特許異議申立
2024-700179
低アルコールビール
- 審判番号
- 2024-700179
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-512434
- 登録番号
- 7334237
- 請求日
- 2024年02月27日
- 審決日
- 2025年03月21日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ハイネケン サプライ チェーン ベー.フェー.
- 【権利者代理人】村山 靖彦
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】阿部 達彦
- 【異議申立人】秋山 朋毅
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 淺野 美奈
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C) / P1651.536-YAA(C12C) / P1651.537-YAA(C12C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第2条第3項第3号、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7334237号発明「低アルコールビール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7334237号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔41-56〕について訂正することを認める。
特許第7334237号の請求項1ないし56に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7334237号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2018年(平成30年)9月10日を国際出願日とする出願であって、令和5年8月18日にその特許権の設定登録(請求項の数56)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和6年2月27日に特許異議申立人 秋山 朋毅(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:全請求項)がされ、同年6月21日付けで取消理由が通知され、同年9月24日に特許権者 ハイネケン サプライ チェーン ベー. フェー.(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年10月21日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、同年11月22日に特許異議申立人より意見書の提出があったものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、「特許第7334237号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項41~56について訂正することを求める。」というものである。
2 訂正の内容等
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の(1)ないし(3)のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項41に
「エタノール含有量が0~1.0体積%のビールであって、
a)グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が少なくとも0.2g/100ml且つ多くとも3.0g/100mlであり、
b)2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義されるストレッカーアルデヒドの合計が、10~50μg/lの量であり、
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドの全重量のマルトースに対する重量比が、0.01~15μg/マルトース1gである、ビール。」と記載されているのを、
「エタノール含有量が0~0.2体積%のビールであって、
a)グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が少なくとも0.2g/100ml且つ多くとも3.0g/100mlであり、
b)2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義されるストレッカーアルデヒドの合計が、10~50μg/lの量であり、
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドの全重量のマルトースに対する重量比が、0.01~15μg/マルトース1gである、ビール。」に訂正する。
請求項41の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項42ないし56についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項51に
「糖含有量が、50~100重量%のマルトースを含む、請求項41から49のいずれか一項に記載のビール。」と記載されているのを、
「糖含有量が、50~80重量%のマルトースを含む、請求項41から49のいずれか一項に記載のビール。」に訂正する。
請求項51の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項52ないし56についても同様に訂正する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項52に
「20~250mg/lの遊離アミノ窒素(FAN)をさらに含む、請求項41から51のいずれか一項に記載のビール。」と記載されているのを、
「20~250mg/lの遊離アミノ窒素(FAN)及び1~20μg/lのプロパン酸エチルをさらに含む、請求項41から51のいずれか一項に記載のビール。」に訂正する。
請求項52の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項53ないし56についても同様に訂正する。
(4) 一群の請求項について
訂正前の請求項41ないし56について、請求項42ないし56は、請求項41を直接又は間接的に引用して特定するものであるから、訂正前の請求項41ないし56に対応する訂正後の請求項41ないし56は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項41の訂正は、ビールのエタノール含有量を「0~1.0体積%」であったところ、「0~0.2体積%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項41の訂正は、本件特許の明細書の【0018】及び【0054】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項41の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項42ないし56についても同様である。
(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項51の訂正は、糖含有量が「50~100重量%のマルトースを含む」ものであったところ、「50~80重量%のマルトースを含む」ものと限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項51の訂正は、本件特許の明細書の【0059】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項51の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項52ないし56についても同様である。
