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特許異議申立

2023-701409

多成分型の水性下塗塗料組成物及び塗装方法

審判番号
2023-701409
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2018-041515
登録番号
7306793
請求日
2023年12月28日
審決日
2024年04月30日
公報発行日
2024年05月31日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】関西ペイント株式会社
  • 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
  • 【異議申立人】秋山 朋毅
審判長/審判官
  • 審判長 門前 浩一
  • 審判官 長谷川 真一
  • 審判官 菊地 則義
分類
P1651.121-Y (C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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特許第7306793号発明「多成分型の水性下塗塗料組成物及び塗装方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7306793号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本件特許に係る出願は、平成30年3月8日(優先権主張 平成29年4月20日(以下「本件優先日」という。))に出願したものであって、令和5年7月3日に特許権の設定登録がされ(請求項の数8)、同年同月11日に特許掲載公報が発行されたところ、令和5年12月28日に特許異議申立人 秋山 朋毅(以下「申立人」という。)によって、請求項1~8に係る特許についての特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件発明は、次のとおりの発明(以下、請求項番号にしたがって「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。)である。 「【請求項1】 主剤成分(I)と、硬化剤成分(II)と、 を含む多成分型の水性下塗塗料組成物であって、 主剤成分(I)が、 水酸基価が15~180mgKOH/gの範囲内、かつ、ガラス転移温度が40~70℃の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(A)及び顔料(B)を含み、前記顔料(B)が、炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ、バリタ(硫酸バリウム)及びシリカから選ばれる少なくとも1種の体質顔料を主剤成分(I)に含まれる樹脂固形分100質量部に対して30~350質量部の範囲内で含み、硬化剤成分(II)が、イソシアネート基含有率が18~25質量%のポリイソシアネート化合物(C)を含み、主剤(I)及び/又は硬化剤(II)成分がエポキシ基含有シランカップリング剤(D)を含み、前記(D)成分の含有量が、硬化剤成分(II)の質量を基準として0.01~10質量%の範囲内である多成分型の水性下塗塗料組成物。 【請求項2】 前記硬化剤成分(II)が、水酸基を有さない水溶性溶剤(E)を含有する請求項1に記載の多成分型の水性下塗塗料組成物。 【請求項3】 前記水酸基含有アクリル樹脂(A)が、共重合成分の総量を基準にして、水酸基含有重合性不飽和モノマー(a)3~45質量%、ホモポリマーのガラス転移温度が30℃以上である重合性不飽和モノマー(b)40~85質量%及びその他の重合性不飽和モノマー(c)0~25質量%を共重合成分とする請求項1又は2に記載の多成分型の水性下塗塗料組成物。 【請求項4】 主剤成分(I)がさらに、ガラス転移温度が-10℃以上且つ30℃未満の樹脂(H)及び/又は粘性調整剤を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の多成分型の水性下塗塗料組成物。 【請求項5】 主剤成分(I)と硬化剤成分(II)とに加えて、水を主成分とする希釈剤成分(III)とをさらに組み合わせてなる多成分系であって、該希釈剤成分(III)が、シリコーン系表面調整剤(F)を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の多成分型の水性下塗塗料組成物。 【請求項6】 前記希釈剤成分(III)がさらに、無機系粘性調整剤(G)を含有する請求項5に記載の多成分型の水性下塗塗料組成物。 【請求項7】 ポリプロピレン板(300×100×5mm)上に、乾燥膜厚が40μmになるように均一に塗装し、60℃30分強制乾燥したときの塗膜の吸水率が10%未満である請求項1~6のいずれか1項に記載の多成分型の水性下塗塗料組成物。 【請求項8】 被塗物に、請求項1~7のいずれか1項に記載の多成分型の水性下塗塗料組成物を塗装する、塗装方法。」 第3 異議申立ての概要及び証拠方法 1 異議申立ての概要 申立理由(進歩性欠如) 本件発明1~8は、甲1に記載された発明及び甲1~5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1~8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 証拠方法の一覧 申立人は、次の甲第1号証~甲第5号証を提出した。甲第1号証~甲第5号証を、以下「甲1」~「甲5」ともいう。 甲第1号証:特開2015-174947号公報 甲第2号証:特開2014-125604号公報 甲第3号証:特開2017-66357号公報 甲第4号証:色材、67〔10〕、653-658(1994)「水性塗料の開発動向(I)」 甲第5号証:国際公開第2015/141537号 第4 甲号証の記載 1 甲1の記載 甲1には、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 主剤と硬化剤とを含有する2液混合形塗料組成物であって、 (A)水酸基価が60~100mgKOH/gのアクリル樹脂、 (B)イソシアネート化合物、 (C)ビスフェノールA型のエポキシ樹脂及び (D)シランカップリング剤 を含み、主剤としては少なくとも前記(A)成分を含み、硬化剤としては少なくとも前記(B)成分を含むことを特徴とする2液混合形塗料組成物。 ・・・ 【請求項4】 前記シランカップリング剤(D)が、エポキシ基を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の2液混合形塗料組成物。 【請求項5】 金属部材とプラスチック部材とが一体的に組み合わされた複合部材の表面に、請求項1~4のいずれかに記載の2液混合形塗料組成物を65~100℃で焼付硬化させることを特徴とする複合部材の塗装方法。」 「【背景技術】 【0002】 自動車車体の外板部には、鋼板などの金属部材と、プラスチックバンパーなどのプラスチック部材とが併存して使用されることが多くなっている。又、車体の計量化を図るために、鋼板全体又はその一部を、プラスチックに置き換えることが試みられている。 【0003】 そのような金属部材と、プラスチック部材とが一体的に組み合わされた複合部材を塗装し、焼付けする場合、プラスチック部材の種類によっては耐熱性が不十分な為、熱変形を起こしたり、塗膜の発泡等で外観品質が低下したりするため、目的とする複合部材を調製することができない問題がある。そのため、金属部材とプラスチック部材とを別々に塗装し、形成された塗膜を焼付硬化することが一般的に行われる。通常、自動車車体鋼板部の上塗り塗料には、140℃前後で、20~30分焼付けることで硬化する塗料が使用されているが、ABSなどのプラスチック部材には、常温又は100℃以下の低温で乾燥できる2液型ウレタン塗料が一般的に使われる。」 「【発明の効果】 【0016】 本発明により、100℃以下の低温で硬化させた場合でも、金属部材とプラスチック部材との双方に対して優れた付着性及び耐食性等を示す塗膜を形成できる塗料組成物を調製することが可能となる。」 「【0037】 本発明のシランカップリング剤(D)は、前記アクリル樹脂(A)100質量部に対して、5~20質量部含むことが好ましい。シランカップリング剤(D)の配合量が5質量部未満であると、これを用いて得られる塗膜と金属基材との付着性が得られにくく、20質量部を超えると、塗料組成物の貯蔵安定性が低下する傾向がある。 【0038】 更に、本発明の2液混合形塗料組成物は、顔料を含んでいても良い。顔料としては、着色顔料、体質顔料及びメタリック顔料等が挙げられ、塗膜の着色やツヤ、塗装作業性、塗膜の強度、物性等に応じて適宜選択して使用できる。着色顔料は、公知の材料が使用でき、例えば、酸化チタン及びカーボンブラック等の無機顔料や、フタロシアニン系顔料及びアゾ系顔料等の有機顔料が挙げられる。また、体質顔料も、公知の材料が使用でき、例えば、タルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられる。顔料の添加量は、塗膜成分において0~50質量%が好ましい。」 「【0040】 また、本発明の2液混合形塗料組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、上記(A)、(C)以外の樹脂(E)や添加剤を添加しても良い。樹脂(E)としては、例えば、ポリエステル樹脂や上記(A)以外のアクリル樹脂、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロースなどが挙げられる。尚、樹脂(E)を添加する場合、樹脂(E)の含有量は、前記のアクリル樹脂(A)の含有量未満であることが好ましい。添加剤として、例えば、溶剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤または紫外線吸収剤等を適宜配合することができる。これら添加剤としては、市販品を好適に使用することができる。」 「【0041】 本発明の2液混合形塗料組成物は、金属部材とプラスチック部材とが一体的に組み合わされた複合部材に対し、1回の塗装で、付着性及び耐食性に優れた塗膜を形成することが出来る。 【0042】 上記の付着性及び耐食性に優れた塗膜を、金属部材とプラスチック部材とが一体的に組み合わされた複合部材表面に形成する方法としては、以下の工程(1)~(3)を含む塗装方法を用いることが好ましい。 工程(1):金属部材とプラスチック部材とが一体的に組み合わされた複合部材の表面に本発明の塗料組成物を塗装して、ベースコート層を形成する工程。 工程(2):ベースコート層が未硬化の状態で、ベースコート層の上に上塗り塗料を塗装する工程。 工程(3):ベースコート層と上塗り層とを65~100℃で同時に焼付硬化させる工程。」 「【実施例】 【0050】 以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下では、特に断りが無い限り、「質量部」を単に「部」と、「質量%」を単に「%」と記載することがあるものとする。 1.ベースコート材(本発明の塗料組成物)の調製 下記の表1~表5に示すように、各原料を混合し、公知の手法により分散させ、ベースコート材1~22を調製した。イソシアネートの配合量は、アクリルポリオール由来の水酸基の濃度(OHモル%)とイソシアネート基の濃度(NCOモル%)の比(NCOモル%/OHモル%)が1.0になるように設定した。 尚、使用した原料の詳細を以下に示す。 【0051】 <(A)水酸基価が60~100mgKOH/gのアクリル樹脂> A-1:ユーダブル S-2818(日本触媒社製商品名、水酸基価:80mgKOH/g、重量平均分子量7000のアクリル樹脂をキシレン、酢酸イソブチルで希釈。固形分60%) A-2~A-5については、以下の手順により調製した。配合を表1に示す。 尚、A-4及びA-5については、A-1~A~3と区別するために、「その他の樹脂(E)」と記載した。A-2~A-5で調製したアクリル樹脂の固形分濃度、水酸基価、重量平均分子量を下記の方法で測定した。 【0052】 <水酸基価> 樹脂固形分1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数を定量した。 