
7 証拠方法
甲第1号証:Journal of Food Science,2000,65(6),974-977
甲第2号証:J.Inst.Brew.,2016,122,462-467
甲第3号証:特開平9-224636号公報
甲第4号証:ビール醸造アプリケーション、optek-Danulat GmbH、2002年
甲第5号証:欧州特許出願公開第1452583号明細書
甲第6号証:日本醸造協會雑誌、1976年、第71巻第7号、第505~510頁
甲第7号証:英独和ビール用語辞典、財団法人日本醸造協会発行、平成16年2月15日、第164~165頁
甲第8号証:英独和ビール用語辞典、財団法人日本醸造協会発行、平成16年2月15日、第10頁
甲第9号証:特開2021-73906号公報
甲第10号証:日本醸造協會雑誌、2015年、第110巻第7号、第479~488頁
甲第11号証:特開2020-96560号公報
甲第12号証:Brewers Digest,1979,54,11,45-46
甲第13号証:Carlsberg Res.Commun.,1981,46,37-42
甲第14号証:特開2017-118824号公報
甲第15号証:特許第6703171号公報
甲第16号証:英独和ビール用語辞典、財団法人日本醸造協会発行、平成16年2月15日、第96頁
甲第17号証:醸造物の成分、財団法人日本醸造協会発行、平成11年12月10日、第226~235頁
甲第18号証:J.Am.Soc.Brew.Chem.,2013,71,4,179-185
甲第19号証:英独和ビール用語辞典、財団法人日本醸造協会発行、平成16年2月15日、第89~90頁
甲第20号証:ビアスタイル・ガイドライン、日本地ビール協会、採録日:2012年12月25日、https://web.archive.org/web/20121225003923/https://www.beertaster.org/beerstyle/BSGL_j1208.pdf
甲第21号証:J.Inst.Brew.,2013,119,172-182
甲第22号証:改訂 BCOJビール分析法 ビール酒造組合 国際技術委員会〔分析委員会〕編 2013年増補改訂、財団法人日本醸造協会、2013年、8.18 遊離アミノ態窒素(IM)
甲第23号証:ANALYTICA-MICROBIOLOGICA-EBC
甲第24号証:特開2023-97135号公報
甲第25号証:ビール醸造技術、株式会社 食品産業新聞社、1999年12月28日、p.497-498
甲第26号証:世界ビール大百科、株式会社 大修館書店、1997年12月10日、p.384-389
甲第27号証:特開2017-118824号公報
甲第28号証:J.Agric.Food Chem,1978,Vol.26,No.6,p.1422-1426
甲第29号証:J.Inst.Brew.,May-June,1989,Vol.95,pp.185-194
甲第30号証:分析化学辞典、共立出版株式会社、昭和46年12月10日、p.1483
甲第1号証ないし甲第24号証は特許異議申立書に添付されたものであり、甲第25号証ないし甲第30号証は、令和 6年12月13日提出の意見書に添付されたものである。
証拠の表記は特許異議申立書、及び、令和 6年12月13日提出の意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」等という。
第5 取消理由の概要
令和 6年 7月11日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要はおおむね次のとおりである。
取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし10は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項6ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
その具体的理由は次のとおりである。
本件特許発明6は「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項を有するものである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0021】には、「なお、本明細書において、「酵母数」は、AnalyticaEBC,Method3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法により測定することができる。」と記載されている。
しかしながら、甲23(AnalyticaEBC,Method3.1.1.1.Hemocytometry Principle133/274頁)を参酌すると、顕微鏡下での計数により、「高い酵母細胞濃度が必要である(最低で106cells/mL)。」と記載されており、本件特許発明6における酵母数の下限値(6cells/100mL)は、甲23に記載された酵母数の測定に必要とされる最低限の酵母数の桁数を大きく下回ることから、本件特許発明6の「6cells/100mL」程度の微量の「酵母数」の測定に、「AnalyticaEBC,Method3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法」を直ちに適用できるとは考えられない。
また、発明の詳細な説明の実施例1ないし13及び比較例2ないし11として記載されているものは、「酵母数」がいずれも106cells/100mL以上のものであり、比較例1として記載されているものは、「酵母数」が0のものである。
発明の詳細な説明には、「酵母数」が「6cells/100mL」程度の微量のものは記載されていないし、「酵母数」が「6cells/100mL」程度のものを得るためにどうすればいいか、また、「酵母数」が「6cells/100mL」程度であることをどのようにして確認するのかも記載されておらず、このような微量な酵母数の測定が、当該技術分野において、当業者において自明の事項でもない。
したがって、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、当業者は、「AnalyticaEBC,Method3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法」によって、請求項6に記載された数値範囲のあらゆる酵母数、特に6cells/100mLといった微量の酵母数を確認できず、他にどのような方法及び条件で酵母数を測定すればよいのかも理解できない。このため、当業者は、請求項6に記載された酵母数の全範囲にわたって、本件特許発明6を実施することができない。請求項6を直接又は間接的に引用する本件特許発明7ないし10についても同様である。
よって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6及び7を生産し、使用することができる程度の記載があるとはいえないし、本件特許発明8ないし10の使用をし、本件特許発明8ないし10により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるともいえない。
第6 取消理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、取消理由1ないし3はいずれも理由がないと判断する。
1 取消理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「ビール安定化のための高静水圧処理」に関し、次の事項が記載されている。なお、甲1は外国語文献であるため、訳文を摘記する。
「要約:小規模醸造書で製造された混濁ビールを、高静水圧(HHP-600MPa、5分間)又は加熱殺菌(60℃、10分間)で処理した。HHP処理したビールは、未処理のサンプルと同様に永久混濁を保持した。加熱殺菌したビールは、HHPサンプルよりもa*(赤)色パラメータの上昇が速く、b*(黄)色パラメータの低下が遅かった。HHPビールの微生物学的安定性は熱処理ビールと同等で、酵母と乳酸菌の発育は49日間の保存で抑制された。」(第974頁 要約)
「材料及び方法
ビール