(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る請求項52の訂正は、ビールに「1~20μg/lのプロパン酸エチル」をさらに含むことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3に係る請求項52の訂正は、本件特許の明細書の【0067】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項52の記載を直接または間接的に引用して特定する請求項53ないし56についても同様である。
4 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔41-56〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項〔41-56〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし56に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明56」という。また、総称して「本件特許発明」という。)は、令和6年9月24日に提出された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし56に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
エタノール含有量が0~1.0体積%のビールを調製する方法であって、
・制限発酵ビールおよびレギュラービールを含む、エタノール含有量が0~20体積%の媒体を用意することと、
・前記媒体を蒸留ステップに供し、それによって、前記媒体における2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールからなる群から選択される1種または複数のアルデヒドの量を低減し、それによって、エタノールが存在する場合その含有量も0~1.0体積%の範囲の含有量に低減することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記蒸留が、10~100℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸留が、20~65℃の温度で行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸留が、30~50℃の温度で行われる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸留が、40~46℃の温度で行われる、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸留が、0.01~500mbarの圧力で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記蒸留が、1~200mbarの圧力で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記蒸留が、50~150mbarの圧力で行われる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記蒸留が、80~110mbarの圧力で行われる、請求項6から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記媒体が、制限発酵ビールおよび1~15体積%のエタノールを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記媒体が、制限発酵ビールおよび2.5~10体積%のエタノールを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
・2-メチルプロパナールの量が、18μg/l未満に低減される、かつ/または
・2-メチルブタナールの量が、3.8μg/l未満に低減される、かつ/または
・3-メチルブタナールの量が、14μg/l未満に低減される、かつ/または
・3-メチルチオプロピオンアルデヒドの量が、10μg/l未満に低減される、かつ/または
・フェニルアセトアルデヒドの量が、20μg/l未満に低減される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
2-メチルプロパナールの量が、10μg/l未満に低減される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
2-メチルプロパナールの量が、2~10μg/lに低減される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
2-メチルブタナールの量が、0.2~2.5μg/lに低減される、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
3-メチルブタナールの量が、1~10μg/lに低減される、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
3-メチルチオプロピオンアルデヒドの量が、2~8μg/lに低減される、請求項12から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
フェニルアセトアルデヒドの量が、1~8μg/lに低減される、請求項12から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドの合計が、50μg/l未満に低減される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールの合計が、80μg/l未満に低減される、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記レギュラービールが、ラガービールである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記レギュラービールが、ピルスナーである、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
制限発酵ビールおよびレギュラービールが、1:99~99:1の体積比で存在する、請求項1から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
制限発酵ビールおよびレギュラービールが、5:95~50:50の体積比で存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記制限発酵ビールが、エタノール含有量1.0体積%未満をもたらす麦汁の制限エタノール発酵により得られた発酵ビールである、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記制限発酵ビールが、7℃未満の発酵温度を特徴とする麦汁の制限エタノール発酵により得られた発酵ビールである(「低温接触発酵ビール」)、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
麦汁の発酵が、-1~4℃の発酵温度を特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
麦汁の発酵が、-0.5~2.5℃の発酵温度を特徴とする、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
麦汁の発酵が、8~72時間の発酵時間を特徴とする、請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