【0053】 <加熱残分> 約3グラムの樹脂溶液をアルミカップに精秤し、これを105℃オーブンで60分間乾燥させ、次いで、残留物の質量を精秤し、元の質量に対する残留物の質量の割合を加熱残分(質量%)として求めた。 <2液混合形塗料の固形分> 各成分の固形分濃度(NV)と配合量から、ベースコート材1~22の固形分(質量部)を計算した。 【0054】 <重量平均分子量> 重量平均分子量の測定は、TSKgelカラム〔東ソー(株)社製〕を用い、RIを装備したGPC〔東ソー(株)社製商品名:HLC-8220GPC〕により求めた。GPCの条件としては、展開溶媒にテトラヒドロフランを用い、流速0.35ml/分、温度40℃にて測定を行った。なお、TSK標準ポリスチレン〔東ソー(株)社製〕を標準物質として用いた。 【0055】 (A-2の調製) 攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器に、キシレン35部を仕込み、加熱撹拌し、100℃に達してから、下記のモノマー等の混合物2を3時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃を保持したまま、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル0.1部とキシレン1部との混合物である追加触媒溶液を1時間要して滴下した。更に100℃で1時間撹拌を続けた後、冷却した。得られた反応混合物中にキシレン4部を加えて希釈し、固形分濃度60.1%のアクリル樹脂A-2を得た。得られたアクリル樹脂A-2は、重量平均分子量(Mw)7,000、水酸基価71.7mgKOH/gであった。 配合等を表1に示す。 【0056】 <モノマー等の混合物2>スチレン5部、メチルメタクリレート5部、n-ブチルメタクリレート33部、t-ブチルメタクリレート5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10部、重合開始剤として2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル2.5部 【0057】 (A-3の調製) 攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器に、キシレン35部を仕込み、加熱撹拌し、100℃に達してから、下記のモノマー等の混合物3を3時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃を保持したまま、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル0.1部とキシレン1部との混合物である追加触媒溶液を1時間要して滴下した。更に100℃で1時間撹拌を続けた後、冷却した。このものにキシレン4部を加えて希釈し、固形分濃度59.8%のアクリル樹脂A-3を得た。得られたアクリル樹脂A-3は、重量平均分子量(Mw)10,300、水酸基価72.5mgKOH/gであった。 配合等を表1に示す。 【0058】 <モノマー等の混合物3>スチレン5部、メチルメタクリレート5部、n-ブチルメタクリレート33部、t-ブチルメタクリレート5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10部、重合開始剤として2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル1.7部 【0059】 (A-4の調製) 攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器に、キシレン35部を仕込み、加熱撹拌し、100℃に達してから、下記のモノマー等の混合物4を3時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃を保持したまま、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル0.1部とキシレン1部との混合物である追加触媒溶液を1時間要して滴下した。更に100℃で1時間撹拌を続けた後、冷却した。このものにキシレン4部を加えて希釈し、固形分濃度60.3%のアクリル樹脂A-4を得た。得られたアクリル樹脂A-4は、重量平均分子量(Mw)6,800、水酸基価46.6mgKOH/gであった。 配合等を表1に示す。 【0060】 <モノマー等の混合物4>スチレン6.5部、メチルメタクリレート5部、n-ブチルメタクリレート35部、t-ブチルメタクリレート5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート6.5部、重合開始剤として2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル2.5部 【0061】 (A-5の調製) 攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器に、キシレン35部を仕込み、加熱撹拌し、100℃に達してから、下記のモノマー等の混合物5を3時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃を保持したまま、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル0.1部とキシレン1部との混合物である追加触媒溶液を1時間要して滴下した。更に100℃で1時間撹拌を続けた後、冷却した。このものにキシレン4部を加えて希釈し、固形分濃度60.8%のアクリル樹脂A-5を得た。得られたアクリル樹脂A-5は、重量平均分子量(Mw)7,200、水酸基価107.5mgKOH/gであった。 配合等を表1に示す。 