特許異議申立
2024-700096
ポリマーセメント組成物及びポリマーセメントモルタル
- 審判番号
- 2024-700096
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-196687
- 登録番号
- 7321057
- 請求日
- 2024年02月05日
- 審決日
- 2024年04月15日
- 公報発行日
- 2024年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】太平洋マテリアル株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人アルガ特許事務所
- 【異議申立人】田村 奈緒美
- 審判長/審判官
- 審判長 三崎 仁
- 審判官 宮澤 尚之
- 審判官 増山 淳子
- 分類
- P1651.121-Y (C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7321057号発明「ポリマーセメント組成物及びポリマーセメントモルタル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7321057号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7321057号の請求項1~5に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」などといい、まとめて「本件特許」ということがある。)についての出願は、令和1年10月29日に出願され、令和5年7月27日にその特許権の設定登録がされ、同年8月4日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許1~5に対して、令和6年2月5日に特許異議申立人田村奈緒美(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年3月5日に手続補正書(方式)及び上申書の提出がされた。
第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。そして、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などという。)は、その記載事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
結合材と、再乳化型粉末樹脂と、液体収縮低減剤と、細骨材とを含み、
前記細骨材の粒度が、前記細骨材全質量に対し、粒径が5mm以上である粒子の質量割合が1質量%未満であり、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が51質量%以上85質量%以下であり、
前記細骨材の含有量が、前記結合材100質量部に対し、120質量部以上240質量部以下であり、
前記液体収縮低減剤の含有量が、前記結合材100質量部に対し0.1質量部以上7.5質量部以下であり、
表面が、液体収縮低減剤で被覆された、乾式吹付材料用ポリマーセメント組成物。
【請求項2】
さらに、繊維類を含む請求項1に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項3】
前記結合材が膨張材を含む、請求項1又は2に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項4】
結合材と、再乳化型粉末樹脂と、細骨材とを含む、液体収縮低減剤以外の成分を混合したプレミックス材全体に、液体収縮低減剤を噴霧することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマーセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマーセメント組成物と、水とを含み、
前記水の含有量が、前記ポリマーセメント組成物100質量部に対し、10質量部以上20質量部以下である、ポリマーセメントモルタル。」
第3 特許異議の申立てについて
1 申立ての理由の概要
申立人が主張する申立ての理由は、要するに、本件発明1~5は、甲第1証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許1~5は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、というものである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
(証拠方法)
甲第1号証 伊藤正憲他、「環境条件を考慮したポリマーセメント系断面
修復材の性能評価」、コンクリート工学論文集、2008年
