特許異議申立
2024-700851
脂肪塊組成物、及び代替肉
- 審判番号
- 2024-700851
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-538651
- 登録番号
- 7446529
- 請求日
- 2024年09月06日
- 審決日
- 2024年11月25日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】富士フイルム株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人太陽国際特許事務所
- 【異議申立人】山田 彰彦
- 審判長/審判官
- 審判長 柴田 昌弘
- 審判官 加藤 友也
- 審判官 宮久保 博幸
- 分類
- P1651.113-Y (A23D) / P1651.121-Y (A23D) / P1651.537-Y (A23D) / P1651.536-Y (A23D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法113条4号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7446529号発明「脂肪塊組成物、及び代替肉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7446529号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7446529号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2022年(令和4年)7月29日(優先権主張 令和3年7月30日、令和4年7月28日)を国際出願日とする出願であって、令和6年2月29日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、同年3月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年9月6日に特許異議申立人 山田彰彦(以下、「特許異議申立人」という。)から特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
融点が0.1℃以上である油脂を含有する粒状体と、
陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーと、を含み、
前記粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下である脂肪塊組成物。
【請求項2】
界面活性剤を含有し、
前記イオン架橋性ポリマーと、前記界面活性剤の親水部と、のHSP距離が10以下である請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項3】
前記イオン架橋性ポリマーを含有するゲルを含み、
前記粒状体の体積に対する、前記ゲルの体積が10%以上300%以下である請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項4】
厚さ2mm、縦の長さ:横の長さの比=1:1、かつ2gの脂肪塊組成物を90℃のホットプレートで5分間加熱した後、加熱後の前記脂肪塊組成物の表面から厚さ方向に300g/cm2の圧力で1分間加圧した場合において、加熱前の前記脂肪塊組成物に含有される前記油脂の量に対する、加熱後の前記脂肪塊組成物の加圧時に加熱後の前記脂肪塊組成物から放出された液体の量が30質量%以上である請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項5】
前記粒状体の粒径のCV値が30%以下である請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項6】
前記油脂の融点が1℃以上30℃以下である請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項7】
前記油脂がココナッツ油、オリーブ油、パーム油、キャノーラ油、及びオレイン酸から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項8】
前記粒状体が水を含有する請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項9】
シート状であり、厚さが0.5mm以上である請求項1に記載の脂肪塊組成物。
【請求項10】
タンパク質を含む赤身様部分と、
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の脂肪塊組成物と、を含む代替肉。」
第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要等
令和6年9月6日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要及び証拠方法は次のとおりである。なお、判断の便宜上、当審において、新規性・進歩性については主引用文献ごとに特許異議申立の理由を整理し、記載要件については条文ごとに特許異議申立ての理由を整理した。
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1、3及び6ないし9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし10は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性)
本件特許発明1及び9は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし10は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、同法同条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)本件特許明細書には、イオン架橋性ポリマーの定義及び実例の記載こそ存在するものの、本件特許発明の課題とイオン架橋性ポリマーとの関係については、段落【0013】に「陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーを含有することで、脂肪塊組成物に含有される粒状体を好ましい粒径に保つことができる」と記載するのみである。
しかしながら、本件特許の実施例において、イオン架橋性ポリマーであるアルギン酸ナトリウムを用いた比較例4及び5では、粒状体を好ましい粒径に保つことはできていない。
また、任意のイオン架橋性ポリマーに関して、加圧時の油分の放出量が多くなるという技術常識は存在せず、陽イオンで架橋されていることと加圧時の油分の放出量とが何らかの関係にあるという技術常識も存在しない(なお、イオン架橋性ポリマーにも、多様な物性のものが存在することには注意が必要である)。