ペールエール2種とマイルドエール1種は、クリベラー社(NaiagaraFalls、オンタリオ州、カナダ)が設置した小規模醸造所(「Lacentraledellabirra」、クレモナ、イタリア)から購入した。発酵は22℃で5日間行われ、その後ビールは密閉タンクで2~4℃で15日間貯蔵され、二次発酵が行われた。濾過も清澄化も行われなかったため、ビールは非常に濁り、特に懸濁物質が多かった。スクリューキャップ付きの500mlポリエチレンテレフタレート滅菌瓶を使用し、ヘッドスペースを最小にして充填した。包装後、サンプルは2℃で保存し、24時間以内に処理(加熱殺菌又はHHP)した。」(第974頁 左欄下から7行~右欄第7行)
「安定化処理
安定化処理は、1L圧力容器を備えたAseaBrownBoveri(ABB)静水圧パイロットプレスモデルQFP6を使用して行われた。各サンプルは600MPaで5分間処理された。加熱殺菌は、ボトルを60℃のウォーターバスに10分間浸漬し、その後サンプルを室温の水で冷却することによって行われた。瓶内の温度上昇は、以前に一連のビールサンプルでモニターした。熱処理は、60℃で10分間の曝露を保証するように行われた。熱伝導を改善するために、加熱中ボトルを撹拌し続けた。
最初のテストはベールエール9本を使用して行われた。3つのサンプルはHHP処理され、3つは加熱殺菌され、3つの未処理ボトルは対照として使用された。すべてのサンプルは20℃で3日間保管され、その後分析された。
2回目の試験では、ペールエールとマイルドエールが使用された。各ビールについて、5つのサンプルがHHP処理され、5つのサンプルが加熱殺菌された。その後、すべてのサンプルを20℃の暗所に保管した。1、8、14、26及び49日間の保管時に、各処理からの1本のボトルを分析した。
保管していた瓶の底には厳密な沈殿物が見られたため、内容物を乱さないように慎重にキャップを外した。ビールはデカントされ、均質化され、分析された。」(第974頁 右欄第8~31行)
「総フェノール類はフォリン-チオカルト試薬(SingletonandRossi1965)を用いて測定し、カテキン類はZironiら(1992)の提案に従って評価した。測定は島津UV-1204分光光度計を用いて行った。」(第974頁右欄下から2行~第975頁左欄第2行)
「結果と考察
HHP処理も加熱処理も、ビールの主な化学成分には影響を与えなかった(表1)。カテキン類及びその他の苦味成分は、未処理サンプルと比較して、熱や圧力の影響を受けなかった。逆に、加熱処理はCIE色パラメータを増加させたが、HHPサンプルは未処理ビールの色と有意な差はなかった。加熱殺菌は、未処理及びHHPサンプルと比較して、パーマネントヘイズ(永久混濁)を有意に減少させた。HHPと加熱処理の両方で、総好気性菌数、酵母数、糸状菌数が約4ログサイクル減少した。いずれの安定化ビールサンプルからも乳酸菌は検出されなかった。
ビールサンプルの保存の影響を表2に報告する。HHPと加熱殺菌は、49日間の保存までのビールのpH、苦味、フェノール含量に同様の影響を与えた。これらの条件下では、保存時間はこれらのパラメータに有意な影響を与えず(苦味を除く)、これらの分析パラメータについて因子間の相互作用は認められなかった。
HMFはすべての熱処理のマーカーとみなすことができ(O’BrienandMorrissey1989)、加熱処理によって有意に増加し、「処理」と「保存時間」、「ビールの種類」との間に幾つかの相互作用が観察された。
HHPビールは、貯蔵期間中、有意に高いパーマネントヘイズ(永久混濁)を維持した(表2)。加熱殺菌ビールは、貯蔵の最初の数日間にNTU値が急激に低下し、同時にHAC値が上昇した。
我々の結果はFisherら(1989)の結果と部分的に一致しているが、実験方法の違いを考慮しなければならない。
「ビールの種類」と「処理」の間に有意な相互作用があることから、パーマネントヘイズ(永久混濁)はマイルドエールよりもペールエールにおいて安定化処理の影響をより強く受けることが示された。これらの結果は、最初の試験結果を裏付けるものであり、コロイド凝集体の漸進的沈殿に関係している可能性がある。粒子径の変化は非線形光散乱反応をもたらすことが知られており、この現象を部分的に説明する可能性がある(Siebertandothers1996)。
HHPサンプルの挙動は、すべてのビールにかなりの量のヘイズ活性タンパク質が含まれていることを考慮して評価されなければならない。このタンパク質が変性すると、疎水性の結合部位がさらに露出し、タンパク質とフェノール類が強く結合してヘイズが発生する(Siebertandothers1996)。温度処理は分子の激しい動きによってタンパク質の部分的な変性を引き起こすが、HHPは体積の減少に反応した結果、三次及び四次構造の再配列及び/又は破壊によってタンパク質の部分的な変性を引き起こす(Heremans1992;Cheftel1992)。タンパク質の変性の程度と様式が異なることは、コロイド物質間の相互作用に影響し、ビールのヘイズに影響された影響の基礎となる可能性がある。
安定化処理の違いは明度(L*)には影響しなかったが、他の色指数はすべて加熱処理したサンプルの方が高かった。貯蔵中、HHP処理ペールエールの色指数a*(赤緑)は、対応する加熱処理サンプルよりも緩やかに増加し、b*(黄青)の値はより劇的な方法で減少した。これらの傾向が複合的に作用した結果、c*(色飽和度)は保存中にすべてのサンプルで低下し、HHPビールでは常に低くなった。「ビールの種類」と「処理」との間の有意な相互作用は、ペールエールのより劇的な色の変化を反映していた。
微生物学的分析の結果、HHP処理と加熱処理のいずれにおいても、好気性CFUとして表される微生物の不活性化は同等(q>0.05)であることが確認された(表3)。
加熱殺菌及びHHP処理したサンプルともに、20℃の全保存期間(49日間)中、微生物数の有意な増加は認められず、乳酸菌の発育も見られなかった。おそらく酸性培地、CO2およびエタノール含量(Haasandothers1988;Sangronisandothers1997)が、製品中のコロイド及び微生物細胞濃度が高いにもかかわらず、HHPの有効性を高めたのであろう。」(第975頁左欄下から21行~第976頁左欄第3行)
「表1-対照と比較した600MPa*5分間のHHP処理、又は60℃*10分間の加熱殺菌を施したペールエールの物理的、化学的、微生物学的特性」
「
[図:0001423472000001.jpg]
」
「Ethanol」(エタノール)
「Extract」(エキス)
「Iso α-acids」(イソα酸)
「Catechins」(カテキン)
「Permanent Haze」(永久混濁)
「Yeast and molds」(酵母及び糸状菌)
「Heat pasteurization」(加熱殺菌) (第975頁 表1)
「表2.異なる処理[600MPaでのHHP*5分、又は60℃での加熱殺菌*10分]および49日間保存後のペールエールおよびマイルドエールの組成。各値は2反復の平均値」
「
[図:0001423472000002.jpg]
」
「PALE ALE」(ペールエール)
「Heat pasteurization」(加熱殺菌)
「days of storage」(保存日数)
「Total phenols(mg/L)」(総フェノール類(mg/L))
「Permanent Haze(NTU)」(永久混濁(NTU)) (第976頁 表2)
イ 甲1に記載された発明
上記アより、甲1の表1の加熱殺菌サンプルを中心に整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」、「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「エタノールの含有量が4.93%(v/v)であり、永久混濁が253NTUであり、エキスの含有量が4.72%(w/w)であり、イソα酸の含有量が7.4mg/Lであり、カテキンが69.6mg/Lであり、pHが3.92であり、発酵工程後に濾過を行わず、60℃で10分間の加熱殺菌処理を行うことによって得られたペールエール。」
<甲1製法発明>
「甲1発明を製造する方法であって、発酵工程後に濾過を行わず、60℃で10分間の加熱殺菌処理を行う、甲1発明の製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲4を参酌すると、濁度に関して、4NTU=1EBC=40Helmsの関係が成立するから、甲1発明における「永久濁度が253NTU」は2530Helmである。よって、甲1発明における「永久濁度が253NTU」は本件特許発明1における「濁度が22Helm以上」に相当する。