9月、第19巻、第3号、第1~10頁
甲第2号証 特開2008-37704号公報
甲第3号証 特開2006-283335号公報
甲第4号証 特開2011-207643号公報
甲第5号証 特開2009-84092号公報
甲第6号証 特開2012-46383号公報
甲第7号証 特開2019-178036号公報
甲第8号証 特開2011-121795号公報
甲第9号証 「アペックスミキサ」カタログ、太平洋機工株式会社、(裏
表紙の右下の記載からみて2014年4月に発行)
2 甲1号証及び参考資料の記載事項
(1) 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「環境条件を考慮したポリマーセメント系断面修復材の性能評価」(タイトル)に関して、次の事項が記載されている(下線は、当審が付した。)。
ア 「また,主に適用されているポリマーセメントモルタル(以下,PMM)については材料の持つ特性を十分に理解せず,理想的環境下で得られる性能が現場でも発揮されるとして,実環境から受ける影響を考慮した補修を行わなかったことも一因であると考えられる。
そこで,本研究では,劣化したコンクリート構造物の補修工法であるPMM系湿式吹付け工法について,実環境を想定した条件に試験体を暴露し,細孔構造分析とセメントの水和反応,ポリマーの被膜化の観点から評価することによって,実環境から受ける影響について検討した。」(第1頁左欄第23行~右欄第9行)
イ 「2.1 使用材料および配合
表-1に使用材料を,表-2に配合を示す。使用したポリマーはノニオン系再乳化形粉末樹脂であり,ポリマーセメント比(P/C)は0%,5%,10%および20%とした(以下,それぞれNCM,P5,P10およびP20と略記する)。PMMの配合は,壁面に20mm厚で吹付け可能な配合を選定したものであり,目標フロー値は180±20mmとした。・・・
2.2 試験体作製
練混ぜは,強制攪拌型のモルタルミキサを使用し5分間行った。試験体は,ポリマーを添加していないNCMは左官工法により,PMMは吹付け工法(吐出量約0.1m3/h,ノズル径8mm)で作製し,直後から各条件に暴露した。
・・・
[図:0001410261000001.jpg]
[図:0001410261000002.jpg]
」
(第1頁右欄第16行~第2頁左欄)
(2) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「コンクリート水路補修工法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、コンクリート水路補修工法に関し、特に、コンクリート構造物からなる水路の底版や側版を補修するにあたり、優れた接着耐久性を有し、施工性にも優れるとともに、特に耐摩耗性に優れた補修面を得ることができる、水路補修工法に関するものである。」
イ 「【0026】
また、上記ポリマーセメントモルタルに使用する細骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂、3~8号珪砂、石灰石、及びスラグ骨材等を使用することができ、特に、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度調整した珪砂や石灰石等の細骨材を用いることが好ましい。」
ウ 「【0027】
更に、細骨材の最大粒径は6mm以下で、該細骨材の平均粒径が0.8mm~2.5mmのものが好ましく、1.0~2.0mmのものがより好ましい。
細骨材がセメント100質量部に対して150質量部未満で、平均粒径が0.8mmより小さいと、水和熱によりひび割れが発生しやすくコテ仕上げ性も劣るものになり、600質量部を超え、平均粒径が0.8mm未満であると、セメントに対する混練水量が増加しモルタルの強度が低くなり、摩耗に対する抵抗性が小さくなってしまう場合があるからである。
【0028】
また、平均粒径が2.5mmよりも大きく、骨材量が150質量部未満の場合には、ひび割れが発生しやすく、更に平均粒径が2.5mmより大きく、骨材量が600質量部より多すぎる場合には、表面の仕上げが粗くなるため、粗度係数が大きくなってしまう場合があるからである。」
エ 「【0037】
更に、上記ポリマーセメントモルタルには、3~12mmの長繊維及び微粉状繊維が含まれる。
このような繊維としては、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アクリル繊維等が例示でき、更にこれらの少なくとも1種以上を用いることができる。」
オ 「【0041】
このようにして得られたポリマーセメントモルタルは、例えば、コテ、吹付け等により塗布施工を行うことが可能であり、一般に使用される補修モルタルと同様に壁面施工においては一度に厚み10mm程度まで塗布することが可能である。施工方法については、特に限定はされない。」