したがって、イオン架橋性ポリマーが発明の課題解決にどのように貢献するのか、当業者には理解することができない。
そうすると、当業者といえども、本件特許明細書にて23例が示されたアルギン酸ナトリウム又は1例が示されたLMペクチンを超えて、他の多種多様なイオン架橋性ポリマーについてまで、それらがイオン架橋性ポリマーであるということだけで、本件特許発明の課題を解決することができると認識することはできない。
したがって、本件特許発明1~10は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
(2)イオン架橋性ポリマーを用いるだけで平均粒径を好ましい範囲に保つことはできないと考えられ、実際に、本件特許の比較例4及び5では、イオン架橋性ポリマーであるアルギン酸ナトリウムが用いられているにも関わらず、本件特許発明の平均粒径(50μm以上500μm以下)は達成されていない。
そうすると、本件特許明細書には、どのようにすれば粒状体の平均粒径を制御することができるか、そして、粒状体の平均粒径を50μm以上500μm以下に保つにはどうすればよいのか、一切記載されていない。
したがって、本件特許明細書は、本件特許発明の課題解決に必要な発明の構成である「平均粒径が50μm以上500μm以下である粒状体」を実質的に記載したものとはいえない。
よって、本件特許発明1~10は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
4 申立理由4(実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
(1)上記3(1)で指摘した点で、「平均粒径が50μm以上500μm以下である粒状体」を含む脂肪塊組成物を、過度な実験や試行錯誤の必要なく、当業者が調製することができるとはいえない。
したがって、本件特許発明1~10は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
(2)本件発明8は、粒状体が水を含有することを特徴とする。
しかしながら、粒状体に水を含有させることについて、本件特許明細書には、「油脂の融点を30℃以下とすることで、後述する脂肪塊組成物の製造において、室温(例えば25℃)下で粒状体に水を含有する脂肪塊組成物を製造しやすくなり」(段落【0020】)と記載されているのみであり、どのようにすれば粒状体に水を含有させられるのかも不明であれば、本件実施例の粒状体に水が含有されているのかも不明である。
したがって、本件特許発明8は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない
5 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2013/190921号
甲第1-2号証:米国特許出願公開第2015/0099053号明細書
甲第2号証:中国特許出願公開第111227056号明細書
甲第3号証:国際公開第2018/213566号
甲第4号証:特開2002-253143号公報
甲第5号証:特開昭51-45067号公報
甲第6号証:食用油脂(第96、97、104、105、110、111、212及び213頁、表紙及び奥付)、2000年(平成12年)4月5日、藤田哲
甲第7号証:日本薬局方オリブ油の医薬品インタビューフォーム(第1頁、表紙及び最終頁)、平成27年10月、ニプロ株式会社
甲第8号証:繊維学会誌、65巻12号、P-444、2009年(平成21年)、一般社団法人 繊維学会
甲第9号証:高分子、15巻4号、294及び297頁、1966年(昭和41年)3月20日、公益社団法人 高分子学会
甲第9-2号証:「高分子」の書誌事項のウェブサイト https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/15/4/15_4_294/_article/-char/ja、特許異議申立人(出力者)
甲第10号証:水添野菜油の基本情報・配合目的・安全性 https://cosmetic-ingredients.org/base/1241/#ref-list-2、特許異議申立人(出力者)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。
第4 申立理由について
1 申立理由1(甲1に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「水中油型乳化物ゲル食品」に関しておおむね次の事項が記載されている。下線は当審で付したものである。他の文献についても同様。
・「技術分野
[0001] 本発明は、咀嚼前に保形性を有し、咀嚼時に油脂が滲み出す水中油型乳化物ゲルからなる食品、及びその製法に関する。」
・「発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明は、咀嚼前に保形性を有し、且つ咀嚼時に油脂が滲み出すことで、嚥下時に喉通りが滑らかな食感を有する水中油型乳化物ゲル食品からなる咀嚼性食品を、任意の油脂を用いて得ることを目的とした。
課題を解決するための手段
[0009] 発明者らは上記課題に鑑み、鋭意研究した結果、大豆蛋白質の架橋ゲルの中に粗大油滴を分散させることで、従来の知見とは異なり、咀嚼前の油脂の滲み出しを抑えつつ、咀嚼時に油脂が滲み出す特殊な物性が得られることを見出した。さらに本知見について鋭意検討を重ねた結果、ゲルの特性および油滴の大きさと量が上記食感に与える関係を見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)50μm~800μmの粒子径を有する油滴を10~60重量%含有する水中油型乳化スラリーが、ゲル化処理されて得られる、水中油型乳化物ゲル食品、
(2)50μm~800μmの直径を有する油滴の平面占有率が10~60%であり、非ミオシンのゲル化素材によるゲルが連続相として存在する、(1)記載の水中油型乳化物ゲル食品、
・・・(略)・・・
に関するものである。」
・「[0013](ゲル化素材)
ゲル化素材としては、ゲル化して油滴を保持できる性能を有していればよく、供給安定性や経済性、栄養性や生理機能性、食感や風味や色調などの品質などを考慮して選択できる。例えば、多糖類や蛋白質などの素材を利用することが好ましい。具体的には、大豆蛋白質,ゼラチン,卵白アルブミン,乳清蛋白,マンナン,ペクチン,アルギン酸,カードラン,寒天,ジェランガム等、およびそれらを含有した素材などから選ばれる一種以上が挙げられる。蛋白質を機能成分とするゲル化素材は、冷凍解凍を行った場合に、後述するドリップが少ないために、多糖類を機能成分とするゲル化素材よりも本発明のゲル食品に好ましい。ゼラチンや大豆蛋白素材などを含有したゲル化素材は、嚥下の際に滑らかさを有するために好ましく、大豆蛋白素材の利用は冷凍解凍を行った場合においても嚥下の際に滑らかさを有するために更に好ましい。すり身などのミオシン蛋白質を主とするものはゲル調製時の粘度が高く、例えば特開2011-177090の低速攪拌でも30μm未満の油滴となっており(図3b)、油の滲み出しを伴う、本発明の特徴である食感を得ることが難しい。尚、蛋白質を主としたゲル化素材に、カラギーナン,アルギン酸,ジェランガム,カードラン等の多糖類ゲル化剤を併用することができる。」