甲1発明における「イソα酸の含有量が7.4mg/L」は、7.4ppmであるから、本件特許発明1における「イソα酸の含有量が0.1質量pm超」に相当する。
甲1発明における「ペールエール」は本件特許発明1における「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「濁度が22Helm以上であり、イソα酸の含有量が0.1質量ppm超である、発酵ビールテイスト飲料。」
<相違点1-1>
本件特許発明1は「アルコール度数が4.6(v/v)%以下」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-2>
本件特許発明1は「糖質濃度が1.5g/100mL超」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-3>
本件特許発明1は「リナロールを120μg/L以下で含有」するとの特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
<相違点1-4>
本件特許発明1は「インベルターゼ活性が0~55ユニット」との特定を有するのに対し、甲1発明はそのような特定がない点。
相違点1-1について検討する。
甲1発明のアルコール度数は4.93(v/v)%であるから、相違点1-1は実質的な相違点である。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明ではない。
また、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1発明において、アルコール度数を4.6(v/v)%以下にする動機となる記載ははない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
特許異議申立人は令和6年12月13日提出の意見書(第1頁下から6行~第3頁第2行)において、
・「甲1発明はペールエールに関する発明であるところ、ペールエールのようなビールのアルコール度数を4.6(v/v)%以下に設定することは従来から行われて」おり、「ビールのアルコール度数を4.6(v/v)%以下に設定することは何ら目新しいものではなく、当業者にとって一般的な選択に過ぎ」ず、「甲1に接した当業者であれば、出願時の技術常識(甲第25号証、甲第26号証)を考慮して、4.6(v/v)%以下の様々なアルコール度数のペールエールについての検討を試みることができ、その動機も十分にある。」
・「訂正発明1において、ビールテイスト飲料のアルコール度数を4.6(v/v)%以下に設定することに技術的意義はない。4.6(v/v)%以下というアルコール度数は、本件特許明細書(【0011]】に例示された多数のアルコール度数の1つに過ぎず、また、表1(例えば、実施例4、8、11、13)の記載によれば、4.6(v/v)%以下の前後で効果に有意な差がないことは明らかである。
と主張している。
しかしながら、甲1発明は、甲1の表1に記載の加熱処理サンプルによるものであるところ、甲1及び他の全ての証拠を見ても、甲1発明においてアルコール度数を調整してこれを4.6(v/v)%以下とする動機となる記載はない。そして、本件特許発明1(訂正発明1)は、アルコール度数及び濁度、糖質濃度、イソα酸の含有量、リナロールの含有量、インベルダーゼ活性値を所定数値範囲とすることにより、ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえ、不適な酵母臭、不適なコスメティックな香り、適切なシマリ感、及び、これらを総合した評価において優れた効果を奏するものである。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
イ 本件特許発明2ないし7ついて
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の特定事項を全て有するから、同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし7は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1製法発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
甲1製法発明は「発酵工程」を有する「ペールエール」の製造方法であるから、発酵ビールの製造工程である、本件特許発明8の「・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。」「・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、発酵を行う工程。」を有している。
また、甲1製法発明における「発酵工程後に濾過を行わず」に製造される構成は、本件特許発明8における「工程(2)の後に、孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わない」構成に相当する。
そうすると、本件特許発明8と甲1製法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「濁度が22Helm以上であり、イソα酸の含有量が0.1質量ppm超である、発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、下記工程(1)~(2)を有し、工程(2)の後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わない、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、発酵を行う工程。」
<相違点1-5>
本件特許発明8は「アルコール度数が4.6(v/v)%以下」との特定を有するのに対し、甲1製造発明はそのような特定がない点。
<相違点1-6>
本件特許発明8は「糖質濃度が1.5g/100mL超」との特定を有するのに対し、甲1製法発明はそのような特定がない点。
<相違点1-7>
本件特許発明8は「リナロールを120μg/L以下で含有」するとの特定を有するのに対し、甲製法発明はそのような特定がない点。
<相違点1-8>
本件特許発明8は「インベルターゼ活性が0~55ユニット」との特定を有するのに対し、甲1製法発明はそのような特定がない点。
相違点1-5について検討する。
相違点1-5は、上記アの相違点1-1と同旨であり、同様に判断される。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲1製法発明ではない。
また、甲1及び他の全ての証拠をみても、甲1製法発明において、アルコール度数を4.6(v/v)%以下にする動機となる記載ははない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
エ 本件特許発明9及び10について
本件特許発明9及び10は、請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の特定事項を全て有するから、同様に判断される。
よって、本件特許発明9及び10は、甲1製法発明でなく、甲1製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、取消理由1によって取り消すことはできない。
2 取消理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「混濁した小麦ビールの物理化学的特性及び官能特性に対する高静水圧処理の影響に関する予備研究」に関し、次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献であるため、訳文を摘記する。
「ビール
小麦ビールサンプルは青島ビール有限公司(TsingtaoBreweryCo.Ltd.(中国、青島)から入手した。小麦ビールは大麦麦芽と小麦麦芽を3:2の割合で使用して醸造された。濾過を行わなかったため、ビールは非常に濁っており、特に懸濁物質が多かった。スクリューキャップ付きの容量200mLのポリエチレンテレフタレート(PET)滅菌ボトルを用い、ヘッドスペースを最小にして充填した。サンプリング後、サンプルは4℃で暗所に保管し、24時間以内にHHP又は加熱殺菌処理を行った。」(第463頁左欄第32~43行)
