特許異議申立
2024-700137
ロール状導電性接合シート、金属補強板付き配線板、および電子機器
- 審判番号
- 2024-700137
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-073962
- 登録番号
- 7327700
- 請求日
- 2024年02月15日
- 審決日
- 2024年12月24日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】artience株式会社
- 【権利者代理人】三好 秀和
- 【異議申立人】藤本 美都起
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 関根 裕
- 審判官 長谷川 真一
- 分類
- P1651.113-YAA(H05K) / P1651.121-YAA(H05K) / P1651.537-YAA(H05K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7327700号発明「ロール状導電性接合シート、金属補強板付き配線板、および電子機器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7327700号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7327700号の請求項1、2、4~6に係る特許を維持する。
特許第7327700号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7327700号の請求項1~6に係る特許についての出願は、令和5年4月28日(優先権主張 令和5年4月5日(以下「優先日」という。) 日本国)にされたものであって、令和5年8月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行された。その後の特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和6年2月15日 特許異議申立人 藤本美都起(以下「申立人
」という。)による全請求項に係る特許に対
する特許異議の申立て
同年 3月28日付け 手続補正指令書(方式)
同年 4月19日 上申書及び手続補正書(方式)
同年 6月18日付け 取消理由通知書
同年 8月 7日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 8月20日付け 訂正請求があった旨の通知
同年 9月24日 意見書(申立人)
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年8月7日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」ともいう。)の内容は、次の訂正事項1~3のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記導電性接合剤層の25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×107~2.0×109Paであるロール状導電性接合シート。」とあるのを、
「前記導電性接合剤層の25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×107~2.0×109Paであり、
前記保護シートは、25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上であるロール状導電性接合シート。」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2、4~6も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「請求項1~3記載のロール状導電性接合シート」とあるのを、
「請求項1又は2記載のロール状導電性接合シート」に訂正する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5及び6も同様に訂正する。)。
2 一群の請求項
本件訂正前の請求項1~6において、請求項2~6は、独立形式で記載された請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定された一群の請求項である。
3 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「保護シートと、導電性接合剤層とを有」する「ロール状導電性接合シート」について、「前記保護シートは、25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上である」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とした訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正かについての判断
前記アのとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「保護シート」の「貯蔵弾性率の最高値」を限定するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正かについての判断
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「保護シート」について、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」ともいう。)の【請求項3】ないしは【0021】の記載に基づいて、「25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上」であることを特定するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
訂正事項2は請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、請求項を削除することにより特許請求の範囲を減縮するものであって、本件特許の特許請求の範囲又は明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものには該当しないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び同第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項3が削除されたことに伴い、訂正前の請求項4が引用する請求項のうちから請求項2を除く訂正事項であるから、特許請求の範囲の減縮ないしは明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮ないしは同第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的としたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び同第6項に適合するものである。