【0062】 <モノマー等の混合物5>スチレン2部、メチルメタクリレート5部、n-ブチルメタクリレート31部、t-ブチルメタクリレート5部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート15部、重合開始剤として2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル2.5部 【0063】 【表1】 [図:0001410246000001.jpg] 【0064】 <イソシアネート化合物(B)> デュラネート TPA-100E(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型プレポリマー、NCO含有量:23.1%、固形分:100%、旭化成ケミカルズ製商品名) タケネート D-140N(イソホロンジイソシアネートにトリメチロールプロパン(TMP)を反応させたアダクトタイプ、NCO含有量:10.5%、固形分:75%、三井武田ケミカル製商品名) 【0065】 <ビスフェノールA型のエポキシ樹脂(C)> エピコート1002(三菱化学製商品名、樹脂固形分70%、重量平均分子量1200) 【0066】 <シランカップリング剤(D)> KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業製商品名) 【0067】 <顔料> CR-95(酸化チタン含有、石原産業製商品名) ラーベン5000(カーボンブラック含有、コロンビア社製商品名) 【0068】 <添加剤> ディスパロンA-630-20X(アマイド化合物、固形分:80%、楠本化成製商品名) 【0069】 【表2】 [図:0001410246000002.jpg] 」 2 甲2の記載 甲2には、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 水希釈性樹脂成分(A)、顔料分(B)及び水を含み、 水希釈性樹脂成分(A)がその成分の一部として水希釈性アクリル樹脂を含むものである主剤成分(I)と、 水希釈性樹脂成分(C)、無機系粘性調整剤(D)及び水を含み、水希釈性樹脂成分(C)がその成分の一部として水希釈性ウレタン樹脂を含む粘性調整剤成分(II)と、 架橋剤成分(III)と、 を組み合わせてなる多成分系の水性塗料組成物。 ・・・ 【請求項4】 架橋剤成分(III)が、ポリイソシアネート化合物及び/又はポリカルボジイミド化合物を含むものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、金属部材とプラスチック製部材とが一体的に組み合わされた複合部材の表面に、特定の塗料組成物を両部材上に同時に塗装し、該プラスチック製部材が熱変形しない温度で焼付乾燥することを特徴とする複合部材の塗装方法、及び該塗装に使用される塗料組成物に関する。」 「【0027】 上記水希釈性アクリル樹脂の態様としては例えば、水溶性アクリル樹脂及びアクリル樹脂エマルションを挙げることができる。 【0028】 水溶性アクリル樹脂としては、例えば、上述の酸基含有重合性不飽和モノマー、上述の水酸基含有重合性不飽和モノマー及びその他の重合性不飽和モノマーを含む重合性不飽和モノマー成分を、親水性有機溶剤の存在下で重合開始剤により重合させることにより得られる樹脂を挙げることができる。 【0029】 また、上記水溶性アクリル樹脂は、該樹脂の水溶解性を向上させ本発明の水性塗料組成物により形成される塗膜の仕上がり外観を向上させる目的で、酸基を中和剤により中和することが望ましい。かかる中和剤としては、酸基を中和できるものであれば特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム;トリメチルアミン、ジメチルアミノエタノール、2-メチル-2-アミノ-1-プロパノール、トリエチルアミンなどのアミン化合物;アンモニア水等を挙げることができる。 【0030】 かかる水溶性アクリル樹脂としては、一般に固形分酸価が5~100mgKOH/g、好ましくは10~70mgKOH/g、固形分水酸基価が10~150mgKOH/g、好ましくは20~100mgKOH/g、重量平均分子量が5000~10,0000好ましくは8,000~70,000の範囲内であることが望ましい。 ・・・ 【0034】 本発明において水希釈性アクリル樹脂としてのアクリル樹脂エマルションとしては、例えば水及び分散安定剤の存在下で上記重合性不飽和モノマー成分を1段階で又は多段階で乳化重合することにより得られる従来公知のエマルションを挙げることができ、本発明の水性塗料組成物の用途に応じて適宜選んで使用することができる。」 「【0047】 <顔料分(B)> 本発明において上記主剤成分(I)に含まれる顔料分(B)としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができ、その具体例としては、酸化チタン、酸化鉄等の金属酸化物顔料、チタンイエロー等の複合酸化金属顔料、カーボンブラック、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インダンスロン系顔料、ジオキサン系顔料、インジゴ系顔料等の着色顔料;アルミニウム(蒸着アルミニウムを含む)、銅、亜鉛、真ちゅう、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化チタンや酸化鉄で被覆された雲母、ガラスフレーク、ホログラム顔料等の光輝性顔料;クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等の体質顔料;等が挙げられ、これらはその目的とする色彩や塗膜性能に応じて単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。」 「【0079】 顔料分(B)の配合量としては顔料の種類などに応じて適宜調整できるが、一般に上記水希釈性樹脂成分(A)の樹脂固形分100質量部に対して、100~400質量部、好ましくは120~350質量部配合されることが、下塗り塗膜の研磨性と造膜性や塗膜物性との観点から適している。また、顔料分(B)のうち体質顔料が水希釈性樹脂成分(A)の樹脂固形分100質量部に対して、30~350質量部、好ましくは50~300質量部配合されるのが研磨性と塗膜性能のバランスの点から望ましい。」 「【0143】 <水溶性アクリル樹脂の製造> 製造例2 反応容器に、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル550部を加え、窒素気流中で115℃に昇温した。