「加熱殺菌
加熱殺菌は、ビールサンプル(600ml)を標準サイズのロングネックボトル(高さ28.3cm、幅7.3cm)に入れ、60℃のシェーカーウォーターバスに15分間浸漬し、15PUの殺菌を行った。このボトル内の温度と時間の関係は事前にモニターされていた。加熱処理は、60℃で15分間の曝露を確保するように設定した。熱伝導を改善するため、加熱中はボトルを連続的に撹拌した。」(第463頁右欄第15~23行)
「保管条件
加熱殺菌及びHHP処理したサンプルと未処理の対照を、20℃の暗所で保管し、0、7、14、28、42、56、70及び84日間の保管後に分析した。毎回新しいボトルを開けた。実験は別々の日に2回繰り返され、6回の反復(独立して調整されたサンプル3ボトル×2回の反復)の平均が結果の分析に使用された。」(第464頁左欄19~26行)
「表1.処理及び未処理の小麦ビールサンプルの20℃保存中の各時点で評価した微生物数」
「
[図:0001423472000003.jpg]
」
「Untreated」(未処理)
「Yeasts」(酵母) (第464頁)
「表2 処理及び未処理の小麦ビールサンプルの主な化学的及び物理的属性」
「
[図:0001423472000004.jpg]
」
「Alcohol」(アルコール)
「Original extract」(原麦汁エキス)
「Bitterness」(苦味価)
「Colloidal haze」(コロイドヘイズ)
「Foam stability」(泡安定性)(第465頁)
イ 甲2に記載された発明
上記アより、甲2の表2 60℃/15minのサンプルを中心に整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」、「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「エタノールの含有量が4.87%(v/v)であり、原麦汁エキス分が11.03°プラトーであり、コロイドヘイズが47.9EBCであり、苦味価が11.4BUであり、泡安定性が213秒/3cmであり、pHが4.56であり、発酵工程後に濾過を行わず、60℃で15分間の加熱殺菌処理を行うことで得られた小麦ビール。」
<甲2製法発明>
「甲2発明を製造する方法であって、発酵工程後に濾過を行わず、60℃で15分間の加熱殺菌処理を行う、甲2発明の製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲4を参酌すると、コロイドヘイズについて、1EBC=40Helmsの関係が成り立つから、甲2発明における「コロイドヘイズが47.9EBC」は1916Helmsである。よって、甲2発明における「コロイドヘイズが47.9EBC」は本件特許発明1における「濁度が22Helm以上」に相当する。
甲2発明における「小麦ビール」は発酵工程を経て製造されたビールであるから、本件特許発明1における「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「濁度が22Helms以上である発酵ビールテイスト飲料。」
<相違点2-1>
本件特許発明1は「アルコール度数が4.6(v/v)%以下」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は「糖質濃度が1.5g/100mL超」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2-3>
本件特許発明1は「イソα酸の含有量が0.1質量ppm超」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2-4>
本件特許発明1は「リナロールを120μg/L以下で含有」するとの特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2-5>
本件特許発明1は「インベルターゼ活性が0~55ユニット」との特定を有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
相違点2-1について検討する。
甲2発明のアルコール度数は4.87(v/v)%であるから、相違点2-1は実質的な相違点である。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明ではない。
また、甲2及び他の全ての証拠をみても、甲2発明において、アルコール度数を4.6(v/v)%以下にする動機となる記載ははない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
特許異議申立人は令和 6年12月13日提出の意見書(第8頁第8行~第9頁下から7行)において、「甲2発明は小麦ビール(wheat beer:ウィートビール)に関する発明であるところ、小麦ビールのようなビールのアルコール度数を4.6(v/v)%以下に設定することは従来から行われて」おり、「アルコール度数を4.6(v/v)%以下に設定することは何ら目新しいことではなく、当業者にとって一般的な選択に過ぎない」し、「甲2に接した当業者であれば、出願時の技術常識(甲20)を考慮して、4.6(v/v)%以下の様々なアルコール度数の小麦ビールについての検討を試みることができ、その動機も十分にある。」と主張している。
しかしながら、甲2発明は「混濁した小麦ビールの物理化学的特性及び官能特性に対する高静水圧処理の影響に関する予備研究」において提示された1サンプルであるところ、甲2及び他の全ての証拠を見ても、甲2発明においてアルコール度数を調整し、これを4.6(v/v)%以下とする動機となる記載はない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
イ 本件特許発明2ないし7ついて
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の特定事項を全て有するから、同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし7は、甲2発明ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
ウ 本件特許発明8について
本件特許発明8と甲2製法発明とを対比すると、上記アと同様の対応関係を有する。
甲2製法発明は「発酵工程」を有する「小麦ビール」」の製造方法であるから、発酵ビールの製造工程である、本件特許発明8の「・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。」「・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、発酵を行う工程。」を有している。
また、甲2製法発明における「発酵工程後に濾過を行わず」に製造される構成は、本件特許発明8における「工程(2)の後に、孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わない」構成に相当する。
そうすると、本件特許発明8と甲2製法発明との一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「濁度が22Helm以上である発酵ビールテイスト飲料を製造する方法であって、下記工程(1)~(2)を有し、工程(2)の後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わない、発酵ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、発酵を行う工程。」
<相違点2-6>
本件特許発明8は「アルコール度数が4.6(v/v)%以下」との特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-7>
本件特許発明8は「糖質濃度が1.5g/100mL超」との特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-8>
本件特許発明8は「イソα酸の含有量が0.1質量ppm超」との特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-9>
本件特許発明8は「リナロールを120μg/L以下で含有」するとの特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