(3) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、「乾式モルタル吹付け工法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、乾式モルタル吹付け工法に関し、特に、土木分野や建築分野で利用される乾式吹付け工法における粉塵の発生の低減を図り、かつリバウンド率の低い、コンクリート構造物の劣化に対する補修及び補強工法、例えば鉄道や道路等の高架橋、トンネル等の断面補修工法に使用される、乾式吹吹付け工法に関するものである。」
イ 「【0018】
また、本発明の工法において使用する細骨材としては、特に限定されるものではなく、川砂、山砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂3~7号等の比較的粒径の細かい細骨材、または珪石粉、石灰石粉等の微粉末等を使用できる。」
(4) 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、「乾式吹付け用モルタル材料及び該吹付け材料の製造方法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、乾式吹付け用モルタル材料及び該乾式吹付け用モルタル材料の製造方法に関し、特に、土木分野や建築分野で利用される乾式吹付け用モルタル材料における粉塵の発生の低減を図り、かつリバウンド率が低く、乾式吹付け工法に用いる際の粉体圧送性を安定させる、乾式吹吹付け用モルタル材料及び該吹付け材料の製造方法に関するものである。」
イ 「【0019】
また、本発明の乾式吹付け用モルタル材料に含まれる細骨材としては、特に限定されるものではなく、川砂、山砂、陸砂、砕砂、海砂、珪砂1~7号等細骨材、または珪石粉、石灰石粉等の微粉末等を使用できる。
【0020】
本発明において使用される細骨材全体の平均粒子径は、1.2~3.6mm、好ましくは1.4~3.4mmの範囲である。
かかる範囲内の平均粒子径を有する、調整された細骨材を配合することで、粉体圧送安定性が向上し、さらに粉塵の発生やリバウンド率を、より有効に低減させることも可能となる。」
(5) 甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、「モルタル質修復材」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、主にモルタルやコンクリート製の構造物や建築物等の破損部位などを修復するために使用するモルタル質の修復材に関する。」
イ 「【0014】
また、本発明のモルタル質修復材に使用する細骨材は特に限定されず、例えば、川砂、山砂、海砂、砕砂、火山礫等の天然細骨材の他、エチレンビニル等の高分子樹脂を含有してなる人工軽量細骨材などを挙げることができる。好ましくは、修復後の施工物の耐久性向上が図り易いことから天然の普通細骨材の使用が望ましい。・・・
【0015】
また、本発明のモルタル質修復材は、前記各成分に加えて、ポリマーディスパージョン又は再乳化粉末樹脂、ポゾラン反応物質、繊維、減水剤の何れか1種又は2種以上を含有するものが好ましい。」
ウ 「【0018】
また、本発明のモルタル質修復材に含有できる繊維は、モルタルやコンクリートに使用できる繊維であれば特に限定されず、例えば鋼繊維、ビニロン、アラミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリル等の材質からなる高分子繊維、炭素繊維、耐アルカリガラス等の材質からなるセラミックス繊維を挙げることができる。・・・」
エ 「【0023】
[モルタル質修復材の作製] 次に表すA1~G3から選定される材料を表1に表した配合量となるようモルタルミキサに投入し、温度約20℃湿度80%の環境下で1分間混合した。得られた混合物に対し、表1記載の量の水を注水し、同様の環境下でさらに約2分間混練し、モルタル質修復材(本発明品1~8、参考品11~19)を得た。
【0024】
・・・
F7;普通細骨材I(鹿島珪砂3号B)
F8;普通細骨材II(山形珪砂6号と7号の等重量混合物)・・・」
(6) 甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、「セメント凝結促進剤およびそれを用いた吹付け材料、吹付け工法」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、主に、土木・建築業界で使用されるセメント組成物に関するもので、特に、吹き付けて施工するコンクリート構造物の補修用途および建設用途に関するものである。」
イ 「【0015】