上記反応容器の温度が115℃に達した後、メチルメタクリレート350部、n-ブチルアクリレート200部、2-エチルヘキシルメタクリレート250部、4-ヒドロキシブチルアクリレート130部、アクリル酸60部、及び「ライトエステルPM」(注1)10部に、アゾビスイソブチロニトリル10部を溶解したモノマー混合物を、上記容器に3時間かけて添加し、2時間熟成させた。反応終了後、生成物を、ジメチルエタノールアミンで当量中和し、さらにプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル450部を添加して、ジメチルエタノールアミンでpH7.5に調整し、黄色液状である、水溶性アクリル樹脂(B-1)の溶液(固形分55%)を得た。水溶性アクリル樹脂(B-1)の重量平均分子量は45,000であり、酸価は47mgKOH/gであり、そして水酸基価は51mgKOH/gであった。 【0144】 (注1)「ライトエステルPM」:商品名、共栄社化学株式会社製、(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート。 【0145】 <アクリル樹脂エマルションの製造> 製造例3 反応容器に、脱イオン水100部、「アデカリアソープSR-1025」(商品名、旭電化社製、反応性乳化剤、固形分25%)2.5部およびモノマー混合物(スチレン9部、n-ブチルアクリレート40部、2-エチルヘキシルアクリレート40部、ヒドロキシエチルアクリレート10部、メタクリル酸1部)のうちの1部を加え、窒素気流で攪拌混合し、60℃で3%過硫酸アンモニウム3部を加えた。次いで、80℃に昇温して前記モノマー混合物の残りの99部、「アデカアリアソープSR-1025」2.5部、3%過硫酸アンモニウム4部および脱イオン水100部からなるプレエマルションを4時間かけて定量ポンプを用いて反応容器に加え、添加終了後1時間熟成を行った。その後、脱イオン水33部を加え、ジメチルエタノールアミンでpH7.5に調整し、平均粒子径が0.1μm、酸価6.5mgKOH/g、水酸基価48mgKOH/g、固形分30%のアクリル樹脂エマルション(C-1)を得た。 ・・・ 【0158】 ≪架橋剤成分(III)の製造≫ 製造例12 撹拌容器にジプロピレングリコールジメチルエーテル53.5部、「バイヒジュール3100」(商品名、住化バイエルウレタン株式会社製、水分散性HDI型ポリイソシアネート、NCO含有率17.2%)46.5部加え、15分間撹拌し、架橋剤成分(III-1)を得た。 【0159】 製造例13 撹拌容器にジプロピレングリコールジメチルエーテル14.9部、70%「バイヒジュールXP 2788」(商品名、住化バイエルウレタン株式会社製、水分散性IPDI型ボリイソシアネート、固形分70%、NCO含有率9.4%)85.1部加え、15分間撹拌し、架橋剤成分(III-2)を得た。 ・・・ 【0162】 ≪水性着色ベースコート塗料の製造≫ 実施例1~15及び比較例1~6 下記表1の組み合わせで各成分を混合攪拌し、水性着色ベースコート塗料(X-1)~(X-21)を製造した。 【0163】 【表1】 [図:0001410246000003.jpg] 」 3 甲3の記載 甲3には、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 表面に錆を有する鋼材に塗布して使用され、(A)主剤及び(B)硬化剤を含有する二液混合型の水系素地調整剤組成物であり、 前記主剤(A)は、(A-1)1分子内に水酸基及び/又はカルボキシル基を1以上有する水溶性樹脂又は水分散性樹脂と、(A-2)防錆顔料、(A-3)腐食性イオン固定化剤及び(A-4)シランカップリング剤からなる群から選ばれる1種以上とを含有し、尚且つ温度23℃における粘度が1~5000mPa・sであり、 前記硬化剤(B)は水分散性のポリイソシアネート樹脂を含み、 前記主剤(A)中の水酸基当量と、前記硬化剤(B)中のイソシアネート基当量との比(イソシアネート基当量/水酸基当量)が1.0~1.7であることを特徴とする水系素地調整剤組成物。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、鋼材の塗り替え塗装時の除錆処理等の素地調整が不要な、又はそれを軽減することが可能な素地調整剤組成物に関し、より詳しくは、水系であり、塗装作業性が良く、環境への負荷が少ない水系素地調整剤組成物に関する。」 「【0018】 ここで、本発明において、「水系」、「水溶性」、「水分散性」とは、当業界で通常使用されるものと同義であるが、「水系」とは水を媒体としていることを指し、また、「水溶性樹脂」とは、親水性基を有する樹脂が水に溶解された樹脂を指し、「水分散性樹脂」とは、強制乳化や自己乳化、懸濁重合、乳化重合、ミニエマルション重合等で得られる、乳化剤や親水性基で水に分散された樹脂を指すものである。」 「【0032】 また、前記シランカップリング剤(A-4)としては、公知のものが使用できるが、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。主剤(A)中における当該シランカップリング剤(A-4)の含有量は、0~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%とする。」 4 甲4の記載 甲4には、次の記載がある。 「 [図:0001410246000004.jpg] ・・・ [図:0001410246000005.jpg] 」 5 甲5の記載 甲5には、次の記載がある。 「[0001] 本発明は、有機溶媒、汎用アクリルモノマーやオリゴマーとの相溶性に優れ、活性エネルギー線に対して高硬化速度を有する(メタ)アクリルアミド系ウレタンオリゴマー及びそれを含有する密着性、耐湿性と表面硬化性に優れ、且つ低硬化収縮性、高透明性と高伸度を有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物及びその成形品に関する。」 「[0037] 本発明の(メタ)アクリルアミド系ウレタンオリゴマーからなる硬化膜の吸水率は2%以下であることが好ましく、更には1%以下であることがより好ましい。吸水率が2%より大きくなると、高湿度環境下で長時間に使用される場合、硬化膜が経時的に吸水し、膨膨潤による形状の歪みを生じるため密着性や透明性が低下する可能性がある。」 