・「[0015](油脂)
油脂としては、食用に適した油脂から、供給安定性や経済性、栄養性や生理機能性、食感や風味や色調などの品質などを考慮して選択できる。例えば、コーン油,菜種油,サフラワー油,ヒマワリ油,大豆油,米糠油,オリーブ油,ゴマ油,ピーナツ油,パーム油,パーム核油,ヤシ油,カカオバターなどの植物油脂、サバ,イワシ,アジ,マグロ,タラ,サメ等の魚油、イカ油並びに鯨油などの海洋生物の油脂、ラード,ヘッド,乳脂などの陸上動物の油脂、藻類や微生物に由来する油脂、これらの硬化油,分別油およびエステル交換油などを、単体でまたは組合わせて利用できる。この際、融点が高い油脂は咀嚼される食品の温度によっては油の滲み出しを感じにくいので、配合する油脂は融点が低いものが好ましい。中でも、融点が30℃以下が好ましく、20℃以下が更に好ましく、10℃以下が最も好ましい。原料の種別としては、植物油や魚油が良く、具体的には、コーン油,菜種油,サフラワー油,ヒマワリ油,大豆油,米糠油等が挙げられるが、多価不飽和脂肪酸含量の低い、オリーブ油やパームオレイン油、高オレイン酸含有のヒマワリ油やサフラワー油等を使用することも好ましい。また、マーガリン,ショートニング,チョコレート等のような他物質を含む組成のものであっても、油の滲み出しを妨害しない限り使用できる。 尚、融点は基準油脂分析試験法(1)1996年版(日本油化学会設定)2.2.4.2-1996に記載の上昇融点を用いた。
[0016](水中油型乳化スラリーとスラリー油滴含量)
本発明の水中油型乳化物ゲル食品は、上述したゲル化素材の水系溶液に、上に例示された油脂を添加し、適切な剪断力を加えることで調製される、水中油型乳化物のスラリーがゲル化処理されることで得られたものである。」
・「[0017](水中油型乳化物ゲル食品)
本発明の水中油型乳化物ゲル食品は、上記の水中油型乳化スラリーを、スラリー中に含有するゲル化素材でゲル化したものである。ゲル食品中の油脂含量は10重量%を超え且つ60重量%以下であることが好ましい。ゲル食品中の油脂が10重量%以下では油脂の滲み出しが感じにくく、60重量%を超えるとゲル中の油滴を保ちにくい。また、油脂の存在状態が水中油型乳化物であることが必要である。油中水型では液油若しくは固形脂の中にゲル粒もしくは凝集物が生じ、咀嚼前から既に離油した状態となるため、本発明の課題の解決が難しい。油脂の滲み出しをより多く感じられるためには、ゲル食品中の油脂含量は、20重量%以上が好ましく、30重量%以上が更に好ましく、40重量%以上が一層好ましい。また、55重量%以下が更に好ましい。」
・「[0020] ここで「平面占有率」とは、上記光学顕微鏡観察に於いて、予め設定した面積あたりの、特定の直径を有する油滴が占める面積の割合(%)である。この際、視野中で少なくともその一部同士が重なる複数の油滴については、面積が大きい油滴を優先し、優先した油滴と一部が重なった他の油滴については、これを積算しない。以上の手順で算出された設定面積に於ける、特定油滴直径を有する油滴の総面積を、平面占有率として算出する。」
・「[0023](油脂の滲み出し性)
本発明は、咀嚼の際の当該食品からの油脂の滲み出しが重要である。この性状は本来は官能評価によって評価するが、物理的数値として、圧縮試験における、ゲルに対しての圧縮離液乾物重量すなわち、圧縮離液率として評価することが出来る。 具体的には、試料を圧縮した際に濾紙へと滲み出す油脂や水などの「圧縮離液」の乾物重量が、圧縮前の試料重量に占める率(%)のことを指し、以下の手順で測定する。予め105℃,24時間乾燥させ重量精秤済のφ9cm濾紙(アドバンテック東洋(株)製「FilterPaper(No.2)」)を半分に折って広げ、濾紙の中央に正方形且つ2mm厚に切断した試料約200mgを置いて、試料の重量を精秤する。濾紙を折り目に沿って曲げ、軽く試料を包んで三方平袋(カウパック(株)製「耐熱性袋NCF/12cm幅」)に入れ、-0.95barの圧力下にて袋をシールし、20℃またはゲルが含有する油脂の融点の何れか高い温度の大気圧下に1時間放置する。開封後に濾紙上の試料を除去し、「圧縮離液」を含んだ濾紙を105℃,24時間乾燥させ、濾紙へと滲み出した滲出乾物量を精秤し、試験開始時の試料質量に対する比とする。」
・「[0025](蛋白質架橋酵素)
本発明のゲル食品は、ゲル化素材の分子同士が水素結合だけでない結合様式、すなわち、Caなどの金属イオンを介したイオン結合や蛋白分子間の疎水的親和性によるゲル、または蛋白分子同士が共有結合によって重合したゲルであることが好ましい。更に、蛋白質架橋酵素が触媒する分子間架橋を有するゲルであることが好ましく、トランスグルタミナーゼであることが、容易な反応による作業性等、ゲルを調製するためのコスト、並びに完成したゲルの脂の滲み出しや嚥下性等の食感の適性から、最も好ましい。トランスグルタミナーゼの種類および使用方法として例えば、無脂スラリー当り、大豆蛋白質濃度が5~15重量%である水中油型乳化物スラリー100重量部に対し、アクティバTG-S製剤(味の素(株)製:トランスグルタミナーゼの比活性100Units/gの製剤)の10%水溶液を、0.1~10重量部、工程にもよるが好ましくは0.3~3.0重量部添加する。また、ゲル化素材が大豆蛋白質である場合に、トランスグルタミナーゼは特に効果的である。」
・「[0035](ゲル食品を原料とし、更に加工された食品)
本発明の水中油型乳化物ゲル食品は、そのまま、あるいは他の食材と併せることで、種々の用途に用いることができる。ゲルの調製時に油脂の含量や組成、ゲル化素材、調味料、色素および香料等を適宜調製することで、脂身風食品、生魚介肉風食品、生レバー風食品、ソーセージ風食品、ういろう風食品、柔いハンペン風食品、高野豆腐風食品等々に用いることができる。」
・「実施例
[0036] 以下に実施例を記載することで本発明を説明する。
(ゲル化素材の調製)
●製造例1(高物性分離大豆蛋白Aの調製)
1重量部の脱脂大豆(PDI:83)に、13重量部の水を加え(PH6.7)、遠心分離によりオカラを除去して可溶性画分を回収した。pH4.5に調整して析出した蛋白質を遠心分離により沈殿として回収し、中和することで、分離大豆蛋白A(A溶液)を得た。固形分あたり、蛋白質は96.3%、脂質は1.4%であった。A溶液の一部は凍結物(A凍結品・固形分14.2%)とし、残りの一部は加熱殺菌せずに噴霧乾燥し(A粉末品・未殺菌・固形分94.0%)、残りは加熱殺菌後に噴霧乾燥した(A粉末品・固形分94.0%,LCI値:37)。」