麦汁の発酵が、12~48時間の発酵時間を特徴とする、請求項26から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記制限発酵ビールが、2時間未満の発酵時間であり、発酵が、温度不活性化、場合によってその後引き続いて殺菌によって急速に止まることを特徴とする麦汁の制限エタノール発酵により得られた発酵ビールである(「停止発酵ビール」)、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
温度不活性化が、-0.5~1℃への急速冷却である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記制限発酵ビールが、適用された発酵条件下で麦汁において発酵性糖1グラム当たりエタノール0.2g未満を産生する酵母株による発酵を特徴とする麦汁の制限エタノール発酵により得られた発酵ビールである(「酵母制限ビール」)、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記酵母株が、麦汁において発酵性糖1グラム当たりエタノール0.1g未満を産生する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記酵母株が、クラブトリー陰性酵母株である、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記制限発酵ビールが、第1のエタノール産生酵母株を使用し、エタノールを消費する第2の酵母株が、第1の酵母株によって産生されるエタノールの実質的にすべてを消費するのに十分な量で存在する下での発酵を特徴とする麦汁の制限エタノール発酵により得られた発酵ビールである、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
第2の酵母株が、サッカロマイセス・ルキシーである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記制限発酵ビールが、発酵性糖の含有量がその発酵完了後に最大1.0体積%のアルコールを産生するような麦汁であって、前記麦汁は、発酵性糖の含有量が17.5g/l未満であることを特徴とする麦汁の制限エタノール発酵により得られた発酵ビールである(「糖不足麦汁ビール」)、請求項25に記載の方法。
【請求項39】
麦汁は、発酵性糖の含有量が12g/l未満である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
麦汁は、発酵性糖の含有量が8g/l未満である、請求項38又は39に記載の方法。
【請求項41】
エタノール含有量が0~0.2体積%のビールであって、
a)グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が少なくとも0.2g/100ml且つ多くとも3.0g/100mlであり、
b)2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義されるストレッカーアルデヒドの合計が、10~50μg/lの量であり、
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドの全重量のマルトースに対する重量比が、0.01~15μg/マルトース1gである、ビール。
【請求項42】
a)18μg/l未満の2-メチルプロパナール、および/または
b)3.8μg/l未満の2-メチルブタナール、および/または
c)14μg/l未満の3-メチルブタナール、および/または
d)10μg/l未満の3-メチルチオプロピオンアルデヒド、および/または
e)20μg/l未満のフェニルアセトアルデヒド
を有する、請求項41に記載のビール。
【請求項43】
2-メチルプロパナールが10μg/l未満である、請求項42に記載のビール。
【請求項44】
2-メチルプロパナールが2~10μg/lである、請求項42に記載のビール。
【請求項45】
2-メチルブタナールが0.2~2.5μg/lである、請求項42から44のいずれか一項に記載のビール。
【請求項46】
3-メチルブタナールが1~10μg/lである、請求項42から45のいずれか一項に記載のビール。
【請求項47】
3-メチルチオプロピオンアルデヒドが2~8μg/lである、請求項42から46のいずれか一項に記載のビール。
【請求項48】
フェニルアセトアルデヒドが1~8μg/lである、請求項42から47のいずれか一項に記載のビール。
【請求項49】
全糖含有量が、0.5~2.0g/100mlである、請求項42から48のいずれか一項に記載のビール。
【請求項50】
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールの合計と定義されるアルデヒドの合計が、80μg/l未満である、請求項41から49のいずれか一項に記載のビール。
【請求項51】
糖含有量が、50~80重量%のマルトースを含む、請求項41から49のいずれか一項に記載のビール。
【請求項52】
20~250mg/lの遊離アミノ窒素(FAN)及び1~20μg/lのプロパン酸エチルをさらに含む、請求項41から51のいずれか一項に記載のビール。
【請求項53】
50~200mg/lの遊離アミノ窒素(FAN)を含む、請求項52に記載のビール。
【請求項54】
75~150mg/lの遊離アミノ窒素(FAN)を含む、請求項52又は53に記載のビール。
【請求項55】
5mg/l未満のアセトアルデヒドをさらに含む、請求項41から54のいずれか一項に記載のビール。
【請求項56】
3mg/l未満のアセトアルデヒドを含む、請求項55に記載のビール。」
第4 特許異議申立理由の要旨
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし56に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
1 申立理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項41ないし44、46及び49ないし55に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項41ないし56に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 申立理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし56に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由3の具体的理由は概ね次のとおりである。
本件特許の明細書には、本件特許発明のビールを実際に製造した実施例が記載されている。本件特許発明のビールの製造方法は、制限発酵ビール(CC)及び市販のラガービール(LB)を準備し、両者を所定の体積比で混合し、その後蒸留するというものである(【0091】~【0093】)。蒸留前ビールは、ラガービールと制限発酵ビールを50対50(50/50 LB/CC)、80対20(80/20 LB/CC)、90対10(90/10 LB/CC)の体積比で混合して、それぞれ製造されている。
蒸留前ビール及び蒸留後ビールは、アルデヒド、エタノール、糖、エステル及びアミノ酸の濃度が分析され、各数値が対比されている(【0095】・【表1】)。