<相違点2-10>
本件特許発明8は「インベルターゼ活性が0~55ユニット」との特定を有するのに対し、甲2製法発明はそのような特定がない点。
相違点2-6について検討する。
相違点2-6は、上記アの相違点2-1と同旨であり、同様に判断される。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲2製法発明ではない。
また、甲2及び他の全ての証拠をみても、甲2製法発明において、アルコール度数を4.6(v/v)%以下にする動機となる記載ははない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明8は甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
エ 本件特許発明9及び10について
本件特許発明9及び10は、請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の特定事項を全て有するから、同様に判断される。
よって、本件特許発明9及び10は、甲2製法発明でなく、甲2製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)取消理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、取消理由2によって取り消すことはできない。
3 取消理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明1ないし7は、物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用をすることができる程度の記載があることを要する。
また、上記第3のとおり、本件特許発明9ないし10は、物を生産する発明であるところ、物を生産する方法の発明にについて実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、判断する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の記載には、本件特許発明1ないし10の各発明特定事項について具体的に記載され、実施例についてもその製造方法を含め具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし7を生産し、使用をすることができる程度の記載があるといえ、また、本件特許発明8ないし10の使用をし、それにより生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえ、本件特許発明1ないし10に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 上記第4 4(3)の特許異議申立人の主張について検討する。
本件特許発明6は、「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項を有するものであるが、本件特許発明6は請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項の前提として、請求項1に記載された発明特定事項を有するものである。
そうすると、本件特許発明6は、「アルコール度数が4.6(v/v)%以下であり、」「濁度が22Helm以上であり、」糖質濃度が1.5g/100ml超であり、」「イソα酸の含有量が0.1質量ppm超であり、」「リナロールを1202μg以下で含有し、」「インベルダーゼ活性値が0~55ユニットである」という発明特定事項を有するものであるといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0015】には、濁度について、「そこで、本発明の一態様のビールテイスト飲料は、程良い酔いを感じやすく、且つ、ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを付与した飲料とする観点から、さらに、ビールテイスト飲料の濁度を22Helm以上に調整している。」ことが記載されており、同【0015】にはさらに、「濁度の高いビールテイスト飲料は、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等も豊富に含まれているため、飲んだ際の風味のふくらみや華やかでフルーティーな香りが広がり、ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを十分に感じ得る飲料となっていると考えられる。」と記載されている。
さらに、同【0017】に、「「本発明の一態様のビールテイスト飲料において、前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕は、程良い酔いを感じやすくすると共に、飲みごたえをより向上させたビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは15以上、より好ましくは20以上、より好ましくは25以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは50以上、更に好ましくは100以上、更に好ましくは150以上、より更に好ましくは200以上、より更に好ましくは250以上、特に好ましくは300以上であり、さらに、350以上、400以上、410以上、又は420以上としてもよく、また、不適な異臭をより効果的に抑制したビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは1500以下、より好ましくは1450以下、より好ましくは1400以下、より好ましくは1350以下、更に好ましくは1300以下、更に好ましくは1200以下、更に好ましくは1100以下、より更に好ましくは1000以下、より更に好ましくは900以下、特に好ましくは800以下であり、さらに、750以下、700以下、650以下、600以下、又は550以下としてもよい。」こと、同【0018】の「本発明の一態様のビールテイスト飲料の濁度は、例えば、酵母を用いた発酵の工程後に30μm未満のフィルターを通す濾過を行わないことで調整可能である。当該フィルターを通す濾過を行わないことで、酵母が含まれた飲料となる。飲料中に酵母が含まれていると濁度は上昇する傾向にある。」と記載されている。
これらの記載事項から、「濁度が22Helm以上」との発明特定事項を有することで、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等が豊富に含まれた発酵ビールテイスト飲料であることが理解される。
すなわち、本件特許発明6は、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等が豊富に含まれるものであり、よって、その「酵母数」は、発明の詳細な説明の【0021】に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法により測定することができる」程度になっていることは当業者に明らかである。
以上を踏まえて、本件特許発明6について、実施可能要件を充足するかどうかを検討するに、発明の詳細な説明には、本件特許発明6の各発明特定事項について、その技術的意義を含め具体的に記載されており、本件特許発明6の各発明特定事項を満たす実施例についても具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
イ 特許異議申立人が令和 6年12月13日に提出した意見書における主張について検討する。
特許異議申立人は、令和 6年12月13日提出の意見書において、次のように主張している。
・「依然として当業者は、6cells/100mL以上のような極微量の酵母を計測する具体的な方法を理解できない。甲23に記載された酵母数の測定に必要とされる最低限の酵母数を下回る酵母数を測定する方法が、本件特許明細書(特に【0021】)に記載されておらず、当業者にとっても自明でない以上、発明を実施するために当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要がある。」(第10頁第19~24行)