4 独立特許要件についての判断
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~6に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正は前記第2のとおり認められるので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明(以下項番順に「本件訂正発明1」等という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
導電性接合シートをロール状に巻回してなるロール状導電性接合シートであって、
前記導電性接合シートは、保護シートと、導電性接合剤層とを有し、
前記導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下であり、
前記導電性接合剤層の25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×107~2.0×109Paであり、
前記保護シートは、25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上であるロール状導電性接合シート。
【請求項2】
前記導電性接合剤層は、70~120℃における貯蔵弾性率の最高値が3.0×106~1.5×108Paである、請求項1に記載のロール状導電性接合シート。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記導電性接合剤層は、エステル結合、イミド結合、アミド結合、ウレタン結合、及びウレア結合よりなる群から選択される1種以上化学結合を有する樹脂を含む、請求項1又は2記載のロール状導電性接合シート。
【請求項5】
請求項4記載の導電性接合剤層と金属補強板を含む金属補強板付き配線板。
【請求項6】
請求項5記載の金属補強板付き配線板を備える電子機器。」
第4 特許異議の申立ての理由、取消理由の概要及び甲号証等の記載
1 特許異議の申立ての理由
申立人は、後記(1)~(5)の申立理由を主張し、その証拠方法として後記(6)の甲第1号証~甲第6号証(以下「甲1」等という。)を提出した。甲1~甲4及び甲6は、本件特許の優先日前に頒布された又は電気回線を通じて公衆に利用可能となったものであるが、甲5は、本件特許の優先日後の2023年(令和5年)9月に改訂されたものである。
また、申立人は、特許異議申立書33頁~37頁において、後記(7)及び(8)の2024年2月13日に株式会社DJKが作成した、甲4に関連する実験成績証明書(以下「甲4証明書」ともいう。)及び甲4に関連する説明資料(以下「甲4説明資料1」及び「甲4説明資料2」ともいう。)を示している。
また、申立人は、令和6年4月19日の上申書及び手続補正書(方式)にて、甲4号証に関する補足資料(以下「補4」という。)を提出した。
(1)申立理由1(甲1を主引例とした新規性)
本件発明1、4~6は、後記3の甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない発明であるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(甲4を主引例とした新規性)
本件発明1~6は、後記3の甲4等によって立証される公然実施発明と同一であって、特許法第29条第1項第2号の規定により特許を受けることができない発明であるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(甲1を主引例とした進歩性)
本件発明1~6は、後記3の甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(甲4を主引例とした進歩性)
本件発明1~6は、後記3の甲4等によって立証される公然実施発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、これらの発明に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(5)申立理由5(サポート要件)
本件特許に係る出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものであるから、それらの発明に係る特許は同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。
ア ブロッキングについて
保護シート及び導電性接合剤層がどのような組合せであっても、導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下であれば、課題が解決されるとは認識されない。
イ ラミネート強度について
請求項1において、導電性接合層の70~120℃における貯蔵弾性率の最高値が特定されていないため、課題が解決されるとは認識されない。
ウ 接着性について
硬化前の物性のみを規定することにより、硬化後の接着性に関する課題が解決されるとは認識されない。
(6)甲号証
甲1:特開2020-204027号公報
甲2:特開2015-196741号公報
甲3:特開2017-228598号公報
甲4:TOYOCHEM TECHNICAL DATA SHEET、「LIOELM(R) TSC200シリーズ(「(R)」はマル内にR)」、トーヨーケム株式会社 エレクトロニクス営業本部、2012年4月作成、2019年7月改訂
甲5:TOYOCHEM TECHNICAL DATA SHEET、「LIOELM(R) TSC200シリーズ(「(R)」はマル内にR)」、トーヨーケム株式会社 情報・通信材営業本部、2012年4月作成、2023年9月改訂
甲6:国際公開第2022/190927号
(7)実験成績証明書
甲4報告書:株式会社DJK、「導電性接合シートのDMA分析」、2024年2月13日作成、実験期間1月18日~29日
(8)説明資料
甲4説明資料1:導電層のプローブタック粘着力の測定データ
甲4説明資料2:導電性接着シートの外観写真
(9)甲4の補足資料
補4:TOYOCHEM TECHNICAL DATA SHEET、「LIOELM TSCTM200series」、TOYOCHEM CO.,LTD. Electronic Device Materials Department、2012年4月作成、2014年10月改訂
(URL:https://web.archive.org/web/20170610230134/http://www.toyo-chem.com/en/products/electronics/tds/tds_le_tsc200series_en2.pdf)