ここで、表1の「50/50 LB/CC」ビールにおける蒸留前の欄を参照すると、3-メチルブタナールの濃度は4.79μg/lである。また、当該蒸留前ビールの一方の原料である制限発酵ビール(CC)の3-メチルブタナールの濃度は、表1の「CC」ビールにおける蒸留前の欄を参照すると、10.07μg/lである。他方の原料であるラガービール(LB)の3-メチルブタナールの濃度は不明であるけれども、仮にラガービール(LB)の3-メチルブタナールの濃度が0であったと仮定すると、「CC」ビールと「LB」ビールを体積比50対50で混合した場合に得られる蒸留前ビールにおける3-メチルブタナールの濃度は、10.07/2+0=5.035μg/lと計算されるところ、「50/50 LB/CC」ビールにおける蒸留前の欄に記載された3-メチルブタナールの濃度「4.79μg/l」よりも高い濃度となってしまう。
つまり、3-メチルブタナールの濃度が10.07μg/lである「CC」ビールと「LB」ビールとを50対50の体積比で混合した場合、得られる蒸留前ビールの3-メチルブタナール濃度が、「CC」ビールの濃度の半分以下の量になることは、技術的にあり得ないし、実現する方法が存在しない。
「50/50 LB/CC」の蒸留前ビールは、trans-2-ノネナール及びスクロース濃度についても、「CC」ビールの蒸留前の濃度の半分より少ない量となっており、これらも実現不可能な濃度といえる。
つまり、本件特許の明細書の実施例1の記載に基づいて、「50/50 LB/CC」の蒸留前ビールを製造することは不可能であり、これを蒸留する本件特許発明のビールを製造することも不可能である。
このように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施することができない実施例を含んでおり、実施可能要件に違反するものである。
4 申立理由4(サポート要件)
本件特許の請求項41ないし56に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
なお、申立理由4の具体的理由は概ね次のとおりである。
本件特許発明41~56は、特性値を表す技術的な変数により示される範囲をもって特定した物を構成要件とするものであり、いわゆるパラメータ発明に関するものであるので、サポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的意味が、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該変数が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体的に開示して記載することを要するものと解するのが相当である(知財高裁平成17年11月11日判決、平成17年(行ケ)第10042号、判例時報1911号48頁参照)。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、アルデヒドのある基準レベルが豊かなビールの味を付与するのに好ましいこと、前記基準レベルのアルデヒドを好適なフレーバー化合物と組み合わせると、甘みが低く、かつ麦汁フレーバーが低い、適切にバランスがとれたビールが得られることは記載されている(【0035】)が、例えば糖類濃度がどのように寄与するのか等、効果が奏される作用機構の詳細は記載されておらず、甘い味や麦汁フレーバーの低減に見るべき影響を与えるのが、特定種類のストレッカーアルデヒド(特にその個々の化合物)、特定種類の糖類(特にその個々の化合物)及びこれらの濃度及び比率のみであることは理解することができない。
また、実施例2の官能評価試験方法においては、評価基準について、17名のパネルに認知された強度をラインスケールで示しているが、スケールの最低点及び最高点、それぞれに帰属する官能強度、スケールの段数が記載されていない。そうすると、本件特許発明の点数と市販のビールの点数との相違が有意なものか、微差に過ぎないのかを、評価された点数から判断することができない。
つまり、「甘い味」、「麦汁フレーバー」等の試験項目を1点上げるにはどの程度その風味が強くなればよいのかをパネラー間で共通にするなどの手順が踏まれたことや、各パネラーの個別の評点が記載されていない。したがって,少しの風味変化で加点又は減点の幅を大きくとらえるパネラーや、大きな風味変化でも加点又は減点の幅を小さくとらえるパネラーが存在する可能性が否定できず、各飲料の風味の評点を全パネラーの平均値でのみ示すことで当該風味を客観的に正確に評価したものととらえることも困難である。
更に、市販のビールA~Eは、成分組成が記載されていないのでそもそも市販のビールがアルデヒド及び糖の種類や量等の特性値に関し本ビールとどのように相違するものかを、理解することができない。
つまり、実施例2の官能評価試験からでは、請求項41~56で特定された特性値の範囲にわたって、実際に、市販のゼロまたは低アルコールビールより、麦汁の味が低く、甘い味が低く、味の強度が低く、その結果フレーバーが強すぎないことを当業者が理解できるとはいえない。
また、実施例2の官能評価試験の結果において、市販のゼロまたは低アルコールビールより、麦汁の味が低く、甘い味が低く、味の強度が低く、その結果フレーバーが強すぎないとされているビールは、実施例1の蒸留後のビール、具体的には「50/50 LB/CC」、「80/20 LB/CC」、「90/10 LB/CC」の蒸留後のビールである。
これら実施例1の蒸留後の低アルコールビールの特性値は、
全糖:1.45~2.85
ストレッカーの総和:13.47~18.01
マルトース1gあたりの全糖の量:0.797~2.312
と、本件特許発明41において特定されている特性値に比してかなり狭い範囲にすぎない。
つまり、実施例1の蒸留後のビールは、請求項41で特定された特性値の範囲にわたって、実際に、市販のゼロまたは低アルコールビールより、麦汁の味が低く、甘い味が低く、味の強度が低く、その結果フレーバーが強すぎないビールを網羅したものとはいえない。請求項42~56で特定された特性値の範囲についても同様である。
そもそも、上記3のとおり、表2に示された「本ビール」の官能評価試験の点数は、実施不可能な「50/50 LB/CC」ビールについての点数も含めた数値の平均値になっており、表2に示された官能評価試験の結果は瑕疵を含み、効果を客観的に示していない数値といえる。
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明41~56の構成要件によって課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されていない。したがって、本件特許請求の範囲の記載は、サポート要件に違反しているものである。
5 証拠方法
・甲第1号証:Loredana Liguori et al., “Production and characterization of alcohol-free beer by membrane process”, Food and Bioproducts Processing, 94 (2015) 158-168, 2015年3月7日
・甲第2号証:熊田順一、「醸造成分・ビール 第2章 炭水化物」、日本醸造協会雑誌、1976年第71巻第8号、第611~612頁
・甲第3号証:吉田重厚、「醸造成分 第1章 ビールの一般成分」、日本醸造協会雑誌、1976年第71巻第7号、第505~510頁
・甲第4号証:Cristina Andres-Iglesias et al., “Comparison of carbonyl profiles from Czech and Spanish lagers: Traditional and modern technology”, LWT - Food Science and Technology, 66 (2016) 390-397, Elsevier, 2015年10月30日
・甲第5号証:蛸井潔、「ビールをはじめとする酒類の香り研究について -近年の成果とトレンド-」、日本醸造協会雑誌、2015年第110巻第7号、第479~488頁
・甲第6号証:国武直之、「醸造成分・ビール 第3章 含窒素化合物」、日本醸造協会雑誌、1976年第71巻第9号、第682~688頁
・甲第7号証:知財高裁平成31年3月13日判決、平成30年(行ケ)第10076号