本発明の吹付け材料の吹付け工法は、特に限定するものではないが、水を加えて練り混ぜたセメントモルタルやコンクリートをポンプ圧送し、ノズルの手前で本発明の凝結促進剤を合流させて吹き付ける湿式吹付け工法や、ドライな状態でモルタルやコンクリートを圧縮空気で搬送し、ノズル手前で本発明の凝結促進剤を合流させて吹き付ける乾式吹付け工法が可能である。」
ウ 「【0026】
(使用材料)
吹付け用補修モルタルa:電気化学工業社製、商品名「スプリードエース」、ポリマーセメントモルタル系、練混ぜ配合(スプリードエース25kgに対し水3.4kg)」
(7) 甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、「吹付用建築モルタル」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
(A)ポルトランドセメント100質量部、(B)高炉スラグ微粉及び/又はポゾラン反応性物質26~38質量部、(C)石膏類4~12質量部、(D)増粘剤0.2~0.4質量部、(E)フミン酸及び/又はフルボ酸5~10質量部および(F)細骨材230~290質量部を含有する吹付用建築モルタル。
【請求項2】
さらに、(G)ポリマーセメントモルタル用ポリマーを含有する請求項1記載の吹付用建築モルタル。」
イ 「【0002】
・・・吹付工法には、水を含む全てのモルタル構成成分を予め混練し、得られたスラリー状モルタルを吹付装置に圧送し、そのまま吹付ける乾式吹付工法と、水と多くの場合は液体成分を除いたモルタル構成成分を予め乾式混合し、この混合物を吹付機に圧送し、圧送途中で圧送物に注水及び注液をし、これを吹付ける湿式吹付工法がある。・・・」
ウ 「【0009】
本発明により得られる吹付用建築モルタルは、吹付装置を介した吹付施工に於いて、従来の建築用吹付モルタルや建築タイル張付用モルタルなどよりも遙かに少ない増粘剤やポリマーの配合量であっても、早いしまりにより良好な付着性が得られる。吹付圧送性に適した良好な流動性と良好な混合性の基で、吹付施工物の液垂れ抑制や剥落防止が十分なされた施工物を得ることができる。また、本発明の吹付用建築モルタルは、例えば乾式吹付工法及び湿式吹付工法の何れにも使用でき、施工工法を制限しない。」
エ 「【0015】
また、本発明の吹付用建築モルタルは、(F)細骨材を含有する。細骨材は、最大粒径5mm以下であってモルタルに使用できるものなら、材質を含め特に限定されない。具体的には、例えば、山砂、川砂、海砂等の天然砂、砕石粉等の普通骨材を挙げることができる。・・・また、粒度分布の異なる複数の種類の細骨材を用いても良い。特に複数種の細骨材からなり、粒径600μm未満の微細骨材とそれより大きい細骨材(非微細骨材)を質量比(非微細骨材/微細骨材)概ね1~4の割合で含むものにすると、より緻密な組織が得易く、かつ吹付後の施工物肌面も平滑に近い表面が得やすい。・・・」
(8) 甲第8号証の記載事項
甲第8号証には、「繊維補強モルタル組成物」(発明の名称)に関して、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
セメント、フライアッシュ、液体の収縮低減剤をまぶした細骨材、流動化剤、膨張材、粉末ポリマー、増粘剤、及び短繊維を含有する繊維補強モルタル組成物。」
イ 「【0017】
本発明で使用する細骨材としては、石灰石やケイ石等の天然の骨材、再生骨材や徐冷スラグ骨材等の人工骨材、軽量骨材、フェロニッケルスラグ、フェロクロムスラグ、銅スラグ、橄欖岩、エメリー鉱石等の重量骨材などが挙げられるが、中でも石灰石の骨材を選択することが、寸法安定性、靭性の向上、液体収縮低減剤との混合性の観点から好ましい。」
ウ 「【0028】
本発明で使用する短繊維とは、吹付けたモルタルの引張りや曲げ靭性を向上するために使用される。短繊維の種類としては、ビニロン繊維やプロピレン繊維に代表される高分子繊維類、鋼繊維、ガラス繊維、及び炭素繊維に代表される無機繊維類がある。」
(9) 甲第9号証の記載事項
甲第9号証には、「アペックスミキサ」に関して、次の事項が記載されている。
ア 「「アペックスミキサ」は・・・2つの機能を兼ね備えた混合機であり、従来機では、困難とされていた「強力分散混合」を可能とし、・・・各種業界で注目されています。」(第3頁左欄中段)
イ 「■他の機種に無い多くの特長
本機は、多機能な作用により、
・・・
●バインダー液、噴霧添加による「造粒混合、加湿コーティング」等で、従来機にない機能を持っています。」(第3頁左欄下段)
ウ 「ご要望により、特殊仕様・オプションが可能です。
・・・
<8>粉体計量・液体計量噴霧、各種周辺機器ユニット・プラントの設計・製作。」(当審注:<8>は○数字の8を示す。)(第7頁上段)
エ 「用途・・・
・・・
鉱業・セメント
消石灰の水分加湿、セメント系混合物の製造。」(第7頁下段)
