特許異議申立
2023-700986
ビールテイスト飲料
- 審判番号
- 2023-700986
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-208562
- 登録番号
- 7241156
- 請求日
- 2023年09月19日
- 審決日
- 2024年03月22日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サントリーホールディングス株式会社
- 【権利者代理人】小林 浩
- 【権利者代理人】古橋 伸茂
- 【権利者代理人】石原 俊秀
- 【権利者代理人】末広 尚也
- 【異議申立人】猪狩 充
- 審判長/審判官
- 審判長 淺野 美奈
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 中村 和正
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.536-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7241156号発明「ビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7241156号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。
特許第7241156号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7241156号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和3年12月22日を出願日とする出願であって、令和5年3月8日にその特許権の設定登録(請求項の数9)がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月19日に特許異議申立人 猪狩 充(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし9)がされ、同年11月17日付けで取消理由が通知され、令和6年1月22日に特許権者 サントリーホールディングス株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出されるととともに訂正請求がされ、同年同月26日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年2月29日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。
第2 本件訂正について
1 訂正の内容
令和6年1月22日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。なお、判断の便宜上、記載が訂正される請求項ごとに訂正事項を整理した。下線は訂正箇所を示すものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
糖質濃度が1.5g/100mL超であり、
リナロールを120μg/L以下で含有し、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」と記載されているのを、「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
糖質濃度が1.5g/100mL超であり、
リナロールを120μg/L以下で含有し、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」に訂正する。
併せて、請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び4ないし9も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「総ポリフェノール量が、10mg/L以上である、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。」と記載されているのを、「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
糖質濃度が1.5g/100mL超3.7g/100mL以下であり、
リナロールを120μg/L以下で含有し、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
総ポリフェノール量が、10mg/L以上であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」に訂正する。
併せて、請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4ないし9も同様に訂正する。
2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)請求項1についての訂正について
訂正事項1による請求項1についての訂正は、「総ポリフェノール量」の数値範囲の限定を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)請求項2についての訂正について
訂正事項1による請求項2についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項3についての訂正について
訂正事項2による請求項3についての訂正は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたのを、そのうちの請求項2を引用するものを削除した上で、請求項1を引用するものを請求項1の記載を引用しない独立形式に書き下ろし、さらに「糖質濃度」の数値範囲を狭くしたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項2による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)請求項4ないし9についての訂正について
訂正事項1及び2による請求項4ないし9についての訂正は、請求項1ないし3についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項4ないし9についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし9についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1又は4号に掲げる事項を目的とするものである。
そして、訂正事項1及び2による請求項1ないし9についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。
なお、訂正前の請求項1ないし9は一群の請求項に該当するものであり、訂正事項1及び2による請求項1ないし9についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし9に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
また、訂正後の請求項3については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することの求めがされているが、訂正後の請求項4ないし9は、訂正後の請求項1ないし3を直接又は間接的に引用するものであり、訂正後の請求項1ないし9は、依然として一群の請求項であるから、訂正後の請求項3について、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することは認められない。
したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし9〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
糖質濃度が1.5g/100mL超であり、
リナロールを120μg/L以下で含有し、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記リナロールの含有量(単位:μg/L)と前記濁度(単位:Helm)との比〔リナロールの含有量/濁度〕が、0.00001~5.0である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
糖質濃度が1.5g/100mL超3.7g/100mL以下であり、
リナロールを120μg/L以下で含有し、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
総ポリフェノール量が、10mg/L以上であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。
【請求項4】
総ポリフェノール量(単位:mg/L)と前記濁度(単位:Helm)との比〔総ポリフェノール量/濁度〕が、0.001~10.0である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
遊離アミノ酸の含有量が、1.0~50mg/100mLである、請求項1~4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
酵母数が6cells/100mL以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
前記ビールテイスト飲料のNIBEM-T値が、50秒以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料を製造する方法であって、下記工程(1)~(2)を有し、工程(2)の後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わない、ビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(1):各種原材料を用いて、糖化処理、煮沸処理、及び固形分除去処理のうち少なくとも1つの処理を行い、発酵前液を得る工程。
・工程(2):前記発酵前液に酵母を添加して、発酵を行う工程。
【請求項9】
さらに下記工程(3)を有する、請求項8に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
・工程(3):工程(2)の後に、ビールテイスト飲料の濁度を調整する処理を行う工程。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要等
令和5年9月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1ないし9は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第4号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