・「[0038]●実施例1(高物性大豆蛋白を使用した脂身風食品)
分離大豆蛋白(A凍結品)の希釈解凍品60重量部(蛋白質濃度12.5重量 %・2,300mPa・s)を55℃に昇温させ、プロペラ攪拌(600rpm)しつつ、40重量部の菜種油(不二製油(株)社製「菜種白絞油」)(55℃)をプロペラの軸に沿って注ぎ、更に1分間600rpmで攪拌を続け、水中油型乳化物スラリーを得た。当該スラリーの粒度分布を測定した後に、1重量部の架橋剤液(味の素(株)製「アクティバTG-S」トランスグルタミナーゼ100Unit/gの10%水溶液)を加え、耐熱性袋に充填し、酵素反応(55℃,30分)させ、殺菌(90℃,30分)した。流水で粗熱をとり、一晩冷凍(-20℃)し、各種分析や試食評価の前に袋ごと流水解凍して、試料とした。試料の組成および製法、油滴径と食感の相関を表1および2に示した。得られた試料は、硬い脂身風の食感と半透明黄白の色調を有しており、咀嚼試験に供したところ、咀嚼時に油脂の滲み出しが多く感じられ、嚥下時の喉通りは充分に滑らかであった。」
・「[0048]実施例8(半固形脂)
菜種油のかわりに、常温(20℃)にて半固形状のパーム油(不二製油(株)製「精製パーム油」・上昇融点37℃)を用い、実施例1と同様の操作を行った。冷凍せずに冷蔵し、40℃に温めて、試料とした。得られた試料は、ソーセージ風の食感と不透明白濁の色調を有しており、咀嚼試験に供したところ、咀嚼時に油脂の滲み出しがやや感じられ、嚥下時の喉通りはやや滑らかであった。」
・「[0051]表1 各素材および製法による水中油型乳化物ゲル
[図:0001418267000001.jpg]
」
・「[0054]表4 水中油型乳化物ゲル中の油滴径分布(表中数値は平面占有率%)
[図:0001418267000002.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
(ア)甲1発明1
甲1に記載された事項を、特に[0009]に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明1>
「50μm~800μmの粒子径を有する油滴を10~60重量%含有する水中油型乳化スラリーが、ゲル化処理されて得られる、非ミオシンのゲル化素材によるゲルが連続相として存在する、水中油型乳化物ゲル食品。」
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書第16ページにおいて、甲1発明1として次の発明が認定できる旨主張するが、甲1において、「パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオバター、オリーブ油、パームオレイン油、又はこれらの硬化油」は選択肢として記載されているにすぎず、「ペクチン又はアルギン酸」も選択肢として記載されているにすぎず、「脂身風食品」も選択肢として記載されているにすぎないから、特許異議申立人が主張するような発明が記載されているとはいえない。
「A:パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオバター、オリーブ油、パームオレイン油、又はこれらの硬化油を含有する融点が0.1℃以上である油滴と、
B:ゲル化されたイオン架橋性ポリマーであるペクチン又はアルギン酸と、を含み、
C:前記油滴の粒子径が50μm以上800μm以下である
D:脂身風食品。」
(イ)甲1発明2
甲1に記載された事項を、特に実施例8に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認める。
<甲1発明2>
「分離大豆蛋白(A凍結品)の希釈解凍品60重量部(蛋白質濃度12.5重量 %・2,300mPa・s)を55℃に昇温させ、プロペラ攪拌(600rpm)しつつ、40重量部の常温(20℃)にて半固形状のパーム油(不二製油(株)製「精製パーム油」・上昇融点37℃)をプロペラの軸に沿って注ぎ、更に1分間600rpmで攪拌を続け、水中油型乳化物スラリーを得、1重量部の架橋剤液(味の素(株)製「アクティバTG-S」トランスグルタミナーゼ100Unit/gの10%水溶液)を加え、耐熱性袋に充填し、酵素反応(55℃,30分)させ、殺菌(90℃,30分)し、流水で粗熱をとり、一晩冷蔵し、40℃に温めた、ソーセージ風の食感を有した半固形脂。」(当審注:「分離大豆蛋白(A凍結品)」については甲1の[0036]参照。)
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書第18ページにおいて、甲1発明2として次の発明が認定できる旨主張するが、甲1における実施例8から発明を認定する以上、上記のように認定することが適切であると当審は判断した。
「A:上昇融点が37℃であるパーム油を含有する油滴(粒状体)と、
B:トランスグルタミナーゼで架橋された大豆タンパク質と、を含み、
C:前記油滴のゲル中の油滴径の分布が表4に記載されたとおりである
D:脂身風食品。」
(2)本件特許発明1について
ア 甲1発明1との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明1を対比する。
甲1発明1における「油滴」は、「粒子径」を有するものであるから、本件特許発明1における「油脂を含有する粒状体」に相当する。
甲1発明1における「ゲル化処理されて得られる、非ミオシンのゲル化素材によるゲルが連続相として存在する、水中油型乳化物ゲル」は本件特許発明1における「陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマー」と、「可食性のポリマー」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「50μm~800μmの粒子径を有する」は本件特許発明1における「前記粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下である」と、「前記粒状体の平均粒径が50μm以上である」という限りにおいて一致する。
甲1発明における「食品」は本件特許発明1における「脂肪塊組成物」と、「組成物」という限りにおいて一致する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「油脂を含有する粒状体と、
可食性のポリマーと、を含み、
前記粒状体の平均粒径が50μm以上である組成物。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-1-1>
「油脂」に関して、本件特許発明1においては「融点が0.1℃以上である」と特定されているのに対して、甲1発明1においてはそのようには特定されていない点。
<相違点1-1-2>