・「「本件特許発明6」は、「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項を有するものであり、文言上、「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometry」に記載された酵母数の測定に必要とされる最低限の酵母数(106cells/mL)を大きく下回る酵母数(例えば6cells/100mL)を包含している。酵母数が6cells/100mL以上であったとしても、それが「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometry」に記載された酵母数の測定に必要とされる最低限の酵母数に満たない場合には、」「「酵母等が豊富に含まれるものであり、その「酵母数」は、発明の詳細な説明の【0021】に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法により測定することができる」程度になっている」とは到底いえず、そのような最低限の酵母数に満たない酵母数を正確に測定できることは」「具体的に説明されていない。したがって、依然として当業者は、6cells/100mLのよう極微量の酵母を計測する具体的な方法を理解できない。」(第12頁第5~18行)
上記アにおいて検討したとおり、本件特許発明6は、「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項を有し、かつ、「アルコール度数が4.6(v/v)%以下であり、」「濁度が22Helm以上であり、」糖質濃度が1.5g/100ml超であり、」「イソα酸の含有量が0.1質量ppm超であり、」「リナロールを1202μg以下で含有し、」「インベルダーゼ活性値が0~55ユニットである」との発明特定事項を有しており、そうすると、本件特許発明6は、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等が豊富に含まれ、よって、その「酵母数」は、発明の詳細な説明の【0021】に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法により測定することができる」程度になっていることは当業者に明らかである。
発明の詳細な説明の【0021】に記載された「「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometry」(甲23)によれば、本件特許発明6の発明特定事項「6cells/100mL以上」の下限値は、一般的に知られる酵母数の測定下限は106cells/mLであるから、これと大きく異なる数値であるが、上記アにおいて検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載には、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等が豊富に含まれ、その「酵母数」が、発明の詳細な説明の【0021】に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法により測定することができる」程度となっている本件特許発明6の発酵ビールテイスト飲料を、当業者は、過度の試行錯誤を要することなく、生産し、使用をすることができる程度に記載されているといえるから、酵母数の「6cells/100mL以上」~106cells/mLまでの間の正確な数値を測定する方法が本件特許の発明の詳細な説明に記載されているかどうか、ないしは、当業者において自明であったかどうかに因らず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を充足するものである。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(4)取消理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、取消理由3によって取り消すことはできない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した特許異議申立理由は、
・申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)
・申立理由4(実施可能要件)の(1)及び(2)
・申立理由5(サポート要件)
・申立理由6(明確性)である。
以下、順に検討する。
1 申立理由3(甲3に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲3の記載事項等
ア 甲3の記載事項
甲3には、「酵母混濁ビールの製造方法」に関し、次の事項が記載されている。
「【請求項1】ホップを添加した麦芽汁に酵母を添加して醗酵させたのち、かくして製造されたビールを適当な容器に充填することを包含する酵母混濁ビール、とくに白ビールの製造方法であって、充填前のビールに新たに酵母ならびに麦芽汁を添加すること、および容器内に存在するビール中の酵母を充填後24時間以内に、とくに低温殺菌により、死滅させることを特徴とするビールの製造方法。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ホップを加えた麦芽汁を酵母の添加により醗酵させ、次いで、かくして製出されたビールを適当な容器に詰めることにより、酵母混濁ビール、特に白ビールを製造する方法に関する。」
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の課題は、容器内でのきわめて徹底した酸素の除去が可能となるとともに、容器内の微生物類を熱により死滅させることができる、酵母混濁ビールの製造法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記の課題は、充填前のビールに新たに酵母および麦芽汁を添加し、容器内に存在するビール中の酵母を充填後24時間以内に、とりわけ低温殺菌法によって死滅させる(すなわち、酵母細胞の生育を停止させ、完全に死滅させる)ことにより、解決される。
【0011】
【発明の実施の形態】驚くべきことに、容器内に存在する酸素は、所定量の酵母および麦芽汁の添加の後に除去されうるので、充填と加熱による酵母の死滅化との間の時間は、比較的短くて十分であることが明らかとなった。それにより、酸素とビールとの相互作用に基づく風味低下のおそれを除くことができる。
【0012】その上、添加した酵母は、低温殺菌後に製品中に安定に存在し、それゆえビールの風味品質に悪影響を及ぼすことがない。さらに、酵母の生育プロセスは、醗酵が盛んになって副生物の生成が増す前に、適時に打ち切ることができる。もし、これらの副生物が存在するならば、消費された酵母と相まって、瓶内醗酵に際して一定時間経過後に生じる様な風味悪化をもたらすことになるであろう。
【0013】さらに、遠い外国へ輸出する場合にも、この食品の無菌性に関する要求を満たすことができる。この場合に生じる風味悪化の恐れ、さらにはビールにとって有害な菌類による汚染に基づいた容器破損の恐れは、低温殺菌により回避できる。
【0014】この方法は、ドイツにおけるビールに対する純粋さへの法的要求をも顧慮している。」
「【0032】図1に示す様に、ホップ添加麦芽汁に酵母-基質混合物乃至酵母-麦芽汁混合物を添加したのち、主醗酵が行われる。糖化された麦芽のでんぷんは、ここで醗酵を受け、その際に、アルコ-ル、二酸化炭素および副生物が生成する。このとき、下面醗酵ビールの場合には、通常約4℃~10℃の温度範囲が、上面醗酵ビールの場合には、約10℃~30℃近傍の温度範囲が保たれる。実務的には、これらの範囲から部分的に外れることもある。
【0033】つぎに、消耗した酵母を遠心分離、濾過などにより除去し、ついで、新鮮な、醗酵力のある酵母と交換する。これにより、約20℃~25℃のいわゆる温暖相において、ジアセチル分解を行うことができる。ジアセチルは、風味上の理由から望ましくない醗酵副産物である。
【0034】これに続くいわゆる寒冷相において、通常-2℃~8℃の温度で、ビールの安定化乃至熟成が行われる。これに続く遠心分離(或いは濾過)機および混合タンク乃至混合装置により、ビールの所定の酵母細胞数および濁度に調整する。
【0035】続いて、短時間の加熱を行う。これは、場合によっては存在することがあるビールに有害な微生物および酵母を死滅させて、微生物学的な保存性を安定化するのに役立つ。この短時間加熱工程は、続いて低温殺菌を実施する場合には、行わなくてもよい。