5 申立理由5(実施可能要件)
本件特許の請求項5ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許発明5の発明特定事項である「遊離アミノ酸の含有量」の測定に関して、本件特許明細書には、「遊離アミノ酸の含有量は、改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(IM)ニンヒドリン比色法」に記載の方法で測定することができる。」(【0036】)との記載がある。しかしながら、甲第22号証によれば、本件特許明細書(【0036】)で言及された文献には、「遊離アミノ態窒素」、すなわち、窒素(N)の量を測定する方法が記載されており、「遊離アミノ酸」自体の量を測定する方法は記載されておらず、本件特許明細書(【0036】)の記載で使用された「遊離アミノ酸窒素」という文言すら見当たらない。また、甲第22号証において、測定によって得られた遊離アミノ態窒素の量を遊離アミノ酸の量に変換する方法も記載されていない。
したがって、本件特許明細書の記載を考慮しても、当業者は、「改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(IM)ニンヒドリン比色法」に記載の方法」(【0036】)によって遊離アミノ酸の含有量を測定する方法を理解できず、他にどのような方法及び条件で遊離アミノ酸の含有量を測定すればよいのかも理解できない。このため、当業者は、請求項5に記載された遊離アミノ酸の含有量の全範囲にわたって発明を実施することができない。
以上の理由から、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明5を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する本件特許発明6ないし9も同様である。
(2)本件特許発明6の発明特定事項である「酵母数」の測定方法に関して、本件特許明細書には、「「酵母数」は、Ana1ytica EBC,Method 3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法により測定することができる。」(【0021】)と記載されている。
「Ana1ytica EBC,Method 3.1.1.1,Haemocytometry」(甲第23号証)には、酵母数の測定に必要な最低限の酵母数が106cell/mL(=108cell/100mL)であることが記載されている。請求項6に記載された酵母数の下限(6cells/100mL)は、甲第23号証に記載された酵母数の測定に必要な最低限の酵母数(106cell/mL(=108cell/100mL))を大きく下回り、両者の間には108の桁数の違いがある。それにもかかわらず、本件特許明細書において、上記のような酵母数の測定に必要な最低限の酵母数(108cell/100mL)についての説明はもちろん、それを下回る酵母数、特に請求項6に記載された酵母数の下限である6cells/100mLを測定するための詳細な方法及び条件も明示されていない。酵母数が106cell/mL(=108cell/100mL)未満である場合、「Ana1ytica EBC,Method 3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法」(【0021】)によって信頼性の高い測定結果を得ることができるのかも不明である。
本件特許明細書の「Analytica EBC,Method 3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法」(【0021】)による酵母数の測定に必要な最低限の酵母数が106cell/mL(=108cell/100mL)であるにもかかわらず、本件特許明細書の実施例1~13の中には酵母数が108cell/100mL未満であるいくつかの具体例が存在する。そのような具体例の測定結果の信頼性には疑問が残るが、たとえ測定結果が信頼できるものであったとしても、いずれも請求項6に記載された酵母数の下限(6cells/100mL)を大きく上回っている(【表1】)。具体的に、実施例1~13の中で酵母数が最も少ない実施例6の酵母数でさえ0.1×107cells/100mL(=106cells/100mL)である(【表1】)。つまり、請求項6に記載された数値範囲のうち、6cells/100mL以上、106cells/100mL未満の酵母数を実際に測定した具体例は、本件特許明細書において見当たらない。6cells/100mL以上、106cells/100mL未満の酵母数、特に6cells/100mLといった微量の酵母数を測定するための詳細な方法及び条件も依然として明らかでなく、そのような微量の酵母数の測定において、少なくとも106cell/mL(=108cell/100mL)の酵母数を必要とする「Analytica EBC,Method 3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法」(【0021】)をそのまま適用できるとは考えられない。さらに、請求項6に記載された数値範囲の中で下限に近い酵母数を得るための詳細な条件及び方法も本件特許明細書に示されていない。
したがって、本件特許明細書の記載を考慮しても、当業者は、「Analytica EBC,Method 3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法」(【0021】)によって、請求項6に記載された数値範囲のあらゆる酵母数、特に6cells/100mLといった微量の酵母数を確認できず、他にどのような方法及び条件で酵母数を測定すればよいのかも理解できない。このため、当業者は、請求項6に記載された酵母数の全範囲にわたって発明を実施することができない。
以上の理由から、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明6を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する本件特許発明7ないし9も同様である。
6 申立理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
本件特許明細書の記載に接した当業者は、濁度を22Helm以上に調整するための重要な手段が酵母数であり、適切な飲みごたえを得るために不可欠な濁度を得るためには少なくとも0.1×107cells/100mL(=106cells/100mL)の酵母数が必要であると理解する。それよりも酵母数が少ない場合であっても、22Helm以上の濁度が得られ、かつ、適切な飲みごたえが得られることは、本件特許明細書において実証されておらず、出願時の技術常識でもない。
したがって、酵母数以外の手段で、22Helm以上の濁度を得ることができること、又は酵母数以外の手段で22Helm以上の濁度を得ることができても、それによって実施例と同様の効果が得られることは、本件特許明細書に記載されていない。適切な酵母数を特定しておらず、濁度を調整するためのあらゆる手段を包含する本件特許発明1の範囲の全体にわたって、既述の課題を当然に解決できると当業者は認識できない。発明の詳細な説明に開示された内容を本件特許発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえないため、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する本件特許発明2ないし9も同様である。
7 証拠方法
甲第1号証:Brauindustrie,69,7,483-492,1984.,VERLAG W.SACHON
甲第2号証:CHEMICAL ENGINEERING TRANSACTIONS,57,1747-1752,2017.,AIDIC
甲第3号証:CHEMICAL ENGINEERING TRANSACTIONS,43,13-18,2015.,AIDIC
甲第4号証:「~ザ・プレミアム・モルツ~マスターズドリーム〈無濾過〉」のニュースリリース(https://www.suntory.co.jp/news/arlicle/12680.htm1?_ga=2.114)、2016年6月28日、サントリーホールディングス株式会社
甲第5号証:「~ザ・プレミアム・モルツ~マスターズドリーム〈無濾過〉」の栄養成分一覧 (The Wayback Machine -https://web.archive.org/web/20160815122615/http://products.suntory.co.jp:80/beer/ingredient.html)、2016年8月15日、サントリーホールディングス株式会社
甲第6号証:ヘーフェヴァイツェン(https://www.kirin.co.jp/alcoho1/beer/daigaku/ZMG/dst/no91/)、2016年6月20日、キリンホールディングス株式会社
甲第7号証:エタノール換算表 (https://www.pmda.go.jp/rs-std-jp/standards-development/jp/pub-comments/jp/0053.html)(https://www.pmda.go.jp/files/000163417.pdf)、2013年6月1日、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)
甲第8号証:特開2020―92658号公報
甲第9号証:Analytica EBC,Method 9.29,Haze in beer、1997年9月、European Brewery Convention
甲第10号証:特開2020-202878号公報
甲第11号証:日本醸造協會雑誌,1976,71,7,505-510.、公益財団法人日本醸造協会
甲第12号証:Beer in Health and Disease Prevention、2009年、Elsevier,p300-303
甲第13号証:Brauwe1t,125,39,1960-1964,1985.,Fachverlag Hans Carl GmbH
甲第14号証:日本醸造協会誌, 2013,108,2, 88-97、公益財団法人日本醸造協会
甲第15号証:特開2021-73906号公報
甲第16号証:醸造物の成分、1999年12月10日、財団法人日本醸造協会
甲第17号証:J.Am.Soc.Brew.Chem.71,2,83-89,2013,American Society of Brewing Chemists
甲第18号証:日本醸造協会誌 2001,96,3,151-164、公益財団法人日本醸造協会
甲第19号証:J.Am.Soc.Brew.Chem.66,271-272,2008.,American Society of Brewing Chemists
甲第20号証:Journal of the Institute of Brewing,109,4,400-402,2003.,Institute of Brewing & Distilling