「可食性のポリマー」に関して、本件特許発明1においては「陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマー」と特定されているのに対して、甲1発明1においては「ゲル化処理されて得られる、非ミオシンのゲル化素材によるゲルが連続相として存在する、水中油型乳化物ゲル」と特定され、本件特許発明1のようには特定されていない点。
<相違点1-1-3>
「前記粒状体の平均粒径が50μm以上である」に関して、本件特許発明1においては上限が「500μm以下」と特定されているのに対して、甲1発明1においては上限が「~800μm」と特定されている点。
<相違点1-1-4>
「組成物」に関して、本件特許発明1においては「脂肪塊組成物」と特定されているのに対して、甲1発明1においては「食品」と特定されている点。
(イ)判断
相違点1-1-1ないし1-1-4について検討する。
相違点1-1-1ないし1-1-4が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
相違点1-1-1に関して、甲1の[0015]に、「油脂」として、「オリーブ油」、「パーム油」、「パーム核油」、「ヤシ油」及び「カカオバター」等の「融点が0.1℃以上である」「油脂」が選択肢として記載されている。
相違点1-1-2に関して、甲1の[0013]に、「ゲル化素材」として、「ペクチン」、「アルギン酸」及び「ジェランガム」等の「イオン架橋性のポリマー」が選択肢として記載され、同[0025]には、「Caなどの金属イオン」を介したイオン結合によるゲルであることが、蛋白分子間の疎水的親和性によるゲルであること及び蛋白分子同士が共有結合によって重合したゲルであることと並んで選択肢として記載されている。
相違点1-1-3に関して、甲1発明1における「粒子径」の数値範囲の「50μm~800μm」は「50μm以上500μm以下」を包含するし、甲1の[0054]の表4には、平均粒径が「50μm以上500μm以下」である蓋然性の高い実施例が記載されている。
相違点1-1-4に関して、甲1の[0035]には、「水中油型乳化物ゲル食品」の「用途」として、「脂身風食品」が選択肢として記載されている。
このように、甲1には、相違点1-1-1ないし1-1-4に係る本件特許発明1の発明特定事項に関する記載はある。
しかし、これらは選択肢として、又は、包含される若しくは蓋然性が高いものとして、甲1に記載されているにすぎず、これらを組み合わせたものが、実際に、甲1に記載されている訳ではない。
また、これらを組み合わせる動機付けとなる記載は甲1にはないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明1において、相違点1-1-1ないし1-1-4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、本件特許発明1は甲1発明1であるとはいえないし、甲1発明1並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
イ 甲1発明2との対比・判断
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明2を対比する。
甲1発明2における「半固形状のパーム油(不二製油(株)製「精製パーム油」・上昇融点37℃)」を「攪拌」して得られたものは本件特許発明1における「融点が0.1℃以上である油脂を含有する粒状体」に相当する。
甲1発明2における「半固形脂」は本件特許発明1における「脂肪塊組成物」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「融点が0.1℃以上である油脂を含有する粒状体と、を含む、脂肪塊組成物。」
そして、両者は次の点で一応相違する。
<相違点1-2-1>
本件特許発明1においては「陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーとを、含み」と特定されているのに対して、甲1発明2においては「分離大豆蛋白(A凍結品)の希釈解凍品60重量部(蛋白質濃度12.5重量 %・2,300mPa・s)」を「架橋剤液(味の素(株)製「アクティバTG-S」トランスグルタミナーゼ100Unit/gの10%水溶液)」で架橋したものであって、本件特許発明1のようには特定されていない点。
<相違点1-2-2>
本件特許発明1においては「前記粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下」と特定されているのに対して、甲1発明2においてはそのようには特定されていない点。
(イ)判断
相違点1-2-1について検討する。
相違点1-2-1が実質的な相違点であることは当業者に明らかである。
そして、甲1の[0025]には「蛋白質架橋酵素が触媒する分子間架橋を有するゲルであることが好ましく、トランスグルタミナーゼであることが、容易な反応による作業性等、ゲルを調製するためのコスト、並びに完成したゲルの脂の滲み出しや嚥下性等の食感の適性から、最も好ましい。」及び「ゲル化素材が大豆蛋白質である場合に、トランスグルタミナーゼは特に効果的である。」と記載されており、甲1発明2は、甲1の[0025]において、最も好ましいとされている「大豆蛋白質」を「トランスグルタミナーゼ」で架橋したものであるところ、甲1には、甲1発明2における「大豆蛋白質」を「トランスグルタミナーゼ」で架橋したものに代えて、又は加えて、「陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマー」を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲1発明2において、相違点1-2-1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(ウ)まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明2であるとはいえないし、甲1発明2並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2、4及び5について
以下、「甲1発明1」及び「甲1発明2」を総称して「甲1発明」という。
本件特許発明2、4及び5は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(4)本件特許発明3及び6ないし9について
本件特許発明3及び6ないし9は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件特許発明10について
本件特許発明10は本件特許発明1ないし9のいずれかを含む「代替肉」の発明であるところ、本件特許発明1ないし9が甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明10は甲1に記載された発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1、3及び6ないし9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし10は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。