【0036】他方では、対数期にある酵母-基質混合物を添加しつつ、明瞭に定義される「後醗酵」を達成するために、該混合物を利用する。この混合物の正確な配量により、目的とするビールの酸素含量の減少が達成され、それにより、風味の安定した保持性が一層高まる。
【0037】後発酵のために添加した酵母-麦芽汁混合物が、容器内、たとえば缶内で所望通りに十分な効果を発揮する様に、該添加は充填のすぐ前にはじめて行う。
【0038】ビールは、充填工程において、容器に、この例では缶に充填される。続いて、容器は、連続低温殺菌装置へとさらに運搬され、そこで、微生物の加熱滅菌が行われる。この低温殺菌は、主として缶入りビールおよび輸出用ビールの場合に行われる。
【0039】充填に先立って添加された酵母-基質混合物は、添加配量装置と低温殺菌装置との間での短い時間内に、容器中になお存在する酸素と反応する。酵母は、対数期にあるので、それは多量の酸素を吸収し、これを酵母細胞の増殖のために利用する。
【0040】この範囲内での温度の推移を図3にダイヤグラムとして示す。約3℃の充填温度から出発して、温度は、約20分の時間内に、室温のためにわずかだけ約6℃にまで上昇する。容器は、つぎに低温殺菌装置に達し、上方からの温水の流下により、段階的に加温される。このとき、温度は、まず約18℃まで上昇する。この温度領域において、酵母細胞は最適な作用を発揮することができ、ますます酸素を消費することができる。
【0041】低温殺菌装置中でさらに温度上昇が約35℃まで進行するうちに、酵母細胞の増殖が一層進行し、容器内の酸素量がますます減少する。このときに、28℃という最適増殖温度を通過する。
【0042】約40℃の温度水準から出発して、低温殺菌装置内でさらに約48℃まで加温される間に、酵母細胞は、増殖を停止し、低温殺菌装置内での最終温度約65℃で完全に死滅する。低温殺菌装置内での熱による死滅のための温度は、この例では、約20分の間に達成される。
【0043】かくして、低温殺菌装置内での加温相の間の好適な条件および正確な量の酵母-基質混合物の配量により、容器内酸素は、図4にダイヤグラムとして示したところに従って、ほとんど完全に代謝的に消費されうる。
【0044】添加した酵母細胞は、それらの増殖過程の定常期(図2参照)に達する前に低温殺菌によって実質的に死滅するので、醗酵はほとんど起こらず、それゆえ、望ましくない副生物の生成は、大部分防止できる。
【0045】低温殺菌によって、いまだ増殖期にある酵母は死滅し、かくしてビール内に安定な形で存在する。それゆえ、消耗し、醗酵を終えた酵母、それらの分解生成物および場合によっての醗酵副生物による風味品質の悪化を防止できる。
【0046】低温殺菌後、温度は、図3に示すダイヤグラムに従って、ふたたび段階的に低下させられる。
【0047】図5に示すダイヤグラムからわかるように、この過程の間に、残留エキス分は約2.58g/100mlから約2.50g/100mlに低下する。図6に示すダイヤグラムから明らかな様に、醗酵の際に生成した二酸化炭素は、同時に、ごく僅かながら、約5.0g/lから約5.3g/lへと上昇する。」
「【0051】
実施例:配量充填(原麦芽汁12.5%)
充填すべきビール
CO2含量: 5.0g/l
酵母細胞数: 1.0×百万個/ml
残留エキス: 2.5g/100ml
添加物 酵母/麦芽汁混合物
酵母細胞数: 90×百万個/ml
残留エキス: 10.0g/100ml
1体積%の酵母/麦芽汁混合物の添加後
酵母細胞数: 約1.9x百万個/ml
残留エキス: 約2.58g/100ml
いくつかの老化成分の挙動に基づいて、生産過程の間の酸素負荷を説明することができる。これから、ビールの風味安定性を逆推理することができる。このための典型的な指標成分は、3-メチルブタナールと2-フェニルエタナールであり、つぎの実施例では、これらの指標成分の合計を風味安定性の尺度とする。
【0052】
実施例:酸素指標
酸素指標の合計 風 味
低温殺菌前:
O-ビール 10μg/l 純粋
V-ビール 10μg/l 純粋
低温殺菌および老化後:
O-ビール 70μg/l 明瞭な酸化
パン状
V-ビール 35μg/l 純粋
上記において、O-ビールは、酵母/麦芽汁混合物を添加しなかったビールを、V-ビールは、充填前に酵母/麦芽汁混合物を添加したビールを、それぞれ表わす。」
「【図1】
[図:0001423472000005.jpg]
」
「【図3】
[図:0001423472000006.jpg]
」
イ 甲3に記載された発明
上記アより、甲3の実施例、及び、【図3】を中心にまとめると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」、「甲3製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「ホップを添加した原麦芽汁に酵母を添加して発酵させることによって製造された、酵母細胞数が約1.9×106個/mL、残留エキス分が約2.58g/100mLである白ビールを、約65℃で約5分間の加熱を含む条件で低温殺菌することによって製造された白ビール。」
<甲3製法発明>
「甲3発明を製造する方法であって、ホップを添加した原麦汁に酵母を添加して発酵を行う工程と、発酵工程後に白ビールの濁度を調整する工程と、白ビールを濁度を調整する工程後に白ビール中の酵母を、約65℃で約5分間の加熱を含む条件で低温殺菌する工程と、を有する、甲3発明の製造方法。」
(2)検討
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲3発明とを対比する。
甲3発明における「白ビール」は、発酵工程を経て製造されたビールであるから、本件特許発明1における「発酵ビールテイスト飲料」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲3発明の一致点、相違点は次のとおりである。
<一致点>
「発酵ビールテイスト飲料。」
<相違点3>
本件特許発明1は、「アルコール度数が4.6(v/v)%以下であり、」「濁度が22Helm以上であり、」「糖質濃度が1.5g/100mL超であり、」「イソα酸の含有量が0.1質量ppm超であり、」「リナロールを120μg/L以下で含有し」「インベルターゼ活性値が0~55ユニットである」との特定を有するのに対し、甲3発明はそのような特定がない点。
上記相違点3について検討する。
甲3には、甲3発明のアルコール度数、濁度、糖質濃度、イソα酸の含有量、リナロールの含有量、インベルダーゼ活性値について、何ら記載がなく不明である。したがって、相違点3は実質的な相違点である。よって、本件特許発明1は甲3発明ではない。
また、甲3及び他の全ての証拠をみても、甲3発明において、アルコール度数、濁度、糖質濃度、イソα酸の含有量、リナロールの含有量、インベルダーゼ活性値という特性値に対し、これら全てを満たす蓋然性もなく、また、これら全てを同時に満たすように調整する動機となる記載もない。
したがって、本件特許発明1は甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、本件特許発明1の発明特定事項を全て備えるものであるから、本件特許発明1と同様に判断される。
よって、本件特許発明2ないし7は、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 本件特許発明8ないし10について
本件特許発明8ないし10と、甲3製法発明とを対比すると、上記アにおける検討と同様の対応関係を有し、上記アの相違点3を有するから、上記アにおける検討と同様に判断される。
よって、本件特許発明8ないし10は、甲3製法発明ではなく、甲3製法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるものであるともいえない。
(3)申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし10は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第113条第2号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。
2 申立理由4(実施可能要件)について
申立理由4(実施可能要件)については、上記第6 3にて検討済みである。
以下、上記第4 4(1)及び(2)の特許異議申立人の主張について検討する。