甲第21号証:国立科学博物館 技術の系統化調査報告 第14集-ビール醸造設備発展の系統化調査、2009年5月29日、独立行政法人国立科学博物館
甲第22号証:改訂 BCOJビール分析法、8.18 遊離アミノ態窒素(IM)、2013年、ビール酒造組合国際技術委員会
甲第23号証:Analytica-Microbiologica-EBC,2005年,European Brewery
甲第24号証:特許第6706373号公報
甲第25号証:特許第6857276号公報
甲第26号証:日本醸造協會雑誌、1980年75巻2号、128-132、公益財団法人 日本醸造協会
甲第27号証:特開2012―157323号公報
甲第28号証:特開2016-149975号公報
甲第24ないし28号証は令和6年2月29日に提出された意見書に添付して提出されたものである。証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第5 取消理由の概要
令和5年11月17日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
1 取消理由1(甲2に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲2に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由1は申立理由2とおおむね同旨である。
2 取消理由2(甲3に基づく新規性・進歩性)
本件特許の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲3に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由2は申立理由3とおおむね同旨である。
3 取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項6ないし9に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。なお、該取消理由3は申立理由5(2)とおおむね同旨である。
本件特許発明6は「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項を有するものである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0021】には、「なお、本明細書において、「酵母数」は、Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法により測定することができる。」と記載されている。
しかし、「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometry」(甲23)には、「高い酵母細胞濃度が必要である(最低で106cell/ml)」(133/274)と記載されていることから、「6cells/100mL」程度の微量の「酵母数」の測定に、「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法」を直ちに適用できるとは考えられない。
また、発明の詳細な説明の実施例1ないし13及び比較例2ないし11として記載されているものは、「酵母数」が「0.1×107cells/100mL(=106cells/100mL)」以上のものであり、比較例1として記載されているものは、「酵母数」が「0」のものであり、発明の詳細な説明には、「酵母数」が「6cells/100mL」程度の微量のものは記載されていないし、「酵母数」が「6cells/100mL」程度のものを得るためにどうすればいいか、また、「酵母数」が「6cells/100mL」程度であることをどのようにして確認するのかも記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明の記載を考慮しても、当業者は、「Analytica EBC,Method 3.1.1.1,Haemocytometryに記載の方法」によって、請求項6に記載された数値範囲のあらゆる酵母数、特に6cells/100mLといった微量の酵母数を確認できず、他にどのような方法及び条件で酵母数を測定すればよいのかも理解できない。このため、当業者は、請求項6に記載された酵母数の全範囲にわたって、本件特許発明6を実施することができない。
請求項6を直接又は間接的に引用する本件特許発明7ないし9についても同様である。
よって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6及び7を生産し、使用することができる程度の記載があるとはいえないし、本件特許発明8及び9の使用をし、本件特許発明8及び9により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるともいえない。
第6 取消理由についての当審の判断
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献のため、表を除き、訳文を摘記した。下線は当審で付したものである。他の外国語文献についても同様。
・「各原料の量を表1に示す。・・・(略)・・・マッシングを、インフュージョンプロセスによって、53℃、62℃、69℃、72℃、78℃の温度でそれぞれ20、40、20、20、10分間実行した。・・・(略)・・・第一麦汁及び第二麦汁を混ぜて、大気圧で60分間の煮沸工程(100℃)を開始した。沸騰してから5分後・・・(略)・・・ワールプールオペレーションを5分間実行し、デカンテーションによるトリューブ分離のために30分間静置した。清澄化した麦汁を15℃まで冷却し、発酵槽に移し、そこで醸造酵母を加えた。その後、アメリカンクラシックピルスナーの場合は8℃で7日間、13℃で3日間、その他のビールの場合は18℃で7日間、発酵を行った。発酵の終わりに、酵母を沈殿させるために発酵槽の温度を2日間 0℃に下げ、ビールを熟成タンクに移した。ビールを0℃で21日間熟成した。その後、6 g/Lの転化糖を加えて、ビールを瓶に入れた。殺菌した500mlの琥珀色のボトルを使用した。18℃で7日間再発酵処理を行ってビールに炭酸付けした後、0℃で保管した。」(第1748及び1749ページ)
・「
[図:0001411342000001.jpg]
」(第1750ページ)(表中の主な用語の訳、Physicochemical analysis of craft beers:クラフトビールの物理化学的分析、Real Extract:真正エキス、Alcohol by volume:アルコール度数、Haze in beer:ビールの濁度)
・「
[図:0001411342000002.jpg]
」(第1751ページ)(表中の主な用語の訳、Total phenolic compounds:総フェノール化合物)
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に表2及び3の右端に示されるアイリッシュ レッド エールであるビール(甲2の第1748及び1749ページによると、酵母を用いた発酵の工程後に濾過を行わずに得られている。)に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2発明」及び「甲2製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「アルコール度数が5.00v/v%であり、濁度が20.51EBCであり、真正エキスの含有量が4.42°Pであり、総ポリフェノール化合物量が475.05mg/Lであり、NIBEM値が195秒であり、酵母を用いた発酵の工程後に濾過を行わずに得られた、アイリッシュ レッド エールであるビール。」
<甲2製法発明>
「甲2発明を製造する方法。」
(2)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。
・「オリジナルビールと低アルコールビールのいくつかの重要な品質パラメータを確認した。・・・(略)・・・低アルコールビールでは濁度値が元のものと異なり、表1に示すように、脱アルコールプロセス後に低下した。この変化は、濾過されていないビールであるクラフトビールの特性に起因する可能性がある。」(第15ページ)
・「
[図:0001411342000003.jpg]
」(第16ページ)(表中の主な用語の訳、Quality parameters content before and after thedealcohol ization:脱アルコール前後の品質パラメータの内容、Original Beer:オリジナルビール、Real Extract:真正エキス、Ethanol (%vol):エタノール(%vol)、Free Amino Nitrogen (mg L-1):遊離アミノ態窒素(mg L-1)、Turbidity (U-EBC):濁度(U-EBC)、Foamstability:泡安定性、Polyphenols(mg GAE L-1):ポリフェノール(mg GAE L-1))
イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に表1のオリジナルビールに関して整理すると、甲3には次の発明(以下、順に「甲3発明」及び「甲3製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲3発明>
「アルコール度数が4.3(v/v)%であり、濁度が64.6EBCであり、真正エキスの含有量が5.7g/100gであり、総ポリフェノール量が781.0mg/Lであり、遊離アミノ酸窒素の含有量が43.0mg/Lであり、泡安定性が220秒であり、濾過されていないオリジナルビール。」
<甲3製法発明>
「甲3発明を製造する方法。」
2 取消理由1(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「アルコール度数が5.00v/v%であり」は本件特許発明1における「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり」に相当する。
甲9によると、1EBC=40Helmの関係が成り立ち、20.51EBC=820.4Helmと計算されるから、甲2発明における「濁度が20.51EBCであり」は本件特許発明1における「濁度が22Helm以上であり」に相当する。
甲2発明における濁度とアルコール度数との比は、164.08(=820.4/5.00)と計算されるから、甲2発明は、本件特許発明1における「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」という発明特定事項の条件を満たす。
甲2発明における「酵母を用いた発酵の工程後に濾過を行わずに得られた」は本件特許発明1における「酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた」に相当する。