2 令和6年6月18日付けの取消理由の概要
当審は、前記1の申立理由のうち、申立理由2(甲4を主引例とした新規性)、申立理由3(甲1を主引例とした進歩性)及び申立理由4(甲4を主引例とした進歩性)について理由があると判断し、証拠として次の参考文献1及び2(以下「参1」等ともいう。)を追加した。
参1:株式会社UBE化学分析センターホームページ「PET2種の固体動的粘弾性測定」検索日:令和6年6月12日(URL:https://www.ube.co.jp/usal/documents/p326_141.htm)
参2:JFEテクノリサーチ株式会社ホームページ「動的粘弾性マスターカーブによる再生樹脂の物性確認」検索日:令和6年6月12日(URL:https://www.jfe-tec.co.jp/download/pdf/3E2J-286-00.pdf)
3 甲号証等の記載
(1)甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
グランド回路が開口部を介して露出している配線板と金属補強板とを接着すると共に、前記開口部を介して前記グランド回路と前記金属補強板とを電気的に接続する導電性接着剤であって、
前記導電性接着剤は、熱硬化性樹脂と、導電性フィラーとを含有し、
前記導電性接着剤の貯蔵弾性率が、
25℃において100MPa以上10000MPa以下、
130℃において2MPa以上90MPa以下、
170℃において2MPa以上50MPa以下である、
導電性接着剤。」
「【0014】
<プリント配線板の製造方法>
まず、図1を用いてプリント配線板の製造方法について説明する。図1では、導電性接着剤を用いてプリント配線板に金属補強板を貼り付ける際の製造工程を示している。なお、各々の部材を構成する材料の詳細については後述する。
・・・
【0018】
その後、工程Eに示すように、金属補強板14/導電性接着剤12/配線板20の積層体を所定の温度(例えば150~190℃、好ましくは170℃)で加熱・加圧(熱プレス)する。これにより導電性接着剤12が軟化して開口部27内に埋め込まれる。そして、工程Fに示すように、軟化した導電性接着剤12が開口部27内に充填されることで、導電性接着剤12が開口部27の底のグランド回路25と接触する加熱により導電性接着剤が硬化して金属補強板14と配線板24が接着される。つまり、導電性接着剤12を介して金属補強板14と配線板20のグランド回路25とが電気的に接続されることで、電磁波シールド性を備えたプリント配線板を製造することができる。
・・・
【0020】
このようなプリント配線板は、例えば、携帯電話、スマートフォン、ノートPC、デジタルカメラ、液晶ディスプレイ等の電子機器に搭載することができる。また、自動車、電車、船舶、航空機等の輸送機器にも好適に搭載できる。」
「【0029】
<導電性接着剤>
本実施の形態にかかる導電性接着剤は、少なくとも熱硬化性樹脂と、導電性フィラーとを含有し、下記の特性を備える。
[貯蔵弾性率]
本実施の形態では、導電性接着剤の25℃における貯蔵弾性率を100MPa以上10000MPa以下、好ましくは200MPa以上4000MPa以下、更に好ましくは300MPa以上2000MPa以下としている。導電性接着剤の25℃における貯蔵弾性率をこの範囲とすることで、切断に用いられる刃に導電性接着剤が付着することを抑制することができ、積層体15の加工性(抜き打ち加工性)を向上させることができる(図1の工程C参照)。
【0030】
25℃における貯蔵弾性率を100MPa以上とするための手法としては、例えば熱硬化性樹脂のTgを上げる、導電性フィラーや無機フィラー等のフィラー成分の添加量を増やす、Bステージにおける硬化剤との架橋密度を高める等の手法が挙げられる。
【0031】
25℃における貯蔵弾性率を10000MPa以下とするための手法としては、例えば熱硬化性樹脂のTgを下げる、導電性フィラーや無機フィラー等のフィラー成分の添加量を減らす、Bステージにおける硬化剤との架橋密度を下げる等の手法が挙げられる。
【0032】
また、本実施の形態では、導電性接着剤の130℃における貯蔵弾性率を2MPa以上90MPa以下、好ましくは4MPa以上50MPa以下、更に好ましくは6MPa以上20MPa以下としている。導電性接着剤の130℃における貯蔵弾性率をこの範囲とすることで、金属補強板14に導電性接着剤12を貼り付ける際に導電性接着剤12を十分に軟化させることができ、金属補強板14に対する導電性接着剤12の密着力(仮貼り性)を向上させることができる。したがって、金属補強板14から導電性接着剤12が剥がれることを抑制することができる。
【0033】
130℃における貯蔵弾性率を2MPa以上とするための手法としては、例えば熱硬化性樹脂の重量分子量Mwを上げる、芳香環を多く有する骨格とし熱硬化性樹脂の剛直性を高める、導電性フィラーや無機フィラー等のフィラー成分の添加量を増やす、Bステージにおける硬化剤との架橋密度を高める等の手法が挙げられる。
【0034】
130℃における貯蔵弾性率を90MPa以下とするための手法としては、例えば熱硬化性樹脂の重量分子量Mwを下げる、熱硬化性樹脂の骨格から芳香環を減らし剛直性を下げる、導電性フィラーや無機フィラー等のフィラー成分の添加量を減らす、Bステージにおける硬化剤との架橋密度を下げる等の手法が挙げられる。」
「【0076】
(導電性フィラー)
導電性フィラーは、金、白金、銀、銅およびニッケル等の導電性金属、およびその合金、ならびに導電性ポリマーの微粒子が好ましい。・・・
【0080】
導電性フィラーの平均粒子径は、D90平均粒子径が、1~120μmであることが好ましく、5~60μmがより好ましい。D90平均粒子径がこの範囲にあることでブロッキングが起こることを抑制することができる。なお、D90平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置によって求めることができる。例えば、剥離性フィルム上に導電性接着剤を有する導電性接着シートは、ロール状に巻き取られた状態で運搬等される。ブロッキングとは、このロール状の導電性接着シートから、導電性接着シートを巻き出す際に、導電性接着シートが剥離性フィルムの裏面に付着する現象のことである。」
「【0090】
[剥離性フィルム]
剥離性フィルムは、片面あるいは両面に離型処理をしたフィルムであれば制限なく使用することができる。
剥離性フィルムの基材の一例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、硬質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリブテン、軟質ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル等のプラスチックシート等、グラシン紙、上質紙、クラフト紙、コート紙等の紙類、各種の不織布、合成紙、金属箔や、これらを組み合わせた複合フィルムなどが挙げられる。