(1)「インベルターゼ活性値が0~55ユニット」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明【0080】にインベルダーゼ活性値がビールテイスト飲料に対する熱負荷の程度を示す指標であることが記載されており、インベルダーゼ活性値は、加熱処理の諸条件(加熱温度、加熱時間、加熱のタイミング等)を適宜設定することで、調整することができることも記載されている。したがって、当業者は本件特許明細書の発明の詳細な説明及び出願時の技術常識を勘案し、ビールテイスト飲料のインベルダーゼ活性値が0~55ユニットとすることを適宜実施することができる。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(2)「遊離アミノ酸の含有量」について
本件特許明細書の発明の詳細な説明【0036】の記載から、当業者は、「遊離アミノ酸の含有量」は「改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(IM)ニンヒドリン比色法」」(甲22)に記載の「遊離アミノ態窒素」を測定する方法で測定するものであると理解する。すなわち、甲22に「淡色あるいは濃色の麦汁やビール中の遊離アミノ態窒素(FANと略す)を測定する。この方法はアミノ酸、アンモニアの他に、更にペプチドや蛋白の末端α-アミノ態窒素もある程度測定する。」(1/4ページ)と記載されているように、「アミノ酸、アンモニアの他に、更にペプチドや蛋白の末端α-アミノ態窒素もある程度」含んだものを測定し、それを「遊離アミノ酸の含有量」とすると当業者は理解する。
したがって、本件特許明細書の記載を考慮しても、当業者は「改訂BCOJビール分析法」(2013年)の項目「8.18」に記載された方法によって、本件特許発明5における「遊離アミノ酸の含有量」をどのように測定すればよいのかを理解できないとはいえず、当業者は、本件特許発明5及び請求項5の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明6ないし10の全範囲にわたって発明を実施することができないともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
3 申立理由5(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0004】「このような状況において、例えば、適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしいビールテイスト飲料が求められている。」との記載から、本件特許発明1ないし10の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしいビールテイスト飲料を提供することである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0005】には、発明の課題を解決する手段として、「本発明では、アルコール度数及び濁度を所定の範囲に調整し、リナロールを所定値以下の含有量で含有したビールテイスト飲料を提供する」ことが記載されており、同【0005】には本件特許発明1ないし10に対応する記載がある。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0006】には、発明の効果として「適切な飲みごたえ」「適切な飲みごたえ及びシマリ感」「不快な酵母臭及びコスメティックな香りが抑制され」「よりビールテイスト飲料らしい新規な飲料となり得る」ことが記載されている。
本件特許の発明の詳細な説明の【0010】ないし【0013】にはアルコール度数について、同【0015】ないし【0019】には濁度について、同【0024】ないし【0027】にはリナロールの含有量について、それぞれ記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0066】ないし【0091】には、ビールテイスト飲料の製造方法について記載されている。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0092】ないし【0102】には、麦芽比率100%の試験用ビール飲料に対し、必要に応じてリナロールを添加した実施例1~13及び比較例1~13の試験用ビール飲料を製造し、ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえの有無、不適な酵母臭の有無、不適なコスメティックな香りの有無、適切なシマリ感の有無について確認し、アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、濁度が22Helm以上であり、リナロールを120μg/L以下で含有するビールテイスト飲料は、ビールテイスト飲料らしい飲みごたえを有していることが示されている。
そうすると、当業者は、アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、濁度が22Helm以上であり、リナロールを120μg/L以下で含有するビールテイスト飲料であれば、発明の課題を解決することができると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし10は、上記発明の課題を解決することができる特定事項を全て含み、これをさらに限定するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明に記載された発明であって、本件特許の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合するといえる。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人が第3 5において主張するインベルダーゼ活性値については、サポート要件の判断に影響しない。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(5)申立理由5についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、申立理由5によって取り消すことはできない。
4 申立理由6(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。
(2)特許請求の範囲
特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
(3)明確性要件の判断
本件特許の請求項5ないし10の記載は、それ自体に不明瞭な記載はなく、願書に添付した明細書の記載とも整合する。
したがって、本件特許発明5ないし10に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第4 6について検討する。
本件特許明細書の発明の詳細な説明【0036】の記載から、当業者は、「遊離アミノ酸の含有量」は「改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(IM)ニンヒドリン比色法」」(甲22)に記載の「遊離アミノ態窒素」を測定する方法で測定するものであると理解する。すなわち、甲22に「淡色あるいは濃色の麦汁やビール中の遊離アミノ態窒素(FANと略す)を測定する。この方法はアミノ酸、アンモニアの他に、更にペプチドや蛋白の末端α-アミノ態窒素もある程度測定する。」(1/4ページ)と記載されているように、「アミノ酸、アンモニアの他に、更にペプチドや蛋白の末端α-アミノ態窒素もある程度」含んだものを測定し、それを「遊離アミノ酸の含有量」とすると当業者は理解する。
よって、特許異議申立人の主張は採用し得ない。
(5)申立理由6についてのまとめ
上記のとおり、本件特許の請求項5ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、特許法第113条第4号に該当しない。
よって、本件特許の請求項5ないし10に係る特許は、申立理由6によって取り消すことはできない。
第8 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によって取り消すことはできない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700189