甲2発明における「アイリッシュ レッド エールであるビール」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-1a>
本件特許発明1においては、「糖質濃度が1.5g/100mL超であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2-1b>
本件特許発明1においては、「リナロールを120μg/L以下で含有し」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2-1c>
本件特許発明1においては、「総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、「総ポリフェノール化合物量が475.05mg/Lであり」と特定されている点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-1cについて検討する。
甲2発明における「総ポリフェノール化合物量」は本件特許発明1における「総ポリフェノール量」に相当するから、甲2発明における「総ポリフェノール量」は「475.05mg/L」であり、本件特許発明1における「総ポリフェノール量」の「10mg/L以上400mg/L以下」の数値範囲外である。
したがって、相違点2-1cは実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえない。
また、甲2には、甲2発明において、相違点2-1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2発明において、相違点2-1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規な飲料となり得る。」(発明の詳細な説明の【0006】)という効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年2月29日に提出された意見書において、「訂正発明1における総ポリフェノール量は、10mg/L以上400mg/L以下であるのに対し、取消理由通知書で認定された甲2発明における総ポリフェノール化合物量は、475.05mg/Lである。しかしながら、以下のとおり、当業者は、甲2発明において総ポリフェノール化合物量を10mg/L以上400mg/L以下に変更することに容易に想到できる。
・・・(略)・・・
甲2発明における比較的多い総ポリフェノール化合物を減らすことを試みる動機も存在する。甲2(第1747頁)には、「・・・(略)・・・」(日本語訳:ビール中のフェノール化合物は重要な抗酸化物質であり、フリーラジカルの除去に関与するメカニズムを示す。しかしながら、ビールの保管中にフェノール化合物がタンパク質と反応して濁りが発生する(Siqueira等、2011)。)という記載がある。この記載によれば、ポリフェノール化合物によって保存中のビールに濁りが発生するという問題、つまり、ポリフェノール化合物によって保存中のビールの濁度が変化するという問題があったことが認められる。上記の甲2の記載に限らず、総ポリフェノールが多い飲料の混濁安定性が低下することは技術常識である(甲24:【0015】)。既述のとおり、甲2発明における総ポリフェノール化合物量は、従来から知られている一般的なビールの総ポリフェノール化合物量よりも比較的多い。そうすると、保存中のビールの濁度の変化を抑えるために、甲2発明における比較多い総ポリフェノール化合物量を減らすことを試みる動機が存在する。
・・・(略)・・・
上記のような事情を考慮すると、訂正発明1は、従来から知られている一般的なビールの総ポリフェノール量と同程度の総ポリフェノール量(10mg/L以上400mg/L以下)を規定しているに過ぎず、そのような範囲内で総ポリフェノール量を調整することに格別の困難性はない。また、甲2発明において、一般的なビールの総ポリフェノール量よりも比較的多い総ポリフェノール化合物量を10mg/L以上400mg/L以下に変更する動機も存在し、そのような変更によって、飲み応え、ビールらしさ、混濁安定性等の多くの有益な効果も期待できる。
したがって、当業者は、訂正発明1における「総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり」という構成に容易に想到できる。」(第3ないし7ページ)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
仮に、本件特許発明1において特定された「総ポリフェノール量」が「従来から知られている一般的なビールの総ポリフェノール量と同程度」であるとしても、そのことが、直ちには、甲2発明において、「総ポリフェノール量」を「10mg/L以上400mg/L以下」とする動機付けとはならないし、甲2に「ビールの保管中にフェノール化合物がタンパク質と反応して濁りが発生する」という記載があったとしても、そのことも直ちには、甲2発明において、「総ポリフェノール量」を「10mg/L以上400mg/L以下」とする動機付けとはならない。
そもそも、甲2発明は、甲2発明の認定の根拠となった「アイリッシュ レッド エールであるビール」の成分を分析した結果、訂正前の本件特許発明1で特定される発明特定事項を満たしている蓋然性が高いといえるに過ぎず、総ポリフェノールの量を「10mg/L以上400mg/L以下」に変更した場合に、訂正前の本件特許発明1で特定される発明特定事項を満たすかどうか不明であるし、訂正前の本件特許発明1で特定される発明特定事項を満たすようにする理由がない。
したがって、「当業者は、訂正発明1における「総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり」という構成に容易に想到できる。」とはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲2発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲2発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
甲2発明における「総ポリフェノール化合物量」は本件特許発明3における「総ポリフェノール量」に相当するから、甲2発明における「総ポリフェノール量」は「475.05mg/L」であり、本件特許発明3における「総ポリフェノール量」の「10mg/L以上」の条件を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
総ポリフェノール量が、10mg/L以上であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点2-3a>
本件特許発明3においては、「糖質濃度が1.5g/100mL超3.7g/100mLであり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点2-3b>
本件特許発明3においては、「リナロールを120μg/L以下で含有し」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点2-3aについて検討する。
本件特許発明3における「糖質濃度」は、発明の詳細な説明の【0029】の記載によると、「食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定する」ものである。
そうすると、甲2発明における「糖質濃度」を算定するためには、甲2発明の認定の根拠となった「アイリッシュ レッド エールであるビール」のタンパク質、脂質、食物繊維及び灰分の量が特定される必要があるが、それらの量を示す記載は甲2にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2発明における「糖質濃度」を算定することはできない。
よって、相違点2-3aは実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲2発明であるとはいえない。
また、甲2には、甲2発明において、相違点2-3aに係る本件特許発明3の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2発明において、相違点2-3aに係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明3の奏する「ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規な飲料となり得る。」という効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明3の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年2月29日に提出された意見書において、「しかしながら、甲2発明における糖質濃度の算出において、乙1に記載されたビール(食品番号:16006)の成分を参照することは適切ではない。・・・(略)・・・
したがって、意見書を考慮しても、訂正発明3は、甲2発明における糖質濃度を包含している蓋然性が高い。
仮に、甲2発明における糖質濃度が訂正発明3における糖質濃度の上限を超えていたとしても、甲2発明における糖質濃度を1.5g/100mL超3.7g/100mL以下に調整することに格別の困難性はない。・・・(略)・・・つまり、甲2において、糖類の少ない麦汁を得ることが許容されている。・・・(略)・・・当業者は、更に糖類の少ない麦汁を使用することによって、甲2発明におけるビールの糖質濃度を1.5g/100mL超3.7g/100mL以下に調整することに容易に想到できる。」(第12及び13ページ)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
上記イのとおり、甲2発明の認定の根拠となった「アイリッシュ レッド エールであるビール」のタンパク質、脂質、食物繊維及び灰分の量が不明である以上、甲2発明における「糖質濃度」を算定することはできないし、「糖質濃度」を調整することもできない。
したがって、甲2発明における糖質濃度の算出において、乙1に記載されたビール(食品番号:16006)の成分を参照することが適切であるかどうかに関わらず、「訂正発明3は、甲2発明における糖質濃度を包含している蓋然性が高い。」とはいえないし、「甲2発明におけるビールの糖質濃度を1.5g/100mL超3.7g/100mL以下に調整することに容易に想到できる。」ともいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)本件特許発明4ないし7について
本件特許発明4ないし7は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は3と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明8について