2 申立理由2(甲2に基づく新規性・進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「脂肪組織模擬物の加工方法」に関しておおむね次の事項が記載されている。なお、甲2は外国語文献のため訳文のみを摘記する。
・「[0007]
上記の目的を達成するために、本発明の解決手段は、以下の通りである。
脂肪組織模擬物の加工方法であって、重量部で計算し、次の工程を含む。
工程1:テクスチャー化繊維状大豆タンパク質1部を、水3~5部に十分に浸漬し、水気を切って湿ったテクスチャー化繊維状大豆タンパク質を得、フィラメント状にほぐして組織タンパク質フィラメントを得ること、
工程2:新鮮な白いキノコを細断して、白いキノコのフィラメントを得る、
工程3:大豆タンパク質分離物1部と氷水9部を混合し、カットして水と混合し、大豆タンパク質分離物の水和スラリーを得ること、
工程4:工程1~3で得られた、組織状タンパク質フィラメント1~2部、白いキノコのフィラメント1部、大豆タンパク質分離物の水和スラリー2部を撹拌して均質に混合し、0.5~2時間放置し、0.01~0.05部のトランスグルタミナーゼを取り、撹拌して混合し、0.5~2時間放置して混合物を得ること、
工程5:アルギン酸ナトリウム1部、食品グレードの硫酸カルシウム0.01~0.03部およびトリポリリン酸ナトリウム0.005~0.02部を均質に混合し、水20部、動植物油脂10~20部を加え、カットして水と混合して、アルギン酸ナトリウムの水和スラリーを得ること、
工程6:工程4で得られた混合物1部、水添植物油粒状体0.5~1部およびアルギン酸ナトリウムの水和スラリー1~3部を、均質に混ざるまで真空撹拌して、模擬物スラリーを得ること、
工程7:模擬物スラリーを-5~10℃で2~12時間放置して固化させ、さいの目に切り、ミンチして、脂肪組織模擬物を得ること。
・「実施形態
[0018]
本発明は、脂肪組織模擬物の加工方法を開示し、重量部で計算し、次の工程を含む。
工程1:テクスチャー化繊維状大豆タンパク質1部を水3~5部に十分浸漬し、水気を切って、湿ったテクスチャー化繊維状大豆タンパク質を得、フィラメント状にほぐして組織タンパク質フィラメントを得ること、
工程2:新鮮な白いキノコを細断して、白いキノコのフィラメントを得る、
工程3:大豆タンパク質分離物1部と氷水9部を混合し、カットして水と混合して、大豆タンパク質分離物の水和スラリーを得ること、
工程4:工程1~3で得られた、組織タンパク質フィラメント1~2部、白いキノコのフィラメント1部、および大豆タンパク質分離物の水和スラリー2部を擾拌して均質に混合し、0.5~2時間放置し、0.01~0.05部のトランスグルタミナーゼを取り、攪拌して混合し、0.5~2時間放置して、混合物を得ること、
工程5:アルギン酸ナトリウム1部、食品グレードの硫酸カルシウム0.01~0.03部、トリポリリン酸ナトリウム0.005~0.02部を均質に混合し、水20部、動植物油脂10~20部を加え、カットして水と混合して、アルギン酸ナトリウムの水和スラリーを得ること、
工程6:工程4で得られた混合物1部、水添植物油顆粒0.5~1部、アルギン酸ナトリウムの水和スラリー1~3部を、均質に混ざるまで真空撹拌して、模擬物スラリーを得ること、
工程7:模擬物スラリーを-5~10℃で2~12時間放置して固化させ、さいの目に切り、ミンチして、脂肪組織模擬物を得ること。
・「[0027]実施例1
本発明で提供される脂肪組織模擬物の加工方法の好ましい条件を実施例1に示す。
[0028]
本発明は、脂肪組織模擬物の加工方法を開示し、重量部で計算し、次の工程を含む。
工程1:テクスチャー化繊維状大豆タンパク質1部を3~5部の水に十分浸漬し、水気を切って、湿ったテクスチャー化繊維状大豆タンパク質を得、ほぐし機(括銘机械装置)でフィラメント状にほぐして、組織タンパク質フィラメントを得ること、
工程2:新鮮な白いキノコを、せん切り装置(切銘机械装置)を使用して直径3mmの細切りにして、白いキノコのフィラメントを得ること、
工程3:大豆タンパク質分離物1部と氷水9部を混合し、チョッピング装置を用いて3000r/分の速度でチョッピングし、水と混合して、大豆タンパク質の水和スラリーを得ること、
工程4:工程1~3で得られた、組織タンパク質フィラメント1部、白いキノコのフィラメント1部、大豆タンパク質の水和スラリー2部を撹拌装置に入れて、撹拌して均質に混合し、1時間放置して、トランスグルタミナーゼ0.05部を取って撹拌装置に投入し、撹拌してよく混ぜ、1時間放置して、混合物を得ること、
工程5:アルギン酸ナトリウム1部、食品グレードの硫酸カルシウム0.01部、トリポリリン酸ナトリウム0.01部を均質に混合し、水2 0部、大豆油10部、鶏皮10部を加え、チョッピング装置を用いて3000r/分の速度でチョッピングし、水と混合して、アルギン酸ナトリウムの水和スラリーを得ること、
工程6:工程4で得られた混合物1部、水添植物油粒状体1部、アルギン酸ナトリウムの水和スラリー2部を、真空撹拌装置中に投入して、10分間、均質になるまで撹拌して、模擬物スラリーを得ること、
工程7:模擬物スラリーを-5~10℃で6時間放置して固化させ、ダイサー、ミンサー(切丁、絞砕机械装置)を用いてさいの目に切り、ミンチして、各種急速冷凍調理食品加工に必要な形態の脂肪組織模擬物を得ること。」
イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に工程4ないし7に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2発明>
「組織状タンパク質フィラメント1~2部、白いキノコのフィラメント1部、大豆タンパク質分離物の水和スラリー2部を撹拌して均質に混合し、0.5~2時間放置し、0.01~0.05部のトランスグルタミナーゼを取り、撹拌して混合し、0.5~2時間放置し混合物を得、アルギン酸ナトリウム1部、食品グレードの硫酸カルシウム0.01~0.03部およびトリポリリン酸ナトリウム0.005~0.02部を均質に混合し、水20部、動植物油脂10~20部を加え、カットして水と混合して、アルギン酸ナトリウムの水和スラリーを得、混合物1部、水添植物油粒状体0.5~1部およびアルギン酸ナトリウムの水和スラリー1~3部を、均質に混ざるまで真空撹拌して、模擬物スラリーを得、模擬物スラリーを-5~10℃で2~12時間放置して固化させ、さいの目に切り、ミンチして、得た脂肪組織模擬物。」
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書第20ページにおいて、甲2発明として次の発明が認定できる旨主張するが、甲2に記載された事項から発明を認定する以上、上記のように認定することが適切であると当審は判断した。