・甲第8号証:知財高裁平成29年6月8日判決、平成28年(行ケ)第10147号
なお、特許異議申立人は、令和6年11月22日提出の意見書(以下、「意見書」という。)に添付して、次の甲第9号証ないし甲第11号証を提出している。
・甲第9号証:特開2016-144412号公報
・甲第10号証:特表2018-531601号公報
・甲第11号証:「醸造物の成分」、財団法人日本醸造協会編集、平成11年12月10日発行、第210頁ないし第213頁
証拠の表記は、特許異議申立書及び意見書の記載におおむね従った。
第5 令和6年6月21日付けで通知した取消理由の概要
令和6年6月21日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。なお、取消理由には、申立理由1ないし4が包含される。
1 取消理由1(甲第1号証を主たる証拠とする新規性)
本件特許の請求項41ないし44、46及び49ないし55に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2 取消理由2(甲第1号証を主たる証拠とする進歩性)
本件特許の請求項41ないし56に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
3 取消理由3(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし56に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3の具体的理由は次のとおりである。
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明のビールを実際に製造した実施例が記載されており(【0091】~【0095】)、当該実施例の記載によると、制限発酵ビール(CC)及び市販のラガービール(LB)を準備し、両者を所定の体積比で混合し、その後蒸留するというものである。ここで、実施例における蒸留前のビールは、ラガービールと制限発酵ビールとを50対50(50/50 LB/CC)、80対20(80/20 LB/CC)、90対10(90/10 LB/CC)の体積比でそれぞれ混合して製造されている。
そして、蒸留前のビール及び蒸留後のビールは、アルデヒド、エタノール、糖、エステル及びアミノ酸の濃度が分析され、各数値が対比されている(【0095】・【表1】)。
ここで、表1の「50/50 LB/CC」のビールにおける蒸留前の欄を参照すると、3-メチルブタナールの濃度は4.79μg/lである。当該蒸留前のビールの一方の原料である制限発酵ビール(CC)の3-メチルブタナールのl濃度は、表1のCCの蒸留前の欄を参照すると10.07μg/lである。
すると、「50/50 LB/CC」の蒸留前のビールには、制限発酵ビール(CC)由来の3-メチルブタナールが10.07μg/l×1/2=5.035μg/l含まれるものと考えられるところ、「50/50 LB/CC」の蒸留前のビールにおける3-メチルブタナールの濃度は4.79μg/lと、制限発酵ビール(CC)由来の3-メチルブタナールの濃度よりも低くなっている(同じことはtrans-2-ノネナール、スクロースについてもいえる。)。
してみると、当業者において、表1における蒸留前の「CC」及び「LB」を準備できたとしても、表1の成分組成を満たす「50/50 LC/CC」の蒸留前のビールを製造することは不可能であると言わざるを得ない。
このように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明における実施例は、当業者が実施することができないものであり、本件特許発明1ないし56に係る本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、実施可能要件を満足しない。
4 取消理由4(サポート要件)
本件特許の請求項41ないし56に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由4の具体的理由は次のとおりである。
上記4のとおり、表2に示された「本ビール」の官能評価試験の点数は、実施不可能な「50/50 LB/CC」ビールについての点数も含めた数値の平均値になっており、表2に示された官能評価試験の結果は瑕疵を含むものであり、当該記載を根拠として、効果発現の有無を当業者が認識することができない。
そうすると、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明41~56の構成要件によって課題が解決できることを当業者において認識できるように記載されているとはいえないから、サポート要件を満足するものとはいえない。
第6 当審の判断
当審は、以下のとおり、取消理由1ないし4の理由では、本件特許の請求項1ないし56に係る特許を取り消すことはできないものと判断する。
1 取消理由1及び取消理由2(甲第1号証を主たる証拠とする新規性・進歩性)について
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「Production and characterization of alcohol-free beer by membrane process」に関して、次の記載がある。なお、甲第1号証は外国語文献のため、訳文のみ摘記する。
<第158頁>
「標題
膜プロセスによるアルコールフリービールの製造及び特性
要約
アルコールフリーのビールは酸造業の二次製品であるが、世界的な健康志向と、適度な飲酒の利点に関する認識が、その製造の動機を高めている。揮発性化合物の減少量を最小限に抑え、水の消費量を減らし、ひいては環境への影響を減らすために、改良浸透圧蒸留(osmotic distillation)が研究された。特に、ここで提案されている浸透圧蒸留技術は、ビールのバッチの予備的脱アルコールエ程のストリッピング溶液を、さらなるバッチの脱アルコール工程へ再利用するものである。
コスト試算の結果、提案されたプロセスの改良により、従来の浸透圧蒸留プロセスで運転コストに悪影響を及ぼしていた剥離水のコストを大幅に削減できることが示された。
ビールの品質に関しては、色やポリフェノール含有量などの特性は、脱アルコールビールでは元のビールとほとんど変わらなかったが、苦味、泡の安定性、濁度、酸素含有量、二酸化炭素含有量は統計的に相違した。
アルコールフリーと元のビールの比較から、揮発性化合物の含有量の変化が観察された。揮発性化合物の減少量は、高級アルコールで77%、エステルで99%、アルデヒドで93%であった。しかし、本研究で得られた揮発性化合物の減少量は、透析、落下膜蒸発、減圧蒸留、逆浸透膜によるビールの脱アルコールに関する文献の結果と非常に類似していた。
炭酸添加、熟成に続く新鮮な酵母の添加、あるいはクラウゼン、原酒、アロマティック・ビールとのブレンドなどの後処理やブレンド技術を使用することで、製品の品質は向上する。」
<第159頁右欄、下から第13行~第160頁左欄第2行>
「本論文の目的は、予備脱アルコールエ程でリサイクルされる透過液をストリッピング剤として使用するビールの脱アルコールに、浸透圧蒸留を適用することの実現可能性を研究することである。揮発性化合物の減少量を最小限に抑え、水の消費量を削減し、環境への影響を低減するために、このストリッピング剤の選択は有効な選択肢であると考えられる。さらに、ストリッピング液から回収したエタノールは、アルコール飲料の製造において配合原料として利用できる可能性がある。アルコールフリービールの主な特性(すなわち、重蓋、苦味、濁度、泡の安定性、酸素及び二酸化炭素の含有量、アルコール含有量、色、pH、ポリフェノール、抗酸化活性)、およびアロマ・プロファイルを評価し、元のラガービールと比較した。」
<第163頁左欄、本文、第8行~末行>
「4.3.アルコールフリービールの品質