【0091】
剥離性フィルムの表面は必要に応じてマット処理してもよい。・・・
【0092】
剥離性フィルムは、基材に離型剤を塗布して得る事ができる。離型剤としては、・・・。」
「【実施例】
【0099】
以下、実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」に基づく値である。
【0100】
[重量平均分子量(Mw)]
重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定で求めたポリスチレン換算の数値である。測定条件は、以下のとおりである。
装置:Shodex GPC System-21(昭和電工製)
カラム:1本のShodex KF-802(昭和電工製)と、1本のShodex KF-803L(昭和電工製)と、1本のShodex KF-805L(昭和電工製)とを直列に連結した連結カラム
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/min
温度:40℃
試料濃度:0.2%
試料注入量:100μL
[酸価]
JIS K 0070の電位差滴定法に準拠し、測定した酸価(mgKOH/g)を固形分換算することで求めた。
[ガラス転移温度(Tg)]
ガラス転移温度の測定は、示差走査熱量計(型番:DSC-1、メトラー・トレド製)を用いて測定した。
[貯蔵弾性率]および[損失正接tanδ]
動的弾性率測定装置(型番:DVA-200、アイティー計測制御製)を用い、導電性接着剤に対して変形様式「引張り」、周波数10Hz、昇温速度10℃/分、測定温度範囲-50~300℃の条件下において、25℃、130℃、170℃における貯蔵弾性率E’、損失正接tanδの第1ピーク温度および第2ピーク温度、並びに130℃、170℃における損失正接tanδを測定した。」
「【0120】
<導電性接着剤および導電性接着シートの作製>
各導電性接着剤および導電性接着シートの作製に用いる導電性樹脂組成物の各成分を以下に示す。なお、表1に合成例1~12で得られたポリウレタン系樹脂A-1~A―12(熱硬化性樹脂)のMw、酸価およびTgを示す。
【0121】
【表1】
[図:0001422415000001.jpg]
【0122】
[B]導電性物質(導電性フィラー)
B-1:銀コート銅粒子、D50平均粒子径=12μm、核体:樹枝状(福田金属箔粉工業製)
[C]硬化剤
C-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂:エポキシ当量189g/eq(jER1001、三菱ケミカル製)
C-2:ビスフェノールF型エポキシ樹脂:エポキシ当量65g/eq(jER807、三菱ケミカル製)
C-3:4官能グリシジルアミン化合物:エポキシ当量120g/eq(jER604、三菱ケミカル製)
C-4:テトラフェノールエタン型エポキシ樹脂:エポキシ当量200g/eq(jER1031S、三菱ケミカル製)
[D]硬化促進剤
D-1:アジリジン化合物(トリメチロールプロパントリス〔β-(N-アジリジニル)プロピオネート〕、日本触媒製)
[その他の成分]
E-1:シリカ(AEROSIL R974、日本アエロジル製)
[溶媒]
F-1:トルエン:イソプロピルアルコール(質量比=2:1)の混合溶媒
【0123】
[実施例1]
[A]樹脂として(A-1)100質量部、および[B]導電性物質として(B-1)250質量部を容器に仕込み、不揮発分濃度が40質量%となるように[溶媒]として(F-1)を加えて混合した。次いで、[C]硬化剤として(C-1)40質量部、および[D]硬化促進剤として(D-1)0.05質量部を加え、攪拌機により10分間攪拌して導電性樹脂組成物を調製した。
次に、上記調製した導電性樹脂組成物を、ドクターブレードを使用して、乾燥後の厚みが60μmになるように剥離性フィルム(基材の材質:発泡ポリエチレンテレフタレート、基材の厚み50μm、離型剤:アルキッド系離型剤)の剥離処理された一方の面上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで導電性接着剤、および上記導電性接着剤が形成された導電性接着シートを得た。
【0124】
[実施例2~22、比較例1~4]
配合する各成分の種類および配合量を表2~表4に記載した通りとした以外は実施例1と同様に操作し、各実施例2~22および比較例1~4の導電性接着剤および導電性接着シートを得た。」
「【0131】
[埋め込み性(開口面積0.49mm2)]
各実施例および比較例にて作製した導電性接着シート(幅20mm、長さ20mm)を用い、その導電性接着剤が露出した面が幅20mm、長さ20mmのSUS板(厚さ0.1mmの市販のSUS304板の表面に厚さ2μmのニッケル層を形成したもの)に接触するように、上記導電性接着シートを上記SUS板に重ねた。次いで、ロールラミネーターを用い、90℃、3kgf/cm2、1m/minの条件下で、上記導電性接着シートと上記SUS板とをロールラミネートして導電性接着シート付SUS板を得た。
【0132】
次に、上記導電性接着シート付SUS板における導電性接着シートの剥離性フィルムを剥がして除去した後、打ち抜き加工機で1辺が10mmの正方形に打ち抜き、導電性接着剤付SUS板(以下、「導電性接着剤付SUS板」と称する)を得た。次いで、別に作製したフレキシブルプリント配線板を用い、導電性接着剤付SUS板の導電性接着剤が露出した面(導電性接着剤のSUS板と反対の面)をフレキシブルプリント配線板に重ね、ロールラミネーターを用いて130℃、3kgf/cm2、1m/minの条件下で、上記導電性接着剤付SUS板と上記フレキシブルプリント配線板とを貼り付けた。次いで、これらを170℃、2MPa、5分の条件下で熱圧着した後、これを電気オーブンを用いて160℃、60分間加熱することで評価用試料を得た。なお、上述のフレキシブルプリント配線板は、厚み75μmのポリイミドフィルムの両面それぞれに厚み32μmの銅箔回路が形成され、銅箔回路上には、一辺が0.7mmの正方形であって開口面積が0.49mm2のスルーホール(開口部)を有する厚み37.5μmの接着剤付き絶縁性カバーフィルムが積層されている。また、もう一方の銅箔回路上にはスルーホールを有さない接着剤付きの厚み37.5μmの絶縁性のカバーフィルムが積層されたものである(フレキシブルプリント配線板が反らないように、ポリイミドフィルムに対して銅箔回路およびカバーフィルムを対称に配置した)。」
「【0138】
次に、倍率200倍~1000倍の拡大鏡を用いて上記評価用試料を観察し、SUS板の端部からはみ出した導電性接着剤のフロー量(導電性接着剤層の縁部の最大移動距離、SUS板の端部とはみ出した導電性接着剤層の端部との最大長さ)を測定し、この測定値を指標として下記評価基準に従い外観を評価した。
◎:非常に優れている(フロー量が100μm以下)