第5 申立理由(進歩性欠如)についての当審の判断 1 甲1に記載された発明 甲1の請求項1の記載及び段落【0050】~【0069】、表1~2に記載された2液混合型塗料組成物の実施例のうち、申立人がガラス転移温度(Tg)についての計算結果を提示しているA-2で調整したアクリル樹脂を含むベースコート材2に着目して、整理すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。 (甲1発明) 「主剤と、硬化剤と、を含む2液混合形塗料組成物であって、 主剤として、 攪拌機、温度計、還流冷却器等を備えた反応容器に、キシレン35質量部を仕込み、加熱撹拌し、100℃に達してから、スチレン質量5部、メチルメタクリレート5質量部、n-ブチルメタクリレート33質量部、t-ブチルメタクリレート5質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル2.5質量部からなる混合物を3時間かけて滴下し、滴下終了後、100℃を保持したまま、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル0.1質量部とキシレン1質量部との混合物である追加触媒溶液を1時間要して滴下し、更に100℃で1時間撹拌を続けた後、冷却して得られた反応混合物中にキシレン4質量部を加えて希釈して得られた、固形分濃度60.1質量%、重量平均分子量(Mw)7,000、水酸基価71.7mgKOH/gであるアクリル樹脂(A-2)39.9質量部と、 CR-95(酸化チタン含有、石原産業製商品名、固形分濃度(NV100質量%))からなる顔料25質量部と、 KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業製商品名)からなるシランカップリング剤2.0質量部と、 エピコート1002(三菱化学製商品名、樹脂固形分70質量%、重量平均分子量1200)からなるエポキシ樹脂2.0質量部と、 キシレン15.0質量部及び酢酸ブチル13.0質量部からなる溶剤と、 ディスパロンA-630-20X(アマイド化合物、固形分:80質量%、楠本化成製商品名)からなる添加剤0.02質量部と、を含み、 硬化剤として、 デュラネート TPA-100(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型プレポリマー、NCO含有量:23.1質量%、固形分:100質量%、旭化成ケミカルズ製商品名)5.6質量部と、 酢酸ブチル4.4質量部と、を含む 2液混合形塗料組成物。」 2 対比 甲1発明と本件発明1を対比する。 甲1発明の「主剤」、「硬化剤」はそれぞれ、本件発明1の「主剤成分(I)」、「硬化剤成分(II)」に相当する。 また、甲1発明の「水酸基価71.7mgKOH/gであるアクリル樹脂(A-2)」は、本件発明1の「水酸基価が15~180mgKOH/gの範囲内・・・である水酸基含有アクリル樹脂(A)」に相当し、甲1発明の「CR-95(酸化チタン含有、石原産業製商品名、固形分濃度(NV100質量%))」は、本件発明1の「顔料(B)」に相当する。 さらに、甲1発明の「KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業製商品名)からなるシランカップリング剤」は、「3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン」の分子中にエポキシ基を含んでいるから、本件発明1の「エポキシ基含有シランカップリング剤(D)」に相当する。 加えて、甲1発明の「デュラネート TPA-100(ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート型プレポリマー、NCO含有量:23.1質量%、固形分:100質量%、旭化成ケミカルズ製商品名)」は、本件発明1の「イソシアネート基含有率が18~25質量%のポリイソシアネート化合物(C)」に相当する。 そして、甲1発明のアクリル樹脂(A-2)は、モノマー成分として、スチレン質量5部、メチルメタクリレート5質量部、n-ブチルメタクリレート33質量部、t-ブチルメタクリレート5質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート10質量部含むものであるところ、アクリル樹脂(A-2)のガラス転移温度(Tg)について、各モノマー成分の含有量に基づいて、本件明細書の段落【0020】~【0021】に記載された方法にしたがって計算すると、1/Tg(K)については、以下の当審で作成した表のとおり、0.003103となり、Tg(℃)の値は、約49.3℃(1/0.003103-273)となるから、甲1発明のアクリル樹脂(A-2)は、本件発明1の水酸基含有アクリル樹脂(A)において、「ガラス転移温度が40~70℃の範囲内である」という発明特定事項を充足する。 表 [図:0001410246000006.jpg] また、甲1発明の「2液混合形塗料組成物」は、甲1の段落【0041】~【0042】に記載されているように、金属部材とプラスチック部材とが一体的に組み合わされた複合部材の表面に直接塗装してベースコート層を形成し、その上に上塗り塗料が塗装される形態で用いられるものであるから、「下塗塗料」であり、本件発明1の「多成分型の・・・下塗塗料組成物」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。 (一致点) 「主剤成分と、硬化剤成分と、を含む多成分型の水性下塗塗料組成物であって、 主剤成分が、 水酸基価が15~180mgKOH/gの範囲内、かつ、ガラス転移温度が40~70℃の範囲内である水酸基含有アクリル樹脂(A)及び顔料(B)を含み、 硬化剤成分が、イソシアネート基含有率が18~25質量%のポリイソシアネート化合物(C)を含み、 主剤(I)及び/又は硬化剤(II)成分がエポキシ基含有シランカップリング剤(D)を含む 多成分型の下塗塗料組成物。」 (相違点1) 本件発明1の下塗塗料組成物は、水性であるのに対して、甲1発明では、それが特定されていない点。 (相違点2) 本件発明1は、顔料が、炭酸カルシウム、クレー、タルク、マイカ、バリタ(硫酸バリウム)及びシリカから選ばれる少なくとも1種の体質顔料を主剤成分に含まれる樹脂固形分100質量部に対して30~350質量部の範囲内で含むのに対して、甲1発明では、顔料が、CR-95(酸化チタン)のみからなる点。 (相違点3) エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量が、本件発明1は、硬化剤成分の質量を基準として0.01~10質量%の範囲内であるのに対して、甲1発明では、硬化剤成分10質量部(ポリイソシアネート化合物(デュラネート TPA-100)5.6質量部と酢酸ブチル4.4質量部の合計量)に対して2質量部、すなわち、硬化剤成分の質量を基準として20質量%である点。 3 相違点の検討 (1)相違点1について 甲1発明は、主剤において、アクリル樹脂に溶剤として含まれるキシレン15.6質量部(アクリル樹脂(A-2)39.9質量部のうち、固形分60.1質量%を除いた残部)に加え、キシレン15.0質量部及び酢酸ブチル13.0質量部からなる溶剤を含み、硬化剤において、酢酸ブチル4.4質量部からなる溶剤を含むものであるところ、甲1発明は、溶剤として、水に対して不溶であるキシレンを30.6質量部含む塗料組成物であるから、「水性」の塗料組成物でないことは明らかであり、相違点1は実質的な相違点といえる。 そして、甲1には、塗料組成物を水性のものとすることについては記載がなく、実施例においても、キシレンを含む塗料組成物しか記載されていないから、甲1には、水性塗料組成物について実質的に開示も示唆もされていないといえる。 また、甲2の請求項1、段落【0023】~【0030】、【0143】~【0145】、【0158】~【0159】、表1や甲3の請求項1、段落【0018】に記載されているように、水性塗料組成物に含まれる樹脂や硬化剤には、水溶性又は水に対する分散性が良好なものが用いられるなど、溶剤系の塗料組成物と、水性塗料組成物とでは、用いられる樹脂や硬化剤等の成分の物性が異なるから、水性でない甲1発明の塗料組成物を、水性塗料組成物として用いる動機付けはなく、甲1発明を水性塗料組成物とすることは当業者といえども容易になし得ることとはいえない。 (2)相違点2について 甲1の段落【0038】には、甲1に記載された塗料組成物において、体質顔料として、タルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム等の公知の材料が使用でき、塗膜成分において、0~50質量%含むことが好ましい旨記載されているが、体質顔料の配合割合を、本件発明1の数値範囲とすること、すなわち、主剤に含まれる樹脂固形成分100質量部に対して、30~350質量部配合とすることについては記載されていない。 一方、甲2の請求項1を引用する請求項4には、水希釈性アクリル樹脂を含む水希釈性樹脂成分と顔料分とポリイソシアネート化合物を含む架橋剤成分と水とを含む水性塗料組成物が記載され、甲2の段落【0079】には、上記顔料分のうち、体質顔料が水希釈性樹脂成分の樹脂固形分100質量部に対して、30~350質量部配合されるのが研磨性と塗膜性能のバランスの点から望ましい旨記載されており、当該体質顔料の配合割合は、本件発明1の体質顔料の配合割合の数値範囲と一致している。 しかしながら、上記(1)でも検討したように、甲1発明は、溶剤系の塗料組成物である一方、甲2の塗料組成物は水性のものであり、用いられる成分の物性が互いに異なるから、水性塗料組成物で好ましい体質顔料の配合割合が、溶剤系の塗料組成物でも好ましいとは必ずしもいえず、甲2の上記記載に接した当業者が、甲1発明の顔料を体質顔料とした上で、更に主剤の樹脂固形分100質量部に対して、30~350質量部配合する動機付けはないといえる。 よって、甲1発明において、甲1~2に記載された事項に基づいて、主剤の樹脂固形分100質量部に対して、30~350質量部配合することは当業者といえども容易になし得ることとはいえない。 (3)相違点3について 甲1の段落【0037】には、シランカップリング剤は、付着性や貯蔵安定性の観点から、100質量部に対して、5~20質量部含むことが好ましい旨記載されているところ、甲1発明には、アクリル樹脂(A-2)が、39.9質量部、シランカップリング剤が2.0質量部含まれるから、アクリル樹脂(A-2)100質量部に対して、シランカップリング剤は、5.0質量部(2×100/39.9)含まれることになり、好ましいとされる範囲の下限が含まれていることになる。 そうすると、甲1発明は、本件発明1のシランカップリング剤の上限値(硬化剤成分の質量を基準として10質量%)よりも、多い量(硬化剤成分の質量を基準として20質量%)が含まれるものであるところ、上記甲1の記載を参酌しても、甲1発明のシランカップリング剤の含有量を減らす動機付けはない。 また、甲3の請求項1には、水溶性樹脂又は水分散性樹脂を含む主剤と、水分散性のポリイソシアネート樹脂を含む硬化剤とを含む二液混合型の水系素地調整剤組成物において、シランカップリング剤が主剤に含まれ得ることが記載され、同段落【0032】には、主剤中におけるシランカップリング剤の含有量は、0~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%であることが記載されている。 しかしながら、甲3には、シランカップリング剤の含有量を、硬化剤成分の質量を基準として、0.01~10質量%の範囲内とすることについては記載も示唆もされていない。 加えて、上記(1)でも検討したように、甲1発明は、溶剤系の塗料組成物である一方、甲3の水系素地調整剤組成物は水性のものであり、含まれる成分の物性が、溶剤系のものとは異なるから、仮に、甲3において、シランカップリング剤の含有量を、硬化剤成分の質量を基準として0.01~10質量%の範囲内とすることが記載されていたとしても、溶剤系の甲1発明に、水系のもので好ましいとされる数値範囲を適用する動機付けはないといえる。 また、発明の効果について検討すると、本件明細書の表2~5には、シランカップリング剤の含有量が本件発明1の上限値よりも多く含む硬化剤B-9を用いた比較例6の塗料組成物、及び、シランカップリング剤を全く含まない硬化剤B-8を用いた比較例5の塗料組成物は、耐水性、耐水付着性、研磨性の評価がB~Cの低いものである一方、シランカップリング剤の含有量が本件発明1の数値範囲内のものは、耐水性、耐水付着性、研磨性の評価がA~Sの高いものであることが示されている。 