処理がビールの品質に与える影帯を評価するために、元のビール及びアルコールフリービールについて、通常のビール分析を行った(表1)。
2つのビールの間で真正エキス(約3.5重量%)に有意差が認められなかったこと(p<0.05)は特筆すべきである。このことは、エタノール比重が低いことで歪められる、原麦汁エキス及び外観エキスとは区別される。」
<第165頁左欄>
「表1-元のビール及びアルコールフリービールの化学的及び物理的な特性値。(a、b)の文字の相違は、有意差(p<0.05)を意味する。
[図:0001423469000001.jpg]
」
<第165頁右欄、第19行~第36行>
「アルデヒドはビールに含まれる風味活性化合物で、ビールの風味を悪くする原因となる(Hughes, 2009)。ビールからは200種類以上のカルボニル化合物が検出され、中でもアセトアルデヒドの濃度が最も高かった。アセトアルデヒドは一般的に1~20mg/Lの範囲で存在し、アルデヒド全体の約60%を占める(Boekhout and Robert, 2003)。これは、ビールに明確な青リンゴのアロマを与えるが、これは多くの場合、ビールのオフフレーバーとされている(Pajunen et al, 2001)。元のビール中のアセトアルデヒド量は約56mg/Lで、93%脱アルコール後に減少した(表2)。アルデヒド化合物のうち、ストレッカーアルデヒド、2-メチルプタナール(閾値=1.25mg/L)、3-メチルプタナール(閾値=0.6mg/L)、メチオナール(閾値=0.25mg/L)、フェニルアセトアルデヒド(閾値=1.6mg/L)は、ビールの「老化」風味に寄与する重要な構成である(Gijs et al., 2000)。これらの化合物の濃度は、表3に示すように、味覚閾値よりも低かった。」
<第166頁>
「表2-元のビール及びアルコールフリービールの揮発性成分。(a、b)の文字の相違は、有意差(p<0.05)を意味する。
[図:0001423469000002.jpg]
」
<第167頁左欄、第6行~第16行>
「5.結論
ラガービール(5vol.%)からアルコールフリー(0.5vol.%未満)のビールを、予備脱アルコール工程からのリサイクル溶液をストリッピング剤として用いた改良浸透圧蒸留により、4回の脱アルコール工程を経て製造した。
この技術を使用することで、水の消費量を大幅に削減し、脱アルコールによる環境への影響を減らすことができる。
ビールの色、重力、苦味、ポリフェノール含有量などの特性値を測定した結果、元のビールとアルコールフリービールの間に有意差は認められなかった。」
イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に表1及び表2に記載されたアルコールフリービールに着目して整理すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「ラガービール(4.95vol.%)から改良浸透圧蒸留により脱アルコール工程を行うことで得られたアルコールフリービール(0.46vol.%)であって、
全窒素量が557mg/Lであり、
真正エキスが3.48wt%であり、
アセトアルデヒドが3.784mg/L、2-メチルブタナールが0.003mg/L、3-メチルブタナールが0.009mg/L、フェニルアセトアルデヒドが0.016mg/L、フルフラールが0.001mg/L未満、メチオナールが0.001mg/L未満、トランス-2-ノネナールが0.001mg/L未満である、
アルコールフリービール。」(以下、「甲1発明」という。)
(2) 対比・判断
ア 本件特許発明41について
本件特許発明41と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「アルコールフリービール」は、本件特許発明41の「ビール」に相当する。
してみると、両者は、
「ビール。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
ビールのエタノール含有量に関して、本件特許発明41は「0~0.2体積%」と特定するのに対して、甲1発明は「0.46vol.%」である点。
(相違点2)
本件特許発明41は「a)グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が少なくとも0.2g/100ml且つ多くとも3.0g/100mlであり、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
(相違点3)
本件特許発明41は「b)2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義されるストレッカーアルデヒドの合計が、10~50μg/lの量であり、
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドの全重量のマルトースに対する重量比が、0.01~15μg/マルトース1gである、」と特定するのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。
上記相違点について検討する。
・相違点1について
甲1発明のアルコールフリービールのエタノール含有量は、甲第1号証の表1に記載されるように「0.46vol.%」であるから、相違点1は実質的な相違点である。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明41は甲1発明ではない。
また、甲第1号証及び他の全ての証拠の記載を見ても、甲1発明において、エタノール含有量を変更し、相違点1に係る本件特許発明41の発明特定事項を満たすものとする動機付けがない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明41は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
なお、この点に関し、特許異議申立人は令和6年11月22日提出の意見書(以下、「意見書」という。)において、甲第9号証、甲第10号証を引用しつつ、甲1発明において公知あるいは周知の脱アルコールに関する技術(発酵工程、希釈、蒸留、吸着等)を適用し、相違点1に係る本件特許発明41の発明特定事項を満たすものとすることは当業者が容易になし得たこと等を主張する(意見書第2頁ないし第3頁)。
しかしながら、甲1発明から希釈、蒸留、吸着等で脱アルコールあるいは低アルコール化を図る場合、他の香気成分の含有量にも当然影響が及ぶものであるから、この場合、アルコール以外の成分の割合が不明となる。また、発酵工程を変更する場合においても、甲1発明のアルコールフリービールの調整方法は甲1に記載されたとおりであるから、その方法を変更する動機があるとまではいえないし、仮に変更することができたとしても、発酵工程が変わる以上、やはり他の香気成分の含有量に影響が及ぶことになるから、この場合も、アルコール以外の成分の割合が不明となる。
以上の点から、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
イ 本件特許発明42ないし56について
本件特許発明42ないし56は、いずれも、本件特許発明41の発明特定事項を全て有し、さらに限定するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明41が甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明42ないし44、46及び49ないし55は甲1発明ではなく、本件特許発明42ないし56は甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 取消理由1及び取消理由2についてのまとめ