(10) 参考資料(友沢史紀、「骨材について(1)」、コンクリート工学、1978年、第16巻、第8号、第87~94頁)の記載事項
参考資料には、「骨材」に関して、次の事項が記載されている。
「骨材の粒度を表わす指標としてよく利用されるものに粗粒率というのがある。・・・粗粒率は英語ではfiness modulusで,直訳すれば,むしろ「細かさ係数」であるが,粒度と骨材の大体の大きさを単一の数値で表わせるので,f.m.と略してわが国でもよく用いられる。
粗粒率は,0.15,0.3,0.6,1.2,2.5,5,10,20,40mmの9個の標準ふるいのそれぞれにとどまる重量を全体に対するパーセントで示し(累加残留率),その合計を100で割って求められる。・・・したがって,粗粒率が大きい程,粒子の大きい骨材ということになる。骨材の最大寸法に応じた粗粒率の値は,ほぼ表-6に示すようである。・・・
[図:0001410261000003.jpg]
」(第93頁左欄第7行~右欄)
3 当審の判断
(1) 甲第1号証に記載された発明
前記2(1)の記載事項を、「表-2」に「P5S」として示された配合割合の「ポリマーセメントモルタル」に注目して整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「セメント(C)として普通ポルトランドセメント、ポリマー(P)としてノニオン系再乳化形粉末樹脂である酢酸ビニル・ベオバ・アクリル共重合樹脂、けい砂(S)として粗粒率が1.71のけい砂、収縮低減剤(SRA)として低級アルコールアルキレンオキシド付加物を使用し、水(W)を233kg/m3、セメント(C)を614kg/m3、ポリマー(P)を31kg/m3、けい砂(S)を1132kg/m3、収縮低減剤(SRA)6kg/m3で配合した、湿式吹付け工法用のポリマーセメントモルタル。」
(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明の対比
(ア) 本件発明1と甲1発明の対応関係
両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
a 甲1発明の「セメント(C)として普通ポルトランドセメント」、「ポリマー(P)としてノニオン系再乳化形粉末樹脂である酢酸ビニル・ベオバ・アクリル共重合樹脂」は、それぞれ、本件発明1の「結合材」、「再乳化型粉末樹脂」に相当する。
b 甲1発明の「収縮低減剤(SRA)として低級アルコールアルキレンオキシド付加物」は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の【0021】、【0035】の記載を踏まえれば、本件発明1の「液体収縮低減剤」に相当する。
c 甲1発明の「けい砂(S)として粗粒率が1.71のけい砂」は、本件特許明細書の【0023】の記載、及び、細骨材の粗粒率は1.6~3.3程度であるとの技術常識(前記2(10)参照)を考慮すれば、本件発明1の「細骨材」に相当する。
d 甲1発明の「ポリマーセメントモルタル」は、本件発明1の「ポリマーセメント組成物」に相当する。
e 甲1発明の「けい砂(S)」と「収縮低減剤(SRA)」の配合量は、それぞれを「セメント(C)」100質量部に対する数値に換算すると、約184質量部(=1132/614×100)、約0.98質量部(=6//614×100)になるから、本件発明1の「前記細骨材の含有量が、前記結合材100質量部に対し、120質量部以上240質量部以下であり、前記液体収縮低減剤の含有量が、前記結合材100質量部に対し0.1質量部以上7.5質量部以下であり」との発明特定事項を満足する。
(イ) 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
前記(ア)の対応関係を踏まえると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、それぞれ、次のように認定することができる。
a 一致点
「結合材と、再乳化型粉末樹脂と、液体収縮低減剤と、細骨材とを含み、
前記細骨材の含有量が、前記結合材100質量部に対し、120質量部以上240質量部以下であり、
前記液体収縮低減剤の含有量が、前記結合材100質量部に対し0.1質量部以上7.5質量部以下である、
ポリマーセメント組成物」
b 相違点
(相違点1)
ポリマーセメント組成物が、本件発明1では、「乾式吹付材料用」であるのに対して、甲1発明では、「湿式吹付け工法用」であって、「水(W)」を配合している点。
(相違点2)
細骨材について、本件発明1では、その「粒度が、前記細骨材全質量に対し、粒径が5mm以上である粒子の質量割合が1質量%未満であり、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が51質量%以上85質量%以下であ」るのに対して、甲1発明では、「粗粒率が1.71のけい砂」であり、その粒度分布が明らかでない点。