そして、甲1、甲3には、そのような効果については記載されていないから、シランカップリング剤の含有量を、硬化剤成分の質量を基準として0.01~10質量%の範囲内とすることで当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものであるから、シランカップリング剤の含有量を本件発明1の範囲内に設定することは、当業者が適宜行い得る設計的事項ともいえない。 以上より、甲1、甲3の記載された事項を参酌して、甲1発明のシランカップリング剤の含有量を、シランカップリング剤の含有量を本件発明1の範囲内とすることは、当業者といえども容易になし得ることとはいえない。 4 申立人の主張について 申立人は、申立書において、以下について主張する。 (主張1)甲1の2液混合型塗料組成物は、甲1の段落【0040】に記載のように、添加剤として「分散剤、乳化剤」の配合が記載されており、これらの分散剤や乳化剤は、水系の塗料に用いる添加剤、あるいは樹脂を水分散もしくは乳化するものであり、甲1には明確に記載されていないが、甲1に記載された塗料組成物は、水性での使用も考えられているから、甲1には、水性の下塗塗料組成物が記載されているといえる。 (主張2)甲2の段落【0047】、【0079】には、顔料分(B)として、「クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等の体質顔料」が用いられ、その体質顔料の配合量は、「顔料分(B)のうち体質顔料が水希釈性樹脂成分(A)の樹脂固形分100質量部に対して、30~350質量部、好ましくは50~300質量部配合されるのが研磨性と塗膜性能のバランスの点から望ましい。」ことが記載されており、本件発明1の体質顔料の含有量の範囲と重複しているから、本件発明1の体質顔料は、当業者が通常考えられる配合量の範囲で使用されているものであり、甲1や甲2の記載から当業者に容易になし得る設計変更の範囲である。 (主張3)甲3の段落【0032】に、シランカップリング剤の配合量として「0~30質量%が好ましく、より好ましくは5~20質量%とする」と記載されているように、0質量%から出発しているので、シランカップリング剤の添加は任意であり、添加量は少なくても良いと考えられるから、シランカップリング剤が添加剤であり、その添加は任意であるという前提に立ち、甲3の記載を参酌すれば、シランカップリング剤の添加量は甲1の記載より少なくても良いはずであり、シランカップリング剤の添加量を本件発明1の数値範囲内とすることは、甲1の記載および甲3の記載から当業者が容易にかつ適宜行う設計変更に過ぎない内容である。 以下、上記主張1~3について検討する。 (1)主張1について 甲1には、「分散剤、乳化剤」の記載があるものの、分散剤は、顔料等の水以外の溶剤への分散性を向上させるためにも用いられるものであり、また、乳化は、相溶性の小さな液体が混ざることを指し、必ずしも水に対してのみ用いられるものではない。 仮に、「分散剤、乳化剤」が、水に対してのみ用いられるものだったとしても、上記3(1)で検討したように、甲1には、実施例として、溶剤として、水に対して不溶であるキシレンを含む溶剤系の塗料組成物しか記載されておらず、他に、水性塗料組成物についての具体的な開示がないことから、甲1に「分散剤、乳化剤」の記載があることをもって、甲1には、水性塗料組成物が記載されているとすることはできない。 よって、上記申立人の主張1は採用できない。 (2)主張2について 上記3(2)で検討したように、甲1発明は、溶剤系の塗料組成物である一方、甲2に記載された塗料組成物は、水性のものであり、水性塗料組成物で好ましい体質顔料の配合割合が、溶剤系の塗料組成物でも好ましいとは必ずしもいえないから、甲2の記載において、体質顔料の含有量の数値範囲が、本件発明1のものと重複していたとしても、甲1発明の体質顔料の含有量として、その数値範囲を、当業者が採用する動機付けはないといえる。 よって、上記申立人の主張2は採用できない。 (3)主張3について 上記3(3)でも述べたとおり、本件明細書の表2~5には、シランカップリング剤の含有量を、硬化剤成分の質量を基準として0.01~10質量%の範囲内とすることによって、耐水性、耐水付着性、研磨性が良好となる効果が具体的に示されているから、塗料組成物において、シランカップリング剤の含有量をこのような範囲に調整することは単なる設計変更に過ぎない内容とはいえない。 また、上記3(3)で検討したように、甲1、甲3には、シランカップリング剤の含有量を、硬化剤成分の質量を基準として、0.01~10質量%の範囲内とすることについては記載も示唆もされていないから、甲1、甲3の記載を参酌して、甲1発明のシランカップリング剤の含有量を、硬化剤成分の質量を基準として0.01~10質量%の範囲内とすることは、当業者といえども容易になし得ることとはいえない よって、上記申立人の主張3は採用できない。 5 小括 以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~3に記載された事項に基づいて本件優先日前に当業者が容易に発明できたものといえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 6 本件発明2~8について 本件発明2~8は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから、上記1~5で検討したのと同様の理由により、甲1に記載された発明及び甲1~5に記載された事項に基いて当業者が容易になし得たものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、申立人による特許異議申立書の理由及び証拠によっては、本件発明1~8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2023-701409

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