「A:水添植物油(融点0.1℃以上の油脂)を含有する粒状体と、
B:陽イオンであるカルシウムイオンで架橋されたイオン架橋性ポリマーであるアルギン酸と、を含む、
C:
D:脂肪組織模擬物。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「水添植物油粒状体」は本件特許発明1における「油脂を含有する粒状体」に相当する。
甲2発明における「脂肪組織模擬物」は本件特許発明1における「脂肪塊組成物」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「油脂を含有する粒状体と、を含む、脂肪塊組成物。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
「油脂」に関して、本件特許発明1においては「融点が0.1℃以上である」と特定されているのに対して、甲2発明においては「水添植物油」と特定されているものの本件特許発明1のようには特定されていない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1においては「陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーとを、含み」と特定されているのに対して、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。
<相違点2-3>
本件特許発明1においては「前記粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下」と特定されているのに対して、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2-3について検討する。
甲2には、「水添植物油粒状体」の「平均粒径」について何ら記載されていないし、甲2発明は本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例と使用する原料や液滴形成方法も異なることから、甲2発明における「水添植物油粒状体」の「平均粒径」が「50μm以上500μm以下」である蓋然性が高いともいえない。
したがって、相違点2-3は実質的な相違点である。
また、甲2には、甲2発明における「水添植物油粒状体」の「平均粒径」を「50μm以上500μm以下」とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2発明において、相違点2-3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「従来の食材と比べて噛んだ際における油分の放出量が多い脂肪塊組成物が提供される」(本件特許の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の【0008】)という効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件特許発明9について
本件特許発明9は、請求項1の記載を引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明であるとはいえないし、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(5)本件特許発明10について
本件特許発明10は本件特許発明1ないし9のいずれかを含む「代替肉」の発明であるところ、本件特許発明1ないし9が甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明10は甲2に記載された発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1及び9は特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし10は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないので、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は同法同条の規定に違反してされたものであるとはいえないから、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。
3 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。
(2)サポート要件の判断
ア 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
イ 判断
発明の詳細な説明の【0001】ないし【0006】によると、本件特許発明1ないし9の解決しようとする課題は「従来の食材と比べて噛んだ際における油分の放出量が多い脂肪塊組成物を提供すること」及び本件特許発明10の解決しようとする課題は「従来の食材と比べて噛んだ際における油分の放出量が多い脂肪塊組成物を含む代替肉を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
発明の詳細な説明の【0007】には、本件特許発明1ないし10に対応する記載がある。
発明の詳細な説明の【0013】には、「本開示の脂肪塊組成物は、融点が0.1℃以上である油を含有する粒状体を含むため、脂肪塊組成物の構造が、畜肉に含まれる脂身の構造と類似した構造となる。これにより、咀嚼時に畜肉の脂身と同様に、本開示に係る脂肪塊組成物は、油分を脂肪塊組成物から放出しやすくなる。」、「本開示に係る脂肪塊組成物は、粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下である。粒径の小さい粒状体は、内包する油脂の量が少ない。そのため粒径の小さい粒状体が含まれると脂肪塊組成物を噛んだ際の油分の放出量が少なくなりやすい。一方、粒径の大きい粒状体は、不安定であるため、加熱調理などの調理を行うと粒状体から油脂が漏出しやすい。これにより、粒状体の平均粒径が上記数値範囲内であることで、脂肪塊組成物中に含有される油脂の量が多くなりやすい。そのため、脂肪塊組成物を咀嚼した際における、油分の放出量が向上しやすくなる。」及び「本開示に係る脂肪塊組成物は、陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーを含有することで、脂肪塊組成物に含有される粒状体を好ましい粒径に保つことができる。さらに、脂肪塊組成物に弾力が付与され、より食感が畜肉の脂身に近くなりやすい。」と記載されている。