○:優れている(フロー量が100μm超200μm以下)
△:実用可能である(フロー量が200μm超250μm以下)
×:実用不可能である(フロー量が250μm超)
【0139】
【表2】
[図:0001422415000002.jpg]
【0140】
【表3】
[図:0001422415000003.jpg]
」
「【図1】
[図:0001422415000004.jpg]
」
(2)甲2には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、導電性シールドテープに関し、特にリワーク性及び導電性に優れる導電性シールドテープに関する。」
「【0046】
2.表面のべとつき
なお、上記のリワーク作業の際に、ポリエステル樹脂が高架橋状態であって導電性樹脂層の表面にべとつきがなく、作業が容易であった場合を○、そうでない場合を×として評価した。なお、通常、プローブタックにより10kgf/cm以上である場合には作業者がべとつきを感じ、その作業が困難になる。また、ロール形状にしたときにはブロッキングしてしまう不具合がある。」
(3)甲3には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、電磁波シールド用フィルム、および電子部品搭載基板に関するものである。」
「【0034】
また、保護層1の常温(25℃)における貯蔵弾性率は、2.0E+02~5.0E+10Paであるのが好ましく、2.0E+03~5.0E+09Paであるのがより好ましく、2.0E+04~3.0E+09Paであるのがさらに好ましい。このように、保護層1の常温(25℃)における貯蔵弾性率を、前記範囲内に設定することにより、保護層1は可撓性を有するものであると言うことができ、電磁波シールド用フィルム10を用いて、基板5上の凹凸6を被覆する際に、絶縁層2およびノイズ抑制層3に破断を生じさせることなく絶縁層2およびノイズ抑制層3を凹凸6の形状に対応した状態で押し込むことができる。」
(4)甲4には、次の記載がある。
「
[図:0001422415000005.jpg]
[図:0001422415000006.jpg]
」
(5)甲5には、次の記載がある。
「
[図:0001422415000007.jpg]
[図:0001422415000008.jpg]
」
(6)甲6には、次の記載がある。
「[0001] 本発明は、積層フィルム及びフィルムロールに関する。」
「[0026] また、後述する樹脂層A側の表面とは反対側の表面における十点平均粗さRzが5μm以上でありつつ、前記23℃におけるポリカ―ボネートプローブタック最大値Fが0.294N/mm2以下であることにより、樹脂層A側の表面とは反対側の表面を含む層がカルボン酸基を含むポリオレフィン系樹脂、及び/又はカルボン酸金属塩基を含むポリオレフィン系樹脂を含有したうえで、剥離ライナーなしの状態でロール状に巻き取った場合でも、ブロッキングせず容易に巻出すことができ、作業性を損なわないようにすることができる。」
(7)甲4報告書には、次の記載がある。
「
[図:0001422415000009.jpg]
[図:0001422415000010.jpg]
[図:0001422415000011.jpg]
[図:0001422415000012.jpg]
」
(8)甲4説明資料1
「
[図:0001422415000013.jpg]
」
(9)甲4説明資料2:導電性接着シートの外観写真
「
[図:0001422415000014.jpg]
」
(10)補4には、次の記載がある。
「
[図:0001422415000015.jpg]
[図:0001422415000016.jpg]
」
(請求人作成の抄訳)
「
[図:0001422415000017.jpg]
[図:0001422415000018.jpg]
」
(11)参1には、次の記載がある。
「
[図:0001422415000019.jpg]
[図:0001422415000020.jpg]
」
(12)参2には、次の記載がある。
「
[図:0001422415000021.jpg]
」
第5 取消理由で採用した申立理由についての当審の判断
1 甲1を主たる引用例とした進歩性
(1)甲1に記載された発明
甲1(前記第4の3(1)参照。)の【0139】の【表2】の「実施例6」に着目し、その組成や製法について同【0121】~【0124】の記載を参酌すれば、甲1には次の発明(以下「甲1A6発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
(甲1A6発明)
「[A]樹脂として(A-3)100質量部、および[B]導電性物質として(B-1)250質量部を容器に仕込み、不揮発分濃度が40質量%となるように[溶媒]として(F-1)を加えて混合し、[C]硬化剤として(C-1)40質量部、および[D]硬化促進剤として(D-1)0.05質量部を加え、攪拌機により10分間攪拌して導電性樹脂組成物を調製し、上記調製した導電性樹脂組成物を、ドクターブレードを使用して、乾燥後の厚みが60μmになるように剥離性フィルム(基材の材質:発泡ポリエチレンテレフタレート、基材の厚み50μm、離型剤:アルキッド系離型剤)の剥離処理された一方の面上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで得られた、導電性接着剤が形成された導電性接着シートであって、
導電性接着剤は、25℃の貯蔵弾性率が552.0MPa、130℃の貯蔵弾性率が14.8MPaであり、
(A-3)は、重量平均分子量90000、酸価10mgKOH/g、Tg10℃のポリウレタン系樹脂であり、
(B-1)は、D50平均粒子径=12μm、核体が樹枝状の銀コート銅粒子(福田金属箔粉工業製)であり、
(C-1)は、エポキシ当量189g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER1001、三菱ケミカル製)であり、
(D-1)は、アジリジン化合物(トリメチロールプロパントリス〔β-(N-アジリジニル)プロピオネート〕、日本触媒製)であり、
(F-1)は、トルエン:イソプロピルアルコール(質量比=2:1)の混合溶媒である、
導電性接着シート。」
同じく、甲1の【0140】の【表3】の「実施例14」に着目し、その組成や製法について同【0121】~【0124】の記載を参酌すれば、甲1には次の発明(以下「甲1A14発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
(甲1A14発明)