本件特許発明8は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有する製造方法の発明である。
他方、甲2製法発明は甲2発明を製造する方法の発明である。
したがって、本件特許発明1又は3が甲2発明であるといえず、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明8は甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲2製法発明であるとはいえないし、甲2製法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由1によっては取り消すことはできない。
3 取消理由2(甲3に基づく新規性・進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「アルコール度数が4.3(v/v)%であり」は本件特許発明1における「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり」に相当する。
甲9によると、1EBC=40Helmの関係が成り立ち、64.6EBC=2584Helmと計算されるから、甲3発明における「濁度が64.6EBCであり」は本件特許発明1における「濁度が22Helm以上であり」に相当する。
甲3発明における濁度とアルコール度数との比は、601程度(=2584/4.3)と計算されるから、甲3発明は、本件特許発明1における「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」という発明特定事項の条件を満たす。
甲3発明における「濾過されていない」は本件特許発明1における「酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた」に相当する。
甲3発明における「オリジナルビール」は本件特許発明1における「ビールテイスト飲料」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-1a>
本件特許発明1においては、「糖質濃度が1.5g/100mL超であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3-1b>
本件特許発明1においては、「リナロールを120μg/L以下で含有し」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3-1c>
本件特許発明1においては、「総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、「総ポリフェノール量が781.0mg/Lであり」と特定されている点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点3-1cについて検討する。
甲3発明における「総ポリフェノール量」は「781.0mg/L」であり、本件特許発明1における「総ポリフェノール量」の「10mg/L以上400mg/L以下」の数値範囲外である。
したがって、相違点3-1cは実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明であるとはいえない。
また、甲3には、甲3発明において、相違点3-1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3発明において、相違点3-1cに係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規な飲料となり得る。」という効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年2月29日に提出された意見書において、「しかしながら、上記の項目「(2-1)訂正発明1」で説明したとおり、訂正発明1は、従来から知られている一般的なビールの総ポリフェノール量と同程度の総ポリフェノール量(10mg/L以上400mg/L以下)を規定しているに過ぎず、そのような範囲内で総ポリフェノール量を調整することに格別困難性はない。また、甲3発明における総ポリフェノール量を10mg/L以上400mg/L以下に変更することによって、飲み応え、ビールらしさ、濁度安定性等の多くの有益な効果も期待できる。
また、既述の甲2(第1747頁)及び甲24(【0015】)に記載された事項を考慮すると、甲2発明と同様に総ポリフェノール量が比較的多い甲3発明においても保存中のビールの濁度は変化しやすいと考えられる。このため、保存中のビールの濁度の変化を抑えるために、甲3発明における比較的多い総ポリフェノール量を減らすことを試みる動機が存在する。
したがって、当業者は、訂正発明1における「総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり」という構成に容易に想到できる。」(第15ページ)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
仮に、本件特許発明1において特定された「総ポリフェノール量」が「従来から知られている一般的なビールの総ポリフェノール量と同程度」であるとしても、そのことが、直ちには、甲3発明において、「総ポリフェノール量」を「10mg/L以上400mg/L以下」とする動機付けとはならないし、甲2に「ビールの保管中にフェノール化合物がタンパク質と反応して濁りが発生する」という記載があったとしても、また、甲24に「総ポリフェノールが多い飲料は、混濁安定性が低下」する旨の記載があったとしても、それらのことからも、直ちには、甲3発明において、「総ポリフェノール量」を「10mg/L以上400mg/L以下」とする動機付けとはならない。
そもそも、甲3発明は、甲3発明の認定の根拠となった「オリジナルビール」の成分を分析した結果、訂正前の本件特許発明1で特定される発明特定事項を満たしている蓋然性が高いといえるに過ぎず、総ポリフェノールの量を「10mg/L以上400mg/L以下」に変更した場合に訂正前の本件特許発明1で特定される発明特定事項を満たすかどうか不明であるし、訂正前の本件特許発明1で特定される発明特定事項を満たすようにする理由がない。
したがって、当業者は、甲3発明において、「総ポリフェノール量が、10mg/L以上400mg/L以下であり」という構成に容易に想到できるとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲3発明を対比する。
両者の間には、本件特許発明1と甲3発明との間と同様の相当関係が成り立つ。
甲3発明における「総ポリフェノール量」は「781.0mg/L」であり、本件特許発明3における「総ポリフェノール量」の「10mg/L以上」の条件を満たす。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、
濁度が22Helm以上であり、
前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、
総ポリフェノール量が、10mg/L以上であり、
酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」
そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。
<相違点3-3a>
本件特許発明3においては、「糖質濃度が1.5g/100mL超3.7g/100mL以下であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
<相違点3-3b>
本件特許発明3においては、「リナロールを120μg/L以下で含有し」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点3-3aについて検討する。
本件特許発明3における「糖質濃度」は、発明の詳細な説明の【0029】の記載によると、「食品中の糖質の量は、当該食品の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分及び水分の量を控除することにより算定する」ものである。
そうすると、甲3発明における「糖質濃度」を算定するためには、甲3発明の認定の根拠となった「表1のオリジナルビール」のタンパク質、脂質、食物繊維及び灰分の量が特定される必要があるが、それらの量を示す記載は甲3にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3発明における「糖質濃度」を算定することはできない。
なお、特許異議申立人が特許異議申立書で述べる方法(令和5年11月17日付け取消理由通知で採用した方法でもある。)で算定してみても、甲3発明における「糖質濃度」は「4.075~4.36g/100mL」となり、「1.5g/100mL超3.7g/100mL以下」の数値範囲外となる。
よって、相違点3-3aは実質的な相違点であるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲3発明であるとはいえない。
また、甲3には、甲3発明において、相違点3-3aに係る本件特許発明3の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3発明において、相違点3-3aに係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明3の奏する「ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規な飲料となり得る。」という効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明3の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、令和6年2月29日に提出された意見書において、「しかしながら、甲3発明における糖質濃度の算出において、乙1に記載されたビール(食品番号:16006)の成分を参照することは適切ではない。・・・(略)・・・
上記のような事情を考慮すると、訂正発明3は、従来から知られている一般的なビールテイスト飲料の糖質濃度と同程度の糖質濃度(1.5g/100mL超3.7g/100mL以下)を規定しているに過ぎず、そのような範囲内で糖質濃度を調整することに格別の困難性はない。また、当業者は、カロリーや糖質に気を配る健康志向の消費者の需要に応えるために、アルコール度数の低減を検討した甲3に記載された甲3発明における糖質濃度を1.5g/100mL超3.7g/100mL以下に変更することに容易に想到できる。」(第18ないし20ページ)旨主張する。
そこで、該主張について検討する。
上記イのとおり、甲3発明の認定の根拠となった「オリジナルビール」のタンパク質、脂質、食物繊維及び灰分の量が不明である以上、甲3発明における「糖質濃度」を算定することはできないし、「糖質濃度」を調整することもできない。