発明の詳細な説明の【0129】ないし【0160】には、「融点が0.1℃以上である油脂を含有する粒状体と、陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーと、を含み、前記粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下である脂肪塊組成物」という条件を満たす実施例が該条件を満たさない比較例よりも、加圧時の液体漏出量比が高い脂肪塊組成物が得られ、該脂肪塊組成物を含む「代替肉」を加熱調理後に食し、噛んだ際の脂肪塊組成物の油分の放出量が十分であったことを確認する記載がある。
そうすると、発明の詳細な説明の上記記載から、当業者は、「融点が0.1℃以上である油脂を含有する粒状体と、陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーと、を含み、前記粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下である脂肪塊組成物」及び該「脂肪塊組成物」を含む「代替肉」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし9は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「脂肪塊組成物」であるか、それをさらに限定したものであり、本件特許発明10は当業者が発明の課題を解決できると認識できる上記「代替肉」であるか、それをさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件特許発明1ないし10に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3における主張について検討する。
ア 上記第3 3(1)について
発明の詳細な説明の【0147】に記載された比較例4及び5における「粒状体の平均粒径」がそれぞれ「42μm」及び「26μm」となっており、「50μm以上500μm以下」の条件を満たさないのは、同箇所に「(1)液滴形成工程において、パイプ状SPG膜の細孔径、並びに、水相及び油相の流量を表3の通りにした以外は実施例1と同様にして脂肪塊組成物を得た。」と記載されているとおり、パイプ状SPG膜の細孔径が5μmと実施例1のものよりも小さく、水相及び油相の流量も実施例1のものとは異なることによるものであり、原料は関係がない。
また、発明の詳細な説明の【0013】によると、「陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマー」は「粒状体を好ましい粒径に保つ」ためのもので、「粒状体」を「好ましい粒径」にするためのものではない。
さらに、「アルギン酸ナトリウム」や「LMペクチン」以外の「イオン架橋性ポリマー」では「粒状体の平均粒径」を「50μm以上500μm以下」の条件を満たすようにすることができないことの具体的な証拠が示されている訳ではない。
そうすると、「アルギン酸ナトリウム」や「LMペクチン」以外の多種多様な「イオン架橋性ポリマー」を用いた場合でも、「液滴形成工程」において、例えば、「パイプ状SPG膜の細孔径」及び「水相及び油相の流量」を制御することによって、「粒状体の平均粒径」を「50μm以上500μm以下」の条件を満たすようにすることができると当業者は理解する。
したがって、当業者は、「アルギン酸ナトリウム」や「LMペクチン」以外の多種多様な「イオン架橋性ポリマー」を用いた場合でも、「融点が0.1℃以上である油脂を含有する粒状体と、 陽イオンで架橋された可食性のイオン架橋性ポリマーと、を含み、前記粒状体の平均粒径が50μm以上500μm以下である脂肪塊組成物」及び該「脂肪塊組成物」を含む「代替肉」は発明の課題を解決できると認識できる。
よって、特許異議申立人の上記第3 3(1)の主張は採用できない。
イ 上記第3 3(2)について
上記アのとおり、「液滴形成工程」において、「パイプ状SPG膜の細孔径」及び「水相及び油相の流量」を制御することによって、「粒状体の平均粒径」を「50μm以上500μm以下」の条件を満たすようにすることができると当業者は理解する。
したがって、特許異議申立人の上記第3 3(2)の主張は採用できない。
(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。
4 申立理由4(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
上記第2のとおり、本件特許発明1ないし10は物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そこで、検討する。
(2)実施可能要件の判断
発明の詳細な説明の【0011】ないし【0078】及び【0093】ないし【0109】には本件特許発明1ないし10の各発明特定事項について具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0079】ないし【0092】及び【0110】ないし【0126】には本件特許発明1ないし10の製造方法について具体的に記載されている。
発明の詳細な説明の【0128】ないし【0158】には本件特許発明1ないし10の実施例について具体的に記載されている。
したがって、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし10を生産し、使用することができる程度の記載があるといえる。
よって、本件特許発明1ないし10に関して、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。
(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 4における主張について検討する。
ア 上記第3 4(1)について
上記3(3)ア及びイのとおり、「液滴形成工程」において、例えば、「パイプ状SPG膜の細孔径」及び「水相及び油相の流量」を制御することによって、「粒状体の平均粒径」を「50μm以上500μm以下」の条件を満たすようにすることができると当業者は理解する。
したがって、特許異議申立人の上記第3 4(1)の主張は採用できない。
イ 上記第3 4(2)について
発明の詳細な説明の【0142】に記載された実施例23は、同【0152】の【表3】によると、「粒状体が水を含有する」ものであり、本件特許発明8の実施例に相当するものであるといえる。
したがって、当業者は、発明の詳細な説明の【0142】の記載を考慮することによって、本件特許発明8を実施できるといえる。すなわち、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく本件特許発明8の実施をすることができる程度の記載があるといえる。
よって、特許異議申立人の上記第3 4(2)の主張は採用できない。
(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。
第5 結語
以上のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700851