「[A]樹脂として(A-7)100質量部、および[B]導電性物質として(B-1)250質量部を容器に仕込み、不揮発分濃度が40質量%となるように[溶媒]として(F-1)を加えて混合し、[C]硬化剤として(C-1)40質量部、および[D]硬化促進剤として(D-1)1質量部と、[その他の成分]として(E-1)シリカ50質量部を加え、攪拌機により10分間攪拌して導電性樹脂組成物を調製し、上記調製した導電性樹脂組成物を、ドクターブレードを使用して、乾燥後の厚みが60μmになるように剥離性フィルム(基材の材質:発泡ポリエチレンテレフタレート、基材の厚み50μm、離型剤:アルキッド系離型剤)の剥離処理された一方の面上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで得られた、導電性接着剤が形成された導電性接着シートであって、
導電性接着剤は、25℃の貯蔵弾性率が115.0MPa、130℃の貯蔵弾性率が7.8MPaであり、
(A-7)は、重量平均分子量130000、酸価10mgKOH/g、Tg-20℃のポリウレタン系樹脂であり、
(B-1)は、D50平均粒子径=12μm、核体が樹枝状の銀コート銅粒子(福田金属箔粉工業製)であり、
(C-1)は、エポキシ当量189g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER1001、三菱ケミカル製)であり、
(D-1)は、アジリジン化合物(トリメチロールプロパントリス〔β-(N-アジリジニル)プロピオネート〕、日本触媒製)であり、
(E-1)は、シリカ(AEROSIL R974、日本アエロジル製)であり、
(F-1)は、トルエン:イソプロピルアルコール(質量比=2:1)の混合溶媒である、
導電性接着シート。」
また、甲1A6発明と甲1A14発明を総称して「甲1発明」ともいう。
(2)本件訂正発明1
ア まず、甲1A6発明について検討する。
本件訂正発明1と甲1A6発明を対比すると、甲1A6発明の「剥離性フィルム(基材の材質:発泡ポリエチレンテレフタレート、基材の厚み50μm、離型剤:アルキッド系離型剤)」、「調製した導電性樹脂組成物を、ドクターブレードを使用して、乾燥後の厚みが60μmになるように剥離性フィルム(基材の材質:発泡ポリエチレンテレフタレート、基材の厚み50μm、離型剤:アルキッド系離型剤)の剥離処理された一方の面上に塗工し、100℃の電気オーブンで2分間乾燥することで得られた、導電性接着剤」及び「導電性接着シート」は、本件訂正発明1の「保護シート」、「導電性接合剤層」及び「導電性接合シート」にそれぞれ相当する。
甲1A6発明の「導電性接着剤は、25℃の貯蔵弾性率が552.0MPa」は、甲1A6発明のポリウレタン系樹脂を基材とする樹脂の貯蔵弾性率が温度の上昇とともに低下することを考慮すれば、甲1A6発明の25~30℃における貯蔵弾性率の最高値は5.52×108Paと考えられるところ、本件訂正発明1の「25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×107~2.0×109Pa」を充足する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「導電性接合シートであって、
前記導電性接合シートは、保護シートと、導電性接合剤層とを有し、
前記導電性接合剤層の25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×107~2.0×109Paであるロール状導電性接合シート。」
<相違点1-1>
導電性接合シートが、本件訂正発明1は「導電性接合シートをロール状に巻回してなるロール状導電性接合シート」であるのに対し、甲1A6発明は、ロール状ではない点。
<相違点1-2>
本件訂正発明1は、「導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下」であるのに対し、甲1A6発明は、そのような特定がなされていない点。
<相違点1-3>
本件訂正発明1は「保護シートは、25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上」であるのに対し、甲1A6発明は、そのような特定がなされていない点。
事案に鑑み、まず、相違点1-3について検討する。
甲1A6発明の「剥離性フィルム(基材の材質:発泡ポリエチレンテレフタレート、基材の厚み50μm、離型剤:アルキッド系離型剤)」は、基材が発泡PET素材である。
そして、前記第4の3(11)の参1及び同(12)の参2には、PETフィルムの25~30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Paより大きいことが示されているが、甲1A6発明の発泡ポリエチレンテレフタレートとは材質が異なるから、これらの記載を参酌しても、甲1A6発明の「剥離性フィルム」の25~30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Paより大きいとはいえない。
また、剥離性フィルムの材料について、甲1A6発明を認定した甲1の【0090】には「剥離性フィルムは、片面あるいは両面に離型処理をしたフィルムであれば制限なく使用することができる。剥離性フィルムの基材の一例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、硬質ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ナイロン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリカーボネート・・・などが挙げられる。」と記載されているものの、その貯蔵弾性率については記載も示唆もない。
剥離性フィルムの常温における貯蔵弾性率について、前記第4の3(3)の甲3には「保護層1の常温(25℃)における貯蔵弾性率は、2.0E+02~5.0E+10Paであるのが好ましく、2.0E+03~5.0E+09Paであるのがより好ましく、2.0E+04~3.0E+09Paであるのがさらに好ましい。」と記載されるものの、1.0×109Paより大きい値とすることについては、記載も示唆もされていない。
また、他の甲号証等を参酌しても、剥離性フィルムの「25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上」とすることについての記載や示唆はない。
そうすると、甲1A6発明において、発泡PET素材の「剥離性フィルム」の「25~30℃における貯蔵弾性率の最高値」を「1.0×109Pa以上」とする動機付けはなく、そのようにすることが容易であったとはいえない。
してみれば、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1A6発明及び甲1~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 次に、甲1A14発明について検討する。
本件訂正発明1と甲1A14発明を対比すると、前記アと同様の対比を行うことにより、両者の一致点及び相違点は前記アの一致点及び相違点と同じである。
そうすると、前記アと同じ理由により、本件訂正発明1は、甲1A14発明及び甲1~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明2、4~6