(相違点3)
ポリマーセメント組成物について、本件発明1では、「表面が、液体収縮低減剤で被覆され」ているのに対して、甲1発明では、その点が明らかでない点。
イ 相違点の検討
(ア) 相違点1について
本件発明1の「乾式吹付材料用ポリマーセメント組成物」の意義についてみてみると、本件特許明細書の「本発明のポリマーセメント組成物は、乾式吹付工法に用いるための乾式吹付材料として用いることができる。乾式吹付工法のシステムとしては、例えば、エアコンプレッサを介してポリマーセメント組成物を空気圧送する吹付機及び水を圧送する液ポンプを備える。液ポンプから圧送された水は、ポリマーセメント組成物の空気圧送ホ-スの途中(吹付ノズルの手前約1~2mの位置)に設置したシャワ-リングより圧入混合し、ポリマーセメントモルタルが吹付ノズルより吐出され、断面修復箇所へ施工される。」(【0032】)との記載からして、本件発明1の「乾式吹付材料用ポリマーセメント組成物」とは、乾式吹付工法に用いる材料であって、水と混合される前のポリマーセメント組成物、すなわち、水を含まないポリマーセメント組成物を意味しているといえる。
他方、甲1発明は、「水(W)を」「配合した、湿式吹付け工法用のポリマーセメントモルタル」である。そして、甲第1号証には、前記2(1)アに摘記したとおり、劣化したコンクリート構造物の補修工法であるポリマーセメントモルタル(PMM)系湿式吹付け工法について検討したことが記載されており、湿式吹付け工法を前提とするものであるから、甲1発明の「水(W)を」「配合した、湿式吹付け工法用のポリマーセメントモルタル」から、「水(W)」を除外して、「乾式吹付材料用」とすることには、阻害要因が存在する。
したがって、甲第2号証~甲第9号証の記載(前記2(2)~(9)参照)に関わらず、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
(イ) 相違点2について
甲第1号証には、前記2(1)に摘記したとおり、劣化したコンクリート構造物の補修工法であるポリマーセメントモルタル(PMM)系湿式吹付け工法について、ポリマーセメントモルタルの配合割合を変えて、実環境から受ける影響を検討したことが記載されているものの、細骨材である「けい砂(S)」の粒度を変更することは記載されていないから、甲1発明の「けい砂」の粒度分布を、「粒度が、前記細骨材全質量に対し、粒径が5mm以上である粒子の質量割合が1質量%未満であり、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が51質量%以上85質量%以下」に調整する動機付けとなるような記載は存在しないというほかない。
したがって、甲第2号証~甲第9号証の記載(前記2(2)~(9)参照)に関わらず、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項とすることが、当業者にとって容易想到の事項であるといえない。
(ウ) 申立人の主張について
申立人は、甲1発明において、「乾式吹付材料用」に変更すること、あるいは、「粒度が、前記細骨材全質量に対し、粒径が5mm以上である粒子の質量割合が1質量%未満であり、粒径が1.2mm以上5mm未満である粒子の質量割合が51質量%以上85質量%以下」の「細骨材」とすることは、甲第2号証~甲第7号証の記載(前記2(2)~(7)参照)に基づき、当業者が適宜採用し得る設計的事項にすぎない旨を主張している。
しかしながら、前記(ア)及び(イ)で検討したとおりであるから、申立人の主張は採用できない。
ウ 小括
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証~甲第9号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
(3) 本件発明2~5について
本件発明2~5は、本件発明1の全ての特定事項を含みさらに限定を付すものであるから、前記(2)で検討したのと同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証~甲第9号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
4 結論
以上の検討のとおり、申立人の主張する申立ての理由に理由はない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許1~5を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~5を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700096