したがって、甲3発明における糖質濃度の算出において、乙1に記載されたビール(食品番号:16006)の成分を参照することが適切であるかどうかに関わらず、また、本件特許発明3において特定された「糖質濃度」が従来から知られている一般的なビールテイスト飲料の糖質濃度と同程度であるかどうかに関わらず、甲3発明における「糖質濃度」を算定できない以上、「そのような範囲内で糖質濃度を調整することに格別困難性はない。」とはいえないし、「甲3発明における糖質濃度を1.5g/100mL超3.7g/100mL以下に変更することに容易に想到できる。」ともいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)本件特許発明4ないし7について
本件特許発明4ないし7は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は3と同様に、甲3発明であるとはいえないし、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明8について
本件特許発明8は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有する製造方法の発明である。
他方、甲3製法発明は甲3発明を製造する方法の発明である。
したがって、本件特許発明1又は3が甲3発明であるといえず、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明8は甲3製法発明であるとはいえないし、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲3製法発明であるとはいえないし、甲3製法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、取消理由2によっては取り消すことはできない。
4 取消理由3(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明6及び7は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。また、本件特許発明8及び9は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産する方法の使用をし、その方法により生産した物の使用をすることができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
本件特許発明6は「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項を有するものであるが、本件特許発明6は請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、「酵母数が6cells/100mL以上である」という発明特定事項の前提として、請求項1又は3に記載された発明特定事項を有するものである。
そうすると、本件特許発明6は、「濁度が22Helm以上であり」、「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」及び「酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた」という発明特定事項を有するものであるといえる。
そして、発明の詳細な説明の【0015】の「そこで、本発明の一態様のビールテイスト飲料は、程良い酔いを感じやすく、且つ、ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを付与した飲料とする観点から、さらに、ビールテイスト飲料の濁度を22Helm以上に調整している。
濁度が高いビールテイスト飲料は、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等も豊富に含まれているため、飲んだ際に風味のふくらみや華やかでフルーティーな香りが広がり、ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを十分に感じ得る飲料になると考えられる。」、同【0017】の「本発明の一態様のビールテイスト飲料において、前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕は、程良い酔いを感じやすくすると共に、飲みごたえをより向上させたビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは15以上、より好ましくは20以上、より好ましくは25以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは50以上、更に好ましくは100以上、更に好ましくは150以上、より更に好ましくは200以上、より更に好ましくは250以上、特に好ましくは300以上であり、さらに、350以上、400以上、410以上、又は420以上としてもよく、また、不適な異臭をより効果的に抑制したビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは1500以下、より好ましくは1450以下、より好ましくは1400以下、より好ましくは1350以下、更に好ましくは1300以下、更に好ましくは1200以下、更に好ましくは1100以下、より更に好ましくは1000以下、より更に好ましくは900以下、特に好ましくは800以下であり、さらに、750以下、700以下、650以下、600以下、又は550以下としてもよい。」及び同【0018】の「本発明の一態様のビールテイスト飲料の濁度は、例えば、酵母を用いた発酵の工程後に30μm未満のフィルターを通す濾過を行わないことで調整可能である。当該フィルターを通す濾過を行わないことで、酵母が含まれた飲料となる。飲料中に酵母が含まれていると濁度は上昇する傾向にある。」という記載によると、「濁度が22Helm以上であり」、「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」及び「酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた」という発明特定事項を有することで、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等が豊富に含まれることになる。
すなわち、本件特許発明6は、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等が豊富に含まれるものであり、その「酵母数」は、発明の詳細な説明の【0021】に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法により測定することができる」程度になっていることは当業者に明らかである。
以上を踏まえて、本件特許発明6について、実施可能要件を充足するかどうかを検討するに、発明の詳細な説明には、本件特許発明6の各発明特定事項について、その技術的意義を含め具体的に記載されており、本件特許発明6の各発明特定事項を満たす実施例についても具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
また、請求項6を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明7ないし9に関しても同様であり、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明7を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明8及び9の使用をし、本件特許発明8及び9により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明6ないし9に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 5(2)のとおり主張し、令和6年2月29日に提出された意見書においても同様の主張をしている。
そこで、上記主張について検討するに、上記(2)のとおり、本件特許発明6は、旨味成分であるアミノ酸や高分子のタンパク質をはじめ、ビタミン、ミネラル、高分子の炭水化物及び酵母等が豊富に含まれるものであり、その「酵母数」は、発明の詳細な説明の【0021】に記載された「Analytica EBC, Method 3.1.1.1, Haemocytometryに記載の方法により測定することができる」程度になっていることは当業者に明らかであり、当業者は、本件特許発明6で特定される「酵母数」以上になっていることを確認することはできる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)取消理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項6ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、取消理由3によっては取り消すことはできない。
第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)、申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)、申立理由5(実施可能要件)(1)及び申立理由6(サポート要件)である。
以下、順に検討する。
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001411342000004.jpg]
」(第484及び485ページ)(表中の主な用語の訳:Deutsche hefehaltige Weizenvollbiere:ドイツの酵母入りヴァイツェンビール、Erdinger Weisbeir:エルディンガーヴァイスビア、Alcohol:アルコール、Real Extract:真正エキス、Free Amino Nitrogen (TNBS):遊離アミノ態窒素(TNBS)、Total Polyphenols:総ポリフェノール)
・「ビールNo.231「エルディンガーヴァイスビア」
「バイエルン州最大の小麦ビール醸造所で醸造された、上質な酵母を使用したエルディンガーヴァイスビア」…「瓶内発酵」…」(第486ページ左上)
イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に「ビールNo.231 エルディンガーヴァイスビア」に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」及び「甲1製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明>
「アルコール度数が3.96(wt/wt)%であり、真正エキスの含有量が4.34g/100gであり、総ポリフェノール量が112mg/Lであり、遊離アミノ態窒素の含有量が99mg/Lである、酵母を使用したエルディンガーヴァイスビア。」