本件訂正発明2、4~6は、本件訂正発明1の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)の<相違点1-3>に係る特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明2、4~6は、前記(2)と同じ理由により、甲1発明及び甲1~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 甲4を主引用例とした新規性、進歩性
(1)甲4等に記載された発明
甲4(前記第4の3(4)参照。)には、LIOELM(R) TSC200-60GDについて、FPC金属補強板固定用に開発した熱硬化型の導電性接着シートであること、54μmのPETの保護フィルムと60μmのウレタン樹脂ベースの導電層からなることが記載されている。
また、甲5(前記第4の3(4)参照。)及び補4(前記第4の3(10)参照。)の記載を合わせ見れば、次の発明(以下「甲4発明」という。)が、本件優先日前に公然実施されていたものと認められる。
(甲4発明)
「FPC金属補強板固定用に開発した、商品名LIOELM(R) TSC200-60GDである熱硬化型の導電性接着シートであって、
導電性接着シートは、54μmのPETの保護フィルムと60μmのウレタン樹脂ベースの導電層からなる、導電性接着シート。」
(2)本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲4発明を対比すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「導電性接合シートであって、
前記導電性接合シートは、保護シートと、導電性接合剤層とを有する導電性接合シート。」
<相違点4-1>
導電性接合シートが、本件訂正発明1は「導電性接合シートをロール状に巻回してなるロール状導電性接合シート」であるのに対し、甲4発明は、ロール状ではない点。
<相違点4-2>
本件訂正発明1は、「導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下」であるのに対し、甲4発明は、そのような特定がなされていない点。
<相違点4-3>
本件訂正発明1は「導電性接合剤層の25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×107~2.0×109Pa」であるのに対し、甲4発明は、そのような特定がなされていない点。
<相違点4-4>
本件訂正発明1は「保護シートは、25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上」であるのに対し、甲4発明は、そのような特定がなされていない点。
まず、相違点4-1について検討する。甲4説明資料2(前記第4の3(9)参照。)には「導電性接着シートの外観写真」が示されているが、誰がいつ撮影したものであるのか不明である。また、左下の写真の「TSC200-60GD」との表示は、その部分だけ白抜きの文字となっており、他の文字と表示が異なるため、加工された可能性を否定できない。そうすると、甲4説明資料2は、形式的な証拠力も実質的な証拠力もそなえていない。したがって、甲4説明資料2に示された事項を持って、甲4発明の「導電性接着シート」がロール状であったとはいえない。
次に、相違点4-2について検討する。甲4説明資料1(前記第4の3(8)参照。)には「導電層のプローブタック粘着力の測定データ」が示されているが、このデータは、誰がいつ測定して、誰が作成した資料であるのか不明である。また、その測定対象がいつ製造されたものであるのかのみならず、いかなる導電層であったのかも不明である。そうすると、甲4説明資料1は、形式的な証拠力も実質的な証拠力もそなえていない。したがって、甲4説明資料1に記載された事項を持って、甲4発明の「導電性接着シート」の導電層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下であったとはいえない。
次に、相違点4-3及び相違点4-4について検討する。甲4報告書(前記第4の3(7)参照。)には、株式会社DJKが2024年1月18日~29日に、「導電性接合剤層_TSC200-60GD」及び「保護シート_TSC200-60GD」について、DMA測定をした結果が示されている。しかしながら、この測定対象たる「TSC200-60GD」はロット番号等が不明であり、本件特許に係る出願の出願当時に生産された「TSC200-60GD」であるか否かは不明である。そうすると、甲4報告書は、少なくとも実質的な証拠力をそなえていない。したがって、甲4報告書に記載された事項を持って、甲4発明の「導電性接着シート」の導電層や保護フィルムの貯蔵弾性率の最高値が、本件訂正発明1で特定される範囲を充足するとはいえない。
してみれば、本件訂正発明1は、甲4発明ではない。
また、少なくとも前記相違点4-2~相違点4-4について、甲4発明及び列挙された甲号証等に記載された事項に基づいて容易といえる理由もない。
そうすると、本件訂正発明1は、甲4発明及び甲1~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件訂正発明2、4~6
本件訂正発明2、4~6は、本件訂正発明1の記載を引用する形式で記載されたものであって、前記(2)の<相違点4-1>~<相違点4-4>に係る特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明2、4~6は、前記(2)と同じ理由により、甲4発明ではないし、甲4発明及び甲1~甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 請求人の主張及び当審の判断について
(1)請求人の主張
請求人は、令和6年9月24日の意見書において、以下の趣旨の主張をしている。
ア 相違点1-3の判断について、甲1の【0090】~【0092】の記載のとおり、設計事項と認められる。(意見書4頁「ウ 相違点1-3について」参照。)
イ 特許権者の意見書での反論は、本件発明1が甲4発明に対してどのように異なるかを技術的に説明するものではないから、審査ハンドブックに記載されるところの「一応の合理的な疑い」を解消するものではない。
(2)当審の判断
前記(1)アについて、前記1(2)で検討したとおり、甲1の【0090】~【0092】には、剥離性フィルムは離型処理したフィルムであれば制限なく使用でき、一例としてPETなどが挙げられることは記載されているものの、剥離性フィルムの「25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上」とすることについての記載や示唆はない。