上記(2)のとおりであるから、取消理由1及び取消理由2の理由では、本件特許発明41ないし56に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由3(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし40は、上記第3のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、本件特許発明41ないし56は、上記第3のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
(2) 実施可能要件についての判断
本件特許発明は、
「改善されたフレーバーを有するゼロまたは低アルコールビールの生成に関する、さらに詳細には、・・・いわゆる「麦汁」フレーバーノートが低減された非アルコール性発酵ビールを生成するプロセスを提供する」(【0001】)
ものであって、
「エタノール含有量が0~1.0体積%のビールを調製する方法であって、
・制限発酵ビールおよびレギュラービールを含む、エタノール含有量が0~20体積%の媒体を用意することと、
・前記媒体を蒸留ステップに供し、それによって、前記媒体における2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールからなる群から選択される1種または複数のアルデヒドの量を低減し、それによって、エタノールが存在する場合その含有量も0~1.0体積%の範囲の含有量に低減することと
を含む、方法。」(【請求項1】)であるか、
「エタノール含有量が0~0.2体積%のビールであって、
a)グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が少なくとも0.2g/100ml且つ多くとも3.0g/100mlであり、
b)2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義されるストレッカーアルデヒドの合計が、10~50μg/lの量であり、
2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドの全重量のマルトースに対する重量比が、0.01~15μg/マルトース1gである、ビール。」(【請求項41】)とするものである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「エタノール含有量が0~1.0体積%のビールを調製する方法であって、制限発酵ビールを含む、エタノール含有量が0~20体積%の媒体を用意することと、前記媒体を蒸留ステップに供し、それによって、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド(「メチオナール」)、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールからなる群から選択される1種または複数のアルデヒドの量を低減し、それによって、エタノールが存在する場合その含有量も0~1.0体積%の範囲の含有量に低減すること」(【0012】)により、「アルデヒドが除去され、それによって、好ましい低アルデヒド量、および好ましいアルデヒドと糖の比になるという利点を有する」(【0013】)こと及び「本方法により、いわゆる「麦汁」オフフレーバー(off-flavors)を引き起こすアルデヒドを除去し、同時にエタノール含有量を下げて、ゼロまたは低アルコールビールを得ることが可能になる。さらに、当該方法は、ゼロまたは低アルコールビールの甘い味の低減、それによって強すぎるフレーバーの低減または除去を可能にする。これにより、ビールがより飲用に適したものとなる」(【0013】)ことが記載され、「ビール」についての記載(【0017】)、「ゼロまたは低アルコールビール」についての記載(【0018】)「アルデヒド」または「全アルデヒド」についての記載(【0019】)、「制限発酵ビール」についての記載(【0021】ないし【0035】)、フレーバー化合物に関する記載(【0040】ないし【0043】)、AcHFAに関する記載(【0045】ないし【0052】)、各含有成分のビール中での好ましい割合に関する記載(【0054】ないし【0071】)がそれぞれあり、具体的な実施例の記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明1のビールを調製する方法を実施することができるものといえるし、また、本件特許発明41のビールを得ることもできるといえる。
請求項1の記載を直接または間接的に引用して特定する本件特許発明2ないし40及び請求項41の記載を直接または間接的に引用して特定する本件特許発明42ないし56についても、同様に判断される。
(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は意見書において、本件特許明細書の【0095】の【表1】における測定値は桁数が揃えられていることから見て、表1に記載された数値は有効部分が記載されていると理解できるものであること、特許権者が令和6年9月24日に提出した意見書で主張するところの測定誤差を加味した主張をみても不合理な点が残るものであり、「50LB/50CC蒸留前ビールを製造することはできない」こと等を主張する(意見書第7頁ないし第10頁)。
確かに、本件特許明細書の【0095】の【表1】における記載を見るに、表1に掲げられている成分によっては、奇異な点があると思われるところであるが、特許法第36条第4項第1号で規定するところの実施可能要件は、上記(1)の判断基準に従って判断されるものであり、本件特許の明細書の発明の詳細な説明全体の記載からみて、本件特許発明が実施可能であるかどうかは上記(2)のとおり判断されるものであり、実施例の一部に疑義があるとしても、そのことをもって本件特許発明が実施できないとまでいうことはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
(4) 取消理由3についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、取消理由3の理由では、本件特許発明1ないし56に係る特許を取り消すことはできない。
3 取消理由4(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 特許請求の範囲の記載
上記第3のとおりである。
(3) サポート要件についての判断
本件特許発明の発明の課題(以下、「発明の課題」という。)は、本件特許明細書の【0001】ないし【0011】の記載からみて、「望ましくない麦汁フレーバーノートが低減された独自の好ましいフレーバープロファイルを有する非アルコール性発酵ビール及び当該ビールを生成するプロセス」を提供することである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、エタノール含有量が0~1.0体積%のビールを調製する方法であって、制限発酵ビールを含む、エタノール含有量が0~20体積%の媒体を用意することと、前記媒体を蒸留ステップに供し、それによって、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド(「メチオナール」)、フェニルアセトアルデヒド、ヘキサナール、trans-2-ノネナール、ベンズアルデヒドおよびフルフラールからなる群から選択される1種または複数のアルデヒドの量を低減し、それによって、エタノールが存在する場合その含有量も0~1.0体積%の範囲の含有量に低減することとを含む、方法を開示する」(【0012】)こと、「本発明は、制限発酵により得られたビールを含む媒体からアルデヒドが蒸留により低減されるプロセスを開示する。これは、アルデヒドが除去され、それによって、好ましい低アルデヒド量、および好ましいアルデヒドと糖の比になるという利点を有する。好ましい実施形態において、制限発酵ビールの蒸留は、アルコール(エタノール)の存在下で行われ、さらにより好ましいアルデヒドと糖の比、および改善されたフレーバープロファイルを付与する。