<甲1製法発明>
「甲1発明を製造する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-1>
本件特許発明1においては、「濁度が22Helm以上であり」及び「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
甲1には、濁度に関する記載はなく、当然、濁度とアルコール度数との比に関する記載もないから、相違点1-1は、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、甲1には、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明において、相違点1-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規な飲料となり得る。」という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲1発明Aの濁度は、本件発明1の濁度の範囲内である蓋然性が高い。発酵後に濾過を行わずに得られたビールテイスト飲料の濁度が少なくとも2.06EBCであることは当業者に知られている(甲8-1~8-3)。既述の甲9-1の記載に基づいて濁度の単位をEBCからHelmに換算すると、2.06EBCは82.4Helm(=40×2.06)に相当する。したがって、発酵後の酵母の濾過を行わずに得られた甲1発明Aの濁度は少なくとも82.4Helmである蓋然性が高く、これは本件発明1の濁度の範囲内である。」(第39ページ)旨主張し、令和6年2月29日に提出された意見書において、「甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料に限らず、あらゆる無濾過ビールの濁度は22Helm以上であると考えられる。
したがって、甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料の濁度は、異議申立書に記載されているとおり少なくとも82.4Helmである蓋然性が高い。」(第24ページ)旨主張している。
そこで、上記主張について検討する。
甲1発明の認定の根拠である「ビールNo.231 エルディンガーヴァイスビア」が甲8に記載された「無ろ過ビールテイスト飲料」であること又はそれに含まれることを示す証拠は何ら示されていないことから、「発酵後の酵母の濾過を行わずに得られた甲1発明Aの濁度は少なくとも82.4Helmである蓋然性が高く、これは本件発明1の濁度の範囲内である。」とはいえない。また、仮に、「甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料に限らず、あらゆる無濾過ビールの濁度は22Helm以上である」といえたとしても、あらゆる無濾過ビールの濁度が82.4Helm以上であるといえる証拠は示されていないことから、「甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料の濁度は、異議申立書に記載されているとおり少なくとも82.4Helmである蓋然性が高い。」ともいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲3発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。
<相違点1-3>
本件特許発明3においては、「濁度が22Helm以上であり」及び「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点1-3は相違点1-1と同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点1-3は実質的な相違点であり、本件特許発明3は甲1発明であるとはいえない。
また、本件特許発明3は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明4ないし7について
本件特許発明4ないし7は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は3と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明8について
本件特許発明8は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有する製造方法の発明である。
他方、甲1製法発明は甲1発明を製造する方法の発明である。
したがって、本件特許発明1又は3が甲1発明であるといえず、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明8は甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲1製法発明であるとはいえないし、甲1製法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(8)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由4(甲4に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲4及び5に記載された事項等
ア 甲4に記載された事項
甲4には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001411342000005.jpg]
」(第1ページ)
イ 甲5に記載された事項
甲5には、おおむね次の事項が記載されている。
・「
[図:0001411342000006.jpg]
」(第2ページ)
ウ 甲4に記載された発明
甲4に記載された事項を、甲5に記載された事項を踏まえて整理すると、甲4には次の発明(以下、順に「甲4発明」及び「甲4製法発明」という。)が記載されていると認める。
<甲4発明>
「アルコール度数が5(v/v)%であり、糖質濃度が4.3g/100mLである無濾過のザ・プレミアム・モルツ~マスターズドリーム。」
<甲4製法発明>
「甲4発明を製造する方法。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲4発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4-1>
本件特許発明1においては、「濁度が22Helm以上であり」及び「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
甲4には、濁度に関する記載はなく、当然、濁度とアルコール度数との比に関する記載もないから、相違点4-1は、実質的な相違点である。
したがって、本件特許発明1は甲4発明であるとはいえない。
また、甲4には、甲4発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲4発明において、相違点4-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規な飲料となり得る。」という効果は、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲4発明Aの濁度は、本件発明1の濁度の範囲内である蓋然性が高い。発酵後に濾過を行わずに得られたビールテイスト飲料の濁度が少なくとも2.06EBCであることは当業者に知られている(甲8-1~8-3)。既述の甲9-1の記載に基づいて濁度の単位をEBCからHelmに換算すると、2.06EBCは82.4Helm(=40×2.06)に相当する。したがって、無濾過の甲4発明Aの濁度は少なくとも82.4Helmである蓋然性が高く、これは本件発明1の濁度の範囲内である。」(第56及び57ページ)旨主張し、令和6年2月29日に提出された意見書において、「甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料に限らず、あらゆる無濾過ビールの濁度は22Helm以上であると考えられる。
したがって、甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料の濁度は、異議申立書に記載されているとおり少なくとも82.4Helmである蓋然性が高い。」(第24ページ)旨主張している。
そこで、上記主張について検討する。
甲4発明の認定の根拠である「ザ・プレミアム・モルツ~マスターズドリーム」が甲8に記載された「無ろ過ビールテイスト飲料」であること又はそれに含まれることを示す証拠は何ら示されていないことから、「無濾過の甲4発明Aの濁度は少なくとも82.4Helmである蓋然性が高く、これは本件発明1の濁度の範囲内である。」とはいえない。また、仮に、「甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料に限らず、あらゆる無濾過ビールの濁度は22Helm以上である」といえたとしても、あらゆる無濾過ビールの濁度が82.4Helm以上であるといえる証拠は示されていないことから、「甲1及び甲4に記載されたビールテイスト飲料の濁度は、異議申立書に記載されているとおり少なくとも82.4Helmである蓋然性が高い。」ともいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲4発明であるとはいえないし、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明3について
ア 対比
本件特許発明3と甲4発明を対比するに、両者は少なくとも次の点で相違又は一応相違する。
<相違点4-3>
本件特許発明3においては、「濁度が22Helm以上であり」及び「前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり」と特定されているのに対し、甲4発明においては、そのようには特定されていない点。
イ 判断
相違点4-3は相違点4-1と同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点4-3は実質的な相違点であり、本件特許発明3は甲4発明であるとはいえない。
また、本件特許発明3は、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明4ないし7について
本件特許発明4ないし7は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は3と同様に、甲4発明であるとはいえないし、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(6)本件特許発明8について
本件特許発明8は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有する製造方法の発明である。