また、前記(1)イについて、新規性や進歩性の判断以前に、その判断の根拠となる証拠の成立性が必要であることは明らかであるところ、特許権者の証拠の成立性についての反論に対し、請求人からは何ら反論がなく、有効な証拠の提出もされていない。
そうすると、請求人の主張は採用できない。
第6 取消理由で採用しなかった申立理由についての当審の判断
1 甲1を主引例とした新規性違反
前記第5の1(2)のとおり、本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、相違点1-1、相違点1-2及び相違点1-3で相違し、少なくとも相違点1-3は実質的な相違点である。
そうすると、本件訂正発明1は甲1発明ではないから、前記第4の1(1)の申立理由1(甲1を主引例とした新規性)には理由がない。
2 サポート要件違反
(1)本件明細書等に記載された本件訂正発明の課題と解決手段
本件明細書等の【0004】~【0009】には「【発明が解決しようとする課題】」として、ア 所謂ブロッキングが起こる問題(【0005】)、イ 膜厚担保性の問題(【0006】)、ウ 保護シートの剥離性の問題(【0007】)、エ ラミネート強度の問題(【0008】)、及びオ 接着性の問題(【0009】)」という5つの課題が並列的に列挙されている。
そして、アのブロッキングが起こる問題については、本件明細書等の【0023】に「導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下であることで、粘着性を低下させ、ロール状に巻いた際に保護層への張り付きを抑制でき、ブロッキング耐性を向上することができる。」と記載され、
イの膜厚担保性の問題については、同【0025】に「導電性接合剤層の25℃~30℃における弾性率を1.0×107Pa以上とすることで導電性接合シートをロール状にサンプルを巻き取る際、巻取り張力が強く、導電性接合剤層に圧力がかかり、さらにロール状態で長期間保管されても、導電性接合剤層の厚み変化を抑制することができる。」と記載され、
ウの保護シートの剥離性の問題については、同【0021】に「本開示の保護シートは、25~30℃における貯蔵弾性率の最高値が1.0×109Pa以上、1.5×1010Pa以下であることが好ましく・・・保護シートの25~30℃における貯蔵弾性率の最高値がこの範囲にあることで、熱ラミネート後も保護シートの剛性(コシ)を十分高めることができ、導電性接合剤層から保護シートを剥離する際の保護シートの破損を防ぎ、優れた剥離性を実現することができる。」と記載され、
エのラミネート強度の問題については、同【0026】に「導電性接合剤層の70~120℃における貯蔵弾性率の最高値は、3.0×106~1.5×108Paが好ましく・・・導電性接合剤層の70~120℃における貯蔵弾性率の最高値を上記範囲にすることで、例えば110℃の熱ラミネートで仮貼りする際に導電性接合剤層の流動性が生じ、基材へのラミネート強度を向上させることができる。」と記載され、
オの接着性の問題については、同【0032】に「導電性組成物に対し熱刺激を与えて接着性を発現させる観点から、樹脂(a-1)は、熱硬化性樹脂(a-2)や熱可塑性樹脂(a-3)、であることが好ましい。」と記載され、同【0038】に「バインダー(A)中において、熱等の刺激によって重合及び又は架橋を形成し、導電性組成物に強固な接着性を発現させる観点から、本開示のバインダー(A)は硬化剤(C)を含むことが好ましい。」と記載されている。
(2)請求人の主張及び当審の判断
ア ブロッキングについて
請求人は、特許異議申立書40頁の「(4-3)サポート要件違反 ア 理由1(ブロッキングについて)」において、ブロッキングを生じないようにする上では、甲6(前記第4の3(6)参照。)に記載された技術常識からも把握できるように、導電性接合剤層のプローブタック粘着力だけでなく、保護シートの組成、接合面の性状、及び導電性接合剤層の組成が少なくとも考慮されるべきことが技術常識であるから、保護シート及び導電性接合剤層がどのような組合せであっても、導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下であれば、課題が解決されるとは認識されない、との趣旨の主張をしている。
しかしながら、前記(1)のアのとおり、本件明細書等には、導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下であることでブロッキング耐性を向上することができるという原理的な説明が記載され、少なくとも、同一の保護シートに対して比較すれば、プローブタック粘着力が小さい方が耐ブロッキング性が向上することを理解できる。
そうすると、導電性接合剤層のプローブタック粘着力が5.0N/cm2以下であることが特定された本件訂正発明1は、前記課題を解決できるものといえる。
イ ラミネート強度について
請求人は、特許異議申立書41頁の「イ 理由2(ラミネート強度について)」において、請求項1において、導電性接合層の70~120℃における貯蔵弾性率の最高値が特定されていないため、課題が解決されるとは認識されないとの趣旨の主張をしている。
しかしながら、並列的に列挙された複数の課題が、複数の請求項のそれぞれに対応するように記載されていることが理解できる場合に、並列的に列挙された複数の課題の全てを本件訂正発明1が解決しなければならないという定めはない。
そうすると、少なくとも前記アの課題を解決できる本件訂正発明1は、サポート要件を満たすものである。
ウ 接着性について
請求人は、特許異議申立書41頁の「ウ 理由3(接着性について)」において、硬化前の物性のみを規定することにより、硬化後の接着性に関する課題が解決されるとは認識されないとの趣旨の主張をしている。
しかしながら、並列的に列挙された複数の課題が、複数の請求項のそれぞれに対応するように記載されていることが理解できる場合に、並列的に列挙された複数の課題の全てを本件訂正発明1が解決しなければならないという定めはない。
そうすると、少なくとも前記アの課題を解決できる本件訂正発明1は、サポート要件を満たすものである。
(3)小括
前記(2)のとおり、本件訂正発明は発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記(1)の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるから、前記第4の1(5)の申立理由5(サポート要件違反)には理由がない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1、2、4~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他にこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項3は、本件訂正により削除され、当該請求項に係る特許異議の申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700137