蒸留がレギュラービールおよび制限発酵ビールの混合物で行われる場合、既存の市販の低またはゼロアルコールビールより飲用に適した改善されたフレーバープロファイルをもつゼロまたは低アルコールビールを得るように、すべてのフレーバー化合物間のバランスを最適化することができる。本方法により、いわゆる「麦汁」オフフレーバー(off-flavors)を引き起こすアルデヒドを除去し、同時にエタノール含有量を下げて、ゼロまたは低アルコールビールを得ることが可能になる。さらに、当該方法は、ゼロまたは低アルコールビールの甘い味の低減、それによって強すぎるフレーバーの低減または除去を可能にする。これにより、ビールがより飲用に適したものとなる」(【0013】)こと、「本発明はさらに、エタノール含有量が0~1.0体積%であり、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される全糖含有量が少なくとも0.2g/100mlであり、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒドの合計と定義されるストレッカーアルデヒドの合計含有量が、50μg/l未満であり、かつ/または、18μg/l未満、好ましくは10μg/l未満、より好ましくは2~10μg/lの2-メチルプロパナール、3.8μg/l未満、好ましくは0.2~2.5μg/lの2-メチルブタナール、14μg/l未満、好ましくは1~10μg/lの3-メチルブタナール、10μg/l未満、好ましくは2~8μg/lの3-メチルチオプロピオンアルデヒド、20μg/l未満、好ましくは1~8μg/lのフェニルアセトアルデヒドを有し、2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびフェニルアセトアルデヒドの全重量のマルトースに対する重量比が、15μg/マルトース1g未満である、ビールを開示する」(【0014】)こと、「本明細書に定義するビールは、既存のNAビールより、フレーバーが強すぎず、甘い味が低減され、麦汁フレーバーが低下し、したがって飲用に適していることが見出された」(【0015】)ことが記載されており、さらに、「制限発酵ビールおよびレギュラービールの混合物を作製することは、制限発酵ビールの希釈を意味する。これにより、蒸留により媒体から除去されるアルデヒド量は、アルデヒドが制限発酵ビール中に、レギュラービール中より高量で存在するので、希釈により低減される。これにより、処理時間およびエネルギーが低減される。しかし、希釈ステップだけでは、アルデヒドを必要量に低減せず、したがって十分なアルデヒド除去を行うのに蒸留ステップがやはり必要とされる」(【0039】)こと、「レギュラービールは制限発酵ビールより高量の、エステルなどのフレーバー化合物を含む。制限発酵ビールとレギュラービールを混合することによって、媒体中のフレーバー化合物の量および種類が増加され、蒸留後の最終ビール中のフレーバーの量および種類が増加される」(【0040】)こと、「制限発酵ビールとレギュラービールを混合することによって、レギュラービール中のAcHFAの量が希釈により低減される。したがって、本方法で得られるビール中の泡沫に対する負の因子の量を許容される低レベルに維持することができる」(【0052】)こと、「上記の方法により、改善された味を有する低またはゼロアルコールビールが得られる。得られたビールは、エタノール含有量が0~1.0体積%である」(【0054】)こと、「好ましい実施形態において、得られたビール中の2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒド(「ストレッカーアルデヒド」)の合計は、50μg/l未満である」(【0055】)こと、「グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される得られたNAビールの全糖含有量は、好ましくは少なくとも0.2g/100mlである。全糖含有量が、多くとも3g/100ml、好ましくは多くとも2g/100mlなど比較的低い場合好ましい」(【0058】)こと、「好ましくは、ストレッカーアルデヒドのマルトースに対する全重量は、15μg/マルトース1g未満」(【0060】)であること等が記載され、具体的な実施例等を通じた効果の検証も示されている。
上記の記載に接した当業者であれば、「制限発酵ビールおよびレギュラービールの混合物」を用い、「蒸留」することで「アルデヒド量」を低減するビールを調製するとの特定事項を有する方法であれば、発明の課題を解決できると認識できる。そして、本件特許発明1は、上記課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有しさらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
本件特許発明1の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである本件特許発明2ないし40についても同様である。
また、ビールとして「エタノール含有量が0~1.0体積%」であり、「グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、およびマルトトリオースの合計と定義される」「全糖含有量が少なくとも0.2g/100ml」であり「多くとも3g/100ml」であること、「ビール中の2-メチルプロパナール、2-メチルブタナール、3-メチルブタナール、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、およびフェニルアセトアルデヒド(「ストレッカーアルデヒド」)の合計は、50μg/l未満である」こと、「ストレッカーアルデヒドのマルトースに対する全重量は、15μg/マルトース1g未満」であるとの特定事項を満たすことにより、当業者は発明の課題を解決できると認識できる。そして、本件特許発明41は、上記課題を解決できると認識できる特定事項の全てを有しさらに限定するものであるから、当然、発明の課題を解決できると認識できる。
本件特許発明41の発明特定事項の全てを有し、さらに限定するものである本件特許発明42ないし56についても同様である。
(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は意見書において、本件特許の明細書には発明の課題が解決されるための作用機構についての記載がなく、各構成について適宜羅列されている数値範囲の根拠も一切示されていないこと、ビール香気に寄与する成分は多数存在し、エタノール含有量、全糖含有量、ストレッカーアルデヒドとマルトースとの比から、発明の課題が解決できるとは認識できないこと、実施例の範囲に比して数値範囲が広いことなどを挙げ、本件特許発明はサポート要件を満たしていない旨主張(意見書第11頁ないし第14頁)する。
しかしながら、制限発酵ビールとレギュラービールの混合物を蒸留することにより、ストレッカーアルデヒド及びアルコールを低減し、かつ、制限発酵ビールのみよりも、フレーバーの量及び種類を増加させるものとの定性的な効果は、上記(3)のとおり明らかといえる。
また、特許異議申立人は、具体的に課題を解決できないとする証拠を提示するものでもないから、特許異議申立人の上記主張は、上記(3)の判断に影響するものではない。
(5) 取消理由4についてのまとめ
上記(3)及び(4)のとおりであるから、取消理由4の理由では、本件特許発明1ないし56に係る特許を取り消すことはできない。
第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし56に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし56に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700179