他方、甲4製法発明は甲4発明を製造する方法の発明である。
したがって、本件特許発明1又は3が甲4発明であるといえず、甲4発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない以上、本件特許発明8は甲4製法発明であるとはいえないし、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(7)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項8を引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明8と同様に、甲4製法発明であるとはいえないし、甲4製法発明並びに甲4及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(8)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号に該当しないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。
3 申立理由5(実施可能要件)(1)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第3のとおり、本件特許発明5ないし7は物の発明であり、本件特許発明8及び9は物を製造する方法の発明であるから、本件特許発明5ないし9についての実施可能要件の判断基準は、上記第6 4(1)と同じである。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明には、本件特許発明5の各発明特定事項について、その技術的意義を含め具体的に記載されており、本件特許発明5の各発明特定事項を満たす実施例についても具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明5を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
また、請求項5を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明6ないし9に関しても同様であり、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明6及び7を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明8及び9の使用をし、本件特許発明8及び9により生産した物の使用をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明5ないし9に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 5(1)のとおり主張している。
そこで、上記主張について検討するに、発明の詳細な説明の【0036】の記載から、当業者は、「遊離アミノ酸の含有量」は「改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(IM)ニンヒドリン比色法」」(甲22)に記載の「遊離アミノ態窒素」を測定する方法で測定するものであると理解する。すなわち、甲22に「淡色あるいは濃色の麦汁やビール中の遊離アミノ態窒素(FANと略す)を測定する。この方法はアミノ酸、アンモニアの他に、更にペプチドや蛋白の末端α-アミノ態窒素もある程度測定する。」(1/4ページ)と記載されているように、「アミノ酸、アンモニアの他に、更にペプチドや蛋白の末端α-アミノ態窒素もある程度」含んだものを測定し、それを「遊離アミノ酸の含有量」とすると当業者は理解する。
したがって、「「改訂BCOJビール分析法(ビール酒造組合国際技術委員会編、2013年)の「8.18 遊離アミノ酸窒素(IM)ニンヒドリン比色法」に記載の方法」(【0036】)によって遊離アミノ酸の含有量を測定する方法を理解できず」とはいえないし、「当業者は、請求項5に記載された遊離アミノ酸の含有量の全範囲にわたって発明を実施することができない。」ともいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由5(1)についてのむすび
したがって、本件特許の請求項5ないし9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由5(1)によっては取り消すことはできない。
4 申立理由6(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。
イ 発明の課題
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0004】によると、本件特許発明1ないし7の解決しようとする課題は「適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規なビールテイスト飲料」を提供することであり、本件特許発明8及び9の解決しようとする課題は「適切な飲みごたえを有し、よりビールテイスト飲料らしい新規なビールテイスト飲料の製造方法」を提供することである(以下、総称して「発明の課題」という。)。
ウ 判断
発明の詳細な説明の【0005】には「本発明は、アルコール度数及び濁度を所定の範囲に調整し、リナロールを所定値以下の含有量で含有したビールテイスト飲料を提供する。具体的には、本発明は、下記態様[1]~[13]を提供する。」と記載され、「下記態様[1]~[13]」として、本件特許発明1ないし9に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0011】には「本発明の一態様のビールテイスト飲料は、アルコール度数が5.0(v/v)%以下に調整しているため、程良い酔いを感じやすいビールテイスト飲料とすることができ、アルコール飲料に抵抗感がある需要者にも適した飲料となり得る。」と記載され、同【0015】には「そこで、本発明の一態様のビールテイスト飲料は、程良い酔いを感じやすく、且つ、ビールテイスト飲料に適切な飲みごたえを付与した飲料とする観点から、さらに、ビールテイスト飲料の濁度を22Helm以上に調整している。」と記載され、同【0017】には「本発明の一態様のビールテイスト飲料において、前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕は、程良い酔いを感じやすくすると共に、飲みごたえをより向上させたビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは15以上、・・・(略)・・・また、不適な異臭をより効果的に抑制したビールテイスト飲料とする観点から、好ましくは1500以下、・・・(略)・・・としてもよい。」と記載され、同【0022】には「なお、本発明の一態様のビールテイスト飲料において、濁度が22Helm以上であれば、酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行なった飲料であってもよいが、当該フィルターを通す濾過を行わない飲料であることが好ましい。」と記載され、同【0024】には「このようなビールテイスト飲料に不適なコスメティックな香りを効果的に抑制した飲料とする観点から、本発明の一態様のビールテイスト飲料は、リナロール量の含有量を120μg/L以下に制限している。」と記載され、同【0028】には「本発明の一態様のビールテイスト飲料の糖質濃度は、・・・(略)・・・1.5g/100mL超、・・・(略)・・・としてもよい。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0092】ないし【0102】において、「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、濁度が22Helm以上であり、糖質濃度が1.5g/100mL超であり、リナロールを120μg/L以下で含有し、前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた」という条件を満たす試験用飲料(実施例1~13)が、上記条件を満たさない試験用飲料(比較例1~11)と比べて、適切な飲みごたえを有し、よりビールらしい飲料となっていることを確認している。
そうすると、当業者であれば、発明の詳細な説明に記載された事項及び出願時の技術常識から、「アルコール度数が5.0(v/v)%以下であり、濁度が22Helm以上であり、糖質濃度が1.5g/100mL超であり、リナロールを120μg/L以下で含有し、前記濁度(単位:Helm)と前記アルコール度数(単位:(v/v)%)との比〔濁度/アルコール度数〕が、15~1500であり、酵母を用いた発酵の工程後に孔径30μm未満のフィルターを通す濾過を行わずに得られた、ビールテイスト飲料。」及び「該ビールテイスト飲料の製造方法」は、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし7は、発明の課題を解決できると認識できる上記「ビールテイスト飲料」をさらに限定したものであり、本件特許発明8及び9は、発明の課題を解決できると認識できる上記「ビールテイスト飲料の製造方法」をさらに限定したものであるから、本件特許発明1ないし9は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に照らし、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるいえる。
したがって、本件特許発明1ないし9に関して、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものであるといえる。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記第4 6のとおり主張している。
そこで、上記主張について検討するに、当業者が発明の課題を解決できると認識できる「ビールテイスト飲料」及び「ビールテイスト飲料の製造方法」は、上記(2)のとおりであり、「酵母数」がどの程度であるかは関係がない。
また、上記「ビールテイスト飲料」及び「ビールテイスト飲料の製造方法」であっても、発明の課題を解決できないものがあることの具体的な証拠が示されている訳でもない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4)申立理由6についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由6によっては取り消すことはできない。
第8 結語
上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし9に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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